説明

コロイド状ナノ粒子の合成のための方法

高品質のナノ粒子コロイドの合成法は、高い加熱速度の工程を備える。単一モードの高出力マイクロ波を照射することは、高品質の半導体ナノ粒子を実現するため特によく適した技法である。マイクロ波照射を用いることにより、合成は効果的に自動化され、またより重要なことには、高品質ナノ粒子コロイドの商業生産のため連続流通マイクロ波反応器の使用を可能にする。本出願は、ナノ粒子を化学的に合成するための方法を提供する。その方法は、前駆体、パッシバント、および/または溶媒を反応器中に含む反応系の加熱工程を包含し、構成成分の温度を30℃/分以上で上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、以下の同時係属中である同一出願人による特許出願の一部継続出願である。
【0002】
米国特許第11/103,159号(2005年4月11日に、Geoffrey F.Strouse、Jeffery A.Gerbec、およびDonny Maganaによって出願された。発明の名称は「METHOD FOR SYNTHESIS OF COLLOIDAL NANOPARTICLES」であり、代理人整理番号30794.133−US−11である。);これは、下記の出願:
米国特許第10/945,053号(2004年9月20日に、Geoffrey F.Strouse、Jeffery A.Gerbec、およびDonny Maganaによって出願された。発明の名称は「METHOD FOR SYNTHESIS OF COLLOIDAL NANOPARTICLES」であり、代理人整理番号30794.111−US−U1である);
の一部継続出願である。これらの出願の両方が、本明細書において参考として援用される。
【0003】
(1.発明の分野)
本発明は、ナノ粒子の化学合成に関し、特に、サイズ分布が狭く分散性が高い無機ナノ粒子の大規模な合成、安全な合成、簡便な合成、再現可能な合成、エネルギー節約型の合成に関する。また本発明は、上記利点を有する発光性の高いIII−V族半導体ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0004】
(2.関連技術の説明)
(注記:本願は、多数の異なる刊行物を引用しており、それらは本明細書を通じて[x]のように括弧内に1つまたは複数の参照番号を入れて示される。それらの異なる刊行物を参照番号の順番に並べて一覧にしたものは、下記の「参照文献」の項で見ることができる。それらの刊行物のそれぞれは、その引用によりその内容が本明細書に記載されたものとする。)
過去十年間にわたり、高品質の無機ナノ粒子を形成し分離するための合成法において非常に多くの進歩がなされてきた。それらの材料は、オプトエレクトロニクス装置、生物学的標識、光スイッチング、固体照明、および太陽電池の用途を含む広範な分野で、利用されつつある[1−11]。
【0005】
これらの材料の工業化に対する主な課題の1つは、分離すべき種々の組成の結晶性量子ドットを数百グラム超の量で単一のサイズ(<5% RMS)において調製する高処理能のオートメーションに適した再現性のある大量合成法を開発することにある[12−13]。
【0006】
半導体ナノ粒子コロイドを調製するための一般的な合成法は、大きな反応フラスコを用いて連続的なAr流の下、加熱マントルで240℃を超える操作を行うものである。この反応は、ナノ粒子の原料である前駆体を高温で速やかに注入することから始め、反応速度調節のため強く配位する配位子を添加することにより、成長を調節する。また、より限られた規模において、家庭用の電子レンジがナノ粒子の合成に使用されてきた[14−19]。この高温法は、次のいくつかの理由から、工業規模への拡張や迅速なナノ材料の発見に制約因子を負わせるものである。(1)バッチ間でのランダムなばらつき(例えば昇温速度や熱不安定性)、(2)個々の反応の調製に必要な時間と費用、(3)装置用途に対して低い生成物の収率。
【0007】
当該分野における最近の進歩により、より良い反応物質(例えば、単一源の無機前駆体、金属塩、および酸化物)、より良いパッシバント(passivant)(不動態化剤)(例えば、アミン類および非配位性溶媒)、およびより良い反応技術(例えば、サーマルフロー反応器)が開発されてきたが、反応は依然として再現性に制約がある。この問題は、反応時間中、制御が不十分になることにつながり、絶え間ない監視を必要とする。III−V族化合物半導体の場合、合成経路の成長速度は数日のオーダーである一方、II−VI族化合物半導体の場合、サイズの制御は非常に困難であり、反応を急速に冷却する能力に依存する。これらの場合、反応は、加熱速度、反応容器にわたる熱均一性、撹拌および迅速で均一な冷却に依存する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の概要)
上述した従来技術における制約を克服するため、そして、本明細書を読み理解することで明らかになるその他の制約を克服するため、本発明は、ナノ粒子(例えば量子ドット)の化学合成法を明らかにするものであり、それは、温度勾配の高い工程を備えるものであり、そして、大規模な生産、安全な生産、簡便な生産、再現性のある生産、およびエネルギー効率の高い生産を保証するものである。
【0009】
本発明において、無機ナノ粒子は、反応系の加熱を含むスキームにより合成される。昇温速度が高い加熱工程を含めることにより上述した制約を克服できることが明らかになった。従って、本発明を特徴づける重要な点は以下のとおりである。
【0010】
(1)加熱において高い昇温速度を備えるナノ粒子の合成法。
【0011】
(2)該加熱工程にマイクロ波照射を用いる上記方法。
【0012】
(3)反応物質全体中、モル比で最も多い量を占める主要構成成分の誘電率が20以下である上記方法。
【0013】
(4)マイクロ波の出力、反応温度、または添加物を介して反応物質、表面、または成長材料における動力学的障壁および熱力学的障壁を制御することにより、形成速度および成長工程を操作する上記方法。
【0014】
(5)理論量のイオン性液体を反応媒質に加えることによりナノ粒子の形成速度を高める上記方法。
【0015】
(6)本発明の結果を用いることにより繰り返し得られるナノ粒子の高い結晶性。
【0016】
本発明では、上述したナノ粒子の合成法に加えて、高ルミネッセンス(高発光性)のIII−V族半導体ナノ粒子(これは、CdSeおよびCdTeのようなII−VI族半導体ナノ粒子に比べて毒性が低い)とその調製の両方が開示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
以下の好ましい実施形態の説明において、実施形態の一部を構成する添付の図面を参照しながら、本発明の実施が可能な特定の実施形態を例証として説明する。当然のことながら、本発明の範囲を逸脱することなく、他の実施形態を利用することもでき、また、構成を変えることもできる。
【0018】
(1.反応系)
本発明において、ナノ粒子は、室温から高温に反応系を加熱することにより合成される。ここで反応系は、合成反応に必要な材料からなる閉じた系である。これらの材料のそれぞれを、以降、構成成分と呼ぶ。最も基本的な反応系において、唯一の構成成分は前駆体である。しかし一般的に構成成分は溶媒と前駆体である。該溶媒は、複数種の溶媒の混合物とすることができ、また、該前駆体も複数種の前駆体の混合物とすることができる。これらの成分は、均質にまたは不均質に分散させることができる。
【0019】
反応系の構成成分は、室温でまたは室温近くで混合され、そしてナノ粒子の合成のため加熱される。ここで室温近くは100℃未満である。
【0020】
(2.反応系の加熱および冷却)
本発明において、反応系の温度は、温度計、高温計、または熱電対のような装置によって一般的に監視される。本発明において明らかにされる反応は、(1)高い加熱速度で加熱すること、(2)高温(上昇させた温度)での安定化、および(3)高い冷却速度で冷却することの1つ以上を備えるものである。
【0021】
好ましい実施形態の1つの特徴として、反応系の加熱をマイクロ波照射により行う[20−23]。反応系の加熱は、マイクロ波の単独使用により行うことができ、あるいは、他の熱源(例えば油浴、マントルヒーター、またはバーナー)を利用して行うことができる。マイクロ波の周波数は一般的に2.45GHzであるが、これに限定されるものではない。集束マイクロ波を使用するほうが、非集束のものより好ましい。また、効率的な加熱のためには、単一モードのほうが多モード(マルチモード)より好ましい。反応系の昇温は、マイクロ波照射単独で行われるか、または、マイクロ波照射と他の熱源の利用とによって行われ、その間、加熱速度は、連続電源またはパルス電源によるマイクロ波の投入出力によって制御することができる。合成の各工程における平均加熱速度は、
(加熱終了時の温度(℃)−加熱開始時の温度(℃))/(加熱時間(分))
