説明

コバルト担持ゼオライトのハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒

溶液、例えばコバルト塩を含む実質的に非水性の溶液を使用して、ZSM−12ゼオライト押出物に含浸させ、含浸させたゼオライト押出物を、還元−酸化−還元サイクルで活性化することにより形成したハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒と合成ガスを接触させることを含む、合成ガスの転換を実施する方法が開示される。この方法によって、メタン収率が減少し、実質的に固形ワックスを含まない液化炭化水素が高収率でもたらされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願開示は、コバルト担持ゼオライト触媒の存在下における、合成ガスから液化炭化水素への転換プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
原油危機及び環境影響に対し、高質油には高まる需要が続いている。COと水素の触媒反応による炭化水素の生成を含むフィッシャー・トロプシュ合成は、天然ガス由来の合成ガスを、液体燃料及び高価値の化学製品に転換することができる。フィッシャー・トロプシュ合成は、高品質の輸送燃料に対する、より魅力的で直接的な、環境的に受容可能な経路の1つである。
【0003】
フィッシャー・トロプシュ触媒は、典型的には、例えば、Fe、Co、Ni及びRuなどのVIII族の金属をベースにしており、Fe及びCoが最も一般的である。このような触媒にわたる生成物の分布は非選択的であり、一般にアンダーソン・シュルツ・フローリー(Anderson−Schulz−Flory)(ASF)の重合反応速度によって制御される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
必要とされるものは、水性ガス転化活性が低くすぐに使用可能である、コバルトを含むフィッシャー・トロプシュ触媒を利用した合成ガスから液化炭化水素への転換プロセスであり、このプロセスでは、メタンの生成が減少し、既知の転換プロセスと比較してメタンの収率がより低く、C11炭化水素の生成物の収率がより高く、固形ワックスを実質的に含まない液化炭化水素生成物が生成する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、合成ガスの転換反応を実施する方法であって、コバルトを含浸させたZSM−12ゼオライト押出物を含むハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒を、約1から約3の間の水素/一酸化炭素比で水素及び一酸化炭素を含む合成ガスと、約180℃から約280℃の間にある温度で約5気圧及び約30気圧において接触させて、
約10重量%未満のメタン、
約75重量%を超えるC5+
約15重量%未満のC〜C、及び
約5重量%未満のC21+
を含有し、実質的に固形ワックスを含まない生成物を生成することを含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
実用的なハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒を作製するために、還元−酸化−還元の活性化が後に続く含浸法が採用される。合成ガスから炭化水素液への転換に対して高い活性を有するコバルト−ルテニウム/ゼオライト触媒が、商業的に入手可能なアルミナ結合ゼオライト押出物を使用して調製された。硝酸コバルトを使用する場合、単一ステップの含浸における金属充填量は、これらのアルミナ結合ゼオライトに関しては1から10重量%のコバルトが限界である。したがって複数回の含浸がしばしば必要であり、金属塩を分散させ分解するために介在する乾燥処理及び焼成処理が伴う。コバルト含有率は、5重量%から15重量%まで変動させることができる。通常、空気中での焼成は、硝酸コバルトの直接還元で形成した材料よりも低活性の材料を生成する。しかし、大規模での直接還元は、これが非常に発熱性であり、空気中で取り扱える前にさらに不動態化しなければならない自然発火性の触媒を生成するので、望ましくないと考えられている。低温の還元−酸化−還元のサイクルは、合成ガスの転換のためのコバルト−ルテニウム/ゼオライト触媒の活性化に対する単一の還元ステップよりも優れていることが見出された。合成ガス転換用の触媒の調製及び活性化に関するそのような方法は、係属中の米国特許出願第12/343,534号に開示されている。
【0007】
