説明

ゲノムDNA断片の選抜方法

植物に導入して農業上有益となる植物の改良を行うためのゲノムDNA断片の選抜方法を提供する。
本発明の方法は、(1) 植物からゲノムDNAを調製し、クローニングベクターを用いて、ゲノムDNAライブラリーを構築し;(2) ゲノムDNAライブラリーを構成する複数のゲノムクローンの各々に含まれるゲノム断片を、個別に植物に導入し、形質転換植物を作出し;
(3) 形質転換植物、または、その子孫の植物を栽培し、表現型に農業上有益となりうる変異の生じた植物を選抜し;(4) 工程(3) において選抜された植物に、工程(2) において導入されていたゲノムDNA断片を、目的とするゲノムDNA断片として選抜する;工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片を効率良く選抜する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業上有益な新品種を育成するため、従来から、植物同士を交配させて後代を選抜する交配育種法や、植物に突然変異を誘発させる突然変異育種法などが行われてきた。また近年では、バイオテクノロジーの進歩により、有用遺伝子を導入しその機能を発現させる遺伝子組換え植物も育成されている。
個別遺伝子導入による新品種育成
通常、遺伝子組換えにより新品種を育成するためには、まず遺伝子を単離し、その機能を解析する必要がある。植物遺伝子についての分子生物学的知見は、近年飛躍的に増大しており、多くの種のゲノムDNA配列が決定され、部分長鎖および全長鎖cDNAクローンも多数単離され、その配列も決定されている。但し、これまでにクローン化され、推定されている遺伝子機能の多くは、単に、遺伝子のコード領域の塩基配列またはそれから推定されるタンパク質のアミノ酸配列が、従来発見されている酵素遺伝子などの配列と類似であるとの情報に基づいており、遺伝子の機能を検証するには、形質転換体において遺伝子の発現と表現型とが一致することを確認しなければならない。そのため、個々の遺伝子の機能解明には大変な時間と労力が必要となり、その解明はほとんど進んでいない。 全長鎖cDNAクローンを単離し、これを適当なプロモーター、ターミネーターと連結し、形質転換することにより、遺伝子の機能を検証しようとする試みがある。またこれを進めて、完全長cDNAのライブラリーを植物に導入して、遺伝子機能を網羅的に解析する技術も開発されている(WO 03/018808 A)。しかし、これらにおいては、その遺伝子が本来持つプロモーターでなく、さらにイントロンその他の遺伝子発現制御機能も除かれてしまっているので、遺伝子本来の機能を発現することは期待しにくい。また、遺伝子によっては、そのスプライシングの方法が一通りではないために(Jordan et al. Trends in Plant Sciences7:392-398,2002)、cDNAクローンから本来の機能が失われている場合もある。実際、このような形質転換植物に認められる変異は、新品種育成の実用性には乏しい。
【0003】
近年ではバイオインフォマティクスの手法を利用し、各遺伝子のタンパク質に翻訳されるコーディング領域、プロモーター領域、イントロン領域などの推定も行われている。DNA断片を用いたマイクロアレイ技術により、遺伝子の発現様式が調査されている。遺伝子ノックアウト技術により、機能欠失変異体が数多く作製されており、遺伝子機能解析に使われている。また、アクチベーションタギングにより、遺伝子発現を高進した形質変換体が作製され、遺伝子機能解析に使われている。遺伝子によりコードされるタンパク質相互間の関係を明らかにするために、トゥーハイブリッドシステムが用いられている。
【0004】
しかし、バイオインフォマティックスによる遺伝子機能の推定では、既知のタンパク質の機能や構造と、それをコードする遺伝子の配列との関係から得られた知見を、機能不明の遺伝子の機能探索に利用する場合が多いが、最近の研究によって、cDNAの中には、タンパク質に翻訳されないものが多く存在すること、すなわち、mRNA様のRNAが転写はされるもののタンパク質は生成されない遺伝子が、多く存在することが明らかとなった。また、転写後、低分子のRNAとして機能する遺伝子も多い。したがって、これまでのバイオインフォマティックスの技術では、機能解明が困難なゲノムDNA上の遺伝子も多い。そのため、このような最新の手法を駆使しても、遺伝子機能の推定は容易ではない。
【0005】
上記のように遺伝子機能の解析は現在でも容易ではない。そして、たとえ遺伝子機能が特定できたとしても、このような個別遺伝子の形質転換を行う方法では、いわゆるヘテロシスにおいて発現の向上が認められる形質や量的形質を向上させた新品種を育成することは困難である。
【0006】
ある生物について、当該生物が有する、既知の表現型をもたらす遺伝子を捕捉するために、当該生物のゲノムライブラリーを構築し、これらをプラスミドとして酵母や細菌などの微生物に導入して形質転換細胞を作製、さらに、当該既知の表現型について知られている情報、例えば当該遺伝子の転写産物などの情報を基に、形質転換細胞を選抜し、これを利用して目的遺伝子をクローニングしようとする試み(ショットガン・クローニング)が広く行われている(Dairi et al. Mol Gen Genet 262: 957-964, 2000.)。
【0007】
また、ショットガン・クローニングを応用し、ゲノムライブラリーの導入先を、微生物ではなく植物にして、植物ゲノムライブラリーを形質転換した例がある(Klee et al. Mol Gen Genet 210:282-287, 1987)。この実験では、微生物由来カナマイシン耐性遺伝子を導入して作製したアラビドプシス形質転換体から、ゲノムライブラリーを構築し、ゲノムクローンを含むアグロバクテリウム菌株を多数含む混合菌株をペチュニアの葉片ディスクに感染させ、カナマイシン耐性のペチュニア細胞、すなわち、アラビドプシス形質転換体に由来するカナマイシン耐性遺伝子を含むペチュニア細胞を選抜している。その結果、アラビドプシスゲノム中の微生物由来カナマイシン耐性遺伝子が、ペチュニアに形質転換した後でも捕捉可能なことが示された。
【0008】
さらに、アラビドプシスにおいて、Acetohydroxy acid synthase (AHAS)遺伝子の突然変異のためChlorosulfuronに耐性を示す突然変異体から、ゲノムライブラリーを構築し、変異型AHAS遺伝子を含むゲノムクローンを3個単離して、これらのクローンをタバコに導入したところ、Chlorosulfuronに耐性の形質転換体を得た例が開示されている(Olszewski et al. Nucleic Acid Res. 16:10765-10782, 1988.)。
【0009】
これらの研究は、ゲノムライブラリーを利用して植物細胞を形質転換し、遺伝子クローニングを行う技術を開示している。しかし、これらの研究は、ゲノムライブラリー供与植物の未知の遺伝子の捕捉に成功したものではないし、未知の遺伝子による形質転換植物の改良に成功したものでもない。これらの技術をもってしても、農業上有用な形質、とりわけヘテロシスにおいて発現の向上が認められる形質や量的形質を向上させた新品種を育成することは困難である。
ヘテロシス
ヘテロシス(雑種強勢)とは、2つの親品種を交雑したときに、雑種第一代(F1)が両親より強い生活力を示す現象をいう。ヘテロシスにおいては、植物体全体のビガー(vigor)が高い、植物体および器官が大きい、収量が高い、生長速度が速い、病害・虫害に強い、乾燥・高温・低温等さまざまな環境ストレスに対して強い、特定成分の増・減、特定酵素活性の増・減等々、さまざまな形質の向上が認められるが、これらの形質には農業上極めて有益なものが多い。ヘテロシスを用いた育種法として、異なる親を掛け合わせて新品種を作出する一代雑種育種法が古くから栽培植物の改良に利用されており、トウモロコシを始め、多くの作物において優良品種育成に大きな貢献をしてきた。しかし一代雑種育種法は、育種集団の育成・改良、自殖系統の育成、一般組合せ能力検定、特定組合せ能力検定、F1品種の選出等々の、多数のステップを必要とし、さらに、それぞれのステップには多大な時間と労力が必要となる。また、ヘテロシスは遺伝的に遠縁の親同士の掛け合わせで大きな効果が認められることが多いが、その反面、類縁関係が遠い場合、交配しても稔性をもたないことも多く、交配を行うことができる種の範囲は限られたものであった。
【0010】
ヘテロシスを起こす分子機構は未だ解明されていない。最近の育種学の教科書においても、「生理学的、生化学的および分子レベルでの(ヘテロシス)の原因因子は、今日でも1952年に開かれたヘテロシス会議の当時と同じく、殆ど知られていない」(Genetics and Exploitation of Heterosis in Crops, p.173, ed. Coors and Pandey, 1999, American Society of Agronomy, Inc. and Crop Science Society of America, Inc., Madison, WI, U. S. A.)と記載されている。
【0011】
最近、トウモロコシに関してヘテロシスに関連する興味深い報告がなされた。Fu and Dooner, Proc. Natl Acad Sci USA 99:9573-9578, 2002とSong and Messing, Proc Natl Acad Sci USA 100:9055-9060, 2003である。両報とも、トウモロコシの特定の遺伝子座に着目して品種間の塩基配列の差異を調査し、その結果トウモロコシにおいては、品種間差異が、イネなどの自殖性作物の場合と比べ相当に大きいことが示された。
【0012】
これらの知見は、ヘテロシスの現れやすい他殖性のトウモロコシでは、自殖性の作物よりも、品種間のゲノムDNAの配列の差異が大きいことを示す興味深いものであるが、ヘテロシスを起す分子機構が解明されたといえるものではない。
【0013】
このようにヘテロシスを起こす分子レベルでの機構については未だ解明されていない。しかし、マクロなレベルでは、以下に示すような各種の遺伝子の相互作用により、ヘテロシスが起こることが明らかになってきている。
【0014】
イ)優性遺伝子連鎖効果(dominance effect)
ヘテロシスの認められる形質は、種々の連鎖群にある多くの遺伝子座に支配され、各遺伝子座において、生存や生産力に有利な対立遺伝子(allele)は優性で、不利な対立遺伝子は劣性である場合が多いと考えられる。連鎖している遺伝子座が多いため、多数の遺伝子座のすべてにおいて、有利な対立遺伝子がホモとなる系統を得ることは不可能に近い。しかし、F1においては、両親の持つすべての有利な対立遺伝子を合わせもつことができるため、ヘテロシスが引き起こされる。
【0015】
ロ)超優性効果(over-dominance effect)
多数の遺伝子座において、それぞれ2つの対立遺伝子がヘテロに存在する場合の方が、どちらかの対立遺伝子がホモに存在する場合よりも、生存や生産力に有利な場合があり、このような効果の総和によりヘテロシスがもたらされる。
【0016】
また、超優性効果が、とくに作用力の大きな遺伝子座において存在する場合は、その単一座の超優性効果によるヘテロシスが観察される。この現象を、単一遺伝子ヘテロシス(single-gene heterosis)、あるいは、単一遺伝子座ヘテロシス(single-locus heterosis)という。これは、元の植物では特段の表現型に寄与している訳ではないが、他の植物の遺伝子の相互作用により有用な変異をもたらす遺伝子、あるいは遺伝子座である。このような性質をしめす遺伝子、もしくは遺伝子座の例としては、トウモロコシのalcohol dehydrogenase遺伝子(Schwartz, Theor Appl Genet 43:117-120, 1973)や、同じくトウモロコシのpurple plant座(Hollick and Chandler, Genetics 150:891-897, 1998)の例などが知られている。
【0017】
ハ)非対立遺伝子相互作用(interaction of non-allelic genes)
生存や生産力に有利な形質が、F1雑種において、異なった遺伝子間の相乗的な効果としてもたらされる場合がある。このような性質を示す多数の遺伝子の効果の総和が、ヘテロシスをもたらす。なお、非対立遺伝子間の相互作用は、エピスタシス(epistasis)とも呼ばれる。
【0018】
ニ)細胞質遺伝子の効果(interaction between nuclear genes and cytoplasmic genes)
核遺伝子と細胞質遺伝子の相互作用により、F1雑種において、生存や生産力に有利な形質が発現する場合がある。
【0019】
これらの各種、複数の遺伝子の相互作用により、ヘテロシスが引き起こされると考えられている。Stuber (Plant Breeding Reviews 12:227-251, 1994)は、これらのそれぞれが実際に関与していることを示す多数の文献を紹介しており、ヘテロシスは、多数の遺伝因子によって支配されていることを強調している。また、Li and Yuan (Plant Breeding Reviews 17:15-158, 2000)も、上記のさまざまな効果の総和によってヘテロシスが起こると考えている。
【0020】
このようにヘテロシスは、多数の遺伝因子によって支配されているため、従来の技術ではヘテロシスにおいて発現の向上が認められる形質を向上させた新品種を育成することは困難であった。
量的形質
ヘテロシスにより発現の向上が認められる形質は、いわゆる量的形質であることが多いが、これを支配する量的形質遺伝子座(QTL, Quantitative Trait Loci)については、その遺伝解析は簡単ではない。しかし、近年の分子生物学的手法の発展とともに、DNAマーカーを用いてQTLの遺伝解析を行うことが可能となってきた。実際、ある量的形質を支配するQTLを含む染色体部位が特定された例もある。さらに遺伝子地図を利用し、分子生物学的手法により、農業上有用な遺伝子をクローニングする研究も盛んになっている。
【0021】
一部の生物では、染色体上に多くの分子マーカーが同定され、マーカーの連鎖分析に基づいた遺伝子地図が作成されている。また、長大なゲノムDNAを連結することにより、物理的な位置関係も明らかになっている。
【0022】
遺伝子地図が作成されている生物では、特定の表現型をしめす形質とマーカーとの連鎖分析、および、それに続く染色体歩行などにより、その形質を支配する遺伝子の物理的位置を明らかにし、遺伝子を単離する試みが行われている。実際、この手法(マップベースクローニング)により、いくつかの遺伝子が単離されている。
【0023】
しかし、通常のQTL解析では、QTLを含む部位の同定は大まかにしかできず、理論的に多数の遺伝子を含むDNA断片が、QTLを含むDNA断片として明らかになるに過ぎない。そしてクローニング可能な大きさの断片、あるいは、形質転換により植物に導入することが可能な大きさの断片として同定することは容易ではない。また、詳細な遺伝子地図を作成して地図情報をもとに求める遺伝子を特定し、遺伝子をクローニングする作業には、長い時間と多くの労力が必要となる。実際に、QTL解析をもとに、量的形質を増大させるDNA断片がクローニングされた例はほとんどない。
ゲノムDNAライブラリー作出と、ゲノム断片による形質転換技術
植物由来のゲノム断片のライブラリーを構築する技術は公知である。その際に形質転換可能なベクターを用いることも公知である。例えば、40〜80kbの大きなDNA断片のクローニングができ、植物への遺伝子導入が可能なベクターは公知である(Liu et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:6535-6540, 1999)。植物由来の個々の特定のクローンとしてのゲノム断片を、高等植物に導入する実験も試みられてきた。しかし、ゲノムDNAライブラリーを構成する、機能が未知の、多数のゲノム断片を個別に植物に導入する試みはこれまでになされていない。
【0024】
また、ゲノムクローンを利用した場合に、cDNAを利用する場合と比べ遺伝子の発現効率が良くなる場合があることも知られている。実際、ある遺伝子(トウモロコシのホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼPhosphoenolpyruvate carboxylase)を含むゲノム断片を、植物(イネ)に導入したところ、極めて高いレベルで外来遺伝子の発現が認められたことも報告されている(Ku et al. Nature Biotechnol. 17:76-80, 1999)。また、40 - 80 kbのアラビドプシス由来のゲノムクローン3個を、個別にアラビドプシスに導入した実験例が報告されている(Liu et al. Proc Natl Acad Sci USA 96:6535-6540, 1999, Shibata and Liu Trends in Plant Sci 5:354-357, 2000)。うち2個のクローンは、これらのクローンに含まれている遺伝子座に突然変異を起こし重力屈性を失ったアラビドプシス系統に導入され、欠失していた重力屈性が相補されることが確認されている。
【0025】
上記の知見は、生物の遺伝子、とりわけ、多細胞生物の遺伝子は、時間的、空間的な分布、および、外的刺激などの環境条件により、その発現量が複雑な制御を受けていること、即ち、何時、どの組織、細胞で、どんな時に、どの程度の発現をするかが、その遺伝子の重要性を決定していることを示唆する。即ち、これらの高度な遺伝子制御を含んだ機能を解明するためには、その遺伝子のゲノム断片に含まれている、プロモーター、イントロン、エンハンサー、構造遺伝子、スプライシング部位、その他の高度な遺伝子発現制御機能のすべてを明らかにしなければならない。しかし、この作業には多大な労力と時間が必要であり、多くの遺伝因子の相互作用を解明するのは困難である。

