説明

コバルト−ニッケル超合金並びに関連物品

【課題】環境耐性と高温強度の両者に優れたコバルト基合金を提供する。
【解決手段】約30重量%〜約50重量%のコバルト、約20重量%〜約40重量%のニッケル、約10重量重量%以上のクロム、アルミニウム、及び1種以上の高融点金属を含むコバルト−ニッケル合金組成物であって、式(Co,Ni)3(Al,Z)を有するL12組織化γ′相を含み、式中のZは1種以上の高融点金属である、前記コバルト−ニッケル合金組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に金属合金組成物に関する。より具体的には、本発明は、良好な高温クリープ強度及び環境耐性、殊に耐硫化性を要する高温構造用途で有用なコバルト−ニッケル合金、並びに関連物品に関する。
【背景技術】
【0002】
超合金は、多くの場合、高温環境向けの構成部品として最適な材料である(用語「超合金」は、通常、アルミニウム(Al)及びクロム(Cr)のような1種以上の他の元素を含む高温用途用の複合のニッケル基、鉄基又はコバルト基合金を包含して意味する)。一例として、航空機エンジン、産業用ガスタービン及びガス化システムの多くの高温ガス流路部品は、その機械的及び/又は環境上の完全性を高温で維持する必要があるので、ニッケル基又はコバルト基超合金で形成されることが多い。これらの合金は、従来の鋳造及び一方向鋳造技術のような種々の方法で形成することができる。従来の鋳造材料の一部は、圧延、鍛造及び押出のような加工熱処理を受けることが多い。通常、鋳造の後、溶体化、時効及び析出強化のような幾つかの熱処理工程がある。また、これらの合金は環境保護コーティングを備えることもある。
【0003】
多くのニッケル基超合金では、「L12」組織化γ′相を合金に備えさせることによる析出強化を利用している。Al、Ta、Ti及びNbのような各種の元素をニッケル(Ni)マトリクスに添加すると、L12組織を有するγ′−Ni3(Al,M)相が形成される。ここで、Mは1種以上の金属元素を表す。当業者には自明であろうが、L12相の存在は、非常に高い使用温度においてより高い強度を合金に提供する。実際上、多くの例において、L12相は、温度上昇と共に強度が増大するという逆の温度依存性を示す。
【0004】
コバルト基合金も、ある種の最終用途では特に重要である。一例として、これらの合金は対応するニッケル基合金より高い融解温度を示すことがある。具体的な配合に応じて、コバルト(Co)合金は、潜在的に、硫化水素(H2S)のような腐食性のガスを含有する様々な高温環境で高まった酸化及び腐食耐性を提供する可能性がある。しかし、高温構造部品におけるコバルト基合金の応用は、その高温強度がニッケル基超合金と比較して一般に悪いため制限される可能性がある。従来のコバルト基合金は殆どが、高温強度を達成する際に、L12γ′相の析出ほどには効果的でない炭化物の析出及び固溶体強化性元素の添加を利用している。
【0005】
最近まで、望ましいL12相を含むコバルト基合金は入手できないと思われていた。しかし、Ishidaらの米国特許出願公開第2008/0185078号には、高い耐熱性及び強度を有し、析出したL12相を含有するコバルト基合金が記載されている。この例におけるL12γ′相は式Co3(Al,W)の金属間化合物である。このIshidaの合金組成物は多くの他の元素を含有し得るが、殆どの組成物は比較的大量のコバルト、アルミニウム及びタングステンに基づいているようである。
【0006】
冶金学者は、過酷な用途で使用されるニッケル及びコバルト合金が非常に慎重にバランスをとった性質を必要とすることが多いということを理解している。これらの性質の幾つかの例を挙げると、強度(高温及び中程度の温度における)、延性、耐酸化性、耐食性及び耐摩耗性がある。その他の性質及び特性としては、「鋳造性」、熱間加工性、密度及びコストがある。極めて過酷な使用環境において、これらの性質の全ての必要なバランスを達成することは、合金配合業者にとってますます困難になる難題である。
【0007】
