説明

コイルばね

【課題】応力の分散状態をより良好としつつより有利な設計を可能とする。
【解決手段】コイル形状に巻かれるばね素線3の断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばね1において、ばね素線3における断面外周形状のコイル内外径側部分5,7間に、コイル軸線4方向に隣接するコイル部分が当接して安定可能な扁平面9,11を設け、扁平面9,11を有した断面外周形状につきコイル軸線方向の扁平率T/Wを、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねの応力比と同等以下の応力比となるように設定したため、扁平面9,11により密着状態で負荷を安定して受けさせると共に、密着長をより短くし、ストロークのより長い低剛性のばねを設計する上でより有利となり、且つ断面外周形状の周方向でのより良好な応力分散により応力分布の均一性をより向上させることができることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじりダンパ用のトーション・スプリング、バルブ・スプリング、リターン・スプリング、サスペンション・スプリング、ダイ・スプリング等に供されるコイルばねに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばクラッチ・ディスクに使用されているトーション・スプリング等において、コイル形状に巻かれるばね素線の円形断面の外周形状に成形当接面として扁平面を設けたものがある。
【0003】
このコイルばねは、コイル形状が密着状態若しくはロック状態になるまでばねに負荷がかかると、扁平面が隣接するコイル部分に当接して負荷を安定して受け、コイル径方向へのずれを抑制することができる。
【0004】
しかし、一般にコイルばねは、ばね素線のコイル形状に対して内径側となる部分(コイル内径側部分)の応力が、同外径側となる部分(コイル外径側部分)よりも高くなる。さらに、前記扁平面を設けることによる断面の扁平率が変化し、前記応力の偏りと併せ、ばね素線の断面周方向の応力の分散状態が影響を受ける。
【0005】
一方、ばね素線に扁平面を設けた場合、その断面形状の扁平率が小さくなれば、扁平面が当接するときのコイル軸線方向の密着長を短くすることができ、ストロークの長い低剛性のばねを設計する上で有利でもある。
【0006】
従って、断面の扁平率をどの程度に設定するかは、応力の分散状態を良好としつつ有利な設計をする上で重要な要素となる。
【0007】
この扁平率に関し、従来0.85〜0.98に設定することが示されている。
【0008】
しかし、かかる扁平率の範囲では、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねに比較して有利な設計をする上で限界があり、さらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−300065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねに比較して有利な設計をする上で限界があった点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねに比較して有利な設計を可能とするために、コイル形状に巻かれるばね素線の断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねにおいて、前記ばね素線における断面外周形状のコイル内外径側部分間に、コイル軸線方向に隣接するコイル部分が当接して安定可能な成形当接面を設け、前記成形当接面を有した断面外周形状につきコイル軸線方向の扁平率T/Wを、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねの応力比と同等以下の応力比となるように設定したことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、コイル形状に巻かれるばね素線の断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねにおいて、前記ばね素線における断面外周形状のコイル内外径側部分間に、コイル軸線方向に隣接するコイル部分が当接して安定可能な成形当接面を設け、前記成形当接面を有した断面外周形状につきコイル軸線方向の扁平率T/Wを、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねの応力比と同等以下の応力比となるように設定した。
【0013】
このため、扁平面のない円形断面と同等かそれよりも応力が下がり、有利な設計ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】コイルばねの正面図である。(実施例1)
【図2】コイル形状内径側の要部拡大断面図である。(実施例1)
【図3】ばね素線の拡大断面図である。(実施例1)
