説明

ケフィアを用いた薬剤およびその製造方法、健康食品

【課題】ケフィアを用いた新規な医薬用途に適用した薬剤、およびその製造方法、ならびにケフィアを用いた新規な健康食品を提供する。
【解決手段】分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含むインスリン非依存性糖尿病治療剤およびその製造方法。ケフィア水溶性画分(好ましくは分子量1000Da未満のケフィア抽出物)を含むインスリン依存性糖尿病治療剤およびその製造方法。ケフィアを用いた(好ましくはケフィア水溶性画分を含む)抗肥満剤およびその製造方法。分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む健康食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケフィアを用いたインスリン非依存性糖尿病治療剤、インスリン依存性糖尿病治療剤、抗肥満剤およびその製造方法、ならびにケフィアを用いた健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ケフィア(Kefir)は、ウシ、ヤギ、ヒツジの乳をヤギの革袋に入れて保存していたものに偶然、乳酸菌、酵母が混入して乳酸およびアルコール発酵して生じた発酵乳液(ヨーグルト状の飲料)である。ケフィアは、スポンジ状の固まりで約20種類の乳酸菌、酵母菌、酢酸菌などを有するケフィア粒(日本ではヨーグルトきのことも呼ばれる)に牛乳を入れ、所定時間常温で密閉することによりケフィア粒混入のケフィア(ケフィアヨーグルトとも呼ばれる)を得、これを濾してケフィア粒を取り除くことにより簡単に得ることができ、健康食品として一般家庭でも愛用されている。
【0003】
近年、ケフィアは健康食品としてだけでなく、その優れた保健効果に着目され、医薬用途への応用についての研究が盛んになされている。本発明者らは、ケフィアを、インスリン非依存性のII型糖尿病(たとえば、特開2002−104979号公報(特許文献1))、抗酸化剤(たとえば、特開2003−292448号公報(特許文献2))、皮膚外用剤(たとえば、国際公開2003/072119号パンフレット(特許文献3))などに好適に適用できることを提案してきた。このようにケフィアは様々な医薬用途への適用の可能性を有すると考えられ、さらなる新規な医薬用途の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2002−104979号公報
【特許文献2】特開2003−292448号公報
【特許文献3】国際公開2003/072119号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ケフィアを用いた新規な医薬用途に適用した薬剤、およびその製造方法、ならびにケフィアを用いた新規な健康食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む、インスリン非依存性糖尿病治療剤を提供する。
【0006】
本発明はまた、ケフィアから得られた水溶性画分を用いた、インスリン依存性糖尿病治療剤を提供する。本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤は、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むことが好ましい。
【0007】
また本発明は、ケフィアを用いた抗肥満剤を提供する。本発明の抗肥満剤は、ケフィアから得られた水溶性画分を含むことが好ましい。
【0008】
本発明は、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む健康食品についても提供する。
【0009】
また本発明は、ケフィアから上清を分離する工程と、得られた上清から分子量14000Da以上のケフィア抽出物を得る工程とを含む、インスリン非依存性糖尿病治療剤の製造方法についても提供する。
【0010】
本発明はまた、ケフィアから上清を分離する工程を含むインスリン依存性糖尿病治療剤の製造方法についても提供する。本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤の製造方法は、得られた上清から分子量1000Da未満のケフィア抽出物を得る工程をさらに含むことが好ましい。
【0011】
本発明はさらに、ケフィアから上清を分離する工程を含む抗肥満剤の製造方法についても提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤または健康食品によれば、細胞の糖取り込みを促進させる作用を示す分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含むため、インスリン非依存性糖尿病(II型糖尿病)の治療、改善または予防の用途に有用である。
【0013】
本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤によれば、インスリンを放出する膵臓β細胞の活性酸素障害から保護する作用を示すケフィアから得られた水溶性画分(好ましくは分子量1000Da未満のケフィア抽出物)を含むため、インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)の治療の用途に有用である。
【0014】
本発明のケフィアを用いた抗肥満剤によれば、脂肪細胞分化抑制効果および脂質燃焼促進効果が発揮され、肥満の改善の用途に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔1〕インスリン非依存性糖尿病治療剤
本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤は、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含むことを特徴とする。分子量14000Da以上のケフィア抽出物は、ヨーグルト状のケフィア発酵乳液を、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどの公知の適宜の方法で上清と沈殿物とに分離し、得られた上清から透析、ゲルろ過などの公知の適宜の方法を用いて、分子量14000Da以上の画分を分離することにより得られるケフィア抽出物である。この分子量14000Da以上のケフィア抽出物は、クロロホルム−メタノールなどの有機溶媒によって抽出されない水溶性画分に存在し、糖成分を主体成分とする。また本発明における分子量14000Da以上のケフィア抽出物は、陰イオン交換樹脂に吸着しない2つの成分(分子量31kDaの成分および分子量19kDaの成分)を含む。
【0016】
後述する実験例1で明らかにされるように、本発明者らは、分子量14000Da以上のケフィア抽出物が、細胞の糖(グルコースなど)の取り込みを促進させる作用を有することを見出した。日本人の糖尿病のうち9割を占めるインスリン非依存性のII型糖尿病は、健康維持のための中核となる生理作用である細胞のグルコースの取り込みが行えないことで、生体の恒常性の維持が行えず、結果として様々な合併症を併発して深刻な症状を呈する。本発明によれば、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を用いることで、細胞の糖取り込みを活性化して増強させ、結果として生体内の血糖値を低下させ得ることが期待される。本発明は、このような分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む、インスリン非依存性糖尿病(II型糖尿病)の治療に有用な薬剤を提供するものである。なお、本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤は、インスリン非依存性糖尿病の予防に用いてもよい。
【0017】
本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤は、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を有効成分として含有しているのであれば、その含有量(含有率)については特に制限されるものではない。ここで「有効成分として含有」するとは、上述したインスリン非依存性糖尿病治療の効果が有意に発揮されるように当該糖尿病治療剤中に分子量14000Da以上のケフィア抽出物が含まれることを指す。好ましくは、薬剤中に0.5〜1.5%(より好適には0.8〜1.2%)の割合で分子量14000Da以上のケフィア抽出物が含有される。
【0018】
本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤は、有効成分である分子量14000Da以上のケフィア抽出物以外の成分については特に制限されるものではなく、医薬的に許容可能な従来公知の適宜の任意成分、担体を含むことができる。本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤の薬剤形態および投与形態についても特に制限されるものではなく、注射投与(皮下注射、腹腔内注射など)、経口投与など適宜の形態にて投与し得るように、注射剤、錠剤、顆粒剤などの適宜の形態の薬剤で実現できる。
【0019】
上述した分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含有する本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤は、ケフィアから上清を分離する工程と、得られた上清から分子量14000Da以上のケフィア抽出物を得る工程とを含む方法によって好適に製造することができる。本発明は、このように本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤を製造する方法についても提供するものである。
【0020】
本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤の製造方法では、まず、ケフィアから上清を分離する。原料となるケフィアとしては、ヨーグルト状のケフィア発酵乳液(ケフィアヨーグルト)を用いることができる。このケフィア発酵乳液は、ケフィア粒を含み、ケフィア粒以外の成分としてはその大部分が水分であり、水に溶けたタンパク質、糖、アルコールと脂溶性の脂質などがコロイド状に存在している。このケフィアから上清を分離する方法としては特に制限されるものではなく、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどの公知の適宜の方法が挙げられるが、中でも遠心分離が好ましく適用できる。遠心分離によってケフィアから上清を分離する場合、たとえば、10,000×gで30分間の条件での遠心分離が例示される。このようにして、ケフィア水溶性画分としてケフィアの上清が得られる。
【0021】
ケフィアから分離された上清は、不純物(脂質、タンパク質など)を含む場合があるため、当該不純物を除去することが好ましい。当該不純物の除去は、たとえばエタノール沈殿によって好適に行うことができる。具体的には、上清に同容量のエタノールを添加し、3,500×gで30分間の遠心分離を行った後に生じた沈殿物を除去するようにすればよい。
【0022】