係属中の米国特許出願第12/343,534号に開示されているように、比較的大きなゼオライト押出物の粒子は、反応器内で圧力降下を起こすことがより少なく、ゼオライト粉末よりも又はさらに(例えば、粒子径が約300〜1000ミクロンの)粒状ゼオライトよりも摩耗を被ることが少ないので、ゼオライト押出物の使用が有益であることが分かった。ゼオライト粉末又は粒状ゼオライトにCo/アルミナ及びバインダーをプラスして、ゼオライト押出物と同等の径となるように(すなわち、圧力降下及び摩耗を回避するために)粒子を形成すると、コバルトサイトの結合をもたらし、おそらく必要とされる乾燥及び焼成ステップ中にある種のイオン交換をさらにもたらし、そのため結果として生じる触媒の活性及び選択性を低下させると考えられる。
【0008】
ゼオライト押出物の形成方法は、当業者によく知られている。そのような押出物を使用して、マクロ多孔性の広範な変動が可能である。いずれの理論にもとらわれたくないが、本願に関して、長い反応管内での操作を可能にするための十分に高い破壊強度に相応する、可能な限り高度なマクロ多孔性は、活性及び選択性に対して、拡散の抑制を最小化する利点になると考えられる。現在開示されている担持ゼオライトのフィッシャー・トロプシュ触媒の細孔は、操作中は空いたままであるが、他方、普通のフィッシャー・トロプシュ触媒の細孔は、油(溶融ワックス)で充満するので、ゼオライトを介するフィッシャー・トロプシュ合成は、普通のフィッシャー・トロプシュ合成のような限定された拡散とは異なる。
【0009】
押出物の形成では、高温での焼成ステップにおいて強度が生まれる。温度は、非常に安定で、スピネルなどの本質的に非還元性の相を形成するために、コバルト酸化物と材料のアルミナ又はアルミノケイ酸塩部分との間で、固相反応を引き起こすのに十分な高さである。したがって、押出物が形成され既に焼成を受けた後で、金属が添加されるのが望ましい。
【0010】
本明細書で用いられる語句「ハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒」は、フィッシャー・トロプシュの基本成分、並びに一段階で初期のフィッシャー・トロプシュ生成物を所望の生成物に転換する(すなわち、より重質の望ましくない生成物、すなわちC21+を最小にする)ための適切な機能性を含有する成分を含むフィッシャー・トロプシュ触媒を示す。したがって、短鎖のα−オレフィンに対する高い選択性を示すフィッシャー・トロプシュ成分を組み合わせて、ゼオライト(単数又は複数)で酸化すると、結果としてガソリン選択性の向上、並びにゼオライトの酸性サイトにおけるオリゴマー化、クラッキング、異性化及び芳香族化反応を促進することによる、オクタン価の高い分岐炭化水素及び芳香族炭化水素の濃度の増加をもたらす。ガソリン領域のイソパラフィンもまた、コバルトベースのフィッシャー・トロプシュ成分を酸性又は二元機能ゼオライト成分と組み合わせることによるハイブリッド触媒を使用して、単一の反応器内で生成することができる。コバルト成分において形成される初期の蝋質生成物は、主として分岐炭化水素にクラッキング/水素化分解(すなわち、酸性のゼオライト成分により)され、環境問題により改質ガソリン中であまり好ましくない成分である芳香族化合物が限定されて形成される。とりわけ、一段階のフィッシャー・トロプシュ反応では、現在開示されているハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒により、
10重量%未満、さらに約3から約10重量%の間のCH
15重量%未満、さらに約3から約10重量%の間のC〜C
約75重量%を超えるC5+、及び
約5重量%未満のC21+
が提供され、周囲条件、すなわち20℃、1気圧において不溶性の固形ワックス相が存在しないことを意味する、実質的に固形ワックスを含まない液体生成物が形成される。結果として、ここではワックス相を別個に処理する必要がない。ワックスとは、C21+のパラフィンを意味している。
【0011】
本明細書で用いられている語句「コバルト担持ゼオライト触媒」は、コバルト金属が、小さいクリスタリット(晶子)としてゼオライト支持体上に分散している触媒のことを示している。コバルト担持ゼオライト触媒のコバルト含有率は、ゼオライトのアルミナ含有率によって決めることができる。例えば、アルミナ含有率が支持体重量を基準として約20重量%から約99重量%である場合は、最小のアルミナ含有率において、触媒の総重量を基準として例えば約1から約20重量%のコバルト、好ましくは5から約15重量%のコバルトを触媒に含有させることができる。最大のアルミナ含有率においては、触媒の総重量を基準として、例えば約5から約30重量%のコバルト、好ましくは10から約25重量%のコバルトを触媒に含有させることができる。
【0012】
