説明

コムギの検出方法

【課題】コムギを幅広く、高感度(PCR反応液25μlの反応系でコムギDNA 50〜500fg)に検出でき、オオムギ、ライムギを始めとするコムギ以外の穀物からは標的増幅産物が得られない、コムギに対して特異性を有するコムギ検出用PCRプライマーを用いたコムギの検出法及びそのプライマーセットの提供。
【解決手段】特定の塩基配列を有するプライマーと、特定の塩基配列を有するプライマーからなるプライマーセットを用いてPCRを行うことにより増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標としてコムギの存在を判定する工程とを含む、コムギの検出方法。また、特定の塩基配列を有する4種のプライマーによる混合プライマーからなるプライマーセットを用いてPCRを行うことにより増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標としてコムギの存在を判定する工程とを含む、コムギの検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコムギの検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、コムギDNAを特異的に検出するPCR法が記載されている。この方法では、安定して検出できるコムギDNAの限界量は、PCR反応液25μlの系で2.5pg(DNAの擬似混入試料25ngを用いた際、100ppm)と記載されている。
特許文献2では、ITS−2領域内に設計したプライマーにより、特許文献1と比べてコムギDNAを高感度(PCR反応液25μlの系で、コムギDNA 50fg)に検知できることが述べられている。また、PCRシミュレーションソフトAmplifyにより、コムギDNAからのみ特異的に標的増幅産物が得られることが予想されている。しかし、実際にオオムギ、ライムギ、エン麦DNAを用いてPCRを行った結果、オオムギ、ライムギからも、コムギと同様に標的増幅産物が得られてしまい、コムギ検出用としては不満足なものであった。
非特許文献1では、食品中にコムギが0.01%以上の濃度で含まれていれば検出できるプライマーセットを作製している。しかし、用いているプライマーセットは、500bpまたは800bpと、比較的長いDNAを増幅させるため、加工度の高い食品での検査には適さないと思われる。
非特許文献2では、rRNA遺伝子の25S−18S遺伝子間領域を用いたコムギ検知PCR法を開発している。この方法では、コムギDNAを高感度(PCR反応液100μlの反応系で、コムギDNA 1pg)に検出できるが、ライムギDNAからも標的増幅産物が得られたと記載されている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/068989号パンフレット
【特許文献2】特開2003−199599号公報
【非特許文献1】内野昌孝、増渕菜美子、黒澤有希子、野口智弘、高野克己 「小麦検出プライマーセットの開発」 日本食品科学工学会誌 第54巻 第2号 2007年 2月 82〜86頁
【非特許文献2】Allmann M, Candrian U, Hofelein C, Luthy J.「Polymerase chain reaction (PCR): a possible alternative to immunochemical methods assuring safety and quality of food. Detection of wheat contamination in non-wheat food products.」Z Lebensm Unters Forsch. 196, 248-51 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、コムギを幅広く、高感度(PCR反応液25μlの反応系でコムギDNA 50〜500fg)に検出でき、オオムギ、ライムギを始めとするコムギ以外の穀物からは標的増幅産物が得られない、コムギに対して特異性を有するコムギ検出用PCRプライマーを用いたコムギの検出法及びそのプライマーセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
コムギそれぞれに特異的な配列として、ITS−2配列を含む特定の部分を検出対象として選定すれば、混合物中に微量に存在するコムギを高感度で特異的に検出するのに有効であるという知見が得られた。こうして特定されたプライマーを使用することによって特許文献1よりも高感度に、また、特許文献2よりも特異的にコムギDNAを検出できるとの知見も併せ得た。かかる知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
第一の発明は、配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマーからなるプライマーセットを用いてPCRを行うことにより増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標としてコムギの存在を判定する工程とを含むことを特徴とするコムギの検出方法である。
