説明

ケイ酸化合物、二次電池用正極および二次電池の製造方法

【課題】二次電池の正極活物質等として用いた場合に、平均放電電圧および単位質量当たりの容量を高めることが可能なケイ酸化合物を安価に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】AabSic-(d+e)Gedef1(AはLi、Na、K、MはFe、Mn、Co、Ni、XはP、Ta、Nb、V、0.8<a≦2.7、0.6≦b≦1.4、0.8≦c≦1.1、0.01≦d≦0.8、0≦e≦0.1、f1はa、b、c、d、e、Mの価数、Xの価数に依存し、電気的中性を満たす数)で表される組成を有する溶融物を冷却して得た固化物の粉砕物を加熱して、AabSic-(d+e)Gedef(fはa、b、c、d、e、Mの価数、Xの価数に依存し、電気的中性を満たす数)で表される組成を有するケイ酸化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸化合物、二次電池用正極および二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な二酸化炭素排出規制や省エネルギーの観点から、プラグインハイブリッド自動車や電気自動車の開発ならびに普及が進められている。これらの実現には、使用される二次電池の安全性を維持しつつ、高容量化、高エネルギー化、大型化することが課題とされている。次世代のリチウムイオン二次電池の正極材料等として、資源面、安全面、コスト面、安定性等の点での優位性から、オルトケイ酸構造の化合物が注目されている。
【0003】
特許文献1には、二次電池用正極の候補材料として、単位式中にk個のLiを含み、かつ[SiO4]、[SO4]、[PO4]、[GeO4]、[VO4]、[AlO4]、[BO4]等を含む広い一般式の組成を有するオルトケイ酸構造の化合物が提案されている。
特許文献2には、LiabSic4(MはMn、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1つの遷移金属、aは1<a≦3、bは0.5≦b≦1.5、cは0.5≦c≦1.5)で表されるリチウム遷移金属ケイ酸塩を、Mを含む金属化合物、リチウム化合物およびポリシランやポリシラザン等のケイ素系高分子化合物を含む混合物を焼成して製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−266882号公報
【特許文献2】国際公開第2008/123311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される電極材料のうち、ポリアニオンに[SiO4]を含み、かつその一部を別の元素で置換した化合物として確認できるのは、Li1.7Mn0.7Fe0.3Si0.70.34のみである。該化合物は、それぞれ個別に製造したLi2MnSiO4およびLiFePO4を混合・粉砕し、管に封入し、加熱して製造する固相反応で製造している。製造工程が複雑で製造コストがかさみ、大量生産することが困難であり、組成や粒径の制御も容易でない。
特許文献2には、原子MをCoとすることで放電電圧が上がることが示されているが、Li2CoSiO4を単相として得られておらず、放電容量が低い。
【0006】
本発明は、二次電池用正極材料等として用いた場合に、平均放電電圧および単位質量当たりの容量(放電容量)を高めることが可能なケイ酸化合物と、該ケイ酸化合物の組成や粒径を良好に制御でき、かつ安価に製造できる製造方法の提供を目的とする。本発明は、電池特性や信頼性に優れる二次電池用正極および二次電池の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]〜[14]の発明である。
[1] 下式(1)で表される組成を有する溶融物を得る溶融工程、
前記溶融物を冷却して固化物を得る冷却工程、
前記固化物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程、および
前記粉砕物を加熱して、下式(2)で表される組成を有するケイ酸化合物を得る加熱工程、をこの順に具備することを特徴とするケイ酸化合物の製造方法。
abSic-(d+e)Gedef1 (1)
(式(1)中、AはLi、NaおよびKからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子、MはFe、Mn、CoおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子、XはP、Ta、NbおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子であり、aは0.8<a≦2.7、bは0.6≦b≦1.4、cは0.8≦c≦1.1、dは0.01≦d≦0.8、eは0≦e≦0.1であり、f1はa、b、c、dおよびeの数値、および、Mの価数およびXの価数に依存する数であり、電気的中性を満たす数である。)
abSic-(d+e)Gedef (2)
(式(2)中、A、MおよびXは前記と同じ種類の原子を示し、a、b、c、dおよびeは前記と同じ数値を示し、fはa、b、c、dおよびeの数値、および、Mの価数およびXの価数に依存する数であり、電気的中性を満たす数である。)
[2] 前記溶融工程が、原料調合物を加熱して溶融物を得る工程である、[1]のケイ酸化合物の製造方法。
[3] 前記原料調合物中に、
原子Aが、Aの炭酸塩、Aの炭酸水素塩、Aの水酸化物、Aのケイ酸塩、Aのリン酸塩、Aのホウ酸塩、Aのフッ化物、Aの塩化物、Aの硝酸塩、Aの硫酸塩、およびAの有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種(ただし、該少なくとも1種の一部または全部は、それぞれ水和塩を形成していてもよい。)として含まれ、
原子Mが、Mの酸化物、Mのオキシ水酸化物、Mのケイ酸塩、Mのリン酸塩、Mのホウ酸塩、金属M、Mのフッ化物、Mの塩化物、Mの硝酸塩、Mの硫酸塩、Mのアルコキシド、およびMの有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種として含まれ、
Siが、酸化ケイ素、AまたはMのケイ酸塩、およびSiのアルコキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種として含まれ、
Geが、酸化ゲルマニウム、AまたはMのゲルマニウム酸塩、およびGeのアルコキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種として含まれ、
原子Xが、Xの酸化物、Xの水酸化物、Xのケイ酸塩、リン酸、リン酸塩、AまたはMのバナジン酸塩、AまたはMのニオブ酸塩、AまたはMのタンタル酸塩、Xのアルコキシド、およびXの有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種として含まれる、[2]のケイ酸化合物の製造方法。
[4] 前記冷却工程における冷却速度を−103〜−1010℃/秒である、[1]〜[3]のケイ酸化合物の製造方法。
[5] 前記粉砕工程で得られる前記粉砕物の平均粒径が、体積換算のメディアン径で10nm〜10μmである、[1]〜[4]のケイ酸化合物の製造方法。
[6] 前記粉砕工程において、前記固化物に、有機化合物および炭素系導電活物質からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素源を含ませ、かつ該炭素源中の炭素換算量(質量)が、該固化物の質量と該炭素源中の炭素換算量(質量)との合計質量に対して、0.1〜20質量%である、[1]〜[5]のケイ酸化合物の製造方法。
[7] 前記加熱工程を不活性ガス中または還元ガス中、500〜1,000℃で行う、[1]〜[6]のケイ酸化合物の製造方法。
[8] 前記加熱工程で得られる前記ケイ酸化合物の結晶子径が10〜50nmである、[1]〜[7]のケイ酸化合物の製造方法。
[9] 前記加熱工程で得られる前記ケイ酸化合物がオリビン型結晶粒子である、[1]〜[8]のケイ酸化合物の製造方法。
[10] 前記加熱工程で得られる前記ケイ酸化合物が、下式(3)で表される組成を有する、[1]〜[9]のケイ酸化合物の製造方法。
Li2Fe1-gMngSic-(d+e)Gedef (3)
(式(3)中、Xは前記と同じ種類の原子を示し、c、d、eおよびfは前記と同じ数値を示し、gは0≦e≦1である。)
【0008】
[11] [1]〜[10]の製造方法によってケイ酸化合物を得て、次に該ケイ酸化合物を二次電池用正極材料として用いて二次電池用正極を製造することを特徴とする二次電池用正極の製造方法。
[12] [11]の製造方法によって二次電池用正極を得て、次に該二次電池用正極を用いて二次電池を製造することを特徴とする二次電池の製造方法。
【0009】
[13] 下式(2)で表される組成を有するケイ酸化合物。
abSic-(d+e)Gedef (2)
