説明

コバルト−ニッケル超合金及び関連物品

【課題】 最終鋳造品の特性に悪影響を与えずに、何種類かの成分のレベルをある程度変更できる合金の配合を提供する。
【解決手段】 約20〜約28重量%のコバルト、約37〜約46重量%のニッケル、約6重量%以上のクロム、アルミニウム及び1種以上の高融点金属を含むコバルト−ニッケル合金組成物について開示する。本組成物におけるコバルトとアルミニウムと高融点金属の合計重量は、組成物の総重量の約50%未満である。さらに、この合金組成物は(Co,Ni)γ相とL12構造(γ′)相を共に含む。かかる組成物から部分的又は全体的に製造された物品についても開示する。かかる物品の例としては、ガスタービンエンジンの部品などの高温機械及び装置が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、金属合金組成物に関する。さらに具体的には、本発明は、高温用途に有用なニッケル/コバルト合金及び関連物品に関する。
【背景技術】
【0002】
超合金は高温環境用の部品に最適な材料であることが多い。(「超合金」という用語は通常は複雑なコバルト基又はニッケル基合金でアルミニウム(Al)、クロム(Cr)のような1種以上の他の元素を含むものを包含する。)。一例として、タービン動翼その他のタービンエンジン部品は、約1000〜1150℃以上の温度でその健全性を保つため、ニッケル基超合金から作られることが多い。合金は、通常の鋳造、方向性鋳造及び単結晶法のような様々な方法で成形できる。鋳造後に、「溶体化処理」、時効処理、析出強化段階などの数多くの処理段階が行われるのが普通である。合金には、環境保護皮膜を設けてもよい。
【0003】
ニッケル(Ni)マトリックスに様々な元素を添加すると、析出機構によって「L12」構造相が形成される。当業者には明らかであろうが、L12相が存在すると、非常に高い使用温度での合金の強度を増大させる。実際、多くの事例で、L12相は、温度の上昇に伴って強度が高まるという逆温度依存性を示す。
【0004】
コバルト基合金も幾つかの最終用途では特に重要である。一例として、これらの合金はニッケル基合金よりも高い融点を示すことがある。個別の配合によっては、コバルト(Co)合金は腐食性ガスを含む様々な高温環境で向上した耐食性を向上させることもある。
【0005】
最近まで、望ましいL12相を含むコバルト基合金は得られないと思われていた。しかし、石田らの米国特許出願公開第2008/0185078号には、高い耐熱性及び強度を有し、析出L12相を含むコバルト基合金が記載されている。この場合のL12相は式Co3(Al,W)の金属間化合物である。石田の合金組成物は数多くの他の元素を含んでいてもよいが、大半の組成物は、比較的多量のコバルト、アルミニウム及びタングステンに基づくものである。
【0006】
金属学者には明らかであろうが、要件の厳しい用途に使用されるニッケル及びコバルト合金には、入念な特性バランスが必要とされることが多い。こうした特性のほんの数例として、(高温及び中温での)強度、耐酸化性、延性及び耐食性が挙げられる。その他の特性として、「鋳造性」、重量及びコストが挙げられる。非常に厳しい供用環境において、これらのすべての特性間で所要のバランスを達成することは、合金配合者には難題となりつつある。
【0007】
さらに、所望の合金を製造する際の生産柔軟性は、特にエネルギーコスト及び素材コストの高い時代にあって、商業環境での重要な検討事項となっている。研究室での小さな合金試料は非常に精密に配合及び鋳造できるが、合金溶湯及びビレットの重量が最大20000ポンドにもなる大規模な鋳造工場などでの作業では、この種の精度は達成できないことが多い。鋳造合金が例えば配合の誤りなどのため「規格外」及び低品位であった場合、再溶解又は廃棄しなければならないことがある。いずれの場合も、生産上の問題として重大である。そこで、最終鋳造品の特性に悪影響を与えずに、何種類かの成分のレベルをある程度変更できる合金の配合を提供することができれば、工業環境において多大な商業的利点をもたらすであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0185078号明細書