第二の発明は、配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマー、配列番号3で表わされる塩基配列を有するプライマー及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するプライマーによる混合プライマーからなるプライマーセットを用いてPCRを行うことにより増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標としてコムギの存在を判定する工程とを含むことを特徴とするコムギの検出方法である。
第三の発明は、コムギが食用コムギである、第一の発明に記載のコムギの検出方法である。
第四の発明は、食用コムギが、普通コムギ(Triticum aestivum)、リベットコムギ(T. turgidum)、デュラムコムギ(T. durum Desf)、ライコムギ(Triticum aestivum-rye amphidiploid)であることを特徴とする、第三の発明に記載の食用コムギの検出方法である。
第五の発明は、配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマーとからなる、コムギ検出用プライマーセットである。
第六の発明は、配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマー、配列番号3で表わされる塩基配列を有するプライマー及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するプライマーによる混合プライマーとからなる、コムギ検出用プライマーセットである。
第七の発明は、コムギが食用コムギである、第五の発明に記載のコムギ検出用プライマーセットである。
第八の発明は、第五の発明又は第六の発明に記載のコムギ検出用プライマーセットを含むコムギ検出用キットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の検出方法は、極微量のコムギの存在を検出することが可能であることから、食品原料や食品中におけるコムギの混入の有無を検出するのに有効である。なお、本発明におけるコムギとは、コムギ属(Triticum)に加えてコムギの原種であるエギロプス属(Aegilops)をも含む。また、本発明の検出方法は、食用コムギの混入の有無を検出するのに有効である。ここで、食用コムギとは、普通コムギ(Triticum aestivum)、リベットコムギ(T. turgidum)、デュラムコムギ(T. durum Desf)、ライコムギ(Triticum aestivum-rye amphidiploid)のことをいい、以下、同様である。
本発明は、(i)配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマーからなるプライマーセットを使用してPCRを行う場合、又は(ii)配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマー、配列番号3で表わされる塩基配列を有するプライマー及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するプライマーによる混合プライマーからなるプライマーセットを使用してPCRを行う場合を含む。
PCRに当たっては、例えばSaiki RK, et al., Science, 230:1350-1354(1985)や植物細胞工学別冊、植物のPCR実験プロトコール、島本功・佐々木卓治監修(1995年)等に記載されている通常の方法に基づき、変性、アニーリング、伸長の各ステップの温度と時間、酵素(DNAポリメラーゼ)の種類と濃度、dNTP濃度、プライマー濃度、塩化マグネシウム濃度、鋳型DNA量等の条件を適宜、変更し最良のものを選択する。
【0007】
次に、食品原料や製品等の被検査対象試料から抽出したDNAのPCR後の反応液を、例えば電気泳動によって解析してコムギが被検査対象試料中に存在するか否かを検出する。この検出に当たっては、PCR後の反応液中に標的とするサイズのPCR増幅産物が存在するか否か、存在する場合は当該PCR増幅産物がコムギのITS−2配列の少なくとも一部を含むものであるか否かを指標とする。すなわち、コムギのITS−2配列の少なくとも一部を含む標的とするサイズのPCR増幅産物が存在すれば、被検査対象試料中にコムギが混入していることになり、反対に、PCR増幅産物が存在しないか、又はPCR増幅産物が存在してもコムギのITS−2配列の少なくとも一部を含むPCR増幅産物が存在しなければ、被検査対象試料中にコムギが混入していないことになる。そして、本発明では、この検出を特異的で高感度、例えばPCR反応液25μlの系で、コムギDNA 50〜500fgを検出することを可能とした。
【0008】
