説明

コバルト酸化物粒子粉末及びその製造法、非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造法並びに非水電解質二次電池

【課題】 本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質のインサーション反応における結晶構造を安定化し、且つ、二次電池の安全性、殊に、熱安定性が改善された非水電解質二次電池を得ることができる正極活物質及び正極活物質の前駆体であるコバルト酸化物粒子粉末を提供する。
【解決手段】 組成がLiCo(1−x)Mg(0.001≦x≦0.15)であり、平均粒子径が1.0〜20μmであり、格子定数のa軸が0.090x+2.816<a≦0.096x+2.821(Å)、c軸が0.460x+14.053<c≦0.476x+14.063(Å)で示される値である非水電解質二次電池用正極活物質は、マグネシウムを含有するコバルト酸化物粒子又は水酸化マグネシウムを表面処理したコバルト酸化物粒子とリチウム化合物とを混合して、熱処理して得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質のインサーション反応における結晶構造を安定化し、且つ、二次電池の安全性、殊に、熱安定性が改善された非水電解質二次電池を得ることができる正極活物質及び該正極活物質の前駆体であるコバルト酸化物粒子粉末を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器やパソコン等の電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として小型、軽量で高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、充放電電圧が高く、充放電容量も大きいという長所を有するリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
従来、4V級の電圧をもつ高エネルギー型のリチウムイオン二次電池に有用な正極活物質としては、スピネル型構造のLiMn、ジグザグ層状構造のLiMnO、層状岩塩型構造のLiCoO、LiCo1−XNi、LiNiO等が一般的に知られており、なかでもLiCoOを用いたリチウムイオン二次電池は高い充放電電圧と充放電容量を有する点で優れているが、更なる特性改善が求められている。
【0004】
即ち、LiCoOはリチウムを引き抜いた際に、Co3+がCo4+となりヤーンテラー歪を生じ、Liを0.45引き抜いた領域で六方晶から単斜晶へ、さらに引き抜くと単斜晶から六方晶と結晶構造が変化する。そのため、充放電反応を繰り返すことによって、結晶構造が不安定となり、酸素放出や電解液との反応などが起こる。
【0005】
更に、高温になると電解液との反応が活性になるため、二次電池としての安全性を確保するためには、高温下でも正極活物質の構造が安定であって熱安定性向上が必要とされている。
【0006】
そこで、リチウムを引き抜いた際に結晶構造が安定なコバルト酸リチウム(LiCoO)が要求されている。
【0007】
従来、結晶構造の安定化、充放電サイクル特性などの諸特性改善のために、コバルト酸リチウム粒子粉末にマグネシウムを含有させる方法(特許第2797693号公報、特開平5−54889号公報、特開平6−168722号公報、特開平7−226201号公報、特開平11−102704号公報、特開平2000−12022号公報、特開2000−11993号公報及び特開2000−123834号公報)、水熱合成法によってコバルト酸リチウム粒子粉末にマグネシウムを混合させる方法(特開平10−1316号公報)及びコバルト酸リチウムの格子定数を制御することによって特性を向上させる方法(特開平6−181062号公報)等が知られている。
【0008】
また、前記諸特性を満たすコバルト酸リチウム粒子粉末を得るためには、前駆体であるコバルト酸化物粒子粉末が反応性に優れていることが必要とされている。そこで、湿式反応によって微細な酸化コバルト粒子粉末を得る製造法(特開平10−324523号公報、特開2002−68750号公報)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2797693号公報
【特許文献2】特開平5−54889号公報
【特許文献3】特開平6−168722号公報
【特許文献4】特開平7−226201号公報
【特許文献5】特開平11−102704号公報
【特許文献6】特開平2000−12022号公報
【特許文献7】特開2000−11993号公報
【特許文献8】特開2000−123834号公報
【特許文献9】特開平10−1316号公報
【特許文献10】特開平6−181062号公報
【特許文献11】特開平10−324523号公報
【特許文献12】特開2002−68750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記諸特性を満たす正極活物質及びコバルト酸化物粒子粉末は現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0011】
即ち、前出特許第2797693号公報、特開平5−54889号公報、特開平6−168722号公報、特開平7−226201号公報、特開平11−102704号公報、特開平2000−12022号公報、特開2000−11993号公報及び特開2000−123834号公報には、コバルト化合物、リチウム化合物及びマグネシウム化合物とを乾式で混合させて、マグネシウムを含有するコバルト酸リチウム粒子粉末を得ることが記載されているが、マグネシウムの組成分布が不均一になり、リチウムイオンの脱挿入反応に伴い結晶構造が崩壊しやすく、熱安定性に優れるとは言い難いものである。
【0012】
また、前出特開平10−1316号公報には、コバルト化合物とマグネシウム化合物とを水酸化リチウム水溶液中に分散させて、加熱処理を行ってコバルト酸リチウム粒子を得ることが記載されているが、水熱処理を行う必要があり粒子サイズが小さく粉体特性に優れるとは言い難いものである。
