説明

ケイ酸塩被膜

本発明は、粒子上にケイ酸塩被膜を形成する方法、およびそれによって得られる粒子に関し、直径50μm未満の未被覆粒子の分散液に、ケイ酸塩含有溶液を加え、音響励振することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、粒子上にケイ酸塩被膜を作製する方法、およびそれによって得られた粒子に関する。
【0002】
多種多様の被覆粒子が知られている。これらの粒子は、所与の発光、吸収、色など特定の特性を有すれば必要とされ、他の特性を欠いていても、それもまた必要とされる。したがって、その発光により特に容易に検出され、またそのシェル材料の特性により酵素など特定の物質と容易に結合する粒子によって、生物学的マーカーを提供することができる。これらのシェルは、多くの場合有機物であり、これにより適用可能性が制限される。
【0003】
また、特定の用途では、粒子のほんの少しの特性しか望まれず、他の特性は妨害となる。したがって、優れた電気伝導性を同時に有する多種多様の透明な赤外線吸収体(「透明導電性酸化物」、TCO)がある。しばしば、この導電性は、粒子が塗料などのマトリックスに組み込まれている場合であっても保持され、このことは浸透限界に達していなくとも当てはまる。これは、板ガラスなどでは望ましくないことが多い。というのも、板ガラス上に二次元塗布すると導電性表面が生成し、これが、たとえば建物または家の中の携帯電話に悪影響を与えるからである。このような場合、TCOまたは他の物質は凝集体(aggregate)として使用される。
【0004】
添加剤、充填剤、顔料などの凝集体は、多種多様の用途で必要とされる。これらの凝集体は、所望する特定の光学的挙動など特定の特性を、これら凝集体が組み込まれているマトリックスに、あるいはこれら凝集体が化学的にまたは物理的に付着しているより大きな物体に与える。これら凝集体は、所望特性を示さなければならないと同時に、安定性または生体適合性、あるいは生物学的安全性および/または食品法の下の安全性などに対して悪影響を与えてはならないことが重要である。
【0005】
これは、凝集体をしっかりと組み込むことができず、凝集体が少なくとも基本的にはマトリックスに到達できない場合、また、凝集体を追加使用しようとする材料が変化する環境および/または化学的に攻撃的な環境にさらされる場合特に問題となる。これら凝集体は、綿などの繊維材料用の凝集体によって例示することができる。たとえば酸性の蒸散環境等にさらされたとしても、凝集体は綿繊維に付着したままでなければならない。同じことが、たとえば紙繊維、セルロース等用の凝集体にも当てはまり、たとえば、増白剤としての酸化チタン凝集体を挙げることができる。主に印刷物が頻繁に皮膚と接触する場合、印刷用また他のインク用などの凝集体もまた問題となる。というのも、印刷インクへの取り込みが、概してあまり安定ではないからである。
【0006】
その光学的特性のために非常に魅力的な凝集体は、オフセット印刷法およびインクジェット印刷法向けの、Sn含有量が7±0.5モルパーセントの酸化インジウムスズである。この材料をその光学的特性以上により魅力的なものにするためには、この材料を生体適合性のある形で作製することが求められる。ここで、「生体適合性のある」とは、必ずしも「食品技術の点で安全である」ことを意味するのではなく、いずれにせよ以下の定義に従ってこのような材料との接触を無害にするような、ということを意味する。
【0007】
特に、印刷しようとする顔料の生体適合性を改善しようとする場合、あるいは生体適合性が改善された顔料を、粒径など所望の顔料特性に著しく影響を及ぼすことなく、印刷用に作製しようとする場合、製造技術上の問題が起こる。しばしば、所望の光学的特性および印刷特性を十分な生体適合性と共に得るために、顔料ごとに異なる製造法が必要とされる。
【0008】
関連する顔料には、たとえば、スズ含有量が7±0.5モルパーセントで、粒径が10μmより小さい酸化インジウムスズが含まれる。このような顔料を生体適合性のある形で製造するための効率的な方法が望ましい。
【0009】