上記プライマーを設計するに当たっては、例えば「PCR法最前線−基礎技術から応用まで」(蛋白質・核酸・酵素 臨時増刊号1996年 共立出版株式会社)や「バイオ実験イラストレイテッド3本当に増えるPCR:細胞工学別紙 目で見る実験ノートシリーズ」(中山広樹著1996年 株式会社秀潤社)、「PCRテクノロジー−DNA増幅の原理と応用−」(Henry A Erlich編、加藤邦之進 監修、宝酒造株式会社)等に基づいて設計すればよい。また、本発明のプライマーは、70塩基以内の増幅産物を得ることができるプライマーセットを構成するものであり、従って、DNAが分解して短くなっている可能性がある加工食品であっても、感度よく検出することができると共に、増幅産物のシークエンスを確実に行うことができる。こうしたことを考慮して、プライマーの配列は、検出対象であるコムギおよび他の植物属の種々の植物のITS−1〜5.8S rRNA遺伝子〜ITS−2配列をGenBankから取得し、アライメントを行い、コムギに共通かつ、特異性の高い領域を特定する。こうようにして特定した領域の中から、コムギと他の植物とを区別できる塩基配列を設定して、プライマー配列を選定することができる。このようにして得られたプライマーの塩基配列は、次のとおりである。
センスプライマー:5'- CAT GGT GGG CGT CCT C -3'(配列番号1)
アンチセンスプライマー:5'- AAA GGC CAT AAT GCC AGC TG -3'(配列番号2)
アンチセンスプライマー:5'- TGA GGC CGT CAT GCC GGC TG -3'(配列番号3)
アンチセンスプライマー:5'- TGA GGC CAT AAT GTC GGC TG -3'(配列番号4)
【0009】
これらプライマーから2つのコムギ検出用プライマーセットを設計することができる。一つは、配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマーとからなる、コムギ検出用プライマーセットであり、もう一つは、配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマー、配列番号3で表わされる塩基配列を有するプライマー及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するプライマーによる混合プライマーとからなる、コムギ検出用プライマーセットである。前者のプライマーセットは食用コムギの検出用として適しており、後者のプライマーセットはコムギ全体を検出対象としている。このようにして設計したプライマーセットの評価にあたっては、PCRシミュレーションを利用しても良い。すなわち、設計したプライマーについて、PCRシミュレーションによって標的とする増幅産物が得られるか否かを確認することができる。なお、上記PCRシミュレーションに当たっては、PCRシミュレーションソフトAmplify 1.0(Bill Engels)等のソフトを使用することができる。
なお、上記プライマーセットを用いたDNA配列の増幅は、PCR(Polymerase Chain Reaction)法(例えば、Saiki RK, et al., Science, 230:1350-1354(1985))或いはそれと同等の手段を用いて行うことができる。また、増幅産物の検出方法としては、電気泳動法が一般的であるが、その他の方法も用いることができる。
また、上記プライマーセットはキット化することもでき、当該キットには上記プライマーセットの他に、陽性コントロール(コムギのITS−2の標的配列を含むDNA)、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液、DNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、SYBR Green等を用いたリアルタイムPCR試薬、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書等を含んでもよい。
【実施例】
【0010】
1.コムギDNA検出用プライマーの設計
(1)コムギの配列
コムギ(Triticum)の配列として、GenBankに登録されている下記配列中のITS−2領域を用いた。
1 : Triticum aestivum (AF438186)
2 : Triticum aestivum (AF438187)
3 : Triticum aestivum (AF438188)
4 : Triticum aestivum (AF438191)
5 : Triticum aestivum (AF440676)
6 : Triticum aestivum (AF440679)
7 : Triticum aestivum (AF521903)
8 : Triticum aestivum (AJ301801)
9 : Triticum aestivum (AM040486)
10 : Triticum aestivum(AY346110)
11 : Triticum aestivum(AY346111)