【図4】有限要素法による応力分布状態の解析結果を示した説明図である。(実施例1)
【図5】有限要素法による応力分布状態の解析結果を示した説明図である。(比較例)
【図6】扁平率及び応力比の関係を示したグラフである。(実施例1)
【図7】扁平率及び密着高さ比の関係を示し、(a)は、D/W=3、(b)は、D/W=5、(c)は、D/W=7のグラフである。(実施例1)
【図8】扁平率及び応力比の関係を示したグラフである。(実施例1)
【図9】扁平率及び密着高さ比の関係を示したグラフである。(実施例1)
【図10】扁平面を有するコイルばねに係り、(a)が倒れなし、(b)が倒れ有りの一部断面図である。(実施例1)
【図11】倒れの有無を示すグラフである。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0015】
応力の分散状態をより良好としつつより有利な設計を可能とするという目的を、成形当接面を有した断面外周形状のコイル軸線方向の扁平率をT/W=0.83〜0.32とすることで実現した。
【実施例1】
【0016】
[コイルばね(トーション・スプリング)]
図1は、本発明実施例1に係るコイルばねの正面図、図2は、コイル形状内径側の要部拡大断面図、図3は、ばね素線の拡大断面図である。
【0017】
図1のコイルばね1は、例えばデュアルマス・フライ・ホイール又はトルクコンバーター用ロック・アップ又は湿式或いは乾式のクラッチ機構用(として設計された)フリクションディスクのねじりダンパ(捩り振動減衰器)内に組付けられるトーション・スプリングであり、ばね素線3が、コイル形状に巻かれたものである。このコイルばね1は、自由状態でコイル軸線4が円弧形状であり、この円弧形状は、組付け状態での曲率半径Rを有している。
【0018】
なお、ばね素線3によるコイル形状は、コイル軸線が自由状態で直線形状又は組み付け状態での曲率半径Rと異なる形状とし、組み付けにより組付け状態での曲率半径Rを有した円弧形状にセットすることもできる。
【0019】
図2,図3のように、コイルばね1のばね素線3は、断面外周基礎形状が円形形状に形成され、このばね素線3の断面外周基礎形状において円弧状のコイル内径側部分5及びコイル外径側部分7間に、成形当接面としての扁平面9,11を設けた構成となっている。
【0020】
コイル内径側部分5及びコイル外径側部分7は、断面外周基礎形状の円形形状の一部を形成する。
【0021】
扁平面9,11は、コイル軸線4方向に隣接するコイル部分が当接して安定可能な成形当接面であり、本実施例においてコイル軸線4方向両側に設けられている。
【0022】
図2のように、扁平面9,11は、コイル軸線4の曲率半径方向にほぼ沿うように形成され、ばね素線3の断面形状が楔状となるようにコイル形状の曲率中心に向けて相互に傾斜形成されている。
【0023】
図3のように、扁平面9,11の幅Hは、扁平率T/Wに依存し、本実施例では、扁平面9,11を有した断面外周形状につきコイル軸線4方向の扁平率をT/W=0.76に設定している。
【0024】
なお、Tは、コイル内径側部分5のコイル軸線4方向の最大厚み寸法であり、Wは、ばね素線3の断面外周基礎形状の直径である。なお、Tを、コイル内外径側部分5の厚み或いはコイル内外径側部分5,7の平均厚みにすることもできる。
【0025】
この扁平面9,11は、扁平率T/W及び傾斜設定により、相互角度θ及び半円形状のコイル内径側部分5の最大厚み寸法Tを有する。相互角度θは、コイルばね1の曲率中心を中心とする。
【0026】
(応力分散)
図4,図5は、有限要素法による応力分布状態の解析結果を示した説明図であり、図4は本実施例、図5は比較例である。図5においては、図4と対応する構成部分に同符号にAを付する。
【0027】
図4のように、ばね素線3では、扁平面9,11の形成及び扁平率T/W=0.76の設定により、コイル内径側部分5の応力をコイル外径側部分7側へまで連続して分散できている。図11の例と比較して明らかなように、図4の本実施例では扁平率を適切に選択してコイル内外径側部分5,7間で応力の連続した均一な分散を確実に達成できた。これに対し、扁平率T/W=0.92の図5の比較例では、本実施例に対しコイル内外径側部分5A,7A間で応力の連続した均一な分散に限界を生じている。
【0028】
(扁平率、応力比)
図6は、扁平率及び応力比の関係を示したグラフである。図6では密着高さHs=25を一定とし、扁平率T/Wの変化に対する応力比の変化を調べた。
【0029】
扁平面のない円形断面の応力比τ/Pを1とした。τは、コイル最内周の最大剪断応力、Pは、コイルが受ける荷重である。
【0030】
図6のように、扁平率T/W=0.83以下では、応力比τ/Pが1以下となり、扁平面のない円形断面と同等かそれよりも応力が下がり、有利な設計ができる。
【0031】
(コイルずれ)
自動車のトーション・スプリングでは、ばねが密着ないしはそれ以上の負荷を受けた時にコイルがコイル径方向にずれることを防ぐため、コイル軸方向で見て線材断面の片側ないし両側に扁平部を持たせることが行われる。