凝集体をすでに扱う多くの所有権がある。たとえば、シラン化した顔料および着色プラスチック材料の黄変を抑制するためのそれら顔料の使用に関する欧州特許出願公開第0492223号明細書を挙げることができる。この出願では、空気、酸素、熱および光の作用に対する顔料表面の安定性の増大を検討し、シラン化合物の顔料への化学吸着を述べているが、その場合、強力なミキサーに溶媒も、カップリング剤やキャリア液などの他の物質も特に添加せずに、顔料コーティングを実現しようとしている。さらに、不透明基質に基づく多層真珠光沢顔料に関するドイツ特許出願公開第19817286号を挙げることができる。この出願では、とりわけ、債券および証券用の用紙および包装紙の着色、ならびに高分子材料および紙のレーザマーキングについて検討しており、金属酸化物としてTiO、ZrO、Fe、Fe、Cr、ZnO、(SnSb)O、Al、それらの混合物、SiOを挙げている。
【0010】
この明細書では、特に顕著なカラーフロップを示すように、粒径約10μm以上の雲母顔料をコーティングすることが提案されており、これは、雲母の干渉色が極度に視野角に依存することになることを意味する。車の塗料でのその使用が例示されている。
【0011】
さらに、高光沢で、不透明度または透明度が高い板状顔料を開示している欧州特許第0608388号明細書を挙げることができる。この板状顔料は、特別に作製され、光沢を得るためのマトリックスを備える。二酸化チタン顔料と、アルカリ土類金属のホウ酸塩ならびにアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の複ホウ酸塩の層との形の表面改質顔料が、欧州特許第0641842号明細書に開示されている。DE69723347は、寸法60nm未満の金属酸化物粒子で個々の点がコーティングされた寸法5〜500nmの球状SiO粒子に関する。
【0012】
加えて、ドイツ特許出願公開第10022037号は、透明な熱可塑性高分子と、粒径200nm未満の表面改質酸化物粒子とを含有する赤外線吸収組成物、有機近赤外線吸収体、ならびにそれらの作製、使用およびそれらから作製される製品に関する。
【0013】
欧州特許出願公開第0245984号明細書には、ケイ酸塩によるTiO粒子のコーティングが記載されている。コーティング中のケイ酸塩溶液の添加は、追加のエネルギーを全く入力せずに、酸化チタンの等電点より実質的に高いpH値で行われる。このpH値は、コーティングプロセス中に大きく変化する。この方法では、コーティングプロセス中の制御できない急速な被膜の成長および粒子凝集塊(agglomerate)のコーティングを防止することができず、これが、形成される顔料をさらなるステップにおいて再び微粉砕しなければならない理由である。
【0014】
米国特許第6440322号明細書には、ケイ酸塩を用いた酸化鉄粒子のコーティングについて記載されている。ここに記載されている方法においても、pH値がコーティング中に一定に保たれず、コーティング中にpH8をはるかに上回り、反応後に塩酸でpH8に調節される。このコーティングプロセスにおいても、追加のエネルギーは入力されない。
【0015】
欧州特許出願公開第1477465号明細書には、酸化インジウムスズ粒子およびシリカ粒子を含むコーティング材料によるガラス基質のコーティングについて記載されている。このコーティング材料の作製では、酸化インジウムスズ粒子が、前もって溶解されることも分散されることもなく、水ガラスおよびシリカ粒子を含有する混合物に添加される。
【0016】
特開2003−246965号公報明細書には、テトラエトキシシランによる酸化インジウムスズ粒子の改質について記載されている。
【0017】
DE69708085T2には、二酸化ケイ素による酸化物粒子のコーティングが記載されている。このコーティングでは、追加のエネルギーの入力は行われず、8〜10の範囲内のpHにおいて高アルカリ媒体中でコーティングが行われる。このコーティングプロセスでは、追加の電解質がさらに必須となる。高アルカリ媒体中でコーティングが行われるため、被膜の無制御な成長が起こる。したがって、被覆粒子を、乾燥後に微粒化しなければならない(第8頁、第3段落参照)。
【0018】
これまでに知られているこれらのコーティングプロセスは高アルカリ媒体中で行われ、コーティングしようとする一次粒子からの凝集塊の形成を防止することができないため、コーティングプロセス中にケイ酸塩被膜の無制御な成長が起こる、あるいは、これまでに知られている方法では一次粒子自体ではなく一次粒子の凝集塊のコーティングが起こる。
【0019】
