説明

ゲル化疎水性注入ポリマー組成物

リシノール酸オリゴマーと、少なくとも1つのカルボン酸基および少なくとも1つのヒドロキシ基またはカルボン酸基を有する脂肪族分子から合成された生分解性キャリアであって、37℃未満の温度で液体またはペーストである生分解性キャリア、ならびに、その作製方法および使用方法。本発明のポリマーは、水性媒体に浸けられたとき、その粘度を著しく増大させる。これらのポリマーは、疎水性の生物医学的シーラント、接着(例えば、臓器間の接着など)を防止するための一時的なバリア、細胞支持体、薬物送達用のキャリア、および、埋め込み可能な医療デバイス(例えば、ステントなど)における被覆として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は米国特許仮出願第60/720840号(2005年9月27日出願)の利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般には、医薬的に活性のある薬剤の制御された放出のためのゲル化疎水性ポリマー組成物の分野におけるものである。
【背景技術】
【0003】
非経口投与による制御された薬物送達のためのin situ貯留部形成システムは、典型的には、広範囲の粘度を有する液体またはペーストの形態である。そのようなシステムは通常、溶媒/共溶媒系に溶解または分散された生分解性のキャリアを含有し、一方で、薬物は送達システムの液相に分散されるか、または溶解されるかのいずれかである。皮下または筋肉内に注入されたとき、固体の貯留部が注入部位において形成される。そのようなシステムの投与は、多くの場合には埋め込むことが要求される外科的手法よりもはるかに侵襲性がなく、また、費用がかからない。近年、種々のin situ貯留部形成システムが再検討され、貯留部形成機構に従って種々のカテゴリーに分類されている(Hatefi他、J.Control.Release、80(1−3):9〜28(2002))。
【0004】
近年では、様々な特定の製造物(例えば、Atrigel(登録商標)技術を酢酸ロイプロリドを長期間送達するために使用するEligard(登録商標)など)が規制当局により承認されたために、ポリラクチド−co−グリコリド(「PLGA」)コポリマーとともに形成されるin situ析出システムが最も注目を集めている。Eligard(登録商標)は、Atrix Lab(現在、QLT)によって上市されている。N−メチル−2−ピロリドン(NMP)は、この特定の配合物において使用される有機溶媒である。他の有機溶媒(例えば、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、トリアセチンおよび安息香酸エチルなど)もまた、初期薬物バーストに対する影響について評価されている。これらの有機溶媒の生体適合性および全身毒性が主要な懸案事項となっている。PLGAのin situ貯留部形成システムがまた、より親油性の溶媒(例えば、安息香酸ベンジル(Alzamer(登録商標)など)の使用によりAlzaによって開発されており、このシステムは、刺激性がより少ないことが主張されており、また、初期薬物バーストが低下している。
【0005】
SABER(登録商標)システム(Durect)は、エタノール、ベンジルアルコールまたは他の水混和性溶媒に溶解されたスクロースアセタートイソブチラート(SAIB)からなる。溶液の粘度が低いために、小ゲージのニードルによる投与の容易さは、PLGAシステムを上回る明白な利点である。SABER−ブピバカインの長期間作用配合物が現在、手術後の痛み管理について臨床試験中である。ペプチドおよびタンパク質を送達するためのSABERシステムにおいてあり得る適用もまた、組換えヒト成長ホルモン(「rh−GH」)が、液相に溶解された不溶性rh−GH粉末およびPLGAを含有するSABER懸濁物からラットにおいて7日間持続して放出されたことによって明らかにされている。感熱性の生分解性トリブロックコポリマーが、非経口による薬物送達のための持続放出システムとしてMacroMedによって開発されている。そのコポリマーは疎水性のPLGAブロック(A)および親水性のPEGブロック(B)から構成され、2つの異なったブロック形態(ABAおよびBAB)を有する。ReGel(登録商標)は、水に可溶であるABA型のトリブロックコポリマーである。ReGel(登録商標)の水溶液は、15℃では自由に流れる液体であり、これは、注入されたとき、体温でゲルに変わる。薬物放出速度が、疎水性/親水性の含有量、ポリマー濃度、トリブロックコポリマーの分子量および/または多分散度を変化させることによって調節される。様々な薬物をReGel(登録商標)に溶解、懸濁または乳化させることができる。OncoGel(登録商標)は、固形腫瘍の局所的治療のためにReGel(登録商標)に配合されたパクリタキセルを含有する製造物である。パクリタキセルが可溶化され、ゲルの疎水性ドメインの内部に閉じ込められ、その放出が、ゲルが分解/侵食を受けるに従い、6週間にわたって持続する。ReGelにおけるパクリタキセルの血管周囲での持続した送達もまた、イヌにおける血管移植片での新生内膜過形成を効果的に阻害することが示されている。ReGel(登録商標)の水性的性質のために、水溶性薬物についての長期間の持続した放出(例えば、1ヶ月を超える放出)は、達成することが困難であり得る。さらに、薬物の大きい初期バーストを避けることができない。
【0006】
Poloxamer(登録商標)407は、ポリ(オキシエチレン)ユニットおよびポリ(オキシプロピレン)ユニットからなるABAトリブロックコポリマーである。これは、逆熱ゲル化性質を有する水溶液を形成する水溶性の非イオン性界面活性剤である。ポリマーが20%を超える溶液は低い温度で低い粘度を示すが、体温では柔軟性のない半固体ゲルの網状組織物を迅速に形成する。しかしながら、Poloxamer(登録商標)の非経口適用は、生分解性がないこと、および、高いポリマー濃度での細胞毒性の懸念によって制限されている。このポリマーが腹腔内注入された後でのラットにおける血漿コレステロールレベルおよび血漿トリグリセロールレベルの増大もまた問題となり得る。
【0007】
多数のチオール(−SH)基をポリマー骨格に沿って含有するポリ(エチレングリコール)型コポリマーの調製もまた報告されている。このコポリマーの水溶液が、架橋剤、すなわち、中性のリン酸塩緩衝液に溶解されたα,ω−ジビニルスルホン−ポリ(エチレングリコール)(2KDのMW)と混合されたとき、ヒドロゲルが形成された。水溶性薬物をいずれかの溶液に溶解することができ、ヒドロゲルが形成されるときに、薬物が物理的に閉じ込められる。ラットおよびウサギにおける予備的な生体適合性評価では、in situ架橋ゲルに対する軽度の有害な組織反応が示された。
【0008】
GelSite(登録商標)(DelSite Biotech.Inc.)ポリマーは、アロエ植物から抽出および精製された天然の酸性多糖である。このポリマーは、水溶液では、皮下または筋肉内に注入されたとき、カルシウムの存在下でゲルを形成し、従って、水溶性薬物(すなわち、タンパク質)を水溶液に閉じ込め、持続した放出をもたらす。この結合により、薬物放出に関するさらなる制御が、タンパク質の生物学的機能を妨害することなくもたらされる。
【0009】
これらのシステムは、水に浸けられたとき、親水性溶媒が周囲の組織に溶け出し、その一方で、ポリマーが析出する、水、NMP、ポリエチレングリコールおよび/または他のジオールのいずれかにおけるポリマーキャリアの親水性溶液に基づいている。そのようなシステムの制限には、注入のために要求されるポリマーキャリアおよび溶媒の大きい体積;親水性溶媒が速く溶け出すことによる、ポリマー溶液に取り込まれた薬物のバースト放出;毒性有機溶媒(例えば、N−メチルピロリドン(NMP)など)の使用;および、ポリマーの遅い分解時間(例えば、数ヶ月〜数年)が含まれる。
【0010】
薬物治療の目的は、薬物の治療的効果を最大限にし、その一方で、有害な影響を最小限に抑えることである。局在化した腫瘍に対する薬物の全身送達は、薬物の比較的低い濃度が、腫瘍における異常な毛細管ネットワークから遠くに位置することがある増殖し続ける細胞境界部に提供されるという欠点を有する。抗ガン薬物が負荷されたポリマー型インプラントは、高用量の局在化した薬物を長期間にわたって直接に腫瘍内または腫瘍切除部位において送達する機会をもたらす。従って、注入可能なin situ硬化性の半固体の薬物貯留物が、代わりの送達システムとして開発され続けている。このようなインプラントシステムは、シリンジにより体内に注入することができ、かつ、注入されると、ゲル化して、半固体の貯留物を形成することができる生分解性の製造物から作製される。生分解性のポリ無水物およびポリエステルが、制御された薬物送達のための有用な物質である。
【0011】
薬物キャリアとして使用されるリシノール酸含有のポリエステルおよびポリ無水物が、米国特許出願公開第2004/0161464号および同第2004/0161464号(Domb)に記載されている。しかしながら、これらのポリマーは、30個のモノマーユニットの範囲での低い重合度をもたらし、かつ、ペースト状のポリマーを得るために大きいリシノール酸含有量を必要としたリシノール酸モノマーから調製された。また、これらの以前に記載されたポリマーは、水性媒体中に置かれたとき、ゲル化しなかった。
【0012】
以前に記載された薬物送達システムにもかかわらず、薬物の制御放出のためにin situインプラントを形成するか、または、一時的な手術用インプラントとして役立つ、体内に注入することができる信頼できるポリマー組成物が依然として求められている。
【0013】
従って、37℃未満の温度で液体またはペーストであり、水性媒体または組織に入れられたときにゲル化する生分解性のポリエステルおよびポリエステル−無水物、ならびに、その作製方法および使用方法を提供することが本発明の1つの目的である。さらに、乳酸、グリコール酸およびヒドロキシルカプロン酸から作製されるポリヒドロキシアルカン酸エステルの一般に使用される固体のホモポリエステルおよびコポリエステルを、比較的少量のリシノール酸オリゴマーを配合することによって液体またはペーストに変換することが本発明の目的である。
【0014】
さらに、アルカンジカルボン酸の一般に使用される固体のホモポリ無水物およびコポリ無水物を、リシノール酸オリゴマーをポリマー骨格に取り込むことによって液体またはペーストに変換することが本発明の目的である。
【0015】
さらに、37℃未満で液体またはペーストである生分解性のポリエステルおよび/またはポリ無水物からの、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも4週間にわたる医薬的に活性のある薬剤の持続した放出を提供することが本発明の目的である。
【0016】
さらに、37℃未満の温度で液体またはペーストであり、約12週間で完全に分解するゲルを、水性媒体または組織に入れられたときに形成する生分解性のポリエステルおよびポリ無水物を提供することが本発明の目的である。
【0017】
さらに、内部器官の接着防止のためのシーラントおよび一時的なシールドとして役立ち得るペースト状の生分解性組成物を提供することが本発明の目的である。
【0018】
さらに、低コストの純粋なリシノール酸を粗リシノール酸またはひまし油から提供することが本発明の目的である。
【発明の開示】
【0019】
リシノール酸オリゴマーと、少なくとも1つのカルボン酸基および少なくとも1つのヒドロキシ基またはカルボン酸基を有する脂肪族分子から合成された生分解性キャリアであって、37℃未満の温度で液体またはペーストである生分解性キャリア、ならびに、その作製方法および使用方法が本明細書中に記載される。本明細書中に記載されるポリマーは、水性媒体に浸けられたとき、その粘度を著しく増大させる。本明細書中に記載されるポリマーは、疎水性の生物医学的シーラント、接着を防止するための一時的なバリア、細胞支持体、薬物送達用のキャリア、および、埋め込み可能な医療デバイス(例えば、ステントなど)における被覆として使用することができる。リシノール酸オリゴマーから作製された本明細書中に記載されるポリマーは、リシノール酸モノマーから調製された類似する組成および分子量のポリマーと比較して、粘度が小さく、かつ、注入することがより容易であり、また、リシノール酸モノマーから合成されたポリマーと比較して、より大きい分子量を有し、取り込まれた薬物をより長い期間にわたって保持し、かつ、より遅い速度で軟らかい分解産物に分解する。様々な医薬的に活性のある薬剤を、有機溶媒の使用を伴うことなく、そのような液体またはペーストに取り込むことができる。
【0020】
組成物を水性媒体(例えば、体液など)に浸けることにより、組成物の粘度が増大し、これにより、半固体の物質の形成がもたらされる。1つの実施形態において、ポリマー物質は、リシノール酸オリゴマーと、少なくとも1つのカルボン酸基、および、少なくともヒドロキシル基またはカルボン酸基のいずれかを有する脂肪族分子とから構成される、ポリエステルまたはポリ(エステル−無水物)である。
図面の簡単な記述
図1は、p(SA:RA)(3:7)の粘度を種々の剪断速度において温度(℃)の関数として示すグラフである(加えられた剪断速度が角括弧で示される)。実線は、リン酸塩緩衝液にさらされる前のポリマーを示し、点線は、リン酸塩緩衝液にさらされた後のポリマーを示す(pH7.4、0.1M、37℃、24時間)。
図2は、種々の剪断速度における温度(℃)の関数としてのポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)(p(SA:RA))(2:8)の粘度のグラフである(加えられた剪断速度が角括弧で示される)。実線は、リン酸塩緩衝液にさらされる前のポリマーを示し、点線は、リン酸塩緩衝液にさらされた後のポリマーを示す(pH7.4、0.1M、37℃、24時間)。
図3は、種々の剪断速度における温度(℃)の関数としてのポリリシノール酸(PRA)の粘度のグラフである(加えられた剪断速度が角括弧で示される)。実線は、リン酸塩緩衝液にさらされる前のポリマーを示し、点線は、リン酸塩緩衝液にさらされた後のポリマーを示す(pH7.4、0.1M、37℃、24時間)。
図4は、p(SA:RA)(3:4)をリン酸塩緩衝液にさらした前後における、剪断速度(sec−1)と、剪断応力(ダイン/cm)との間における関係を示すグラフである。測定を23℃で行った。実線は、リン酸塩緩衝液にさらされる前のポリマーを示し、点線は、リン酸塩緩衝液にさらされた後のポリマーを示す。
図5は、5%w/wおよび10%w/wのパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)からのパクリタキセルのインビトロでの累積放出を示す。それぞれの点が平均値±STD(n=3)を表す。放出を0.1Mリン酸塩緩衝液(pH7.4)において37℃で行った。パクリタキセルの濃度をHPLCによって求めた。
図6は、負荷P(SA:RA)(2:8)および無負荷P(SA:RA)(2:8)のインビトロでの加水分解による分解を示す。図6aは、分解途中のサンプルの重量減少によってモニターされる、無負荷のP(SA:RA)(2:8)、ならびに、5%w/wおよび10%w/wのパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)のインビトロでの加水分解による分解を示す。図6bは、インビトロでの加水分解による分解の期間中でのサンプルにおけるパクリタキセルの蓄積(NP HPLCによって求められる)を示す。インビトロでの加水分解による分解を一定の振とう(100RPM)とともに37℃でリン酸塩緩衝溶液(50ml、0.1M、pH7.4)において行った。
図7は、C3H正常マウスの皮下に注入されたブランクポリマーおよびパクリタキセル配合物(5%および10%)のインビボでの分解を示す。それぞれの時点(1日目、7日目、21日目および70日目)で、マウス(n=4)を屠殺し、ポリマーインプラントを、Mw、重量およびパクリタキセル含有量について調べた。
図8は、C3HマウスにおけるMBT異所性モデルに対するパクリタキセル配合物のインビボ抗腫瘍効果を示す。治療を腫瘍細胞接種後8日目に開始した。時間ゼロは治療の開始を表す。それぞれの点は平均±STD(n=10)を表す。
図9は、C57Bl/6ラットにB16F1が接種された後、異なる濃度のパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)により治療されたときの生存の進展を示す。
図10は、57Bl/6ラットにB16F1が接種された後、異なる濃度のパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)により治療されたときの腫瘍量の進展を示す。
図11は、実験期間中のすべての治療群におけるラットの平均体重の進展を示す。標準偏差が誤差棒によって示される。
図12は、種々の治療群についての死亡時の腫瘍体積の進展を示す。
図13は、p(SA:RA)(20:80)(w/w)およびp(SA:RA)(30:70)(w/w)からの、ウシ血清アルブミン(「BSA」)、インスリン、インターフェロン−α(「INF−alpha」)およびインターロイキンのパーセントインビトロ放出を時間(hours)の関数として示す。ペプチドの放出を0.1Mリン酸塩緩衝液(pH7.4)において37℃で行った。放出媒体における薬物含有量をLowryタンパク質アッセイによって求めた。
図14は、異なる分子量のp(SA:RA)(3:7)からのゲンタマイシンのパーセントインビトロ放出を時間(日数)の関数として示す。
図15は、3つの異なる希釈物について時間(日数)に対する細菌濃度(光学濃度)を示すグラフである。
図16は、4℃および−17℃で8週間にわたって貯蔵された後でのゲンタマイシンの放出を時間(日数)の関数として示す。図16aは、4℃で8週間にわたって貯蔵された配合物からのゲンタマイシンの放出を示す。図16bは、−17℃で8週間にわたって貯蔵された配合物からのゲンタマイシンの放出を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
I.組成物
A.ポリマー
リシノール酸オリゴマーと、少なくとも1つのカルボン酸基および少なくとも1つのヒドロキシ基またはカルボン酸基を有する脂肪族分子とから合成された生分解性キャリアであって、37℃未満の温度で液体またはペーストであり、かつ、水性媒体に浸けられたとき、その粘度を著しく増大させる生分解性キャリアが本明細書中に記載される。そのようなポリマーは分子量が少なくとも3000ダルトンであり、好ましくは少なくとも7000ダルトンであり、より好ましくは少なくとも10000ダルトンである。そのようなポリマーは様々な重合度を有することができる。1つの実施形態において、そのようなポリマーは重合度が少なくとも40である。
【0022】
リシノール酸(cis−12−ヒドロキシオクタデカ−9−エン酸)は、シス形態の二重結合を9位に、ヒドロキシル基を12位に有するC18脂肪酸である。粗リシノール酸を商業的に購入することができ、または、ひまし油の加水分解によって調製することができる。ひまし油は、平均して約3個のヒドロキシル基を1分子あたり含有する天然トリグリセリドである。ひまし油は、典型的には圧搾することによってトウゴマの実から抽出され、およそ90%がリシノレアート(12−ヒドロキシオレアート)である。
【0023】
