説明

ケーソンおよびその設計方法

【課題】 コストダウンに有効な、フーチングを有するケーソンの合理的設計方法を提供する。
【解決手段】 海側側壁、陸側側壁にフーチングを有するケーソンをつくるに際し、フーチングを含むケーソン底板に作用する鉛直方向の揚圧力とフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力とを考慮してケーソン本体の断面サイズを決定し、ケーソン本体の幅を低減できるようにする。特に、鉛直方向の揚圧力の算出をあらかじめ定められた第1の近似式を利用して行い、鉛直方向の抑圧力の算出をあらかじめ定められた第2の近似式を利用して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防波堤用ケーソンおよびその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、フーチングを有するケーソンの設計法は、フーチングに作用する波圧を無視して設計されている。フーチングに作用する波圧を無視する背景には、従来の設計法はフーチング長が短い場合を想定して確立されていることがある。これは、過去の実験などからフーチング長が短い場合は、フーチングに作用する鉛直下向きの波圧(抑圧力)と鉛直方向(上向き)の揚圧力が相殺し、フーチングに作用する波圧を無視しても大差がないことが確認されているためである。
【0003】
しかしながら、最近、長大なフーチングを有するケーソンが必要とされている。この場合、フーチングに作用する鉛直下向きの波圧は、フーチング長が大きくなるに従って大きくなり、フーチングを無視したケーソンの波圧合力は相殺しなくなる。このため、長大フーチングを有するケーソンの断面は過剰設計になる問題点を有していた。
【0004】
一方、既設の防波堤(ケーソン)は、防波堤が計画された時の設計水深、波高で設計、施工されている。しかし、将来、地球温暖化などの要因により海面が上昇すると、波力が増大し、既設の防波堤および背後の地域および住民は被害を受けるおそれがある。そのため、防波堤の天端高を嵩上げして重量を増加する方法が考えられているが、軟弱地盤においては防波堤が沈下する問題点を有している。
【0005】
加えて、港湾施設の大水深化や泊地の水域環境保全、軟弱地盤への施設の築造など、港を構成する防波堤や岸壁には様々な要求がなされている。これらの要求に合わせて、防波堤や岸壁は、数々の新形式構造が開発され、適用されてきた。中でも、フーチングの張出しを大きくしたハイブリッドケーソンは新形式構造の代表的な例と言える。
【0006】
ハイブリッドケーソンは、鋼材とコンクリートで構成される複合構造物であり、要求される点として以下の点が挙げられる。
【0007】
1.部材厚が薄く進水重量が軽量であること。
【0008】
2.ケーソンの転倒防止に効果があること。
【0009】
3.フーチングを大きく張出すことが可能であり、自重を分散でき、軟弱地盤への築造が可能であること。
【0010】
4.岸壁・護岸に使用する際、仮想背面を陸側フーチング先端としてケーソン本体幅を比較的小さくできること。
【0011】
これらの点を満足するハイブリッドケーソンは、主に軟弱地盤への適用が考えられる。
【0012】
ところで、ハイブリッドケーソンのように長大フーチングを有したケーソンの波圧算定法に着目すると、非特許文献1には以下のような点が開示されている。図1に示すように、ケーソン100のフーチング101、102には、波が作用する側のフーチング101において、フーチング101上面で鉛直方向(下向き)に抑圧力(波圧)pcが作用し、揚圧力は底面前趾がpu´、底面後趾が0となるフーチングを含めた底面全幅に三角形分布するとされている。
【0013】
また、非特許文献1ではフーチングが非常に長い場合を除き、フーチングを有する場合の上記抑圧力の合力は、フーチングが無いとした場合の揚圧力と大差が無いとしている。このため、揚圧力およびフーチング上面で鉛直方向(下向き)に作用する抑圧力の取り扱いは、フーチングに作用する揚圧力および鉛直方向(下向き)に作用する抑圧力を無視して、直立壁前面の延長位置P1でpu、直立壁後面の延長位置P2で0の三角形分布として揚圧力を算定しても良いとされている。これより、現行の長大フーチングを有する抑圧力(波圧)の算定においては、フーチングが無い、もしくはフーチング長が短い(通常、フーチング長1.5m程度まで)場合と同様に、合田公式と呼ばれる公式を適用して算定している(非特許文献2参照)。
【0014】
一方、非特許文献3には、水深波長比が0.286〜0.750の大水深における重複波を対象として、二次元水理模型実験を実施し、フーチングを有するケーソンの合理的な設計波力算定法が提案されている。非特許文献3では、揚圧力がフーチングを含む底板全体に作用することや、フーチング上面に作用する鉛直下向きの波圧が抑圧力として作用するとし、波圧の定式化まで行っている。しかしながら、これらを考慮した設計法が、現行設計法と比較して、どの程度影響を与えるのかまでは研究されていない。
【0015】
【非特許文献1】『港湾の施設の技術上の基準・同解説』(上巻)、(社)日本港湾協会、1999年発行
【非特許文献2】Goda.Y.:New wave pressure formulae for composite breakwaters,Proc.14th Int.Conf.Coastal Eng.,Copenhagem.ASCE,PP.1702−1720,1974.