12 : Triticum aestivum(AY346112)
13 : Triticum aestivum(AY346114)
14 : Triticum aestivum(AY346120)
15 : Triticum aestivum(AY450258)
16 : Triticum aestivum(Z11761)
17 : Triticum araraticum(AJ238920)
18 : Triticum araraticum(AJ238921)
19 : Triticum araraticum(AJ238922)
20 : Triticum boeticum(AJ238901)
21 : Triticum dicoccoides(AJ238911)
22 : Triticum dicoccoides(AJ238913)
23 : Triticum dicoccoides(AJ238915)
24 : Triticum dicoccoides(AJ238916)
25 : Triticum dicoccum(AJ238917)
26 : Triticum dicoccum(AJ301801)
27 : Triticum monococcum(AJ301800)
28 : Triticum timopheevii(AJ238923)
29 : Triticum timopheevii(AJ238924)
30 : Triticum turgidum(AJ238912)
31 : Triticum turgidum(AJ238918)
32 : Triticum turgidum(AJ238919)
33 : Triticum turgidum(AY450266)
34 : Triticum urartu(AJ301803)
【0011】
(2)エギロプスの配列
コムギの原種であるエギロプス (Aegilops) の配列として、GenBankに登録されている下記配列中のITS−2領域を用いた。
1 : Aegilops bicornis(AF149192)
2 : Aegilops bicornis(AJ238907)
3 : Aegilops biuncialis(AF157003)
4 : Aegilops columnaris(AF156997)
5 : Aegilops comosa(AF149198)
6 : Aegilops comosa(AF149201)
7 : Aegilops crassa(AF157000)
8 : Aegilops cylindrica(AF156993)
9 : Aegilops geniculata(AF156998)
10 : Aegilops juvenalis(AF157001)
11 : Aegilops kotschyi(AF157002)
12 : Aegilops longissima(AF149196)
13 : Aegilops longissima(AJ238908)
14 : Aegilops markgrafii(AF149199)
15 : Aegilops neglecta(AF157004)
16 : Aegilops peregrina(AF156996)
17 : Aegilops searsii(AF149194)
18 : Aegilops sharonensis(AF149195)
19 : Aegilops sharonensis(AJ238905)
20 : Aegilops sharonensis(AJ238906)
21 : Aegilops sharonensis(AJ238909)
22 : Aegilops speltoides(AJ238903)
23 : Aegilops speltoides(AJ238904)
24 : Aegilops speltoides(AJ301804)
25 : Aegilops speltoides(AY450267)
26 : Aegilops speltoides(AY450268)
27 : Aegilops speltoides(Z11762)
28 : Aegilops squarrosa(AF149193)
29 : Aegilops tauschii(AJ238910)
30 : Aegilops triuncialis(AF156994)
31 : Aegilops umbellulata(AF149197)
32 : Aegilops vavilovii(AF156999)
33 : Aegilops ventricosa(AF156995)
【0012】
(3)オオムギ、ライムギ、エン麦の配列
オオムギ(Hordeum)、ライムギ(Secale)、エン麦(Avena)の配列として、GenBankに登録されている下記配列中のITS−2領域を用いた。
1 : Hordeum vulgare(AF438189)
2 : Hordeum vulgare(AF438190)
3 : Hordeum vulgare(AF438192)
4 : Hordeum vulgare(AF438193)
5 : Hordeum vulgare(AF438194)
