説明

ケイ素化合物、有機無機複合体および有機無機複合重合体

【課題】溶媒中で層状ケイ酸塩化合物に効率的にインターカレーションでき、このインターカレーション体を開始剤とした原子移動ラジカル重合が可能で、かつ従来技術と比較して大幅な合成時間の短縮が可能である新規なケイ素化合物およびこのものから合成される有機無機複合材料および重合体の合成を可能とする。
【解決手段】
付加重合性単量体に対して重合開始能を有することと、層状ケイ酸塩にイオン交換により結合可能な置換基を併せ持ち、かつ従来技術に比べて大幅に合成時間を短縮できることを特徴とする新規なケイ素化合物を合成することにより、層状ケイ酸塩化合物に対し効率の良いインターカレーションが達成し、またそのインターカレーション体を開始剤とすることした原子移動ラジカル重合反応により、付加重合性単量体を重合させた重合体を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加重合性単量体に対して重合開始能を有することと、層状ケイ酸塩にイオン交換により結合可能な置換基を併せ持つことを特徴とする新規なケイ素化合物、およびその層状ケイ酸塩結合体、そしてその層状ケイ酸塩結合体を開始剤として付加重合性単量体を重合させた重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の技術革新に伴い、有機材料・無機材料を問わず、材料に対する要求性能は高まり続けている。これに対する重要なアプローチとして、分子レベルでの精密設計ならびにそれらの精密合成が盛んに行われている。有機材料として代表的なものに高分子材料が挙げられるが、近年、構造や分子量分布などを制御できるリビング重合が高機能高分子材料の製造法として研究されており、特にメタクリル酸およびそのエステルやスチレン系の重合性単量体に適用可能なリビングラジカル重合が注目されている(例えば特許文献1)。
このリビングラジカル重合はその反応機構によりいくつかに分類されるが、原子移動ラジカル重合(ATRP,atom transfer radical polymerization)と可逆的不可開裂型連鎖移動(RAFT,reversible addition-fragmentation chain transfer)とが主流である。この両者を比較すると、ATRPは熱重合であるため、懸濁重合などの水系重合の適用が可能であることと、触媒として用いる遷移金属錯体を除去することにより生成物の無色化が可能である点で、重合末端に着色成分が結合した状態で生成物が得られるRAFTよりも優れている。
また、層状ケイ酸化合物は、入手が容易であること、安価であること、そのアスペクト比(注:アスペクト比とは厚さに対する長さの比をいう)が大きいためにガスバリア性に優れていること、難燃性などの点から、高分子材料との複合化による新素材の開発が進められてきた。しかし、層状ケイ酸塩化合物そのものの有機高分子材料との親和性は一般に低く、このため分散性に乏しい。この理由は、もともと両者の親和性が低いことの他に、層状ケイ酸塩化合物自体が二酸化ケイ素四面体が二次元網目状に連続した四面体シートと、酸化アルミニウム八面体シートなどとがナトリウムイオンなどを介して交互に積層した組織になっているため、それ自身が大きなドメインを形成しやすいことによる。このため、水分散媒中で有機四級アンモニウム塩に代表される有機オニウム塩を用いることにより、層間をジョイントしているナトリウムイオンを置換して層間を開いて(インターカレーション)分散させ、同時にケイ酸塩表面を有機基で修飾することにより、有機高分子材料との親和性を発現させる手法が用いられてきた(例えば特許文献2)。
【0003】
このような背景を踏まえ、近年、層状ケイ酸塩化合物と有機ポリマーとを直接結合を介して連結して一つの化合物とすることにより分散性の課題を解決する手法が報告されてきた(非特許文献1〜2)このうち、非特許文献1は、層状ケイ酸塩の端面にシランカップリング剤を結合させ、ここから重合性単量体を重合させることによりポリマーを成長させる手法であるが、層状ケイ酸塩の平面上に結合させるのではなく端面に結合させるため、結合点が少ないという欠点がある。
非特許文献2は、層状ケイ酸塩の平面に、末端にATRP開始基を含む四級アンモニウム塩をイオン交換により導入し、ここからメタクリル酸エステルおよびスチレン単量体を重合させたという報告であるが、この四級アンモニウム塩は非水溶性であり、インターカレーションの際にアセトンなどの有機溶剤を用いる必要があるために次の課題を残す。すなわち、アセトンに対する層状ケイ酸塩化合物の分散性が水に比べて劣るため、層状ケイ酸塩化合物に対する、末端にATRP開始基を含む四級アンモニウム塩のインターカレーションが不十分であるために、最終生成物中にクレイの凝集物が混在するという課題を残している。また、アセトンは引火性の高い有機溶剤であり、安全性の点からの課題も残る。また、非特許文献2での四級アンモニウム合成の際に、長時間の反応時間(50時間)が必要な段階があり、合成時間の短縮が求められてきた。
【特許文献1】特開2008−24833
【特許文献2】特開2006−56932
【非特許文献1】Chem.Mater.2006,18,3937−3945.
