説明

コンクリート混練用水溶液およびその製造法

【課題】コンクリートの流動性を高めるための従来技術の有する問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とする処は、コンクリートに流動化材や増粘材を使用することなく、打設作業を軽減させた流動化コンクリートを提供する。
【解決手段】フッ素樹脂パイプに線状スリットを設けた気液混合溶解手段103および分級リサイクル手段106,108を組合せた気液混合溶解装置によって製造した溶存ガスが超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)で過飽和溶存濃度の水溶液をコンクリート混練水として利用することによりコンクリート流動性能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの流動性を高め、コンクリートの圧送を容易にする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地下や複雑な構造物など距離の離れた場所にコンクリートを打設する場合、パイプによる圧送が必要となるが、高強度領域のコンクリート等の水硬性組成物においては、流動性と粘性が大きな課題であり、さらに水/水硬製粉体比が低い領域に適用するためには、流動性と粘性低減の更なる低減が望まれる。
コンクリートの流動性(軟らかさ)を大きくし過ぎると、コンクリート構成材料の比重差によってコンクリートの均一性が損なわれ、構造物の耐力や耐久性に影響を及ぼす。このため、コンクリートの打設作業を軽減するための方法としてコンクリート自体の性質を改善する方法が提案されている。これはコンクリート自体の流動性と材料分離抵抗性の両者を大きくして、コンクリートの均一性を保持しつつ流動性を大きくする方法である。
現状では(イ)セルロース系増粘剤と流動化材を併用する方法、(ロ)コンクリートに多量の微粉末材料と流動化剤を併用する方法などが知られている。
しかしながらセルロース系増粘剤と流動化材を併用する前記従来の(イ)の方法によれば、硬化コンクリートの乾燥収縮が大きくなったり、凍結融解抵抗性が低下したりする。またコンクリートに多量の微粉末材料を併用する前記従来の(ロ)の方法によれば、コンクリートの乾燥収縮や多量の結合材の水過熱によるひび割れが増大する。特開平5−246751号および特開平9−309758号にはコンクリート混練の際に減水剤および流動化剤を混入により流動性を高める方法が開示されている。
他に、粘性が増大した固練りコンクリートを圧送する際の流動性を向上させるために、ミキサで混練したコンクリートを圧送する直前に大粒径の空気を混入させる方法も利用されている。たとえば、特開2000−289833号公報には気泡混入により流動性を高める圧送方法が開示されている。
ただ、空気、酸素、窒素ガスは空気中に放出しやすいため、コンクリートに均等に分散させて維持させるのが難しい問題がある。また、減水剤および流動化剤の配合には限度があり、添加剤による経費など経済性にも問題であった。
本出願人は、先に特許文献1において、フッ素樹脂パイプに線状スリットを設けた気液混合溶解手段および分級リサイクル手段を組み合わせた気液混合溶解装置を提案した。当溶解装置により、ナノサイズの気泡の生成、大気中への放出が少なく分散性が良好な過飽和ガス溶解水の製造が可能になった。
本出願人は当該気液混合溶解装置を用いて、ナノサイズの気泡の生成、大気中への放出が少なく分散性が良好な過飽和ガス溶解水を使用しコンクリート混練用の水として使用させることにより、流動性の向上などで顕著な効果を確認したので以下開示するものである。
【特許文献1】特願2007−140039号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記従来技術の有する問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とする処は、コンクリートに流動化材や増粘材を使用することなく、打設作業を軽減させた流動化コンクリートを提供する点にある。
従って、本発明の主な目的は、先に特許文献1において、提案した気液混合溶解手段および分級リサイクル手段を組み合わせた気液混合溶解装置により実現が可能になった溶存ガスが超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)を含有し大気中への放出が少なく分散性が良好な過飽和ガス水溶液をコンクリート混練用水として利用することによりコンクリートの流動性を向上させ且つ断熱効果の優れたコンクリートを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本出願人は、先に特許文献1において、提案した図2の気液混合溶解手段および図3の分級リサイクル手段を組み合わせた図1の気液混合溶解装置により溶存ガスが過飽和溶存濃度の水溶液を製造できることを見出し、さらに水溶液の利用方法を確認するに至った。
すなわち、本発明の気液混合溶解装置により製造した水溶液は、大気へのガス放出が微小であり水中での上昇速度が緩慢で分散性が良好であることと超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)を含んでいることを特徴とするが、この水溶液をコンクリート混練水として利用することにより、コンクリートの流動性を高めるものである。
本発明の主要な内容は以下の通りである。
【0005】
1.特許文献1のフッ素樹脂パイプに線状スリットを設けた気液混合溶解手段
および分級リサイクル手段により、可能となった水と空気、酸素、窒素ガスを気液混合溶解して溶存ガスが超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)を含有し過飽和溶存濃度の水溶液をコンクリート混練水として利用することにより、摩擦低減効果による流動性向上が可能になった。
