説明

コケ植物を用いた緑化用材料とその製造方法並びに緑化工法

【課題】本発明は、メンテナンスが容易で且つ強固に保持されたコケ植物による緑化用材料と緑化工法に関するものである。
【解決手段】スナゴケ又はスナゴケにハイゴケやフデゴケを混生させた混生物を用いたコケ植物(3)を、砂状物(2a)と耐水性接着剤(2b)とが混合されて排水性に富んだ下地材(2)の表面、又は、水硬化性有機高分子多孔質接着剤(15)の表面に固着する緑化施工法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋上や壁面、道路の法面や傾斜地、及びコンクリート等の硬質面の緑化に最適なコケ植物を用いた緑化用材料とその製造方法並びに緑化工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりに伴って、建物の屋上緑化が官民上げて推進されており、また、予てより美観上の観点から敷地内の緑化や道路の法面の緑化も進められてきた。この緑化手段としては、草花を植えたり背丈の低い草木を移植したりする方式が一般的であるが、最近では、土壌がなくても生育し空気中から水分や養分を摂取すると共に、雨水のみで対応可能で管理の容易なコケ植物が、屋上緑化や壁面緑化の材料として注目されてきている。
【0003】
このコケを緑化材料とするためには、コケを壁面や屋上等の緑化工事面に如何にして固着保持させるかが問題となっていた。そこで、軽石を充填した容器内にフデゴケやスナゴケを貼り付けて、その仮根を軽石の孔内に入り込ませて保持するもの(特許文献1)や、コケを接着剤で固定した水溶性シートを、育苗用培土を固めたブロックに両面接着剤を用いて固定するもの(特許文献2)や、ポリエステル繊維ボードにマット状のコケを配置し、その上をネットで覆い更にミシンで縫合するもの(特許文献3)等がある。
【特許文献1】特開2007−37408号公報
【特許文献2】特開平9−308317号公報
【特許文献3】特開2005−168370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の方式は、コケの保持部材となる軽石や育苗用培土ブロックやポリエステル繊維ボードに、コケが安定的に保持されるようになるまでには、コケの生育のための長期間が必要となり、特に、ネットで覆う方式(特許文献3)では、風により吹き飛ばされるコケの比率は無視できないものがある。
【0005】
また、上記特許文献1〜3に記載の方法は、工事現場向きではなく、予め、育苗施設でコケを保持する基材に安定的に固着させた後に、工事面に貼り付けることが必要となる。即ち、根を有しないコケの場合には、上記特許文献1、3の方法を工事現場で行ったのでは、コケが固着しないうちに風で飛ばされてしまうことになり、また、上記特許文献2のコケを、粘着剤を用いて固定した水溶性シート状体を、培土をバインダで固めたブロックに両面接着テープ等で固定したものでは、数種類のバインダを必要とし、その製作に多数の工程が必要となり、現場作業には不適と言える。特に、小さな棒状の形態をしているスナゴケの場合には、この傾向が顕著であり、スナゴケの基材への固着は極めて困難である。ましてや、緑化工事現場で速やかに固着保持させる方法はなかった。
【0006】
そこで、本発明は、極めて短時間で下地材へのコケの固着を安定的に行なうことの出来る緑化用材料を提供することを第1の目的とし、更に、緑化工事現場でも工事面や下地材へのコケの固着を速やかに行なうことの出来る工法の提供を第2の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、係る観点の下になされたものであって、コケ植物を保持する下地材でコケ植物の育苗を行なうのではなく、下地材等に含有されている接着材によってコケ植物を固着保持させることを基本とするものであって、緑化工法としては2種に大別できる。第1の工法は、緑化工事面に塗布させる下地材を、砂状物と耐水性接着剤とが混合されて排水性に富んだ人工硬化部材となし、その表面にコケ植物を押し付けて該下地材中の前記接着剤によってコケ植物を前記下地材に固着させる方法であり、第2の工法は、水硬化性有機高分子多孔質接着剤を施工面に塗布し、該接着剤が固化しないうちにコケ植物を押し付けて接着保持させる方法である。
【0008】
前記第1の施工法において使用する緑化用材料は、下地材と、その表面に固着されたコケ植物とを有し、該下地材は、砂状物と耐水性接着剤とが混合されて排水性に富んだ人工硬化部材であり、前記コケ植物はスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であって前記接着剤によって前記下地材に固着されていることを特徴とするものである。