【0013】
また、前出特開平6−181062号公報には、c軸の格子定数が14.05Å以上であるコバルト酸リチウムが記載されているが、Mgを含有させた場合と比較して熱安定性の改善効果が小さい。
【0014】
また、前出特開平10−324523号公報及び特開2002−68750号公報には湿式反応によって微細な酸化コバルト粒子粉末を得る製造法が記載されているが、酸化コバルト粒子粉末にはマグネシウムが含有されておらず、当該酸化コバルト粒子粉末を用いて得られるコバルト酸リチウム粒子粉末からなる正極活物質は、本発明に係る正極活物質に対して熱安定性が十分とは言い難いものである。
【0015】
そこで、本発明は、結晶構造が安定であり、且つ、熱安定性に優れた正極活物質及び該正極活物質の前駆体であるコバルト酸化物粒子粉末を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0017】
即ち、本発明は、マグネシウムを含有するコバルト酸化物粒子粉末であって、組成(Co(1−x)Mg(0.001≦x≦0.15)であり、BET比表面積値が0.5〜40m/g、平均粒子径が0.2μm以下であることを特徴とするコバルト酸リチウムの前駆体用のコバルト酸化物粒子粉末である(本発明1)。
【0018】
また、本発明は、コバルト塩とマグネシウム塩とを含有する溶液をアルカリ水溶液により中和し、次いで、酸素含有ガスを通気して酸化反応を行ってマグネシウムを含有するコバルト酸化物粒子を得ることを特徴とする本発明1のコバルト酸リチウムの前駆体用のコバルト酸化物粒子粉末の製造法である(本発明2)。
【0019】
また、本発明は、粒子表面が水酸化マグネシウムで被覆されているコバルト酸化物粒子であり、組成(1−x)Co・3xMg(OH)(0.001≦x≦0.15)であって、BET比表面積値が0.5〜50m/g、平均粒子径が0.2μm以下であることを特徴とするコバルト酸リチウムの前駆体用のコバルト酸化物粒子粉末である(本発明3)。
【0020】
また、本発明は、コバルト塩を含有する溶液をアルカリ水溶液により中和した後、酸素含有ガスを通気して酸化反応を行ってコバルト酸化物粒子を得、次いで、当該コバルト酸化物粒子を含有する水懸濁液にマグネシウム塩を添加し、次いで、水懸濁液のpHを11〜13に調整してコバルト酸化物粒子の粒子表面に水酸化マグネシウムを被覆処理することを特徴とする本発明3のコバルト酸リチウムの前駆体用のコバルト酸化物粒子粉末の製造法である(本発明4)。
【0021】
また、本発明は、組成がLiCo(1−x)Mg(0.001≦x≦0.15)であり、平均粒子径が1.0〜20μmであり、格子定数のa軸が0.090x+2.816<a≦0.096x+2.821(Å)、c軸が0.460x+14.053<c≦0.476x+14.064(Å)で示される値であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明5)。
【0022】
また、本発明は、本発明1又は本発明3のコバルト酸化物粒子粉末とリチウム化合物とを混合し、熱処理することを特徴とする本発明5の非水電解質二次電池用正極活物質の製造法である(本発明6)。
【0023】
また、本発明は、本発明5の非水電解質二次電池用正極活物質を含有する正極を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池である(本発明7)。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るコバルト酸化物粒子粉末及び正極活物質を用いることで、二次電池としての初期放電容量を維持し、且つ、熱安定性が改善された非水電解質二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】発明の実施の形態、実施例及び比較例で得られた正極活物質のマグネシウム置換量と格子定数のa軸との関係を示したグラフである(●:実施例、△:比較例)。
【図2】発明の実施の形態、実施例及び比較例で得られた正極活物質のマグネシウム置換量と格子定数のc軸との関係を示したグラフである(●:実施例、△:比較例)。
【図3】発明の実施の形態、実施例及び比較例で得られた正極活物質のマグネシウム置換量と電子伝導度との関係を示したグラフである(●:実施例、△:比較例)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0027】
先ず、本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末について述べる。
【0028】
本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末は、マグネシウムを含有するコバルト酸化物粒子であって、組成は(Co(1−x)Mg(0.001≦x≦0.15)である。
【0029】
本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末のマグネシウム含有量xが0.001未満の場合には、コバルト酸化物粒子粉末を用いて得られる正極活物質の熱安定性が十分ではない。0.15を越える場合には、コバルト酸リチウム単相を得ることが困難であり、工業的に生産するのが困難である。
【0030】
本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末の平均粒子径は0.2μm以下である。0.2μmを越える場合には工業的に生産するのが困難である。好ましくは0.01〜0.15μmであり、より好ましくは0.05〜0.12μmである。
【0031】