したがって、本発明の目的は、被膜が粒子上に均一に、制御されて成長することができる方法を提供することであり、一次粒子の凝集塊ではなく一次粒子自体をコーティングして可能な限り高い生体適合性を有する粒子(凝集体)を形成することが確実となる。本発明のさらなる目的は、一次粒子表面の化学的性質に安定で再現可能な変化をもたらすことであり、この変化により化学的かつ機械的安定性の増加がもたらされる。
【0020】
第1の実施形態では、直径が50μmより小さい未被覆粒子の分散液に、音響励振しながらケイ酸塩含有溶液を加えることを特徴とする、粒子上にケイ酸塩被膜を作製する方法によって本発明の目的が達成される。
【0021】
本発明によるこの方法によって、一次粒子のゼータ電位を容易に調節することができ、これにより分散性が向上し、電界中における挙動(たとえば、電気泳動における速度)が均一となる。有機コーティングとは異なり、電気泳動中に材料は軟化しない。
【0022】
たとえば超音波方式の音響励振によって、このコーティングプロセス中に、コーティングしようとする粒子が分離し、一次粒子の凝集塊が形成されていれば離散する。凝集塊ではなく一次粒子自体のみがコーティングされるため、得られる被覆粒子は、機械的にも化学的にもはるかに安定である。というのも、「凝集(flocculation)」または凝集体形成によって形成される被覆凝集塊は、容易に離散し、したがって攻撃を受けることができるからである。
【0023】
さらに、本発明による方法、とりわけコーティングプロセス中の音響励振によって、被覆製品の乾燥後の粉砕または微粒化を免除することができる。既知の方法では、凝集塊として集合体の状態で凝集一次粒子が常に強制的にコーティングされていた。このようにして、粉砕中に再び一次粒子の表面が露出し、したがって得られた顔料の特性はかなり変わってしまった。対照的に、本発明による方法では、一次粒子自体のみが音響励振によりコーティングされる。たとえこれら被覆粒子をその後粉砕しても、乾燥中に形成される凝集塊があれば離散するが、一次粒子の表面は露出しない。したがって、可能性のある粉砕プロセスの後であっても、被覆粒子の特性は保持される。
【0024】
コア材料の周りのケイ酸塩シェルにより、表面特性、特に化学的脆弱性は大幅に変化するけれども、その所望の特性を本質的に保持することができる。
【0025】
特に、凝集体がコア材料によって規定される光学特性を有すると考えられる場合、ケイ酸塩シェル越しであっても、またケイ酸塩シェルに関係なくこのような特性を得ることが可能である。これは、凝集体が、赤外線吸収体となる凝集体または凝集体材料である場合に特に当てはまり、好ましい。
【0026】
これは、凝集体が、赤外線吸収体となるまたは発光用の凝集体または凝集体材料である場合に特に当てはまり、好ましい。本発明による方法によって、電気的特性を大幅に変えることができる。本発明に従って作製された粒子は、未被覆粒子よりもはるかに安定している。したがって、たとえば、熱帯または亜熱帯気候においてさえ未処理の粒子よりもはるかに安定している窒化チタン粒子を得ることができ、これら窒化チタン粒子はソーラースクリーンでの使用が好ましい。本発明に従って作製したコア−シェル粒子は、純粋出発コア粒子に比べてはるかに軽い程度にしか水分および/または酸化の影響を受けない。
【0027】
このようにして作製したコア−シェル粒子は、多種多様の用途で利用することができる。たとえば、板ガラス上の被膜用に封入TCOで得られるような強い赤外線吸収および低い導電性において、分析目的に使用される物質の層などのさらなる層をこの安定なケイ酸塩シェルに難なく適用することができるため、マーカー用の出発材料として、比較的不安定なために他にはスパッタリングでしか適用されない材料を用いた着色被膜のために利用することができる。ここで常に有利なことは、優れた再分散性、化学的安定性、およびコア材料が有する必須光学特性の保持の少なくとも1つである。これらコア−シェル粒子により、分析の目的などさらなる目的のため、および/または半導体産業において、製品を出発原料として貯蔵することも可能となる。
【0028】
本発明の凝集体材料は、たとえばナノ微粒子出発材料から、分散液に有利なpHを調節しながらナノ微粒子出発材料を水性媒体中に分散させ、ケイ酸塩シェルを形成するゾルゲル材料を添加し、必要に応じて得られた反応生成物に最終熱処理を施すことによって作製することができる。
【0029】
