説明

コイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法

【課題】逐次メジャーリングロールの磨耗状況が監視でき、ロール交換の時期を正確に把握でき、突発的にラインを止めて補修を行うことなどがないコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法を提供する。
【解決手段】先行するコイルと後行するコイルとの接合点が存在するマスキング領域を設定し、マスキング領域をコイルに当接して回転するメジャーリングロール27、28によって測定し、マスキング領域内にある接合点を検知手段23、30により検知して後続する鋼板処理設備に送るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法において、マスキング領域内の接合点の位置を検知して、メジャーリングロール27、28の交換時期を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行するコイルと後行するコイルとを接合して連続して通板する鋼板処理ラインにおいて、先行コイルと後行コイルの接合部(以下「接合点」という)を的確に検出するために、接合点が存在するとして設定するマスキング領域の検出に使用するメジャーリングロールの寿命を管理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板(コイル)の連続処理ラインにおいては、連続処理設備(鋼板処理設備)にコイルを供給するため、先行するコイルと後続するコイルを接合して繋いでいるが、連続処理設備(例えば、圧延装置や塗布装置)では、先行するコイルと後続するコイルのサイズや種類によって処理条件を変える必要があり、このため、接合点の位置を正確に検出して連続処理設備にコイルを供給することが必要となる。接合点を検知する方法としては、例えば通過するコイルの接合点にパンチ孔を設けてこれを光学的に検知する方法(例えば、特許文献1参照)や、接合点を渦流センサーで検知する方法等がある。ところが、コイルにヘゲや疵等がある場合や通板する板が蛇行した場合など、光学的検査でパンチ孔を検知する方法では誤検知が発生する場合があり、渦流センサーでは接合点の電磁特性変化のS/N比が小さい状況によっては検知しにくい場合がある。
【0003】
そこで、接合点の位置をコイルの流れ(搬送距離)からトラッキングして、トラッキング上の接合点の位置と実際の接合点の位置の差分を求め、この差分をゼロにするように自動制御することが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−105680号公報
【特許文献2】特開平7−32017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コイルの通過量の検知は、コイルの流れに沿って回転するブライドルロール(BR)をメジャーリングロール(以下、単に「ロール」という)としてその回転数によって測定しているが、コイルの進行量をロールの回転によって検知すると、ロールが時間の経過と共に、磨耗して平均直径が少しではあるが小さくなったり、ロール表面粗度が摩耗したりする。これに伴い、ロールの回転量とコイルの進行量が一致しなくなる。そこで、正常な測定ができるようにローラ交換をしなければならない。通常はこのメジャーリングロールはスリップ防止や測定精度が必要なため、大径のロールが使用され、その交換作業には長時間を必要とするため、突発的な交換が発生すると、処理ラインの不定期休止となり、生産を著しく阻害することになる。
【0006】
そこで、従来は使用時間、通板時間等を考慮して定期的なロール交換を行うか、処理ラインの定期修理等の休止中に、ロール表面粗度や直径を測定して、ロール交換を実施する時期を決定していた。ところが、ロール表面粗度の測定にあっては、ロールがコイルと接する領域全体に渡って測定することが重要となるが、通常その変化部位は全ての板幅に亘って共通するロール中央部に発生する事が多い。このロール中央部の直径、粗度を測定するためには板抜き作業及びその復旧作業に長時間必要であり、確実に実行する上では休止時間の確保が必要となる。そのため、確実にロール表面粗度の測定が行われているとは言い難いのが実情である。
また、通板材料の変化や安価な材質のロールを使用する等、従来と同じ状況でないロールを使用した場合にも測定誤差が発生し、上記した従来から行われている精度維持管理も十分な問題対処とはなっていない。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、逐次メジャーリングロールの磨耗状況が監視でき、ロール交換の時期を正確に把握でき、突発的にラインを止めて補修を行うことなどがないコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法は、先行するコイルと後行するコイルとの接合点が存在するマスキング領域を設定し、該マスキング領域を前記コイルに当接して回転するメジャーリングロールによって測定し、該マスキング領域内にある前記接合点を検知手段(例えば、光学的検知手段、又は渦電流検知手段)により検知して後続する鋼板処理設備に送るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法において、