(式(2)中、AはLi、NaおよびKからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子、MはFe、Mn、CoおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子、XはP、Ta、NbおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子であり、aは0.8<a≦2.7、bは0.6≦b≦1.4、cは0.8≦c≦1.1、dは0.01≦d≦0.8、eは0≦e≦0.1であり、fはa、b、c、dおよびeの数値、および、Mの価数およびXの価数に依存する数であり、電気的中性を満たす数である。)
[14] [13]のケイ酸化合物が炭素源に由来する導電材を含有する粒子であり、該導電材を、該ケイ酸化合物と該導電材との合計質量に対して、0.1〜20質量%含有する粒子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、二次電池用正極材料等として用いた場合に、平均放電電圧および放電容量を高めることが可能なケイ酸化合物を製造できる。さらに、ケイ酸化合物の組成や粒径を良好に制御できる。よって、正極材料として有用なケイ酸化合物を安価にかつ効率的に提供できる。また、本発明のケイ酸化合物を用いることにより、電池特性や信頼性に優れる二次電池用正極および二次電池が製造できる。さらに、本発明によれば、新規なケイ酸化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】例1で製造した二次電池用正極材料のX線回折パターンを示す図である。
【図2】例2で製造した二次電池用正極材料のX線回折パターンを示す図である。
【図3】例3で製造した二次電池用正極材料のX線回折パターンを示す図である。
【図4】例4で製造した二次電池用正極材料のX線回折パターンを示す図である。
【図5】例21で製造した二次電池用正極材料のX線回折パターンを示す図である。
【図6】例22で製造した二次電池用正極材料のX線回折パターンを示す図である。
【図7】ケイ酸化合物におけるSiのGe置換量とa軸の結晶格子定数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明において、AはLi、NaおよびKからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を表す。Aは上記3種のアルカリ金属元素の原子を表す。Aは2種以上の原子の組み合わせからなっていてもよい。MはFe、Mn、CoおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を表す。Mは上記4種の遷移金属元素の原子を表す。Mは2種以上の原子の組み合わせからなっていてもよい。なお、式(1)、式(2)、式(3)等の化学式は平均組成を表す。
また、オリビン型構造の結晶を以下、オリビン型結晶といい、オリビン型結晶を含む粒子を以下、オリビン型結晶粒子ともいう。オリビン型結晶粒子は、オリビン型結晶構造以外の結晶構造を部分的に含んでいてもよく、非結晶構造を部分的に含んでいてもよい。オリビン型結晶粒子としては、その実質的に全てがオリビン型結晶からなっていることが好ましい。
【0013】
[ケイ酸化合物の製造方法]
本発明のケイ酸化合物の製造方法は、以下の溶融工程(I)〜加熱工程(IV)の各工程を、この順に行う。溶融工程(I)〜加熱工程(IV)の工程前、工程間、および工程後には、各工程に影響を及ぼさない限り、他の工程を行ってもよい。
【0014】
溶融工程(I):式(1):AabSic-(d+e)Gedef1(式中の記号は、A、MおよびXは前記と同じ種類の原子を示し、a、b、c、d、eおよびf1は前記と同じ数値を示す。)で表される組成を有する溶融物(以下、溶融物(1)ともいう。)を得る工程、
冷却工程(II):前記溶融物を冷却して固化物を得る工程、
粉砕工程(III):前記固化物を粉砕して粉砕物を得る工程、
加熱工程(IV):前記粉砕物を加熱して、式(2):AabSic-(d+e)Gedef(式中の記号は、A、MおよびXは前記と同じ種類の原子を示し、a、b、c、d、eおよびfは前記と同じ数値を示す。)で表される組成を有するケイ酸化合物(以下、ケイ酸化合物(2)ともいう。)を得る工程。
【0015】
ケイ酸化合物(2)の表面の少なくとも一部を導電材で被覆してもよい。該導電材は、導電性炭素であることが好ましい。導電性炭素は、炭素源から形成される。炭素源は、有機化合物および炭素系導電活物質からなる群より選ばれる少なくとも1種である。有機化合物は、加熱により熱分解され、さらに少なくとも一部が炭化物となって、該炭化物が導電性炭素となる。有機化合物の熱分解は400℃以下で行うことが好ましく、炭化は700℃以下で行うことが好ましい。加熱を700℃以下で行うと、有機化合物の炭化に加えて、熱分解反応に伴う体積変化を小さくできるため、該炭化物からなる導電性炭素が、ケイ酸化合物(2)の粒子表面または化合物粒子間の界面に均一かつ強固に結合でき、導電材として機能する。炭素系導電活物質は、導電性炭素として機能する。
炭素源は、粉砕工程(III)および加熱工程(IV)の少なくとも一方の工程で含ませることが好ましい。粉砕工程(III)で炭素源を含ませる場合には、固化物と炭素源とを含む粉砕物を得ることが好ましい。また、加熱工程(IV)で炭素源を含ませる場合には、粉砕物を加熱して化合物を得た後、該化合物と炭素源とを含む粉砕物を得て、次いで該粉砕物を不活性ガス中または還元ガス中で加熱することが好ましい。
炭素源は、加熱工程(IV)で得られたケイ酸化合物(2)に含ませて、加熱してもよい。該加熱温度は500〜1,000℃が好ましい。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0016】
(溶融工程(I))
溶融工程(I)は、上式(1)で表される組成を有する溶融物を得る工程である。溶融工程(I)においては、各原子源(原子A、原子M、Si、Geおよび原子X)を含む原料を、式(1)で表される組成となるように調整した原料調合物を準備するのが好ましい。
【0017】
式(1)において、aが0.8<a≦2.7、bが0.6≦b≦1.4、cが0.8≦c≦1.1、dが0.01≦d≦0.8、eが0≦e≦0.1である場合に、原料調合物を良好に溶融することができ、均一な溶融物が得られる。また、後工程の加熱工程(IV)でケイ酸化合物を得ることができ、さらにはオリビン型結晶構造を含むケイ酸化合物、特にオリビン型結晶構造のみからなるケイ酸化合物が得られるので好ましい。
【0018】
原子AはLi、NaおよびKからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子である。特に本発明の製造方法で製造するケイ酸化合物を二次電池用正極材料に使用する場合には、Liを必須とするのが好ましく、Liのみであることが特に好ましい。Liを含むケイ酸化合物は、二次電池の単位質量当たりの容量を高くできる。
【0019】
原子MはFe、Mn、CoおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子である。原子Mは1種のみ、または、2種からなるのが好ましい。特に本発明の製造方法で製造するケイ酸化合物を二次電池用正極材料に使用する場合には、原子MはFeのみ、Mnのみ、またはFeおよびMnからなるのが、高放電容量とコストの点で好ましい。原子Mの価数は、本発明の製造方法の各工程で変化しうる数値であり、+2〜+4の範囲が好ましい。原子Mの価数は、原子MがFeの場合は+2、+8/3、または+3、Mnの場合は+2、+3、または+4、Coの場合は+2、+8/3、または+3、Niの場合は+2または+4が好ましい。式(1)における原子Mの価数(以下、式(1)における原子Mの価数をN1’で表す。)は2〜2.5であるのが好ましく、2〜2.2であるのが特に好ましい。一方、式(2)における原子Mの価数(以下、式(2)における原子Mの価数をN1で表す。)は2〜2.2であるのが好ましく、2であるのが特に好ましい。
【0020】
a、bおよびcは、1.7≦a≦2.3、0.8≦b≦1.2および0.9≦c≦1.1がより好ましく、1.8≦a≦2.2、0.9≦b≦1.1および0.95≦c≦1.05が特に好ましい。a、bおよびcが上記範囲内であると、多電子型の反応(単位モル数当たり1molを超える原子Aを引き抜く反応)を示すケイ酸化合物が得られ、このケイ酸化合物を二次電池用正極材料として用いたときに、二次電池の理論電気容量を高めることができる。
【0021】
GeはSiの一部を置換することにより含有される。GeはSiに比べてイオン半径が大きいため、ケイ酸化合物の結晶、特にオリビン型結晶の結晶格子定数を拡大する作用を有する。従って、ケイ酸化合物を二次電池用正極材料として用いたときに、Liイオン等の原子Aのイオンが拡散しやすくなる。ケイ酸化合物を二次電池用正極材料として用いた二次電池の平均放電電圧を高めることができる。
【0022】
dが0.01≦c≦0.8である場合に、ケイ酸化合物の結晶構造を安定に維持しつつ、上記したGeにより結晶格子定数を拡大できる。dは0.01≦d≦0.5がより好ましく、0.05≦d≦0.2が特に好ましい。上記範囲内であると、結晶構造の安定化と結晶格子定数の拡大とをより良好に両立させることができる。なお、Siの全てをGeに代えた場合には、オリビン型結晶等の所望の結晶構造を得ることができないため、GeはSiの一部を置換する。
