説明

コムギ内在性遺伝子の検出及び定量方法

【課題】コムギ品種で普遍的に存在し、その存在量が偏らず、かつPCRにおいて他の植物との交叉性が生じないコムギDNAの部分領域を特定し、増幅するためのプライマーを用いた種特異的DNAの好適な検出及び定量方法を提供する。
【解決手段】被検試料中のコムギ種特異的DNAを、ポリメラーゼ連鎖反応によって検出又は定量する方法であって、被検試料中の核酸又は被検試料から抽出した核酸を鋳型とし、特定の塩基配列中の部分配列を増幅可能なプライマーペアを用いて、部分配列を有する核酸を増幅する工程と、増幅された核酸を検出又は定量する工程と、を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検試料中のコムギ内在性遺伝子(以下、「種特異的遺伝子」という。)を検出及び定量する方法に関する。特に、食品素材、加工食品中に含まれる遺伝子組換えコムギの混入率を決定する際に用いる、コムギ内在性DNA(以下、「種特異的DNA」という。)を検出及び定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、現在までにトウモロコシ、ダイズ、ジャガイモ等について50種以上の遺伝子組換え農作物(以下「GMO」という)が、安全性審査を経て、輸入や販売を認められている。これに伴って、GMO含有食品は、「遺伝子組換えに関する表示に係る加工食品品質表示基準第7条第1項及び生鮮食品品質表示基準第7条第1項の規定に基づく農林水産大臣の定める基準」(平成12年3月31日農林水産省告示第517号)、及び「食品衛生法施行規則及び乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令等の施行について」(平成13年3月15日厚生労働省食発第79号)に基づき、その表示が義務化されている。
【0003】
しかし、海外では、一度安全性評価が終了すると、GMOと非GMOとが混在する形で栽培されることもある。また、収穫後の流通の過程で、非GMOが混入する可能性も否定できない。さらに、食品メーカ等が、加工食品の製造を製造業者に委託することも多く、仮に非GMOを使用するように指定して委託しても、委託された製造業者の工場でGMOを使用している場合は、このGMOが加工食品に微量混入してしまうことがある。したがって、表示の義務を遵守するためには、食品メーカ等は、完成した加工食品中に、GMOが混入していないかどうかを検査分析して確認することが求められる。
【0004】
加工食品及びその原料等の被検試料中のGMO検出方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)によって組換えDNAを検出する方法、酵素結合免疫吸着法(以下「ELISA法」という)によって組換え蛋白質を検出する方法等がある。加工食品の場合、加熱や加圧によって蛋白質が変性していることが多く、ELISA法では正確な検出ができないことが多い。そのため、PCR法による検出が一般的に行われる。
【0005】
GMOを検査分析する方法として、「JAS分析試験ハンドブック 遺伝子組換え食品検査・分析マニュアル改訂第2版」に記載される方法や、「組換えDNA技術応用食品の検査方法について(一部改正)」(平成15年6月18日厚生労働省食発第0618002号)に記載される方法がある。これらによれば、GMOの検査分析においては、被検試料から抽出したDNAのPCR増幅が可能かどうかを確認する目的で、各農産物の種特異的DNAを検知するプライマーペアを用いてPCR法を行い、予想される長さのPCR産物が得られるか確認する必要があることが記載されている。また、被検試料中に含まれるGMOを定量する場合には、その農産物が必ず持っている種特異的DNAに対する組換えDNAの存在比率から、組換え体の混入率を相対的に測定する方法が用いられる。
【0006】
例えばトウモロコシでは、5系統の承認GMO品種それぞれに対して特異的な検知プライマーペアが開発されているほか、トウモロコシの種特異的DNAとしてSSIIB遺伝子の領域を検知するプライマーペアが開発されている。
【0007】
種特異的DNAを検知するプライマーペアは、組換えDNAの検出及び定量において、種特異的DNA量の基準となるものである。そのため、増幅される種特異的DNA領域は、ゲノムにおいてシングルコピーであることが求められる。「組換えDNA技術応用食品の検査方法について(一部改正)」(平成15年11月13日食安発第1113001号)では、定量PCR法を行う際、トウモロコシ又はダイズの種特異的DNAと組換えDNAとを標的とした特異的プライマー対により増幅された増幅産物をプラスミド上に連結したものを標準物質として使用している。かかる標準物質を用いて定量PCR法を行い、被検試料についても一定時間定量PCRを行うことにより、組換えDNAのコピー数と種特異的DNAのコピー数との比を正確に求めることができる。
【0008】
トウモロコシのように複数の系統のGMO品種が存在する場合には、各系統に特異的なDNAと種特異的DNAとを一つの環状DNAに組み込んだ標準物質を用いれば、各系統の混入率の測定において共通の標準物質を用いることができ、有用である。
【0009】
また、一般に、各系統に特異的な遺伝子は入手が困難であるが、一度これらを組み込んで複製可能なDNAを作製すれば、このDNA自体を複製することによって、系統特異的なDNAを安定して供給することも可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「遺伝子組換えに関する表示に係る加工食品品質表示基準第7条第1項及び生鮮食品品質表示基準第7条第1項の規定に基づく農林水産大臣の定める基準」(平成12年3月31日農林水産省告示第517号)
【非特許文献2】「食品衛生法施行規則及び乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令等の施行について」(平成13年3月15日厚生労働省食発第79号)
【非特許文献3】JAS分析試験ハンドブック 遺伝子組換え食品検査・分析マニュアル改訂第2版
【非特許文献4】「組換えDNA技術応用食品の検査方法について(一部改正)」(平成15年6月18日厚生労働省食発第0618002号)
【非特許文献5】Kopell, E. et al.; Mitteilungen aus dem Gebiete der Lebensmitteluntersuchung und Hygiene, 88, 164、出版社:Neukomm & Zimmermann(ベルン)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
パンコムギについては、現在のところ安全性審査を経た遺伝子組換え品はないが、近い将来の上市が予想される。このため、コムギのGMOが流通した場合に備えて、コムギの種特異的DNAを検出及び定量する方法、並びにこれに用いるPCR用プライマーペアの開発が求められている。
【0012】