【非特許文献2】J.Polymer Sci.,:PartA:Polym.Chem.,VOL.42,916−924(2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、付加重合性単量体に対して重合開始能を有することと、層状ケイ酸塩にイオン交換により結合可能な置換基を併せ持つことを特徴とする新規な化合物、およびその層状ケイ酸塩結合体、そしてその層状ケイ酸塩結合体を開始剤として付加重合性単量体を重合させた重合体を開発することにより、上記の課題を解決することである。
すなわち、層状ケイ酸塩の平面上に結合することができ、合成原料の入手が容易で、合成時間が短時間である新規な付加重合性単量体に対して重合開始能を有することと、層状ケイ酸塩にイオン交換により結合可能な置換基を併せ持つことを特徴とする新規な化合物を開発することが課題であった。
また、更なる課題として、上記の新規な化合物が水溶性の層状ケイ酸塩と同様に水への溶解が可能であり、水溶液中で分散性が良好な層状ケイ酸塩と水溶液中で反応させることが可能な新規な化合物を開発することも課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、広い範囲の付加重合性単量体に対してリビングラジカル重合開始能を有する官能基を持ち、同時に層状ケイ酸塩にインターカレーションが可能な、下式(1)で示されるケイ素化合物を見出した。そして、このケイ素化合物が、上記の問題点を解決するために有効であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
即ち、本発明は下記の構成を有する。
[1]下記一般式(1)で示される水溶性ケイ素化合物。
【化1】

ここに、RおよびRは、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン鎖、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニレン鎖又は炭素原子数6〜20の含芳香族鎖から独立して選択され、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、鎖中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。R、Rは、水素原子、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基又は炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基の場合には、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。Aは付加重合性単量体に対しリビングラジカル開始能を持つ置換基であり、Zは層状ケイ酸塩に対し陽イオン交換によるインターカレーションが可能な置換基である。
【0006】
[2]前記〔1〕記載の式(1)中のAが式(2)で表されることを特徴とする前記〔1〕に記載のケイ素化合物。
【化2】

ここに、RおよびRは、水素原子、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基又は炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。Xは、ハロゲン原子である。
【0007】
[3]前記〔1〕記載の式(1)中のZが式(3)で表されることを特徴とする前記〔1〕又は前記〔2〕に記載のケイ素化合物。
【化3】

ここに、R、RおよびRは、水素、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基又は炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。R10は、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン鎖、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニレン鎖又は炭素原子数6〜20の含芳香族鎖から独立して選択され、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、鎖中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。また、Xはハロゲン原子である。
【0008】
[4]前記〔1〕記載の式(1)において、RおよびRが、炭素原子数1〜3の直鎖状のアルキレン鎖(アルキレン鎖中に酸素原子を含んでも良い)、ビニル鎖、アリル鎖から独立して選択され、RおよびRが、水素原子、メチル基、エチル基から独立して選択されることを、
前記〔2〕記載の式(2)において、RおよびRが、水素原子、メチル基、エチル基から独立して選択され、Xがハロゲン原子であることを、
及び前記〔3〕記載の式(3)において、R、RおよびRが、水素原子、メチル基、エチル基(エチル鎖中に酸素原子を含んでも良い)から独立して選択され、R10が、メチレン鎖、エチレン鎖(エチレン鎖中に酸素原子を含んでも良い)、ビニル鎖、炭素原子数6〜8の含芳香族鎖から独立して選択され、Xが、ハロゲン原子であることを特徴とする前記〔1〕記載のケイ素化合物。
このように、ケイ素化合物の置換基を限定した〔4〕に示すケイ素化合物は、水溶性の特徴を有するようになり、水溶液中で分散性が良好な層状ケイ酸塩と水溶液中で反応させることが可能になった。
【0009】
[5]層状ケイ酸塩の層間に前記〔1〕から前記〔4〕のいずれかに記載のケイ素化合物を陽イオン交換によるインターカレーションすることにより作成したことを特徴とする有機無機複合体。
【0010】
[6]前記〔5〕に記載した有機無機複合体を開始剤とし、前記有機無機複合体から付加重合性単量体をリビングラジカル重合により重合成長させて合成したことを特徴とする有機無機複合重合体。
【0011】
[7]前記付加重合性単量体が(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の群ならびにスチレンおよびスチレン誘導体の群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする前記〔6〕に記載の有機無機複合重合体。
付加重合性単量体を(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の群ならびにスチレンおよびスチレン誘導体の群にすることにより、重合反応が容易に行える。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提供する、付加重合性単量体に対して重合開始能を有することと、層状ケイ酸塩にイオン交換により結合可能な置換基を併せ持つことを特徴とする新規なケイ素化合物、およびその層状ケイ酸塩結合体、そしてその層状ケイ酸塩結合体を開始剤として付加重合性単量体を重合させた重合体を開発することにより制御された構造を持つ有機無機ハイブリッド化合物の合成が可能となる。
また、本発明のケイ素化合物は、合成原料の入手が容易で、短時間で合成が可能であるため容易に生成できる。