6 : Hordeum vulgare(AF438195)
7 : Hordeum vulgare(AF438196)
8 : Hordeum vulgare(AF438197)
9 : Hordeum vulgare(AF440677)
10 : Hordeum vulgare(AJ608145)
11 : Hordeum vulgare(AJ608146)
12 : Hordeum vulgare(AJ608147)
13 : Hordeum vulgare(AJ608148)
14 : Hordeum vulgare(AY255059)
15 : Hordeum vulgare(Z11759)
16 : Hordeum vulgare(Z68915)
17 : Hordeum vulgare(Z68916)
18 : Hordeum vulgare(Z68917)
19 : Hordeum vulgare(Z68918)
20 : Hordeum vulgare(Z68919)
21 : Hordeum vulgare(Z68920)
22 : Hordeum vulgare(Z68921)
23 : Hordeum vulgare(Z68922)
24 : Hordeum vulgare(Z68923)
25 : Hordeum vulgare(Z69656)
26 : Secale cereale(AF303400)
27 : Secale cereale(AJ409199)
28 : Secale cereale(AJ409200)
29 : Secale cereale(AJ409201)
30 : Secale cereale(AJ409202)
31 : Secale cereale(AJ409203)
32 : Secale cereale(L36504)
33 : Secale montanum(Z11760)
34 : Secale strictum(AJ409205)
35 : Secale strictum(AJ409206)
36 : Secale strictum(AJ409207)
37 : Secale strictum(AJ409208)
38 : Secale strictum(AJ409209)
39 : Secale strictum(AJ409213)
40 : Secale sylvestre(AJ409210)
41 : Secale sylvestre(AJ409212)
42 : Secale vavilovii(AJ409204)
43 : Secale vavilovii(AJ608152)
44 : Avena sativa(AY520821)
45 : Avena sativa(Z96885)
46 : Avena sativa(Z96887)
47 : Avena sativa(Z96889)
48 : Avena sativa(Z96891)
49 : Avena sativa(Z96893)
50 : Avena sativa(Z96895)
【0013】
(4)プライマー配列
コムギ、エギロプスITS−2配列の中から、全配列にハイブリダイズすると予想され、かつコムギ、エギロプスに特異性の高い配列を選定し、配列番号1〜4の塩基配列を有するプライマーを合成した。
センスプライマー
5'− CAT GGT GGG CGT CCT C −3' (配列番号1)
アンチセンスプライマー
5'− AAA GGC CAT AAT GCC AGC TG −3' (配列番号2)
5'− TGA GGC CGT CAT GCC GGC TG −3' (配列番号3)
5'− TGA GGC CAT AAT GTC GGC TG −3' (配列番号4)
これらのプライマーを用いると、コムギ、エギロプスで64bpの増幅産物が得られると予想される。
【0014】
2.PCRの鋳型として用いたDNA
(1)DNA抽出に用いた試料
コムギ(コムギの原種であるエギロプス及び掛け合わせ品種のライコムギを含む。)
1 : 農林61号(市販品)
2 : Triticum aestivum cv. Chinese Spring (KT020-003)
3 : Triticum aestivum cv. Sapporo Haru (KT020-004)(以上、普通コムギ)
2、3については、横浜市立大学木原生物学研究所遺伝資源バンクから種子を分譲してもらったものである。
4 : Triticum turgidum L (KU-147)(リベットコムギ)
5 : Triticum durum Desf (KU-125)(デュラムコムギ)
6 : Triticum monococcum L. (KU-104-2)(一粒コムギ)
7 : Triticum timopheevi Zhuk (KU-107-1)(チモフェービ系)
8 : Aegilops speltoides Tausch (KU-2-1)(クサビコムギ)
9 : Aegilops squarrosa L. (KU-20-1)(タルホコムギ)
4〜9については、京都大学農学研究科栽培植物起原学分野から種子を分譲してもらったものである。