【特許文献2】米国特許第6623692号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ji-Cheng Zhao, "The Diffusion-Multiple Approach to Designing Alloys", Annu. Rev. Mater. Res. 2005, 35, pp.51-73
【非特許文献2】Ji-Cheng Zhao et al, "Mapping of the Nb-Ti-Si Phase diagram using Diffusion Multiples", Materials Science and Engineering A, 372 (2004) 21-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の点に鑑みると、新規な超合金組成物が当技術分野で歓迎されると思料される。合金は、環境耐性及び高温強度のような上述の特性の望ましい組合せを示すべきである。合金は良好な「生産性」特性を示すべきであり、それによって工業環境で重要な商業的利点を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書では、
約20重量%〜約28重量%のコバルト、
約37重量%〜約46重量%のニッケル、
約6重量%以上のクロム、
アルミニウム、及び
1種以上の高融点金属
を含むコバルト−ニッケル合金組成物について開示する。
【0012】
本組成物におけるコバルトとアルミニウムと高融点金属の合計重量は、組成物の総重量の約50%未満である。さらに、この合金組成物は(Co,Ni)γ相とL12構造(γ′)相を共に含む。
【0013】
かかる組成物から部分的又は全体的に製造された物品は、本発明の別の実施形態をなす。かかる物品の例としては、ガスタービンエンジンの部品などの高温機械及び装置が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ニッケル−コバルト合金試料の拡散マルチプル試験構造を示す図。
【図2】合金のニッケル/コバルト比の関数としてのクロム含有量に基づいて様々な合金試料を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に開示した組成範囲はすべてその上下限を含み、独立に結合可能である(例えば、「約25重量%以下」、具体的には「約5〜約20重量%」という範囲は、これらの範囲の上下限とこれらの範囲内のすべての中間値を含む)。重量分率は、別段の記載がない限り、組成物全体の重量を基準にしたものであり、比率も重量を基準にしたものである。また、「組合せ」という用語には、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などが包含される。さらに、本明細書において「第1」、「第2」などの用語は順序、数量又は重要性を意味するものではなく、ある構成要素を他の構成要素から区別するために用いられる。単数形で記載したものであっても、数を限定するものではなく、そのものが少なくとも1つ存在することを意味する。数量に用いられる「約」という修飾語は、標記の数値を含み、文脈毎に決まる意味をもつ(例えば、特定の数量の測定に付随する誤差範囲を含む)。本明細書を通して、「一実施形態」又は「実施形態」という場合、その実施形態に関して記載された特定の構成要素(特徴、構造及び/又は特性など)が、本明細書に記載された少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味し、他の実施形態には存在していても、存在していなくてもよい。さらに、本発明の複数の特徴的構成要素は、様々な実施形態において適当に結合させることができる。
【0016】
本発明に係る合金材料としては、特に限定されないが、線材として供給される材料、等軸ミクロ組織(EA)又は単結晶組織を備える材料、及び方向性凝固(DS)ミクロ組織を備える材料が挙げられる。本明細書に記載する材料特性は、別段の記載がない限り、標準工業試験法で所定の条件で求められる。本明細書に開示する材料組成は近似重量%で示すが、重量%は、別段の記載がない限り、合金の総重量を基準にしたものである。
【0017】
本発明の合金組成物はコバルトとニッケルを共に含む。後述する各種処理段階の幾つかを経た後、コバルトとニッケルと他の何種類かの元素は通常は合金中で面心立方(FCC)相を形成する。かかる相は典型的にはニッケル含有超合金に付随しており、強化機構をもたらすが、当技術分野では「ガンマ(γ)」相として知られる。
