説明

コスペプチン、コスメジン、およびそれらの使用法

本発明は、本明細書においてコスペプチンおよびコスメジンと呼ばれる核酸ならびにポリペプチドに関する。コスペプチン、コスメジン、それらの類似体および模倣剤は、シグナル伝達経路において作用して、高血圧症および他の心血管パラメータ、ならびに胃内容排出を調節することが示されている。コスペプチンおよびコスメジン核酸組成物は、相同タンパク質または関連タンパク質およびそのようなタンパク質をコードするDNA配列の同定において;そのポリペプチドの産生において;ならびに関連する生理的経路の研究において用いられる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
緒言
ポリペプチドホルモンおよびそれらの受容体は、多細胞生物における恒常性の維持において重要な役割を果たしている。ヒトおよびいくつかの動物モデルのゲノムの最近のシークエンシングにより、パラロガスなリガンド遺伝子間の配列相同性に基づいて新規のポリペプチドリガンドを同定する、前例のない機会が提供される。さらに、公知のリガンドを有さない多数の推定上のG-タンパク質共役受容体が、それらの特徴的な7回膜貫通ドメインに基づいて予想されている。これらの「オーファン」GPCRのいくつかに対するリガンドは、生化学的精製および他のアプローチに基づいて同定されているが、それらの多くに対するリガンドはなおも不明である。
【0002】
これらの受容体に作用する物質の発見および開発における臨床および研究目的に関しては、特に既存のリガンドに対する作用の増強した特異性が存在し得る場合に、かなりの関心が存在する。
【0003】
関連刊行物
新たなホルモン、受容体、およびシグナル伝達メディエーターを発見する方法は、Hsu and Hsueh (2000) Mol Endocriol 14:594-604(非特許文献1)により概説されている。G-タンパク質共役受容体のレパートリーは、Vassilatis et al. (2003) P.N.A.S. 100:4903-4908(非特許文献2)により議論されている。オーファンG-タンパク質共役受容体は、Howard et al. (2001) Trends Pharmacol Sci 22:132-140(非特許文献3)により議論されている。
【0004】
関心対象の遺伝子配列には、Genbankアクセッション番号BI756561.1が含まれ、これはまた推定上の分泌型または細胞外タンパク質前駆体(テロリ(terori))であるホモサピエンス(Homo Sapiens)遺伝子座ID 80763としてAceviewでも見出される。mRNAは、2294ヌクレオチドの長さで、エキソン6個を有し、最終的にアミノ酸116個のポリペプチドをコードすると報告されている。表現型およびインビボの機能は、不明であると報告されている。
【0005】
Genbankアクセッション番号AV702831.1は、4_25666703としても公知のホモサピエンスソイグ(soygu)遺伝子座として、Aceviewで見出すことができる。mRNAは、1020ヌクレオチドの長さで、エキソン3個を有し、膜内に局在すると予想される、アミノ酸86個のポリペプチドをコードすると報告されている。表現型もインビボ機能も全く報告されなかった。
【0006】
【非特許文献1】Hsu and Hsueh (2000) Mol Endocriol 14:594-604
【非特許文献2】Vassilatis et al. (2003) P.N.A.S. 100:4903-4908
【非特許文献3】Howard et al. (2001) Trends Pharmacol Sci 22:132-140
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
コスペプチン(cospeptin)およびコスメジン(cosmedin)核酸組成物、ならびにそれらにコードされるポリペプチドおよびそれらの変種が提供される。これらのペプチドは、胃腸管内の細胞に作用することが示されている。ペプチドはまた、恒常性に関する血管反応を媒介して、血圧を調節する。本発明の一つの態様において、コスペプチンおよびコスメジンペプチドは、血圧を調節する、胃内容排出を減少させる、または平滑筋収縮を刺激することが望ましい場合に用いられる。このように、本発明は、胃内容排出を遅延させる、かつ/または遅らせるのに有用である物質から恩恵を受ける障害の処置における、コスメジンおよびコスペプチン、ならびにそれらの調節物質の使用に関する。本発明は、血圧の調整におけるコスペプチンまたはコスメジン調節剤の使用に関する。本発明はまた、胃内容排出を加速するための、例えば胃の運動性低下および関連障害の処置における、コスメジンおよびコスペプチンアンタゴニストの使用にも関する。
【0008】
治療物質としての使用に加え、本発明のもう一つの態様において、コスペプチンおよびコスメジンペプチドは、特異的類似体、アゴニスト、アンタゴニスト、模倣剤、ならびにそれらの産生、代謝、および分布を調節する物質を決定するためのスクリーニング法および研究法において利用される。調節ペプチドは、Gタンパク質共役受容体(GPCR)のサブグループのリガンドであり、胃腸、心血管、視床下部-下垂体軸、および中枢神経系において重要な役割を果たし得る。
【0009】
他の一般的な態様において、本発明は、コスペプチンおよびコスメジン核酸、それらに対応する遺伝子および遺伝子産物、アンチセンスヌクレオチド、ならびにコスペプチンまたはコスメジンペプチドの一つまたは複数のエピトープに対して特異的な抗体を含む、診断法および治療法もまた提供する。核酸組成物は、相同遺伝子または関連遺伝子の同定において;コードされるタンパク質の産生のために;コードされるタンパク質の発現または機能を調節する組成物の産生において;遺伝子治療のために;タンパク質の機能的領域をマッピングするために;および関連する生理的経路の研究において;用いられる。さらに、インビボでの遺伝子活性の調節は、予防目的および治療目的で用いられる。
【0010】
本発明の一つの態様において、以下からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる単離ポリペプチドが提供される:SEQ ID NO:1;SEQ ID NO:2;本明細書において定義されるようなストリンジェントな条件下でSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2にハイブリダイズする配列;ならびにそれらの機能的断片、誘導体および相同体。ポリペプチドは、図1Aおよび図1Bに示される配列、またはそれらの少なくとも6つの連続的な残基から選択されるアミノ酸配列を有してもよい。そのようなポリペプチドには、例えばSEQ ID NO:3、4、5に記載されるようなコスメジンA、B、もしくはC、または本明細書において提供される哺乳動物の相同体が含まれるが、それらに限定されるわけではない、それらの相同体が含まれる。そのようなポリペプチドには、例えばSEQ ID NO:6、7、8、9、10、および11に記載されるようなコスペプチンA、B、C、D、E、もしくはF、または本明細書において提供される哺乳動物相同体が含まれるが、それらに限定されるわけではない、それらの相同体もまた含まれる。そのようなポリペプチドは、薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物中に調製され得る。
【0011】
本発明の他の態様において、コスペプチンまたはコスメジンペプチドの治療的有効量が投与される、胃内容排出を抑制する方法が提供される。そのような投与は、痙攣、食後のダンピング症候群、食後の高血糖症などのような胃腸障害を患う個体において;胃腸診断手順の前;などに行われ得る。
【0012】
本発明のさらに他の態様において、コスメジンまたはコスペプチンのアンタゴニスト/アゴニストの治療的有効量が投与される、胃内容排出を調整する方法が提供される。そのような投与は、例えば、糖尿病性ニューロパシー、神経性食欲不振症などを患う個体に行われ得る。
【0013】
本発明の他の局面、ならびにそれらの特徴および利点は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなる。
【0014】
本発明の詳細な説明および好ましい態様
調節ペプチドのコスメジンおよびコスペプチンは、胃腸系、心血管系、視床下部-下垂体軸、および中枢神経系において重要な役割を果たすGタンパク質共役受容体(GPCR)のサブグループのリガンドである。治療物質としての使用に加え、コスペプチンおよびコスメジンペプチドは、特異的類似体、アゴニスト、アンタゴニスト、および模倣剤、ならびにそれらの産生、代謝、および分布の阻害剤を決定するためのスクリーニング法および研究法において利用される。
【0015】
本発明の一つの態様において、コスペプチンまたはコスメジンの活性の調節物質は、炎症性腸疾患の処置において用いられる。本発明のもう一つの態様において、コスペプチンまたはコスメジン活性の調節物質は、胃または腸の分泌過多;胃アトニー、尿閉、逆流性食道炎、乗り物酔い、神経性食欲不振症、例えば化学療法による悪心および嘔吐、糖尿病性胃不全麻痺などの処置に用いられる。
【0016】
もう一つの態様において、コスペプチンまたはコスメジン活性の調節物質は、高血圧を含む心血管パラメータの制御に用いられる。
【0017】
コスペプチンまたはコスメジン活性の調節物質は、ペプチドの産生、代謝、分布などが含まれるが、それらに限定されるわけではない、コスペプチンまたはコスメジンの生理的機能を変化させる分子を指す。そのような調節物質には、コスペプチンまたはコスメジンペプチドの活性を増強、強化、および/または模倣するアゴニスト;ならびにコスペプチンまたはコスメジンペプチドの活性を阻害または減少させるアンタゴニストが含まれる。
【0018】
一つの局面において、本発明は、コスペプチンもしくはコスメジンまたはそれらの調節物質の治療的有効量を被験体に投与することによって、該被験体における胃腸の運動性を有益に調整する方法を特徴とする。一つの態様において、本発明の方法は胃の運動性を低下させることに向けられる。もう一つの態様において、本発明は、胃内容排出を遅らせる方法に向けられる。これらの方法は、胃腸診断手順、例えば放射線検査または磁気共鳴映像法を受ける被験体に対して用いてもよい。または、これらの方法は、胃腸障害、例えば痙攣(急性憩室炎、胆管障害、またはオディ括約筋障害に関連し得る)を患う被験体における胃の運動性を低下させるために用いてもよい。もう一つの局面において、本発明は、コスペプチンまたはコスメジン調節物質の治療的有効量を被験体に投与することによって、被験体における食後のダンピング症候群を処置する方法に向けられる。もう一つの局面において、本発明は、コスペプチンまたはコスメジンアゴニストの治療的有効量を被験体に投与することによって、食後の高血糖症、例えば2型糖尿病に由来する食後の高血糖症を処置する方法に向けられる。
【0019】
もう一つの局面において、本発明は、コスペプチンまたはコスメジンアンタゴニストの治療的有効量を被験体に投与することによって、被験体における胃の運動性低下を処置する方法に向けられる。これらの方法は、運動性低下が糖尿病性ニューロパシーの結果である場合、または運動性低下が神経性食欲不振症の結果である場合に用いてもよい。運動性低下は、無塩酸症または胃の手術の結果としてもまた起こり得る。もう一つの局面において、本発明は、コスペプチンまたはコスメジン調節物質の治療的有効量を被験体に投与することによって、被験体における胃内容排出を加速する方法に向けられる。
【0020】
本発明は、本明細書においてコスペプチンおよびコスメジンと呼ばれる核酸およびポリペプチドを提供する。コスメジンの型には、コスメジンA、コスメジンB、およびコスメジンCが含まれ、それらは図1Bに示されるように、アミノ酸23個、15個、および6個の長さである。コスペプチンの型には、コスペプチンA、コスペプチンB、コスペプチンC、コスペプチンD、およびコスペプチンE、コスペプチンFが含まれ、それらは図2Bに示されるように、アミノ酸残基43個、37個、33個、27個、21個、および7個の長さである。ペプチドは、胃腸管内の細胞に及ぼす作用を含め、生物学的に活性であることが本明細書において示される。
