説明

コンクリート用アンカーボルトおよびこの基材への設置方法ならびにインパクトレンチ

【課題】アンカーボルト、この設置方法、およびこのアンカーボルトを設置する際に用いるインパクトレンチを提供する。
【解決手段】アンカーボルトのねじ部(14)に少なくとも1つのスリット(18)を設け、かつ取り付け中にスリット(18)を拡張しうる拡張子(22)を付設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート用アンカーボルトおよびこの基材への固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の壁もしくは天井、または同じような基材に荷重を固定する手段として、軸の概ね全長にわたってねじ山を有するアンカーボルトは周知となっている。このように、軸の概ね全長にわたってねじ山を形成するのは、アンカーボルトによって形成された基材のアンダーカット(食い込み)が比較的浅いので、ねじで覆われる面に沿って剪断破壊を誘発させることなくコンクリート基材が荷重を支持できるように、特にひび割れを有するコンクリートにおいてねじで覆われる面積を可能な限り大きくしなければならないからである。他方、多くの場合、コンクリートの負荷に対する耐性は、完全には利用されていない。なぜならば、軸の全体にわたってねじ山が形成されたアンカーボルトで固定した場合、固定深さの上部3分の2の部分において発生するコンクリートの円錐状の脱離と、固定深さの下部3分の1の部分において発生する剪断破壊とよりなる複合的破壊メカニズムが観察されるからである。
【0003】
一方、アンカーボルトを設置するのに先立って、またはその過程で、アンダーカットを形成するようになっているアンダーカットアンカーも周知である。ここで、アンダーカットを予め形成するのは好ましくない。なぜならば、このようなアンダーカットを、高信頼性を有するよう形成するプロセスは、コスト高となり、かつ多くの特殊な工具が必要になるからである。一方、アンカーボルトを設置する過程でアンダーカットを形成する場合にも、このようなアンダーカットアンカーを所望の深さまで切り込んでゆくのは、比較的コストが高くなる。また、これに応じて、アンカーボルト(多くの部位から構成する場合もある)の製造コストも高くなる。さらに、このようなアンダーカットアンカーは、鉄筋コンクリートの鉄筋に衝突すると、トラブルが生じやすい。
【0004】
特許文献1により、モルタルのカートリッジが填入されたシリンダ状の穴に打ち込むようになっているアンカーボルトは公知である。このアンカーボルトの前端部(先端部)には、拡張用楔を押し込むことのできるスリットが設けられている。楔は、初期状態においては、予めアンカーボルトの前端部から外部へ突出しており、アンカーボルトを穴に押し込んだときにアンカーボルトの前端部をマッシュルーム状に拡張するようになっている。このようにしてアンダーカット部分が形成され、このアンダーカットは、モルタルのカートリッジが充填された穴の中で固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ国特許第3139174号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、大きな製造コストを必要とせずに、高荷重がかかる場合にも適用しうる、コンクリート等の基材に固定するアンカーボルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、軸部と、前端側に位置しかつ少なくとも1つのスリットが設けられたねじ部と、取り付け中に前記スリットを拡張するように前記スリットに配置された拡張子とを有するアンカーボルトを提供する。このアンカーボルトは、ねじ部の外形を変化可能にするという発想に基づいている。最初にねじ部を穴にねじ込む際の外径は、切り込みを円滑に行うべく小さくしておく。ねじ部を穴に十分奥までねじ込んだ後、ねじ部が拡張されて外径が拡大するよう、拡張子を働かせる。これは、ねじ部を、深いアンダーカットで基材に食い込ませるためである。このような深いアンダーカットは迅速かつわずかなコストで固定部の深いところに形成することができ、経済的負担を競争力のあるものにすることができる。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記軸部は、スリット拡張用のチャネルを有し、前記拡張子は、前記ねじ部の反対側から、このチャネルを貫通して駆動されるようになっている。こうすると、スリットの拡張は、ボルトの頭部側から制御することができる。その結果、スリットの拡張は、穴の深さとは無関係に制御・調整することができる。
【0009】
この際、前記拡張子は、前記スリット拡張用のチャネルを通して前記ねじ部の前方へ進入可能なピン状体であるのが好ましい。このような形態は、容易かつ低コストの構造で実現できるという特徴を有する。
【0010】
本発明のさらに他の態様によれば、前記拡張子は、アンカーボルトの前端部に設けられたピン状体であり、このピン状体は穴の底部に当接すると前記スリットに向かって相対的に移動し、これによってねじ部の拡張が起こる。ここの場合、アンカーボルトの強度をわずかに低下させるスリット拡張用チャネルはないものとしてもよい。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、ねじ部は、軸部よりも短い。こうすると、荷重は、アンカーボルトのねじ部が食い込んでいる穴の深部だけに専ら伝達されるので、高い荷重固定力を得ることができる。他方、軸部には、ねじ山を設ける必要はなく、これによって製造コストを節減することができる。
【0012】
