説明

ケーキ用流動状ショートニング

【課 題】
バタースポンジケーキ、パウンドケーキなど油脂を多量に配合したケーキ類生地をオールインミックス法で製造する際に用いられ、ケーキの生地の起泡性を向上させ、ソフトな食感のケーキを作ることができる、ケーキ用流動状ショートニングを提供する。
【解決手段】
油脂と食品用乳化剤を含有するショートニングであって、前記ショートニング100質量%中、食品用乳化剤が以下の(a)〜(d);
(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル1〜25質量%、
(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル0.1〜5質量%、
(c)レシチン0.05〜5質量%、並びに
(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル0.05〜5質量%
からなり、且つ(a)、(b)、(c)および(d)の合計量が5〜30質量%であることを特徴とするケーキ用流動状ショートニング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バタースポンジケーキ、パウンドケーキなど油脂を多量に配合したケーキ類の生地をオールインミックス法で製造するのに適した、ケーキ用流動状ショートニングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バタースポンジケーキやパウンドケーキなどのケーキ類は、「別立て法」や「共立て法」で泡立てた卵にふるった粉を加え、混ぜた生地に、溶かしたバターまたは液体油を加える方法で作られてきた。しかし、溶かしたバターまたは液体油などの油脂には消泡作用があるため、生地への混合には高度の熟練を要した。
【0003】
その後、食品用乳化剤を含むケーキ用起泡剤が開発され、例えばバタースポンジケーキは小麦粉、砂糖、卵、ベーキングパウダー、水などと共に油脂とケーキ用起泡剤を配合して、全原料を一度に混合する、いわゆるオールインミックス法で作られるようになってきた。しかし、該方法で作られたバタースポンジケーキの食感は、「別立て法」や「共立て法」で作られたものに比べて大きく劣ることは否めなかった。
【0004】
そこで、オールインミックス法でケーキを製造する際に用いられ、それを用いて得られたケーキの風味、食感を改良することを目的として、種々のケーキ用起泡剤が提案されている。該ケーキ用起泡剤の形態は、粉末、油脂組成物(ショートニング)、油中水型乳化油脂組成物、水中油型乳化油脂組成物、含水ゲル状組成物など様々であるが、この内油脂組成物(ショートニング)に関しては、例えば、油脂に対してポリグリセリン脂肪酸エステルおよびグリセリン有機酸脂肪酸エステルのうち1種または2種以上を合計で0.5〜6重量%配合してなるバームクーヘン用油脂組成物(特許文献1参照)、常温で液状の油脂90〜60重量部に常温で固体状の油脂10〜40重量部を配合した油脂ベース100重量部に対して、乳化剤としてプロピレングリコール脂肪酸エステル6〜12重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.5〜5重量部、有機酸グリセリン脂肪酸エステル0.1〜2重量部およびレシチン0.02〜0.5重量部を配合し、さらにソルビタン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルのうち1種あるいは2種以上を0.1〜2重量部配合してなり、かつ上記乳化剤の総量が8〜15重量部であるケーキ用流動状ショートニング(特許文献2参照)、常温で液状の油脂100重量部に対して、プロピレングリコール脂肪酸エステル4〜16重量部、レシチン0.01〜2重量部、ショ糖脂肪酸エステル0.01〜2重量部およびグリセリン脂肪酸エステル0.01〜6重量部を配合してなり、かつ上記乳化剤の総量が8〜18重量部である製菓用流動状ショートニング(特許文献3参照)などが提案されている。
しかしながら、上記油脂組成物を配合して作られたケーキの食感は必ずしも満足できるレベルに達したものではなく、別立て法や共立て法などと同じようにきめが粗く、軽いソフトな食感が得られるケーキ用起泡剤は未だ開発されるに到っていないのが実状である。
【特許文献1】特開昭60−110238号公報
【特許文献2】特開昭62−163656号公報
【特許文献3】特開昭59−98651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特にバタースポンジケーキ、パウンドケーキなど油脂を多量に配合したケーキ類生地をオールインミックス法で製造する際に用いられ、ケーキの生地の起泡性を向上させ、ソフトな食感のケーキを作ることができる、ケーキ用流動状ショートニングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意・検討を行った結果、油脂と食品用乳化剤からなる油脂組成物において、食品用乳化剤としてジグリセリン飽和脂肪酸エステル、グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル、レシチン、並びにグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステルを組み合わせることにより、上記課題が解決されることを見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕油脂と食品用乳化剤を含有するショートニングであって、前記ショートニング100質量%中、食品用乳化剤が以下の(a)〜(d);