コムギは他の穀物に比べ、遺伝子の存在形態に様々なバリエーションが存在する。これはコムギ品種により6倍体、4倍体、2倍体の遺伝子型が存在するからである。一般的なパンコムギの場合、遺伝子型は6倍体であるが、それぞれの遺伝子は類似している。しかし、転座などにより、部分的な相違が認められている。この様な理由から、コムギの場合、品種による遺伝子型にバリエーションが存在し、コムギの種特異的遺伝子としての次に示す条件を満たす遺伝子が発見されていない。
A) コムギ品種で普遍的に存在する。
B) コムギ品種により存在量(検出量)が偏らない。
C) コムギ以外の他の穀物などにより検出が影響されない。
D) PCR反応で定量的に増幅する。
【0013】
コムギの場合には、例えばオオムギ、ライムギ、オーツムギなど、同じ穀物の中にゲノム構造やコードされる遺伝子の塩基配列について相同性の高い麦類がある。これらの麦類は、パンコムギとの相同性が高く、パンコムギとして誤検出される可能性が高い。このため、他の麦類や他の作物由来のDNAを誤検出せず、パンコムギの種特異的DNAのみを特異的に検出できる、他の作物と交叉性が無い方法が求められている。
【0014】
また、PCR法により増幅される種特異的DNA領域が複数存在すると、被検試料中のコムギを正確に定量することが困難となる。そのため、被検試料中のGMOコムギの混入率を正確に定量するためには、増幅される種特異的DNAの領域が、ゲノムにおいて一定であることが望ましい。
【0015】
さらに、定量PCR法によってGMO混入率を求める場合は、コムギについても、種特異的遺伝子DNAと組換えDNAとを標的とした特異的プライマー対によって増幅可能な領域を環状DNA上に連結した標準物質も有用である。
【0016】
そこで、本発明は、コムギ品種で普遍的に存在し、その存在量(検出量)が偏らず、かつ他の植物との交叉性が生じないコムギDNA(ゲノム)の部分領域を特定し、増幅するためのPCRプライマーを用いた種特異的DNAの好適な検出及び定量方法を提供することを目的の一つとする。
【0017】
さらに本発明は、コムギ種特異的DNAと組換えDNAとを標的とした特異的プライマー対により増幅可能な領域を環状DNA上に連結した標準物質を提供することも目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、コムギのゲノムDNAにおいて、Raines CA, Lloyd JC, Chao SM, John UP, Murphy GJ. A novel proline−rich protein from wheat. Plant Mol Biol. 1991 Apr;16(4):663−70.に記載のProline rich protein(PRP)遺伝子の一部領域がコムギ品種に普遍的に存在することを見出した。さらに本発明者らは、PRP遺伝子の一部領域が、他の植物との交叉性を生じること無く、PCR反応によって増幅可能であり、コムギ種特異的DNA配列として特異的に検出又は定量できることを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
即ち、本発明の第1の態様は、被検試料中のコムギ種特異的DNAを、PCRによって検出又は定量する方法であって、被検試料中の核酸又は被検試料から抽出した核酸を鋳型とし、配列番号1に記載の塩基配列中の部分配列を増幅可能なプライマーペアを用いて、当該部分配列を有する核酸を増幅する工程と、増幅された核酸を検出又は定量する工程と、を含む方法であることを要旨とする。
【0020】
本発明の第1の態様において、プライマーペアは、配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と配列番号3に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペア、配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と配列番号3に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペア、並びに配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と配列番号5に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペアから選択されてもよい。あるいは、配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と配列番号5に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペア、配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と配列番号6に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペア、並びに配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と配列番号7に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペアから選択されてもよい。あるいは、配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と配列番号7に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペア、並びに配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と配列番号6に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペアから選択されてもよい。あるいは、上述したプライマーペアのそれぞれの核酸が有する塩基配列の少なくとも80%の連続した塩基配列を含むプライマーペアであってもよい。
【0021】
また、本発明の第1の態様において、上述したプライマーペアに含まれるプライマーは、15乃至40塩基長の核酸であってもよい。
【0022】
本発明の第2の態様は、PCRによって被検試料からコムギ種特異的DNA配列を検出又は定量するための、上述したプライマーペアを含むキットであることを要旨とする。
【0023】
本発明の第3の態様は、遺伝子組換えコムギ及び非遺伝子組換えコムギが共通して有する種特異的DNAと、遺伝子組換えコムギの各系統に特異的な配列からなる1以上の遺伝子組換えコムギ特異的DNAと、を含む複製可能なDNAであることを要旨とする。なお、複製可能なDNAとは、宿主に対し特異的な複製開始点を有するDNAをさす。
【0024】
本発明の第4の態様は、配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列からなるDNAを含む、複製可能な環状DNAであることを要旨とする。なお、複製可能な環状DNAは、遺伝子組換えコムギの各系統に特異的な配列からなる1以上のDNAをさらに含んでいてもよい。
【0025】
本発明の第5の態様は、上述したプライマーペアを用いてPCRで増幅可能な領域を含む、複製可能なDNAであることを要旨とする。なお、複製可能なDNAは、遺伝子組換えコムギの各系統に特異的な配列からなる1以上のDNAをさらに含んでいてもよい。
【0026】