【0018】
合金中のコバルトの量は、約20重量%〜約28重量%であり、ある特定の実施形態では、約21重量%〜約28重量%である。特定の最終用途に特に好ましい実施形態では、コバルトの量は、約21重量%〜約23重量%又は約25重量%〜約27重量%という2つの範囲のいずれか一方の範囲内にある。
【0019】
合金中のニッケルの量は、約37重量%〜約46重量%であり、ある特定の実施形態では、約37重量%〜約45重量%である。コバルトの場合と同様に、特定の最終用途に特に好ましい範囲が存在する。具体的には、ニッケルに関して、約42重量%〜約45重量%及び約37重量%〜約42重量%という特に重要な以下の2つの範囲が存在する。コバルト及びニッケルの最適範囲は、特定の最終用途に必要とされる一群の特性並びに様々な商業的要因に大きく左右される。幾つかの好ましい実施形態では、ニッケルとコバルトの比は約1.3〜約2.1である。
【0020】
上述の通り、本発明の合金組成物はクロムをさらに含んでいる。クロムは、環境耐性(例えば「高温腐食」、混合ガス腐食、エロージョンなどの機械的損傷)に重要な成分である。クロムは高温強度及び耐酸化性の向上にも重要なことがある。特定の実施形態では、合金組成物は約6重量%以上のクロムを含む。別の好ましい実施形態では、クロムの量は約9重量%以上であり、多くの場合約10重量%〜約12%である。後でさらに記載する通り、本発明の特有の属性のうちの1つは、先行技術の同様の組成物では通例影響される他の重要な特性を保持したまま、上記の比較的高い範囲のクロムの有益な効果を得ることができるという知見に基づく。
【0021】
アルミニウムは、本発明に係る合金のもう一つの重要な成分である。クロムと同様、アルミニウムも合金に耐酸化性をもたらす。さらに、本発明に係る合金では、アルミニウムは、母材と重要な金属間化合物つまり(Co,Ni)3(Al,Z)ガンマプライム(γ′)相を形成する。上述の通り、この相は一般にL12相として知られ、非常に重要な高温強度機構として機能する。後で詳述する通り、「Z」は所定の高融点金属を表す。(タングステン含有相つまり(Co,Ni)3(Al,W)が多くの実施形態で好ましいことが多い。)。
【0022】
アルミニウムの存在量は幾つかの因子に依存する。かかる因子としては、Co、Ni、Cr及び1種以上の高融点金属の量、並びに合金が使用される環境などが挙げられる。ある特定の実施形態では、アルミニウムの存在量は約3重量%以上であり、さらに典型的には約4重量%以上である。アルミニウムの上限は通常は約5%である。
【0023】
上述の通り、本発明の合金組成物は1種以上の高融点金属を含む。一般に、高融点金属は合金の高温硬度及び高温強度を向上させる。さらに、高融点金属はL12相の形成にも関与する。適当な高融点金属として、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、バナジウム及びレニウムが挙げられる。これらの金属の様々な組合せが合金に存在していてもよい。一般に、高融点金属は組成物全体の重量を基準にして通常は約1重量%以上、多くの場合約10重量%以上の量(合計量)で存在する。高融点元素の総含有量は通常は30重量%以下である。幾つかの好ましい実施形態では、高融点金属の合計量は通常は約10重量%〜約25重量%である。
【0024】
ある特定の実施形態では、タングステン、タンタル及びモリブデンが好ましい高融点金属である。さらに、場合によっては、高融点金属の総含有量の約50%以上(重量%)がタングステンを含んでいるのが好ましい。(タングステンは、合金に強度をもたらすγ′相の形成に特に有用であることもある。)。タングステンの有用な範囲は多くの場合約1重量%〜約20重量%であり、ある特定の実施形態では約10重量%〜約18重量%である。ある最終用途では、タングステン量は約15重量%〜約19重量%の範囲とすることができる。
【0025】
タンタルが存在する場合、その量は通常は約0.1重量%〜約5重量%であり、場合によっては、約2重量%〜約4重量%である。モリブデンが存在する場合、その量は典型的には約0.1重量%〜約15重量%であり、ある特定の実施形態では、約1重量%〜約10重量%である。
【0026】
