説明

コイル装置、トランスおよびスイッチング電源

【課題】プリント基板の導体パターンを有効利用しつつ、コイルの巻数を多くしても大電流を流すことが可能であり、かつ小型化しつつ製造工程を簡略化することが可能なコイル装置を提供する。
【解決手段】多層プリント基板10の各層に設けられたコイル巻回部22A,22B,22C,22Dを互いに電気的に接続して構成された1次側第1コイル部21と、多層プリント基板10と対向して配置されると共に1次側第1コイル部21と電気的に直列接続された1次側第2コイル部25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板のコイル状導体パターンを利用したコイル装置、トランスおよびスイッチング電源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な電子機器においてプリント基板が広く用いられている。このプリント基板は絶縁基板上に導体パターンを配線として備え、その配線と、プリント基板上に搭載された回路部品とを互いに接続することにより回路の一部を構成する。
【0003】
このプリント基板は、スイッチング電源にもごく一般に用いられている。ところが、出力電力が1kW程度以上の比較的大きな電力で、かつ大電流が流れるスイッチング電源では、トランスやチョークコイルが重く大きくなるので、それらをプリント基板上に搭載することは一般的に困難である。そのため、それらは、特許文献1に記載されているように、一般的に、プリント基板の代わりに、金属製のベースプレートなどに直接固定されると共に、プリント基板上に設けられた金属製端子台などにねじ止めされたり、あるいは、はんだ付けによりプリント基板上の回路部品と接続される。他方、制御回路やドライブ回路を構成する小電力の回路部品や、電流の大きさが比較的小さな高電圧側のフィルタ回路などは、一般的に、プリント基板上に搭載される。
【0004】
一方、トランスやチョークコイルを、プリント基板を利用して薄型化する技術が多数提案されている。例えば特許文献2では、プリント基板の導体パターンからなるプリントコイルに、そのプリントコイルと同形状の導体板からなるコイルが並列に接続された大電流用コイルが提案されている。これにより、コイルの断面積はプリントコイルの断面積と導体板からなるコイルの断面積との合計となり、大電流に耐えうるコイルを提供できるとしている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−314080号公報
【特許文献2】特開昭59−152606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献2では、プリントコイルと金属板コイルとが互いに並列に接続されているので、コイル全体の巻数を変更するにはプリントコイルおよび金属板コイルの双方の巻数を変更しなければならない。しかし、そのようにして巻数を変更すると、巻数が多くなるにつれて巻線同士の間隙(クリアランス)の分だけ断面積が減少してしまい、大電流を流すことが困難となる。
【0007】
また、特許文献2では、プリント基板の導体パターンの厚さは一般に35μm程度と薄く、配線の断面積を大きくとることが容易でないことから、プリントコイルと金属板コイルが並列接続されているため、電流容量が大きくなるにつれて、コイル全体としての断面積のほとんどは導体板によって確保されることになる。従って、わざわざ高価なプリント基板を用いなくてもプリントコイルの断面積の分だけ導体板を厚くすれば足りるのであり、多層プリント基板の導体パターンを有効に利用しているとは言い難い。
【0008】
さらに、プリントコイルと金属板コイルが並列接続されているため、両コイルに流れる交流電流は、表皮効果や磁心の漏洩磁束などの影響により、断面積に比例して均一に流れず偏ってしまう。
【0009】
また、上記特許文献1では、金属製端子台を配置し、トランスやチョークコイルをプリント基板上の回路部品と電気的に接続する際にねじ止め等が必要となるが、これらの工程は多層プリント基板上の回路部品のはんだ付けとは異なる特別の工程となるので、製造工程が複雑化してしまう。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的の一側面は、プリント基板の導体パターンを有効に利用しつつ、コイルの巻数を多くしても大電流を流すことの可能なコイル装置、トランスおよびスイッチング電源を提供することにある。また、目的の他の側面は、小型化しつつ製造工程を簡略化することの可能なコイル装置、トランスおよびスイッチング電源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のコイル装置は、多層プリント基板の各層に設けられたコイル状導体パターンを互いに電気的に接続して構成された第1のコイル部と、多層プリント基板と対向して配置されると共に第1のコイル部と電気的に直列接続された導体板により構成された第2のコイル部とを備えたものである。
【0012】
このとき、各層のコイル状導体パターンを1ターンで構成してもよい。第2のコイル部を1枚または複数枚の導体板により構成してもよい。さらに、全てのコイル状パターンを直列に接続してもよいが、第1コイル部をコイル状導体パターン同士が並列接続された並列接続組を少なくとも1組有している構成としてもよく、第1コイル部をコイル状導体パターン同士がすべて並列接続されている構成としてもよい。ここで、第2のコイル部を複数枚の導体板により構成する場合には、複数枚の導電板を多層プリント基板の一面側に配置したり、多層プリント基板の両面に分けて配置することも可能である。
【0013】
また、第1のコイル部および第2のコイル部を、例えば、多層プリント基板に接続用穴を形成すると共に第2のコイル部の嵌入部を形成し、嵌入部を接続用穴に嵌入することにより電気的に接続したり(接続方法A)、また、例えば、多層プリント基板に接続用パッドを形成し、第2のコイル部を接続用パッドに接続することにより電気的に接続する(接続方法B)してもよい。なお、これら接続用穴や接続用パッドは、最外層のコイル状導体パターンに設けるようにしてもよい。さらに、嵌入部はコイルの一端を屈曲することにより設けてもよい。
【0014】