【0009】
この緑化用材料の変形例としては、前記固形下地材が、木材、金属、プラスチックス、建築用外装ボード等の適宜の材料で形成された枠体付きパネル型容器部材に配置され、その上面に前記コケ植物が貼り付けられており、このパネル型容器部材を適宜の固着手段によって緑化工事面に取り付け可能な構造にしてなるものがある。
【0010】
また、上記緑化用材料の製造法では、先ず、適宜の砂状物と耐水性接着剤とを混合して下地材となし、該下地材の中の前記接着剤が固化しないうちに、その表面にコケ植物のマットを押圧して貼り付けることにより、スナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物からなるコケ植物を下地材に固着させることを特徴とするものである。この場合、前記下地材を、木材、金属、プラスチックス、建築用外装ボード等の適宜の材料で形成されたパネル型容器部材内に配置してその上面に前記コケ植物を貼り付ける方法もある。
【0011】
また、上記コケ植物を用いる緑化工事法では、前述の緑化用材料の多数を相互に密着させて工事面に取り付ける方法と、緑化工事面に直接下地材を塗布してその上面にコケ植物を貼り付ける方法がある。
【0012】
前者の方法では、前記コケ植物を装着されてなるパネル型容器部材の多数を緑化工事面に相互に密着させて直接固定する方法と、緑化工事面に予め用意した固定梁を固定配置し、該固定梁に前記パネル型容器部材の多数を相互に密着させて配置する方法が主な方法である。
【0013】
後者の方法は、前記砂状物と耐水性接着剤とを混合して下地材となし、この下地材を緑化工事面に塗布し、該下地材中の前記接着剤が固化しないうちに、その表面にスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物で構成されたコケ植物のマットを押圧して貼り付けることにより、該コケ植物を下地材に固着させる方法、即ち、緑化工事現場でコケ植物を下地材に直接固着させる緑化工法である。更に、他の緑化工事法としては、特に土壌面を工事面とする工法であって、該土壌工事面に抑草シートを貼り付けた後、該抑草シートの上面に前記下地材を塗布し、該下地材の中の前記接着剤が固化しないうちに、その表面に前記コケ植物のマットを押圧して貼り付ける工法がある。
【0014】
次に第2の施工法は、水硬化性有機高分子多孔質接着剤を緑化工事面に塗布し、該接着剤が吸湿固化しないうちに、該接着剤表面にコケ植物のマットを押圧して貼り付けることにより、該コケ植物を前記接着剤によって前記緑化工事面に固着させる緑化工法である。
【0015】
この第2の施工法の変形例としては、前記接着剤が大気中の湿気との反応により吸湿固化しないうちに、該接着剤表面にコケ植物のマットを押圧して貼り付けた後、引き続いて、その表面に水溶性エマルジョン樹脂を散布して該水溶性エマルジョン樹脂中の水分や親水基と前記水硬化性有機高分子多孔質接着剤とを反応させて硬化させることにより、該コケ植物を前記接着剤によって前記緑化工事面に固着させる緑化工法がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の施工法によると、緑化材としてのスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物で構成されたコケ植物は、砂状物と耐水性接着剤とが混合された下地材に、該接着剤が固化する前に下地材上に貼付けられ、該接着剤の固化によって該下地材に接着保持されるものであるので、緑化工事現場で容易にコケ植物の固着作業を行なうことができ、しかも安定的に固着保持されることになる。従って、予め時間を掛けて下地材に保持させる従来法に比して極めて容易にコケ植物を用いた緑化工事を行なうことが可能となる。
【0017】
また、下地材は、砂状物を耐水性接着剤で硬化されたものであるから、下地材自体は、排水性に富んだ構造になるので、雨水による過剰の水分を保持する等のコケ植物の生育を疎外することがなく、安定した緑の環境を維持することが可能となる。
【0018】
また、前記下地材でコケ植物を保持させたパネル型容器部材の容器付緑化用材料を予め用意しておけば、該パネル型容器部材を工事面に取り付けるだけで、道路の法面やコンクリート構造物の屋上や壁面の緑化工事も短期間で容易に行なうことができることになる。特に、緑化工事面に予め固定梁を配置しておき、この固定梁にパネル型容器部材を取り付ける方式を採用すると、建物の壁面に大きく傷付けることなく壁面緑化が可能となる。