【0021】
SEQ ID NO:1として提供されるコスメジン遺伝子は、(図1Aに示すように)アミノ酸116個の長さのプロペプチドをコードして、これが成熟型A、B、Cにプロセシングされる。ヒトにおいて、コスメジンの成熟型は以下を含み得る。

【0022】
ペプチドは、カルボキシ末端で遊離酸として提供されてもよく、またはアミド化されていてもよい。保存されたグリシン残基は、コスメジンBが、保存された末端のグリシン残基で本来アミド化されていることを示している。コスメジン転写物は、多様なヒト胃腸管組織、ならびに視床下部、下垂体、腎臓、膵臓、および他の組織において発現される。コスメジンB型は特に活性であり、アセチルコリンムスカリン受容体アゴニストである5-メチルフルメチド(5-methylfurmethide)の活性と同等の、モルモット回腸の濃度依存的筋収縮を生じる。インビボでコスメジンBを投与すると、胃内容排出を有効に阻害する。
【0023】
SEQ ID NO:2として提供されるコスペプチン遺伝子は、(図2Aに示すように)アミノ酸67個の長さのプロペプチドをコードして、これは成熟型A、B、C、D、E、およびFにプロセシングされる。ヒトにおいて、コスペプチンの成熟型は以下を含み得る。

【0024】
ペプチドはカルボキシ末端で遊離酸として提供されてもよく、またはアミド化されていてもよい。保存されたグリシン残基は、6個全ての型が、保存された末端のグリシン残基で本来アミド化されている可能性があることを示している。コスペプチン転写物は、多様なヒト胃腸管組織ならびに、視床下部、膵臓、胸腺、および他の組織において発現される。コスペプチン-A、-B、および-Eによる処置は、胃内容排出を有効に阻害する。
【0025】
本方法における使用のために、SEQ ID NO:3〜11のいずれかに従って記載されたアミノ酸配列を含むペプチドを含む、任意の天然のコスペプチンまたはコスメジン型、およびそれらの相同体、それらの改変体、または型の組み合わせを用いてもよい。関心対象のペプチドには、少なくとも約6個の連続的なアミノ酸の断片、より好ましくは少なくとも約10個の連続的なアミノ酸の断片が含まれ、全体でアミノ酸15個またはそれ以上、最大で提供されたペプチド配列を含んでもよく、前駆体タンパク質に存在する他の配列を含むようにさらに拡大してもよい。
【0026】
コスペプチンまたはコスメジンペプチドの配列は、配列中に標的の変化を生じる、当技術分野において公知の様々な方法で、本明細書において提供される配列から改変され得る。改変されたペプチドは、本明細書に提供した配列と実質的に類似しており、好ましくは1個〜3個のアミノ酸が異なる。配列の変化は、適した置換、挿入、または欠失であってもよい。これらの変更されたペプチドは、コスメジン/コスペプチン活性の調節物質として用いてもよい。
【0027】
コスペプチンまたはコスメジンペプチドは、多様な目的のために多様な他のオリゴペプチドまたはタンパク質に結合させてもよい。様々な翻訳後修飾を成し遂げてもよい。例えば、適当なコード配列を用いることによって、ファルネシル化またはプレニル化を提供してもよい。この状況において、ペプチドは、リポソームのような脂質膜に結合させることができるように、末端で脂質基に結合される。
【0028】
一次配列を改変しない関心対象の修飾には、ポリペプチドの化学誘導体化、例えばアセチル化またはカルボキシル化が含まれる。同様に、例えばポリペプチドの合成およびプロセシングの際に、またはさらなるプロセシング段階においてポリペプチドのグリコシル化パターンを変更することによって、例えば哺乳動物のグリコシル化または脱グリコシル化酵素のような、グリコシル化に影響を及ぼす酵素にポリペプチドを曝露することによって作製される、グリコシル化の改変も含まれる。同様に、リン酸化されたアミノ酸残基、例えばホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホトレオニンを有する配列も含まれる。
【0029】
同様に、タンパク質分解に対する抵抗性を改善するため、溶解特性を最適化するため、または治療物質としてより適切にするために、通常の分子生物学技術および合成化学を用いて変更されているポリペプチドも本発明に含まれる。そのようなポリペプチドの類似体には、天然に存在するL-アミノ酸以外の残基、例えばD-アミノ酸または非天然の合成アミノ酸を含むポリペプチドが含まれる。
【0030】
本ペプチドは、当技術分野において公知のような従来の方法を用いて、インビトロ合成によって調製してもよい。市販の様々な合成装置、例えばApplied Biosystems, Inc, Foster City, CA、Beckmanなどによる自動合成器が利用可能である。合成器を用いることによって、天然に存在するアミノ酸を、非天然アミノ酸に置換してもよい。特定の配列および調製様式は、簡便さ、経済性、必要な純度などによって決定される。
【0031】
望ましい場合、合成の際または発現の際に様々な基をペプチドに導入してもよく、これによって他の分子または表面に連結させることができる。このように、システインを用いてチオエステルを作製することができ、ヒスチジンを用いて金属イオン錯体を連結させることができ、カルボキシル基を用いてアミドまたはエステルを形成させることができ、アミノ基を用いてアミドを形成させることなどができる。
【0032】
ポリペプチドはまた、従来の組換え型合成法に従って単離および精製してもよい。発現宿主の溶解物を調製して、溶解物をHPLC、排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィー、または他の精製技術を用いて精製してもよい。好ましくは、用いられる組成物は、産物の調製法およびその精製に関連した混入物に関して、所望の産物を少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも約75重量%、さらにより好ましくは少なくとも約95重量%、および治療目的の場合、好ましくは少なくとも約99.5重量%を含む。百分率は総タンパク質に基づく。
【0033】
本発明の一つの好ましい態様において、治療ペプチドは、本質的に、本明細書に記載のポリペプチド配列からなる。本明細書に記述のポリペプチドの状況において「本質的に〜からなる」とは、ポリペプチドが例えば配列表に記載される配列からなり、その配列は一つもしくは複数のアミノ酸またはポリペプチドの任意の基本的な特徴に著しい影響を及ぼさない他の残基に隣接されてもよいことを意味する。
【0034】
化合物のスクリーニング
もう一つの局面において、本発明は、上記のポリペプチドの機能の調節物質としてそれらの活性を決定するための化合物の、アッセイ法またはスクリーニング法に関する。化合物のスクリーニングは、インビトロモデル、遺伝的に改変された細胞もしくは動物、またはコスペプチンもしくはコスメジン型の任意の一つに相当する精製タンパク質を用いて行ってもよい。調節物質の同定を含め、ペプチドに結合するか、その作用を調節または模倣する、リガンドまたは基質を同定することができる。
【0035】
ポリペプチドには、本明細書において提供されるポリペプチドおよびそれらの変種が含まれる。変種ポリペプチドには、アミノ酸(aa)置換、付加、または欠失が含まれ得る。アミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換、あるいはグリコシル化部位、リン酸化部位、もしくはアセチル化部位を改変させるための非必須アミノ酸を除くための置換、または機能にとって必須ではない一つもしくは複数のシステイン残基の置換もしくは欠失によって誤折りたたみを最小限にするためなどの置換であり得る。タンパク質の特定の領域(例えば、ポリペプチドがタンパク質ファミリーのメンバーである場合の機能的ドメイン、またはコンセンサス配列に関連した領域)の生物活性を保持するか、または増強された生物活性を有するように変種を設計することができる。変種には、本明細書において開示されるポリペプチドの断片、例えば生物活性断片および/または機能的ドメインに相当する断片もまた含まれる。
【0036】
化合物のスクリーニングによって、コスペプチンまたはコスメジンの機能を調節する調節剤が同定される。ヒト細胞に対して低い毒性を有する物質に関するスクリーニングアッセイは特に関心対象である。標識されたインビトロタンパク質-タンパク質結合アッセイ、電気泳動移動度シフトアッセイ、タンパク質結合に関するイムノアッセイなどを含む、多様なアッセイをこの目的のために用いてもよい。
【0037】
「調節物質」という用語には、コスペプチンまたはコスメジンペプチドの生理的機能を改変させるかまたは模倣することができる任意の分子、例えばタンパク質または薬品が含まれる。一般的に、様々な濃度に対する差次的な反応を得るために、複数のアッセイ混合物を異なる物質濃度で同時に実施する。典型的には、これらの濃度の一つは、陰性対照の、すなわちゼロ濃度または検出レベル未満で、役割を果たす。
【0038】
候補物質は多数の化学クラスを包含するが、典型的にそれらは有機分子、好ましくは50ダルトンより多く約2,500ダルトン未満の分子量を有する低分子有機化合物である。候補調節物質は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合にとって必要な官能基を含み、典型的には、少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基を含み、好ましくは化学官能基の少なくとも二つを含む。候補調節物質はしばしば、上記の官能基の一つまたは複数によって置換された、環状炭素構造もしくは複素環構造、および/または芳香族構造もしくは多環芳香族構造を含む。候補物質は、ペプチド、糖、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的類似体、またはそれらの組み合わせを含む生体分子においてもまた見いだされる。
【0039】
候補調節物質は、合成化合物または天然化合物のライブラリを含む多種多様な供給源から得られる。例えば、ランダム化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む、多種多様な有機化合物および生体分子のランダム合成および指向合成のために、多数の手段が利用可能である。または、細菌、真菌、植物、および動物抽出物の形での天然化合物のライブラリが利用可能または容易に産生される。さらに、天然のまたは合成的に産生されたライブラリおよび化合物は、従来の化学的、物理的、および生化学的手段によって容易に変更され、組み合わせライブラリを作製するのに用いられ得る。公知の薬理物質を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などのような指向化学改変またはランダム化学改変に供して、構造類似体を産生してもよい。試験物質は、例えば、天然物ライブラリまたは組み合わせライブラリのようなライブラリから得ることができる。多数の異なるタイプの組み合わせライブラリおよびそのようなライブラリの調製法が、例えば、そのそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる、PCT公報国際公開公報第93/06121号、国際公開公報第95/12608号、国際公開公報第95/35503号、国際公開公報第94/08051号、および国際公開公報第95/30642号を含め、記述されている。
【0040】
スクリーニングアッセイが結合アッセイの場合、一つまたは複数の分子を、検出可能なシグナルを直接的または間接的に提供することができる標識に結合させてもよい。様々な標識には、放射性同位元素、蛍光剤、化学発光体、酵素、特異的結合分子、粒子、例えば磁気粒子などが含まれる。特異的結合分子には、ビオチンおよびストレプトアビジン、ジゴキシンおよびアンチジゴキシンなどのような対が含まれる。特異的結合メンバーについては、公知の手順に従って、相補的メンバーが、検出を提供する分子によって通常標識されるであろう。
【0041】