【0006】
2.上記の水溶液をコンクリート混練水として利用することにより、高い断熱
効果を有するコンクリートの提供が可能になった。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る水溶液は、先に特許文献1において、提案した図1の気液混合溶解装置により水と空気、酸素、窒素ガスを大気圧〜0.02MPa程度の低圧で気液混合溶解されて製造できるうえ、ガスの大気放出が微小でありガスの使用量を大幅に削減できるとともに溶存ガスが超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)を含有し任意の過飽和溶存濃度に製造することができる。また製造装置が陸上に設置できるので水溶液の製造や供給が容易であり、多数箇所へ配置した装置でも配管で水溶液の供給を効率良く行うことができる。
【0008】
本発明に係る水溶液を、コンクリート混練水として利用することにより摩擦低減効果によりコンクリートの流動性を増大させ、優れた断熱効果をコンクリートに付与させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る水と空気、酸素、窒素ガスを気液混合溶解して溶存ガスが超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)を含有し過飽和溶存濃度である水溶液製造方法およびその水溶液のコンクリートへの使用方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明に係る水と空気、酸素、窒素ガスを気液混合溶解して溶存ガスが超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)を含有し過飽和溶存濃度からなる水溶液製造は、特許文献1による図2の気液混合溶解手段および図3の分級リサイクル手段を組み合わせた図1の気液混合溶解装置により行う。まず、水が液相供給手段により循環水槽に導入された後、ポンプの吸入側に設置された気液混合溶解手段に入る。一方、空気、酸素、窒素ガスは気相供給手段により、大気圧〜0.02MPa程度の圧力範囲内で送られ、ポンプの吸込側に設置された気液混合溶解手段に水とともに入り気液混合溶解されたあとポンプで吐出され、さらに2つ目の気液混合溶解手段で再度気液混合される。その後、気液混合溶解手段の出口に設置された分級手段により溶解液中の大粒径の気泡を分離する。大粒径の気泡はガス抜弁を介してリサイクル手段によりポンプの吸込み側の気液混合手段に戻り再び気液混合溶解される。分級手段を通過した水溶液はさらに3つ目の気液混合溶解手段で気液混合溶解されて循環水槽に戻り循環されることになる。この結果、溶存ガスが超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)を含有し過飽和溶存濃度からなる水溶液として製造され、大気へのガス放出が微小であり水中での気泡上昇速度が緩慢であるとともに分散性が良好であることを特徴である水溶液が製造される。
【0011】
上記の水溶液を使用して、コンクリート混練への利用によりコンクリートの摩擦低減効果による流動性の増大と断熱効果を向上させることができる。
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0012】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0013】
実施例1
1.(空気の気泡粒径が10μm以下で過飽和溶存濃度からなる水溶液の調製)
図1の気液混合溶解装置により、本発明の水溶液を調製した。図1の気液混合溶解装置は、特許文献1において提案したものであるが、内容は以下の通りである。図2は気液混合溶解手段であり、フッ素樹脂パイプに線状スリットを設けたスリット膜201の片方をパイプ端面盲201a加工して外面金具202および内面金具203で収納容器204に装着したものであり、水と空気を気液入口205から導入して通過させる気液混合溶解手段103、105、109として使用される。図3は分級手段であり、円筒のウェッジワイヤスクリーン301の外側から気液混合溶解された水溶液を導入して10μm以上の気泡を分級したあとガス抜弁303を通り、リサイクルされポンプ104の吸込側に設置された気液混合溶解手段103に戻る。図1の気液混合溶解装置は、3つの気液混合溶解手段と分級手段106およびリサイクル手段108とからなる。
水溶液の製造は以下の要領で実施した。まず、水を液相供給手段101から循環水槽110に供給した後、ポンプ104の吸込側に設置された気液混合溶解手段103に導入した。また、空気は気相供給手段102から大気圧〜0.02MPa程度の範囲内で気液混合溶解手段103に導入されて水と空気が気液混合溶解された後、ポンプ104を通りさらに気液混合溶解手段105で気液混合溶解される。気液混合溶解手段105のあとに設置された分級手段106で水溶液中の10μm以上の気泡を分離してガス抜弁107を介してリサイクルされて、ポンプ104の吸込側の気液混合手段103に戻され、再び気液混合溶解される。分級手段106を通過した水溶液はさらに気液混合溶解手段109で気液混合溶解されて循環水槽110に戻される。この結果、溶存ガスが超微粒子系の気泡粒径(10μm以下)を含有し過飽和溶存酸素濃度からなる水溶液として製造された。
その水溶液中の溶存ガスの気泡粒径は、10μm以下であり、大気へのガス放出が微小であり水中での気泡上昇速度が緩慢であるとともに分散性が良好であることを特徴としておりコンクリート混練水として適していることが解る。
気泡の粒子径を表1に示す。