【0023】
原子XはP、Ta、NbおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子である。Siの一部は原子Xで置換してもよい。Siの一部を原子Xで置換すると、得られるケイ酸化合物の電子伝導性が向上し、また結晶構造が安定する。原子Xの価数は、本発明の製造方法の各工程で変化しうる数値であり、+2〜+5の範囲が好ましい。式(1)における原子Xの価数(以下、式(1)における原子Xの価数をN2’で表す。)は、基本的にPの場合は+5、Taの場合は+2または+5、Nbの場合は+2または+5、Vの場合は+3または+5である。また、式(2)における原子Xの価数(以下、式(2)における原子Xの価数をN2で表す。)は、基本的にPの場合は+5、Taの場合は+2または+5、Nbの場合は+2または+5、Vの場合は+3または+5である。
【0024】
原子Xの価数N2は、5価であると、ケイ酸化合物のキャリア密度が高くなる。導電性が向上し、Liイオン等の原子Aのイオンの挿入離脱反応をより円滑に進めることができ、特に好ましい。原子Aのイオンの挿入離脱反応を円滑に進めることで抵抗成分が減少するため、ケイ酸化合物を二次電池用正極材料として用いた二次電池の放電容量を高めることができる。
【0025】
eが0≦e≦0.1である場合に、ケイ酸化合物の結晶構造を安定化しつつ、上記した電子伝導性の向上効果、さらにはケイ酸化合物のキャリア密度の向上効果を得ることができる。eは0≦e≦0.05がより好ましく、0.0001≦e≦0.01が特に好ましい。上記範囲内であると、結晶構造の安定化と電子伝導性の向上効果とをより良好に両立させることができる。さらに、不純物の析出等を抑制することができる。
【0026】
f1の値はa、b、c、d、eの数値、および、原子Mの価数N1’および原子Xの価数N2’に依存する数であり、電気的中性を満たす数である。加熱工程(IV)で変化しうる値であって、加熱工程(IV)後にfとなる値である。例えば、加熱工程(IV)で成分の酸化還元、揮発等によりf1の値が増減する場合には、該増減を考慮に入れた値とするのが好ましい。加熱工程(IV)で得られるケイ酸化合物の組成におけるfの値は、a、b、c、d、eの数値、および、原子Mの価数N1および原子Xの価数N2に依存する数であり、電気的中性を満たす数である。a=2、b=1、c=1、d=0.2、e=0.01、N1=+2、N2=+5であれば、f=4.005である。なお、原子Xの価数N2が5価であり、結晶中でキャリアのドナーとして作用する場合には、fの値はeの数値および原子Xの価数N2に依存しない。
【0027】
溶融物は、原子A、原子M、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、原子Xおよび酸素(O)以外の原子を含んでいてもよい(以下、原子Tともいう。)。原子Tを含有させることで、溶融物を溶融しやすくすることができる。原子Tの含有量(複数の原子の場合には合計量)は、溶融物になったときの各原子の酸化物換算量(単位:モル%)が0.1〜3%が好ましい。
【0028】
溶融工程(I)では、まず溶融物を得られるように各原子源を選択して混合し、原料調合物を得ることが好ましい。原料調合物は、原子Aを含む化合物、原子Mを含む化合物や金属、Siを含む化合物、Geを含む化合物、および原子Xを含む化合物や金属等からなり、必要に応じて原子Tを含む化合物を含有するのが好ましい。
【0029】
原子Aを含む化合物としては、Aの炭酸塩(A2CO3)、Aの炭酸水素塩(AHCO3)、Aの水酸化物(AOH)、Aのケイ酸塩(A2O・2SiO2、A2O・SiO2、2A2O・SiO2等)、Aのリン酸塩(A3PO4)、Aのホウ酸塩(A3BO3)、Aのフッ化物(AF)、Aの塩化物(ACl)、Aの硝酸塩(ANO3)、Aの硫酸塩(A2SO4)、およびAの酢酸塩(CH3COOA)やシュウ酸塩((COOA)2)等の有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種(ただし、該少なくとも1種の一部または全部は、それぞれ水和塩を形成していてもよい。)が好ましい。なかでも、安価でかつ取り扱いが容易な点で、A2CO3、AHCO3が特に好ましい。
【0030】
原子Mを含む化合物としては、Mの酸化物(FeO、Fe34、Fe23、MnO、Mn23、MnO2、CoO、Co34、Co23、NiO等)、Mのオキシ水酸化物(MO(OH)等)、Mのケイ酸塩(MO・SiO2、2MO・SiO2等)、Mのリン酸塩(M3(PO42等)、Mのホウ酸塩(M3(BO32等)、Mのフッ化物(MF2、MF3等)、Mの塩化物(MCl2、MCl3等)、Mの硝酸塩(M(NO32、M(NO33等)、Mの硫酸塩(MSO4、M2(SO43等)、Mのアルコキシド(M(OCH32、M(OC252等)、およびMの酢酸塩(M(CH3COO)2)やシュウ酸塩(M(COOH)2)等の有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。入手のしやすさやコストから、Fe34、Fe23、MnO、Mn23、MnO2、Co34およびNiOからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物がより好ましい。特に原子Mが、Feである場合の該化合物としてはFe34および/またはFe23が好ましく、原子MがMnである場合の該化合物としてはMnO2および/またはMnOが好ましい。原子Mを含む化合物は、1種であっても、2種以上であってもよい。
【0031】
Siを含む化合物としては、酸化ケイ素(SiO2等)、Aのケイ酸塩、Mのケイ酸塩、およびケイ素のアルコキシド(Si(OCH34、Si(OC254等)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。Siを含む化合物としては、安価な点で、酸化ケイ素が特に好ましい。Siを含む化合物は結晶質であっても、非晶質であってもよい。
【0032】
Geを含む化合物としては、酸化ゲルマニウム(GeO2等)、Aのゲルマニウム酸塩(A2O・2GeO2、A2O・GeO2、2A2O・GeO2等))、Mのゲルマニウム酸塩(MO・GeO2、2MO・GeO2等)、およびゲルマニウムのアルコキシド(Ge(OCH34、Ge(OC254等)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。Geを含む化合物としては、安価な点で、酸化ゲルマニウムが特に好ましい。Geを含む化合物は結晶質であっても、非晶質であってもよい。
【0033】
原子Xを含む化合物としては、Xの酸化物(P25、Ta25、Ta23、Nb25、Nb23、V25、V23等)、Xの水酸化物(X(OH)5等)、Xのケイ酸塩(X25・SiO2等)、リン酸(H3PO4等)、リン酸塩((NH43PO4、(NH42HPO4、NH42PO4、AまたはMのリン酸塩等)AまたはMのタンタル酸塩、AまたはMのニオブ酸塩、AまたはMのバナジン酸塩、Xのアルコキシド(X(OCH35、X(OC255等)、およびXの酢酸塩(X(CH3COO)5)やシュウ酸塩(X(COO)5)等の有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。入手のしやすさやコストから、NH42PO4、Ta25、Nb25およびV25からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が特に好ましい。
【0034】
各原料の好適な組み合わせは、原子Aを含む化合物がAの炭酸塩またはAの炭酸水素塩;原子Mを含む化合物がMの酸化物;Siを含む化合物が酸化ケイ素;Geを含む化合物が酸化ゲルマニウム;原子Xを含む化合物がXの酸化物またはリン酸塩;である場合の組み合わせである。
原料調合物の組成は、原則として、当該原料調合物から得られる溶融物の組成と理論上対応するものである。ただし、該原料調合物中には、溶融中に揮発等により失われやすい成分(例えばLi)が存在するため、得られる溶融物の組成は各原料の仕込み量から計算される酸化物基準のモル%と若干相違する場合がある。そのような場合、揮発等により失われる量を考慮して、各原料の仕込み量を設定することが好ましい。本発明の製造方法においては、各原料の仕込み量を溶融物の組成の0.9〜1.2倍値としておくことが好ましい。
【0035】
原料調合物中の各原料の純度は特に限定されない。反応性や二次電池用正極材料の物性等を考慮すると、水和水を除く純度が99質量%以上であることが好ましい。
各原料としては、粉砕した原料を用いるのが好ましい。各原料は、粉砕してから混合しても、混合した後に粉砕してもよい。粉砕は、ミキサー、ボールミル、ジェットミル、遊星ミル等を用いて、乾式または湿式で行うことが好ましく、溶媒の除去工程が不要なことから、乾式が好ましい。原料調合物中の各原料の粒度は、混合操作、混合物の溶融容器への充填操作、混合物の溶融性等に悪影響を及ぼさない範囲であれば、限定されない。
【0036】