また、本発明のトランスは、1次側コイルおよび2次側コイルを備えたものである。1次側コイルおよび2次側コイルのいずれか一方は、多層プリント基板の各層に設けられたコイル状導体パターンを互いに電気的に接続して構成された第1のコイル部と、多層プリント基板と対向して配置されると共に第1のコイル部と電気的に直列接続された導体板により構成された第2のコイル部とを有する。
【0015】
本発明のスイッチング電源は、入力電圧をスイッチングしてパルス電圧を生成するスイッチング回路と、パルス電圧を変圧するトランスとを備えたものである。トランスは、1次側コイルおよび2次側コイルを有しており、1次側コイルおよび2次側コイルのいずれか一方は、多層プリント基板の各層に設けられたコイル状導体パターンを互いに電気的に接続して構成された第1のコイル部と、多層プリント基板と対向して配置されると共に第1のコイル部と電気的に直列接続された導体板により構成された第2のコイル部を有する。多層プリント基板には、スイッチング電源を制御する制御回路やスイッチング素子、入出力平滑回路の回路部品の全てまたは一部が搭載されてもよい。また、第1のコイル部と第2のコイル部は多層プリント基板に設けられた配線によってスイッチング回路やその他のプリント基板に搭載された回路素子に接続されてもよい。
【0016】
本発明のコイル装置、トランスおよびスイッチング電源では、第1のコイル部および第2のコイル部は互いに直列に接続されているので、第1のコイル部および第2のコイル部の合計巻数がコイル装置の巻数となる。第1のコイル部では、各コイル状導体パターンの断面積を自由に変更することは容易ではないが、複数のコイル状導体パターンを有しているので、それらの接続態様を並列接続等に調整することにより、要求される電流容量に対して第1のコイル部の断面積を最適化することが可能である。また、第2のコイル部では、導体板の断面積や巻数を自由に変更することが容易であるので、要求されるコイル全体としての巻数を第1のコイル部だけでまかなえない場合には、導体板の巻数を調整することにより、コイル全体としての巻数を最適化することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のコイル装置、トランスおよびスイッチング電源装置によれば、多層プリント基板の各層に設けられたコイル状導体パターンからなる第1のコイル部と、多層プリント基板上に設けられた導体板からなる第2のコイル部とを互いに直列に接続するようにしたので、第1のコイル部の断面積を要求される電流容量に対して最適化した際にコイル全体としての巻数が不足した場合には、巻数の不足分を第2のコイル部で補うことができる。これにより、要求されるコイル全体としての断面積や巻数を最適化することができるので、多層プリント基板の導体パターンを有効に利用しつつ、コイルの巻数を多くしても大電流を流すことができる。
【0018】
ここで、第2のコイル部を多層プリント基板の一方の面側にだけ配置した場合に、上記接続方法Aを用いて第1のコイル部および第2のコイル部を電気的に接続するときには、他のリード部品をはんだ付けする工程を利用することができるので、第1のコイル部および第2のコイル部をはんだ付けするための特別な工程は必要ない。また、第2のコイル部の位置は接続用穴によって決定されるので、第2のコイル部を接着剤などでわざわざ固定する必要もなく、第2のコイル部と他の部品との絶縁距離を確実に確保することができる。また、第2のコイル部を多層プリント基板の一方の面側にだけ配置した場合に、上記接続方法Bを用いて第1のコイル部および第2のコイル部を電気的に接続するときには、他の表面実装部品をはんだ付けする工程を利用することができるので、第1のコイル部および第2のコイル部をはんだ付けするための特別な工程は必要ない。また、金属製端子台など、第1のコイル部や第2のコイル部を多層プリント基板上の回路部品と電気的に接続するための部品を配置するためのスペースも必要ない。したがって、第2のコイル部を多層プリント基板の一方の面側にだけ配置した場合に、上記接続方法A,Bを用いたときには、小型化しつつ製造工程を簡略化することができる。
【0019】
また、本発明のトランスおよびスイッチング電源装置では、多層プリント基板の構成を変更しなくても、第2のコイル部の巻数を変更するだけでコイル全体としての巻数を変更することができるので、トランスの巻数比を容易に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係るトランス1の構成を展開して表す概念図である。図2、図4および図6は図1の1次側第1コイル部21のA−A矢視方向の断面構成例を表す。また、図3は図2に対応する1次側第1コイル部21の構成を、図5は図4に対応する1次側第1コイル部21の構成を、図7は図6に対応する1次側第1コイル部21の構成をそれぞれ展開して表す概念図である。
【0021】
トランス1は、2次側コイル30、1次側コイル20(コイル装置)および2次側コイル40が絶縁シートSを介してこの順に重ね合わされると共に磁芯に巻回されることにより互いに磁気結合された磁気素子である。このトランス1は、1次側コイル20の一部に多層プリント基板10(後述)の銅箔が利用されたものである。
【0022】
このトランス1は、降圧型のトランスであり、1次側コイル20の引出部26,27 (後述)に入力された入力交流電圧を変圧(降圧)し、2次側コイル30の引出部32,33(後述)および2次側コイル40の引出部42,43(後述)から出力交流電圧を出力するようになっている。なお、この場合の変圧の度合いは、1次側コイル10と、2次側コイル20または2次側コイル40との巻数比によって定まる。また、本例では降圧型として示してあるが、昇圧型にも適用可能である。
【0023】
磁芯は、磁心50Aと磁心50Bとを互いに重ね合わせて構成されたものであり、その中心部分に、巻線の積層方向に延在する円柱状の中足50Cを有する。なお磁心は、例えば図1に示したようにE型同士を重ね合わせたものであってもよいし、E型のものとI型のものとを互いに重ね合わせたものであってもよい。
【0024】
2次側コイル30は、中足50Cの延在方向に垂直な面内に1巻きされたリング状の導体板からなるコイル巻回部31と、コイル巻回部31に電気的に接続された矩形状の導体板からなる一対の引出部32,33と、引出部32,33の近傍に設けられたスリット状のギャップ34とを有する。すなわち、2次側コイル30は1ターンのコイルである。
【0025】