【表1】


さらに水中での気泡上昇速度が緩慢であることを特徴としており気泡上昇速度を表2に示す。

【表2】

さらに大気へのガス放出が微小であることを特徴としており、酸素を溶解した水溶液の酸素ガスの濃度低下を表3に示す。

【表3】

【0014】
2.コンクリート流動性能評価
図1の通り、実施例1と同じ手順で製造した溶解水とポルトランドセメントを一定の重量比率で混練して製造したコンクリートモルタル401をポンプ403で圧送してポンプ403出口の圧力計404で吐出し圧力を測定する方法で、ガスの種類と溶解度の違いによる比較を行い、吐出し圧力を比較して摩擦低減効果を確認した。
その吐出し圧力の変化による評価結果を表4に示す。

【表4】

【0015】
実施例2
図1の通り、実施例1と同じ手順で製造した溶解水とポルトランドセメンとを混練して製造したコンクリートモルタルでコンクリートパネル501を製造する。乾燥したコンクリートパネル501を加温容器503の開放した上面に乗せて、温風器504で発生させた温風を加温容器503に導入してコンクリートパネル501の下面を加熱する。コンクリートパネル501の上面の中心に温度計502を設置して表面温度を測定して、水道水で混練した方法との温度を比較して断熱効果を確認した。空気過飽和溶解水で混練したモルタルは水道水で混練したモルタルと比べて温度上昇が小さいことが確認された。
その温度の変化による評価結果を表5に示す。
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の水溶液によるコンクリートへの混練方法は、用途が限定されるものではない。溶解させるガスに不活性ガスを用いれば例えばコンクリート内の鉄筋の酸化防止を行うことで寿命改善への期待でき、またコンクリートの断熱効果を向上させることも期待できる。流動性の向上により添加剤が削減可能で経済性の向上も期待できる。コンクリート管の流路に付着する貝類の付着防止に適正のガスを溶解させて混練したコンクリート管を製造することなどの応用も可能である。
ナノ領域の気泡を含んだ溶解液として製造することにより、従来の気泡粒径が大きな溶解方法に比べて、溶解ガス量が大幅に削減ができるうえ高濃度の過飽和溶存ガス溶解液を製造することができるので、設備がコンパクトになるとともにガス削減によるコストダウンができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る水溶液を製造する気液混合溶解装置の実施例1を模式的に示す構成図である。
【図2】本発明に係る水溶液を製造する気液混合溶解装置の実施例1を構成する気液混合溶解手段の構造図である。
【図3】本発明に係る水溶液を製造する気液混合溶解装置の実施例1を構成する気泡分級リサイクル手段の構造図である。
【図4】本発明に係る水溶液をコンクリート混練に利用する実施例1のコンクリート流動性能評価を模式的に示す構成図である。
【図5】本発明に係る水溶液をコンクリート混練に利用する実施例2のコンクリート断熱評価を模式的に示す構成図である。
【符号の説明】
【0018】
101 液相供給手段
102 気相供給手段
103 気液混合溶解手段
104 ポンプ
105 気液混合溶解手段
106 分級手段
107 ガス抜弁
108 リサイクル手段
109 気液混合溶解手段
110 循環水槽
201 フッ素樹脂パイプスリット膜
201aパイプ端面盲
202 外面金具
203 内面金具
204 収納容器
205 気液入口
301 ウェッジワイヤスクリーン
302 収納容器
303 ガス抜弁
304 リサイクル配管
401 混練モルタルコンクリート
402 吸込口
403 ポンプ
404 圧力計
405 配管
501 混練モルタルコンクリートパネル
502 温度計
503 加温容器
504 温風器
505 配管
506 風量調整弁


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
10μm以下の粒径かつ過飽和濃度の空気の気泡を含む水溶液であることを特徴とするコンクリート混練用水溶液

【請求項2】
フッ素樹脂にスリットを設けた気液混合溶解装置と分級リサイクル手段とを含む気液混合溶解装置を用いて空気、酸素、窒素ガスを水に溶解することを特徴とする請求項1のコンクリート混練用水溶液































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−190184(P2009−190184A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30307(P2008−30307)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(305016829)有限会社九州SOHOプロジェクト (4)
【Fターム(参考)】