リシノール酸は、1分子または数分子のポリ無水物として反応して、リシノール酸オリゴエステルのプレポリマーを形成することができ、このプレポリマーはさらに重合して、最終的なポリマーを形成する。好適なポリ無水物を脂肪族および/または芳香族のジカルボン酸の重合によって調製することができる。好適なジカルボン酸には、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸およびアゼライン酸が含まれるが、これらに限定されない。好適な不飽和ジカルボン酸には、フマル酸、イタコン酸およびマレイン酸が含まれる。10個を超える炭素原子を有する長鎖二酸、15個を超える炭素原子を有する長鎖二酸、20個を超える炭素原子を有する長鎖二酸、および、25個を超える炭素原子を有する長鎖二酸(例えば、ダイマーオレイン酸およびダイマーエルカ酸など)、ならびに、ポリカルボン酸(例えば、トリマーエルカ酸またはトリマーオレイン酸など)、ポリアクリル酸誘導体およびクエン酸もまた使用することができる。ジカルボン酸はまた、反応性の官能基(例えば、アミノ基および/またはヒドロキシル基など)を含有することができる。
【0024】
リシノール酸はまた、ヒドロキシアルカン酸と共重合して、リシノラートモノマーユニットを含有するポリエステルをもたらすことができる。好適なヒドロキシアルカン酸には、乳酸;グリコール酸;ヒドロキシカプロン酸;3−ヒドロキシアルカン酸、4−ヒドロキシアルカン酸および5−ヒドロキシアルカン酸、ならびに、それらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書中に記載されるポリマーは生分解性であり、生体適合性である。1つの実施形態において、本明細書中に記載されるポリマーは約12週間で完全に分解する。
【0026】
B.活性薬剤
本明細書中に記載されるポリマー組成物は、治療剤、診断剤および/または予防薬剤を送達するために使用することができる。
【0027】
本明細書中に記載される組成物を形成するために有用である例示的な薬物剤には、興奮剤;鎮痛剤;麻酔剤;抗喘息剤;抗関節炎剤;抗ガン剤;抗コリン作動性薬剤;抗痙攣剤;抗うつ剤;抗糖尿病剤;下痢止め剤;制吐剤;駆虫剤;抗ヒスタミン剤;抗高脂血症剤;抗高血圧剤;抗感染剤;抗炎症剤;抗片頭痛剤;抗新生物剤;抗パーキンソン病薬物;止痒剤;抗精神病剤;解熱剤;鎮痙剤;抗結核剤;抗潰瘍剤;抗ウイルス剤;抗不安剤;食欲抑制剤(食欲減退剤);注意欠陥障害薬物および注意欠陥多動性障害薬物;心臓血管剤(カルシウムチャネル遮断剤、抗狭心症剤、中枢神経系(「CNS」)剤、ベータ−遮断剤および抗不整脈剤を含む);中枢神経系刺激剤;利尿剤;遺伝的物質;ホルモン遮断薬(hormonolytic);催眠剤;血糖低下剤;免疫抑制剤;筋弛緩剤;麻薬拮抗剤;ニコチン;栄養剤;副交感神経遮断剤;ペプチド薬物;精神興奮剤;鎮静剤;唾液分泌促進薬、ステロイド;禁煙剤;交感神経様作用薬;トランキライザー;血管拡張剤;ベータ−アゴニスト;子宮収縮抑制剤;および、それらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、活性薬剤は抗ガン剤であり、例えば、パクリタキセルまたはメトトレキサートなどである。別の実施形態において、活性薬剤は抗生物質であり、例えば、ゲンタマイシンなどである。さらに別の実施形態において、活性薬剤はペプチドまたはタンパク質である。
【0028】
これらの薬剤の効果的な量は当業者によって決定することができる。治療効果的な量を決定する際に考慮する要因には、治療される人の年齢、体重および身体状態;使用薬剤のタイプ、使用ポリマーのタイプ;ならびに、所望される放出速度が含まれる。典型的には、活性薬剤の濃度は組成物の約1重量%〜約90重量%であり、好ましくは組成物の約5重量%〜約60重量%であり、より好ましくは組成物の約5重量%〜約20重量%である。
【0029】
C.キャリア、添加剤および賦形剤
様々な配合物が、安全および効果的であると見なされ、かつ、望ましくない生物学的副作用または望まれない相互作用を引き起こすことなく個体に投与することができる物質から構成される医薬的に許容され得る「キャリア」を使用して調製される。「キャリア」は、その有効成分を除く、医薬配合物に存在するすべての成分である。用語「キャリア」には、界面活性剤、希釈剤、緩衝剤、塩および保存剤または安定剤が含まれるが、これらに限定されない。安定剤が、例として酸化的反応を含む薬物の分解反応を阻害するために、または遅らせるために使用される。
【0030】
II.作成方法
本明細書中に記載されるポリマーは、当該分野で知られている様々な方法によって調製することができる。ポリ(リシノール酸−無水物)コポリマーを溶融縮合によって調製することができる。1つの実施形態において、脂肪族または芳香族のジカルボン酸が、ポリ無水物のプレポリマーを形成するために無水酢酸と反応させられる。このプレポリマーは、ポリ無水物を形成するために高真空下で加熱される。低分子量のポリ(リシノール酸−無水物)コポリマーを、ポリ無水物をリシノール酸によりエステル化することによって調製することができる。
【0031】
あるいは、より高分子量のポリ(リシノール酸−無水物)コポリマーを、ポリ無水物を不活性雰囲気下で周囲圧力においてリシノール酸のオリゴマーによりエステル化することによって調製することができる。この反応は、ポリマーの分子量が1000ダルトンになったときに停止させられる。無水酢酸がポリマーに加えられ、溶液が30分間加熱される。過剰な無水酢酸が除かれ、これにより、オイル状のプレポリマーが得られる。このプレポリマーは、最終的なポリマーを形成するために、高真空下で熱により重合させられる。最終的なポリマーの分子量は、反応時間、ならびに、リシノール酸の純度に依存する。例えば、純粋なリシノール酸モノマーを用いて調製されたポリマーは8000の最大分子量を有した。対照的に、粗リシノール酸(85%のリシノール酸含有量)を用いて調製されたポリマーは3500ダルトンの最大分子量を有した。
【0032】
リシノール酸モノマーユニットを含有するポリエステルを、ヒドロキシアルカン酸(例えば、L−乳酸、D,L−乳酸、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸、および、これらの混合物)を触媒としてのHPOの存在下でひまし油と反応することによって調製することができる。
【0033】
これらのポリマーには、1つ以上の治療剤、診断剤および/または予防薬剤を、ポリマーおよび薬剤を、熱および/または溶媒を必要とすることなく直接に混合することによって負荷することができる。ポリマーおよび薬物は、滑らかなペーストが形成されるまで混合される。1つ以上の添加剤を、配合物の粘度を低下させるために、および/または、配合物の注入性を改善するために、薬物負荷ポリマーに加えることができる。好適な添加剤の例には、リシノール酸、リン脂質、PEG400およびPEG2000が含まれるが、これらに限定されない。添加剤が使用されるならば、典型的には、薬物が最初に添加剤と混合され、その後、薬物−添加剤の混合物がポリマーに配合される。再度ではあるが、添加剤は、熱および/または溶媒を必要とすることなく、直接に薬物およびポリマーと混合することができる。
【0034】
III.使用方法
本明細書中に記載されるポリマー組成物は、局所的疾患、例えば、ガン、細菌および真菌の局所的感染、ならびに、痛みなどを治療するための分解性キャリアとして使用することができる。高い薬物濃度を疾患部位において長期間にわたってもたらす部位特異的な化学療法が、感染領域を切除した後での残存する感染細胞(例えば、固形腫瘍など)を治療する効果的な方法である。典型的には、配合物は、(腫瘍切除前、腫瘍切除時または腫瘍切除後に)注入および/または埋め込みによって筋肉内、皮下、腹腔内および/または腫瘍内に投与される。ポリマーは、添加剤を必要とすることなく注入または埋め込むことができるように室温において液体またはペーストである。しかしながら、様々な添加剤を、必要に応じて、組成物の粘度を低下させるために、および/または、組成物の注入性を改善するために加えることができる。
【0035】
特に注目されるのが、これらのポリマーを、腫瘍内への注入または挿入のために、頭部&頸部の扁平上皮ガン(SCC)、前立腺ガンおよび肉腫をはじめとする固形腫瘍の治療のための部位特異的な化学療法のために適用することである。頭頸部のガンが、合衆国では毎年、約40000人の新規患者を占め、合衆国におけるすべての新規癌患者の約5%である。他の固形腫瘍とは異なり、頭頸部ガンが再発する最も一般的な発現は限局的である(すなわち、頸部における再発)。本発明のポリマーに基づく期待されるデバイスは、抗ガン剤が負荷された生分解性ポリマーマトリックスから作製されるペースト状または液状のポリマーインプラントである。抗ガン剤(例えば、メトトレキサートまたはパクリタキセルなど)がポリマーマトリックス内に均一に分散される。活性な薬物が、体液と接触して置かれたとき、周りの組織に制御された様式で放出され、この間に、ポリマーキャリアが遅い分解によって排除される。
【0036】
そのようなインプラントは注入可能な液体またはペーストの形態であり、腫瘍除去の外科的治療を行っているときに腫瘍内に注入されるか、または、腫瘍部位内に挿入される。インプラントにより、高用量の抗ガン薬物が、全身的な薬物分布を最小限に抑えながら、長期間(典型的には、数日間、数週間または数ヶ月間)にわたって腫瘍部位においてもたらされ、従って、これにより、残存する腫瘍細胞の局在化された治療が、手術に対する補完的な薬物治療として提供される。
【0037】
薬物を特定の病的身体部位に長期間にわたって送達するという同じ概念は、他の固形腫瘍、局所的感染(例えば、骨髄炎を生じさせる感染など)、ガン患者またはAIDS患者のための局所的な麻酔剤送達、および、組織成長を抑制する薬物(例えば、再狭窄およびケロイドを治療するためのヘパリンおよびステロイドなど)に対してもまた適用される。
【0038】
ポリマーはまた、埋め込み可能な医療デバイス(例えば、ステントなど)における被覆物として、手術シーラントとして、または、臓器間の接着を低下させるためのバリアとして使用することができる。
【実施例】
【0039】
材料および器具
リシノール酸(RA)(85%純粋)をFluka(Buch、スイス)から得て、クロマトグラフィーによって測定されたとき、97%に精製した。セバシン酸(SA)(99%)、アジピン酸、フマル酸、無水マレイン酸および無水コハク酸をSigma−Aldrich(イスラエル)から得た。すべての溶媒が、BioLab(Jerusalem、イスラエル)またはFrutarom(Haifa、イスラエル)から得られた分析規格であり、これらをさらに精製することなく使用した。
【0040】
ポリ(エステル−無水物)の分子量を、Waters2410屈折率(RI)検出器、20μLのループ(Waters Ma)を有するRheodyne(Coatati、CA)注入バルブを伴うWaters1515アイソクラチックHPLCポンプからなるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)システムで推定した。サンプルを1mL/分の流速で直線カラムに通してクロロホルムにより溶出した。分子量をポリスチレン標準物(Polyscience、Warrington、PA)に対して求めた。
【0041】
赤外(IR)分光法(Perkin Elmer、2000FTIR)を、プレポリマー、ポリマーサンプル、および、ジクロロメタン溶液からNaClプレートに注型された加水分解サンプルに対して行った。
【0042】
熱分析を、亜鉛標準物(「Zn」)およびインジウム標準物(「In」)により校正されたMettler TA4000−DSC示差走査熱量計で10℃/分の加熱速度で求め(10mgの平均サンプル重量)、また、Stuart Scientific SMP1融点用加熱装置で求めた。
【0043】
低温走査電子顕微鏡観察(Cryo−SEM)を、Quanta2000SEM(30kV)を使用して行った。
【0044】
光学顕微鏡観察を、デジタルカメラCooplix990(Nikon、日本)を備えた立体顕微鏡Stemi SV11(Zeiss、ドイツ)でのサンプルの顕微鏡観察によって行った。
【0045】
ポリマーの粘度を、回転法(Brookfieldプログラム可能レオメーター、LV−DV−III)を使用して求めた。円筒状スピンドルLV4を使用した。
【0046】
実施例1:ポリ(リシノール酸−セバシン酸)コポリマーの調製
純粋なリシノール酸の調製
ひまし油を、常時攪拌で室温で数時間、エタノール中の2N KOHの2体積に溶解した。エタノールにおける生じたリシノール酸カリウムの沈殿物を、沈殿物をより良好に分離するためにイソプロピルエーテルと混合し、混合物を分離させた。沈殿物のスラリーを、固体を分離するために遠心分離し、溶媒をデカンテーションした。リシノール酸のカリウム塩を、氷冷した1N HCl溶液に分散し、酢酸エチルにより抽出した。溶媒をエバポレーションした後、わずかに黄色のオイルが得られ、これは、ガスクロマトグラフィーによって測定されたとき、100%の脂肪酸を含有し、その少なくとも95%がリシノール酸であった。
【0047】
ポリマー合成
PSA(ポリ(セバシン酸))を溶融縮合によって調製した。セバシン酸を無水酢酸中で20分間煮沸した。無水酢酸を、乾固するまでエバポレーションして、セバシン酸の灰白色のプレポリマーを得た。PSAを調製するために、このセバシン酸プレポリマーを、高真空(1.3x10−1mbar)下で3時間、140℃に加熱して、30000Daを超えるMwを有するポリ(セバシン酸)を得た。低分子量(AS3−102、AS3−101、AS3−92)のポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)(p(SA:RA))コポリマーを、PSAをリシノール酸(RA、298DaのMw)によりエステル化することによって調製した。より高分子量の(p(SA:RA))コポリマーを、PSAをRAのオリゴマー(約2100Da〜3500DaのMw)によりエステル化することによって調製した(AS3−114、AS3−104)。エステル交換反応が、P(SA:RA)(3:7)(AS3−101、AS3−102、AS3−114)については3:7(w/w)の比率で行われ、P(SA:RA)(2:8)(AS3−92、AS3−104)については2:8の比率で行われる。反応を、一括して乾燥フラスコで、窒素雰囲気下において120℃で3時間〜4時間行った。反応を、1000ダルトンの分子量が達成されたときに停止させた。その後、無水酢酸を加えた(1/1、w/w)。溶液を140℃で30分間還流し、過剰な無水酢酸および酢酸を、乾固するまでエバポレーションして、粘性の黄色オイルを得た。この油状プレポリマーを、所望される分子量に依存して、4時間〜8時間、0.19mmHg〜0.32mmHgの真空下において140℃で重合した。リシノール酸オリゴマーから調製されたポリマーについては、反応時間が長いほど、ポリマーの得られる分子量が大きくなった。リシノール酸モノマーを用いて調製されたポリマーについては、到達された最大MWがMw=8000であった。粗リシノール酸(85%のリシノール酸含有量)から調製されたポリマーについては、3500までの分子量が得られた。
【0048】
結果および考察
下記の表には、ポリマーの分子量が示される。ポリマーは、上記で記載されたように調製された。



【0049】
実施例2:リシノール酸および様々な脂肪二酸に基づく液状ポリ(エステル−無水物)
合成
ポリ(フマル酸−co−リシノール酸−エステル−無水物)(3:7(w/w)の比率)
20グラムのフマル酸(FA)を無水酢酸中で2時間還流した。無水酢酸をエバポレーションし、残渣を170℃で4時間重合して、20000の分子量を有するポリ(フマル酸)(PFA)を得た。50グラムのリシノール酸(RA)オリゴマー(Mw=700)を加え、120℃での4時間のエステル交換反応の後では、ポリマーの分子量が1200ダルトンに低下した。オリゴマーを無水酢酸によって活性化し、再び重合した。得られたポリマーは、Mwが15000であり、Mnが8000であった。DSCでのMPピークが34℃に存在した。IR:1732cm−1および1819cm−1
【0050】
ポリ(アジピン酸−co−リシノール酸−エステル−無水物)(2:8(w/w)の比率)
20グラムのアジピン酸(AA)を無水酢酸中で30分間還流した。無水酢酸をエバポレーションし、アジピン酸プレポリマーを170℃で4時間重合して、27000ダルトンの分子量を有するポリマーを作製した。50グラムのRAを加え、120℃での4時間のエステル交換反応の後では、ポリマーの分子量が900に低下した。オリゴマーを無水酢酸によって活性化し、再び重合した。得られたポリマーは、Mnが4000であり、Mwが6000であった。ポリマーの融点は10℃であった。IR:1732cm−1および1819cm−1。NMR:5.3ppmおよび5.4ppm(CH=CH)、4.8ppm(CH−O−CO)、1.6ppm(CH−CH−CHアジピン酸)。同様に、ポリマーを、Mw=2200のリシノール酸オリゴマーから調製して、Mw=15000の液状ポリマーを得た。
【0051】
ポリ(コハク酸−co−リシノール酸−エステル−無水物)(1:1(m/m)の比率)
36グラム(0.12mol)のRAおよび無水コハク酸(24グラム、0.24mol)をトルエン中で一晩還流した。溶媒をエバポレーションし、生成物をジクロロメタンに溶解し、ろ過し、2回蒸留水(DDW)により4回洗浄して、未反応の無水コハク酸を溶解した。収率は67%であった。NMRにより、エステル形成が確認された:4.8ppm(CH−O−CO)。生成物を無水酢酸(1:10、w/v)中で30分間還流し、乾固するまでエバポレーションした。プレポリマーを無水物との縮合によって重合した。4時間後、Mn=4200およびMw=6200。ポリマーの融点は−2℃であった。IR:1732cm−1および1819cm−1。NMR:5.3ppmおよび5.4ppm(CH=CH)、4.8ppm(CH−O−CO)、2.6ppm(CO−CH−CH−CHスクシナート)。ポリマーを、Mw=2200のリシノール酸オリゴマーから調製して、Mw=20000の液状ポリマーを得た。
【0052】
ポリ(マレイン酸−co−リシノール酸−エステル−無水物)(1:1(m/m)の比率)
36グラム(0.12mol)のRAおよび無水マレイン酸(24グラム、0.24mol)をトルエン中で一晩還流した。溶媒をエバポレーションし、生成物をジクロロメタンに溶解し、ろ過し、DDWにより4回洗浄して、未反応の無水マレイン酸を溶解した。収率は72%であった。NMRにより、エステル形成が確認された:4.8ppm(CH−O−CO)。生成物を無水酢酸(1:10、w/v)中で30分間還流し、乾固するまでエバポレーションした。プレポリマーを無水物との縮合によって重合した。4時間後、Mn=4700およびMw=7000。ポリマーの融点は−8℃であった。24時間後、Mn=11000およびMw=14000(一定)。IR:1732cm−1および1819cm−1。NMR:5.3ppmおよび5.4ppm(CH=CH)、4.8ppm(CH−O−CO)、6.8ppmおよび6.2ppm(CO−CH=CH−COマレアート)。同様に、ポリマーを、Mw=2200のリシノール酸オリゴマーから調製して、Mwが15000を超える液状ポリマーを得た。
【0053】
ポリ(コハク酸−co−オリゴリシノール酸−エステル−無水物)(1:1(m/m)の率)
RAのオリゴマーを、塊状のRAを120℃で7時間エステル化することによって調製した。得られた分子量は、300、900、1200および2100であった(1個、3個、4個および7個の反復ユニット)。平均分子量はMnが約950であった。
【0054】
40グラム(0.04mol)のRAオリゴマーおよび無水コハク酸(8.4グラム、0.08mol)をトルエン中で一晩還流した。溶媒をエバポレーションし、生成物をジクロロメタンに溶解し、ろ過し、DDWにより4回洗浄して、未反応の無水コハク酸を溶解した。生成物を無水酢酸(1:10、w/v)中で30分間還流し、乾固するまでエバポレーションした。プレポリマーを無水物との縮合によって重合して、高分子量のポリマーを得た。IR:1732cm−1および1819cm−1。NMR:5.3ppmおよび5.4ppm(CH=CH)、4.8ppm(CH−O−CO)、2.6(CO−CH−CH−COスクシナート)。同様に、ポリマーを、無水コハク酸を無水マレイン酸により置き換えることによって無水マレイン酸から調製した。NMR:5.3ppmおよび5.4ppm(CH=CH)、4.8ppm(CH−O−COリシノール酸エステル)、4.9ppm(CH−O−COリシノロリルマレアートエステル)、6.8ppmおよび6.2ppm(CO−CH=CH−CHマレアート)。