このようにして作製した粒子は、印刷適性に必要な光学特性を保持するが、説明したように作製しなかった材料に比べ、特に未被覆酸化インジウムスズ粒子と比べ、非常に優れた生体適合性有することもわかっている。印刷した顔料が酸性媒体にさらされた場合に特に、高い生体適合性が得られる。たとえば、連続または不連続のインクジェット印刷法、オフセット印刷などの従来の印刷技術を用いて、印刷および/または噴霧などによって作製材料を後に塗布することができる。
【0030】
したがって、本発明による方法の生成物は、出発粒子の微粒子のコア粒子によって提供される光学特性を有し、攻撃的な化学的条件下でさえもその光学特性の安定度は高く、またこの方法の生成物で処理される物体(たとえば、繊維生地)に伴う認識可能な生物学的リスクはない。このことは、噴霧しようとする液体中の顔料としてこの凝集体を使用する場合にも成立する。
【0031】
たとえば、本発明による方法では、最初に粒子の分散液を調製し、最適な分散液を得るために所定のpHを調節し、次いでこの分散液を室温より高い温度に加熱することができる。ケイ酸塩溶液(たとえば、ゾルゲル材料として)の添加中、系を、たとえば超音波によって音響的に励振する。コーティング反応の過程で、コーティングしようとする粒子上へのケイ酸塩シェルの堆積が起こる。反応が完了するまで反応混合物を撹拌することができ、および/またはその後冷却し分離することができる。この分離は、たとえばろ過によって実現される。その後、ろ過後の固体に、たとえば炉内で、すなわち、ケイ酸塩シェルの焼結温度より低い温度で熱後処理を施す。
【0032】
得られた凝集体(顔料)は、印刷に十分な粉末度を有する。粒径分布の試験では、被覆凝集塊はせいぜい少ししか存在しないことが示されており、このことは印刷技術の点で特に好ましい。連続インクジェット印刷法では、たとえば噴霧しようとする液体中でこの凝集体を印刷する。このように印刷したシート状の繊維生地は生体適合性を有し、多くの目的で十分に酸に安定であることがわかっている。
【0033】
本発明による方法では、平均直径が15nm〜35μmの範囲内である未被覆粒子が有利に使用される。約10μm以上の大きい粒子では、本発明による方法が、このような粒子を前もって分散状態に保持することができ、等電点の付近で困難を伴うだけであるという決定的な利点を有する。平均粒子直径が約100nmの小さい粒子では、既知の方法を用いると、このような粒子は極めて容易に凝集するため、主にこの程度の大きさを有する粒子の凝集塊をコーティングすることができることに対して、本発明による方法は決定的な利点を有する。本発明による方法を用いると、コーティングの直前に凝集塊を音響励振によって一次粒子に離散させることができる。したがって、初めて、非常に小さい粒子を一次粒子として確実にコーティングすることもできる。
【0034】
未被覆粒子の粒径が、この好ましい範囲を大幅に下回る場合、未被覆粒子の質量割合に比べて被覆粒子のコーティングの質量割合がますます大きくなり、その結果未被覆粒子の特性(たとえば、光学特性)をますます保持できなくなる。未被覆粒子の粒径が好ましい範囲を明らかに上回る場合、本発明による方法の条件下で粒子を分散状態で安定に保つことがますます難しくなる。
【0035】
本発明を用いると、異なる寸法のコア−シェル粒子を作製することができる。したがって、ナノ微粒子のコア−シェル粒子として、数μmの寸法のコア−シェル粒子を作製することができる。したがって、適切な出発粒径から、直径が0.5μmより小さいコア−シェル粒子を作製することもできる。
【0036】
この方法は、特に、直径が10μmより小さい範囲内にある、たとえば、被覆酸化インジウムスズ粒子を問題なく作製するために役に立つことができる。またこの方法を、粒径1がμmより小さい、たとえば粒径5nm〜数100nm(たとえば、600nm)の、たとえばナノ微粒子ITO、ならびに数μmの寸法の粒子に適用することもできる。特に、安定した生体適合性の高い物質が作製される。
【0037】
未被覆粒子が本質的に酸化インジウムスズからなる場合、平均粒径が1μmより小さい、特に5nm〜500nmの範囲内であれば特に有利であることもある。
【0038】
有利には、コーティングの厚さは10〜100nm、特に15〜75nmの範囲内である。これにより確実に、未被覆粒子の元の特性(たとえば、光学特性)を、被覆状態であっても本質的に保持することができ、それにもかかわらず十分な生体適合性ならびに機械的および化学的安定性を実現することができる。
【0039】
被覆粒子の直径は、好ましくは未被覆粒子の直径よりも0.1〜50%大きい。