2次側コイル40は、2次側コイル30と同様、中足50Cの延在方向に垂直な面内に1巻きされたリング状の導体板からなるコイル巻回部41と、コイル巻回部41に電気的に接続された矩形状の導体板からなる一対の引出部42,43と、引出部42,43の近傍に設けられたスリット状のギャップ44とを有する。すなわち、2次側コイル40は、2次側コイル30と同様、1ターンのコイルである。
【0026】
1次側コイル20は、多層プリント基板10に設けられた1次側第1コイル部21(第1のコイル部)と、多層プリント基板10とは別個に設けられた1次側第2コイル部25(第2のコイル部)とを有している。1次側第1コイル部21の一端と1次側第2コイル部25の一端とが互いに電気的に接続されると共に、1次側第1コイル部21の他端が引出部26に、1次側第2コイル部25の他端が引出部27にそれぞれ電気的に接続されている。すなわち、1次側第1コイル部21および1次側第2コイル部25は、互いに電気的に直列接続されているので、1次側第1コイル部21および1次側第2コイル部25の合計巻数が1次側コイル20全体の巻数となる。従って、1次側第1コイル部21および1次側第2コイル部25の少なくとも一方の巻数を増やすと、その分だけ1次側コイル20の巻数も増えるようになっている。
【0027】
1次側第2コイル部25は、1または2枚以上の導体板を打ち抜いて形成されたリング状または渦巻き状のコイルであり、多層プリント基板10に設けられた1次側第1コイル部21と対向する領域に絶縁シートSを介して配置されている。1次側第1コイル部21は、他の部品が実装される多層プリント基板10の一部を構成しているので、導体パターン厚や積層数を変更すると、多層プリント基板10の第1コイル部21以外にも影響があるため、その設計に制約がある。しかし、1次側第2コイル部25は、導体板を打ち抜いて形成し、多層プリント基板10の制約とは無関係に厚さや積層数を自由に設定することができる。
【0028】
ここで、1次側第2コイル部25は、上記したように1次側第1コイル部21と直列に接続されていることから、1次側第1コイル部21の巻数が多層プリント基板10の構造や、各コイル巻回部の接続関係に起因して制限されている場合であっても、1次側第2コイル部25の巻数を適宜調節することにより、1次側コイル20全体の巻数を所定の数に設定することが可能である。具体的には、1次側第2コイル部25を構成する一の導体板の巻数を調節したり、1次側第2コイル部25を構成する導体板の枚数を調節することにより、1次側コイル20全体の巻数が所定の数に設定される。これにより、多層プリント基板10の銅箔を有効利用しつつ、1次側コイル20の巻数を多くしても大電流を流すことが可能となる。
【0029】
1次側第1コイル部21および1次側第2コイル部25、ならびに1次側第2コイル部25および引出部27のそれぞれの接続方法としては、次の接続方法Aまたは接続方法Bが好ましい。接続方法Aは、図1に例示したように、1次側第1コイル部21および引出部27にコンタクトホールH1,H2(接続用穴)を設けると共に、1次側第2コイル部25にこれらコンタクトホールH1,H2に対応した嵌入部25A,25Bを設け、コンタクトホールH1,H2にその嵌入部を差し込んだのちにフローはんだ付けをする方法である。図では、この嵌入部は、第2コイル部の一端を屈曲することで屈曲部として形成されている。もっとも、嵌入部はコンタクトホールH1に嵌入できればよく、例えば、第2コイル部の一端付近でパンチングによる凸部を設けるようにしてもよい。他方、接続方法Bは、1次側第1コイル部21および引出部27に導電性のパッド(図示せず)を設けると共に、1次側第2コイル部25にこれら導電性のパッドに対応した平坦な面形状を先端に有する端部(図示せず)を設け、導電性のパッドの表面にはんだペーストを塗ると共にそのはんだペースト上に平坦な面形状の先端を載置したのちにリフローはんだ付けをする方法である。
【0030】
ここで、1次側第2コイル部25を、図1に示したように多層プリント基板10の一方の面側にだけ配置した場合に、上記接続方法Aを用いたときには、1次側コイル20のはんだ付けは、他のリード部品と同時に行うことができる。これにより、1次側コイル20をはんだ付けするための特別な工程が不要となる。また、1次側第2コイル部25の位置はコンタクトホールH1,H2によって決定されるので、1次側第2コイル部25を接着剤などでわざわざ固定する必要もなく、1次側第2コイル部25と磁心50Cとの絶縁距離を確実に確保することができる。また、1次側第2コイル部25を、図1に示したように多層プリント基板10の一方の面側にだけ配置した場合に、上記接続方法Bを用いたときには、1次側コイル20のはんだ付けは、他の表面実装部品と同時に行うことができる。これにより、1次側コイル20をはんだ付けするための特別な工程が不要となる。このように、1次側第2コイル部25を多層プリント基板10の一方の面側にだけ配置した場合に、上記接続方法A,Bを用いたときには、製造工程を簡略化することができる。
【0031】
また、1次側第2コイル部25を2枚以上の導体板で構成すると共に、1次側第2コイル部25を多層プリント基板10の両面に配置した場合には、1次側第2コイル部25の積層方向における対称性が良くなるので、上下に配置された2つの2次側コイルとの結合や静電容量を等しくすることができる。
【0032】
ここで、図2から図7を用いて、1次側コイル部21について説明する。1次側第1コイル部21は、多層プリント基板10の各層に設けられた、銅箔からなる導体パターンを有効利用したものである。ここで、多層プリント基板10は、絶縁基板11上に導体パターンを配線として備えたものであり、図1に例示したような回路部品12が実装されている。また、多層プリント基板10は、汎用性や価格を考慮すると4層基板で構成されることが好ましいが、4層基板に限定されるものではなく、導体パターンが絶縁基板11を介して積層された基板であればどのような基板で構成されてもよい。
【0033】