前記マスキング領域内での前記接合点の検出位置ズレを検知して、前記メジャーリングロールの交換時期を判定する。
【0009】
第2の発明に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法は、第1の発明に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法において、初期状態では前記接合点は前記マスキング領域の中央部付近にある。
【0010】
そして、第3の発明に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法は、第1、第2の発明に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法において、前記メジャーリングロールを近接して複数備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法は、接合点の位置がその間(例えば、中央)にあるように、マスキング領域を設定し、コイルに当接するメジャーリングロールによってマスキング位置を測定すると共に、マスキング領域内にある接合点を検出手段によって検知している。マスキング領域内の接合点を検出することで、正確に接合点の位置を決定でき、接合点に対するマスキング領域でのズレを検知することで、メジャーリングロールの磨耗状況を測定できる。これにより、メジャーリングロールの磨耗度からその交換時期を正確に把握できるので、トラッキング異常によるメジャーリングロール(通常はブライダルロール)の不定期交換は皆無となった。更に、トラッキング異常によるライン停止のトラブルも大幅に減少した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法を適用した鋼板処理ラインの概略説明図である。
【図2】マスキング中心からのズレと使用経過の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しながら、本発明を具体化した一実施の形態について説明する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法を適用した鋼板処理ライン10は、第1、第2のペイオフリール11、12のいずれか一方からレベラー13を通じて排出されたコイル(先行するコイル)の終端と、他方からレベラー13を通じて排出されたコイル(後行するコイル)の始端とを接合機14で接合する。そして、接合部又はその近傍にパンチ15を用いて複数のパンチ孔(接合点となる)を設け、接合部が正常があることを確認した後、第1のブライドルロール群16、レフレクターロール17〜19、ステアリングロール20を介してルーパー21に送られる。
【0014】
ルーパー21を通過したコイルは、接合点(例えば、溶接位置)を検知する第1の接合点検出器(検知手段の一例)23の設置位置を通過した後、レフレクターロー24、25を通して第2のブライドルロール群26に送られる。ここで、第2のブランドルロール群26は第1、第2のメジャーリングロール27、28を有している。
【0015】
第1のメジャーリングロール27を通過した後、コイルは前記接合点を検知する第2の接合点検出器(検知手段の一例)30の位置を通過し、第1〜第5の圧延ローラ群31〜35を備えた圧延機(後続する鋼板処理設備)に供給され、所定位置をドラムシャー37で切断された後、カローゼルリール38で巻き取られる。
【0016】
次に、この実施の形態に係るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法について説明する。コイルの走行距離は、第1のメジャーリングロール27を主体として測定し、第1のメジャーリングロール27に近接して配置された第2のメジャーリングロール28は予備、即ち、第1のメジャーリングロール27の補完用として使用する。以下、第1のメジャーリングロール27のみを使用する場合について説明する。
まず、第1のメジャーリングロール27が新品の場合、即ち磨耗がない場合、その直径をD(m)とし、nを第1のメジャーリングロール27の回転数とすると、測定したコイルの長さLは、πDnとなる。
【0017】
まず、パンチ15によってパンチ孔がコイルに形成された位置から、第1のメジャーリングロール27を通過するまでのコイルの長さを測定する。この場合、第1のメジャーリングロール27の位置から第1、第2の接合点検出器23、30までの長さp、qは周知であるので、パンチ15によってパンチ孔が形成されたコイルの通板開始位置で、第1のメジャーリングロール27の回転数を初期設定0にし、コイルを送ってパンチ孔が第1、第2の接合点検出器23、30で検出されるまでの第1のメジャーリングロール27の回転数n1、n2(いずれか一方でよい)を検知する。これによって、パンチ孔が形成された位置から第1、第2の接合検知器23、30の位置までの通板距離L1、L2を(πDn1)、(πDn2)としてそれぞれ計測できる。
【0018】
この実施の形態では、第1の接合点検出位置(第1の接合点検出器23による検出位置)に対して、(πDn1)±25mの範囲で第1のマスキングを行い、第2の接合点検出位置(第2の接合点検出器30による検出位置)に対しては、(πDn2)±6mの範囲で第2のマスキングを行う(それぞれ、マスキング領域の一例)。なお、初期状態では、接合点が第1、第2のマスキング領域のそれぞれの中央に設定している。
