説明

ケーブル用被覆材、およびそのケーブル

【課題】強度を確保しながら軽量化を図り、折り曲げても亀裂を生じ難く、耐熱性等に優れており、かつ高い絶縁性能有するケーブル用被覆材およびそのケーブルを提供する。
【解決手段】送電用ケーブルおよび通信用ケーブルに用いられる被覆材であって、被覆材中にシリカ質の中空微粒子を含有することを特徴とするケーブル用被覆材であり、好ましくは、平均粒径5〜100μm以下、容重が0.15〜0.35g/cm3であって、内部空間に隔壁を有するシリカ質中空微粒子が用いられるケーブル用被覆材、該被覆材を有する送電用ケーブルないし通信用ケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電用ケーブルおよび通信用ケーブルの保護・補強・絶縁のために被覆される被覆材に関し、被覆材中にシリカ質の中空微粒子を含有し、軽量かつ高強度である被覆材と、そのケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電線を束ねた送電用ケーブルや、電線あるいは光ファイバーなどを束ねた通信用ケーブルは、通常、電柱の間に架設されたり、地中や海底に敷設されて使用されている。この場合、ケーブルの長さが長距離にわたると、質量が大きくなり、被覆材の質量もかなりの割合を占める。そこで、ケーブルに対する負荷を軽くするため、被覆材の軽量化が計られている。軽量化の方法としては、被覆材を形成する合成樹脂中に、加圧下で発泡剤を混合し、被覆後に大気圧に減圧して発泡させることによって被覆材中に気泡を含有させる軽量化方法が知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-50250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被覆材に加圧下で発泡剤を混合し、減圧下(大気下)で発泡させる方法は、加圧下で発泡剤を混合するのに手間がかかり、加圧および減圧の圧力調整が面倒である。さらに、発泡状態を制御し難く、適宜な気泡量を含有させるのが難しい。例えば、発泡量が多過ぎると機械的強度が著しく低下し、発泡量が少いと軽量化が困難になる。また、不純物によって絶縁性能が低下するなどの問題がある。
【0005】
本発明は、従来の軽量被覆材について、上記問題を解決したものであり、被覆材中にシリカ質の中空微粒子を含有させることによって、強度を確保しながら軽量化を図り、ケーブルを折り曲げても中空粒子が破壊することなく、また熱に対する耐久性が高い絶縁性能有することができるケーブル用被覆材およびそのケーブルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示す構成によって上記問題を解決したケーブル用被覆材およびそのケーブルに関する。
〔1〕送電用ケーブルおよび通信用ケーブルに用いられる被覆材であって、被覆材中にシリカ質の中空微粒子を含有することを特徴とするケーブル用被覆材。
〔2〕平均粒径が5〜100μm以下のシリカ質中空微粒子が用いられる上記[1]に記載するケーブル用被覆材。
〔3〕シリカ質微粒子の容重が0.15〜0.35g/cm3である上記[1]または上記[2]に記載するケーブル用被覆材。
〔4〕内部空間に隔壁を有するシリカ質中空微粒子が用いられる上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するケーブル用被覆材。
〔5〕被覆材中に1〜20質量%のシリカ質中空微粒子を含有する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するケーブル用被覆材。
〔6〕引張り強さが16Ma以上であって、単位重量が1.30g/cm3以下である上記[1]〜上記[5]の何れかに記載するケーブル用被覆材。
〔7〕上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する被覆材を有する送電用ケーブルまたは通信用ケーブル。
【発明の効果】
【0007】
本発明のケーブル用被覆材は、被覆材を形成する合成樹脂中にシリカ質微粒子を含有するので、被覆材を軽量化することができ、かつ機械的強度の高いケーブルを製造することができる。
【0008】
