説明

コンクリート構造物の防水工法、コンクリート構造物及びコンクリート構造物用の防水剤

【課題】 バラスト層に覆われたコンクリート床版の防水施工を容易かつ効率よく実施することが可能な防水工法を提供する。
【解決手段】 バラスト8を敷き詰めたバラスト層7によりコンクリート床版2が覆われたコンクリート構造物1の防水工法において、カルシウムの存在を条件として固化する浸透型の液状の防水剤12、又は液状の防水剤をゲル化若しくはバラスト8の隙間に侵入し得る大きさで粒状化した防水剤22をバラスト層7の上から散布し、その散布した防水剤12、22をバラスト8の隙間に滞留させ、バラスト層7に加えられる水分を利用してその防水剤12、22をコンクリート床版2のひび割れ2a等の漏水箇所に浸透させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架橋等のコンクリート構造物の床版を防水する工法等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道高架橋の床版に適用される防水工法として、列車の運行の合間に床版上のバラストを部分的に取り除いて床版を露出させ、その露出部分に高粘性かつ早期硬化性の防水剤を塗布する工法が知られている。しかしながら、この工法では施工前にバラストの除去が必要で、施工後にはバラストを戻す必要があるために作業効率が悪く、工期が長期に及ぶおそれがある。一方、バラストを除去することなく防水施工を行う工法として、バラスト内にパイプ材を立て込み、そのパイプ材を介して床版上に粘性の低い防水剤を導入する工法も提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開昭63−89701号公報
【特許文献2】特開2001−98501号公報
【特許文献3】特開2001−295201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
パイプ材を使用する防水工法では、バラストの除去こそ不要であるものの、パイプ材の立て込み及び撤去が必要であるために作業効率が十分には改善されない。従って、列車が運行していない時間帯に行い得る作業量の制限が未だに大きく、工期の短縮効果も十分ではない。
【0004】
そこで、本発明はバラスト層のような被覆層に覆われたコンクリート床版の防水施工を容易かつ効率よく実施することが可能な防水工法、その防水工法の特徴を活かしたコンクリート構造物及びそれらに適した防水剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の防水工法は、粒状物(8)を敷き詰めた被覆層(7)によりコンクリート床版(2)が覆われたコンクリート構造物(1)の防水工法であって、カルシウムの存在を条件として固化する浸透型の液状の防水剤(12)、又は該液状の防水剤をゲル化若しくは粒状化した防水剤(22)のうち少なくとも一種の防水剤を前記被覆層の上から散布する工程と、散布された防水剤を前記被覆層の前記粒状物の隙間に滞留させる工程と、前記被覆層に加えられる水分を利用して前被覆層内に滞留した防水剤を前記床版の漏水箇所に浸透させる工程とを備えることにより、上述した課題を解決する。
【0006】
本発明の防水工法によれば、被覆層上に散布された防水剤は被覆層に入り込み、その被覆層を構成する粒状物の隙間に滞留する。滞留した防水剤は被覆層に加えられた水分とともにコンクリート床版の漏水箇所へ浸透する。ゲル化又は粒状化された防水剤を散布した場合にはその水分に防水剤が溶解して防水剤が液状に戻り、これが漏水箇所に浸透する。浸透した防水剤はコンクリート床版に含まれるカルシウム成分と反応して固化し、それによりコンクリート床版に存在するひび割れ部分、隙間等の漏水箇所が埋められて止水効果が発揮される。本発明の防水工法では、液状、ゲル状又は粒状の防水剤を被覆層の上から散布しているので、被覆層を取り除き、あるいは被覆層にパイプ材を立て込む手間がかからず、防水施工の作業効率が改善される。被覆層内に防水剤を滞留させる工程を設けているので、散布時に存在している漏水箇所に限らず、散布後に生じた漏水箇所に対しても止水効果を発揮させることができる。従って、防水効果の持続性も高い。
【0007】
本発明の防水工法の一態様においては、前記被覆層が前記粒状物としてのバラスト(8)を敷き詰めて形成されてもよい。バラスト上から散布された防水剤はバラスト同士の隙間に入り込んでそこに一旦滞留し、バラスト層に加えられる水分とともにコンクリート床版の漏水箇所へ浸透する。防水剤の固化にはカルシウムの存在が必要なため、バラスト層に滞留する防水剤によってバラストが固められるおそれがなく、バラストの緩衝機能は何ら損なわれない。