多様な他の試薬をスクリーニングアッセイに含めてもよい。これらには、最適なタンパク質-タンパク質結合を促進する、および/または非特異的またはバックグラウンド相互作用を低下させるために用いられる塩、中性タンパク質、例えばアルブミン、界面活性剤などのような試薬が含まれる。プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤などのようなアッセイの効率を改善する試薬を用いてもよい。成分は、必須の結合を提供する任意の順序で添加される。インキュベーションは、任意の適した温度、典型的には4℃〜40℃で行われる。インキュベーション時間は、最適な活性のために選択されるが、同様に迅速なハイスループットスクリーニングを促進するためも最適化され得る。典型的には0.1時間〜1時間で十分であろう。
【0042】
コスペプチンまたはコスメジンに結合することができる、または結合を妨げることができる化合物に関してスクリーニングすることによって、予備的スクリーニングを行うことができる。結合アッセイは通常、コスペプチンまたはコスメジンを一つまたは複数の試験化合物に接触させる段階、ならびにタンパク質および試験化合物が結合複合体を形成するのに十分な時間を与える段階を含む。形成された任意の結合複合体は、数多くの確立された分析技術のいずれかを用いて検出することができる。タンパク質結合アッセイには、共沈殿、非変性SDS-ポリアクリルアミドゲル上での共移動、およびウェスタンブロット上での共移動などを測定する方法が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0043】
発現レベルまたは活性レベルを、基準値と比較することができる。基準値は、対照試料の値または対照集団を代表する統計値であり得る。発現レベルまたは活性レベルはまた、陰性対照としてコスペプチンまたはコスメジンに反応しない細胞に関して決定することもできる。
【0044】
前述のスクリーニング法のいずれかによって当初同定された化合物を、見かけの活性を確認するためにさらに試験することができる。そのような方法の基本構成には、初回スクリーニングの際に同定されたリード化合物を、ヒトのモデルとして機能する動物に投与する段階、およびその後所望の生物学的機能が影響を受けるか否かを決定する段階が含まれる。バリデーション実験において利用される動物モデルは、一般的に哺乳動物である。適した動物の具体的な例には、霊長類、マウスおよびラットが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0045】
コスペプチンまたはコスメジン活性を調節する、本明細書において記述されるスクリーニング法によって同定される活性試験物質は、類似体化合物の合成のためのリード化合物として役立ち得る。典型的に、類似体化合物は、リード化合物と類似の電子配置および分子コンフォメーションを有するように合成される。類似体化合物の同定は、自己無撞着場(self-consistent filed)(SCF)分析、コンフィギュレーション相互作用(CI)分析、および通常モード動力学分析のような技術を用いることによって行うことができる。これらの技術を実行するためのコンピュータープログラムが利用可能である。例えば、Reinら(1989)「Computer-Assisted Modeling of Receptor-Ligand Interactions」(Alan Liss, New York)を参照されたい。
【0046】
類似体を調製した後、それらを本明細書において開示される方法を用いてスクリーニングして、コスペプチンまたはコスメジン活性の、増加した調節能を示す類似体を同定することができる。次にそのような化合物をさらなる分析に供して、薬剤物質として最大の潜在能力を有するように思われる化合物を同定する。または、スクリーニング法を通して活性を有することが示された類似体を、本明細書において記述される方法によってスクリーニングすることができる、なおさらなる類似体の調製におけるリード化合物とし得る。スクリーニング、類似体の合成、および再スクリーニングのサイクルを複数回繰り返すことができる。
【0047】
薬学的組成物
上記のスクリーニング法によって同定された活性化合物およびその類似体(例えば、薬学的に許容される塩)は、上記のような様々な障害の処置のために調製された薬学的組成物における活性成分として役立ち得る。活性成分は、治療的有効量、すなわち標的タンパク質またはポリペプチドの効果を実質的に調節して、それらによって媒介される疾患または医学的状態を処置するために投与した場合に十分な量で存在する。
【0048】
組成物には、送達および有効性を増強するため、例えば活性成分の送達および安定性を増強するために様々な他の物質もまた含まれ得る。
【0049】
このように、例えば、組成物には、所望の製剤に応じて、動物またはヒトでの投与のための薬学的組成物を調製するために一般的に用いられる賦形剤であると定義される、薬学的に許容される非毒性の担体または希釈剤もまた含まれ得る。希釈剤は、化合物質の生物活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、緩衝用水、生理食塩液、PBS、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンクス液である。さらに、薬学的組成物または製剤には、他の担体、アジュバント、または非毒性の非治療的非免疫原性安定化剤、添加剤などが含まれ得る。組成物には、pH調節剤および緩衝剤、毒性調節剤、湿潤剤および界面活性剤のような、生理的条件を近似するためのさらなる物質もまた含まれ得る。組成物には、抗酸化剤のような多様な安定化剤のいずれかもまた含まれ得る。
【0050】
薬学的組成物に、活性成分としてポリペプチドが含まれる場合、ポリペプチドは、ポリペプチドのインビボ安定性を増強するか、または他の方法でその薬理特性を増強する(例えば、ポリペプチドの半減期を増加させる、その毒性を低下させる、溶解度または取り込みを増強する)、様々な周知の化合物と複合体を形成することができる。そのような修飾または複合剤の例には、サルフェート、グルコネート、シトレート、およびホスフェートが含まれる。組成物のポリペプチドはまた、インビボでの属性を増強する分子とも複合体を形成することができる。そのような分子には、例えば炭水化物、ポリアミン、アミノ酸、他のペプチド、イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン)および脂質が含まれる。
【0051】
様々なタイプの投与に適した製剤に関するさらなる指針は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」, Mace Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed.(1985)において認められ得る。薬物の送達法の短い論評は、Langer, Science 249:1527-1533(1990)を参照されたい。
【0052】
薬学的組成物は、予防的および/または治療的処置のために投与することができる。活性成分の毒性および治療効率は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)の決定を含む、細胞培養および/または実験動物における標準的な薬学的手順に従って決定され得る。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数であり、それは比LD50/ED50として表記され得る。大きい治療指数を示す化合物が好ましい。
【0053】
細胞培養および/または動物実験から得られたデータを用いて、ヒトについての投与量範囲を明確に示すことができる。活性成分の投与量は、ほとんど、または全く毒性を示さないED50を含む循環濃度範囲内に典型的に存在する。投与量は、用いられる投与剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変化し得る。
【0054】
本明細書において記述される薬学的組成物は、多様な異なる方法で投与することができる。例には、経口、鼻腔内、直腸内、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下(subcutaneous)、皮下(subdermal)、経皮、髄腔内、または頭蓋内法によって、薬学的に許容される担体を含む組成物を投与することが含まれる。
【0055】
経口投与の場合、活性成分を、カプセル剤、錠剤、および粉剤のような固体投与剤形、またはエリキシル剤、シロップ剤、および懸濁剤のような液体投与剤形で投与することができる。活性構成成分は、不活性成分およびグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルカム、炭酸マグネシウムのような粉末担体と共にゼラチンカプセルに封入することができる。望ましい色、味、安定性、緩衝能、分散または他の公知の望ましい特徴を提供するために添加され得るさらなる不活性成分の例は、赤色酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、および食用白色インクである。類似の希釈剤を用いて圧縮錠を作製することができる。錠剤およびカプセル剤はいずれも、数時間にわたって医用薬剤の持続的な放出を提供するために徐放製剤として製造することができる。圧縮錠は、任意の不快な味を隠すため、および錠剤を大気から保護するために糖衣をかけるか、もしくはフィルムコートされてもよく、または胃腸管における選択的な崩壊のために腸溶コートされてもよい。経口投与のための液体投与剤形は、患者の許容性を増加させるために着色料および着香料を含み得る。
【0056】
活性成分は単独または他の適した構成成分と組み合わせて、吸入によって投与されるエアロゾル製剤(すなわち、それらを「噴霧」することができる)にすることができる。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素のような加圧された許容される噴射剤中に入れることができる。
【0057】
直腸投与のための適した製剤には、例えば、坐剤基剤と共に容器詰めされた活性成分からなる坐剤が含まれる。適した坐剤基剤には、天然または合成のトリグリセリドまたはパラフィン族炭化水素が含まれる。さらに、例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、およびパラフィン族炭化水素を含む基剤と、容器詰めされた活性成分との組み合わせからなるゼラチン直腸カプセルを用いることもまた可能である。
【0058】
例えば、関節内(関節中)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、および皮下経路によるような非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含み得る水性および非水性の等張滅菌注射液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および防腐剤を含み得る水性および非水性滅菌懸濁液が含まれる。
【0059】
薬学的組成物を調製するために用いられる成分は、好ましくは、高純度であり、潜在的に有害な混入物を実質的に含まない(例えば、少なくともナショナルフード(NF)等級、一般的には少なくとも分析等級、およびより典型的には少なくとも医薬品等級)。その上、インビボでの使用が意図される組成物は、好ましくは無菌的である。所定の化合物を使用前に合成しなければならない限りにおいて、得られた産物は、好ましくは、合成または精製プロセスの間に存在し得る任意のエンドトキシンのような任意の潜在的に毒性の物質を実質的に含まない。非経口投与のための組成物もまた好ましくは無菌的で、実質的に等張であり、かつGMP条件下で作製される。
【0060】
コスペプチンまたはコスメジンポリペプチドに対して特異的な抗体
本発明は、コスペプチンまたはコスメジンポリペプチド、例えば上記の変種、ポリペプチド、またはドメインのいずれか一つに対して特異的な抗体をさらに提供する。そのような抗体は、例えば生体試料におけるコスペプチンまたはコスメジンの有無を検出する方法において、および生体試料からコスペプチンまたはコスメジンを単離する方法において有用である。抗体はまた、コスペプチンまたはコスメジン活性のアンタゴニストとしても有用である可能性がある。
【0061】