本発明のケーブル被覆材は、好ましくは、粒子の内部空間に隔壁を有するシリカ質中空微粒子を用いる。この中空微粒子は隔壁のない単一空間からなる中空粒子に比較して粒子の強度が大きいので破壊され難く、耐久性に優れる。
【0009】
また、本発明の中空粒子は、好ましくは、隔壁によって区切られた独立気泡からなる複数の内部空間を有するシリカ質中空微粒子を用いる。このため粒材に局部的な亀裂や破損が生じても、残りの内部空間によって中空状態が維持されるので、耐久性の高い軽量かつ機械的強度の高いケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の被覆材は、送電用ケーブルおよび通信用ケーブルに用いられる被覆材であって、被覆材中にシリカ質の中空微粒子を含有することを特徴とするケーブル用被覆材である。
【0011】
送電用ケーブルおよび通信用ケーブルは、その保護、補強、絶縁のために、外周に樹脂等で被覆材が形成される。本発明のケーブル用被覆材は、この被覆材中にシリカ質の中空微粒子を含有させることによって、被覆材の機械的強度を確保しつつ、被覆材を軽量化したものである。
【0012】
被覆材を形成する樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ナイロン等が用いられる。また、これらの樹脂のほかに補強材としてガラス繊維などが配合される。
【0013】
被覆材を形成する樹脂にシリカ質中空微粒子を混合する方法は、例えば、原料となる樹脂を加熱し、溶融した樹脂に可塑剤、安定剤、着色材等の添加物と共にシリカ質中空微粒子を添加すれば良い。被覆材を形成する樹脂にシリカ質中空微粒子を混合して被覆材が調製される。この被覆材を用いて送電用ケーブルおよび通信用ケーブルの外周部分が形成される。
【0014】
本発明のケーブル用被覆材は、樹脂中に含有される中空微粒子はシリカ質であるので劣化し難く耐久性に優れている。また、シリカ質中空微粒子を含有するので、紫外線や高温環境に対して耐久性に優れている。
【0015】
本発明で用いるシリカ質中空微粒子は内部空間に隔壁を有する中空微粒子が好ましい。この中空微粒子は隔壁のない単一空間からなる中空粒子に比較して粒子の強度が大きい。単一空間からなる中空粒子はせん断や圧縮によって破壊され易いが、内部に隔壁を有する中空微粒子は強度が大きく破壊され難いので、中空状態を安定に維持することができる。このような内部に大きな空間を有するシリカ質中空微粒子は光学顕微鏡によって内部空間や隔壁構造を確認することができる。
【0016】
内部空間に隔壁を有する中空微粒子は、被覆材を形成する樹脂に中空微粒子を混合するときに、実用的な生産規模で機械的に混合する場合でも、強度が大きいので壊れ難く、中空構造が維持される。なお、強度が小さい粒材は樹脂に混合させる際に壊れやすく、中空構造を維持できないので、十分な軽量化を得るには粒材の使用量を多くしなければならず、経済性に劣り、また、樹脂の柔軟性を損なう。
【0017】
本発明で用いるシリカ質中空微粒子は内部空間に隔壁を有するものが好ましい。具体的には、内部空間に隔壁を有するものの粒子数が、100個中60個以上(約60%以上)が好ましく、約70%以上がより好ましい。隔壁を有する粒子の割合は多いほど粒子の強度が大きい。内部空間に隔壁を有する粒子数がこれより少ないと、粒子の強度が低いので樹脂に混合したときに破損する割合が多くなる。また、隔壁の数は1個よりも複数個あることが望ましい。複数の隔壁を有することによって、粒子の強度がさらに向上する。具体的には、例えば、圧縮強度15MPa以上の強度を有することができる。
【0018】
また、本発明のシリカ質中空微粒子は、隔壁によって区切られた独立気泡からなる複数の内部空間を有するものが好ましい。このような中空微粒子は、微粒子に局部的な亀裂や破損が生じても、残りの内部空間によって中空状態を維持することができる。
【0019】
さらに、本発明で用いるシリカ質中空微粒子は、粒子表面に開口が存在しないものが好ましい。中空微粒子でも、表面に気孔が開口しているものは、樹脂との混合時に内部に樹脂が浸入して容易に中空状態が損なわれる。また、表面の気孔口が閉じたものでも内部空間が連続気泡によって形成されているものは、表面に部分的に亀裂が生じると、粒子内部の空間全体に液体が浸透して充満し、中空状態を維持できなくなり、十分な軽量化が得られなくなる。一方、隔壁によって区切られた独立気泡からなる複数の内部空間を有する中空微粒子は局部的に亀裂が生じても残りの独立気泡の空間によって中空状態を保つことができる。
