説明

コロイド結晶ゲル、その製造方法、および、それを用いた光学素子

【課題】 密閉構造を不要とするコロイド結晶ゲル、その製造方法、および、それを用いた光学素子を提供すること。
【解決手段】 本発明によるコロイド結晶ゲルは、高分子ゲル中に微粒子が自己組織的に周期配列されており、上記高分子ゲルにイオン液体が含有されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ゲル中に微粒子が自己組織的に周期配列されたコロイド結晶ゲル、その製造方法、および、それを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子が液体媒質に分散された微粒子分散液において、微粒子の単分散性(粒径の均一性)が高く、かつ、粒子体積分率が所定の値を上回ると、微粒子分散液中の微粒子(コロイド粒子)は、自己組織的に周期配列した状態をとることが知られている。このような状態にある微粒子分散液はコロイド結晶と呼ばれる。コロイド結晶は、電磁波に対するBragg反射能に起因する特異な特性(フォトニックバンドギャップの形成、光群速度の異常分散等)を発現することから、フォトニック結晶の性質を利用した光学素子への応用が期待されている。
【0003】
さらに、コロイド結晶中の微粒子の位置を、網目状高分子と液体媒質とからなる高分子ゲルで固定することによって、振動および温度変化等の環境からの外乱による粒子配列の乱れを抑制したコロイド結晶ゲルまたはゲル化コロイド結晶は公知である。中でも、本願発明者らは、液体媒質として有機溶媒を用いたコロイド結晶ゲルを開発した(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1によれば、有機溶媒として用いる多価アルコールは、水に溶解し、かつ、水の揮発性よりも低い揮発性を有するため、高分子ゲルが収縮することなく、水の蒸発によって生じるコロイド結晶ゲルの格子定数の変化が抑制され、長期的に安定な格子定数を有するコロイド結晶ゲルが提供できる。また、溶媒として二種以上の溶媒を用いることにより、粒子間ゲル組織の膨潤の程度(膨潤度)を調整し、格子定数の異なるコロイド結晶ゲルを提供できる。
【0005】
しかしながら、例え有機溶媒として多価アルコールを用いたとしても、蒸発を完全に0にすることはできず、長期間にわたる特性の維持に限界があった。そのため、特許文献1に記載のコロイド結晶ゲルを長期保存する場合には、過剰の溶媒に共存させておく必要があり、取扱が面倒であった。また、特許文献1のコロイド結晶ゲルを光学素子に採用する場合には、コロイド結晶ゲル中の溶媒の蒸発を抑制するために、複雑かつ高価な密閉構造が必要であった。さらに、二種以上の溶媒を用いた際には、溶媒の種類に応じて蒸気圧が異なるため、溶媒の比率が経時変化する。その結果、コロイド結晶ゲルの格子定数を維持することが困難であった。以上より、コロイド結晶ゲルの取扱およびこれを用いた光学素子の構成を簡便にするため、密閉構造を不要とするコロイド結晶ゲルおよびそれを用いた光学素子が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2006−124521号公報
【非特許文献1】北爪他著、コロナ社刊、イオン液体、ISBN4−339−06607−9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、密閉構造を不要とするコロイド結晶ゲル、その製造方法、および、それを用いた光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明1のコロイド結晶ゲルは、高分子ゲル中に微粒子が自己組織的に周期配列されており、前記高分子ゲルにイオン液体が含有されていることを特徴とする。
発明2は、発明1のコロイド結晶ゲルにおいて、前記微粒子の配列が接触充填状態であることを特徴とする。
発明3は、発明2のコロイド結晶ゲルにおいて、前記イオン液体は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメチルスルフォニルイミド、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムクロライド、および、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムジシアナミドからなる群から選択されることを特徴とする。
発明4は、発明1のコロイド結晶ゲルにおいて、前記微粒子の配列が非接触充填状態であることを特徴とする。
発明5は、発明4のコロイド結晶ゲルにおいて、前記イオン液体は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、および、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートからなる群から選択されることを特徴とする。
発明6は、発明1から5のいずれかのコロイド結晶ゲルを製造する方法であって、微粒子が自己組織的に周期配列された後に、前記高分子ゲルにイオン液体を含浸させることを特徴とする。
発明7は、発明6の方法において、前記イオン液体に加えて水を含む溶媒を含浸させ、前記含浸させた水を除去することを特徴とする。
発明8は、光の透過、反射、回折の制御又は周波数変換にコロイド結晶ゲルを用いる光学素子であって、前記コロイド結晶ゲルが、発明1から5の何れかのコロイド結晶ゲルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
近年、アニオンと有機カチオンとからなる有機塩であるイオン液体(またはイオン性液体ともいう)が注目されている(例えば、非特許文献1を参照)。イオン液体は、蒸気圧が実質的に0である、イオン性にも係わらず粘性が低い、耐熱性である、イオン伝導性が高い等の特徴を有する。本発明は、このような特徴を有するイオン液体を利用したものである。
【0010】
イオン液体を上記各発明の通りに用いることで、前述の本来の機能を損なうことなく、コロイド結晶ゲルに適用することに成功した。その結果、イオン液体により、長年の課題であった乾燥による問題を解決することができた。
【0011】
本発明のコロイド結晶ゲルを長期間保存する場合、および、これを光学素子に用いる場合であっても、コロイド結晶ゲル中の液体の蒸発を抑制するための密閉構造が不要となる。その結果、本発明のコロイド結晶ゲルの保存、および、これを用いた光学素子には、専用の密閉構造が不要となるので、取扱が簡便となることに加えて、既存の容器を適宜採用した安価な光学素子が提供される。さらには、光学素子の設計の自由度を飛躍的に向上させる。
【0012】
