説明

ケーブル架設用チェーンコイルおよびその製造方法

【課題】ケーブル架設用チェーンコイル製造の製造工程を簡略化し、高効率に当該チェーンコイルを製造する。
【解決手段】2種類以上の溶融粘度が異なる熱可塑性樹脂からなり、繊維横断面の外接円直径doが2.0〜8.0mmであるサイドバイサイド型複合構造を有するモノフィラメントを少なくとも一部に使用してなる、非伸長時のチェーンコイル本体の内径Diが30〜200mm、チェーンコイル本体のピッチPが2〜60mmであることを特徴とするケーブル架設用チェーンコイル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信用ケーブル等の架設において吊具として使用されるケーブル架設用チェーンコイルに関し、さらに詳しくは、ケーブルの架設作業性を著しく向上するケーブル架設用チェーンコイルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電信或いは光通信などに使用される通信用ケーブルを架設する場合には、電柱間に抗張材としてメッセンジャーワイヤを張設し、このメッセンジャーワイヤにケーブルハンガー等の金属製吊具を50〜60cmの間隔で1個ずつ取り付けながら通信用ケーブルを並列に懸架させるように架設している。
【0003】
しかし、このケーブル架設工事は、作業者が重い金属製の吊具を多数所持しながら、メッセンジャーワイヤの長手方向に沿って順次50〜60cmの間隔で移動しながら取り付けていくものであり、しかもこの吊具の取付け作業を宙乗機等に乗って高所で行うため、多大の時間と労力を要し、かなりの熟練を要する危険な工事であった。
【0004】
この課題に対処するため、複数本の電柱にメッセンジャーワイヤを架設し、各電柱間に張設されたメッセンジャーワイヤの一方の電柱側端部に伸縮性の合成樹脂製チェーンコイルを外挿し、該チェーンコイルの電柱側端部を固定すると共に、その固定側端部からケーブルを挿入し、該ケーブルの端部とチェーンコイルの非固定側端部とを共にチェーンコイルを伸長させながら他方の電柱側へ移動させ、該チェーンコイルの非固定側端部を固定するようにする方法(例えば特許文献1)が提案されている。
【0005】
しかしながら、当該コイルの製造方法は延伸した1種類のモノフィラメントを製造した後、再度融点近傍まで加熱し、マンドレルに螺旋状に巻き付けて熱固定するものであり、製造工程が煩雑であった。
【特許文献1】特開平11−4529号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたものである。すなわちケーブル架設用チェーンコイル製造の製造工程を簡略化し、高効率に製造されたチェーンコイルを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、2種類以上の溶融粘度が異なる熱可塑性樹脂からなるサイドバイサイド型複合構造を有するモノフィラメントを少なくとも1部に使用することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の通りである
(1)2種類以上の溶融粘度が異なる熱可塑性樹脂からなり、繊維横断面の外接円直径doが2.0〜8.0mmであるサイドバイサイド型複合構造を有するモノフィラメントを少なくとも1部に使用し、かつ非伸長時のチェーンコイル本体の内径Diが30〜200mm、チェーンコイル本体のピッチPが2〜60mmであることを特徴とするケーブル架設用チェーンコイル。
(2)紡糸温度における溶融粘度差が500〜2800poiseである高粘度熱可塑性樹脂と低粘度熱可塑性樹脂とを、体積比率20:80〜80:20でサイドバイサイド型に溶融紡糸することを特徴とする上記(1)に記載のケーブル架設用チェーンコイルの製造方法。
(3)紡糸温度における溶融粘度が異なる熱可塑性樹脂をサイドバイサイド型に溶融紡糸・延伸後に巻き取ったモノフィラメントを(低粘度の熱可塑性樹脂のガラス転移点+30℃)〜(低粘度の熱可塑性樹脂の融点−30℃)で60〜180秒間の条件で弛緩熱処理することを特徴とする上記(2)に記載のケーブル架設用チェーンコイルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって紡糸・延伸され、ボビン等に巻き取られたモノフィラメントはボビンから解舒することで、サイドバイサイド型複合構造を構成する熱可塑性樹脂の収縮力差により自発的にコイルが形成される。それをケーブル架設用チェーンコイルの少なくとも一部に使用することで当該チェーンコイルを高効率に生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のケーブル架設用チェーンコイルは、少なくとも2種類以上の溶融粘度が異なる熱可塑性樹脂からなり、サイドバイサイド型複合構造を有するモノフィラメントを、少なくとも一部に使用してなることを特徴とする。上記の複合構造とすることで、モノフィラメントが自発的にコイル状になる。