【特許文献1】PCT国際公開WO 03/018808 A
【非特許文献1】Jordan et al. Trends in Plant Sciences 17:392-398,2002
【非特許文献2】Dairi et al. Mol Gen Genet 262: 957-964, 2000
【非特許文献3】Klee et al. Mol Gen Genet 210:282-287, 1987
【非特許文献4】Olszewski et al. Nucleic Acid Res. 16:10765-10782, 1988
【非特許文献5】Genetics and Exploitation of Heterosis in Crops, p.173, ed. Coors and Pandey, 1999, American Society of Agronomy, Inc. and Crop Science Society of America, Inc., Madison, WI, U. S. A.
【非特許文献6】Fu and Dooner, Proc. Natl Acad Sci USA 99:9573-9578, 2002
【非特許文献7】Song and Messing, Proc Natl Acad Sci USA 100:9055-9060, 2003
【非特許文献8】Schwartz, Theor Appl Genet 43:117-120, 1973
【非特許文献9】Hollick and Chandler, Genetics 150:891-897, 1998
【非特許文献10】Stuber,Plant Breeding Reviews 12:227-251, 1994
【非特許文献11】Li and Yuan,Plant Breeding Reviews 17:15-158, 2000
【非特許文献12】Liu et al. Proc Natl Acad Sci USA 96:6535-6540, 1999
【非特許文献13】Ku et al. Nature Biotechnol. 17:76-80, 1999
【非特許文献14】Shibata and Liu Trends in Plant Sci 5:354-357, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、農業上有益な変異をもたらすことのできる、多数のゲノムDNA断片を効率良く選抜し、クローン化されたDNA断片として選抜し、調製する方法を提供する。
【0027】
本発明は、複数の遺伝因子により発現が向上する形質について、その発現を向上させるゲノムDNA断片を効率良く選抜、調製する方法を提供する。
【0028】
本発明は、ヘテロシスにおいて発現が認められる形質や量的形質を向上させることのできる、多数のゲノムDNA断片を効率良く選抜し、クローン化されたDNA断片として選抜し、調製する方法を提供する。
【0029】
本発明は、一代雑種育種法などの手法で避けることができない、育種集団の育成・改良、自殖系統の育成、一般組合せ能力検定、特定組合せ能力検定、F1品種の選出等々の、各々が長期の時間を要する多数のステップを必要とせずに、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片を効率良く選抜、調製する方法を提供する。
【0030】
本発明は、形質発現の機構や、形質を発現させる個々の遺伝子に関する情報がほとんどない場合でも、ゲノムDNA断片を導入した導入先植物の表現型のみに基づいて優良個体を選抜して、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片を効率良く選抜、調製する方法を提供する。
【0031】
本発明は、同種の植物品種間のみならず異種の植物品種間でも、ヘテロシスで見られる形質向上と同様の発現(以下「ヘテロシス様発現」という。)を可能にするゲノムDNA断片を効率良く選抜、調製する方法を提供する。
【0032】
本発明は、多大な時間と人手を要することなく、ヘテロシス様発現を可能にする多数のゲノムDNA断片を短期間に効率よく選抜、調製する方法を提供する。
【0033】
本発明は、本発明の方法で調製した、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片もしくはヘテロシス様発現を引き起こすことができるゲノムDNA断片で植物を形質転換することにより、農業上有益となりうる変異を有する植物を製造する方法、並びに該方法で製造した植物を提供する。
【0034】
本発明は、本発明の方法で調製した、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片もしくはヘテロシス様発現を引き起こすことができるゲノムDNA断片の全部またはその一部をマーカーとして使用し、農業上有益となりうる変異を有する植物を育成する方法、並びに該方法で育成した植物を提供する。