本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末のBET比表面積値が0.5〜40m/gであり、0.5m/g未満の場合には、工業的に生産するのが困難であり、40m/gを越える場合には、混合及び熱処理等における工程での粉体特性が優れるとは言い難い。より好ましくは1.0〜40m/gであり、更により好ましくは5.0〜25m/gである。
【0032】
本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末は、粒子表面をアルミニウム化合物で被覆してもよい。アルミニウム化合物で被覆したコバルト酸化物粒子粉末を用いることによって、得られる正極活物質のサイクル特性も向上する。
【0033】
アルミニウム化合物で被覆したコバルト酸化物粒子粉末の組成は、(Co1−xMg・3yAl(OH)(0.001≦x≦0.15、0.001≦y≦0.05)が好ましい。マグネシウム含有量xが0.001未満の場合には、コバルト酸化物粒子粉末を用いて得られる正極活物質の熱安定性が十分ではない。xが0.15を越える場合には、コバルト酸リチウム単相を得ることが困難であり、工業的に生産するのが困難である。アルミニウム含有量yが0.001未満の場合には、該コバルト酸化物粒子粉末を用いて得られる正極活物質のサイクル特性が十分ではない。yが0.05を越える場合には、コバルト酸リチウム単相を得ることが困難であり、工業的に生産するのが困難である。
【0034】
アルミニウム化合物で被覆したコバルト酸化物粒子粉末の平均粒子径、BET比表面積値は、前記アルミニウム化合物を被覆していないコバルト酸化物粒子粉末と同程度である。
【0035】
次に、本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末の製造法について述べる。
【0036】
本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末は、コバルト塩を含有する溶液にマグネシウム塩を添加し、更に、アルカリ水溶液を加えて中和反応を行った後、酸化反応を行って得ることができる。
【0037】
マグネシウム塩としては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウムを用いることができ、より好ましくは硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウムである。
【0038】
コバルト塩としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、炭酸コバルトを用いることができる。
【0039】
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液であり、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はそれらの混合溶液を用いるのが好ましい。
【0040】
マグネシウムの添加量はコバルトに対して0.1〜20mol%である。好ましくは1〜18mol%である。
【0041】
中和反応に用いるアルカリ水溶液の添加量は、含有する全金属塩の中和分に対して当量比1.0〜1.2を添加することが好ましい。
【0042】
酸化反応は、酸素含有ガスを通気することによって行う。反応温度は30℃以上が好ましく、より好ましくは30〜95℃である。反応時間は5〜20時間行うことが好ましい。
【0043】
得られたコバルト酸化物粒子粉末に対して600〜800℃の温度範囲で加熱処理してもよい。
【0044】
アルミニウム化合物で被覆されたコバルト酸化物粒子粉末は、前記で得られたコバルト酸化物粒子を含有する水懸濁液に、アルミニウム塩を添加し、アルカリ水溶液を加えて反応溶液のpHを調整することによって、前記コバルト酸化物粒子粉末の粒子表面に水酸化アルミニウムを被覆して得ることができる。
【0045】
アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムを用いることができ、アルカリ水溶液としては、前記アルカリ水溶液と同様である。
【0046】
アルミニウム塩の添加量はコバルトに対して0.1〜5mol%である。好ましくは0.1〜3mol%である。
【0047】
また、水酸化アルミニウムの表面処理に用いるアルカリ水溶液の添加量は、アルミニウム塩の中和分に対して当量比1.0〜1.2を添加することが好ましい。
【0048】
表面処理を行う場合の反応溶液のpH値は11〜13が好ましい。
【0049】
得られたアルミニウム化合物で被覆されたコバルト酸化物粒子粉末に対して600〜800℃の温度範囲で加熱処理してもよい。
【0050】
次に、本発明3に係るコバルト酸化物粒子粉末について述べる。
【0051】
本発明3に係るコバルト酸化物粒子粉末は、粒子表面が水酸化マグネシウムで被覆されたコバルト酸化物粒子であって、組成(1−x)Co・3xMg(OH)(0.001≦x≦0.15)である。
【0052】
本発明3に係るコバルト酸化物粒子粉末のマグネシウム含有量xが0.001未満の場合には、コバルト酸化物粒子粉末を用いて得られる正極活物質の熱安定性が十分ではない。0.15を越える場合には、コバルト酸リチウム単相を得ることが困難であり、工業的に生産するのが困難である。
【0053】
本発明3に係るコバルト酸化物粒子粉末の平均粒子径は0.2μm以下である。0.2μmを越える場合には工業的に生産するのが困難である。好ましくは0.01〜0.15μmであり、より好ましくは0.05〜0.12μmである。
【0054】
本発明3に係るコバルト酸化物粒子粉末のBET比表面積値が0.5〜50m/gであり、0.5m/g未満の場合には、工業的に生産するのが困難であり、50m/gを越える場合には、混合及び熱処理等における工程での粉体特性が優れるとはいい難い。より好ましくは1.0〜40m/gである。更により好ましくは5.0〜25m/gである。
【0055】
次に、本発明4に係るコバルト酸化物粒子粉末の製造法について述べる。
【0056】