【非特許文献3】『大水深における重複波を考慮した設計波力算定法』(酒井浩二、井福周介、大釜達夫、山崎耕嗣)、第45回海岸工学論文集、pp.746−750、1998.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、コストダウンに有効な、フーチングを有するケーソンおよびその合理的設計方法を提供することにある。
【0017】
本発明の他の課題は、地球温暖化などに伴う海面上昇時、既設の防波堤に対して所定の機能を維持させるのに適したケーソンの補修設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によるケーソンの設計方法は、海側側壁、陸側側壁のうち少なくとも海側側壁にフーチングを有するケーソンをつくるに際し、フーチングを含むケーソン底板に作用する鉛直方向の揚圧力とフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力とを考慮してケーソン本体の断面サイズを決定することを特徴とする。
【0019】
本設計方法においては、特に、前記鉛直方向の揚圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第1の近似式を利用して行い、
UE/PUG=0.7exp(−15b/λ)+0.3(但し、PUEはケーソンにおける任意計測点の揚圧力、PUGは合田公式により得られる揚圧力、bはフーチング長、λはケーソンに作用する波の波長)
前記鉛直方向の抑圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第2の近似式を利用して行う、
/Ph=min{0.7,0.7exp(20x/λ)+0.3}(但し、Pはフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力、Phはケーソン本体の側壁に高さhにおいて作用する水平波力、x/λはケーソン本体とフーチングとの境界に設定された原点座標からX座標軸に関して離れた距離xを波長λで無次元化した値)
ことを特徴とする。
【0020】
本発明によるケーソンは、海側側壁、陸側側壁のうち少なくとも海側側壁にフーチングを有するケーソンであり、ケーソン本体は、フーチングを含むケーソン底板に作用する鉛直方向の揚圧力とフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力とを考慮して決定された断面サイズを有し、前記鉛直方向の揚圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第1の近似式を利用して行い、
UE/PUG=0.7exp(−15b/λ)+0.3(但し、PUEはケーソンにおける任意計測点の揚圧力、PUGは合田公式により得られる揚圧力、bはフーチング長、λはケーソンに作用する波の波長)
前記鉛直方向の抑圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第2の近似式を利用して行う、
/Ph=min{0.7,0.7exp(20x/λ)+0.3}(但し、Pはフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力、Phはケーソン本体の側壁に高さhにおいて作用する水平波力、x/λはケーソン本体とフーチングとの境界に設定された原点座標からX座標軸に関して離れた距離xを波長λで無次元化した値)
ことにより、ケーソン本体が幅方向に関して減少されたサイズを有することを特徴とする。
【0021】
本発明によればまた、フーチングを持たないケーソンの上面に嵩上げを行う補修に際し、ケーソンの海側側壁、陸側側壁のうち少なくとも海側側壁にフーチングを取り付けることにより、地盤に作用する嵩上げ重量分を含んだケーソン重量を分散させるケーソンの補修設計方法が提供される。本補修設計方法においては、取り付けされるべきフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力と取り付けされるべきフーチングを含むケーソン底板に作用する鉛直方向の揚圧力を考慮してフーチングのサイズを決定し、前記鉛直方向の揚圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第1の近似式を利用して行い、
UE/PUG=0.7exp(−15b/λ)+0.3(但し、PUEはケーソンにおける任意計測点の揚圧力、PUGは合田公式により得られる揚圧力、bはフーチング長、λはケーソンに作用する波の波長)
前記鉛直方向の抑圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第2の近似式を利用して行う、
/Ph=min{0.7,0.7exp(20x/λ)+0.3}(但し、Pはフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力、Phはケーソン本体の側壁に高さhにおいて作用する水平波力、x/λはケーソン本体とフーチングとの境界に設定された原点座標からX座標軸に関して離れた距離xを波長λで無次元化した値)
ことを特徴とする。
【0022】
本補修設計方法においてはまた、前記取り付けされるべきフーチングは鋼材とコンクリートで構成されるとともに、ケーソンの法平側壁に対向する側に上下方向に延びる複数の取付け用鋼材が間隔をおいて埋込まれており、該取付け用鋼材は、前記ケーソンの法平側壁に対して複数の埋込みボルトにより取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のケーソン設計方法によれば、ケーソンを新規に設置する場合、フーチングに作用する鉛直方向の抑圧力およびフーチングを含んだ底板に作用する揚圧力の設計により過剰設計を防止することができる。
【0024】
また、フーチングに作用する鉛直方向の抑圧力およびフーチングを含んだ底板に作用する揚圧力の設計によりケーソン、特に堤体の合理的断面を提供することができる結果、堤体の幅を低減できることにより現行設計法によるものに比べて堤体重量、コストを軽減することができる。
【0025】
また、本発明の補修設計方法によれば、既設のケーソンに嵩上げ部を設置した場合、ケーソンの海側側壁に本発明により設計されたフーチングを取り付けることにより、嵩上げ増分した堤体重量を分散させることができる。これにより、嵩上げ増分に起因するケーソンの沈下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、長大フーチングを有するケーソンについて、水理模型実験を行って水平波力、揚圧力およびフーチング上面に作用する鉛直方向の圧力(以下、抑圧力と呼ぶ)を詳細に考察した結果、特にコストダウンに有効な長大フーチングを有するケーソンの設計法を提供するものである。
【0027】
本発明によるケーソン、特にフーチング設計法を考察するために以下の実験水路、造波機およびケーソン模型を使用して実験を行った。
【0028】
以下の表1に示す通り、実験水路の仕様は、長さ50.0m、幅1.0m、高さ1.5mである。造波機は、最大造波高45cm(水深1.0m、周期2.0sec)、造波周期0.5sec〜5.0secの不規則波造波装置を用いた。一方、ケーソン模型は、本体側壁をアクリル板(t=15mm)で、底板をモルタル(t=50mm)で構築している。また、フーチングの有無、長さの変化による影響を考察するために、フーチングは、ボルトとナットにより本体への取外しが可能な構造とした。
【0029】
【表1】

【0030】
以下の表2にケーソン模型(以下、ケーソンと呼ぶ)本体の諸元およびフーチング長を示す。本実験では、フーチング長による揚圧力および抑圧力の変化を考慮するため、フーチング長bは、0m、0.2mおよび0.4mの3ケースについて行った。
【0031】
【表2】

【0032】
図2は、波圧実験時のケーソン設置状況を示す。図2(a)からもわかるように、前後にフーチング201を有する幅0.4m、長さ0.5m、高さ0.4mおよび0.5mのケーソン本体200を水路幅中央部に設置し、その両側に幅0.245mのコンクリート製ダミー本体210およびダミーフーチング211を設置した。
【0033】
図2(b)の断面図における黒丸印は波圧計の取付け位置を示しており、波が作用するケーソン本体側壁、底板下面、およびフーチング上面に合計13個の波圧計を取付けた。ケーソンは、略台形状のマウンド220上に設置され、ケーソンの領域以外のマウンド220の上面は被覆石221で覆うようにした。また、ケーソン高さが0.4mの実験においては、ケーソン本体側壁の港内側に×印で示す位置に変位計を取付け、波圧作用時のケーソンの滑動量も計測した。
【0034】
なお、以降の検討結果は、ケーソン本体とフーチングとの境界に設定された原点Oを図2(b)の(x、y)=(0、0)とし、水路の下手方向をX座標の正方向とする。従って、上下方向がY座標となる。
【0035】
実験条件を以下の表3に示す。実験時の水深は、静水位からケーンン天端高との差が同様となるように0.4mおよび0.55mとした。また、波高Hは0.2m〜0.3m、周期Tは、1.5sec〜2.5secとしている。
【0036】
【表3】

【0037】
表3において、h:ケーソンの直立壁前面での水深、H:造波される波高、T:造波周期、λ:微小振幅波理論より得られる波長、Ks:浅水係数である。