〔用語の説明〕
本明細書において、「農業上有益な変異」とは、「植物にとって通常もしくは良好な栽培条件または植物に何らかのストレスのかかる条件下で、植物、特に栽培植物および/または観賞用植物において、植物体の少なくとも一部について、量的な増大または減少、または、その生長速度の増大または減少をもたらす変異」である。ストレスのかかる条件とは、栽培地の塩濃度、高温、低温、乾燥、病害等を含む。
【0035】
このような変異は、通常の栽培条件下で、子実・茎葉等が増大すれば、多収という形質になるし、病害ストレス等がおよぶ条件下で枯死せず、対照と比して子実・茎葉等が増大していれば、病害ストレス等に対する抵抗性を意味するからである。内容成分や、植物体に含まれる酵素等も、当然、「植物体の一部」に包含される。植物体の全体または部分のサイズの減少も、矮性植物の育種が盛んに行われ、広く栽培されていることから、農業上有益である場合がしばしばある。
【0036】
よって、「何らかの栽培条件下で、植物体の少なくとも一部について、量的な増大または減少、または、その生長速度の増をもたらす変異」という概念は、植物体全体のビガー(vigor)が高い、植物体および器官が大きい、収量が高い、生長速度が速い、病害・虫害に強い、乾燥・高温・低温等さまざまな環境ストレスに対して強い、特定成分の増・減、特定酵素活性の増・減、矮性化、等々、農業上有益な多くの変異を包含する。
【0037】
また、組織培養技術を用いた無病種苗の生産なども重要な農業技術であるので、組織培養における細胞増殖能の向上等も、農業上有益な変異と言えることは言うまでもない。
【0038】
本明細書において、「選抜」という用語には、ある被選抜集団に、ある選抜工程を施したときに、選抜後の集団の要素がゼロとなるケース、すなわち、被選抜集団に、選抜基準に適合する要素が含まれていないことが判明するケースも含まれるものとする。これは、選抜基準に適合する要素が含まれていないことを知ることによって、その被選抜集団の調査にそれ以上の労力・資源を投入することを避けることができるという、産業上の有用性に鑑みてのものである。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明は、以下の(1) ないし(4) および所望により(5) の工程により、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができる、ゲノムDNA 断片を選抜する方法である。
【0040】
(1) まず、植物から、通常用いられている方法によりゲノムDNA断片を単離し、部分的に制限分解を行い、サイズ分画の後、常法によりゲノムDNAライブラリーを構築する。
【0041】
ゲノムDNA 断片を供与する植物には特別の制限はないが、好ましい例として、ゲノムDNA 断片の導入先植物との交配によって、ヘテロシスが生じうる植物があげられる。例えば、導入先の植物がジャポニカイネである場合は、野生イネの一種であるオリザ・ルフィポゴンや、インディカイネが好ましい。導入先の植物がトウモロコシの特定品種である場合は、トウモロコシの他の品種や、野生種のテオシントなどが好ましい供与元植物の例である。一般的に、類縁関係の遠い植物ほど大きなヘテロシスが観察されている。従来は類縁関係が遠い場合には、交配が不可能となるため、類縁関係の遠い植物との組合わせによるヘテロシスを利用できなかったのに対し、本発明の方法では、交配ができない供与元植物のゲノムDNA 断片を容易に利用できるので、類縁関係の遠い植物も好ましい供与元植物として利用可能である。
【0042】
ゲノムライブラリーの構築に用いるクローニングベクターとしては、種々のベクターが利用できる。好ましくは、直接、導入先の植物の形質転換に用いることのできるベクターが用いられる。例えば、イネ、タバコ、アラビドプシス等を形質転換するためにはpSB200やpCLD04541(Tao and Zhang Nucleic Acid Res 26:4901-4909, 1998)が使用でき、トウモロコシを形質転換するためにはpSB25UNpHmが使用できる。
【0043】
クローニングするDNA断片は、単一遺伝子座ヘテロシスの場合には最低1つの遺伝子が含まれればよいが、ゲノム中に存在する個々の遺伝子とその発現制御に必要な領域が内包できるよう、1 kb以上が好ましく、10 kb以上の大きさがさらに好ましく、さらに好ましくは20 kb以上、さらに好ましくは30〜40 kb以上である。いずれにせよ、DNA断片の大きさにはクローニングベクターに導入できる限り特別の上限はない。このようなDNA断片サイズを得るための部分的制限分解の方法は公知である。ゲノムDNAライブラリーを構成するクローンの総数、すなわち、ライブラリーのサイズは、植物ゲノムの多くの遺伝子が含まれるよう充分に大きいことが好ましい。部分的制限分解に用いる酵素としては、さまざまなものを用いることができる。より偏りの少ない分解を行うためには、4塩基認識の制限酵素、例えば、MboI、TaqIなどの使用が望ましい。適当な分解条件を決定する方法は公知であり、例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001.に詳細な記載がある。
【0044】
理論的には、任意のゲノム断片が当該ゲノムDNAライブラリーにある確率で含まれるための、クローンの総数は下記の式により計算される。
【0045】
N=ln(1-P)/ln(1-f)
(式中、
Pは、任意のゲノム断片が当該ゲノムDNAライブラリーに含まれる確率であり、
fは、クローンに含まれるゲノム断片の平均長/元の植物のゲノムサイズであり、
Nは、ゲノムクローンの総数である)。
【0046】
例えば、イネ由来のゲノムDNAライブラリーの場合、任意のゲノム断片が当該ゲノムDNAライブラリーに含まれる確率を70%、ゲノムDNAライブラリーの平均断片長を40 kbとすると、
N=ln(1-0.7)/ln[1-(40 x 103 / 430 x 106 )] = 1.3 x 104
となり1万3千個のクローンが必要となる。
【0047】
なお、本計算は、単に、多数のクローンを取り扱う意味を例示するために示したものであり、常にこれだけの数のゲノムクローンを取り扱う必要があるということを示している訳ではない。ゲノムDNAライブラリー中に、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA 断片が、複数含まれている場合には、より少数のクローンを調査するだけでも、その中に、求める断片の少なくともひとつが含まれる確率は相当に高い。
【0048】
個々のクローンに含まれるゲノム断片サイズが大きい場合には、より少数のゲノム断片数を調査すれば、求めるゲノム断片を獲得することができる。一方、ゲノム断片サイズが小さい場合には、その後のクローニング操作等の取扱が容易になり、また、形質転換によって植物に導入する効率も高くなる。扱う植物のゲノムサイズ、実験の規模等の要因は総合的に検討して、決定される。
【0049】
ゲノムサイズの大きな植物を取り扱う場合には、メチル化されたDNA断片を排除することによって、発現する遺伝子の内包されるDNA断片の頻度を向上させる手法の利用も有用である。ゲノムサイズの大きな植物には、遺伝子としては機能しない不要なDNAが多く含まれていると考えられており、そのようなDNAはメチル化されていることが多いと言われている。メチル化されているDNAを生化学的に除去する方法は公知であるし、クローニングの際に、メチル化されたDNAを除去する性質を持った大腸菌を用いることによっても、メチル化されたDNAの除去が可能である(WO 00/50587)。
【0050】
ゲノムDNAライブラリーの構築後、ライブラリーを構成するクローンの一部を、大腸菌に取り込ませて培養する。出現するコロニー数(プラスミドまたはコスミドベクターの場合)やプラーク数(ファージベクターの場合)を計数し、これを元に、ライブラリーに含まれるクローンの総数を見積もる。さらに、出現したコロニーやファージの一部から、DNAを調製し、クローン化されたDNA断片の大きさを計測し、平均の断片長を見積もる。
【0051】
(2) ライブラリーを構成する個々のクローンに含まれるゲノム由来のDNAを、個別に植物に導入する。
【0052】
直接、植物の形質転換に用いることのできるベクター、例えばpSB200、pCLD04541、pSB25UNpHm等のベクターを用いた場合には、個々のクローンをそのまま、形質転換実験に用いることができる。そうでない場合には、個々のクローンに含まれるDNA断片の全部または一部を、形質転換用ベクターに移す操作を行った後、形質転換実験を行うことができる。
【0053】
形質転換に用いる導入先植物は、ゲノムDNAの由来する植物とは異種の植物であってもよく、同種の異なる品種であってもよく、同種の同一の品種であってもよい。好ましい植物の例として、イネ、大麦、小麦、トウモロコシなどの穀物、コーヒー、ココア、茶、タバコ、等の嗜好品を製造するための植物、野菜類、果物類、花などの観賞用植物、など実質上制限無く広い範囲の植物があげられる。
【0054】
形質転換の方法は、既存のどのような方法であってもよい。例えば、生物的導入法としてアグロバクテリウム法などが、物理的導入法としてマイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、シリコンカーバイド法、エアーインジェクション法などが、化学的導入法としてポリエチレングリコール法などが知られている。形質転換によりゲノムDNAは導入先植物のゲノムに組み込まれる。
【0055】
本発明によれば、一つの植物ゲノムライブラリーから得られる、ヘテロシス様発現を引き起しうるゲノムDNA 断片は、一つに限られないことが分かった。そこで、より多くのゲノム断片を選抜するためには、より多くのゲノム断片を、個別に植物に導入することが望ましい。また、本発明の選抜方法では、何らかの予備的な選抜工程を含めることを妨げないが、選抜される候補断片の偏りを排するためには、植物へ導入するゲノムDNA 断片は、該導入以前に、できるかぎり予備的な選抜工程を含めないことが望ましい。
【0056】
なお、本発明においては、導入するゲノムDNA断片について、当該DNA断片が、特に元の植物中において、どのような表現型に関与しているかといった情報は必要としない。なぜなら形質転換植物の表現型を選抜することによって初めて、有用なゲノムDNA 断片が特定されるからである。
【0057】
また、植物に導入する各ゲノムクローンについては、その少なくとも一部を増幅および/または保管しておく。保管は通常の方法により行ってよく、純化されたDNA、または、ゲノムクローンを含む大腸菌等の細菌、酵母等として保管される。
【0058】
(3) ゲノム断片が導入された形質転換植物は、完全な植物体に再生し、栽培する。
【0059】
再生された形質転換植物、および、その子孫の植物は、植物体全体のビガー(vigor)、植物体および個別器官の大きさ・重量、収量、生長速度、病害・虫害に対する抵抗性、乾燥・高温・低温等さまざまな環境ストレスに対する抵抗性、特定成分の増・減、特定酵素活性の増・減、等々、農業上有益なさまざまな形質について評価する。なお、ビガー(vigor)とは、植物体全体の活力や旺盛な生長力のことを言う。
【0060】
本発明においては、評価する形質は、ゲノムDNA断片供与元の植物や導入されたゲノムDNA断片の特徴などにかかわらず、農業上有用な形質であれば全く制限がないが、好ましくは、量的形質や、ヘテロシスにより向上が認められる形質であり、また好ましくは、導入先植物を育種対象とみなした場合に、農業上有用になる形質である。
【0061】
評価試験の結果、評価した形質について、当該ゲノム断片を導入しなかった植物と比較して、表現型が変異した植物を選抜する。例えば、当該ゲノム断片を導入しなかった植物と比較して、植物体全体のビガー(vigor)が高い、植物体および個別器官の大きく、重量が高い、収量が高い、生長速度が高い、病害・虫害に対する抵抗性が高い、乾燥・高温・低温等さまざまな環境ストレスに対する抵抗性が高い、特定成分の増・減、特定酵素活性の増・減、等々を示す植物を選抜することができる。各形質について、選抜すべき変異の方向は、一方とはかぎらない。例えば、矮性という形質は、いろいろな作物において育種目標となる重要な農業形質であるので、植物体および個別器官の大きさについては、当該ゲノム断片を導入しなかった植物と比較してより小さくなった植物も選抜することができる。他の形質についても同様である。
【0062】
このような形質は、多くが、いわゆる量的形質であり、遺伝的要因の他、環境的要因も大きく影響する。ゲノム断片を導入しなかった植物の場合でも、環境要因等のため、測定値は、あるばらつきを持った分布を示す。本発明により、ゲノムDNA断片をランダムに導入した植物の集団では、表現型の変異をもたらすゲノムDNA断片が存在する場合には、測定値の分布の広がりが大きくなることが期待される。そして、この分布の端部に位置する測定値を示す植物を選抜することにより、表現型の変異をもたらすゲノムDNA断片を含む植物を含む小集団を得ることができる。
【0063】
このようにして得られた植物、あるいは植物小集団の各々の植物について、子孫の植物の評価、さらにさまざまな形質に関する反復調査などを行い、変異の認められた形質の特性、遺伝様式、他の形質等との関連を評価することができ、また、分子生物学的・遺伝学的・生化学的・植物生理学的な見地から詳細に評価することができる。様々な評価の後、新規な品種として農業的に利用することもできる。また、これらの植物のなかから、さらに優れた形質を示す植物が得られれば、このような植物に導入されていたゲノムDNA断片を、さらに価値の高いゲノムDNA断片として選抜することができる。
【0064】
その際、導入されていたゲノムDNA 断片の解析および取得は、通常のクローニングの方法により容易に行うことができる。
【0065】
(4) 選抜された植物に導入されたゲノムDNA断片は、前記のとおりゲノムクローンとして別途保管されており、クローニングベクターを用いて大腸菌で増殖する方法や、PCR法やLAMP法などの生化学的増殖法を用いて、必要量を製造することができる。そしてこれらを用いて、塩基配列の決定、含まれている遺伝子、イントロンその他の遺伝子要素の分析等を詳細に調査することができる。このゲノム断片は、既知の形質転換手法を用いて、任意の植物に導入することができるので、ゲノムDNA断片が由来する植物とは異種の植物の品種改良、同種の植物の異なる品種の品種改良、同種の植物の同一品種の植物の育種に利用することができる。
【0066】
(5) このように選抜されたゲノムDNA断片は、必要であれば、その全部または一部を、再度、同種または異種の植物に導入し、同様な評価を行うことにより、2次的な選抜工程に供することができる。この場合、工程(2)で用いたものと同一のクローニングベクターを用いて形質転換を行ってもよいし、別のクローニングベクターを用いてもよい。別のクローニングベクターを用いる場合には、工程(4)で選抜されたゲノムDNA断片をそのベクターにサブクローニングすることになる。クローニングベクター中のクローニングに用いる制限部位はクローニングベクターにより異なるので、用いる制限酵素によっては、工程(4)で選抜されたゲノムDNA断片の一部のみをサブクローニングするのが適当である場合がある。また、クローニングベクターまたはクローニングの方法によってクローニングできるDNA断片の大きさが異なるので、この理由によっても該DNA断片の一部のみをサブクローニングするのが適当である場合がある。該DNA断片の一部のみを用いて2次的な選抜工程を実施することの効果のひとつは、該DNA断片の一部のみを用いて形質転換を行って、該DNA断片の全部を用いた場合と同様な効果を示すことが判明した場合には、工程(4)で選抜されたゲノムDNA断片中の不要部分が明らかになることである。2次的な形質転換によって得られた形質転換植物、および、その子孫の植物は、植物体全体のビガー(vigor)、植物体および個別器官の大きさ・重量、収量、生長速度、病害・虫害に対する抵抗性、乾燥・高温・低温等さまざまな環境ストレスに対する抵抗性、特定成分の増・減、特定酵素活性の増・減、等々、農業上有益なさまざまな形質について評価する。
【0067】
評価試験の結果、評価した形質について、当該ゲノム断片を導入しなかった植物と比較して、表現型が変異した植物を生じたゲノムDNA 断片は、1次の選抜工程における栽培条件、植物種、等の条件にかかわらず好ましい表現型の変異を植物に生じることが可能であり、特に好ましいゲノムDNA 断片として選抜できる。2次以降の選抜工程においても1次の選抜工程と同様に、例えば、当該ゲノム断片を導入しなかった植物と比較して、植物体全体のビガー(vigor)が高い、植物体および個別器官の大きさ、重量が高い、収量が高い、生長速度が高い、病害・虫害に対する抵抗性が高い、乾燥・高温・低温等さまざまな環境ストレスに対する抵抗性が高い、特定成分の増・減、特定酵素活性の増・減、等々を示す植物を選抜することができる。
【0068】
選抜された植物については、子孫の植物の評価、さらにさまざまな形質に関する反復調査などを行い、変異の認められた形質の特性、遺伝様式、他の形質等との関連を評価することができる。様々な評価の後、新規な品種として農業的に利用することもできる。
【0069】
2次選抜の結果、再度植物に導入しても農業上有益な変異をもたらすことができることが確認されたゲノムDNA断片や、他の植物にも農業上有益な変異をもたらすことができることが確認されたゲノムDNA断片が選抜されることになる。したがって、1次選抜のみの場合よりも、より価値の高いゲノムDNA断片が選抜されることになる。
【0070】
この選抜工程は何度でも繰り返すことができ、その結果、より価値の高いゲノムDNA断片を選抜することができる。
【0071】
選抜されたゲノムDNA断片に含まれる遺伝子の転写物や、それに由来するcDNAの解析、また、ゲノムDNA断片の塩基配列から推定される遺伝子の特性等を、詳細かつ総合的に解析することにより、このゲノムDNA断片に含まれる遺伝子機能の推定や、ヘテロシスを引き起こす機構の解明に有用な知見を得ることができる。
【0072】
以上、ゲノムDNA断片の選抜方法を中心に、本発明を説明したが、本発明はこうして選抜された植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA 断片、当ゲノムDNA 断片での形質転換により生じた農業上有益となりうる変異を有する植物も提供する。特定のDNA 断片を植物細胞または植物組織に導入し、該細胞または組織をカルス化し、該カルスを培養しさらに完全植物体に再分化させる方法は、既に種々の方法が知られている。例えば、Hiei et al. Plant J. 6:271-282,1994を参照のこと。また、植物によっては、形質転換細胞から顕著なカルス化を経ないで植物体が再生される場合もあるが、本発明はこの場合にも有効である。再分化した植物を品種として固定するためには、Maruta et al. Molecular Breeding 8:273-284,2001の方法が知られている。
【0073】
本発明はさらに、本発明のゲノムDNA 断片を、植物の品種改良におけるマーカーとして
使用する方法にも関する。すなわち、本発明のゲノムDNA 断片を有する植物は、植物の品種改良の効率を高めるために使用できる。品種改良のための使用とは、本発明のゲノムDNA 断片を他の植物に導入するための、ゲノムDNA 断片供与用植物としての使用であってもよく、あるいは交配育種法により品種改良を行うための親植物としての使用であってもよい。例えば、本発明のゲノムDNA 断片を有することが知られている植物と、品種改良をすべき植物とを掛け合わせて得られた、後代植物個体からゲノムDNA を調製し、該ゲノムDNA 中に本発明のゲノムDNA 断片が含まれているものを選択し、選択した後代植物個体を、特定のゲノムDNA 断片の配列情報を用いて、該DNA 断片をマーカーとすることは公知であり、例えばKomori et al. Euphytica 129:241-247,2003等に記載されている。なお、マーカーとしての使用においては、ゲノムDNA断片全体をマーカーとしてもよく、該ゲノムDNA断片の一部に特有の配列を含むなら、当該一部の配列をマーカーとしてもよい。
【0074】
なお、本発明におけるゲノムDNA 断片には、温和なまたは苛酷なストリンジェンシーの条件下で、本明細書に開示した方法で得られるゲノム断片の塩基配列にハイブリダイズし、かつ生物学的に活性のある単離されたDNA及びRNAも含まれる。苛酷なストリンジェンシーによるハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、Molecular Cloning等に記載されている、0.5M sodium phosphate pH7.2、1 mM EDTA 、7% SDS、1% BSA中で65℃でハイブリダイゼーションさせた後、40 mM sodium phosphate buffer pH7.2、1 mM EDTA、5% SDS、0.5% BSA中、65℃で洗浄操作、その後40 mM sodium phosphate buffer pH7.2、1 mM EDTA、1% SDS中、65℃で洗浄操作を行うという条件、温和なストリンジェンシーによるハイブリダイゼーションの条件としては、0.5M sodium phosphate pH7.2、1 mM EDTA 、7% SDS、1% BSA中で55℃でハイブリダイゼーションさせた後、40 mM sodium phosphate buffer pH7.2、1 mM EDTA、5% SDS、0.5% BSA中で55℃、15分を二回、40 mM sodium phosphate buffer pH7.2、1 mM EDTA、1% SDS中で55℃、15分を二回、洗浄操作を行うという条件、あるいは、Molecular Cloningに記載されているように、30% deionized formamide, 0.6M NaCl, 40 mM sodium phosphate pH7.4, 2.5 mM EDTA, 1% SDS中で42℃で、ハイブリダイゼーションさせた後、2XSSC, 0.1% SDS,中で室温で10分を二回、さらに同じbuffer中で55℃で1時間洗浄操作を行うという条件が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0075】
本発明のゲノムDNA断片選抜方法は、従来のゲノム解析の中で塩基配列を既知の塩基配列と比較検討する方法や、cDNAの機能推定する方法のように植物の遺伝子の機能を解明することを必要としない、新しいアプローチでヘテロシスに関与するDNA断片を探索する。
【0076】
本発明のゲノムDNA断片選抜方法は、導入するゲノムDNA断片について、当該DNA断片が、特に元の植物中において、どのような表現型に関与しているかといった情報を必要としない、新しいアプローチで農業に有用な形質に関与するDNA断片を探索する。
【0077】
本発明のゲノムDNA断片選抜方法は、選抜する形質について制限がなく、農業に有用な形質について、広範囲に選択することができる。
【0078】
本発明のゲノムDNA断片選抜方法は、ゲノムDNA断片について、導入先植物の表現型で選抜しているため、選抜されたゲノムDNA断片は、導入先植物の育種にそのまま利用することができる。
【0079】
本発明のゲノムDNA断片選抜方法は、ヘテロシス同様の効果を引き起こすゲノムDNA断片を、クローン化されたDNA断片として、かつ、植物への形質転換を容易に行うことができるDNA断片として獲得することを可能にしたため、古典的な育種法によるヘテロシスの利用と異なり、育種に伴う長い時間と多くの労力を必要としない。
【0080】
また、本発明のゲノムDNA断片選抜方法は、古典的な育種法によるヘテロシスの利用と異なり、一方の品種のゲノム断片を他方の品種に導入するため、親品種間の生殖的隔離の制限を受けず、従来の一代雑種育種法では不可能だった植物同士の組み合わせが可能となる。従って、本発明のDNA断片は、DNA断片由来の植物と同種であるか異種であるかを問わず、さまざまな植物に形質転換法により容易に導入し、育種に利用することができるので、短期間に、効率良くヘテロシスの利点を利用することが可能である。
【0081】
さらにまた、本発明のゲノムDNA断片選抜方法は、QTL解析と異なり、農業形質に関与する遺伝子座を探索する必要がないために、長い時間と多大な労力を要することなく、効率よく量的形質を増大または減少させるゲノムDNA断片を選抜することが可能である。
【0082】
また、本発明のゲノムDNA断片は、形質転換によりヘテロシス同様の発現を引き起こす効果があるため、通常の交配育種法においてマーカーとして利用することによって、交配後代の選抜効率を非常に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、クローニングベクターpSB200の遺伝子地図である。
【図2】図2は、クローニングベクターpSB25UNpHmの遺伝子地図である。
【図3】図3は、穂の大きさの外部観察、一穂の粒数、および、植物全体のビガーに基づき選抜された形質転換植物の例と対照植物を示す写真である(世代:T0、被選抜系統数:5310)。
【図4】図4は、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片を導入して選抜された形質転換イネのいもち病抵抗性検定結果を示す図である。
【図5】図5は、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片を導入して選抜された形質転換イネの、ストレス条件下における、葉の伸長量を示す図である。
【図6】図6は、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片を導入して選抜された形質転換タバコのカルスの増殖におけるゲノムDNA断片導入効果を示す図である。
【図7】図7は、テオシントのゲノムDNA断片を導入して選抜された形質転換イネの例と対照植物を示す写真である。
【図8】図8は、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片のPCRによる増幅箇所を示した図である。
【図9】図9は、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片のPCRによる増幅結果の一例を示す写真である。
【図10】図10は、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片から生じる制限酵素断片を電気泳動させた一例を示す写真である。
【図11】図11は、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片を組み込んだ形質転換ベクターの制限酵素断片を電気泳動させた一例を示す写真である。
【実施例】
【0084】
以下の実施例において、とくに明示しない限り、詳細な実験手順は、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc, (Supplements up to No. 59, July 2002, are included)、または、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001.に記載されている。