本発明3に係るコバルト酸化物粒子は、コバルト塩を含有する溶液に、アルカリ水溶液を加えて中和反応を行った後、酸化反応を行いコバルト酸化物粒子を得、その後、前記コバルト酸化物粒子を含有する溶液にマグネシウム塩を添加し、アルカリ水溶液を加えて反応溶液のpHを調整することによって、前記コバルト酸化物粒子粉末の粒子表面に水酸化マグネシウムを被覆して得ることができる。アルカリ水溶液としては、前記アルカリ水溶液と同様である。
【0057】
マグネシウムの添加量はコバルトに対して0.1〜20mol%である。好ましくは1〜18mol%である。
【0058】
コバルト酸化物粒子を得る中和反応に用いるアルカリ水溶液の添加量は、コバルト塩の中和分に対して当量比1.0〜1.2を添加することが好ましい。
【0059】
酸化反応は、酸素含有ガスを通気することによって行う。反応温度は30℃以上が好ましく、より好ましくは30〜95℃である。反応時間は5〜20時間行うことが好ましい。
【0060】
また、水酸化マグネシウムの表面処理に用いるアルカリ水溶液の添加量は、マグネシウム塩の中和分に対して当量比1.0〜1.2を添加することが好ましい。
【0061】
表面処理を行う場合の反応溶液のpH値は11〜13が好ましい。
【0062】
得られたコバルト酸化物粒子粉末に対して600〜800℃の温度範囲で加熱処理してもよい。
【0063】
次に、本発明5に係る非水電解質リチウム二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」という)について述べる。
【0064】
本発明に係る正極活物質の組成をLiCo(1−x)Mgとした場合、マグネシウム含有量xは0.001〜0.15である。0.001未満の場合は熱安定性向上に対する効果が小さく、0.15を超える場合には初期放電容量が著しく低下する。好ましくは0.01〜0.10である。
【0065】
本発明に係る正極活物質の平均粒子径は1.0〜20μmである。平均粒子径が1.0μm未満の場合には、充填密度の低下や電解液との反応性が増加するため好ましくない。20μmを超える場合には、工業的に生産することが困難となる。好ましくは2.0〜10μmである。
【0066】
本発明に係る正極活物質の格子定数は、a軸が0.090x+2.816<a≦0.096x+2.821(Å)、c軸が0.460x+14.053<c≦0.476x+14.064(Å)である。a軸又はc軸が前記範囲より小さい場合には、コバルト酸リチウム粒子の格子定数が小さいため熱安定性が十分とは言い難いものである。a軸又はc軸を前記範囲より大きくするためには、マグネシウムを多量に置換することになり、初期放電容量が低下するため好ましくない。
【0067】
本発明に係る正極活物質のBET比表面積は0.1〜1.6m/gが好ましい。BET比表面積値が0.1m/g未満の場合には、工業的に生産することが困難となる。1.6m/gを超える場合には充填密度の低下や電解液との反応性が増加するため好ましくない。より好ましくは0.3〜1.0m/gである。
【0068】
本発明に係る正極活物質の体積抵抗値は1.0×10〜1.0×10Ω・cmが好ましく、より好ましくは1×10〜1.0×10Ω・cmである。
【0069】
本発明に係る正極活物質の電子伝導度log(1/Ωcm)は−0.5〜−5.0が好ましく、より好ましくは−0.8〜−4.9である。
【0070】
本発明に係る正極活物質の結晶子サイズは、400〜1200Åであることが好ましい。
【0071】
本発明に係る正極活物質は、更に、アルミニウムを含有させてもよい。アルミニウムを含有させることによって、熱安定性に優れ、しかも、サイクル特性に優れた正極活物質を得ることができる。
【0072】
本発明に係るアルミニウムを含有する正極活物質の組成をLi(Co1−x−yMgAl)Oとした場合、マグネシウム含有量xは0.001〜0.15である。0.001未満の場合は熱安定性向上に対する効果が小さく、0.15を超える場合には初期放電容量が著しく低下する。好ましくは0.01〜0.10である。アルミニウム含有量yは0.001〜0.05である。アルミニウム含有量yが0.001未満の場合には、サイクル特性が十分ではない。yが0.05を越える場合には、コバルト酸リチウム単相を得ることが困難であり、工業的に生産するのが困難である。好ましくは0.001〜0.03である。
【0073】
アルミニウムを含有する正極活物質の平均粒子径、格子定数、BET比表面積値、体積抵抗値及び電子伝導度は、前記アルミニウム化合物を被覆していない正極活物質と同程度である。
【0074】
次に、本発明6に係る正極活物質の製造法について述べる。
【0075】
本発明5に係る正極活物質は、前記本発明1又は本発明3のコバルト酸化物粒子粉末とリチウム化合物とを混合し、熱処理を行う。
【0076】
本発明1又は本発明3のコバルト酸化物粒子とリチウム化合物の混合処理は、均一に混合することができれば乾式、湿式のどちらでもよい。
【0077】
リチウムの混合比は、本発明1又は本発明3のコバルト酸化物粒子中のコバルト及びマグネシウムの総モル数に対して0.95〜1.05であることが好ましい。
【0078】
熱処理温度は、高温規則相であるLiCoOが生成する600℃〜1000℃であることが好ましい。600℃以下の場合には擬スピネル構造を有する低温相であるLiCoOが生成し、1000℃以上の場合にはリチウムとコバルトの位置がランダムである高温不規則相のLiCoOが生成する。熱処理の雰囲気は酸化性ガス雰囲気が好ましい。反応時間は5〜20時間が好ましい。
【0079】
アルミニウムを含有する正極活物質は、1)前記アルミニウム化合物で被覆したコバルト酸化物粒子粉末とリチウム化合物とを混合して熱処理するか、2)前記アルミニウムを含有していない本発明1に係るコバルト酸化物粒子粉末とアルミニウム化合物とリチウム化合物とを混合して熱処理するか、3)前記本発明3に係るコバルト酸化物粒子粉末とアルミニウム化合物とリチウム化合物とを混合して熱処理して得ることができる。
【0080】
アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム又は酸化アルミニウムを用いることができる。
【0081】
アルミニウム化合物を被覆したコバルト酸化物粒子とリチウム化合物の混合処理、アルミニウムを含有しないコバルト酸化物粒子とアルミニウム化合物とリチウム化合物との混合処理は、均一に混合することができれば乾式、湿式のどちらでもよい。
【0082】
前記1)におけるリチウムの混合比は、アルミニウム化合物を被覆したコバルト酸化物粒子中のコバルト、マグネシウム及びアルミニウムの総モル数に対して0.95〜1.05であることが好ましい。
【0083】
前記2)又は3)におけるアルミニウムの混合比は、コバルト酸化物粒子中のコバルト及びマグネシウムの総モル数に対して0.001〜0.05であることが好ましい。
【0084】
前記2)又は3)におけるリチウムの混合比は、コバルト酸化物粒子中のコバルト及びマグネシウム、混合するアルミニウムの総モル数に対して0.95〜1.05であることが好ましい。
【0085】
次に、本発明に係る正極活物質を用いた正極について述べる。
【0086】
本発明に係る正極活物質を用いて正極を製造する場合には、常法に従って、導電剤と結着剤とを添加混合する。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が好ましく、結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。
【0087】
本発明に係る正極活物質を用いて製造される二次電池は、前記正極、負極及び電解質から構成される。
【0088】
負極活物質としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、グラファイトや黒鉛等を用いることができる。
【0089】
また、電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0090】
さらに、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を上記溶媒に溶解して用いることができる。
【0091】
本発明に係る正極活物質を用いて製造した二次電池は、初期放電容量が130〜165mAh/g程度であり、後述する評価法で測定した熱安定性は200℃以上であり、より好ましくは205〜250℃の優れた特性を示す。
【0092】
アルミニウムを含有する正極活物質を用いて製造した二次電池は、初期放電容量が130〜165mAh/g程度であり、後述する評価法で測定した熱安定性は215℃以上であり、より好ましくは225〜250℃の優れた特性を示し、60℃での100サイクル後の容量維持率が90%以上が好ましく、より好ましくは92〜99%である。
【0093】
<作用>
本発明において最も重要な点は、マグネシウムを含有するコバルト酸リチウム粒子粉末からなる正極活物質は、二次電池としての初期放電容量を維持し、しかも、熱安定性に優れるという点である。
【0094】
本発明において初期放電容量を維持できるのは、本来のLiCoOが有する初期放電容量を低下させない範囲でマグネシウムを含有させたことによる。
【0095】
更に、本発明に係る正極活物質の格子定数が大きいのは、コバルト酸化物粒子を合成する段階であらかじめマグネシウムを含有させるか、又は、水酸化マグネシウムをコバルト酸化物粒子の表面に付着させることによって、原子レベルでコバルトとマグネシウムが均一に分布し、前記各コバルト酸化物粒子を用いて得られる正極活物質は、マグネシウムがコバルトサイトに均一に置換することによるものと本発明者は推定している。
【0096】
一方、リチウム化合物、コバルト化合物及びマグネシウムを乾式混合し仮焼した場合には、マグネシウムの組成分布が不均一となり、本発明の効果は得られない。
【0097】
また、本発明に係る正極活物質の熱安定性が優れる理由としては未だ明らかではないが、正極活物質中にマグネシウムを含有することによって結晶構造の安定性が向上したことによるものと推定している。
【0098】
さらに、本発明に係る正極活物質と乾式法で作製した正極活物質とを同一のマグネシウム含有量で比較した場合、本発明に係る正極活物質は体積抵抗値が低く、電子伝導度が高くなっている。この理由は未だ明らかではないが、Co3+をMg2+に置換することで余剰の電子が出来、その結果、電子伝導度が高くなり、体積抵抗値も低くなったものと推定している。
【実施例】
【0099】
<発明の実施の形態>
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0100】
正極活物質の同定は、粉末X線回折(RIGAKU Cu−Kα 40kV 40mA)を用いた。また、前記粉末X線回折の各々の回折ピークから格子定数を計算した。
【0101】
正極活物質の結晶子サイズは、前記粉末X線回折の各々の回折ピークから計算した。
【0102】
正極活物質の体積低効率は、ホイートストンブリッジ type2768 絶縁抵抗計(横河電機製作所製)を用いた。
【0103】
また、元素分析にはプラズマ発光分析装置(セイコー電子工業製 SPS4000)を用いた。
【0104】
正極活物質の電池特性は、下記製造法によって正極、負極及び電解液を調製しコイン型の電池セルを作製して評価した。
【0105】
<正極の作製>
正極活物質と導電剤であるアセチレンブラック及び結着剤のポリフッ化ビニリデンを重量比で85:10:5となるように精秤し、乳鉢で十分に混合してからN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーを調整した。次に、このスラリーを集電体のアルミニウム箔に150μmの膜厚で塗布し、150℃で真空乾燥してからφ16mmの円板状に打ち抜き正極板とした。
【0106】
<負極の作製>
金属リチウム箔をφ16mmの円板状に打ち抜いて負極を作製した。
【0107】
<電解液の調製>
炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの体積比50:50の混合溶液に電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル混合して電解液とした。
【0108】
<コイン型電池セルの組み立て>
アルゴン雰囲気のグローブボックス中でSUS316製のケースを用い、上記正極と負極の間にポリプロピレン製のセパレータを介し、さらに電解液を注入してCR2032型のコイン電池を作製した。
【0109】
<電池評価>
前記コイン型電池を用いて、二次電池の充放電試験を行った。測定条件としては、正極に対する電流密度を0.2mA/cmとし、カットオフ電圧が3.0Vから4.3Vの間で充放電を繰り返した。
【0110】
<熱安定性評価>
前記コイン型電池を用いて、4.3Vの電圧まで充電し、電池内の正極活物質を取り出し熱分析用の容器に詰め封をし、昇温速度10℃/minで、示差熱分析装置(DSC、セイコーインスツルメンツ社製 DSC6200)を用いてDSC測定を行った。測定結果から発熱開始温度を熱安定性とした。操作温度は30℃〜400℃の間で行い、また、上記した容器に詰めるまでの作業は全て露点−60℃以下のグローブボックス中で行った。
【0111】
<コバルト酸化物粒子粉末の製造(本発明2による製造)>
0.5mol/lのコバルトを含有する溶液に、硫酸マグネシウム(コバルトに対して5.3mol%)を添加し、コバルト及びマグネシウムの中和分に対して1.05当量の水酸化ナトリウム水溶液を添加し中和反応させた。次いで、空気を吹き込みながら90℃で20時間酸化反応を行ってマグネシウム含有コバルト酸化物粒子を得た。得られたマグネシウム含有コバルト酸化物粒子はCo単相であって、Mg含有量が5.0mol%((Co(1−x)Mgにおけるxは、0.05)、平均粒子径が0.1μm、BET比表面積値が13.2m/gであった。
【0112】
<正極活物質の製造>
前記マグネシウム含有コバルト酸化物粒子とリチウム化合物とを、リチウム/(コバルト+マグネシウム)のモル比が1.03となるように所定量を十分混合し、混合粉を酸化雰囲気下、900℃で10時間焼成してマグネシウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末を得た。
【0113】
得られたマグネシウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末のX線回折の結果、コバルト酸リチウム単相であり不純物相は存在しなかった。また、平均粒子径5.0μmであり、BET比表面積値は0.5m/gであり、格子定数のa軸が2.821Å、c軸が14.082Åであり、結晶子サイズが642Å、体積固有抵抗は2.1×10Ωcm、電子伝導度log(1/Ωcm)は−1.2であった。Mg含有量はLiCo1−xMgとした場合にxが0.045であった。
【0114】
前記正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量が147mAh/g、熱安定性は239℃であった。
【0115】
次に、種々の実施例並びに比較例を挙げる。
【0116】
実施例1〜7
マグネシウムの含有量を種々変化させた以外は前記発明の実施の形態と同様にしてコバルト酸化物粒子粉末を得た。
【0117】
このときの製造条件及び得られたコバルト酸化物粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
実施例8〜14
コバルト酸化物粒子粉末の種類、リチウムの混合割合及び焼成温度を種々変化させた以外は前記発明の実施の形態と同様にして正極活物質を得た。
【0120】
このときの製造条件を表2に、得られた正極活物質の諸特性及びコイン型電池の電池特性を表3に示す。
【0121】
比較例1はマグネシウムを含有しないコバルト酸化物粒子粉末であり、比較例3はマグネシウムを含有しないコバルト酸リチウムである。比較例4〜6は、比較例2に示した特性を有するコバルト酸化物粒子粉末、マグネシウム原料及びリチウム原料を乾式法により混合し、各温度で焼成してマグネシウム含有コバルト酸リチウムを得た。
【0122】
このときの製造条件を表2に、得られた正極活物質の諸特性及びコイン型電池の電池特性を表3に示す。
【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
実施例15(本発明4による製造)
0.5mol/lのコバルトを含有する溶液に、コバルトの中和分に対して1.05当量の水酸化ナトリウム水溶液を添加し中和反応させた。次いで、空気を吹き込みながら90℃で20時間酸化反応を行ってコバルト酸化物粒子を得た。得られたコバルト酸化物粒子を含有する反応溶液中に、硫酸マグネシウム(コバルトに対して1.0mol%)を添加し、さらに中和分の水酸化ナトリウム水溶液を添加してコバルト酸化物粒子の粒子表面を水酸化マグネシウムによって表面処理した。このときの反応溶液のpHは11であった。得られた水酸化マグネシウムを表面処理したコバルト酸化物粒子はCo単相であって、Mg含有量が1.0mol%((1−x)Co・3xMg(OH)におけるxは0.01)、平均粒子径が0.1μm、BET比表面積値が13.5m/gであった。
【0126】
実施例19
前記実施例15で得られた水酸化マグネシウムを表面処理したコバルト酸化物粒子とリチウム化合物とを、リチウム/(コバルト+マグネシウム)のモル比が1.03となるように所定量を十分混合し、混合粉を酸化雰囲気下、900℃で10時間焼成してマグネシウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末を得た。
【0127】
得られたマグネシウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末はX線回折の結果、コバルト酸リチウム単相であり不純物相は存在しなかった。また、平均粒子径4.7μmであり、BET比表面積値は0.5m/gであり、格子定数のa軸が2.817Å、c軸が14.065Åであり、結晶子サイズが631Å、体積固有抵抗は7.1×10Ωcm、電子伝導度log(1/Ωcm)は−4.9であった。Mg含有量はLiCo1−xMgとした場合にxが0.01であった。