本発明の第6の態様は、被検試料における遺伝子組換えコムギの混入率を決定する方法であって、本発明の第3乃至第5の態様のいずれかに係る複製可能なDNAを含む溶液を用いて2種類の以上の濃度希釈系列を作り、それぞれについて定量的PCRを行って、コムギ種特異的DNA配列の部分領域と、少なくとも一種類の遺伝子組換えコムギに特異的なDNA配列の部分領域と、を増幅し、各部分領域について検量線を求める第一工程と、被検試料中に含まれる、コムギ種特異的DNA配列の部分領域と、少なくとも一種類の遺伝子組換えコムギに特異的なDNA配列の部分領域とを、第一工程と同一の条件で定量的PCRによって増幅し、第一工程で求めた検量線を用いて、被検試料中に存在した、種特異的DNA配列の部分領域の分子数と、遺伝子組換えコムギに特異的なDNA配列の部分領域の分子数と、を求める第二工程と、を含む方法であることを要旨とする。
【0027】
本発明の第6の態様において、第二工程で求めた、遺伝子組換えコムギに特異的なDNA配列の部分領域の分子数を、コムギ種特異的DNA配列の部分領域の分子数で除して得られる比Aと、遺伝子組換えコムギの標準種子を用いた定量的PCRを行って求められる、遺伝子組換えコムギの各系統に特異的なDNA配列の部分領域の分子数を、コムギ種特異的DNA配列の部分領域の分子数で除して得られる比Bと、を用い、100×A/Bを計算して、被検試料中の遺伝子組換えコムギの混入率を決定する工程をさらに含んでいてもよい。
【0028】
また、本発明の第6の態様において、コムギ種特異的DNA配列の増幅を、上述したプライマーペアから選択される少なくとも1つのプライマーペアを用いて行ってもよい。
【0029】
本発明の態様に係る方法に用いるPCR用プライマーペアは、コムギを種特異的に検出し、コムギ以外のコメ、オオムギ、ライムギ、オーツムギ、ナタネ、トウモロコシ、アワ、キビ、及びソバ等と交叉反応しない。したがって、本発明の態様に係る方法によれば、食品素材及び加工食品等の被検試料中のコムギの存在及びその量の正確な情報を得ることが可能となる。
【0030】
もし、検査法において、PCR用プライマーペアがコムギ以外の作物と交叉反応すると、コムギ検出の偽陽性の可能性が生じるばかりでなく、被検試料中のコムギ種特異的DNAの正確な定量は困難となりうる。また、検知法おいて増幅すべき種特異的DNAの領域は、コムギ品種に普遍的存在し、かつその存在量が一定であることが必要である。該種特異的DNA領域の存在量がコムギ品種により一定で無い場合もまたコムギ種特異的DNAを正確に定量できない。故に、そのような方法及びプライマーペアは、正確なGMOコムギの混入率を決定することができない。
【0031】
本発明によれば、食品素材又は加工食品等の被検試料から、他の作物と交叉することなくコムギ種特異的DNAを特異的に検出又は定量する方法、及び該方法に用いるPCR用プライマーペアが提供される。本発明に係る方法は、コムギ以外の穀物との相同性が低く、かつゲノム上でシングルコピーであるコムギ種特異的DNA配列の特異的な部分領域を、PCRによって検出又は定量する。また、本発明に係る方法により提供されるGMOコムギ検知のための標準物質を用いることにより、定量PCR法で、被検試料中のGMOコムギの混入率を、GMO系統別に精度良く求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例2の結果を示す写真である。
【図2】本発明の実施例5に係るコムギ種特異的DNAの検出量を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例6に係る特異性試験の結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例7に係る定量PCR装置の機種間誤差の検討結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本明細書において用いる用語の意味等を示し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
本明細書において、用語「コムギ」は特にことわりがない限りパンコムギを意味する。
【0035】
本発明の実施の形態に係る方法は、コムギの種特異的DNA配列として、コムギゲノム上のPRP遺伝子領域の特定部分を検出するものである。
【0036】
Raines CA, Lloyd JC, Chao SM, John UP, Murphy GJ. A novel proline−rich protein from wheat. Plant Mol Biol. 1991 Apr;16(4):663−70.に記載のWaxy遺伝子のうち、国際公開第2005/097989号パンフレットに記載のWx012領域は、デュラムコムギで検出されない。したがって、Wx012領域は、コムギDゲノム上に存在すると考えられる。各種コムギ品種において、Waxy遺伝子の検出量とPRP遺伝子の検出量とを比較すると、Wx012領域とPRP遺伝子のうち配列番号1に記載の遺伝子領域とは、ほぼ同量で検出される。しかし、Wx012領域と、PRP遺伝子のうち配列番号1に記載の遺伝子領域以外の領域との比は、品種によって1:1から1:3の比率となる。このことからPRP遺伝子は、PRP−3領域を含まないが、PRP−1領域と類似な領域を含むと推論される。配列番号1に記載の遺伝子領域の検出量はWx012の検出量と同様であり、またデュラムコムギでも検出されることから、コムギゲノムのA又はBに存在すると推定される。コムギ遺伝子に変異を与えた遺伝子組換え品種の混入率を推定する場合、種特異的遺伝子はコムギ品種で普遍的に存在し、その存在量も普遍的である必要がある。現在市場に流通するコムギにはパンコムギ以外、デュラムコムギ、もちコムギなどが存在する為、これらのコムギ品種に共通して存在し、品種により存在量が変化しない遺伝子を種特異的遺伝子として検出することが好ましい。すなわち、市場に流通するパンコムギ品種には、ゲノムA又はBが必ず存在するので、ゲノムA又はBに存在する遺伝子が種特異的遺伝子として好ましい事になる。
【0037】
PRP遺伝子には非常に類似したシュード遺伝子が存在する。このため、加工食品中のコムギゲノムのPRP遺伝子の全長から、無作為に短い部分配列を選択すると、その領域はPRP遺伝子以外の複数の遺伝子から増幅される可能性がある。すなわちコムギ品種によっては、単位コムギあたりのDNA増幅量が一定にならない場合が想定される。そこで本発明者らは鋭意努力した結果、PRP遺伝子の領域のうち、シュード遺伝子と交差しない配列番号1に記載の遺伝子領域が存在することを見出した。そこで、本発明の実施の形態に係る方法では、配列番号1に記載の遺伝子領域を含むDNAをPCRで増幅することによって、コムギ種特異的DNAを検出及び定量する。
【0038】
配列番号1に記載の遺伝子領域の塩基長は約330bpであり、ゲノム全長に比べ極端に短い。そのため、DNAが断片化されている可能性のある加工食品等の試料からも、コムギ種特異的DNAとして、配列番号1に記載の遺伝子領域を検出及び定量可能である。
【0039】