上述の通り、本発明の実施形態のもう一つの重要な特徴は、コバルトとアルミニウムと1種以上の高融点金属の合計量が規定されていることに関係する。合計重量は、組成物の重量の約50%未満とすべきである。これらのレベルを下げることで、かなりの量のニッケルを添加することができる。ニッケル量の増加によって、合金系に比較的高レベルのクロムを添加することができる。後で詳述する通り、他の必要な特性のレベルを維持しなければならない場合、先行技術では、同様の合金系へのクロムの添加量を「柔軟」に変更することは不可能であった。合金組成物がタングステンを含む場合には、幾つかの好ましい実施形態では、コバルトとアルミニウムとタングステンの合計量を約45重量%未満とする必要がある。
【0027】
本発明の合金組成物は、ある種の最終用途に適した特性を付与する他の元素を含んでいてもよい。かかる元素の非限定的な例は、炭素、ケイ素、ホウ素、チタン、マンガン、鉄及びジルコニウムである。これらの各元素の適量は、最終用途の様々な要件に依存する。
【0028】
一例として、ホウ素は、その溶解度限界までのレベルで、高温硬度及び耐摩耗性並びに強度の向上に有用であることがある。炭素は、炭化物を形成させるため、所定のレベルで、クロム、タングステン、モリブデン、チタン、ニオブなどの他の様々な元素との組合せに有用であることがある。かかる炭化物も、室温及び高温条件下での合金の硬さを向上させることができる。さらに、ケイ素は、所定の量で、合金の鋳造及び溶接特性並びに溶湯の流動性及び環境耐性を改良するのに有用であることがある。
【0029】
チタン及びジルコニウムは、所定のレベルで、γ′相を安定させ、高温強度を向上させるのに有効であることが多い。(ジルコニウムは、ホウ素との組合せで結晶粒界の強化にも有用であることもある。)。さらに、マンガンは溶接性の向上に有用であることがある。
【0030】
これらの元素(存在する場合)の非限定的な組成範囲の例を、組成物の総重量を基準として、以下に挙げる。
C:約0.01重量%〜約0.2重量%、
Si:約0.1重量%〜約0.5重量%、
B:約0.01重量%〜約0.6重量%、
Ti:約0.1重量%〜約5重量%、
Mn:約0.1重量%〜約5重量%、
Fe:約0.1重量%〜約5重量%、
Zr:約0.1重量%〜約1重量%。
【0031】
本発明の実施形態の合金組成物はさらに、1種以上の白金族金属(「PGM」)を含んでいてもよい。白金族金属としては、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)が挙げられる。これらの白金族金属は、延性、耐疲労性、耐クリープ性などの様々な特性の向上に用いることができる。ただし、これらは主に耐酸化性を(多くの場合、上述のL12構造相の形成によって)向上させるために使用される。ルテニウム、ロジウム及びイリジウムの少なくとも1種の存在は、本発明の幾つかの実施形態において特に好ましいことがある。
【0032】
白金族金属(存在する場合)の最適量は、本明細書に記載した多くの因子に依存する。一例として、これらの元素の1種以上の元素を比較的少量で使用すると有益であると、添加量が多いと、NiAl(PGM)相のおゆな潜在的に有害な合金相が形成されることがある。
【0033】
PGM金属の非限定的な組成範囲の例を、組成物の総重量を基準として、以下に挙げる。
Ru:約0.1重量%〜約30重量%、
Rh:約0.1重量%〜約30重量%、
Os:約0.1重量%〜約25重量%、
Ir:約0.1重量%〜約25重量%、
Pt:約0.1重量%〜約25重量%、
Pd:約0.1重量%〜約30重量%。
【0034】
白金族金属を含む実施形態の大半では、その合計量は合金組成物全体の重量を基準にして約0.1重量%〜約5重量%であるが、他の実施形態では、特定のPGM元素の量を上記の範囲内で高める必要があることがある。なお、ある種の白金族金属は、タービン動翼のような部材の重量をかなり増しかねない密度を有する。そこで、幾つかの実施形態では、存在する場合、PtとIrとOsの合計量は、合金全体の密度を約10g/cc未満に維持する十分に低いレベルにすべきである。したがって、PtとIrとOsの合計量は合金組成物全体の重量を基準にして通常は約25重量%未満となろう。
【0035】
当業者には明らかであろうが、上述の合金成分についてどのようなレベルを選択するかは、数多くの因子によって左右される。例えば、本明細書の教示内容に従って、合金配合業者は通常は強度と延性とのトレードオフ、並びに耐酸化性を考慮に入れるであろう。他の因子、例えば経済的因子(原料コスト)及び材料の重量も、この合金「バランス」で一定の役割を果たす。