として定義される。
【0022】
本発明で示される合成スキームは、高い加熱速度の段階を一以上含む。ここで、高い加熱速度は、30℃/分以上の速度、より好ましくは32℃/分以上の速度、最も好ましくは34℃/分以上の速度を指す。平均加熱速度が30℃/分未満の場合、合成は、好ましくない特性(例えばより低い分散性またはより広いサイズ分布)のナノ粒子材料をもたらし得る。
【0023】
高温(上昇させた温度)で温度が安定している段階では、他の熱源を用いたまたは用いないマイクロ波照射による加熱を、空気もしくは水、氷、油、または極低温ガスの流れのような手段を用いた冷却とともに行い、該系に入る熱と該系から出る熱とをつりあわせて温度を一定に保つ。温度変化が無視できるほど反応系の熱容量が十分に大きい場合、熱の出入りがないように該系を単に放置しておくことで温度の安定化を達成することができる。ここで、安定な温度とは、温度変化が5℃/分以下である工程を指す。
【0024】
反応系の冷却は、標準的な手段(例えば、空気、水、氷、油、または極低温ガス)により該系から熱を除くことにより達成できる。マイクロ波照射を、他の熱源とともにまたは他の熱源なしで、この冷却工程を制御するため用いることができる。各冷却工程の平均冷却速度は、
(冷却開始時の温度(℃)−冷却終了時の温度(℃))/(冷却時間(分))
として定義される。
【0025】
本発明で示される合成スキームは、高い冷却速度の段階を1以上含む。ここで、高い冷却速度は、80℃/分以上の速度、より好ましくは85℃/分以上の速度、最も好ましくは90℃/分以上の速度を指す。平均冷却速度が80℃/分未満の場合、合成は、好ましくない特性(例えばより低い分散性またはより広いサイズ分布)のナノ粒子材料をもたらし得る。以降、この高い速度の冷却工程を急冷(クエンチング)と呼ぶことがある。従って、ナノ粒子を合成するための本発明の最も単純な実施形態は、3つの段階、すなわち、高速加熱、温度安定化、および高速冷却からなる。
【0026】
(3.反応系への添加物)
マイクロ波吸収材料を選択的に加熱することにより、速い加熱速度、および、化学反応を駆動する高い到達温度(すなわち、ナノ材料の形成工程において核形成のため重要な条件)を可能にする。さらに、それらは、反応経路における熱力学的障壁を克服し、より大きなナノ粒子の成長を可能にする。極性分子およびイオン性分子(例えば有機塩(またはイオン性液体)を含む添加剤は、吸収のための断面が大きく、一般に、非極性溶媒の加熱を促進するため、マイクロ波支援合成に用いられる。
【0027】
反応系の加熱速度および冷却速度を制御するため、添加剤を意図的に構成成分として該系に導入することができる。一般に、そのような添加剤の性質に制限はなく、有機材料または無機材料のいずれでもよい。添加剤は、反応系に均質にまたは不均質に分散させることができる。また、添加剤は、工程の最初から反応系に存在することができ、あるいは、反応過程の間に導入することができる。そのような添加剤の具体例には、グラファイト、炭化ケイ素、グリコール類、イオン性液体、臭化テトラブチルアンモニウム、モノアルキルグリコールエーテルおよびジアルキルグリコールエーテル、並びにコレステロール類がある。
【0028】
また、同じまたは異なるナノ粒子を合成するため、反応系に存在する前駆体に加えて、反応過程の間に同じまたは異なる前駆体をさらに導入してもよい。
【0029】
(4.反応系の主要構成成分)
上述したとおり、反応系は、1以上の構成成分を含む。主要構成成分は、最も大きなモル当量を有する成分である。本発明において、主要構成成分の誘電率は、20以下、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、最も好ましくは14以下である。誘電率が20を超える場合、該主要構成成分の極めて高い極性のため、系において前駆体の安定性が損なわれる可能性がある。添加剤は、その量がモル当量で主要構成成分よりも少ない限り、反応過程の前または間に系に導入することができる。
【0030】
(5.ナノ粒子)
本発明で示される方法により合成されるナノ粒子は、主に無機材料を含み、その直径はナノメートル(nm)のオーダーである。主要な結晶は、単結晶、多結晶、化学量論的変動による相分離を伴うもしくは伴わない合金、または後述するコア−シェル構造とすることができる。そのような結晶の平均直径は、分散性を保証するため、0.5〜100nm、好ましくは1〜20nm、より好ましくは2〜12nm、最も好ましくは2〜10nmである。そのような直径は、透過電子顕微鏡法(TEM)による特性解析を通じて決定することができる。そのような直径の決定に十分なコントラストの顕微鏡写真が得られない場合、例えば、構成原子が低原子番号のものである場合、代わりに、マトリックス補助レーザー脱離イオン化分光法、原子間力顕微鏡法(AEM)のような手法、あるいは、コロイド溶液に対して動的光散乱法または中性子散乱法のような手法をしばしば用いることができる。
【0031】
上述したナノ粒子のサイズ分布は限定されるものではないが、一般的に、その標準偏差は、±20%、好ましくは±15%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%である。サイズ分布が上記を超える場合、ナノ粒子はしばしばその最良の性能に対して望ましい物理的特性および化学的特性を示さない場合がある。ナノ粒子の結晶性(結晶化度)を調べるため一般的に使用される方法は、映進面欠陥および/または双晶形成を探すのに使用される暗視野透過電子顕微鏡法である。粉末X線回折は、反射ピークのピーク強度およびシェラー広がりを通じて結晶子のおよその直径および形状を明らかにする。また、zコントラスト透過電子顕微鏡法は、ナノ粒子合金中のドーパントイオンを映すため使用される。
【0032】
(6.半導体ナノ粒子の組成)
本発明で示される方法により合成されるナノ粒子が半導体である場合、その組成は限定されるものではないが、典型的な例には、14族の元素の単体(例えばC、Si、Ge、またはSn)、15族元素の単体(例えばP(黒リン))、16族元素の単体(例えばSeまたはTe)、14族元素の化合物(例えばSiC)、14族元素と16族元素の化合物(例えばGeS、GeSe、GeTe、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、またはPbTe)、並びにそれらの三元合金および四元合金(例えばGeSn1−xSe1−y(x=0〜1、y=0〜1))、13族元素と15族元素の化合物(例えばAlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、またはInSb)、およびそれらの三元合金および四元合金(例えばGaIn1−xAs1−y(x=0〜1、y=0〜1))、13族元素と16族元素の化合物もしくはそれらの合金(例えばGaS、GaSe、GaTe、InS、InSe、InTe、TlS、TlSe、TlTe)およびそれらの三元合金および四元合金(例えばGaIn1−xSe1−y(x=0〜1、y=0〜1))、13族元素と17族元素の化合物(例えばTlCl、TlBr、TlI)、12族元素と16族元素の化合物(例えばZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTe)およびそれらの三元合金および四元合金(例えばZnCd1−xSe1−y(x=0〜1、y=0〜1))、15族元素と16族元素の化合物(例えばAs、As、AsSe、AsTe、Sb、SbSe、SbTe、Bi、BiSe、BiTe)およびそれらの三元合金および四元合金、11族元素と16族元素の化合物(例えばCuO、CuO、AgS、およびCuSe)、11族元素と17族元素の化合物(例えばCuCl、AgBrおよびAuCl)、10族元素と16族元素の化合物(例えばNiS、PdSおよびPtSe)、9族元素と16族元素の化合物(例えばCoSe、RhSおよびIrSe)、8族元素と16族元素の化合物(例えばFeO、FeS、FeSe、およびRuS)、7族元素と16族元素の化合物(例えばMnO、MnS、MnSe、およびReS)、6族元素と16族元素の化合物(例えばCr、CrSe、およびMoS)、5族元素と16族元素の化合物(例えばVS、VSe、およびNbS)、4族元素と16族元素の化合物(例えばTiO、TiS、およびZrS)、2族元素と16族元素の化合物(例えばBeO、MgSおよびCaSe)、並びにカルコゲンスピネル類、チタン酸バリウム(BaTiO)がある。
【0033】
(7.コア−シェル構造)