水素及び一酸化炭素を含む合成ガスは、合成ガス転換の条件下で、コバルト担持ゼオライト触媒を、順番に(A)水素中での還元、(B)酸素含有ガス中での酸化及び(C)水素中での還元のステップを含み、500℃未満の温度で行われる活性化手順にかけることにより調製される触媒で、液化炭化水素に選択的に転換することができることが分かった。本願開示の活性化手順は、触媒がコバルトをゼオライト支持体に含浸させることで調製される場合に、向上した反応率を有するコバルト担持ゼオライト触媒を提供することが分かった。さらに、例えば、Ru、Rh、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg及び/又はReなどの助触媒を事前に添加して活性を強化させる本願開示の活性化手順により、増進したされたコバルト担持ゼオライト触媒の活性を著しく強化することができる。本願開示の触媒は、温度が500℃未満、例えば450℃未満にある間、本明細書で「ROR活性化」と名付けた、(i)還元、(ii)酸化及び(iii)還元のステップを含む活性化手順にコバルト担持ゼオライト触媒を付すことによって生成される。本願開示の活性化手順を用いてコバルト担持ゼオライト触媒をROR活性化に付すことにより、得られる触媒の活性は、約100%程大きく増加させることができる。
【0013】
ゼオライトは、分子ふるいの大規模集団の一部である。ゼオライトは、シリカ及びアルミニウムを骨格の四面体位置で含有する、結晶質で微孔質のアルミノケイ酸塩である。酸性サイトは、+3のアルミニウム部位と+4のシリカサイトの間の電荷不均衡から発生する。他の金属酸化物を、アルミニウムの代わりに置き換える又はアルミニウムに加えることができる。より一般的なこの種類の分子ふるいとしては、これらだけに限定されないが、シリカのみ(ケイ酸塩)、ホウケイ酸塩、ゲルマノケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ガロケイ酸塩及びこれらの混合物が挙げられる。
【0014】
そしてまた、分子ふるいは、規則的な通路(細孔)を有する結晶質材料である。その構造をいくつかの単位セルにわたって調べると、細孔は、結晶の繰返し構造内の同じ単位を基準とした軸を形成している。細孔の全通路は、単位セル内で細孔の軸により一列に並べられているが、細孔が軸から逸脱することがあり、径が拡大して(カゴ(ケージ)を形成する)又は狭くなることがある。細孔の軸は、しばしば結晶の軸の1つと平行にある。細孔に沿った最も狭い位置は、細孔の入口である。細孔径は、細孔の入口の径で示される。細孔径は、細孔の入口の外周を形作る四面体の配置数を数えることで計算される。その細孔の入口で、四面体の配置数が10である細孔は、通常10環細孔と呼ばれる。この出願における触媒に関連する細孔は、細孔径が8環以上である。関係する細孔が、軸が結晶構造に対して同じ方向にある1種類だけである場合、この分子ふるいは1次元と呼ばれる。分子ふるいは、異なる構造の細孔を有することがあり、又は同じ構造であるが結晶に関係している1つ以上の軸の中で配向することもある。これらのケースでは、分子ふるいの次元は、同じ構造であるが異なる軸を有する関連細孔の数を、異なる形状の関連細孔の数と合計することで決定される。
【0015】
ZSM−12型ゼオライト(IZA構造コードMTW)を使用してコバルトを含浸させたゼオライト押出物は、メタンの低い収率が所望され、実質的に固形ワックスを含まない液化炭化水素の生成物が所望されるフィッシャー・トロプシュ型反応における使用に、特に効果的な触媒であることが分かった。
【0016】
ZSM−12の構造は、隙間が径5.7×6.1Aの12員環である一次元のチャネルシステムから成る。例えば、ZSM−5若しくはベータゼオライトの多次元のチャネルシステムで見出されるチャネル交差部又はポケットの不在により、フィッシャー・トロプシュの基本成分から形成されるα−オレフィンの異性化及びクラッキングにおいて、特有の反応性が得られることが分かった。ZSM−12ゼオライトの酸性機能性を最適化することにより、本発明のハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒は、メタンの収率が低く、C11+の炭化水素の生成物が高収率な、実質的に固形ワックスを含まない液化炭化水素生成物を提供することが分かった。
【0017】
ZSM−12ゼオライトの支持体は、約100m/gから約300m/gの間の外部表面積を持つことができ、例えば、約180m/gである。80%のZSM−12に関するミクロ細孔値は、約90から112μL/gの間であるべきで、これより低い値は、ミクロ細孔構造の閉鎖又は損失を意味する。BETの表面積は、外部面積と(体積としてより厳密に計算された)ミクロ細孔面積の合計である。ゼオライト支持体は、さらに、気孔率が約30と80%の間、全細孔体積が約0.25と0.60cc/gの間、破壊強度が約1.25と5lb/mmの間にあり得る。ZSM−12ゼオライト成分中のアルミニウムに対するシリカの比は、約10から100の間であり得る。
