説明

コイルスプリングの圧縮保持治具

【課題】コイルスプリングを圧縮状態にして保持すると共に、そのコイルスプリングの圧縮状態の解除を簡単且つ安全に行うことができる圧縮保持治具を提供する。
【解決手段】一対の本体部10と、操作部20とを有する圧縮保持治具1であって、本体部10は、上面部に開口が形成されたホルダ11と、ホルダ11の筒内に軸芯方向を摺動自在に且つ上端の開口から出し入れ自在に収容されている楔状の可動ロッド12と、ホルダ12の筒内に可動ロッド12と相対向させて収容されている楔状の固定ロッド23とを備えている。また、操作部20は、可動ロッド12の軸芯方向の動作を固定したり、或いは軸芯方向の動作の固定を解除したりできる。また、ホルダの底面部のフック11b1と、可動体12の上端に形成されたフック12aとにより、コイルスプリングSを挟持して圧縮状態で保持できるようになされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルスプリングを圧縮状態で保持するコイルスプリングの圧縮保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された従来技術によるコイルスプリングの圧縮保持具の構造について、図5を用いて説明する。
図示するように、コイルスプリングの圧縮保持具100は、シャフト200のまわりに挿嵌されたコイルスプリング300を圧縮した状態でシャフト200に組付けられる金属製部材であり、円輪板状の本体部110と、この本体部110の外縁から延出する係合部120とを備えている。
なお、シャフト200は、圧縮保持具100を利用するための専用部品であり、圧縮保持具100を取り付けるためのアンダーカット210が施されている。
【0003】
また、本体部110の中心には円形の遊嵌孔110aが穿設されている。また、遊嵌孔110aの直径はシャフト200の外径よりも大きくなされている。また、本体部110のうちのシャフト遊嵌孔110a以外の部分は当接板部110bとして形成されており、この当接板部110bの裏面がコイルスプリング300の端部に押し付けられるようになされている。
【0004】
また、上記のように構成された圧縮保持具10は、以下のように用いられる。
具体的には、図5(a)、(b)に示すように、コイルスプリング300が挿嵌されたシャフト200に対して、本体部110のシャフト遊嵌孔110aをシャフト200の上方から遊嵌して当接板部110bの裏面でコイルスプリング300の上端面を押し下げていく(コイルスプリング300を圧縮していく)。
また、上記のようにコイルスプリング300を圧縮しながらシャフト200に保持具100を挿嵌していき、図5(c)に示すように係合部120の先端がシャフト200のアンダーカット部210に到達したら、保持具100の当接板部110bに加えていた押し下げ力を解除する。
【0005】
そして、前記解除により、コイルスプリング300の上向き弾性復帰力により保持具100が挿嵌進行方向と逆方向(図5において上向き)に押し戻されるが、このとき保持具100の係合部120の先端とシャフト遊嵌孔110aの中心軸との距離rがシャフト200のアンダーカット部210の直前部分の半径Rよりも小さくなっているため、図5(d)に示すように係合部120の先端がアンダーカット部210のえら210aに引っ掛かる。また、係合部120は、コイルスプリング300の上向き弾性復帰力により本体部110側に倒れるように傾動して本体部110に密着し、シャフト200のアンダーカット部210のえら210aに確実に係合され、外れなくなる。
このように、特許文献1の圧縮保持具100によれば、コイルスプリング300を圧縮状態にして保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−28222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した図5の圧縮保持具100は、圧縮状態で保持されたコイルスプリング300の圧縮状態を解除して、圧縮保持具100を取り外す作業が困難であるという技術的課題を有している。
具体的には、圧縮保持具100により圧縮状態で保持されたコイルスプリング300の圧縮状態を解除する場合には、専用の圧縮設備を用意して、その圧縮設備を使って圧縮状態で保持されたコイルスプリング300を更に圧縮した上で、圧縮保持具100およびシャフト200を取り外す必要があり、その手間が面倒であった。