【0032】
従来技術においては、ベース断面形状が円形の場合に、扁平率が大きいほうが応力的に有利であるとして扁平率を0.98〜0.85と規定されているが、解析的に検討した結果、設計的にはより扁平率が小さいほうが有利となることを発見した。
【0033】
(実施例1の効果)
本発明実施例は、コイル形状に巻かれるばね素線3の断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばね1において、前記ばね素線3における断面外周形状のコイル内外径側部分5,7間に、コイル軸線4方向に隣接するコイル部分が当接して安定可能な扁平面9,11を設け、前記扁平面9,11を有した断面外周形状につきコイル軸線方向の扁平率T/Wを、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねの応力比と同等以下の応力比となるように設定した。
【0034】
このため、扁平面のない円形断面と同等かそれよりも応力が下がり、有利な設計ができる。
【0035】
扁平面9,11により密着状態で負荷を安定して受けさせると共に、密着長をより短くし、ストロークのより長い低剛性のばねを設計する上でより有利となり、且つ断面外周形状の周方向でのより良好な応力分散により応力分布の均一性をより向上させることができる。
【0036】
すなわち、トーション・スプリングに必要とされる長いストロークで低剛性のばねを設計する上で十分な品質を得ることが容易となる。
【0037】
扁平面9,11を、ばね素線3における断面形状のコイル軸線4方向両側に設けたため、コイル密着状態でのコイル軸線4方向の負荷を確実に受けることができ、コイル径方向へのずれを確実に抑制することができる。
【0038】
コイル形状のコイル軸線4が円弧形状であり、扁平面9,11は、コイル軸線4の曲率半径方向にほぼ沿うように形成されたため、コイル軸線4が円弧形状の場合であっても、コイル軸線4方向の負荷を確実に受けることができ、コイル径方向へのずれを確実に抑制することができる。
【0039】
ばね素線3のコイル形状は、自由状態でコイル軸線4が円弧形状である場合は、コイル軸線4を円弧形状に組み付けることが容易となり、且つ扁平面9,11をコイル軸線4の円弧形状に応じて容易に設定することができる。
【0040】
ばね素線3のコイル形状のコイル軸線4が、自由状態で直線形状又は組み付け状態での曲率半径と異なる形状とし組み付けにより組付け状態での曲率半径Rを有した円弧形状となる場合は、組付け前のコイル軸線4を直線状又はこれに近い形状にすることができ部品管理等を容易にすることができる。
【0041】
コイルばね1は、デュアルマス・フライ・ホイール又はトルクコンバーター用ロック・アップ又は湿式或いは乾式のクラッチ機構用(として設計された)フリクションディスクのねじりダンパ(捩り振動減衰器)内に組付けられ、長いストロークで低剛性のコイルばねを容易に用いることができる。
【0042】
また、このことよりエンジン・システムに組み込まれるねじりダンパ(捩り振動減衰器)に求められる動的状態でのフィルタ機能、つまり音や振動の減衰機能を容易に向上させることができる。
【0043】
(その他)
成形当接面は、完全な扁平面9,11に限らず、多少の凸面又は凹面で形成することもできる。また、成形当接面は、ばね素線3のコイル軸線4方向一方側が多少の凸面、同他側が多少の凹面等に形成することもできる。
【0044】
扁平面9,11の傾斜は、コイル軸線4の円弧形状の曲率半径R方向に対して多少ずれるように形成することもできる。
[コイルばね全般]
上記内容において、扁平面を設けること、扁平率T/Wを、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねの応力比と同等以下の応力比となるように設定すること等、トーション・スプリングに限られない事項は、コイルばね全般に適用でき、扁平面のない円形断面よりも応力が下がり、有利な設計ができる等の効果がある。
【0045】
また、コイル形状のコイル軸線4が直線形状であるような形態にも適用することができる。この場合、扁平面9,11を、コイル軸線にほぼ直交するように形成することができる。
【0046】
さらに、コイルばね全般について、以下のことも述べることができる。
【0047】
(密着高さ比)
図7(a),(b),(c)は、扁平率及び密着高さ比の関係を示したグラフである。図7(a),(b),(c)では、応力比τ/Pを一定とし、ばね指数D/W=3,5,7の実施例に係る結果を示している。
【0048】
図7(a),(b),(c)のように、ばね指数D/W=3,5,7の何れにおいても、扁平率T/W=0.32以上であれば多くの仕様のコイルばねにおいて応力が低くかつ密着高さも低くすることができる。
【0049】
(座面研磨レス)
ばね素線3の断面外周基礎形状が円形で、この断面をベースとして、断面には、座面に代わるものとしてコイル軸方向で見て両側に扁平部9を有している。
【0050】