【0055】
実施例3:リシノール酸から調製されたポリ(エステル無水物)ポリマーのゲル化挙動およびインビボ評価
ポリマーのゲル化挙動を、熱分析、光学顕微鏡観察、低温走査電子顕微鏡観察および粘度測定を使用して評価した。
【0056】
光学顕微鏡観察
緩衝液にさらされる前のポリマーと、緩衝液にさらされた後でのポリマーとの間での違いを、デジタルカメラ(Cooplix990、Nikon、日本)を画像記録のために備えた立体顕微鏡Stemi SV11(Zeiss、ドイツ)でのサンプルの顕微鏡観察によって調べた。画像記録を、種々の顕微鏡ズーム倍率を、最も良い画像分解能に調節されたデジタルカメラのズームと一緒に適用する通常の画質モードで行った。照明を、KL1500Electronic照明システム(Zeiss、ドイツ)によって供給される反射光によって行った。
【0057】
ポリマーを水性媒体と接触させたとき、ポリマーサンプルにおける変化が認められた。緩衝液にさらされる前のポリマー(乾燥ポリマー)は透明であり、一方、ゲル化プロセスが生じた後(緩衝液中で8時間)では、ポリマーは不透明となった。ポリマーを切断したとき、2つの異なった領域が見出された:ゲルであった外側領域(1)、および、軟らかいマトリックスとして現れたコア(2)。
【0058】
低温走査電子顕微鏡観察(Cryo−SEM)
湿潤ポリマーサンプルおよび乾燥ポリマーサンプルをスタブに固定し、高真空下で液体窒素により凍結し、その後、Polarone E5100を使用して金被覆した。ポリマーサンプルをCryo−SEM用に調製するために、ポリマーを緩衝溶液(0.1M、pH7.4)の中に注入した。24時間後、サンプルを引き出し、乾燥することなくスタブの上に置いた。サンプルを高真空下で液体窒素により凍結した。凍結サンプルを、Polarone E5100を使用して金被覆した。
【0059】
吸収された水を(乾燥または凍結乾燥することによって)そのさらされたポリマーから除くことにより、ポリマーは、ポリマーが水にさらされる前と同じ特徴を有するオイルに変わった。低温顕微鏡観察は、吸収された水をサンプルが依然として含有しながら、サンプルを凍結することを可能にし、従って、ポリマーが水性媒体によって影響を受けたときのポリマーを可視化することが可能であった。緩衝液にさらされる前のポリマー(乾燥ポリマー)は均一な表面を有し、一方、水にさらされたポリマーサンプルは、規定された構造を、水性媒体に近い外側層において示した。ポリマー鎖は、水にさらされたとき、ある種の堅い網状組織を、水に注入されたポリマーサンプルの滴全体で形成した。この網状組織により、ポリマーの滴はその形状を水性媒体中で保った。ポリマー液滴の断面から、ポリマーの内側が、水相にさらされる前のポリマーと類似して、無傷のままであったことが示された。これらの知見により、ポリマーのゲル化が、水性媒体と接触している表面でのみ生じたことが示される。
【0060】
水の吸収
ポリマーサンプル(P(SA:RA)(3:7)およびP(SA:RA)(2:8))をリン酸塩緩衝液(pH7.4、0.1M、37℃)に入れ、KF滴定を、緩衝液への0時間、4時間、12時間、26時間および40時間の暴露の後で行った。別個のポリマーサンプルをそれぞれの時点のために調製した。それぞれの時点で、ポリマーを緩衝液から取り出し、吸取り紙でブロットし、重量測定し、1mlのジクロロメタンに溶解した。ポリマー溶液を滴定ポットに入れた。直接の滴定を、通常のKF試薬を使用してメタノール中で行った。試料の内側コアからのサンプルを同様に調製した。
【0061】
示差走査熱測定
緩衝液にさらした種々の期間でのP(SA:RA)(3:7)の吸熱を測定した。ポリマーを緩衝液にさらす前には、ピークを35℃に有する1つの転移が存在する。緩衝液中で3時間後、ピークは38.3℃であり、緩衝液中で12時間では、転移が45℃になった。24時間では、さらなる転移が61℃で現れた。これは、分解プロセス、すなわち、セバシン酸の形成が始まっていることを示しているかもしれない。同様の結果がP(SA:RA)(2:8)について見出された。ポリマーを緩衝液にさらす前には、ピークを約32℃に有する1つの転移が存在する。緩衝液中で12時間後および24時間後、転移温度がそれぞれ、42℃および50℃になった。
【0062】
緩衝液中に保たれたポリマーに対して行われた別の観察はポリマーの膨潤能である。P(SA:RA)(2:8)およびP(SA:RA)(3:7)は緩衝液中での最初の24時間の期間中にその体積を15%増大させたことが見出された。
【0063】
粘度の測定
円筒状のスピンドルを使用した。ポリマーの粘度を、ポリマーが水性媒体にさらされる前、および、一定の振とう(100RPM)とともに37℃でリン酸塩緩衝溶液(0.1M、pH7.4)において12時間インキュベーションされた後で測定した。粘度測定を行うための大きい十分なサンプルを得るために、ポリマーを大きい表面に広げ、緩衝液の中に入れた。水性媒体にさらした後、ポリマーサンプルを回収し、ガラス容器に入れた。感熱性試験を、一定の回転速度を加えることによって、40℃の温度で開始し、室温(22℃)まで行った。レオロジー学的挙動の検出を、より粘性のポリマーについては0.209sec−1から始め、また、それほど粘性でないポリマーについては36sec−1までの種々の剪断速度で剪断応力および/または粘度を測定することによって行った。すべての実験を三連で行った。
【0064】
図1には、ポリマーP(SA:RA)(3:7)の粘度が3つの異なる剪断速度(8.4sec−1、12.5sec−1および21sec−1)で示される。43℃から開始し、測定することが可能であった最も低い温度(P(SA:RA)(3:7)の場合には25℃)まで粘度を測定した。P(SA:RA)(3:7)は、剪断速度/剪断応力の関係が一定でないために、低温側(30℃未満)では非ニュートン流体の性質を示し、このポリマーは、剪断速度の増大とともに低下する粘度を示す擬塑性ずり減粘物質として分類することができる。この挙動は、ポリマーの注入性のためには重要である:圧力が加えられるにつれ、ポリマーのペーストはより軟らかくなり、ニードルから押し出される。高温側(30℃を超える温度)では、P(SA:RA)(3:7)はニュートン流体として作用し、その粘度は、加えられた剪断速度によって影響されない。最も注目される温度は、室温(およそ22℃〜25℃、好ましくは25℃)(これは、ポリマーが注入される温度であるからである)、および、体温(37℃)(これは、ポリマーが、身体に注入された後でさらされる温度であるからである)である。8.4sec−1および12.5sec−1の剪断速度が室温で加えられたとき、水性媒体にさらされる前のP(SA:RA)(3:7)の粘度は8600cP〜9000cPであり、一方、水にさらされた後では、粘度は高すぎて、そのような剪断速度で室温では測定することができなかった。水性媒体に37℃でさらされた後でのポリマー粘度における増大は剪断速度に依存していた:8.4sec−1の剪断速度については、粘度が、4200cPから、緩衝液にさらされた後での8940cPに増大し、12.5sec−1の剪断速度では、粘度が4360cPから6770cPに増大し、21sec−1では、粘度が4115cPから5765cPに増大した。水性媒体にさらされた後、ポリマーは擬塑性の挙動を示す。このことは、ポリマー鎖の再配置が、緩衝液にさらされたことによって誘導されるが、スピンドルを回転させる瞬間に破壊されることによって説明されるかもしれない。スピンドルの回転が速くなるほど(剪断速度が大きくなるほど)、破壊される構造が多くなるほど、また、一緒に滑る構造分子が少なくなるほど、粘度が低くなる。
【0065】
図2には、ポリマーP(SA:RA)(25:75)の粘度が3つの異なる剪断速度(12.5sec−1、21sec−1および31sec−1)で示される。粘度を、43℃から開始し、室温まで測定した。P(SA:RA)(25:75)は、ポリマーの液状性に寄与するリシノール酸のより大きい含有量のために、P(SA:RA)(3:7)未満の粘度を有する。P(SA:RA)(25:75)はニュートン流体として作用し、その粘度は、この温度範囲では加えられた剪断速度によって影響されない。ポリマーの粘度がより低いために、粘度がより大きい剪断速度で測定された。室温では、加えられたすべての剪断速度(12.5sec−1、21sec−1および31sec−1)において、水性媒体にさらされる前のP(SA:RA)(25:75)の粘度は約2900cPであり、一方、さらされた後では、粘度が、12.5sec−1では8570cPであり、21sec−1では5000cPであり、31sec−1では大きすぎて測定することができなかった。水性媒体にさらされた後でのP(SA:RA)(25:75)の粘度は、37℃で測定されたとき、ニュートン流体の挙動を示すが、2200cPの差でポリマー粘度の増大が依然として認められた(緩衝液にさらされる前での1150cP、および、後での3200cP)。P(SA:RA)(25:75)の場合、このポリマーは、粘度が、37℃ではなく、室温で測定されたときにだけ、擬塑性の挙動を示した。
【0066】
P(SA:RA)(2:8)の粘度を2つの異なる剪断速度(21sec−1および31sec−1)で測定した。P(SA:RA)(2:8)は、リシノール酸のそのより大きい含有量(80%)のために、P(SA:RA)(25:75)の粘度未満の粘度を示した。P(SA:RA)(2:8)はニュートン流体として作用し、その粘度は、この温度範囲では加えられた剪断速度によって影響されない。ポリマーの粘度がより低いために、粘度がより大きい剪断速度で測定された。室温では、加えられた両方の剪断速度(21sec−1および31sec−1)において、水性媒体にさらされる前のP(SA:RA)(2:8)の粘度は約900cPであり、一方、さらされた後では、粘度が、21sec−1では1800cPであり、31sec−1では1900cPであった。水性媒体にさらされた後でのP(SA:RA)(2:8)の粘度は、37℃で測定されたとき、ニュートン流体の挙動を示した。
【0067】
図3には、ポリ(リシノール酸)(PRA)ポリマーの粘度が3つの異なる剪断速度(12.5sec−1、21sec−1および31sec−1)で示される。PRAは、P(SA:RA)(2:8)に類似する粘度を有しているが、このポリマーは4℃でさえ液状であり、水性媒体と接触した後では変化せず、よりオイルのように作用する。PRAはニュートン流体として作用し、その粘度は、この温度範囲では加えられた剪断速度によって影響されない。
【0068】
剪断応力(F)と、剪断速度(dv/dr)との間での関係が数学的には下記のニュートン方程式で表される:
F=ηdv/dr
式中、比例定数ηは粘性率である。
【0069】
図4には、水性媒体にさらされた前後での下記のポリマーの、剪断速度と、剪断応力との間における関係が示される:P(SA:RA)(25:75)、P(SA:RA)(2:8)およびPRA。水性媒体においてゲル化したP(SA:RA)(25:75)と一致する曲線(図6a)の傾斜は、水相にさらされる前よりも23倍大きい。PRAに関しては、水性媒体にさらされたとき、ポリマー粘度における変化が認められなかった。
【0070】
配合物のインビトロ評価
同系交配された8週齢〜10週齢のメスのC3Hマウス(約20gの体重)(Harlan Laboratories、イスラエル)を特定病原体除去(SPF)条件下で飼育し、マウスには、放射線照射された無菌餌および酸性化水を、実験期間中を通して自由に摂取させた。異なる体積のP(SA:RA)ポリマー(0.05ml、0.1mlおよび0.15ml)を22Gのニードルにより背中に皮下注入した。注入後の8時間および24時間で、マウスを頸椎脱臼によって屠殺した。動物の皮膚を持ち上げ、ポリマーインプラントを露出させ、写真撮影した。Hebrew大学(Jerusalem)倫理委員会(NIH承認番号:OPRR−A01−5011)は動物研究についての申請を検討し、研究が、研究室動物の管理および使用に関する基準に適合し得ることを評決している(倫理委員会−研究番号:MD−80.04−3)。
【0071】
P(SA:RA)(3:7)の3つの異なる体積(0.05ml、0.1mlおよび0.15ml)が注入されたマウスを、前(12a)および後(図5bおよび図5c)において、8時間および24時間でそれぞれ屠殺した。両方の時点で、オイルがそのような皮下空間に注入されるときに生じるように、注入されたインプラントはその形状を維持していたし、また、注入部位に残留している。これらのインビボ実験では、ポリマーが組織と接触してゲルになったことが判明した。
【0072】
加えて、ラットにおけるp(SA:RA)(3:7)インプラントの全身的および局所的な影響が6週間の期間にわたって観察された。p(SA:RA)を溶融縮合によって合成し、重量平均分子量が11600であった。メスのSpraque−Dawley(SD)ラットをHarlan Lab.(Jerusalem、イスラエル)から得た。埋め込み時のラットの体重は210±15.0gであった。ラットを動物施設のSPFユニットに収容し、餌および水を自由に摂らせた。ラットを2つの群(n=4)の一方に無作為に割り当てた:生理的食塩水を同じ注入−埋め込み部位に受け、ポリマーの埋め込みを受けた群と同じ方法で麻酔されたラットからなるコントロール群(A群)、および、ポリマーマトリックスが埋め込まれたラットからなるB群。
【0073】
それぞれのラットをそのそれぞれのケージから取り出し、腹腔内経路により投与された等張5%クロラール水和物溶液(0.64ml/100g)を使用して麻酔した。それぞれのラットは、動物用バリカンを使用して両方の背側および大腿部領域で毛が剃られていた。その後、動物を、70%アルコールを使用して無菌的に調製した。ポリマーインプラントを、それぞれの動物の両側で皮下に、また、両側の大腿筋の筋肉内に22Gのニードルにより注入した。ラットをそのケージに戻す前に、ラットを手術室で目覚めさせた。
【0074】
埋め込み前5日および埋め込み当日に、血液サンプルを、ベースラインパラメーターをそれぞれのラットについて求めるために尾静脈から抜き取った。埋め込み後の3日、7日、21日および42日で、ラットを麻酔し、血液サンプルを心臓穿刺によって抜き取った。その後、サンプルをそれぞれのラットについて臨床化学および血液学的パラメーターのために分析した(AML、Herzliya Pituah、イスラエル)。ポリマーインプラントが与えられたラットを2つの群に分けた。
【0075】
第1の群は、ブランクポリマーの4回の注入を受けたSDラットからなった。2回の注入(それぞれが200μl)が、それぞれが向かい合った背側で皮下であった。2回の他の注入(それぞれが50μl)がそれぞれの脚の大腿筋の筋肉内に行われた。1つの埋め込みが生分解評価のために使用され、別の埋め込みが組織病理学評価のために使用された。ラットの器官を、全身毒性を評価するために無作為に選択した。
【0076】
第2の群は、10μlのポリマーブランクを頭蓋内に受けたWistarラットからなった。ポリマーを、その中心がコロナ構造から5.5mm後方で、矢状縫合構造から3.5mm側方である、左頭頂領域の上に作製された頭蓋における穴から注入した。注入を25μlのシリンジにより行い、ニードル挿入の深さは冠状表面から4mmであった。
【0077】
埋め込み後の3日、7日、21日および42日で、ラットを、上記で記載されたように麻酔し、体重測定し、それぞれのラットの体重を記録した。その後、ラットを心臓穿刺によって屠殺し、検死解剖した。様々な器官および埋め込み部位の全体的な観察を検死解剖時に行った。その後、これらの器官を取り出し、重量測定し、緩衝化ホルムアルデヒド(4%)(Biolab、Jerusalem、、イスラエル)において固定処理した。集められた組織には、心臓、脳、肝臓、脾臓、肺、胸腺および腎臓が含まれた。加えて、局所的なインプラント部位を取り出し、緩衝化ホルムアルデヒド(4%)において固定処理した。すべての組織を切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色し、顕微鏡により調べた。
【0078】
検死解剖のとき、ポリマーインプラントを取り出し、クロロホルムに溶解し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、有機溶媒をエバポレーションした。単離された残渣を重量測定し、無水物およびエステルの含有量についてIRによって、分子量測定のためにGPCによって、また、RA対SAの比率についてNMRによって調べた。分解されたポリマーマトリックスのアリコートを1NのKOH水溶液で加水分解し、濃HClで酸性化し、放出されたオイル残渣を酢酸エチルにより抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、溶媒をエバポレーションして乾固した。ポリマー加水分解の生成物を、HPLCを使用してリシノール酸およびセバシン酸の含有量について調べた。
【0079】
それぞれの組織の生体適合性を、下記のように優れた耐性から不耐性までの5段階によって採点した:
優れた耐性(炎症反応が全くないか、または、最小限である)
良好な耐性(最小限の有害な反応、最小限の炎症)
中程度の耐性(中程度の炎症)
良好でない耐性(有害な反応、炎症反応)
不耐性(重度の壊死および炎症反応)
【0080】
すべての動物が健康であり、コントロール動物と類似した体重を得た。有害な影響または腫大がインプラント部位に何ら認められず、一方、注入されたポリマーは、その部位を触ったとき、固く感じられた。この研究の動物から分離されたすべての器官は正常であり、違いがコントロール群およびポリマー群の間で何ら見出されなかった。注入/インプラント部位組織の組織病理学では、急性炎症および若干の壊死が、注入部位、および、ポリマーから数mm以内の組織に限定された有害反応を伴って3日目の時点で示された。7日目には、すべてのインプラント部位が最小限〜中程度の炎症を示したが、3日目の部位と比較して著しい改善を伴っていた。21日目および42日目では、優れた許容性が検出された。これらの組織病理学結果は、臨床的に使用されている生分解性のポリエステルおよびポリ無水物の適合性について以前に報告された結果と類似している。
脳適合性に関しては、3日目の時点を含めて、すべての時点でのすべての動物が、優れた生体適合性を示した。類似した結果がパクリタキセル負荷ポリマーから得られた。
【0081】
インプラント部位から回収されたポリマーの量を、サンプルを乾燥した後での重量測定によって求めた。ポリマー含有量における緩やかな減少が見出され、ほぼ全量が42日目の時点までになくなった。
【0082】
結論
本研究の結果から、本実験において記載されたポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)が、水媒体と相互作用したときにゲル化し、従って、ポリマーインプラントのin situ形成における使用、あるいは、組織の接着を防止するための生分解性のシーラントまたはバリアとしての使用を有することが立証される。これらのポリマーは、有機ゲルをin situで形成する溶媒を伴わない純物質である。有機ゲルは水不溶性の両親媒性脂質から構成され、そのようなゲルは水中で膨潤し、様々なタイプのリオトロピック液晶を形成する。形成される液晶相の性質は、脂質の構造的性質、温度、および、系における水の量に依存する。薬物送達について今日までに調べられた両親媒性脂質は主に、室温でワックスである脂肪酸のグリセロールエステル(例えば、グリセロールのモノオレアート、モノパルミトステアラートおよびモノリノレアートなど)である。これらの化合物は、水性媒体に注入されたとき、立方液晶相を形成する。この液晶構造はゲル様であり、非常に粘性であった。P(SA:RA)コポリマーは、水性媒体にさらされたときに粘度および融点の変化を示す水不溶性のコポリマーである。レオロジー学的変化が、三次元網状組織の形成によって引き起こされ、SEMを使用して得られた画像により、緩衝液にさらされたときに現れた可逆的な特異な物理的構造が示された。この三次元構造は、カルボキシル基と、周囲の水分子との間での水素結合の形成によって説明されるかもしれない。類似する機構が、有機ゲルにおける水素結合によるレシチン架橋について、液体の官能基がどこで溶媒に対する親和性を示すか、また、液体の官能基が溶媒にどのように結合したかについて示唆された(Shchipunov YA、Shumilina EV、有機ゲルにおける水素結合によるレシチン架橋、Mater.Sci.Eng.C−Biomimetic Mater.Sens.Syst.、1995:3(1):43〜50)。