本発明のナノ粒子の本体を形成する結晶はいわゆるコア−シェル構造とすることができ、そこにおいて、結晶は、内部コアと、結晶の物理的特性および化学的特性を修飾する外部シェルとを備える。そのようなシェルは、金属、半導体、または絶縁体であることが好ましい。半導体について好ましい材料の具体例には、13族元素と15族元素の化合物(例えばME(ここでM=B、Al、Ga、In、かつE=N、P、As、Sb))、および12族元素と16族元素の化合物(例えばMA(ここでM=Zn、Cd、Hg、かつA=O、S、Se、Te)、および2族元素と16族元素の化合物(例えばTA(ここでT=Be、Mg、Ca、Sr、Ba、かつA=O、S、Se、Te)がある。シェルのより好ましい材料の具体例には、III−V族化合物半導体(例えばBN、BAs、またはGaN)、II−VI族化合物半導体(例えばZnO、ZnS、ZnSe、CdS)、12族元素と16族元素の化合物(例えばMgSまたはMgSe)がある。
【0034】
(8.ナノ粒子のドーピング)
上記5項および6項で述べた組成物において、ナノ粒子の物理的特性および化学的特性を変えるため、微量の添加剤を意図的に添加することができる。そのようなドーピング材料の例として、Al、Mn、Cu、Zn、Ag、Cl、Ce、Eu、Tb、Er、またはTmがある。
【0035】
(9.ナノ粒子表面に存在する有機化合物)
本発明で示される方法により合成されるナノ粒子は、その表面に有機化合物を付着させることができる。有機化合物の表面への付着は、該有機化合物が表面に化学的に結合した状態として定義される。有機化合物とナノ粒子表面の間の結合の形態は限定されるものではないが、その具体例には、配位結合、共有結合、相対的に強い結合(例えばイオン結合)、または相対的に弱い相互作用を介するもの(例えばファンデルワールス力、水素結合、疎水性−疎水性相作用、または分子鎖のもつれ)がある。有機化合物は、一種または二種以上の混合物とすることができる。
【0036】
一般に、ナノ粒子表面に結合するため、有機化合物は、ナノ粒子表面への結合を形成する以下の配位性官能基によって構成される。典型的に、15族または16族の元素を含む配位性官能基が、上述した有機化合物を構成する。そのような官能基の具体例には、第一級アミン類、第二級アミン類、第三級アミン類、窒素多重結合を含む基(例えばニトリルまたはイソシアネート)、含窒素芳香族化合物のような窒素を含む基(例えばピリジンまたはトリアジン)、15族元素を含む官能基、例えばリンを含む基(例えば第一級ホスフィン、第二級ホスフィン、第三級ホスフィン、第一級ホスフィンオキシド、第二級ホスフィンオキシド、第三級ホスフィンオキシド、第一級ホスフィンセレニド、第二級ホスフィンセレニド、第三級ホスフィンセレニド、またはホスホン酸)、酸素を含む基(例えばヒドロキシル、エーテル、またはカルボキシル)、硫黄を含む基(例えばチオール、メチルスルフィド、エチルスルフィド、フェニルスルフィド、メチルジスルフィド、フェニルジスルフィド、チオ酸、ジチオ酸、キサントゲン酸、キサンテート、イソチオシアネート、チオカルバメート、スルホン、スルホキシド、またはチオフェン環)、16族元素を含む官能基、例えばセレンを含む基(例えば−SeH、−SeCH、−SeC)、またはテルルを含む基(例えば−TeH、−TeCH、−TeC)がある。これらの例の中で、好ましく使用されるものには、窒素を含む官能基(例えばピリジン環)、リンのような15族元素を含む官能基(例えば第一級アミン、第三級ホスフィン、第三級ホスフィンオキシド、第三級ホスフィンセレニド、またはホスホン酸)、酸素を含む官能基(例えばヒドロキシル、エーテル、またはカルボキシル)、または硫黄のような16族元素を含む官能基(例えばチオールまたはメチルスルフィド)がある。そのより具体的な例として、トリアルキルホスフィン類、トリアルキルホスフィンオキシド類、アルカンスルホン酸類、アルカンホスホン酸類、アルキルアミン類、ジアルキルスルホキシド類、ジアルキルエーテル、およびアルキルカルボン酸類がある。
【0037】
ナノ粒子表面に存在するこれらの有機化合物の詳細な配位化学は完全にわかっている訳ではないが、本発明において、ナノ粒子表面がこれらの有機化合物で覆われている限り、官能基は、その元の構造を維持していてもよいし、あるいは修飾されていてもよい。
【0038】
(10.ナノ粒子表面にある有機化合物の量)
本発明において、表面に存在する有機化合物の量は、ナノ粒子の種類およびその表面積(例えばそのサイズ)によって変わってくるが、適当な分離の後、ナノ粒子の全重量に対して、有機化合物は、一般的に1〜90重量%であり、また、化学的安定性のため、そして、溶媒や樹脂結合剤のような有機マトリックス中にナノ粒子を分散させるため、有機化合物は実用上重要であり、5〜80重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましく、15〜60重量%が最も好ましい。上述した有機物の組成は、例えば、種々の元素分析または熱重量分析(TGA)によって測定することができる。また、化学種および化学的環境に関する情報は、赤外(IR)分光または核磁気共鳴(NMR)によって得ることができる。
【0039】
(11.前駆体)
本発明で示される方法により合成されるナノ粒子が半導体である場合、2〜15族の元素から選択できるカチオン材料および15〜17族の元素から選択できるアニオン材料を前駆体として用いることができる。一種より多い材料を用いる場合、それらを合成反応の前に混合してもよいし、反応系に別々に導入してもよい。
【0040】
カチオン元素を含む半導体の前駆体の具体例には、2族元素のジアルキル化物(例えばジエチルマグネシウムまたはジ−n−ブチルマグネシウム)、2族元素のアルキルハロゲン化物(例えば塩化メチルマグネシウム、臭化メチルマグネシウム、ヨウ化メチルマグネシウム、塩化エチニルマグネシウム)、二ハロゲン化物(例えばヨウ化マグネシウム)、4族元素のハロゲン化物(例えば四塩化チタン(IV),四臭化チタン(IV)、または四ヨウ化チタン(IV))、5族元素のハロゲン化物(例えば二塩化バナジウム(II)、四塩化バナジウム(IV)、二臭化バナジウム(II)、四臭化バナジウム(IV)、二ヨウ化バナジウム(II)、四ヨウ化バナジウム(IV)、五塩化タンタル(V)、五臭化タンタル(V)、および五ヨウ化タンタル(V))、6族元素のハロゲン化物(例えば三臭化クロム(III)、三ヨウ化クロム(III)、四塩化モリブデン(IV)、四臭化モリブデン(IV)、四ヨウ化モリブデン(IV)、四塩化タングステン(IV)、四臭化タングステン(IV)、および四ヨウ化タングステン(IV))、7族元素のハロゲン化物(例えば二塩化マンガン(II)、二臭化マンガン(II)、および二ヨウ化マンガン(III)、8族元素のハロゲン化物(例えば二塩化鉄(II)、三塩化鉄(III)、二臭化鉄(II)、三臭化鉄(III)、二ヨウ化鉄(II)、および三ヨウ化鉄(III))、9族元素のハロゲン化物(例えば二塩化コバルト(II)、二臭化コバルト(II)、および二ヨウ化コバルト(II))、10族元素のハロゲン化物(例えば二塩化ニッケル(II)、二臭化ニッケル(II)、および二ヨウ化ニッケル(II))、11族元素のハロゲン化物(例えばヨウ化銅(I))、12族元素のジアルキル化物(例えばジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジ−n−プロピル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛、ジ−n−ブチル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、ジ−n−ヘキシル亜鉛、ジシクロヘキシル亜鉛、ジメチルカドミウム、ジエチルカドミウム、ジメチル水銀(II)、ジエチル水銀(II)、およびジベンジル水銀(II))、12族元素のアルキルハロゲン化物(例えば、塩化メチル亜鉛、塩化メチル亜鉛、ヨウ化メチル亜鉛、ヨウ化エチル亜鉛、塩化メチルカドミウム、および塩化メチル水銀(II))、12族元素の二ハロゲン化物(例えば塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化カドミウム、臭化カドミウム、ヨウ化カドミウム、塩化水銀(II)、塩化ヨウ化亜鉛、塩化ヨウ化カドミウム、塩化ヨウ化水銀(II)、臭化ヨウ化亜鉛、臭化ヨウ化カドミウム、および臭化ヨウ化水銀(II))、12族元素のカルボン酸塩(例えば酢酸亜鉛、酢酸カドミウム、および2−エチルヘキサン酸カドミウム)、12族元素の酸化物(例えば酸化カドミウムおよび酸化亜鉛)、13族元素のトリアルキル化物(例えばトリメチルホウ素、トリ−n−プロピルホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリメチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリ−n−ブチルガリウム(III)、トリメチルインジウム(III)、トリエチルインジウム(III)、およびトリ−n−ブチルインジウム(III))、13族元素のジアルキル一ハロゲン化物(例えば塩化ジメチルアルミニウム、塩化ジエチルアルミニウム、塩化ジ−n−ブチルアルミニウム、臭化ジエチルアルミニウム、ヨウ化ジエチルアルミニウム、塩化ジ−n−ブチルガリウム(III)、または塩化ジ−n−ブチルインジウム(III))、13族元素のモノアルキル二ハロゲン化物(例えば二塩化メチルアルミニウム、二塩化エチルアルミニウム、二臭化エチルアルミニウム、二ヨウ化エチルアルミニウム、二塩化n−ブチルアルミニウム、二塩化n−ブチルガリウム(III)、および二塩化n−ブチルインジウム(III))、13族元素の三ハロゲン化物(例えば三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三ヨウ化アルミニウム、三塩化ガリウム(III)、三臭化ガリウム(III)、三ヨウ化ガリウム(III)、三塩化インジウム(III)、三臭化インジウム(III)、三ヨウ化インジウム(III)、二塩化臭化ガリウム(III)、二塩化ヨウ化ガリウム(III)、塩化二ヨウ化ガリウム(III)、および二塩化ヨウ化インジウム(III))、13族元素のカルボン酸塩(例えば酢酸インジウム(III)および酢酸ガリウム(III))、14族元素のハロゲン化物(例えば四塩化ゲルマニウム(IV)、四臭化ゲルマニウム(IV)、四ヨウ化ゲルマニウム(IV)、二塩化スズ(II)、四塩化スズ(IV)、二臭化スズ(II)、四臭化スズ(IV)、二ヨウ化スズ(II)、四ヨウ化スズ(IV)、二塩化二ヨウ化スズ(IV)、四ヨウ化スズ(IV)、二塩化鉛(II)、二臭化鉛(II)、および二ヨウ化鉛(II))、14族元素の水化物(例えばジフェニルシラン)、15族元素のトリアルキル類(例えばトリメチルアンチモン(III)、トリエチルアンチモン(III)、トリ−n−ブチルアンチモン(III)、トリメチルビスマス(III)、トリエチルビスマス(III)、およびトリ−n−ブチルビスマス(III))、15族元素のモノアルキルハロゲン化物(例えば二塩化メチルアンチモン(III)、二臭化メチルアンチモン(III)、二ヨウ化メチルアンチモン(III)、二ヨウ化エチルアンチモン(III)、二塩化メチルビスマス(III)、および二ヨウ化エチルビスマス(III))、15族元素の三ハロゲン化物(例えば三塩化ヒ素(III)、三臭化ヒ素(III)、三ヨウ化ヒ素(III)、三塩化アンチモン(III)、三臭化アンチモン(III)、三ヨウ化アンチモン(III)、三塩化ビスマス(III)、三臭化ビスマス(III)、および三ヨウ化ビスマス)などがある。
【0041】
14族元素の半導体(例えばSi、Ge、またはSn)のナノ粒子を合成するため、14族元素のハロゲン化物(例えば四塩化ゲルマニウム(IV)、四臭化ゲルマニウム(IV)、四ヨウ化ゲルマニウム(IV)、二塩化スズ(II)、四塩化スズ(IV)、二臭化スズ(II)、四臭化スズ(IV)、二ヨウ化スズ(II)、二ヨウ化スズ(IV)、二塩化二ヨウ化スズ(IV)、四ヨウ化スズ(IV)、二塩化鉛(II)、二臭化鉛(II)、および二ヨウ化鉛(II))、または14族元素の水素化物および/またはアルキル化物(例えばジフェニルシラン)を前駆体として用いることができる。
【0042】
半導体の前駆体として使用できるアニオン化合物の具体例には、15〜17族の元素(例えばN、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、Te、F、Cl、Br、およびI)、15族元素の水素化物(例えばアンモニア、ホスフィン(PH)、アルシン(AsH)、およびスチビン(SbH))、周期律表の15族元素のシリル化物(例えばトリス(トリメチルシリル)アミン、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン、およびトリス(トリメチルシリル)アルシン)、16族元素の水素化物(例えば硫化水素、セレン化水素、およびテルル化水素)、16族元素のシリル化物(例えばビス(トリメチルシリル)スルフィドおよびビス(トリメチルシリル)セレニド)、16族元素のアルカリ金属塩(例えば硫化ナトリウムおよびセレン化ナトリウム)、カルコゲン化トリアルキルホスフィン(例えば硫化トリブチルホスフィン、硫化トリヘキシルホスフィン、硫化トリオクチルホスフィン、セレン化トリブチルホスフィン、セレン化トリヘキシルホスフィン、およびセレン化トリオクチルホスフィン)、17族元素の水素化物(例えばフッ化水素、塩化水素、臭化水素、およびヨウ化水素)、並びに17族元素のシリル化物(例えば塩化トリメチルシリル、臭化トリメチルシリル、およびヨウ化トリメチルシリル)などがある。これらの中で、反応性、安定性、および取り扱いの観点から、好ましい材料は、15〜17族の元素材料(例えばリン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルル、およびヨウ素)、15族元素のシリル化物(例えばトリス(トリメチルシリル)ホスフィンおよびトリス(トリメチルシリル)アルシン)、16族元素の水素化物(例えば硫化水素、セレン化水素およびテルル化水素)、16族元素のシリル化物(例えば硫化ビス(トリメチルシリル)およびセレン化ビス(トリメチルシリル))、16族元素のアルカリ金属塩(例えば硫化ナトリウムおよびセレン化ナトリウム)、カルコゲン化トリアルキルホスフィン(例えば硫化トリブチルホスフィン、硫化トリヘキシルホスフィン、硫化トリオクチルホスフィン、セレン化トリブチルホスフィン、セレン化トリヘキシルホスフィン、およびセレン化トリオクチルホスフィン)、17族元素のシリル化物(例えば塩化トリメチルシリル、臭化トリメチルシリル、およびヨウ化トリメチルシリル)などである。上記の中で、より好ましく用いられる材料は、15および16族の元素材料(例えばリン、ヒ素、アンチモン、硫黄、およびセレン)、15族元素のシリル化物(例えばトリス(トリメチルシリル)ホスフィンおよびトリ(トリメチルシリル)アルシン)、16族元素のシリル化物(例えば硫化ビス(トリメチルシリル)およびセレン化ビス(トリメチルシリル))、16族元素のアルカリ金属塩(例えば硫化ナトリウムおよびセレン化ナトリウム)、カルコゲン化トリアルキルホスフィン(例えば硫化トリブチルホスフィン、硫化トリオクチルホスフィン、セレン化トリブチルホスフィン、およびセレン化トリオクチルホスフィン)などである。
【0043】
4〜13族(Au、Ag、Fe、Ni、Co、Pt、Pd、Cu、Hg、In、NiPt、FePt、FeCoを含む)の金属ナノ粒子用前駆体の具体例には、金に対して金酸、クロロカルボニル金(I)、および塩化金(I)があり、銀に対して酢酸銀(I)、硝酸銀(I)、塩化銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)、および硫酸銀があり、鉄に対して(IIまたはIIIの酸化状態として)塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、カルボニル鉄(0)、酢酸鉄、鉄アセチルアセトナート、ヘキサピリジン鉄、ヘキサミン鉄、ステアリン酸鉄、パルミチン酸鉄、スルホン酸鉄、硝酸鉄、ジチオカルバミン酸鉄、ドデシル硫酸鉄、およびテトラフルオロホウ酸鉄があり、ニッケルに対して硝酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、カルボニルニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、ニッケル(II)アセチルアセトナート、ヘキサピリジンニッケル(II)、ヘキサミンニッケル(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、パルミチン酸ニッケル(II)、スルホン酸ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、ジチオカルバミン酸ニッケル(II)、ドデシル硫酸ニッケル(II)、およびテトラフルオロホウ酸ニッケル(II)があり、コバルトに対して硝酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、ヨウ化コバルト(II)、カルボニルコバルト(II)、酢酸コバルト(II)、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ヘキサピリジンコバルト(II)、ヘキサミンコバルト(II)、ステアリン酸コバルト(II)、パルミチン酸コバルト(II)、スルホン酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、ジチオカルバミン酸コバルト(II)、ドデシル硫酸コバルト(II)、およびテトラフルオロホウ酸コバルト(II)があり、白金に対して硝酸白金(II)、塩化白金(II)、臭化白金(II)、ヨウ化白金(II)、カルボニル白金、酢酸白金(II)、白金(II)アセチルアセトナート、ヘキサピリジン白金(II)、ヘキサミン白金(II)、ステアリン酸白金(II)、パルミチン酸白金(II)、スルホン酸白金(II