(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル1〜25質量%、
(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル0.1〜5質量%、
(c)レシチン0.05〜5質量%、並びに
(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル0.05〜5質量%
からなり、且つ(a)、(b)、(c)および(d)の合計量が5〜30質量%であることを特徴とするケーキ用流動状ショートニング、
〔2〕ジグリセリン飽和脂肪酸エステルがジグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルであり、該ジグリセリンモノ飽和脂肪酸エステル中のモノエステル体含有量が70質量%以上であることを特徴とする前記〔1〕に記載のケーキ用流動状ショートニング、
からなっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のケーキ用流動状ショートニングは、従来の縦型ミキサーや強制的に生地に空気を吹き込んで起泡させる連続ミキサーを使用したオールインミックス法によるケーキ類の製造に用いることができる。
本発明のケーキ用流動状ショートニングは、ケーキ類の製造に適した起泡性を有し、起泡した泡は消泡することなく維持され得る。
本発明のケーキ用流動状ショートニングを用いて製造されたケーキは、「別立て法」や「共立て法」を用いた手作りにより製造されたケーキと同様に、断面(内相)のきめが粗く、軽くてソフトな食感を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いられる油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えば大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、椰子油、パーム油、パーム核油、落花生油、オリーブ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油およびハイオレイックヒマワリ油などの植物油脂、牛脂、ラード、魚油および乳脂などの動物油脂、さらにこれら動植物油脂を分別、水素添加またはエステル交換したもの並びに中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられ、好ましくは大豆油、菜種油またはMCTなど常温(約15〜25℃)で液状の油脂である。
【0010】
本発明で用いられる食品用乳化剤は、(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル、(c)レシチン、(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/または(e)ソルビタン飽和脂肪酸エステルである。
【0011】
上記(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルは、ジグリセリンと飽和脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応など自体公知の方法で製造される。
ジグリセリンは、通常グリセリンまたはグリシドールあるいはエピクロルヒドリンなどを加熱し、重縮合反応させて得られる重合度の異なるポリグリセリンの混合物である。
該ジグリセリンとしては、グリセリンの平均重合度が約1.5〜2.4、またはグリセリン2分子からなるジグリセリンの含有量が約50質量%以上、好ましくは約70質量%以上、より好ましくは約90質量%以上であるジグリセリンの混合物が挙げられる。ジグリセリンを高濃度化するための精製法としては、例えば蒸留あるいはカラムクロマトグラフィーなど自体公知の方法が用いられる。
【0012】
上記飽和脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする飽和脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸が挙げられる。更に、ケーキ生地の起泡性を向上させるためには、炭素数12〜22の直鎖の飽和脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸など)が好ましい。前記飽和脂肪酸は炭素数の異なる飽和脂肪酸を2種以上含む混合物であってもよい。飽和脂肪酸としては、特に、パルミチン酸および/またはステアリン酸を約50質量%以上、好ましくは約70質量%以上、より好ましくは約90質量%以上含有する飽和脂肪酸が好ましい。
【0013】