尚、本明細書においてPCR法に用いるプライマーペアは、配列番号1に記載の遺伝子領域を含むDNAを増幅できるプライマーペアであれば特に限定されない。プライマーペアは、増幅しようとする領域の塩基配列に基づいて、プライマー作成上の基本ルールを遵守して設計される。その際、各プライマーの融解温度(Tm)の値は、統一されていることが好ましい。また、各プライマーの長さは、15〜40bpであり、好ましくは15〜30bpである。PCR用プライマーペアがコムギ以外の作物と交叉反応すると、コムギ検出において偽陽性が生じうる。また、被検試料中のコムギ種特異的DNA配列の正確な定量が困難となりうる。これに対し、実施の形態に係るプライマーペアは、コムギ以外の作物と交叉反応せず、正確にコムギ種特異的DNAを定量することが可能となる。
【0040】
また、定量化される種特異的DNA領域の存在量がコムギ品種によって一定で無い場合、遺伝子組換え品種の混入率を正確に定量できない。これに対し、本発明の実施の形態に係るプライマーペアにより増幅される種特異的DNAの領域は、コムギ品種に普遍的存在し、かつその存在量が一定である。
【0041】
本発明の実施の形態に係る方法は、食品素材及び加工食品等の被検試料中のコムギの存在、及びコムギの量の正確な情報を与えるものである。したがって、本発明の実施の形態に係る方法に用いるPCR用プライマーペアは、コムギを特異的に検出し、コムギ以外のコメ、オオムギ、ライムギ、オーツムギ、ナタネ、トウモロコシ、アワ、キビ、及びソバ等の作物とは交叉反応しないことが求められる。
【0042】
コムギ以外の作物と交叉反応しないプライマーペアとしては、例えば(i)配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号3に記載の塩基配列を含む核酸と、からなるプライマーペア、(ii)配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号3に記載の塩基配列を含む核酸と、からなるプライマーペア、(iii)配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号5に記載の塩基配列を含む核酸と、からなるプライマーペア、(iv)配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号5に記載の塩基配列を含む核酸と、からなるプライマーペア、並びに上記(i)乃至(iv)に記載のプライマーのそれぞれにおいて、各核酸が有する塩基配列の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸のペアからなるプライマーペア等が使用可能である。これらのプライマーペアは、他の作物と交叉性なく、コムギ種特異的DNA領域を特異的に増幅することが可能である。
【0043】
本発明の実施の形態で用いられる被検試料は、コムギを含むか、あるいはコムギを含む可能性のある食品素材及び加工食品であり、例えばコムギの生の種子、乾燥種子、コムギ粉やミックス粉などの食品原料やその加工中間原料、パン類や麺類などの加工食品が含まれる。また、被検試料となる食品素材及び加工食品は、ヒトの食品のみならず、ペットフードの食品や飼料を含む。さらに、コムギ以外の作物とは、食品素材及び食品原料として用いられる全ての作物を意味し、例えば上述したコメ、オオムギ、ライムギ、オーツムギ、ナタネ、トウモロコシ、アワ、キビ、及びソバ等の作物である。
【0044】
被検試料は、例えばそのまま、又は粉砕して核酸抽出に供してもよく、洗浄して乾燥させてから破砕して核酸抽出に供してもよい。被検試料から抽出して分析に用いる核酸は、通常はDNAである。DNAは公知の任意の方法によって抽出してもよいが、現在は多数のDNA抽出キットが市販されており、これらを用いて抽出することができる。例えばDNeasy Plant Maxiキット(QIAGEN社製)を用いて、非特許文献5に記載された方法に従って、被検試料からDNAを抽出してもよい。抽出したDNAは、吸光度の測定などにより濃度を求め、PCRに好適な濃度まで希釈して用いることが好ましい。
【0045】
本発明の実施の形態に係る方法において、PCRは、使用するプライマーやDNAポリメラーゼを考慮して、常法に従って行うことができる。その際に、PCR緩衝液、dNTP、及びMgCl2等の試薬は調製してもよいし、市販のPCRキットを用いてもよい。PCRには、上記プライマーペアの一組又は二組以上を用いてもよい。また、PCR条件は、例えば95℃30秒、63℃30秒、及び72℃30秒を1サイクルとして40サイクル行い、最後に終了反応として72℃7分間という条件が使用可能であるが、用いるプライマーのTm、増幅すべき領域の長さ、及び鋳型DNAの濃度等を考慮して、適宜変更してもよい。
【0046】
増幅された核酸(PCR産物)は、特定のDNA断片を同定する任意の方法で検出しうる。同定する方法としては、例えばアガロースゲル電気泳動、アクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、ハイブリダイゼーション、及び免疫学的方法等が使用可能である。一般的には、PCR産物は、電気泳動パターンによって同定される。しかし、例えばエチジウムブロミドを含む0.8%のアガロースゲルによる電気泳動を行い、バンドを確認することによって検出してもよい。
【0047】
本発明の実施の形態は、上述した検出及び定量方法で用いるプライマーペア、及びそれらのプライマーペアを含むキットも含む。プライマーは常法に従って製造することができる。また、キットは、プライマーペアと、他の試薬と、を含んでいてもよい。例えば、キットは、dNTP、MgCl2、TaqDNAポリメラーゼなどのポリメラーゼ、緩衝液(例えばTris−HCl)、グリセロール、DMSO、ポジティブコントロール用DNA、ネガティブコントロール用DNA、及び蒸留水等を包含してもよい。キットに含まれる試薬は、それぞれ独立に梱包されていてもよいし、混合された上で梱包されていてもよい。キット中のそれぞれの試薬濃度に特に制限はなく、本発明の実施の形態に係るPCRを実施可能な濃度の範囲であればよい。また、キットには、好適なPCR条件等の情報がさらに添付されていてもよい。
【0048】
さらに、本発明の実施の形態は、定量PCR法によってGMOコムギの混入率を測定する際に有用な、標準物質を提供する。この標準物質は、非GMOコムギとGMOコムギとが共通して有するコムギ種特異的DNAを、1つの環状DNA上に連結したものである。なお、環状DNA上に、1以上のGMOコムギ特異的DNAをさらに連結してもよい。
【0049】
本発明の実施の形態に係る標準物質は、例えば、コムギ種特異的DNAとして配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列からなるDNAを含む、環状DNAであってもよい。
【0050】
標準物質として用いられる複製可能なDNAは、コムギ種特異的DNAが挿入されたDNA、又はコムギ種特異的DNA及びGMOコムギの系統特異的DNAが挿入されたDNAであれば特に限定されない。標準物質を作製する際には、例えば、pBR系ベクター(例;pBR322、pBR328等)、pUC系ベクター(pUC19、pUC18等)、λファージ系ベクター(λgt10、λgt11等)、及びこれらに改変を加えた市販のベクター等を用いることができる。
【0051】