ここで、1次側第1コイル部21は、多層プリント基板10の導体パターンを有効利用したものである。しかし、前述のように多層プリント基板10の構造によって1次側第1コイル部21の導体パターンの厚さや、1次側第1コイル部21の導体パターンの積層数などの制約を受ける。多層プリント基板10が、例えば厚さ35μmの導体パターンが絶縁基板11を介して4層積層された汎用的な4層基板で構成されている場合には、1次側第1コイル部21の導体パターンの厚さも35μmとなり、また、1次側第1コイル部21の導体パターンの積層数の上限も4に制限される。一方、1次側第1コイル部21と直列に接続された1次側第2コイル部25には、1次側第1コイル部21のような制約がなく、その厚さや積層数を自由に設定することができる。そこで、1次側第1コイル部21の各導体パターンの接続態様を調整して、要求される電流容量に対して1次側第1コイル部21の断面積を最適化し、さらに、要求されるコイル全体としての巻数を1次側第1コイル部21だけでまかなえない場合には、導体板の巻数を調整して、コイル全体としての巻数を最適化することが可能である。
【0034】
図2および図3に示した実施の形態では、1次側第1コイル部21は、多層プリント基板10の所定の各面内に1巻きされたコイル状導体パターンからなる4つのコイル巻回部22A,22B,22C,22D全てを電気的に並列接続したものである。具体的構成は、コイル巻回部22A,22B,22C,22Dを絶縁基板11を介してこの順に積層して構成し、全てのコイル巻回部22A,22B,22C,22Dをビア(Via)やスルーホール等によるそれぞれ2つの接続部J1,J2を介して互いに電気的に並列に接続している。また、接続部J2の一方は、1次側第2コイル部25との接続用のコンタクトホールH1を兼用している。この様にコンタクトホールH1と接続部J2が兼用されている場合には、少なくとも兼用部分は、スルーホールで形成される。
【0035】
なお、図2および図3に示した実施の形態では、接続部J2の一方がコンタクトホールH1と兼用されているが、必ずしもその必要はなく、接続部J1,J2とコンタクトホールH1とを別々に設けてもよい。また、4つのコイル巻回部22A〜22D全てを電気的に並列接続するために接続部J1,J2を2つずつ設けているが、それぞれが同数である必要はなく、また、1つずつとしてもよく、あるいは、3つずつ以上設けてもよい。
【0036】
本形態のように各コイル巻回部を互いに並列に接続すると、コイル巻回部の数に比例して1次側第1コイル部21の断面積が大きくなることから、1次側第1コイル部21は、一のコイル巻回部の断面積の4倍の大きさの断面積を有する1ターンのコイルとすることができる。
【0037】
図4および図5は、他の実施の形態を表すものである。この実施の形態では、1次側第1コイル部21が、多層プリント基板10の所定の各面内に1巻きされたコイル状導体パターンからなる4つのコイル巻回部22A,22B,22C,22Dを有する点では、前記の形態と同様である。本形態では、コイル巻回部22A,22Bを並列接続すると共にコイル巻回部22C,22Dを並列接続して2組の並列接続コイル部分を設け、さらに、これら2組の並列接続コイル部分を互いに直列に接続している。具体的には、絶縁基板11を介して、コイル巻回部22A,22B,22C,22Dをこの順に積層し、コイル巻回部22A,22Bを接続部J3,J5を介して互いに電気的に並列に接続すると共にコイル巻回部22C,22Dを接続部J4,J5互いに電気的に並列に接続している。そして、コイル巻回部22A,22Bからなる並列接続コイル部分とコイル巻回部22C,22Dからなる並列接続コイル部分とを互いに接続部J5で電気的に直列に接続している。図4では、断面位置に接続部J4を配置していないが、その位置が分かるよう点線で表している。なお、接続部J3、J4、J5は、Viaやスルーホールで構成されている。そして、図に示したように、接続部J4は、基板を貫通するよう構成されている。これは本実施の形態において、接続部J4は、1次側第2コイル部25との接続用のコンタクトホールH1を兼用しているためである。この様に構成することで、はんだ槽にてはんだ付けする際に、実装用はんだが基板の裏から進入してコンタクトホールH1に嵌入した1次側第2コイル部25の嵌入部25Aと多層プリント基板10に設けられた1次側第1コイル部21の接続を確実に行うことが出来る。また、この様な構成にしているので、図に示すようにコイル巻回部22B,22Aは、接続部J4と不要な接続を避ける構成となっている。
【0038】
本実施の形態では、接続部J4は多層プリント基板10を貫通し、接続部J3は、コイル巻回部22B,22Aとのみ接続されるよう途中まで形成されているが、接続部J3も多層プリント基板10を貫通するよう形成してもよい。この様に構成すると、基板途中までのビアやスルーホールを設ける必要はないため、基板の作成が容易となる。ただし、コイル巻回部22A,22B,22C,22Dは、接続部J4とJ3と不要な接触を避けるべく構成されている。なお、接続部J4がコンタクトホールH1を兼用していない場合、接続部J4とコンタクトホールH1を別々に設ければ良く、この場合は接続部J4は多層プリント基板10を貫通していない構成とすることも可能である。
【0039】
本形態の場合、コイル巻回部22Aおよびコイル巻回部22Bで構成される並列接続コイル部分、および、コイル巻回部22Cおよびコイル巻回部22Dで構成される並列接続コイル部分は全体として一のコイル巻回部の断面積の2倍の大きさの断面積を有する1ターンのコイルとなる。これら2つの並列接続コイル部分を直列に接続しているので、1次側第1コイル部21は、一のコイル巻回部の断面積の2倍の大きさの断面積を有する2ターンのコイルとなる。なお、このような構成とした場合には、全てのコイル巻回部を2ターンで構成し、その全てを図2の場合と同様に並列に接続した場合に比べて、並列になるコイル数が減るので、1次側第1コイル部21における、並列接続に起因する電流の偏りが小さくなり、1次側第1コイル部21における全損失の大きさも小さくなる。
【0040】