【0038】
[実験結果]
(1)滑動量
長大フーチングを有するケーソンに作用する波圧を検証する前に、波圧作用時のケーソンの滑動量を調査した。
【0039】
波圧作用時のケーソン滑動量を算出するに当り、ケーソンが回転変位を起こしている場合、滑動量をどの位置で定義するかが重要となる。一般的には、ケーソンの重心位置の水平変位として滑動量を定義するが、ケーソンの重心位置を正確に求めることができない。このため、本実験では、図3で示すようにケーソン本体の後端趾で定義した。
【0040】
これより、波圧作用時のケーソン滑動量SDは、次式(1)で与えられる。
【0041】
SD=(7×L2−3×L1)/4 (1)
式(1)において、L1:上側変位計測データ、L2:下側変位計測データである。
【0042】
また、波圧作用時のケーソンの気中および水中重量を以下の表4に示す。表4において、Uは浮力、Wairは気中重量、Wwaterは水中重量である。本実験では、フーチングに作用する波圧を検証するため、フーチング長に関わらず水中重量をほぼ一定とした。
【0043】
【表4】

【0044】
図4に滑動量を示す。図4において、縦軸は滑動量SD(cm)、横軸は波高水深比(H:波高、h:水深)である。図4中のプロットは実験結果(*:b=0m、+:b=0.2m、白丸:b=0.4m)を示している。
【0045】
表4および図4より、フーチング長b=0.4mは、他のケースよりも滑動量SDが最も少ない。また、b=0mとb=0.2mとを比較すると、滑動量SDはほぼ同値であるものの若干b=0.2mの方が少ない。これらより、フーチングには、これまで指摘されているように、フーチング上面に鉛直方向に抑圧力が作用していると言える。さらに、フーチングに作用する揚圧力と抑圧力は、フーチング長が長くなるにしたがい、両者の合力の差に大きな差が生じると推察できる。
【0046】
(2)水平波力
図5に表3の実験ケースC55−2の水平波力分布を示す。図5において、縦軸は波圧計を取付けた任意の高さ位置yで、横軸は任意の高さ位置における水平波力Phである。なお、図5中のプロットは実験結果(*:b=0m、+:b=0.2m、白丸:b=0.4m)を示しており、実線は非特許文献2に開示された合田公式により算出した水平波力分布である。図5より、いずれもフーチング長bに関係なく、ほぼ同じ波圧分布となっていることがわかる。そのため、水平波力は、フーチング長bに影響されないと考えられる。また、実験ケースC55−2の実験より得られた波圧は、合田公式より得られた値よりも小さいが、実験全体を通じて得られた波圧は、合田公式に平均的に近かった。そのため、ケーソン直立壁前面に作用する水平波力は、フーチングの有無に関わらず合田公式で算定できる。
【0047】
(4)揚圧力
図6に実験ケースC55−2の揚圧力分布を示す。縦軸Puは任意の点における揚圧力、横軸xはフーチングを含むケーソン底板でのX座標位置を表している。図6中のプロットは実験結果(*:b=0m、+:b=0.2m、白丸:b=0.4m)を示し、実線は合田公式によって算出した揚圧力分布である。
【0048】
フーチング長b=0mの実験結果は、底面後趾で0、前趾で最大値となる三角形分布となり、前趾の揚圧力および分布形状ともに合田公式と良く一致している。これより、合田公式は、フーチングが無い場合の揚圧力をよく再現していると言える。
【0049】
一方、フーチング長b=0.2mおよびb=0.4mの場合は、両者ともフーチングを含む底板全体に揚圧力が作用し、揚圧力は、後趾で0、前趾で最大値となる三角形分布をしている。また、b=0.2mおよびb=0.4mの前趾の揚圧力は、b=0mで得られた前趾の揚圧力よりも小さく、フーチング長bが大きくなるにしたがって前趾の揚圧力は小さくなっている。これより、長大フーチングを有するケーソンの揚圧力分布は、底板後趾を0、前趾を最大値とする三角形分布となり、揚圧力の合力は、フーチングが無い場合と同様に、前趾の最大値に依存することがわかる。
【0050】
図7にフーチング長bを変化させた場合の底板前趾の揚圧力を示す。縦軸は実験より得られた任意計測点の揚圧力PUEを合田公式より得られる揚圧力PUGで、また、横軸はフーチング長bを波長λでそれぞれ無次元化したものである。
【0051】
UE/PUGは、b/λの増加に伴い減少して0.3に漸近する傾向にあり、PUE/PUGの減少傾向は、指数関数的な特徴を有している。そこで、長大フーチングを有するケーソンに作用する底板前趾の揚圧力の近似式(第1の近似式)として、以下の式(2)を導出した。式(2)は図7に示している実線の近似式である。
【0052】
UE/PUG=0.7exp(−15b/λ)+0.3 (2)