さらに、上記〔4〕のケイ素化合物は、ケイ素化合物の置換基を限定したことにより、水溶性の特徴を有するようになり、水溶液中で分散性が良好な層状ケイ酸塩と水溶液中で反応させることが可能になった。そのため、層状ケイ酸塩化合物に対し効率の良いインターカレーションが達成し、またそのインターカレーション体を開始剤とすることした原子移動ラジカル重合反応により、付加重合性単量体を重合させた重合体を生成することができる。
さらに、水を溶剤とすることにより、脱離した層状ケイ酸塩の陽イオン及びケイ素化合物のハロゲン陰イオンを塩として効率よく反応性生物から除去することができる。このため、反応生成物から層状ケイ酸塩の陽イオン及びケイ素化合物のハロゲン陰イオンを除去するために繰り返して洗浄を行う必要が低減される。
生成した重合体においては、開始剤がケイ素化合物であるため他の有機化合物に比べて耐熱性を向上さることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水溶性ケイ素化合物は、下記一般式(1)に示される構造を有する。
【化1】

ここに、RおよびRは、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン鎖、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニレン鎖又は炭素原子数6〜20の含芳香族鎖から独立して選択され、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、鎖中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。R、Rは、水素原子、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基又は炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、含芳香族鎖共に、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。
【0014】
式(1)におけるRがアルキレン鎖の場合、その例としてメチレン、エチレン、プロピレン、1−メチルエチレン、ブチレン、1−メチルプロピレン、2−メチルプロピレン、1,1−ジメチルエチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン等が挙げられ、このうちエチレン、プロピレン、ブチレンが好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0015】
式(1)におけるRがアルケニレン鎖の場合、その例として、cis−ビニレン、trans−ビニレン、cis−プロペニレン、trans−プロペニレン、cis−1−メチル−1−プロペニレン、trans−1−メチル−1−プロペニレン、cis−1−ブチレン、trans−1−ブチレン、cis−1−ブチレン、trans−1−ブチレン、cis−1−メチル−2−ブチレン、trans−1−メチル−2−ブチレン、cis−1,3−ブタジエニレン、trans−1,3−ブタジエニレンなどが挙げられる。
【0016】
式(1)におけるRが含芳香族鎖の場合、その例として任意の水素がハロゲンまたは1〜8個の炭素原子を有するアルキル基またはアルケニル基で置換されても良いフェニレン、メチレンフェニレン、ジメチレンフェニレン、ビフェニレンおよびナフチレンが挙げられる。
【0017】
式(1)におけるRがシクロアルキレン鎖の場合、その例としてシクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレンなどが挙げられる。
【0018】
式(1)におけるRがアルキレン鎖の場合、その例としてメチレン、エチレン、プロピレン、1−メチルエチレン、ブチレン、1−メチルプロピレン、2−メチルプロピレン、1,1−ジメチルエチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン等が挙げられ、このうちエチレン、プロピレン、ブチレンが好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0019】
式(1)におけるRがアルケニレン鎖の場合、その例として、cis−ビニレン、trans−ビニレン、cis−プロペニレン、trans−プロペニレン、cis−1−メチル−1−プロペニレン、trans−1−メチル−1−プロペニレン、cis−1−ブチレン、trans−1−ブチレン、cis−1−ブチレン、trans−1−ブチレン、cis−1−メチル−2−ブチレン、trans−1−メチル−2−ブチレン、cis−1,3−ブタジエニレン、trans−1,3−ブタジエニレンなどが挙げられる。
【0020】
式(1)におけるRが含芳香族鎖の場合、その例として任意の水素がハロゲンまたは1〜8個の炭素原子を有するアルキル基またはアルケニル基で置換されても良いフェニレン、メチレンフェニレン、ジメチレンフェニレン、ビフェニレンおよびナフチレンなどが挙げられる。
【0021】
式(1)におけるRがシクロアルキレン鎖の場合、その例としてシクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレンなどが挙げられる。
【0022】
式(1)におけるRがアルキル基の場合、その例としてメチル、エチル、プロピル、2−メチルエチル、2−メチルプロピル、ブチル、2−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられ、このうちメチル、エチル、プロピル、ブチルが好ましく、特にメチルが好ましい。
【0023】
式(1)におけるRがアルケニル基の場合、その例として、ビニル、cis−1−プロペニル、trans−1−プロペニル、2−プロペニル、cis−1−ブテニル、trans−1−ブテニル、cis−2−ブテニル、trans−2−ブテニル、3−ブテニル、cis−1,3−ブタジエニル、trans−1,3−ブタジエニルなどが挙げられる。
【0024】
式(1)におけるRが含芳香族基の場合、その例として任意の水素がハロゲンまたは1〜8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルキレンで置換されても良いフェニル、ベンジル、フェニルエチル、ビフェニルおよびナフチルなどが挙げられる。
【0025】
式(1)におけるRがシクロアルキル基の場合、その例としてシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどが挙げられる。
【0026】
式(1)におけるRがアルキル基の場合、その例としてメチル、エチル、プロピル、2−メチルエチル、2−メチルプロピル、ブチル、2−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられ、このうちメチル、エチル、プロピル、ブチルが好ましく、特にメチルが好ましい。
【0027】