ねじ部に設けられるねじ山は、セルフタッピングねじであるのが好ましい。こうすると、穴側に予めねじ山を切っておく必要がなくなる。
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、前記アンカーボルトを基材に固定する方法であって、前記アンカーボルトを穴にねじ込み、このねじ込み中に、前記拡張子を、前記スリット内に進入させることを特徴とする方法も提供する。この方法によって得られる技術的効果については、上記アンカーボルトの説明を参照されたい。
【0014】
前記アンカーボルトは、インパクトレンチを用いてねじ込み、かつ前記拡張子も、前記インパクトレンチにより、前記スリット内に進入させることができる。こうすると、アンカーボルトを自動的に設置することができる。
【0015】
ここで、前記拡張子は、前記ねじ込み終了の直前にスリット内に進入させるのが好ましい。こうすると、食い込みの深いアンダーカットを穴の深部に形成することができ、大きな耐荷重能力を得ることができる。
【0016】
前記拡張子は穴の底部に当接することにより前記スリットに向かって相対的に移動するようになっているのが好ましい。こうすると、さらに工程を付け加えなくてもねじ部を拡大させることができ、本発明の方法を簡素化することができる。
【0017】
さらに、本発明によれば、前記拡張子を駆動するための操作部を有するインパクトレンチも提供される。このインパクトレンチを用いると、所定の深さで拡張子を駆動することができ、正確な深さの所に深いアンダーカットを形成することができるので、アンカーボルトを自動的に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアンカーボルトの設置開始時における模式的な縦断面図である。
【図2】図1に示すアンカーボルトのねじ部の模式的な側面図である。
【図3】図1に示すアンカーボルトの設置完了時における模式的な縦断面図である。
【図4a】本発明の第2の実施形態に係るアンカーボルトによってアンダーカット部分が形成される前における模式的な縦断面図である。
【図4b】同じく、アンダーカット部分が形成された後における模式的な縦断面図である。
【図4c】本発明の第3の実施形態に係るアンカーボルトの設置中における模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記以外の本発明の好ましい特徴および詳細は、以下に添付図面を参照して行う実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0020】
以下では、本発明を、添付の図面に描いた実施形態に即して説明する。
【0021】
図1および図2は、本発明の第1の実施形態に係る、軸部12とねじ部14とを有するアンカーボルト10を示す。ねじ部14はアンカーボルトの前端部に位置し、この反対側(後端部)には、荷重が固定される。この目的のため、アンカーボルトの後端部には、例えば雌ねじ、雄ねじ、または六角形の頭部が設けられる。
【0022】
ねじ部14は、例えば2〜4周回という比較的少数の周回数のねじ山16を有する、よく知られたねじを備えている。一方、軸部12には、ねじ山は設けられていない。また、ねじ部14を直径に沿って貫通するスリット18が、アンカーボルトの前端部から後端方向に向かって延びており、アンカーボルト10は、前面方向からは、スリット18を境に、概ね半円形の2つのセグメントからなっているように見える。スリット18は、ねじ部14の上方、すなわち、ねじ山のない軸部12で終わっている。なお、このスリット18の終端部の反対側(前端部)においても、スリット18の幅は狭まっている(図1参照)。
【0023】
アンカーボルト10は、全体が炭素鋼からなり、特にねじ部14においては焼き入れを施している。なお、炭素鋼の代わりにステンレススチールを用いることもできる。この場合には、ねじ山16を有するねじ部を、セルフタッピングねじとすることができる。
【0024】
アンカーボルト10の軸方向に沿って、軸部12と同心円的に、スリット18と連通するスリット拡張用のチャネル20が延びている。また、チャネル20の内部には、前部がわずかにスリット18に進入したピン状の拡張子が配置されている。この拡張子22の後端部は、アンカーボルト10の後端から外部へ突出している。
【0025】
アンカーボルトを設置するためには、図に模式的に示した、アンカーボルトを嵌め込むことができるホルダー32を備えるインパクトレンチ30を用いる。また、インパクトレンチ30は、拡張子22を駆動する操作部34を有している。
【0026】
アンカーボルト10を固定する際には、予めコンクリートのような鉱物性の基材42に設けられた穴40に、インパクトレンチ30を用いてねじ込む。その際、穴40の直径は、ねじ部14が比較的浅いアンダーカット(食い込み)で穴40にねじ込まれるようねじ部14の外径に合わせて調整する。こうすると、設置を始めるにあたっての切り込みを円滑に行うことができる。
【0027】
アンカーボルト10を穴40の深くまでねじ込んだならば、拡張子22を矢印Pで示す方向(前方)に押し出すべくインパクトレンチ30の操作部34を駆動させる。すると、スリット18は拡張し、2つのセグメントは、ねじ山16とともに互いに離反して、ねじ山16の外径は拡大する。その結果、ねじ山16が設けられたねじ部はより深いアンダーカットでもって基材42の穴40の周壁に食い込む。このようにして、穴の深い位置に極めて食い込みの深いアンダーカットを形成することができ、高荷重にも耐えることができる。そして、コンクリートの深いところで荷重の伝達が行なわれるため、破壊のおそれは少なくなる。このように、本発明に係るアンカーボルトは、コンクリートがひび割れを有するか否かに拘わらず、概ね良好なアンカー強度を実現することができる。また、穴を割る大きな力が発生しないので、穴のコンクリート端面からの距離及び穴同士の間隔として小さなものを選択することができる。