【0018】
所望する場合、ルテニウム又は同種のものなどの助触媒を、本願開示の触媒に含めてもよい。約10重量%のコバルトを含有する触媒に対しては、ルテニウムの量は、触媒の総重量を基準として、約0.01から約0.50重量%の間、例えば、約0.05から約0.25重量%間とすることができる。ルテニウムの量は、コバルトがより高いレベル又はより低いレベルでは、それぞれこれに応じて比例し、より高く又はより低くなる。ZSM−12が80重量%でアルミナが20重量%である場合、約7.5重量%のコバルトレベルが最良であることが分かっている。
【0019】
本願開示のROR活性化手順は、本願開示の担持ゼオライト触媒の活性を向上させるために用いることができる。したがって、それらがゼオライトの酸性サイトとのイオン交換を促進しないとすれば、一定の様式で触媒ゼオライト支持体上に触媒金属を広げる当業者に良く知られた任意の技術は、適したものとなる。
【0020】
高度に選択的で活性な触媒を得るために要求される必要な金属の充填及び分布を達成するために、本願開示の触媒金属をゼオライト支持体に堆積するために採用される方法には、可溶性のコバルト塩及び所望するならば例えばルテニウム塩などの可溶性の助触媒の金属塩を含有する、実質的に非水性の溶液を使用する含浸技術を含めることができる。
【0021】
初めに、ゼオライト支持体は、水分及びゼオライト支持体由来の任意の有機物を除去するために、約450℃から約900℃の範囲の温度、例えば、約600℃から約750℃の範囲の温度で酸化焼成により処理し得る。
【0022】
それまでの間、コバルト塩の非水性の有機溶媒溶液、及び所望する場合、例えばルテニウム塩の水性若しくは非水性の有機溶媒溶液が調製される。硝酸ルテニウム、塩化ルテニウム、酢酸ルテニウム又はこれらに類するものなどの任意の適切なルテニウム塩を、使用することができる。助触媒のための溶液は、少量の水を含有することができる。本明細書で用いられる語句「実質的に非水性」とは、少なくとも95体積%の非水性の成分を含む溶液を示している。一般に、本願開示の有機溶媒に可溶で、触媒に対して毒性効果のない任意の金属塩が利用できる。
【0023】
非水性の有機溶媒は、炭素、酸素、水素及び窒素から成る群から選択される部分から形成される非酸性の液体であり、少なくとも0.1の相対揮発度を有している。語句「相対揮発度」は、25℃で測定した時の、参照としてのアセトンの蒸気圧に対する溶媒の蒸気圧の比を示している。
【0024】
コバルト塩を含有する水溶液がミクロ細孔の親水性ゼオライトの中へ移動し、コバルトカチオンがゼオライトの酸性サイトでプロトンに取って代わることが分かった。対照的に、コバルト塩を含有する非水溶液の使用は、ゼオライトの酸性サイトの、金属との置換を最小限にする。とりわけ、溶液中のコバルトイオンがゼオライト中の酸性プロトンと入れ替わる場合、本質的にコバルトイオンは酸性サイトを調節するが、この理由は、コバルトイオンの酸−触媒反応を促進する能力は、これらが置換するプロトンの能力よりも大幅に低いからである。触媒の活性化中にこれらの位置でコバルトが容易に還元するとしても、このプロセス中の水素による還元により、等式:Co+2+H=Co+2Hに従ってプロトンの酸性度が再生するので、このことは問題とはならない。残念なことに、イオンの交換サイトは、コバルト及びコバルトイオンに対してかなり安定な位置であるので、通常の活性化手順中では容易に還元しない。還元可能なCo量の減少もまた、触媒中のフィッシャー・トロプシュ成分の活性を減少させるので、このことは両機能にとって望ましくない。
【0025】
適切な溶媒としては、例えば、アセトン、ブタノン(メチルエチルケトン)などのケトン;例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びこれらに類するものなどの低級アルコール;ジメチルホルムアミドなどのアミド:ジエチルエーテル及びテトラヒドロフランなどのエーテル;ペンタン及びヘキサンなどの炭化水素、並びに前述の溶媒の混合物が挙げられる。1つの実施形態では、溶媒はテトラヒドロフラン又は硝酸コバルト用のアセトンである。
【0026】
適切なコバルト塩としては、例えば、硝酸コバルト、酢酸コバルト、コバルトカルボニル、コバルトアセチルアセトネート又はこれらに類するものが挙げられる。同じく、硝酸ルテニウム、塩化ルテニウム、酢酸ルテニウム又はこれらに類するものなどの任意の適切なルテニウム塩を使用することができる。1つの実施形態では、ルテニウムアセチルアセトネートが使用される。一般に、本願開示の有機溶媒又は5体積%未満の水を有する溶媒の溶液に可溶で、金属触媒又はゼオライトの酸性サイトに対して毒性作用を持たない任意の金属塩が利用できる。
【0027】