【0128】
前記正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量が161mAh/g、熱安定性は216℃であった。
【0129】
実施例16〜18、比較例7
水酸化マグネシウムの表面処理におけるマグネシウムの添加量を種々変化させた以外は前記実施例14と同様にしてコバルト酸化物粒子粉末を得た。
【0130】
このときの製造条件及び得られたコバルト酸化物粒子粉末の諸特性を表4に示す。
【0131】
実施例20〜22、比較例8
コバルト酸化物粒子粉末の種類及びリチウムの混合割合を種々変化させた以外は前記実施例と同様にして正極活物質を得た。
【0132】
このときの製造条件を表5に、得られた正極活物質の諸特性及びコイン型電池の電池特性を表6に示す。
【0133】
【表4】

【0134】
【表5】

【0135】
【表6】

【0136】
本発明に係る正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量130〜160mAh/gを有し、熱安定性も200℃以上と高くなっている。
【0137】
また、比較例に示す通り、Mg含有量xが0.2以上では初期放電容量が大幅に低減する。また、各元素を乾式法により混合して含有した場合では、マグネシウムの添加量に対して熱安定性の改善効果が低いものである。
【0138】
実施例23
<アルミニウム化合物で被覆したコバルト酸化物粒子粉末の製造>
0.5mol/lのコバルトを含有する溶液に、硫酸マグネシウム(コバルトに対して1.0mol%)を添加し、コバルト及びマグネシウムの中和分に対して1.05当量の水酸化ナトリウム水溶液を添加し中和反応させた。次いで、空気を吹き込みながら90℃で20時間酸化反応を行いマグネシウム含有コバルト酸化物粒子を得た。得られたマグネシウム含有コバルト酸化物粒子を含有する反応溶液中に硫酸アルミニウム(コバルトに対して1.0mol%)を添加し、更に中和分の水酸化ナトリウム水溶液を添加してマグネシウム含有コバルト酸化物粒子の粒子表面を水酸化アルミニウムによって表面処理した。このときの反応溶液のpHは9であった。得られた水酸化アルミニウムを表面処理したマグネシウム含有コバルト酸化物はCo単相であって、Mg含有量が1.0mol%、Al含有量が1.0mol%((Co(1−x)Mg3yAl(OH)におけるxは0.01、yは0.01)、平均粒子径が0.1μm、BET比表面積値が13.4m/gであった。
【0139】
<正極活物質の製造(前記1)による製造)>
前記水酸化アルミニウムを表面処理したマグネシウム含有コバルト酸化物粒子とリチウム化合物とを、リチウム/(コバルト+マグネシウム+アルミニウム)のモル比が1.03となるように所定量を十分混合し、混合粉を酸素雰囲気下、900℃で10時間焼成してマグネシウム、アルミニウム含有コバルト酸リチウム粒子を得た。
【0140】
得られたマグネシウム、アルミニウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末のX線回折の結果、コバルト酸リチウム単相であり不純物相は存在しなかった。また、平均粒子径4.9μmであり、BET比表面積値は0.5m/gであり、格子定数のa軸が2.817Å、c軸が14.068Åであり、結晶子サイズが652Å、体積固有抵抗は7.1x10Ωcm、電子伝導度log(1/Ωcm)は−4.9であった。Mg、Al含有量はLiCo1−x−yMgAlとした場合にxが0.01、yが0.01であった。
【0141】
前記正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量が158mAh/g、60℃での100サイクル後の容量維持率が98%で、熱安定性は219℃であった。
【0142】
実施例24
<正極活物質の製造(前記2)による製造)>
0.5mol/lのコバルトを含有する溶液に、硫酸マグネシウム(コバルトに対して1.0mol%)を添加し、コバルト及びマグネシウムの中和分に対して1.05当量の水酸化ナトリウム水溶液を添加し中和反応させた。次いで、空気を吹き込みながら90℃で20時間酸化反応を行ってマグネシウム含有コバルト酸化物粒子を得た。得られたマグネシウム含有コバルト酸化物粒子はCo単相であって、Mg含有量が1.0mol%((Co(1−x)Mgにおけるxは、0.01)、平均粒子径が0.1μm、BET比表面積値が13.0m/gであった。
【0143】
前記マグネシウム含有コバルト酸化物粒子、アルミニウム化合物とリチウム化合物とを、リチウム/(コバルト+マグネシウム+アルミニウム)のモル比が1.03、アルミニウム/(コバルト+マグネシウム)の比が0.01となるように所定量を十分混合し、混合粉を酸化雰囲気下、900℃で10時間焼成してマグネシウム、アルミニウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末を得た。
【0144】
得られたマグネシウム、アルミニウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末のX線回折の結果、コバルト酸リチウム単相であり不純物相は存在しなかった。また、平均粒子径4.8μmであり、BET比表面積値は0.5m/gであり、格子定数のa軸が2.817Å、c軸が14.068Åであり、結晶子サイズが645Å、体積固有抵抗は7.0×10Ωcm、電子伝導度log(1/Ωcm)は−4.8であった。Mg、Al含有量はLiCo1−x−yMgAlとした場合にxが0.01、yが0.01であった。
【0145】
前記正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量が158mAh/g、60℃での100サイクル後の容量維持が98%で、熱安定性は220℃であった。
