説明

コネクタ、及び、コネクタのポッティング材充填方法

【課題】シール性の確保と共に小型化、低コスト化を図ることができるコネクタ等を提供する
【解決手段】コネクタハウジング2内に端子が収容される端子収容室3が設けられ、端子収容室3にポッティング材が充填されたポッティング充填部9が設けられ、ポッティング充填部9によって端子収容室3のシールを行うコネクタ1であって、ポッティング充填部9は、ポッティング材の充填量と所定の環境条件下でポッティング充填部9内に発生する応力との関係を示す発生応力特性と、ポッティング材の充填量とポッティング充填部9の境界面での剥離強度との関係を示す剥離強度特性とに基づき、発生応力より剥離強度が大きくなる範囲でポッティング材の充填量が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタハウジング内をポッティング材でシールするコネクタ、及び、コネクタのポッティング材充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用自動変速機ケース(ATケース)に装着され、自動変速機ケース内の電機部品と外部の電子コントロールユニット(ECU)との電気接続に利用されるコネクタがある。かかるコネクタにあっては、自動変速機ケース内からのオイルが外部に漏れ出ないようにコネクタハウジング内のシール性を確保する必要がある。シール性の確保をコネクタハウジング内にポッティング材を充填することによって行ったコネクタが従来より種々提案されている(特許文献1〜3)。
【0003】
図5には、この種のコネクタの第1従来例が示されている。図5において、コネクタ50は、自動変速機ケース60のコネクタ装着穴61に装着されている。コネクタ50は、内部に端子収容室52が設けられたコネクタハウジング51と、端子収容室52に配置されたインナープレート53と、インナープレート53に保持された端子54とを備えている。端子収容室52は、一方側がコネクタ嵌合口55に、他方側が電線引出口56にそれぞれ開口されている。端子収容室52の電線引出口56側には、ゴム栓57が装着されている。端子収容室52内のインナープレート53、端子54等を収容された箇所には、ポッティング材の充填によるポッティング充填部58が設けられている。
【0004】
電線引出口56の隙間より端子収容室52に入り込んだオイルは、ポッティング充填部58によって端子収容室52を通って自動変速機ケース60の外部に漏れ出ることが阻止される。
【0005】
図6には、コネクタ70の第2従来例が示されている。図6において、コネクタ70は、自動変速機ケース60のコネクタ装着穴61に装着されている。コネクタ70は、コネクタハウジング71と、このコネクタハウジング71内に収容される端子72とを備えている。コネクタハウジング71には、中央仕切壁71aを境として一対の端子収容室73,74が設けられている。中央仕切壁71aには端子装着穴75が設けられている。端子72は、端子装着穴75に貫通されている。貫通された端子72は、その両端側が一対の端子収容室73,74に突出している。自動変速機ケース60の外部に配置される一方の端子収容室73には、ポッティング材の充填によるポッティング充填部76が設けられている。
【0006】
他方の端子収容室74に入り込んだオイルは、端子装着穴75を通って一方の端子収容室73に入り込もうとするが、ポッティング充填部76によって堰き止められるため、他方の端子収容室73を通って外部に漏れ出ることが阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−126802号公報
【特許文献2】特開2006−228683号公報
【特許文献3】特開2002−270283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記各従来例では、コネクタハウジング51,71内にポッティング材を充填し、その製品のシール性を評価して性能確認を行うのが通常であった。従って、コネクタ50,70のシール性は、ポッティング材の性能に大きく依存し、ポッティング材の充填量について配慮されていなかった。そのため、ポッティング材の過剰な充填によって、コネクタの大型化、高コスト化を招来する原因となっていた。
【0009】
近年、コネクタ50,70のシール性の確保と共に小型化、低コスト化の要求も高まってきており、このような要求に対応できるコネクタが要請されている。
【0010】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、シール性の確保と共に小型化、低コスト化を図ることができるコネクタ、及び、コネクタのポッティング材充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コネクタハウジング内に端子が収容される端子収容室が設けられ、前記端子収容室にポッティング材が充填されたポッティング充填部が設けられ、前記ポッティング充填部によって前記端子収容室のシールを行うコネクタであって、前記ポッティング充填部は、前記ポッティング材の充填量と所定の環境条件下で前記ポッティング充填部内に発生する応力との関係を示す発生応力特性と、前記ポッティング材の充填量と前記ポッティング充填部の境界面での剥離強度との関係を示す剥離強度特性とに基づき、発生応力より剥離強度が大きくなる範囲で前記ポッティング材の充填量が設定されていることを特徴とするコネクタである。