本発明で用いられる(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの好ましい例としては、モノエステル体を約70質量%以上含むジグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルが挙げられる。その製法の概略は以下の通りである。例えば、上記高純度のジグリセリン(好ましくは純度約70質量%以上)と高純度のパルミチン酸(好ましくは純度約90質量%以上)を、例えば等モルでエステル化反応させることにより、未反応のジグリセリン、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル、ジグリセリンジパルミチン酸エステル、ジグリセリントリパルミチン酸エステルおよびジグリセリンテトラパルミチン酸エステルなどを含む反応混合物が得られる。次に、該反応混合物から自体公知の方法、例えば低真空度での蒸留などで未反応のジグリセリンなどを除き、さらに、例えば流下薄膜式分子蒸留装置または遠心式分子蒸留装置などを用いて該混合物を分子蒸留することにより、留分として、ジグリセリンモノパルミチン酸エステルを約70質量%以上含むジグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルが得られる。
【0014】
本発明の油脂組成物100質量%中の(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの含有量は約1〜25質量%が好ましく、より好ましくは約3〜20質量%である。(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルは、ケーキ生地の起泡性を向上させる機能と共に、ケーキ生地中の気泡を安定化させる機能を併せ持つ。一方、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルではこのような作用は得られない。
【0015】
本発明で用いられる(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルは、グリセリンと有機酸と飽和脂肪酸のエステル化生成物であり、例えばグリセリン酢酸エステル、グリセリン酢酸飽和脂肪酸エステル、グリセリン乳酸飽和脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸飽和脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸飽和脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸飽和脂肪酸エステルなどが挙げられ、好ましくはグリセリンコハク酸飽和脂肪酸エステルまたはグリセリンジアセチル酒石酸飽和脂肪酸エステルである。
【0016】
グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルを構成する飽和脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする飽和脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸が挙げられ、好ましくは炭素数16〜22の直鎖の飽和脂肪酸(例えばパルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸など)を約50質量%以上、好ましくは約70質量%以上、より好ましくは約90質量%以上含有する飽和脂肪酸である。前記飽和脂肪酸は炭素数の異なる飽和脂肪酸を2種以上含む混合物であってもよい。
【0017】
上記グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルは、通常グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルと有機酸(または有機酸の酸無水物)との反応、またはグリセリンと有機酸と飽和脂肪酸との反応により得ることができる。例えば、グリセリンコハク酸飽和脂肪酸エステルの製法の概略は以下の通りである。即ち、グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルを溶融し、これにコハク酸の酸無水物を加え、温度120℃前後で約90分間反応する。グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルとコハク酸の酸無水物との比率は質量比で1/1〜1/2が好ましい。さらに、反応中は生成物の着色、臭気を防止するために、反応器内を不活性ガスで置換する方が好ましい。得られたグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルとコハク酸の酸無水物との反応物は、グリセリンコハク酸飽和脂肪酸エステルの他に、コハク酸、未反応のグリセリンモノ飽和脂肪酸エステル、その他を含む混合物である。
【0018】
本発明の油脂組成物100質量%中のグリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの含有量は約0.1〜5質量%が好ましく、より好ましくは約0.3〜1質量%である。グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルは、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルのケーキ生地の起泡性を向上させる機能を保護し、結果としてソフトな食感のケーキを作る作用を有する。一方、グリセリン有機酸不飽和脂肪酸エステルではこのような作用は得られない。