本発明のコスペプチンまたはコスメジンポリペプチドは、短い断片が特定のポリペプチドに対して特異的な抗体を提供する抗体の産生にとって有用であり、より大きい断片またはタンパク質全体はポリペプチドの表面に対する抗体の産生を可能にする。本明細書において用いられるように、「抗体」という用語には、Fab、Fv、scFv、およびFd断片、キメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、ならびに抗体の抗原結合部分および非抗体タンパク質とを含む融合タンパク質が含まれるが、それらに限定されるわけではない、任意のアイソタイプの抗体、抗原に対する特異的結合を保持する抗体断片が含まれる。抗体は、例えば放射性同位元素、検出可能な産物を生成する酵素、緑色蛍光タンパク質などを用いて検出可能に標識してもよい。抗体は、特異的結合対のメンバー、例えばビオチン(ビオチン-アビジン特異的結合対のメンバー)などのような他の部分にさらに結合されてもよい。抗体はまた、ポリスチレンプレートまたはビーズなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない固体支持体に結合されてもよい。
【0062】
抗体-抗原相互作用の状況において「抗体特異性」は、所定の抗体が所定の抗原に結合することを示し、ここでその抗原によって、または抗体により認識され、かつ無関係な抗原に実質的に結合しないそのエピトープによって、結合が阻害され得る。特異的抗体結合を決定する方法は、当業者に周知であり、コスペプチンまたはコスメジンポリペプチド、特にヒトコスペプチンまたはコスメジンポリペプチドに対する、本発明の抗体の特異性を決定するために用いることができる。
【0063】
抗体は、発現されたポリペプチドまたはタンパク質が、単独で免疫原として、または公知の免疫原性担体、例えばKLH、プレ-S HBsAg、他のウイルス、もしくは真核細胞タンパク質などに結合して用いられる従来の方法に従って調製される。 適宜、一連の注射剤と共に様々なアジュバントを用いてもよい。モノクローナル抗体の場合、一回または複数回の追加免疫注射後に脾臓を単離して、リンパ球を細胞融合によって不死化し、次いで高親和性抗体結合に関してスクリーニングする。所望の抗体を産生する不死化細胞、すなわちハイブリドーマをその後増大させてもよい。より詳細な説明にについては、「Monoclonal Antibodies:A Laboratory Manual」, Harlow and Lane eds. Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor, New York, 1988を参照されたい。望ましい場合、重鎖および軽鎖をコードするmRNAを単離して、大腸菌にクローニングすることによって変異誘発してもよく、重鎖および軽鎖を混合して抗体の親和性をさらに増強してもよい。抗体を作製する方法としてインビボ免疫の代わりに、通常インビトロアフィニティ成熟と共に、ファージディスプレイライブラリへの結合が含まれる。
【0064】
コスペプチンまたはコスメジンの使用
コスペプチンおよびコスメジンの薬理学的活性に照らして、多数の臨床適応が明白である。例えば、コスペプチンまたはコスメジンペプチド調節物質が用いられる可能性がある臨床適応には、炎症性腸疾患の処置が含まれる。本発明のもう一つの態様において、コスペプチンまたはコスメジン活性の調節物質は、胃または腸腸の分泌過多;胃アトニー、尿閉、逆流性食道炎、乗り物酔い、神経性食欲不振症、例えば化学療法による悪心および嘔吐、糖尿病性胃不全麻痺などの処置に用いられる。
【0065】
慢性または再発性胃腸障害である過敏性腸症候群(IBS)は、その罹患者において腹痛または不快感を生じる。IBSは、変化した排便習慣を伴う腹痛として現れる。現在、処置の選択肢は教育および食事の変更から、薬物療法、心理療法の範囲に及ぶ。薬物および/または心理療法は、中等度または重度の症状を有するIBS患者の30%において必要である。IBSの症状は、腸管の運動反応性における量的な差、および刺激または自発的収縮に対する感受性の増加の産物である。IBSの顕著な特徴は、排便によって軽減される腹痛であり、これは便の堅さの変化または頻度に関連している。IBSは、下痢が優勢、便秘が優勢、またはその両者の交互の組み合わせであり得る。
【0066】
IBSを有する人は、小腸および結腸における痛みを伴う膨満に反応して、および正常な腸の機能に反応して過敏症、特に痛覚過敏を示す。さらに、増加した内臓痛または異常な内臓痛領域もまた存在する。腹痛はしばしば、局所性に乏しく、本質的に移動性および/または不定であり得る。疼痛は、食事によって悪化し得、排便によって低減し得る。さらに、痛覚過敏を含むIBS症状は、一般にストレスによって開始または増悪する。
【0067】
IBS疼痛および鼓腸のために鎮痙薬を処方してもよい。過敏性腸症候群の症状を軽減するために有効である物質の活性は一般的に鎮痙性であり、それによって腸の運動性が減少する。
【0068】
液体および/または固体内容物の遅延した排出を伴う胃の運動性低下は、多数の胃腸障害の構成成分であり、コスペプチンまたはコスメジンの調節物質によって処置される可能性がある。一般的な考察に関しては、Goodman and Gilman's「The Pharmacological Basis of Therapeutics」, Chapter 38(Pergamon Press, Eighth Edition 1990)を参照されたい。そのような障害の症状には、悪心、嘔吐、胸やけ、食後の不快感、および消化不良が含まれてもよい。胃食道逆流はしばしば明白であり、食道の潰瘍化を生じ得る;同様に、喘息または心筋梗塞とそれぞれ混同され得る呼吸器症状または強い胸骨下痛が存在することもある。患者の大多数において原因は不明であるが、胃のうっ滞または運動性低下は、往々にして糖尿病性ニューロパシーの結果であり、この状態はしばしば、神経性食欲不振症もしくは無塩酸症の患者、または胃の手術後の患者にもまた存在する。
【0069】
胃の運動性低下を有する患者の医学的管理には通常、運動促進剤の投与が含まれる。制吐剤であるフェノチアジンまたはベタネコールは何らかの軽減を提供する可能性があるが、これらの薬物は、大多数の患者において胃内容排出を加速せず、しばしば許容されない副作用を生じる。
【0070】
胃内容排出を遅延させるように役立つ物質は、薬としても有用であり、特に胃腸放射線検査において診断補助として有用である。そのような物質は、痙攣に関連した様々な痛みを伴う胃腸障害を処置するためにもまた用いられる。上記のコスペプチンおよびコスメジンペプチドは、排出を調整するそれらの薬理学的特性の観点から有用である。
【0071】
コスペプチンまたはコスメジンペプチド調節物質が利用される可能性がある臨床適応には、高血圧症の処置もまた含まれる。高血圧症は、処置されなければ、アテローム性心血管疾患に強度の素因を与える疾患である。成人アメリカ人4人に1人もが高血圧症を有すると推定されている。高血圧症は、糖尿病を有する人ではそうでない人の約2倍見られる。高血圧症の有病率は年齢と共に増加する。
【0072】
高血圧症は、1回の測定に基づいて診断するべきではない。最初の上昇した測定値が、1週間またはそれ以上の間の少なくとも2回のその後の診察時に確認されるべきであり、高血圧症の診断のためには90 mmHgもしくはそれ以上の平均拡張期血圧または140 mmHgもしくはそれ以上の平均収縮期血圧が必要である。糖尿病を有する人における高血圧症の診断は、血圧の変動がより大きいこと、および孤立性収縮期高血圧症の可能性がかなり高いことから、特別な注意に値する。これらの患者には、130/85 mmHg未満という目標血圧が推奨される。
【0073】
食事の変化の他に、高血圧を制御するために薬理学的処置が必要であり得る。本ペプチドを、動脈血圧を低減させるために投与してもよい。さらに、高血圧症の低減の副次的効果は、浮腫および炎症性浸出液容積の低減である。
【0074】
コスペプチンおよびコスメジン核酸
本発明には、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2に記載の配列を有する核酸;ストリンジェントな条件下で、好ましくは高ストリンジェンシー条件下でSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2に記載の配列にハイブリダイズする核酸;提供された核酸に相当する遺伝子;コスペプチンをコードする配列;ならびにそれらの機能的断片および誘導体が含まれる。本発明によっておよび本発明の範囲内であると企図される他の核酸組成物は、本開示によって提供された際に当業者に容易に明らかとなる。
【0075】
本発明の核酸には、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2に対して配列類似性または配列同一性を有する核酸が含まれる。配列類似性を有する核酸は、低ストリンジェンシー条件下、例えば50℃で10×SSC(0.9 M食塩液/0.09 Mクエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーションによって検出される可能性があり、1×SSCにおいて55℃での洗浄に供しても結合したままである。より好ましくは、配列の同一性は、高ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション、例えば50℃またはそれより高い温度で0.1×SSC(9 mM食塩液/0.9 mMクエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーションによって決定される。ハイブリダイゼーションの方法および条件は、当技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,707,829号を参照されたい。提供された核酸配列と実質的に同一である核酸、例えば対立遺伝子変種、遺伝子の遺伝的改変バージョンなどは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に結合する。プローブ、特に標識されたDNA配列のプローブを用いて、相同なまたは関連する遺伝子を単離することができる。相同な遺伝子の供給源は任意の種、例えば霊長類種、好ましくはヒト、ラットおよびマウスのような齧歯類;イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、魚、酵母、線虫であり得る。
【0076】
一つの態様において、ハイブリダイゼーションは、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2の少なくとも18個の連続的なヌクレオチド(nt)、または図1Bおよび図2Bに記載の提供されたペプチドの任意の一つをコードするDNAを用いて行う。そのようなプローブは、相補的配列を含む核酸と優先的にハイブリダイズして、選択されたプローブと唯一的にハイブリダイズする核酸の同定および検索を可能にする。18ヌクレオチドより大きいプローブ、例えば約18ヌクレオチド〜約25、50、100、250、または500ヌクレオチドのプローブを用いることができるが、18ヌクレオチドは通常、唯一の同定のために十分な配列である。
【0077】
本発明の核酸にはまた、ヌクレオチド配列の天然に存在する変種(例えば、縮重変種、対立遺伝子変種)も含まれる。本発明の核酸の変種は、本明細書に開示のヌクレオチド配列との、推定上の変種のハイブリダイゼーションによって、好ましくはストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションによって同定される。例えば、適当な洗浄条件を用いて、本発明の核酸の変種は、対立遺伝子変種が、選択された核酸プローブと比較して、多くて約25%〜30%塩基対(bp)のミスマッチを示す場合に同定され得る。一般的に、対立遺伝子変種は、15%〜25%bpのミスマッチを含み、5%〜15%、2%〜5%、または1%〜2%bpのミスマッチもの少ないミスマッチ、および1 bpのミスマッチを含み得る。
【0078】