次に、上述のようにして得られた上清(ケフィア水溶性画分)から、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を得る。この分子量14000Da以上のケフィア抽出物を得る方法としては特に制限されるものではなく、透析、ゲルろ過などの公知の適宜の方法が挙げられるが、中でも透析が好ましく適用できる。透析によって分子量14000Da以上のケフィア抽出物を得る場合、排出限界分子量14000Daの透析膜を用い、透析外液としてMilli−Q水を用いた透析(たとえば4℃で一晩中行う)が例示される。透析後、得られた透析内液(透析膜内の液)を凍結乾燥することで、粉末状の分子量14000Da以上のケフィア抽出物が得られる。得られた粉末状のケフィア抽出物を用いてインスリン非依存性糖尿病治療剤を調製する場合には、所望の割合で当該ケフィア抽出物をMilli−Q水に溶解させて使用すればよい。
【0023】
〔2〕インスリン依存性糖尿病治療剤
本発明はまた、ケフィアから得られた水溶性画分(ケフィア水溶性画分)を用いたインスリン依存性糖尿病治療剤についても提供する。本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤に用いられるケフィア水溶性画分は、ヨーグルト状のケフィア発酵乳液を、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどの公知の適宜の方法で上清と沈殿物とに分離することで、得ることができる。
【0024】
本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤は、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むものであることが好ましい。ケフィア水溶性画分に含まれる成分の中でも、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含む場合に、特に顕著な効果が発揮される。分子量1000Da未満のケフィア抽出物は、上述した水溶性画分から、透析、ゲルろ過などの公知の適宜の方法を用いて、分子量1000Da未満の画分を分離することにより得られるケフィア抽出物である。この分子量1000Da未満のケフィア抽出物は、水溶性を有し、酸性または中性で安定であり、かつ高圧蒸気滅菌にも安定である。
【0025】
本発明におけるケフィア水溶性画分(特に分子量1000Da未満のケフィア抽出物)は、インスリンを放出する膵臓β細胞の活性酸素障害から保護する作用を有する。膵臓のβ細胞は、グルコース刺激に応じて細胞内ATPを増大させて、インスリンを細胞外に放出する。糖尿病のうち、インスリン依存性の糖尿病(I型糖尿病)は、この膵臓のβ細胞が、免疫細胞が出す活性酸素によって酸化障害を起こすことによって生じることが知られている。そこで本発明者らは、I型糖尿病誘起剤であり、活性酸素を発生させるアロキサンを投与し、膵臓のβ細胞に活性酸素障害を引き起こした場合に、ケフィア水溶性画分および分子量1000Da未満のケフィア抽出物が、膵臓のβ細胞のアロキサン毒性を軽減し、グルコース刺激下で細胞内ATP量を増大させ、インスリン放出を促進する作用を有することを突き止めた。また、上記アロキサンを投与した場合に、ケフィア水溶性画分および分子量1000Da未満のケフィア抽出物により生体中の血糖値の上昇が有意に減少され、かつ血漿インスリン量が有意に増加されることも確認された。したがって、本発明は、このようなケフィア水溶性画分(特に分子量1000Da未満のケフィア抽出物)を含むインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)の治療に有用な薬剤についても提供するものである。なお、本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤は、インスリン依存性糖尿病の予防に用いてもよい。
【0026】
本発明の糖尿病治療剤は、ケフィア水溶性画分を有効成分として含有しているのであれば、その含有量(含有率)については特に制限されるものではない。ここで「有効成分として含有」するとは、上述したインスリン依存性糖尿病治療の効果が有意に発揮されるように当該糖尿病治療剤中にケフィア水溶性画分(特に、分子量1000Da未満のケフィア抽出物)が含まれることを指す。好ましくは、薬剤中に0.05〜0.2%(より好適には0.08〜0.15%)の割合で分子量1000Da未満のケフィア抽出物が含有される。
【0027】
本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤は、有効成分であるケフィア水溶性画分以外の成分については特に制限されるものではなく、医薬的に許容可能な従来公知の適宜の任意成分、担体を含むことができる。本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤の薬剤形態および投与形態についても特に制限されるものではなく、注射投与(皮下注射、腹腔内注射など)、経口投与など適宜の形態にて投与し得るように、注射剤、錠剤、顆粒剤などの適宜の形態の薬剤で実現できる。
【0028】
上述したケフィア水溶性画分を含有する本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤は、ケフィアから上清を分離する工程を含む方法によって好適に製造することができる。本発明は、このように本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤を製造する方法についても提供するものである。
【0029】
本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤の製造方法では、上述したように、ヨーグルト状のケフィア発酵乳液(ケフィアヨーグルト)を原料として、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどの公知の適宜の方法によって、上清を分離する。中でも遠心分離が好ましく適用でき、たとえば10,000×gで30分間の条件での遠心分離が例示される。このようにして、ケフィア水溶性画分としてケフィアの上清が得られる。
【0030】
上述した分子量1000Da未満のケフィア抽出物を用いて本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤を製造する場合には、本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤の製造方法は、上記得られた上清(ケフィア水溶性画分)から分子量1000Da未満のケフィア抽出物を分離する工程をさらに含むことが好ましい。この分子量1000Da未満のケフィア抽出物を得る方法としては特に制限されるものではなく、透析、ゲルろ過などの公知の適宜の方法が挙げられるが、中でも透析が好ましく適用できる。透析によって分子量1000Da未満のケフィア抽出物を得る場合、排出限界分子量1000Daの透析膜を用い、透析外液としてMilli−Q水を用いた透析(たとえば4℃で一晩中行う)が例示される。透析後、得られた透析外液(透析膜外の液)を、エバポレータなどを用いて減圧濃縮した後、凍結乾燥することで、粉末状の分子量1000Da未満のケフィア抽出物が得られる。得られた粉末状のケフィア抽出物を用いてインスリン依存性糖尿病治療剤を調製する場合には、所望の割合で当該ケフィア抽出物をMilli−Q水に溶解させて使用すればよい。
【0031】
なお、ケフィアから分離された上清であるケフィア水溶性画分は、上述した分子量1000Da未満のケフィア抽出物以外に、分子量1000Da以上のケフィア抽出物も含む。後述する実験例3,4では、この分子量1000Da以上のケフィア抽出物についても、水溶性画分および分子量1000Da未満のケフィア抽出物ほど顕著ではないが、膵臓β細胞を活性酸素障害から保護する作用を示す。このため、本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤は、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を用いたものであってもよい。この分子量1000Da以上のケフィア抽出物を用いたインスリン依存性糖尿病治療剤は、上述したようにして分子量1000Da未満のケフィア抽出物を分離した後の水溶性画分(透析により分離した場合には、透析内液)を凍結乾燥して粉末状にし、これをMilli−Q水に溶解させることで調製できる。
【0032】
また、ケフィアから分離された上清であるケフィア水溶性画分は、インスリン非依存性糖尿病治療剤に有用な分子量14000Da以上のケフィア抽出物も含む。上述したように、分子量1000Da以上のケフィア抽出物についても、水溶性画分および分子量1000Da未満のケフィア抽出物ほど顕著ではないが、膵臓β細胞を活性酸素障害から保護する作用を示すため、本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤は、この分子量14000Da以上のケフィア抽出物を用いたものであってもよい。この場合、上述したインスリン非依存性糖尿病治療剤を製造する場合と同様にして、調製できる。
【0033】
また上述した分子量14000Da以上のケフィア抽出物を分離した後の水溶性画分(透析により分離した場合には、透析外液)は、分子量14000Da未満のケフィア抽出物を含むことになるが、上述した特に顕著な効果を発揮する分子量1000Da未満のケフィア抽出物も含むことになる。したがって、上述した本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤を製造する際に副次的に得られた分子量14000Da未満のケフィア抽出物を、本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤に用いるようにしてもよい。この場合、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を分離した後の水溶性画分(透析により分離した場合には、透析外液)を、エバポレータなどを用いて減圧濃縮した後、凍結乾燥して粉末状にし、これをMilli−Q水に溶解させることで調製できる。なお、当該粉末状の抽出物を、調製開始時の液量となるようにDMEMに溶解し、フィルタ滅菌して用いてもよい。また、上述した本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤を製造する際に副次的に得られた分子量14000Da未満のケフィア抽出物から分子量1000Da未満のケフィア抽出物を分離して、本発明のインスリン依存性糖尿病治療剤に用いるようにしても勿論よい。
【0034】
〔3〕抗肥満剤
後述する実験例2で明らかにされるように、本発明者らは、ケフィアが脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制し、細胞内脂肪蓄積抑制効果が期待できることを見出した。また本発明者らは、ケフィアが、脂肪合成に関与する酵素であるグリセロール−3リン酸脱水素酵素(GPDH)の活性を抑制し、また脂肪細胞の分化に関係するPPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター:peroxisome proliferator-activated receptor)γの遺伝子発現を抑制することを確認した。さらにケフィアが、PPAR遺伝子の下流にコードされるaP2、LPLなどの酵素遺伝子の発現を抑制するとともに、PPAR遺伝子の上流にコードされる延命因子などとも呼ばれるSirt1のタンパク量を増加させることを確認した。これらの実験から、ケフィアは、脂肪細胞分化抑制作用を示すことが見出された。