ニッケル基及びコバルト基超合金で、酸化及び腐食耐性はその合金のAl及びCr含有量に大いに依存する。より具体的には、Alの存在は、高温において合金の表面上に保護性のAl23スケールを形成すると考えれる。アルミナはクロムに比べて成長の遅い酸化物であり、アルミナの形成は幾つかの酸化環境では好ましい。アルミナはまた、H2Sを含有する腐食性環境下で耐硫化性であることも知られている。Crの存在はAl23スケールの形成に有益であると考えられ、また900℃未満の温度で安定なCr23スケールも形成し得る。一般に、高めのCr含有量、すなわち少なくとも約12重量%が、ある種の用途で必要とされる環境耐性性を達成するのに必要であると考えられる。
【0008】
Alを含有しない多くの慣用コバルト基超合金とは異なり、Co−Al−W基合金系はAlが存在するため保護性のアルミナスケールを形成する能力を有し得る。しかし、γ′−Co3(Al,W)相が析出しているCo−Al−W系合金では、Crを添加するとγ′−Co3(Al,W)相の相安定性が低下する傾向がある。Crを含有するCo−Al−W系合金では、(γ′相がγ−Coマトリクス相に溶解する)γ′ソルバス温度がCrがない合金より低い。一般に、このタイプの合金の高温強度は目標温度におけるγ′相の体積分率に強く依存するので、γ′ソルバス温度は可能な限り高いのが望ましい。従って、環境耐性と高温強度の両者を達成するためにはCr含有量とγ′相の安定性とのバランスをとるのが重要である可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6974508号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの検討事項を考慮して、当技術分野で新しい超合金組成物が歓迎されるであろう。これらの合金は、環境耐性、高温強度及び従来のコバルト基合金と比較して高まったクリープ耐性のような上記の性質の望ましい組合せを示すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書には、
約30重量%〜約50重量%のコバルト、
約20重量%〜約40重量%のニッケル、
約10重量%以上のクロム、
アルミニウム、及び
1種以上の高融点金属
を含む、コバルト−ニッケル合金組成物が開示される。
【0012】
さらに、この合金組成物は、式(Co,Ni)3(Al,Z)を有するL12組織化(γ′)相析出物及びCo−Niγマトリクス相を含む。なお式中のZは1種以上の高融点金属である。
【0013】
一部又は全体がかかる組成物から製造される物品は本発明の別の実施形態を表す。かかる物品の例としては、高温強度並びに環境耐性、殊に硫化耐性を必要とするガス化ノズル、シェルブズ及び冷却系のようなガス化機構造部品がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1A及び1Bは、2つの実施形態の合金組成物について900℃で100時間時効した後に形成されたγ′析出物を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2A及び2Bは、それぞれアルミニウム及びタンタル含有量の関数として様々な合金試料のγ′ソルバス温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に開示される組成範囲は包括的で組み合わせ可能である(例えば、「約25重量%以下」の範囲、又は、より具体的には「約5重量%〜約20重量%」はこれらの範囲の終点及び全ての中間の値を含む)。重量レベルは特に断らない限り組成物全体の重量を基準としており、比も重量基準で与えられる。また、用語「組合せ」はブレンド、混合物、合金、反応生成物、などを含む。さらにまた、本明細書で用語「第1」、「第2」などはいかなる順序、量、又は重要さを示すものではなく、1つの要素を別の要素から区別するために用いられる。本明細書で単数形態の用語は量の限定を意味するのではなく、言及されたものが少なくとも1つ存在することを意味している。量に関連して使用する修飾語「約」は表示した値を含み、背景事情から決定される意味を有する(例えば、特定の量の測定に伴う程度の誤差を含む)。本明細書で使用する括弧書き「(複数も含む)」はこれが修飾する用語の単数形と複数形の両者を含むことを意図しており、従って1以上のその用語を含む(例えば、「耐熱性元素(複数も含む)」は1以上の耐熱性元素を含み得る)。本明細書を通じて、「1つの実施形態」、「別の実施形態」、「実施形態」、などに対する言及は、その実施形態に関連して記載した特定の要素(例えば、特徴、構造及び/又は特性)が本明細書に記載した少なくとも1つの実施形態に含まれ、他の実施形態で存在してもしなくてもよいことを意味している。加えて、記載された本発明の特徴は、様々な実施形態で適宜組み合わせてもよいものと理解されたい。