【0008】
バラストを敷き詰めてなる被覆層に本発明の防水工法が適用される場合、前記散布する工程では前記液状の防水剤を散布し、前記滞留させる工程では前記防水剤を前記バラスト間の堆積物(9)上に滞留させてもよい。完成後一定の期間を経たコンクリート構造物のバラスト層には泥等が詰まって堆積物の層が生じていることがある。このような堆積物はバラスト層よりも目が詰まっているので液状の防水剤の透過を抑え、防水剤をある程度保持する作用をもっている。従って、液状の防水剤をバラスト上から散布すると、バラスト層内の堆積物上に防水剤が一旦溜り、その後に防水剤が堆積物へ徐々に浸透する。このような作用を利用すれば、防水剤の散布後、相当期間に亘って防水剤をバラスト層内に滞留させつつ、防水剤をコンクリート床版まで徐々に浸透させることができる。
【0009】
バラスト上に液状の防水剤を散布する工程においては、前記液状の防水剤と水とを散布してもよい。防水剤に加えて水を散布することにより、バラスト層内における防水剤の拡散を促進することができる。液状の防水剤及び水の散布量は防水剤の粘度、バラスト層の詰まり具合によって適宜に設定してよいが、一例として前記液状の防水剤を100〜500g/mの範囲で、前記水を200〜5000g/mの範囲で散布してもよい。散布量をこのような範囲に設定することにより、防水効果の不足又は防水剤の無駄を抑え、かつ、防水剤の浸透速度、拡散の程度を適切に維持することができる。
【0010】
本発明の防水工法の一態様において、前記散布する工程では、前記粒状物の隙間に侵入し得る大きさで粒状化された防水剤を散布してもよい。この場合には、防水剤を散布後速やかに被覆層内に拡散させることができ、それにより止水効果を比較的早期に生じさせることができる。
【0011】
また被覆層がバラストを敷き詰めて構成された態様において、前記散布する工程では、粒径0.5〜10mmの範囲で粒状化された防水剤を散布してもよい。この程度の粒径範囲の粒状防水剤を散布することにより、防水剤をバラスト層内に速やかに拡散させつつバラスト層内における防水剤の滞留時間を適切に確保して防水効果の確実性及び持続性をさらに高めることができる。さらに、粒状の防水剤を50〜500g/mの範囲で散布すれば、防水効果を過不足なく発揮させることができる。粒状の防水剤を散布する工程においては、粒状化された防水剤のみを散布してもよいし、粒状化された防水剤とともに水を0g/mよりも大きくかつ5000g/m以下の範囲で散布してもよい。粒状の防水剤のみを散布する場合には散布後にバラスト層に供給される水分により防水剤がバラスト層内で移動し、又はバラスト層内で拡散し、かつその水分に防水剤が溶解して防水剤が液状に戻る。この場合、散布後の水分の供給は人工的な散水によるものでもよいし、降雨を利用した水分供給でもよい。一方、粒状の防水剤とともに水を散布する場合には、その水を利用して防水剤をバラスト層内で移動させ、又はバラスト層内で拡散させ、かつ粒状の防水剤を溶解させることができる。散布時に水を撒く場合でも、散水後の降雨をさらに利用して防水剤の拡散等を図ってもよい。
【0012】
粒状の防水剤を散布する工程においては、粒径が異なる防水剤のそれぞれを散布してもよい。粒状の防水剤が水分で溶解して液状の防水剤に戻るまでに要する時間は防水剤の粒径の影響を受けるため、被覆層に対して種々の粒径の防水剤を散布すれば、粒径の小さい防水剤から順次溶解して漏水箇所に浸透するようになり、均一の粒径の防水剤を散布する場合と比較して長期間に亘り防水効果が持続する。粒径を変化させる場合には、さらに防水剤を粒径に応じて複数のグループに分類し、一又は二以上のグループ毎に複数回に分けて防水剤を散布してもよい。このような散布方法によれば、粒径が異なる防水剤を混ぜ合わせて一度に散布した場合と比較して、粒径に応じた防水剤の分布の偏りが生じ難くなる。
【0013】
本発明の防水工法の一態様において、前記滞留させる工程では、前記散布する工程の後に前記構造物に加えられる振動を利用して、前記防水剤を前記被覆層の下方へ移動させ、又は前記被覆層内で拡散させてもよい。構造物に加えられる振動を利用すれば、液状、ゲル状又は粒状の防水剤のバラスト層内における再散布を促し、あるいは防水剤のコンクリート床版への浸透を促すことができる。
【0014】