実施例1.オリザ・ルフィポゴンからのゲノムDNAの抽出とゲノムDNAライブラリーの構築
農林水産省生物資源研究所より入手した、イネの近縁種オリザ・ルフィポゴンの種子を用い、温室で栽培したオリザ・ルフィポゴンの葉から、常法によりゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAを制限酵素TaqIにより、部分的制限分解を行った後、ショ糖密度勾配遠心により、30 kbから50 kbの画分を調製した。この画分を用いて、コスミドベクターpSB200のNsp(7524)V(単にNspVと記す場合もある)切断部位にクローニングを行い、ゲノムDNAライブラリーを構築した。
【0085】
pSB200は、Komari et al. (Plant J. 10:165-174,1996)に記載されたpSB11より構築したクローニングベクターである。すなわち、トウモロコシ由来のユビキチンプロモーターに、ハイグロマイシン耐性遺伝子と、NOS遺伝子の3'末シグナル、さらに、Nsp(7524)V切断部位をpSB11に付与したものである。pSB200を用いると、平均断片長約40 kb前後のゲノムDNAライブラリーを構築することができる。また、pSB200は、高等植物の形質転換用ベクターでもあり、ハイグロマイシン耐性遺伝子を選抜マーカーとしてさまざまな植物に遺伝子導入をすることができる。
【0086】
このライブラリーにおいてクローン化されたDNA断片の多くは、約30 kb から約50 kbの大きさであり、クローンの総数は、約8万個であった。なお、用いた大腸菌の菌株は、DH5α、およびGeneHogである。