【0016】
本明細書に記載されている合金材料としては、限定されることはないが、ワイヤ、バー(棒)、ロッド、プレート(板)、又はシートとして提供される材料、等軸晶の微細組織若しくは単結晶組織を備えた材料及び方向性凝固微細組織を有する材料を挙げることができる。本明細書で述べる物性は、特に断らない限り特定の条件での標準的な工業試験で決定される。本明細書に記載する材料組成は、特に断らない限り合金の総重量を基準にして決定される重量の概略の重量パーセントで与えられる。
【0017】
本発明の合金組成物はコバルトとニッケルの両方を含んでいる。以下に記載する様々な加工処理工程の幾つかの後、コバルト、ニッケル及び他の幾つかの元素は通常合金内に面心立方(FCC)マトリクス相を形成する。かかる相は通例超合金に伴うものであり、当技術分野で「ガンマ」(γ)相として知られている。従って、これらの合金はCo−Niγマトリクス相を有するとして記載することができる。
【0018】
合金中のコバルトの量は約30重量%〜約50重量%、幾つかの特定の実施形態では約32重量%〜約48重量%の範囲である。特定の最終用途で殊に好ましい幾つかの実施形態では、コバルトのレベルは約38重量%〜約46重量%である。
【0019】
20重量%以上のニッケル量がγ′(γ′)相を安定化する上で効果的である。従って、合金中のニッケルの量は、約20重量%〜約40重量%、幾つかの実施形態では約20重量%〜約35重量%、幾つかの特定の実施形態では約20重量%〜約25重量%の範囲であり得る。
【0020】
既に述べたように、本発明の合金組成物はさらにクロムを含んでいる。クロムは酸化及び腐食耐性のような環境耐性にとって重要な構成成分である。しかし、過剰の量では、クロムはγ′−(Co,Ni)3(Al,W)相を不安定にする傾向を有し得る。従って、例えば、幾つかの実施形態では、合金組成物は約10重量%以上のクロムを含む。幾つかの実施形態では、合金中のクロムの量は約10重量%〜18重量%、又は約12重量%〜約18重量%、又は幾つかの特定の実施形態では約14重量%〜約18重量%の範囲であり得る。
【0021】
アルミニウムは本明細書に記載されている合金のもう1つ別の重要な構成成分である。クロムと同様に、アルミニウムはアルミナスケールを形成することにより合金に環境耐性を付与する。さらに、現記載の合金の場合、アルミニウムはベース金属と共に重要な金属間化合物、すなわち、(Co,Ni)3(Al,Z)γ′(γ′)相を形成する。上に述べたように、この相は一般にL12相として知られており、非常に重要な高温強化剤として機能する。以下にさらに説明するように、「Z」は選択された高融点金属を表すことを意味する(タングステンを含有する相、すなわち、(Co,Ni)3(Al,W)が多くの実施形態で好ましいことが多い)。
【0022】
AlをCo−Ni−Cr−W系合金に添加すると、γ′(Co,Ni)3(Al,W)相が形成される。しかし、過剰のAlの添加は、幾つかの用途では望ましくないCoAl相がγ′相より優先的に形成され得る。幾つかの特定の実施形態では、存在するアルミニウムの量は約2重量%以上、より典型的には約3重量%以上である。アルミニウムの上限は通常約5重量%である。
【0023】
上に述べたように、合金組成物は1種以上の高融点金属を含んでいる。一般に、高融点金属は合金の高温硬度と高温強度を改善する。さらに、タングステンは特にL12相の形成に関与し得る。他の高融点金属にはモリブデン、タンタル、ニオブ、バナジウム及びレニウムがあり、これらのいずれも合金化元素として使用できる。これらの金属の様々な組合せが合金中に存在していてもよい。一般に、高融点金属は通常、組成物全体の重量に基づいて約1重量%以上、より多くの場合約10重量%以上のレベル(合計)で存在する。耐熱性元素の合計含有量は通常30重量%以下である。幾つかの好ましい実施形態では、高融点金属の合計量は通常約10重量%〜約20重量%の範囲である。