【0036】
当業者には明らかであろうが、他の微量の元素が、例えば市販の合金中に又は加工処理技術に起因して、不純物として不可避的に存在する。かかる元素が、本発明に係る組成物の特性を損なわない限り、それらが不純物レベルで混入しても、本発明の一部とみなすことができる。
【0037】
幾つかの実施形態の特定の合金組成物は、以下の成分:
Co:約21重量%〜約28重量%、
Ni:約37重量%〜約46重量%、
Cr:約6重量%〜約12重量%、
Al:約3重量%〜約5重量%、
W:約15重量%〜約19重量%、及び
Ta:約2重量%〜約4重量%
を含んでおり、CoとAlとWの合計量は合金組成物全体の重量を基準にして約40重量%〜約49.9重量%であり、Ni/Co比は約1.4〜約2.1である。
【0038】
幾つかの好ましい実施形態では、本発明の合金組成物は以下の成分:
Co:約21重量%〜約28重量%、
Ni:約37重量%〜約46重量%、
Cr:約9重量%〜約12重量%、
Al:約3重量%〜約5重量%、
W:約15重量%〜約19重量%、及び
Ta:約2重量%〜約4重量%
を含んでおり、CoとAlとWの合計量は約40重量%〜約49.9重量%であり、Ni/Co比は約1.4〜約2.1である。
【0039】
本発明の合金組成物は、従来の様々な金属製造及び成形法のいずれかによって製造できる。従来の鋳造法、粉末冶金処理、方向性凝固法及び単結晶凝固法は、これらの合金のインゴットの適当な成形法の非限定的な例である。他の合金を製造するための当技術分野で周知の熱加工及び熱機械加工法は、本発明の合金の製造及び強化での使用に適している。加工技術及び合金熱処理に関する詳細は、数多くの出典から入手できる。非限定的な例として、米国特許第6623692号(Jackson)及び米国特許出願公開第2008/0185078号(石田)が挙げられるが、それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。さらに、本発明の合金組成物から物品を賦形及びカットするのに、様々な鍛造及び機械加工技術を使用できる。
【0040】
幾つかの実施形態では、本発明の合金組成物を所定の形状に成形した後、固溶化熱処理、次いで時効処理に付すことができる。時効処理では、(Co,Ni)3(Al,Z)(式中、Zは1種以上の高融点金属である。)などの所望の相を析出させるため、合金を典型的には約500℃〜約1100℃(好ましくは約800℃〜約1100℃)の温度に加熱する。上述の通り、(Co,Ni)3(Al,Z)は合金の「L12」構造相であり、その重要な属性の幾つかをもたらす。(全体の配合によっては、「L12」構造相は、クロムのような上述の他の元素の幾つかを含むことがある。)。
【0041】
本発明のコバルト−ニッケル合金は、板材、短冊状材料、線材、棒材、シート材料などの数多くの形状及び物品へと成形することができる。上記で触れた通り、これらの合金はその属性から高温物品に特に適している。高温物品の例としては、航空機用タービン、陸用タービン及び船舶用タービンの各種部品が挙げられる。これらの部品の非限定的な具体例としては、静翼、動翼、バケット、ステータ及び燃焼器セクションが挙げられる。
【0042】
本発明の別の態様では、本コバルト−ニッケル超合金は、他の物品又は合金構造物を保護するために使用できる。一例として、例えば環境耐性及び高温強度などの本合金組成物に特有の特性が必要とされる別の合金構造物又は部材の上に、本合金組成物の層を付着又は形成すればよい。(その下の基材は、例えば鉄、鋼又は他のニッケルもしくはコバルト合金のような様々な金属及び金属合金からなるものでよい。)。この製品全体は、複合構造、又は素地金属もしくは素地金属コア上の「合金クラッド」とみなすことができる。その下の基材へのクラッド層の接合は、拡散接合、熱間静水圧プレス、鑞付けのような従来の方法で実施できる。さらに、当業者であれば、本明細書の教示に基づいて、所与の最終用途に関するクラッド層の最適な厚さを選択することができるであろう。
【実施例】
【0043】
以下に示す実施例は例示を目的としたものにすぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0044】
