説明

コンクリート構造物の補修方法及びコンクリート構造物

【課題】 繊維基材の種類を選ばずに、補修後も目視でコンクリート構造物の変状の進行あるいは新たに発生した劣化、変状を確認することができるコンクリート構造物の補修方法を提供する。
【解決手段】 コンクリート構造物表面に下塗り樹脂を塗布し、該塗布面に繊維基材を被着し、該繊維基材表面に上塗り樹脂を塗布するコンクリート構造物の補修方法であって、前記下塗り樹脂の粘度が4,000mPa・s以上100,000mPa・s以下、チクソトロピックインデックスが2.0以上5.0以下であり、前記上塗り樹脂の粘度が100mPa・s以上4,000mPa・s未満、チクソトロピックインデックスが1.0以上2.0未満であるコンクリート構造物の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材をコンクリート構造物表面に接着するコンクリート構造物の補修方法、及び該方法により補修されたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、建設時に発生した空洞や、コンクリート構造物自体の劣化、地震、地盤沈下等の様々な要因により、コンクリート部にクラック、ひび割れ、剥落などが生じる。
【0003】
クラックがコンクリート構造物の外側まで達しているときには、地中のコンクリート構造物は地下水がコンクリート構造物に浸透し漏水の原因となる。コンクリート構造物にこのようなクラックやひび割れが生じた場合、コンクリート構造物を補修する必要がある。
【0004】
従来から、劣化したコンクリート構造物に対する補修方法として、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維といった強化繊維を配列した強化繊維基材をエポキシ樹脂等の常温硬化性樹脂でコンクリート構造物表面に含浸接着する方法が知られているが(特許文献1)、この方法では、補強効果を向上させるために目の詰まった強化繊維基材を使用すると、補修後のコンクリート構造物の表面を直接目視観察することは困難であった。
【0005】
特許文献2には、ガラス繊維等のチェック糸をまばらに配列した補強繊維シートを用い、チェック糸の変化によりコンクリート構造物の劣化状態を察知する方法が開示されているが、この方法は、コンクリート構造物の表面を直接目視観察できるものではない。
【0006】
かかる点を解決する手段として、特許文献3には、コンクリート構造物表面に繊維基材を接着剤を用いて接着し、接着後に繊維基材を通してコンクリート構造物表面を目視観察可能とする方法が開示されている。この方法によれば、補修した後に元のコンクリート構造物表面を目視で観察することができるため、補修後のコンクリート構造物表面が重大な変状の進行を示したり、新たな重大な変状が発生した場合でもこれを確認することが可能である。
【0007】
【特許文献1】特開平9−59937号公報
【特許文献2】特開平9−3745号公報
【特許文献3】特開2001−355343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3に記載の方法においては、目視観察可能とするために繊維間に十分な間隙を有する繊維基材を使用すると共に、補強強度を確保するためにアラミド繊維等の強化繊維基材を使用しており、繊維基材の選択性に制限があった。
【0009】
そこで、本発明は、繊維基材の種類を選ばずに、補修後も目視でコンクリート構造物の変状の進行あるいは新たに発生した劣化、変状を確認することができるコンクリート構造物の補修方法、及び該方法により補修されたコンクリート構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、コンクリート構造物表面に下塗り樹脂を塗布し、該塗布面に繊維基材を被着し、該繊維基材表面に上塗り樹脂を塗布するコンクリート構造物の補修方法であって、前記下塗り樹脂の粘度が4,000mPa・s以上100,000mPa・s以下、チクソトロピックインデックスが2.0以上5.0以下であり、前記上塗り樹脂の粘度が100mPa・s以上4,000mPa・s未満、チクソトロピックインデックスが1.0以上2.0未満であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のコンクリート構造物は、上記補修方法により補修されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンクリート構造物、特に道路、鉄道トンネル等のコンクリート構造物に繊維基材を接着した後もコンクリート構造物の表面状態が目視観察可能であり、繊維基材を接着した後のコンクリート構造物の表面の変状の進行が目視で確認可能である。したがって、繊維基材を接着した後のコンクリート構造物の剥落、崩落等の異常現象の発生前に早期に対策を講じることが可能となる。