【0035】
また本発明者らは、ケフィアが、細胞内における脂肪分解によって培地中に分泌される脂肪分解産物であるグリセロールを増加させたことを確認した。このことから、ケフィアは上述した脂肪細胞分化抑制作用だけでなく、脂肪分解を促進する脂質燃焼促進作用も示すことが見出された。抗肥満因子であるアディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるが、脂肪細胞に酸化ストレスを与えると、このアディポネクチンの産生が抑制されることが知られている。本発明者らは、ケフィアが、アディポネクチンの遺伝子発現量を上昇させることを確認した。これは、ケフィアが酸化ストレスによるアディポネクチンの産生の抑制から脂肪細胞を回復させたことによるものと考えられ、ケフィアは、脂肪細胞のエネルギー代謝亢進に役立つ可能性があると考えられる。さらに、本発明者らは、ケフィアが、筋肉細胞の脂肪分解(すなわち、β酸化)を促進するであろうことも見出した。このため、ケフィアは、飢餓時に誘導される遺伝子群と関係するPPARδの活性化を抑制し、脂肪酸燃焼へ方向づける効果を有すると考えられる。
【0036】
上述した知見に基づき、本発明は、ケフィアを用いた抗肥満剤についても提供するものである。本発明の抗肥満剤は、ケフィアを用いたものであればよいが、上述した脂肪細胞分化抑制作用および脂質燃焼促進作用を特に顕著に発揮し得ることから、ケフィア水溶性画分を用いたものであることが好ましい。本発明の抗肥満剤に用いられるケフィア水溶性画分は、上述のようにヨーグルト状のケフィア発酵乳液を、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどの公知の適宜の方法で上清と沈殿物とに分離することで、得ることができる。
【0037】
本発明の抗肥満剤は、ケフィアを有効成分として含有しているのであれば、その含有量(含有率)については特に制限されるものではない。ここで「有効成分として含有」するとは、上述した抗肥満の効果が有意に発揮されるように当該抗肥満剤中にケフィア(特に、ケフィア水溶性画分)が含まれることを指す。好ましくは、薬剤中に5〜12%(より好適には6〜10%)の割合でケフィア水溶性画分が含有される。
【0038】
本発明の抗肥満剤は、有効成分であるケフィア以外の成分については特に制限されるものではなく、医薬的に許容可能な従来公知の適宜の任意成分、担体を含むことができる。本発明の抗肥満剤の薬剤形態および投与形態についても特に制限されるものではなく、注射投与(皮下注射、腹腔内注射など)、経口投与など適宜の形態にて投与し得るように、注射剤、錠剤、顆粒剤などの適宜の形態の薬剤で実現できる。
【0039】
ケフィア水溶性画分を含む本発明の好ましい抗肥満剤は、ケフィアから上清を分離する工程を含む方法によって好適に製造することができる。本発明は、このように本発明の抗肥満剤を製造する方法についても提供するものである。
【0040】
本発明の抗肥満剤の製造方法では、上述したように、ヨーグルト状のケフィア発酵乳液(ケフィアヨーグルト)を原料として、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどの公知の適宜の方法によって、上清を分離する。中でも遠心分離が好ましく適用でき、たとえば10,000×gで30分間の条件での遠心分離が例示される。このようにして、ケフィア水溶性画分としてケフィアの上清が得られる。本発明の抗肥満剤は、得られたケフィア水溶性画分をそのまま用いて、あるいは凍結乾燥して粉末状とした後Milli−Q水に溶解させることで調製することができる。
【0041】
なお、本発明の抗肥満剤は、上述したケフィア水溶性画分を分離した後の沈殿物から得られた脂溶性の画分(ケフィア脂溶性画分)を用いてもよい。実験例2にて詳述するが、ケフィア脂溶性画分についても、ケフィア水溶性画分ほど顕著ではないが、脂肪細胞分化抑制作用および脂質燃焼促進作用を示す。ケフィア脂溶性画分を用いる場合、上述のようにして上清(ケフィア水溶性画分)を分離した後の沈殿物に、たとえば5倍容のクロロホルム−メタノール(2:1)を加えて1時間攪拌した後、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどの公知の適宜の方法によって上清を分離する。上清を分離後の沈殿物に、たとえば5倍容のクロロホルム−メタノールを加え、上記の工程を繰り返す。最終的に得られた上清をたとえばエバポレータによって減圧濃縮し、乾燥物を得る。こうして得られた乾燥物を、適宜の溶媒(医薬的に許容可能な溶媒)に溶解して用いることができる。
【0042】
〔4〕健康食品
本発明の健康食品は、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含むことを特徴とする。この分子量14000Da以上のケフィア抽出物は、本発明のインスリン非依存性糖尿病治療剤に用いられるケフィア抽出物と同じであり、上述と同様の方法により好適に製造できる。本発明は、この分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む健康食品についても提供するものであり、この本発明の健康食品によってもインスリン非依存性糖尿病(II型糖尿病)の改善または予防の効果が期待できる。本発明の健康食品は、上述のようにして得られた分子量14000Da以上のケフィア抽出物を粉末状または液体状で含有する。健康食品としては、従来公知の適宜の健康食品が揚げられ、特に制限されるものではない。
【0043】
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実験例1>
〔1〕クロロホルム:メタノール処理によるケフィア中の成分変化の検討
(1)分子量14000Da以上のケフィア抽出物の調製
100mlのヨーグルト状のケフィア発酵乳液(日本ケフィア株式会社より提供)を10,000×gで30分間遠心分離し、得られた上清より不純物を取り除くために同容量のエタノールを添加してエタノール沈殿を行った。その後、3,500×gで30分間遠心分離を行い、エタノール沈殿処理により生じた沈殿を除去して得られた上清をケフィア水溶性画分として得た。このケフィア水溶性画分を排出限界分子量14000Daの透析膜を用いて、ケフィア上清50mlあたり、Milli−Q水1Lにて終夜4℃で透析を行った。透析で得られた分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む溶液を凍結乾燥し、ケフィア水溶性画分50ml分の粉末/10ml Milli−Q水の割合に溶解し、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル1)を調製した。
【0045】
(2)クロロホルム:メタノール処理したケフィア抽出物の調製
上記で得られたケフィア水溶性画分に同容量のクロロホルム:メタノール(2:1)を添加し、クロロホルム:メタノール処理を行った。その後、3,000×gで30分間遠心分離を行い、上層の水層の回収を行った。水層を排出限界分子量14000Daの透析膜を用いて、水層50ml/Milli−Q水1Lの割合で終夜4℃で透析を行った。透析で得られた分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む溶液を凍結乾燥により濃縮した後、クロロホルム:メタノール沈殿処理前のケフィア水溶性画分と同容量のMilli−Q水を添加し溶解させて、クロロホルム:メタノール処理した分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル2)を調製した。
【0046】
〔2〕グルコース取り込み増強活性成分に関する検討
(1)マウス由来前駆脂肪細胞3T3−L1の培養
脂肪細胞の一例としてマウス由来前駆脂肪細胞3T3−L1(ヒューマンサイエンス研究資源バンク(HSRRB)より入手)を用いた。細胞培養には、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いた。また、脂肪細胞への分化誘導試薬として1−メチル−3−イソブチルキサンチン(IBMX)、デキサメタゾン(DEX)およびインスリンを使用した。
【0047】
まず、3T3−L1前駆脂肪細胞を10%ウシ胎仔血清添加DMEM(10% FBS−DMEM)培地で培養し、セミコンフルエントに達した後24穴プレートに1穴当たり1.0×105cells/mlの細胞を1mlずつ播種した。コンフルエントに達するまで1−2日間培養後、0.5mM IBMX、0.25μl DEX、10μg/ml インスリン添加培地で72時間培養後、10μg/ml インスリンのみを含む培地で48時間培養した後に10%FBS−DMEMのみの培地に戻すことにより分化誘導を行った。分化誘導開始後12−14日後の脂肪細胞(脂肪細胞3T3−L1)を実験に用いた。
【0048】
(2)グルコース取り込み検定
上記〔1〕で調製したサンプル1,2を用いて、グルコース取り込み増強活性の検討を行った。まず、上述のようにして分化誘導させた脂肪細胞3T3−L1を1時間無血清培養した後、サンプル1,2を添加した各培地で4時間培養後、100nM インスリン刺激を20分間行った。グルコース取り込み検定は、トリチウム標識2−デオキシ−D−〔1−3H〕グルコースを細胞に取り込ませ、細胞を溶解し、液体シンチレーションカウンターを用いて測定した。またコントロールとして、サンプル1,2を添加しない以外は同様にした場合についてもグルコース取り込み検定を行った。
【0049】
図1は、サンプル1,2およびコントロールについてグルコース取り込み検定を行った結果を示すグラフである。図1において、縦軸はコントロールのグルコース取り込み量を1とした場合の相対グルコース取り込み量を示している。図1より、分子量14000Da以上のケフィア抽出物は、クロロホルム:メタノール処理を行った場合(サンプル2)であっても、未処理の場合(サンプル1)と同程度の活性を示すことが分かる。
【0050】
(3)タンパク質濃度および糖濃度の定量
サンプル1,2について、タンパク質濃度をローリー法、糖濃度をフェノール硫酸法によって定量した。図2(a)は、サンプル1、2のタンパク質濃度を定量した結果を示すグラフであり、図2(b)はサンプル1,2の糖濃度を定量した結果を示すグラフである。図2(a)における縦軸はタンパク質濃度(μg/ml)を示し、また図2(b)における縦軸は糖濃度(μg/ml)を示している。図2から分かるように、クロロホルム:メタノール処理された場合(サンプル2)では、タンパク質量は15%以下に減少しているにもかかわらず、糖濃度は未処理の場合(サンプル1)とほぼ同程度であることが確認された。
【0051】
(4)イオン交換クロマトグラフィによるグルコース取り込み増強活性成分の検討