コムギ以外の作物にも、GMOコムギに挿入された配列と同一の外来DNA配列を挿入し、GMO作物を作製する場合がある。そのため、外来DNA配列のみを検出すると、GMOコムギ由来なのか、コムギ以外のGMO作物由来なのかが判別できない場合がある。そのため、GMOコムギを検出する場合は、遺伝子組換えにより挿入された外来DNA配列のみを増幅して検出するのではなく、外来DNA配列の上流及び下流に存在する種特異的配列を含む領域を増幅することが好ましい。したがって、GMO系統特異的配列を検出するためのプライマーは、各系統のGMOコムギに挿入された外来DNA配列と、その上流及び下流に存在する種特異的配列と、を含む領域を増幅できるプライマーであることが好ましい。かかるプライマーは、例えばダイズについて報告された非特許文献5に記載の方法又はそれに準じた方法に従って、作製される。上記標準物質に挿入されるGMOコムギの各系統に特異的な配列は、かかるプライマーで増幅できるDNA配列から選択されてもよい。
【0052】
標準物質に挿入するコムギ種特異的DNAと、GMOコムギ特異的DNAとが決定された後、普通コムギゲノム及びGMOコムギゲノムを鋳型としたPCRを行って、種特異的DNA断片及びGMOコムギ特異的DNA断片をクローニングする。さらに、クローニングした種特異的DNA断片及びGMOコムギ特異的DNA断片と、上述した環状DNAのクローニングサイトと、を同一の制限酵素で切断し、クローニングした種特異的DNA断片及びGMOコムギ特異的DNA断片を、環状DNAの切断された部位に連結することにより、標準物質が作製される。制限酵素は、公知のものを適宜選択して使用することができ、例えば、EcoRI、SpeI、EcoRV、SmaI、SacI、NotI、HindIII、及びXhoI等が使用可能である。
【0053】
次に、作製された標準物質を含む溶液について、2種以上の希釈系列を作り、それぞれについて定量的PCRを行うと、コムギ種特異的DNA配列及びGMO特異的DNA配列の部分領域のそれぞれについて、検量線を求めることができる。さらに、本発明の実施の形態に係る標準物質は、定性PCRにおけるコムギ種特異的DNA配列及びGMO特異的DNA配列のポジティブコントロールとしても利用することができる。
【0054】
本発明の実施の形態は、標準物質を用いたPCRにより、被検試料におけるGMOコムギの混入率を決定する方法を包含する。該方法は、標準物質を用いて、特定の配列の検量線を求める第一工程と、被検試料中に含まれるコムギ種特異的DNA配列の部分領域、及びGMOコムギ特異的DNA配列の部分領域を第一工程と同一の条件のPCRによって一定時間増幅し、第一工程で得られた検量線を用いて、被検試料中に存在したコムギ種特異的DNA配列の部分領域及びGMOコムギ特異的DNA配列の部分領域の分子数を求める第二工程と、を含む。
【0055】
被検試料におけるGMOコムギの混入率を求める際には、第二工程で求めた、被検試料中に含まれるGMOコムギ特異的DNA配列の部分領域の分子数を、コムギ種特異的DNA配列の部分領域の分子数で除して得られる比Aを算出する。また、遺伝子組換えコムギの標準種子を用いた定量的PCRを行って求められる、GMOコムギの各系統に特異的なDNA配列の部分領域の分子数を、コムギ種特異的DNA配列の部分領域の分子数で除して得られる比Bを算出する。次に、式100×A/Bを計算することにより、被検試料中の遺伝子組換えコムギの混入率を算出可能である。比Bは、非特許文献3において「内標比」と呼ばれるものであり、純粋なGM系統の各種子ら抽出したDNAにおける、種特異的遺伝子に対する組換え遺伝子の比率である。内標比は、各組換え系統種子で一定の比率を示す。
【0056】
本発明の実施の形態に係るGMOコムギ混入率の決定方法において行われる各PCR工程は、別々に実施してもよいし、同時に実施してもよい。なお、各PCR工程は、検量線を作成するために行ったPCRと、略同一の速度で核酸の増幅反応が起こる条件で行うことが好ましい。かかる条件としては、例えば、検量線を作成するために行ったPCRと温度及びサイクルを同一とする条件が挙げられる。また、GMOコムギの混入率の算出は、種特異的DNAの量と組換えDNAの量とを別個に測定した結果から算出してもよい。あるい、GMOコムギの混入率は、非特許文献3の方法に従って、リアルタイムPCR装置により種特異的DNAと組換えDNAとを同時に増幅して算出してもよい。尚、本発明の実施の形態において「組換えDNA」とは、人為的にコムギに導入した任意の外来性DNAであり、例えば外来性遺伝子をコードする領域、未転写もしくは未翻訳領域、リンカー領域、及びベクター部分のDNAを意味する。
【実施例】
【0057】
以下の実施例において、以下に示す試料、試薬、装置、及び条件を使用した。
(1)試料
コムギ(Triticum aestivum)としては、国内産コムギ4品種(A〜D)及び外国産コムギ19品種(E〜W)の乾燥種子を用いた。
【0058】
デュラムコムギ(Triticum durum)は1品種の乾燥種子を用いた。
【0059】
トウモロコシ(Zea mays)としては、デントコーンの乾燥種子を用いた。
【0060】
ダイズ(Glycine max)としては、遺伝子組換えダイズであるRoundup Ready Soy系統後代品種の乾燥種子を用いた。
【0061】
コメ(Oryza sativa)としては、コシヒカリ種の乾燥種子を用いた。
【0062】
オオムギ(Hordeum vulgare)としては、在来の5品種の乾燥種子を用いた。
【0063】
オーツムギ(Avena sativa)としては、市販品種の乾燥種子を用いた。
【0064】
ライムギ(Secale cereale)としては、市販の2品種の乾燥種子を用いた。
【0065】
ナタネ(Brassica napus)としては、canola種の乾燥種子を用いた。
【0066】
アワ(Setaria italica Beauvois)としては、モチアワ種の乾燥種子を用いた。
【0067】
キビ(Panicum miliaceum Panicum)としては、モチキビ種の乾燥種子を用いた。
【0068】
マイロ(Sorghum subglabrescens)としては、市販品の乾燥種子を用いた。
【0069】
ソバ(Fagopyrum esculentum)としては、在来品種の乾燥種子を用いた。
【0070】
(2)試薬
試料からのDNA抽出には、以下の試薬を使用した。
ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
QIAGEN DNeasy Plant Maxi Kit(QIAGEN GmbH)
QIAGEN DNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN GmbH)
【0071】
DNAの電気泳動には、以下の試薬を使用した。
酢酸(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン(Tris)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
アガロース粉末”LO3「TaKaRa」”(宝酒造株式会社)
エチジウムブロミド(Sigma Chemical Co.)
