説明

コンクリート体のひび割れ制御構造

【課題】 被覆部材を鉄筋の所定位置に確実に外装させるとともに、被覆部材が外装された鉄筋が腐食されることがないコンクリート体のひび割れ制御構造を提供することを目的とする。
【解決手段】 鉄筋3が埋設されたコンクリート体の表面に、ひび割れ誘発目地が形成されているとともに、ひび割れ誘発目地と立体的に交差する鉄筋3の交差部分3aに、コンクリートの付着を防ぐ被覆部材5が外装されているコンクリート体のひび割れ制御構造において、被覆部材5には、鉄筋3の表面に付着させる粘着層7と、発泡体からなる基層8と、加水分解性またはアルカリ分解性のうちの少なくとも一つの特性を有する分解性物質からなる被膜層9とが備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋が埋設されたコンクリート体のひび割れ対策のため、コンクリート体に発生するひび割れを所定箇所に集中させるコンクリート体のひび割れ制御構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大スパンのコンクリート体には、コンクリートの乾燥収縮に起因してひび割れが生じ易い。鉄筋コンクリート造の外壁やスラブにひび割れが生じると、外観が著しく損なわれるばかりでなく、ひび割れ箇所から雨水等が浸入して鉄筋が錆び、これによって、コンクリートが剥離するという問題が発生する。したがって、一般に、大スパンの鉄筋コンクリート造の外壁やスラブを形成する際、その表面にひび割れを誘発させるひび割れ誘発目地を所定間隔で設けることが行われており、これによって、ひび割れをひび割れ誘発目地に集中的に発生させ、それ以外の個所にひび割れが発生しないようにしている。
【0003】
ところで、鉄筋コンクリート造の外壁やスラブでは、通常、格子状に鉄筋が配筋されており、ひび割れ誘発目地の裏側を横断する鉄筋が存在する。この鉄筋とひび割れ誘発目地の裏側のコンクリートとが付着していると、ひび割れ誘発効果が十分に発揮されず、ひび割れ誘発目地以外の個所にひび割れが発生する虞がある。
【0004】
そこで、従来、ひび割れ誘発目地の裏側を横断する鉄筋の横断部分に被覆部材(カバー)を外装させ、ひび割れ誘発目地の裏側を横断する鉄筋がひび割れ誘発目地の裏側のコンクリートに付着しないようにして、ひび割れ誘発目地のひび割れ集中度を高めるひび割れ制御構造が提案されている。この被覆部材は、例えば、筒状に成形された樹脂製の部材であり、軸方向に延在する切れ目が形成されている。この被覆部材を鉄筋に装着させる際、まず、筒状の被覆部材を切れ目によって拡径させて所定位置まで移動可能させ、その後、所定位置で拡がった被覆部材を縮径させて鉄筋に固定する(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−100475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来のコンクリート体のひび割れ制御構造では、硬い樹脂製の被覆部材が使用されているため、被覆部材と鉄筋との密着性が低く、このため、被覆部材と鉄筋との間に隙間が形成され、この隙間に水分などが浸入して鉄筋が腐食する虞があるという問題が存在する。また、被覆部材と鉄筋との密着性が低いと、鉄筋配筋やコンクリート打設等の施工時に被覆部材がずれ易く、被覆部材が所定位置に外装されない場合があるという問題が存在する。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、被覆部材を鉄筋の所定位置に確実に外装させるとともに、被覆部材が外装された鉄筋が腐食されることがないコンクリート体のひび割れ制御構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、鉄筋が埋設されたコンクリート体の表面に、ひび割れ誘発目地が形成されているとともに、前記ひび割れ誘発目地と立体的に交差する鉄筋の交差部分に、コンクリートの付着を防ぐ被覆部材が外装されているコンクリート体のひび割れ制御構造において、前記被覆部材には、前記鉄筋の表面に付着させる粘着層と、発泡体からなる基層と、加水分解性またはアルカリ分解性のうちの少なくとも一つの特性を有する分解性物質からなる被膜層とが備えられていることを特徴としている。
【0008】