)、硝酸白金(II)、ジチオカルバミン酸白金(II)、ドデシル硫酸白金(II)、およびテトラフルオロホウ酸白金(II)があり、パラジウムに対して硝酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、ヨウ化パラジウム(II)、カルボニルパラジウム、酢酸パラジウム(II)、パラジウム(II)アセチルアセトナート、ヘキサピリジンパラジウム(II)、ヘキサミンパラジウム(II)、ステアリン酸パラジウム(II)、パルミチン酸パラジウム(II)、スルホン酸パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、ジチオカルバミン酸パラジウム(II)、ドデシル硫酸パラジウム(II)、およびテトラフルオロホウ酸パラジウム(II)があり、銅(IまたはII酸化状態)に対して硝酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、銅カルボニル、酢酸銅、銅アセチルアセトナート、ヘキサピリジン銅、ヘキサミン銅、ステアリン酸銅、パルミチン酸銅、スルホン酸銅、硝酸銅、ジチオカルバミン酸銅、ドデシル硫酸銅、およびテトラフルオロホウ酸銅があり、水銀に対してジメチル水銀(0)、ジフェニル水銀(0)、酢酸水銀(II)、臭化水銀(II)、塩化水銀(II)、ヨウ化水銀(II)、および硝酸水銀(II)があり、インジウムに対してトリメチルインジウム(III)、二塩化インジウム(III)、三塩化インジウム(III)、三臭化インジウム(III)、および三ヨウ化インジウム(III)がある。
【0044】
(12.溶媒)
誘電加熱下でのナノ粒子形成に対する溶媒の効果には次の2つがある。(1)溶媒は、反応物質が生成物を形成するためのマトリックス(基質、母材)を提供する。(2)本質的に反応マトリックスを加熱するマイクロ波を吸収する能力を有する。このマトリックス効果は、非配位性または配位性のものとすることができる。非配位性は、ナノ粒子形成中、溶媒が前駆体分子または中間複合体と結合を形成しないこと(それは通常官能基を有していない)を意味する。配位性は、ナノ粒子形成中、溶媒が前駆体分子および中間体と結合を形成することを意味する。
【0045】
ナノ粒子形成用の非配位性溶媒は、通常、長鎖高沸点のアルカン類およびアルケン類(例えばヘキサデカン、オクタデカン、エイコサン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、および1−エイコセン)からなる。典型的な配位性溶媒は、長鎖(6〜20炭素の骨格)アルキルアミン類(第一級、第二級、および第三級)、カルボン酸類、スルホン酸類、ホスホン酸類、ホスフィン類、およびホスフィンオキシド類からなる。
【0046】
溶媒がマイクロ波を吸収する能力は、その双極子モーメントに大きく依存する。双極子モーメントは、2つの電荷の距離とその電荷の大きさとの積として定義される。従って、配位性溶媒が溶媒として使用されるとき、それは、定義に従って低い双極子モーメントを有する非配位性溶媒よりも、より速く溶液全体を加熱する能力が高いものである。トリオクチルホスフィンオキシドの加熱速度(760℃/分)を1−アミノヘキサデカンの加熱速度(30℃/分)と比較すると、トリオクチルホスフィンオキシドは、電気エネルギーをより効率的に熱に変換していることになる。これらをテトラデカンの加熱速度(12℃/分)と比較すると、溶媒の選択は、溶液全体に熱を伝える速度に大きく影響することがわかる。
【0047】
トリオクチルホスフィンオキシドのような強くマイクロ波を吸収する溶媒に対して加熱速度を落とす1つの方法は、入射するマイクロ波の出力を下げることである。このことは、特定のナノ粒子形成に適合するように昇温速度を調整することを可能にする。
【0048】
ナノ粒子合成のための溶媒誘電加熱速度の実用的なレベルは、いくつかの因子(誘電率、溶媒の体積、およびその沸点)に依存することになる。非極性溶媒(例えばC〜C20直鎖アルカン類)に対し、加熱速度は低く、5mlの溶媒について300Wの入射出力である。
【0049】
例えば、過熱した非配位性工業用オクタンは、10気圧の圧力、300W、15分の加熱後、147℃の安定状態(プラトー)に達する。しかし、CdおよびSeのモノマー(57mM)が存在する場合、オクタンの過熱は、300Wの入射マイクロ波出力、15気圧の圧力、6分で、250℃という高いナノ粒子形成温度に到達することができる。
【0050】
高圧での最大維持温度に関し、沸点がより低いアルカンは、より低い安定到達温度(プラトー温度)を有する。沸点がより高いアルカンは、アルカン類の中で、より短時間でより高い温度を達成することができる。5mlの工業用テトラデセンを300Wで誘電加熱する場合、それは13分で250℃に達することができる。
【0051】
一般的に配位性溶媒は、そのより高い沸点と官能基のおかげで、より低い圧力でより速く暖まる。例えば、5mlの工業用ヘキサデシルアミンは、1気圧の圧力、300Wにおいて11分で280℃に誘電加熱することができる。同様に、トリオクチルホスフィンオキシドは、1気圧の圧力において15秒で280℃に誘電加熱することができる。
【0052】
(13.イオン性液体)
イオン性液体(IL)は、ナノ粒子のマイクロ波支援形成に非常によく適合する。溶液全体を速やかに加熱するイオン性液体の作用は、マイクロ波と協同して電磁エネルギーを熱に変えるその選択的能力に起因し得る。イオン性液体の存在下におけるより高い加熱速度の作用は、ナノ粒子成形において微視的な反応温度の上昇をもたらす。マイクロ波の出力により動力学的障壁を克服することができる一方、イオン性液体の添加により反応における熱力学的障壁が克服される。図1に示すとおり、このことは、II−VI族材料についての成長相の間、活性化障壁を越えるのに重要となることである。さらにILは、ナノ粒子のためのユニークなパッシバントとして用いることができる。本明細書に記載する全てのナノ粒子組成に対し、適当な選択を利用することができる。
【0053】
有機合成の文献が示してきたところは、イオン性液体が、ヘキサン、トルエンおよびベンゼンのような非極性溶媒の加熱を促進するため利用できるということである。溶媒に比べてイオン性液体は低い濃度で高い誘電加熱を行えるため、溶液の微視的温度の上昇がもたらされる。従って、ナノ粒子中間体または成長するナノ粒子の表面に配位結合しないカチオン/アニオンの対を選択することにより、それを傍観的で微視的な熱源として役立たせることができると考えられる。単純なイオン性液体である1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリドの使用により、ヘキサデシルアミン中においてCdSe前駆体の加熱速度が高められ、ナノ粒子の形成速度が高められることが実証されている。
【0054】
非極性分子の誘電加熱は、無機材料の合成に共通するのみならず、有機合成化学においても一般的なテーマである。医薬品の工業化のため大容量のベンゼン、トルエンまたはヘキサンを加熱することは、非極性マトリックスの加熱に関する研究をもたらしている。電磁エネルギーを熱に変換するイオン性液体の能力により、新しいイオン性液体の発見と溶液中でのその構造に関する研究が盛んになっている。
【0055】
一連の利用可能なILは、既存の有機化合物一覧集において見出すことができる。通常、カチオン類(例えば、イミダゾリウム、ホスホニウム、ピリジニウム、アンモニウム、スルホニウム、ピコリニウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、ピラゾリウム、セレノリウム、テルロニウム)からなるイオン性液体、およびその一連の置換種を、反応の制御に利用する。ILの選択は、ナノ粒子表面(パッシベーション)または成分および/若しくは成長するナノ粒子の反応性(微視的加熱)に対し微視的反応制御を行う必要性によって変わる。成分の反応性および成長するナノ粒子の表面パッシベーションに関係するルイス酸性度および塩基性度は、対イオンの選択によって調整することができる。強いルイス塩基は、パッシバント様の挙動を高める一方、立体障害(すなわちテトラアルキルアンモニウム塩)は微視的温度を上昇させる。対イオンの選択は、簡単のものとしてハロゲン化物とすることができ、少し複雑なものとして長鎖により誘導体化した硫酸塩またはリン酸塩などとすることができる。本実験において、簡単なイオン性液体である1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを用いることにより、ヘキサデシルアミンの加熱速度およびCdSeナノ粒子の形成速度が大きく向上することが明らかにされている。それは、III−V族、すなわちInPには有効ではない。
【0056】