溶融工程(I)においては、前記の方法で得られた原料調合物を、次に加熱して溶融する。加熱は、原料調合物を容器等に入れ、加熱炉を用いて加熱し、溶融することが好ましい。該容器としては、アルミナ製、カーボン製、炭化ケイ素製、ホウ化ジルコニウム製、ホウ化チタン製、窒化ホウ素製、炭素製、白金製、ロジウムを含む白金合金製等、耐火物系煉瓦、および還元材料(例えばグラファイト)等の材料からなる容器が挙げられる。該容器は蓋を装着することが加熱炉中での揮発および蒸発防止のために好ましい。加熱炉は、抵抗加熱炉、高周波誘導炉、またはプラズマアーク炉が好ましい。抵抗加熱炉はニクロム合金等の合金製、炭化ケイ素製、またはケイ化モリブデン製の発熱体を備えた電気炉であるのが好ましい。
【0037】
加熱温度は1,300〜1,600℃が好ましく、1,400〜1,550℃が特に好ましい。ここで、溶融とは各原料が融解し、目視で透明な状態となることをいう。加熱温度が上記範囲の下限値以上であると溶融が容易になり、上限値以下であると原料の揮発がしにくくなる。加熱時間は0.2〜2時間が好ましく、0.5〜2時間が特に好ましい。加熱時間が上記範囲の下限値以上であると溶融物の均一性が充分になり、上限値以下であると原料が揮発しにくい。溶融工程(I)において、溶融物の均一性を上げるために撹拌してもよい。また、次工程の冷却工程(II)を行うまで、溶融温度より低い温度で溶融物を清澄させてもよい。
【0038】
加熱は、空気中、不活性ガス中または還元ガス中で実施するのが好ましい。溶融の条件は、容器または加熱炉の種類や熱源等の加熱方法等の条件により、適宜変更できる。圧力は、常圧、加圧(1.1×105Pa以上)、減圧(0.9×105Pa以下)のいずれであってもよい。溶融の条件は還元ガス中が好ましい。酸化ガス中であってもよい。酸化ガス中で溶融した場合には、後工程の加熱工程(IV)で還元(例えばM3+からM2+への変化)を行うのが好ましい。
【0039】
ここで、不活性ガスとは、窒素ガス(N2)、およびヘリウムガス(He)やアルゴンガス(Ar)等の希ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種の不活性ガスを99体積%以上含むガスをいう。還元ガスとは、上記した不活性ガスに、還元性を有するガスを添加し、実質的に酸素を含まないガスをいう。還元性を有するガスとしては、水素ガス(H2)、一酸化炭素ガス(CO)およびアンモニアガス(NH3)等が挙げられる。不活性ガス中の還元性を有するガスの量は、全気体体積中に含まれる還元性を有するガスの量が0.1体積%以上であるのが好ましく、1〜10体積%が特に好ましい。酸素の含有量は、該気体体積中に1体積%以下が好ましく、0.1体積%以下が特に好ましい。
【0040】
(冷却工程(II))
冷却工程(II)は、溶融工程(I)で得られた溶融物を室温(20〜25℃)付近まで冷却して固化物を得る工程である。固化物は非晶質物であることが好ましいが、固化物の一部は結晶化物であってもよい。固化物が非晶質物を含むことで、次の粉砕工程(III)が実施しやすくなり、ケイ酸化合物の組成や粒径が制御しやすくなる。固化物が結晶化物を含む場合、加熱工程(IV)で結晶化物が結晶核となり、結晶化しやすくなる。固化物中の結晶化物の量は、固化物の全質量に対して0〜30質量%であることが好ましい。結晶化物を多く含むと粒状やフレーク状の固化物を得ることが困難となる。また、冷却機器の損耗を早め、その後の粉砕工程(III)の負担が大きくなる。
【0041】
溶融物の冷却は、空気中、不活性ガス中、または還元ガス中で行うのが、設備が簡便であることから好ましい。
【0042】
溶融物の冷却速度は−1×103℃/秒以上が好ましく、−1×104℃/秒以上が特に好ましい。本明細書では、冷却する場合の単位時間当たりの温度変化(すなわち冷却速度)を負の値で示し、加熱する場合の単位時間当たりの温度変化(すなわち加熱速度)を正の値で示す。冷却速度を該値以上にすると非晶質物が得られやすい。冷却速度の上限値は製造設備や大量生産性の点から−1×1010℃/秒程度が好ましく、実用性の点からは1×108℃/秒が特に好ましい。
溶融物の冷却は、前工程の溶融工程(I)の加熱温度である1,300〜1,600℃から室温(20〜25℃)付近までを、冷却速度を−1×103〜−1×1010℃/秒で冷却することが好ましい。
【0043】
溶融物の冷却方法としては、高速で回転する双ローラの間に溶融物を滴下して冷却する方法、回転する単ローラに溶融物を滴下して冷却する方法、溶融物を冷却したカーボン板や金属板にプレスして冷却する方法が好ましい。なかでも、双ローラを用いた冷却方法が、冷却速度が速く、大量に処理できるので特に好ましい。双ローラとしては、金属製、カーボン製、セラミックス製のものを用いることが好ましい。
【0044】
冷却工程(II)で得る固化物は、フレーク状または繊維状が好ましい。フレーク状の場合には、平均厚さが200μm以下が好ましく、100μm以下が特に好ましい。フレーク状の平均厚さに垂直な面の平均直径は、特に限定されない。繊維状の場合には、平均直径が50μm以下が好ましく、30μm以下が特に好ましい。平均厚さや平均直径の上限値以下であると、粉砕工程(III)の負担を軽減でき、加熱工程(IV)における結晶化効率を高くすることができる。平均厚さおよび平均直径は、ノギスやマイクロメータにより測定することができる。平均直径は、顕微鏡観察により測定することもできる。
【0045】
(粉砕工程(III))
粉砕工程(III)は、冷却工程(II)で得られた固化物を粉砕して粉砕物を得る工程である。固化物は通常の場合、非晶質物を多く含む、または非晶質物からなるため、粉砕がしやすい利点がある。また、粉砕に使用する装置に負担をかけずに粉砕ができ、かつ粒径が制御しやすい利点がある。一方、従来の固相反応は、加熱工程後に粉砕を行うが、粉砕によって残留応力が生じ、電池特性等を悪化させる問題があることに本発明者は気づいた。本発明の製造方法では、加熱工程(IV)の前に粉砕工程(III)を行うため、粉砕工程(III)で生じた残留応力を加熱工程(IV)で低減または除去できる。
【0046】
粉砕は、カッターミル、ジョークラッシャー、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル、遊星ミル等を用いて行うことが好ましい。また、粒子径により各手法を段階的に用いることで、効率よく粉砕を進めることができる。例えば、手揉みやハンマー等で予備的に細かくすると、粉砕工程を負担が軽減するので好ましい。また、カッターミルで予備的な粉砕をした後、遊星ミルやボールミルを用いで粉砕することで、粉砕にかかる時間を短縮できるので好ましい。生産性の観点から、特にボールミルを用いることが好ましい。
【0047】
粉砕メディアとしては、ジルコニアボール、アルミナボール、ガラスボール等を用いることが好ましい。特に、ジルコニアボールは磨耗率が低く、不純物の混入を抑制できるので好ましい。粉砕メディアの直径は0.1〜30mmが好ましい。粉砕を多段階にし、大きい粉砕メディアで粉砕を行った後、粉砕メディアと粉砕物を分離し、さらに小さい粉砕メディアを用いて粉砕してもよい。該方法であると、未粉砕粒子の残存を抑制できる。
粉砕容器は特に限定されないが、容器内に粉砕メディアと固化物とを容器高さの30〜80%まで入れると粉砕効率がよい。ボールミルを用いる場合、粉砕時間は6〜360時間が好ましく、6〜120時間がより好ましく、12〜96時間が特に好ましい。粉砕時間が上記範囲の下限値以上であると充分に粉砕を進めることができ、上限値以下であると過粉砕が抑制できる。
【0048】
粉砕は乾式または湿式のいずれで行ってもよいが、粉砕粒度の観点から湿式で行うのが好ましい。粉砕に用いる溶媒(以下、粉砕溶媒ともいう。)としては、水、またはエタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン、トルエン等の有機溶媒を用いることができる。コストや安全性の面からは水が好ましい。一方、極性溶媒では固化物が溶出してしまう等の問題が発生する場合には、有機溶媒が好ましい。粉砕溶媒は粉砕メディアが入った状態で、容器高さの30〜80%まで充填すると、粉砕効率がよくなる。粉砕を湿式で行った場合、粉砕溶媒を沈降、濾過、減圧乾燥、加熱乾燥等で除去した後に、加熱工程(IV)を実施するのが好ましい。ただし、粉砕溶媒が少ない場合、特に粉砕物の質量に占める固形分の質量の割合が30%以上の場合には、粉砕溶媒を含んだ粉砕物のままで加熱工程(IV)に供してもよい。
【0049】
粉砕物の平均粒径は、体積換算のメディアン径で10nm〜5μmが好ましく、10nm〜500nmが特に好ましい。平均粒径が上記範囲の下限値以上であると、加熱工程(IV)で粉砕物同士が焼結して粒径が大きくなりすぎることがないために好ましい。上記範囲の上限値以下であると、加熱工程(IV)での加熱温度や時間を低減でき、また得られるケイ酸化合物の粒径を小さくできるため好ましい。平均粒径は、例えば沈降法やレーザ回折/散乱式粒子径測定装置、フロー式画像分析装置で測定でき、作業性の点からレーザ回折/散乱式粒子径測定装置で測定することが好ましい。
【0050】