ブロムフェノールブルー(Sigma Chemical Co.)
キシレンシアノール(Sigma Chemical Co.)
DNAマーカー”1kbラダー”(New England Biolabs Inc.)
DNAマーカー”100bpラダー”(New England Biolabs Inc.)
【0072】
定性的PCRには、以下の試薬を使用した。
DNAポリメラーゼ”AmpliTaq Gold”(Applied Biosystems)
×10 PCR バッファーII(Applied Biosystems)
【0073】
プラスミドの作製及び精製には、以下の試薬を使用した。
DNAポリメラーゼ”AmpliTaq Gold”(Applied Biosystems)
×10 PCR バッファーII(Applied Biosystems)
DNAポリメラーゼ”KOD”(東洋紡績株式会社)
×10 PCR バッファーII(東洋紡績株式会社)
TOPO TA Cloning Kit with TOP10F’ Cells(Invitrogen Co.)
酵母エキストラクト(Difco Laboratories)
トリプトン ペプトン(Difco Laboratories)
NaCl(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
アガー粉末(TAKARA BIO)
D[−]−α−Aminobenzylpenicillin(Ampicilin)Sodium Salt(Sigma Chemical Co.)
QIAGEN Plasmid Maxi Kit(QIAGEN GmbH)
エタノール(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
2−プロパノール(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン(Tris)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
制限酵素”EcoRI”(宝酒造株式会社)
制限酵素”SacI”(New England Biolabs Inc.)
制限酵素”XbaI”(New England Biolabs Inc.)
Calf Intestinal Alkaline Phosphatase (Invitrogen)
フェノール(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
クロロホルム(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
イソアミルアルコール(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
【0074】
定量的PCRには、TaqMan Universal PCRマスターミックス(Applied Biosystems)を使用した。
【0075】
(3)装置
試料からのDNA抽出には、粉砕器”Multi Beads Shocker MB301”(安井器械株式会社.)を使用した。
【0076】
DNAの電気泳動には、電気泳動装置”Mupid 2”(Advance Co.,Ltd.)を使用した。
【0077】
定性的PCRには、サーマルサイクラー”PTC−200”(MJ Research Inc.)を使用した。
【0078】
定量的PCRには、定量的PCR装置”ABI PRISM 7700 Sequence Detector System”(Applied Biosystems)を使用した。
【0079】
(4)条件
プライマー及びプローブの合成は、Operon社に委託した。
【0080】
制限酵素消化は、各制限酵素のマニュアルに従い実施した。すなわち、各DNA溶液と酵素に添付の×10バッファー、蒸留水、及び制限酵素を混合し、通常37℃2時間反応した。
【0081】
制限酵素消化後のDNA断片は、アガロースゲル電気泳動で分離した。ゲルからの精製はQIAGEN社製キットを使用した。すなわち、目的DNAを含んだゲルを加熱融解し、DNAをシリカ膜に結合させた。次に、エタノールを含む溶液等でシリカ膜を洗浄した後、蒸留水で溶出した。
【0082】
制限酵素消化プラスミドの脱リン酸化の際には、制限酵素消化後、脱塩処理したプラスミドをCIAP(GIBCO社製)と専用バッファーを混合し、37℃で30分間反応した。反応後フェーノル処理によりCIAPを失活せしめ、エタノール沈殿で脱リン酸化プラスミドを回収した。
【0083】
DNAのライゲーションには、宝酒造株式会社製DNAライゲーション・キットVer.2を使用した。すなわち、目的DNAを混合し、キットの反応混合液(soln I)を等量加え、16℃で30分間静置することによりDNAをライゲーションした。
【0084】
形質転換には、東洋紡績株式会社製Competent Cell E. coli DH5aを使用した。融解した10〜50mLのコンピテントセルを氷上でDNAと30分間混合静置し、42℃で50秒間ヒートショック後、氷上に戻し、2分後37℃に暖めておいたSOC培地を450mL添加、37℃で1時間インキュベートした。この溶液をサークルグロー培地Amp+プレートに100mL/plate展開し、37℃で16時間培養した。
【0085】
プラスミド精製の目的での培養は、培地サークルグローを用いて実施した。プラスミド産生の選択圧にはAmp耐性を利用し、終濃度100mg/mLのアンピシリンを用いた。培養は、37℃の試験管振盪器で、14乃至16時間行った。
【0086】
PCRには、アプライドバイオシステムズ社製AmpliTaq Gold polymeraseを使用した。なお、表1に記載の反応組成を用い、表2に記載の反応条件を用いた。
【表1】

【表2】

【0087】
TAクローニングはインビトロジェン社製TOPO TAクローニングシステムを用いた。方法は同社マニュアルに従い実施した。
【0088】
DNAのシーケンシングはベックマンコールター社製CEQ8000を用い実施した。方法は同社マニュアルに従い実施した。キットとして同社DTCS Quick Startマスターミックスを用いた。
【0089】
リアルタイムPCRには、TaqMan法を使用した。キットには、TAKARAプレミックスEx Taq(登録商標)(Perfect Real Time) Code No.RR039Aを使用した。リアルタイムPCRを実施する際には、各種ゲノムDNA濃度を希釈せずにテンプレートとした。また、表3のようにプレミックス、ROX、プライマー、及びプローブを混合して、マスターミックスを調整した。次に、16mL/ウェルのマスターミックスと4mL/ウェルのテンプレートDNAとを混合し、表4に記載の条件に従って反応を開始させた。
【表3】

【表4】

【0090】
テンプレートDNA(Plasmid pWIG04)は、表5のように希釈した。希釈には、5ng/mLのColE1溶液を用いた。
【表5】

【0091】
少量の種子の粉砕する場合、マルチビーズショッカーを粉砕機として使用した。粉砕の際には、2mLチューブに種子を1粒入れ、金属コーンを入れふたをし、2000rpm、10秒間2回粉砕し、粉砕された粉末から直接DNA抽出した。
【0092】