誘電率が類似するため、1−アミノオクタン、1−アミノドデカン、および1−アミノヘキサデカンのような純粋なアルキルアミン溶媒についての加熱速度は、非極性アルカン類と同等である。イオン性液体である1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加すると、溶液の加熱速度は、イオン性液体に対する大きなマイクロ波断面のため、飛躍的に増加する。溶液全体を速やかに加熱するイオン性液体の作用は、マイクロ波と協同して電磁エネルギーを熱に変えるその選択的能力に起因し得る。イオン性液体の存在下におけるより高い加熱速度の作用は、ナノ粒子の形成時に微視的な反応温度の上昇をもたらし、II−VI族材料のための成長段階において活性化障壁を乗り越えるため重要である。
【0057】
(14.III−V族半導体ナノ粒子)
本発明はさらに高ルミネッセンス(高発光性)III−V族半導体ナノ粒子を提供し、そして、その製造方法を提供する。III−V族半導体ナノ粒子は、該材料の量子サイズ効果のため、大きく注目されており、それらは、フレキシブルな化学プロセスの可能な候補であり、そして、II−VI族半導体ナノ粒子より毒性の低いものである。しかし、III−V族半導体ナノ粒子の量子効率は、フッ素化合物の処理後においても、最高で36%であることが報告されている[26]。従って、高発光性のIII−V族半導体ナノ粒子とその製造方法に強い関心が寄せられている。
【0058】
ここで開示されるナノ粒子は、III族の金属(または13族の元素、例えばAl、Ga、In)とV族の元素(または15族の元素、例えばN、P、As、Sb)の組合せからなり、40%以上の光ルミネッセンス量子効率を示すものである。好ましくは、ここに開示されるナノ粒子は、III族金属の二種以上とV族元素の一種とからなり、40%以上の光ルミネッセンス量子効率を示すものである。より好ましくは、ここに開示されるIII−V族半導体ナノ粒子の組成は、In(1−x)GaPとして表され、40%以上の光ルミネッセンス量子効率を示すものである。より高い量子効率のため、xの範囲は0<x≦0.2、好ましくは0.01≦x≦0.15、より好ましくは0.02≦x≦0.10である。上記量子効率は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。実用的観点から、量子効率が低ければ低いほど、ナノ粒子から十分な発光強度を得るため、より高い励起光強度が必要になる。
【0059】
本項で述べたナノ粒子の好ましい平均直径およびサイズ分布は、5項で述べたものと同じである。本項で述べたナノ粒子は、本開示の方法に従って調製される。
【0060】
(15.ナノ粒子のエッチングおよびナノ粒子の量子効率の評価)
ナノ粒子の光ルミネッセンス量子効率を高めるため、いくつかの技法、例えば、フッ化物によるエッチング、7項で述べたナノ粒子調製時のシェル形成、マイクロ波加熱を用いたナノ粒子合成、特定の種類の有機化合物によるナノ粒子表面の被覆などが適用される。フッ化物によるエッチングは、III−V族半導体ナノ粒子の量子効率を高めるため、一般的に用いられる。このエッチングは、文献[26]に記載されるように、UV/可視光を照射して撹拌しながらナノ粒子を含む溶液にフッ素イオン(フッ化物イオン)を含む溶液を添加することにより、行われる。この工程は、光化学エッチングとも呼ばれる。フッ素イオン溶液をナノ粒子溶液に添加した後、量子効率は時間の関数として高まる。一般に、溶液中のフッ素イオンが希薄であると、量子効率を上げるのにより時間がかかる。フッ素イオンの濃度を高めた場合、量子効率は速やかに向上する。例えば、フッ素化合物(フッ化物)はHF、NHF、(CHNF、(CNFなどである。
【0061】
ナノ粒子の量子効率は以下のように計算される。ローダミン6Gのエタノール溶液を参照溶液として調製する。450nmにおけるその吸光度を約0.1に調節する。その溶液の440nm励起による光ルミネッセンススペクトルを得る。440nmにおける吸光度が参照溶液の吸光度と同じになるよう、ナノ粒子の溶液を調製する。参照と同じパラメーターでその光ルミネッセンススペクトルを得る。以下の式を用いて相対的量子収率を算出する。
【0062】
φem=φ’em(I/I’)(A’/A)(n/n’)
式中、I(試料)およびI’(参照)は、積分された発光ピーク面積であり、A(試料)およびA’(参照)は、励起波長における吸光度であり、n(試料)およびn’(参照)は、溶媒の屈折率であり、そして、φ’emはローダミン6Gの量子効率(0.95)である。
【実施例】
【0063】
(16.実施例)
以降に示すとおり、本発明の実施形態を具体例によってより詳細に説明するが、その結果が本発明の要旨の範囲内であるかぎり、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0064】
原料試薬は、特に言及しない限り、市販の試薬を精製することなく用いた。
【0065】
(測定のための装置の構成、条件ほか)
(1)マイクロ波支援合成の構成
a.DISCOVERシステム、CEM Corporation、NC、米国
b.MILESTONE ETHOSシステム(連続電力およびパルス電力の供給)、Milestone Corporation、Monroe、CT、米国
(2)UV/可視光吸光分光法:CARY 50BIO WIN UV 分光計
(3)光ルミネッセンス分光法:CARY ECLIPSE 蛍光分光計
(4)X線回折法:SCINTAG X2粉末回折計
(5)透過電子顕微鏡法:JEOL 2010透過電子顕微鏡
(6)X線蛍光装置:Oxford Instruments−ED2000:高解像度EDXRF分析計。
【0066】
(一般的手順)
ナノ粒子反応の時間は280℃の最高温度において15分に最適化した。マイクロ波照射の作用下において、結晶性は、反応の温度と協同して照射出力に依存することが明らかになっている。マイクロ波反応器は、前駆体を室温(RT)または室温近くで調製することを可能にし、マイクロ波反応器のRT室にそれを導入する前に反応容器に充填することを可能にする。次いで積極的に冷却しながら反応容器を200℃〜300℃の温度に加熱する。マイクロ波反応器は2.45GHzで操作され、そして連続的フローまたはオートサンプラーシステムに適合させることができる。一体化した吸収検出器および蛍光検出器を組み込むことにより、高処理能で高体積の半導体ナノ粒子コロイドの調製が必要な用途に対し、反応の流れを連続的に監視することが可能になる。
【0067】
典型的な小規模合成(5ml以下)では、反応物質を高圧反応容器で混合し、そして、マイクロ波反応器のRT室に配置する。反応は所定のプログラムにより制御する。該所定のプログラムは、反応時間、温度、圧力、およびマイクロ波出力(ワット数)をリアルタイムに制御かつ監視するものである。これらの反応パラメーターは、材料のサイズ、純度、結晶度、および分散性を制御する。この合成プロトコルは、材料の再現可能な製造を可能にする。材料の分離および保存は、高圧反応容器の内部でそのまま行うことができ、それにより、材料を汚染物質(例えば酸素および水)にさらす恐れのある材料移動の工程を省くことができる。マイクロ波反応器のチャンバーにおけるテフロン(登録商標)ライナーは、長時間の高温に耐えるよう、典型的な市販の仕様から再設計した。反応容器は、テフロン(登録商標)隔壁を有する高圧アルミニウムクリンプ蓋がついた5mlバイアルからなる。全てのガラス器具類は使用する前に乾燥させた。全ての試薬は、標準的な無空気の操作法により取り扱った。
【0068】
典型的な大規模反応(5ml以上)では、反応物質を標準的な丸底フラスコ(Kirmax、PyrexまたはChemglass)に入れ、RT室に置き、必要な温度に達するまでデュアルマグネトロンにより連続出力またはパルス出力を照射する。
【0069】
(実施例1.単一の原料前駆体Li[Cd10Se(SPh)16]からのCdSeの調製)
Cumberland他[7]により、穏やかな配位性アルキルアミン溶媒の存在下、Li[Cd10Se(SPh)16]に基づく新規な単一の原料前駆体が、平均して720分の反応時間により2〜9nmのサイズ範囲のCdSe量子ドットを生成し得ることが示された。この単一の原料前駆体を用いて、ヘキサデシルアミン(HDA)の存在下、マイクロ波照射により瞬時にナノ粒子を生成させる。
【0070】
50gのHDAを110℃で真空下において脱気した。80mgのLi[Cd10Se(SPh)16]を反応容器に入れ、そして高圧クリンプキャップでシールした後、溶融し脱気したHDA(約70℃)4mlを添加した。反応容器をマイクロ波反応器のチャンバーに配置し、230℃に達するまで300ワットの出力で照射を行い、230℃に達した時点で出力を230ワットに下げた。この出力および温度を60分間維持した。60分で出力を切り、そして圧縮空気中を通過させることにより反応容器の潜熱を速やかに取り除いた。これにより単分散で4.5nm〜5.5nmのCdSeナノ粒子が生成した。これらの実験パラメーターの下、単により短い時間で反応をクエンチ(急冷)することでより小さなサイズのものを分離することができる。マイクロ波出力を250ワット、60分、230℃に上げることにより、図2に示すとおり、4.5nmより大きなサイズ(例えば5.5nm)を生成させることができる。図2において、線10および12はそれぞれ、230℃および230Wで合成した4.5nmCdSeの吸収および光ルミネッセンスを表しており、一方、線14および16はそれぞれ、230℃および250Wで成長させた5.5nmCdSeの吸収および光ルミネッセンスを表している。