【0019】
更に、土壌面が緑化工事面の場合には、該土壌面に予め抑草シートを配置しておき、その上に上述の下地材の塗布とコケ植物の貼付けを行なう様にしておけば、コケ植物内に雑草が生えるのを抑制できることになる。
【0020】
本発明の第2の施工法によると、水硬化性有機高分子多孔質接着剤を緑化工事面に塗布し、該接着剤が吸湿固化しないうちに、該接着剤表面にコケ植物のマットを押圧して緑化工事面に貼り付けるものであるので、緑化工事面が変化に富んだ形状であっても、広くても狭くても、又、垂直な工事面であっても容易にコケ植物による緑化工事を行なうことができる。又、前記コケ植物を貼り付けた後、その表面に水溶性エマルジョン樹脂を散布して該水溶性エマルジョン樹脂と前記水硬化性有機高分子多孔質接着剤とを反応硬化させる方法では、接着剤の硬化速度を速められるので、コケ植物の固着を速やかに安定化させることができる。更に前記接着剤とエマルジョンとがコケ植物を覆うが如き状態で一体化するため、施工直後の風雨による苔の脱落を防止することが可能となる。
【0021】
本発明においては、乾燥に強いスナゴケ或いはこのスナゴケと他のコケ植物との混生に適したハイゴケやフデゴケとの混生物を用いているので、壁面や法面の管理の困難な場所であっても、安定した緑化工事が可能となる。
【0022】
更に、傾斜面や垂直面の緑化工事が容易になる関係上、これらの緑化工事が促進され、都市部におけるヒートアイランド現象が緩和され、地球温暖化防止等の地球環境対策にも大きく寄与することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明について図面を用いて詳細に説明する。図1は、第1の施工法に使用する本発明に係るコケ植物を用いた緑化用材料の一例を示す要部断面図であり、同図において、所定の緑化工事面に配置されるコケ植物を保持した緑化用材料1は、下地材2と該下地材2に固着されたコケ植物3とで構成され、パネル型容器部材4内に充填された構成となっている。
【0024】
ここで、前記下地材2と該下地材2へのコケ植物3の固着方法について説明する。先ず、下地材2は、排水性に富んだ材料であり、適宜の粒度分布を有する砂状物2aと大気中で固化する耐水性接着剤2bとを混合して硬化(固化)させたものであって、砂状物の粒子2a同士が前記接着剤2bによって結合され、内部に多数の空洞2cが形成されて全体として固化した構成となっている。一方、コケ植物3は、根を有しないので、その下端部3aが前記接着剤2bによって砂粒子2aに接着して固着保持されている。
【0025】
前記下地材2に使用される砂状物としては、泥状の土壌や粘土状の土壌以外の適宜の粒度分布を有する微細な砂状物であればよく、一般に園芸用に販売されている園芸用培地を使用することも可能である。特に、コケ植物は、一般の植物のごとく根から養分を吸収するのではなく、風雨による外来飛散によって養分を吸収するので、該下地材2には養分補給機能は要求されない。要は、適宜の排水性を確保できる材料であれば良いといえる。
【0026】
また、本発明で使用する耐水性接着剤としては、速乾性の有機系接着剤等の大気中で比較的短時間で硬化して接着機能を発揮する接着剤であり、砂粒子及びコケ植物に対する接着性を有し且つ固化後に雨水によって流されない耐水性を有していることが必須である。
【0027】
次に、本発明で使用するコケ植物としては、スナゴケ、ハイゴケ及びフデゴケがある。スナゴケは、河原や山地の日当たりの良い砂質の土や岩の表面や、石垣の壁面等に群落する黄緑色のコケで、太陽光や急激な乾燥に耐える構造を持ち、無機質で乾燥した場所に先駆けて生育する代表的なコケ植物である。一方、ハイゴケとフデゴケは、腐食土壌や砂地等のやや日の当る場所に生育するコケであり、共存性も高く他のコケと混生し易いのも特徴である。従って、本発明では、壁面にも生育し易く美麗な黄緑色を呈するスナゴケを必須とし、これと同様に岩肌にも群生してスナゴケと混生可能なハイゴケやフデゴケがコケ植物として使用される。
【0028】
特に、本発明で必須とするスナゴケは、図2に模式的に示している通り、小さな棒状体とも言える形状をしているので、これを保持するには、従来法では、時間を掛けてコケ植物を育苗してしっかりと下地材2に根付かせて工事現場に搬送したり更に、飛散防止のためにネットで覆う方式等が取られていたが、本発明では、下地材2の砂粒子2aに接着剤2bで固着する方法を採用しているので、スナゴケといえども容易に下地材2に固着することが可能となる。