グルコース取り込み増強活性成分のイオン性を明らかにするために、サンプル1について、イオン交換クロマトグラフィを行った。図3(a)はサンプル1についての陽イオン交換クロマトグラフィの結果を示すグラフであり、図3(b)はサンプル1についての陰イオン交換クロマトグラフィの結果を示すグラフである。図3(a),(b)において、図中左側の縦軸は280nmにおける吸光度、図中右側の縦軸はNaClのモル濃度(M)、横軸は時間(分)である。また図3(a),(b)において、実線は280nmにおける吸光度をそれぞれ示し、破線はNaClのモル濃度をそれぞれ示している。
【0052】
まず、陽イオン交換カラムトヨパール−SP 650M(東ソー社製)を用い、サンプル1について陽イオン交換クロマトグラフィを行った。サンプル1を、トヨパール−SP 650Mに供し、0−1M NaClによるグラジエントをかけ、溶出を行った。結果、全成分がカラムに吸着されなかった(図3(a))。
【0053】
また、陰イオン交換カラムトヨパール−DEAE 650M(東ソー社製)を用い、サンプル1を用いて陰イオン交換クロマトグラフィを行った。サンプル1を、トヨパール−DEAE 650Mに供し、0−1M NaClによるグラジエントをかけて溶出を行った。結果、2つの画分(画分1,2)が分取された(図3(b))。
【0054】
得られた画分1,2を排出限界分子量14000Daの透析膜を用いて、Milli−Q水で終夜4℃での透析を行った。透析後、凍結乾燥により濃縮を行い、Milli−Q水に溶解して、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む画分1,2を調製した。
【0055】
サンプル1および画分1,2を用いて、上述と同様にしてグルコース取り込み検定を行った。またコントロールとして、サンプル1および画分1,2を添加しない以外は同様にした場合についてもグルコース取り込み検定を行った。図4は、サンプル1、画分1,2およびコントロールについてグルコース取り込み検定を行った結果を示すグラフである。図4において、縦軸はコントロールのグルコース取り込み量を1とした場合の相対グルコース取り込み量を示している。図4に示すように、画分1では高いグルコース取り込み増強活性が確認されたが、画分2ではグルコース取り込み増強活性は確認されなかった。
【0056】
(5)ゲルろ過クロマトグラフィによるグルコース取り込み増強活性成分の検討
グルコース取り込み増強活性成分の単離を行うために、トヨパールHW−55F(東ソー社製)を用い、サンプル1についてゲルろ過クロマトグラフィを行った。図5は、サンプル1についてのゲルろ過クロマトグラフィの結果を示すグラフであり、縦軸は280nmにおける吸光度、横軸は時間(分)である。図5から分かるように、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル1から、8つの画分(ゲルろ過画分1〜8)が分取された。
【0057】
この画分1−8を排出限界分子量14000Daの透析膜を用いて、Milli−Q水で終夜4℃での透析を行った。透析後、凍結乾燥により濃縮を行い、Milli−Q水に溶解して、分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含むゲルろ過画分1〜8を調製した。
【0058】
サンプル1およびゲルろ過画分1〜8を用いて、上述と同様にしてグルコース取り込み検定を行った。またコントロールとして、サンプル1およびゲルろ過画分1〜8を添加しない以外は同様にした場合についてもグルコース取り込み検定を行った。図6は、サンプル1、ゲルろ過画分1〜8およびコントロールについてグルコース取り込み検定を行った結果を示すグラフである。図6において、縦軸はコントロールのグルコース取り込み量を1とした場合の相対グルコース取り込み量を示している。図6に示すようにゲルろ過画分については、ゲルろ過画分3,4のみグルコース取り込み増強活性が確認された。
【0059】
また、分子量既知の標準物質を用い、上述したようにグルコース取り込み増強活性が確認されたゲルろ過画分3,4について、HW−55Fカラムによる液体クロマトグラフィにより分子量の測定を行った。図7は、ゲルろ過画分3,4について分子量を測定した結果を示すグラフであり、縦軸は分子量、横軸は溶出時間(分)である。また、表1には、標準物質として用いたアルブミン、オバルブミン、キモトリプシノゲンA、リボヌクレアーゼAおよびインスリンの分子量および溶出時間と、ゲルろ過画分3,4とについての溶出時間と推定された分子量を示している。図7および表1に示されるように、グルコース取り込み増強活性成分の分子量は、ゲルろ過画分3が約31kDa、ゲルろ過画分4が約19kDaと推定された。
【0060】
【表1】

【0061】
<実験例2>
〔1〕ケフィアの脂肪細胞分化抑制効果の検討
(1)細胞染色によるケフィアの細胞内脂肪蓄積抑制効果の検討
脂肪細胞分化における細胞内脂肪蓄積を調べるため、細胞内脂肪滴のオイルレッド(oil red O)染色を行った。まず、前駆脂肪細胞3T3−L1をPBSで2回洗浄した後、10%中性ホルマリンで室温(25℃)にて10分間固定した。固定後PBSで2回洗浄した。細胞を60% 2−プロパノールに1分間置換した後、オイルレッド染色液(1.8mg/ml 60% 2−プロパノール)で15分間、室温で染色を行った。染色後、60% 2−プロパノールで1回、PBSで2回洗浄した。染色したオイルレッド色素を抽出するために、4% Nonidet P−40/2−プロパノール1mlを添加し、15分間室温にて色素を抽出して溶液を回収し、溶出液の490nmにおける吸光度を測定し定量化を行った。
【0062】
100mlのヨーグルト状のケフィア発酵乳液(日本ケフィア株式会社より提供)を10,000×gで30分間遠心分離し、得られた上清に同容量のエタノールを添加してエタノール沈殿を行った。その後、3,500×gで30分間遠心分離を行い、エタノール沈殿処理により生じた沈殿を除去して得られた上清をケフィア水溶性画分として得た。このケフィア水溶性画分を凍結乾燥した後、Milli Q水に溶解させてケフィア10倍濃縮サンプル(サンプル3)、50倍濃縮サンプル(サンプル4)をそれぞれ調製した。なお、このMilli−Q水に溶解した量が、調製開始時のヨーグルト状のケフィア発酵乳液量と比較して何倍に濃縮したかを計算し、サンプル濃縮の値(×倍濃縮サンプル)とした(たとえば、ケフィア発酵乳液50mlを用いてサンプル調製を始めた場合、凍結乾燥したものを10mlのMilli−Q水に溶解したとき、5倍濃縮サンプルとする)。
【0063】
分化誘導期間中、分化誘導試薬(IBMX、DEX、インスリン)の他、上述のようにして調製したサンプル3またはサンプル4を培地に対して10%の割合で添加した(サンプル3,4の終濃度はそれぞれ1倍、10倍濃度)。またコントロールとして、PBSを培地に対して10%の割合で添加した。分化試薬添加開始日を0日目とし、分化試薬添加直後から3日後、5日後、7日後、10日後の変化を経時的に調べた。
【0064】
図8は、サンプル3,4およびコントロールについての細胞染色によるケフィアの細胞内脂肪蓄積抑制効果の検討結果を示すグラフであり、縦軸は490nmにおける吸光度、横軸は分化時間(日)である。図8に示されるように、コントロールの細胞は分化が進むに従って、細胞内脂肪の蓄積が認められたのに対し、サンプル3,4を添加した細胞では分化誘導開始後5日目、10日目において、細胞内脂肪蓄積の抑制が認められた。
【0065】
(2)グリセロール−3リン酸脱水素酵素(GPDH)活性測定によるケフィアの脂肪細胞分化抑制効果の検討
ケフィアの脂肪細胞分化抑制効果を検討するために、脂肪細胞分化に伴い活性が増加するグリセロール−3リン酸脱水素酵素(GPDH)の活性を測定した。前駆脂肪細胞3T3−L1を用い、上述と同様に分化誘導試薬の他、サンプル3,4を培地に対して10%の割合で添加して分化誘導させた。またコントロールとして、PBSを培地に対して10%の割合で添加した。GPDH活性測定は分化開始から、3日目、5日目、7日目、10日目の各日に行い、細胞内脂肪合成活性を経時的に評価した。GPDH活性測定に際しては、細胞をPBSで2回洗浄し、GPDH活性キット(株式会社ホクドー社製)の酵素抽出試薬を加え、室温で10分間反応させた後、超音波処理にて細胞破砕液を作製し、12,800×g、4℃で5分間遠心し、得られた上清を用いた。GPDH活性測定には、GPDH活性測定キットを用い、340nmにおけるNADH吸光度の変化を測定した。
【0066】
図9は、サンプル3,4およびコントロールについてのGPDH活性測定によるケフィアの脂肪細胞分化抑制効果の検討結果を示すグラフであり、縦軸はGPDH活性(U/ml)、横軸は分化時間(日)である。図9に示されるように、サンプル3,4を添加した細胞では、脂肪細胞分化に伴い増加する活性を分化開始3日目から低下させた。特に、50倍濃縮の場合(サンプル4)の添加では、顕著にGPDH活性の低下が認められた。
【0067】
〔2〕ケフィアによる脂肪細胞分化関連分子の挙動
(1)脂肪細胞分化関連分子のmRNA発現量変化の検討
C/EBP(CAAT/エンハンサー結合タンパク:CAAT/enhancer binding protein)ファミリー(C/EBPα、β、δ)とPPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター:peroxisome proliferator-activated receptor)ファミリーのγ−アイソフォーム(PPARγ1とPPARγ2)は脂肪細胞分化抑制に重要な役割を果たす。そこで、これら転写因子の発現にケフィアがどのように作用するかをRT−PCRによって調べた。また、脂肪細胞マーカー(adipocyte marker)として、aP2(脂肪酸結合タンパク:fatty-acid binding protein)、およびLPL(リポタンパクリパーゼ:lipoprotein lipase)についても、同様に調べた。これらは、PPARγをコードする遺伝子の下流の配列にコードされた酵素である。GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ:glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)は実験の内部標準として使用した。使用したプライマー、PCRのアニーリング温度、サイクル数などの反応条件を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
サンプルとしては、上述したオイルレッド染色およびGPDH活性測定において顕著な脂肪細胞分化抑制効果が認められた50倍濃縮の場合(サンプル4)のみを用いて、ケフィア処理を行った。まず、前駆脂肪細胞3T3−L1を用い、上述と同様に分化誘導試薬の他、サンプル4を培地に対して10%の割合で添加して分化誘導させた。コントロールとして、分化誘導試薬のみを添加した場合についても同様にして分化誘導させた。分化試薬添加開始日を0日目とし、分化試薬添加開始から3日目、5日目、7日目、10日目に細胞からRNAを抽出し、cDNA合成を行った。合成したcDNAを用いてRT−PCRを行い、脂肪細胞分化関連分子のmRNA発現量変化を調べた。
【0070】
図10,11は、各脂肪細胞分化関連分子の経時的なmRNA発現量変化の結果を示すゲル電気泳動写真である。図10は、C/EBPα,β,δ、PPARγ,γ1,γ2およびGAPDHについての結果を示しており、また図11は、aP2、LPLおよびGAPDHについての結果を示している。図10,11において横軸は分化日数(日)であり、−で示されたレーンはケフィア処理を施さなかった場合、+で示されたレーンはケフィア処理を施した場合である。図10,11に示されるように、サンプル4を添加することによるケフィア処理によって、PPARγ、LPLは分化3日目から、C/EBPα、aP2は分化5日目からmRNA発現量低下が認められた。一方、C/EBPβ,δのmRNA発現量の低下は特に見られなかった。