また、対象のコイルスプリング300の弾性力が大きい場合、シャフト200のアンダーカット部210からコイルスプリング300を外すと、圧縮状態のコイルスプリングの弾性力が一気に解放されるため(弾性力の強いコイルスプリングが急激に伸びるため)、作業者にとり危険な作業になっていた。
【0008】
また、上述した図5に示した圧縮保持具100は、アンダーカット210が施された専用部品のシャフト200と対になって初めてコイル300の圧縮保持具として機能する。すなわち、圧縮保持具100には、専用部品であるシャフト200が必要になるため治具自体のコストが高いものになっていた。
また、コイル300を圧縮する場合においても、上述したように、専用のシャフト200にコイル300を挿嵌する作業を行わなければならず、圧縮保持作業の手間も面倒であった。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、コイルスプリングを圧縮状態にして保持すると共に、そのコイルスプリングの圧縮状態の解除を簡単且つ安全に行うことができるコイルスプリングの圧縮保持治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明は、相対向した配置された一対の本体部と、該本体部に取り付けられた操作部とを有するコイルスプリングの圧縮保持治具であって、前記本体部は、上面部および底面部を備え、該上面部に開口が形成されている中空筒状のホルダと、前記ホルダの筒内に軸芯方向を摺動自在に且つ前記開口から出し入れ自在に収容されている楔状の可動ロッドと、前記ホルダの筒内に前記可動ロッドと相対向させて収容されている楔状の固定ロッドとを備え、操作つまみと、該操作つまみの位置に応じて、前記ホルダの径方向に前記可動ロッドを付勢する力の大きさを変えて前記可動ロッドの軸芯方向への動作を固定し、或いは該軸芯方向への動作の固定を解除する付勢部とを備え、前記ホルダの底面部には、該ホルダの軸芯方向と直交方向に延設された第1フックが形成され、前記可動体の上端には、前記第1フックと相対向する第2フックが形成され、前記第1フックと、前記第2フックとにより、前記コイルスプリングを挟持できるようになされていることを特徴としている。
【0011】
また、前記操作つまみにより前記可動ロッドの軸芯方向の動作を固定し、前記第1フックと、前記第2フックとにより圧縮状態のコイルスプリングを挟持することにより、前記コイルスプリングを圧縮状態で保持できるようになされ、さらに、前記操作つまみにより前記可動ロッドの軸芯方向の固定を解除することにより、前記コイルスプリングの圧縮状態を解除できるようになされていることが望ましい。
【0012】
このように本発明によれば、操作つまみを調節することにより、コイルスプリングを挟持する第2フックが形成された可動ロッドの軸芯方向の動作を固定したり、或いは、可動ロッドの軸芯方向の動作の固定を解除したりできる。
そのため、圧縮状態で保持されたコイルスプリングの圧縮状態を解除する場合、操作つまみを操作して可動ロッドの軸芯方向の動作の固定を解除すればよく、上述した従来技術のものと比べて、前記圧縮状態の解除を簡単に行うことができる。
また、本発明のコイルスプリングの圧縮保持治具は、上述した従来技術のように、専用部品であるシャフトが必要ないため、圧縮保持治具のコストを抑えることができる。
【0013】
また、本発明では、上端に第2フックが形成された可動ロッドが楔状になされており、その可動ロッドは、ホルダの筒内において、楔状の固定ロッドと相対向して配置され収容されている。
そのため、第1フックと、第2フックとにより圧縮状態のコイルスプリングが挟持されている状態において、操作つまみを操作して付勢部による可動ロッドを付勢する力(ホルダの径方向への力)を弱めた場合(すなわち、可動ロッドの軸芯方向の固定を解除した場合)、コイルスプリングからの軸芯方向への弾性力により、可動ロッドが上方に付勢されるが、上方への力がテーパ形状により低減されるため、圧縮されたコイルスプリングが急激に伸びることが防止される。
したがって、本発明によれば、圧縮保持したコイルスプリングの圧縮状態を解除する作業を安全に行うことができる。
【0014】
また、前記可動ロッドには、上端から下端に向けて径方向が徐々に広がる第1のテーパ面が形成され、前記固定ロッドは、下端から上端に向けて径方向が徐々に広がる第2のテーパ面が形成され、前記可動ロッドおよび前記固定ロッドは、前記ホルダの筒内において、第1のテーパ面と、第2のテーパ面とを相対向させて収容されていることが望ましい。
このように構成することにより、可動ロッドへの軸芯方向の力(荷重)は、可動ロッドのテーパ面と、固定ロッドのテーパ面との摩擦により低減される。