【0029】
次に、このコケ植物3の固着作業について図3により説明する。先ず、予めコケ植物のみを群生させた育苗場でコケ植物の育苗を行ない、このコケ植物の群生体から、前記パネル型容器部材4の形状に合う大きさに切り取ったコケマット(コケ植物に同じ)3を多数作成する。次に、前記砂状物と接着剤とを混合した下地材2を前記パネル型容器部材4内に充填し、この下地材2の接着剤が硬化しないうちに前記コケ植物の群生したコケマット3を押圧して貼り付ける。この押圧により、コケ植物の下端部3aが接着剤2bによって下地材2に接着固定される。
【0030】
次に、前記パネル型容器部材4の構成について説明する。該パネル型容器部材4は、周縁部の枠体4aと底板4dとからなり、周縁部の枠体4aは、アルミニウムやステンレス鋼等の耐候性に優れた金属材料やプラスチックス或いは木材等の適宜の材料で形成されるが、成形性と加工性の観点からは、アルミニウムやステンレス鋼等の金属材料が好ましい。また底板4dは、ベニヤ板や建築用外装ボード材等の軽量で水濡れ性の良い材料が使用され、該底板4dは、ネジ、ボルト或いはカシメ等の適宜の固定部材4bによって前記枠体4aに固定されている。また、前記下地材2及び底板4dを貫通して容器外に連通する中空プラスチック製の固定材ガイド部材5が適宜配置されており、該ガイド部材5に固定ネジ(図5に示すのネジ8)を挿入して該パネル型容器部材4を緑化工事面に固定するように構成されている。尚、図中前記枠体4aに形成されている開口4cはパネル型容器部材4内に溜まった雨水を排出するための排水孔である。
【0031】
次に、コケ植物を用いた緑化工事の要領について説明する。本発明の第1の施工法には更に3種類の工法がある。工法Iは、図3に示した如くパネル型容器部材4を基本構成とする緑化用材料1を用いる方法であり、工法IIは、前記パネル型容器部材4を用いることなく、緑化工事現場で下地材2にコケ植物3を貼り付ける工法であり、工法IIIは、緑化工事面に予め抑草シートを貼り付けた後に、工IIを行なう方法である。以下に、これらの方法について説明する。
【0032】
先ず工法Iについて説明する。この方法では、図3に示している如くパネル型容器部材4内に下地材2とコケ植物3を配置して形成した緑化用材料1を、前記固定材ガイド部材5内にコンクリートボルト等を挿入して適宜緑化工事面に固着する方法を基本とし、このパネル型容器部材4同士が略密着する様に、その多数を緑化工事面の全面に固着する。この方法は、緑化工事面が平滑な場合に適した方法であるが、建物の屋根面や壁面の如く、コンクリートボルトを無闇に打ち付けると建物の耐水性や強度に低下をもたらす懸念のある場合には、次に示す応用例が好ましい。
【0033】
次に図4は、工法Iの応用例であり、緑化工事面が建物等の垂直な壁面や急勾配の法面等に適した施工法である。図4において、緑化工事面に、前記パネル型容器部材4を固定するための固定梁6を、該パネル型容器部材4の幅に等しい間隔で平行に多数配置し、該固定梁6に前記パネル型容器部材4を隙間無く多数配置して固定する方法である。この場合の固定例を図5に示している。図5は、固定梁6へのパネル型容器部材4の固定部の要部拡大断面図であり、同図において、下地材2とコケ植物3を保持した前記パネル型容器部材4の前記底板4dと枠体4aを貫通して設けられた中空の前記固定材ガイド部材5内にネジ8を挿入して前記固定梁6に螺合させて該パネル型容器部材4を固定梁6に固定している。この場合に、各パネル型容器部材4は、4辺の各枠体4a同士が略密着するように配置されている。この施工法を採用すれば、建物等の垂直な壁面や急勾配の法面或いはスレート屋根のごとく比較的大きな波型凹凸を有し、前記パネル型容器部材4を直接設置し難い緑化工事面には最適の方法である。この観点から、屋根上に配置する場合には、図4に示している如く、視認できる端部に化粧縁7を配置して美観を配慮した構造とすることも可能である。
【0034】
更に、緑化工事面への施工に当り、前記下地材とコケ植物とを保持させたパネル型容器部材を予め多数用意しておき、これを緑化工事現場に配置するだけで緑化工事が完了するので、緑化工事が極めて簡便となる。因みに、パネル型容器部材を用いることなく、前記下地材にコケ植物を保持させた緑化用材料を予め多数用意して同様の施工を行なうことも可能であるが、この場合には緑化用材料が形崩れし易いので、前述の下地材とコケ植物とを保持させたパネル型容器部材を用いる方法が推奨される。