【0012】
他の本発明は、コネクタハウジング内に端子が収容される端子収容室が設けられ、前記端子収容室へのポッティング材の充填によって前記端子収容室のシールを行うコネクタのポッティング材充填方法であって、前記ポッティング材の充填量と所定の環境条件下で前記ポッティング材内に発生する応力との関係を示す発生応力特性と、前記ポッティング材の充填量と前記ポッティング材の境界面での剥離強度との関係を示す剥離強度特性を求め、前記ポッティング材は、前記発生応力特性と前記剥離強度特性に基づき発生応力より剥離強度が大きくなる範囲で充填量が設定されていることを特徴とするコネクタのポッティング材充填方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポッティング充填部は、そのポッティング材の充填量が発生応力特性と剥離強度特性に基づき、発生応力より剥離強度が大きくなる範囲で決定されるため、シール性を確保しつつ充填量を必要最小限に抑えた量に設定できる。以上より、コネクタのシール性の確保と共に小型化、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示し、コネクタの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、ポッティング材の充填長さ(充填量)と所定の環境条件下でポッティング充填部内に発生する発生応力との関係を示す発生応力特性線図と、ポッティング材の充填長さ(充填量)とポッティング充填部の剥離強度との関係を示す剥離強度特性線図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、(a)はポッティング材の充填長さ(充填量)とポッティング充填部内に所定の環境条件下で発生する発生応力との関係を算出方法を説明する斜視図、(b)は(a)の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、ポッティング材の充填長さ(充填量)とポッティング充填部の剥離強度との関係を示す剥離強度特性である。
【図5】本発明の第1従来例に係るコネクタの断面図である。
【図6】本発明の第2従来例に係るコネクタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係るコネクタ1である。図1において、コネクタ1は、自動変速機ケース10のコネクタ装着穴11に装着されている。コネクタ1の外周とコネクタ装着穴11の周面との間には、Oリング12が介在されている。
【0017】
コネクタ1は、内部に端子収容室3が設けられたコネクタハウジング2と、端子収容室3に配置されたインナープレート4と、インナープレート4に保持された端子(図示せず)とを備えている。端子収容室3は、一方側がコネクタ嵌合口6に、他方側が電線引出口7にそれぞれ連通している。コネクタ嵌合口6は自動変速機ケース10の外部に開口し、電線引出口7は自動変速機ケース10の内部に開口している。
【0018】
端子収容室3の電線引出口7側には、ゴム栓8が装着されている。ゴム栓8には、電線挿通穴(図示せず)が設けられている。電線挿通穴を通って端子(図示せず)に接続された電線(図示せず)が自動変速機ケース10内に引き出されている。端子収容室3の端子やインナープレート4が収容された箇所には、ポッティング材(例えばエポキシ樹脂)の充填によるポッティング材充填部9が設けられている。
【0019】
ポッティング材充填部9は、図2に示すように、ポッティング材の充填長さ(充填量)と所定の環境条件下でポッティング充填部9内に発生する応力との関係を示す発生応力特性と、ポッティング材の充填長さ(充填量)とポッティング充填部9の境界面での剥離強度に基づき、発生応力より剥離強度が大きくなる範囲でポッティング材の充填長さ(充填量)Lが設定されている。具体的には、発生応力特性線と剥離強度特性線の交点(充填長さがほぼ14mm)を基準として、発生応力より剥離強度が少しだけ大きくなる充填長さ(充填量)Lに設定されている。
【0020】
図2において、発生応力特性線と剥離強度特性線の交点(充填長さがほぼ14mm)を基準とし、これより充填長さLの小さい範囲が剥離範囲であり、充填長さLの大きい範囲が非剥離範囲である。
【0021】