そのため、例えば、可動ロッドが固定(ロック)されている場合に、可動ロッドがホルダの上面部方向に強い荷重を受けても、可動ロッドのロックが解除されることが防止される。
また、前記圧縮状態のコイルスプリングが挟持している場合に、操作つまみにより可動ロッドの軸芯方向へのロックを解除した場合、可動ロッドへのホルダの上方向への力(荷重)がテーパ面により軽減されるため、圧縮されたコイルスプリングが急激に伸びることを抑制することができる。
【0015】
また、前記ホルダは、前記固定ロッドに当接している側面部に切り欠き部が形成され、前記付勢部は、シャフトと、該シャフトの両端に取り付けられ、該シャフトと共に回転する一対の偏芯カムとにより構成され、前記操作つまみは、前記シャフトの外周側面に突設されており、前記シャフトは、前記一対の本体部のホルダに架け渡され、該ホルダの側面部に回転自在に支持され、前記偏芯カムの外周面が、ホルダの切り欠き部に挿入され、ホルダに収容された固定ロッドに当接していることが望ましい。
このように本発明の操作部は、シャフトおよび偏芯カムと、シャフトの外周側面に突設された操作つまみという簡単な構造で構成されている。
そのため、本発明によれば、コイルスプリングを圧縮状態にして保持すると共に、そのコイルスプリングの圧縮状態の解除を行う圧縮保持治具を低コストで提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コイルスプリングを圧縮状態にして保持すると共に、該コイルスプリングの圧縮状態の解除を簡単且つ安全に行うことができるコイルスプリングの圧縮保持治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具を正面から見た模式図である。
【図2】本発明の実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具を側面から見た模式図である。
【図3】本発明の実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具の動作を説明するための模式図である。
【図4】本発明の実施形態の圧縮保持治具の偏芯カムと可動ロッドとの関係を示した模式図である。
【図5】従来技術によるコイルスプリングの圧縮保持具の断面を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具について図面に基づいて説明する。
先ず、本実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具の構成について図1および図2を用いて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具を正面から見た模式図である。また、図2は、本発明の実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具を側面から見た模式図である。また、図2(a)は、本実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具の外観図を示しており、図2(b)は、本実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具の断面図を示している。
【0020】
図1に示すように、コイルスプリングの圧縮保持治具1は、コイルスプリングS(図3参照)を挟持して圧縮状態で保持(圧縮保持)する一対の本体部10と、本体部10による前記圧縮保持の解除等の操作を行う操作部20とを備えている。
なお、一対の本体部10は、相対向して配置されている。また、操作部20は、一端側が一方の本体部10に取り付けられ、他端側が他方の本体部10に取り付けられ、作業者が行う簡単な操作により、本体部10によるコイルスプリングSの圧縮保持状態を解除できるようになされている。
なお、圧縮保持治具1は、どのような材料で形成されていてもよいが、例えば、鉄やステンレス等の金属により形成されている。
【0021】
具体的には、図2に示すように、本体部10は、上面部11aおよび底面部11bを備え、上面部11aに開口11a1(図2(b)参照)が形成された中空筒状のホルダ11と、ホルダ11の筒内に軸芯方向(図示するY方向)を摺動自在に、且つ開口11a1から出し入れ自在に収容されている楔状の可動ロッド12と、ホルダ11の筒内に、可動ロッド12と相対向させて収容されている楔状の固定ロッド13とを備えている。