【0010】
本発明のチェーンコイルを構成するモノフィラメントは、図2に示す横断面における外接円直径doが2.0〜8.0mmであり、3.0〜7.0mmが好ましく、4.0〜6.0mmがより好ましい。2.0mm未満ではケーブル架設用チェーンコイルとしての強力が不足する。実使用上におけるチェーンコイルの強力は1500N以上、好ましくは2000N以上である。一方、8.0mmを越えると剛直になり架設作業性が悪化する。
【0011】
図1(A)に示すチェーンコイル本体の非伸張時内径Diは30〜200mmであり、40〜150mmが好ましく、60〜100mmがより好ましい。内径が30mm未満では、コイル内にケーブルならびにメッセンジャーワイヤを挿入する作業が困難となり、架設作業性が低下する。一方、内径が200mmを越えるとチェーンコイルを引き延ばした際にケーブルとコイルの接点が少なくなり、ケーブルとコイルの接点における接触面圧が高くなるためコイル、ケーブル双方が損傷し易くなる。
【0012】
チェーンコイル本体の非伸張時の原長L0、図1(B)に示すケーブル架設後の伸張時の長さL1と定義した場合、チェーンコイルの非伸長時の原長L0は、取扱い性の観点からすると出来るだけ短い方が好ましいが、逆にケーブル架設のため伸長したときの長さL1 としては、少なくとも電柱間の1スパンまで延長できるようにした方がケーブル架設作業性を良好にする。これらの観点から、非伸長時のチェーンコイル長L0が500〜2000mmの範囲とするとき、その比L1 /L0は大きいほど好ましく、実使用上においてはL1/L0は10以上、特に20以上の範囲にすることが好ましい。
【0013】
図1(A)に示すチェーンコイル本体のピッチPは非伸長時の素線幅を示すものであり、チェーンコイル本体の内径と伸張性の関係からピッチPは2〜60mmの範囲であり、5〜50mmが好ましく、10〜30mmがより好ましい。
【0014】
チェーンコイルを架設するときの張力は低いほど架設性が良好であるが、実使用においては170N以下であれば問題ない。170Nを超える場合、著しく架設性が低下する。
【0015】
本発明のチェーンコイルを構成するモノフィラメントは高収縮成分である高粘度熱可塑性樹脂と低収縮成分である低粘度熱可塑性樹脂のサイドバイサイド型複合構造であり、熱可塑性樹脂の紡糸温度における溶融粘度差は500〜2800poiseであることが好ましく、600〜2000poiseであることがより好ましく、700〜1500poiseであることが更に好ましい。粘度差が500poise未満では収縮量の差が小さくコイルを形成できない。一方、粘度差が2800poiseを超えると、吐出安定性が低下し、均一なサイドバイサイド型複合構造を形成することが困難となる。
【0016】
また、紡糸温度における高粘度熱可塑性樹脂の溶融粘度が2500〜5000poiseであることが好ましく、2800〜4000poiseであることがより好ましい。溶融粘度が2500poise未満では低強度なモノフィラメントしか得られず、5000poiseを超えると粘度が高すぎて溶融紡糸が困難となる。
【0017】
一方、紡糸温度における低粘度熱可塑性樹脂の溶融粘度が1000〜2100poiseであることが好ましく、1500〜2100poiseであることがより好ましい。溶融粘度が1000poise未満では低強度なモノフィラメントしか得られず、2100poiseを超えると、高粘度熱可塑性樹脂との収縮量差が小さくなり、コイルを形成できない。
【0018】
本発明のチェーンコイルを構成するモノフィラメントは高粘度熱可塑性樹脂と低粘度熱可塑性樹脂の体積比率が20:80〜80:20、好ましくは30:70〜70:30の範囲からなる。同一直径において熱可塑性樹脂の組み合わせが同じであれば、低粘度、高粘度いずれかの粘度成分が増えるに従いコイル直径は大きく、またピッチは長くなる。故に体積比率が上記範囲を外れるとチェーンコイルに必要な直径、ピッチを達成できない。
【0019】
本発明のコイル本体を構成する熱可塑性樹脂としてはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどを好ましい素材として挙げることができるが、これら熱可塑性樹脂のなかでも、特にポリエステルは寸法安定性、形状安定性の点からコイル素材として好ましい。
【0020】