このような特徴により、発泡体からなる基層の弾力性と粘着層の弾力性とが相俟って、被覆部材の鉄筋への密着性が高められる。また、コンクリート打設時の圧力によって被覆部材は圧縮されるが、コンクリート打設後、コンクリートに接触する分解性物質からなる被膜層はコンクリートの水分やアルカリ成分によって徐々に分解され、硬化後のコンクリートが被覆部材に付着することはなく、鉄筋とコンクリートとは完全に分離される。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載されたコンクリート体のひび割れ制御構造において、前記被膜部材は、前記粘着層と前記基層と前記被膜層とを備えるテープからなり、該テープを前記鉄筋の交差部分に巻き付けることで形成されることを特徴としている。
【0010】
このような特徴により、ひび割れ誘発目地と立体的に交差する鉄筋の交差部分に被覆部材を外装させる際、テープを交差部分に巻き付けるだけでよく、被覆部材の外装作業は容易に行われる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るコンクリート体のひび割れ制御構造によれば、被覆部材には、鉄筋の表面に付着させる粘着層と、発泡体からなる基層と、加水分解性またはアルカリ分解性のうちの少なくとも一つの特性を有する分解性物質からなる被膜層とが備えられ、被覆部材の鉄筋への密着性が高められているため、施工時に被覆部材が鉄筋の交差部分からずれることがなく、被覆部材を所定位置に外装させることができ、これによって、ひび割れ誘発目地のひび割れ誘発効果を十分に発揮させることができる。また、被覆部材と鉄筋とが密着しているため、被覆部材と鉄筋との間に水分などが浸入することはなく、鉄筋が腐食することを防止することができる。さらに、コンクリートの水分やアルカリ成分によって被膜層が徐々に分解され、硬化後のコンクリートと鉄筋とは完全に分離されるため、ひび割れ誘発目地のひび割れ誘発効果を十分に発揮させることができる。
【0012】
また、粘着層と基層と被膜層とを備えるテープを鉄筋の交差部分に巻き付けることで被膜部材が形成されるため、容易に被膜部材を形成することができ、被膜部材の外装作業にかかる手間を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るコンクリート体のひび割れ制御構造の実施の形態について、図面に基いて説明する。図1は建物の外壁を構成する鉄筋コンクリート造のコンクリート体1の横断面図であり、図2はコンクリート体1の斜視図である。なお、図1におけるコンクリート体1の下側は建物の外部側であり、図1におけるコンクリート体1の上側は建物の内部側である。
【0014】
図1,図2に示すように、コンクリート体1の表面には、鉛直方向に延在するひび割れ誘発目地4が形成されており、コンクリート体1の中には、ダブル配筋の鉄筋2,3が埋設されている。鉄筋2,3は、鉛直方向に延在する複数の縦筋2と水平方向に延在する複数の横筋3とが格子状に組まれることで形成されている。横筋3は、ひび割れ誘発目地4の延在方向と直交する方向に延在され、ひび割れ誘発目地4の裏側を横断するように配筋されており、ひび割れ誘発目地4と立体的に交差されている。
【0015】
外部側にある複数の横筋3には、コンクリートの付着を防ぐ被覆部材5がそれぞれ外装されている。被覆部材5は、ひび割れ誘発目地4と立体的に交差する交差部分3a、つまり、ひび割れ誘発目地4の裏側の部分にそれぞれ装着されており、ひび割れ誘発目地4に対向する位置に配置されている。
【0016】
図3は被覆部材5の斜視図である。図1,図3に示すように、被覆部材5は、一方の面に横筋3の交差部分3aに付着する粘着面6aを有する粘着テープ状のテープ片6(テープ)からなり、このテープ片6を、ひび割れ誘発目地4の中心線Oを中心に横筋3の交差部分3aに、粘着面6aを鉄筋側にして巻き付けることで形成される。テープ片6の幅寸法Wは、ひび割れ誘発目地4の幅よりも長く、具体的には幅80〜100mm程度であり、また、テープ片6の長さ寸法Dは、横筋3の円周長さ程度である。
【0017】
図4は被覆部材5の断面図である。図4に示すように、被覆部材5は、粘着層7と基層8と被膜層9とが積層されてなる。