【0013】
また、本発明によれば、繊維基材を接着性の硬化性樹脂でコンクリート構造物表面に接着することにより、繊維基材をコンクリート構造物上面に安定して保持できると共に、硬化性樹脂により長期的に信頼性の高い繊維基材の接着が維持でき、補強効果にも優れる。
【0014】
さらに、本発明によれば、繊維基材の材質、形状等にとらわれず、上記効果を得ることができ、コストダウンも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の補修方法は、道路、鉄道トンネル等のコンクリート構造物の補修現場で、コンクリート構造物表面に下塗り樹脂を塗布し、下塗り樹脂を塗布した面に繊維基材を被着し、さらに繊維基材表面に上塗り樹脂を塗布することにより、透明なFRP層を形成して、コンクリート構造物の補修(繊維補強)を行うものである。
【0017】
下塗り樹脂の塗布方法としては、刷毛塗り法、ロール塗布法など公知の方法が採用される。下塗り樹脂の塗布量は、繊維基材の目付け、空隙率等を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは0.1kg/m2〜1.0kg/m2、より好ましくは0.2kg/m2〜0.6kg/m2である。
【0018】
下塗り樹脂を塗布した面に繊維基材を被着した後、下塗り樹脂が硬化する前に、脱泡ローラー、ヘラ等を使用して繊維基材表面側を押さえ、繊維基材に下塗り樹脂を含浸させると共に、繊維基材裏面側に残存する気泡を除去するのが好ましい。
【0019】
上塗り樹脂の塗布方法としては、刷毛塗り法、ロール塗布法など公知の方法が採用される。上塗り樹脂の塗布量は、やはり、繊維基材の目付け、空隙率等を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは0.1kg/m2〜1.0kg/m2、より好ましくは0.2kg/m2〜0.6kg/m2である。また、上塗り樹脂塗布後にも、脱泡ローラー、ヘラ等を使用して繊維基材表面側を押さえ、繊維基材に上塗り樹脂を含浸させることが好ましい。
【0020】
下塗り樹脂は、粘度が4,000mPa・s以上100,000mPa・s以下、好ましくは6,000mPa・s以上15,000mPa・s以下、チクソトロピックインデックスが2.0以上5.0以下、好ましくは3.0以上4.0以下である。かかる樹脂を下塗りの際に用いれば、樹脂のたれ落ちを防止し、かつ繊維基材をコンクリート構造物の所定位置に保持することができる。
【0021】
一方、上塗り樹脂は、粘度が100mPa・s以上4,000mPa・s未満、好ましくは200mPa・s以上1,000mPa・s以下、チクソトロピックインデックスが1.0以上2.0未満、好ましくは1.0以上1.8以下である。かかる樹脂を上塗りの際に用いれば、樹脂がゲル化前に確実に繊維基材の繊維フィラメントへ含浸するため、透明なFRP層が形成される。
【0022】
尚、本発明において、粘度、チクソトロピックインデックスは、JIS K 7117−2「プラスチック−液状、乳濁状又は分散状の樹脂−回転粘度計による見かけ粘度の測定方法」に準拠して測定する。粘度は液温20℃で、ローター回転数20rpmで測定した粘度値である。またチクソトロピックインデックスは、ローター回転数2rpmで測定した粘度値をローター回転数20rpmで測定した粘度値で除した値である。
【0023】
下塗り樹脂、上塗り樹脂ともに、繊維基材に浸透し、硬化するものであれば特に限定されないが、半透明または透明なものであることが好ましく、1mm厚さの硬化体の平行光線透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、屈折率が繊維基材の屈折率と近似していることが好ましく、用いる繊維基材にもよるが、好ましくは1.45〜1.61、より好ましくは1.46〜1.54である。
【0024】