【0020】
上記シリカ質中空微粒子は、シリカ(化学成分としてSiO2)を主成分とする無機系材料から製造することができる。具体的には、シラス、真珠岩、黒曜石、松脂岩などのシリカ含有量70〜90%の天然ガラス質岩石を平均粒径100μm以下の微粒子に粉砕し、該岩石微粒子を900℃〜1500℃に加熱して発泡させて中空微粒子にし、この中空微粒子から内部空間が隔壁によって区切られたものを選択することによって製造することができる。また、本発明の中空粒子は、上記天然ガラス質岩石に限らず、例えば、岩石粉末に発泡原料を混合して造粒し、加熱発泡させることによって製造することもできる。
【0021】
上記シリカ質中空微粒子は、シリカ含有量が70〜90%のものが好ましい。シリカ含有量が70%未満であると不純物が多くなり、製造時に均一な発泡ができなくなるため適当ではない。また、シリカ含有量が90%を超えると融点が高くなるため発泡温度が高くなり、さらには高温でも発泡しなくなるため適当ではない。
【0022】
本発明で用いるシリカ質中空微粒子は、平均粒径100μm以下が適当であり、平均粒径5〜100μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。100μmより大きい粒子では、ケーブルを曲げたり、折ったりした時に、部分的な圧力が加わって破損しやすいので好ましくない。また、5μmより小さい粒子は、粒子どうしの凝集が起こりやすく、均一な分散ができないので適当ではない。
【0023】
本発明で用いるシリカ質中空微粒子は、微粒子の容重が0.15〜0.35g/cm3の範囲が好ましい。容重が0.35g/cm3を上回ると内部空間の割合が少なく、軽量化の効果が小さい。一方、容重が0.16g/cm3より小さいと、粒子の膜厚が薄いため強度が低下し、樹脂との混合時に破損するものが多くなり、またケーブルを折り曲げたときに破損して被覆が弱くなるなどの問題が生じる。
【0024】
本発明のケーブル用被覆材において、上記中空微粒子の含有量は被覆材中で1〜20質量%が好ましい。被覆材中の中空微粒子の含有量が1質量%よりも少ないと、軽量化が不十分になる。20質量%を超えると被覆が脆くなり、ケーブルとしての柔軟性が失われ、湾曲したときに亀裂が生じやすくなる。
【0025】
本発明によれば、例えば、引張り強さ16Mpa以上、好ましくは20Mpa以上、および単位重量1.30g/cm3以下、好ましくは1.00g/cm3以下のケーブル用被覆材を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。なお、平均粒径、容重、体積抵抗率、引張強さ、隔壁を有する粒子の割合、被覆材の単位重量は以下の方法によって測定した。
【0027】
〔平均粒径〕レーザー回折粒度分布測定装置を用い、日機装社製測定器(マイクロトラック)によって測定した。
〔容重〕一定容積S(cm3)の容重枡に試料を充填し、開口からはみ出た部分をすり切り、全体の重量G1を測定し、これから容器の重量G2を差し引いて粉末重量G3(g)を求め、上記容積Sに対する粉末重量G3〔G3/S〕g/cm3を容重とした。
〔体積抵抗率〕規格〔JIC C 6723〕に準じて測定した。
〔引張強さ〕規格〔JIS C 3005〕に準じて測定した。
〔隔壁を有する粒子の割合〕中空微粒子を顕微鏡観察して隔壁を有する中空粒子の数を調べ、中空微粒子100個中の割合を求めた。
〔被覆材の単位重量〕被覆材の重量を測定し、単位体積(1cm3)あたりの重量を求めた。
【0028】
〔中空微粒子の調製〕
真珠岩〔化学成分含有率(質量%)SiO2 74%、Al2O3 13%、Fe2O3 1%、CaO1%、ig.loss 2.2%〕を発泡させてシリカ質中空微粒子を製造し、容重0.13〜0.37g/cm3、平均粒径3〜200μmのものを選択した。これらの中空微粒子について、容重、平均粒径を表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
〔実施例1〕
ポリ塩化ビニル100質量部、可塑剤(DOP)30質量部の混合物に対して、表1の中空微粒子を10質量部混合して加熱成形し、体積抵抗率および引張強さを測定した。この結果を表2に示した。