本発明のコンクリート構造物は、粒状物(8)を敷き詰めて形成される被覆層(7)によりコンクリート床版(2)が覆われたコンクリート構造物(1)であって、前記被覆層の粒状物の隙間には、カルシウムの存在を条件として固化する浸透型の液状の防水剤(12)、又は該液状の防水剤をゲル化若しくは粒状化した防水剤(22)が滞留していることにより、上述した課題を解決する。
【0015】
本発明のコンクリート構造物によれば、被覆層を構成する粒状物の隙間に滞留した液状又は粒状の防水剤が被覆層に加えられる水分とともに被覆層内を移動してコンクリート床版の漏水箇所に浸透し、その浸透した防水剤がコンクリート床版に含まれるカルシウム成分と反応して固化する。これにより、コンクリート床版に存在するひび割れ、隙間等の漏水箇所が埋められてその漏水箇所が止水される。防水剤を被覆層内に滞留させているので、その防水剤の散布時に存在している漏水箇所に限らず、散布後に生じた漏水箇所に対しても止水効果を発揮させることができ、防水効果の持続性が高い構造物を提供することができる。
【0016】
本発明のコンクリート構造物の一態様においては、前記被覆層が前記粒状物としてのバラスト(8)を敷き詰めて形成されてもよい。さらに、前記バラスト間の堆積物(9)上に液状の防水剤が滞留してもよいし、前記バラストの隙間に粒径が0よりも大きくかつ10mm以下の範囲で粒状化された防水剤が滞留してもよい。粒径が異なる防水剤のそれぞれが被覆層内に滞留していてもよい。これらの形態による作用効果は上述した防水工法に関して説明した通りである。なお、バラストの隙間における防水剤の粒径は散布時の粒径を限定するものではない。
【0017】
本発明の防水剤は、カルシウムの存在を条件として固化する浸透型の液状の防水剤が粒径0.5〜10mmの範囲で粒状化されることにより、上述した課題を解決する。このような粒径範囲の防水剤によれば、コンクリート床版を覆うバラスト上から防水剤のみを散布し、又は防水剤と水とを散布することにより、本発明の防水工法を実施でき、また本発明のコンクリート構造物を得ることができる。
【0018】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0019】
以上に説明したように、本発明の防水工法によれば、液状、ゲル状又は粒状の防水剤を被覆層の上から散布することにより、コンクリート床版の漏水箇所を防水剤で埋めてその漏水箇所を止水することができるので、被覆層を取り除き、あるいは被覆層にパイプ材を立て込む手間が要らず、コンクリート構造物の防水施工を容易かつ効率よく実施することができる。防水剤を被覆層内に滞留させる工程を設けたことにより、防水剤の散布時に存在している漏水箇所に限らず、散布後に生じた漏水箇所に対しても止水効果を発揮させることができ、防水効果の持続性が高まる。また、本発明のコンクリート構造物によれば、被覆層内に滞留した防水剤がコンクリート床版の漏水箇所に徐々に浸透して固化するので、防水剤の散布時に存在している漏水箇所に限らず、散布後に生じた漏水箇所に対しても止水効果を発揮させることができ、防水効果の持続性が高い構造物を提供することができる。さらに、本発明の防水剤を利用すれば、バラストにて覆われたコンクリート床版を有する構造物に対して本発明の防水工法を容易に実施でき、また本発明のコンクリート構造物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の形態)
図1は本発明の第1の形態に係る防水工法が適用されるコンクリート構造物としての鉄道用高架橋を示している。但し、図1は高架橋1の幅方向中央から一端までを示す半断面である。高架橋1はコンクリート床版(以下、床版と略称する。)2と、これを支える橋脚3とを有している。床版2の端には排水溝4が形成され、床版2の上面にはその排水溝4に向って下り勾配が付されている。床版2の上部には防水シート5が埋め込まれ、その防水シート5は保護コンクリート6にて覆われている。保護コンクリート6の上面には被覆層としてのバラスト層7が設けられている。周知のようにバラスト層7はバラスト(砕石)8を敷き詰めて形成されている。図1の高架橋1は完成から相当期間が経過したものである。従って、図2にも示したようにバラスト層7の下部には泥や埃等からなる堆積物9が溜っている。
【0021】