【0071】
次に、mRNA発現量の低下が特に見られなかったC/EBPβ,δについて、分化開始直後、2、4、8、12時間後に細胞を回収し同様にRT−PCRを行った以外は、上述と同様にしてmRNA発現量変化を調べた。図12は、C/EBPβ,δの経時的なmRNA発現量変化の結果を示すゲル電気泳動写真である。図12において横軸は分化時間(時間)であり、−で示されたレーンはサンプル4を添加しなかった場合、+で示されたレーンはサンプル4を添加した場合である。図12に示されるように、分化誘導初期においては、ケフィア処理によるmRNA発現量の低下は見られなかった。
【0072】
(2)タンパク質発現量変化の検討
ケフィア処理によってmRNAレベルで有意な発現量低下を示したPPARγについて、タンパク質レベルでの発現量の変化をウェスタンブロッティングによって検討した。まず、前駆脂肪細胞3T3−L1を用い、上述と同様に分化誘導試薬の他、サンプル4を培地に対して10%の割合で添加して分化誘導させた。コントロールとして、分化誘導試薬のみを添加した場合についても同様にして分化誘導させた。ウェスタンブロッティングは分化開始から3日目、5日目、7日目、10日目の各日に行った。細胞を回収し、SDS−PAGEの後、一次抗体として、抗PPARγ抗体(H−100:sc−7196;Santa Cruz Biotechnology,inc製、200倍希釈)にて処理を行い、二次抗体として、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体(アマシャムバイオサイエンス社製、4000倍希釈)、検出にECL plus Westernblotting Detection System(アマシャムバイオサイエンス社製)で化学発光させ、LAS−1000(フジフィルム社製)により検出を行った。図13は、PPARγの経時的なタンパク質発現量変化の結果を示すウェスタンブロッティングである。図13において横軸は分化日数(日)であり、−で示されたレーンはサンプル4を添加しなかった場合、+で示されたレーンはサンプル4を添加した場合である。図13に示されるように、ケフィア処理後5日目に、脂肪細胞特異的に発現するPPARγ2の発現低下が認められた。
【0073】
また、ケフィア処理によるPPARγ発現低下にSirt1の現象が関与しているかを検討した。Sirt1は、PPARγをコードする遺伝子の上流にコードされており、延命因子とも呼ばれる。一次抗体として抗Sirt1抗体(H−300:sc−15404;Santa Cruz Biotechnology,inc製、400倍希釈)を用いたこと以外は上述と同様にして、Sirt1についてもタンパク質レベルでの発現量の変化をウェスタンブロッティングによって検討した。図14は、Sirt1の経時的なタンパク質発現量変化の結果を示すウェスタンブロッティングである。図14において横軸は分化日数(日)であり、−で示されたレーンはサンプル4を添加しなかった場合、+で示されたレーンはサンプル4を添加した場合である。図14に示されるように、ケフィア処理1日目、2日目にSirt1の発現増加が認められた。
【0074】
〔3〕ケフィアの脂肪細胞内脂肪への影響の検討
(1)ケフィアの脂肪細胞内脂肪の減少効果の検討
0.5倍濃度のケフィア水溶性画分のサンプル(サンプル5)および0.01倍濃度のケフィア脂溶性画分のサンプル(サンプル6)を用いて、ケフィアの脂肪細胞内脂肪に与える効果を検討した。ケフィア水溶性画分のサンプルであるサンプル5は、0.5倍濃度とした以外は上述したサンプル3,4と同様に調製した。ケフィア脂溶性画分のサンプルであるサンプル6については、まず、100mlのヨーグルト状のケフィア発酵乳液(日本ケフィア株式会社より提供)を10,000×gで30分間遠心分離し、得られた沈殿物に5倍容のクロロホルム−メタノール(2:1)を加えて1時間攪拌した。15,000×gで30分間遠心し、上清を回収した。沈殿物に5倍容のクロロホルム−メタノールを加え、上記の工程を繰り返した。回収した上清をエバポレータによって減圧濃縮し、乾燥物を得た。この乾燥物の1/100量をDMSO1mlに溶解したものをケフィア脂溶性画分1倍液とした。
【0075】
まず、分化誘導後の脂肪細胞3T3−L1を上述と同様にしてオイルレッド染色を行った後、サンプル5またはサンプル6を用いてケフィア処理を4日間行った。その後、脂肪細胞3T3−L1をPBSで2回洗浄した後、10%中性ホルマリンで室温(25℃)にて10分間固定した。固定後PBSで2回洗浄した。細胞を60% 2−プロパノールに1分間置換した後、オイルレッド染色液(1.8mg/ml 60% 2−プロパノール)で15分間、室温で染色を行った。染色後、60% 2−プロパノールで1回、PBSで2回洗浄した。染色したオイルレッド色素を抽出するために、4% Nonidet P−40/2−プロパノール1mlを添加し、15分間室温にて色素を抽出して溶液を回収し、490nmにおける吸光度を観察することによって、脂肪細胞内の脂肪量を測定した。また、ケフィア処理を行わなかった以外は同様にしたものをコントロールとした。図15は、サンプル5,6を用いてケフィア処理を行った場合およびコントロールについての細胞内脂肪の測定結果を示すグラフであり、縦軸は490nmにおける吸光度を示している。図15に示されるように、ケフィア水溶性画分を用いたサンプル(サンプル5)において、細胞内脂肪の減少が認められた。
【0076】
(2)ケフィアの脂肪細胞内の脂肪分解促進作用の検討
ケフィアが脂肪分解に与える効果を検討するため、脂肪分解に伴い培地中に放出されるグリセロール量をAdipolysis Assay Kit(CHEMICON international Inc製)を用いて行った。分化誘導後の脂肪細胞3T3−L1に24時間ケフィア処理を行った後、培地を除き、100μlのWash Solutionで2回洗浄した。ケフィア処理には、1倍濃度とした以外は上述したサンプル3,4と同様に調製したケフィア水溶性画分のサンプル(サンプル7)または0.01倍濃度のケフィア脂溶性画分のサンプルである上述のサンプル6に、10%FBSを添加したものを用いた。24時間のケフィア処理後、溶液を除き、Incubation Solution+2% BSA中に0.25ml/穴加え、3時間インキュベートした。グリセロールフリーコンテナ中に細胞上清を集めた。グリセロール標準液(0.4μg/ml−26μg/ml)と培養上清25μlを96ウェルプレートに分注し、Free Glycerol Assay Regentを200μlずつ加えた。室温で15分インキュベートし、540nmの吸光度を測定し、グリセロール量の測定を行った。また、ケフィア処理に換えて、10%FBSのみを添加したこと以外は同様にした場合をコントロールとした。
【0077】
図16は、サンプル7,6およびコントロールについて測定されたグリセロール量を示すグラフであり、縦軸はグリセロール量(μg/ml)を示している。図16に示されるようにケフィア水溶性画分のサンプル(サンプル7)でケフィア処理を行った場合の脂肪細胞は、コントロールと比較して培地中に5倍量のグリセロールを放出していることが認められた。この結果より、ケフィアの水溶性画分で処理された脂肪細胞では中性脂肪を分解し、細胞内脂肪蓄積が減少していると考えられた。
【0078】
〔4〕ケフィアによるアディポネクチン発現量への影響の検討
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される代表的なインスリン感受性アディポサイトカインである。アディポネクチンの血中濃度は肥満者において低下し、内臓脂肪の蓄積とともに血中濃度が低下する。アディポネクチンは多くの臓器でエネルギー代謝を正常に働かせる重要な役割を担っている。そこでケフィア処理後のマウスアディポネクチンの発現量をリアルタイムにRT−PCRにより調べた。
【0079】
まず、前駆脂肪細胞3T3−L1を60mm dishに5.0×105cells/5mlになるように播種し、分化誘導させた後、2時間または6時間のケフィア処理を行った。ケフィア処理には、0.5倍濃縮のケフィア水溶性画分のサンプル(サンプル5)または0.01倍濃縮のケフィア脂溶性画分のサンプル(サンプル6)を用いた。ケフィア処理後、全RNAを調製し、cDNAを合成した後、SYBER premix EX Taq(Perfect Real Time)を用いてリアルタイムPCRを行った。なお、使用したプライマーは表3に示した。また、ケフィア処理を行わなかったこと以外は同様にして、コントロールとした。図17は、サンプル5,6で2時間のケフィア処理を行った場合およびコントロールについてのアディポネクチン発現量の測定結果を示すグラフであり、縦軸はコントロールのアディポネクチン発現量を1とした場合の相対アディポネクチン発現量を示している。図17に示されるように、ケフィア水溶性画分、ケフィア脂溶性画分のいずれを用いて2時間のケフィア処理を行った場合であっても、アディポネクチンの発現量の増加が認められた。
【0080】
【表3】

【0081】
また、H22処理によりアディポネクチン発現量を低下させても改善できるか否か検討した。0.5mM H22を用いた処理を2時間行ったこと以外は、上述と同様にしてサンプル5,6を用いてアディポネクチンの発現量を測定した。また、ケフィア処理を行わず、H22処理を行った場合、行わなかった場合それぞれをコントロールとした。図18は、サンプル5,6で2時間のケフィア処理およびH22処理を行った場合ならびにコントロールについてのアディポネクチン発現量の測定結果を示すグラフであり、縦軸はコントロールのアディポネクチン発現量を1とした場合の相対アディポネクチン発現量を示している。また、図18中、(−)はH22処理を行わなかった場合、(+)はH22処理を行った場合をそれぞれ示している。図18に示されるように、H22処理によりアディポネクチン発現が低下している状態でもアディポネクチンの発現回復が認められた。
【0082】
これらの結果から、脂肪細胞においてケフィアがアディポネクチンの発現量増強を介して脂肪細胞の機能を改善する可能性が示唆された。
【0083】
〔5〕ケフィアの筋管細胞におけるβ酸化の増強効果の検討
アディポネクチンは骨格筋で脂肪酸の燃焼やエネルギー消費を促進し、中性脂肪含量を減少させる。ケフィアが骨格筋細胞におけるエネルギー代謝活性、特に脂肪酸燃焼に及ぼす効果を調べるため、パルミチン酸のβ酸化を測定した。脂肪酸のβ酸化は14C−パルミチン酸を添加し、代謝され生じた14CO2量を測定することにより評価した。
【0084】
(1)マウス骨格筋由来筋由来筋芽細胞C2C12の培養
骨格筋細胞の一例としてマウス骨格筋由来筋由来筋芽細胞C2C12を使用した。C2C12筋芽細胞は10% FBS−DMEM培地で培養し、コンフルエントに達するまで1日間培養後、非働化した馬血清を2%含む培地に交換することにより筋管細胞への分化誘導を行い、分化誘導開始から4−10日目の細胞を用いた。
【0085】
(2)ケフィアのβ酸化促進効果の検討