【0040】
コア材料として、適切な寸法の分散性粒子を使用することができる。しかしながら、この方法の好ましい変法は、金属化合物に基づく半導体のコア材料を用いて行われる。コア材料自体は、少なくとも、重金属の、特にインジウム、ヒ素、アンチモン、ガリウムおよび/またはスズの硫化物、窒化物、炭化物、フッ化物および/または酸化物や混合酸化物から有利に選択することができる。コア材料には、Cd、In、Sn、Ti、Zr、Si、Al、ならびにそれらの化合物、たとえば、特にTiのC、Nまたはリン酸化合物を明確に挙げることもできる。炭化チタン、窒化チタン、炭窒化チタンおよび対応するオキソ化合物、特に酸窒化チタンおよび酸炭窒化チタン、ならびに上記その他の元素の対応する化合物、ならびにテルル化物、金属間化合物、ヒ化物、セレン化物および酸化物を明確に挙げることができる。上記化合物の凝集塊および混合物の使用を開示することができる。自然発火性物質も、本発明による方法で扱うことができる。
【0041】
より好ましくは、コア材料は基本的に酸化インジウムスズでよく、さらに好ましくは、スズの含有量が5±3モルパーセント、さらにより好ましくは7±0.5モルパーセントである酸化インジウムスズである。
【0042】
コーティングしようとする粒子の最初の分散液における濃度は、好ましくは5〜20重量%の範囲内である。未被覆粒子への被膜の塗布は統計的法則に従って行われるため、これら濃度限度を守ることは特に重要である。原則的として、コーティング材料を測る際には、コーティングしようとする粒子の分散液の対応する体積要素中に「沈殿するシリカゾルに対応する」のに十分な割合の粒子が存在しなければならない。最初の濃度が低すぎる場合、純シリカゲルの結晶核が形成され、次いでこれらの結晶核が好んでコーティングされてしまう危険性がある。この結果、コーティングしようとする粒子が不完全にしかコーティングされないことになってしまう。対照的に、コーティングしようとする粒子の分散液の初期濃度が高すぎる場合、被覆粒子が互いに接近しすぎるため、「網状構造」の形成により本発明による方法の過程で明らかな粘度の増加が起こることがある。
【0043】
本発明による方法では、まず未被覆粒子を用いて水性分散液を形成する。溶媒としては、主成分としての水に加えて、アルコール類(たとえば、メタノール、エタノールまたはイソプロパノール)、エーテル類、アルカン類など他の溶媒を含有することができる。しかしながら、溶媒として水を使用するのが特に好ましい。
【0044】
本発明によれば、この未被覆粒子の分散液にケイ酸塩を含有する溶液を添加する。有利には、このケイ酸塩はアルカリ土類ケイ酸塩またはアルカリケイ酸塩であり、より好ましくはケイ酸カリウムまたはケイ酸ナトリウムである。本発明による方法において使用されるケイ酸塩は、これらのケイ酸塩の混合物でもよい。本発明による方法において使用されるケイ酸塩溶液の濃度は、10〜50重量%の範囲内である。ケイ酸カリウム溶液の溶媒としては、未被覆粒子用の溶媒と同じ溶媒を有利に使用することができるが、未被覆粒子用に選択された溶媒とは関係なく使用することができる。有利には、ケイ酸塩中のアルカリ酸化物またはアルカリ土類酸化物に対するSiOの重量比は、1.2〜2.2の範囲内である。ケイ酸カリウムをケイ酸塩として使用する場合には、HOに対するSiOの重量比が、好ましくは1.8〜1.9の範囲内である。
【0045】
好ましくは、ケイ酸塩シェルのカチオン成分の寸法が、基本的に少なくとも0.095nmよりも大きい。このような場合にはケイ酸塩シェルが凝集体材料の所望の特性に悪影響を及ぼさず、さらにこのシェルは安定であることがわかっている。
【0046】
ゾルゲル系シェル、すなわち、特にアルカリ土類ケイ酸塩またはアルカリケイ酸塩に基づくゾルゲルシェルを提供することが可能である。
【0047】
ケイ酸塩含有溶液の体積に対する未被覆粒子の分散液の体積の比は、有利には1〜3の範囲内である。
【0048】
有利には、ケイ酸塩含有溶液の添加中に、pH値を少なくとも2.5以上かつ8未満に、とりわけ7以下に、より好ましくはコーティングしようとする材料の等電点よりも多くとも10%高い値に調節する。8未満のpH値は、ケイ酸塩を確実に100%沈殿させることができるので有利である。7以下のpH値は、コーティングプロセスがより効率的になり、したがってより急速になるので有利である。
【0049】