次に、図2〜図4を参照して高架橋1に対する防水施工の手順を説明する。第1の形態では、図2に示したようにバラスト層7の上方に散布器11を配置して、その散布器11から液状の防水剤12をバラスト層7に散布する。バラスト層7の除去は不要である。防水剤12はカルシウムの存在を条件として固化する性質を有し、かつバラスト層7に容易に浸透する低粘性の浸透型防水剤である。例えば、ケイ酸ナトリウムを主剤とし、これに補助剤として水和反応活性剤及び反応促進剤を混ぜ合わせた浸透型防水剤を防水剤12として使用することができる。このような浸透型防水剤としては、例えば株式会社アストンが商品名CS−21として提供するコンクリート改質剤、オーウェル株式会社が商品名オーセラコートとして提供するコンクリート改質剤、三菱化学産資株式会社が商品名ハイドロプルーフとして提供するコンクリート改質剤等を挙げることができる。これらの防水剤を原液で、又は5倍以内の範囲で希釈してバラスト層7に散布することにより、第1の形態の防水施工を実施することができる。
【0022】
鉄道用高架橋1のバラスト層7に対する防水剤12の散布量は原液換算で100〜500g/mの範囲に設定することができ、125〜500mg/mの範囲に設定することが好ましく、さらには200〜300mg/mの範囲に設定することがより好ましい。防水剤12の散布量が過度に少ない場合には十分な防水効果が得られないおそれがあり、他方、散布量が過度に多い場合には防水剤12が無駄に消費されるおそれがある。防水剤12を散布する工程では、バラスト層7の上から防水剤12に加えて水を散布して防水剤12の希釈、及びそれに伴う浸透性の改善を図ってもよい。バラスト層7に散布される水は、上記のように予め防水剤12の原液に希釈水として加えられてもよい。あるいは、防水剤12の散布工程において、防水剤12の散布と水の散布とを別々に実施してもよい。防水剤12の原液を希釈して散布し、さらに別に水を散布してもよい。バラスト層7に対する水の散布量(希釈水として加えられる量を含む。)は200〜5000g/mの範囲に設定することができ、200〜500g/mの範囲に設定することがより好ましい。水の散布量が過度に少ないと防水剤12を床版2まで十分に浸透させることが難しく、散布量が過度に多いと防水剤12の粘性が必要以上に低下し、防水剤12をバラスト層7内にて十分に滞留させることができずに防水効果の持続性が損なわれるおそれがある。防水剤12の散布とは別に水を散布する場合には、防水剤12の散布と水の散布とを1回ずつ行ってもよいし、これらの散布を複数回繰り返してもよい。防水剤12の散布と水の散布との順序は問わない。
【0023】
バラスト層7の表面に散布された防水剤12は、図3に示すようにバラスト8同士の隙間に浸透して堆積物9に達する。堆積物9の層はバラスト層7に比して目が詰まっているため、防水剤12の浸透を抑える作用を奏する。従って、堆積物9上に防水剤12が滞留してバラスト層7内に防水剤12の液溜りが形成される。これにより本発明の滞留工程が実現される。その一方、堆積物9はある程度の透水性を有しかつ滞留した防水剤12は水分を含んでいるため、図4に矢印で示したように堆積物9内に徐々に浸透し、最終的には床版2に達する。これにより、床版2に存在するひび割れ2aの内部に防水剤12が浸透し、その防水剤12が床版2に含まれたカルシウム成分と反応して固化する。その結果、ひび割れ2aが埋められて止水される。このように堆積物9に溜った防水剤12が床版2の漏水箇所に浸透する過程が本発明の浸透させる工程に相当する。防水剤12が滞留した状態の高架橋1が本発明のコンクリート構造物に相当する。
【0024】
図5は防水剤12の散布方法の具体的な施工例を示している。図5の施工例では、防水剤12をタンク13からポンプ14にて汲み上げてバラスト層7の上方の散布器11に供給し、その散布器11からバラスト層7に防水剤12を散布している。防水剤12の散布工程では、防水剤12に希釈水を加えてもよいし、防水剤12の散布とは別に水を散布してもよい。散布中において防水剤12が排水溝4へ流出する場合には、排水孔4aから落下する防水剤12をドレン受け15で回収してタンク13へ防水剤12を戻してもよい。防水剤12の散布工程では、床版2の勾配を考慮して、勾配の上側(図5の右側)を下側に優先して防水剤12を散布することが望ましい。一例として、図5に矢印Fで示したようにから勾配の上側から下側に向って散布器11を移動させてもよい。散布器11には、ホース、ノズル、シャワーヘッド等の液体散布に使用される各種の形態を用いることができる。
【0025】
本形態の防水工法によれば、バラスト層7の除去が不要であり、防水施工を容易かつ迅速に実施することができる。堆積物9上に滞留した防水剤12が床版2まで完全に抜け落ちるためには相当の時間を要するため、防水剤12による止水作用は散布後に発生したひび割れや隙間等の漏水箇所に限らず、散布後に発生したひび割れ等に対しても有効に働く。従って、防水効果の持続性が高い。床版2のカルシウム成分と接触するまでは防水剤12が固化しないので、バラスト8が防水剤12によって固化してバラスト層7の緩衝機能が損なわれるおそれもない。