【0022】
また、可動ロッド12には、上端から下端に向かうにつれて径方向が徐々に広がるテーパ面12bが形成されている。また、固定ロッド13には、下端から上端に向かうにつれて径方向が徐々に広がるテーパ面13bが形成されている(図2(b)参照)。
そして、可動ロッド12および固定ロッド13は、ホルダ11の筒内において、可動ロッド12のテーパ面12bと、固定ロッド13のテーパ面13bとを相対向させた状態(微少な隙間を有した状態)で配置され収容されている。
【0023】
また、図2に示すように、ホルダ11の固定ロッド13に当接している側面部11cには、側面部11cを貫通する切り欠き部11c1が形成され、この切り欠き部11c1に、後述する偏芯カム22が配置されている。
【0024】
また、ホルダ11の底面部11bには、ホルダ11の軸芯方向と直交方向(図1に示すZ方向)に延設された板状のフック部11b1が形成されている。
また、可動ロッド12の上端部には、ホルダ11の底面部11bのフック部11b1と相対向する板状のフック部12aが形成されている。
そして、図3に示すように、ホルダ11のフック部11b1と、可動ロッド12のフック部12aとにより、コイルスプリングSが挟持され圧縮状態で保持できるようになされている。
【0025】
また、操作部20は、棒状のシャフト(付勢部)21と、シャフト21の両端に取り付けられ、シャフト21と共に回転する一対の偏芯カム(付勢部)22と、シャフト21の外周側面に突設されたレバー(操作つまみ)23とを備えている(図1参照)。
また、シャフト21は、一対の本体部10のホルダ11の側面部11cに架け渡され、ホルダ11の側面部11cの切り欠き部11c1の近傍において、支持部材(支持金具等)30により回転自在(シャフト21の軸芯を中心に回転自在)に支持されている。
【0026】
具体的には、操作部20は、偏芯カム22の外周面22aが、本体部10のホルダ11の切り欠き部11c1に挿入され、ホルダ11の内部に収容された固定ロッド13に当接させた状態で、ホルダ11に取りつけられる。
この構成により、ホルダ11に収容された可動ロッド12は、偏芯カム22により、固定ロッド13を介して、ホルダ11の径方向(X方向)に付勢される(図2参照)。
また、レバー23を回転させると、シャフト21と共に偏芯カム22が回転するようになされているため、偏芯カム22の位置により、可動ロッド12に付勢する力の大きさを調節することができる。
そして、本実施形態では、レバー23により回転させた偏芯カム22の位置により、可動ロッド12の軸芯方向(Y方向)の動作を固定したり(ロックしたり)、軸芯方向(Y方向)の動作の固定を解除したりできるようになされている。
【0027】
すなわち、本実施形態の操作部20は、レバー23の位置に応じて、ホルダ11の径方向(X方向)に付勢する力の大きさを変えて、可動ロッド12の軸芯方向への動作を固定したり、或いは該軸芯方向への動作の固定を解除したりできるようになされている。
【0028】
具体的には、可動ロッド12の軸芯方向(Y方向)の動作を固定する場合、可動ロッド12が、固定ロッド13を介して偏芯カム22から最大の力(X方向の力)を受けるように、レバー23により偏芯カム22の位置を調節する。
なお、本実施形態では、固定ロッド13に当接する偏芯カム22の外周面22aが、シャフト21の軸芯からの長さ寸法が最大となる外周面22aである場合(図2に示す位置に偏芯カム22が配置される場合)、可動ロッド12が固定される(ロックされる)ようになされている。
【0029】
一方、可動ロッド12の軸芯方向(Y方向)の動作の固定を解除する場合(ロックを解除する場合)、可動ロッド12が、固定ロッド13を介して受ける偏芯カム22からの力(X方向の力)が小さくなるように、レバー23により偏芯カム22の位置を調節する。
なお、本実施形態では、固定ロッド13に当接する偏芯カム22の外周面22aが、シャフト21の軸芯からの長さ寸法が最小の外周面22aである場合(図4(b)に示す位置に偏芯カム22が配置される場合)、可動ロッド12の固定が解除される(ロックが解除される)ようになされているものとするが、あくまでもこれは一例に過ぎない。圧縮対象のコイルスプリングSの弾性力に応じて、ロックが解除される偏芯カム22の位置は定められる。
【0030】
さらに、本実施形態では、ホルダ11の筒内において、可動ロッド12および固定ロッド13は、可動ロッド12のテーパ面12bと、固定ロッド13のテーパ面13bとを相対向させた状態で配置され収容されている。