【0028】
図示の実施形態に代わる変形例として、ねじ山14に多数のスリットを設けることもできる。
【0029】
図4aと図4bは、本発明の第2の実施形態に係るアンカーボルト10の前端部の縦断面図である。この実施形態においては、スリット18を拡張させるために、穴40の底部に立設させた拡張子22を用いる。
【0030】
この実施形態においては、拡張子22は、アンカーボルト10の前端領域において、長手軸方向に沿って自由に進入することができる。スリット18は、アンカーボルト10のねじ部14の領域を複数のセグメントに分割しており、この領域の拡張を容易可能にしている。
【0031】
アンカーボルトを基材にねじ込む際の最初の手順 (図示していない)として、アンカーボルト10を穴40に挿入し、さらにねじ山16の領域が拡張されておらず外径の小さい状態でねじ込む。所定の深さまで挿入すると、拡張子22が穴40の底部に突き当たる(図4a参照)。アンカーボルト10をさらにねじ込むと、ねじ部14は、すでに押し込まれている拡張子22の円錐形部分44によって、さらに押し広げられる。こうして、ねじ山16の外径は拡大する。この結果、ねじ部の、基材42の穴40の周壁への食い込みを深くすることができる。固定部の深さ方向位置とアンダーカットの食い込み深さとは、拡張子22の長さと形状によって定まる。
【0032】
図4cは、拡張子22の形状および長さが上記実施形態のものと異なっているアンカーボルト10を示す。図から明らかなように、この第3の実施形態においては、スリット18は、アンカーボルト10の前方領域にのみ形成すればよいため、アンカーボルト10の他の領域で強度が低下することはない。さらに、図1の実施形態を対比すると、スリット拡張用のチャネルも設けられていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部(12)と、前端側に位置しかつ少なくとも1つのスリット(18)が設けられたねじ部(14)と、ねじ込み中に前記スリット(18)を拡張するように前記スリット(18)に配設された拡張子(22)とを有するアンカーボルト(10)。
【請求項2】
前記軸部(12)は、スリット拡張用のチャネル(20)を有し、前記拡張子(22)は、このチャネル(20)を貫通して、前記ねじ部(14)の反対側から押し込まれるようになっていることを特徴とする請求項1に記載のアンカーボルト(10)。
【請求項3】
前記拡張子(22)は、前記スリット拡張用のチャネル(20)を通して前記ねじ部(14)の前方へ進入可能なピン状体であることを特徴とする請求項1または2に記載のアンカーボルト。
【請求項4】
前記拡張子(22)は、アンカーボルトの前端部に設けられたピン状体であり、前記ピン状体は穴の底部に当接してはじめて、前記スリット(18)に向かって相対的に移動するようになっていることを特徴とする請求項1に記載のアンカーボルト。
【請求項5】
前記ねじ部(14)は、前記軸部(12)よりも短いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のアンカーボルト。
【請求項6】
前記軸部(12)には、ねじ山が設けられていないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のアンカーボルト。
【請求項7】
前記ねじ部(14)に設けられるねじ山(16)は、セルフタッピングねじであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のアンカーボルト。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のアンカーボルト(10)を基材に設置する方法であって、前記アンカーボルト(10)を穴(40)にねじ込み、このねじ込み中に、前記拡張子(22)を前記スリット(18)内に進入させることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記アンカーボルト(10)を、インパクトレンチ(30)を用いてねじ込み、かつ前記拡張子(22)も、前記インパクトレンチ(30)により前記スリット(18)内に進入させることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記拡張子(22)を、前記ねじ込み終了の直前で、前記スリット(18)内に進入させることを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記拡張子(22)を、前記穴(40)の底部に当接してはじめて、前記スリット(19)に向かって相対的に移動させることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
アンカーボルトを嵌め込むことができるホルダー(32)と、拡張子(22)を駆動するための操作部(34)とを有するインパクトレンチ(30)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公開番号】特開2012−159193(P2012−159193A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16610(P2012−16610)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
【Fターム(参考)】