説明

ケーブルおよびケーブルの劣化防止方法

【課題】 侵入水による劣化をより容易に抑制できる水中ケーブルを提供する。
【解決手段】 金属素線を集合した導体をプラスチック絶縁層で被覆したケーブルであって、導体中央部に薬剤注入用通路を設けたケーブル。また、このケーブルの前記薬剤注入用通路が側壁に貫通穴を有する中空管により構成され、前記導体が前記中空管の周囲に金属素線を配してなるケーブル。また、このケーブルの前記薬剤注入用通路を介して絶縁層の水分劣化対策用の薬剤を注入したケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に敷設する場合に適したケーブルに関し、詳しくは、海中懸垂布設用として好適なケーブルおよび侵入水による劣化を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海底ケーブルのように、常時、水没した状態で使用されるケーブルでは、長期の使用期間中に絶縁体内に侵入する微量の水により、絶縁破壊の原因になる水トリーの発生を防止する必要がある。このため従来一般的には、絶縁層の外部に鉛等の金属被覆層を設けている(特許文献1参照)。例えば、電力用の海底ケーブルのほとんどは絶縁層外部に鉛被が設けられている。また、最近では鉛やアルミニウムニウム製の金属箔をプラスチックでラミネートした簡易遮水層が使用されることもあるが、いずれにしてもケーブルの遮水機能は金属被覆によって保持されている。
【0003】
ところで、水上、特に、洋上では風力や太陽光等の再生型自然エネルギーが大量に生産可能なことから、最近、洋上に係留した大型浮体上に自然エネルギー用発電設備を搭載し、ここで発生した電力を送電用ケーブルで陸上まで送電する計画が増加している(例えば特許文献2参照)。ところが水上浮体は、風、波浪、潮流の影響で常時位置が変化するため、ここから引き出されたケーブルは、常時変形を受ける。すなわち常時、曲率が変動している。このため、ケーブルには、繰返し疲労が発生する。特に、ケーブルの海中に敷設された区間の遮水用金属被覆には繰り返し疲労による亀裂が短期間に発生する。この亀裂から水が浸入すると、ケーブル絶縁層に水トリーが発生する。例えば、金属被覆による遮水機能を有した架橋ポリエチレン絶縁ケーブルでは、実海域では数年間で絶縁層全体的に水トリーが発生することがある。
【0004】
上記のように水上浮遊体に接続されて用いられるケーブルについては、金属被覆層のみによる遮水効果は満足できるものとはいえない。
【0005】
プラスチック絶縁体への侵入した水分と反応してこれを固定し、絶縁性能の劣化を抑止させることが可能な水分固着型薬剤を絶縁体中に送り込めば、水トリーの発生を阻止できることが知られている。このような薬剤として、水と反応して容易に架橋反応するシリコン系の親水型カップリング剤が知られている。この薬剤を、絶縁層に水トリーが発生したケーブルの導体撚線間の微小な空隙に加圧注入すると、絶縁体中の水分と反応して絶縁性能の安定した重合体になることが確認されている。また、これにより水トリーが発生したケーブルの絶縁性能が回復することも検証されている。
【0006】
しかし、ケーブルの導体撚線間の微小な間隙にシリコン系の親水型カップリング剤を加圧注入することは、実用的には困難を伴う。
【特許文献1】特開2002−281629号公報
【特許文献2】特開2004−192831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、侵入水による劣化をより容易に抑制できる水中ケーブルを提供することを目的とし、特に海中に懸垂設置されて常時曲率変化を繰り返す疲労進展型プラスチック絶縁電力ケーブルの寿命改善を目的とする。さらに、本発明は水中ケーブルの侵入水による劣化防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明は下記の通りである。
(1)金属素線を集合した導体をプラスチック絶縁層で被覆したケーブルであって、導体中央部に薬剤注入用通路を設けたことを特徴とするケーブル。
(2)前記薬剤注入用通路が側壁に貫通穴を有する中空管により構成され、前記導体が前記中空管の周囲に金属素線を配してなることを特徴とする(1)記載のケーブル。