本発明によるコロイド結晶ゲルの製造方法によれば、既存の粒子がゲルによって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体を含浸させるステップを包含することを特徴とする。イオン液体に含浸させるだけでよいので、操作が簡便である。また、既存の装置を利用できるので、安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、同様の構成要素には同様の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明によるコロイド結晶ゲル100の模式図を示す。
【0015】
本発明によるコロイド結晶ゲル100は、粒子(微粒子とも呼ぶ)110と、網目状高分子120と、イオン液体130とからなる。なお、網目状高分子が液体媒質を含んだ状態のものを高分子ゲルという。ここで、液体媒質は水や有機溶媒やイオン液体などである。当然のことながら、粒子110は、結晶構造を構成する周期配列を成しており、結晶学の原理に基づいて光のBragg反射を示す。
【0016】
粒子110は、コロイド粒子とも呼ばれ、例えば、シリカ粒子、ポリスチレン粒子、高分子ラテックス粒子、二酸化チタン等の酸化物粒子、金属粒子、異なる材料を組み合わせた複合粒子であるが、これらに限定されない。なお、複合粒子とは、2種類以上の異なる材料(材質)を組み合わせて構成されており、例えば、一方の材料が他方の材料でカプセル化されて、1つの粒子を形成しているもの、一方の材料が他方の材料に貫入して1つの粒子を形成しているもの、半球状の異なる材料が結合して1つの粒子を形成しているもの等を意味する。
【0017】
粒子110の材料は、粒子110の屈折率と後述するイオン液体130の屈折率との差異から選択してもよい。粒子110の屈折率とイオン液体130の屈折率との差異が大きい場合(例えば、粒子110として屈折率1.59のポリスチレンを、イオン液体130として屈折率1.49の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを選択した場合)、ストップバンド(不透過帯)の半値幅の大きなコロイド結晶ゲルが得られる。粒子110の屈折率とイオン液体130の屈折率との差異が小さい場合(例えば、粒子110として屈折率1.46のシリカを、イオン液体130として屈折率1.49の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを選択した場合)、半値幅の小さいシャープな不透過帯を与えるコロイド結晶ゲルが得られる。このような材料の選択は、コロイド結晶ゲルが用いられる用途に応じて適宜選択され得る。
【0018】
網目状高分子120は、重合性の水溶性分子(モノマーまたはマクロマー)が重合によって形成した高分子が架橋によって三次元的ネットワーク構造を構成した網目状の高分子である。網目状高分子120は、上述の粒子110の位置を固定し、維持するように機能する。このような水溶性分子は、例えば、アクリルアミド、または、各種アクリルアミド誘導体(N−メチロールメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−アクリロイソアミノエトキシエタノール、N−アクリロイソアミノプロパノール、N−イソプロピルアクリルアミドなど)が使用可能であるが、これらに限定されない。なお、本明細書において、特に断りを入れない限り、「網目状高分子」とは、重合性の水溶性分子の重合体によって形成された網目状高分子を意図するものとすることに留意されたい。
【0019】
イオン液体130は、水および有機溶媒の代わりに分散媒(単に溶媒とも呼ぶ)として機能する。イオン液体130は、実質的に蒸気圧が0であるため、蒸発しない。そのため、本発明のコロイド結晶ゲル200を保管する場合、または、光学素子に用いる場合に、分散媒の蒸発を防ぐために、コロイド結晶ゲル200を密閉容器等の密閉構造に封止する必要はない。参考のため、表1に代表的なイオン液体とその特性(融点、動粘度、比重、屈折率、水との混和性、毒性)を示す。表1において「完全混和」とは、水との混和性が極めて良いことを示し、「部分混和」とは、水との混和性が悪いものの、一部混和することを示し、「非混和」とは、水と混和しないことを示す。
表1は種々のイオン液体の特性を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示されるように、イオン液体は各種特性を有する。例えば、HMIS健康有害性レーティングに着目すれば、人体および環境への影響が懸念される状況下では、イオン液体の中でもレーティングの低いものを採用することが好ましい。イオン液体は、用途、必要な特性に応じて選択されるが、表1に示すイオン液体は例示であってこれに限定されないことは言うまでもない。
【0022】
次に、本発明によるコロイド結晶ゲルの種々の状態を説明する。
【0023】
図2は、本発明による種々の状態にあるコロイド結晶ゲルの模式図を示す。
【0024】
図2(A)は、接触充填状態にあるコロイド結晶ゲル210を示す。図2(B)および図2(C)は、いずれも非接触充填状態にあるコロイド結晶220および230を示す。
【0025】
(I)接触充填状態にあるコロイド結晶ゲル
図2(A)のコロイド結晶ゲル210は、粒子110同士が互いに接触している、または、実質的に接触しているように配列した密充填の構造を模式的に示している。このような密充填の状態を接触充填状態とよぶ。
【0026】
コロイド結晶ゲルが接触充填状態であるか否かは、粒子体積分率から判別できる。同一粒径の剛体球状粒子が接触して最密充填構造をとる場合は、理論的に粒子体積分率は74%であることが知られている。実際の判定基準としては、理論的な最密充填状態より、粒子間距離が10%程度大きなところまでは、「実質的に接触している」とするのが現実的である。この場合の粒子体積分率は約55%である。そこで、本明細書において、粒子体積分率が55%以上である場合を接触充填状態と判定する。ここで、粒子体積分率の上限は、イオン液体が含有される限り、74%に限らない。これは、粒子が変形し、潰れることによって粒子体積分率が74%以上の充填状態になることがあり得るためである。なお、このような状態もまた接触充填状態として扱うのが適当である。イオン液体を含浸させたコロイド結晶ゲルの粒子体積分率は、イオン液体含浸前の出発状態のコロイド結晶ゲルからの体積変化から容易に決定できる。出発状態のコロイド結晶ゲルの粒子体積分率は、作製条件から決めておくことができる。
【0027】
接触充填状態にあるコロイド結晶ゲル210は、粒子110同士が(実質的に)接触しており、その間隙に網目状高分子120が位置する。イオン液体130は、網目状高分子120に浸透した状態で存在する。その結果、接触充填状態にあるコロイド結晶210においても、分散媒の蒸発が抑制されるので、コロイド結晶ゲル210の蒸発による特性変化を生じ得ない。
【0028】