本例では、"The Diffusion-Multiple Approach to Designing Alloys", by Ji-Cheng Zhao, Annu. Rev. Mater. Res. 2005, 35, pp. 51-73及び"Mapping of the Nb-Ti-Si Phase diagram using Diffusion Multiples", by Ji-Cheng Zhao et al, Materials Science and Engineering A 372 (2004) 21-27に記載された拡散マルチプル技術を用いた。これらの文献の開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。拡散マルチプルは、所定の熱処理後に熱相互拡散できるように境界を接した2以上の金属又は合金断片からなる。こうして、組成勾配及び金属間化合物が形成され、組成−相−特性の関係をマッピングすることができる。
【0045】
本例では、多数の元素(例えばNi、Al、Cr、W、Co、Ta)の高純度試料を用いて「試験片」又は「ブロック」を形成した。ブロックは放電加工(EDM)によって接合のための所望の形状に加工した。各試験片の高さは34mmであり、残りの寸法は形状に応じて様々であった。各試験片について加工面の再鋳造層を機械研削によって除去して清浄面とした。これらの合金試験片をメタノール中で超音波洗浄し、次いで、所定のジオメトリに集成した。図1は、様々な試験片の幾つかのためのジオメトリの一例を示す。(合金組成の百分率を示す。百分率が付記されていない各種元素記号は純粋な金属を表す。)。数多くの試料を様々な組成のブロック及び様々なブロックジオメトリで集成して、後述の図2に示すプロファイルの基礎資料を得た。
【0046】
各拡散マルチプル試料を、次いで、商用純度のニッケルからなる熱間静水圧プレス(HIP)用缶に装填した。HIP缶の上蓋と下蓋は電子ビーム溶接で閉鎖した。
【0047】
次いで最初のHIP処理を1250℃、276MPaで6時間実施して、異種ブロック間で組成勾配を惹起させた。拡散マルチプルを含むHIP缶を次いで真空石英管内に封入し、管を純アルゴンで再充填した。第2の熱処理を1250℃で1週間実施した。純アルゴンで再充填した真空石英管中で、第3の熱処理を1000℃で100時間実施した。第3の熱処理は、多数の試料においてL12相の形成をもたらすのに十分であった。
【0048】
熱処理容器から試料を取り出した後、試験片を取り外して表面を再度研磨した。表面を顕微鏡で精査した。L12相の有無及び他の合金特性について調べた。各種試験片同士が互いに密着した2種及び3種接合領域の検査には特に注意を払った。L12相の存在は走査顕微鏡によって検査し、組成分析は電子マイクロプローブ分析によって実施した。組成分析を用いて、図2のグラフの点をプロットした。
【0049】
図2は、所定の合金試料に拡散マルチプル技術を適用して得られた結果を示すグラフである。この図は、試料中のクロム含有量をニッケル/コバルト比の関数としてプロットしたものである。本発明者らは、広い試料範囲における特定の領域が、耐腐食性、耐酸化性などの他の重要な特性を保持しながら、クロムレベルが十分に高い合金を与えることを見出した。先行技術の合金試料では、広範囲のクロム濃度でこれらの特性を示すとは認められない。
【0050】
本発明の範囲に属するコバルト−ニッケル合金は、図2の四角形の領域10を表す式で表現することができる。例えば、これらの組成物は一般に次の式に関して以下の線1〜線4の境界線で定義される。
【0051】
Cr(重量%)=A1(Ni/Cr)+B1
線1:A1=1.77 B1=3.06
線2:A2=3.65 B2=4.59
線3:A3=−23.73 B3=41.08
線4:Ni/Cr=2.124。
【0052】
図2の領域10の外側にある試料は、当技術分野のある種の目的には有用であっても、特性又は組成柔軟性など、他の多くの点で不十分である。一例として、ニッケル/コバルト比が約1.3未満である領域12(その大凡の境界を示す)に位置する試料の大半は、十分なレベルのγ′相を含んでいたとしても、他の短所を示すおそれがある。主な短所はクロム量に関するものである。例えば、これらの試料は、望ましくない相の形成を起こさずには、比較的高レベルのクロムを配合することができない。望ましくない相の例としては、板状又は針状組織として析出するクロムリッチ相が挙げられ、合金の機械特性を損ないかねない。かかる相の形成が最小限となるようにクロムレベルを制御することができるが、耐食性及び耐酸化性が犠牲となりかねない。