【0083】
実施例4.マウス膀胱腫瘍(MBT)におけるポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)ポリマーからのパクリタキセルのインビトロおよびインビボでの放出
ポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)およびパクリタキセルに基づく注入可能なポリマー配合物の、異所性腫瘍モデルに対する有効性を調べた。
【0084】
方法および材料
ポリ(セバシン酸−co−リシノール酸エステル無水物)(2:8)を、上記で議論されたように合成した。パクリタキセル(GMP規格)(BioxelPharma、QC、カナダ)、無水酢酸(Merck、Darmstadt、ドイツ)およびLutrol F86(Sigma、イスラエル)を使用した。すべての溶媒が、BioLAB(Jerusalem、イスラエル)またはFrutarom(Haifa、イスラエル)から得られた分析規格であり、これらをさらに精製することなく使用した。MBT(マウス膀胱腫瘍)細胞は、Hadassah Ein−Karem Hospital(Jerusalem、イスラエル)のOfer Gofrit博士からの譲渡物であった。細胞培養培地およびウシ胎児血清(FCS)をBeit−Haemek(イスラエル)から得た。
【0085】
ポリ(エステル−無水物)の分子量を、Waters2410屈折率(RI)検出器、20αLのループ(Waters Ma)を有するRheodyne(Coatati、CA)注入バルブを伴うWaters1515アイソクラチックHPLCポンプからなるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)システムで推定した。サンプルを1mL/分の流速で直線Ultrastyrogelカラム(Waters;500Åの細孔サイズ)に通してクロロホルムにより溶出した。分子量を、Breezeコンピュータープログラムを使用して、分子量範囲が500〜10000であるポリスチレン標準物(Polyscience、Warrington、PA)に対して求めた。緩衝溶液におけるパクリタキセル濃度を、C18逆相カラム(LichroCartR250−4、LichrospherR100、5μm)を使用して、HP1100ポンプ、HP1050UV検出器およびHP ChemStationデータ分析プログラムから構成される高速液体クロマトグラフィー(HPLC[Hewlett Packard、Waldbronn、ドイツ])システムによって求めた。1ml/分の流速での65%アセトニトリル:35%水の混合物を溶出液として使用し、UV検出を230nmで行った。
【0086】
ポリマーマトリックスにおけるパクリタキセル含有量を、周囲温度(25+10℃)で、Purospher(登録商標)STAR Siガードカラム(4x4mm、5μmの粒子サイズ)(Merck、Darmstadt、ドイツ)とともに使用されたPurospher(登録商標)STAR Si分析HPLCカラム(250x4mm、5μmの粒子サイズ)から構成される順相HPLCシステムによって求めた。移動相は種々の比率(1%〜2.5%、v/v)でのジクロロメタン(DCM)およびメタノール(MeOH)からなった。アイソクラチックモードの溶出を1ml/分の流速とともに利用した。UV検出を2つの波長(240nmおよび254nm)で行った(Vaisman他、2005)。
【0087】
配合物の調製およびインビトロでの薬物放出
パクリタキセル(5%および10%、w/w)が負荷されたポリマーの配合物を、ポリマーを室温で薬物と直接に混合することによって調製した。組成物を、滑らかなペーストが形成されるまで混合した。すべての配合物を、加熱することなく室温でシリンジに充填した。得られた配合物は室温で注射可能な半固体のペーストであった。インビトロ薬物放出研究を、一定の振とう(100RPM)とともに37℃で、10mgのペースト状配合物サンプルを50mlのリン酸塩緩衝溶液(0.1M、pH7.4)に注入することによって行った。ペーストは、緩衝液に添加された直後に軟らかい固体に硬化した。放出媒体を新鮮な緩衝溶液により定期的に取り替え、溶液におけるパクリタキセル濃度をHPLCによって求めた。すべての実験を三連で行った。
【0088】
インビトロでの加水分解による分解
インビトロでの加水分解を、一定の振とう(100RPM)とともに37℃で、25mgのブランクポリマーP(SA:RA)(2:8)、または、パクリタキセル(5%および10%、w/w)を含有する配合物をリン酸塩緩衝溶液(50ml、0.1M、pH7.4)に注入することによって行った。媒体を新鮮な緩衝溶液により定期的に取り替えた。それぞれの時点で、ポリマーサンプルを緩衝液から取り出し、湿重量を測定し、凍結乾燥後に乾燥重量を測定した。ポリマーの加水分解を、(1)分子量低下および(2)残存するポリマー配合物におけるパクリタキセル含有量によってモニターした。それぞれの時点で、配合物を、NP HPLCによって、分解されたサンプルにおけるパクリタキセル含有量について調べた。
【0089】
配合物のインビボでの分解
同系交配された8週齢〜10週齢のメスのC3Hマウス(約20gの体重)(Harlan Laboratories、イスラエル)を特定病原体除去(SPF)条件下で飼育し、マウスには、放射線照射された無菌餌および酸性化水を、実験期間中を通して自由に摂取させた。ブランクポリマー、および、パクリタキセル(5%および10%、w/w)を含有するペースト状配合物を、各群において4匹のC3Hマウスからなる12の群に23Gのニードルにより背中に皮下注入した。動物を局所的および全身的な毒性の徴候について、また、体重減少について観察した。1日後、7日後、21日後および70日後、マウスを頸椎脱臼によって屠殺した。ポリマーインプラントを取り出し、凍結乾燥の前後で重量測定し、残存する配合物におけるパクリタキセル含有量について調べた。Hebrew大学(Jerusalem)倫理委員会(NIH承認番号:OPRR−A01−5011)はこの研究を検討し、研究が、研究室動物の管理および使用に関する基準に適合し得ることを評決した(倫理委員会−研究番号:MD−80.04−3)。
【0090】
インビボでの抗腫瘍活性
MBT細胞の接種
同系交配された8週齢〜10週齢のメスのC3Hマウス(約20gの体重)(Harlan Laboratories、イスラエル)を特定病原体除去(SPF)条件下で飼育し、マウスには、放射線照射された餌および酸性化水を、実験期間中を通して自由に摂取させた。マウスには、0.1mlのRPMI培地に懸濁された110個のMBT細胞を後脇腹に27ゲージのニードルにより皮下注入した。腫瘍を、カリパスを使用して1日おきに測定し、その体積を、文献に記載される下記の式を使用して計算した:
長さx幅x高さx0.523
【0091】
治療プロトコル
MBTモデルにおいて、治療を、腫瘍が触診可能になり、0.5cmに達した接種後8日目に開始した。マウスを3つの治療群の1つに無作為に割り当てた(それぞれ群においてn=10)。2つのコントロール群(それぞれ群においてn=10)には、0.1mlのブランクポリマーの腫瘍内注入が与えられたか、または、治療が全く与えられなかった。第1の治療群には、5%のパクリタキセルを含有する配合物の0.1ml(250mg/kgと等価)が腫瘍内に与えられ、第2の治療群には、この配合物の0.15ml(375mg/kgと等価)が与えられ、第3の治療群には、10%のパクリタキセルを含有する配合物の0.15ml(750mg/kgと等価)が与えられた。マウスには、実験期間中に1回だけ注入された。動物を、腫瘍が潰瘍化したとき、または、腫瘍が許容され得ない苦痛を引き起こしたときに屠殺した。
【0092】
結果および考察
インビトロでのパクリタキセル放出
Mw=4000およびMn=3500であるポリマーキャリア−ランダムポリ(SA:RA)(2:8)を、上記で議論されたような溶融縮合によって精製RA(98%純粋)およびSA(99%純粋)から調製した。ポリマーの構造を下記に示す。

【0093】
パクリタキセルを、GPCまたは1H−NMRによって確認されるように、ポリマーの分子量に影響を及ぼすことなく、または、ポリマーと化学的相互作用することなく、ポリマーに配合した(5%および10%、w/w)。図5には、P(SA:RA)(2:8)からの5%パクリタキセルおよび10%パクリタキセルの放出プロフィルが示される。5%のパクリタキセルを含有する配合物は、20日間にわたって、取り込まれた薬物の20±1.4%を放出し、一方、10%を含有する配合物は8±0.8%を放出した。放出プロフィルを60日間モニターした。この期間中に、5%のパクリタキセルを含有する配合物は、取り込まれた薬物の40±0.5%を放出し、一方、10%を含有する配合物はその含有量の16±0.3%を放出した。シンク(sink)条件を放出研究期間中保ち、放出媒体におけるパクリタキセル濃度は緩衝液におけるその最大溶解度の10%以下であった(緩衝液における溶解度はおよそ5μg/mlである)。パクリタキセルの疎水的性質のために、ポリマーからのその放出速度は、ポリマーに負荷された薬物の量の関数である:パクリタキセルの負荷が大きくなるほど、その放出速度は遅くなる。
【0094】
インビトロでの加水分解による分解
本発明者らは、分子量およびサンプル重量における低下をモニターすることによってポリマーの加水分解を調べた。結果が図6に示される。パクリタキセルを含まないポリマーが最も速い分解速度を有していた。最初の1週間で、ブランクポリマーはその初期重量の33±2%を失い、その後は徐々に分解し、40日後では、その初期重量の90.7±6.8%を失っていた。パクリタキセルが負荷されたポリマーの分解速度はそれよりも遅かった。5%のパクリタキセルを含有する配合物は最初の1週間の期間中に18±5%が分解し、40日後では78±4%を失い、80日後では、配合物のわずかに6%だけが残っていた。10%のパクリタキセルを含有する配合物は最初の1週間の期間中に13±5%が分解し、40日後では65±8%を失い、80日後では、配合物の19%が残っていた。ブランクポリマーおよびパクリタキセル含有ポリマーの分子量(Mw)低下は類似していた。サンプルが緩衝液に浸けられた後、そのMwは最初の3日の期間中に3900Daから1200Daに低下した。次の25日の期間中に、ブランクポリマーの分子量は670Daに低下し、一方、パクリタキセルを伴う配合物はそのMwを1070Daで保った。これは主にパクリタキセルの寄与である。パクリタキセルを含有するポリマーのより遅い分解速度は、パクリタキセルがポリマーを保護し、水が浸透し、薬物およびポリマー分解生成物を溶解することを許さないという本発明者らの以前の発見を裏付けている。他方で、配合物のMwが、ほとんどブランクポリマーのMwのように低下する。このことは、水が依然としてポリマーマトリックスの内側に浸透し、ポリマーの加水分解を引き起こし得ることを意味する。
【0095】
パクリタキセルを含有する配合物の重量減少はパクリタキセル放出速度よりも速い。5%のパクリタキセルを含有する配合物は、40日後、その初期重量の78%を失っており(図6a)、一方、取り込まれた薬物の35%のみを放出していた(図6b)。同じ不釣り合いが10%の配合物について見出された:20日後、10%の配合物はその初期重量の27%を失っており(図6a)、一方、取り込まれた薬物の8%のみが放出された(図6b)。これらの結果は、分解途中の配合物におけるパクリタキセルの蓄積と相関する(図6b)。分解媒体中で7日後、配合物におけるパクリタキセル含有量は15±3.5%上昇し、15日後では52±13%上昇し、40日後では、パクリタキセル含有量はその初期値のほぼ2倍であった(98±15%上昇した)。以前に言及されたように、より大きいパクリタキセル含有量はより遅いパクリタキセル放出を引き起こすが、ポリマーマトリックスは依然として分解され得る。
【0096】
配合物のインビボでの分解
注入された配合物のインビボでの分解の程度を重量減少によって評価した(図7)。ブランクポリマーはインビボで1日後ではその初期重量の40±7%を失い、5%のパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)は31±5%を失い、10%のパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)は15±8%を失っていた。ブランクポリマーは注入後7日で完全に分解し、一方、パクリタキセルを伴う配合物はそのときまでにその初期重量の半分を失い(著しい違いが、5%または10%のパクリタキセルを含有する配合物の間で何ら見られなかった)、70日後には注入部位から完全になくなった。パクリタキセルを含有する配合物の注入部位における何らかの活発な炎症反応または組織過敏の証拠は何ら認められなかった。
【0097】
インビボでの腫瘍活性
腫瘍内に送達されたパクリタキセルの効力をマウス膀胱腫瘍(MBT)異所性モデルで調べた。治療を腫瘍細胞接種後8日目に開始した。治療されなかったマウス、および、ブランクポリマーが注入されたマウスは、腫瘍サイズが17cmを越えたので、接種後25日で屠殺された。しかしながら、腫瘍の大きさは、ブランク注入群の方が小さかった(コントロールの非治療群の17cmに対して11cm)(図8)。腫瘍内へのブランクポリマーの注入はその構造を傷つけ、その発達を遅らせたことが理論的に想定される。
【0098】
生存および腫瘍サイズについての最も良い結果が、5%のパクリタキセルを含有する配合物の0.15mlにより治療された群(100%の生存、すべてのマウスが腫瘍細胞接種後30日で生存していた)、および、10%のパクリタキセルを含有する配合物の0.15mlにより治療された群(75%の生存)において見られた。60%および50%の生存がそれぞれ、5%および10%のパクリタキセルを含有する配合物の0.1mlにより治療された群においてであった。
【0099】
マウスにおける腫瘍成長の経過が図8に示される。すべての治療群(5%のパクリタキセルを含有する配合物の0.1ml、0.15ml、および、10%のパクリタキセルを含有する配合物の0.15ml)において、腫瘍サイズは、ブランクポリマーにより治療された群における腫瘍サイズより4倍小さく、また、治療を伴わない群の場合よりも5倍小さかった。この違いは統計学的に有意である(p<0.001、t−スチューデント検定)。このことは、治療されなかったマウス、および、腫瘍接種後20日で治療されたマウスを目視検査することによって確認された。
【0100】
本研究で使用されたポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)(2:8)は、天然脂肪酸から組み立てられた疎水性ポリマーであり、これは、疎水性薬物および親水性薬物の両方を放出させるために使用することができる。本研究の目的は、マウスにおける異所性モデルにおいて筋肉内に注入されたパクリタキセル−ポリマー配合物の効果を評価することであった。パクリタキセルを伴うポリマーペースト配合物は室温で粘性の液体であり、これは23ゲージのニードルによって注入することができ、体液と接触してゲル化する。この配合物は、薬物を注入部位において局所的に放出する半固体のインプラントをin situで形成した。
【0101】
すべての配合物について、インビボでの分解および放出はインビトロでの分解および放出よりもはるかに速かった。これは、インビボでは、脂肪分解産物が注入部位から効率的に除かれ、一方、インビトロ条件下では、脂肪分解産物が残留し、分解プロセスおよび薬物放出を阻止するからである。
【0102】
実施例5.メラノーマにおけるポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)ポリマーからのパクリタキセルのインビトロおよびインビボでの放出
腫瘍内に注入された配合物からのパクリタキセルの局所的送達を、C57BL/6マウスにおけるメラノーマ異所性モデルを使用して調べた。腫瘍の進行、生存時間および体重における変化を、局所的なパクリタキセル治療の有効性を明らかにするために77日の期間にわたって観察した。腫瘍保有動物に、5%、10%、15%および20%のパクリタキセルを含有する配合物の異なる体積を腫瘍内に注入した。
【0103】
制御放出配合物を、20:80の比率での生分解性ポリマーのポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)(p(SA:RA))を用いて調製した。ポリマーP(SA:RA)(20:80)を、5%、10%、15%および20%(w/w)の負荷でパクリタキセル(Bioxel Pharma、Sainte−Foy、カナダ)と混合した。混合物を粉砕によって室温で調製し、その後、1mLのルーアーロックシリンジに引き入れ、23Gのニードルでキャップし、使用まで−20℃で貯蔵した。コントロールポリマー(薬物非含有)もまた、1mLのルーアーロックシリンジに入れた。腫瘍内注入のためのパクリタキセル懸濁物を、100mgのパクリタキセルを200mgのPluronicF−86と(1:2の比率で)混合し、700μlの生理的食塩水を加えることによって調製した。
【0104】
メスのC57BL/6マウス(20g〜21g)をCharles River Canada(St−Constant、Qc)から得た。B16F1マウス細胞(ロット番号:1511548p32)(CRL−6223)は、Michel Page博士からの譲渡物であった。この細胞は最初は、American Type Culture Collectionから得られた。研究プロトコル#2004−070が、University Laval(Pavillon Agathe Lacerte、local 1040、Sainte−Foy、(Quebec)カナダ、G1K 7P4)にあるSecretariat local de protection des animauxによって受理された。要請が、カナダ動物管理協会(CCAC)によって提供される指針に基づいて個々に審査される。
【0105】
B16F1細胞の接種
動物がその環境に順応すると、腫瘍を移植する前に、マウスを、10匹のマウスからなる8つの群に分けた(コントロール群#8では11匹)。この場合、マウスの群間の平均体重はできる限り等しくした。マウスには、100μLのDMEMに懸濁された200000個のB16F1腫瘍細胞を肩甲骨のレベルで皮下に注入した。マウスを1日に2回(午前および夕方)に観察した。マウスの体重を毎日測定し、腫瘍を、腫瘍が急速に成長し続けてからは毎日測定した。メラノーマ腫瘍が検出可能になったとき、その測定を開始した。腫瘍体積を標準的な式に基づいて推定した:腫瘍体積(mm)=(wxl)/2、式中、w=腫瘍の幅(mm)およびl=腫瘍の長さ(mm)。実験を続け、腫瘍重量が体重の10%に達したとき、または、倫理プロトコルに記載されるように、苦痛が許容され得なくなったとき、マウスを屠殺した。安楽死の基準を満たすマウスを、COを使用して屠殺した。安楽死の後、肺を取り出し、肺転移の数を目視より求めた。簡単な検死解剖を、転移物の存在を求めるために行った。
【0106】
治療プロトコル