本発明はまた、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2の核酸に相当する相同体、または図1Bおよび図2Bに記載の提供されたペプチドの任意の一つをコードするDNAも包含し、相同な遺伝子の供給源は任意の哺乳動物種、例えば霊長類種、特にヒト;ラットのような齧歯類;イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、魚、酵母、および線虫であり得る。哺乳動物種間では、例えばヒトとマウスでは、相同体は一般的に実質的な配列類似性を有し、例えばヌクレオチド配列間で少なくとも75%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%、およびより好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する。配列の類似性は、参照配列に基づいて計算され、これは保存されたモチーフ、コード領域、または隣接領域のようなより大きい配列のサブセットであってもよい。参照配列は好ましくは長さが少なくとも約18個の連続的なヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約30ヌクレオチド長であり、比較される完全な配列まで延長されてもよい。Altschul et al. Nucl. Acids. Res. (1997) 25:3389〜3402に記述されるgapped BLASTのような、配列分析のためのアルゴリズムが当技術分野で公知である。
【0079】
本核酸は、cDNAまたはゲノムDNA、ならびにそれらの断片、好ましくは生物学的に活性なポリペプチドをコードする、および/または本明細書において開示される方法において有用である断片(例えば、診断において、または関心対象の差次的に発現される遺伝子の独自の識別子として)であり得る。本明細書において用いられるように、「cDNA」という用語には、天然の成熟mRNA種において認められる配列要素の配置を共有する全ての核酸が含まれると意図され、配列要素はエキソンならびに3'および5'非コード領域である。通常、mRNA種は介在するイントロンを伴う連続的なエキソンを有し、イントロンが存在する場合には、イントロンは核RNAスプライシングによって除去されて、本発明のポリペプチドをコードする連続したオープンリーディングフレームを作り出す。
【0080】
関心対象のゲノム配列は、天然の染色体に通常存在する全てのイントロンを含む、記載される配列において定義されるような、開始コドンと終止コドンの間に存在する核酸を含む。これには、成熟mRNAにおいて認められる3'および5'非翻訳領域がさらに含まれ得る。これには、転写された領域の5'および3'末端のいずれかで隣接するゲノムDNAの約1 kb、しかしおそらくそれ以上を含む、プロモーターおよびエンハンサーのような特異的な転写ならびに翻訳調節配列がさらに含まれ得る。ゲノムDNAは、100 kbpまたはそれより小さい断片として単離することができ、隣接する染色体配列を実質的に含まない。3'および5'のいずれかのコード領域に隣接するゲノムDNA、またはイントロンにおいて時に認められるような内部調節配列は、適切な組織、段階特異的、または疾患状態特異的発現に必要な配列を含む。
【0081】
本発明の核酸組成物は、本ポリペプチドの全てまたは一部をコードし得る。二本鎖または一本鎖断片は、従来の方法に従ってオリゴヌクレオチドを化学合成することによって、制限酵素消化によって、PCR増幅によってなどで、DNA配列から得ることができる。本発明の単離された核酸および核酸断片は、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2に示すような核酸配列から選択される、少なくとも約18から、好ましくは約50、より好ましくは約100、約500までの連続的なヌクレオチドを含む。好ましくは、断片は少なくとも18ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも25ヌクレオチド、または最大約50の連続的なヌクレオチドまたはそれ以上の長さである。
【0082】
SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2に開示される核酸配列、または図1Bおよび図2Bに記載の提供されたペプチドの任意の一つをコードするDNAを用いて、本発明の核酸に対して特異的なプローブを生成することができる。プローブは好ましくは、相当する連続的な配列の少なくとも約18ヌクレオチド、25ヌクレオチド、またはそれ以上である。プローブは、化学合成することができ、または制限酵素を用いてより長い核酸から生成することができる。プローブは、例えば、放射性のタグ、ビオチン化タグ、または蛍光タグによって標識することができる。好ましくは、プローブは、提供された配列の一つの識別配列に基づいて設計される。より好ましくは、プローブは、配列に対して低い複雑度をマスキングするためのマスキングプログラム(例えば、BLASTX)の適用後にマスキングされないままである本核酸の一つの連続的な配列に基づいて設計され、すなわちマスキングプログラムによってもたらされたマスキングされた配列のポリ-n-区域の外部の核酸によって示されるような、マスキングされない領域が選択されるであろう。
【0083】
本発明の核酸は、一般的に無傷の染色体以外として実質的な純度で単離されかつ得られる。好ましくは、核酸はDNAまたはRNAのいずれかとして、他の天然に存在する核酸配列を実質的に含まずに得られ、一般的に少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約90%純粋であり、かつ好ましくは例えば、天然に存在する染色体上では通常結合しない、一つまたは複数のヌクレオチドが隣接する「組換え型」である。
【0084】
本発明の核酸は、線状分子としてかまたは環状分子内に提供され得、かつ自律複製分子(ベクター)内に、または複製配列を有さない分子内に提供され得る。核酸の発現は、それら自身によってまたは当技術分野において公知の他の調節配列によって調整することができる。本発明の核酸は、トランスフェリンポリカチオン媒介DNA移入、裸のまたは封入された核酸を用いるトランスフェクション、リポソーム媒介DNA移入、DNAコーティングされたラテックスビーズの細胞内輸送、プロトプラスト融合、ウイルス感染、電気穿孔、遺伝子銃、リン酸カルシウム媒介トランスフェクションなどのような、当技術分野において利用可能な多様な技術を用いて、適した宿主細胞に導入することができる。
【0085】
コスペプチンまたはコスメジン発現の調節
コスペプチンまたはコスメジン遺伝子、遺伝子断片、またはコードされるタンパク質もしくはタンパク質断片は、コスペプチンまたはコスメジン不足に関連した障害を処置するための遺伝子治療において有用である。アンチセンスコスペプチン配列を、発現を阻害するために投与してもよい。他の阻害剤または調節物質は、コスペプチンまたはコスメジンに基づく結合アッセイにおける生物活性のスクリーニングによって同定される。
【0086】
コスペプチンまたはコスメジン遺伝子を細胞に導入するために、発現ベクターを用いてもよい。そのようなベクターは、核酸配列の挿入を提供するためにプロモーター配列の近位に存在する便利な制限部位を一般的に有する。転写開始領域、標的遺伝子またはその断片、および転写終結領域を含む転写カセットを調製してもよい。転写カセットは多様なベクター、例えばプラスミド、レトロウイルス、例えばレンチウイルス、アデノウイルスなどに導入してもよく、そこでベクターは、通常少なくとも約1日、より好ましくは少なくとも約数日〜数週間の間、細胞内で一過性に、または安定に維持され得る。
【0087】
遺伝子またはコスペプチンもしくはコスメジンペプチドは、ウイルス感染、マイクロインジェクション、または小胞の融合を含む、任意の多くの経路によって、組織または宿主細胞に導入されてもよい。ジェット注入も同様に、Furth et al. (1992) Anal Biochem 205:365-368に記述されるように、筋肉内投与のために用いてもよい。DNAを金微粒子上にコーティングしてもよく、文献(例えば、Tang et al. (1992) Nature 356:152-154を参照されたい)に記述されるように、粒子ボンバードメント装置または「遺伝子銃」によって皮内投与してもよく、この場合、金微小発射物はコスペプチンまたはDNAによってコーティングされ、次いで皮膚の細胞に撃ち込まれる。
【0088】
アンチセンス分子を用いて、細胞におけるコスペプチンまたはコスメジンの発現を下方調節することができる。アンチセンス試薬は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)、特に天然の核酸からの化学修飾を有する合成ODN、またはRNAのようなアンチセンス分子を発現する核酸構築物であってもよい。アンチセンス配列は、標的遺伝子のmRNAに相補的であって、標的化遺伝子産物の発現を阻害する。アンチセンス分子は、様々なメカニズムを通して、例えばRNアーゼHの活性化または立体障害を通して翻訳のために利用可能なmRNAの量を低減させることによって、遺伝子発現を阻害する。アンチセンス分子の一つまたは組み合わせを投与してもよく、この場合、組み合わせは複数の異なる配列を含んでもよい。
【0089】
アンチセンス分子は、適当なベクターにおける標的遺伝子配列の全てまたは一部の発現によって産生してもよく、この場合転写開始はアンチセンス鎖がRNA分子として産生されるような方向である。または、アンチセンス分子は合成オリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは一般的に、少なくとも約7ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約12ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約20ヌクレオチドの長さであって、約500ヌクレオチド以下、好ましくは約50ヌクレオチド以下、より好ましくは約35ヌクレオチド以下の長さであり、長さは阻害効率、交叉反応性の非存在を含む特異性などによって規定される。
【0090】
内在性のセンス鎖mRNA配列の特異的領域または複数の領域が、アンチセンス配列によって相補的となるように選択される。オリゴヌクレオチドに関する特定の配列の選択は、経験的な方法を用いてもよく、この場合いくつかの候補配列を、インビトロまたは動物モデルにおいて標的遺伝子の発現の阻害に関してアッセイする。配列の組み合わせも同様に用いてもよく、この場合mRNA配列のいくつかの領域がアンチセンス相補のために選択される。
【0091】
内在性のセンス鎖mRNA配列の特異的領域または複数の領域が、アンチセンス配列によって相補的となるように選択される。オリゴヌクレオチドに関する特定の配列の選択は、経験的な方法を用いてもよく、この場合いくつかの候補配列を、インビトロまたは動物モデルにおいて標的遺伝子の発現の阻害に関してアッセイする。配列の組み合わせも同様に用いてもよく、この場合mRNA配列のいくつかの領域がアンチセンス相補のために選択される。
【0092】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、当技術分野において公知の方法によって化学合成してもよい。好ましいオリゴヌクレオチドは、それらの細胞内安定性および結合親和性を増加させるために、天然のホスホジエステル構造から化学的に修飾される。多くのそのような修飾が文献に記述されており、それらは、骨格、糖、または複素環塩基の化学的性質を改変する。
【0093】
コスペプチンおよび/またはコスメジン活性を遮断する物質は、重要なシグナル伝達経路における介入点を提供する。コスペプチンおよび/またはコスメジン活性の低減において、コスペプチンまたはコスメジン発現を上記のように直接調節する物質、例えば発現ベクター、コスペプチンまたはコスメジンに対して特異的なアンチセンス、およびコスペプチンまたはコスメジンタンパク質に作用する物質、例えばコスペプチンまたはコスメジン特異的抗体およびそれらの類似体、ならびにコスペプチンまたはコスメジン結合活性を遮断する低分子有機分子を含む、多数の物質が有用である。
【0094】
診断的使用