接触充填状態にあるコロイド結晶ゲル210におけるイオン液体130は、好ましくは、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメチルスルフォニルイミド、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムクロライド、および、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムジシアナミドからなる群から選択される。これらのイオン液体は水との混和性が悪いため、水溶性分子からなる網目状高分子120との親和性が悪く、網目状高分子120が収縮するように機能する。
【0029】
このようなコロイド結晶ゲル210は、粒子110の周期配列による光の回折に基づく構造色を示す。このような構造色を利用して、コロイド結晶ゲル210は色材またはセンサに適用可能である。また、フォトニック結晶としての性質である、特定周波数を有する光の閉じ込め効果、または、複雑なフォトニックバンド構造に基づく周波数変換効果を利用した、レーザ素子としても適用され得る。
【0030】
上述したように粒子110が密充填で配列されているため、コロイド結晶ゲル210は変形しにくく、安定である。したがって、接触充填状態にあるコロイド結晶210は、とりわけ、堅さが要求される環境下で使用する場合に好適である。また、網目状高分子120に、空気ではなくイオン液体130が浸透されているので、空隙などの構造欠陥の屈折率変化が小さい。その結果、構造欠陥による散乱を抑制した光学素子を提供できる。
【0031】
(II)非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲル
図2(B)のコロイド結晶ゲル220および図2(C)のコロイド結晶ゲル230、すなわち、図2(A)以外の状態にあるコロイド結晶ゲルは、いずれも、粒子110が周期的に配列した構造であるが、粒子110は互いに非接触である。このような状態を非接触充填状態と呼ぶ。コロイド結晶ゲルが非接触充填状態であるか否かは、上述したように、粒子体積分率が55%未満であるか否かにより判別することができる。
【0032】
非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲル220、230におけるイオン液体130は、好ましくは、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、および、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートからなる群から選択される。これらのイオン液体は水との混和性が良いため、網目状高分子120と親和し、網目状高分子120が膨張するように機能する。
【0033】
図2(B)および図2(C)に示されるように、非接触充填状態にあるコロイド結晶の格子定数(例えば、d、d)は、接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルのそれ(例えば、d)よりも大きい(d、d>d)。すなわち、非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルは、接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルでは達成できないより長波長領域の光学特性(Bragg波長、ストップバンド)を発現する。
【0034】
図2(B)および図2(C)に示されるように、コロイド結晶ゲル220の格子定数dとコロイド結晶ゲル230の格子定数dとは、異なっており、関係d<dである。このように格子定数が異なる状態は、粒子体積分率が異なることを意味する。非接触充填状態のコロイド結晶ゲルであっても粒子体積分率が異なることにより、光学特性が異なる。具体的には、図2の下図に模式的に示すように、格子定数がdからdへと広がると、透過スペクトルの不透過帯の波長(すなわち、ストップバンド)がλからλへとシフトする。本発明によれば、分散媒としてイオン液体130を用いることにより種々の粒子体積分率(すなわち、種々の格子定数)を有するコロイド結晶ゲルを提供することができる。
【0035】
次に、粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルの構造について図2を参照してさらに詳述する。粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルは、(i)イオン液体の選択または組み合わせによって、または、(ii)含有されるイオン液体の量を制御することによって達成される。それぞれの場合について、図2を参照して説明する。ここで、図2(B)のコロイド結晶ゲル220の粒子体積分率は、図2(C)のコロイド結晶ゲル230の粒子体積分率よりも大きいものとする。
【0036】
(i)イオン液体の選択および組み合わせにより粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルについて
一定重量(溶媒を除いた重量)の網目状高分子120が内部に溶媒を含有して膨潤するとき、含有保持し得る溶媒(分散媒)量には上限がある。したがって、上限以上の溶媒と共存させてもコロイド結晶ゲルの体積は増加しない。このような飽和した膨潤状態を飽和膨潤状態と呼ぶ。また、飽和膨潤状態になるのに必要な溶媒量を飽和膨潤量と呼ぶ。当然のことながら、飽和膨潤状態にあるコロイド結晶ゲルは、それ以上膨潤しない、すなわち最大膨潤度を有する。
【0037】
しかしながら、飽和膨潤量はイオン液体の網目状高分子120に対する親和性(あるいは膨潤性)に応じて異なる。したがって、イオン液体の種類を適宜選択および/または組み合わせることにより、飽和膨潤状態であっても、コロイド結晶ゲルの体積を調整して、種々の粒子体積分率を有するコロイド結晶ゲルを得ることができる。
【0038】
ここで、図2(B)のコロイド結晶ゲル220は、大きな粒子体積分率を有し、かつ、飽和膨潤状態にあるとする。一方、図2(C)のコロイド結晶ゲル230は、コロイド結晶ゲル220に比較して相対的に小さな粒子体積分率を有し、かつ、飽和膨潤状態にあるとする。図2(B)のコロイド結晶ゲル220の場合、イオン液体130は、網目状高分子120に対する親和性(あるいは膨潤性)の低いイオン液体と親和性の高いイオン液体の組み合わせである。一方、図2(C)のコロイド結晶ゲル230の場合、イオン液体130は、網目状高分子120に対する親和性(あるいは膨潤性)が高いイオン液体であるか、または、親和性の低いイオン液体と親和性が高いイオン液体と組み合わせである。
【0039】
本発明によれば、イオン液体は実質的に蒸気圧が0であるため、異なる種類のイオン液体を適宜組み合わせて用いても、いずれのイオン液体も蒸発しないので、分散媒の蒸発に起因する組み合わせの混合比率の変化は生じない。すなわち、格子定数の変化は生じない。