次に、焼成ゼオライト支持体に、金属塩の実質的に非水性の有機溶媒溶液を無水状態で含浸させる。すなわち、焼成ゼオライト支持体は再水和化となるように過度に大気湿度にさらすべきではない。
【0028】
触媒のゼオライト支持体上に均一な薄層の触媒金属を広げるために、当業者に良く知られた技術を含む、任意の適切な含浸技術を採用することができる。例えば、酸化物助触媒と一緒にコバルトを、「初期湿潤(incipient wetness)」法によりゼオライト支持体材料上に堆積させることができる。このような技法は良く知られており、余分な液がなく、ゼオライト支持体の表面全体をちょうどぬらす最小体積を提供するために、実質的に非水性の溶液の体積をあらかじめ定めることが必要である。その代わりに、所望する場合には余分な溶液を使用する技法を用いてもよい。余分な溶液を使用する技法を利用する場合、存在する過剰な溶媒、例えばアセトンは、単に蒸発によって除去される。
【0029】
次に、約25℃から約50℃の温度で溶媒を蒸発させながら、「乾燥状態」まで実質的に非水性の溶液及びゼオライト支持体を撹拌する。
【0030】
含浸された触媒を、ゼオライト支持体の全体にわたって金属を広げるために、約110℃から約120℃の温度で約1時間の間ゆっくり乾燥する。乾燥ステップは、空気中で非常に遅い速度で行われる。
【0031】
乾燥した触媒は、水素中で直接還元してもよく、又は最初に焼成してもよい。硝酸コバルトを含浸させるケースでは、直接還元により、コバルト金属のより高度な分散及び合成活性を生じ得るが、硝酸塩の還元を制御することは難しく、大規模の調製では、還元前の焼成がより安全である。また、所望の金属充填を得るために複数回の含浸が必要ならば、硝酸塩を分解するための単一ステップの焼成がより簡単である。水素中の還元には、不活性ガスでの事前のパージ、不活性ガスでの後続のパージ、及びROR活性化の一部として後段で記載するような還元自体に加えた不動態化ステップが必要である。しかし、コバルトカルボニルの含浸は、乾燥した酸素のない雰囲気中で実施しなければならなく、このより低酸化状態の利点が維持されるならば、これを直接分解し、次に不動態化しなければならない。
【0032】
乾燥した触媒は、例えば、10cc/グラム/分の気流中で、金属塩を分解し金属を定着させるのに十分な、約200℃から約350℃の範囲の温度、例えば、約250℃から約300℃の範囲の温度までゆっくり加熱することで焼成される。前述の乾燥及び焼成ステップは、別々に行う又は組み合わせて行うことができる。しかし、焼成は、例えば1分当たり0.5℃から約3℃又は1分当たり0.5℃から約1℃の緩やかな加熱速度を用いることにより実施するべきであり、触媒は、約1から約20時間、例えば約2時間の間、最大温度で保持しなければならない。
【0033】
前述の含浸ステップは、所望の金属充填を得るために、実質的に非水性の溶液を追加して繰り返される。ルテニウム及び他の金属酸化物の助触媒は、コバルトと一緒に添加するのが好都合であるが、これらを、他の含浸ステップにおいて、コバルトを含浸させる前後又は含浸中のいずれかに別々に又は組み合わせて添加してもよい。
【0034】
連続させる含浸を終えた後で、次に、充填された触媒ゼオライト支持体を本願開示のROR活性化処理に付す。本願開示のROR活性化処理は、コバルト含浸触媒の活性及び選択性の所望される増加を達成するために、500℃をかなり下回る温度で実施しなければならない。500℃以上の温度は、活性及びコバルト含浸触媒の液化炭化水素の選択性を減少させてしまう。適切なROR活性化温度は500℃未満であり、好ましくは450℃未満であり、最も好ましくは400℃以下である。したがって、100℃又は150℃から450℃の範囲、例えば250℃から400℃の範囲が、還元ステップに適している。酸化ステップは、200℃から300℃に制限しなければならない。これらの活性化ステップは、約0.1℃から約2℃の速度、例えば約0.1℃から約1℃の速度で加熱しながら実施される。
【0035】
含浸された触媒は、水素の存在下でゆっくり還元され得る。硝酸塩又は他の塩を分解するために、触媒が各々の含浸後に焼成されたなら、次に、不活性ガスのパージ後に単一の温度変化(例えば、1℃/分)で最大温度(例えば、約250℃又は300℃から約450℃、例えば、約350℃から約400℃)まで加熱し、この温度で(6から約65時間、例えば約16から約24時間の保持時間)保持して、1回のステップで還元が実施され得る。第1の還元ステップでは、純粋な水素が好ましい。硝酸塩が依然として存在しているならば、還元を2ステップで実行するのがベストであり、第1の還元加熱ステップは、1分当たり約5℃未満のゆっくりとした加熱速度(例えば1分当たり約0.1℃から約1℃)において、200℃から約300℃(例えば、200℃から約250℃)の最大保持温度に達するまで、約6から約24時間の間の保持時間(例えば、約16から約24時間の間)、周囲圧力の条件で実施される。第1の還元の第2の処理ステップでは、触媒を1分当たり約0.1℃から約1℃で、約250℃又は300℃から最大約450℃(例えば、約350℃から約400℃まで)の範囲の最大保持温度まで、6から約65時間(例えば、約16から約24時間)の保持時間加熱し得る。これらの還元ステップでは純粋な水素が好ましいが、水素と窒素の混合物を利用することもできる。