【0071】
高い加熱速度:30℃/分
反応物質の主要構成成分(誘電率):ヘキサデシルアミン(2.71)[5]。
【0072】
(実施例2.単一の原料前駆体Li[Cd10Se(SPh)16]および1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリドからのCdSeの調製)
単一の原料前駆体Li[Cd10Se(SPh)16を用いてCdSeを調製した。635mgのLi[Cd10Se(SPh)16]および0.0448gの1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを90℃において45gの脱気した1−アミノヘキサデカンに添加することにより前駆体クラスターの保存溶液を調製した。この溶液をAr下で脱気し、5mlのアリコートを反応の前にマイクロ波反応バイアルに注入した。一連の反応を行い、そこにおいて、印加出力は160Wから400Wに増加させ、反応時間を3分に維持し、そして積極的な冷却により温度を210℃に固定した。
【0073】
誘電加熱の重要な特徴は、少量のイオン性液体によって微視的瞬間温度が達成できるということである。図1から第1励起子の立ち上がりが出力の増加とともに赤方偏移する(長波長側にずれる)ことが明らかである。すなわち、反応の微視的温度を上昇させることによって、マイクロ波中でCdSeナノ粒子を強制的に成長させることができる。このことは、反応混合物にイオン性液体を添加することにより達成される。ILが無機クラスターに対して1.1モル比で溶液中に存在する場合、加熱速度は3℃/秒から12℃/秒に増加する。
【0074】
(実施例3.CdNO3およびTOP:SeからのCdSeの調製)
CdとSeの保存溶液をそれぞれ別々に調製した。435mgの硝酸カドミウム四水和物を9.6mlのトリオクチルホスフィン(TOP)に溶解することによりカチオン溶液を調製した。この溶液を、真空下30分間100℃に加熱した。反応混合物をArにより3回脱気し、次いで後の使用のため室温に冷却した。182mgの200メッシュSe粉末を2.8mlのTOPに混合することによりアニオン溶液を調製した。配位性溶媒トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)を真空下110℃で3回脱気し、2時間の間Arで置換した。Cd(0.5ml)とSe(0.6ml)をテフロン(登録商標)シール反応バイアルで混合し、3.9mlの溶融したTOPO(約65℃)で希釈して5mlの溶液を調製した。反応容器を室温でマイクロ波反応器のチャンバーに入れた。300ワットを数秒間加え、その時点で温度が15秒間で40℃から230℃に上昇した。出力を40ワットに下げ、温度を250℃で8分間安定化させた。8分で出力を切り、反応を急冷(クエンチ)した。これにより、4.6nmのCdSeナノ粒子(図3に示すような励起子ピークの位置から見積もった)が得られた。図3において、線18および20はそれぞれ、硝酸カドミウムおよびセレン化トリオクチルホスフィンから成長したCdSeの吸収と光ルミネッセンスを表している。なお、ナノ粒子の直径は反応温度によって調整することができる
高い加熱速度:760℃/分
反応物質の主要構成成分(誘電率):TOPO(<20)
参考:TOPOに類似する材料の誘電率[24、25]
【0075】
【表2】

(実施例4.In(OAc)およびP(SiMeからのInPの調製)
文献の方法(例えば[9]の方法)に従って前駆体の保存溶液を調製した。酢酸インジウムとヘキサデカン酸の溶液をヘキサデセンにおいて調製した。In対ヘキサデカン酸のモル比は1対3に調整した。塩を100℃で溶解し、Inについて15.6mMの溶液を調製した。この温度で1時間、溶液を脱気し、Arで3回脱気した。86.1mMのトリス(トリメチルシリル)ホスフィンの保存溶液を乾燥ヘキサデセンにおいて調製した。
【0076】
InとPの前駆体を、50℃で10ml容量の反応容器において2:1の比で混合し、総量5mlの前駆体溶液を調製した。溶液が280℃の温度に達するまで300ワットの出力を反応容器に照射した。出力を下げて280ワットに維持した。この温度および出力を15分間維持し、それから反応を速やかに急冷(クエンチ)させた。
【0077】
高い加熱速度:30℃/分
反応物質の主要構成成分(誘電率):ヘキサデセン(2.1〜2.2)
(参考:1−トリデセンの誘電率は2.139である)
参考:ヘキサデカンに類似する材料の誘電率[24]
【0078】
【表3】

(実施例5.HFでエッチングされたIn(1−x)GaPナノ粒子(0<x<0.2)の調製とその光ルミネッセンス量子効率)
In(1−x)GaPナノ粒子(x=0、0.05、0.09、0.16)を例4に示す方法に従って合成した。ナノ粒子のGa濃度を調整するため、カチオン保存溶液中のInおよびGaの濃度をともに変えた。InGaPナノ粒子のGa濃度は、ICP−AEまたはX線蛍光法のいずれかにより測定した。強調すべきことは、エッチング工程の後にGa濃度がわずかに変化するということである。
【0079】
アセトン/メタノールによる沈澱により反応混合物から試料を分離し、そしてトルエン中に再度分散させた。この工程を2回行って確実に金属副生成物をナノ粒子溶液から分離した。該溶液の光学濃度を480nmにおいて0.09に調整した(QE標準化のため)。その後、50mgのヘキサデカン酸を5mlのナノ粒子/トルエン溶液と混合した。最後に、3μLの4.8%HF/ブタノールを各溶液に注入した。これらのナノ粒子を環境室内光、室温においてエッチングした。
【0080】
表1は、エッチング前のIn(1−x)GaPナノ粒子のGa濃度、エッチング前の量子効率、エッチング時間、およびエッチング後の量子効率の間の関係を示している。In(1−x)GaP(0<x≦0.2)の場合、エッチング後の量子効率は40%を超えている。x=0(InPナノ粒子)の場合、120分後の量子効率は28%であった。
【0081】
【表1】

(実施例6.In(OAc)、Ga(acac)、およびP(SiMeからのInGaPの調製)
文献[9]の方法を改変して保存溶液を調製した。酢酸インジウム(III)(0.700mmol)、ガリウム(III)2,4−ペンタンジオナート(0.070mmol)およびヘキサデカン酸(2.30mmol)をオクタデセンまたはヘキサデセンのいずれか50mlと混合した。溶液が透明になるまで混合物を160℃に加熱した。真空下この保存溶液の温度を110℃に下げ、Arで3回脱気した。
【0082】
4.8nmの量子ドットを得るため、オクタデセンを用いてカチオン保存溶液を調製し、シリンジにより50℃の反応容器においてカチオン:アニオンのモル比が2:1となるようトリス(トリメチルシリル)ホスフィンと混合した。この保存溶液5mlを10mlの密封反応器バイアル(CEM)に入れた。同様にして2.3nm量子ドットを調製したが、その保存溶液はヘキサデセンで調製した。
【0083】
反応器の温度および圧力を常時監視し、安全を確保するため、反応過程中圧力が1.7気圧を超えないようにした。昇温の出力レベルは300ワットであった。温度保持は280℃で15分間であり、反応中280ワットの出力レベルを維持した。分散度の調整を確実にするため、クエンチ(急冷)オスワルド成長法により、圧縮空気を用いて2分間で280℃から95℃に反応容器を急速に冷却した。前駆体の濃度に応じて、保持温度を達成するための昇温速度を4〜6分の範囲で変えた。このとき、加熱は、溶媒の加熱ではなく前駆体の直接的な誘電加熱から立ち上がるため、試料がより希薄なほど時間が長くかかった。これらの材料のサイズ制御は、反応物質中の構成成分の濃度を調節することにより行われた。
【0084】
高い加熱速度:32℃/分
反応物質の主要構成成分:オクタデセン(見積もられる誘電率は2.1〜2.2)。
【0085】
非配位性溶媒としてヘキサデセンを使用した場合、約2.3nmのInGaPが成長した。非配位性溶媒としてオクタデセンを使用した場合、4.8nmのナノ粒子が成長した。そのサイズは、図4Aおよび4Bに示すとおり、粉末X線回折ピークのシェラー(Scherrer)広がりより求めた。
【0086】
280℃、15分、280ワットで合成したInGaPナノ粒子について、図4Aはその吸収を示し、図4Bはその光ルミネッセンスを示す。線22および26は、非配位性溶媒としてヘキサデセン(HDE)を用いて合成したInGaPを示し、線24および28は、非配位性溶媒としてオクタデセンを用いて合成したInGaPを示している。