コスペプチンまたはコスメジン配列に由来するDNAに基づく試薬、例えばPCRプライマー、オリゴヌクレオチド、またはcDNAプローブ、およびコスペプチンまたはコスメジンに対する抗体は、コスペプチンまたははコスメジンDNAの増幅、あるいはコスペプチンもしくはコスメジンmRNAまたはタンパク質の発現の増加に関して、患者の試料、例えば生検に由来する組織、血液試料などをスクリーニングするために用いられる。DNAに基づく試薬はまた、特定の疾患に関与する染色体座の評価のために、例えばヘテロ接合性喪失(LOH)試験において用いるために、またはコスペプチンもしくはコスメジンコード配列に基づくプライマーの設計において用いるために設計される。
【0095】
本発明のポリヌクレオチドは、二つの試料の間の発現レベルの差を検出するために用いることができる。比較される二つの組織におけるタンパク質レベル、またはmRNA、例えば分子量、アミノ酸もしくはヌクレオチドの配列、または相対存在量の間の差は、疾患を有することが疑われたヒトの組織におけるその遺伝子の変化、またはそれを調節する遺伝子の変化を示している。
【0096】
本核酸および/またはポリペプチド組成物を用いて、疾患状態に関連した多型または疾患状態に対する遺伝的素因の有無に関して患者の試料を分析してもよい。生化学試験を行って、コスペプチンおよび/またはコスメジンのコード領域または制御領域における配列多型が、ストレス関連障害、例えば不安障害のような疾患に関連するか否かを決定してもよい。疾患関連多型には、遺伝子の欠失または切り詰め、発現レベルを変化させる、タンパク質の結合活性、キナーゼ活性ドメインなどに影響を及ぼす変異が含まれてもよい。
【0097】
コスペプチンおよび/またはコスメジンの発現レベルに影響を及ぼす可能性があるプロモーターまたはエンハンサー配列の変化を、当技術分野において公知の様々な方法によって正常な対立遺伝子の発現レベルと比較することができる。プロモーターまたはエンハンサーの強度を決定するための方法には、発現された天然のタンパク質の定量;変種対照要素を、便利な定量を提供するβ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼのようなレポーター遺伝子と共にベクターに挿入することなどが含まれる。
【0098】
特定の配列、例えば疾患関連多型の有無に関して核酸を分析するために、多くの方法が利用可能である。大量のDNAが利用可能である場合、ゲノムDNAを直接用いる。または、関心対象の領域を適したベクターにクローニングして、分析に十分な量まで増殖させる。コスペプチンまたはコスメジンを発現する細胞を、mRNA源として用いてもよく、これを直接アッセイしてもよく、または分析のためにcDNAに逆転写してもよい。核酸は、分析のために十分な量を提供するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような従来の技術によって増幅してもよい。ポリメラーゼ連鎖反応の使用法は、Saiki et al.(1985) Science 239:487において記述され、技術の論評はSambrook et al.,「Molecular Cloning : A Laboratory Manual」、CHS Press 1989, pp.14.2-14.33において認められ得る。
【0099】
検出可能な標識を増幅反応に含めてもよい。適した標識には、蛍光色素、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Texas Red、フィコエリトリン、アロフィコシアニン、6-カルボキシフルオレセイン(6-FAM)、2,7-ジメトキシ-4,5-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシ2,4,7,4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、5-カルボキシフルオレセイン(5-FAM)、またはN,N,N,N-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、放射性標識、例えば32P、35S、および3Hが含まれる。標識は、二段階システムであってもよく、この場合増幅されたDNAが、高親和性結合パートナー、例えばアビジンおよび特異的抗体を有するビオチン、ハプテンなどに結合され、結合パートナーが検出可能な標識に結合される。標識は、一つまたは双方のプライマーに結合されてもよい。または、増幅において用いられるヌクレオチドのプールを、増幅産物に標識を組み入れるために標識してもよい。
【0100】
試料核酸、例えば増幅されたまたはクローニングされた断片を、当技術分野において公知の多くの方法の一つによって分析する。核酸を、ジデオキシ法または他の方法によってシークエンシングしてもよく、塩基配列を野生型コスペプチンまたはコスメジン配列と比較してもよい。変種配列とのハイブリダイゼーションも同様に用いて、サザンブロット、ドットブロット等によってその存在を決定してもよい。アレイ上に固定したオリゴヌクレオチドプローブアレイとの対照および変種配列のハイブリダイゼーションパターンも同様に、変種配列の存在を検出する手段として用いてもよい。一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)分析、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)、およびゲルマトリクスにおけるヘテロ二本鎖分析を用いて、DNA配列の変動によって作り出されたコンフォメーションの変化を電気泳動移動度の改変として検出してもよい。または、多型が制限エンドヌクレアーゼの認識部位を作り出すかまたは破壊する場合、試料をそのエンドヌクレアーゼによって消化して、断片が消化されたか否かを決定するために産物の大きさを分画する。分画は、ゲルまたはキャピラリー電気泳動、好ましくはアクリルアミドゲルまたはアガロースゲルによって行われる。
【0101】
コスペプチンおよび/またはコスメジンにおける変異に関するスクリーニングは、タンパク質の機能的または抗原性特徴に基づいてもよい。タンパク質切り詰めアッセイは、タンパク質の生物活性に影響を及ぼす可能性がある欠失を検出するために有用である。コスペプチンおよび/またはコスメジンタンパク質における多型を検出するために設計された様々なイムノアッセイをスクリーニングに用いてもよい。多様な遺伝子変異が特定の疾患表現型をもたらす場合、機能的タンパク質アッセイが、有効なスクリーニングツールであることが判明している。結合アッセイにおいて、コードされるコスペプチンおよび/またはコスメジンタンパク質の活性は、野生型タンパク質との比較によって決定してもよい。タンパク質はまた、例えばタンパク質分解断片、アミド化、およびアセチル化を含む病的な状態下におけるコスペプチンまたはコスメジンタンパク質の翻訳後修飾の有無に関してスクリーニングされてもよい。
【0102】
コスペプチンまたはコスメジンに対して特異的な抗体を、染色またはイムノアッセイにおいて用いてもよい。本明細書において用いられるような試料には、血液、脳脊髄液、透析液などのような生物学的液体;臓器または組織培養に由来する液体;ならびに生理的組織から抽出された液体が含まれる。同様に、そのような液体の誘導体および画分も含まれる。固体組織の場合には細胞を解離してもよく、または組織切片を分析してもよい。または、細胞の溶解物を調製してもよい。
【0103】
診断は、患者の細胞における正常または異常なコスペプチンもしくはコスメジンの有無または変化した量を決定する、多数の方法によって行われ得る。例えば、検出は、従来の方法に従って行われる細胞または組織構造切片の染色を利用してもよい。細胞を透過性にして、細胞質分子を染色する。関心対象の抗体を細胞試料に添加し、エピトープに結合させるために十分な期間、好ましくは少なくとも約10分間インキュベートする。抗体は、直接検出のために、放射性同位元素、酵素、蛍光体、化学発光体、または他の標識によって標識してもよい。または、第二段階の抗体または試薬を用いてシグナルを増幅する。そのような試薬は当技術分野において周知である。例えば、一次抗体をビオチンに結合させて、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合アビジンを第二段階試薬として添加してもよい。または、二次抗体を蛍光化合物、例えばフルオレセイン、ローダミン、Texas redなどに結合させる。最終的な検出は、ペルオキシダーゼの存在下で色の変化を受ける基質を用いる。抗体結合の有無は、解離した細胞のフローサイトメトリー、顕微鏡、X線撮影、シンチレーション、および計数を含む、様々な方法によって決定してもよい。
【0104】
いくつかの態様において、インビボでの使用のために方法を適合させる。これらの態様において、検出可能に標識した部分、例えばコスペプチンまたはコスメジンに対して特異的な抗体を個体に投与して(例えば、注射によって)、磁気共鳴映像法、コンピューター断層撮影スキャン法などが含まれるが、それらに限定されるわけではない標準的な造影技術を用いて、標識した細胞の位置を特定する。
【0105】
診断スクリーニングはまた、疾患の素因に対して遺伝的に連鎖している多型に関しても、好ましくはマイクロサテライトマーカーまたは一ヌクレオチド多型を用いることによって行われ得る。マイクロサテライト多型自身は多くの場合、表現型として発現されないが、疾患の素因をもたらす配列に連鎖している。しかしながら、いくつかの場合において、マイクロサテライト配列自身が遺伝子発現に影響を及ぼす可能性がある。マイクロサテライト連鎖分析は単独で行ってもよく、または上記のように多型の直接検出と組み合わせてもよい。マイクロサテライトマーカーを遺伝子型同定に用いることは周知である。例えば、Mansfield et al. (1994) Genomics 24:225-233;Ziegle et al. (1992) Genomics 14:1026-1031;Dib et al.,前記を参照されたい。
【0106】
検出法はキットの一部として提供することができる。このように、本発明は、生体試料において、コスペプチンもしくはコスメジンをコードするmRNA、および/またはそれによってコードされるポリペプチドの存在を検出するためのキットをさらに提供する。これらのキットを用いる手順は、臨床検査室、実験室、医師、または私的な個人によって行われてもよい。ポリペプチドを検出するための本発明のキットは、特異的抗体であってもよい、ポリペプチドに特異的に結合する部分を含む。核酸を検出するための本発明のキットは、そのような核酸に特異的にハイブリダイズする部分を含む。キットは任意で、緩衝液、展開試薬、標識、反応表面、検出手段、対照試料、標準物質、説明書、および説明情報が含まれるが、それらに限定されるわけではない、手順において有用であるさらなる成分を提供してもよい。
【0107】
コスペプチンおよびコスメジン機能について遺伝的に改変された細胞または動物モデル
本核酸を用いて、トランスジェニック動物または細胞株における部位特異的遺伝子改変を生成することができる。トランスジェニック動物は、相同的組換えを通して作製されてもよく、ここで正常なコスペプチンまたはコスメジン遺伝子座が改変される。または、核酸構築物がゲノムにランダムに組み入れられる。安定な組み込みのためのベクターには、プラスミド、レトロウイルス、および他の動物ウイルス、YACなどが含まれる。
【0108】
改変された細胞または動物は、コスペプチンまたはコスメジン機能および調整を研究するために有用である。例えば、一連の小さい欠失および/または置換をコスペプチン遺伝子に作製して、受容体結合またはシグナル伝達における異なる残基の役割を決定してもよい。一つの態様において、コスペプチンまたはコスメジンを用いて、コスペプチンの発現が特異的に変化している、すなわち低減した、増加した、または存在しない障害に関するトランスジェニック動物モデルを構築する。特に好ましい構築物には、コスペプチンおよび/またはコスメジン発現、ならびにドミナントネガティブコスペプチンもしくはコスメジン変異の発現を遮断するアンチセンスコスペプチンまたはコスメジンが含まれる。lacZのような検出可能なマーカーを、コスペプチンまたはコスメジン遺伝子座に導入してもよく、この場合コスペプチンまたはコスメジン発現の上方調節によって、表現型に、容易に検出される変化がもたらされるであろう。
【0109】