かかるポリエステルとは、ジカルボン酸成分と、グリコール成分とからなるものである。ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらのジカルボン酸成分とグリコール成分とを適宜組み合わせて使用することができる。また、上記のジカルボン酸成分の一部を、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えてもよく、上記のグリコール成分の一部を、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えてもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。なお、ポリエステルは、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンサクシネートおよびポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル をも含むものである。
【0021】
これらの内でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)の使用が最も好適である。
【0022】
ポリエステル には、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸、カーボンブラックなどの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、各種強化繊維類などが添加されていてもよい。
【0023】
また、ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12およびこれら各ナイロン構成成分の組み合わせからなる共重合ポリアミドなどを挙げることができる。
【0024】
これらのポリアミドには、もちろん必要に応じて耐熱剤、耐候剤、耐光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、平滑剤、染料および顔料などの通常の添加剤成分を任意に含有させることができる。
【0025】
また高粘度熱可塑性樹脂としてはポリエステル、ポリアミドが好ましく、低粘度熱可塑性樹脂としてはポリエステル、ポリアミドが好ましいが、サイドバイサイド型複合構造とした際の接着性を考慮すると高粘度熱可塑性樹脂、低粘度熱可塑性樹脂を粘度の異なる同一の熱可塑性樹脂を用いることがより好ましく、寸法安定性、形状安定性の点から粘度の異なるポリエステルを用いることがさらに好ましく、粘度の異なるPETを用いることが特に好ましい。
【0026】
本発明に用いるサイドバイサイド型複合構造モノフィラメントの断面形状は、図2に示すように丸断面、三角以上の多角形断面、多葉型断面、偏平断面、ダルマ型断面、X型断面その他の異形断面であっても良い。大きな強力を要するケーブル架設用チェーンコイルが必要な場合は丸断面形状モノフィラメントが好ましく使用できる。一方、柔軟なケーブル架設用チェーンコイルが必要な場合は非円形断面形状、例えば三角断面形状や四角断面形状のモノフィラメントが好ましく使用できる。
【0027】
本発明に用いるモノフィラメントの製造方法の一例を以下に示す。
【0028】
乾燥した低粘度、高粘度それぞれの樹脂ペレットを高粘度用、低粘度用それぞれの溶融押出機に供給して押し出した後、軽量ポンプで計量する。計量された溶融樹脂はサイドバイサイド型複合紡糸口金で貼り合わされた後、溶融糸条として紡出される。紡出された糸条は引取りロールにより引き取られる過程で水やポリエチレングリコール等の樹脂に対して不活性な液体で満たされた液浴を通過させることにより冷却・固化される。本発明に用いるモノフィラメントは横断面における外接円直径が2.0〜8.0mmと太いため、空気による糸条の冷却・固化は困難である。よって液体による糸条の冷却・固化方法が好ましく使用できる。
【0029】
引取りロールにより引き取られた糸条は、1段延伸ないしは2段以上の多段で延伸され、総合延伸倍率は3〜8倍の範囲である。延伸は、温水や加熱されたポリエチレングリコール、水蒸気、加熱空気等の熱媒中で行われる。延伸温度は使用する熱可塑性樹脂により適宜設定されるが、通常は(低粘度の熱可塑性樹脂のガラス転移点〜融点)の範囲で設定される。
【0030】
延伸された糸条は一旦ボビン等に巻き取られた後、ボビンからモノフィラメントを解舒し、所望の長さにカットされる。カットされ、張力が解放された時点で収縮力によりコイルが形成される。張力を解放し、捲縮が発生したモノフィラメントをそのままチェーンコイルとして使用することが可能であるが、更に乾熱空気や温水等の熱媒中で収縮させることによりコイル径の小径化やピッチを短くできる。
【0031】
熱収縮処理温度は使用する樹脂によって異なるが、(低粘度の熱可塑性樹脂のガラス転移点+30℃)〜(低粘度の熱可塑性樹脂の融点−30℃)の温度であることが好ましい。熱収縮処理温度が(低粘度の熱可塑性樹脂のガラス転移点+30℃)未満では十分な収縮力が得られない。一方、(低粘度の熱可塑性樹脂の融点−30℃)を超える温度では処理中に配向が緩和しすぎるため収縮力が低下するほか強力が低下しやすい。
【0032】
たとえば低粘度熱可塑性樹脂にPETを用いる場合、熱処理温度は100〜230℃が好ましいが、130〜180℃とすることが特に好ましい。また、低粘度熱可塑性樹脂にナイロン6を用いる場合、熱処理温度は80〜190℃が好ましいが、120〜170℃とすることが特に好ましい。