この扁平部9は、コイルばね1成形時にコイル両端部においてコイル軸にほぼ垂直になるように成形され座面となる。このため、座面研磨工程が不要となる。
【0051】
このとき、コイルばね1の仕様により扁平率を選択すると、従来の円形断面と同等またはより有利な設計が可能となる。
【0052】
図8は、コイル径、ばね定数、応力比τ/Pを一定としたとき、座面研磨なしで円形断面の通常研磨品と同一の密着高さとなるコイル総巻数と素線断面扁平率との関係である。
【0053】
図のラインから下(扁平率が小さい方)の領域で従来の円形断面と同等又はより有利な設計が可能となる。このラインは以下の式で表される。
【0054】
Y=−0.0000023837×X+0.0002456386×X−0.0090929958×X+0.147730555×X+0.0180485763
ここに、
X:扁平率
Y:総巻数
自動車のATやCVT用のリターンスプリング、ねじりダンパー用のトーション・スプリングやエンジン用のバルブ・スプリング等は、線形が比較的太くコイル径が比較的大きく作動荷重が高いため、コイル総巻数が概ね11.2巻き以下である。また、線形が太くコイル径が大きいため、研磨工程廃止による研磨時間、研磨量削減効果が大きい。
【0055】
よって、総巻数11.2巻き以下のスプリングに対し上記ラインより下の範囲の扁平率の素線断面形状を使用することにより、研磨工程を廃止かつ従来の円形断面と同等以上の性能を得ることができる。
【0056】
(座面研磨量低減)
従来の円形断面と同等またはより有利な設計で、且つ研磨時間・研磨量低減を目的とし、従来よりも研磨代が少なくなるような扁平率を選択して実施することもできる。
【0057】
通常、コイルばねは、使用時にばねを安定させるために研磨代が0.75巻き程度となるように研磨する。これを0.5巻き以下とすることで研磨時間・研磨量を低減する。
【0058】
図9は、コイル内径、ばね定数、応力比τ/Pを一定としたとき、座面研磨代0.5巻きで円形断面の通常研磨品と同一の密着高さとなるコイル総巻数と素線断面扁平率との関係である。
【0059】
図9の実線ラインから下(扁平率が小さい方)の領域で従来の円形断面と同等又はより有利な設計が可能となる。このラインは以下の式で表される。
【0060】
Y=−0.0000065161×X+0.0004455905×X−0.0110490116×X+0.1189494097×X+0.4928257777
ここに、
X:扁平率
Y:総巻数
(コイリング時の倒れ)
図10は、扁平面を有するコイルばねに係り、(a)が倒れなし、(b)が倒れ有りの一部断面図、図11は、倒れの有無を示すグラフである。
【0061】
断面が扁平になっている線材をコイリングすると断面が図10(a)に対し図10(b)のように倒れることがある。この倒れは、コイルばねの密着高さや応力を高くしてカット断面の設計的な優位性を損なうため、倒れないことが望ましい。
【0062】
コイリング時のこの倒れは、
T/W:小→倒れ:大
D/W:小→倒れ:大
ガイドクリアランス:大→倒れ:大
の関係がある。
【0063】
そこで、適正なガイドクリアランス=0.1mmでの倒れの検証をソリッドモデルによるFEM解析(コイリング・シミュレーション)にて実施した結果、図11のように、W/D≦0.5(D/W≧2)においてW/T≦5(T/W≧0.2)で倒れを発生しないことが判明した。
【0064】
すなわち、本発明実施例は、コイル形状に巻かれるばね素線3の断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばね1において、前記ばね素線3における断面外周形状のコイル内外径側部分5,7間に、コイル軸線4方向に隣接するコイル部分が当接して安定可能な扁平面9,11を設け、前記扁平面9,11を有した断面外周形状につきコイル軸線方向の扁平率を0.2≦T/W≦0.83の範囲とした。
【0065】
(座面研磨)
また、コイルばねは、使用時にばねを安定させるため端部を研磨し座面を成形する。このため研磨工程が必要となるが、この工程は時間がかかり、また、研磨かすの発生により環境に負荷を与える。特に、線形が太くコイル径がおおきいものはそれが顕著である。
【0066】
これに対し、線材断面の両側に扁平部9を有することにより、従来と同等ないしは従来以上の性能を有しながら、研磨工程を廃止、または研磨時間・研磨量を削減することによりコスト低減することができ、また、研磨かす低減により環境保護にもなる。
[バルブ・スプリング]
バルブ・スプリングについては、上記の内容において、扁平面を設けること、扁平率T/Wを、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねの応力比と同等以下の応力比となるように設定すること等、トーション・スプリングに限られない事項、及びコイルばね全般で述べた事項の他、さらに次のことも述べることができる。
【0067】
(1巻目折損)
端末と1巻目の線間接触部分は、接触圧により高い接触応力が発生すること、また、ショットピーニングにより線表面に付与された強化層が剥落する。このため、線間の高面圧部を起点として疲労折損する。