腫瘍移植後2日で、マウスはその治療を受けた。2つの陰性コントロール群(それぞれの群においてn=10)には、パクリタキセルを伴わないポリマーP(SA:RA)(20:80)の0.1mlが腫瘍内に注入され(群#1)、群#8は治療を何ら受けなかった。治療群(2〜5)には、5%、10%、15%および20%のパクリタキセルが負荷されたポリマーP(SA:RA)(20:80)が腫瘍内に注入された(5%および10%の負荷については0.2ml、15%および20%の負荷については0.1ml)。治療群6には、10%のパクリタキセルが負荷されたパクリタキセル懸濁物が腫瘍内に注入された(0.1ml)。マウスには、実験期間中、1回だけ注入された。治療群7は、1日目、4日目、7日目および10日目に腹腔内注入されるパクリタキセル/Chremophor溶液の従来の全身的治療により治療された。腫瘍が潰瘍化したとき、または、腫瘍が、許容されない苦痛を引き起こしたとき、または、腫瘍サイズが動物体重の10%に達したとき、動物を屠殺した。
【0107】
統計学的分析
すべての統計学的分析を、S−PLUSを使用して行った。生存時間(日数)をそれぞれのマウスについて記録した。治療群によるノンパラメトリック生存曲線を、右側打ち切り事例(研究終了時を越えて生存する動物について)を考慮に入れて、Kaplan−Meier法を使用して得た。パクリタキセルゲルの治療を受けている動物についての生存時間における統計学的有意差が存在するかどうかを検定するために、生存曲線を、ログランク検定を使用して比較した。生存の関連した尺度は2つの治療の間でのハザード比である。ハザードにより、小さい時間単位の期間中における死亡率、または、その次の続く時間間隔の期間中における瀕死状態の発生率の尺度が提供される。プラセボに対する治療の間でのハザード比を推定するために、セミパラメトリックCox比例ハザード回帰モデルをデータに対して近似した。ハザード比に対するパクリタキセル用量濃度の影響を定量化するために、また、5つのゲル治療におけるパクリタキセルの増大する濃度レベルを考慮に入れるために、Cox比例ハザードモデルを5つのゲル治療について近似した。具体的には、本発明者らは、ハザード比に対する、連続変数としての用量の影響をモデル化したいと思っている。そのうえ、用量と、ハザード比との間での関係における何らかの曲線関係を説明するために、用量についての二乗項もまた、モデルに含められた。より精密には、近似されたモデルは、
Log(ハザード比)=a用量+b用量
であった。
二次項がモデルにおいて統計学的に有意であると考えられるとしても、最小のハザード比をもたらす0%〜20%の間での最適な用量濃度を、最小値が存在するならば、曲線の最小値を見つけることによって決定することができる。
α=5%の全般的な有意水準がすべての統計学的検定について仮定された。
それぞれの統計学的検定のために、全体的な治療影響が見出されたときには常に、多重比較法を使用して、治療のどの対が統計学的に異なっているかを認定した。多重検定を説明するために、多重比較補正を、全般的なα−レベルを5%で維持するためにTukey法を使用して適用した。治療群による検出可能な腫瘍体積までの時間についてのノンパラメトリック生存曲線を、右側打ち切り事例(0の一貫した腫瘍体積を有する動物)を考慮に入れて、Kaplan−Meier法を使用して得た。
【0108】
結果および考察
前述されたように、治療日におけるそれぞれの群の平均体重が20グラムから変動した。群間の平均体重の分布は、治療後の最初の10日の期間中は非常に狭かった。実験の最初の10日の後、体重の増大はそれぞれの群について比較的類似しており、また、残存する腫瘍の重量の増大について「平衡化」した著しい腫瘍重量を有するマウスを安楽死させた以降は、治療のタイプとの相関を何ら示さなかった。
【0109】
0.8993のp値は、受けた治療が0.05のα−レベルで相対的な体重について統計学的に有意でないことを示す。このことから、相対的な体重は受けた治療によって影響されないという示された記述統計学からなされた観察結果を裏付けるための形式的証拠がもたらされる。
【0110】
時間の影響は単独で、0.0001未満のp値により、体重に対する統計学的に有意な影響を有していた。このことは、本発明者らが体重における経時的な増大を認めるグラフと一致している。
【0111】
しかしながら、より重要なことは、体重における経時的な変化が、受けた治療に依存するかどうかを評価することである。すなわち、相互作用(治療日数)が有意であるかどうか。ANCOVA表から、本発明者らは、そのような相互作用が、0.4151のp値により、統計学的に有意でないことが見出されなかったことを認めている。このことは、相対的な体重に対する時間の影響が治療群によって異ならないことを暗示している。
【0112】
動物の生存率
それぞれの群についての生存率が図9に示される。生存は、何らかの形態の治療を受けかなかったコントロール群であった群#8において、また同様に、パクリタキセルを伴わないポリマーP(SA:RA)(20:80)だけを受けた群#1において最低であった。両方の群については、動物の死亡が13日目に始まり、マウスはすべてが20日目に死亡し、メジアン生存時間(MST)が16日であった。パクリタキセルをその治療において受けているすべてのマウスは、コントロールよりも大きいMSTを示した。このことは治療の非急性毒性を例示している。
【0113】
ポリマーP(SA:RA)(20:80)により治療された群は、MSTが、0%、5%、10%、15%および20%のパクリタキセルの濃度についてそれぞれ、16、22、35、18および20.5であった。最後に、パクリタキセル/PluronicF68の懸濁物により治療されたマウス、および、IP投与用の(生理的食塩水における)市販のパクリタキセルにより治療されたマウスは、MSTがそれぞれ、18日および19日であった。興味深いことに、群#6(パクリタキセル/PluronicF68の懸濁物)は「二峰性」の生存曲線を示した。実際、この群の6匹の最初のマウスが直ぐに死亡し、一方で、残る4匹は著しく増大した生存を有した。表4には、すべての群についての治療および対応するMSTがまとめられる。

【0114】
注入パクリタキセルの量と、生存との間における相関を明瞭に明らかにすることができなかった。しかしながら、生存に対する、ポリマーP(SA:RA)(2:8)において負荷および送達されたパクリタキセルの効力は顕著である。実際、非治療の群では、マウスは一匹も生存せず(最大生存時間が23日であった)、一方、治療された群では、77日後、非常に健康なマウスが5つの群に存在する(群#3=3匹のマウス;群#4=1匹のマウス;群#5=1匹のマウス)。
【0115】
ログランク検定を、生存時間に対する治療の全体的な効果が存在したかどうかを求めるためにすべての治療群にわたって行った。統計学的検定では、32のχ二乗値および0.00004のp値により、生存時間に対する治療の非常に有意な効果が明らかにされた。
【0116】
治療のどの対が統計学的に異なっていたかを明らかにするために、ログランク検定を治療のすべての対組合せに対して行った。Tukey(Honestly有意差)調節を、5%の全般的なα−レベルが維持されることを保証するように多重比較のために適用した。この方法のもとでは、それぞれの比較のための補正されたα−レベルは0.002、すなわち、0.2%であった。
【0117】
表3には、ログランク検定のp値が報告される。星印が付けられた太字での値(この場合、p値は0.002未満である)は、統計学的に異なる生存分布を有することが見出された治療対を示す。4つのポリマー負荷パクリタキセル治療のうち、5%および10%の濃度のみが、プラセボと統計学的に異なる生存曲線を有すると考えられた。そのうえ、10%および20%の用量濃度は0%の濃度(プラセボコントロール群と最も類似する治療群)とは著しく異なる。5%から20%までの活性なパクリタキセルゲルの治療では、生存における違いは何ら検出されなかった。まとめると、統計学的有意差が、活性な治療(10%、20%のゲル治療)と、非活性な治療(0%のゲル治療およびプラセボ)との間においてだけ見出された。
【0118】
腫瘍成長
治療後におけるそれぞれの群についての腫瘍成長速度が図10に示される。最大の腫瘍サイズが、パクリタキセルをその治療様式において受けなかったコントロール群について報告される。群#8(治療なし)では、腫瘍サイズが20日目に3.6gであり、群#1(パクリタキセルを伴わないP(SA:RA)(20:80))では、腫瘍サイズが2.5gであった。パクリタキセルが負荷されたポリマーにより治療されたすべての群では、腫瘍サイズがブランクポリマー群または非治療群における腫瘍サイズよりもはるかに小さく、1.3g〜0.3gの範囲であった(図11)。
このデータから、本発明者らは下記のことを認めることができる:
・活性な治療は、プラセボ治療または0%のパクリタキセル治療よりも長い不顕性期間(すなわち、腫瘍サイズが増大し始める前の時間)を示した;
・5%、10%、15%および20%でのパクリタキセル−ポリマー治療は、腫瘍体積において、それ以外の治療よりも遅い増大速度を有するようである;
・腫瘍成長が検出できないマウスが、5%、10%、15%および20%でのパクリタキセルポリマー治療、ならびに、パクリタキセル/PluronicF68治療について認められる。
腫瘍体積が検出可能になる前における時間(日数)に関する記述統計学では、下記のことが示される:
・腫瘍体積が引き続き検出できないマウスの大部分が10%のパクリタキセルゲル治療群において生じていた;
・最大のメジアン時間(すなわち、26.5日)が10%用量でもまた生じていた;
・変動係数(CV)は、プラセボ群および10%用量群の方が活性な治療の場合よりも低い;
・このことは、動物が、活性な治療の群においては異なる反応を示す傾向があり、これに対して、コントロール群における挙動がより一貫しているという事実によって説明することができる。
【0119】
生存曲線と一致して、10%のパクリタキセルゲル治療は、最大の生存時間を提供することにおいて、それ以外の治療よりも優れているようである。再度ではあるが、プラセボコントロールおよび0%のパクリタキセルゲル治療は、長期にわたるゼロの腫瘍体積の可能性における急速な低下を暗示する最も急勾配の生存曲線に対応する。
治療を比較するために、Cox比例ハザードモデルを、ハザードに対する治療の影響を検定するために近似した。推定されたハザード比が、プラセボコントロールに関して下記の結果において示される。結果から、本発明者らは、それぞれの治療と、プラセボとの間におけるハザード比が統計学的に有意であること(0.05未満のp値)を見出す。他の結果と一致しているように、ハザードにおける最大の低下を示す治療は10%のパクリタキセルゲル治療であり、ハザードがプラセボのハザードの0.0338倍である。そのうえ、5%および15%のパクリタキセルゲル治療は、検出可能な腫瘍体積を生じさせるというハザードにおいて類似する低下をもたらし、ハザード比がプラセボのハザード比の0.0933倍および0.0907倍である。
【0120】
治療後における体重の減少がどの群においても示されなかった。このことは、治療の毒性が低いことを示す重要なものであり、また、20%パクリタキセル配合物の少なくとも100マイクロリットル(群5、20mgのパクリタキセル)が注入できることを示す。動物は、治療後10日における体重の絶え間ない増大によって示されるように、治療時に健康であった。体重は治療後のすべての群で絶えず増大し続けた。しかしながら、パクリタキセルを含有するゲルにより治療されたマウスの皮膚の皮膚潰瘍化により、著しい局所的毒性が明瞭に明らかにされた。その毒性は、血管によって灌注されなくなっている周りの組織に対してポリマーが及ぼす圧力に関連するかもしれず、従って、薬物を局所的に毒性レベルで増大させている。
【0121】
パクリタキセルを含有するゲルにより遭遇した潰瘍化の問題にもかかわらず、この医薬配合物が、マウスの生存に対する著しい有益な効果を有していたことは明らかである。例えば、ポリマーP(SA:RA)(20:80)における10%パクリタキセルによって治療された群#3のマウスの30%が77日後も依然として生存しており、一方、コントロール群では、一匹も、23日を超えて生存しなかった。興味深いことに、全身毒性は何ら認められなかった。生存と薬物濃度との相関は、予想されたほど良好ではないが、ゲル配合物によって治療されたマウスで認められた局所的毒性は説明されなければならないかもしれない。治療された群において生存と投薬量との間に相関がないことの別の理由が、研究で使用される選択された腫瘍モデルが、配合物による遅い薬物放出と比較した場合、比較的速く成長する腫瘍であるという事実に関連づけられ得る。より遅く成長する腫瘍モデルが、臨床的治療をより良く表すものであるかもしれない。
【0122】
ポリマーの外観
興味深いことに、腫瘍の近くにあるポリマーは、注入されたポリマーに比べて、非常に類似した外観を有したことが最初の死体解剖のときに認められた。しかしながら、数日後には、ポリマーは硬化するようであり、塊が収縮し続けた。加えて、パクリタキセルが負荷されたポリマーを取り囲む組織は形質転換し続け、破壊された。
【0123】
実施例6.前立腺腺ガンにおけるポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)ポリマーからのパクリタキセルのインビトロおよびインビボでの放出
本研究の目的は、ラットにおける同所性前立腺腫瘍に対する、パクリタキセルを伴う注入可能なポリマーペースト配合物の効力を評価することであった。パクリタキセルが負荷されたポリマーを、腫瘍細胞接種後3日で、ラットの腫瘍保有前立腺に室温で注入した。Dunning R−3327ラット前立腺腺ガンは、腫瘍の進行を研究するために使用される、そのヒト対応物の対応する実験的腫瘍モデルである。本発明者らの研究において、本発明者らは、最も攻撃的な局所的転移能を有するMatLyLu亜系統を使用した。
【0124】
ポリ(セバシン酸−co−リシノール酸エステル無水物)(2:8)を、以前に記載されたように合成した。パクリタキセル(GMP規格)(BioxelPharma、QC、カナダ)、無水酢酸(Merck、Darmstadt、ドイツ)、Lutrol F68(Sigma、イスラエル)およびChremophor EL 50%(Sigma、イスラエル)を使用した。すべての溶媒が、BioLAB(Jerusalem、イスラエル)またはFrutarom(Haifa、イスラエル)から得られた分析規格であり、これらをさらに精製することなく使用した。
【0125】
注入当日、腫瘍細胞(Dunning腫瘍、MatLyLu亜系統)をトリプシン/EDTAにより組織培養フラスコから取り出した。細胞のトリプシン処理(1分)の後、4mlのRPMI1640を加えた。腫瘍細胞を遠心分離し、PBSにおいて2回洗浄し、計数し、補充物を含まないRPMI1640培地に3つの最終濃度(1mlあたり1x10個、3x10個および5x10個の生腫瘍細胞)で再懸濁した。
【0126】
開始時の体重が220g〜240gであるオスのCopenhagenラット(n=12)(Harlan Laboratories、イスラエル)を特定病原体除去(SPF)条件下で飼育し、ラットには、放射線照射された無菌餌および酸性化水を、実験期間中を通して自由に摂取させた。同所性モデルを作製するために、Copenhagenラットを3つの群に分け、麻酔した(ケタミン/キシラジン、IP)。下部腹部の毛を剃り、横方向の切開を恥骨の上で行った。腹筋を分割し、腸を持ち上げ、前立腺の腹葉を膀胱より下側で露出させた。50μLに懸濁された異なる数のMatLyLu細胞を、下記のように、1mlのインスリンシリンジおよび26Gのニードルを使用して腹葉の中に注入した:
・群1:50μlのRPMI1640培地に懸濁された8x10個の細胞;
・群2:50μlのRPMI1640培地に懸濁された1.5x10個の細胞;
・群3:50μlのRPMI1640培地に懸濁された2.5x10個の細胞;
【0127】
腹筋を3/0ビクリル(vicryl)の縫合糸により閉じ、皮膚を3/0の絹糸により閉じた。(予備研究から得られたように)3日後、ラットを屠殺した。それらの前立腺、肝臓および肺の組織病理学評価を、腫瘍発達の存在および程度を求めるために行った。
【0128】
配合物調製
パクリタキセル(10%w/w)が負荷されたポリマーの配合物を、ポリマーを室温で薬物と直接に混合することによって調製した。組成物を、滑らかなペーストが形成されるまで混合した。すべての配合物を、加熱することなく室温でシリンジに充填した。得られたポリマー配合物は室温で注射可能なペーストであった。
【0129】
パクリタキセルの懸濁物を、パクリタキセルをPluronicF68と1:2の比率で混合することによって調製し、その後、混合物を生理的食塩水に分散して、7.5%(w/v)のパクリタキセル濃度を得た。PluronicF68は、パクリタキセルのような、水溶性が低い薬剤を懸濁するために使用される懸濁化剤である。それぞれのラットに250μlの懸濁物を腫瘍内に注入した。
【0130】
パクリタキセルの非経口溶液を調製するために、薬物をエタノール(50%)/Chremophor EL(50%)に溶解して、6mg/mlのパクリタキセル濃度を得た。その後、この溶液を生理的食塩水により希釈して、1.2mg/mlのパクリタキセルの溶液を得た。それぞれのラットに4mlの希釈された溶液をIP注入した。
【0131】
腫瘍の接種および治療
開始時の体重が220g〜240gであるオスのCopenhagenラット(n=26)(Harlan Laboratories、イスラエル)を特定病原体除去(SPF)条件下で飼育し、ラットには、放射線照射された無菌餌および酸性化水を、実験期間中を通して自由に摂取させた。同所性モデルを作製するために、Copenhagenラットを5つの群に分け、麻酔し(ケタミン/キシラジン、IP)、上記で示されたように手術した。腫瘍細胞(50μlに懸濁された8x103個のMatLyLu細胞)を、下記のように、インスリンシリンジおよび26Gのニードルを使用して腹葉の中に注入した。腹筋を3/0のビクリル縫合糸により閉じ、皮膚を3/0の絹糸により閉じた。動物の体重を2日毎にモニターした。治療を腫瘍細胞注入後3日目に開始した。薬物が負荷されたポリマー、および、パクリタキセル懸濁物を、前立腺の腹葉における成長中の腫瘍の中に注入した。非経口パクリタキセルにより治療される群におけるラットには3日毎にIP注入した。実験の予定表が表5に記載され、治療群が表6に記載される。


【0132】
動物を、全身毒性の徴候について、また、体重減少について観察した。Hebrew大学(Jerusalem)倫理委員会(NIH承認番号:OPRR−A01−5011)はこの研究を検討し、研究が、研究室動物の管理および使用に関する基準に適合し得ることを評決した(倫理委員会−研究番号:MD−80.04−3)。
【0133】
目視による腫瘍計算
動物から集められた後、腫瘍を切除し、腫瘍体積の目視による計算を、下記に示される式を使用して行った:
V=(長さx高さx幅)xπ/6。
【0134】
組織学的分析
すべての動物に由来する腫瘍を切除し、測定し、4%ホルムアルデヒド溶液において固定処理した。組織スライド片をパラフィン中に処理し、3μmの切片を組織学的評価のためにヘマトキシリン&エオシンにより染色した。検査パラメーターは、壊死の総面積、被膜形成、炎症細胞の浸潤、および、腫瘍内血管の含有量であった。
【0135】
統計学的分析
生存分布およびメジアン生存をKaplan−Meier法によって計算し、ログランク検定を使用して比較した。0.01未満のp値をすべての検定について有意であると見なした。
【0136】
結果および考察
手術手法および腫瘍細胞注入は十分に許容され、すべてのラットが両方の手術(腫瘍細胞接種、および、3日後に与えられた治療)の後で覚醒した。すべてのラットにおいて、同所性腫瘍が、組織学的検査によって確認されたように、腫瘍細胞の注入によって首尾良く移植された。Dunning R−3327ラット前立腺腺ガンは、成長速度、分化、ホルモン応答性および転移能において異なる数多くの亜系統によって誘導され得ることには留意しなければならない。本発明者らの研究において、本発明者らは、最も攻撃的な局所的転移能を有するMatLyLu亜系統を使用した。