【0019】
本発明で用いられる(c)レシチンは、油糧種子または動物原料から得られるもので、リン脂質を主成分とするものであれば特に制限は無く、例えば大豆レシチンおよび卵黄レシチンなど油分を含む液状レシチン、液状レシチンから油分を除き乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン並びにレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチンおよび酵素処理レシチンなどが挙げられる。上記リン脂質としては、例えばフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸、リゾレシチンおよびリゾフォスファチジン酸などが挙げられる。
【0020】
本発明の油脂組成物100質量%中のレシチンの含有量は約0.05〜5質量%が好ましく、より好ましくは約0.1〜2質量%である。レシチンは、ショートニング中の乳化剤の結晶の粗大化を抑制し、結晶の分離や沈殿を抑制する機能を有する。
【0021】
本発明で用いられる(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステルにおける、グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルは、グリセリンと飽和脂肪酸とのエステル化生成物であり、その構成脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とし、約30℃以上の融点を有する飽和脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数10〜24の直鎖の飽和脂肪酸、具体的には例えばカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などが挙げられる。更に、油脂組成物の安定性を向上させるためには、炭素数14〜22の直鎖の飽和脂肪酸を、好ましくは約50質量%以上、より好ましくは約70質量%以上含有する飽和脂肪酸を用いるのが好ましい。前記飽和脂肪酸は炭素数の異なる飽和脂肪酸を2種以上含む混合物であってもよい。
【0022】
グリセリンモノ飽和脂肪酸エステル中のモノエステル含有量は、好ましくは約90質量%以上である。その製法の概略は以下の通りである。即ち、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応またはグリセリンと油脂(トリアシルグリセリン)とのエステル交換反応により、グリセリン、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステルおよびグリセリントリ脂肪酸エステルなどを含む混合物が得られる。次に、該混合物から自体公知の方法、例えば低真空度での蒸留などで未反応のグリセリンなどを除き、さらに、例えば流下薄膜式分子蒸留装置または遠心式分子蒸留装置などを用いて分子蒸留することにより、留分として、モノエステルを約90質量%以上含む、グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルが得られる。
【0023】
本発明で用いられるソルビタン飽和脂肪酸エステルは、ソルビタンを主成分とするソルビトールの分子内縮合物と飽和脂肪酸とのエステル化生成物であり、その構成脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とし、約30℃以上の融点を有する飽和脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数10〜24の直鎖の飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、上記グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルで例示したものなどが挙げられる。更に、油脂組成物の安定性を向上させるためには、炭素数14〜22の直鎖の飽和脂肪酸を、好ましくは約50質量%以上、より好ましくは約70質量%以上含有する飽和脂肪酸を用いるのが好ましい。前記飽和脂肪酸は炭素数の異なる飽和脂肪酸を2種以上含む混合物であってもよい。
【0024】
本発明の油脂組成物100質量%中の(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステルの含有量は約0.05〜5質量%が好ましく、より好ましくは約0.3〜3質量%である。グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステルは本発明のショートニング中に微細結晶の形で配合され、油脂組成物中の(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルおよび(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの結晶の分離や沈殿を抑制する機能を有する。