10 : Triticum aestivum-rye amphidiploid (TACBOW0065)(ライコムギ)
10については、鳥取大学農学部植物遺伝育種学研究室から種子を分譲してもらったものである。
種子分譲依頼は、全てNBPR−KOMUGI(http://www.shigen.nig.ac.jp/wheat/komugi/top/top.jsp)を通して行った。
【0015】
オオムギ、ライムギ、エン麦
1 : オオムギ(みのり種:市販品)
2 : ライムギ(市販品)
3 : エン麦(前進種:市販品)
【0016】
その他穀物
1 : ハトムギ(市販品)
2 : トウモロコシ(市販品)
3 : ソバ(市販品)
4 : アワ(市販品)
5 : イネ(コシヒカリ:市販品)
6 : ダイズ(鶴の子大豆:市販品)
【0017】
(2)DNA抽出
農林61号以外のコムギ、オオムギ、ライムギ、エン麦、ハトムギ、トウモロコシは発芽させ、葉からDNA抽出を行った。他の試料は、種子からDNA抽出を行った。
DNA抽出は、QIAGEN社製のGenomic−tip 20/Gを用い、以下の方法で行った。
細かく粉砕した試料約0.5gを50ml容チューブに入れ、7.5mlのbuffer G2、20μlのRNase A(100mg/ml)、200μlのプロテイナーゼK溶液を加え、混合した後、50℃で2時間保温した。遠心分離により水層を回収し、予め1mlのBuffer QBTで平衡化したGenomic−tip 20/Gに供してDNAをカラムに吸着させた。その後、4mlのBuffer QCでカラムを洗浄し、1mlのBuffer QFでDNAを溶出させた。イソプロパノール沈殿により沈殿物を回収し、40μlの滅菌超純水に溶解して、濃度を測定した。超純水を用いて適宜希釈し、PCRの鋳型DNA試料とした。
【0018】
(実施例1 配列番号1のプライマーと、配列番号2のプライマーからなるプライマーセットを用いたPCR)
(1)方法
PCRは、QIAGEN社製のHotStarTaq Master Mix Kitを用い、同キット添付のHotStarTaq PCR Handbookに従って以下の方法で行った。
12.5μlの2×HotStarTaq Master Mix(HotStar Taq DNA Polymerase、3mMのMgCl2を含むPCR Buffer、400μMの各dNTP)に、配列番号1のプライマーを終濃度で0.2μMと、配列番号2のプライマーを終濃度で0.2μM、及び鋳型DNAを加え、最終的に滅菌超純水で25μlとした反応用溶液を0.2mlマイクロチューブ、または96穴PCRプレートに入れ、Applied Biosystems社製のサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9700により、酵素活性化(95℃,10分間)後、(95℃,0.5分間)−(68℃,1分間)の反応を40回繰り返して反応させた。得られたPCR反応液をエチジウムブロマイド含有の2.5%アガロースゲル電気泳動に供して、BIO−RAD社製のChemiDoc XRSにより解析した。結果を図1に示す。
【0019】
(2)特異性の確認
図1から明らかなように、コムギ以外の食用ムギ類であるオオムギ、ライムギ、エン麦、それ以外の代表的な穀物として、ハトムギ、トウモロコシ、ソバ、アワ、イネ、ダイズDNAから標的増幅産物が得られないことが確認された。ポジティブコントロールとして用いたコムギ(農林61号)は500fg、他の穀物は50ngのDNAを鋳型として用いた。なお、ここで用いたDNAがPCR増幅可能レベルの純度であることは、植物葉緑体DNAの一部を増幅するプライマーにより、PCR増幅産物が得られることで確認した。
【0020】
(3)コムギ各品種の検出感度確認
コムギ各品種から抽出したDNAの希釈系列を作製し、PCRで検出感度確認を行った。各品種は、5pg、500fg及び50fgのDNAを鋳型として用いた。結果を図2に示す。
図2から明らかなように、コムギ及びその原種として代表的な9品種中、7品種で50fgのDNAから標的サイズの増幅産物が得られた。Triticum monococcum L.と、Aegilops squarrosa L.の2品種については、5pgのDNAからも標的サイズの増幅産物は得られなかった。これらの2品種は現在ほとんど栽培されておらず、市場に流通する可能性も考えにくいため、これらを検出できないことで大きな問題はないと思われる。GenBankに登録されている配列上、これら2品種は、センスプライマー領域は完全一致しているが、アンチセンスプライマー領域は、数塩基がミスマッチしており、これが感度に悪影響を及ぼしている可能性がある。2品種の配列に対応したアンチセンスプライマーを併用することで、これらも高感度に検出可能になると予想される。
以上より、現在食用として流通しているコムギを、高感度(PCR反応液25μlの反応系で、コムギDNA 50fg)に検出でき、オオムギ、ライムギを始めとする、コムギ以外の穀物からは標的増幅産物が得られないPCR法が確立できた。