【0137】
動物モデルの校正
ラットの3つの群に、増大する濃度の腫瘍細胞をその前立腺に注入した。MatLyLu亜系統の攻撃性のために、安定な、しかし、依然として治療可能な腫瘍を生じさせる細胞の最適な最少量を選択した。以前に報告されたように(18)、腫瘍をすべての前立腺内注入動物において形成させたMatLyLu細胞の最少量は5x10個の細胞であった。これらの結果に従って、本発明者らは、腫瘍が、注入された前立腺において実際に成長することが確信されるように、類似する濃度の細胞を使用した。他方で、ラットに、2x10個が前立腺内に注入されたとき(データは示されず)、得られた腫瘍は非常に大きく、治療できず、すべてのラットが細胞接種後2週間以内に死亡した。
【0138】
腫瘍細胞接種後3日でラットを屠殺した。前立腺、肺および肝臓を単離し、組織病理学的評価に送った。腫瘍細胞接種後3日で、前立腺における明白な腫瘍が認められた;しかしながら、転移は肉眼観察によってすべての群で見出されなかった。注入後3日でのラットの前立腺における前立腺ガンの組織病理学では、前立腺ガンの多数の病巣が示された。転移が、組織病理学的評価のとき、肝臓および肺において見出されなかった。腫瘍細胞の注入量のすべて(8x10個、1.5x10個および2.5x10個)で、腫瘍が3日後には首尾良く生じたので、8x10個の腫瘍細胞を注入し、動物を3日後に治療することを決めた。
【0139】
生存および体重減少
ガン細胞の前立腺内滴注では、腫瘍が非常に速く形成し、すべてのラットにおいて致命的であった。ラットの生存が表7に示される。

【0140】
ラットの最も短い生存が、パクリタキセルの非経口配合物により治療された群においてであった:治療された動物の50%が、2回目の用量の後、すなわち、腫瘍細胞接種後9日で死亡した。これらのラットもまた、実験期間中、体重が減少していた(図11)。このことは、それらの死亡および病的状態が薬物配合物の全身毒性によって引き起こされたことを暗示している。最大の生存が、10%(w/w)のパクリタキセルが負荷されたポリマーの200μlにより腫瘍内で治療された群においてであった。1匹のラットが腫瘍細胞接種後3週間で死亡しただけであり、一方、それ以外のすべてのラットが、研究終了まで、すなわち、腫瘍細胞接種後35日まで生存していた。非治療の群では、1匹のラットが腫瘍細胞接種後3週間で死亡し、それ以外のすべてのラットが3日後(腫瘍細胞接種後25日目)に死亡した。パクリタキセル/Pluronic懸濁物の腫瘍内注入は、腫瘍内注入後、パクリタキセルが注入部位で凝集したので、全身毒性を引き起こさなかった。他方で、この配合物はラットの寿命を延ばさなかった。すなわち、すべてのラットが腫瘍細胞接種後25日で死亡した。
【0141】
検死解剖時において、大きい腫瘍(直径が3cmを超える)を有する動物は、大きい血管への腫瘍の侵入、または、非常に血管新生化した原発腫瘍の破裂のいずれかによる顕著な内出血を示した。他方で、ポリマー/パクリタキセル治療群におけるラットは他の治療群よりも10日遅く死亡し、その間、比較的小さい腫瘍を有していた。本発明者らは、転移または内出血のいずれもが検死解剖時に見られなかったので、それらの死亡が尿管閉塞によって引き起こされたと考えている。体重減少曲線から、すべてのラットが最初の5日間でその体重を失ったことが明白である(図12)。この体重減少は、おそらくは、ラットが受けた手術および外傷が原因であった。5日目から開始したとき、パクリタキセルのIPにより非経口治療を除くすべての治療群に由来するラットは、その体重を増大させることが始まり、これらの群の間には統計学的な違いがなかった。全身的治療は、統計学的に有意な体重減少(231gmから203gmへの減少)、および、50%の「早すぎる」死亡例を引き起こしただけであった。
【0142】
リンパ節、肺および肝臓への転移
検死解剖時に、リンパ節転移が腫瘍保有動物において触診可能であり、また、視認された(表8)。

【0143】
そのようなラットは肉眼で見えるほど大きい骨盤および後腹膜のリンパ節転移を有し、節のサイズが0.6cmにまでなっていた。表8に示されるように、治療されなかった動物、および、パクリタキセル懸濁物が腫瘍に注入された動物はすべてが、転移を肺および肝臓に示した。パクリタキセルの非経口配合物により治療され、腫瘍細胞接種後9日で死亡したラットは(おそらくは、非常に早く死亡したために)転移を発生させなかったが、他の2匹のラットは転移を肺および肝臓に発生させた。転移が、ポリマー/パクリタキセル配合物の200μlにより腫瘍内で治療されたラットでは1つも見出されなかった。
【0144】
腫瘍体積
図12には、異なる治療群における腫瘍を有する前立腺の体積が示される。非治療の群では、1匹のラットが腫瘍細胞接種後21日で死亡し、11.83cmの前立腺体積を有し、他のラットが25日目で死亡し、14.8±1.08cmの前立腺体積を有していた。非経口パクリタキセルにより治療された群では、死亡は二峰性であった。すなわち、ラットの半数が9日後に死亡し、14.18cmの前立腺体積を有し、他のラットが25日後に死亡し、13.65±0.26cmの前立腺体積を有していた。より良好な結果が、腫瘍内に注入されたパクリタキセル懸濁物により治療された群においてであった。すなわち、すべてのラットが25日後に死亡し、6.6±0.7cmの前立腺体積を有していた。最も良い結果がポリマー/パクリタキセル治療について得られ、この場合、1匹のラットが21日後に死亡し、0.845cmの前立腺体積を有し、他のラットが最も長い期間を生存し、35日後に死亡し、0.862±0.16cmの前立腺体積を有していた。一方、200μlのポリマーが注入された健康な前立腺の体積は約0.4cmである。
ポリマー/パクリタキセル群から35日目で採取された前立腺、および、すべての他の群からは25日目で採取された前立腺の比較では、それらの群の間における目視による違いが明瞭に示された。
【0145】
組織病理学的評価
すべての上記パラメーターが評価されたが、群の間で違いを明らかにした唯一のパラメーターが腫瘍内壊死であった。すべての他の評価されたパラメーターは群の間で違いを何ら示さなかった。従って、このデータは示されていない。非治療の群では、総腫瘍内壊死の割合が低かった(10%〜20%)。パクリタキセル懸濁物により治療された群では、総腫瘍内壊死の割合は類似しており(10%〜15%)、1つのだけの腫瘍がより大きい壊死を示しただけであった(約50%)。パクリタキセル懸濁物の非経口配合物により治療された群では、腫瘍内壊死が全く見出されず、一方、総腫瘍内壊死の最も大きい割合が、10%のパクリタキセルが負荷されたポリマーにより治療された群において見出された(25%〜70%)。加えて、ポリマー/パクリタキセル群に由来する3匹のラットを腫瘍細胞接種後10日で屠殺し、それらの前立腺を組織病理学的評価に送った。間質壊死および腺内壊死の多数の領域、ならびに、急性の炎症が認められた。しかしながら、前立腺ガンの明らかな存在はなかった。
【0146】
転移が、すべての非治療ラット(群#1、4匹中4匹)、パクリタキセル懸濁物により腫瘍内で治療されたすべてのラット(群2、4匹中4匹)、非経口配合物により治療されたすべてのラットにおいて肝臓および肺に見出され、また、200μlのポリマー/パクリタキセル配合物により治療されたラットでは、転移が1つも見出されなかった。
【0147】
本発明者らの知見(すなわち、群の間での腫瘍内壊死の量における著しい違い)は、エストラムスチンおよびエトポシドにさらされた同じモデルにより文献に報告されることと一致していることは強調されなければならない。
【0148】
本発明者らは、抗新生物薬物(例えば、パクリタキセルなど)の部位特異的な送達のための生体適合性および生分解性の注入可能なポリマーゲルの効果的な使用を以前に記載している。本研究で使用されるポリマーゲル配合物は、小ゲージのニードル(23G)により注入することができる室温で粘性のペーストであり、生体内では1時間で固まる。このゲルは、薬物を注入部位において局所的に放出する制御放出インプラントを形成する。インビボ研究では、パクリタキセルが3週間〜4週間にわたって放出され、インプラントがこの期間の間に完全に分解されることが示された。
【0149】
DunningラットMatLyLu前立腺ガンはホルモン不応性の転移性ヒト前立腺ガンと多くの点で類似する。異所性部位で誘導された腫瘍は実験操作のために容易に利用することができるが、そのような腫瘍はその解剖学的起源と一致していない。その本来の環境にないガン細胞は、その起源器官における場合と極めて異なる挙動を有することが知られている。
【0150】
本研究において、本発明者らは、Dunningモデルにおけるパクリタキセル含有ポリマーの腫瘍内注入の効力を評価した。同所性モデルにより、ガンを、そのガンが実際の生涯で生じるようなそれ自身の環境において治療することができる。この動物モデルは、再発した前立腺ガンを有する患者のための可能性のある治療方法を反映するかもしれない。パクリタキセル/ポリマー配合物の治療効果は、インビトロおよびインビボで記録されたMatLyLu腫瘍細胞におけるアポトーシスの誘導から生じた。本発明者らは、Dunning前立腺ガンモデルの中で最も攻撃的で、非常に転移性の亜系統であるMatLyLu亜系統を使用した。このモデルを校正した後、本発明者らは、治療することができる均一に成長し続ける同所性腫瘍を生じさせるための腫瘍細胞の最適な量を見出した。本発明者らの結果では、200μlのポリマー/パクリタキセル配合物の1回の腫瘍内投与により、コントロール群または全身的治療との比較において著しい様式でCopenhagenラットのMatLyLu細胞Dunning前立腺ガンの腫瘍成長を低下させることができたことが示される。パクリタキセル懸濁物による腫瘍内治療もまた、腫瘍体積を幾分か低下させたが、ポリマー/パクリタキセル配合物ほど良好ではなく、動物の寿命を延ばさなかった。懸濁物の腫瘍内注入の後、水が除かれ、パクリタキセルの粉末のみが注入部位に残る。この粉末は(ラットの検死解剖時に見られたように)ケークを形成する。多くのパクリタキセルがこのケークから溶解するので、このケークは、ある程度の壊死を周囲において引き起こすために十分であるが、腫瘍進行および転移を防止するためには全く十分ではない。他方で、10%(w/w)のパクリタキセルを伴うポリマー配合物の同じ体積が腫瘍の中に注入されたとき、ポリマーは注入部位に数週間にわたって留まる。配合物が分解し、パクリタキセルを、極めて大きいインプラント表面から放出する。前立腺全体が配合物により満たされる一方で、腫瘍の進行および転移形成が停止させられる。従って、最も良い治療は、200μlのポリマー/パクリタキセル配合物の腫瘍内注入である。この治療はラットの寿命を10日延長し、また、腫瘍体積が他の治療よりも18倍小さく、腫瘍組織における壊死割合が著しく大きくなり、転移が全く見出されなかった。
【0151】
補助的な全身的治療を伴わない進行したヒト前立腺ガンにおいて、前立腺を除くための手術は、生存を延ばすためにほとんど役に立っていない。効果的な補助的治療が現在ないことにより、手術を新しい実験的治療様式により強化しなければならない必要性が強調される。抗ガン薬物を局所的に放出する注入可能な生分解性ペーストの使用により、この問題が解決されるかもしれない。
【0152】
実施例7:薬物放出に対する添加剤の影響
本研究の目的は、配合物からのパクリタキセルの放出に影響を及ぼすことなく、リシノール酸、リン脂質、PEG400およびPEG2000をポリマー−薬物配合物に取り込むことによって、ポリ(SA:RA)(3:7)−パクリタキセル配合物の粘度をさらに低下させ、また、その注入性を改善することであった。配合物を、下記の3つの工程で行われた、室温におけるすべての成分の直接の混合によって調製した:a)パクリタキセル(5%および10%w/w)を添加剤(PEGまたはリン脂質)と粉砕により混合した;b)リシノール酸(20%w/w)を混合物に加えた;c)混合物をp(SA:RA)(30:70)ポリマーペーストに粉砕により配合した。組成物を、滑らかなペーストが形成されるまで混合した。パクリタキセルを伴わない配合物を、工程2から出発して同じスキームによって調製した。下記の配合物を調製した:a)パクリタキセル(5%および10%、w/w)を含有するか、または、パクリタキセルを伴わないp(SA:RA)(3:7)+20%リシノール(RA);b)パクリタキセル(5%および10%、w/w)を含有するか、または、パクリタキセルを伴わないp(SA:RA)(3:7)+20%リシノール(RA)+5%リン脂質(PL);c)パクリタキセル(5%および10%、w/w)を含有するか、または、パクリタキセルを伴わないp(SA:RA)(3:7)+20%リシノール(RA)+5%ポリ(エチレングリコール)400(PEG400);d)パクリタキセル(5%および10%、w/w)を含有するか、または、パクリタキセルを伴わないp(SA:RA)(3:7)+20%リシノール(RA)+5%ポリ(エチレングリコール)2000(PEG2000);および、コントロールとして、パクリタキセル(5%および10%、w/w)を含有するか、または、薬物を伴わない、添加剤を含まないp(SA:RA)(3:7)。すべての配合物を調製し、さらに加熱することなく室温でシリンジに充填した。得られた配合物は、注入することができる室温で半固体のペーストであった。インビトロ薬物放出研究を、一定の振とう(100RPM)とともに37℃で、10mgのペースト状配合物サンプルを50mlのリン酸塩緩衝溶液(0.1M、pH7.4)に注入することによって行った。ペーストは、緩衝液に添加された直後に軟らかい固体に硬化する。放出媒体を新鮮な緩衝溶液により定期的に取り替え、溶液における薬物濃度をHPLCによって求めた。すべての実験を三連で行った。
【0153】
インビトロでの加水分解による分解
インビトロでの加水分解を、一定の振とう(100RPM)とともに37℃で、25mgのブランクポリマー、または、パクリタキセル(5%および10%、w/w)を含有する添加剤含有ペースト状配合物をリン酸塩緩衝溶液(50ml、0.1M、pH7.4)に注入することによって評価した。媒体を新鮮な緩衝溶液により定期的に取り替えた。それぞれの時点で、ポリマーサンプルを緩衝液から取り出し、湿重量を測定し、凍結乾燥後に乾燥重量を測定した。ポリマーの加水分解をサンプルの重量減少によってモニターした。
【0154】
結果
ポリマーP(SA:RA)(3:7)に添加される選択された添加剤は、リシノール酸、卵のリン脂質、PEG400およびPEG2000であった。これらの添加剤と均一に混合されたポリマー、および、パクリタキセル(5%および10%、w/w)が負荷された添加剤含有配合物は、加熱することなく22Gのニードルにより容易に注入することができた。
【0155】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を、20%w/wのリシノール酸を添加する前後におけるP(SA:RA)(3:7)の分子量を求めるために使用した。20%w/wのリシノール酸がポリマーに加えられた後、ポリマーの分子量は変化しないままであり、リシノール酸のピークが、その分子量(300g/モル)に対応する8分後に見られる。IR分光法では、添加剤および/またはパクリタキセルが加えられたとき、無水物のバンドに対応するピーク(1817cm−1)における変化が示されなかった。
【0156】
20%のリシノール酸をポリマーP(SA:RA)(3:7)に加えることにより、配合物はより軟らかくなり、5%および10%のパクリタキセルを含有する配合物を、さらに加熱することなく室温で22Gのニードルにより注入することが可能となった。パクリタキセルをポリマーに分散させて、均一な配合物を得た。
【0157】
実施例8:ペプチドおよびタンパク質の放出
数多くのペプチド治療剤およびタンパク質治療剤が承認されているか、または、臨床試験の進んだ段階にある。広範な研究がペプチドおよびタンパク質のための制御放出システムのためのポリマーについて行われている。本研究のほとんどがPLGAに集中している。残念なことに、PLGAの塊状分解は酸性のコアをもたらし、そのような酸性コアはpH感受性薬物(例えば、ペプチドおよびタンパク質など)に損傷をもたらすことがある。表面侵食性ポリマー(例えば、ポリ無水物など)は、粒子からの可溶性フラグメントの増大した拡散速度によって酸性増大の影響を低下させる。本明細書中に記載される液状ポリマーおよびペースト状ポリマーはペプチドおよびタンパク質の送達のために使用された。ペースト状態の薬物送達システムを使用することの利点は、何らかの有機溶媒、熱または剪断力を用いることなく、薬物粉末をポリマーのペーストに室温で単に混合することによる薬物取り込みにおける容易さである。
【0158】
下記のペプチドおよびタンパク質を本研究では使用した:ロイプロリド(1270Da)、オクトレオチド(1019Da)、ウシ血清アルブミン(BSA)(68000Da)、インスリン(5860Da)、インターロイキン(53000Da)およびインターフェロンα−2a(IFN−alpha)(19000Da)を使用した。これらのペプチドを商業的供給元から得た:ロイプロリドおよびオクトレオチド(Novetide Ltd.)、インスリン(Protein Delivery Inc.)、ウシ血清アルブミン(Intergren company)、インターフェロンα−2a(RoferonA(登録商標)、F.Hoffmann−La Roche Ltd、Basel、スイス)、インターロイキン(Proleukin(登録商標)、Chiron B.V.、Amsterdam、オランダ)。Folin−Ciocalteuフェノール試薬(Sigma−Aldrich)を本研究では使用した。
【0159】
緩衝溶液におけるLHRHおよびオクトレオチドの濃度を、C18逆相カラム(LichroCart(登録商標)250−4、Lichrospher(登録商標)100、5μm)を使用して、HP1100ポンプ、HP1050UV検出器およびHP ChemStationデータ分析プログラムから構成されるHPLCシステム(Hewlett Packard、Waldbronn、ドイツ)によって求めた。LHRHをアセトニトリル:TEAP緩衝液(pH3、0.01M)(3:7、v/v)によって溶出し、λ=278nmにおいて検出した。オクトレオチドをアセトニトリル:PBS(pH7.4、0.02M)によって溶出し、λ=218nmにおいて検出した。緩衝溶液におけるBSA、インスリン、INF−alphaおよびインターフェロンの濃度をLowryタンパク質アッセイによって求めた。
【0160】
ペプチドおよびタンパク質を室温において乳鉢で別々に微粉末に粉砕した。この薬物粉末を、均一なペーストが達成されるまで、p(SA:RA)(2:8)またはp(SA:RA)(3:7)と混合した。ポリマーからのペプチド放出を調べるために、10%(w/w)のロイプロリドおよびオクトレオチドが負荷されたp(SA:RA)(2:8)の20mgのサンプル、ならびに、同じ重量のブランクポリマーのサンプルを調製した。サンプルを回旋振とう(100RPM)とともに15mlのリン酸塩緩衝溶液(pH7.4、0.1M)において37℃でインキュベーションした。2mlのサンプルを採取し、HPLCによって分析した。緩衝溶液を、ペプチドの飽和および溶液の濁りを避けるために48時間毎に取り替えた。生理学的条件下でのポリマーの分解を重量減少およびGPC分析によって40日間にわたって追跡した。
【0161】