【0024】
幾つかの特定の実施形態では、タングステンとタンタルは好ましい高融点金属である。また、幾つかの場合において、合計の高融点金属含有量の約50重量%以上がタングステンからなるのが好ましい(タングステンは合金に強度を付与するγ′相の形成に殊に有用であることがある)。タングステンの有用な範囲は約1重量%〜約20重量%であることが多く、幾つかの特定の実施形態では約10重量%〜約16重量%、又は約11重量%〜約15重量%である。存在する場合タンタルのレベルは通常約4重量%以下、幾つかの場合においては約3重量%以下の範囲である。
【0025】
本発明の合金組成物はさらに、ある種の最終用途に適した特性を付与する他の幾つかの元素を含むことができる。かかる元素の非限定例は炭素、ケイ素、ホウ素、チタン、マンガン、鉄、ハフニウム及びジルコニウムである。これらの元素の各々の適当な量は各種最終用途の要件に依存する。
【0026】
一例として、ホウ素は、その溶解限度以下のレベルで、高温硬度及び耐摩耗性、並びに強度を改良するのに有用であり得る。炭素は、選択されたレベルで、クロム、タングステン、モリブデン、チタン、ハフニウム、ニオブ、などのような各種の他の元素と組み合わせて炭化物を形成するのに有用であることがある。炭化物もまた室温及び高温条件下で合金の硬度を改善することができる。また、選択された量でケイ素は合金の鋳造及び溶接特性、並びに溶融金属流動性及び環境耐性を改良するのに有用であり得る。
【0027】
チタン、ハフニウム及びジルコニウムは、選択されたレベルで、γ′相の安定化及び高温強度の改良に効果的であることが多い。ジルコニウムとハフニウムはまた、ホウ素と共に粒界を強化するのに有用である可能性もある。さらに、マンガンは溶接特性を改良するのに有用である可能性がある。
【0028】
これらの元素(存在する場合)に対する非限定的で代表的な範囲は、組成物の総重量%に基づいて、以下に挙げることができる。
【0029】
C: 約0.001重量%〜約0.5重量%
Si: 約0.01重量%〜約0.5重量%
B: 約0.001重量%〜約0.2重量%
Ti: 約0.01重量%〜約1重量%
Mn: 約0.01重量%〜約5重量%
Fe: 約0.01重量%〜約5重量%
Zr: 約0.01重量%〜約1重量%
Hf: 約0.01重量%〜約2重量%。
【0030】
当業者には分かるように、上記した合金構成成分の特定のレベルの選択は幾つかの要因の影響を受ける。従って、本開示の教示の範囲内で、合金配合業者は通常強度と延性及び環境耐性間のトレードオフを考慮するであろう。その他の要因、例えば、経済的要因(原料のコスト)、並びに材料重量(密度)もこの合金の「バランス」に関与する。
【0031】
当業者には自明であろうが、不純物レベルの少量の他の元素も、例えば、商業的に供給される合金中に、又は加工処理技術により、必然的に存在する。これらの不純物レベルの添加もまた、本明細書に記載されている組成物の性質を損なわない限り、本発明の一部と考えられる。
【0032】
幾つかの実施形態に対する特定の合金組成物は次の構成成分を含む。
Co: 約30重量%〜約50重量%
Ni: 約20重量%〜約40重量%
Cr: 約10重量%〜約18重量%
Al: 約2重量%〜約5重量%
W: 約10重量%〜約16重量%、及び
Ta: 約4重量%以下。
【0033】
他の実施形態では、合金組成物は次の構成成分を含む。
Co: 約32重量%〜約48重量%
Ni: 約20重量%〜約35重量%
Cr: 約12重量%〜約18重量%
Al: 約3重量%〜約5重量%
W: 約10重量%〜約16重量%、及び
Ta: 約4重量%以下。
【0034】
他の実施形態では、合金組成物は次の構成成分を含む。
Co: 約32重量%〜約48重量%
Ni: 約20重量%〜約35重量%
Cr: 約14重量%〜約18重量%