【0026】
(第2の形態)
次に、図6〜図14を参照して本発明の第2の形態を説明する。なお、これらの図において、図1〜図5に示した第1の形態と共通する構成要素には同一符号を付し、それらの説明は省略する。図6は第2の形態の防水工法が適用される鉄道用高架橋を示している。高架橋1の構成は第1の形態のそれと同一であるが、この形態では完成後間もない高架橋が想定されている。従って、バラスト層7内に堆積物は存在しないか、存在しても無視し得る程度である。
【0027】
次に、図7〜図9を参照して第2の形態に係る防水施工の手順を説明する。第2の形態では、図7に示したようにバラスト層7の上方に散布器21を配置して、その散布器21から粒状(ビーズ状)の防水剤22をバラスト層7に散布し、その散布した防水剤22を図8に矢印で示すようにバラスト層7内で床版2に向って移動させ、あるいはバラスト層7内で拡散させる。さらに、バラスト層7内に拡散した防水剤22を図9に示すようにバラスト8同士の隙間に滞留させる。そして、バラスト層7に滞留した防水剤22をバラスト層7に加えられる水分に溶解させてバラスト層7の下部に第1の形態と同様の液状の防水剤12を生じさせ、この液化した防水剤12をひび割れ2a等の漏水箇所に浸透させて漏水箇所を止水する。この手順では、図7が散布する工程に、図9が滞留させる工程に、図10が浸透させる工程にそれぞれ相当する。また、図9のように防水剤22が滞留した状態の高架橋1が本発明のコンクリート構造物に相当する。なお、本形態においてもバラスト層7の除去は不要である。防水剤22を移動させ、又は拡散させる方法、及びバラスト層7に対する水分の供給方法は後述する。
【0028】
本形態で使用する防水剤22は、第1の形態で使用した液状の浸透型防水剤12を乾燥させて防水剤の塊状物を生成し、その塊状物を所定の粒径範囲に破砕し、さらにその破砕物を乾燥させて含水率を調整することにより形成される。液状の防水剤12の乾燥工程では、加熱と送風により乾燥時間を短縮してもよいが、液体を沸騰させないように注意する必要がある。加熱温度に関しては、液状の防水剤の成分が変化しないように制限する必要もある。
【0029】
防水剤22の粒径はバラスト層7内における防水剤22の移動速度に影響を与える。バラスト層7に防水剤22を散布する場合において、防水剤22の粒径は0.5〜10mmの範囲に設定することができ、より好ましくは1〜5mmの範囲に設定するとよい。粒径が過度に小さい場合には防水剤22がバラスト層7内に滞留せずに床版2へ早期に落下し、粒径が過度に大きい場合には防水剤22が床版2まで達し難くなる。
【0030】
散布工程で使用する防水剤22の粒径は均一でもよいし、上記の好適範囲内においてバラツキがあってもよい。防水剤22の粒径にバラツキを与えた場合には、防水剤22の移動速度に粒径に応じた差が生じ、床版2まで早期に落下する防水剤22と、比較的長期に亘ってバラスト層7内に滞留する防水剤22とが混在する。これにより、防水効果を比較的早期に生じさせつつ、その防水効果を長期に亘って維持することができる。なお、粒径にバラツキを与える場合には、粒径が異なる防水剤22を混合状態で散布してもよいし、防水剤22を粒径によって複数のグループに分け、グループ毎に別々に散布してもよい。グループ毎に分けて散布する方法によれば、防水剤22の粒径に応じた分布の偏りを抑えることができる利点がある。なお、粒径によってグループ分けする場合、二以上のグループ毎に複数回に分けて防水剤22を散布してもよい。
【0031】
防水剤22の含水率はバラスト層7内における防水剤22の溶解時間に影響を与える。溶解時間は防水剤22の粒径にも影響するが、例えば防水剤22の粒径の場合、含水率が25%であれば溶解時間はおよそ1時間、15%であれば溶解時間はおよそ8時間である。防水剤22の粒径が5mmの場合、含水率が25%であれば溶解時間はおよそ3時間、20%であれば溶解時間はおそよ18時間である。このように、含水率が小さいほど早期に止水作用が発揮されるようになるが、その一方で防水効果の持続時間が短くなる。従って、防水施工の目的に応じて防水剤22の含水率を調整することが好ましい。含水率が異なる防水剤22を混ぜ合わせてバラスト層7に散布してもよい。
【0032】