粘着層7は、鉄筋(横筋3)側に形成されて粘着面6aをつくる層であり、鋼材に対して付着性能を発揮することができる粘着剤を基層8の鉄筋側の面に塗布することで形成される。また、基層8は、例えばポリスチレンやポリエチレン,ポリプロピレン等のプラスチック材からなる発泡シートによって形成される層である。基層8を形成する発泡シートは、厚さが数ミリ程度で耐久性があり、横筋3に巻き付けることができる程度の変形性能を有するとともに、外部からの衝撃を吸収する緩衝性能を有する部材である。また、被膜層9は、コンクリート側に形成される厚さ数十μmの薄膜層であり、ポリ乳酸等の生分解性プラスチックをコンクリート側の基層8表面にコーティングすることで形成される。被膜層9を形成する生分解性プラスチックは、加水・アルカリ分解特性を有するものであり、水分やアルカリ成分によって水と二酸化炭素に分解されるものである。また、被膜層9は粘着層7に対して剥離し易い性質があり、被膜層9でコーティングされた被覆部材5の上に被覆部材5を重ねて貼着させても容易に剥がすことが可能である。
【0018】
図5は複数のテープ片6を形成するテープ部材7の斜視図である。図5に示すように、テープ部材10は、複数のテープ片6が連設されてなり、図4に示す粘着層7と基層8と被膜層9とが積層されてなる部材であり、図3に示すテープ片6の幅寸法Wに相当する幅の帯状の部材である。また、テープ部材10は、ロール状に巻かれており、このとき、剥離紙などはなく、被膜層9の上に粘着層7が仮着された状態になっている。また、テープ部材10には、テープ片6の長さ寸法Dに相当する間隔をあけてミシン目11が施されており、このミシン目11に沿ってテープ部材10の端部が切断され、所定形状のテープ片6が形成される。
【0019】
次に、上記した構成からなるコンクリート体のひび割れ制御構造の施工方法について説明する。
【0020】
まず、コンクリート体1の鉄筋配筋工程を行う。具体的には、縦筋2および横筋3を格子状にダブル配筋する。
次に、横筋3の交差部分3aに被覆部材5を外装させる工程を行う。具体的には、テープ部材10の端部をミシン目11に沿って切断し、テープ片6を取り出す。そして、このテープ片6を、横筋3の交差部分3aに粘着面6aを鉄筋側にして巻き付ける。
次に、図示せぬ型枠を建て込み、コンクリート打設を行う工程を行う。このとき、図示せぬ型枠には、予め、ひび割れ誘発目地4を形成するための図示せぬ目地棒を取り付けておく。
その後、所定の養生期間をおいて、上記した型枠を脱型するとともに、上記した目地棒を脱型する。
【0021】
上記した構成からなるコンクリート体1のひび割れ制御構造によれば、横筋3の表面に付着させる粘着層7と、発泡シートからなる基層8と、加水・アルカリ分解特性を有する生分解性プラスチックからなる被膜層9とからなる被覆部材5が横筋3の交差部分3aに外装されるため、発泡シートからなる基層8の弾力性と粘着層7の弾力性とが相俟って被覆部材5と横筋3との密着性が高められる。これによって、施工時に被覆部材5が横筋3の交差部分3aからずれることがなく、被覆部材5を所定位置に確実に外装させることができ、ひび割れ誘発目地4のひび割れ誘発効果を十分に発揮させることができる。また、被覆部材5と横筋3とが密着しているため、被覆部材5と鉄筋3の交差部分3aとの間に水分などが浸入することはなく、横筋3が腐食されることを防止することができる。
【0022】
また、コンクリート打設時の圧力によって被覆部材5は圧縮されるが、コンクリート打設後、コンクリートに接触する被膜層9はコンクリートの水分やアルカリ成分によって徐々に分解され、硬化後のコンクリートが被覆部材5に付着することはなく、横筋3の交差部分3aとひび割れ誘発目地4裏のコンクリートとは完全に分離される。これによって、ひび割れ誘発目地4のひび割れ誘発効果を十分に発揮させることができる。特に、横筋3に異形棒鋼が使用されている場合には、横筋3と被覆部材5との密着性を確保すると、横筋3の表面形状によって被覆部材5の表面も凹凸形状になり、コンクリートとの付着性を完全に回避できない虞があるが、上記のように、被膜層9が分解されることで、コンクリートとの付着性を完全に回避することができる。
【0023】
また、横筋3の交差部分3aに被覆部材5を外装させる際、テープ片6を交差部分3aに巻き付けるだけでよく、被覆部材5の外装作業は容易に行われるため、容易に被膜部材5を形成することができ、被膜部材5の外装作業にかかる手間を軽減することができる。
