説明

コモンモードノイズフィルタ

【課題】本発明は、ショート不良が発生するのを低減させることができるコモンモードノイズフィルタを提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明のコモンモードノイズフィルタは、第1のコイル9を構成する第1の導体パターン3と、第2のコイル10を構成する第2の導体パターン4との間にSUS玉石の粒径より小さい粒径のジルコニア玉石を用いてなる第2のセラミックグリーンシートで構成された第3の絶縁層1cを設けるとともに、前記第1の導体パターン3の下方と第2の導体パターン4の上方にSUS玉石を用いてなる第1のセラミックグリーンシートで構成された第1、第2、第4、第5の絶縁層1a、1b、1d、1eを設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器に使用されるコモンモードノイズフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のコモンモードノイズフィルタに使用されるセラミックグリーンシートは、フェライトなどを主成分とするセラミック粉末にポリビニルブチラールなどを主成分とするバインダー、有機溶剤を混合してスラリーを形成し、このスラリーをドクターブレード法によってシート状に成形することにより作製していた。そして、上記従来のコモンモードノイズフィルタは、このようにして成形されたセラミックグリーンシートと、2つのコイルを構成する導体パターンとを交互に設けることにより構成していた。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平6−77073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来のコモンモードノイズフィルタにおいては、互いに対向して1つのコイルを構成する導体パターンと他のコイルを構成する導体パターンとの間の距離を短くした場合、導体パターンを構成する金属が焼成時にマイグレーションを起こすため、導体パターン間でショート不良が発生する可能性があるという課題を有していた。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、ショート不良が発生するのを低減させることができるコモンモードノイズフィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
【0007】
本発明の請求項1に記載の発明は、セラミック粉末に、エステル系有機溶剤およびアルコール系有機溶剤を加え、SUS玉石で混練させた第1のスラリーにバインダーを加えてなる第1のセラミックグリーンシートと、セラミック粉末に、ブチラール系樹脂の分散助剤およびエステル系有機溶剤を加え、前記SUS玉石の粒径より小さい粒径のジルコニア玉石で高分散させた第2のスラリーにアルコール系有機溶剤、バインダーを加えてなる第2のセラミックグリーンシートと、第1のコイルと、第2のコイルとを備え、前記第1のコイルを構成する第1の導体パターンと、第2のコイルを構成する第2の導体パターンとの間に前記第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層を設けるとともに、前記第1の導体パターンの下方と第2の導体パターンの上方に前記第1のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層を設けたもので、この構成によれば、第2のセラミックグリーンシートの形成に使用したジルコニア玉石の粒径を、第1のセラミックグリーンシートの形成に使用したSUS玉石の粒径より小さくしているため、第1の導体パターンと第2の導体パターンとの間に位置する第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層中のセラミック粉末の粒径は小さくなり、これにより、焼成時において第1の導体パターンと第2の導体パターンとの間に位置する第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層でマイグレーションが起ころうとする速度よりも第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層中のセラミック粉末が焼結する速度の方が速くなるため、第1の導体パターンと第2の導体パターンとの間でショート不良が発生するのを低減させることができる
という作用効果が得られるものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明のコモンモードノイズフィルタは、第1のコイルを構成する第1の導体パターンと、第2のコイルを構成する第2の導体パターンとの間に第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層を設けるとともに、第1の導体パターンの下方と第2の導体パターンの上方に第1のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層を設け、さらに前記第2のセラミックグリーンシートの形成に使用したジルコニア玉石の粒径を、第1のセラミックグリーンシートの形成に使用したSUS玉石の粒径より小さくしているため、第1の導体パターンと第2の導体パターンとの間に位置する第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層中のセラミック粉末の粒径は小さくなり、これにより、焼成時において第1の導体パターンと第2の導体パターンとの間に位置する第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層でマイグレーションが起ころうとする速度よりも第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層中のセラミック粉末が焼結する速度の方が速くなるため、第1の導体パターンと第2の導体パターンとの間でショート不良が発生するのを低減させることができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタについて、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの斜視図、図2は同コモンモードノイズフィルタの分解斜視図である。