ケイ酸塩含有溶液の添加中に重要なことは、音響励振、特に超音波による音響励振である。超音波は通常複合材料を分離するために使用されるので驚きであるが、本発明による方法では、コーティング材料を粒子に結合させようとする。本発明による方法における超音波の使用は、既知の方法と比べて数多くの利点を有する。したがって、超音波など音響励振の使用は、コーティングがもはやコーティングしようとする粒子上に制御不可能に成長することがなく、均一になるという効果を有する。従来のコーティングプロセスでは、無制御な成長により、表面にカリフラワ状の構造が生じ、あるいは異なる一次粒子がコーティング材料で封入されてしまい、その結果、形成された粒子または粒子凝集塊をこれまではコーティング後に離散させなければならなかった(たとえば、粉砕または微粒化によって)。しかしながら、本発明による方法では、もはや上記は必要ない。本発明に従って作製される被覆粒子を粉砕した場合であっても、従来技術とは対照的に、被覆粒子の特性は保持される。
【0050】
本発明によるコーティングプロセスは、従来技術に比べてかなり低いpH値で行われるため、未被覆粒子の出発分散液の多くは、特に直径が0.5μmよりも大きい粒子では、比較的不安定である。音響励振を入力することによって、それらほとんどが不安定な分散液を少なくとも一時的には完全に分散状態にすることができ、これにより凝集塊のコーティングが防止され、したがって一次粒子のみがコーティングされる。音響励振、特に超音波は、0.02〜0.1W/mlの範囲内の強度で有利に使用される。音響励振の強度がこの範囲を下回る場合、分散液中に存在するかもしれない凝集塊を一次粒子に分離することができない。しかし一方、強度がこの範囲を上回る場合には、コーティングを十分にしっかりと一次粒子に結合することができない。
【0051】
ケイ酸塩含有溶液の添加中、同時に酸を添加することによってpH値を有利に一定に保つ。本発明の意義の範囲内における「一定」とは、ケイ酸塩含有溶液の添加中に、pH値が最初に調節したpH値から0.1よりも大きくは外れないことを意味する。したがって、従来技術に比べて特に均一で滑らかなコーティングを、過剰な「カリフラワ」構造なしに得ることができる。
【0052】
有利には、無機酸、有機酸またはその混合物を酸として使用することができる。塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸または濃縮酢酸などの有機酸が特に好ましい。酸の分割濃度は、有利には0.05〜20mol/lの範囲内である。
【0053】
ケイ酸塩含有溶液を添加する速度は、添加の開始から添加の終了にかけて有利に増大する。したがって、添加の開始時には、まず毎分全ケイ酸塩含有溶液の0.5〜1体積%の量でケイ酸塩含有溶液を有利に添加し、一方ケイ酸塩含有溶液添加の終了に向けて、毎分全ケイ酸塩含有溶液の1〜2体積%を有利に加える。これらの条件が守られていない場合、欠陥または不均一なコーティングが容易に生じることがある。
【0054】
有利には、ケイ酸塩含有溶液添加中の分散液の温度を、50〜95℃の範囲内で調節する。温度がこの範囲を下回る場合、粘度の増加(「ゲル化」)が容易に起こることがあり、これによりコーティングプロセスがかなり妨げられる可能性がある。しかし一方、温度がこの範囲を上回る場合には、溶媒がかなり蒸発するために粘度の増加を招くことがある。
【0055】
有利には、コーティングしようとする粒子の分散液の初期濃度は、7〜25重量%の範囲内である。
【0056】
ケイ酸塩含有溶液の添加が完了した後、得られた混合物の撹拌を、同じまたは異なる条件下で0.5〜3時間有利に継続することができる。
【0057】
ケイ酸塩含有溶液の添加後、あるいは任意選択でその後の撹拌プロセスの後、溶媒を分離する。この分離は、ろ過、遠心分離、凍結乾燥または噴霧乾燥によって有利に実現される。任意選択で、カリウムイオンおよび/または塩化物イオンもこの分離において分離する。より優れた分離では、たとえば凝集剤を添加するまたはpH値を等電点付近まで変化させることによって、被覆粒子を凝集させることもできる。
【0058】
その後、分離した固体を有利に乾燥させる。この乾燥は、60〜300℃の範囲内の温度で、いずれにせよ、使用するケイ酸塩の焼結温度よりも低い温度で実現される。この乾燥は、60〜150℃の範囲内の温度で行われることが特に好ましい。このような乾燥は、炉または乾燥箱内で、好ましくは1〜18時間にわたって有利に行われる。