ゲノムDNAの調製には、QIAGEN Plant Mini Kitを使用した。操作は、キットマニュアルに従った。具体的には、粉砕種子に400mLのAP1溶液、4mLのRNaseAを添加し、攪拌した。次に、65℃で10分間インキュベートした。インキュベート中に、2、3回攪拌した。次に、130mLのAP2を添加し、攪拌後10分間氷上で放置した。次に、遠心分離(15000rpm=20000g、5分、室温)し、上清をQIAshredderに全量アプライし、さらに遠心分離(15000rpm、2分、室温)した。次に、デカントでパススルー上清を別容器に移し1.5容積(675mL)のAP3/Eを添加し、攪拌した。次に、半量をSpinカラムにアプライし、遠心分離(10000rpm、1分、室温)した。フロースルーを捨て、残量を同処理した。その後、新しいチューブにカラムをおき、500mLのAW添加、遠心分離(10000rpm、1分、室温)した。同処理後、フロースルーを捨て、さらに遠心分離(15000rpm,2分、室温)した。1.5mLの新しいチューブにカラムをおき50mLのAEを添加し、、室温に5分間放置した後、遠心分離(10000rpm、1分、室温)した。
【0093】
DNAの定量には、分光光度計(GeneSpec)を使用した。定量を実施する際には、5mmのセルを用い、希釈率を1とした。また、対照にKit溶出液(AE)を用いた。
【0094】
(実施例1:標準プラスミドの構築)
国内産コムギの品種Aの種子よりゲノムDNAを抽出し、抽出したDNAを鋳型にして、表6に記載のプライマーを用いPCRを行った。
【表6】

【0095】
得られた増幅DNAをInvitrogen社TOPO TA cloningキットを用い、ベクターpCR4 TOPOにTAクローニングした。次に、得られた、プラスミドを制限酵素EcoRIで消化後、350bpの断片を電気泳動ゲルからの切出し法により精製した。その後、国際公開第2007/132760号パンフレットに記載のpWIG02を制限酵素EcoRIで消化し、脱リン酸化後、ここに精製断片をライゲーションし、標準プラスミドpWIG04を構築した。得られたクローンは制限酵素マッピングにより挿入断片を確認後、DNAシーケンシングにより全配列の確認を行った。確認された配列は全て目的配列と一致した。
【0096】
(実施例2:PRP遺伝子中の増幅領域の検索)
PRP遺伝子のうち、コムギ品種により検出量の変動が無い領域の検索を行った。コムギPRP遺伝子はオオムギのPRP遺伝子と相同性が有ることから、オオムギとは交差しない領域をプライマーとする事が望ましい。そこでオオムギ5品種に交差せず、コムギ3品種で増幅するプライマー領域を検索した。表7に記載のフォワード側プライマーPRP8Fを、リバース側プライマーPRPds6R又はPRPds7Rと組合せて、検索を行った。その結果、図1に示すように、フォワード側プライマーPRP8Fとリバース側プライマーPRPds6Rとの組み合わせを用いると、コムギからはPCR産物が増幅するが、オオムギからはPCR産物が増幅しないことが確認された。また、フォワード側プライマーPRP8Fとリバース側プライマーPRPds7Rとの組み合わせを用いた場合も、コムギからはPCR産物が増幅するが、オオムギからはPCR産物が増幅しないことが確認された。
【表7】

【0097】
(実施例3:プローブの検索)
実施例2の検討により、種特異的遺伝子のPCR増幅領域として、PRP8F及びPRPds6Rで増幅される領域と、PRP8F及びPRPds7Rで増幅される領域とが好ましい事が確認された。そこで、これらの領域に対してプライマーに適合するプローブを設計した。プローブの設計はプライマー設計支援ソフト、Primer Express、又はPrimer3(The development of Primer3 and the Primer3 web site was funded by Howard Hughes Medical Institute and by the National Institutes of Health, National Human Genome Research Institute. under grants R01−HG00257 (to David C. Page) and P50−HG00098 (to Eric S. Lander).: http://frodo.wi.mit.edu/cgi−bin/primer3/primer3_www.cgi)を使用した。設計したプローブ配列を表8に示す。設計したプローブ配列から、蛍光標識プローブを合成した。なお、蛍光標識プローブにおいて、5‘末端を蛍光物質としてFAMで修飾し、3’末端をクエンチャーとしてTAMRAで修飾した。
【表8】

【0098】
(実施例4:リアルタイムPCRの条件設定)
実施例3で合成した蛍光標識プローブを用い、標準プラスミドpWIG04を鋳型にして、TaqMan法によるリアルタイムPCRの条件設定を行った。具体的には、プライマー濃度、プローブ濃度、PCR反応温度、及び時間についての各パラメーターを可変させ、リアルタイムPCRの最適条件を見出した。選択された条件を以下に示す。
【表9】

【表10】

【0099】
(実施例5:コムギ品種における普遍性の確認)
実施例4でリアルタイムPCRの最適条件を見出した後、コムギ品種23種について、TaqMan法によるリアルタイムPCRにより、コムギ種特異的DNAの検出量を比較した。プライマーとしては、配列番号4に記載のPRP8Fと配列番号6に記載のPRPds6Rとを用いた。また、プローブには、配列番号7に記載のPRP3−Taqを用いた。その結果、図2に示すように、23種類総てのコムギ品種からPRPが検出され、PRPのコムギ種特異的遺伝子としての普遍性が確認された。
【0100】
(実施例6:特異性の確認試験)
本発明の実施の形態に係る方法で他の作物と交差しないことを確認する目的で、特異性試験を実施した。他の作物として、オオムギ、オーツムギ、ライムギ、コメ、マイロ、ナタネ、トウモロコシ、ソバ、アワ、及びキビを用いた。これら他の作物からDNAを抽出し、実施例4で見出した最適条件に従って、抽出したDNAを鋳型にしてリアルタイムPCRを行った。プライマーとしては、配列番号4に記載のPRP8Fと、配列番号5に記載のPRPds6Rとを用いた。また、プローブには、配列番号7に記載のPRP−Taq3を用いた。図3に示すように、コムギで検出された値に対し、これら他の作物の非特異的検出率はオオムギ5品種全てで0.2%以下であり、他の作物は0.05%以下であった。したがって、非特異的検出率はコムギ検出における標準誤差をはるかに下回り、これら他の作物が、コムギ種特異的遺伝子の定量に影響を及ぼさないことが確認された。
【0101】
(実施例7:定量PCR装置の機種間誤差の検討)
定量PCR装置は多種類の装置が販売されており、装置ごとに性能が異なる場合もある。そこで本発明の実施の形態に係るプライマーセット及びプローブを用いて、その定量値に、定量PCR装置の機種間誤差が生じるかどうかを検討した。定量PCR 装置はApplied Biosystems社製PRISM7700及びApplied Biosystems 7500 リアルタイムPCRシステムを用いた。PCR反応試薬としてはTAKARAプレミックスEx Taq(登録商標)(Perfect Real Time) Code No.RR039Aを使用した。プライマーセットはPRP8F、PRPds6RをプローブはPRP−Taq3を用いた。鋳型には実施例1に記載したプラスミドpWIG04を用いた。プラスミドpWIG04を一反応あたり、10000、31623、10000、3162、1000、316、100、32コピー含むように希釈列を作成した。定量PCR反応は実施例4に示す方法を用いた。その結果、図4に示すように、両機共に鋳型DNA希釈範囲で同様な増幅を示す事が確認された。したがって、本発明の実施の形態に係るプライマーセットとプローブは機種間誤差を生じさせないことが確認された。
【0102】
(配列表の説明)