本発明におけるケイ酸化合物は絶縁物質であるため、二次電池用正極材料として用いる場合には、ケイ酸化合物の表面の少なくとも一部を導電材で被覆することが好ましい。粉砕工程(III)においては、固化物に導電材となる炭素源を含ませるのが好ましい。炭素源としては、有機化合物および炭素系導電活物質からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。炭素源としては、有機化合物のみ、炭素系導電活物質のみ、有機化合物と炭素系導電活物質とを併用のいずれでもよいが、有機化合物と炭素系導電活物質とを併用することが特に好ましい。併用することによって、ケイ酸化合物内での炭素系導電活物質の分布が均一となり、また有機化合物やその熱分解物(炭化物)との接触面積が大きくなる。これらによって、ケイ酸化合物を用いた二次電池用正極材料の導電性を高めることができる。
粉砕工程(III)は、固化物と炭素源との粉砕物を得る工程であるのが好ましい。粉砕工程(III)は、固化物と炭素源とを混合した後に粉砕する工程、固化物と炭素源とをそれぞれ粉砕した後に混合する工程、また、固化物を粉砕した後に炭素源と含ませる工程であるのがより好ましい。なお、炭素源が有機化合物のみである場合には、粉砕せずに、固化物と混合できる。
【0051】
炭素源の質量の割合は、炭素源中の炭素換算量(質量)が、固化物の質量と、該炭素源中の炭素換算量(質量)との合計質量に対して、0.1〜20質量%となる量が好ましく、0.1〜10質量%となる量がより好ましく、2〜10質量%となる量が特に好ましい。炭素源の量を上記範囲の下限値以上とすることで、ケイ酸化合物を二次電池用正極材料として用いる場合に電気伝導性を充分に高めることができる。上記範囲の上限値以下とすることで、ケイ酸化合物を被覆する導電材の厚さが厚くなりすぎず、ケイ酸化合物を用いて二次電池用正極を製造した際に、二次電池用正極材料に電解液を充分に行きわたらせることができる。
【0052】
〈有機化合物〉
炭素源としての有機化合物は、不活性ガス中または還元ガス中で加熱した際に熱分解反応し、酸素や水素が離脱して炭化する化合物が好ましい。有機化合物としては、糖類、アルカン、アミノ酸類、ペプチド類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、テルペン類、複素環式アミン類、脂肪酸および官能基を有する脂肪族非環状ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。該有機化合物は1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
糖類としては、グルコース、フラクトース、ガラクトース等の単糖類、スクロース、マルトース、セロビオース、トレハロース等のオリゴ糖、転化糖、デキストリン、アミロース、アミロペクチン、セルロース等の多糖類、およびアスコルビン酸等が挙げられる。
アルカンとしては、炭素数が10〜40のパラフィンが好ましい。
アミノ酸類としては、アラニン、グリシン等のアミノ酸が挙げられる。
ペプチド類としては、分子量が1,000以下の低分子ペプチドが挙げられる。
【0053】
アルデヒド類としては、炭素数が7〜20の芳香族アルデヒドが好ましい。好ましい例としては、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド等が挙げられる。
カルボン酸類としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸等が挙げられる。
ケトン類としては、炭素数が6〜20の芳香族ケトンが好ましい。好ましい例としては、アセトフェノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
テルペン類としては、二環性モノテルペンまたはその誘導体が好ましい。好ましい例としてカンファーが挙げられる。
複素環式アミン類としては、アミノ基を分子内に1〜3個有する化合物が好ましい。好ましい例としてメラミンが挙げられる。
脂肪酸としては、炭素数が10〜30の飽和脂肪酸が好ましく、炭素数が10〜20の飽和脂肪酸が特に好ましい。好ましい例としてステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
【0054】
官能基を有する脂肪族非環状ポリマーは、水酸基、カルボキ基、スルホ基、およびそれらの誘導体、エーテル性酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。該脂肪族非環状ポリマーは、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、およびそれらの誘導体、エーテル性酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する脂肪族非環状モノマーを重合して得られるポリマーであるのが好ましい。該モノマーとしては、ビニルアルコール、アクリル酸、ビニルスルホン酸、エチレングリコール、環状エーテル(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等)等が挙げられる。ケイ酸化合物への密着性の点から、ビニルアルコール、アクリル酸およびエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
該脂肪族非環状ポリマーの好ましい例としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等が挙げられる。
【0055】
有機化合物の数平均分子量は特に限定されないが、100〜50,000が好ましく、100〜20,000が特に好ましい。数平均分子量が上記範囲の下限値以上であると、加熱工程(IV)で有機化合物が揮発せず、導電性炭素が残りやすい。上記範囲の上限値以下であると、粉砕工程(III)で粉砕物の表面に有機化合物を付着させやすい。
【0056】
有機化合物としては、グルコース、スクロース、グルコース−フラクトース転化糖、カラメル、パラフィン、澱粉、α化した澱粉、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、カンファー、メラミン、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、およびフェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、グルコース、スクロース、エチルセルロース、カンファー、メラミン、ステアリン酸、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、およびポリアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0057】
〈炭素系導電活物質〉
炭素源としての炭素系導電活物質は、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンファイバおよびアモルファスカーボンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。アモルファスカーボンとしては、FTIR分析において、正極材料の導電性低下の原因となるC−O結合ピークやC−H結合ピークが実質的に検出されないものが好ましい。
【0058】
固化物に炭素源として有機化合物を含ませる場合の粉砕工程(III)は、粉砕物の表面に均一に分散させるために、湿式で行うのが好ましい。固化物に炭素源として炭素系導電活物質のみを含ませる場合の粉砕工程(III)は、乾式が好ましい。
【0059】
(加熱工程(IV))
加熱工程(IV)は、粉砕工程(III)で得られた粉砕物を加熱し、ケイ酸化合物(2)を得る工程である。加熱工程(IV)においては、ケイ酸化合物(2)を粒子状の物質として得ることが好ましい。該粒子状のケイ酸化合物(2)は、結晶粒子であることがより好ましく、オリビン型の結晶構造であることが特に好ましい。ケイ酸化合物(2)は非晶質物を含まないことが好ましい。ケイ酸化合物(2)が非晶質物を含まないことは、X線回折でハローパターンが検出されないことにより確認されうる。
【0060】
加熱工程(IV)は、粉砕物を加熱することから、粉砕によって生じた残留応力の緩和が促進される。また、加熱により結晶核の生成および粒成長を行うため、ケイ酸化合物の組成、粒径およびその分布の制御が容易である。さらに、粉砕工程(III)で炭素源を含ませた場合の加熱工程(IV)は、生成物、好ましくは生成物の結晶粒子の表面に、導電材を結合させる工程となりうる。炭素源のうちの有機化合物は、加熱工程(IV)で熱分解され、炭化物となって導電材として機能する。粉砕工程(III)を湿式で行った場合には、粉砕溶媒の除去を加熱工程時に同時に行ってもよい。
【0061】
加熱温度は、500〜1,000℃が好ましい。加熱温度が500℃以上であると、反応が生じやすくなり、ケイ酸化合物の結晶が生成しやすくなる。加熱温度が1,000℃以下であると、粉砕物が融解しにくく、結晶系や粒子径を制御しやすい。加熱温度は600〜900℃が特に好ましい。該加熱温度である場合には、適度な結晶性、粒子径、粒度分布等を有する結晶粒子が得られやすく、さらにオリビン型の結晶構造を有するケイ酸化合物の結晶粒子が得られやすい。
【0062】