【0035】
また、この下地材とコケ植物とを保持させたパネル型容器部材を用いる工法Iを用いれば、このパネル型容器部材を緑化工事面に多数配置するだけでよいので、特に壁面や法面のごとく垂直或いは急角度の工事面の緑化の場合にも、該パネル型容器部材4をコンクリートボルト等の適宜の手段により壁面や法面に固着することにより容易に緑化工事を行なうことが可能となる。更に、パネル型容器部材4を工事面に配置した固定梁に保持させれば、建物の壁面への固定具の取り付けを最小限に抑えることが可能となり、また、スレート屋根等の波状体の表面の緑化も容易となる。
【0036】
次に、工法IIについて説明する。この工法は、前記パネル型容器部材4を用いることなく、現場で下地材2の製作からコケ植物3の貼付けまでを行なう方法であって、先ず、前述の通り、砂状物と接着剤とを混合した下地材2を調整しこれを所定の緑化工事面にセメントを塗る要領で所定厚さに塗布する。続いて該下地材中の接着剤が硬化しないうちに前述のコケマットを押圧して貼り付けていく。この作業を繰り返して所定の工事面の緑化工事が完了する。
【0037】
この工法では、前述のパネル型容器部材4を用いないので建物の壁面等の工事面には不適であるが、コスト面のメリットは大きい。従って、平坦なコンクリートやレンガ等の硬質面の緑化や、庭園や屋上等の平坦な面の緑化及び狭い場所の緑化に最適である。
【0038】
次に、工法IIIについて説明する。この工法は、むき出しの土壌面をコケ植物によって緑化する場合に最適の方法であり、図6に工事のイメージを示している。即ち、緑化すべき土壌面11の上に直接下地材2を配置した場合には、土壌中に存在する雑草が芽を出して繁茂する虞がある。そこで、この工法では、土壌面に農業用の抑草シート9を張り付けて適宜の固定具10によって該抑草シート9を土壌面に固定する。しかる後に、この抑草シート9の上面に前述の第2の方法と同様に、下地材2の塗布及びコケ植物3の貼付けを行なう。これにより、抑草シート9の存在によりコケ植物3による緑化部に雑草が生えてくることが抑制される結果、雑草除去の手間が省かれるために緑化部の管理が容易となる。
【0039】
また、コンクリートやレンガ等の硬質平面の場合には、パネル型容器部材を用いること
なく、下地材を工事施工面に塗布し、その上にコケ植物を貼り着ける工法IIを用いれば、庭園や狭隘な場所でも容易にコケ植物による緑化が可能となる。更に土壌面に対しては、抑草シートを配置した後に、その上面に下地材とコケ植物を配置する工法IIIによると、雑草の繁茂が抑制されるので、管理が容易になるメリットがある
【0040】
以上詳述した第1の施工法とそれに使用する緑化材料によると、美観的に優れたスナゴケ又はスナゴケにハイゴケやフデゴケを混生させた混生物からなるコケ植物を用いて緑化を行なうものであり、しかも、このコケ植物を下地材に耐水性接着剤を用いて固着させるものであるので、従来法の如く、長期間掛けて行なうコケ植物の下地材(基材)への根付のごとき作業が不要となるので、簡単且つ確実にコケ植物の下地材への固着がわれることになる。特に、コケ植物の飛散防止のために使われるネットも不要であるので、美観上も優れたものとなっている。
【0041】
次に、本発明の第2の施工法について説明する。図7は、この施工された緑化部の断面概念図であり、コンクリート面等の緑化工事面11の表面に水硬化性有機高分子多孔質接着剤15が塗布され、その表面部にコケ植物3が貼り付けられた構成となっている。施工の際は、先ず緑化工事面11を清掃した後、左官用のコテやヘラ等の適宜の道具を用いて、その表面に水硬化性有機高分子多孔質接着剤15を塗布して接着剤層を形成し、その表面に接着剤が硬化しないうちに別途用意されているコケ植物3のマットを押し付けて固着させる。尚、接着剤15自体に大気中の水分と反応して硬化する性質を有しているが、別途硬化反応を促進させる散布剤を塗布後の接着剤表面に散布することも可能である。
【0042】