図6および図7は、さらに他の実施の形態を表すものである。この実施の形態では、1次側第1コイル部21が、多層プリント基板10の所定の各面内に1巻きされたコイル状導体パターンからなる4つのコイル巻回部22A,22B,22C,22Dを有する点では、前記の形態と同様である。本形態は、コイル巻回部22A,22Dを直列接続すると共にコイル巻回部22B,22Cを直列接続して2組の直列接続コイル部分を設け、さらに、これら2組の直列接続コイル部分を互いに並列に接続している。具体的には、絶縁基板11を介して、コイル巻回部22A,22B,22C,22Dをこの順に積層し、コイル巻回部22A,22Dを接続部J6を介して電気的に接続すると共にコイル巻回部22B,22Cを接続部J7で電気的に接続している。そして、コイル巻回部22A,22Bを接続部J8を介して電気的に接続すると共にコイル巻回部22C,22Dを接続部J8を介して電気的に接続している。図6では、断面位置に接続部J9を配置していないが、その位置が分かるよう点線で表している。なお、接続部J6〜J9は、ビアやスルーホールで構成されている。本実施の形態においても、接続部J9は、1次側第2コイル部25との接続用のコンタクトホールH1を兼用している。この様にコンタクトホールH1と接続部J9が兼用されている場合には、少なくとも兼用部分は、スルーホールで形成される。なお、接続部J9がコンタクトホールH1を兼用していない場合、接続部J9とコンタクトホールH1を別々に設ければよい。なお、接続部J6〜9は、基板を貫通するよう構成されていてもよい。この様に構成されることで、基板途中までのビアやスルーホールを設ける必要はないため、基板の作成が容易となる。ただし、上記した構成を担保するため、コイル巻回部22A,22B,22C,22Dは、接続部J6〜9との不要な接触を避けるべく構成される必要がある。
【0041】
本形態の場合、コイル巻回部22Aおよびコイル巻回部22Dの直列接続コイル部分とコイル巻回部22Bおよびコイル巻回部22Cの直列接続コイル部分は、それぞれ全体として一のコイル巻回部の断面積と同等の大きさの断面積を有する2ターンのコイルとなる。1次側第1コイル部21は、これら2つの直列接続コイル部分を並列に接続しているため、一のコイル巻回部の断面積の2倍の大きさの断面積を有する2ターンのコイルとなる。なお、本実施の形態においては、2つの直列接続コイル部分が並列に接続されているため、この並列接続をもって、並列接続コイル部分と考えることが出来る。
【0042】
このように、各コイル巻回部の接続関係を適切に設定することにより、各コイル巻回部を互いに電気的に直列に接続した場合と比べて1次側第1コイル部21の断面積を2倍以上に大きくすることができるので、大電流を流すことが可能である。そして、1次側第1コイル部21の断面積は、他の実施の形態と同様であるが、並列接続による電流ループの数が減って、電流がより均一に流れるようになる。
【0043】
なお、上記の図2ないし図7で例示された1次側第1コイル部21では、実装面積の限られた多層プリント基板において巻数を増やす場合、コイルのサイズを維持して各コイル巻回部22A〜22Dの巻数を増やすことが考えられるが、巻線同士の間隙(クリアランス)の分だけ断面積が減少する。このときに、多層プリント基板10の構造に特に制約がない場合には、コイル巻回部の層数を増設すると共に増設したコイル巻回部を直列に接続することにより、各コイル巻回部の巻数を増やさなくても、1次側第1コイル部21全体の巻数を維持したり、増やすことが考えられる。この様な場合には、各コイル巻回部の巻数を増やす代わりに、コイル巻回部の層数を増設すると共に増設したコイル巻回部を直列に接続することにより、コイルのサイズを維持しつつ第1コイル部21の断面積を減少させることなく、1次側第1コイル部21全体としての巻数を維持したり、増やすことが可能である。しかし、多くの場合、銅箔の層数や厚さを必要最小限に少なくしてコストを抑えることが求められる。この様に多層プリント基板10の構造に制約がある場合には、前述のように1次側第2コイル部25の巻数を適宜調節することにより、1次側第1コイル部21の断面積を減少させることなく、1次側第1コイル部21全体としての巻数を維持したり、増やすことが可能である。
【0044】
次に、トランス1の効果について、3つの実施例と2つの比較例における損失を対比することにより説明する。なお、以下の結果は、有限要素法による渦電流解析の結果から算出したものである。
【0045】
第1の実施例では、多層プリント基板10を銅箔の厚さが35μmの4層基板とした。本実施例では、1次側第1コイル部21を、4層基板にコイルとして同一形状の2ターンのコイル巻回部22A,22B,22C,22Dを設け、これらコイル巻回部22A,22B,22C,22Dを互いに電気的に並列接続して構成し、全体として2ターンのコイルとした。1次側第2コイル部25を、厚さ0.5mmの1枚の銅板を打ち抜くことにより形成された1枚の2ターンの渦巻き状のコイルにより構成した。そして、これら1次側第1コイル部21および1次側第2コイル部25を互いに電気的に直列接続して1次側コイル20を構成し、全体として4ターンのコイルとした。また、2次側コイル20,40をそれぞれ、厚さ1.5mmの1枚の銅板を打ち抜くことにより形成された1枚の1ターンのリング状のコイルにより構成した。
【0046】
第2の実施例では、前実施例と同様に、多層プリント基板10を銅箔の厚さが35μmの4層基板とした。本実施例では、図4および図5に示したように、1次側第1コイル部21を、4層基板の各層にコイルとして同一形状の1ターンのコイル巻回部22A,22B,22C,22Dを設けた。そして、コイル巻回部22A,22Bを電気的に並列接続すると共に、1ターンのコイル巻回部22C,22Dを電気的に並列接続し、2組の並列接続コイル部分を設けた。さらに、コイル巻回部22A,22Bからなる並列接続コイル部分と、コイル巻回部22C,22Dからなる並列接続コイル部分を電気的に直列接続して、全体として2ターンのコイルとした。また、1次側第2コイル部25を、厚さ0.5mmの1枚の銅板を打ち抜くことにより形成された1枚の2ターンの渦巻き状のコイルにより構成した。そして、これら1次側第1コイル部21および1次側第2コイル部25を互いに電気的に直列に接続して1次側コイル20を構成し、全体として4ターンのコイルとした。
【0047】
第3の実施例は、前実施例と同様に、多層プリント基板10を銅箔の厚さが35μmの4層基板とした。本実施例では、図6および図7に示したように、1次側第1コイル部21を、コイルとして同一形状の1ターンのコイル巻回部22A,22Dを電気的に直列接続して2ターンの直列接続コイル部分を構成すると共に、コイルとして同一形状の1ターンのコイル巻回部22B,22Cを互いに電気的に直列接続して同様に2ターンの直列接続コイル部分を構成した。さらに、それらの2ターンの直列接続コイル部分同士を並列接続して、第1コイル部全体として2ターンのコイルとした。1次側第2コイル部25を、厚さ0.5mmの1枚の銅板を打ち抜くことにより形成された1枚の2ターンの渦巻き状のコイルにより構成した。そして、これら1次側第1コイル部21および1次側第2コイル部25を互いに電気的に直列に接続して1次側コイル20を構成し、全体として4ターンのコイルとした。