実施例2.オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーの構成クローンによるジャポニカイネの形質転換
上記ゲノムDNAライブラリーの構成クローンを、個別に、アグロバクテリウム菌株LBA4404(pSB1) (Komari et al. 1996)に導入した。導入に用いた方法は、Triparental mating (Ditta et al. Proc Natl Acad Sci. U.S.A.77:7347-7351, 1980 )である。これらのアグロバクテリウムを、個別に、イネ(品種ゆきひかり)に導入した。形質転換法は、Hiei et al. 1994に従い、未熟胚にアグロバクテリウムを接種する方法により行った。品種ゆきひかりの未熟胚は、食用に販売されている玄米を播種し温室で栽培した植物、または、温室で栽培したその子孫の植物より得た。
【0087】
その結果、上記ゲノムDNAライブラリーに含まれる計5310個のゲノムDNA断片を、個別に導入した形質転換植物が得られた。また、それぞれのゲノムDNA断片について、1〜5個体の独立な形質転換体を得た。本明細書では、常法にしたがい、形質転換された当代の植物をT0世代の植物とよび、その子孫の植物を、世代順にT1世代の植物、T2世代の植物等と呼ぶ。
【0088】
ここで、この結果を先述した式にあてはめると、5310=ln(1-P)/ln[1-(40 x 103 / 430 x 106 )] より、P=0.39 となり、これら5310個のゲノムDNA断片に、任意のオリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNA断片が含まれる確率は39%である。

実施例3.オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されたジャポニカイネの評価と、変異の生じた植物の選抜
形質転換植物を温室で栽培し、それぞれの個体について、植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、穂数、地上部重、穂重、穂長、可稔粒数、収量を調査した。本明細書において相対生長率とは、単位草丈当たりの1日の生長量を表し、((調査終了日草丈−調査開始日草丈)/調査期間日数)/調査開始草丈 によって求められる。調査の結果、対照植物と比較して、いずれかの形質について変異が認められた植物を選抜した。表1から6および図3に、選抜された植物の例と、導入されたゲノムDNA断片に付与した名称を示す。これらの例では、同一のゲノム断片が導入された形質転換体の中での複数のものが同様な変異を示し、選抜された。各ゲノム断片について、選抜された植物の測定値の平均を示す。植物体全体のビガーの外観観察に基づき選抜された植物は、多くの場合、何らかの測定数値についても変異が生じていた。下記の例は、いずれも、植物体全体のビガーと何らかの測定数値に基づいて、選抜が行われたものである。
【0089】
下記の例では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。なおGUS遺伝子を形質転換したイネ(ゆきひかり)を対照植物とした。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さく、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
さらに形質転換植物の子孫の植物を栽培し、上記と同様に、植物の評価を行った。また、T1世代では、メンデルの法則にしたがって、導入したゲノムDNA断片を含む個体と含まない個体が分離することが予想されるので、導入断片の有無について、Polymerase Chain Reaction(PCR)法を用いて調査した。
【0097】
以下の表7から9に、選抜された植物の例と、導入されたゲノムDNA断片に付与した名称を示す。これらの例では、同一の形質転換植物に由来する複数の子孫植物において、PCR法により導入断片の存在が確認された植物がすべて同様な変異を示し、PCR法により導入断片が検出されなかった植物がすべてそのような変異を示さなかった。また、下記の例では、いずれも植物体全体のビガー、および、何らかの測定数値に基づいて、選抜が行われたものである。
【0098】
下記の例では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。なお、対照植物として、形質転換していないゆきひかりを用いた。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0099】
【表7】

【0100】
【表8】

【0101】
【表9】

【0102】
実施例4. 病害耐性評価等に基づく形質転換植物の選抜
実施例2において作出した形質転換系統のT1世代の植物について、形質転換していないゆきひかりおよびコシヒカリを対照植物として比較し、いもち病抵抗性の評価を行い、いもち病抵抗性関連形質に変異が認められた植物を選抜した。さらに、これらの植物に導入されたゲノムDNA断片を、作物に農業的に有益となりうる変異を起こすことのできるゲノムDNA断片として選抜した。
【0103】
各系統を閉鎖系温室内で播種し、播種後12日目の苗を移植し、コイトトロン((株)小糸製作所)で栽培した。対照品種は各9個体、形質転換系統は系統当たり5 ? 9個体について、イネいもち病菌Magnaporthe grisea菌を接種し、罹病度を評価し耐性系統を選定した。
【0104】
接種源の調整は下記の通り行った。イネいもち病菌株TSU-01の菌叢を10 g/lのショ糖を含むオートミール寒天培地(Difco)に接種し、26℃、暗黒下で3週間培養した。分生子形成のため、プレートに滅菌蒸留水10 mlを加え、滅菌した絵筆で菌糸を切断した後、照明下、25℃で3日間培養した。滅菌蒸留水で1/2濃度に希釈したLB液体培地(Difco)8 mlをプレートに入れ、滅菌した絵筆で分生子を懸濁した。懸濁液を2重のガーゼで濾した後、分生子の濃度を約2 x 106 conidia/mlに調整した。接種直前に最終濃度が0.01%となるようにSilwet L-77を接種源に添加した。
【0105】
接種は移植後19日目の植物の展開した最上位葉に絵筆で接種源を塗布することにより行った。塗布後、直ちに接種葉をプラスチック製のチューブに通し、上下の開口部に脱脂綿を詰め、蒸留水で十分に湿らせた。14時間日長、日中25℃、夜間20℃で1週間栽培した。この間、1日1回チューブの開口部に詰めた脱脂綿を蒸留水で湿らせた。接種した葉を切り取り、病斑の数および面積を0 (無病徴) ? 3 (葉の大半に病斑が展開)の罹病度で評価した。
【0106】
罹病性品種の「コシヒカリ」は多くの葉が多数の病斑を形成した。罹病度の平均は1.5であった。中程度のいもち病抵抗性を有する「ゆきひかり」は「コシヒカリ」に比べ病斑の形成数が少なく、罹病度の平均は0.8であった。
【0107】
導入断片の有無についてここでは、各個体から採取した葉片のハイグロマイシン感受性をもとに判別した。ハイグロマイシン抵抗性をもたない個体、すなわち導入断片をもたない個体は分離個体として除き、形質転換個体の罹病度の平均を比較した。形質転換系統の多くは形質転換していない対照の「ゆきひかり」と同程度の罹病度を示した。以下に形質転換系統の13系統について例を示す。A014D1201、A020E0401、A023F0303およびA078C0102は対照の「ゆきひかり」に比べ有意に低い罹病度を示した(図4)。特にA078C0102の罹病度の平均は0であり、導入されたオリザ・ルフィポゴンのゲノム断片により高度のいもち病抵抗性が付与された可能性が示された。

実施例5.乾燥耐性評価に基づく形質転換植物の選抜
実施例2において作出した形質転換系統のT1世代4872系統について、対照植物として形質転換していないゆきひかりおよび乾燥耐性品種としての報告がある水原287(農林省生物資源研究所から入手)と比較し、乾燥ストレス耐性の評価を行い、乾燥ストレス耐性関連形質に変異が認められた植物を選抜した。各系統を閉鎖系温室内の育苗箱に播種し、10日後に切葉によるハイグロマイシン抵抗性の検定を行い各個体ごとに導入断片の有無を調べた。ハイグロマイシン抵抗性を示した個体、すなわち導入断片を含んでいると推定される個体を直径12cm、高さ10cmのポリポット((株)東海化成)に栽植した。培土には水稲用育苗土((株)イングス)を用い、栽植個体数はポットあたり形質転換体6個体、対照植物2個体の計8個体とした。供試した個体数は品種・系統あたり12〜18個体(2〜3ポット)であった。移植して2週間後(播種して4週間後)に給水を中止し、乾燥ストレス処理を開始した。
【0108】
一週間後、形質転換植物の乾燥耐性度を評価した。評価は個体ごとに肉眼で5段階評価(0:枯死〜5:完全に回復)とした。各ポット間でのデータのばらつきを補正するため、各供試個体の評点を同一ポット内のゆきひかりの評点で引いた値を、各個体の評点とした。評価結果に基づき、上位10%を作物に乾燥耐性を付与する可能性が高いゲノム断片を含む植物として選抜した。
【0109】
また上記の形質転換植物の中で有望と思われる4系統については、乾燥処理直前および処理1週間後に、各個体の最上位葉の葉長を測定した。処理1週間後の葉長から処理直前の葉長を引いた値を、各個体の乾燥ストレス処理条件下における葉の伸長量とした。葉長測定後に再給水処理を行い、4日後に回復度を調査し、ストレス処理条件下における葉の伸長量を評価した。評価は上述と同様に行ったが、対照植物としてGUS遺伝子のみを導入したゆきひかり(T2)も加えた。各系統の評点の分布が、ゆきひかりの評点の分布と差があるかどうかをコルモゴロフ・スミルノフの検定を適用して解析した。この結果に基づき、供試した4系統の形質転換体から、ストレス処理条件下において葉の伸長量が対照植物に比べ有意に多い1系統を選定した(図5)。