これより、長大フーチングを有するケーソンの揚圧力は、フーチングを含む底板全体幅の後趾を0、前趾を式(2)で得られる値の三角形分布として算出することができる。
【0053】
(4)抑圧力
図8にフーチング長b=0.2mおよびb=0.4mの抑圧力の実験結果(+:b=0.2m、白丸:b=0.4m)を示す。図中の縦軸は、抑圧力Pを水平波圧Ph80で無次元化したものである。なお、Ph80は、図2(b)における原点Oより鉛直y方向に80mm上がった点で、フーチング基部の上面とケーソン本体との接続部の水平波圧である。一方、横軸は、原点OからX座標に関して距離xだけ離れたフーチング上面に取付けた計測点xを波長λで無次元化したものである。
【0054】
図8中の一点鎖線は、非特許文献3で提案されている抑圧力分布であり、以下の式(3)で表現される。
【0055】
Pν(x)=PV0・cos(kb) (3)
式(3)において、Pν(x):抑圧力(=P)、PV0:フーチング上面基部の波圧(≒P(Z)=Ph80)、k:波数(=2π/λ)である。
【0056】
図8よりフーチング長b=0.2mの抑圧力分布は、フーチングの基部から先端にわたって一様の分布をしている。一方、b=0.4mの抑圧力分布は、フーチング基部から先端に向って、抑圧力の値が減少する傾向を呈す。一般的に、抑圧力の分布形状としては、b=0.4mの抑圧力分布が示すように、フーチングの基部から先端に向かって、抑圧力は低減すると推察される。しかし、本実験結果では、b=0.2mの抑圧力は、バラツキが大きいものの、一様の分布をしていることがわかる。
【0057】
一方、非特許文献3による上記の提案式(3)と本実験で得られたデータとを比較すると、式(3)が、本実験より得られたデータを上回る抑圧力の値となっている。これは、設計を行う上で危険側となり、実構造物に置き換えて考えると、高波浪来襲時に防波堤の被災が懸念される。また、式(3)が三角関数であるのに対し、本実験データは指数関数的な減少をしている。そのため、本実験においては、抑圧力の算定式として以下の式(4)を導出した。
【0058】
/Ph80
=min{0.7,0.7exp(20x/λ)+0.3} (4)
式(4)では、フーチング基部付近(x/λ<0.03)で、一様分布させるとともに、フーチング先端に近づくほど抑圧力が低減する分布形状とした。
【0059】
式(2)および式(4)を採用した本発明に基づく設計法と現行設計法との比較を行うため、安定計算による試設計を実施した。安定計算の条件は、滑動安全率を1.2以上、転倒安全率を1.2以上、端趾圧の上限値を700(kN/m2)とした。なお、ケーソン本体幅およびフーチング長の増分は、煩雑を避けるために、0.5m刻みで安定計算を実施した。
【0060】
図9および表5に、波高H=10.0m、水深h=20m、波長λ=200m時の安定計算結果を示す。
【0061】
安定計算というのは、国土交通省公示第48条第1項〜第3項で規定されている計算式に基づく計算であり、非特許文献1にも開示されている。
【0062】
つまり、重力式防波堤の直立部の安定の検討、特に滑り出しに対する安定の検討は以下の式(5)で行い、転倒に対する検討は以下の式(6)で行うことが定められている。
【0063】
Fs≦μ(W−U)/P (5)
Fs≦(Wt−M)/M (6)
上記式(5)において、Fsは直立部の滑り出しに対する安全率、μは直立部と捨石マウンドの摩擦係数、Wは直立部の水中部分における重量(kN/m)、Uは直立部に作用する揚圧力、Pは直立部に作用する水平波力(kN/m)である。一方、式(6)において、Fsは直立部の転倒に対する安全率、tは直立部の重量の合力の作用線から直立部の堤体の後趾までの距離(m)、Mは揚圧力による直立部の後趾の回りのモーメント(kN・m/m)、Mは水平波力による直立部の後趾の回りのモーメント(kN・m/m)である。
【0064】
上記式(5)における(W−U)の揚圧力Uに式(2)を利用して算出される揚圧力が代入されるとともに、(W−U+抑圧力)として式(4)で算出された抑圧力が加えられる。同様に、式(6)におけるモーメントMとして式(2)で算出された揚圧力による直立部の後趾の回りのモーメントが代入されるとともに、式(4)で算出された抑圧力による直立部の後趾の回りのモーメントが加算される。その結果、直立部の水中部分における重量W、直立部の重量の合力の作用線から直立部の堤体の後趾までの距離tに堤体の幅が反映される。
【0065】
【表5】

【0066】
図9よりわかるように、現行設計法と比較して、本発明に基づく設計法では、ケーソン本体の堤体幅が、15.5mから14.5mとなり、1.0m小さくなる結果となった。また、安全率で断面を比較すると、断面幅が減少することによる端趾圧の増分は若干あるが、ほぼ同程度である。