図11〜図14は第2の形態に係る防水工法の具体的な施工例を示している。この施工例では、図11に示すようにバラスト層7の上方に配置した散布器21から防水剤22を散布し、その後、図12に示すように散水器25を利用してバラスト層7に水26を散布する。水26の散布では第1の形態と同様に床版2の勾配の上側から下側に散水器25を移動させてもよい。但し、散水器25の幅方向への移動は必須ではなく、バラスト層7に散布された防水剤22に対して満遍なく水26を散布できればよい。散水は防水剤22をバラスト層7内で移動又は拡散させ、さらには防水剤22を溶解させるために行われる。但し、図13に示すように散水工程後の降雨を利用してバラスト層7内で防水剤22を移動又は拡散させ、あるいは防水剤22を溶解させることもできる。防水剤22の散布工程で散水を実施して防水剤22をバラスト層7内に移動又は拡散させることによって図9の滞留状態を作り出し、降雨を利用してバラスト層7内に滞留した防水剤22の溶解及び床版2への浸透を図ってもよい。施工時が雨期の場合には散布工程における散水を省略し、降雨によって供給される水分のみを利用して防水剤22を移動又は拡散させ、さらには溶解させてもよい。つまり、本形態のように粒状の防水剤22をバラスト層7に散布する場合には、液状の防水剤12を散布する場合と異なって、防水剤22の散布とは別にバラスト層7に水分を加える必要があるが、その水分は、人工的な散水又は降雨のいずれによっても供給することができる。
【0033】
バラスト層7に対する防水剤22の散布量は50〜500g/mの範囲に設定することが好ましく、さらには50〜300mg/mの範囲に設定することが好ましい。防水剤22の散布量が過度に少ないと十分な防水効果が得られないおそれがあり、他方、防水剤22の散布量が過度に多いと防水剤22が無駄に消費されるおそれがある。バラスト層7に対して図12に示したように人工的に散水する場合の散水量は、0よりも大きくかつ5000g/mmの範囲に設定することが好ましく、さらには500g/mm以下の範囲に設定することが好ましい。散水量が不足すると防水剤22をバラスト層7内で十分に移動させ、又は拡散させることができないおそれがあり、他方、散水量が多すぎると防水剤22をバラスト層7内に十分に滞留させることができず、防水効果の持続性が損なわれるおそれがある。
【0034】
図14は、バラスト層7に散布された防水剤22を移動させ、又は拡散させる他の手段を示している。すなわち、鉄道用の高架橋1においては、図14に示すようにバラスト層7に枕木27及びレール28が敷設され、高架橋1を列車29が通過する際にバラスト層7に振動が与えられるので、その振動を利用して防水剤22をバラスト層7内で移動させ又は拡散させることができる。勿論、振動を利用した防水剤22の移動又は拡散は散水、降雨による手段と併せて用いることができる。
【0035】
本形態によれば、以上のような施工手順を経ることにより、バラスト層7の上から散布された粒状の防水剤22をバラスト層7内に送り込んで滞留させ、それにより防水効果を長期間に亘って発揮させることができる。バラスト層7の除去は不要であり、容易かつ迅速に防水施工を実施することができる。防水剤22をバラスト層7内で溶解させ、これによって生じた防水剤12が床版2に含まれたカルシウム成分と反応して固化するので、バラスト8が防水剤12によって固化してバラスト層7の緩衝機能が損なわれるおそれもない。
【0036】
本発明は上述した形態に限定されることなく、各種の形態にて実施してよい。例えば、第2の形態においては、粒状の防水剤22に代えて、防水剤12をゲル化した防水剤を散布してもよい。第1の形態で示した高架橋1、すなわちバラスト層7の内部に堆積物9が存在する高架橋に対して第2の形態で使用した防水剤22又はこれに代わるゲル状の防水剤を散布してもよい。コンクリート床版又はその被覆層の状態によっては、液状の防水剤、ゲル状の防水剤、粒状の防水剤の3種類の防水剤のうち、2種類以上の防水剤を同時に又は順次に散布してもよい。複数種類の防水剤を組み合わせて散布すれば、防水剤の浸透速度及び固化速度の幅を拡大し、止水効果の迅速性及び持続性をいずれも高めることができる。被覆層に散布する粒状の防水剤の粒径は、当初から被覆層内の隙間に侵入できる粒径範囲に限らず、それよりも大きな粒径の防水剤が含まれてもよい。そのような粒径が大きい防水剤を散布した場合でも、その後の散水、降雨等によって防水剤の粒径が減少して被覆層内に徐々に入り込むことにより本発明の止水効果が得られる。本発明は鉄道高架橋に限らず、液状、粒状又はゲル状の防水剤が侵入し得る隙間を有する被覆層に覆われたコンクリート床版を有する限りにおいて、各種のコンクリート構造物に適用可能である。例えば、透水性の舗装が施された道路高架橋、砂利等で覆われた建造物の屋上、バルコニー等に対して本発明を適用することができる。