加熱は一定温度で保持することに限らず、多段階に保持温度を設定して行ってもよい。加熱温度が高くなると、生成する粒子の粒子径が大きくなる傾向があるため、所望の粒子径に応じて加熱温度を設定するのが好ましい。また、加熱時間(加熱温度による保持時間)は、所望の粒子径を考慮して1〜72時間が好ましい。加熱は、ボックス炉、トンネルキルン炉、ローラーハースキルン炉、ロータリーキルン炉、マイクロウェーブ加熱炉等で行うのが好ましい。
【0063】
加熱は、空気中、不活性ガス中、または還元ガス中で実施することが好ましく、不活性ガス中または還元ガス中で実施することが特に好ましい。不活性ガスおよび還元ガスの条件は、溶融工程(I)における条件と同じである。圧力は、常圧、加圧(1.1×105Pa以上)、減圧(0.9×105Pa以下)のいずれでもよい。また、還元剤(例えばグラファイト)と粉砕物とを入れた容器を加熱炉内に装填して実施した場合には、粉砕物中のMの還元(例えばM3+からM2+への変化)を促進することができる。これによって、ケイ酸化合物(2)を再現性よく得ることができる。
【0064】
加熱工程(IV)後において、通常は室温まで冷却する。該冷却における冷却速度は、−30〜−300℃/時間が好ましい。冷却速度を該範囲にすることにより、加熱による歪みを除去でき、生成物が結晶質を含む場合は、結晶構造を保ったまま目的物を得ることができる。また、冷却は、放置して室温まで冷却してもよい。冷却は、放置して室温まで冷却させるのが好ましい。冷却は、不活性ガス中または還元ガス中で行うのが好ましい。
冷却は、加熱工程(IV)の500〜1,000℃から室温までを、冷却速度を−30〜−300℃/時間で冷却することが好ましい。
【0065】
本発明の好ましい一態様として、導電材となる炭素源を粉砕工程(III)で含ませる態様が挙げられる。さらに、該態様においては、粉砕工程(III)で得た粉砕物を不活性ガス中または還元ガス中で加熱して、ケイ酸化合物(2)を得た後、該ケイ酸化合物(2)と炭素源との粉砕物を得て、次に、該粉砕物を不活性ガス中または還元ガス中で加熱する態様が好ましい。
炭素源の種類や機能等は、前述した通りである。
なお、ケイ酸化合物(2)と炭素源との粉砕物を得る方法は、ケイ酸化合物(2)と炭素源とを混合した後に粉砕する方法、ケイ酸化合物(2)と炭素源とをそれぞれ粉砕した後に混合する方法、または炭素源を粉砕せずに、ケイ酸化合物(2)を粉砕した後に炭素源を含ませる方法が挙げられる。
【0066】
炭素源の質量の割合は、炭素源中の炭素換算量(質量)が、ケイ酸化合物(2)の質量と、該炭素源中の炭素換算量(質量)との合計質量に対して、0.1〜20質量%となる量が好ましく、0.1〜10質量%となる量がより好ましく、2〜10質量%となる量が特に好ましい。炭素源の量の規定理由は、粉砕工程(III)で述べた通りである。
炭素源の使用量は、上述を満たすように選択される。ケイ酸化合物(2)の質量と炭素源の質量との合計量に対して、1〜50質量%が好ましく、3〜45質量%が特に好ましい。
【0067】
ケイ酸化合物(2)と炭素源との粉砕物を得るための好ましい粉砕条件は、粉砕工程(III)における粉砕条件と同様である。
【0068】
粉砕は乾式または湿式のいずれで行ってもよいが、ケイ酸化合物(2)と炭素源とを均一に混合できる点から、湿式で行うのが好ましい。ケイ酸化合物(2)と炭素源との粉砕を湿式で行う場合、溶媒(粉砕溶媒)の種類や使用量は、粉砕工程(III)を湿式で行う場合の条件と同様とするのが好ましい。ケイ酸化合物(2)と炭素源との粉砕を湿式で行った場合は、粉砕溶媒を沈降、濾過、減圧乾燥、加熱乾燥等で除去した後に、次の加熱を実施するのが好ましい。ただし、粉砕溶媒に対する固形分の割合が30%以上の場合には、粉砕溶媒を含んだ粉砕物のままで加熱を実施してもよい。
【0069】
ケイ酸化合物(2)と炭素源との粉砕物の加熱は、不活性ガス中または還元ガス中で行うのが好ましい。炭素源が有機化合物である場合には、該有機化合物が加熱時に炭化されてケイ酸化合物(2)の表面を被覆するため、導電性炭素のケイ酸化合物(2)の表面に対する密着性を高めることができる。炭素源として炭素系導電活物質を用いた場合にも、ケイ酸化合物(2)と炭素源との粉砕物を不活性ガス中または還元ガス中で加熱することによって、導電性炭素のケイ酸化合物(2)の表面に対する密着性を高めることができる。表面を導電性炭素で被覆したケイ酸化合物(2)は、加熱時に成分の酸化または揮発により組成が変化してもよい。
【0070】
ケイ酸化合物(2)と炭素源との粉砕物の加熱温度は、300〜800℃が好ましく、500〜700℃が特に好ましい。該加熱温度が上記範囲の下限値以上であると、有機化合物の炭化反応が進行しやすくなると共に、炭素系導電活物質のケイ酸化合物(2)の表面に対する密着性が向上する。上記範囲の上限値以下であると、ケイ酸化合物(2)の還元による特性低下を抑制でき、またケイ酸化合物(2)同士の焼結による粒径の増大を抑えることができる。
加熱時間、加熱雰囲気、加熱時の圧力、加熱に用いる熱源の好ましい条件は、加熱工程(IV)と同様である。
加熱の後は、通常室温まで冷却する。該冷却の好ましい条件は、加熱工程(IV)における加熱後の冷却と同様である。
【0071】
[ケイ酸化合物]
本発明の製造方法により得られるケイ酸化合物は、二次電池用正極材料として有用な化合物である。式(2)で表される組成を有するケイ酸化合物は、導電性が高く、前述したように多電子型の反応を示すため、二次電池用正極材料として用いたときに単位質量当たりの容量が大きくなる。さらに、Siの一部をGeで置換しているため、ケイ酸化合物結晶の結晶格子定数が拡大し、Liイオン等の原子Aのイオンが拡散しやすくなる。これによって、二次電池用正極材料として用いたときに平均放電電圧が高くなる。
【0072】
ケイ酸化合物(2)は、オリビン型の結晶粒子を含むことが好ましく、オリビン型の結晶粒子のみからなることが特に好ましい。該結晶粒子としては、一次粒子および二次粒子の双方を含む。得られるケイ酸化合物中に二次粒子が存在する場合、一次粒子が破壊されない程度の範囲で解砕および粉砕してもよい。
【0073】
ケイ酸化合物(2)としては、下式(3)で表される組成を有するケイ酸化合物がより好ましい。
Li2Fe1-gMngSic-(d+e)Gedef (3)
(式(3)中、Xは前記と同じ種類の原子を示し、c、d、eおよびfは前記と同じ数値を示し、gは0≦e≦1である。)
式(3)で表される組成を有するケイ酸化合物は、二次電池用正極材料として用いた場合に良好な特性を示し、製造コストが安価であるために好ましい。
【0074】
また、本発明の製造方法において、有機化合物および炭素系導電活物質からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素源を含ませた場合には、ケイ酸化合物の表面に炭素源に由来する導電材を均一にかつ強固に結合させうる。導電材が結合したケイ酸化合物は、そのまま二次電池用正極材料として用いることができる。炭素源として有機化合物を用いた場合には、加熱工程(IV)で有機化合物が炭化され、炭化物が導電材としてケイ酸化合物の表面の少なくとも一部を被覆する。炭素源として炭素系導電活物質を用いた場合には、該物質が導電材としてケイ酸化合物の表面の少なくとも一部を被覆する。
【0075】
ケイ酸化合物の粒子が、導電材を含有し、かつケイ酸化合物と導電材との合計質量に対して、0.1〜20質量%の導電材を、該粒子の表面または粒子間界面に含有するのが好ましく、0.1〜10質量%含有するのがより好ましく、2〜10質量%含有するのが特に好ましい。
【0076】
本発明のケイ酸化合物の結晶子径は10〜50nmが好ましく、10〜35nmが特に好ましい。結晶子径を該範囲とすることで、ケイ酸化合物の導電性がより高くなる。結晶子径は最強ピークの半価幅からシェラーの式を用いて求める。ケイ酸化合物の平均粒径は、体積換算のメディアン径で10nm〜10μmが好ましく、10nm〜2μmが特に好ましい。平均粒径の測定方法は前述した通りである。また、ケイ酸化合物の比表面積は0.2〜200m2/gが好ましく、1〜200m2/gがより好ましく、1〜50m2/gがさらに好ましく、1〜10m2/gが特に好ましい。比表面積を該範囲とすることにより、ケイ酸化合物の導電性が高くなる。比表面積は、例えば窒素吸着法による比表面積測定装置で測定できる。なお、上記ケイ酸化合物の平均粒経および比表面積は、ケイ酸化合物が導電材を含有していない場合の平均粒経および比表面積である。
導電材で被覆されたケイ酸化合物の平均粒径は、体積換算のメディアン径で10nm〜10μmが好ましく、10nm〜2μmが特に好ましい。平均粒径を該範囲とすることで、ケイ酸化合物の導電性がより高くなる。ケイ酸化合物の比表面積は0.2〜200m2/gが好ましく、1〜200m2/gがより好ましく、1〜50m2/gが特に好ましい。比表面積を該範囲とすることにより、ケイ酸化合物の導電性が高くなる。
【0077】
[二次電池用正極および二次電池の製造方法]
本発明の製造方法によって得られたケイ酸化合物を、二次電池用正極材料として用いて、二次電池用正極および二次電池を製造できる。二次電池としては、金属リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池等が挙げられるが、リチウムイオン二次電池が好ましい。電池形状は制限されることはなく、例えば円筒状、角型、コイン型等の種々の形状およびサイズを適宜採用できる。