本明細書の配列表に記載された配列番号1乃至17は、以下の配列を示す。
[配列番号:1] PRP遺伝子中の部分塩基配列。
[配列番号:2] フォワードプライマーPRP3Fの塩基配列。
[配列番号:3] リバースプライマーPRPds3Rの塩基配列。
[配列番号:4] フォワードプライマーPRP8Fの塩基配列。
[配列番号:5] リバースプライマーPRPds6Rの塩基配列。
[配列番号:6] リバースプライマーPRPPds7Rの塩基配列。
[配列番号:7] プローブの塩基配列。
【0103】
本明細書において塩基を略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commision on Biochemical Nomenclatureによる略号、あるいは当該分野における慣用略号を用いる。以下に、略号の例を示す。
【0104】
a : アデニン、t : チミン、g : グアニン、c : シトシン。
なお、PRPのGnebank番号はX52472であり、PRP−ESTのGnebank番号はCV772819であり、オオムギPRPのGnebank番号はBE601897であり、オオムギPRPcDNAのGnebank番号はCB881611である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中のコムギ種特異的DNAを、ポリメラーゼ連鎖反応によって検出又は定量する方法であって、
前記被検試料中の核酸又は前記被検試料から抽出した核酸を鋳型とし、配列番号1に記載の塩基配列中の部分配列を増幅可能なプライマーペアを用いて、前記部分配列を有する核酸を増幅する工程と、
前記増幅された核酸を検出又は定量する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記プライマーペアが、
(i)配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号5に記載の塩基配列を含む 核酸と、からなるプライマーペア、
(ii)配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号6に記載の塩基配列を含 む核酸と、からなるプライマーペア、
(iii)配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号3に記載の塩基配列を 含む核酸と、からなるプライマーペア、
(iv)配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号3に記載の塩基配列を含 む核酸と、からなるプライマーペア、
(v)配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号5に記載の塩基配列を含む 核酸と、からなるプライマーペア、
(vi)配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号5に記載の塩基配列を含 む核酸と、からなるプライマーペア、
(vii)配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号6に記載の塩基配列を 含む核酸と、からなるプライマーペア、
(viii)配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号7に記載の塩基配列 を含む核酸と、からなるプライマーペア、
(ix)配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号7に記載の塩基配列を含 む核酸と、からなるプライマーペア、
(x)配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号6に記載の塩基配列を含む 核酸と、からなるプライマーペア、及び
(xi)上記(i)乃至(x)のいずれかに記載したプライマーペアを構成する各核酸 の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含むプライマーペア
からなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プライマーペアに含まれるプライマーが、15乃至40塩基長の核酸である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
請求項2に記載のプライマーペアを含む、被検試料からポリメラーゼ連鎖反応によってコムギ種特異的DNA配列を検出又は定量するためのキット。
【請求項5】
遺伝子組換えコムギ及び非遺伝子組換えコムギが共通して有する種特異的DNAと、
前記遺伝子組換えコムギの各系統に特異的な配列からなる少なくとも一つの遺伝子組換えコムギ特異的DNAと、
を含む複製可能なDNA。
【請求項6】
配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列からなるDNAを含む、複製可能な環状DNA。
【請求項7】
さらに、遺伝子組換えコムギの各系統に特異的な配列からなる少なくとも一つのDNAを含む、請求項6に記載の環状DNA。
【請求項8】
請求項2に記載のプライマーペアを用いてポリメラーゼ連鎖反応により増幅可能な領域を含む、複製可能なDNA。
【請求項9】
さらに、遺伝子組換えコムギの各系統に特異的な配列からなる少なくとも一つのDNAを含む、請求項8に記載の複製可能なDNA。
【請求項10】
被検試料における遺伝子組換えコムギの混入率を決定する方法であって、
請求項5乃至8のいずれか1項に記載の複製可能なDNAを含む溶液を用いて2種類の以上の濃度希釈系列を作り、それぞれについて定量的ポリメラーゼ連鎖反応を行って、コムギ種特異的DNA配列の部分領域と、少なくとも一種類の遺伝子組換えコムギに特異的なDNA配列の部分領域とを増幅し、各部分領域について検量線を求める第一工程と、
被検試料中に含まれる前記コムギ種特異的DNA配列の部分領域と、前記被検試料中に含まれる前記少なくとも一種類の遺伝子組換えコムギに特異的なDNA配列の部分領域とを、前記第一工程と同一の条件で増幅し、求められた前記検量線を用いて、前記被検試料中に存在した、種特異的DNA配列の部分領域の分子数と、遺伝子組換えコムギに特異的なDNA配列の部分領域の分子数とを求める第二工程と、
を含む方法。
【請求項11】
前記第二工程で求めた、遺伝子組換えコムギに特異的なDNA配列の部分領域の分子数を、コムギ種特異的DNA配列の部分領域の分子数で除して得られる比Aと、
遺伝子組換えコムギの標準種子を用いた定量的ポリメラーゼ連鎖反応を行って求められる、遺伝子組換えコムギの各系統に特異的なDNA配列の部分領域の分子数を、コムギ種特異的DNA配列の部分領域の分子数で除して得られる比Bと、
を用い、
100×A/Bを計算して、被検試料中の遺伝子組換えコムギの混入率を決定する工程を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コムギ種特異的DNA配列の増幅を、請求項2に記載のプライマーペアから選択される少なくとも1つのプライマーペアを用いて行う、請求項10又は11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−125306(P2011−125306A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289137(P2009−289137)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】