式(1)におけるRがアルケニル基の場合、その例として、ビニル、cis−1−プロペニル、trans−1−プロペニル、2−プロペニル、cis−1−ブテニル、trans−1−ブテニル、cis−2−ブテニル、trans−2−ブテニル、3−ブテニル、cis−1,3−ブタジエニル、trans−1,3−ブタジエニルなどが挙げられる。
【0028】
式(1)におけるRが含芳香族基の場合、その例として任意の水素がハロゲンまたは1〜8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルキレンで置換されても良いフェニル、ベンジル、フェニルエチル、ビフェニルおよびナフチルなどが挙げられる。
【0029】
式(1)におけるRがシクロアルキル基の場合、その例としてシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどが挙げられる。
【0030】
式(1)におけるAは付加重合性単量体に対しリビングラジカル開始能を持つ置換基である。
その内で原子移動ラジカル重合(ATRP,atom transfer radical polymerization)に用いられるケイ素化合物においては、Aとして、α−ハロアルカノイル基を含む基、ハロゲン化スルフォニル基を含む基、ハロアルキルフェニル基を含む基等が挙げられる。このうち、好ましいものは、α−ハロアルカノイル基を含む基、ハロゲン化スルフォニル基を含む基であり、特に、α−ハロアルカノイル基を含む基が好ましい。
また、式(1)におけるAは可逆的不可開裂型連鎖移動(RAFT,reversible addition-fragmentation chain transfer)に代表される交換連鎖移動ラジカル重合開始基を含んでも良い。このようなAの例として、ジチオエステル基が挙げられる。
【0031】
本発明で用いるα−ハロアルカノイル基は、式(2)で示される。
【化2】

ここに、R、Rは、水素、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基、炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。Xは、ハロゲン原子である。
【0032】
式(2)におけるRがアルキル基の場合、その例としてメチル、エチル、プロピル、2−メチルエチル、2−メチルプロピル、ブチル、2−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられ、このうちメチル、エチル、プロピル、ブチルが好ましく、特にメチルが好ましい。
【0033】
式(2)におけるRがアルケニル基の場合、その例として、ビニル、cis−1−プロペニル、trans−1−プロペニル、2−プロペニル、cis−1−ブテニル、trans−1−ブテニル、cis−2−ブテニル、trans−2−ブテニル、3−ブテニル、cis−1,3−ブタジエニル、trans−1,3−ブタジエニルなどが挙げられる。
【0034】
式(2)におけるRが含芳香族基の場合、その例として任意の水素がハロゲンまたは1〜8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルキレンで置換されても良いフェニル、ベンジル、フェニルエチル、ビフェニルおよびナフチルなどが挙げられる。
【0035】
式(2)におけるRがシクロアルキル基の場合、その例としてシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどが挙げられる。
【0036】
式(2)におけるRがアルキル基の場合、その例としてメチル、エチル、プロピル、2−メチルエチル、2−メチルプロピル、ブチル、2−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられ、このうちメチル、エチル、プロピル、ブチルが好ましく、特にメチルが好ましい。
【0037】
式(2)におけるRがアルケニル基の場合、その例として、ビニル、cis−1−プロペニル、trans−1−プロペニル、2−プロペニル、cis−1−ブテニル、trans−1−ブテニル、cis−2−ブテニル、trans−2−ブテニル、3−ブテニル、cis−1,3−ブタジエニル、trans−1,3−ブタジエニルなどが挙げられる。
【0038】
式(2)におけるRが含芳香族基の場合、その例として任意の水素がハロゲンまたは1〜8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルキレンで置換されても良いフェニル、ベンジル、フェニルエチル、ビフェニルおよびナフチルなどが挙げられる。
【0039】
式(2)におけるRがシクロアルキル基の場合、その例としてシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどが挙げられる。
【0040】
式(2)におけるXは、ハロゲン原子である。具体的には、塩素、臭素、ヨウ素であり、このうち好ましいものは、塩素、臭素である。
【0041】
Zは層状ケイ酸塩に対しイオン交換によるインターカレーションが可能な置換基である。このようなZとして、有機オニウム塩すなわち有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機オキソニウム塩、有機スルホニウム塩、有機ヨードニウム塩等が挙げられる。このうち有機アンモニウムイオンが好ましく、元となる有機アンモニウム化合物としては第一級、第二級、第三級及び第四級の有機アンモニウム化合物があるが、このうち特に好ましいものは式(3)で示される。第四級の有機アンモニウム化合物である。
【化3】

ここに、R、R、Rは、水素、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基、炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。R10は、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン鎖、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニレン鎖、炭素数6〜20の含芳香族鎖から独立して選択され、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、鎖中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。また、Xはハロゲン原子である。
【0042】
式(3)において、R、R、Rがアルキル基である場合、その例として、メチル、エチル、プロピル、2−メチルエチル、2−メチルプロピル、ブチル、2−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられ、このうちメチル、エチル、プロピル、ブチルが好ましく、特にメチル、エチルが好ましい。
【0043】
式(3)において、R、R、Rがアルケニル基の場合、その例として、ビニル、cis−1−プロペニル、trans−1−プロペニル、2−プロペニル、cis−1−ブテニル、trans−1−ブテニル、cis−2−ブテニル、trans−2−ブテニル、3−ブテニル、cis−1,3−ブタジエニル、trans−1,3−ブタジエニルなどが挙げられる。