【0067】
上述と同様の方法で、波高、波長および水深を変化させて、安定計算を実施した。計算条件を以下に示す。
【0068】
波高は、H=5.0m、10.0mおよび15.0mの3ケースを対象とした。また、一様水深上を伝播する波の峰の流速が波速に等しいと仮定した場合の砕波条件、および水平床の孤立波に対する砕波条件を用いて、砕波以外の波を想定した。
【0069】
フーチング長を変化させると、揚圧力および抑圧力の変化とともに、基礎捨石数量も増減することから、基礎捨石厚を1.5m、肩幅を3.0mとして、フーチング長による基礎捨石の増減も考慮した。なお、比較は、断面を構成するためのコストに基づいて行った。
【0070】
図10および図11に現行設計法と本発明による設計法との経済性比較結果を示す。図10および図11の縦軸は、本発明による設計法により算出されるコストC(Pro)を現行設計法により算出されるコストC(Pre)で除した値である。一方、横軸は、図10では最大波高Hを水深hで、図11では水深hを波長λでそれぞれ無次元化した。
【0071】
図10および図11より、C(Pro)/C(Pre)のプロットは、全て1を下回っている。また、C(Pro)/C(Pre)は、0.9を下回るものも見られるが、そのほとんどは0.9<C(Pro)/C(Pre)<1の範囲にある。これより、本発明による設計法は、現行設計法よりもコストの視点から見ると合理的設計法であると言え、さらに、現行設計法と比較し、H/h=0.8、h/λ=0.05で約1割程度のコストダウンが可能となることが言える。
【0072】
ここで、図10および図11の波高の違いによる影響に着目すると、H=10.0m、および15.0mは、H=5.0mよりもC(Pro)/C(Pre)の値が小さい。これは、Hが大きくなると水平波力が大きくなるため、フーチング上面に作用する抑圧力が、堤体の安定性に与える影響も大きくなったと考えられる。また、図11のh/λに着目すると、h/L<0.2では、急激にC(Pro)/C(Pre)の値が低減していることが分かる。これについても、h/λが小さくなるにしたがい、水平波力が大きくなるため、Hによる影響と同様に、抑圧力が堤体の安定性を増加させたと考えられる。これらより、本発明による設計法は、水深が浅く、または波高が大きな領域において、より合理的な設計法であることを示している。
【0073】
一方、H/h<0.3やh/λ>0.2の領域においては、C(Pro)/C(Pre)は、次第に1に漸近していることが分かる。つまり、水深が深く、波高が小さい海域において、式(2)および式(4)で提案した抑圧力および揚圧力は、合力の差がほぼ等しくなり、現行設計法と同様に、フーチングを有したケーソンであっても、波圧は堤体幅に影響を与えない。
【0074】
図10中の曲線は、本発明による設計法のコストダウン(CD)を示したものであり、以下の式(7)で与えられる。なお、式(8)はCD率を示す。
【0075】
C(Pro)/C(Pre)=1−0.17(H/H) (7)
CD=0.17(H/H)×100(%) (8)
以下に、本実験で得られた知見を述べる。
【0076】
1)長大フーチングは、防波堤の自重分散や転倒安定性を増大させるだけでなく、抑圧力による滑動安定性も増大させる。
【0077】
2)長大フーチングを有するケーソンの直立壁前面に作用する水平波圧は、合田公式で算定することができる。
【0078】
3)長大フーチングを有するケーソンに作用する揚圧力分布は、フーチングを含む底板全幅に作用し、後趾を0、前趾を最大値とする三角形分布となる。
【0079】
4)底板前趾の揚圧力は、式(2)の近似式で与えられる。
【0080】
5)抑圧力は、海側フーチング上面に鉛直方向に作用し、作用する抑圧力の大きさは式(4)で与えられる。
【0081】
6)現行設計法と本発明による設計法とを比較すると、波高が大きく水深が小さい海域において、式(2)、式(4)を採用した設計法が合理性を発揮する。
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、ケーソンを新規に設置する場合には、フーチングに作用する鉛直方向の抑圧力およびフーチングを含んだ底板に作用する揚圧力の設計により過剰設計を防止することができる。
【0083】
また、フーチングに作用する鉛直方向の抑圧力およびフーチングを含んだ底板に作用する揚圧力の設計によりケーソン、特に堤体の合理的断面を提供することができる結果、堤体の幅を低減できることにより現行設計法によるものに比べて堤体重量を軽減することができる。
【0084】