【0036】
したがって、当該還元には、水素と窒素の混合物を100℃で約1時間使用すること;200℃の温度まで1分当たり温度0.5℃を増加させること;この温度をおよそ30分間保持させること;及び次に350℃の温度が達成されるまで1分当たり温度1℃を増加させることを含ませることができ、次に、還元をおよそ16時間継続させる。還元は、十分にゆっくりと実施されるべきであり、還元ガスのフローは十分に高く維持して、触媒床の出口端の過剰な蒸気を回避するために、オフガス中の水分の分圧を1%未満に維持しなければならない。全ての還元の前後に、触媒を、窒素、アルゴン又はヘリウムなどの不活性ガス中でパージしなければならない。
【0037】
還元された触媒は、周囲温度(25℃〜35℃)において希釈空気を触媒上に十分にゆっくり流すことで不動態化され、その結果、+50℃を超えない制御された発熱が触媒床を通して通過する。不動態化の後に、触媒の焼成に関連して以前に記載したような同様な様式で、触媒は、希釈空気中で約300℃から約350℃の温度(好ましくは300℃)までゆっくり加熱される。
【0038】
酸化ステップ中の発熱温度は、100℃未満であるべきで、流速及び/又は酸素濃度が十分に希薄であるならば、50〜60℃となる。これがさらに低いならば、酸素が希薄すぎるので、酸化を完了させるためには極端に長い時間が必要となる。局所的に300℃を超える危険があり、そのため、コバルト酸化物が400℃を超える温度でアルミナ及びシリカと相互作用して非還元性のスピネルを作り、500℃を超える温度では、Ruは揮発性の毒性の高い酸化物を作ってしまう。
【0039】
次に、再酸化された触媒は、それから、含浸された触媒の最初の還元に関連して以前に記載したような同様な様式で、水素の存在下で再度ゆっくり還元される。この第2の還元は、第1の還元よりかなり容易である。硝酸塩はもはや存在していないので、この還元は、焼成触媒の還元に関して上記で記載したように、単一の温度変化と保持で完了され得る。
【0040】
本願開示の複合触媒は、利用される反応器のタイプにより、粒子の平均直径が約0.01から約6ミリメートルであり、例えば、固定床では約1から約6ミリメートル、例えば、触媒がガス、液体又はガス−液体媒体で浮遊した反応器(例えば、流動床、スラリー又は沸騰床)では、約0.01から約0.11ミリメートルである。
【0041】
本願開示のプロセスで使用される仕込原料は、HのCOに対する比が約1と約3の間、さらに約1.5と約2の間にある、COとHの混合物である。任意の適切なCO源とH源が、使用できる。仕込原料は、例えば(i)スクラビング又は他の形態の浄化を行った石炭又は他の形態の炭素を酸化して、所望のCOとHの混合物を生成することにより、又は(ii)天然ガスを改質することにより得ることができる。COは、本願開示のプロセスでの使用に関しては、仕込原料の望ましい成分ではないが、希釈ガスとして存在し得る。任意の形態の硫黄化合物は、触媒の寿命にとって有害であり、CO−H混合物及び任意の希釈ガスから除去されるべきである。
【0042】
反応温度は、約180℃から約280℃、例えば、約220℃から約235℃とするのが適切である。全圧は、例えば、約5から約30気圧、例えば、約20から約30気圧である。
【0043】
総供給量を基準としたガスの毎時空間速度は、1時間当たり触媒の単位体積につきガスが20,000体積未満、例えば、約100から約5000v/v/時間又は約1000から約2500v/v/時間である。所望するならば、純粋な合成ガスを採用することができ、又は別法として窒素、CO、メタン、水蒸気又はこれらに類するものなどの不活性な希釈剤を存在させることができる。語句「不活性な希釈剤」は、希釈剤が反応条件下で非反応性である、又は希釈剤が直鎖の反応生成物であることを示している。
【0044】
本願開示の触媒を使用する合成ガス反応は、固定床、流動床又は移動床タイプの操作において起こすことができる。
【0045】
次の例示的な実施例は、非制限的であることが意図されている。
【実施例】
【0046】
補助的な有機物成分と組み合わせてSDAを使用した小結晶Al−ZSM−12の直接合成