(3)前記薬剤注入用通路を介して絶縁層の水分劣化対策用の薬剤を注入したことを特徴とする(1)記載のケーブル。
(4)前記水分劣化対策用の薬剤が、シランカップリング剤であることを特徴とする(3)記載のケーブル。
(5)水上に係留された浮体から水中に懸垂状態に布設される水中懸垂用ケーブルであることを特徴とする(1)記載のケーブル。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のケーブルを敷設後、絶縁層の水分劣化対策用の薬剤を注入することを特徴とする侵入水によるケーブルの劣化防止方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、導体中央部に薬剤注入用通路を設けることにより、新品ケーブルの場合は、この通路を介して、予め導体内に薬剤、たとえば、絶縁層の水分劣化対策用の薬剤、特に水トリーの対策に供する薬剤を注入できる。これにより、長期的に絶縁体の水トリー発生を防止できる。
【0010】
またケーブルを水中に施工した後も、前記通路から、容易に薬剤の追加注入が可能である。この追加注入により、例えば、プラスチック絶縁電力ケーブルの侵入水による劣化、特に、絶縁体の水トリー発生を長期間防止することができる。
側壁に貫通穴を有する中空管を用いると、薬剤注入用通路を適切に形成できる。また注入された薬剤を、長距離にわたってバランスよく分配することが可能になる。
【0011】
上記の薬剤として、絶縁層の水分劣化対策用の薬剤、例えば、水トリーを防止する薬剤や水トリーが発生した絶縁層の絶縁性能を回復する薬剤を注入することができる。より具体的には、水分を吸着あるいは反応する薬剤、更に具体的には、水分と反応して重合するシランカップリング剤などの薬剤など水分固定する性質がある薬剤を注入することができる。
【0012】
本発明のケーブルは、水上に係留された浮体から水中に懸垂状態に布設される水中懸垂用ケーブルに特に好適である。本発明のケーブルによれば、絶縁層の外部に鉛被覆層、あるいは鉛ラミネートしたプラスチックテープの融着層を省略して、水中懸垂用ケーブルでは特に重要なケーブル自重の軽減や細径化が図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
図1は本発明のケーブルの一例である三相送電用ケーブルを示す斜視図である。また、図2は、図1に示す本発明のケーブルの概略断面図である。この三相送電用ケーブルは、3本の線芯コア6を有するものである。線芯コア6は、細径の中空管1の周囲に多数の導電性金属素線2をより合わせた導体3を有するものである。
【0015】
前記中空管1は、薬剤注入用通路を形成するもので、図3に拡大斜視図で示すように、微小な貫通穴11を管の円周方向、軸方向に多数有するプラスチック製または金属製の管である。金属製の管の場合は、蛇腹管であることが望ましい。
【0016】
中空管1が、金属又はプラスチック管であり、管の円周方向及び軸線方向に貫通穴11が複数設けられているものであると、ケーブルの変形に追従し易く、かつ、注入された薬剤を、長距離にわたってバランスよく分配することが可能になる。
【0017】
本発明に用いられる中空管1は好ましく金属又はプラスチック管であって、内径が、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは2〜3mmである。また、外径は、好ましくは6mm以下、さらに好ましくは3〜6mmである。管を形成する金属としては、例えば、ステンレス、銅、アルミニウムが挙げられ、管側面に微細な貫通孔を加工し易い素材が好ましい。また、管を形成するプラスチックとしては、例えば、ナイロンやホリエチレンのような耐薬品性に優れた素材が挙げられ、耐圧縮性などの機械的強度に優れた管を形成し易い材料が好ましい。
【0018】
中空管1の側壁には、貫通穴11が設けられており、円周方向及び軸線方向に微小な貫通穴11が複数設けられていることが好ましい。貫通穴11の大きさは直径0.01〜0.1mmが好ましい。また、中空管1の側壁外周面に占める貫通穴11の割合は、面積で5〜10%が好ましい。
【0019】