【0031】
表2に示すように、中空微粒子を含有しない試料(No.10)の被覆材単位重量は1.39g/cm3であるが、中空微粒子を含有させることによって被覆材の単位重量は0.95〜1.20g/cm3に小さくなり軽量化される。一方、中空微粒子を含有させても、体積抵抗率の低下が小さく十分な絶縁性を有する。また、ケーブルについて一般に要求される引張強さ(10MPa)に対して、中空微粒子を含有させても引張強さは上記要求基準より大きく、特に本発明の好ましい範囲の中空微粒子を含有する試料(No.1〜3、No.7)は、十分な引張強さを有し、かつ単位重量も小さい。
【0032】
平均粒径の大きい中空微粒子(A4:200μm)を用いた試料(No.4)は、十分な引張強さを有し、単位重量も小さいが、平均粒径が大きいので湾曲時に部分的な亀裂が生じる場合がある。また、容重が小さい中空微粒子を用いた試料(No.5)は引張強さがやや小さく、容重が大きい中空微粒子を用いた試料(No.6)は単位重量が大きいので軽量化の程度が小さい。さらに、平均粒径が小さい中空微粒子(A8)を用いた試料(No.8)は樹脂との混合時に分散がうまくいかず、均一な被覆ができなかった。隔壁粒子の割合が少ない中空微粒子(A9)を用いたものは、粒子強度が低いので割れて中空状態を維持できず、粒子内部に樹脂が浸透するので、同程度の平均粒径および容重に比べて軽量化の程度が小さい。
【0033】
【表2】

【0034】
〔実施例2〕
ポリ塩化ビニル100質量部、可塑剤(DOP)30質量部の混合物に対して、表1のA2の中空微粒子を混合して加熱成形し、ケーブル被覆材を形成した。この被覆材について体積抵抗率および引張強さを測定した。この結果を表3に示した。
【0035】
樹脂に対する中空微粒子の添加量が0.5質量%(No.11)では軽量化の効果はほとんどない。中空微粒子の添加量が増えるのに比例して被覆材の単位重量が低下して軽量になる。一方、中空微粒子の添加量が増えるのに比例して引張り強さが低下する。添加量が30質量%を超えると、引張り強さ9MPaに低下し、ケーブル湾曲時に部分的亀裂を生じ、ケーブル被覆材としての柔軟性が失われる。
【0036】
【表3】

【0037】
〔実施例3〕
ポリ塩化ビニル100質量部、可塑剤(DOP)30質量部の混合物に対して、表1の中空微粒子(A2)を5〜20質量部混合して加熱成形し、ケーブル被覆材を形成した。この被覆材に紫外線(カーボンアーク灯)を400時間照射し、促進暴露試験を行った。結果を表4に示す。
【0038】
表4に示すように、本発明の中空微粒子を樹脂に混合することによって、被覆材の表面変化(変色や退色、光沢低下など)が防止され、紫外線に対する耐久性が向上する。
【0039】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電用ケーブルおよび通信用ケーブルに用いられる被覆材であって、被覆材中にシリカ質の中空微粒子を含有することを特徴とするケーブル用被覆材。
【請求項2】
平均粒径が5〜100μm以下のシリカ質中空微粒子が用いられる請求項1に記載するケーブル用被覆材。
【請求項3】
シリカ質微粒子の容重が0.15〜0.35g/cm3である請求項1または請求項2に記載するケーブル用被覆材。
【請求項4】
内部空間に隔壁を有するシリカ質中空微粒子が用いられる請求項1〜請求項3の何れかに記載するケーブル用被覆材。
【請求項5】
被覆材中に1〜20質量%のシリカ質中空微粒子を含有する請求項1〜請求項4の何れかに記載するケーブル用被覆材。
【請求項6】
引張り強さが16Ma以上であって、単位重量が1.30g/cm3以下である請求項1〜請求項5の何れかに記載するケーブル用被覆材。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れかに記載する被覆材を有する送電用ケーブルまたは通信用ケーブル。

【公開番号】特開2010−171002(P2010−171002A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292274(P2009−292274)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】