【0040】
このようなイオン液体130の選択の一例は、図2(C)のコロイド結晶ゲル130として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートがある。
【0041】
一方、組み合わせおよび混合比率の一例は、図2(C)のコロイド結晶ゲル230を満たすイオン液体130として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートおよび1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドを9:1の比で組み合わせ、図2(B)のコロイド結晶ゲル220を満たすイオン液体130として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートおよび1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドを1:1の比で組み合わせる。なお、この選択および組み合わせは一例に過ぎず、当業者であればその改変は容易である。また、組み合わせは2種以上であってもよい。
【0042】
当然のことながら、イオン液体130の選択および組み合わせによっては、図2(B)のコロイド結晶ゲル220よりも粒子体積分率が大きく、かつ、図2(A)のコロイド結晶ゲル210よりも小さな粒子体積分率を有する飽和膨潤状態にあるコロイド結晶ゲルを得られることは言うまでもない。したがって、イオン液体130の選択および組み合わせを取捨選択することにより、コロイド結晶ゲルの格子定数を任意に制御(またはチューニング)できる。
【0043】
また、イオン液体130は、水および有機溶媒とは異なるため、イオン液体130の種類によっては、飽和膨潤量の水(または有機溶媒)を含有するコロイド結晶ゲルの粒子体積分率よりも小さな粒子体積分率を有する(従って格子定数は大きくなる)コロイド結晶ゲルを得ることも可能である。
【0044】
(ii)含有されるイオン液体の量を制御した粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルについて
コロイド結晶ゲルに含有されるイオン液体130が飽和膨潤量を満たさない場合、飽和膨潤状態より大きな粒子体積分率を有するコロイド結晶ゲルが得られる。このようなコロイド結晶ゲルを未飽和膨潤状態にあると言う。このように、意図的にイオン液体の含有量を制御することにより、未飽和膨潤状態にあり、かつ、種々の粒子体積分率を有するコロイド結晶ゲルを得ることができる。
【0045】
ここで、図2(B)のコロイド結晶ゲル220は、大きな粒子体積分率を有し、かつ、未飽和膨潤状態にあるとする。一方、図2(C)のコロイド結晶ゲル230は、小さな粒子体積分率を有し、かつ、未飽和膨潤状態にあるとする。この場合、図2(B)のコロイド結晶ゲル220が含有するイオン液体130の量は、図2(C)のコロイド結晶ゲル230が含有するイオン液体130の量よりも少ない。
【0046】
当然のことながら、イオン液体130が飽和膨潤量を満たさない程度に応じて、コロイド結晶ゲル220とコロイド結晶ゲル230との間の粒子体積分率を有するコロイド結晶ゲル、あるいは、コロイド結晶ゲル210(図2(A))とコロイド結晶ゲル220との間の粒子体積分率を有するコロイド結晶ゲルを得ることができる。このように、意図的にイオン液体130が飽和膨潤量を満たさないようにすることにより、コロイド結晶ゲルの格子定数を任意に制御(またはチューニング)できる。
【0047】
このような未飽和膨潤状態のコロイド結晶ゲルを満たすイオン液体130もまた、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、および、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートからなる群から選択され得る。これらのイオン液体は水との混和性が良いため、網目状高分子120と親和し、網目状高分子120が膨張するように機能する。
【0048】
特に、従来揮発性の溶媒を用いて未飽和膨潤状態のコロイド結晶ゲルを得た場合には、溶媒の蒸発により格子定数が変動し(すなわち、ストップバンドの位置が変動し)、不安定であったが、溶媒としてイオン液体130を用いることにより、蒸発による格子定数が変動することはなく、安定な未飽和膨潤状態のコロイド結晶ゲルを得ることができる。
【0049】
また、上記(i)および(ii)を組み合わせても、粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルが得られることは言うまでもない。
【0050】
以上、非接触充填状態のコロイド結晶ゲルにおいて、膨潤度を変化させることにより、種々の格子定数(種々のストップバンド)を有するコロイド結晶ゲルが得られることを詳述してきた。次に、非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルを変形させることによって、種々の格子定数を有するコロイド結晶ゲルが得られることについて説明する。
【0051】
非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルは、網目状高分子120がイオン液体130を含有することによるゲル弾性(柔軟性)を有する。例えば、コロイド結晶ゲル220に圧縮応力を印加することによって、圧縮方向の格子定数を小さくすることができる。また、網目状高分子120が温度応答性を有する場合には、網目状高分子120の膨潤度を変え、格子定数dをdに変化させるという、図2に示したような変化を、コロイド結晶ゲル220を加熱または冷却することにより、起こさせることができる。
【0052】
これらの特性を生かして、非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルは、光学式の圧力、温度、濃度等のセンサ素子、および、チューナブルな分光素子、レーザ、ノッチフィルタ等の光学素子に利用可能である。特に、格子定数の変化による光学特性の制御(チューニング)が都度要求されるような環境下において、非接触充填状態にあるコロイド結晶が好適である。当然のことながら、上記(i)および(ii)と、ゲル弾性によるチューニングとを組み合わせてもよい。
【0053】
本発明のコロイド結晶ゲルは、上記の特性に加えて、イオン液体130による導電性をも有し得る。このような導電性のコロイド結晶ゲルを用いて、発光素子および太陽電池等の応用が期待される。
【0054】
次に、本発明によるコロイド結晶ゲルを製造する方法を説明する。
【0055】
(実施の形態2)
図3は本発明によるコロイド結晶ゲルを製造するフローチャートを示す図である。