【0048】
したがって、3つの実施例共に、1次側第1コイル部21は、接続方法が異なるため、構造的な巻き方は異なるものの、同一の4層基板を用いて2ターンのコイルを構成している。
【0049】
第1の比較例では、上記実施例と同様の銅箔の厚さが35μmの4層プリント基板を用いた。その基板の4層とも同一形状の4ターンのコイルを形成し、それら電気的に並列接続して4ターンのコイルとした。さらに厚さ0.5mm銅板を用いて、4層プリント基板のコイルとほぼ同一形状の4ターンの渦巻き状コイルを重ねあわせ、プリント基板の4ターンのコイルと並列接続し、全体として4ターンのコイルとした。
【0050】
第2の比較例でも、上記実施例と同様の銅箔の厚さが35μmの4層プリント基板を用いた。本比較例では、その基板の4層とも1ターンのコイルを形成し、それらを電気的に直列接続して4ターンのコイルとした。第2の比較例では、銅板を打ち抜いたコイルは用いずに、プリント基板内のコイルのみとした。
【0051】
表1に、それぞれの実施例および比較例を一次側コイルとし、厚さ1.5mmの1枚の銅板を打ち抜くことにより形成された1ターンのリング状の2次側コイル20,40をその一次側コイルの上下に配置し、トランスとして動作させ、同一の交流電流を与えた場合の各コイル巻回部22A,22B,22C,22Dの損失を表した。なお、周波数は100kHzとし、損失の値は第1の比較例における合計損失を1としてそれに対する相対値で表している。
【0052】
また、表2に、それぞれの実施例および比較例において、上下に二次側コイルを配置せず、インダクタとして動作させ、同一の交流電流を与えた場合の各コイル巻回部22A,22B,22C,22Dの損失を表した。周波数は100kHzとし、損失の値はトランスの場合と同様に第1の比較例における合計損失を1としてそれに対する相対値で表している。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1および表2から、第1の実施例においては、一次側コイルの合計損失は、共に0.92であり、第1の比較例に対して小さくなっている。また、第2の実施例では、合計損失がそれぞれ0.81および0.85と、さらに小さくなっている。さらに、第3の実施例においては、合計損失がそれぞれ0.72、0.81と、第2の実施例よりもさらに小さくなった。したがって、第1の比較例よりも大きな電流を流すことができることがわかる。
【0056】
ここで、第1の比較例よりも実施例1の損失が小さいのは、多層プリント基板10内の1次側第1コイル部21と、導体板により構成された1次側第2コイル部25が直列に接続されているため、それぞれのコイルに流れる電流の偏りが減ったためであり、また、比較例が第一のコイルの各コイル状導体パターンと1次側第2コイル部25が共に4ターンを構成しているのに対し、実施例1は1次側第1コイル部21の各コイル状導体パターンと1次側第2コイル部25共に2ターンで構成することができるので、コイル間の絶縁間隔に要する無駄が減ったためである。
【0057】
また、第2の実施例および第3の実施例では、第1の実施例よりもさらに損失が減っている。これは、第1の実施例の1次側第1コイル部21では、全てのコイル状導体パターンが2ターンであり、全て並列接続だったのに対し、第2の実施例および第3の実施例では、1次側第1コイル部21の各コイル状導体パターンが1ターンで構成され、同じ2ターンを構成する場合に並列接続部分が減り、1次側第1コイル部21の各層における電流の偏りがさらに減ったためである。
【0058】
また、第3の実施例では、第2の実施例はよりもさらに損失が減っている。この効果は特にトランスにおいて顕著であるが、これは、第2の実施例においては、1次側第1コイル部21における並列接続による電流のループが2つあったのに対し、実施例3では1つになっており、並列接続部分がさらに減ったことが一つの要因である。さらに、第3の実施例においては、並列接続されている22A、D直列接続の2ターンと22B、Cの直列接続の2ターンの両者が2次巻線に対する平均距離がほぼ同一になっており、その結果、二次巻線との結合もほぼ同一になったことがもう一つの要因である。
【0059】
このことから、1次側第1コイル部21と1次側第2コイル部25を直列接続し、さらに1次側第1コイル部21の各コイル状導体パターンを1ターンで構成することにより、コイル間の絶縁間隔に要する無駄を減らし、並列接続部分を極力減らすことができるので、電流の偏りが少なくなり、損失を減少させることができる。これはすなわち、多層プリント基板10の銅箔を有効に利用できることを表している。また、損失が少なくなるので、より大電流に対応することができる。
【0060】
なお、第1〜第3の実施例共に、第2の比較例で示したプリント基板のみで構成した場合よりも充分に損失が小さいため、プリント基板のみの場合よりも電流容量を大きく取ることができることは明らかである。
【0061】
[適用例]
次に、上記実施の形態のトランス1をスイッチング電源に適用した場合について説明する。
【0062】
図8はトランス1の一適用例に係るスイッチング電源の回路構成を表すものである。このスイッチング電源は、高圧バッテリ等(図示せず)から供給される高圧の直流入力電圧Vinを、より低い直流出力電圧Voutに変換して、負荷(図示せず)に供給するDC−DCコンバータとして機能するものであり、後述するように2次側がセンタタップ型のスイッチング電源である。
【0063】
このスイッチング電源は、一次側高圧ラインL1Hと1次側低圧ラインL1Lとの間に設けられたスイッチング回路6と、トランス1を備える。1次側高圧ラインL1Hに入力端子T1が、1次側低圧ラインL1Lに入力端子T2がそれぞれ設けられており、これら入力端子T1,T2が高圧バッテリの出力端子と接続されるようになっている。
【0064】
このスイッチング電源はまた、トランス1の2次側に設けられた整流回路8と平滑回路9とを備える。なお、整流回路8および平滑回路9からなる回路が本発明の「出力回路」に相当する。平滑回路9の高圧側のラインである出力ラインL0に出力端子T3が、平滑回路9の低圧側のラインである接地ラインLGに出力端子T4がそれぞれ設けられており、これら出力端子T3,T4が負荷の入出力端子と接続されるようになっている。