【0011】
本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタは、図1、図2に示すように、磁性材料または非磁性材料からなる第1〜第5の絶縁層1a〜1eと、第1〜第4の絶縁層1a〜1dのそれぞれの上面に順に設けられた第1の引出電極2、第1の導体パターン3、第2の導体パターン4、第2の引出電極5とを備え、かつこれらを一体化して積層体6を構成し、そして、この積層体6の両端部に第1〜第4の外部電極7a〜7dを形成しているものである。
【0012】
さらに、前記第2の絶縁層1bに第1のビア8aを形成するとともに、第4の絶縁層1dに第2のビア8bを形成し、そして前記第1のビア8aを介して第1の引出電極2と第1の導体パターン3とを接続することにより第1のコイル9を設けるとともに、前記第2のビア8bを介して第2の導体パターン4と第2の引出電極5とを接続することにより第2のコイル10を設けている。また、前記第1の導体パターン3と第2の導体パターン4を第3の絶縁層1cのみを介して互いに対向させて、第1の導体パターン3と第2の導体パターン4とを磁気結合させることにより、第1のコイル9と第2のコイル10に入力したコモンモードノイズを除去することができる。
【0013】
なお、前記第1のコイル9を構成する第1の導体パターン3と、第2のコイル10を構成する第2の導体パターン4との間に位置する第3の絶縁層1cは後述する第2のセラミックグリーンシートで構成し、かつ前記第1の導体パターン3の下方に位置する第1の絶縁層1a、第2の絶縁層1bおよび第2の導体パターン4の上方に位置する第4の絶縁層1d、第5の絶縁層1eは後述する第1のセラミックグリーンシートで構成しているものである。
【0014】
次に、本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの製造方法について説明する。
【0015】
まず、磁性材料または非磁性材料の原材料であるセラミック粉末に、エステル系有機溶剤およびアルコール系有機溶剤を加え、かつφ9.6μmのSUS玉石で混練して第1のスラリーを形成し、さらにこの第1のスラリーにバインダーを加えたものをドクターブレード法によってシート状に成形して第1のセラミックグリーンシートを形成する。また、磁性材料または非磁性材料の原材料であるセラミック粉末に、ブチラール系樹脂の分散助剤およびエステル系有機溶剤を加え、かつ前記SUS玉石の粒径より小さい粒径φ5.0μmのジルコニア玉石で高分散させて第2のスラリーを形成し、さらにこの第2のスラリーにアルコール系有機溶剤、バインダーを加えたものをドクターブレード法によってシート状に成形して第2のセラミックグリーンシートを形成する。そして、2枚の第1のセラミックグリーンシートのそれぞれの所定箇所に第1のビア8aと第2のビア8bを形成する。
【0016】
次に、第1のセラミックグリーンシートで構成された第1、第2、第4、第5の絶縁層1a、1b、1d、1eと、第2のセラミックグリーンシートで構成された第3の絶縁層1cと、第1の引出電極2、第1の導体パターン3、第2の導体パターン4、第2の引出電極5とを図1、図2に示すように積層し、かつ加熱、加圧して積層体6を構成する。このとき、第1のビア8aを介して第1の引出電極2と第1の導体パターン3とを接続して第1のコイル9を形成し、かつ第2のビア8bを介して第2の導体パターン4と第2の引出電極5とを接続して第2のコイル10を形成する。
【0017】
最後に、積層体6の両側面に、第1、第2のコイル9、10の両端部と接続される第1〜第4の外部電極7a〜7dを形成し、本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタが得られるものである。
【0018】
上記した本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタは、第1のコイル9を構成する第1の導体パターン3と、第2のコイル10を構成する第2の導体パターン4との間に第2のセラミックグリーンシートで構成された第3の絶縁層1cを設けるとともに、第1の導体パターン3の下方と第2の導体パターン4の上方に第1のセラミックグリーンシートで構成された第1、第2、第4、第5の絶縁層1a、1b、1d、1eを設け、さらに前記第2のセラミックグリーンシートの形成に使用したジルコニア玉石の粒径を、第1のセラミックグリーンシートの形成に使用したSUS玉石の粒径より小さくしているため、第1の導体パターン3と第2の導体パターン4との間に位置する第2のセラミックグリーンシートで構成された第3の絶縁層1c中のセラミック粉末の粒径は小さくなり、これにより、焼成時において第1の導体パターン3と第2の導体パターン4との間に位置する第2のセラミックグリーンシートで構成された第3の絶縁層1cでマイグレーションが起ころうとする速度よりも第2のセラミックグリーンシートで構成された第3の絶縁層1c中のセラミック粉末が焼結する速度の方が速くなるため、第1の導体パターン3と第2の導体パターン4との間でショート不良が発生するのを低減させることができるという効果が得られるものである。
【0019】