【0059】
特に、繊維材料にこの凝集体材料を提供することができる。前記繊維材料は、化学繊維、または天然系、特に植物系の繊維材料でよい。特に、凝集体を適用することによってたとえば色彩効果をもたらすことができる綿生地での使用、および/または有名ブランド服飾分野における真偽試験を材料の目に見えるデザインに悪影響を及ぼすことなく繰り返すこともできる所望の赤外線吸収での使用を挙げることができる。同じことが、セルロースや典型的なセルロースをベースとする材料など他の繊維材料と共に使用される凝集体の使用においても当てはまる。そのような繊維材料系は、セルロース材料、紙、たとえば食品に安全でなければならないため、特に生物学的に安全でなければならないチューインガム用の紙または紙幣、もしくはトイレットペーパー、および濡れている場合に特に人間の皮膚と接触することがある台所用品などである。この場合、特に酸性環境で使用可能なことも保証しなければならないことがある。繊維材料の製造中、あるいは後で、たとえば印刷および/または噴霧によって、凝集体材料の適用を実現することができる。
【0060】
これらの粒子は、繊維シートまたは繊維生地に加工される前の植物繊維材料に有利に添加される。このようにして繊維シートの形成後に得られる材料は、ナノ粒子のコア粒子が示す光学特性を有し、攻撃的な化学的条件下でさえもその光学特性の安定度は高く、またこの繊維生地に関連する生物学的危害は認められない。噴霧する液体中の顔料としてこの凝集体を使用する場合にも同じことが当てはまる。
【0061】
さらなる実施形態では、ケイ酸塩被膜を有する粒子、特に上記方法によって作製した粒子によって本発明の目的が達成される。これらの粒子は、ケイ酸塩被膜が5〜75nmの範囲内の厚さを有し、被覆粒子の直径は未被覆粒子の直径よりも多くとも50%大きいことを特徴とする。
【0062】
有利には、これらの粒子は、スズ含有量が7±0.5モルパーセントの酸化インジウムスズ製である。このケイ酸塩被膜により、酸化インジウムスズ粒子は優れた生体適合性を有する。
【0063】
[実施例]
(実施例1:ナノサイズ酸化インジウムスズのSiOによるコーティング)
1000mlのビーカーに、粒径50μm未満の市販ITOの(酸性で安定化させた)10重量%水性分散液を400g入れた。pH値は約3であった。
【0064】
この分散液を75℃に加熱し、その温度を±2℃以内で一定に保った。この後、185g/lの濃度のケイ酸カリウム希釈溶液を、95分間で240g連続添加した。使用したケイ酸カリウム溶液のSiO:KO重量比は1.85:1(±0.05)であった。
【0065】
この添加を通して、c=0.5mol/l(分割濃度)のHCl溶液を同時に添加することによってpH値を±0.1以内で一定に保ち、またチタン製ホーン(ultrasonic sonotrode)を用いて60Wの電力で添加部位に直接超音波を印加した。
【0066】
添加が完了した後、はっきりと視認可能な凝固が起こるまで10%のKOH溶液を添加することによって、pH値を5.5に変化させた。この分散液を加圧ろ過し、洗浄した。ろ過ケーキを60℃で一晩乾燥させた。
【0067】
(比較例1:超音波を印加しないコーティング)
実施例1と同様にして、超音波を印加せずに同じ方法を行った。
【0068】
(粉末の特性)
(実施例1からの被覆粉末)
ナノサイズの被覆ITOの安定度は、5%のHCl溶液に対し、30分にわたって>95%であった。比較すると、未被覆出発材料の安定度は、同じ条件下で<25%であった。
【0069】
適切な分散技術を適用した後、以下の粒径分布を測定することができた。
【0070】
【表1】

【0071】
(比較例1からの被覆粉末)
超音波を入力しない場合:凝集塊のコーティングによる粒径分布の有意な増加が、機械的および化学的安定度の低下に伴って起こった(より大きな「凝集」および凝集体形成は、すなわち機械的攻撃に対するバネ効果である)。ナノサイズの被覆ITOの安定度は、5%のHCl溶液に対し、30分にわたって25%であった。
【0072】
【表2】

【0073】
(実施例2:ナノサイズ酸化亜鉛のSiOによるコーティング)
1000mlのビーカーに、粒径50μm未満のZnOの中性で安定化させた10%水性分散液を400g入れた。pH値は約7であった。
【0074】