C2C12細胞を25ml容T−フラスコ(BD Falcon、BD Bioscience社製)に4×105cells/2ml播種し、分化誘導後の細胞を用いた。0.5倍濃縮のケフィア水溶性画分のサンプル(サンプル5)または0.01倍濃縮のケフィア脂溶性画分のサンプル(サンプル6)を用いて24時間のケフィア処理を行った後、グルコースフリーのDMEMで1時間プレインキュベートした。80μM Palmitate(1−14C Palmitate、0.2μCi/ml)(第一化学薬品株式会社製)、320μM 脂肪酸フリーウシ血清アルブミンを加え、30分インキュベートした後、培地を50ml容遠沈管に移した。2ml容チューブにHyamine Hydroxide 10−X(パーキンエルマージャパン社製)500μlを入れ、培地の入った50ml遠沈管に培地がチューブ内に侵入しないように注意しながら入れた。次に、培地からCO2を放出させるため、10%か塩素酸を培地に添加し、30分インキュベートし、Hyamine Hydroxide 10−X中にCO2を捕集した。Hyamine Hydroxide 10−Xの250μlを回収し、液体シンチレーションカクテル1mlを加え、液体シンチレーションカウンターで14Cの放射能測定を行った。また、ケフィア処理を行わなかった以外は同様にしたものをコントロールとした。
【0086】
図19は、サンプル5,6を用いてケフィア処理を行った場合およびコントロールについての14CO2産生量の測定結果を示すグラフであり、縦軸はコントロールの14CO2産生量を1とした場合の相対14CO2産生量を示している。図19に示されるように、ケフィア水溶性画分、ケフィア脂溶性画分のいずれを用いてケフィア処理を行った場合であっても、14CO2量が増加し、エネルギー代謝が亢進していることが示唆された。
【0087】
(3)ケフィアによるPPARδの発現量の変化
ケフィアの脂肪酸β酸化促進効果はどのようなメカニズムで起こっているかを調べるため、PPARδの発現量をリアルタイムRT−PCRにより調べた。骨格筋において飢餓時に誘導される遺伝子群はPPARδの活性化に伴い誘導される代謝関連遺伝子と重複する。PPARδの刺激はたとえば飽食下であっても脂肪蓄積ではなく燃焼・消費し、蓄積された脂肪を消費すると考えられた。
【0088】
上述したように分化誘導させたC2C12細胞について、0.5倍濃縮のケフィア水溶性画分のサンプル(サンプル5)または0.01倍濃縮のケフィア脂溶性画分のサンプル(サンプル6)を用いて2時間または6時間のケフィア処理を行った後、全RNAを調製し、cDNAを合成した後、SYBER premix EX Taq(Perfect Real Time)を用いてリアルタイムPCRを行った。なお、使用したプライマーは表3に示した。また、ケフィア処理を行わなかったこと以外は同様にして、コントロールとした。
【0089】
図20は、サンプル5、6で2時間または6時間のケフィア処理を行った場合およびコントロールについてのPPARδ発現量の測定結果を示すグラフであり、縦軸はコントロールのPPARδ発現量を1とした場合の相対PPARδ発現量を示している。図20に示されるように、ケフィア脂溶性画分を用いた場合(サンプル6)には、2時間処理でも6時間処理でもPPARδ発現は0.7倍程度に抑制された。また、ケフィア水溶性画分を用いた場合(サンプル5)では2時間処理において0.5倍に抑制されたが、6時間処理では同程度に発現が回復していた。このことから、ケフィアにはPPARδの活性化を抑制し、脂肪酸燃焼に方向付ける効果があると考えられた。
【0090】
<実験例3>
〔1〕HIT−T15細胞増殖に対する影響の検討
(1)HIT−T15細胞の培養
脾臓ランゲルハンス島β細胞の一例として、ハムスター由来脾臓β細胞株HIT−T15を使用した。HIT−T15細胞は10% FBS−RPMI1640培地で培養した。また、全ての細胞は37℃の加湿した5%炭酸ガス大気下で培養を行った。
【0091】
(2)HIT−T15細胞増殖に対するケフィア水溶性画分の影響
上述したようにして調製したケフィア水溶性画分を含むサンプルを、培地に対して最終濃度が10%、25%および50%となるようにそれぞれ添加した場合についてのHIT−T15細胞増殖を観察した。ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加後、3日目および6日目に細胞数計測器(Sysmex F−300、東亞医用機器株式会社製)を用いて細胞数を測定した。また、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加しなかったこと以外は同様にしたものをコントロールとした。図21は、最終濃度10%、25%、50%となるようにケフィア水溶性画分を添加した場合およびコントロールについての経時的な細胞数を示すグラフであり、縦軸は細胞数(×10-5cells)、横軸は時間(日)を示している。図21に示されるように、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを培地に対して25%、50%添加した場合には、コントロールと比較してHIT−T15細胞増殖を抑制した。一方、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを培地に対して10%添加した場合に関しては、HIT−T15細胞の増殖に影響を及ぼさなかった。
【0092】
〔2〕アロキサン毒性に対する細胞保護効果の検討
(1)HIT−T15細胞生存率に対するアロキサンの効果
アロキサンは膵β細胞に特異的に毒性を及ぼす。アロキサン毒性に対する膵β細胞の感受性は、細胞株ごとで異なっている。そのため、HIT−T15細胞に対するアロキサンの細胞毒性を調べた。アロキサンの添加濃度を0.05mMから5mMまで変えて、アロキサン処理を1時間行い、培地を交換し、24時間後におけるHIT−T15細胞の生存率を評価した。またアロキサンを添加したかったこと以外は同様にした場合をコントロールとした。図22は、各濃度でアロキサンを添加した場合およびコントロールについてのHIT−T15細胞の生存率の測定結果を示すグラフであり、縦軸は細胞生存率(%)を示している。図22に示されるように、培地にアロキサンを添加することによって、アロキサンの濃度依存的にHIT−T15細胞の生存率が減少された。たとえばアロキサン添加濃度が2.5mMの場合には、コントロールと比較して52%の細胞生存率を示した。
【0093】
(2)アロキサン毒性に対するケフィア水溶性画分の細胞保護効果
アロキサンにより誘導されるHIT−T15細胞生存率の減少に対するケフィア水溶性画分の効果を調べた。ケフィア水溶性画分を含むサンプルとしては、次のようにして分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)および分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)を調製して用いた。まず、100mlのヨーグルト状のケフィア発酵乳液(日本ケフィア株式会社より提供)を10000×gで30分間遠心分離し、得られた上清を排出限界分子量1000Daの透析膜を用いて、ケフィア上清100mlあたり、Milli−Q水3Lの割合とし、終夜4℃で透析を行った。透析外液である分子量1000Da未満の溶液は、減圧濃縮を行い、凍結乾燥後、Milli Q水に溶解して分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)とした。また透析内液はそのまま凍結乾燥した後、Milli Q水に溶解して分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)とした。さらに、透析を行う前の上清も、ケフィア水溶性を含むサンプル(サンプル10)として用いた。HIT−T15細胞に2.5mMの濃度でアロキサンを添加し、さらにサンプル8、サンプル9またはサンプル10を最終濃度が10%となるように培地に添加した後、細胞生存率を測定した。また、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加しなかった場合、アロキサンを添加しなかった場合をコントロールとした。
【0094】
図23は、ケフィア水溶性画分についてのアロキサン毒性の存在下の場合およびコントロールの測定された細胞生存率を示すグラフであり、縦軸は細胞生存率(%)を示している。図23中、−,+はそれぞれアロキサンの非存在下、存在下の場合を示している。図23に示されるように、透析前の上清(サンプル10)および分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)が、アロキサン誘導細胞毒性からHIT−T15細胞を強く保護した。また、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)も弱い保護効果を示した。細胞生存率は、コントロールで35.7%、透析前の上清(サンプル10)で52.8%、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)で84.6%、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)で45.5%であった。
【0095】
〔3〕インスリン放出量に対する効果の検討
HIT−T15細胞を2×105cells/mlで24穴プレートに播種し、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加した培地中で24時間前培養した。ケフィア水溶性画分を含むサンプルとしては、上述と同様、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)および透析前の上清(サンプル10)を用い、最終濃度が10%となるように培地に添加した。その後、2.5mMアロキサンを含むKrebs Ringer bicarbonate buffer(KRB)液、またはアロキサンを含まないKRB液で洗浄後、15mMのグルコースを含むKRB液で1時間、37℃でグルコース刺激を行った。上清を回収し、Insulin ELISA kitによりインスリン放出量を測定した。また、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加しなかったこと以外は同様にした場合をコントロールとした。
【0096】
図24は、ケフィア水溶性画分についてのアロキサン毒性の存在下の場合およびコントロールの測定されたインスリン放出量を示すグラフであり、縦軸はインスリン放出量(pg/ml)を示している。図24中、−,+はそれぞれアロキサンの非存在下、存在下の場合を示している。
【0097】
図24に示されるように、アロキサンを添加しなかった場合、透析前の上清(サンプル10)および分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)を用いた場合では、グルコース刺激インスリン放出が促進された。この場合、インスリンの放出量は、コントロールで266.8pg/ml、透析前の上清(サンプル10)で586.8pg/ml、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)で763.5pg/ml、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)で289.6pg/mlであった。