Al: 約3重量%〜約5重量%
W: 約11重量%〜約15重量%、及び
Ta: 約3重量%以下。
【0035】
さらに他の実施形態では、合金組成物は次の構成成分を含む。
Co: 約38重量%〜約46重量%
Ni: 約20重量%〜約25重量%
Cr: 約14重量%〜約18重量%
Al: 約3重量%〜約5重量%
W: 約11重量%〜約15重量%、及び
Ta: 約3重量%以下。
【0036】
本発明の合金組成物は金属生産及び成形の様々な従来の方法のいずれかを用いて製造することができる。従来の鋳造、粉末冶金加工処理、方向性凝固及び単結晶凝固がこれらの合金のインゴットを形成するのに適した方法の非限定例である。他の合金の形成のための当技術分野で一般的な熱及び加工熱処理技術が本発明の合金を製造し強化する際に使用するのに適している。加工処理技術及び合金熱処理に関する様々な詳細は多くの起源から入手可能である。一例として、米国特許第6623692号(Jacksonら、援用により本明細書の内容の一部をなす)がある。さらに、各種の鍛造及び機械加工技術を、合金組成物から形成された物品を賦形し切削するのに使用することができよう。
【0037】
幾つかの実施形態では、合金組成物は、所定の形状に形成した後、溶体化処理、次いで時効処理に付すことができる。溶体化処理は合金のγ′ソルバス温度より高く固相線温度より低い温度で行う。時効処理において、合金は通例、Co−Niγマトリクス相中に所望の相、例えば(Co,Ni)3(Al,Z)を析出させるために、γ′ソルバスより低い温度に加熱される。ここで、Zは1種以上の高融点金属である。上記したように、(Co,Ni)3(Al,Z)は合金の「L12」組織化相であり、その重要な属性の幾つかを提供する(全体的な配合に応じて、「L12」組織化相はクロムのような既に述べた他の元素の幾つかを含有し得る)。
【0038】
本発明のコバルト−ニッケル合金は多くの形状及び物品、例えば、プレート(板)、バー(棒)、ワイヤ、ロッド、シート、などに形成することができる。既に記載したように、これらの合金は、その属性のため、高温物品及び従来のコバルト基合金から形成されたときに高温クリープ強度によりその寿命が制限され得る物品に殊に適している。例として、環境耐性と高温強度の両方を必要とする様々なガス化部品がある。部品の特定の非限定例としては、ガス化ノズル、シェルブズ、冷却系部品などがある。
【0039】
本発明の別の局面において、コバルト−ニッケル超合金は他の物品又は合金構造体を保護するために使用することができる。一例として、合金組成物の層を、この合金組成物の性質特性、例えば環境耐性及び高温強度を必要とする別の合金構造体又はその一部の上に取り付けるか又は他の方法で形成することができる(この下にある基材は種々の金属及び金属合金、例えば、鉄、鋼合金、又は他のニッケル−若しくはコバルト−合金から形成することができる)。全体の生成物は複合構造体、又はベース金属若しくはベース金属コアを覆う「合金クラッディング」と考えることができる。このクラッディング層とその下にある基材の接合は拡散接合、熱間静水圧プレス、又は蝋付けのような慣用の方法で行うことができる。また、当業者は、一部は本明細書の教示に基づいて、所与の最終用途に対してクラッディング層の最も適当な厚さを選択することができるであろう。
【実施例】
【0040】
以下に挙げる実施例は単に例示を意図したものであり、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲に対していかなる意味でも限定を課するものと解してはならない。
【0041】
主としてCo−22%Cr−22%Ni−14%W−3%Fe−0.1%Cからなる慣用のコバルト基合金Haynes 188に基づく合金組成物を選択した。2〜5重量%のAlをCo−22%Cr−22%Ni−14%W及びCo−16%Cr−22%Ni−14%Wに添加した。さらに、1〜2重量%のTaをCo−22%Cr−22%Ni−14%W−4%Al及びCo−16%Cr−22%Ni−14%W−4%Alに添加した。高いNi含有量の合金には4%のAlを添加した。
【0042】
【表1】