【0068】
本発明実施例では、扁平部を設けることにより線間の接触面積が増え線間の面圧の低下及び摩耗の低減が期待できるので、1巻き目折損が発生し難くなる。
【0069】
(サージング低減)
バブル・スプリングは、実使用時に共振現象、いわゆるサージングにより応力が増加し、耐久性の低下を招く。このサージングを抑制するには、線間の接着離反によるサージエネルギーの吸収が有効と考えられている。
【0070】
本発明実施例では、線間の接触する面積が増加することにより、吸収されるエネルギーが増加することが予想され、サージング抑制に効果がある。
【0071】
(エンジン・ヘッド・コンパクト化)
ベストモードの扁平率でバルブ・スプリングに用いると密着高さが10%以上低くできるため、エンジン・ヘッドの高さを低くすることができ、エンジンの軽量化に大きく寄与できる。これは、燃費向上となる。
[ATリターン・スプリング]
ATリターン・スプリングについても、扁平面を設けること、扁平率T/Wを、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねの応力比と同等以下の応力比となるように設定すること等、トーション・スプリングに限られない事項、及びコイルばね全般で述べたことの他、さらに次のことも述べることができる。
【0072】
ATリターン・スプリングは、コイル軸方向のスペースが限られているため巻き数を少なくせざるを得ず、このため、荷重偏心が起こりピストンが斜めに押されてフリクションが発生するという問題がある。
【0073】
本発明実施例では、密着高さを低くすることができることから巻き数を増やすことができるため、荷重偏心が起こり難くなる。
【符号の説明】
【0074】
1 コイルばね
3 ばね素線
4 コイル軸線
5 コイル内径側部分
7 コイル外径側部分
9,11 扁平面(成形当接面)
T コイル内径側部分のコイル軸線方向の最大厚み寸法
W ばね素線の断面外周基礎形状の直径
T/W 扁平率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル形状に巻かれるばね素線の断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねにおいて、
前記ばね素線における断面外周形状のコイル内外径側部分間に、コイル軸線方向に隣接するコイル部分が当接して安定可能な成形当接面を設け、
前記成形当接面を有した断面外周形状につきコイル軸線方向の扁平率T/Wを、断面外周基礎形状を円形形状としたコイルばねの応力比と同等以下の応力比となるように設定した、
ことを特徴とするコイルばね。
【請求項2】
請求項1記載のコイルばねであって、
前記扁平率をT/W≦0.83とした、
ことを特徴とするコイルばね。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコイルばねであって、
前記扁平率を0.2≦T/Wとした、
ことを特徴とするコイルばね。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のコイルばねであって、
前記成形当接面は、扁平面に成形された、
ことを特徴とするコイルばね。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のコイルばねであって、
前記成形当接面を、前記ばね素線における断面形状のコイル軸線方向両側に設けた、
ことを特徴とするコイルばね。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のコイルばねであって、
前記コイル形状のコイル軸線が直線形状であり、
前記成形当接面は、前記コイル軸線にほぼ直交するように形成された、
ことを特徴とするコイルばね。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のコイルばねであって、
前記コイル形状のコイル軸線が円弧形状であり、
前記成形当接面は、前記コイル軸線の曲率半径方向にほぼ沿うように形成された、
ことを特徴とするコイルばね。
【請求項8】
請求項7記載のコイルばねであって、
前記ばね素線のコイル形状は、自由状態でコイル軸線が円弧形状である、
ことを特徴とするコイルばね。
【請求項9】
請求項7記載のコイルばねであって、
前記ばね素線のコイル形状は、コイル軸線が自由状態で直線形状又は組み付け状態での曲率半径と異なる形状とし組み付けにより組付け状態での曲率半径を有した円弧形状となる
ことを特徴とするコイルばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−33119(P2011−33119A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179621(P2009−179621)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】