【0044】
式(3)におけるR、R、Rが含芳香族基の場合、任意の水素がハロゲンまたは1〜8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルキレンで置換されても良いフェニル、ビフェニルおよびナフチルである。
【0045】
式(3)におけるR、R、Rがシクロアルキル基の場合、その例としてシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどが挙げられる。
【0046】
式(3)におけるR10がアルキレン鎖の場合、その例としてメチレン、エチレン、プロピレン、1−メチルエチレン、ブチレン、1−メチルプロピレン、2−メチルプロピレン、1,1−ジメチルエチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン等が挙げられ、特にメチレン、エチレンが好ましい。
【0047】
式(3)におけるR10がアルケニレン鎖の場合、その例として、cis−ビニレン、trans−ビニレン、cis−プロペニレン、trans−プロペニレン、cis−1−メチル−1−プロペニレン、trans−1−メチル−1−プロペニレン、cis−1−ブチレン、trans−1−ブチレン、cis−1−ブチレン、trans−1−ブチレン、cis−1−メチル−2−ブチレン、trans−1−メチル−2−ブチレン、cis−1,3−ブタジエニレン、trans−1,3−ブタジエニレンなどが挙げられ、特にtrans−ビニレンが好ましい。
【0048】
式(3)におけるR10が含芳香族鎖の場合、任意の水素がハロゲンまたは1〜8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルキレンで置換されても良いフェニル、ビフェニルおよびナフチルなどが挙げられ、このうちフェニレン、フェニレンメチレン、フェニレンエチレンが好ましく、特にフェニレンエチレンが好ましい
式(3)におけるR10がシクロアルキル鎖の場合、その例としてシクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレンなどが挙げられる。
式(3)におけるXは、ハロゲン原子である。具体的には、塩素、臭素、ヨウ素であり、このうち好ましいものは、塩素、臭素である。
【0049】
以上、式(1)の置換基の好ましい形態について述べたが、前記のように本発明のケイ素化合物の置換基を前記〔4〕に示されるように限定した場合は、水溶性の特徴を有することになる。
その中でも、式(1)の置換基を以下のように更に限定すれば、より水への溶解特性を増すことができる。
【0050】
前記〔1〕記載の式(1)において、RおよびRがメチレン鎖又はエチル鎖(エチル鎖中に酸素原子を含んでも良い)から独立して選択され、RおよびRが、メチル基であり、
前記〔2〕記載の式(2)において、RおよびRが、水素原子、メチル基から独立して選択され、Xがハロゲン原子であることを、
及び前記〔3〕記載の式(3)において、R、RおよびRが、水素原子、メチル基、エチル基(エチル鎖中に酸素原子を含んでも良い)から独立して選択され、R10が、メチレン鎖、エチレン鎖(エチレン鎖中に酸素原子を含んでも良い)、ビニル鎖、炭素原子数6〜8の含芳香族鎖から独立して選択され、Xが、ハロゲン原子であることを特徴とするケイ素化合物に限定することである。
【0051】
次に、式(1)で示されるケイ素化合物の合成方法について説明する。
本発明の式(1)で示されるケイ素化合物の合成に用いる好ましい原料は式(4)で示される有機ケイ素化合物である。
【化4】

ここに、R、R、Rは、式(1)に示したR、R、Rと同一である。
【0052】
式(4)から式(1)の化合物の合成は、次のように行う。まず式(4)と、ハロゲン化α−ハロアルカノイル化合物とを、アンモニア、尿素、有機アミンなどの塩基性化合物共存下で反応させ、塩基性化合物による脱ハロゲン化水素反応により式(5)を得る。
ここに、式(5)中のR、Rは、前記式(2)に示したR、Rと同一である。
【化5】

反応混合物からの精製法としては、蒸留もしくは再沈殿を用いることができる。この反応は、溶剤を用いても良いし無溶剤でもよいが、反応時に副生する塩が固体である場合には、溶剤を用いるほうが好ましい。溶剤としては、水やアルコールなどの水酸基を持つ溶剤以外なら特に制限はないが、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤を脱水して用いることが好ましい。また、有機アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、アニリンを用いることができる。また、式(4)に対するハロゲン化α−ハロアルカノイル化合物とのモル比率は1.0〜3.0であり、好ましい比率は1.0〜1.2であり、塩基性化合物とハロゲン化α−ハロアルカノイルとのモル比率は1.0〜6.0であり、好ましい比率は、1.0〜3.6である。また、反応濃度は全ての原料の重量換算で1重量%から100重量%で行うことができるが、好適なのは5〜40重量%である。反応温度は、初め副反応を防ぐために0℃以下で行うことが好ましいが、全ての原料を混合した後は室温で行っても良い。反応時間は、合計で1〜18時間であり、好ましいのは3〜12時間である。
【0053】
次に、式(5)と、式(3)で表すことができる(ハロゲン化トリアルキルアンモニウムアルキレニル)フェニルアルケンとを、遷移金属触媒存在下でヒドロシリル化反応を行い、式(1)を得る。
反応混合物からの精製法としては、蒸留、昇華、再沈殿を用いることができる。この反応は、溶剤を用いても良いし無溶剤でもよいが、原料のいずれかもしくは両方が固体である場合には、溶剤を用いる方が好ましい。溶剤としては、遷移金属錯触媒を失活させず、原料との副反応を起こさないものであれば特に制限はない。反応濃度は全ての原料の重量換算で1重量%から100重量%で行うことができる。反応温度は、用いる遷移金属触媒の活性に応じ、10〜120℃で行うことができるが、20〜80℃で行うことが好ましい。反応時間は、0.5〜3時間で行うことができる。
ここで用いる遷移金属触媒は、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、パラジウム。モリブデン、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン等から成る触媒が挙げられるが、特に白金が好ましい。これらの触媒は、塩化白金酸などのような金属塩として用いることもできるし、有機化合物などを配位子とした0価の錯体として用いても良い。また溶剤に溶解させた均一系触媒として用いても良いし、またはカーボンもしくはシリカ等に担持させた固体触媒として使用することができる。遷移金属触媒の好ましい使用量は、化合物(5)
中のSi−H基1モルに対して、遷移金属触媒原子として1×10−6 〜 1×10−2 モルである。
【0054】
式(1)で示される化合物は、層状ケイ酸塩の陽イオン部に陽イオン交換され、インターカレーションすることにより、有機無機複合体を生成することができる。