通常発現されない細胞もしくは組織において、または発生の異常な時期にコスペプチンまたはコスメジン遺伝子またはその変種の発現を提供してもよい。それが通常産生されない細胞においてコスペプチンまたはコスメジンタンパク質の発現を提供することによって、細胞の挙動の変化、例えば細胞増殖および腫瘍形成の制御における変化を誘導することができる。
【0110】
相同的組換えのためのDNA構築物は、所望の遺伝子改変を有するコスペプチンおよび/またはコスメジン遺伝子の少なくとも一部を含み、標的遺伝子座との相同領域を含む。相同領域には、コード領域が含まれてもよく、またはイントロンおよび/またはゲノム配列を利用してもよい。ランダム組み込みのためのDNA構築物は、組換えを媒介するために相同領域を含む必要がない。都合の良いように、陽性および陰性選択マーカーが含まれる。相同的組換えを通して標的遺伝子改変を有する細胞を生成する方法は、当技術分野において公知である。哺乳動物細胞をトランスフェクトするための様々な技術に関しては、Keown et al.(1990) Methods in Enzymology 185:527-537を参照されたい。
【0111】
胚幹(ES)細胞の場合、ES細胞株を用いてもよく、または胚細胞を宿主、例えばマウス、ラット、またはモルモットから新たに得てもよい。そのような細胞を適当な線維芽細胞の支持細胞層上で増殖させるか、または白血病抑制因子(LIF)の存在下で増殖させる。ESまたは胚細胞が形質転換されている場合、それらを用いてトランスジェニック動物を作製してもよい。形質転換後、細胞を適当な培地中の支持細胞層上に播種する。構築物を含む細胞を、選択培地を用いることによって検出してもよい。コロニーが増殖するのに十分な期間の後、それらを採取して、相同的組換えの発生または構築物の組み込みに関して分析する。次に、陽性であるコロニーを胚の操作および胚盤胞の注射のために用いてもよい。胚盤胞は、過剰排卵させた4〜6週齢の雌性動物から得る。ES細胞をトリプシン処理して、改変細胞を胚盤胞の胞胚腔に注射する。注射後、胚盤法を偽妊娠雌性動物の子宮角それぞれに戻す。雌性動物を妊娠満期まで継続させて、得られた子を構築物に関してスクリーニングする。胚盤胞および遺伝的に改変された細胞が異なる表現型を提供することによって、キメラ子孫が容易に検出され得る。
【0112】
キメラ動物を、改変された遺伝子の有無に関してスクリーニングして、改変を有する雄性動物と雌性動物を交配させてホモ接合子孫を作製する。遺伝子の改変が発生の何らかの時点で致死を引き起こす場合、組織または臓器を同種異系もしくは類遺伝子性の移植片または移植組織として、または培養において維持することができる。トランスジェニック動物は、実験動物および家畜のような任意の非ヒト哺乳動物であってもよい。トランスジェニック動物は、ストレス反応に及ぼす候補薬物の効果を決定するために、機能的研究、薬物スクリーニングなどにおいて用いてもよい。
【0113】
実験
以下の実施例は説明する目的で示され、本発明者らが本発明であると見なす内容の範囲を制限すると意図されない。特に明記していなければ、割合は重量での割合であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏、そして圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0114】
本明細書において引用した刊行物および特許出願は全て、それぞれの個々の刊行物または特許出願が特におよび個々に参照により本明細書に組み入れられることが示されるかのように、参照により本明細書に組み入れられる。
【0115】
本発明は、本発明の実践に関して好ましい様式を含むように、本発明者らによって見出されまたは提唱された特定の態様に関して記述してきた。本開示に照らして、本発明の意図される範囲から逸脱することなく、多数の改変および変化を、例示された特定の態様に加えることができることが、当業者に認識されるであろう。例えば、コドンの重複性のために、タンパク質配列に影響を及ぼすことなく、基礎となるDNA配列に変化を加えることができる。その上、生物学的な機能的同等性の検討により、生物学的作用の種類または量に影響を及ぼすことなく、タンパク質構造に変化を加えることができる。したがって、本発明の範囲は、この詳細な記述に限定されず、特許法の原則に基づき適切に解釈される添付の請求の範囲によって限定されることが理解される。
【0116】
実施例1
方法および材料
バイオインフォマティクス分析
分泌のためのシグナルペプチドを有するが膜貫通ドメインを有さない、ヒトプロテオーム中の全てのタンパク質をソーティングおよび入力することによってデータベースを確立した。候補ペプチドホルモンは、隣接する二塩基タンパク質切断部位を有する長さが8〜50残基の推定上のペプチドに関する正規表現検索を用いて同定された:(([KR]{2})([A-Z]{8,50})([KR]{2})([A-Z]{0,50})$)。推定される成熟ペプチド領域を用いて多様な脊椎動物のゲノムをクエリーした後、候補ペプチドホルモンの進化的保存を確認した。系統発生分析を、ClustalWのルーチンを用いて行った。候補遺伝子の発現は、ヒトおよび他の種におけるESTデータベースの検索によって確認した。Network Protein Sequence Analysisサーバーを用いて、候補ペプチドのコンセンサス二次構造を予測した。
【0117】
発現プロファイリング
ヒト組織におけるコスメジンおよびコスペプチン転写物の発現パターンを、高ストリンジェンシーPCRによって、68℃より高いアニール温度で、Clontech(Palo Alto, California)から得たヒトMarathon-ready cDNAライブラリを用いて決定した。ヒト消化器系におけるmRNAの分析のために、標準化した第一鎖(first-strand)cDNA調製物をClontechから得た。コスメジンPCR分析のためのプライマー配列:(SEQ ID NO:20)フォワード

およびリバース(SEQ ID NO:21)

。コスペプチンPCR分析のためのプライマー配列:フォワード(SEQ ID NO:22)

およびリバース(SEQ ID NO:23)

。マウス組織における発現分析のために、多様な組織からの総RNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA)を用いて抽出した。コスメジンPCR分析のためのプライマー配列:フォワード(SEQ ID NO:24)

およびリバース(SEQ ID NO:25)

。コスペプチンPCR分析のためのプライマー配列:フォワード(SEQ ID NO:26)

およびリバース(SEQ ID NO:27)


【0118】
ペプチド合成
ペプチドは、Ranin Instruments Symphony-Multiplexペプチドシンセサイザーにおける自動固相合成によって、製造者のプロトコールに従って固相フルオレニルメトキシカルボニルプロトコールに基づいて合成して、Vydac C18分析カラムによる逆相HPLC、およびMALDI-TOF Voyager-DE RP Workstationを用いる質量分析によって分析した。
【0119】
胃内容排出活性に及ぼすペプチドの影響
20時間絶食させた8週齢のC57/BL6雄性マウスにペレット餌を90分間与えた後、異なるホルモンまたは生理食塩液を腹腔内注射した。処置後、マウスを再度絶食させ90分後に屠殺した。胃を幽門および噴門で切除してから重量を測定した。胃内容排出は、処置したマウスの胃の重量をホルモン注射時に屠殺した対照マウスの胃の重量と比較することによって計算した。胃内容排出速度は、式(0時間で屠殺した飼料を与えた動物における胃の湿重量マイナス処置後2時間での湿重量/0時間で屠殺した飼料を与えた動物における胃の湿重量)×100によって計算した。
【0120】
正常高血圧ラットにおける血圧および心拍数に及ぼすコスペプチンの影響
意識を有する雄性Sprague-Dawleyラット(7〜9週齢)における血圧測定を、測定手順に予め適合させた動物において行った。プログラム可能なNIBPシステムによって、テールカフ法(Columbus Instruments, Columbus, OH)を用いて、間接的な収縮期血圧を決定した。圧変換器に接続した後、ラットを10分間放置してから、基線測定を15分間隔で行った。基線測定後、ラットに多様な用量のホルモンを腹腔内注射した。血圧および心拍数を25秒間隔で50分間モニターした。血圧の変化を各5分間内で行った30回の測定の平均値として計算した。
【0121】
回腸収縮アッセイ
雌性ラット(〜350 g)をCO2によって安楽死させて、腹腔を開いて腸を露出した。3 cm長の回腸を除去して、任意の付着組織を取り除き、回腸筋の縦方向の細片(2×5 mm)を切断した。平均して、標本6個を各動物から得た。組織を、2.5 mM Ca2+を含み、32℃で維持したKrebs-Henseleit溶液の入った、95%O2/5%CO2を継続的に通気する20 mlの臓器槽に吊した。組織を1 gの負荷張力下に置いた。組織を90分間平衡化した後、関心対象のペプチドの用量反応曲線を0.5対数単位の累積増分濃度10 nM〜10 μMで得た。
【0122】
結果
ヒトプロテオームを、分泌のためのシグナルペプチドを有し、かつ膜貫通領域を有さない公知のおよび仮説上のタンパク質に関して検索した。正規表現分析を用いて、長さが5残基〜50残基の推定される成熟ペプチド領域に隣接する典型的な二塩基切断部位を有する、推定上の分泌タンパク質を同定した。公知のタンパク質に関して選り分けた後、新規タンパク質の成熟ペプチド領域を用いて、進化的保存を示す候補ペプチドホルモンの同定のために、多様な脊椎動物(マウス、ラット、フグ、およびその他)のゲノムをクエリーした。二つの新規遺伝子が同定されて、コスメジンおよびコスペプチンと命名された。コスメジンおよびコスペプチンの双方に関するオープンリーディングフレームは、複数のESTによって支持され、分泌のためのそれらのシグナルペプチドがいくつかの種において確認されている。コスメジン遺伝子は、それぞれ23、15、および6残基の三つの保存されたペプチド(A、B、およびC)をコードする(図1A)。それらの中で、コスメジン-Bは、複数の種において保存されるグリシン残基を通して、そのカルボキシル末端でアミド化されると推定される(図1B)。コスペプチン遺伝子は、それぞれ37、27、21、および7残基を有する少なくとも4個のアミド化されるペプチド(A〜D)をコードする(図2A)。トリおよび哺乳動物種におけるこれらのペプチドのC末端での保存されたグリシンに基づいて(図2B)、これらのペプチドはアミド化されると推定される。
【0123】
逆転写PCR分析からの情報により、コスメジンおよびコスペプチン遺伝子が複数の組織において発現されていることが示された。コスメジン転写物は、ヒトおよびマウスの双方において視床下部、下垂体、腎臓、膵臓、および他の組織において発現される(図3Aおよび図3B)。さらに、コスメジンは、多様なヒト胃腸管組織において発現される(図3C)。同様に、コスペプチンは、視床下部、膵臓、胸腺、およびその他を含む多様なヒトおよびマウス組織において発現される(図4A)。この遺伝子はまた、胃腸管全体にも発現される(図4B)。
【0124】
これらの保存されたペプチドホルモンの機能的役割を調べるために、コスメジンおよびコスペプチンの双方の推定上の成熟領域に相当する合成ペプチドを合成して、機能的分析のために用いた。図5Aに示すように、コスメジン-Bによる腹腔内処置は、胃内容排出活性を用量依存的な様式で抑制した。同じバイオアッセイにおいて、コスペプチン-A、-Bおよび-Eによる処置もまた、胃内容排出活性を示した(図5B)。ラット回腸組織細片を用いる臓器収縮アッセイにおいて、コスメジン-Bと共にインキュベートすると、濃度依存的筋収縮を生じた(図5C)。結果を、アセチルコリンムスカリン受容体アゴニストである5-メチルフルメチドに対する最大反応の百分率として表記した。この標準化手順は、コスメジン-Bによって誘導された収縮の程度がムスカリン受容体刺激によって媒介される程度と比較可能であることを証明している。この組織におけるコスメジン-Bの効力は、pA50=6.05±0.17であることが判明した。
【0125】
心血管機能に及ぼすコスペプチンの全身作用