【0056】
ステップS310:粒子110が網目状高分子120によって固定化されたコロイド結晶ゲルを提供する。ここで、粒子110および網目状高分子120は、実施の形態1で説明したとおりである。ステップS310のコロイド結晶ゲルは、乾燥していてもよいし、分散媒を含有していてもよい。なお、分散媒を含有する場合には、イオン液体を除く、水、有機溶媒等既存の任意の分散媒である。コロイド結晶ゲルは、例えば、特許文献1を参照して作製してもよい。本発明によるコロイド結晶ゲルとステップS310で提供されたコロイド結晶ゲルとを便宜上区別するため、以降では、ステップS310で提供されたコロイド結晶ゲルを“従来型コロイド結晶ゲル”と称する。
【0057】
ステップS320:従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体130を含浸させる。ここで、イオン液体130は、実施の形態1で説明したとおりである。「含浸」とは、従来型コロイド結晶ゲルとイオン液体130とを接触させる任意の手段を意図し、例示的には、従来型コロイド結晶ゲルをイオン液体130に浸漬させること、従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体130を滴下すること等である。例えば、含浸条件は、大気圧中室温にて10時間〜24時間である。このように、本発明の方法によれば、単に、従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体130を含浸させるだけで、自発的に従来型コロイド結晶ゲルにおける分散媒と、イオン液体130とが置換する。その結果、実施の形態1を参照して説明したコロイド結晶ゲル100が得られる。
【0058】
なお、製造効率の観点から、ステップS320において、加熱しながら含浸させてもよい。これにより、従来型コロイド結晶ゲルが分散媒を含有する場合には、分散媒の揮発を促進させるので、分散媒とイオン液体130との置換が加速し得る。加熱温度は、従来型コロイド結晶ゲルの分散媒の種類に応じて異なるが、例えば、分散媒として水を用いる場合には、40℃〜100℃の温度範囲が好ましい。この範囲であれば、粒子110の配列を乱すことなく、分散媒のみが揮発し得る。
【0059】
また、製造効率の観点から、ステップS320において、減圧雰囲気下または除湿雰囲気下において含浸させてもよい。これにより、従来型コロイド結晶ゲルが分散媒を含有する場合には、分散媒の揮発を促進させるので、分散媒とイオン液体130との置換が加速し得る。圧力または湿度は、従来型コロイド結晶ゲルの分散媒の種類に応じて異なるが、例えば、分散媒として水を用いる場合には、4kPa以下の減圧雰囲気または40%以下の湿度範囲が好ましい。この範囲であれば、常圧で通常湿度の環境下に比べて、分散媒の揮発の加速について有効な効果が期待しうる。当然のことながら、ステップS320において、減圧雰囲気下または除湿雰囲気下にて従来型コロイド結晶ゲルを加熱してもよい。
【0060】
次に、接触充填状態のコロイド結晶ゲル210(図2(A))および非接触充填状態のコロイド結晶ゲル220、230(図2(B)、(C))を得る場合の好適な製造プロセスを詳述する。
【0061】
(I)接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルを製造するプロセスについて
再度図3を参照する。
【0062】
ステップS310に続いて、ステップS320を行う。ただし、ステップS320において、イオン液体130として、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメチルスルフォニルイミド、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムクロライド、および、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムジシアナミドからなる群から選択されるイオン液体を選択すればよい。これらのイオン液体は、網目状高分子120に対して親和性が悪い。その結果、従来型コロイド結晶ゲル中の分散媒とイオン液体130とが置換する際、網目状高分子120が収縮することになる。このようにして、図2(A)に示されるコロイド結晶ゲル210が得られる。
【0063】
(II)非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲル
(i)イオン液体の選択および組み合わせにより粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルを製造するプロセスについて
再度図3を参照する。
【0064】
ステップS310に続いて、ステップS320を行う。ただし、ステップS320において、イオン液体130は、好ましくは、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、および、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートからなる群から選択される。
【0065】
これらのイオン液体は水との混和性が高く、すなわち、網目状高分子120に対する親和性(あるいは膨潤性)が高く、図2(B)または(C)のような小さな粒子体積分率のコロイド結晶ゲル220あるいは230を得ることができる。ただし、得られる粒子体積分率の定量的な値は、選択されるイオン液体の種類/組み合わせによって、変化するので、様々な中間的な粒子体積分率の状態のコロイド結晶ゲルを得ることができる。さらには、水との混和性の高い上記群のイオン液体と、(I)に挙げた、水との混和性の低いイオン液体とを組み合わせることによっても、同様に、中間的な粒子体積分率の状態のコロイド結晶ゲルを得ることができる。
【0066】
なお、このようなイオン液体130の選択および組み合わせは、実施の形態1で詳述したように、目的とするコロイド結晶ゲルの粒子体積分率に応じて行われる。
【0067】
(ii)含有されるイオン液体の量を制御した粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルを製造するプロセスについて
図4は、粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルを製造するフローチャートを示す図である。
【0068】
ステップS310:図3のステップS310と同一であるため説明を省略する。
【0069】
ステップS410:ステップS310で提供された従来型コロイド結晶ゲルの分散媒が水、有機溶媒等の揮発性溶媒である場合、従来型コロイド結晶ゲルを乾燥させる。ここで、乾燥は、従来型のコロイド結晶ゲルを加熱下、減圧雰囲気下または除湿雰囲気下にさらせばよい。なお、加熱、減圧雰囲気および除湿雰囲気の条件は、上述のとおりである。