この有機無機複合体は、それ自身を樹脂等と混合することにより、難燃化を付与する材料として使用することもできる。
また、この有機無機複合体は、付加重合性単量体に対して重合開始能を有する多数の置換基を有するため、さらにその置換基末端に付加重合性単量体を重合させ有機無機複合重合体を生成することができる。
【0055】
層状ケイ酸塩としては、例えばモンモリロナイト、サポナイト、ハイデライト、ノントラ
イト、ヘクトライト、スティブンサイト等のスメクタイト系やバーミキュライト、ハロサイト等の、天然又は合成の粘土鉱物をあげることができる。これら層状ケイ酸塩の陽イオン交換量は、10〜300meq/100gのものが好ましい。アスペクト比は70 以上が好ましく、80〜1200が更に好ましい。
【0056】
次いで、式(1)と層状ケイ酸塩との反応について述べる。まず、層状ケイ酸塩を溶剤に分散させる。ここで用いる溶剤は、層状ケイ酸塩を分散させ、かつ式(1)が溶解するものなら特に限定されず、それぞれの溶剤が異なっていても良いが、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリルなどが挙げられ、このうち水、アセトン、アセトニトリルが好ましく、特に水が好ましい。
ただし、水に溶解する本発明のケイ素化合物は、前述したように式(1)の置換基をより限定した〔4〕として示したケイ素化合物である。
【0057】
水を溶剤とすることにより、水溶液中で分散性が良好な層状ケイ酸塩と水溶液中で反応させることが可能になった。そのため、層状ケイ酸塩化合物に対し効率の良いインターカレーションが達成できる。
さらに、水を溶剤とすることにより、脱離した層状ケイ酸塩の陽イオン及びケイ素化合物のハロゲンイオンを効率よく反応性生物から除去することができる。
【0058】
溶剤に対する層状ケイ酸塩の濃度は、0.01〜30重量%の範囲で行うことができるが、好ましくは0.05〜10重量%で、特に好ましくは0.1〜5重量%である。別に、式(1)を溶剤に溶解させる。溶剤に対する式(1)の濃度は、0.01〜30重量%の範囲で行うことができるが、好ましくは0.05〜10重量%で、特に好ましくは0.1〜5重量%である。これら層状ケイ酸塩の分散液と、式(1)の溶液とを、層状ケイ酸塩中の陽イオンの1moL%〜100moL%を式(1)の陽イオン部で置換しうる当量比で混合し、層状ケイ酸塩の層間に式(1)をインターカレーションさせることにより層間を開裂させると同時にリビングラジカル開始能を有する有機官能基を導入する。通常、この反応が進行すると生成物が沈降してくるので、これを減圧濾過し、溶剤で洗浄後、減圧して揮発成分を除き、精製する。このときに用いる溶剤は、水との親和性が良好でカチオン交換の結果流出する塩化ナトリウムのようなアルカリ金属塩および塩化マグネシウムのようなアルカリ土類金属塩を溶解除去できる溶剤ならば特に種類は問わないが、例として、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリルなどが挙げられ、このうち凍結乾燥法の適用が可能である、水、2−メチル−2−プロパノール、1,4−ジオキサンが好ましい。
【0059】
次いで、このものから重合性単量体をリビングラジカル重合により成長させる手法について述べる。本発明ではリビングラジカル重合法の一つである原子移動ラジカル重合法を用いている。この手法は、一般的に次の手法により行われる。すなわち、遷移金属錯体を触媒として、式(1)におけるXを含む化合物を開始剤とし、このものから付加重合性単量体を重合成長させて重合体を得る手法である。
【0060】
重合触媒として用いられる遷移金属錯体として好ましいものは、周期律表第7族、8族、9族、10族または11族元素を中心金属とする金属錯体である。更に好ましい錯体は、0価の銅の錯体、1価の銅の錯体、2価のルテニウムの錯体、2価の鉄の錯体および2価のニッケルの錯体であり、特に、銅の錯体が好ましい。この錯体の原料となる1価の銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などが挙げられる。銅化合物を用いる場合には、触媒活性を高めるために錯体を形成させて用いられるがその配位子として、2,2’−ビピリジルもしくはその誘導体、1,10−フェナントロリンもしくはその誘導体、ピリジルメタンイミン(N−(n−プロピル)−2−ピリジルメタンイミン等)、ポリアミン(テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2−アミノエチル)アミン等)、またはL−(−)−スパルテイン等の多環式アルカロイドが添加される。添加する比率は配位子の配位数により変えることができる。2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合には、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類が添加される。これら以外の好適な触媒の例は、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh3))、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、および2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)である。これらの遷移金属錯体と重合開始剤との比率は、重合開始剤1モルに対し、遷移金属錯体0.1モル〜5モルの範囲で用いることができるが、好適なのは遷移金属錯体を1.0〜1.2モル用いた場合である。
【0061】
重合反応は無溶剤でも溶剤中でも行うことができる。好ましい溶剤としては、トルエンやキシレンなどの炭化水素溶剤、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤、クロロホルムやジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素溶剤、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、エタノールや2−プロパノールなどのアルコール系溶剤、水、および無溶剤である。このうち、特に好ましいものはトルエン、テトラヒドロフラン、無溶剤である。
本重合反応において、溶液中の原料全てを合計した濃度は、重量換算で1重量%〜100重量%で行うことができる。
【0062】
重合性単量体は、ラジカル重合法を適用できるものならば特に制限はなく、メタクリル酸およびそのエステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、アクリル酸およびそのエステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、アクリル酸アミド類(アクリル酸アミド、N−イソプロピルアクリル酸アミド等)、スチレンおよびその誘導体などが挙げられる。式(1)と重合性単量体との比率は、特に制限はなく、目的物の分子量に応じた比率で用いてよい。
【0063】