この第2の施工法で使用する前記接着剤15に必要な特性としては、固着保持されたコケ植物3のために適度の保水力を有し且つ水や親水基との反応性を有し、更にpHは中性近傍の値が要求される。特にpHについては、本発明で使用するスナゴケやハイゴケ或いはフデゴケが酸性側でもアルカリ性側でも枯れてしまうので、pHは7近辺の中性が要求される。この観点から、本発明で使用する接着剤15としては、ウレタンプレポリマー系接着剤やウレタン樹脂溶液系接着剤やブロックされたウレタン樹脂エマルション接着剤が代表的な接着剤である。他には潜在性硬化剤を用いたウレタン樹脂もある。これらウレタン樹脂系接着剤では、その成分中のイソシアネート基(−NCO)が大気中の水分或いはその表面に散布される前述の散布液や後述する水溶性エマルジョン中の親水基(−OH,−COOH等)と反応して硬化し、この反応過程で生成する炭酸ガスの放出により硬化過程で発泡して多孔質体が形成されることになる。因みにこの多孔質発泡皮膜により断熱性も付与される。この硬化反応は比較的短時間で生じるので、コンクリートや石垣等の緑化工事面11に該接着剤15を介してコケ植物3が速やかに固着された状態となる。尚、水硬化性有機高分子多孔質接着剤としては上記ウレタン樹脂系接着剤の外、上記特性を満足するものであれば他の系統の接着剤でも良いことはいうまでも無い。
【0043】
また、前述の接着剤硬化促進のために表面に散布する散布液としては、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、エチレン酢ビエマルジョン、ポリビニルアルコール水溶液、スチレンブタジエン共重合ラテックス、クロロプレンラテックスなど中性の水性樹脂であれば使用が可能である。
【0044】
また、前記水硬化性有機高分子多孔質接着剤の塗布厚さは、硬化後の厚さで1〜5mm程度が好ましい。これより薄いと硬化速度が速くなり、コケ植物3の貼着作業に十分な時間が取り難くなるので、小刻みな貼着作業が要求され作業性が低下することになる。一方、これより厚いと、コケ植物3の貼着作業に十分な時間が得られるが、コケ植物の大きなマットが必要になるので、コケマットの生産自体に適応しなくなる問題も生じる。同時に、不要な接着剤層も生じることになるので、通常は、硬化後の膜厚で1〜5mm程度が好ましい厚さといえる。
【0045】
次に、上述の如く貼着されたコケ植物3は、コケ植物3が安定化するまでは、表面の乾燥によるコケ植物の脱落や枯死が生じる恐れがある。そこで、第2の施工法の変形例として図8に示しているように、前述の接着剤15の表面に該接着剤が固化しないうちにコケ植物3を貼り付けた後、続いてその表面に水溶性エマルジョン樹脂16を噴霧等の適宜の手段で散布してコケ植物3の外面を水溶性エマルジョン樹脂16による薄膜で被覆すると同時に、前記水硬化性有機高分子多孔質接着剤15のイソシアネート基と水溶性エマルション樹脂16中の水分及び親水基とを反応させて該水硬化性有機高分子多孔質接着剤を硬化させる。これにより、該コケ植物3の外面に水溶性エマルション樹脂による保護膜を形成すると共に、前記接着剤15によって前記緑化工事面11に固着させるようにしている。
【0046】
ここで使用する水溶性エマルション樹脂16としては、水溶性の各種エマルション樹脂が使用可能であるが、中性(PH6.5〜7.5程度)で通気性を有する薄膜を形成するものであれば特に限定されない。即ち、図9に概念的に示しているように、コケ植物3の下部で、前記接着剤15と水溶性エマルション樹脂16が反応して硬化し、コケ植物を固着するが、コケ植物3表面に付着した皮膜部分は前記接着剤との接触硬化反応には寄与していないので、水分の蒸発によって気孔が生成した薄膜が形成されることになる。この薄膜を通して空気中の水分がコケ植物3に供給され、同時に前記多孔体の接着剤15により保水されてコケ植物の乾燥が防止されるので、コケ植物の歩留まりが向上することになる。
【0047】
なお、第2の施工法においても、前述のパネル型容器部材4内に前記水硬化性有機高分子多孔質接着剤15を塗布し、その上面にコケ植物3のマットを貼り付けてコケ植物による緑化材料を形成することも可能である。
【0048】
以上の説明において、下地材2や接着剤15の表面に貼り付けるコケマット3は、予めコケ植物の育成農場においてマット状に形成されたものの外、育成したコケ植物を、所定のサイズ、例えば5mm程度に裁断調整されたコケ植物の集合物を、前記下地材2や接着剤15の表面に散布して押し付けてマット状にコケ植物を配置する方法であってもよいことはいうまでもない。特に、この方法を採用すれば、コケ植物は乾燥状態で袋に充填して輸送できるので輸送に便利であり、且つ、貼り付ける直前に水を加えて膨潤させたものを前記水硬化性有機高分子多孔質接着剤15に貼り付ける場合には、コケ植物の表面に付着している水分が前記接着剤の硬化剤として機能するので、コケ植物自体が接着剤の固化反応に寄与することになり、コケ植物の固着が一層強固なものになることが期待される。
【0049】