【0070】
ステップS420:図3のステップS320と同様にイオン液体130に乾燥コロイド結晶ゲルを含浸させる。この場合も、イオン液体130は、上記(i)で説明した群から選択されるが、イオン液体130を飽和膨潤量よりも少ない任意の量に設定するか、または、コロイド結晶ゲルが飽和膨潤状態になる前に含浸を適宜中断する。これにより、含浸されるイオン液体の量が未飽和膨潤量となるように制御されるので、種々の未飽和膨潤状態のコロイド結晶ゲル、すなわち、種々の粒子体積分率(格子定数)を有するコロイド結晶ゲルを得ることができる。
【0071】
例えば、図2(B)のような大きな粒子体積分率のコロイド結晶ゲル230を得る場合、乾燥した従来型コロイド結晶ゲルに、飽和膨潤量より少ない量のイオン液体130を含浸させればよい。なお、含浸量は、予め各種イオン液体とその飽和膨潤量(未飽和膨潤量)との関係を調べておけば、容易に設定できる。
【0072】
なお、ステップS310において従来型コロイド結晶ゲルがすでに乾燥している場合には、ステップS410を省略し、ステップS420に移動してもよい。
【0073】
図5は、粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルを製造する別のフローチャートを示す図である。
【0074】
ステップS310:図3のステップS310と同一であるため説明を省略する。
【0075】
ステップS510:図3のステップS320においてイオン液体130に加えて水を含む以外は同一である。すなわち、イオン液体130と水とを所定の比率で混合した分散媒に従来型コロイド結晶ゲルを含浸させる。所定の比率とは、得たい粒子体積分率(格子定数)に応じて異なるが、水が多いと粒子体積分率の大きなコロイド結晶ゲルが得られ、水が少ないと粒子体積分率の小さなコロイド結晶ゲルが得られる。なお、このようなイオン液体と水との比率は、予め各種イオン液体とその飽和膨潤量(未飽和膨潤量)との関係を調べておけば、容易に設定できる。ステップS510によれば、イオン液体130と水とが所定の比率で、かつ、飽和膨潤量で含浸されたコロイド結晶ゲルが得られる。なお、この場合も、イオン液体130は、上記(i)で説明した群から選択される。
【0076】
ステップS520:ステップS510で得られたイオン液体130と水とを含浸したコロイド結晶ゲル中の水を除去する。水の除去は、図4のステップS410と同様に行えばよい。これにより、含浸されるイオン液体の量が制御された未飽和膨潤量となるので、種々の未飽和膨潤状態のコロイド結晶ゲル、すなわち、種々の粒子体積分率(格子定数)を有するコロイド結晶ゲルを得ることができる。
【0077】
なお、ステップS510では水に特化して説明したが、水以外にも揮発性の有機溶媒を用いてもよいが、入手のしやすさ、ステップS520の除去の容易さの観点から水が好ましい。
【0078】
また、精度よく粒子体積分率が制御されたコロイド結晶ゲルを得るためには、ステップS310で提供されるコロイド結晶ゲルは乾燥しているか、または、ステップS310の後に、かつ、ステップS510に先立って、従来型コロイド結晶ゲルを乾燥させてもよい(すなわち、図4のステップS410)。
【0079】
(実施の形態3)
図6は、本発明によるコロイド結晶ゲルを用いた光学素子の模式図である。
【0080】
光学素子600は、ノッチフィルタとして機能する。光学素子600は、実施の形態1で説明したコロイド結晶ゲルを用いたものである。ここでは、光学素子600は、非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲル230(図2)を用いたものである。コロイド結晶ゲル230は、波長λを中心とするストップバンドを有する。コロイド結晶ゲル230は、例えば、ガラス基板上に配置される。コロイド結晶ゲル230は、実施の形態1で説明したように、含有される分散媒がイオン液体130(図1、図2)であるため、蒸発を抑制するための密閉容器に封止される必要はない。
【0081】
次に、光学素子600を用いたノッチフィルタの動作を説明する。
【0082】
光学素子600に少なくとも波長λを有する光610を入射する。上述したように、光学素子600のコロイド結晶ゲル230の格子定数はdであり、波長λを中心としたストップバンドを有するので、光学素子600に入射した光610は、光学素子600のコロイド結晶ゲル230に進み、コロイド結晶ゲル230において波長λを中心とする狭い波長幅の光620のみ反射される。一方、波長λを中心とする狭い波長幅以外の波長を有する光630は、コロイド結晶ゲル230を進み、光学素子600から出射する。このようにして、ごく狭い帯域の光(ここでは波長λを中心とする狭い波長幅の光620)のみを反射/カットすることができる。
【0083】
なお、実施の形態3では、例示として、単一の非接触充填状態のコロイド結晶ゲルを利用したノッチフィルタを開示したが、この様態に限定されない。例えば、粒子体積分率の異なる複数のコロイド結晶ゲルを用いて同様のノッチフィルタを構築してもよい。
【0084】
当然のことながら、本発明のコロイド結晶ゲルの用途はノッチフィルタに限定されない。コロイド結晶ゲルの構造色を利用した色材、化学センサおよび歪センサ、コロイド結晶ゲルのストップバンドを利用した分光素子、レーザ等の光学素子に利用可能である。特に、非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルは、上記光学特性に加えて、粒子が接触していないことによる変形容易性を持つため、波長チューナビリティが要求される用途に好適である。
【0085】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0086】
従来型コロイド結晶ゲルを準備した(図3のステップS310)。詳細には、粒子110としてポリスチレン粒子(粒径200nm)を水に分散した粒子分散液(Duke Scientific社製、型式5020B)を粒子体積分率約16%に調整し、イオン交換樹脂(Bio−Rad社製、型式AG501−X8)を投入し、脱塩処理を行った。これにより、コロイド結晶状態の分散液を得た。次いで、分散液とゲル化液とを8:2の割合で混合し、反応液を得た。なお、ゲル化液は、重合化モノマーとして30wt%のN−メチロールアクリルアミド(N−MAM)、架橋剤として3wt%のN,N’−メチレンビスアクリルアミド(Bis)、および、濃度0.5mg/mLの重合開始剤(アゾビス〔2−メチル−N(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕)含む水溶液である。これらが、紫外線照射によって光重合して網目状高分子120となる。
【0087】