【実施例】
【0037】
本発明の防水工法の防水効果を確認するため、図15及び図16に示した実験装置30を試作した。実験装置30は、筒状のケース31の下端開口部に金網33を配置し、その下から固定リング34を当ててケース31の下部フランジ31aと固定リング34との間に金網33を挟み込み、これらをボルト及びナット等の連結手段35にて共締めして構成されている。ケース31の内部にはバラスト36が充填されている。実験装置30の下部には円柱状のコンクリート試験片TPが配置される。試験片TPにはクラックが予め入っており、試験片TPの分解を防ぐために試験片TPの周囲は締付けバンド38にて締付けられている。試験片TPの外周からの漏水を防ぐため、試験片TPの全周はコーキング剤39にて覆われている。ケース31の内径及び試験片TPの外径φはそれぞれ140mmである。実験装置30の高さは500mm、試験片TPの高さは300mmにそれぞれ設定されている。試験片TPのクラックは最大幅で0.2〜0.3mm程度である。
【0038】
実験手順は次の通りである。まず、実験装置30のケース31の上端から水を散布し、試験片TPの下端から漏れる水量を初期漏水量として計測した。次に、ケース31の上端から防水剤及び水を順次散布し、その後にケース31に水を適宜加えて試験片TPの下端からの漏水量の径時変化を観察した。複数の試験片TPを初期漏水量に応じて極小規模(漏水量10g/分まで)、小規模(漏水量10〜25g/分)及び中規模(漏水量25〜45g/分)にそれぞれ分類し、各規模に関して漏水量の変化を確認した。使用した防水剤は株式会社アストンが商品名CS−21として提供するコンクリート改質剤、オーウェル株式会社が商品名オーセラコートとして提供するコンクリート改質剤、三菱化学産資株式会社が商品名ハイドロプルーフとして提供するコンクリート改質剤である。実験の結果、いずれの規模に対しても、防水剤の散布後、1日〜数日以内に漏水量がほぼ0まで低下し、以降、4週間経過まで観察しても漏水量の増加は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の形態に係る防水工法が適用される鉄道用高架橋の構造を示す断面図。
【図2】高架橋のバラスト層に液状の防水剤を散布する様子を示す図。
【図3】バラスト層内に液状の防水剤を滞留させた状態を示す図。
【図4】バラスト層内に滞留した防水剤が床版の漏水箇所へ浸透する様子を示す図。
【図5】液状の防水剤を散布する場合の具体的な施工例を示す図。
【図6】本発明の第2の形態に係る防水工法が適用される鉄道用高架橋の構造を示す断面図。
【図7】高架橋のバラスト層に粒状の防水剤を散布する様子を示す図。
【図8】粒状の防水剤がバラスト層の内部に移動する様子を示す図。
【図9】バラスト層内に粒状の防水剤を滞留させた状態を示す図。
【図10】バラスト層内に滞留した粒状の防水剤が溶解して床版の漏水箇所へ浸透する様子を示す図。
【図11】粒状の防水剤を散布する場合の具体的な施工例を示す図。
【図12】バラスト層に散水する様子を示す図。
【図13】降雨を利用して防水剤を移動又は拡散させ、あるいは溶解させる様子を示す図。
【図14】高架橋に加えられる振動を利用して防水剤を移動又は拡散させる様子を示す図。
【図15】実施例で使用する実験装置の分解斜視図。
【図16】実施例で使用する実験装置の縦断面図。
【符号の説明】
【0040】
1 鉄道用高架橋
2 コンクリート床版
7 バラスト層(被覆層)
8 バラスト(粒状物)
9 堆積物
11 散布器
12 液状の防水剤
21 散布器
22 粒状の防水剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状物を敷き詰めた被覆層によりコンクリート床版が覆われたコンクリート構造物の防水工法であって、カルシウムの存在を条件として固化する浸透型の液状の防水剤、又は該液状の防水剤をゲル化若しくは粒状化した防水剤のうち少なくともいずれか一種の防水剤を前記被覆層の上から散布する工程と、散布された防水剤を前記被覆層の前記粒状物の隙間に滞留させる工程と、前記被覆層に加えられる水分を利用して前被覆層内に滞留した防水剤を前記床版の漏水箇所に浸透させる工程と、を備えたことを特徴とするコンクリート構造物の防水工法。
【請求項2】