本重合反応は、用いる付加単量体の種類、溶剤の種類に応じ、減圧、常圧、加圧下でおこなうことができる。また重合雰囲気は、反応の過程で生成するラジカルおよび遷移金属錯体を失活させる酸素などの成分を可能な限り除去し、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気もしくは減圧下で行う必要がある。また溶剤中での重合のほかに、塊状重合、懸濁重合、乳化重合を用いることもできる。重合温度は、用いる付加単量体および溶剤の種類によるが、好ましい温度範囲は室温〜150℃である。
【0064】
以上のように、本発明で得られた、付加重合性単量体に対して重合開始能を有しかつ層状ケイ酸塩にイオン交換により結合可能な置換基を併せ持つことを特徴とする新規なケイ素化合物(式(1))は、層状ケイ酸塩化合物にたいしインターカレーションさせることができ、さらにこれらを開始剤として付加重合性単量体を重合させた重合体を合成することが可能である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0066】
測定機器類
NMRスペクトル;Varian社製、Unity 400 スペクトルメーター
透過型電子顕微鏡(TEM):(株)日立製作所社製、 H−7100
熱分析(TG−DTA): (株)リガク社製 TG8120
【0067】
実施例1
<化合物(2−(2−ブロモイソブチロイルエチル)ジメチルシラン)の合成>
三方コック、温度計、100mL容滴下ロートを備えた300mL容摺りつき三口フラスコを脱気・乾燥し、アルゴン気流下とする。これに、2−ヒドロキシエチルジメチルシラン(17.1g,164mmoL)、トリエチルアミン(18.2g,180mmoL)、乾燥ジエチルエーテル150mLを加えた後、撹拌しつつ液体窒素/メタノールで−78℃に冷却する。これに、2−ブロモイソブチリルブロミド(39.6g,172mmoL)を50mLの乾燥ジエチルエーテルで希釈した溶液を約1時間かけて滴下した。−78℃で約1時間撹拌した後、室温に戻し、さらに3時間撹拌した。大量の白色沈殿物が生成した。このものに、0.1規定希塩酸を加えて塩を溶かし、分液して有機相を分取し、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液で中和した後に塩化ナトリウム飽和溶液で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを加えて2時間室温放置し、脱水した。ロータリーエバポレーターで低沸点部を留去した後、クーゲルロアを用いて減圧蒸留し、10Torrの減圧度で、バス温150〜155℃での留分を得、単離精製して目的物である、2−(2−ブロモイソブチロイルエチル)ジメチルシラン、を得た。収量34.5g(136mmoL); 収率 83.1%; H−NMR(CDCl)δ 0.10(6H),1.00(2H),1.79(6H),3.78(1H),4.16(2H); 13C−NMR(CDCl)δ −4.55,14.48,30.58,55.76,64.08,171.46;29Si−NMR(CDCl)δ −16.17。
【0068】
実施例2
<化合物(塩化(2−(2−ブロモイソブチロイルエチル)ジメチルシリルエチルベンジル)トリメチルアンモニウム)の合成>
ジムロート管、三方コック、磁気攪拌子、100mL容滴下ロートを備えた500mL容三口フラスコを脱気、乾燥し、アルゴン雰囲気下とした。これに、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩酸塩31.4g(149mmoL)乾燥アセトニトリル200mL、5重量%塩化白金酸イソプロピルアルコール溶液100μLを加え、油浴にて70℃に加熱した。2-(2-ブロモイソブチロイルエチル)ジメチルシラン34.1g(135mmoL)を乾燥アセトニトリル50mLに溶解し、反応容器に約1時間かけて滴下した後、70℃で3時間攪拌した。反応容器を室温まで放冷し、生成した白色沈殿物を減圧濾過により濾取し、アセトニトリルで洗浄した後自然乾燥で目的物である塩化(2−(2−ブロモイソブチロイルエチル)ジメチルシリルエチルベンジル)トリメチルアンモニウムを白色粉末として得た。収量53.7g(119mmoL)。収率88.1%。H−NMR(DO)δ 1.4(10H),1.9(6H),2.8(11H)、4.2(4H)、7.0(4H)
【0069】
実施例3
<層状ケイ酸塩へのインターカレーション1>
1L容ビーカーに、蒸留水600mLを入れ、これに塩化(2−(2−ブロモイソブチロイルエチル)ジメチルシリルエチルベンジル)トリメチルアンモニウム1.00g(2.22mmoL)を加え、5分間室温攪拌し、水溶液とした(A)。別の300mL容ビーカーに蒸留水200mLを入れ、これに層状ケイ酸塩(クニミネ工業株式会社製「クニピアF」、115meq/100g)2.22g(2.55meq)を少しずつ加え、室温で10分間攪拌し、分散液とした(B)。(A)に(B)を加えて混合し、室温で12時間攪拌した。反応の進行に従い、白色沈殿が生成した。反応後に10分間静置し、水溶液を除いた。これに2−メチル−2−プロパノール100mLを加えて5分間攪拌洗浄し、10分間静置後に液層を除く操作を3回繰り返した後、2−メチル−2−プロパノール100mLを加えて分散させ、凍結乾燥により精製することにより目的物のインターカレーション体KM09を調製した。収量2.42g。
【0070】
このインターカレーション体の熱重量減少を室温から1000℃の昇温過程で測定したところ、17重量%の減少が観測された。このことから、このインターカレーション体は、有機部が17重量%、無機部が83重量%からなる有機無機複合体であり、層状ケイ酸塩中の約46moL%の陽イオンが有機部によって置換されていることが推定できた。
【0071】
実施例4
<層状ケイ酸塩へのインターカレーション2>
実施例3で、層状ケイ酸塩をコープケミカル社製「ルーセンタイトSWN」(101meq/100g)とし、これを2.22g(2.24meq)使用した他は、実施例3と同様に処理し、目的物のインターカレーション体KM10を調製した。収量2.30g。
【0072】
このインターカレーション体の熱重量減少を室温から1000℃の昇温過程で測定したところ、16重量%の減少が観測された。このことから、このインターカレーション体は、有機部が16重量%、無機部が84重量%からなる有機無機複合体であり、層状ケイ酸塩中の約43moL%の陽イオンが有機部によって置換されていることが推定できた。
【0073】
実施例5
<原子移動ラジカル重合>
ジムロート管、三方コック、セプタムキャップ、磁気攪拌子を備えた20mL容二口ナス型フラスコを脱気、乾燥し、窒素雰囲気下とした。これに、塩化銅(I)60mg(0.61mmoL)、前処理として一分間窒素バブリングを行ったメタクリル酸メチル3.06g(31mmoL)、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン139.6mg(0,61mmoL)を攪拌しながら添加し、前記インターカレーション体KM10を0.202gとメタクリル酸メチル3.0g(30mmoL)とから得られる懸濁液を加え、75℃で3時間加熱攪拌した。反応終了後、遠心分離にて固相を分離し、得られた固相をメタノールで洗浄し、減圧下60℃で3時間反応後、固体の目的物220mgを得た。