下塗り樹脂、上塗り樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の硬化性樹脂が挙げられる。これらのうちでも、例えば道路、鉄道トンネルの補修のように短時間での施工完了が要求される場合には、速硬化可能なアクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂としては、低温硬化性に優れ、湿潤面への接着が可能であり、硬化時間が短く、カブレや環境規制物質等の含有量が少ない、電気化学工業社製の「ハードロックII」(商品名)を好適に使用できる。
【0025】
本発明で用いる繊維基材の形状は特に限定されず、繊維を、平織、綾織等の適宜の方法で1方向または2方向以上にシート状に配列したものでもよいし、不織布であってもよい。また、繊維基材の目付は、補修を要する度合い、補修場所等に合わせて適宜選択すればよいが、好ましくは100g/m2〜600g/m2、より好ましくは120g/m2〜300g/m2である。また、繊維基材の屈折率は、下塗り樹脂、上塗り樹脂の屈折率と近似していることが好ましく、用いる樹脂にもよるが、好ましくは1.50〜1.60、より好ましくは1.51〜1.56である。
【0026】
繊維基材の材質も特に限定されず、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等の非強化繊維であってもよいし、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維であってもよい。これらのうちでも、透明度の高いFRP層を形成でき、適度な柔らかさを有するために補修面の凹凸に追従しやすく、しかも経済性に優れるナイロン繊維、ビニロン繊維が好ましく、ナイロン繊維が特に好ましい。
【0027】
本発明においては、下塗りに先立って、繊維基材のコンクリート構造物への接着力を高めるために、プライマーを塗布しておくことが好ましい。プライマーの塗布は、必要であれば、コンクリート構造物表面の止水、乾燥等を充分に行い、サンダーがけを施して凹凸を取り除いた後に行うことが好ましい。プライマーの塗布方法としては、刷毛塗り法、ロール塗布法など公知の方法が採用される。プライマーは、下塗り樹脂、上塗り樹脂と同程度の透明性を有しているものが好ましく、下塗り樹脂、上塗り樹脂と同様の理由で、アクリル系プライマーが好ましい。
【0028】
プライマー塗布後には、必要に応じて不陸調整することが好ましい。不陸調整は、プライマーの硬化後、必要な箇所に必要な量のパテ材等を塗布し硬化することにより行われる。不陸調整材は、下塗り樹脂、上塗り樹脂と同程度の透明性を有しているものが好ましく、下塗り樹脂、上塗り樹脂と同様の理由で、アクリル系パテが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、実施例で用いた部材は以下の通りである。
【0030】
(1)コンクリート構造物
a)コンクリート歩道板(JIS A5304)
300mm×300mm×60mmのコンクリート歩道板にひび割れを入れ、直径0.5mm〜2.0mmのスペーサーを噛ませて復旧させたもの(以下、「歩道板」と記す)。
【0031】
b)鉄筋コンクリートU形蓋(JIS A5334)
600mm×400mm×60mmの鉄筋コンクリートU形蓋の中央部を、直径100mm×深さ60mmの形状でコア削孔したもの(以下、「U形蓋」と記す)。
【0032】
(2)繊維基材
ナイロンクロス(2方向織物、繊維重量:200g/m2、屈折率:1.53)
【0033】
(3)樹脂
以下に示す電気化学工業(株)製のアクリル系接着剤を使用した。
樹脂1:デンカハードロックII DK550−003R(粘度η:300mPa・s、チクソトロピックインデックス:1.0、1mm厚さ硬化体の平行光線透過率:87%、屈折率:1.46)
樹脂2:デンカハードロックII DK550−04R(粘度η:4200mPa・s、チクソトロピックインデックス:4.1、1mm厚さ硬化体の平行光線透過率:86%、屈折率:1.47)
【0034】
<実施例1>
歩道板、U形蓋の繊維基材被着面を、#80のペーパーサンダーにてケレンしてレイタンスを除去し、粉塵をエアブローで除去した後、プライマーとして樹脂1をローラーで塗布した(塗布量:0.2kg/m2)。なお、塗布面積は、歩道板は300mm×300mm、U形蓋は400mm×400mmとした。
【0035】
プライマー塗布後15分放置し、下塗り樹脂として樹脂2をローラーで塗布し(塗布量:0.3kg/m2)、直ちに繊維基材を被着し、脱泡ローラーでしごいて、下塗り樹脂を繊維基材に含浸させた。
【0036】
次に、繊維基材上に、上塗り樹脂として樹脂1をローラーで塗布した後(塗布量:0.2kg/m2)、20℃で7日間、硬化養生を行った。