ポリマーからのタンパク質放出:10%(w/w)のBSAが負荷されたp(SA:RA)(2:8)の50mgのサンプル、および、5%(w/w)のインスリンが負荷されたp(SA:RA)(3:7)の50mgのサンプルを調製し、20mlの緩衝液においてインキュベーションし、また、5%(w/w)のインターフェロンが負荷されたp(SA:RA)(3:7)の20mgのサンプル、および、5%(w/w)のIFN−alphaが負荷されたp(SA:RA)(3:7)の20mgのサンプルを調製し、10mlの緩衝液においてインキュベーションした。0.2mlのサンプルをそれぞれ48時間で媒体から採取し、Lowryアッセイ法に従ってFolin−Ciocalteu試薬とインキュベーションし、UV分光光度計により分析した。緩衝溶液を、タンパク質の飽和および溶液の濁りを避けるために48時間毎に取り替えた。結果が図13に示される。
【0162】
本研究のために選ばれたポリマーは、平均分子量がそれぞれ12000および18000である、2:8(w/w)および3:7(w/w)の比率を有するp(SA:RA)であった。これらのポリマーは1732cm−1および1817cm−1における2つのIR無水物ピークを示した。1732cm−1におけるピークはまた、エステル結合に参照されるかもしれない。遊離酸のピークが1700cm−1(C=O)および3500cm−1(O−H)において存在しなかった。NMR分光法により、すべてのRAがPSA鎖内に挿入されていることが、3.613ppmにおけるCH−OHピークの消失および4.853ppmにおけるCH−O−COピークの出現によって確認された。
【0163】
10%のLHRHおよびオクトレチドが負荷されたp(SA:RA)(2:8)の加水分解による分解を、重量減少および分子量における変化によって調べた。分子量減少における著しい違いがブランクポリマーおよびペプチドペプチドの間にはなかった。LHRHおよびオクトレチドが、HPLCによってモニターされたとき、40日を超える期間にわたってゲル化ポリマーから絶えず放出された。
【0164】
実施例9:ブピバカイン局所麻酔剤を送達するための液状ポリマー
手術後の痛みは、手術後の患者および治癒プロセスにとって大きな問題であると見なされる。現在の方法では、短期間作用する局所麻酔剤の溶液を多数回注射することが含まれるが、時間がかかり、また、高価な設備および綿密なモニターリングが要求される。浸襲性がより低い方法は一般にそれほど有効でない。手術後の痛みのための効率的な治療がこのようにないことにより、新しい治療原理がさし迫って必要であることがこの領域では強調される。代わりの方法が高用量の局所麻酔剤の局所投与であり、これは、局所麻酔剤の効果を、制御放出の注入可能なインプラントにより、数日の期間にわたって、または、数週間の期間にわたってさえ延ばすことができる。そのような部位特異的な薬物送達システムは薬物の効果的な用量をもたらすことができ、また、全身的な配合物の繰り返される使用に関連する全身毒性を避けることができる。
【0165】
インプラントの調製およびインビトロでの薬物放出
ブピバカイン遊離塩基(5%、7%、10%、w/w)を、薬物粉末を40℃でポリマーに混合し、1mlのシリンジをこの配合物で満たすことによって液状ポリマーに配合した。この配合物は室温では半固体物であり、体温では液体である。インビトロ薬物放出研究を、一定の振とう(100RPM)とともに37℃で、100mgの半固体配合物を50mlの溶解媒体(リン酸塩緩衝液(0.1M、pH7.4))に注入することによって行った。インビボでのシンク条件をシミュレーションするために、大量の溶解媒体を使用し、ブピバカインがその最大溶解度の10%を決して越えないようにした。放出媒体を新鮮な緩衝溶液により定期的に取り替え、溶液における薬物濃度をHPLCによって求めた。すべての実験を三連で行った。同様に、ブピバカイン塩酸塩を、類似した手順を使用してポリマーに配合した。遊離塩基のブピバカインはポリマーにおいて透明な溶液を形成し、一方、HCl塩は微細な分散物であった。
【0166】
動物
体重が40gであるメスのICRマウスを使用した。マウスを1つのケージに対して10匹収容し、餌および水を自由に摂取させた。動物室を循環的に照明し(12時間の照明、12時間の消灯)、温度は22℃であった。動物を、座骨神経の特定および配合物の注入の期間中、ハロタン(1.5%〜2%)により麻酔した。神経を神経刺激装置(Stimuplex(登録商標)22Gの直径、B.Braun Melsungen AG、ドイツ)により特定した。それぞれの動物は、ブピバカイン(10%w/w)含有ポリマーの1回の注入(0.1ml)を一方の側面に受け、対応するブランクポリマーまたは生理的食塩水溶液を反対側に受けた。
【0167】
ポリマー配合物の毒性および排除
主要な器官における炎症、感染および壊死、ならびに、ポリマー−薬物およびコントロールにより治療された座骨神経についての死後の組織学評価を行った。ブピバカインの効力についての実験が完了した後、動物をクロラール水和物(4%)(0.2ml)により麻酔し、血液を心臓から抜き取り、そして、動物を肺穿刺によって屠殺した後、主要な器官(心臓、肺、肝臓、脾臓、脳および左右の座骨神経)を切除し、固定処理のために10%ホルマリン溶液に入れた。その後、組織をパラフィンに包埋し、ヘマトキシリン−エオシンにより染色した。組織学的評価を、Hebrew大学Hadassah Hospitalにおける動物施設において病理学者の助けをかりて光学顕微鏡観察によって行った。マウス血液におけるブピバカイン濃度を知られている手法に従って求めた。簡単に記載すると、0.5mlのマウス血漿を1.5mlのヘプタン−酢酸エチル(9:1、v/v)により抽出し、2分間振とうした。1200gでの10分間の遠心分離の後、有機相をコニカルチューブに移した。2回目の抽出工程を、100μlの0.05M硫酸を加え、2分間振とうした後で行った。1200gでの5分間の遠心分離の後、有機相を捨て、50μlの水性酸塩基に100μlのDDWを加えた。100μlのアリコートをクロマトグラフィーに注入した。クロマトグラフィーシステムは、C18逆相カラム(LichroCart250−4、Lichrospher100、5μm)を備えたHP1100ポンプ、HP1050UV検出器およびHP ChemStationデータ分析プログラムからなった。移動相はアセトニトリルおよび0.01Mリン酸二水素ナトリウムのpH2.1での混合物であった。流速は1ml/分であり、UV検出が205nmにおいてであった(注入体積:100μl、処理時間:12分)。
【0168】
インビボでの効力研究
運動ブロック
マウスを4点の尺度に従って運動ブロックに関して評価した:1−正常、2−尾によって持ち上げられたとき、足の損なわれていない背屈、しかし、足の指を広げることができない、3−曲がった足の指および足の裏、しかし、広げることができない、4−背屈の喪失、足の指の屈曲、および、歩行障害。
【0169】
Hargreavesホットプレート感覚試験
このモデルは、独立した運動試験および感覚試験を可能にする。マウスを、プレートの上で立たせるように置いた。装置に慣れさせた後、赤外ビーム(標準熱温度、50℃〜52℃)を、試験された後足に向ける。後足をホットプレートから引っ込めるまでの遅れ時間を、足を交代させ、少なくとも15秒の回復をプレート測定の間で許すことによって記録する。脚についての引っ込め筋肉は腿の内転筋(座骨神経ではなく、大腿神経)であるので、マウスは、完全な(レベル4)の座骨神経ブロックにもかかわらず、足を引っ込めることができる。加えて、針で刺すことを足に加え、反応(あり=1、または、なし=0)が記録される。
【0170】
統計学的分析
Hargreaves(事象までの時間)スコアを、分散の混合モデル分析を使用して分析した。注目される大きな疑問は、薬物がHargreavesスコアに影響を及ぼしたかどうかであった。2つの実験を行い、異なる動物を様々な時間で使用した。薬物、実験および時間は固定効果であると見なされ、動物(実験および時間において入れ子にされる)がランダム効果であると見なされた。SAS Proc Mixed(バージョン8/02)を使用して、分析を行った。
【0171】
結果
インビトロでの薬物放出
ブピバカインを、GPCによって確認されるように、ポリマーの分子量に影響を及ぼすことなくポリマーに配合した。ブピバカイン遊離塩基(BFB)は15%(w/w)のBFBまでP(SA:RA)に容易に可溶である。塩酸塩の塩は、少なくとも15%(w/w)の負荷まで、その粘度に影響を及ぼすことなくポリマーに十分に分散した。5%および7%のブピバカインを含有するP(SA:RA)(2:8)配合物およびP(SA:RA)(3:7)配合物は、一次のプロフィルで薬物を絶えず放出し、取り込まれた薬物の約60%が緩衝液において7日の期間中に放出され、10%を含有する配合物はその含有量のおよそ70%をこの期間中に放出した。すべての実験について、より大きいMWのポリマー(Mw=18000)は、低いMWのポリマー(Mw=5000)と比較して、薬物をより遅い速度(それぞれの時点で放出された量の10%〜20%少ない)で放出する。
【0172】
毒性および組織病理学的評価
座骨神経、その周りの組織(脂肪および筋肉)および主要な器官の組織学的評価を、注入後の3日および1週間で屠殺されたマウスに対して行った。注入後3日では、3匹中1匹のマウスにおいてのみ、マクロファージの浸潤が、座骨神経を取り囲む脂肪に見出された。それ以外の2匹のマウスでは、左右の神経、周りの筋肉および脂肪は正常であることが見出された。他の調べられた器官のすべて(肺、肝臓、心臓、脳および脾臓)がすべての調べられたマウスにおいて正常であることが見出された。注入後1週間で行われた組織学的検査では、5匹中2匹のマウスにおいてのみ、希な好中球および神経周囲リンパ球が、座骨神経を取り囲む組織に見出され、調べられた器官のすべて(肺、肝臓、心臓、脳および脾臓)がすべての調べられたマウスにおいて正常であることが見出された。
【0173】
ポリマーに負荷された薬物の10mgを注入した後におけるブピバカインの血漿中濃度を調べた。24時間後、血漿中レベルは75±15ng/mlに達し、その後、6日後では18±5ng/mlに低下し、7日目以降〜21日目まで、血漿中レベルはほとんど検出不能であった(7±2ng/ml)。これらの血漿中濃度は、痙攣のような何らかの観測された全身毒性を引き起こさず、また、ポリマーに負荷されたブピバカインの10mgが与えられたマウスはすべてがこの研究を生き延びた。
【0174】
効力
Hargreavesホットプレート感覚試験を、ブピバカイン配合物の注入後、4日の期間中に行った。麻酔効果が注入後の3日の期間中維持されたことが見出された。運動ブロックが注入後24時間〜36時間で消失した。
【0175】
結論:これらの結果に基づいて、ポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)はブピバカインの放出を遅らせ、感覚消失を、何らかの負の病理学的影響を伴うことなく延ばす。
【0176】
実施例10:骨粗鬆症を治療するためのゲンタマイシンの制御放出のためのポリ(セバシン酸−co−リシノール酸エステル−無水物)生分解性キャリア
骨髄炎は、通常の場合には細菌によって、しかし、ときには真菌によって引き起こされる骨感染症である。骨が冒され得る3つの可能な様式がある。骨の感染が、傷害を受けているか、または、血液循環が悪い隣接する軟組織からの感染の拡大によって引き起こされ得る。身体の他の部分からの感染が血液を介して骨に持ち込まれ得る(血液学的広まり)。直接の骨感染が穿通創または開放骨折の結果であり得る。骨感染の治療は主に、手術による創面切除、すべての異物の除去、および、抗生物質治療を伴う。通常、静脈内投与による抗生物質が3週間にわたって処方され、その後、3週間の経口投与による抗生物質が続く。しかしながら、骨における効果的な治療的薬物レベルを達成するために要求される抗生物質の大きい非経口用量、ならびに、長期にわたる治療経過は、抗生物質の全身毒性をもたらし得る。感染部位への抗生物質の局所的送達は、従来の静脈内治療を上回る大きな利点をもたらす。局所的な薬物送達システムでは、低い全身的薬物レベルを維持しながら、感染部位における大きな薬物濃度を達成することができる。抗生物質の局所的送達のために開発された薬物送達システムは非生分解性キャリアおよび生分解性キャリアに分けることができる。ゲンタマイシンを含有するポリメタクリル酸メチル(PMMA)ビーズが、欧州では骨髄炎の治療における使用のために承認されている。この製造物は、有効であることが証明されているが、非生分解性であり、かつ、抗生物質の放出が完了したときにビーズのその後の取り出しを必要とするという大きな欠点を有する。近年、様々な生分解性の送達システムが開発され、骨感染症の治療における抗生物質の局所的送達について評価されている。硫酸ゲンタマイシンは強力な抗生物質薬剤であり、現在、長期の留置カテーテル、抗生物質を含有するポリメタクリル酸メチルビーズまたはリン酸カルシウム(骨セメント)の局所インプラントとともに、主に静脈内注入による骨髄炎の治療のために使用されている。
【0177】
インビトロでのゲンタマイシン放出
異なる分子量を有するP(SA:RA)(3:7)(w/w比)ポリマーを、実施例1に記載されるように調製した。硫酸ゲンタマイシンを、均一な混合物が得られるまで、加熱または溶媒の使用を何ら伴うことなく、室温でポリ(SA:RA)(3:7)に混合した。薬物負荷量は10%および20%であった。薬物放出研究を、一定の振とう(100RPM)とともに37℃で、200mgの配合物を50mlのリン酸塩緩衝液(0.1M、pH7.4)に入れることによって行った。生物学的流体の流れをシミュレーションするために、緩衝溶液を48時間毎に取り替え、取り替えた溶液をゲンタマイシン分析のために保存した。
【0178】
インビトロ放出アッセイのために、25μlの配合物を24ウエルマイクロタイター平底プレート(Nunc(Copenhagen、デンマーク)から入手可能)におけるそれぞれのウエルの底に置いた。1mlのリン酸塩緩衝液生理的食塩水(PBS)を加え、プレートを加湿チャンバーにおいて37℃でインキュベーションした。それぞれの時点で、溶解媒体を集め、配合物を1mlのPBSにより洗浄し、新鮮な1mlのPBSをウエルに加えた。媒体を遠心分離し、上清を細菌研究およびゲンタマイシン濃度分析のために保存した。
【0179】
集められたサンプルを100倍希釈し、フルオレスカミン(Sigma、イスラエル)を反応させ、392nmの励起波長および480nmの放射波長で分光蛍光計(Jasco、日本)によって分析して、ゲンタマイシンの濃度を求めた。
【0180】
本研究のために調製された配合物は20mg〜40mgのゲンタマイシンを含有した。ゲンタマイシン負荷ポリマーを、薬物粉末をポリマーペーストに単に混合することによって調製した。薬物の塩と、ポリマーとの間での化学的相互作用は何ら認められなかった。ペースト状配合物からのリン酸塩緩衝液へのゲンタマイシンの放出速度が図14に示される。20%のゲンタマイシンを有する配合物は、10%のゲンタマイシンを有する配合物の放出プロフィルよりも遅い放出プロフィルを有することを認めることができる。放出プロフィルにおけるこの違いは、ゲンタマイシンと、ポリマーの脂肪分解産物との間での塩形成のためであることが最も考えられる。両方の場合において、ポリマーの分子量を増大させると、ゲンタマイシンの放出速度が低下する。Mnが10000Daを超えるゲンタマイシン負荷ポリマーは粘性であり、注入することが困難であった。従って、20%のゲンタマイシンが負荷されたP(SA:RA)(3:7)(Mn=4500)をさらなる研究のために選んだ。
【0181】
別のインビトロ放出研究において、ゲンタマイシンを24ウエルトレイ(ウエルあたり1mlの溶液)の中に放出させた。本研究で使用された配合物はおよそ5mgの活性なゲンタマイシンを含有した。放出プロフィルは、より大量の水において放出するときに得られる放出プロフィルと類似していた。例えば、8日後では、負荷されたゲンタマイシンの9%(約0.45mg)が放出された。全体的な結果は、長期間(例えば、60日を超える期間)にわたるゲンタマイシンの絶え間ない放出を示しており、これは、慢性的な感染を治療するために、または、再発する感染を防止するために好都合なことである。緩衝剤溶液における放出されたゲンタマイシンの抗菌活性が、S.aureusとTSBにおいて一晩インキュベーションし、細菌の生存性を求めることによって確認された。
【0182】
インビトロでの抗菌活性
ゲンタマイシンを含有するポリマーのインビトロ放出研究からの上清溶液をS.aureusの培養液に加えた。集められた上清をPBSで100倍、1000倍および10000倍希釈し、10個のS.aureusをTSBに含有する96ウエルマイクロタイター平底プレートにおけるウエルに加えた。プレートを、温度制御されたマイクロプレート分光光度計(VERSAmax、Molecular Devices Corporation、CA、米国)の内部で24時間インキュベーションした。光学濃度(OD)の測定を650nmで2時間毎に行って、ウエルにおける細菌濃度を求めた。相関が、フルオレスカミン法によって求められたゲンタマイシン濃度と、インビトロでの細菌作用との間で見出された。
【0183】
本研究で使用されたS.aureusuについてのゲンタマイシンの最小阻害濃度は2μg/ml〜4μg/mlである。VERSAmax分光光度計よる分析の結果が図15にまとめられる。6日後および8日後で、ゲンタマイシンの濃度は、溶液が100倍希釈(4.5x10−3mg/ml)および1000倍希釈(4.5x10−4mg/ml)されたときにそれぞれ、S.aureusを根絶するために十分であった(図15におけるAおよびB)。10000倍希釈の場合(図15におけるC)、濃度は阻害的ではなかった。ブランクP(SA:RA)(3:7)(w/w)(Mn=4500)を伴うコントロールウエルは細菌の成長に影響を及ぼさなかった。このウエルでは効果が何ら見出されなかった:O.D.がおよそ0.7であった。S.aureusをTSBのみに含有するウエルでは、およそ0.6のO.D.が見出された。ゲンタマイシン放出の結果(図14)および希釈された溶液による顕著な細菌阻害(図15)を考慮すると、おそらくは、著しい抗菌活性がより早い段階での放出媒体において認められる。
【0184】
インビボ効力および注入部位での薬物濃度
10%および20%の硫酸ゲンタマイシンが負荷された注入可能なp(セバシン酸−co−リシノール酸エステル−無水物)の3:7(w/w)ポリマーおよび2:8(w/w)ポリマーを使用した。効力研究を、16匹のオスWistarラットの両方の脛骨近位端において黄色ブドウ球菌(S.aureus)を感染させたラットに対して行った。脚を剃毛し、除毛し、アルコール消毒した。無菌状態を手術期間中に提供するために、動物を無菌ドレープの上に置き、身体を無菌シートで覆った。脚を無菌の切開ホイルで別々に覆った。近位側の脛骨骨幹端における皮膚および筋膜を長さ5mmにわたって切開した。穴を、皮質骨および海綿骨を貫いて開けた(3mmのチタンバー)。1mlあたり1.0x10コロニー形成ユニット(CFU)を含有するS.aureusの懸濁物を調製した。10μlの懸濁物を50μlのシリンジによりそれぞれの創傷部位に注入した。動物を、骨髄炎を発症させるために4週間維持した。この期間の後、患部肢のX線写真を撮影し、ラットは治療を受けた。配合物を試験群からのラットの感染骨に注入した。
【0185】
試験群はp(SA:RA)の注入を受けた。10%のゲンタマイシンが負荷されたポリマーの100μlを23Gのニードルにより感染骨に注入した。コントロール群は何ら治療を受けなかった。
【0186】
動物を屠殺した後、肢を手首および肘で関節離開した。それぞれの試料のX線写真を撮影した。2mmの組織サンプルを、1週間後、2週間後、4週間後および8週間後に埋め込み部位から採取した。組織を1mlの規定生理的食塩水(pH7.4)においてホモジネートし、遠心分離した。上清を取り出し、Abbott DiagnsticsからTDxの商標で入手可能である蛍光偏光免疫アッセイ(FPIA)によって分析して、ゲンタマイシンの濃度を求めた。
【0187】
すべての動物において、細菌計数における著しい減少が、コントロール群と比較して見出された。ゲンタマイシンが、4週間後、分析された組織において見出され、微量が8週間後に観測された。
【0188】
ポリマー−ゲンタマイシンインプラントの毒性