【0025】
本発明のショートニング100質量%中の上記食品用乳化剤(a)〜(d)の含有量の合計は、好ましくは約5〜30質量%である。食品用乳化剤の含有量が約5質量%未満であると、十分な起泡性が得られない。また、食品用乳化剤の含有量が約30質量%を越える場合にはショートニングの流動性が悪くなり、自動計量などに不都合を生じ作業性が悪くなる。
【0026】
本発明になるショートニングの製造方法は特に限定されず、自体公知の方法を用いることができる。以下に、好ましいショートニングの製造方法を例示する。例えば、油脂、(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル、(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルおよび(c)レシチンを混合し、約65〜90℃程度に加熱し溶解する。次に、得られた溶解物を攪拌しながら急冷し、その後、必要であればテンパリング操作を行い、油脂組成物(I)を得る。
別に、油脂と(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステルを混合し、約65〜90℃程度に加熱し溶解する。次に、得られた溶解物を攪拌しながら急冷し、その後、グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルを配合した場合はテンパリング操作を行い、ソルビタン飽和脂肪酸エステルを配合した場合は必要であればテンパリング操作を行い、油脂組成物(II)を得る。
次に油脂組成物(I)と油脂組成物(II)を所定の比率で混合し、本発明の流動状ショートニングを得る。油脂組成物(I)と油脂組成物(II)の比率は、約9:1〜約1:9(W/W)である。該流動状ショートニングの性状は乳化剤の濃度などにより異なり一様ではないが、おおむね液状または流動性を有するスラリー状を呈する。
尚、上記製法において、(c)レシチンは油脂組成物(I)に配合する代わりに、油脂組成物(II)に配合しても良く、また油脂組成物(I)と油脂組成物(II)の両方に配合しても良い。
【0027】
上記油脂組成物を製造するための装置としては特に限定されず、例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板などを備えた通常の攪拌・混合槽などを用いることができる。攪拌機に装備する攪拌翼の形状はプロペラ型、かい十字型、フラットタービン型、ディスクタービン型またはいかり型などのいずれでも良いが、好ましくはプロペラ型またはフラットタービン型である。
【0028】
上記混合溶液の冷却は、前記加熱用のジャケットに水または冷媒を通すことにより行われてもよいが、工業的には、攪拌・混合槽より混合溶液を抜き出し、ボテーター(ケメトロン社)、オンレーター(桜製作所社)またはコンサーム(アルファ・ラバル社)などの掻きとり式の急冷混捏装置を用いて行われるのが好ましい。
【0029】
油脂組成物(II)の製造において、グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルを配合した場合は、得られた急冷物をテンパリングすることが必須となる。グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルの結晶は、急冷終了時点では、通常最大長が約20〜100μm程度の粗大な層状結晶となっている。結晶の最大長が約20μm以上であると、ケーキ生地の起泡性を阻害する恐れがある。そこで、結晶の最大長を約0.1〜20μm未満、好ましくは約0.1〜10μm以下の微細結晶とするため、油脂組成物のテンパリングを行うことが好ましい。
【0030】
テンパリングの温度は、配合するグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルの種類により異なり一様ではないが、通常グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルのβプライム型結晶の融点より約2〜15℃低い温度が好ましい。例えば、グリセリンモノステアリン酸脂肪酸エステルを配合した場合、その温度は約43〜51℃が好ましい。テンパリングの時間は、テンパリングの温度により異なり一様ではなく、適宜サンプリングして結晶の大きさを観察することにより決められる。結晶の大きさは、通常、光学顕微鏡を用いて測定される。
【0031】
油脂組成物(II)の製造において、ソルビタン飽和脂肪酸エステルを配合した場合は、得られた急冷物を必ずしもテンパリングする必要はないが、急冷終了時点での結晶の最大長が約20μm以上である場合には、結晶の最大長を約0.1〜20μm未満、好ましくは約0.1〜10μm以下の微細結晶とするため、油脂組成物のテンパリングを行うことが好ましい。
【0032】