【0078】
本発明の二次電池用正極は、本発明の製造方法で得られるケイ酸化合物を用いる以外は、公知の電極の製造方法に従って製造できる。例えば、本発明のケイ酸化合物を必要に応じて公知の結着材(ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルクロライド、エチレンプロピレンジエンポリマー、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等)、さらに必要に応じて公知の導電材(アセチレンブラック、カーボン、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、ニードルコークス等)と混合した後、得られた混合粉末をステンレス鋼製等の支持体上に圧着成形したり、金属製容器に充填すればよい。また、例えば、該混合粉末を有機溶剤(N−メチルピロリドン、トルエン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等)と混合して得られたスラリーをアルミニウム、ニッケルまたはステンレス等の金属基板上に塗布する等の方法も採用できる。
【0079】
二次電池の構造は、本発明の製造方法で得られる二次電池用正極を電極として用いる以外は、公知の二次電池における構造を採用することができる。セパレータ、電池ケース等についても同様である。負極としては、活物質として公知の負極用活物質を使用でき、炭素材料、アルカリ金属材料およびアルカリ土類金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。電解液としては、非水系の電解液が好ましい。すなわち、本発明の製造方法で得られる二次電池としては、非水電解質リチウムイオン二次電池が好ましい。
【実施例】
【0080】
本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の説明に限定されない。例1〜9が実施例、例21〜22が参考例である。
【0081】
[例1〜9、21〜22]
(溶融工程(I))
溶融物の組成がLi2O、FeO、MnO、SiO2、GeO2、P25、Ta25およびNb25換算量(単位:モル%)で、それぞれ表1に示す割合となるように、炭酸リチウム(Li2CO3)、四酸化三鉄(Fe34)、二酸化マンガン(MnO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ゲルマニウム(GeO2)、リン酸水素アンモニウム(NH42PO4)、酸化タンタル(Ta25)および酸化ニオブ(Nb25)を秤量し、乾式で混合・粉砕して、原料調合物を得た。
【0082】
【表1】

【0083】
得られた原料調合物を、ロジウムを20質量%含む白金合金製のるつぼに充填した。次に、該るつぼをケイ化モリブデン製の発熱体を備える電気炉(モトヤマ社製、装置名:NH−3035)の中に入れた。該電気炉を、流量1L/分でN2ガスを流通しつつ、+300℃/時間の速度で昇温し、1,450〜1,500℃で0.5時間加熱した。目視で透明になったことを確認して、溶融物を得た。
【0084】
(冷却工程(II))
溶融工程(I)で得たるつぼ中の溶融物を、毎分400回転する直径約15cmのステンレス製双ローラを通すことにより、溶融物を−1×105℃/秒で室温まで冷却し、フレーク状の固化物を得た。得られた固化物はガラス状物質であった。
【0085】
(粉砕工程(III))
冷却工程(II)で得たフレーク状固化物の10gと、有機化合物としてカンファー(東京化成社製、試薬)の2.5gと、粉砕メディアとして直径5mmのジルコニア製ボールの400gと、粉砕溶媒としてアセトンの75mLとを、250mLのポリプロピレン製ボトルに入れ、卓上型ポットミル架台(アズワン社製、装置名:PM−001)を用いて、毎分280回転で72時間粉砕した。次に、得られた粉砕物を直径5mmのジルコニア製ボールと分離した。次に、粉砕物と、直径1mmのジルコニア製ボールの400gとを250mLのポリプロピレン製ボトルに入れ、同様に卓上型ポットミル架台を用いて、毎分280回転で72時間粉砕した。カンファーの質量は、固化物の質量とカンファーの質量との合計量に対して20質量%である。
【0086】
(加熱工程(IV))
粉砕工程(III)で得た粉砕物を、乾燥してからアルミナ製コウ鉢に入れた。次に、アルミナ製コウ鉢を還元雰囲気焼成炉(モトヤマ社製、装置名:SKM−3035F−SP)の中に入れた。該焼成炉内を1.5L/分でN2ガスを流通しつつ、700℃で8時間加熱して、二次電池用正極材料を得た。該二次電池用正極材料は、ケイ酸化合物の結晶粒子の表面の少なくとも一部をカンファーに由来する導電材で被覆したものである。
【0087】
(粒度分布)
例1〜9、21〜22で得た粉砕物の平均粒径を、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、装置名:LA−920)で測定した。その結果を表1に示す。
【0088】
(X線回折)
得られた二次電池用正極材料の鉱物相を、X線回折装置(リガク社製、装置名:RINT TTRIII)を用いて調べた。例1〜9、21〜22の粒子はいずれも斜方晶であり、導電材で被覆された結晶粒子がオリビン型の結晶粒子であることが確認された。例1、2、3、4、21および22で得た各結晶のX線回折パターンを、それぞれ図1、2、3、4、5および6に示す。また、解析ソフト(リガク社製、JADE7)を用いて、強度が最も高い回折ピークから結晶子径を算出した。さらに、低角側から6本の回折ピークを用いて、a軸の結晶格子定数の計算を行った。結果を表2に示す。また、図7にケイ酸化合物におけるSiのGe置換量とa軸の結晶格子定数との関係を示す。
【0089】
(組成分析)
得られた二次電池用正極材料の化学組成を測定した。まず、材料を2.5mol/LのKOH溶液で120℃にて加熱密閉分解し、分解液を塩酸酸性下で乾固した。次に、塩酸酸性溶液として濾過した後、濾液および残渣を得た。濾液中のFe、Mn、Si、Ge、Ta、NbおよびPは、誘導結合型発光分光分析装置(セイコーインスツル社製、装置名:SPS3100)を用いて定量した。濾液中のLiは原子吸光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、装置名:Z−2310)を用いて定量した。Fe、Mn、Si、Ge、Ta、NbおよびPの定量値から、FeO、MnO、SiO2、GeO2、P25、Ta25およびNb25の量を算出した。さらに、残渣は灰化した後、フッ酸−硫酸で分解処理し、この処理による重量減少をSiO2量とした。全SiO2量は、重量減少値から算出される量と濾液中のSiO2量の合量とした。例1〜9および例21〜22で得た二次電池用正極材料の化学組成の定量値を、表2に示す。
【0090】
(残炭素量)
得られた二次電池用正極材料における残炭素量を、炭素分析計(堀場製作所社製、装置名:EMIA−321V)を用いて測定した。その結果を表2に示す。なお、残炭素量とは、二次電池用正極材料の全質量からケイ酸化合物(2)の質量を引いた値であり、二次電池用正極材料の全質量中における残炭素量の割合(質量%)を計算した。
【0091】
(正極シートの製造)
得られた二次電池用正極材料と、アセチレンブラック(導電材)と、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を12.1質量%含むポリフッ化ビニリデン溶液(溶媒:N−メチルピロリドン)とを混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加してスラリーを調製した。二次電池用正極材料とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンの質量比は80:12:8とした。次に、スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて片面塗工した後、120℃で乾燥し、さらにロールプレス圧延を2回行うことによって、正極シートを製造した。
【0092】
(二次電池の製造)
該正極シートを直径18mmに打ち抜いたものを正極として用いると共に、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極として用い、さらに負極集電体として厚さ1mmのステンレス板、セパレータとして厚さ25μmの多孔質ポリプロピレン、さらに電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)との混合溶媒(体積比、EC:DEC=1:1)に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解した混合溶液を用いて、ステンレス製簡易密閉セル型半電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。
【0093】
(Liイオン二次電池用正極の充放電特性評価)