【0098】
また2.5mMのアロキサンを添加した場合、アロキサンの毒性により、インスリンの放出量は減少したが、透析前の上清(サンプル10)および分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)は低下したグルコース刺激インスリン放出を回復させていた。この場合、インスリンの放出量は、コントロールで187.5pg/ml、透析前の上清(サンプル10)で328.4pg/ml、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)で366.8pg/ml、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)で197.5pg/mlであった。
【0099】
〔4〕細胞内ATP量に対する効果の検討
HIT−T15細胞を2×105cells/mlで6穴プレートに播種し、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加した培地中で24時間前培養した。ケフィア水溶性画分を含むサンプルとしては、上述と同様、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)および透析前の上清(サンプル10)を用い、最終濃度が10%となるように培地に添加した。その後、2.5mMアロキサンを含むKRB液、またはアロキサンを含まないKRB液で30分間、37℃で処理した。KRB液で洗浄後、15mMのグルコースを含むKRB液で37℃、1時間処理し、グルコース刺激を行った。刺激後、トリプシンで細胞を回収し、洗浄後、遠心(200×g、5分間)し、上清を捨てた。4×105cells/mlの細胞密度になるよう10mM Tris−4mM EDTA(pH7.8)を加え、懸濁した。沸騰水中で2分間インキュベートし、遠心(600×g、5分間)し、上清を新しいエッペンドルフチューブに移した。サンプルを50μlとり、ルシフェラーゼ溶液50μlと混合し、素早くルミノメーター(Aloka製、type BLR−301)で測定した。また、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加しなかったこと以外は同様にした場合をコントロールとした。
【0100】
図25は、ケフィア水溶性画分についてのアロキサン毒性の存在下の場合およびコントロールの測定された細胞内ATP量を示すグラフであり、縦軸は細胞内ATP量(%)を示している。図25中、−,+はそれぞれアロキサンの非存在下、存在下の場合を示している。図25に示されるように、アロキサンを添加しなかった場合、コントロールとケフィア水溶性画分を含むサンプル添加した場合(サンプル8〜10)との間に有意な差は確認されなかった。一方、2.5mMのアロキサンを添加した場合、アロキサン毒性により細胞内ATP量は減少したが、透析前の上清(サンプル10)および分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)を添加した場合には細胞内ATP量の減少が抑制された。アロキサンを添加した場合の細胞内ATP量は、コントロールで47.5%、透析前の上清(サンプル10)で60.6%、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)で72.0%、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)で52.5%であった。
【0101】
〔5〕細胞内酸化還元状態に対する効果の検討
フリーラジカルは、膵β細胞におけるアロキサンの細胞毒性に関与しているとされている。そこで、アロキサンで処理したHIT−T15細胞の細胞内酸化還元状態を、ROS感受性プローブであるDCFH−DAを用いて調べた。方法としては、HIT−T15細胞5×106cellsを60mm dishに播種し、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加したHBSS溶液で24時間培養した。ケフィア水溶性画分を含むサンプルとしては、上述と同様、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)および透析前の上清(サンプル10)を用い、最終濃度が10%となるように添加した。サンプル処理後、2.5mMアロキサンを含むHBSS溶液、またはアロキサンを含まないHBSS溶液で30分間、37℃で処理した。上清を捨て、PBS(−)で洗浄後、5μM DCFH−DAを含むCa2+、Mg2+−free HBSS溶液で15分間、37℃でインキュベートした。トリプシン処理で細胞を回収し、遠心(200×g、5分間)し、上清を捨てた。Ca2+、Mg2+−free HBSS溶液1mlで懸濁後、EPICS XL/XL−MLL System II(BECKMAN COULTER)を用いてDCF蛍光強度のフローサイトメトリー(励起波長:488nm、蛍光波長:530nm(FL1))解析を行った。DCFH−DAは細胞に取り込まれた後、細胞内のエステラーゼで加水分解されて膜非透過性のDCFHになる。さらに、細胞内の活性酸素種(ROS)によって酸化され蛍光物質DCFとなるため、蛍光強度を測定することで細胞内の相対的酸化還元状態を評価できる。また、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加しなかったこと以外は同様にした場合をコントロールとした。
【0102】
図26は、ケフィア水溶性画分についてのアロキサン毒性の存在下の場合およびコントロールの測定された細胞内ROSレベルを示すグラフであり、縦軸は細胞内ROSレベル(%)を示している。図26中、−,+はそれぞれアロキサンの非存在下、存在下の場合を示している。
【0103】
図26に示されるように、アロキサンを添加しなかった場合、透析前の上清(サンプル10)および分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)の場合に、細胞内ROSレベルが有意に減少された。また、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)に関しても細胞内ROSレベルはわずかに減少していた。この場合、細胞内ROSレベルは、コントロールを100%としたとき、透析前の上清(サンプル10)で54.5%、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)で40.7%、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)で78.8%であった。
【0104】
また、2.5mMのアロキサンを添加した場合についても同様の減少傾向を示した。この場合、細胞内ROSレベルは、アロキサンを添加しないコントロールを100%としたとき、アロキサンを添加した場合のコントロールで133.8%、透析前の上清(サンプル10)で119.6%、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)で97.9%、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)であった。この結果よりケフィア水溶性画分はアロキサン毒性により生じた細胞内ROSを消去できることが明らかにされた。
【0105】
<実験例4>
アロキサン誘導糖尿病マウスに対するケフィア水溶性画分の効果を検討した。この動物実験は、「九州大学大学院農学研究院、大学院生物資源環境科学府及び農学における動物実験指針」、「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年10月1日法律第105号)、「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」(昭和55年3月27日総理府告示第6号)の規則に基づいて行われた。ICRマウスは日本チャールズ・リバー社から購入した。4週齢より1週間の予備飼育を経た後、5週齢時に無作為にグループ分けを行った。各グループを表4に示す。
【0106】
【表4】

【0107】
ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加した水は、上述と同様、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル8)、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプル(サンプル9)および透析前の上清(サンプル10)を用いて、それぞれ最終濃度が10%となるようにMilli−Q水にそれぞれ添加して調製した。Milli−Q水およびケフィア水溶性画分を含むサンプル添加を添加した水は自由飲水させた。また餌は自由摂取させた。飼育小屋を22−25℃、12時間の明暗サイクルで維持した。6匹/1ゲージとし、敷床は1週間に2回交換した。
【0108】
図27は、このアロキサン誘導糖尿病マウスに対する効果に関するプロトコールを概略的に示す図である。図27に示すように、飼育開始後4週間経過後に、グループ3〜6のマウスについてはアロキサンを投与し、アロキサン投与後さらに2週間飼育した。アロキサンを投与するグループについては、マウスを18時間絶食させた後、クエン酸緩衝液(0.05M、pH4.0)に溶解したアロキサンを腹腔内投与(アロキサン100mg/kg)した後、48時間ごとに投与して合計3回の腹腔内投与を行った(計300mg/kg)。一方、アロキサンを投与しないグループについては、クエン酸緩衝液を同様に投与した。アロキサンを投与したグループのマウスを糖尿病マウス、アロキサンを投与しなかったグループのマウスを非糖尿病マウスとした。
【0109】
図28は、各グループのマウスの平均体重の変化を経時的に示すグラフであり、左側から順に飼育開始時、飼育開始後4週間経過時、飼育開始後7週間経過時(アロキサン投与後3週間経過時)についての結果を示している。なお、図28の縦軸は各グループのマウスの平均体重(g)を示している。また図29(a),(b)は、各グループのマウスの経時的な餌消費量、水消費量をそれぞれ示すグラフである。なお、図29(a)の縦軸は餌消費量(g/日/マウス)、図29(b)の縦軸は水消費量(ml/日/マウス)を示し、図29(a),(b)の横軸は共に飼育期間(週)を示している。図28および図29から分かるように、アロキサン投与前である飼育開始後4週間経過時には、ケフィア水溶性画分を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス(グループ2、4〜6)と、Milli−Q水を自由飲水させたマウス(グループ1,3)との間に有意な差は見られなかった。
【0110】
図28に示されるように、アロキサン誘導糖尿病マウスのグループ(グループ3〜6)において、Milli−Q水を自由飲水させたマウス群(グループ3)、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ6)については、アロキサン投与後の体重が、アロキサンを投与しなかったマウス群(グループ1,2)と比較して有意な減少を示した。また、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ5)に関しても、アロキサン投与によって体重は適度に減少したが、Milli−Q水を自由飲水させたマウス群(グループ3)と比較すると、体重の減少は阻害されていた。この結果から、ケフィア水溶性画分は、アロキサン誘導糖尿病マウスの体重減少を部分的に抑えることができることが示された。