【0053】
さらに、領域14(その大凡の境界を示す)に位置する試料大半は、他の点で不十分である。例えば、それらの試料の多くは十分な量のγ′相を含んでいないおそれがある。領域14の試料には、上述の有害なクロムリッチ相が存在しているものもある。
【0054】
幾つかの実施形態では、領域10の境界内の特定の領域が好ましい。この領域に含まれるコバルト−ニッケル組成物も、比較的高いクロム含有量(例えば約9重量%以上)で特徴付けられる。この領域の一般的な境界線(Cr(重量%)=A1(Ni/Cr)+B1)は以下の通りであり、クロムは約9重量%〜約12重量%のレベルにある。
線2:A2=3.65 B2=4.59
線3:A3=−23.73 B3=41.08
線4:Ni/Cr=2.124。
【0055】
幾つかの特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、それらは例示にすぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。それらに様々な変更をなすことができ、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的範囲に属する。また、本明細書で引用した特許その他の文献の記載内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト−ニッケル合金組成物であって、
約20重量%〜約28重量%のコバルト、
約37重量%〜約46重量%のニッケル、
約6重量%以上のクロム、
アルミニウム、及び
1種以上の高融点金属
を含んでいて、コバルトとアルミニウムと高融点金属の合計重量が、組成物の総重量の約50%未満であり、(Co,Ni)ガンマ相とL12構造(γ′)相を共に含んでいる、合金組成物。
【請求項2】
高融点金属が、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、レニウム、バナジウム及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1記載の合金組成物。
【請求項3】
高融点金属の総含有量の約50重量%以上がタングステンを含む、請求項2記載の合金組成物。
【請求項4】
クロムの存在量が約9重量%以上である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の合金組成物。
【請求項5】
クロムの存在量が約9〜約12重量%である、請求項1記載の合金組成物。
【請求項6】
コバルトの存在量が約21〜約28重量%である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の合金組成物。
【請求項7】
アルミニウムの存在量が約3重量%以上である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の合金組成物。
【請求項8】
アルミニウムの存在量が約3〜約5重量%である、請求項7記載の合金組成物。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のコバルト−ニッケル合金組成物を含む鋳造品。
【請求項10】
合金からなるガスタービンエンジン部品であって、合金自体が、
約20重量%〜約28重量%のコバルト、
約37重量%〜約46重量%のニッケル、
約6重量%以上のクロム、
アルミニウム、及び
1種以上の高融点金属
を含んでいて、コバルトとアルミニウムと高融点金属の合計重量が、組成物の総重量の約50%未満であり、合金が(Co,Ni)ガンマ相とL12構造(γ′)相を共に含んでいる、ガスタービンエンジン部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−275635(P2010−275635A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−106072(P2010−106072)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】