各々の合金は誘導溶融により1ポンドのインゴットとして調製した。合金を1200℃で6時間溶体化処理した後、空気冷却した。各々の合金から切り出した2つの試験片をそれぞれ900℃と1000℃で100時間エージング(時効処理)した。この時効処理は空気冷却により完了した。透過型電子顕微鏡検査と走査型電子顕微鏡検査を行ってγ′−(Co,Ni)3(Al,W)相の存在を検査した。示差走査熱量測定(DSC)を行って液相線、固相線及びγ′ソルバス温度を決定した。
【0043】
図1A及び1Bはそれぞれ試料16Cr−4Al2Ta及び16Cr−34Ni−4Alの透過型電子顕微鏡写真である。図から分かるように、16重量%のクロムと4重量%のAlを含むこれらの合金は、900℃での熱処理後γ−(Co,Ni)マトリクス相中でγ′−(Co,Ni)3(Al,W)相の析出を示した。γ′析出物の大きさはおよそ200nmである。試料16Cr−4Al1Taもγ′相の析出を示したが、γ′相の体積分率は試料16Cr−4Al2Taで観察されたものの半分未満である。22重量%のCrを含有する合金はいずれも、900℃と1000℃のいずれの熱処理後もγ′相の存在を示さなかった。
【0044】
16重量%のCrを含有する他の合金に対する透過型電子顕微鏡検査によって、900℃で熱処理後3重量%Al又は5重量%のAlを有する合金で超微細なγ′析出物(<5nm)が存在することが明らかになった。超微細なγ′析出物の存在は、これらの合金のγ′ソルバス温度が900℃より低く、γ′相の析出が900℃からの空気冷却中に起こったことを示している。(図1に示されているように)冷却中に形成されたγ′析出物の大きさは、900℃での時効中に形成されたものよりずっと小さい。これは、冷却中には原子が拡散し析出物を成長させるのに十分な時間がないからである。
【0045】
図2Aは、16重量%のCrを含有する合金中のAl含有量に対するγ′ソルバス温度の依存性を示す。γ′ソルバス温度は3重量%のAlで826℃であり、Alを4重量%に増大することにより873℃に上昇する。さらに、Alを5重量%添加すると、γ′ソルバスは893℃まで増大するが、その増分は3重量%のAlと4重量%のAlとの間で観察された増分より小さい。
【0046】
5重量%のAlを含有する合金は900℃でかなりの量のB2−(Co,Ni)Alの析出を示す。これは、4重量%と5重量%との間のγ+γ′相領域にAlの溶解限度があり、この溶解限度を超える過剰のAlは望ましくないB2相を形成することを示している。
【0047】
図2Bは、16重量%Cr−4重量%Alを含有する合金中のTa含有量に対するγ′ソルバス温度の依存性を示す。γ′ソルバスはTaの添加と共に873℃から直線的に上昇し、2重量%Taで932℃に達する。
【0048】
総合すると、このデータは、約16重量%Cr−4重量%Al付近に、他の望ましくない相を形成することなくγ′相を強化相として使用できるという予期されなかった局所的組成ウインドウ(手段)が存在することを示している。4重量%より低いAl含有量では、γ′ソルバス温度はより低く(言い換えると、γ′相の体積分率がより低い)、他方、4重量%を超えるより高いAl含有量は望ましくないB2相を形成させる。16重量%Cr−4重量%Alで、Taの添加により観察された上昇したγ′ソルバス温度は、Taがγ′相の安定性を増大するのに非常に効果的な元素であることを示している。Co−Al−W−Ta合金で、約3重量%のCrの添加によりγ′ソルバス温度は1079℃から960℃に降下する(Suzuki及びPollock:Acta Mater,vol.56,2008,pp.1288−1297)。γ′相を不安定化する際のCrのこの強い影響を考えると、16重量%Crを含有する合金の4重量%Alにおける局所的組成ウインドウの存在及び4重量%Al−2重量%Taで達成された900℃より高いγ′ソルバス(およそ930℃)は極めて顕著である。
【0049】
試料16Cr−34Ni−4Alで、γ′ソルバス温度は930℃であり、これは16Cr−4Al2Ta合金と同等である。この結果は、TaとNiの両方がγ′を安定化する元素であることを示唆している。しかし、(22重量%のNiを含有する)16Cr−4Alに基づく合金のγ′ソルバス温度は2重量%のTaの添加と12重量%Niの添加とで同等であるから、Taはγ′相を安定化する際にNiよりも効果的である。