そのため、可動ロッド12にかかる軸芯方向(Y方向)への力(荷重)は、可動ロッド12のテーパ面12aと、固定ロッド13のテーパ面13bとの摩擦により低減される。
【0031】
したがって、本実施形態では、操作部20の偏芯カム22により、可動ロッド12が固定(ロック)されている場合に、可動ロッド12が軸芯方向(Y方向)に強い荷重を受けても、その荷重がテーパ形状により低減されるためロックが解除されることが防止される。
また、本実施形態では、操作部20により、圧縮状態で保持されたコイルスプリングSの圧縮状態を解除すると(偏芯カム22からの力(X方向の力)を弱くすると)、コイルスプリングSからの軸芯方向(図示する上方向)への弾性力により、可動ロッド12が上方に付勢されるが、上記同様、上方向への力がテーパ形状により低減されるため、圧縮されたコイルスプリングが急激に伸びることが防止される。
【0032】
次に、本実施形態の圧縮保持治具1の動作について、上述した図1と、図3および図4とを用いて説明する。
図3は、本発明の実施形態のコイルスプリングの圧縮保持治具の動作を説明するための模式図である。また、図3(a)は、圧縮保持治具1によりコイルスプリングSが圧縮保持されている状態を示し、図3(b)は、圧縮保持治具1がコイルスプリングSの圧縮保持状態を解放した状態を示している。
また、図4は、本発明の実施形態の圧縮保持治具の偏芯カムと可動ロッドとの関係を示した模式図である。また、図4(a)は、図3(a)に示す圧縮保持治具1の偏芯カム22および可動ロッド12の状態を示した模式図であり、図4(b)は、図3(b)に示す圧縮保持治具1の偏芯カム22および可動ロッド12の状態を示した模式図である。
【0033】
先ず、コイルスプリングSを圧縮状態で保持する場合の圧縮保持治具1の操作方法および動作について説明する。
圧縮保持治具1により、コイルスプリングSを圧縮状態で保持する場合、予め、一対の本体部10のそれぞれについて、ホルダ11の底部11bのフック部11b1と、ホルダ11に収納された可動ロッド12の上端に形成されたフック部12aとの間の長さ寸法(図1に示すY1)を調節した上で、レバー23を回転させて可動ロッド12を固定する。
具体的には、レバー23を操作して(回転させて)、図4(a)に示す位置に偏芯カム22を配置させると可動ロッド23が固定された状態(ロック状態)になる。
【0034】
つぎに、コイルスプリングSを圧縮してから(例えば、図示しない圧縮装置により圧縮する)、固定した可動ロッド12の上端のフック部12aと、ホルダ11の底面部11bのフック部11b1とにより、コイルスプリングSの圧縮部分S1を挟持させる(一対の本体部10の両者でコイルスプリングSの圧縮部分S1を挟持させる)。
【0035】
具体的には、コイルスプリングSを圧縮し、つぎに、図3(a)に示すように、コイルスプリングSの圧縮部分S1の下端部の下側に、ホルダ10の底面部11bのフック部11b1を挿入する。また、コイルスプリングSの圧縮部分S1の上端部の上方に、ホルダ11の上面部11a側に固定されているフック部12aを挿入する。
そして、圧縮部分S1の上下両端部に対する、フック部11b1およびフック部12aの挿入が完了すると、コイルスプリングSの圧縮を解除する(例えば、圧縮装置で圧縮している場合には、圧縮装置による圧縮を止める)。
【0036】
また、上記のように、コイルスプリングSの圧縮を解除すると、圧縮されたコイルスプリングSは、コイルスプリングSの軸芯方向(Y方向)に延びるが、圧縮部分S1は、フック部11b1およびフック部12aに挟まれているため、圧縮部分S1の下端部がフック部11b1により係止され、圧縮部分S1の上端部がフック部12aにより係止される。
【0037】
その結果、図3(a)に示すように、コイルスプリングSは、圧縮状態のまま、フック部11b1およびフック部12aにより挟持され、圧縮状態で保持される。
なお、上述したように、可動ロッド12のテーパ面12bが、固定ロッド13のテーパ面13bに相対向させた状態で配置され収容されているため、可動ロッド12の上端のフック部12aが、軸芯方向(Y方向)に大きな力(コイルスプリングSの弾性力)を受けても、テーパ形状による効果により、ロック状態が解除されてフック部12aが動くことが防止されている。
【0038】
次に、圧縮状態で保持されたコイルスプリングSの圧縮状態を解除して、圧縮保持治具1を取り外す場合の圧縮保持治具1の操作方法および動作について説明する。
図3(a)に示すように、コイルスプリングSを圧縮状態で保持している圧縮保持治具1に対して、操作部20のレバー23を回転させ、可動ロッド12の固定を解除する(ロックを解除する)。