【0021】
(実施例2 配列番号1のプライマーと、配列番号2、3及び4の混合プライマーからなるプライマーセットを用いたPCR)
(1)方法
PCRには、センスプライマーとして、配列番号1のプライマーを終濃度で0.2μM用い、アンチセンスプライマーとして、配列番号2のプライマーを終濃度で0.1μM、配列番号3及び4のプライマーをそれぞれ終濃度で0.05μMの混合プライマーを用いた。それ以外の反応溶液組成、温度条件は、3(1)に示した方法と同様に行った。結果を図3に示す。
【0022】
(2)特異性の確認
図3から明らかなように、コムギ以外の食用ムギ類であるオオムギ、ライムギ、エン麦、それ以外の代表的な穀物として、ハトムギ、トウモロコシ、ソバ、イネ、ダイズDNAから標的増幅産物が得られないことが確認された。ポジティブコントロールとして用いたコムギ(農林61号)は500fg、他の穀物は50ngのDNAを鋳型として用いた。なお、ここで用いたDNAがPCR増幅可能レベルの純度であることは、植物葉緑体DNAの一部を増幅するプライマーにより、PCR増幅産物が得られることで確認した。
【0023】
(3)コムギ各品種の検出感度確認
コムギ各品種から抽出したDNAの希釈系列を作製し、PCRで検出感度確認を行った。各品種は、5pg及び500fgのDNAを鋳型として用い、n=2でPCRを行った。結果を図4に示す。
図4から明らかなように、試験した9種全ての品種で500fgのDNAから標的サイズの増幅産物が得られた。
以上より、本発明のコムギの検出法により、コムギを幅広く、高感度(PCR反応液25μlの系で、コムギDNA 500fg)に検出でき、オオムギ、ライムギを始めとする、コムギ以外の穀物からは標的増幅産物が得られないことが確認できた。
【0024】
(比較例1 特許文献1の検知PCR法との比較)
(1)方法
Triticin precursor遺伝子を標的としたコムギ検知PCR法である、特許文献1記載のPCR法との比較を行った。
用いたプライマー配列は以下の通りである。
5'− CAT CAC AAT CAA CTT ATG GTG G −3' (配列番号5)
5'− TTT GGG AGT TGA GAC GGG TTA −3' (配列番号6)
PCRは、ABI社製のAmpliTaq Goldを用い、以下の方法で行った。
2.5μlの10×PCR Buffer II、1.5μlの25mMのMgCl2、2.5μlの2mMのdNTPs Mix、0.125μlのAmpliTaq Gold(5U/μl)に、配列番号5のプライマーを終濃度で0.2μMと、配列番号6のプライマーを終濃度で0.2μM、及び鋳型DNAを加え、最終的に滅菌超純水で25μlとした反応用溶液を0.2mlマイクロチューブ、または96穴PCRプレートに入れた。Applied Biosystems社製のサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9700により、酵素活性化(95℃,10分間)後、(95℃,0.5分間)−(60℃,0.5分間)−(72℃,0.5分間)の反応を40回繰り返した後、(72℃,7分間)反応させた。得られたPCR反応液をエチジウムブロマイド含有の2.5%アガロースゲル電気泳動に供して、BIO−RAD社製のChemiDoc XRSにより解析した。
【0025】
(2)コムギ各品種の検出感度確認と特異性確認
コムギ9品種の検知感度確認を行った。結果を図5に示す。鋳型DNAには、実施例で作製した希釈系列のうち、50pg、5pg及び500fgを用いた。
図5から明らかなように、T. monococcum L.は50pgのDNAからも標的サイズの増幅産物が得られず、他の8品種は50pgのDNAが検知限界だった。
また、オオムギ、ライムギ、エン麦を用いて特異性の確認を行ったところ、コムギ以外のサンプルからは増幅産物が得られないことが確認された。
【0026】
(比較例2 非特許文献2の検知PCR法との比較)
(1)方法
25S−18S遺伝子間領域を標的としたコムギ検知PCR法である、非特許文献2記載のPCR法との比較を行った。
用いたプライマー配列は以下の通りである。
5'− GCG GCG TGT GCC ACG TAC GTG GTT T −3' (配列番号7)
5'− GAA CGG GCG TTA CGT GGA CAC GGG A −3' (配列番号8)
PCRは、Promega社製のGoTaq DNA Polymeraseを用い、以下の方法で行った。
5μlの5×Colorless Reaction Buffer、2.5μlの2mMのdNTPs Mix、0.1μlのGoTaq DNA Polymerase(5U/μl)に、配列番号7のプライマーを終濃度で0.5μMと、配列番号8のプライマーを終濃度で0.5μM、及び鋳型DNAを加え、最終的に滅菌超純水で25μlとした反応用溶液を0.2mlマイクロチューブ、または96穴PCRプレートに入れた。Applied Biosystems社製のサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9700により、(95℃,1分間)−(68℃,0.5分間)−(72℃,10秒間)の反応を35回繰り返した後、(72℃,2分間)反応させた。得られたPCR反応液をエチジウムブロマイド含有の2.5%アガロースゲル電気泳動に供して、BIO−RAD社製のChemiDoc XRSにより解析した。