【0033】
処理時間は60〜180秒であることが好ましい。処理時間が60秒未満では収縮力の発現が不十分であり、一方コイルの形成の観点から180秒は十分な熱処理時間であり、それを越える熱処理時間では生産性が低下する。ポリエステル、ポリアミド等を低粘度熱可塑性樹脂に用いる場合は80〜150秒であることが特に好ましい。
【0034】
また、紡糸・延伸したモノフィラメントを一旦巻き取ることなく連続して乾熱空気や温水等の熱媒中に引き入れ、熱媒中でコイルを形成させることも可能である。
【0035】
コイルをそのままの状態でもケーブル架設用チェーンコイルとして使用可能であるが、必要に応じて他のケーブルとの接続用金属製金具等を取り付けて使用することも可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例をあげて、本発明を具体的に説明する。実施例中の各物性値は、下記の方法により測定した。なお、試料を気温20℃、相対湿度65%の状態で24時間以上放置した後に測定を実施した(ただし溶融粘度測定は除く)。
【0037】
(1)溶融粘度:島津製作所製フローテスター(CFT−500C型)により溶融温度:290℃、予熱時間:300秒、ダイ:直径0.5mm×長さ1.0mm、ピストン:断面積1cm、押出圧力10kgf/cmの条件で5回測定し、その平均値を樹脂の溶融粘度とした。
【0038】
(2)モノフィラメント直径:ミツトヨ製マイクロメータ(MDC−SB型)により5点をランダムに測定し、その平均をモノフィラメント直径とした。
【0039】
(3)コイル内径:コイルを水平な台上に静置し、ミツトヨ製ノギス(534−CM75L型)により5点測定し、その平均をコイル内径とした。
【0040】
(4)コイルピッチ:コイルを水平な台上に静置し、ミツトヨ製ノギス(534−CM75L型)により5点測定し、その平均をコイルピッチとした。
【0041】
(5)コイル(素線)強力:強度・伸度:JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って定速伸張形で引張試験を実施した。試長:25cm、引張速度:30cm/分、初期荷重:(i)1N(モノフィラメント直径<3mm)、(ii)2N(3mm≦モノフィラメント直径<7mm)、(iii)3N(モノフィラメント直径≧7mm)の条件でオリエンテック製引張試験機(RTM−1T型)により切断時の強力(N)を5回測定し、その平均をコイル強力とした。
【0042】
(6)コイル伸張性:全長500mm(L0)のチェーンコイル内に直径10mmの金属パイプを通し、コイルの一端を固定し、開放端を引っ張り、金属パイプにコイルを密着させ、その時のコイル長さをL1とした。次式により伸長性を定義した。
伸長性=L1/L0
【0043】
(7)コイル伸長時張力:上記(6)のコイル伸長性評価において、コイル開放端の張力を三光精衡所製ダイヤル式吊はかり(SR−30型)により測定した。
【0044】
(8)固有粘度:オルソクロロフェノール100mlに対し試料8gを溶解した溶液の相対粘度ηをオストワルド式粘度計を用いて測定し(25℃)、以下の近似式によって算出した。測定数2回で、その平均値を固有粘度とした。
固有粘度=0.0242η+0.2634
【0045】
(9)熱可塑性樹脂の融点(Tm)、ガラス転移点(Tg):セイコーインスツルメント(株)製示差走査熱量分析装置DSCII型を用い、試料10mgを室温より昇温速度10℃/分で昇温していった際のDSC曲線を求め、ガラス転移時に現れる吸熱ピーク温度をガラス転移点(Tg)、融解時の吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0046】
[製造例1](樹脂A)
テレフタル酸とエチレングリコールと三酸化アンチモンを重量比2.5:1:0.0015で混合し、窒素雰囲気化260℃で5時間重合を行ない、固有粘度0.68のポリエステルを得た。得られたポリエステルをチップ化し、ポリエチレンテレフタレート樹脂Aを得た。
【0047】
[製造例2](樹脂B)
製造例1で得られた樹脂Aを真空下220℃で18時間固相重合を行い、固有粘度0.95のポリエチレンテレフタレート樹脂Bを得た。
【0048】
[製造例3](樹脂C)
製造例1で得られた樹脂Aを真空下220℃で21時間固相重合を行い、固有粘度1.15のポリエチレンテレフタレート樹脂Cを得た。
【0049】
[製造例4](樹脂D)
製造例1で得られた樹脂Aを真空下220℃で30時間固相重合を行い、固有粘度1.25のポリエチレンテレフタレート樹脂Dを得た。
【0050】
[製造例5](樹脂E)
製造例1で得られた樹脂Aを真空下220℃で36時間固相重合を行い、固有粘度1.35のポリエチレンテレフタレート樹脂Eを得た。
【0051】