なお、図示しないが、中空管1に代えて薬剤注入用通路を形成するものとして、細長い線材をスプリングのようにスパイラルに巻いた構造のものを用いることもできる。このようなスパイラル管では、線材の間の隙間を薬剤が通過できるため、管の側面に通孔を改めて設ける必要が無い。スパイラル管の線材の巻方向と、金属素線2をまく方向とは、逆方向であることがケーブルを製造する上で望ましい。
【0020】
この中空管1の外側には、図1に示すように、導電性に優れた金属素線2を多数巻き付けて導体3を形成している。金属素線2は、中空管1が潰れないように、すなわち中空管1の中空部が連続して維持されるように、巻き付けられている。導体3は、金属素線2間を液体が通過できるように、非圧縮の撚り線構造となっている。これにより、中空管1の貫通穴11から流出する薬剤が絶縁層4に到達しやすい構造になる。
【0021】
導体3の外部には、図1に示すように、架橋ポリエチレンからなるプラスチック絶縁層4が押し出し成形され、その外面に座床用布テープ層5が設けられている。布テープ層5には従来の水中ケーブルに用いられている布テープ層を用いることができる。
【0022】
なお、従来の海中ケーブルでは絶縁層4の外部に遮水のために鉛被覆層、あるいは鉛ラミネートしたプラスチックテープの融着層を設ける必要があったが本発明のケーブル構造ではこれを省略して、海中懸垂用ケーブルでは特に重要なケーブル自重の軽減や細径化を図っている(但し、必要に応じて絶縁層4の外部に遮水用の金属被覆を設けても良い。)。
【0023】
図1に示す3相交流送電用ケーブルでは、3本の線芯コア6の周囲にポリプロピレン糸で撚り合わせた介在紐7を配置し、これらの周囲にポリエチレンを押し出し成形して中間プラスチック層8を設けている。この中間プラスチック層8の周囲には、外装線9が巻回されている。この外装線9には、海中に懸垂したケーブルの自重や浮体揺動力、潮流力に耐えうるよう通常、高強度の鋼材を採用する。また、海中部のケーブル自重を軽減するために強度に優れた繊維強化プラスチックやアラミド繊維を使用することもできる。最外部は防食用プラスチック層10であり、通常陸上部では塩化ビニル被覆が多く採用されるが、海中用には透水性の少ないポリエチレン被覆を用いることが好ましい。
【0024】
本発明のケーブルの好ましい使用態様においては、ケーブル製造の最終段階で前記中空管1によって形成された薬剤注入用通路に薬剤を注入する。注入された薬剤は、中空管1を通ってケーブル全長に送られ、金属素線2間の隙間を通過して絶縁層に達する。
【0025】
次に、本発明において、注入することができる薬剤について説明する。
注入する薬剤としては、絶縁層の水分劣化対策用の薬剤、例えば、水トリーを防止する薬剤や水トリーが発生した絶縁層の絶縁性能を回復する薬剤が挙げられる。より具体的には、水分を吸着あるいは水分と反応する薬剤、更に具体的には、親水型カップリング剤、例えば、水分と反応するシランカップリング剤等の薬剤など、水分固定する性質がある薬剤が挙げられる。
【0026】
上記親水性カップリング剤としては、シランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤は、相互になじみの悪い無機材料と有機材料の両者に化学結合できる官能基をもつ有機ケイ素化合物であり、例えば下記一般式で表される。
【0027】
【数1】

【0028】
式中、Yは反応性有機官能基、Xは加水分解性基、Rはアルキレン基、nは1〜3のいずれかの整数を表す。Yは有機樹脂と反応あるいは相溶化する役割を持つ部位であり、代表例として、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、メルカプト基などが挙げられる。Yはアルキレン基Rによってケイ素原子にSi−C結合で結合されているため、化学的、熱的に安定である。
一方、加水分解性基Xは、侵入水により加水分解され、シラノール(SiOH)となり、互いに縮合反応するかないしは無機材料と反応する部位である。Xとしてはアルコキシ基、アセトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基、アミノ基などが挙げられ、安全性や取り扱いの容易さなどからアルコキシ基が好ましく、特に、エトキシ基、メトキシ基が好ましい。
【0029】