次いで、得られた反応液を特許文献1に記載の方法により、厚さ0.1mmの単結晶性の従来型コロイド結晶ゲルを作製した。従来型コロイド結晶ゲルは膜状であり、得られた膜から直径7mmφの円形試料片を切り出した。なお、切り出した円形試料片は、水中に浸漬させ水で膨潤した状態である。なお、円形試料片における水の飽和膨潤量は約3μLであった。
【0088】
その後、円形試料片をイオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに含浸させた(図3のステップS320)。含浸は、円形試料片を約100μLの上記イオン液体に24時間浸漬させて行った。浸漬直後、円形試料片のサイズ変化が目視にて確認された。これは、円形試料片中の水がイオン液体と置換しているためである。なお、このようなサイズ変化は、約20時間の浸漬により安定した。このようにしてイオン液体を含浸した円形試料片を試料1と呼ぶ。
【0089】
試料1の粒子体積分率を測定した。まず、試料1の直径を測定し、分散媒として水を用いたコロイド結晶ゲルからなる円形試料片の直径(7mmφ)で除した値(膨張率と呼ぶ)を求め、サイズ変化が等方的である(厚さ方向の膨張率も直径方向のそれと等しい)と仮定して、初期の水膨潤状態における粒子体積分率(13%)から、当該イオン液体含浸状態における粒子体積分率を計算により求めた。これらの結果を表2に示す。
【0090】
次いで、試料1の透過スペクトルを測定し、最長のBragg波長を求めた。測定には、平面分光測定装置ImSpectorV10、KawasakiSteel Techno−research Corp.、Chiba、Japanを用いた。結果を表2に示す。
【実施例2】
【0091】
イオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたイオン液体を含浸した円形試料片を試料2と呼ぶ。試料2について、実施例1と同様に、膨張率、粒子体積分率および最長のBragg波長を求めた。結果を表2に示す。
【実施例3】
【0092】
イオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライドを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたイオン液体を含浸した円形試料片を試料3と呼ぶ。試料3について、実施例1と同様に、膨張率、粒子体積分率および最長のBragg波長を求めた。結果を表2に示す。
【実施例4】
【0093】
イオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロライドを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたイオン液体を含浸した円形試料片を試料4と呼ぶ。試料4について、実施例1と同様に、膨張率、粒子体積分率および最長のBragg波長を求めた。結果を表2に示す。
【実施例5】
【0094】
イオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミドを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたイオン液体を含浸した円形試料片を試料5と呼ぶ。試料5について、実施例1と同様に、膨張率、粒子体積分率および最長のBragg波長を求めた。結果を表2に示す。
【実施例6】
【0095】
イオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたイオン液体を含浸した円形試料片を試料6と呼ぶ。試料6について、実施例1と同様に、膨張率、粒子体積分率および最長のBragg波長を求めた。結果を表2に示す。
【実施例7】
【0096】
イオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメチルスルフォニルイミドを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたイオン液体を含浸した円形試料片を試料7と呼ぶ。試料7について、実施例1と同様に、膨張率および粒子体積分率を求めた。結果を表2に示す。
【実施例8】
【0097】
イオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムクロライドを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたイオン液体を含浸した円形試料片を試料8と呼ぶ。試料8について、実施例1と同様に、膨張率および粒子体積分率を求めた。結果を表2に示す。
【実施例9】
【0098】
イオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムジシアナミドを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたイオン液体を含浸した円形試料片を試料9と呼ぶ。試料9について、実施例1と同様に、膨張率および粒子体積分率を求めた。結果を表2に示す。
【0099】
表2には、実施例1〜9で用いた各種イオン液体の水との混和性についても示す。表2において、水と完全混和する場合を「○」とし、それ以外(水との混和性が悪い)を「×」としている。
表2は、実施例1〜9のイオン液体の種類およびコロイド結晶ゲルの特性を示す。
【0100】
【表2】

【0101】
水と完全混和するイオン液体を用いた試料1〜6(実施例1〜6)の粒子体積分率が10%〜25%であることから、試料1〜6は非接触充填状態のコロイド結晶ゲルであることが分かった。
【0102】
一方、水との混和性が悪いイオン液体を用いた試料7〜9(実施例7〜9)の粒子体積分率が62%より大きかった。また、試料7〜9を目視観察したところ、いずれも透明であり、イオン液体が含有されることを確認した。このことから、試料7〜9は、接触充填状態のコロイド結晶ゲルであることが分かった。
【0103】
以上より、水との混和性が良いイオン液体は、非接触充填状態のコロイド結晶ゲルを得るに好ましく、水との混和性が悪いイオン液体は、接触充填状態のコロイド結晶ゲルを得るに好ましいことが確認された。
【0104】
試料1〜6の最長ブラッグ波長に注目すると、イオン液体の種類によって最長のブラッグ波長が異なる、すなわち格子定数が異なることが分かる。このことは、試料1〜6の非接触充填状態のコロイド結晶ゲルは、粒子体積分率が異なることを意味する。このように適宜イオン液体を選択することにより、粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルが得られることが示された。
【0105】