【0074】
実施例5で合成した目的物の熱重量減少を室温から1000℃の昇温過程で測定したところ、重量35.8%の減少が観測された。このことから、このものは有機部と無機部との重量比は有機部が35.8重量%、無機部が64.2重量%であることが推定できた。
【0075】
実施例5で合成したポリマーを、透過型電子顕微鏡で観察したところ、ケイ酸塩が3〜5層にスタックしたものが分散しており、その周囲を有機ポリマーと推定される部分で完全に覆われていることが観察された(図1)。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のケイ素化合物は、層状ケイ酸塩の陽イオン部に陽イオン交換され、インターカレーションすることにより、有機無機複合体を生成することができる。
この有機無機複合体は、それ自身を樹脂等と混合することにより、難燃化を付与する材料として使用することもできる。
また、この有機無機複合体は、付加重合性単量体に対して重合開始能を有する多数の置換基を有するため、さらにその置換基末端に付加重合性単量体を重合させ有機無機複合重合体を生成することができる。
本発明の有機無機複合材料は、層状ケイ酸塩から成長させる重合体の種類およびその鎖長に応じて様々な応用が考えられる。重合体の鎖長が短い場合には、有機樹脂との相溶性に優れかつ耐熱性、機械的特性、ガスバリア性、難燃性等を付与するフィラーとしての応用が期待でき、重合体の鎖長が長い場合には、耐熱性、機械的特性、ガスバリア性、難燃性等に優れた自立膜としての応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】合成した有機無機複合材料より作成した重合体(実施例5)のTEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるケイ素化合物。
【化1】

ここに、RおよびRは、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン鎖、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニレン鎖又は炭素原子数6〜20の含芳香族鎖から独立して選択され、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、鎖中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。R、Rは、水素原子、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基又は炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。Aは付加重合性単量体に対しリビングラジカル開始能を持つ置換基であり、Zは層状ケイ酸塩に対し陽イオン交換によるインターカレーションが可能な置換基である。
【請求項2】
請求項1記載の式(1)中のAが式(2)で表されることを特徴とする請求項1に記載のケイ素化合物。
【化2】

ここに、RおよびRは、水素原子、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基又は炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。Xは、ハロゲン原子である。
【請求項3】
請求項1記載の式(1)中のZが式(3)で表されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のケイ素化合物。
【化3】

ここに、R、RおよびRは、水素、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基又は炭素原子数6〜20の含芳香族置換基から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、置換基中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキル基、アルケニル基、含芳香族置換基共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。R10は、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン鎖、炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニレン鎖又は炭素原子数6〜20の含芳香族鎖から独立して選択され、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、鎖中の任意のメチレン(−CH−)が酸素原子で置換されても良く、アルキレン鎖、アルケニレン鎖、含芳香族鎖共に、それぞれに含まれる水素原子の一部または全てがハロゲン原子で置換されていても良い。また、Xはハロゲン原子である。
【請求項4】
請求項1記載の式(1)において、RおよびRが、炭素原子数1〜3の直鎖状のアルキレン鎖(アルキレン鎖中に酸素原子を含んでも良い)、ビニル鎖、アリル鎖から独立して選択され、RおよびRが、水素原子、メチル基、エチル基から独立して選択されることを、
請求項2記載の式(2)において、RおよびRが、水素原子、メチル基、エチル基から独立して選択され、Xがハロゲン原子であることを、
及び請求項3記載の式(3)において、R、RおよびRが、水素原子、メチル基、エチル基(エチル鎖中に酸素原子を含んでも良い)から独立して選択され、R10が、メチレン鎖、エチレン鎖(エチレン鎖中に酸素原子を含んでも良い)、ビニル鎖、炭素原子数6〜8の含芳香族鎖から独立して選択され、Xが、ハロゲン原子であることを特徴とする請求項1記載のケイ素化合物。
【請求項5】
層状ケイ酸塩の層間に請求項1から請求項4のいずれかに記載のケイ素化合物を陽イオン交換によるインターカレーションすることにより作成したことを特徴とする有機無機複合体。
【請求項6】
請求項5に記載した有機無機複合体を開始剤とし、前記有機無機複合体から付加重合性単量体をリビングラジカル重合により重合成長させて合成したことを特徴とする有機無機複合重合体。
【請求項7】
前記付加重合性単量体が(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体の群ならびにスチレンおよびスチレン誘導体の群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載の有機無機複合重合体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−116323(P2010−116323A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288464(P2008−288464)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】