105.6gのケイ酸ナトリウム溶液(Fisher Scientific Inc.から入手可能な28wt%のSiO、8.9wt%のNaO)を、600mLのTeflon(登録商標)PTFEライナーの内部で、104.4gの脱イオン水と混合した。次に、第2のステップで、38gの75%塩化メチルトリエチルアンモニウム溶液(SACHEM、Austin、Texasから入手可能)及び2.39gの1,6−ビス(2,3−ジメチルイミダゾリウム)ヘキサンジブロミド塩を122.5gの脱イオン水に溶解し、この溶液をケイ酸塩溶液と混合した。次に、7.03gの硝酸アルミニウム九水和物を227.1gの脱イオン水に溶解した。硝酸アルミニウム溶液を、撹拌を続けながらケイ酸塩溶液に加え、均一な懸濁液を形成した。次に、6.4gの硫酸(98%)を懸濁液に加え、混合して均一なゲルを形成した。ゲルを1時間混合した。ライナーを、次に、オートクレーブ(Parr Instrument Companyから入手可能)の中で密封した。オートクレーブを静止状態で4時間かけて155℃に加熱し、次に、155℃で80時間そのままにした。固形生成物を、冷却した炉から真空ろ過で回収し、大量の水で洗浄した。固形物を、次に、95℃で12時間以上の間炉中で乾燥させた。粉末X線回折パターンは、生成物が純粋なZSM−12であることを示した。Si/Alの比は、24.3と決定された。
【0047】
80重量%のZSM−12及び20重量%のアルミナに担持された7.5重量%のCo−0.19重量%のRuを含む触媒の調製
ZSM−12粉末を、初めに、550℃で2時間焼成した。50gの焼成されたZSM−12粉末及び12.5gのアルミナ粉末のキャタパル(catapal)Bをミキサーに加え、10分間混合した。30.6gの脱イオン水及び0.89gの硝酸を混合された粉末に加え、10分間混合した。混合物を、次に、The Bonnot Company(Uniontown、Ohio)から入手可能な1インチのBB押出機ガンに移し、48個の1/16”の穴から成るダイプレートを通して押し出した。ZSM−12押出物を初めに70℃で2時間乾燥し、次に、120℃で2時間乾燥し、最終的に600℃で2時間気流中で焼成した。
【0048】
1/16”のアルミナ結合ZSM−12押出物に、7.5%のCo−0.19%のRuを含有する触媒を、単一ステップにおいて非水含浸で調製した。上記で調製したZSM−12押出物を使用した。初めに、0.259gの(Alfa Aesarから入手可能な)硝酸ニトロシルルテニウム(III)を、4gの脱イオン水に溶解した。2番目に、16.049gの(Sigma−Aldrichから入手可能な)硝酸コバルト(II)六水化物を、80gのアセトンに溶解した。2つの溶液を、次に、一緒に混合し、40gの乾燥アルミナ結合ZSM−12押出物に加えた。ロータリーエバポレーター中において真空下で45℃までゆっくり加熱することで、溶媒を除去した。真空乾燥した材料を、次に、炉内において120℃で一晩さらに空気中で乾燥した。乾燥した触媒を、次に、マッフル炉内で300℃で2時間焼成した。
【0049】
押出物及び触媒の特性を、表1に示す。
【表1】



【0050】
二元金属触媒の活性化
上記で調製した10グラムの触媒を、ガラス管反応器に装入した。反応器を、ガスが上昇流となるようにマッフル炉に設置した。管を、初めに周囲温度において窒素ガスでパージし、その所要時間の後で、ガスの供給を、流速750sccmの純粋な水素に替えた。反応器に対する温度を、1℃/分の速度で350℃まで増加させ、次に、この温度に6時間保持した。この所要時間後に、ガスの供給を窒素に切り替えて、システムをパージし、ユニットを次に周囲温度まで冷却した。次に、1体積%のO/Nガス混合物を750sccmで10時間、触媒床に至るまで通し、触媒を不動態化した。加熱は適用しなかったが、酸素の化学吸着及び部分的な酸化発熱が、瞬間的な温度の上昇を引き起こした。10時間後に、ガス供給を純粋な空気に替え、流速を200sccmまで低下させ、温度を1℃/分の速度で300℃まで上昇させ、次に、300℃で2時間維持した。この時点で、触媒を周囲温度まで冷却し、ガラス管反応器から排出した。これを、0.51”I.D.の316−SS管の反応器に移し、クラムシェルの炉に設置した。触媒床を、2時間の間ヘリウムの下降流でフラッシュし、この所要時間の後で、ガスの供給を、流速500sccmの純粋な水素に切り替えた。温度を、1℃/分の温度間隔で120℃までゆっくりと上昇させ、そこで1時間の間保持し、次に1℃/分の温度間隔で250℃まで上昇させ、そこで10時間保持した。この所要時間の後で、触媒床を純粋な水素ガスを流し続けながら180℃まで冷却した。全ての流れは、下方に向かせた。
【0051】
(例1〜6)
フィッシャー・トロプシュ活性
上記で記載したように調製し活性化した触媒を、ガスの全圧を5〜20atmとし、合計ガス流速を1時間当たり触媒の1グラムにつき2100〜6000立法センチメートル(0℃、1atm)として、1.2から2.0の間の比にある水素及び一酸化炭素に205℃から235℃の間の温度で接触させる、合成工程にかけた。結果を表2に示す。