ここで、第1、第2のマスキングを行う理由について説明すると、コイルの接合点又は接合点の近傍に、接合点の存在を示すパンチ孔を形成し、第1、第2の接合点検出器23、30でパンチ孔を検知すれば、理論的には接合点の位置を検知できることになるが、コイルにヘゲや欠陥(例えば、貫通孔)があった場合、第1、第2の接合点検出器23、30がパンチ孔を誤検知する場合がある。接合点の位置を誤検知すると、後続する圧延機に重大な支障を与え、その修復に多大の時間及び経費を要することになる。
【0019】
そこで、パンチ孔の前後にマスキングを行い、その範囲にあるパンチ孔のみを第1、第2の接合点検出器23、30で検知させるようにすると、マスキングされていない領域にあるコイルにヘゲや疵があっても、第1、第2の接合点検出器23、30には何の支障もないことになる。この第1のマスキング領域の管理は、メジャーリングロール27の[n1−25/(πD)〜n1+25/(πD)]の回転範囲によって決定される。また、第2のマスキング領域の管理は、メジャーリングロール27の[n2−6/(πD)〜n2+6/(πD)]の回転範囲によって決定される。
【0020】
ところが、第1、第2のメジャーリングロール27、28は使用によって磨耗し、その直径が徐々に小さくなる。この直径の減少長をδ1、δ2として、第1、第2のメジャーリングロール27、28の回転数によって決めると、第1、第2のマスキング領域が接合点に対して遅れる方向にズレてくる。
この様子を図2に示すが、第1のマスキング領域の中心からのズレを示している。なお、菱形は第1のメジャーリングロール27について、三角は第2のメジャーリングロール28についてのズレ値である。なお、第2のメジャーリングロール28は予備として使用している。
【0021】
図2において、ズレの長さが4mを超える場合は、超えた方のメジャーリングロール27、28を定期交換するのがよい。このように、第1、第2のマスキング領域と接合点を示すパンチ孔の位置を管理することによって、第1、第2のメジャーリングロール27、28の磨耗状態を把握できる。
【0022】
前記実施の形態においては、接合点の検知にパンチ孔をコイルに形成し、このパンチ孔を光学検出器によって検知することによって、接合点の位置を検知したが、接合点(正確には接合線)の位置を渦電流検出装置によって検知することもできる。この場合、接合装置の直後に、起点となる接合点を検知する渦電流検出装置を追加して配置するのが好ましい。
【0023】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更があっても、本発明は適用される。例えば、この発明において、マスキング領域を2つの領域に設けたが1つであってもよい。なお、ループ装置が複数ユニットある場合、更に接合点を検知する数を増加させる事もあり、その数に対応してマスキング領域を設け、各々のメジャーリングロールについて同様に適用される。また、メジャーリングロールに予備ロールを設けたが、必ずしも必須ではない。
【符号の説明】
【0024】
10:鋼板処理ライン、11:第1のペイオフリール、12:第2のペイオフリール、13:レベラー、14:接合機、15:パンチ、16:第1のブライドルロール群、17〜19:レフレクターロール、20:ステアリングロール、21:ルーパー、23:第1の接合点検出器、24、25:レフレクターロール、26:第2のブライドルロール群、27:第1のメジャーリングロール、28:第2のメジャーリングロール、30:第2の接合点検出器、31〜35:第1〜第5の圧延ローラ群、37:ドラムシャー、38:カローゼルリー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行するコイルと後行するコイルとを接合して連続して通板する鋼板処理ラインにおいて、該先行するコイルと該後行するコイルとの接合点が存在するマスキング領域を設定し、該マスキング領域を前記コイルに当接して回転するメジャーリングロールによって測定し、該マスキング領域内にある前記接合点を検知手段により検知して後続する鋼板処理設備に送るコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法において、
前記マスキング領域内の前記接合点の位置を検知して、前記メジャーリングロール交換時期を判定することを特徴とするコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法。
【請求項2】
請求項1記載のコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法において、初期状態では前記接合点は前記マスキング領域の中央にあることを特徴とするコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法において、前記メジャーリングロールを近接して複数備えることを特徴とするコイル間接合点のトラッキング精度の維持管理方法。


【図1】
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【図2】
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