図12、図13は、既設のフーチング無しのケーソンに本発明を適用してフーチングを増設する場合の形態を示す。つまり、図12に示すように、既設の防波堤(堤体)300の海側上面に嵩上げ部301を設けて嵩上げ補修を行う場合、防波堤300の海側下部にフーチング302を設置することにより、嵩上げによって増えた堤体重量を分散させることができる。
【0085】
フーチング302による補修設計、施工は以下のようにして行われる。
【0086】
上述した設計法により、フーチング長を決定したうえで、フーチング302に作用する鉛直方向の抑圧力およびフーチング302を含んだ底板に作用する揚圧力を計算する。上述した理由により、この計算において過剰設計が防止される。
【0087】
フーチング302は鋼材とコンクリートにより構成する。そして、フーチング302の基部付近、つまり防波堤300に取り付けされる部分に取付け用鋼材303を埋込み、防波堤300の法平側壁に対して埋込みボルト304により一体化する。取付け用鋼材303は防波堤300の法平側壁に沿って複数本埋込むようにし、1本の取付け用鋼材303に対して埋込みボルト304も複数本設置する。また、フーチング302の幅方向端部と防波堤300の端部との間にも鋼材305を設置し、埋込みボルト306により一体化する。なお、フーチング302の幅方向端部が防波堤300の途中に当たる場合には、防波堤300の法平側壁に鋼材305を受け入れるための凹部を形成する。
【0088】
フーチング302の製作は陸上ヤードで行い、例えば起重機船により所定の位置に据付ける。また、防波堤300へのフーチング302の取付けは、潜水士により行う。
【0089】
以上のようにして、既設の防波堤300に嵩上げ部301を設置した場合には、防波堤300の海側側壁にフーチング302を取り付けることにより、嵩上げ増分した堤体重量を分散させることができる。これにより、嵩上げ増分に起因する防波堤300の沈下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、フーチングを有するケーソンに作用する揚圧力を説明するための図である。
【図2】図2は、本発明における実験に用いられたケーソン模型の設置状況を説明するための平面図(a)、側面図(b)である。
【図3】図3は、図2に示されたケーソン模型に波圧を作用させた時の滑動量について説明するための図である。
【図4】図4は、図2に示されたケーソン模型に波圧を作用させた時の滑動量の測定結果を示した図である。
【図5】図5は、図2に示されたケーソン模型に波圧を作用させた時の水平圧力分布の測定結果を示した図である。
【図6】図6は、図2に示されたケーソン模型に波圧を作用させた時の揚圧力分布の測定結果を示した図である。
【図7】図7は、図2に示されたケーソン模型に波圧を作用させた時のケーソン底板前趾の揚圧力の測定結果を示した図である。
【図8】図8は、図2に示されたケーソン模型に波圧を作用させた時の抑圧力分布の測定結果を示した図である。
【図9】図9は現行設計法による安定計算結果と本発明の設計法による安定計算結果とを比較するためのケーソンの断面図を示す。
【図10】図10は、現行設計法と本発明の設計法との経済性比較結果の一例を説明するための図である。
【図11】図11は、現行設計法と本発明の設計法との経済性比較結果の他の例を説明するための図である。
【図12】本発明を既設の防波堤に適用した場合の断面図である。
【図13】本発明を既設の防波堤に適用する場合に用いられるフーチングの一例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0091】
100 ケーソン
101、102、201、302 フーチング
200 ケーソン本体
210 コンクリート製ダミー本体
211 コンクリート製ダミーフーチング
300 既設の防波堤(堤体)
301 嵩上げ部
303 取付け用鋼材
304、306 埋込みボルト
305 鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海側側壁、陸側側壁のうち少なくとも海側側壁にフーチングを有するケーソンをつくるに際し、フーチングを含むケーソン底板に作用する鉛直方向の揚圧力とフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力とを考慮してケーソン本体の断面サイズを決定することを特徴とするケーソンの設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載のケーソンの設計方法において、
前記鉛直方向の揚圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第1の近似式を利用して行い、