また、テープ部材10にはミシン目11が施されているため、テープ部材10を所定幅で簡単にカットすることができ、作業性を向上させることができる。さらに、粘着層7に対して剥離し易い性質の被膜層9を備えるテープ部材10がロール状に巻かれているため、剥離紙等を使用する必要がなく、廃棄物が発生させることがない。
【0024】
以上、本発明に係るコンクリート体のひび割れ制御構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記した実施の形態では、外壁を構成するコンクリート体1について説明したが、本発明は、スラブや手摺壁を構成するコンクリート体であってもよく、ひび割れ誘発目地によってひび割れを集中させるコンクリート体であればよい。
【0025】
また、上記した実施の形態では、ひび割れ誘発目地4に直交する横筋3に被覆部材5を外装させているが、本発明は、ひび割れ誘発目地に対して斜めに延在する鉄筋に被覆部材を外装させてもよい。また、上記した実施の形態では、ひび割れ誘発目地4が鉛直方向に延在されており、被覆部材5が外装される横筋3は水平方向に延在されているが、本発明は、ひび割れ誘発目地が水平方向に延在されていてもよく、鉛直方向に延在する鉄筋に被覆部材が外装されていてもよい。
【0026】
また、上記した実施の形態では、加水分解特性およびアルカリ分解特性を有する生分解性プラスチックによって被膜層9が形成されているが、本発明は、加水分解性或いはアルカリ分解性のいずれか一方のみを有する分解性物質からなる被膜層でもよい。
【0027】
また、上記した実施の形態では、テープ片6が横筋3の円周長さに相当する長さDに形成されているが、本発明は、鉄筋の円周長さより長くてもよく、帯状のテープを幾重にも巻き付けることで被覆部材を形成してもよい。
また、上記した実施の形態では、テープ片6を横筋3に巻き付けることで被覆部材5が形成されているが、本発明は、筒状に形成された被覆部材を鉄筋に嵌め込むものでもよく、巻き付ける構成でなくてもよい。
また、上記した実施の形態では、鉄筋(縦筋2,横筋3)はダブル配筋で組まれているが、本発明は、シングル配筋の鉄筋でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るコンクリート体のひび割れ制御構造の実施の形態を説明するためのコンクリート体の横断面図である。
【図2】本発明に係るコンクリート体のひび割れ制御構造の実施の形態を説明するためのコンクリート体の斜視図である。
【図3】本発明に係るコンクリート体のひび割れ制御構造の実施の形態を説明するための被覆部材の斜視図である。
【図4】本発明に係るコンクリート体のひび割れ制御構造の実施の形態を説明するための被覆部材の断面図である。
【図5】本発明に係るコンクリート体のひび割れ制御構造の実施の形態を説明するためのテープを形成する部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 コンクリート体
2 縦筋(鉄筋)
3 横筋(鉄筋)
3a 交差部分
4 ひび割れ誘発目地
5 被覆部材
6テープ片(テープ)
7 粘着層
8 基層
9 被膜層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋が埋設されたコンクリート体の表面に、ひび割れ誘発目地が形成されているとともに、前記ひび割れ誘発目地と立体的に交差する鉄筋の交差部分に、コンクリートの付着を防ぐ被覆部材が外装されているコンクリート体のひび割れ制御構造において、
前記被覆部材には、前記鉄筋の表面に付着させる粘着層と、発泡体からなる基層と、加水分解性またはアルカリ分解性のうちの少なくとも一つの特性を有する分解性物質からなる被膜層とが備えられていることを特徴とするコンクリート体のひび割れ制御構造。
【請求項2】
請求項1に記載されたコンクリート体のひび割れ制御構造において、
前記被膜部材は、前記粘着層と前記基層と前記被膜層とを備えるテープからなり、該テープを前記鉄筋の交差部分に巻き付けることで形成されることを特徴とするコンクリート体のひび割れ制御構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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