(表1)は、本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタで用いた第1のセラミックグリーンシートと、第2のセラミックグリーンシート(高分散シート)の製造条件、評価結果の比較を表している。
【0020】
【表1】

【0021】
なお、表中の分散(1)は、第1、第2のスラリーを形成するために行われ、第2のセラミックグリーンシートでは、セラミック粉末に有機溶剤、分散助剤を加え、高分散させ、そして、第1のセラミックグリーンシートでは、セラミック粉末と有機溶剤を混練する。ここで、分散助剤は、セラミック粉末と有機溶剤のなじみ易さを向上させ、高分散の効果を高める効果を有するものである。また、第1のセラミックグリーンシートにおいて分散時間が短いのは、分散助剤を設けていないため、長時間分散させても得られる第1のスラリーに変化がないからである。
【0022】
表中の分散(2)は、分散(1)で得られた第1、第2のスラリーをシート成形するために行われ、第2のセラミックグリーンシートでは、高分散させた第2のスラリーに有機溶剤、バインダーを混練し、一方、第1のセラミックグリーンシートでは、第1のスラリーにバインダーを混練する。第2のスラリーにアルコール系の有機溶剤を添加するのは、シート成形時の乾燥速度を調節するためであり、これにより、シート表面のクラックの発生を低減する効果が得られる。
【0023】
(表1)の評価結果から明らかなように、第2のセラミックグリーンシートの方が第1のセラミックグリーンシートより粒度分布が小さくなっているもので、これは、第2のセラミックグリーンシートの方が第1のセラミックグリーンシートより表面粗さが小さいことからも分かる。
【0024】
このように、第2のセラミックグリーンシートの形成に使用される玉石をφ9.6μmからφ5.0μmに小さくし、かつ玉石の材料をSUSから硬いZr(ジルコニア)にすることによって、セラミック粉末の粉砕・分散が促進されるため、第2のセラミックグリーンシート中のセラミック粉末の粒径は小さくなり、これにより、セラミック粉末が密に充填するものと考えられる。
【0025】
この結果、焼成時において第1の導体パターン3と第2の導体パターン4との間に位置する第2のセラミックグリーンシートで構成された第3の絶縁層1cでマイグレーションが起ころうとする速度よりも第2のセラミックグリーンシートで構成された第3の絶縁層
1c中のセラミック粉末が焼結する速度の方が速くなるため、第1の導体パターン3と第2の導体パターン4との間でショート不良が発生するのを低減させることができる。
【0026】
また、玉石の材料として硬いZr(ジルコニア)を使用しているため、分散時に玉石が削られて、その粉末が製品に入り込んだりするのを抑えることができる。
【0027】
さらに、第1の導体パターン3と第2の導体パターン4との間に位置する第3の絶縁層1c以外の第1、第2、第4、第5の絶縁層1a、1b、1d、1eには、第2のセラミックグリーンシートよりセラミック粉末の粒径の大きい第1のセラミックグリーンシートを用いているため、この第1、第2、第4、第5の絶縁層1a、1b、1d、1eに第1の引出電極2、第1の導体パターン3、第2の導体パターン4、第2の引出電極5を喰い込ませることができ、これにより、デラミネーションの発生も抑えることができる。
【0028】
すなわち、本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタは、デラミネーションの発生を抑えつつ、ショート不良が発生するのを低減させることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るコモンモードノイズフィルタは、ショート不良が発生するのを低減させることができるという効果を有するものであり、特にデジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器のノイズ対策として使用されるコモンモードノイズフィルタにおいて有用となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの斜視図
【図2】同コモンモードノイズフィルタの分解斜視図
【符号の説明】
【0031】
1a〜1e 第1〜第5の絶縁層
3 第1の導体パターン
4 第2の導体パターン
9 第1のコイル
10 第2のコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末に、エステル系有機溶剤およびアルコール系有機溶剤を加え、SUS玉石で混練させた第1のスラリーにバインダーを加えてなる第1のセラミックグリーンシートと、セラミック粉末に、ブチラール系樹脂の分散助剤およびエステル系有機溶剤を加え、前記SUS玉石の粒径より小さい粒径のジルコニア玉石で高分散させた第2のスラリーにアルコール系有機溶剤、バインダーを加えてなる第2のセラミックグリーンシートと、第1のコイルと、第2のコイルとを備え、前記第1のコイルを構成する第1の導体パターンと、第2のコイルを構成する第2の導体パターンとの間に前記第2のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層を設けるとともに、前記第1の導体パターンの下方と第2の導体パターンの上方に前記第1のセラミックグリーンシートで構成された絶縁層を設けたコモンモードノイズフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−289781(P2009−289781A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137579(P2008−137579)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】