実施例6.オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されたトウモロコシの評価と、変異の生じた植物の選抜
実施例1において作成した、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノム断片を含むアグロバクテリウムを用いて、トウモロコシの形質転換を行った。形質転換の手法は、Ishida et al 2003(Plat Biotechnol. 20:57-66)に従った。導入品種はインブレッド品種A188(農林水産省生物資源研究所より入手)である。また、ベクターとしてpSB25UNpHmを用いて、実施例1と同様に、ゲノムDNAライブラリー、およびオリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNA断片を含むアグロバクテリウムを作成した。これを用いて、上記と同様にトウモロコシの形質転換を行った。その結果、上記ゲノムDNAライブラリーに含まれる計108個のゲノムDNA断片を個別に導入した形質転換植物が得られた。pSB25UNpHmは、Ishida et al. Nature Biotech 14:745-750, 1996に記載されたpSB25のbar遺伝子のプロモーターを、トウモロコシ由来のユビキチンプロモーターに置き換え、さらに、Nsp(7524)V切断部位、I-SceI切断部位、I-CeuI切断部位を付与したベクターである。pSB25UNpHmは、pSB200と同様なクローニング能力があり、また、bar遺伝子を選抜マーカーとして、トウモロコシを始めとするさまざまな植物に遺伝子導入をすることができる。
【0110】
形質転換当代植物(T0植物)は、イネの場合と同様に温室で栽培し、移植後28日目の草丈、35日目の草丈、相対生長率(((移植後35日目草丈−移植後28日目草丈)/7)/移植後28日目草丈)、着雌穂節の葉身長、最大穂重量、最大穂粒数、最大穂全粒重、1粒重(最大穂全粒重/最大穂粒数)を調査することにより、導入したゲノムDNA断片の効果を調査した。なお、季節による生育のむらを補正するため、同一鉢上げ日の全個体の平均値を算出し、(各個体の値−平均値)/平均値の式でデータを標準化し解析した。またGUS遺伝子を形質転換したトウモロコシ(A188)を対照植物とした。その結果、T0植物の各形質の分散のうち、最大穂全粒重、および1粒重に関する分散は、対照植物の分散に比べ、有意に大きかった。これにより、ゲノムDNA断片を導入した植物の集団では、測定値の分布の広がりが大きくなることが示された。
【0111】
下記の例(表10−13)では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。ここに例示した系統は、いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。最大穂全粒重について調査した108系統のうち5系統で期待値が1.0を下回る結果であった。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0112】
さらに、得られた形質転換トウモロコシを温室で栽培し、別途温室で育成したトウモロコシ品種(A188)の花粉を授粉し種子を得た。この種子に由来する世代をここではT1世代と記す。T1世代について各系統につき5から8個体を温室内で栽培し、形質について調査した。T1世代では、メンデルの法則にしたがって、導入したゲノムDNA断片を含む個体と含まない個体が分離することが予想されるので、導入断片の有無について、Polymerase Chain Reaction(PCR)法を用いて調査した。断片の有無はPCR法を用いて調べることができる。(詳細は実施例16に記載)。断片の有無と調査した形質の値を比較検討した結果、草丈及び相対生長率において、導入したゲノムDNA断片を含む個体の平均値がその系統の全個体の平均値を上回る系統を見出すことができた(表14)。
【0113】
これらの結果をもとに、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。さらに、これらの植物に導入されたゲノムDNA断片を、トウモロコシに農業的に有益となりうる変異を起こすことのできるゲノムDNA断片として選抜した。
【0114】
【表10】

【0115】
【表11】

【0116】
【表12】

【0117】
【表13】

【0118】
【表14】

【0119】
実施例7.オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されたタバコの評価と、変異の生じた植物の選抜
実施例1において作成した、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNA断片を含むアグロバクテリウムを用いて、タバコの形質転換を行った。形質転換の手法は、Komari Theor Appl Genet.80:167-171,1990に従った。導入品種はSR1(Kodama et al. Plant Physiol 105:601-605,1994)である。
【0120】
形質転換したタバコ細胞から生じたカルスの重量を調査することにより、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片が、カルスの増殖に及ぼす影響を調査した。形質転換においては、タバコの葉をコルクボーラーでくり貫き作成した葉片ディスクを用いた。なお、ハイグロマイシン耐性遺伝子とGUS遺伝子のみを持つベクターpSB134によって形質転換したタバコ葉片ディスクを対照とした。アグロバクテリウムを接種し、培地で20日間培養した後、カルス化した葉片ディスクの重量を測定した。図6に示した通り、対照に比べ旺盛なカルス増殖を示すゲノムDNA断片を選抜することができた。
【0121】
形質転換植物およびその子孫の植物は、イネ・トウモロコシの場合と同様に温室で栽培し、植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、葉数、葉長、葉幅、葉重、地上部重、収量、乾燥耐性、耐塩性、および、耐病性等を調査することにより、導入したゲノムDNA断片の効果を判定した。そして、これらの形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。さらに、これらの植物に導入されたゲノムDNA断片を、タバコに農業的に有益となりうる変異を起こすことのできるゲノムDNA断片として選抜した。
【0122】
選抜された14系統の形質転換植物は、4寸ポットに順化鉢上げ後、イネ・トウモロコシの場合と同様に温室で栽培し、最大葉葉長(鉢上げ後2週間、3週間)自然草高(鉢上げ後3週間)、稈長について調査した。なお、GUS遺伝子を形質転換したタバコ(SR1)を対照植物とした。その結果、形質転換個体では鉢上げ2週間後の最大葉葉長の長いものが多かった。(カイ二乗検定、P=0.00012)
【0123】
【表15】

【0124】
下記の例(表16−18)では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物個体の測定値を示すような個体が出現する確率を算出した。ここに例示した植物体は、いずれの場合も、被選抜個体数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜個体が出現する期待値は1.0を大きく下回る。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜個体が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0125】
【表16】

【0126】
【表17】

【0127】
【表18】

【0128】
実施例8.アラビドプシス由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されたイネの評価と、変異の生じた植物の選抜
オリザ・ルフィポゴンの場合と同様に、アラビドプシス(Arabidopsis thaliana)からゲノムDNAを単離し、ゲノムDNAライブラリーを構築し、このゲノムDNAライブラリーを構成するゲノムクローンを個別に、形質転換法によりイネ(ゆきひかり)に導入した。その結果、上記ゲノムDNAライブラリーに含まれる計1477個のゲノムDNA断片を個別に導入した形質転換植物が得られた。用いたアラビドプシスのエコタイプはColumbiaであり、この種子は、国際的なアラビドプシス遺伝資源バンク(例えば、RIKEN Bioresource Center)から入手することができる。形質転換植物およびその子孫の植物は、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーの場合と同様に、温室で栽培し、植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、穂数、地上部重、穂重、穂長、可稔粒数、収量、葉数、葉長、葉幅、葉重、乾燥耐性、耐塩性、および、耐病性等を調査することにより、導入したゲノムDNA断片の効果を判定した。なお、GUS遺伝子を形質転換したイネ(ゆきひかり)を対照植物とした。そして、これらの形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。選抜された植物に導入したゲノムDNA断片を、作物に農業的に有益となりうる変異を起こすことのできる、アラビドプシス由来のゲノムDNA断片として選抜した。
【0129】
下記の例(表19)では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。ここに例示した系統は、いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。全穂重について調査した1477系統のうち13系統で期待値が1.0を下回る結果であった。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0130】
【表19】

【0131】
実施例9.ローズグラス由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されたイネの評価と、変異の生じた植物の選抜
オリザ・ルフィポゴンの場合と同様に、ローズグラス(Chloris gayana)からゲノムDNAを単離し、ゲノムDNAライブラリーを構築し、このゲノムDNAライブラリーを構成するゲノムクローンを個別に、形質転換法によりイネ(ゆきひかり)に導入した。その結果、上記ゲノムDNAライブラリーに含まれる計1450個のゲノムDNA断片を、個別に導入した形質転換植物が得られた。用いたローズグラスの品種は、カリーデとして市販されているものである。形質転換植物およびその子孫の植物は、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーの場合と同様に、温室で栽培し、植物体全体の植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、穂数、地上部重、穂重、穂長、可稔粒数、収量、葉数、葉長、葉幅、葉重、乾燥耐性、および、耐病性等を調査することにより、導入したゲノム断片の効果を判定した。なお、GUS遺伝子を形質転換したイネ(ゆきひかり)を対照植物とした。そして、これらの形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。選抜された植物に導入したゲノムDNA断片を、作物に農業的に有益となりうる変異を起こすことのできる、ローズグラス由来のゲノムDNA断片として選抜した。
【0132】
下記の例(表20)では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。ここに例示した系統は、いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。全穂重について調査した905系統のうち23系統で期待値が1.0を下回る結果であった。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0133】
【表20】

【0134】
実施例10.ソルガム由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されたイネおよびトウモロコシの評価と、変異の生じた植物の選抜
オリザ・ルフィポゴンの場合と同様に、ソルガム(Sorghum bicolor)からゲノムDNAを単離し、ゲノムDNAライブラリーを構築し、このゲノムDNAライブラリーを構成するゲノムクローンを個別に、形質転換法によりイネ(ゆきひかり)、およびトウモロコシ(A188)に導入した。その結果、それぞれ2560個、200個の上記ゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片を、個別に導入した形質転換植物が得られた。用いたソルガムの品種は、ゴールドソルゴーとして市販されているものである。形質転換植物およびその子孫の植物は、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーの場合と同様に、温室で栽培し、植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、穂数、地上部重、穂重、穂長、可稔粒数、収量、葉数、葉長、葉幅、葉重、乾燥耐性、および、耐病性等を調査することにより、導入したゲノムDNA断片の効果を判定した。そして、これらの形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。選抜された植物に導入したゲノムDNA断片を、作物に農業的に有益となりうる変異を起こすことのできる、ソルガム由来のゲノムDNA断片として選抜した。
【0135】
下記にイネの全穂重についての例を示す(表21)。下記の例では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。なお、GUS遺伝子を形質転換したイネ(ゆきひかり)を対照植物とした。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。ここに例示した系統は、いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。全穂重について調査した2504系統のうち43系統で期待値が1.0を下回る結果であった。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0136】
【表21】

【0137】
また、ソルガムの断片を導入したトウモロコシについて、形質転換当代植物の移植後28日目の草丈、35日目の草丈、相対生長率(((移植後35日目草丈−移植後28日目草丈)/7)/移植後28日目草丈)、着雌穂節の葉身長、最大穂重量、最大穂粒数、最大穂全粒重、1粒重(最大穂全粒重/最大穂粒数)の分散について検討した結果、相対生長率、最大穂粒数、1粒重に関する分散は、対照植物の分散に比べ有意に大きいことが判明した。なお、季節による生育のむらを補正するため、同一鉢上げ日の全個体の平均値を算出し、(各個体の値−平均値)/平均値の式でデータを標準化し解析した。
【0138】
下記の例(表22−27)では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。なお、GUS遺伝子を形質転換したトウモロコシ(A188)を対照植物とした。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。ここに例示した系統は、いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。調査した150系統のうち相対生長率については7系統で、最大穂粒数については8系統で期待値が1.0を下回る結果であった。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0139】
これらの結果に基づき、ソルガムに由来するゲノムDNA断片を、トウモロコシに農業的に有益となりうる変異を起こすことのできるゲノムDNA断片として選抜した。
【0140】
【表22】