【0065】
スイッチング回路6は、高圧バッテリ等から出力される直流入力電圧Vinをほぼ矩形波状の単相交流電圧に変換する単相スイッチング回路である。このスイッチング回路6は、制御回路(図示せず)から供給されるスイッチング信号によってそれぞれ駆動される4つのスイッチング素子61,62,63,64をフルブリッジ接続してなるフルブリッジ型のスイッチング回路である。スイッチング素子としては、例えば、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor )やIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor )などの素子が用いられる。
【0066】
スイッチング素子61は、トランス1の1次側コイル20の引出部26と1次側高圧ラインL1Hとの間に設けられ、スイッチング素子62は1次側コイル20の引出部26と1次側低圧ラインL1Lとの間に設けられている。スイッチング素子63は1次側コイル20の引出部27と1次側高圧ラインL1Hとの間に設けられ、スイッチング素子64は1次側コイル20の引出部27と1次側低圧ラインL1Lとの間に設けられている。
【0067】
これより、スイッチング回路6は、スイッチング素子61,64のオン動作により、1次側高圧ラインL1Hから順にスイッチング素子61、1次側コイル20およびスイッチング素子64を通って1次側低圧ラインL1Lに至る第1の電流経路に電流が流れる一方、スイッチング素子62,63のオン動作により、1次側高圧ラインL1Hから順にスイッチング素子63、1次側コイル10、およびスイッチング素子62を通って1次側低圧ラインL1Lに至る第2の電流経路に電流が流れるようになっている。
【0068】
トランス1の2次側では、2次側コイル30の引出部33と、2次側コイル40の引出部42とが、センタタップCで互いに接続され、このセンタタップCが接地ラインLGを介して出力端子T4に接続されている。また、2次側コイル30の引出部32と、2次側コイル40の引出部43とが、後述のダイオード81,82を介して接続点Eで互いに接続され、この接続点Eが出力ラインL0を介して出力端子T3に接続されている。つまり、トランス1の2次側はセンタタップ接続となっている。
【0069】
整流回路8は、一対のダイオード81,82からなる単相全波整流型のものである。ダイオード81のアノードは2次側コイル30の引出部32に、ダイオード81のカソードは出力ラインL0にそれぞれ接続されている。ダイオード82のアノードは2次側コイル40の引出部43に、ダイオード82のカソードは出力ラインL0にそれぞれ接続されている。この整流回路8は、トランス1の交流出力電圧の各半波期間をそれぞれダイオード81,82によって個別に整流してセンタタップCおよび接続点Eから整流電圧を出力するようになっている。つまり、この整流回路8はカソードコモン接続となっている。
【0070】
平滑回路9は、チョークコイル91と、平滑コンデンサ92とを含んで構成されており、整流回路8で整流された直流電圧を平滑化して直流出力電圧Voutを生成し、これを出力端子T3,T4から負荷に供給するようになっている。この平滑回路9は、整流回路8から出力された整流電圧を平滑して出力直流出力電圧Voutを出力端子T3および出力端子T4に出力するようになっている。
【0071】
次に、以上のような構成のスイッチング電源の作用を説明する。なお、以下では、一般的なスイッチング動作でスイッチング回路6を駆動する場合について説明するが、例えば、ゼロボルトスイッチング(Zero Volto Switching)動作でスイッチング回路6を駆動することも可能である。
【0072】
スイッチング回路6のスイッチング素子61,64がオンすると、スイッチング素子61からスイッチング素子64の方向に電流が流れ、トランス1の2次側コイル30,40に現れる電圧がダイオード82に対して逆方向となり、ダイオード81に対して順方向となる。このため、2次側コイル30およびダイオード81を通って出力ラインLOに電流が流れる。
【0073】
次に、スイッチング素子61、64がオフになり、62,63がオンすると、スイッチング素子63からスイッチング素子62の方向に電流が流れ、トランス1の2次側コイル30,40に現れる電圧がダイオード82に対して順方向になる一方、ダイオード81に対して逆方向となる。このため、2次側コイル40およびダイオード82を通って出力ラインLOに電流が流れる。
【0074】
このようにして、スイッチング電源は、高圧バッテリ等から供給された直流入力電圧Vinを直流出力電圧Voutに変圧(降圧)し、その変圧した直流出力電圧Voutを負荷に印加し、電力を供給する。
【0075】
制御回路およびスイッチング回路を駆動するドライブ回路、およびスイッチング素子は図1に示した多層プリント基板10に搭載されており、多層プリント基板10の層構成はこれらの回路素子の配線パターンの設計によってほとんど決定される。そのため、多層プリント基板10内に設けられた1次側第1コイル部21の各コイル状導体パターンの厚さや積層数の変更には制約が生じる。
【0076】
しかし、本適用例では、上記トランス1の一次側コイル20において、その多層プリント基板10内に設けられた複数のコイル状導体パターンからなる1次側第1コイル部21と、多層プリント基板10上に搭載された導体板からなる1次側第2コイル部25とを互いに直列に接続するようにしたので、1次側第1コイル部21の各コイル状導体パターンの接続態様を図2〜図7に例示したような並列接続等に調整することにより、要求される電流容量に対して1次側第1コイル部21の断面積を最適化することができる。また、1次側第2コイル部25では、導体板の断面積や巻数を自由に変更することが容易であるので、要求されるコイル全体としての巻数を1次側第1コイル部21だけでまかなえない場合には、導体板の巻数を調整することにより、コイル全体としての巻数を最適化することができる。これにより、大電流への対応が可能となる。
【0077】