【0052】
表2の結果から、ZSM−12ゼオライトを使用して調製した本発明のハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒は、商業的に実現可能なプロセス条件における、実質的に固形ワックスを含まない液化炭化水素生成物を得るための合成ガスの転換に効果的であることが見てとれる。さらに、望ましくないC〜Cの軽ガス生成の収率が低く、所望されるC5+の炭化水素の収率が80%を超えている。
【表2】



【0053】
比較実施例
ZSM−12で調製したハイブリッド触媒とZSM−5で調製したハイブリッド触媒の比較
【0054】
72重量%のZSM−5及び0.18重量%のアルミナに、7.5重量%のCo/0.19重量%のRuを含む触媒を調製し、次の手順に従って活性化した。初めに、ニトロシル硝酸ルテニウムを水に溶解した。2番目に、硝酸コバルトをアセトンに溶解した。2つの溶液を一緒に混合し、次にアルミナ(20重量%のアルミナ)が結合したZSM−5ゼオライト(Zeolyst CBV 014、Si/Al=40)の1/16”押出物に加えた。混合物を周囲温度で1時間撹拌した後で、溶媒をロータベーポレーション(rotavaporation)で除去した。次に、触媒を炉内において120℃で一晩乾燥し、最終的にマッフル炉内において300℃で2時間焼成した。
【0055】
20グラムの触媒を、ガスの全圧を10atmとし、合計ガス流速を1時間当たり触媒1グラムにつき2028立法センチメートルとして、1.6の比にある水素及び一酸化炭素に220℃の温度で接触させる、合成工程に触媒をかけた。表3(再生なし)及び表4(再生あり)に提示されているデータは、ZSM−5及びZSM−12ゼオライトで調製したハイブリッド、一体化触媒の比較を提供している。
【表3】



【表4】



【0056】
ZSM−12で調製したハイブリッド、一体化触媒は、驚くべきことに、望ましくない軽ガスをより低い収率で生成しながら、合成ガスを十分に転換し、所望のC5+生成物を高収率でもたらすことが、表3及び4から見てとれる。これらの反応条件下では、いずれの触媒にも、固形ワックスは見られなかった。当該生成物は、C21+の直鎖パラフィンを約5重量%未満しか含有しないことが、観察から明らかである。
【0057】
様々な実施形態を記載したが、当業者に明らかであるように、複数の変形及び改変をこれらに用いてもよいことを理解されたい。そのような変形及び改変は、本明細書に添付されている特許請求の条項及び範囲内で考慮されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成ガスの転換反応を実施する方法であって、コバルトを含浸させたZSM−12のゼオライト押出物を含むハイブリッドフィッシャー・トロプシュ触媒を、約1から約3の間の水素/一酸化炭素比で水素及び一酸化炭素を含む合成ガスと、約180から約280℃の間の温度で約5気圧及び約30気圧で接触させて、
約10重量%未満のメタン、
約75重量%を超えるC5+
約15重量%未満のC〜C、及び
約5重量%未満のC21+
を含有する炭化水素生成物を生成することを含む方法。
【請求項2】
前記生成物が、
約3から約10重量%の間のCH、及び
約3から約10重量%の間のC〜C
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生成物が、約5重量%未満のC21+の直鎖パラフィンを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
合成ガスが、約1.5から約2の間の水素/一酸化炭素比で水素及び一酸化炭素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
転換反応が、約220から約235℃の間の温度で起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
転換反応が、約20から約30気圧の間の圧力において起こる、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2013−511591(P2013−511591A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539935(P2012−539935)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/055374
【国際公開番号】WO2011/062773
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】