【0141】
【表23】

【0142】
【表24】

【0143】
【表25】

【0144】
【表26】

【0145】
【表27】

【0146】
実施例11.テオシント由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されるイネの評価と、変異の生じた植物の選抜
オリザ・ルフィポゴンの場合と同様に、テオシント(Zea diploperenis)からゲノムDNAを単離し、ゲノムDNAライブラリーを構築し、このゲノムDNAライブラリーを構成するゲノムクローンを個別に、形質転換法によりイネ(ゆきひかり)に導入した。その結果、上記ゲノムDNAライブラリーに含まれる計1608個のゲノムDNA断片を、個別に導入した形質転換植物が得られた。用いたテオシントの品種は、牧草用テオシントとして市販されているものである。形質転換植物およびその子孫の植物は、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーの場合と同様に、温室で栽培し、植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、穂数、地上部重、穂重、穂長、可稔粒数、収量、葉数、葉長、葉幅、葉重、乾燥耐性、および、耐病性を調査することにより、導入したゲノムDNA断片の効果を判定した。そして、これらの形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。選抜された植物に導入したゲノムDNA断片を、作物に農業的に有益となりうる変異を起こすことのできる、テオシント由来のゲノムDNA断片として選抜した。なお、GUS遺伝子を形質転換したイネ(ゆきひかり)を対照植物とした。テオシントのゲノム断片導入後のイネの栽培状況を図7に示す。

実施例12.スーダングラス由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されたイネの評価と、変異の生じた植物の選抜
オリザ・ルフィポゴンの場合と同様に、スーダングラス(Sorghum sudanese)からゲノムDNAを単離し、ゲノムDNAライブラリーを構築し、このゲノムDNAライブラリーを構成するゲノムクローンを個別に、形質転換法によりイネ(ゆきひかり)に導入した。その結果、上記ゲノムDNAライブラリーに含まれる計2644個のゲノムDNA断片を、個別に導入した形質転換植物が得られた。用いたスーダングラスの品種は、牧草用として市販されているものである。形質転換植物およびその子孫の植物は、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーの場合と同様に、温室で栽培し、植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、穂数、地上部重、穂重、穂長、可稔粒数、収量、葉数、葉長、葉幅、葉重、乾燥耐性、耐塩性、および、耐病性等を調査することにより、導入したゲノムDNA断片の効果を判定した。そして、これらの形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。選抜された植物に導入したゲノムDNA断片を、作物に農業的に有益となりうる変異を起こすことのできる、スーダングラス由来のゲノムDNA断片として選抜した。
【0147】
下記の例(表28)では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。なお、GUS遺伝子を形質転換したイネ(ゆきひかり)を対照植物とした。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。ここに例示した系統は、いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。全穂重について調査した2644系統のうち21系統で期待値が1.0を下回る結果であった。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0148】
【表28】

【0149】
実施例13.ミレット由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換されたイネの評価と、変異の生じた植物の選抜
オリザ・ルフィポゴンの場合と同様に、ミレット(Seteria italica)からゲノムDNAを単離し、ゲノムDNAライブラリーを構築し、このゲノムDNAライブラリーを構成するゲノムクローンを個別に、形質転換法によりイネ(ゆきひかり)に導入した。その結果、上記ゲノムDNAライブラリーに含まれる計2952個のゲノムDNA断片を、個別に導入した形質転換植物が得られた。用いたミレットの品種は、牧草用として市販されている極早生イタリアンミレットRである。形質転換植物およびその子孫の植物は、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーの場合と同様に、温室で栽培し、植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、穂数、地上部重、穂重、穂長、可稔粒数、収量、葉数、葉長、葉幅、葉重、乾燥耐性、および、耐病性等を調査することにより、導入したゲノムDNA断片の効果を判定した。そして、これらの形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。選抜された植物に導入したゲノムDNA断片を、作物に、農業的に有益となりうる変異を起こすことのできる、ミレット由来のゲノムDNA断片として選抜した。
【0150】
下記の例(表29)では、対照植物の測定値の分布を正規分布にあてはめた。なお、GUS遺伝子を形質転換したイネ(ゆきひかり)を対照植物とした。この正規分布にしたがい、導入断片の効果がないと仮定した場合に、選抜された形質転換植物系統の測定値を示すような系統が出現する確率を算出した。ここに例示した系統は、いずれの場合も、被選抜系統数に対する、出現確率の数値は著しく小さいため、このような選抜系統が出現する期待値は1.0を大きく下回る。全穂重について調査した1126系統のうち15系統で期待値が1.0を下回る結果であった。したがって、導入断片の効果がないとする仮定は棄却され、選抜系統が有意な変異を示すことが、統計的に証明された。
【0151】
【表29】

【0152】
実施例14.ギニアグラス由来のゲノムDNAライブラリーに含まれるゲノムDNA断片によって形質転換された植物の評価と、変異の生じた植物の選抜
オリザ・ルフィポゴンの場合と同様に、ギニアグラス(Panicum maximum)からゲノムDNAを単離し、ゲノムDNAライブラリーを構築し、このゲノムDNAライブラリーを構成するゲノムクローンを個別に、形質転換法によりイネ、トウモロコシ、および、タバコに導入した。用いたギニアグラスの品種は、牧草用として市販されているカラードギニアグラスである。形質転換植物およびその子孫の植物は、オリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNAライブラリーの場合と同様に、温室で栽培し、植物体全体のビガー、草丈、相対生長率、穂数、地上部重、穂重、穂長、可稔粒数、収量、葉数、葉長、葉幅、葉重、乾燥耐性、耐塩性、および、耐病性等を調査することにより、導入したゲノムDNA断片の効果を判定した。そして、これらの形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。選抜された植物に導入したゲノムDNA断片を、イネ、トウモロコシ、または、タバコに、農業的に有益となりうる変異を起こすことのできる、ギニアグラス由来のゲノムDNA断片として選抜した。

実施例15 選抜されたゲノムDNA断片を鋳型としたPCRによるゲノムDNA断片の製造
選抜されたゲノムDNA断片(AS4(A011D07)、AS8(A014E08)、AS19(A010B03)、AS20(A011C02)、AS22(A014D12)、AS27(A012D12)、AS28(A015C06)、AS30(A016D02))について、末端塩基配列を解読した。解読した配列およびベクター配列に対してプライマーを設計し、大腸菌から単離したプラスミドDNAをテンプレートに用いて、T-DNA領域の両末端部が存在することを確認するためのPCR(図8のPCR1およびPCR3)を行った。
【0153】
PCR1およびPCR3に用いたべクター領域プライマーの配列は、それぞれ、
5' - CTGAAGGCGGGAAACGACAATCTG - 3'
および
5' - AACTGCACTTCAAACAAGTGTGAC - 3'
である。
【0154】
PCR1に用いたゲノムDNA断片特異的プライマーの配列は、
AS4 : 5' - GATTCCGACCTCTACACGAACAAC - 3'
AS8 : 5' - AGAAACCCTAGCCGTCACTTCCCT - 3'
AS19 : 5' - TCAAGTCATTTCACAAAGTCGGAC - 3'
AS20 : 5' - GCTTAGAGGTGAAAATGGTAACGG - 3'
AS22 : 5' - TTCTGTCCTTGTTCGATTTGTCAG - 3'
AS27 : 5' - CCGGATTCACCGTGGTACGAAAGG - 3'
AS28 : 5' - TTCCAATTACCAGACACTAAAGCG - 3'
AS30 : 5' - TGGCACCAGACTTGCCCTCCAATG - 3'
である。
【0155】
PCR3に用いたゲノムDNA断片特異的プライマーの配列は、
AS4 : 5' - GTACGGCCTGGGTCACTCACTGTC - 3'
AS8 : 5' - TCATCATCCTGTTATCTAGACTCC - 3'
AS19 : 5' - TACTTATTCCGTGAGTCGGAAGCG - 3'
AS20 : 5' - TCCAGTGTTATGATGTTTGGGCTG - 3'
AS22 : 5' - AACTCATCTTTAATCCCAGTTTGC - 3'
AS27 : 5' - TAACGCCATAAACAAGTGTCACTC - 3'
AS28 : 5' - GAACTGTGAAACTGCGAATGGCTC - 3'
AS30 : 5' - AAATCCACACGACTCTCGGCAACG - 3'
である。
【0156】
また、AS4、AS8およびAS22 については、断片中央部が存在することを確認するためのPCR(図8のPCR2)も行った。用いたプライマーの配列は、以下の通りである。
AS4 : 5' - TGGGCTCCAGCAGAAACGAACCCT - 3' および 5' - CTTATATTTAGGAACGGAGTGAGT - 3'
AS8 : 5' - AAGCGAAGGCACCCCTTCACAT - 3' および 5' - ACGAGGAGCCCGACAAGGAGAC - 3'
AS22 : 5' - TGAAATACCACTCATGAACTTCCG - 3' および 5' - ATTATCTGTTGTGTCCGAAATGTG - 3'
いずれのPCRも、Takara ExTaq(TAKARA社)またはTakara LA Taq(TAKARA社)を用いて、熱変性(94℃、30秒間)、アニ−リング(58℃、30秒間)および伸長反応(72℃、30秒間)からなるサイクルを30回または35回繰り返した。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動により、解析した。
【0157】
PCR解析の結果を、図9に示す。PCR1、PCR2およびPCR3のいずれについても、各ゲノムDNA断片のプラスミドDNAをテンプレートに用いた場合には、目的の大きさのPCR産物が観察された。一方、pSB200をテンプレートに用いた場合には、当該産物は観察されなかった。これらの結果から、pSB200に導入された各ルフィポゴン断片を、PCRにより製造できることが示された(図9)。

実施例16 選抜された断片のマーカーとしての利用
実施例3により評価され、イネに変異を生じさせたゲノムDNAを、実施例6によりトウモロコシに形質転換した。得られた形質転換トウモロコシを温室で栽培し、別途温室で育成したトウモロコシ品種A188の花粉を形質転換トウモロコシに授粉した。得られた後代種子は、オリザ・ルフィポゴンのゲノムDNA断片を含む個体と含まない個体が分離してくることが予想される。そこで導入されたゲノムDNA断片のT-DNAの境界配列部分をマーカーとし、PCR法により増幅しオリザ・ルフィポゴン由来のゲノムDNA断片の有無を調べた。その結果、該マーカーを有する植物個体は、品種育成に適し、さらなる育種工程に利用可能と判断され、該マーカーを有しない植物個体は品種改良に不適と判断された。
【0158】
表30に導入ゲノムDNA断片の有無と形質の測定値の関係を示す。
【0159】
【表30】

【0160】
実施例17 大腸菌を用いた選抜されたゲノムDNA断片の製造方法
形質転換されたゲノムDNA断片を含むクローニングベクター(pSB200)を含む大腸菌が個別に−80度で保存されたグリセロールストックから、大腸菌をかきとり、LA(Sp50)プレート上、28℃で3日間培養を行い、シングルコロニーを生育させた。生育したシングルコロニーをLB(Sp50)液体培地2mlに植菌し、28℃で一晩振とう培養後、培養液を1.5mlのマイクロチューブに移し、15000rpmで2分間遠心操作を行い、集菌を行った。上清を捨て、菌のペレットから常法(アルカリ法)に従ってプラスミドを単離し、TE40μlにプラスミドDNAを溶解させ、選抜されたゲノムDNA断片並びにクローニングベクターを含むゲノムDNA断片を得た。