得られた半電池を25℃の恒温槽に入れ、定電流充放電試験機(北斗電工社製、装置名:HJ201B)に接続して充放電試験を行った。電流密度は二次電池用正極材料の質量(導電材と結着剤とを除いた質量)当たりの電流値を15mA/gとして充放電を行った。充電終止電位はLi対極基準で4.5Vとし、終止電圧に到達後電流値が1.5mA/gとなるまで充電を行い、30分休止後に放電を開始した。放電終止電圧はLi対極基準で2Vとした。初回放電容量と平均放電電圧を表2に示す。平均放電電圧は放電時間に対する放電電圧の平均である。
【0094】
【表2】

【0095】
本発明のケイ酸化合物を用いて製造した例1〜9の電池は、Geを含まないケイ酸化合物を用いて製造した例21の電池に比べて平均放電電圧が高く、また初回放電容量は同等であった。特に、原子MとしてMnのみを用いた例6〜9の電池は、平均放電電圧が3Vを超え、平均放電電圧が非常に高かった。これはケイ酸化合物のSiの一部をイオン半径が大きいGeで置換することで結晶格子定数が拡大し、Liが拡散しやすくなったためと考えられる。Siの一部をGeで置換することで結晶格子定数が大きくなることは、表2および図7に示す通りである。ケイ酸化合物のSiの一部をイオン半径が大きいGeで置換することで結晶格子定数が拡大したことは、表2のa軸結晶格子定数より確認できる。すなわち、Geを含まない例21のa軸結晶格子定数に比べて、Geで置換した例1〜9のa軸結晶格子定数が大きかった。また、Siに代えてGeを用いた例22の電池は、初期放電容量が不充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の製造方法は、二次電池用正極材料等として用いた場合に、平均放電電圧および放電容量を高めることが可能なケイ酸化合物を製造できる。さらに、ケイ酸化合物の組成や粒径を良好に制御できる。得られたケイ酸化合物は、二次電池用正極さらには二次電池に適用して有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される組成を有する溶融物を得る溶融工程、
前記溶融物を冷却して固化物を得る冷却工程、
前記固化物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程、および
前記粉砕物を加熱して、下式(2)で表される組成を有するケイ酸化合物を得る加熱工程、をこの順に具備することを特徴とするケイ酸化合物の製造方法。
abSic-(d+e)Gedef1 (1)
(式(1)中、AはLi、NaおよびKからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子、MはFe、Mn、CoおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子、XはP、Ta、NbおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子であり、aは0.8<a≦2.7、bは0.6≦b≦1.4、cは0.8≦c≦1.1、dは0.01≦d≦0.8、eは0≦e≦0.1であり、f1はa、b、c、dおよびeの数値、および、Mの価数およびXの価数に依存する数であり、電気的中性を満たす数である。)
abSic-(d+e)Gedef (2)
(式(2)中、A、MおよびXは前記と同じ種類の原子を示し、a、b、c、dおよびeは前記と同じ数値を示し、fはa、b、c、dおよびeの数値、および、Mの価数およびXの価数に依存する数であり、電気的中性を満たす数である。)
【請求項2】
前記溶融工程が、原料調合物を加熱して溶融物を得る工程である、請求項1に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項3】
前記原料調合物中に、
原子Aが、Aの炭酸塩、Aの炭酸水素塩、Aの水酸化物、Aのケイ酸塩、Aのリン酸塩、Aのホウ酸塩、Aのフッ化物、Aの塩化物、Aの硝酸塩、Aの硫酸塩、およびAの有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種(ただし、該少なくとも1種の一部または全部は、それぞれ水和塩を形成していてもよい。)として含まれ、
原子Mが、Mの酸化物、Mのオキシ水酸化物、Mのケイ酸塩、Mのリン酸塩、Mのホウ酸塩、金属M、Mのフッ化物、Mの塩化物、Mの硝酸塩、Mの硫酸塩、Mのアルコキシド、およびMの有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種として含まれ、
Siが、酸化ケイ素、AまたはMのケイ酸塩、およびSiのアルコキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種として含まれ、
Geが、酸化ゲルマニウム、AまたはMのゲルマニウム酸塩、およびGeのアルコキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種として含まれ、
原子Xが、Xの酸化物、Xの水酸化物、Xのケイ酸塩、リン酸、リン酸塩、AまたはMのバナジン酸塩、AまたはMのニオブ酸塩、AまたはMのタンタル酸塩、Xのアルコキシド、およびXの有機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種として含まれる、請求項2に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程における冷却速度が−103〜−1010℃/秒である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕工程で得られる前記粉砕物の平均粒径が、体積換算のメディアン径で10nm〜10μmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項6】
前記粉砕工程において、前記固化物に、有機化合物および炭素系導電活物質からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素源を含ませ、かつ該炭素源中の炭素換算量(質量)が、該固化物の質量と該炭素源中の炭素換算量(質量)との合計質量に対して、0.1〜20質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程を不活性ガス中または還元ガス中、500〜1,000℃で行う、請求項1〜6のいずれか一項に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程で得られる前記ケイ酸化合物の結晶子径が10〜50nmである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程で得られる前記ケイ酸化合物がオリビン型結晶粒子である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程で得られる前記ケイ酸化合物が、下式(3)で表される組成を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のケイ酸化合物の製造方法。
Li2Fe1-gMngSic-(d+e)Gedef (3)
(式(3)中、Xは前記と同じ種類の原子を示し、c、d、eおよびfは前記と同じ数値を示し、gは0≦e≦1である。)
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法によってケイ酸化合物を得て、次に該ケイ酸化合物を二次電池用正極材料として用いて二次電池用正極を製造することを特徴とする二次電池用正極の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法によって二次電池用正極を得て、次に該二次電池用正極を用いて二次電池を製造することを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項13】
下式(2)で表される組成を有するケイ酸化合物。
abSic-(d+e)Gedef (2)
(式(2)中、AはLi、NaおよびKからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子、MはFe、Mn、CoおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子、XはP、Ta、NbおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子であり、aは0.8<a≦2.7、bは0.6≦b≦1.4、cは0.8≦c≦1.1、dは0.01≦d≦0.8、eは0≦e≦0.1であり、fはa、b、c、dおよびeの数値、および、Mの価数およびXの価数に依存する数であり、電気的中性を満たす数である。)
【請求項14】
請求項13に記載のケイ酸化合物が炭素源に由来する導電材を含有する粒子であり、該導電材を、該ケイ酸化合物と該導電材との合計質量に対して、0.1〜20質量%含有する粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−47162(P2013−47162A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186252(P2011−186252)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】