【0039】
具体的には、レバー23を操作して(回転させて)、図4(a)の位置から図4(b)に示す位置に偏芯カム22の位置を動かすと(最大で90度回転させると)、偏芯カム22が、ホルダ11の径方向(X方向)に、固定ロッド13を介して可動ロッド12を押しつける付勢力が弱まる。
【0040】
その結果、図3(b)に示すように、可動ロッド12は、上端のフック部12aに当接している圧縮状態のコイルスプリングSからの軸芯方向(Y方向)の力(コイルスプリングSの弾性力)により、コイルスプリングSと共に上方に押し上げられる。
なお、本実施形態の圧縮保持治具1は、上述した通り、ホルダ11の内部において可動ロッド12のテーパ面12bを、固定ロッド13のテーパ面13bに相対向させて配置させるようにしている。
【0041】
したがって、圧縮保持具1は、レバー23が操作されて偏芯カム22からの付勢力が弱まった場合においても、上述したテーパ形状の効果により、可動ロッド12が受けるコイルスプリングSからの上方向への力が低減される。
そのため、圧縮保持治具1は、圧縮状態で保持されたコイルスプリングSの圧縮状態を解除した場合、可動ロッド12が急激に押し上げられることなく、遅い速度で押し上げられる(ゆっくり上方に向けて押し上げられる)ようになる。
すなわち、本実施形態では、可動ロッド12により、圧縮されたコイルスプリングが急激に伸びることが防止される。
【0042】
このように、本実施形態の圧縮保持治具1は、圧縮状態で保持されたコイルスプリングSの圧縮状態を解除して圧縮保持治具1を取り外す場合、レバー23を回転させるという簡単な操作により、コイルスプリングSの圧縮状態を解除することができる。
また、本実施形態の圧縮保持治具1は、上述したように、圧縮状態で保持されたコイルスプリングSの圧縮状態を解除しても、圧縮されたコイルスプリングが急激に伸び上がることがないため、安全に作業することができる。
また、本実施形態の圧縮保持治具1は、上述した従来技術の圧縮保持具100のように、コイルスプリングSを圧縮するための専用部品(アンダーカット210が施されたシャフト200)を設ける必要がないため、圧縮保持治具1自体のコストを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態の圧縮保持治具1は、例えば、自動車の生産工程において、車体ボディにサスペンションを組み付ける工程等に利用する場合に特に有効である。
具体的には、車体ボディにサスペンションを組み付ける工程では、サスペンションの構成部品である弾性力の大きいコイルスプリングを圧縮状態にして、サスペンションを車体ボディに取り付ける。そして、サスペンションを車体ボディに取り付けた後で、コイルスプリングの圧縮状態を解除することが行われている。
そして、本実施形態の圧縮保持治具1を利用することにより、車体ボディにサスペンションを組み付ける作業の手間を軽減することができる。また、本実施形態の圧縮保持治具1を利用することにより、車体ボディにサスペンションを組み付ける作業を安全に行うことができる。
【0044】
また、車体ボディにサスペンションを組み付ける工程において、コイルスプリングを圧縮状態にして保持するため治具として、ベルトタイプの治具も使われているが、ベルトタイプの治具は、コイルスプリングに取りつける際の工数が多いと共に、治具自体の消耗が早いためランニングコストがかかっていた。
これに対して、本実施形態の圧縮保持治具1は、上述した通りで、簡作な作業により、コイルスプリングの圧縮保持と、当該圧縮保持状態の解除を行えるため、ベルトタイプの治具に比べて、車体ボディにサスペンションを組み付ける工程の生産性を向上させることができる。
また、例えば、本実施形態の圧縮保持治具1を金属により形成することにより、ベルトタイプの治具に比べて消耗しないため、ランニングコストが抑制される。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態の圧縮保持治具1によれば、コイルスプリングを圧縮状態にして保持すると共に、そのコイルスプリングの圧縮状態の解除を簡単且つ安全に行うことができる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【0046】
例えば、上述した実施形態では、操作部20は、シャフト21と、シャフト21の両端に取り付けられた一対の偏芯カム22と、シャフト21の外周側面に突設されたレバー23とにより構成されているが、特にこれに限定するものではない。