【0111】
また図29(a)に示されるように、餌消費量に関しては、アロキサンを投与したマウス群(グループ3〜6)については、アロキサン投与直後に全て餌消費量が減少した。その後、Milli−Q水を自由飲水させたマウス群(グループ3)、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ6)については、餌消費量が急激に増加した。一方、透析前の上清を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ4)、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ5)に関しては、餌消費量の急激な増加を阻害しており、アロキサンを投与しなかったマウス群(グループ1,2)とほぼ同程度の餌消費量になっていた。
【0112】
また、図29(b)に示されるように、水消費量に関しては、アロキサンを投与したマウス群(グループ3〜6)については、アロキサン投与直後に全て水消費量がわずかに増加していた。その後、Milli−Q水を自由飲水させたマウス群(グループ3)、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ6)については、水消費量が急激に増加した。一方、透析前の上清を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ4)、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ5)に関しては、水消費量の急激な増加は阻害されていた。
【0113】
また図30は、各グループのマウスの平均の血糖値の変化を経時的に示すグラフであり、左側から順に飼育開始時、飼育開始後4週間経過時、飼育開始後7週間経過時(アロキサン投与後3週間経過時)についての結果を示している。なお、図30の縦軸は各グループのマウスの平均の血糖値(mg/dl)を示している。図30に示されるように、アロキサン投与前である飼育開始直後、飼育開始後4週間経過時の時点では、各グループのマウスの血糖値に有意な差は見られなかった。また、アロキサンを投与したマウス群(グループ3〜6)は、飼育開始後7週間経過(アロキサン投与後3週間経過)の時点で、Milli−Q水を自由飲水させたマウス群(グループ3)、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ6)については、血糖値の急激な上昇が見られた。一方、透析前の上清を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ4)、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ5)に関しては、血糖値の急激な増加は阻害されていた。なお、マウスの血糖値は、デキスターZ血糖測定器(バイエルメディカル株式会社製)により測定した。
【0114】
また、図31は、飼育開始後7週間経過時(アロキサン投与後3週間経過時)における各グループのマウスの平均の血漿インスリン量を示すグラフであり、縦軸は各グループのマウスの平均の血漿インスリン量(pg/ml)を示している。アロキサンを投与されたマウスにおいては、膵β細胞が破壊され、血漿インスリン量は急激に減少する。図31に示されるように、アロキサンを投与しなかった場合には、Milli−Q水のみを自由飲水させた場合(グループ1)と透析前の上清を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ2)との間に差は見られなかった。これに対し、アロキサンを投与した場合には、透析前の上清を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ4)、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ5)に関しては、血漿インスリン量の減少を大幅に抑制していた。また、アロキサンを投与した場合、分子量1000Da以上のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ6)に関しても、Milli−Q水を自由飲水させたマウス群(グループ3)と比較してわずかに抑制していた。このように、アロキサン投与した場合であっても、透析前の上清を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ4)、分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むサンプルを添加した水を自由飲水させたマウス群(グループ5)においては、アロキサン誘導I型糖尿病からマウスを保護することができた。なお、血漿インスリン量は、Insulin ELISA Kitにより測定した。
【0115】
今回開示された実施の形態および実験例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】サンプル1,2およびコントロールについてグルコース取り込み検定を行った結果を示すグラフである。
【図2】図2(a)は、サンプル1、2のタンパク質濃度を定量した結果を示すグラフであり、図2(b)はサンプル1,2の糖濃度を定量した結果を示すグラフである。
【図3】図3(a)はサンプル1についての陽イオン交換クロマトグラフィの結果を示すグラフであり、図3(b)はサンプル1についての陰イオン交換クロマトグラフィの結果を示すグラフである。
【図4】サンプル1、画分1,2およびコントロールについてグルコース取り込み検定を行った結果を示すグラフである。
【図5】サンプル1についてのゲルろ過クロマトグラフィの結果を示すグラフである。
【図6】サンプル1、ゲルろ過画分1〜8およびコントロールについてグルコース取り込み検定を行った結果を示すグラフである。
【図7】ゲルろ過画分3,4について分子量を測定した結果を示すグラフである。
【図8】サンプル3,4およびコントロールについての細胞染色によるケフィアの細胞内脂肪蓄積抑制効果の検討結果を示すグラフである。
【図9】サンプル3,4およびコントロールについてのGPDH活性測定によるケフィアの脂肪細胞分化抑制効果の検討結果を示すグラフである。
【図10】各脂肪細胞分化関連分子の経時的なmRNA発現量変化の結果を示すゲル電気泳動写真である。
【図11】各脂肪細胞分化関連分子の経時的なmRNA発現量変化の結果を示すゲル電気泳動写真である。
【図12】C/EBPβ,γの経時的なmRNA発現量変化の結果を示すゲル電気泳動写真である。
【図13】PPARγの経時的なタンパク質発現量変化の結果を示すウェスタンブロッティングである。
【図14】Sirt1の経時的なタンパク質発現量変化の結果を示すウェスタンブロッティングである。
【図15】サンプル5,6を用いてケフィア処理を行った場合およびコントロールについての細胞内脂肪の測定結果を示すグラフである。
【図16】サンプル7,6およびコントロールについて測定されたグリセロール量を示すグラフである。
【図17】サンプル5,6で2時間のケフィア処理を行った場合およびコントロールについてのアディポネクチン発現量の測定結果を示すグラフである。
【図18】サンプル5,6で2時間のケフィア処理およびH22処理を行った場合ならびにコントロールについてのアディポネクチン発現量の測定結果を示すグラフである。
【図19】サンプル5,6を用いてケフィア処理を行った場合およびコントロールについての14CO2産生量の測定結果を示すグラフである。
【図20】サンプル5、6で2時間または6時間のケフィア処理を行った場合およびコントロールについてのPPARδ発現量の測定結果を示すグラフである。
【図21】最終濃度10%、25%、50%となるようにケフィア水溶性画分を添加した場合およびコントロールについての経時的な細胞数を示すグラフである。
【図22】各濃度でアロキサンを添加した場合およびコントロールについてのHIT−T15細胞の生存率の測定結果を示すグラフである。
【図23】ケフィア水溶性画分についてのアロキサン毒性の存在下の場合およびコントロールの測定された細胞生存率を示すグラフである。
【図24】ケフィア水溶性画分についてのアロキサン毒性の存在下の場合およびコントロールの測定されたインスリン放出量を示すグラフである。
【図25】ケフィア水溶性画分についてのアロキサン毒性の存在下の場合およびコントロールの測定された細胞内ATP量を示すグラフである。
【図26】ケフィア水溶性画分についてのアロキサン毒性の存在下の場合およびコントロールの測定された細胞内ROSレベルを示すグラフである。
【図27】アロキサン誘導糖尿病マウスに対する効果に関するプロトコールを概略的に示す図である。
【図28】各グループのマウスの平均体重の変化を経時的に示すグラフであり、図中左側から順に飼育開始時、飼育開始後4週間経過時、飼育開始後7週間経過時(アロキサン投与後3週間経過時)についての結果を示している。
【図29】図29(a)は、各グループのマウスの経時的な餌消費量を示すグラフであり、図29(b)は、各グループのマウスの経時的な水消費量を示すグラフである。
【図30】各グループのマウスの平均の血糖値の変化を経時的に示すグラフであり、左側から順に飼育開始時、飼育開始後4週間経過時、飼育開始後7週間経過時(アロキサン投与後3週間経過時)についての結果を示している。
【図31】飼育開始後7週間経過時(アロキサン投与後3週間経過時)における各グループのマウスの平均の血漿インスリン量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む、インスリン非依存性糖尿病治療剤。
【請求項2】
ケフィアから得られた水溶性画分を用いた、インスリン依存性糖尿病治療剤。
【請求項3】
分子量1000Da未満のケフィア抽出物を含むことを特徴とする、請求項2に記載のインスリン依存性糖尿病治療剤。
【請求項4】
ケフィアを用いた抗肥満剤。
【請求項5】
ケフィアから得られた水溶性画分を含む、請求項4に記載の抗肥満剤。
【請求項6】
分子量14000Da以上のケフィア抽出物を含む健康食品。
【請求項7】
ケフィアから上清を分離する工程と、得られた上清から分子量14000Da以上のケフィア抽出物を得る工程とを含む、インスリン非依存性糖尿病治療剤の製造方法。
【請求項8】
ケフィアから上清を分離する工程を含む、インスリン依存性糖尿病治療剤の製造方法。
【請求項9】
得られた上清から分子量1000Da未満のケフィア抽出物を得る工程をさらに含む、請求項8に記載のインスリン依存性糖尿病治療剤の製造方法。
【請求項10】
ケフィアから上清を分離する工程を含む、抗肥満剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2008−81461(P2008−81461A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265274(P2006−265274)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(598170338)日本ケフィア株式会社 (7)
【Fターム(参考)】