本発明になる流動状ショートニングには、流動性、起泡性能、気泡安定性または風味などに影響を及ぼさない範囲で、β−カロテンなどの着色料;抽出トコフェロール、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステルなどの油溶性の酸化防止剤;ミルクフレーバー、バニラ香料、オレンジオイルなどの着香料;アラビアガム、アルギン酸及び/又はその塩、カシアガム、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、キチン、キトサン、グアーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、トラガントガム、ファーセレラン、プルラン、ペクチン、ローカストビーンガムなどの増粘安定剤;微結晶セルロース;α化澱粉などを添加してもよい。
【0033】
本発明になる流動状ショートニングは、スポンジケーキ、ロールケーキ、バタースポンジケーキ、パウンドケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ、蒸しケーキなどのケーキ類を製造する際の起泡剤として、またケーキに配合される油脂の一部または全部の代替として生地に添加して用いられる。生地へのショートニング添加量は、製造するケーキの種類、使用する機械などにより異なるが、例えば、一般的なオールインミックス法によるスポンジケーキの製造においては、小麦粉100質量部に対してショートニング約10〜60質量部が好ましい。
【0034】
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
流動状ショートニングの作製
(1)流動状ショートニング作製用原材料
〔実施例1〜5〕
1)油脂として、菜種油(吉原製油社)を用いた。
2)ジグリセリン飽和脂肪酸エステルとして、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル(製品名:ポエムDP−100,モノエステル体含量 約85質量%,構成脂肪酸中のパルミチン酸含量約90質量%以上;理研ビタミン社)またはジグリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:ポエムDS−100A,モノエステル体含量 約80質量%,構成脂肪酸中のC16〜18脂肪酸含量約90質量%以上;理研ビタミン社)を用いた。
3)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルとして、グリセリンコハク酸ステアリン酸エステル(製品名:ポエムB−10;理研ビタミン社)またはグリセリンジアセチル酒石酸ステアリン酸エステル(製品名:ポエムW−10;理研ビタミン社)を用いた。
4)レシチンは、レシチンDX(製品名;日清オイリオ社)を用いた。
5)グリセリン飽和脂肪酸エステルとして、グリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:エマルジーMS,モノエステル体含量 約90質量%以上;理研ビタミン社)を用いた。
6)ソルビタン飽和脂肪酸エステルとして、ソルビタントリステアリン酸エステル(製品名:ポエムS−65V;理研ビタミン社)を用いた。
【0036】
〔比較例1〜4〕
ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの代わりにジグリセリン不飽和脂肪酸エステル〔ジグリセリンモノオレイン酸エステル(製品名:ポエムDO−100,モノエステル体含量 約80質量%;理研ビタミン社)〕、またはテトラグリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:SY−グリスター MS−3S;阪本薬品工業社)もしくはヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル(製品名:SY−グリスター MS−5S;阪本薬品工業社)を、グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステルの代わりに、グリセリン有機酸不飽和脂肪酸エステル〔グリセリンクエン酸オレイン酸エステル(製品名:ポエムK−37;理研ビタミン社)〕を用いた。
【0037】
(2)流動状ショートニングの配合
上記原材料を配合して流動状ショートニング(製剤1〜10)を作製した。配合組成を表1および表2に示した。この内、製剤1〜5は本発明に係る実施例1〜5である。製剤6〜10は比較例1〜5である。
【0038】
【表1】

【0039】
(3)流動状ショートニング(製剤1)の作製
作製する流動状ショートニングの総量を1000gとし、その内油脂組成物(I)の量を900g、油脂組成物(II)の量を100gとした。
a)油脂組成物(I)の作製
1)2L容ステンレス製ビーカーに菜種油832g、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル60g、グリセリンコハク酸ステアリン酸エステル5gおよびレシチン3gを入れ、約80℃に加熱し、溶解する。
2)得られた混合溶液をビーカーごと約10℃の恒温水槽に漬け、ビーカー内壁をゴムへらで掻きとりながら25℃まで冷却し、油脂組成物(I)を得た。
b)油脂組成物(II)の作製
1)200mL容ビーカーに菜種油95gとグリセリンモノステアリン酸エステル5gを入れ、約80℃に加熱し、溶解する。
2)得られた混合溶液をビーカーごと約10℃の恒温水槽に漬け、ビーカー内壁をゴムへらで掻きとりながら25℃まで冷却する。