操作部20は、簡単な操作により、固定ロッド13を介して、ホルダ11の径方向(X方向)に付勢する力の大きさを可変して、可動ロッド12の軸芯方向への動作を固定したり、或いは該軸芯方向への動作の固定を解除したりできるようになされていれば、どのような構成でもかまわない。
【符号の説明】
【0047】
S コイルスプリング
S1 圧縮部分S1(コイルスプリング)
1 圧縮保持治具
10 本体部
11 ホルダ(本体部)
11a 上面部(ホルダ(本体部))
11b 底面部(ホルダ(本体部))
11b1 フック部(ホルダ(本体部))
11c 側面部(ホルダ(本体部))
11c1 切り欠き部(ホルダ(本体部))
12 可動ロッド(本体部)
12a フック部(可動ロッド(本体部))
12b テーパ面(可動ロッド(本体部))
13 固定ロッド(本体部)
13b テーパ面(固定ロッド(本体部))
20 操作部
21 シャフト(操作部)
22 偏芯カム(操作部)
22a 外周面(偏芯カム(操作部))
23 レバー(操作部)
30 支持部材(本体部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向した配置された一対の本体部と、該本体部に取り付けられた操作部とを有するコイルスプリングの圧縮保持治具であって、
前記本体部は、上面部および底面部を備え、該上面部に開口が形成されている中空筒状のホルダと、前記ホルダの筒内に軸芯方向を摺動自在に且つ前記開口から出し入れ自在に収容されている楔状の可動ロッドと、前記ホルダの筒内に前記可動ロッドと相対向させて収容されている楔状の固定ロッドとを備え、
操作つまみと、該操作つまみの位置に応じて、前記ホルダの径方向に前記可動ロッドを付勢する力の大きさを可変して前記可動ロッドの軸芯方向への動作を固定し、或いは該軸芯方向への動作の固定を解除する付勢部とを備え、
前記ホルダの底面部には、該ホルダの軸芯方向と直交方向に延設された第1フックが形成され、前記可動体の上端には、前記第1フックと相対向する第2フックが形成され、
前記第1フックと、前記第2フックとにより、前記コイルスプリングを挟持できるようになされていることを特徴とするコイルスプリングの圧縮保持治具。
【請求項2】
前記操作つまみにより前記可動ロッドの軸芯方向の動作を固定し、前記第1フックと、前記第2フックとにより圧縮状態のコイルスプリングを挟持することにより、前記コイルスプリングを圧縮状態で保持できるようになされ、
さらに、前記操作つまみにより前記可動ロッドの軸芯方向の固定を解除することにより、前記コイルスプリングの圧縮状態を解除できるようになされていることを特徴とする請求項1に記載のコイルスプリングの圧縮保持治具。
【請求項3】
前記可動ロッドには、上端から下端に向けて径方向が徐々に広がる第1のテーパ面が形成され、
前記固定ロッドには、下端から上端に向けて径方向が徐々に広がる第2のテーパ面が形成され、
前記可動ロッドおよび前記固定ロッドは、前記ホルダの筒内において、第1のテーパ面と、第2のテーパ面とを相対向させた状態で収容されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコイルスプリングの圧縮保持治具。
【請求項4】
前記ホルダは、前記固定ロッドに当接している側面部に切り欠き部が形成され、
前記付勢部は、シャフトと、該シャフトの両端に取り付けられ、該シャフトと共に回転する一対の偏芯カムとにより構成され、
前記操作つまみは、前記シャフトの外周側面に突設されており、
前記シャフトは、前記一対の本体部のホルダに架け渡され、該ホルダの側面部に回転自在に支持され、
前記偏芯カムの外周面が、ホルダの切り欠き部に挿入され、ホルダに収容された固定ロッドに当接していることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のコイルスプリングの圧縮保持治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−194648(P2010−194648A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40766(P2009−40766)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(398010416)三和工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】