更に、本発明では、スナゴケやハイゴケ或いはフデゴケというコケ植物を用いているので、数ヶ月間も水分のない環境でも枯死することなく仮死状態で生存し続け、自然の雨水のみで生育が可能となり、生育の養分も風雨により外来飛散によって補給され、人為的な施肥が不要であり、生育しても背丈が殆ど大きくならず、生育スピードも非常に遅いので剪定は不要であり、加えて、環境適応能力が極めて高く、通常の植物が生育し難い環境においても優れた生育を示す等、保守管理の極めて容易な緑化材となり、その普及が大いに期待されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述した通り、本発明のコケ植物を用いた緑化用材料及び緑化工法によると、コン
クリート屋根、折半屋根、スレート屋根の緑化、むき出しコンクリート面や露出地面の緑
化、室内オブジェのコケ植物による演出、建物や道路の壁面緑化等々、多くの非緑化スペ
ースの緑化が可能となり、環境の美化のみならず、エネルギー問題や地球環境問題の解決
の一助となることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るコケ植物を用いた緑化用材料の一例を示す要部断面図である。
【図2】図1の要部拡大概念図である。
【図3】パネル型容器部材に保持されたコケ植物を有する緑化用材料の一実施例を示す概念斜視図である。
【図4】図3のパネル型容器部材の配置例を示す平面図である。
【図5】図4のパネル型容器部材の取り付け構造例を示す要部断面図である。
【図6】本発明による緑化工法の他の例を示す概念図である。
【図7】本発明による第2の施工法を示す概念図である。
【図8】図7に示した施工例の変形例を示す概念図である。
【図9】図8に示した施工例の説明用概念図である。
【符号の説明】
【0052】
1 緑化用材料
2 下地材
2a 下地材の砂粒物
2b 下地材の接着剤
3 コケ植物(スナゴケ);コケマット
3a コケ植物(スナゴケ)の下端部
4 パネル型容器部材
4a パネル型容器部材の枠体
4b 固定部材
4c 排水孔
4d 底板
5 固定材ガイド部材
6 固定梁
7 化粧縁
8 固定部材(ボルト)
9 抑草シート
10 シート固定具
11 土壌(緑化工事面)
15 水硬化性有機高分子多孔質接着剤
16 水溶性エマルション樹脂


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の工事面に配置されるコケ植物を保持した緑化用材料(1)であって、
下地材(2)と、その表面に固着されたコケ植物(3)とを有し、
前記下地材(2)は、砂状物(2a)と耐水性接着剤(2b)とが混合されて排水性に富んだ人工硬化部材であり、前記コケ植物(3)はスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であって、前記接着剤(2b)によって前記下地材(2)に固着されていることを特徴とするコケ植物を用いた緑化用材料
【請求項2】
請求項1に記載の緑化用材料を、木材、金属、プラスチックス、建築用外装ボード等の適宜の材料で形成された枠体(4a)付きパネル型容器部材(4)内に配置したことを特徴とするコケ植物を用いた容器付緑化用材料
【請求項3】
コケ植物を用いた緑化用材料の製造方法であって、
砂状物(2a)と耐水性接着剤(2b)とを混合して下地材(2)となし、該下地材(2)中の前記接着剤が固化しないうちに、その表面にコケ植物(3)のマットを押圧して貼り付けることにより、該コケ植物(3)を前記接着剤(2b)によって下地材(2)に固着させると共に、該コケ植物(3)がスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であることを特徴とするコケ植物を用いた緑化用材料の製造方法
【請求項4】
砂状物(2a)と耐水性接着剤(2b)とを混合して構成した下地材(2)を、木材、金属、プラスチックス、建築用外装ボード等の適宜の材料で形成された枠体(4a)付きパネル型容器部材(4)内に配置し、該下地材(2)中の前記接着剤が固化しないうちに、その表面に前記コケ植物(3)のマットを押圧して貼り付けることにより、該コケ植物(3)を前記接着剤(2b)によって該下地材(2)に固着させているものであることを特徴とするコケ植物を用いた緑化用材料の製造方法
【請求項5】
コケ植物を用いる緑化工法であって、
請求項1又は請求項2に記載の緑化用材料(1)の多数を、相互に密着させて緑化工事面に固着することを特徴とするコケ植物を用いた緑化工法
【請求項6】
コケ植物を用いた緑化工法であって、