本発明において、アルコキシ基を有するシランカップリング剤は、次のように作用すると考えられる。
絶縁層の表面に初期の水トリーが発生し、絶縁層に水分が侵入すると、前記のシランカップリング剤のシランのアルコキシ基は、侵入水の存在下で加水分解反応を起こして、シラノール基を生成し、つづいて、部分的に縮合して水に不溶なオリゴマーとなる。このオリゴマーは、絶縁層の樹脂とも結合するため、水トリーを埋める。その結果、水の侵入をブロックし、さらなる水トリーの成長を停止させ、ケーブルの絶縁性の低下を防止する。
【0030】
本発明に好ましく用いることができる親水型カップリング剤としては、次のものを例示できる。γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノシランカップリング剤、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)、ビニルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン。中でも、水架橋型ポリエチレンの製造にも広く用いられているビニルトリメトキシシラン(VTMS)が好ましい。
【0031】
本発明において、薬剤注入用通路に上記の親水型カップリング剤の溶液を注入する際には、加圧しても、加圧しなくとも良い。注入される溶液の濃度、溶媒などは、従来の、一般的なシランカップリング剤処理において用いられている溶液から適宜選択して用いることができる。
【0032】
また、本発明の別の実施形態は、上記のケーブルを敷設後、絶縁層の水分劣化対策用の薬剤を注入する侵入水によるケーブルの劣化防止方法である。本発明においては、前記薬剤注入用通路を介して薬剤を注入することができるので、ケーブルを敷設した後であっても薬剤の注入が容易である。
【0033】
次に、本発明のケーブルの好ましい用途について説明すると、本発明のケーブルは、水上に係留された浮体から水中に懸垂状態に布設される水中懸垂用ケーブルとして、好適に用いることができる。特に、本発明のケーブルは自重が軽く、かつ、繰返し疲労が発生した場合でも、ケーブル絶縁層に水トリーが発生することを容易に防止できるので、海洋に係留され、波浪により揺動する浮体から海中に懸垂状態に布設するプラスチック絶縁ケーブルとして好ましく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のケーブルの一例を斜視図により示す説明図である。
【図2】本発明のケーブルの一例の概略断面図である。
【図3】本発明のケーブルに用いられる中空管の一例の斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 中空管
2 金属素線
3 導体
4 絶縁層
5 布テープ層
6 線芯コア
7 介在紐
8 中間プラスチック層
9 外装線
10 防食用プラスチック層
11 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属素線を集合した導体をプラスチック絶縁層で被覆したケーブルであって、導体中央部に薬剤注入用通路を設けたことを特徴とするケーブル。
【請求項2】
前記薬剤注入用通路が側壁に貫通穴を有する中空管により構成され、前記導体が前記中空管の周囲に金属素線を配してなることを特徴とする請求項1記載のケーブル。
【請求項3】
前記薬剤注入用通路を介して絶縁層の水分劣化対策用の薬剤を注入したことを特徴とする請求項1記載のケーブル。
【請求項4】
前記水分劣化対策用の薬剤が、シランカップリング剤であることを特徴とする請求項3記載のケーブル。
【請求項5】
水上に係留された浮体から水中に懸垂状態に布設される水中懸垂用ケーブルであることを特徴とする請求項1記載のケーブル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のケーブルを敷設後、絶縁層の水分劣化対策用の薬剤を注入することを特徴とする侵入水によるケーブルの劣化防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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