実施例18 製造されたゲノムDNA断片を制限分解する工程を含むDNA断片の製造方法
実施例17で調整したプラスミドDNA(クローン名:AS88、AS90、AS95〜AS102、AS104〜AS106)を使用し、以下の成分からなる反応液を調整した。
【0161】
各プラスミドDNAは、次のゲノムDNA断片をそれぞれ含むものである。(A018D06, A047C01, A082B03, A082B06, A083A01, A083A02, A083H04, AO84H05, A088A12, A091E11, A049B03, A080C09, A088C09)

プラスミドDNA 4μl
10x M バッファーー(タカラ) 2μl
HindIII 0.5μl
SacI 0.5μl
RNaseA 0.1μl
滅菌水 12.9μl
トータル 20μl

37℃で1時間反応した後、反応液に6x色素を4μl加えて混合し、6μlを用いて0.7%アガロースゲルによる電気泳動(100V、1時間)に供試した。泳動終了後、ゲルをEtBrで染色し、各ゲノムクローンから生じる制限酵素断片を得た。その1例を図10に示す。

実施例19 大腸菌を用いて製造されたゲノムDNA断片の形質転換用ベクター(pSB200)への組み込み
大腸菌より単離・精製したプラスミドDNA(ゲノムDNA断片G001A03)を用いて、GATEWAYテクノロジー(Invitrogen 社)キット添付のプロトコールに従ってBP反応(25℃、一晩)を行い、Proteinase K 処理後、エタノールを加えてプラスミドDNAを沈殿させた。遠心(15000rpm)処理後、得られた沈殿を70%エタノールで洗浄し、TE10μlで溶解させた。このうちの2μlを用いてエレクトロポレーションによりプラスミドを大腸菌DB3.1に導入し、LA(Sp50Cm30)にプレーティングして28℃で3日間培養を行った。生育したシングルコロニーをLB(Sp50Cm30)2mlで培養し、定法(アルカリ法)に従ってプラスミドDNAを単離し、HindIIIおよびSacIを用いてフラグメント解析を行い、目的プラスミドの選抜を行った。BP反応によりaatB1-HPT-aatB2断片はaatR1-ccdB-Cm-aatR2 断片に置換されてベクターサイズが9.8kbから10.4kbへと変わるため、これを指標にして組換プラスミド(G001A03DEST)の選抜を行った(図11レーン2)。
【0162】
次に、上記で選抜したプラスミドG001A03DESTを用いて、BP反応と同じ条件でLR反応を行い、薬剤選抜マーカー遺伝子が置換されたクローンG001A03barの選抜を行った。LR反応によりaatR1-ccdB-Cm-aatR2断片はaatB1bar-aatB2断片に置換されてベクターサイズが10.4kbから9.3kbへと変わるため、これを指標にしてG001A03barの選抜を行った(図11レーン3)。以上により、目的とする選抜断片を植物へ形質転換可能なベクターに組み込むことに成功した。

実施例20.選抜されたゲノムDNAクローンの解析
選抜されたゲノムDNA断片の両端280〜500塩基分の塩基配列を調査した。その結果も表1から9および図3の各々のゲノムDNA断片に対応する配列番号により示されている。また、これらの断片をPCR法により検出することのできる、PCR用プライマーペアの配列を以下の表31に示す。
【0163】
【表31−1】

【0164】
【表31−2】

【0165】
【表31−3】

【0166】
実施例21.選抜されたゲノムDNA断片の植物への導入
実施例3〜14において選抜されたゲノムDNA断片を、実施例2、実施例6、または、実施例7記載の方法により、イネ、トウモロコシ、およびタバコに導入した。得られた形質転換植物、およびその子孫植物を、実施例3〜14と同様に評価した。そして、評価した形質のうち、1つまたは複数の形質について、変異の生じた形質転換植物およびその子孫植物を選抜した。選抜された植物に導入したゲノムDNA断片を、作物に、農業的に有益となりうる変異を起こすことのできるゲノムDNA断片として選抜した。
【0167】
2次選抜の結果、再度植物に導入しても農業上有益な変異をもたらすことができることが確認されたゲノムDNA断片や、他の植物にも農業上有益な変異をもたらすことができることが確認されたゲノムDNA断片が選抜された。したがって、1次選抜のみの場合よりも、より価値の高いゲノムDNA断片が選抜されたことになる。
【0168】
このようにして選抜されたゲノムDNA断片の例を表32に示す。
【0169】
【表32】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片の選抜方法:
(1) 植物からゲノムDNAを調製し、クローニングベクターを用いて、ゲノムDNAライブラリーを構築する;
(2) ゲノムDNAライブラリーを構成する複数のゲノムクローンの各々に含まれるゲノム断片を、個別に植物に導入し、形質転換植物を作出する;
(3) 形質転換植物、または、その子孫の植物を栽培し、表現型に農業上有益となりうる変異の生じた植物を選抜する;
(4) 工程(3) において選抜された植物に、工程(2) において導入されていたゲノムDNA断片を、目的とするゲノムDNA断片として選抜する;
(5) 場合により、工程(4) で選抜されたゲノムDNA断片の全部または一部を植物に導入して、工程(3) および(4) を繰返し、各繰返しの度に表現型に農業上有益となりうる変異の生じた植物を与えたゲノムDNA断片を、目的とするゲノムDNA断片として選抜する。
【請求項2】
選択されるゲノムDNA断片のサイズが、クローニングベクターに導入可能な大きさの範囲で、1kb以上である請求項1の方法。
【請求項3】
工程(2) が、植物細胞もしくは組織のゲノムへのゲノム断片の導入、該植物細胞からの植物体への再生、再生した植物の栽培、の各工程を含む、請求項1または2の選抜方法。
【請求項4】
植物細胞もしくは組織のゲノムへのゲノムDNA断片の導入が、生物的導入法、物理的導入法、化学的導入法からなる群から選択される方法により行われる、請求項3の選抜方法。
【請求項5】
植物に農業上有益となりうる変異が、通常の栽培条件下で植物体およびその含有成分の少なくとも一部について、変異がない植物に比べて量的な増大または減少、または、その生長速度の増大をもたらす変異、または病虫害抵抗性をもたらす変異である、請求項 1〜4のいずれか1項の選抜方法。
【請求項6】
植物に農業上有益となりうる変異が、通常より植物にストレスが付加される栽培条件下で植物体およびその含有成分の少なくとも一部について、変異がない植物に比べて量的な増大または減少、または、その生長速度の増大をもたらす変異、または病虫害抵抗性をもたらす変異である、請求項1〜4のいずれか1項の選抜方法。
【請求項7】
工程(2) で形質転換される植物が、工程(1) でゲノムDNAの供給源とされた植物と同じ種の植物である、請求項5または6の選抜方法。
【請求項8】
工程(2) で形質転換される植物が、工程(1) でゲノムDNAの供給源とされた植物と異なる種の植物である、請求項5または6の選抜方法。
【請求項9】
場合により工程(5) でゲノムDNA断片を導入する植物が、工程(2) で形質転換された植物と同じ種の植物である請求項7または8の選抜方法。
【請求項10】
場合により工程(5) でゲノムDNA断片を導入する植物が、工程(2) で形質転換された植物と異なる種の植物である請求項7または8の選抜方法。
【請求項11】
場合により工程(5) でゲノムDNA断片を導入する植物が、工程(2) で形質転換された植物と同じ栽培条件下で栽培される請求項9または10の選抜方法。
【請求項12】
場合により工程(5) でゲノムDNA断片を導入する植物が、工程(2) で形質転換された植物と異なる栽培条件下で栽培される請求項9または10の選抜方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項の方法により選抜されたゲノムDNA断片を含むクローニングベクターを含む大腸菌を培養する工程および、大腸菌中で増幅したゲノムDNA断片を含むクローニングベクターを調製する工程を含むことを特徴とする、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項の方法によって選抜されたゲノムDNA断片を鋳型として、生化学的増殖法による増殖を行うことを特徴とするゲノムDNA断片の製造方法。
【請求項15】
請求項 13または14の方法によって製造されたゲノムDNA断片を制限分解する工程を含むDNA断片の製造方法。
【請求項16】
請求項 13〜15のいずれか1項の方法により製造されたDNA断片。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項の方法により選抜または製造されたゲノムDNA断片を含むクローニングベクターを含む大腸菌を培養する工程および、大腸菌中で増幅したゲノムDNA断片を含むクローニングベクターを調製する工程を含むことを特徴とする方法で製造した、農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片を、植物に導入する工程を含む、農業上有益となりうる変異を有する植物の製造方法。
【請求項18】
農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片を、植物に導入する工程が、植物細胞もしくは組織へのゲノム断片の導入、該植物細胞からの植物体への再生、再生した植物の栽培、の各工程を含む、請求項17の農業上有益となりうる変異を有する植物の製造方法。
【請求項19】
植物細胞もしくは組織へのゲノムDNA断片の導入が、生物的導入法、物理的導入法、化学的導入法からなる群から選択される方法により行われる、請求項18の植物の製造方法。
【請求項20】
農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片を導入する植物が、該ゲノムDNA断片が由来する植物と同じ種の植物である、請求項17〜19のいずれか1項の植物の製造方法。
【請求項21】
農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片を導入する植物が、該ゲノムDNA断片が由来する植物と異なる種の植物である、請求項17〜19のいずれか1項の植物の製造方法。
【請求項22】
請求項17〜21のいずれか1項の方法により製造した植物。
【請求項23】
請求項1〜12のいずれか1項の方法により選抜されたゲノムDNA断片を含むクローニングベクターを含む大腸菌を培養する工程および、大腸菌中で増幅したゲノムDNA断片を含むクローニングベクターを調製し、クローニングベクター中の植物ゲノムDNA断片のヌクレオチド配列を解読する工程を含むことを特徴とする、植物に農業上有益となりうる変異をもたらすことができるゲノムDNA断片の分析方法。
【請求項24】
請求項1〜12のいずれか1項の方法によって選抜されたゲノムDNA断片を制限分解する工程を含むDNA断片の分析方法。
【請求項25】
請求項1〜12のいずれか1項の方法によって選抜されたゲノムDNA断片を鋳型として、生化学的増殖法による増殖を行うことを特徴とするDNA断片の分析方法。
【請求項26】
分析が、ゲノムDNA断片の制限分解産物または生化学的増殖法による増殖産物のヌクレオチド配列を解読する工程を含む、請求項24または25の分析方法。
【請求項27】
請求項1〜12のいずれか1項の方法によって選抜されたゲノムDNA 断片を、植物の品
種改良におけるマーカーとして使用する方法。
【請求項28】
請求項1〜12のいずれか1項の方法によって選抜されたゲノムDNA 断片をマーカーとし、該マーカーをゲノムDNA 中に有する植物個体は品種改良に適すると判断し、該マーカーを有しない植物個体は品種改良に不適であると判断することからなる、請求項27の方法。
【請求項29】
請求項1〜12のいずれか1項の方法によって選抜されたゲノムDNA 断片を有することが知られている植物と、品種改良をすべき植物とを掛け合わせて得られた、後代植物個体からゲノムDNA を調製し、前記ゲノムDNA 断片を有する後代植物個体を、品種改良のさらなる工程に使用できると判断することからなる、請求項28の方法。
【請求項30】
請求項1〜12のいずれか1項の方法によって選抜されたゲノムDNA 断片を有することが知られている植物が、請求項22の植物である、請求項29の方法。





【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/040374
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514988(P2005−514988)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015743
【国際出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000004569)日本たばこ産業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】