特に、試料1および3の膨張率によれば、分散媒として水を用いたコロイド結晶ゲル(従来型コロイド結晶ゲル)の粒子体積分率よりもさらに小さな粒子体積分率を有するコロイド結晶ゲルが得られることが分かった。このことは、選択するイオン液体によっては、従来型コロイド結晶ゲルでは達成できなかった長波長領域についても、本発明によるコロイド結晶ゲルによって対応できることを示す。
【実施例10】
【0106】
実施例1で得た試料1をスライドガラス上に配置し、過剰なイオン液体をろ紙にて除去した。その後、スライドガラス上の試料1を、8日間、大気に開放した状態で維持した。大気曝露前後の試料1の重量および透過スペクトルを測定した。結果を図7に示し詳述する。
【比較例1】
【0107】
分散媒としてイオン液体1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに代えて、エチレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様のため、説明を省略する。なお、得られたエチレングリコールを含浸した円形試料片を試料10と呼ぶ。実施例10と同様に、試料10を8日間大気曝露した。大気曝露前後の試料10の重量および透過スペクトルを測定した。結果を図8に示し詳述する。
【0108】
図7は、実施例10による試料1の大気曝露前後の透過スペクトルを示す図である。
【0109】
図8は、比較例1による試料10の大気曝露前後の透過スペクトルを示す図である。
【0110】
図7に示されるように、分散媒としてイオン液体を用いた場合、コロイド結晶ゲル(試料1)を8日間大気曝露しても透過スペクトルには変化が見られなかった。同様に、8日間大気曝露しても試料1の重量変化は見られなかった。
【0111】
一方、図8に示されるように、分散媒としてエチレングリコールを用いた場合、コロイド結晶ゲル(試料10)を8日間大気曝露すると、透過スペクトルの形状が乱れるとともに、不透過帯の極小値も明確にシフトした。また、8日間大気曝露すると試料10の重量は半減した。
【0112】
以上から、本発明のコロイド結晶ゲルにおいて、分散媒としてイオン液体を用いることにより、分散媒の蒸発が生じない。その結果、蒸発による透過スペクトル等の光学特性の変化は生じないので、本発明のコロイド結晶ゲルを光学素子等に用いる場合も、特殊な密閉構造を必要としないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明による液体が含浸されたコロイド結晶ゲルによれば、上記液体がイオン液体であることを特徴とする。イオン液体は、実質的に蒸気圧がないため、蒸発しない。これにより、本発明のコロイド結晶ゲルは密閉構造を不要とする。このようなコロイド結晶ゲルは、色材、化学センサ、歪センサ、ノッチフィルタ、分光素子、レーザ等の光学素子に利用可能である。特に、非接触充填状態にあるコロイド結晶ゲルは、波長チューナビリティが要求される用途に好適である。また、本発明のコロイド結晶ゲルは、上記特性に加えて、導電性を併せ持つので、発光素子および太陽電池への応用も期待される。また、本発明のコロイド結晶ゲルは、分散媒がイオン液体であるため、大気下だけでなく、高温、高真空等の特殊な環境下においても、同様に、蒸発は生じないので、耐環境に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明によるコロイド結晶ゲル100の模式図
【図2】本発明による種々の状態にあるコロイド結晶ゲルの模式図
【図3】本発明によるコロイド結晶ゲルを製造するフローチャートを示す図
【図4】粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルを製造するフローチャートを示す図
【図5】粒子体積分率の異なるコロイド結晶ゲルを製造する別のフローチャートを示す図
【図6】本発明によるコロイド結晶ゲルを用いた光学素子の模式図
【図7】実施例10による試料1の大気曝露前後の透過スペクトルを示す図
【図8】比較例1による試料10の大気曝露前後の透過スペクトルを示す図
【符号の説明】
【0115】
100、210、220、230 コロイド結晶ゲル
110 粒子
120 網目状高分子
130 イオン液体
600 光学素子
610、620、630 光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ゲル中に微粒子が自己組織的に周期配列されたコロイド結晶ゲルであって、前記高分子ゲルにイオン液体が含有されていることを特徴とする、コロイド結晶ゲル。
【請求項2】
請求項1に記載のコロイド結晶ゲルにおいて、前記微粒子の配列が接触充填状態であることを特徴とする、コロイド結晶ゲル。
【請求項3】
請求項2に記載のコロイド結晶ゲルにおいて、前記イオン液体は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメチルスルフォニルイミド、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムクロライド、および、トリヘキシルテトラデシルフォスフォニウムジシアナミドからなる群から選択されることを特徴とする、コロイド結晶ゲル。
【請求項4】
請求項1に記載のコロイド結晶ゲルにおいて、前記微粒子の配列が非接触充填状態であることを特徴とする、コロイド結晶ゲル。
【請求項5】
請求項4に記載のコロイド結晶ゲルにおいて、前記イオン液体は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、および、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートからなる群から選択されることを特徴とする、コロイド結晶ゲル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のコロイド結晶ゲルを製造する方法であって、微粒子が自己組織的に周期配列され高分子ゲルにより固定化された後に、前記高分子ゲルにイオン液体を含浸させることを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記イオン液体に加えて水を含む溶媒を含浸させ、前記含浸させた水を除去することを特徴とする、方法。
【請求項8】
光の透過、反射、回折の制御又は周波数変換にコロイド結晶ゲルを用いる光学素子であって、前記コロイド結晶ゲルが、請求項1から5の何れかに記載のコロイド結晶ゲルであることを特徴とする、光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−292908(P2009−292908A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146827(P2008−146827)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】