コスペプチンは、全身循環に放出されて、多様な末梢組織に作用し得ることから、本発明者らは、非侵襲的モニタリングアプローチを用いて、正常なラットにおける血圧の調整に及ぼすコスペプチンペプチドの影響を調べた。図6Aに示すように、コスペプチンBおよびEの腹腔内投与は、正常なSprague-Dawleyラットにおいて血圧を抑制したが、コスペプチンAおよびDは、ほとんど影響を示さない。さらに、コスペプチンA、D、およびEの処置はまた、心拍数を減少させた(図6B)。このように、コスペプチンペプチドは、心血管系におけるシグナル伝達の特異的リガンドであり、恒常性に関する血管反応の媒介において重要である。
【0126】
集中的な努力にもかかわらず、ヒトゲノムにおける推定35,000個の遺伝子の約3分の1にしか、機能的注釈が割付されていない。配列相同性に基づいて、新規パラロガスリガンドが同定されている。しかしながら、公知のリガンドと相同性を示さない未知リガンドを同定することは難しい。二塩基残基に隣接する保存領域を有する分泌型タンパク質に関する正規表現検索を用いて、本発明者らは、ペプチドホルモン受容体の新規リガンドを同定して、それらが独自の組織発現および機能を有する生物活性調節ペプチドであることを見出した。
【0127】
多くの根本的な生物学的プロセスは、タンパク質-タンパク質相互作用を含み、それらを包括的に同定することは、それらの細胞役割を系統的に定義するために重要である。ハイスループット酵母2-ハイブリッドスクリーニングは、タンパク質-タンパク質相互作用を解明するために用いられているが、類似のアプローチは、膜受容体およびリガンド-受容体相互作用の独自の形態のために、細胞膜受容体とその細胞外リガンドとの間の相互作用を解明するために一般的に応用可能ではない。ポリペプチドホルモンの特徴的シグネチャーおよび候補ペプチドの成熟領域の進化的保存に基づいて、本発明者らは、生物機能を有するペプチドホルモンを見出すことができた。コスメジンおよびコスペプチンはいずれも、主要な発現部位の一つとしての胃腸管と共に複数の組織において発現される。胃内容排出試験を用いて、本発明者らは、予想されるペプチドのいくつかの生物学的作用を証明した。さらに、回腸細片を用いるインビトロ試験により、筋収縮に及ぼすコスメジン-Bの直接作用が示された。
【0128】
実施例2
コスペプチンEの結合
コスペプチンEを、N-末端(ゼロ位置)でチロシン残基の付加によって修飾した。修飾ペプチドは、Tyr0-コスペプチンEと呼ばれる。修飾ポリペプチドは、その生物活性を保持しているが、ヨウ素化によって容易に標識することができる。Tyr0-コスペプチンを125Iによって標識して、これを用いて、異なる組織に対する高親和性のホルモン特異的結合を検出した。
【0129】
方法:
コスペプチンの放射標識
ペプチドのヨウ素化は、IODO-GEN手順に従って行った(Pierce, Upland, IN)。Tyr0-コスペプチンE(20 μg)および1 mCi[125I]NaIの混合物を、予めコーティングしたIODO-GENバイアルに移してから室温で4分間インキュベートした。125I-標識ペプチドを、精製のためにSep-Pak C18カートリッジ(Waters, Milford, MA)に適用して、60%アセトニトリル/0.1%TFAによって溶出した。精製したトレーサーは-20℃で保存した。
【0130】
受容体結合実験
成体ラットの異なる組織からホモジネートを調製した。結合アッセイをガラスチューブにおいて行った。ルーチンに、組織ホモジネートを、結合緩衝液(0.1%ウシ血清アルブミンを添加したPBS)100 μlにおいて、様々な濃度の125I-Tyr0-コスペプチンE(100,000 cpm〜2 nM)と共に、非標識Tyr0-コスペプチンE(5,000倍過剰量)の存在下または非存在下で室温で16時間インキュベートした。インキュベーション後、チューブを10,000×gで10分間遠心して、沈殿を氷冷PBS中で2回洗浄した。最後に、組織に結合したTyr0-コスペプチンEを、γ分光光度計を用いて計数した。特異的に結合した数は、5,000倍過剰量の非標識ペプチドの存在下で決定した非特異的数を、組織に結合した総数から差し引くことによって計算した。125I-Tyr0-コスペプチンE結合の置換のために、Tyr0-コスペプチンEもしくは他のペプチドまたは類似体(コスペプチンE、コスペプチンA、コスペプチンB、コスペプチンD、コスペプチンF、またはコスメジンB)の増加した濃度を加えた。
【0131】
結果
図7に示すように、下垂体へのコスペプチンE結合に関する飽和曲線は、5 nMのKd値を与え、このことは、下垂体組織における特異的コスペプチンE受容体の存在を示している。高い結合はまた、コスペプチンに関して卵巣においても認められ、精巣、肺、十二指腸、視床下部および心臓ではより低い結合を認めた(図8を参照されたい)。
【0132】
下垂体におけるコスペプチン結合の特異性を図9に示す。競合的実験は、コスペプチン受容体に対する以下の順序の親和性を示した:コスペプチンE=Tyr0-コスペプチンE>コスペプチンA, B>>コスペプチンF>>コスメジン。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】図1Aは、ヒトコスメジンの配列である。図1Bは多様な脊椎動物種由来のコスメジンの比較である。
【図2】図2Aはヒトコスペプチン配列である。図2Bは多様な脊椎動物種由来のコスメジンの比較である。
【図3】図3Aはヒトにおけるコスメジンの組織発現パターンのRT-PCR分析である。図3Bは、マウスにおけるコスメジンの組織発現パターンのRT-PCR分析である。図3Cは、ヒトGI組織におけるコスメジン発現である。
【図4】図4Aは、ヒト組織におけるコスペプチンの組織発現パターンのRT-PCR分析である。図4Bは、ヒトGI組織におけるコスペプチンの組織発現パターンのRT-PCR分析である。
【図5】図5Aは、コスメジン-Bペプチドの生物学的作用、胃内容物排出アッセイである。図5Bは、コスペプチンペプチドの生物学的作用である。図5Cは、ラット回腸収縮性アッセイにおけるコスメジン-Bの作用である。
【図6】図6Aは、コスペプチンによる血圧の調整である。図6Bは、コスペプチンによる心拍数の調整である。
【図7】ラット下垂体へのTyr0-コスペプチンE結合に関する飽和曲線であり、Kd値が5 nMであることを示す。
【図8】下垂体および卵巣における高い結合部位、ならびに精巣、肺、十二指腸、視床下部および心臓における低い結合部位を示す、多様なラット組織へのTyr0-コスペプチンの結合。
【図9】下垂体における受容体に対するTyr0-コスペプチン結合のホルモン特異性を示す。競合的実験により、コスペプチン受容体に対する親和性の以下の順序が示された:コスペプチンE=Tyr0-コスペプチンE>コスペプチンA, B>>コスペプチンF>>コスメジン。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図4A】

【図4B】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図6A】

【図6B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされる単離ポリペプチド:SEQ ID NO:1;SEQ ID NO:2;ストリンジェントな条件下でSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2にハイブリダイズする配列;ならびにそれらの機能的断片、誘導体、および相同体。
【請求項2】
図1Aおよび図1Bに記載される配列から選択されるアミノ酸配列を有するタンパク質である、請求項1記載の単離ポリペプチド。
【請求項3】
図1Bに記載の配列から選択される配列を有するコスメジン(cosmedin)A、B、またはCペプチドである、請求項1記載の単離ポリペプチド。
【請求項4】
ペプチドが、SEQ ID NO:3、4、5のいずれか一つに記載されるアミノ酸配列、またはその相同体を含む、請求項3記載の単離ポリペプチド。
【請求項5】
図2Bに記載される配列から選択される配列を有するコスペプチン(cospeptin)A、B、C、D、E、またはFペプチドである、請求項1記載の単離ポリペプチド。
【請求項6】
ペプチドが、SEQ ID NO:6、7、8、9、10、および11のいずれか一つに記載されるアミノ酸配列、またはその相同体を含む、請求項5記載の単離ポリペプチド。
【請求項7】
図1Bまたは図2Bに記載の配列の少なくとも6つの連続的なアミノ酸を含む、単離ポリペプチド。
【請求項8】
プロモーター配列に機能的に結合した請求項1記載の単離核酸分子を含むベクター。
【請求項9】
請求項8記載のベクターを用いて形質転換された宿主細胞。
【請求項10】
図1Bまたは図2Bに記載されるアミノ酸配列の少なくとも6つの連続的なアミノ酸を含む、コスメジンペプチドまたはコスペプチンペプチドの治療的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項11】
図1Bまたは図2Bに記載されるアミノ酸配列の少なくとも6つの連続的なアミノ酸を含むコスペプチンまたはコスメジンペプチドの治療的有効量を個体に投与する段階を含む、胃腸の運動性を調節する方法。
【請求項12】
投与が、胃腸の診断手順の前に行われる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
個体が胃腸障害を患う、請求項11記載の方法。
【請求項14】
胃腸障害が痙攣である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
胃腸障害が食後のダンピング症候群である、請求項12記載の方法。
【請求項16】
胃腸障害が食後の高血糖症である、請求項12記載の方法。
【請求項17】
コスメジンまたはコスペプチンのアンタゴニストを個体に投与する段階を含む、胃内容排出を調節する方法。
【請求項18】
個体が糖尿病性ニューロパシーを患う、請求項17記載の方法。
【請求項19】
個体が神経性食欲不振症を患う、請求項17記載の方法。
【請求項20】
図1Bまたは図2Bに記載されるアミノ酸配列の少なくとも6つの連続的なアミノ酸を含む、コスペプチンまたはコスメジンペプチドの治療的有効量を個体に投与する段階を含む、高血圧症を調節する方法。
【請求項21】
コスペプチンまたはコスメジンペプチドを特異的に認識する抗体。
【請求項22】
コスペプチンまたはコスメジン遺伝子に導入された変化を含む、トランスジェニック細胞または非ヒト動物を含む、コスペプチンまたはコスメジン遺伝子機能についてのモデル。
【請求項23】
以下の段階を含む、コスペプチンまたはコスメジン機能を調節する生物活性物質を同定するための化合物をスクリーニングする方法:
化合物を以下と結合する段階:
(a)哺乳動物のコスペプチンまたはコスメジンペプチド;
(b)哺乳動物のコスペプチンまたはコスメジンペプチドをコードする核酸を含む細胞;あるいは
(c)(i)コスペプチンもしくはコスメジン遺伝子のノックアウト、または(ii)外因性で、かつ安定に伝達される哺乳動物のコスペプチンもしくはコスメジン遺伝子配列を含む、コスペプチンまたはコスメジン遺伝子機能についての非ヒトトランスジェニック動物モデル;および
該化合物の、コスペプチンまたはコスメジン機能に対する作用を決定する段階。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−530043(P2007−530043A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505078(P2007−505078)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/009392
【国際公開番号】WO2005/094453
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(503174475)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (41)
【出願人】(506322329)ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ブイ. (1)
【Fターム(参考)】