上記の発生応力特性は、応力シミュレーション(有限要素法による解析)により求めた。つまり、図3(a)、(b)に示すように、有底の円筒ケース(コネクタハウジング2に相当)20内にエポキシ樹脂(ポッティング材)21を充填し、ブッシュ(ゴム栓8に相当)22で閉塞する。エポキシ樹脂(ポッティング材)21の充填長さ(5〜30mm)を変化させ、低温状態(所定の環境条件下)で熱収縮させた時の応力変化(変形中心位置の変化)を計算式によって算出した。
【0022】
上記の剥離強度特性は、テストピース25による実測より求めた。つまり、図4に示すように、短冊状の2枚のテストピース25をポッティング材(エポキシ樹脂)21で接着し、その接着長さ(充填長さに相当)を変化(5〜30mm)させ剥離荷重を求めた。
【0023】
上記したコネクタ1によれば、ポッティング樹脂部9の充填長さLがポッティング材の充填量と所定の環境条件下でポッティング材内に発生する応力との関係を示す発生応力特性と、ポッティング材の充填量とポッティング材の境界面での剥離強度との関係を示す剥離強度特性とに基づき、発生応力より剥離強度が大きくなる範囲で決定されている。従って、ポッティング充填部9が例えば低温状態での熱収縮に起因する発生応力によってコネクタハウジング2との境界面で剥離することがないため、ポッティング充填部9によってシール性を確保できる。そして、ポッティング材の充填量(充填長さ)が発生応力特性と剥離強度特性に基づき決定されるため、シール性を確保する上で必要最小限の充填量に設定できる。以上より、コネクタ1のシール性の確保と共に小型化、低コスト化を図ることができる。
【0024】
ポッティング充填部9の発生応力特性と剥離強度特性は、選定されるポッティング材の種類によって異なるので、選定されたポッティング材に応じて必要最小限の充填量に設定できる。
【0025】
前記実施形態では、発生応力特性は、応力シミュレーション(有限要素法による解析)により求めたが、これ以外の方法によって求めても良いことはもちろんである。
【0026】
前記実施形態では、剥離強度特性は、テストピースによる実測より求めたが、これ以外の方法によって求めても良いことはもちろんである。
【0027】
前記実施形態では、ポッティング材は、エポキシ樹脂であるが、エポキシ樹脂以外のシール材料であっても良いことはもちろんである。
【0028】
前記実施形態のコネクタ1は、車両用自動変速機ケース(ATケース)に装着され、自動変速機ケース内の電機部品と外部の電子コントロールユニット(ECU)との電気接続に利用されているが、防水性等が要求される種々の箇所に適用可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0029】
1 コネクタ
2 コネクタハウジング
3 端子収容室
9 ポッティング充填部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタハウジング内に端子が収容される端子収容室が設けられ、前記端子収容室にポッティング材が充填されたポッティング充填部が設けられ、前記ポッティング充填部によって前記端子収容室のシールを行うコネクタであって、
前記ポッティング充填部は、前記ポッティング材の充填量と所定の環境条件下で前記ポッティング充填部内に発生する応力との関係を示す発生応力特性と、前記ポッティング材の充填量と前記ポッティング充填部の境界面での剥離強度との関係を示す剥離強度特性とに基づき、発生応力より剥離強度が大きくなる範囲で前記ポッティング材の充填量が設定されていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
請求項1記載のコネクタであって、
前記ポッティング充填部は、発生応力より剥離強度が少しだけ大きくなる前記ポッティング材の充填量に設定されていることを特徴とするコネクタ。
【請求項3】
コネクタハウジング内に端子が収容される端子収容室が設けられ、前記端子収容室へのポッティング材の充填によって前記端子収容室のシールを行うコネクタのポッティング材充填方法であって、前記ポッティング材の充填量と所定の環境条件下で前記ポッティング材内に発生する応力との関係を示す発生応力特性と、前記ポッティング材の充填量と前記ポッティング材の境界面での剥離強度との関係を示す剥離強度特性を求め、
前記ポッティング材は、前記発生応力特性と前記剥離強度特性に基づき発生応力より剥離強度が大きくなる範囲で充填量が設定されていることを特徴とするコネクタのポッティング材充填方法。
【請求項4】
請求項3に記載のコネクタのポッティング材充填方法であって、
前記ポッティング材は、発生応力より剥離強度が少しだけ大きくなる充填量としたことを特徴とするコネクタのポッティング材充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−114981(P2013−114981A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261928(P2011−261928)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】