この分散液を75℃に加熱し、その温度を±2℃以内で一定に保った。この後、370g/lの濃度のケイ酸カリウム希釈溶液を、95分間で240g連続添加した。使用したケイ酸カリウム溶液のSiO:KO重量比は1.85:1(±0.05)であった。
【0075】
この添加を通して、c=1mol/l(分割濃度)のHCl溶液を同時に添加することによってpH値を±0.1以内で一定に保ち、またチタン製ホーンを用いて60Wの電力で添加部位に直接超音波を印加した。
【0076】
添加が完了した後、固体の塩化カリウムを100g添加して凝固させた。この分散液を加圧ろ過し、洗浄した。ろ過ケーキを300℃で2時間乾燥させた。
【0077】
(特性)
ナノサイズの被覆ZnOの安定度は、5%のHCl溶液に対し、30分にわたって>90%であった。対応する未被覆ZnO粉末は、<5%の安定度を示した。
【0078】
適切な分散技術を用いて、以下の粒径分布を測定することができた。
【0079】
【表3】

【0080】
(実施例3:窒化ホウ素のSiOによるコーティング)
1000mlのビーカーに、粒径50μm未満の窒化ホウ素の10%水性分散液を450g入れた。pH値は約8であった。
【0081】
この分散液を75℃に加熱し、その温度を±2℃以内で一定に保った。この後、370g/lの濃度のケイ酸カリウム希釈溶液を、95分間で200g連続添加した。使用したケイ酸カリウム溶液のSiO:KO重量比は1.85:1(±0.05)であった。
【0082】
この添加を通して、c=1mol/l(分割濃度)のHCl溶液を同時に添加することによってpH値を±0.1以内で一定に保ち、またチタン製ホーンを用いて60Wの電力で添加部位に直接超音波を印加した。
【0083】
添加が完了した後、分散液を加圧ろ過し、洗浄した。ろ過ケーキを300℃で2時間乾燥させた。
【0084】
(特性)
適切な分散技術を用いて、以下の粒径分布を測定することができた。
【0085】
【表4】

【0086】
超音波の入力を削減すると、粒径分布の有意な増加を招き、それに伴い機械的および化学的安定度が低下した(より大きな「凝集」および凝集体形成は、すなわち機械的攻撃に対するバネ効果である)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が50μmより小さい未被覆粒子の分散液に、音響励振しながらケイ酸塩含有溶液を加えることを特徴とする、粒子上にケイ酸塩被膜を作製する方法。
【請求項2】
平均直径が15nm〜35μmの範囲内にある未被覆粒子をコーティングすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ケイ酸塩含有溶液の添加中に、pH値を少なくとも2.5以上かつ8未満に、とりわけ7以下に、さらにコーティングしようとする材料の等電点よりも多くとも10%高い値に調節することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ケイ酸塩含有溶液の添加中、同時に酸を添加することによってpH値を一定に保つことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ケイ酸塩含有溶液添加中の前記分散液の温度を、50〜95℃の範囲内で調節することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
コーティングしようとする粒子の前記分散液の初期濃度を、7〜25重量%の範囲内で調節することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
50μmより小さい直径を有し、厚さ5〜75nmのケイ酸塩被膜を備える粒子であって、被覆粒子の直径は未被覆粒子の直径よりも多くとも50%大きい粒子。
【請求項8】
スズ含有量が7±0.5モルパーセントの酸化インジウムスズからなることを特徴とする、請求項7に記載の粒子。

【公表番号】特表2008−513319(P2008−513319A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530720(P2007−530720)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054527
【国際公開番号】WO2006/030001
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】