緑化工事面に適宜の固定梁(6)を配置し、該固定梁(6)に、前記請求項2に記載の容器付緑化用材料の多数を密着固定することを特徴とするコケ植物を用いた緑化工法
【請求項7】
コケ植物を用いた緑化工法であって、
砂状物(2a)と耐水性接着剤(2b)とを混合して下地材(2)となし、該下地材(2)を緑化工事面(11)に塗布し、該下地材(2)の中の前記接着剤(2b)が固化しないうちに、その表面にコケ植物(3)のマットを押圧して貼り付けることにより、該コケ植物(3)を前記接着剤(2b)によって前記下地材(2)に固着させると共に、該コケ植物(3)がスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であることを特徴とするコケ植物を用いた緑化工法
【請求項8】
コケ植物を用いた緑化工法であって、
土壌の緑化工事面(11)に抑草シート(9)を貼り付けた後、該抑草シート(9)の上面に砂状物(2a)と耐水性接着剤(2b)とを混合してなる下地材(2)を塗布し、該下地材(2)の中の前記接着剤(2b)が固化しないうちに、その表面にコケ植物(3)のマットを押圧して貼り付けることにより、該コケ植物(3)を前記接着剤(2b)によって前記下地材(2)に固着させると共に、該コケ植物(3)がスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であることを特徴とするコケ植物を用いた緑化工法
【請求項9】
コケ植物を用いた緑化工法であって、
水硬化性有機高分子多孔質接着剤(15)を緑化工事面(11)に塗布し、該接着剤(15)が吸湿固化しないうちに、該接着剤表面にコケ植物(3)のマットを押圧して貼り付けることにより、該コケ植物(3)を前記接着剤(15)によって前記緑化工事面(11)に固着させると共に、該コケ植物(3)がスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であることを特徴とするコケ植物を用いた緑化工法
【請求項10】
コケ植物を用いた緑化工法であって、
水硬化性有機高分子多孔質接着剤(15)を緑化工事面(11)に塗布し、該接着剤(15)が吸湿固化しないうちに、該接着剤表面にコケ植物(3)のマットを押圧して貼り付け、続いて、その表面に水溶性エマルジョン樹脂(16)を散布して該水溶性エマルジョン樹脂(16)と前記水硬化性有機高分子多孔質接着剤(15)とを反応させて硬化させることにより、該コケ植物(3)を前記接着剤(15)によって前記緑化工事面(11)に固着させると共に、該コケ植物(3)がスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であることを特徴とするコケ植物を用いた緑化工法
【請求項11】
コケを用いた緑化用材料であって、
木材、金属、プラスチックス、建築用外装ボード等の適宜の材料で形成された枠体(4a)付きパネル型容器部材(4)の底板(4d)に、水硬化性有機高分子多孔質接着剤(15)を塗布し、該接着剤(15)が吸湿固化しないうちに、該接着剤表面にコケ植物(3)のマットを押圧して貼り付けと共に、該コケ植物(3)がスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であることを特徴とするコケ植物を用いた緑化用材料
【請求項12】
緑化用材料であって、
木材、金属、プラスチックス、建築用外装ボード等の適宜の材料で形成された枠体(4a)付きパネル型容器部材(4)の底板(4d)に、水硬化性有機高分子多孔質接着剤(15)を塗布し、該接着剤(15)が吸湿固化しないうちに、該接着剤表面にコケ植物(3)のマットを押圧して貼り付け、続いて、その表面に水溶性エマルジョン樹脂(16)を散布して該水溶性エマルジョン樹脂(16)と前記水硬化性有機高分子多孔質接着剤(15)とを反応させて硬化させると共に、該コケ植物(3)がスナゴケ又はスナゴケにハイゴケとフデゴケの一方若しくは双方を混生させた混生物であることを特徴とするコケ植物を用いた緑化用材料

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−72185(P2009−72185A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218290(P2008−218290)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(501072267)株式会社エコラヴィー (2)
【Fターム(参考)】