UE/PUG=0.7exp(−15b/λ)+0.3(但し、PUEはケーソンにおける任意計測点の揚圧力、PUGは合田公式により得られる揚圧力、bはフーチング長、λはケーソンに作用する波の波長)
前記鉛直方向の抑圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第2の近似式を利用して行う、
/Ph=min{0.7,0.7exp(20x/λ)+0.3}(但し、Pはフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力、Phはケーソン本体の側壁に高さhにおいて作用する水平波力、x/λはケーソン本体とフーチングとの境界に設定された原点座標からX座標軸に関して離れた距離xを波長λで無次元化した値)
ことを特徴とするケーソンの設計方法。
【請求項3】
海側側壁、陸側側壁のうち少なくとも海側側壁にフーチングを有するケーソンにおいて、
ケーソン本体は、フーチングを含むケーソン底板に作用する鉛直方向の揚圧力とフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力とを考慮して決定された断面サイズを有し、
前記鉛直方向の揚圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第1の近似式を利用して行い、
UE/PUG=0.7exp(−15b/λ)+0.3(但し、PUEはケーソンにおける任意計測点の揚圧力、PUGは合田公式により得られる揚圧力、bはフーチング長、λはケーソンに作用する波の波長)
前記鉛直方向の抑圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第2の近似式を利用して行う、
/Ph=min{0.7,0.7exp(20x/λ)+0.3}(但し、Pはフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力、Phはケーソン本体の側壁に高さhにおいて作用する水平波力、x/λはケーソン本体とフーチングとの境界に設定された原点座標からX座標軸に関して離れた距離xを波長λで無次元化した値)
ことにより、ケーソン本体が幅方向に関して減少されたサイズを有することを特徴とするケーソン。
【請求項4】
フーチングを持たないケーソンの上面に嵩上げを行う補修に際し、ケーソンの海側側壁、陸側側壁のうち少なくとも海側側壁にフーチングを取り付けることにより、地盤に作用する嵩上げ重量分を含んだケーソン重量を分散させるケーソンの補修設計方法であって、
取り付けされるべきフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力と取り付けされるべきフーチングを含むケーソン底板に作用する鉛直方向の揚圧力を考慮してフーチングのサイズを決定し、
前記鉛直方向の揚圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第1の近似式を利用して行い、
UE/PUG=0.7exp(−15b/λ)+0.3(但し、PUEはケーソンにおける任意計測点の揚圧力、PUGは合田公式により得られる揚圧力、bはフーチング長、λはケーソンに作用する波の波長)
前記鉛直方向の抑圧力の算出をあらかじめ定められた下記の第2の近似式を利用して行う、
/Ph=min{0.7,0.7exp(20x/λ)+0.3}(但し、Pはフーチング上面に作用する鉛直方向の抑圧力、Phはケーソン本体の側壁に高さhにおいて作用する水平波力、x/λはケーソン本体とフーチングとの境界に設定された原点座標からX座標軸に関して離れた距離xを波長λで無次元化した値)
ことを特徴とするケーソンの補修設計方法。
【請求項5】
請求項4に記載の補修設計方法において、
前記取り付けされるべきフーチングは鋼材とコンクリートで構成されるとともに、ケーソンの法平側壁に対向する側に上下方向に延びる複数の取付け用鋼材が間隔をおいて埋込まれており、
該取付け用鋼材は、前記ケーソンの法平側壁に対して複数の埋込みボルトにより取り付けられることを特徴とするケーソンの補修設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−177065(P2006−177065A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371940(P2004−371940)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年7月7日 社団法人土木学会、海洋開発委員会主催の「第29回 海洋開発シンポジウム」において文書をもって発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】