【0027】
(2)コムギ各品種の検出感度確認と特異性確認
コムギ9品種の検知感度確認を行った。結果を図6に示す。鋳型DNAには、実施例で作製した希釈系列のうち、5pg、500fg及び50fgを用いた。
図6から明らかなように、T. monococcum L.は5pgのDNAからも標的サイズの増幅産物が得られず、A. squarrosa L.は5pgのDNAが検知限界だった。他の7品種は、バンドが薄い場合もあったが、50fgを検知することができた。
また、実施例2と同様のサンプルを用いて特異性の確認を行ったところ、論文に記載の通り、ライムギDNAから標的サイズの増幅産物が得られた。
【0028】
以上より、本発明のコムギ検知PCR法と、既存のPCR法とを比較すると、以下のようになる。
【表1】

【0029】
実施例1の検知PCR法は、食用でないコムギを一部検知できないものの、比較例1と比べると、検知感度が優れており、比較例2と比べると、コムギ特異性が優れていた。実施例2の検知PCR法は、試験したコムギ9品種全てを検知できたため、比較例1と比べると、検知範囲と検知感度が優れていた。比較例2と比べると、検知感度は劣るものの、コムギ特異性、検知範囲が優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のプライマーセットの特異性を確認したものである。
【図2】コムギ及びその原種として代表的な9品種に対する本発明のプライマーセットの検出感度を調べたものである。
【図3】本発明の混合プライマーを用いたプライマーセットの特異性を確認したものである。
【図4】コムギ及びその原種として代表的な9品種に対する本発明の混合プライマーを用いたプライマーセットの検出感度を調べたものである。
【図5】コムギ及びその原種として代表的な9品種に対する特許文献1のプライマーの検出感度を調べたものである。
【図6】コムギ及びその原種として代表的な9品種に対する非特許文献2のプライマーの検出感度を調べたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマーからなるプライマーセットを用いてPCRを行うことにより増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標としてコムギの存在を判定する工程とを含むことを特徴とするコムギの検出方法。
【請求項2】
配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマー、配列番号3で表わされる塩基配列を有するプライマー及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するプライマーによる混合プライマーからなるプライマーセットを用いてPCRを行うことにより増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標としてコムギの存在を判定する工程とを含むことを特徴とするコムギの検出方法。
【請求項3】
コムギが食用コムギである、請求項1記載のコムギの検出方法。
【請求項4】
食用コムギが、普通コムギ(Triticum aestivum)、リベットコムギ(T. turgidum)、デュラムコムギ(T. durum Desf)、ライコムギ(Triticum aestivum-rye amphidiploid)である請求項3記載のコムギの検出方法。
【請求項5】
配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマーとからなる、コムギ検出用プライマーセット。
【請求項6】
配列番号1で表わされる塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列を有するプライマー、配列番号3で表わされる塩基配列を有するプライマー及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するプライマーによる混合プライマーとからなる、コムギ検出用プライマーセット。
【請求項7】
コムギが食用コムギである、請求項5記載のコムギ検出用プライマーセット。
【請求項8】
請求項5又は6記載のコムギ検出用プライマーセットを含むコムギ検出用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−82125(P2009−82125A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44048(P2008−44048)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】