オスのWistarラット(10週齢)(Harlan laboratories、Jerusalem、イスラエル)を特定病原体除去条件下で飼育し、マウスには、放射線照射された餌および酸性化水を、実験期間中を通して自由に摂取させた。Hebrew大学(Jerusalem)倫理委員会(国立衛生研究所承認番号:OPRR−A01−5011)は動物研究についての申請を検討し、研究が、研究室動物の管理および使用に関する基準に適合し得ることを評決している(倫理委員会−研究番号:MD−80.04−3)。
【0189】
200μlのゲンタマイシン負荷された半固体配合物(0%、10%および20%、w/w)を、3匹のWistarラットからなる2つの群の腹部の前方に19Gのニードルにより皮下注入した。一方の群には、p(SA:RA)(3:7)ブランクの200μlを含有する配合物が左側に埋め込まれ、20%のゲンタマイシンが負荷されたp(SA:RA)(3:7)の200μlが右側に埋め込まれた。第2の群には、p(SA:RA)(3:7)ブランクの200μlを含有する配合物が左側に埋め込まれ、10%のゲンタマイシンが負荷されたp(SA:RA)(3:7)の200μlが右側に埋め込まれた。動物を局所的毒性の徴候および体重減少について観察した。注入後6週間で、ラットを屠殺し、インプラントを化学的分析のために取り出し、周りの組織を4%中性緩衝化ホルムアルデヒドにおいて固定処理し、組織病理学的検査に供した。
【0190】
組織病理学的評価では、10%または20%のゲンタマイシン配合物がポリマーp(SA:RA)(3:7)に加えられた2つの群から採取されたサンプルにおいて、被膜組織反応の程度が、ブランクポリマーだけが存在したときに形成される被膜組織反応の程度に匹敵したことが示された。このことは、混合治療様式を適用したとき、有害な反応がないことを示唆する。形成された被膜は成熟コラーゲンの沈着物から主に構成され、これには、線維芽細胞、血管、および、まばらな組織球または他の単核細胞の存在が付随していた。何らかの活発な炎症反応または組織刺激の証拠は何ら、被膜内に、または、局所的被膜を越えて広がって存在していなかった。すべての場合において、被膜の厚さは類似していた。薄い包み込む被膜から典型的にはなる局所的な組織反応は、瘢痕化する亜慢性の炎症反応として解釈された。肉芽腫性異物、リンパ球様細胞の凝集、および/または、免疫学的刺激の証拠は何ら認められなかった。このことは、インプラントが十分に許容されたことを示している。
【0191】
骨とのポリマー(ポリ(RA−SA)(70:30))および20%ゲンタマイシン負荷配合物の生体適合性を、ラットの脛骨に穴を開け、0.2mlのポリマーまたは配合物を骨の中に注入することによって求めた。5匹のラットからなる群を本研究では使用した。骨を組織病理学的に分析し、ポリマーまたは配合物に起因すると考えられる毒性の証拠は何ら見出されなかった。ポリマーに対する応答で認められた炎症は、正常な機構による物体の積極的な除去と一致していた。ポリマーおよび配合物は埋め込み後の8週間後には骨から完全に除かれた。
【0192】
γ線照射に対する安定性
20%の硫酸ゲンタマイシン(GS)を伴うP(SA:RA)(3:7)(w/w)を本研究では使用した。重合が完了した後、GSをペースト状ポリマーに室温で加え、均一な混合物が達成されるまで機械的に混合した。1mlの混合物を1mlのロック式プラスチックシリンジに入れた。1mlのブランクポリマーを含有するシリンジもまた調製した。すべてのポリマーに2.5Mradの吸収線量を60Co線源(450000Ci;8時間)によって照射した。照射をSor−Van Radiation Ltd.(Kiryat Soreq、Yavne、イスラエル)において行った。
【0193】
照射の前後における負荷ポリマーおよびブランクポリマーの分子量をGPCによって測定した。照射の前後における負荷ポリマーおよびブランクポリマーの融点をDSCによって測定した。照射の前後における負荷ポリマーおよびブランクポリマーの化学構造をIRおよびH−NMR分光法によって求めた。ゲンタマイシン含有量を、照射前のサンプルおよび照射後のサンプルをジクロロメタンに溶解し、薬物を2回蒸留水(DDW)により3回抽出することによって求めた。抽出液を一緒にし、分光蛍光計を使用して分析した。
【0194】
照射後、配合物を、37℃、20℃、4℃および−17℃で貯蔵した。非照射サンプルをコントロールとして使用した。種々の時点で、サンプルを照射配合物およびコントロール配合物から取り出し、上記の方法によって分析した。結果が表9に示される。

【0195】
いくつかの時点で、簡単な薬物放出研究を、貯蔵条件による薬物放出における起こり得る変化を検出するために行った。4℃および−17℃で貯蔵された配合物の放出プロフィルが図16に示される。ゲンタマイシンの放出はこれら2つの配合物では類似していた。サンプルをジクロロメタンに溶解し、リン酸塩緩衝液(0.1M、pH=7.4)により3回抽出した。図16aには、4℃で8週間にわたって貯蔵された配合物からのゲンタマイシンの放出が示される。図16bには、−17℃で8週間にわたって貯蔵された配合物からのゲンタマイシンの放出が示される。照射サンプルおよび非照射サンプルの放出プロフィルは類似していた。このことは、照射はポリマーからの薬物の放出に影響を及ぼさなかったことを示している。2週間にわたる室温での貯蔵は、ゲンタマイシンの放出プロフィルに影響を及ぼさないようであった。照射配合物および非照射配合物についてのIRスペクトルおよびNMRスペクトルには違いが何ら認められなかった。貯蔵期間中の分解を、無水物ピークの消失および1700cm−1における酸ピークの出現をモニターすることによりIR分光法によって追跡することができる。分解が、−17℃で貯蔵された配合物については何ら示されなかった。4℃で貯蔵された配合物は、6週間後、酸のピークをもたらし、このピークは時間とともに増大した。
【0196】
実施例11:リシノール酸オリゴマーを含有する液状ポリエステル
リシノール酸の直接の縮合によって調製された、Mwが2200および3600であるリシノール酸オリゴマーを本研究では使用した。ヒドロキシ末端のRAオリゴマーを、RAオリゴマーを、エチレングリコールまたはプロピレングリコールのエステルを形成するエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドと反応することによって得た。このヒドロキシ末端のRAオリゴマーを、DL−ラクチド、カプロラクトンおよびグリコール酸ならびにそれらの混合物の開環重合のための開始剤として使用した。Bセグメントがリシノール酸オリゴマーであるABAトリブロックコポリマーを、HO末端のAオリゴマーを、オクタン酸第一スズを触媒として使用してDL−ラクチドと開環重合することによって得た。RAオリゴマーおよびラクチドの間でのモル比により、分子量およびセグメント長さが決定された。20%のRAオリゴマーを含有するDL−ラクチドのトリブロックコポリマーは室温で液状であったし、水中でゲルを形成する。同様に、ペースト状ポリマーを、DL−ラクチドと、1つのヒドロキシル基を有するRAオリゴマーとのジブロックコポリマーから得た。
【0197】
RAオリゴマーおよびヒドロキシル酸のランダムコポリマーを、乳酸、グリコール酸およびヒドロキシ酪酸とのリシノール酸オリゴマーの重縮合によって得た。この重合は、酸性触媒を用いてトルエン中で行われる。トルエンをエバポレーションした後、重合が、10%未満の乳酸含有量でのペースト状ポリマーを得るために、1mmHgの真空下で130℃で続けられる。粘性のコポリマーが、ヒドロキシル酸およびそのラクトンをポリエステルに共重合することから得られた。これらのポリマーは、身体に注入されたとき、粘度が増大し、取り込まれた薬物を、主に薬物の水溶性に依存して数週間および数ヶ月にわたって放出する。
【0198】
実施例12.乳酸およびグリコール酸とのリシノール酸のポリエステルの合成および特徴づけ
L−乳酸(50%水溶液)を使用前に一晩凍結乾燥した。ひまし油およびL−乳酸を、1:10、1:5、2:5、3:5のw/w比(w/w、ひまし油対ラクチド)で、触媒としての0.5%(w/w)のHPOと混合し、乾燥Nを流しながら1.5時間、170℃に加熱して、系を乾燥させた。1.5時間後、反応物を15mBarの真空につなぎ、反応を24時間続けた。サンプルを3時間、5時間および7時間の重合のときに採取した。
【0199】
ポリマーの外観ならびに重量平均分子量および数平均分子量が表4に記載される。リシノール酸および乳酸のポリエステルもまた調製した。これらのポリマーの性質が表5に記載される。リシノール酸/ひまし油との乳酸の共重合により、所望される性質(例えば、柔軟性、疎水性および柔らかさなど)を有するポリマーが得られた。ポリマー鎖におけるリシノール酸の存在は、軟らかいポリマー、または、液状でさえあるポリマーを生じさせるためのポリマーの立体障害をもたらした。これらのペースト状ポリマーは、ポリマーを水溶液に沈めたとき、より硬い物質にゲル化した。これらのポリマーペーストを組織内に注入することにより、ポリマー配合物の注入部位での局在化がもたらされた。


【0200】
30:70の比率(w/w)(30%のひまし油またはリシノール酸)を含有するポリマーをDL−乳酸およびグリコール酸ならびにそれらの混合物から合成した。すべてのポリマーが4000の範囲でのMnの類似した分子量を示し、ペースト状の物質であった。DL−乳酸ポリマーはそれ以外のポリマーよりも液体様であった。すべてのポリマーが、水性媒体に室温で1時間入れたとき、その粘度を変化させ、ゲル化する。
【0201】
実施例13.リシノール酸および乳酸のポリエステルからのタキソールおよびメトトレキサートのインビトロでの放出
10%(w/w)のタキソールおよび10%(w/w)のメトトレキサートを含有する配合物を、薬物を、Mn=3000およびMw=7000を有するポリ(乳酸:ひまし油)の60:40(w/w)比のコポリマーおよび70:30(w/w)比のコポリマーと混合することによって調製した。薬物を、乳鉢および乳棒を使用してポリマーと室温で混合した。溶媒または熱は何ら使用しなかった。ペースト状配合物における薬物粒子の粒子サイズは、SEM分析によって決定されたとき、100ミクロン未満であった。
【0202】
1mLのシリンジに薬物−ポリマー配合物を充填し、それぞれ10mgのサンプルを、pHが7.4である50mlのリン酸塩緩衝液に37℃で注入した。緩衝溶液はまた、0.3%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含有した。SDSは、放出されたパクリタキセルの溶解性を増大させるために添加された。緩衝液を、最初の1週間は毎日取り替え、その後は3日毎に取り替えた。パクリタキセルおよびメトトレキサートの放出をHPLCによってモニターした。タキソールおよびメトトレキサートがポリマー配合物から一定の速度で放出され、ポリマーが、崩壊することなく、一様な半固体の液滴として残留した。負荷されたメトトレキサートの25%が約20日間にわたって一定の速度で放出され、一方、負荷されたパクリタキセルの5%および10%が約30日後および60日後にわたってそれぞれ放出された。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】p(SA:RA)(3:7)の粘度を種々の剪断速度において温度(℃)の関数として示すグラフである(加えられた剪断速度が角括弧で示される)。
【図2】種々の剪断速度における温度(℃)の関数としてのポリ(セバシン酸−co−リシノール酸)(p(SA:RA))(2:8)の粘度のグラフである(加えられた剪断速度が角括弧で示される)。
【図3】種々の剪断速度における温度(℃)の関数としてのポリリシノール酸(PRA)の粘度のグラフである(加えられた剪断速度が角括弧で示される)。
【図4】p(SA:RA)(3:4)をリン酸塩緩衝液にさらした前後における、剪断速度(sec−1)と、剪断応力(ダイン/cm)との間における関係を示すグラフである。
【図5】5%w/wおよび10%w/wのパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)からのパクリタキセルのインビトロでの累積放出を示す。
【図6a】分解途中のサンプルの重量減少によってモニターされる、無負荷のP(SA:RA)(2:8)、ならびに、5%w/wおよび10%w/wのパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)のインビトロでの加水分解による分解を示す。
【図6b】インビトロでの加水分解による分解の期間中でのサンプルにおけるパクリタキセルの蓄積(NP HPLCによって求められる)を示す。
【図7】C3H正常マウスの皮下に注入されたブランクポリマーおよびパクリタキセル配合物(5%および10%)のインビボでの分解を示す。
【図8】C3HマウスにおけるMBT異所性モデルに対するパクリタキセル配合物のインビボ抗腫瘍効果を示す。
【図9】C57Bl/6ラットにB16F1が接種された後、異なる濃度のパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)により治療されたときの生存の進展を示す。
【図10】57Bl/6ラットにB16F1が接種された後、異なる濃度のパクリタキセルが負荷されたP(SA:RA)(2:8)により治療されたときの腫瘍量の進展を示す。
【図11】実験期間中のすべての治療群におけるラットの平均体重の進展を示す。標準偏差が誤差棒によって示される。
【図12】種々の治療群についての死亡時の腫瘍体積の進展を示す。
【図13】p(SA:RA)(20:80)(w/w)およびp(SA:RA)(30:70)(w/w)からの、ウシ血清アルブミン(「BSA」)、インスリン、インターフェロン−α(「INF−alpha」)およびインターロイキンのパーセントインビトロ放出を時間(hours)の関数として示す。
【図14】異なる分子量のp(SA:RA)(3:7)からのゲンタマイシンのパーセントインビトロ放出を時間(日数)の関数として示す。
【図15】3つの異なる希釈物について時間(日数)に対する細菌濃度(光学濃度)を示すグラフである。
【図16】4℃および−17℃で8週間にわたって貯蔵された後でのゲンタマイシンの放出を時間(日数)の関数として示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
37℃未満の温度で液体またはペーストであり、水溶液においてゲル化する、疎水性ポリマー組成物。
【請求項2】
組成物はリシノール酸エステルオリゴマーと、少なくとも1つのカルボン酸基および少なくとも1つのヒドロキシル基または1つのさらなるカルボン酸基を有する脂肪族分子とから構成される、ポリエステルまたはポリ(エステル−無水物)を含み、組成物は37℃未満の温度で液体またはペーストである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの活性薬剤をさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
治療剤、診断剤、および予防薬剤からなる群から選択される薬剤を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ポリ(エステル−無水物)は、少なくとも4個の炭素原子を有するアルカン二酸モノマーユニットを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
アルカン二酸モノマーユニットは、構造HOOC(CHCOOHの直鎖のジカルボン酸(式中、xは2〜16の整数である)、フマル酸、またはマレイン酸からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ポリエステルまたはポリ(エステル−無水物)は、2〜6個の炭素原子を有する1つ以上のヒドロキシアルカン酸モノマーユニットを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
ヒドロキシアルカン酸モノマーユニットは、乳酸、グリコール酸、4−ヒドロキシ酪酸、および5−ヒドロキシ吉草酸からなる群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
エステル結合によって連結される少なくとも平均で1.5個のリシノール酸ユニットを有するリシノール酸エステルオリゴマーを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
1つ以上の賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
治療剤、診断剤、および予防薬剤は、小さな薬物分子、ペプチド、タンパク質、オリゴおよびポリヌクレオチド、除草剤、および殺虫剤からなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項12】
治療剤、診断剤、および予防薬剤は、鎮痛剤、局所麻酔剤、抗感染剤、抗炎症剤、抗生物質、成長ホルモン、抗ガン剤、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項13】
ポリマー組成物は手術シーラントとして適用される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項14】
ポリマー組成物は臓器間の接着を低下させるためのバリアとして適用される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項15】
ポリマー組成物は被覆として使用される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項16】
ポリマーは10000以上の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
ポリマーは40以上の重合度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
ポリマーは約12週間で生分解する、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の組成物中に薬剤を取り込むことを含む、生物活性剤、診断剤、および予防薬剤からなる群から選択される薬剤の送達のための配合物を作製する方法。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれかに記載の組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む、治療剤、診断剤、および予防薬剤からなる群から選択される薬剤の送達のための方法。
【請求項21】
組成物は注入または埋め込みによって投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
治療剤は抗ガン剤であり、組成物は固形腫瘍を治療するために投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
治療剤は抗生物質であり、組成物は骨感染を治療するために投与される、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2009−510048(P2009−510048A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532902(P2008−532902)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/IB2006/003540
【国際公開番号】WO2007/110694
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(508093735)エフラット バイオポリマーズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】