【0087】
特定のマイクロ波のIII−V族三元化合物の結晶成長に対する作用の重要な特徴は、結晶性(最終産物の光学特性)がマイクロ波の出力に依存するということである。出力を下げながら反応時間と温度を一定に保持すると、図5に示すように、低エネルギー欠陥発光が生じ始める。
【0088】
図5は、結晶性が出力に依存するInGaPの吸収と光ルミネッセンスを示している。230ワットの一定出力で合成したInGaPについて、図5の線30は吸収を示し、図5の線32は光ルミネッセンスを示す。一方、270ワットの一定出力で合成したInGaPについて、図5の線34は吸収を示し、図5の線36は光ルミネッセンスを示す。
【0089】
欠陥発光は、表面の空格子点または映進面欠陥に起因し得る。高品質の材料には高温が重要であるのみならず高出力が同様に必要であることがわかる。材料の構造評価により、InPバルクがせん亜鉛鉱形構造を有することがわかる。
【0090】
(17.処理工程)
図6は、本発明の好ましい実施形態に使用されるナノ粒子合成のための処理工程を示す流れ図である。典型的にこれらの工程は、単一の反応容器、連続流通反応器、または流通停止反応器を用いて行われる。
【0091】
ブロック38は、室温または室温近くにおいて1種以上の構成成分を調製する工程を示す。そこにおいて、構成成分は、ナノ粒子の形成速度を高めるイオン性液体を含んでおり、室温は100℃未満である。構成成分の主要な1つの誘電率は20以上が好ましい。
【0092】
ブロック40は、反応混合物を生成させるため、調製した構成成分を、高速加熱を用いて高温に加熱する工程示す。この加熱工程は、マイクロ波照射を用いて行うことが好ましく、高い加熱速度は30℃/分以上の速度であることが好ましい。
【0093】
ブロック42は、高温で反応混合物を安定化する工程を示す。高温は240℃を超えることが好ましい。
【0094】
ブロック44は、安定化された反応混合物を高速冷却を用いてある低下した温度に冷却する工程を示す。高い冷却速度は、125℃/分以上の速度であることが好ましい。
【0095】
図7は、本発明の好ましい実施形態に使用されるナノ粒子合成のための処理工程を示す説明図である。上述したように、反応器46は、典型的に単一の反応容器、連続流通反応器、または流通停止反応器を備える。反応物質48は構成成分を含む。構成成分は、例えば1種以上の前駆体50および52であり、該前駆体は、ナノ粒子となる成分、パッシバント54、および/または溶媒56を含む。矢印58は、ナノ粒子60を生成させる加熱/冷却工程を表す。ナノ粒子60の成長は、動力学的障壁および熱力学的障壁を出力、温度、時間、または添加剤によって調整することにより制御される。
【0096】
(18.参考文献)
【0097】
【表4】



(17.結論)
この項では、本発明の好ましい実施形態の説明を結論づける。以上をまとめると、本発明によれば、明らかに、高出力マイクロ波照射の下、ナノ粒子コロイドを速やかに合成することができ、構造上の完全性や光学的品質を犠牲にすることなく工業規模への拡大をもたらすことができる。
【0098】
上述した本発明の1以上の実施形態は、例示と説明を目的とするものであり、本発明を完全に網羅しようとするものでもなく、開示された形態そのものに本発明を限定しようとするものでもない。上記開示に照らして多くの修飾変更が可能である。本発明は、この詳細な説明によって限定されるべきものではなく、添付の請求の範囲に基づいて規定されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
以下図面について言及するが、図面全体にわたり相当する部分は同様の参照番号によって表されている。
【図1】印加出力に対して形成速度依存性を示すイオン性液体1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを含む一連の反応に対し、CdSeについて吸収と光ルミネッセンスを示すグラフである。
【図2】4.5nmおよび5.5nmのCdSeについて吸収と光ルミネッセンスを示すグラフである。
【図3】4.6nmのCdSeについて吸収と光ルミネッセンスを示すグラフである。
【図4】図4Aおよび4Bは、非配位性溶媒としてヘキサデセン(HDE)およびオクタデセンを用いて合成したInGaPナノ粒子の吸収と光ルミネッセンスを示すグラフである。
【図5】結晶性が出力に対して依存性を示すInGaPの吸収と光ルミネッセンスを示すグラフである。
【図6】本発明の好ましい実施形態に用いられる処理工程を示す流れ図である。
【図7】本発明の好ましい実施形態に用いられる処理工程の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を化学的に合成するための方法であって、
前駆体、パッシバント、および/または溶媒を反応器中に含む反応系の加熱工程であって、構成成分の温度を30℃/分以上で上昇させる、工程;
を包含する、方法。
【請求項2】
マイクロ波照射を前記加熱工程のために用いる、請求項1に記載のナノ粒子の化学合成法。
【請求項3】
主要な構成成分の誘電率が20以下である、請求項1に記載のナノ粒子の化学合成法。
【請求項4】
前記ナノ粒子が、金属ナノ粒子、半導体ナノ粒子または絶縁体ナノ粒子である、請求項1に記載のナノ粒子の化学合成法。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、その表面に有機化合物または無機化合物を付着させている、請求項1に記載のナノ粒子の化学合成法。
【請求項6】
ナノ粒子を合成するための方法であって、
1以上の構成成分を室温または室温近くで調製する工程;
反応混合物を生成させるため、該調製した構成成分を高速加熱を用いてある上昇させた温度へと加熱する工程;
該上昇させた温度において該反応混合物を安定化させる工程;および
該安定化した反応混合物を高速冷却を用いてある低下させた温度へと冷却する工程;
を包含し、
それによりナノ粒子を合成する、ナノ粒子の合成法。
【請求項7】
主要な構成成分の誘電率が20以下である、請求項6に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項8】
前記室温が100℃未満である、請求項6に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項9】
前記加熱する工程がマイクロ波照射を用いて行われる、請求項6に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項10】
前記高速加熱が30℃/分以上の速度を含む、請求項6に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項11】
前記高速冷却が80℃/分以上の速度を含む、請求項6に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項12】
前記ナノ粒子の成長は、出力、温度、時間、または添加剤により動力学的障壁および熱力学的障壁を調整することにより制御される、請求項6に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項13】
前記構成成分が、前記ナノ粒子の形成速度を高めるイオン性液体を含む、請求項6に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項14】
その後に前記ナノ粒子が室温での光化学エッチングにより処理される、請求項6に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項15】
前記ナノ粒子は、III〜V族半導体を含み、かつ40%以上の光ルミネッセンス量子効率を示す、請求項14に記載のナノ粒子の合成法。
【請求項16】
請求項1〜15のうちのいずれか一項の方法により成長されるナノ粒子。
【請求項17】
III〜V族半導体を含むナノ粒子であって、40%以上の光ルミネッセンス量子効率を示す、ナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−515746(P2008−515746A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532617(P2007−532617)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/033681
【国際公開番号】WO2006/034280
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(592130699)ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】