前記被覆層が前記粒状物としてのバラストを敷き詰めて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の防水工法。
【請求項3】
前記散布する工程では前記液状の防水剤を散布し、前記滞留させる工程では前記防水剤を前記バラスト間の堆積物上に滞留させることを特徴とする請求項2に記載の防水工法。
【請求項4】
前記散布する工程では、前記液状の防水剤と水とを散布することを特徴とする請求項3に記載の防水工法。
【請求項5】
前記散布する工程では、前記液状の防水剤を100〜500g/mの範囲で、前記水を200〜5000g/mの範囲でそれぞれ散布することを特徴とする請求項4に記載の防水工法。
【請求項6】
前記散布する工程では、前記粒状物の隙間に侵入し得る大きさで粒状化された防水剤を散布することを特徴とする請求項1に記載の防水工法。
【請求項7】
前記散布する工程では、粒径0.5〜10mmの範囲で粒状化された防水剤を散布することを特徴とする請求項2に記載の防水工法。
【請求項8】
前記散布する工程では、前記防水剤を50〜500g/mの範囲で散布することを特徴とする請求項7に記載の防水工法。
【請求項9】
前記散布する工程では、粒状化された防水剤のみを散布することを特徴とする請求項7に記載の防水工法。
【請求項10】
前記散布する工程では、粒状化された防水剤とともに、水を0g/mよりも大きくかつ5000g/m以下の範囲で散布することを特徴とする請求項8に記載の防水工法。
【請求項11】
前記散布する工程では、粒径が異なる防水剤のそれぞれを散布することを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の防水工法。
【請求項12】
前記散布する工程では、前記防水剤を粒径に応じて複数のグループに分類し、一又は二以上のグループ毎に複数回に分けて防水剤を散布することを特徴とする請求項11に記載の防水工法。
【請求項13】
前記滞留させる工程では、前記散布する工程の後に前記構造物に加えられる振動を利用して前記防水剤を前記被覆層の下方へ移動させ、又は前記被覆層内で拡散させることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の防水工法。
【請求項14】
粒状物を敷き詰めて形成される被覆層によりコンクリート床版が覆われたコンクリート構造物であって、前記被覆層の粒状物の隙間には、カルシウムの存在を条件として固化する浸透型の液状の防水剤、又は該液状の防水剤をゲル化若しくは粒状化した防水剤が滞留していることを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項15】
前記被覆層が前記粒状物としてのバラストを敷き詰めて形成されていることを特徴とする請求項14に記載のコンクリート構造物。
【請求項16】
前記バラスト間の堆積物上に液状の防水剤が滞留していることを特徴とする請求項15に記載のコンクリート構造物。
【請求項17】
前記バラストの隙間に粒径が0よりも大きくかつ10mm以下の範囲で粒状化された防水剤が滞留していることを特徴とする請求項14に記載のコンクリート構造物。
【請求項18】
粒径が異なる防水剤のそれぞれが前記被覆層内に滞留していることを特徴とする請求項17に記載のコンクリート構造物。
【請求項19】
カルシウムの存在を条件として固化する浸透型の液状の防水剤を粒径0.5〜10mmの範囲で粒状化してなるコンクリート構造物用の防水剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−194020(P2006−194020A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8414(P2005−8414)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(592199102)株式会社アストン (9)
【出願人】(505018717)株式会社IDT日板 (3)
【出願人】(000149206)株式会社大阪防水建設社 (44)
【出願人】(390036515)株式会社鴻池組 (41)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【出願人】(505019703)株式会社プロシード (1)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
【Fターム(参考)】