【0050】
幾つかの特定の実施形態に関連して本発明を説明して来た。以上の記載は例示のためのみのものであり、いかなる意味でも限定と考えるべきではない。すなわち特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内に入る修正をなすことが可能であるものと了解されたい。また、上で述べた特許、特許出願、物品及びテキストは全て援用により本明細書の内容の一部をなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約30重量%〜約50重量%のコバルト、
約20重量%〜約40重量%のニッケル、
約10重量%以上のクロム、
アルミニウム、及び
1種以上の高融点金属
を含むコバルト−ニッケル合金組成物であって、
式(Co,Ni)3(Al,Z)を有するL12組織化(γ′)相析出物及びγ−(Co,Ni)マトリクス相を含んでおり、式中のZは1種以上の高融点金属であり、前記合金組成物。
【請求項2】
高融点金属の合計含有量の約50重量%以上がタングステンからなる、請求項1記載の合金組成物。
【請求項3】
約30重量%〜約50重量%のコバルト、
約20重量%〜約40重量%のニッケル、
約10重量%〜約18重量%のクロム、
約2重量%〜約5重量%のアルミニウム、
約10重量%〜約16重量%のタングステン、及び
約4重量%以下のタンタル
を含む合金組成物。
【請求項4】
約32重量%〜約48重量%のコバルト、
約20重量%〜約35重量%のニッケル、
約12重量%〜約18重量%のクロム、
約3重量%〜約5重量%のアルミニウム、
約10重量%〜約16重量%のタングステン、及び
約4重量%以下のタンタル
を含む、請求項3記載の合金組成物。
【請求項5】
約32重量%〜約48重量%のコバルト、
約20重量%〜約35重量%のニッケル、
約14重量%〜約18重量%のクロム、
約3重量%〜約5重量%のアルミニウム、
約11重量%〜約15重量%のタングステン、及び
約3重量%以下のタンタル
を含む、請求項4記載の合金組成物。
【請求項6】
約38重量%〜約46重量%のコバルト、
約20重量%〜約25重量%のニッケル、
約14重量%〜約18重量%のクロム、
約3重量%〜約5重量%のアルミニウム、
約11重量%〜約15重量%のタングステン、及び
約3重量%以下のタンタル
を含む、請求項5記載の合金組成物。
【請求項7】
請求項1記載のコバルト−ニッケル合金組成物を含む鋳造された物品。
【請求項8】
約30重量%〜約50重量%のコバルト、
約20重量%〜約40重量%のニッケル、
約10重量重量%以上のクロム、
アルミニウム、及び
1種以上の高融点金属
を含む合金を含むガス化部品であって、
合金組成物が式(Co,Ni)3(Al,Z)を有するL12組織化(γ′)相析出物及びγ−(Co,Ni)マトリクス相を含み、式中のZは1種以上の高融点金属である、前記ガス化部品。
【請求項9】
a)金属又は金属合金を含む基材、並びに
b)基材の少なくとも一部分に接合されたクラッディング
を含む物品であって、前記クラッディングが、
約30重量%〜約50重量%のコバルト、
約20重量%〜約40重量%のニッケル、
約10重量重量%以上のクロム、
アルミニウム、及び
1種以上の高融点金属
を含むコバルト−ニッケル合金を含んでなり、
前記合金組成物は式(Co,Ni)3(Al,Z)を有するL12組織化(γ′)相析出物及びγ−(Co−Ni)マトリクス相を含み、式中のZは1種以上の高融点金属である、前記物品。
【請求項10】
基材がガス化部品である、請求項9記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−231403(P2011−231403A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98965(P2011−98965)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】