【0146】
実施例25
<正極活物質の製造(前記3)による製造)>
0.5mol/lのコバルトを含有する溶液に、コバルトの中和分に対して1.05当量の水酸化ナトリウム水溶液を添加し中和反応させた。次いで、空気を吹き込みながら90℃で20時間酸化反応を行ってコバルト酸化物粒子を得た。得られたコバルト酸化物粒子を含有する反応溶液中に、硫酸マグネシウム(コバルトに対して1.0mol%)を添加し、さらに中和分の水酸化ナトリウム水溶液を添加してコバルト酸化物粒子の粒子表面を水酸化マグネシウムによって表面処理した。このときの反応溶液のpHは11であった。得られた水酸化マグネシウムを表面処理したコバルト酸化物粒子はCo単相であって、Mg含有量が1.0mol%((1−x)Co・3xMg(OH)におけるxは0.01)、平均粒子径が0.1μm、BET比表面積値が13.5m/gであった。
【0147】
前記水酸化マグネシウムを表面処理したコバルト酸化物粒子、アルミニウム化合物とリチウム化合物とを、リチウム/(コバルト+マグネシウム+アルミニウム)のモル比が1.03、アルミニウム/(コバルト+マグネシウム)の比が0.01となるように所定量を十分混合し、混合粉を酸化雰囲気下、900℃で10時間焼成してマグネシウム、アルミニウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末を得た。
【0148】
得られたマグネシウム、アルミニウム含有コバルト酸リチウム粒子粉末のX線回折の結果、コバルト酸リチウム単相であり不純物相は存在しなかった。また、平均粒子径4.8μmであり、BET比表面積値は0.5m/gであり、格子定数のa軸が2.817Å、c軸が14.066Åであり、結晶子サイズが650Å、体積固有抵抗は7.1×10Ωcm、電子伝導度log(1/Ωcm)は−4.9であった。Mg、Al含有量はLiCo1−x−yMgAlとした場合にxが0.01、yが0.01であった。
【0149】
前記正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量が158mAh/g、60℃での100サイクル後の容量維持が98%で、熱安定性は218℃であった。
【0150】
【表7】

【0151】
本発明に係るアルミニウムを含有する正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量130〜160mAh/gを有し、熱安定性も200℃以上と高く、しかも、60℃での100サイクル後の容量維持率が98%を有している。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明に係るコバルト酸化物粒子粉末及び正極活物質を用いることで、二次電池としての初期放電容量を維持し、且つ、熱安定性が改善された非水電解質二次電池を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含有するコバルト酸化物粒子粉末であり、組成(Co(1−x)Mg(0.001≦x≦0.15)であって、BET比表面積値が0.5〜40m/g、平均粒子径が0.2μm以下であることを特徴とするコバルト酸リチウムの前駆体用のコバルト酸化物粒子粉末。
【請求項2】
コバルト塩とマグネシウム塩とを含有する溶液をアルカリ水溶液により中和し、次いで、酸素含有ガスを通気して酸化反応を行ってマグネシウムを含有するコバルト酸化物粒子を得ることを特徴とする請求項1記載のコバルト酸リチウムの前駆体用のコバルト酸化物粒子粉末の製造法。
【請求項3】
コバルト酸化物粒子の粒子表面が水酸化マグネシウムで被覆されているコバルト酸化物粒子であり、組成(1−x)Co・3xMg(OH)(0.001≦x≦0.15)であって、BET比表面積値が0.5〜50m/g、平均粒子径が0.2μm以下であることを特徴とするコバルト酸リチウムの前駆体用のコバルト酸化物粒子粉末。
【請求項4】
コバルト塩を含有する溶液をアルカリ水溶液により中和した後、酸素含有ガスを通気して酸化反応を行ってコバルト酸化物粒子を得、次いで、当該コバルト酸化物粒子を含有する水懸濁液にマグネシウム塩を添加し、次いで、水懸濁液のpHを11〜13に調整してコバルト酸化物粒子の粒子表面に水酸化マグネシウムを被覆処理することを特徴とする請求項3記載のコバルト酸リチウムの前駆体用のコバルト酸化物粒子粉末の製造法。
【請求項5】
組成がLiCo(1−x)Mg(0.001≦x≦0.15)であり、平均粒子径が1.0〜20μmであり、格子定数のa軸が0.090x+2.816<a≦0.096x+2.821(Å)、c軸が0.460x+14.053<c≦0.476x+14.064(Å)で示される値であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項1又は請求項3記載のコバルト酸化物粒子粉末とリチウム化合物とを混合し、熱処理することを特徴とする請求項5記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造法。
【請求項7】
請求項5記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含有する正極を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−120480(P2009−120480A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5165(P2009−5165)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【分割の表示】特願2002−226610(P2002−226610)の分割
【原出願日】平成14年8月2日(2002.8.2)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】