[実施例1]
樹脂Dと樹脂Bをエクストルーダー型溶融押出機に供給し、樹脂Dと樹脂Bの体積比率が50:50(樹脂Aの吐出量:570g/分、樹脂Bの吐出量:570g/分)となるように計量し、サイドバイサイド型複合紡糸口金(口金口径:15mm)を通して紡糸温度290℃で押し出した。押し出した糸条を60℃の温水で冷却・固化し、無加熱の引取ロールにより15m/分で引き取り、連続して95℃の温水中で2.7倍に1段目延伸し、さらに180℃の乾熱オーブン中で1.5倍に2段目延伸しボビンに巻き取った。モノフィラメントをボビンから解舒して自然収縮させコイル状とした後、乾熱オーブン中で150℃、120秒の条件で熱収縮させ、非伸張時長さ500mmにカットした。
【0052】
樹脂D、樹脂Bの溶融粘度はそれぞれ3000poise、2000poiseであった。コイルの製造条件を表1、コイルの物性を表3に示す。
【0053】
[実施例2〜3、比較例1〜2]
吐出量、口金口径を変更した以外は実施例1と同様の方法でコイルを得た。コイルの製造条件を表1、2に、コイルの物性を表3、4に示す。比較例1では強力が不足している。一方、比較例2では高強力ではあるが伸張性が低く、伸長時張力も192Nと高いため架設作業性の悪化を引き起こすものであった。
【0054】
[実施例4]
実施例1の樹脂Dを樹脂Eに変更した以外は実施例1と同様の方法でコイルを得た。樹脂Eの溶融粘度は4500poiseであった。コイルの製造条件を表1、コイルの物性を表3に示す。
【0055】
[実施例5]
樹脂Dを樹脂Eに変更した以外は実施例1と同様の方法でコイルを得た。樹脂Eの溶融粘度は2600poiseであった。コイルの製造条件を表1、コイルの物性を表3に示す。
【0056】
[比較例3]
実施例4の樹脂Bを樹脂Aに変更した以外は実施例4と同様の方法でモノフィラメントを紡糸した。樹脂Dの溶融粘度は1500poiseであった。コイルの製造条件を表2に示す。しかしながら、口金で吐出された時点で糸条が曲がってしまい、紡糸不能であった。
【0057】
[実施例6〜7、比較例4〜5]
樹脂Dと樹脂Bの体積比率を変更した以外は実施例1と同様の方法でコイルを得た。コイルの製造条件を表1、2に、コイルの物性を表3、4に示す。比較例4、比較例5では内径の大きなチェーンコイルしか得られず、伸張性が低いものであった。
【0058】
[実施例8〜10]
乾熱オーブンの温度ならびに処理時間を変更した以外は実施例1と同様の方法でコイルを得た。コイルの製造条件を表1、コイルの物性を表3に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のケーブル架設用チェーンコイルを示し、(A)は非伸長時の側面図、(B)は架設伸長時の側面図である。
【図2】本発明のケーブル架設用チェーンコイルを構成するモノフィラメントの横断面の一例である。
【図3】図1に示すチェーンコイルを使用してケーブルを架設した状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ケーブル架設用チェーンコイル
2 スリーブ
3 メッセンジャーワイヤ
4 (通信用)ケーブル
Di コイル内径
L0 非伸長時のコイル原長
L1 伸長時のコイル長さ
1a モノフィラメントの横断面
do モノフィラメント外接円直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の溶融粘度が異なる熱可塑性樹脂からなり、繊維横断面の外接円直径doが2.0〜8.0mmであるサイドバイサイド型複合構造を有するモノフィラメントを少なくとも一部に使用し、かつ非伸長時のチェーンコイル本体の内径Diが30〜200mm、チェーンコイル本体のピッチPが2〜60mmであることを特徴とするケーブル架設用チェーンコイル。
【請求項2】
紡糸温度における溶融粘度差が500〜2800poiseである高粘度熱可塑性樹脂と低粘度熱可塑性樹脂とを、体積比率20:80〜80:20でサイドバイサイド型に溶融紡糸することを特徴とする請求項1に記載のケーブル架設用チェーンコイルの製造方法。
【請求項3】
紡糸温度における溶融粘度が異なる熱可塑性樹脂をサイドバイサイド型に溶融紡糸・延伸後に巻き取ったモノフィラメントを(低粘度の熱可塑性樹脂のガラス転移点+30℃)〜(低粘度の熱可塑性樹脂の融点−30℃)で60〜180秒間の条件で弛緩熱処理することを特徴とする請求項2に記載のケーブル架設用チェーンコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−136309(P2008−136309A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320971(P2006−320971)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】