3)得られたスラリー状混合物をビーカーごと約50℃の恒温水槽に漬け、約1時間テンパリングした。テンパリング終了後室温まで放冷し、乳化剤の結晶の大きさを光学顕微鏡(システム生物顕微鏡BX50;オリンパス社製)で測定し、結晶の最大長が10μm以下であることを確認し、油脂組成物(II)を得た。
c)流動状ショートニングの作製
室温下で、油脂組成物(I)と油脂組成物(II)を均一に混合し、流動状ショートニング(製剤1)を得た。
【0040】
(4)流動状ショートニング(製剤2〜9)の作製
流動状ショートニング(製剤1)の作製方法に準じてそれぞれ油脂組成物(I)と油脂組成物(II)を作製し、油脂組成物(I)と油脂組成物(II)を均一に混合し、流動状ショートニング(製剤2〜9)を得た。
【0041】
(5)流動状ショートニング(製剤10)の作製
流動状ショートニング(製剤1)の油脂組成物(I)の作製方法に準じて、菜種油を全量(=932g)用いて油脂組成物を作製し、流動状ショートニング(製剤10)を得た。
【0042】
〔バタースポンジケーキの作製と評価〕
(1)ケーキ生地の配合(配合組成を表3に示した。)
【表2】

【0043】
(2)ケーキの作り方
上記の配合で総仕込量を804gとして、5コート縦型ミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社)の中に砂糖、全卵、流動状ショートニングを入れ、ワイヤーホイッパーで低速にて攪拌し、軽く混合した。これに製菓用サラダ油、水および薄力粉とベーキングパウダーを篩に通したものを加え、低速で1分間混合し、ついで高速で4分間ホイップした。得られたケーキ生地の比重(g/mL)を表4に示した。
得られたケーキ生地を側面と底面に紙を敷いた7号丸型に600g採り、約20cm位上から2〜3回落として大きな気泡を抜き、約170℃の電気オーブンで35分間焼成した。
【0044】
【表3】

【0045】
(3)ケーキの評価
得られたケーキを1時間室温で冷却した後ポリエチレン製袋に密封し、室温にて1日間保存した。評価直前にケーキを切り分け、パネラー15名による官能試験により、ケーキの内相、ソフトさ、口どけについて評価した。各項目の評価基準を以下に示した。
【0046】
評価基準:
a)内相
3点 きめが粗く、且つ均一である
2点 きめが粗いが、均一性に乏しい
1点 きめが細かい
b)ソフトさ
3点 ソフトである
2点 ふつう
1点 硬い
c)口どけ
3点 良い
2点 ふつう
1点 悪い
【0047】
上記a)〜c)の3項目について、パネラーの評価点の平均値により下記の基準を設け、評価結果を記号で示した。評価結果を表5に示した。
○ 2.5以上
△ 1.5以上、2.5未満
× 1.5未満
【0048】
【表4】

【0049】
表4の結果から、本発明に従う製剤1〜5を添加することにより、内相、食感に優れたケーキが得られることが明らかである。一方、本発明に従う流動状ショートニングを構成する要件を欠いた乳化剤、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステル、テトラグリセリン飽和脂肪酸エステル、ヘキサグリセリン飽和脂肪酸エステルまたはグリセリン有機酸不飽和脂肪酸エステルを配合した製剤6〜9ではケーキの内相、ソフトさ、口どけのいずれにおいても満足できる結果は得られなかった。
【0050】
[試験例1]
製剤1と製剤10各400gを500mL容トールビーカーに入れ、開口部をアルミ箔で覆い、5℃恒温器中に保存し、1週間、2週間および3週間後の状態を観察した。結果を表5に示した。本発明のショートニング(製剤1)は、3週間後においても形状などが安定であった。
【0051】
【表5】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と食品用乳化剤を含有するショートニングであって、前記ショートニング100質量%中、食品用乳化剤が以下の(a)〜(d);
(a)ジグリセリン飽和脂肪酸エステル1〜25質量%、
(b)グリセリン有機酸飽和脂肪酸エステル0.1〜5質量%、
(c)レシチン0.05〜5質量%、並びに
(d)グリセリンモノ飽和脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン飽和脂肪酸エステル0.05〜5質量%
からなり、且つ(a)、(b)、(c)および(d)の合計量が5〜30質量%であることを特徴とするケーキ用流動状ショートニング。
【請求項2】
ジグリセリン飽和脂肪酸エステルがジグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルであり、該ジグリセリンモノ飽和脂肪酸エステル中のモノエステル体含有量が70質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のケーキ用流動状ショートニング。


【公開番号】特開2006−230224(P2006−230224A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46295(P2005−46295)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】