【0037】
この様にして得られた補修歩道板については、以下の基準でFRP層の透明性を評価した。
【0038】
レベル1:コンクリート構造物表面の0.2mmの隙間又は新たな変化(ひび割れ)の目視確認が可能。
レベル2:コンクリート構造物表面の0.2mmの隙間又は新たな変化(ひび割れ)の目視確認ができない。
【0039】
また、補修U形蓋については、以下の方法で、押し抜き試験、付着試験を行った。
【0040】
<押し抜き試験(サンプル数n=3)>
万能試験機テンシロンRTC−100KN((株)オリエンテック製)を使用して、日本道路公団試験規格JHS 424にしたがい、最大荷重と最大荷重時の変位を測定した。
【0041】
<付着試験(サンプル数n=3)>
付着子(40mm×40mmの鋼製建研式引張試験冶具)を、繊維基材上に接着剤(デンカハードロックIIダイナN(電気化学工業(株)製))で接着し、接着剤が硬化した後に、ダイヤモンドカッターで付着子の周囲4辺を歩道板へ深さ5mm以上となるように切り込みを入れ、付着子と油圧式センターホールジャッキ((株)丸菱科学機械製作所製)を全ねじ棒で連結し油圧式センターホールジャッキで引張荷重をかけ、付着強さを測定すると共に、破壊状態を以下の基準で評価した。
【0042】
レベル1:コンクリート基材が破壊した。
レベル2:コンクリート基材とFRP層間が界面破壊した。
【0043】
さらに、以下の条件に暴露した補修歩道板、補修U形蓋について、同様に、FRP層の透明性、押し抜き試験、付着力試験を行い、耐久試験とした。
【0044】
a)条件A
温冷繰り返し10サイクル(JIS A 6909 7.10)
1サイクル:20℃水中/18h→−20℃気中/3h→50℃気中/3h
【0045】
b)条件B
乾湿繰り返し3サイクル(JIS A 6024 5.4)
1サイクル:60℃気中/18h→60℃水中/6h
【0046】
c)条件C
耐汚染性試験(首都高/コンクリート片剥落対策基準(案)H15.2)
汚染物質(白色ワセリン90g+カーボンブラック10g混合物)18gを布につけて、直交する方向へそれぞれ5往復ずつ均等に力を入れてすり込み、30分放置。その後、清浄な布できれいに拭き取り、更に0.5%化粧石鹸水をつけた布で20往復こすって洗浄し、乾燥。
【0047】
これらの結果を表1に示す。尚、押し抜き試験、付着力試験については平均値を示した。
【0048】
【表1】

【0049】
<比較例1>
上塗り樹脂として樹脂2を用いた以外は実施例1と同様にして、補修歩道板、補修U形蓋を製造し、実施例1と同様にして初期の特性を評価した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物表面に下塗り樹脂を塗布し、該塗布面に繊維基材を被着し、該繊維基材表面に上塗り樹脂を塗布するコンクリート構造物の補修方法であって、前記下塗り樹脂の粘度が4,000mPa・s以上100,000mPa・s以下、チクソトロピックインデックスが2.0以上5.0以下であり、前記上塗り樹脂の粘度が100mPa・s以上4,000mPa・s未満、チクソトロピックインデックスが1.0以上2.0未満であることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項2】
前記繊維基材がナイロン繊維またはビニロン繊維からなることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項3】
前記下塗りの樹脂及び前記上塗り樹脂がアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項4】
前記下塗りの樹脂及び前記上塗り樹脂の1mm厚さの硬化体の平行光線透過率が75%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の補修方法により補修されたことを特徴とするコンクリート構造物。

【公開番号】特開2006−342538(P2006−342538A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167751(P2005−167751)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(301031392)独立行政法人土木研究所 (107)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】