さらに、本発明のスイッチング電源装置では、1次側第2コイル部25の巻数を変更することで、多層プリント基板10を変更せずに合計の巻数の変更を簡単にできるという効果がある。すなわち、要求される入出力電圧範囲に応じて1次側第2コイル部25のみを付け替えてトランスの巻数比を変え、第一のコイルを含む多層プリント基板10の変更を必要とせずに、多様な仕様に対応することができるという効果もある。
【0078】
[上記適用例の変形例]
なお、上記適用例では、トランス1の2次側がセンタタップ接続、そして整流回路8がカソードコモン接続となっていたが、その他の接続態様であってもよく、例えば、整流回路8をアノードコモン接続とすることも可能である。
【0079】
また、トランス1を、例えば整流回路8がダイオードブリッジ接続となっているスイッチング電源に適用することも可能である。また、トランス1を、例えば整流回路8がカレントダブラ型であってアノードコモン接続となっているスイッチング電源に適用することも可能である。また、トランス1を、例えば整流回路8がカレントダブラ型であってカソードコモン接続となっているスイッチング電源に適用することも可能である。
【0080】
以上、実施の形態および適用例ならびにこれらの変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、これらに限定されず、種々の変形が可能である。
【0081】
例えば、上記実施の形態および適用例ならびにこれらの変形例では、1次側コイル20を高圧側のコイルとし、2次側コイル30,40を低圧側のコイルとしていたが、高圧側と低圧側の対応関係をそれとは逆にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施の形態に係るトランスの構成を展開して表す概念図である。
【図2】図1の1次側第1コイル部のA−A矢視方向の断面構成の一例を表す断面図である。
【図3】図2の1次側第1コイル部の構成を展開して表す概念図である。
【図4】図1の1次側第1コイル部のA−A矢視方向の断面構成の他の例を表す断面図である。
【図5】図4の1次側第1コイル部の構成を展開して表す概念図である。
【図6】図1の1次側第1コイル部のA−A矢視方向の断面構成の他の例を表す断面図である。
【図7】図6の1次側第1コイル部の構成を展開して表す概念図である。
【図8】図1のトランスの一適用例に係るスイッチング電源を表す回路図である。
【符号の説明】
【0083】
1…トランス、6…スイッチング回路、8…整流回路、9…平滑回路、10…プリント基板、11…絶縁基板、12…回路部品、20…1次側コイル、21…1次側第1コイル部、22A〜22D…コイル巻回部、25…1次側第2コイル部、25A,25B…嵌入部、26,27,32,33,42,43…引出部、30,40…2次側コイル、34,44…ギャップ、50A,50B…磁心、50C…中足、61,62,63,64…スイッチング素子、70…コイル、81,82…ダイオード、91…チョークコイル、92…平滑コンデンサ、C,E…接続点、H1,H2…コンタクトホール、J1,J2,J3,J4,J5…接続部、L1H…1次側高圧ライン、L1L…1次側低圧ライン、LO…出力ライン、LG…接地ライン、S…絶縁シート、T1,T2…入力端子、T3,T4…出力端子、Vin…入力直流電圧、Vout…出力直流電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層プリント基板の各層に設けられたコイル状導体パターンを互いに電気的に接続して構成された第1のコイル部と、
前記多層プリント基板と対向して配置されると共に前記第1のコイル部と電気的に直列接続された導体板により構成された第2のコイル部と
を備えたことを特徴とするコイル装置。
【請求項2】
前記各層のコイル状導体パターンは1ターンで構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のコイル装置。
【請求項3】
前記第1のコイル部は、前記コイル状導体パターン同士が並列接続された並列接続コイル部分を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のコイル装置。
【請求項4】
前記第2のコイル部は1枚の導体板により構成されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のコイル装置。
【請求項5】
前記多層プリント基板に接続用穴が形成されると共に前記第2のコイル部に嵌入部が形成され、
前記嵌入部が前記接続用穴に嵌入されることにより前記第1および第2のコイル部が電気的に接続されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のコイル装置。
【請求項6】
1次側コイルおよび2次側コイルを備えたトランスであって、
前記1次側コイルおよび2次側コイルのいずれか一方は、
多層プリント基板の各層に設けられたコイル状導体パターンを互いに電気的に接続して構成された第1のコイル部と、
前記多層プリント基板と対向して配置されると共に前記第1のコイル部と電気的に直列接続された導体板により構成された第2のコイル部と
を有する
ことを特徴とするトランス。
【請求項7】
前記多層プリント基板に接続用穴が形成されると共に前記第2のコイル部に嵌入部が形成され、
前記嵌入部が前記接続用穴に嵌入されることにより前記第1および第2のコイル部が電気的に接続されている
ことを特徴とする請求項6に記載のトランス。
【請求項8】
入力電圧をスイッチングしてパルス電圧を生成するスイッチング回路と、
1次側コイルおよび2次側コイルを有し、前記パルス電圧を変圧するトランスと、
を備え、
前記1次側コイルおよび2次側コイルのいずれか一方は、
多層プリント基板の各層に設けられたコイル状導体パターンを互いに電気的に接続して構成された第1のコイル部と、
前記多層プリント基板と対向して配置されると共に前記第1のコイル部と電気的に直列接続された導体板により構成された第2のコイル部と
を有する
ことを特徴とするスイッチング電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−4823(P2008−4823A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174066(P2006−174066)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】