説明

コンクリート製貯槽の膜ライニング構造

【課題】 コンクリート製貯槽の内壁面及び配管などの貫通部材周辺を、膜体を用いて機能的で施工性良く、気密かつ液密にライニング形成する。
【解決手段】 底壁内面膜体と側壁内面膜体を一体化した有底面筒状膜体に工場製作し、また天井壁内面膜体と側壁内面膜体を一体化した有天面筒状膜体に工場製作し、上記有天面筒状膜体を天井壁に固定した後にその下端縁部を天井壁コーナー部から側壁内壁面に沿って下方に延長し、上記有底面筒状膜体を底壁から側壁に固定した後にその上端縁部を重ね合せ、この重ね合せた両端縁部を側壁面適所に植設したアンカーボルトを介して密着固定してコンクリート製貯槽の内壁面を防水ライニング形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、用水や排水などの液体を貯蔵する貯槽、例えば上水道水を貯蔵する配水池や下水処理槽など、平面四角形状や多角形状、或いは円筒ドーム形状をしたコンクリート製貯槽の内壁面を、膜体を用いて液密性かつ気密性を良くし貯液物に対する耐久性、耐食性を向上させるライニング構造としたコンクリート製貯槽の膜ライニング構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来一般のコンクリート製貯槽について、平面四角形の矩形貯槽の場合を事例として、図8に示して説明する。
1は貯槽本体、2は平版状の底壁、3は平版状の側壁、4はその上方を覆う平版状の天井壁である。なお、流入管及び流出管などの付属設備は図示を省略している。
このコンクリート製貯槽の貯槽本体1の内壁面は、一般に防水塗装などの表面処理がされている。
【0003】
従来の膜ライニング構造の貯槽の発明には、本特許出願人に係る「コンクリート製貯槽とそのライニング施工法」特願2006−95381号(特許文献1参照)の発明がある。
この特許文献1の発明は、コンクリート製貯槽の内壁面を塗装などに代えて膜体を用いて現地にて熱溶着して機能的、施工性良く経済的にライニングするようにしたものである。
【0004】
また、従来の膜ライニング構造の貯槽の発明には、「膜ライニング球形貯槽」特開2004−59006号公報(特許文献2参照)の発明がある。
この特許文献2の発明は、液体や気体を貯蔵する鋼製の球形貯槽の内壁面全体を、可撓性膜体で被覆し、その複数箇所を膜体固定具で保持するものである。
【0005】
【特許文献1】特願2006−95381号
【特許文献2】特開2004−59006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図8に示す従来一般のコンクリート製の貯槽本体1の平版状の各内壁面は、一般に防水塗装や防水モルタル施工などの表面処理がされているが、長期間のうちに底壁2、側壁3、及び天井壁4は表面が損傷し劣化して防水が損なわれ、大掛かりな塗装やモルタル施工などの修復を必要とした。
そこで、コンクリート内壁面を耐久性に優れた耐食性鋼板や防水膜体で被覆ライニングすることが望まれていた。
【0007】
上記本出願人による「コンクリート製貯槽とそのライニング施工法」特願2006−95381号(特許文献1)の発明においては、底壁、側壁及び天井壁のそれぞれを複数のライニング膜体を重ね合わせ熱溶着し、アンカーボルトを用いて固定するものであるが、現場での施工が煩雑で手間を要することがあった。
【0008】
また、上記「膜ライニング球形貯槽」特開2004−59006号公報(特許文献2)の発明は、鋼製の球形貯槽の平滑な内壁面を接着剤などを用いて膜体でライニングするものであるが、表面に凸凹があり均一でないコンクリート製の壁面を施工するのには適していなかった。
【0009】
さらに、ライニング用の膜体は、現場への搬入、展開、取付けの作業性を良くすることが要求され、液体の出入配管や貫通部材などの周辺を、施工性良く気密かつ液密にすることが望まれていた。
【0010】
この発明の目的は、上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、コンクリート製貯槽の内壁面及び配管などの貫通部材周辺を、膜体を用いて機能的で施工性良く、気密かつ液密にライニング形成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係るコンクリート製貯槽の膜ライニング構造は、底壁と側壁と天井壁とからなるコンクリート製貯槽の内壁面を、膜体を用いて防水ライニング形成するコンクリート製貯槽であって、底壁内面膜体と側壁内面膜体を一体化した有底面筒状膜体に工場製作し、また天井壁内面膜体と側壁内面膜体を一体化した有天面筒状膜体に工場製作し、上記有天面筒状膜体を天井壁に固定した後にその下端縁部を天井壁コーナー部から側壁内壁面に沿って下方に延長し、上記有底面筒状膜体を底壁から側壁に固定した後にその上端縁部を重ね合せ、この重ね合せた両端縁部を側壁面適所に植設したアンカーボルトを介して密着固定してコンクリート製貯槽の内壁面を防水ライニング形成するものである。
【0012】
請求項2の発明に係るコンクリート製貯槽の膜ライニング構造は、上記請求項1記載のコンクリート製貯槽の壁面を貫通する配管などの貫通部材に位置する膜体を現場にて開口し、この開口部の貫通部材の周囲にフランジ等の金具部材を取付け、この金具部材に開口部周縁の膜体を気密かつ液密に固定する配管などの貫通部材に位置する上記有底面筒状膜体及び有天面筒状膜体を現場にて開口し、この開口部の貫通部材の周囲にフランジ等の金具部材を取付け、この金具部材に開口部周縁の膜体を気密かつ液密に固定するものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係るコンクリート製貯槽の膜ライニング構造は、底壁内面膜体と側壁内面膜体を一体化した有底面筒状膜体に工場製作し、また天井壁内面膜体と側壁内面膜体を一体化した有天面筒状膜体に工場製作し、上記有天面筒状膜体を天井壁に固定した後にその下端縁部を天井壁コーナー部から側壁内壁面に沿って下方に延長し、上記有底面筒状膜体を底壁から側壁に固定した後にその上端縁部を重ね合せ、この重ね合せた両端縁部を側壁面適所に植設したアンカーボルトを介して密着固定してコンクリート製貯槽の内壁面を防水ライニング形成するので、上記筒状膜体は工場内でそれぞれ一体に精度良く製作し検査することができるため品質性能が向上し、この一体に製作した筒状膜体は折畳みやロール状に巻いて現場へ運搬し、貯槽のマンホールを利用して簡単容易に貯槽内へ運び入れることができ、大掛かりな足場を使用することなく簡単な移動ゴンドラ足場などを用いて、作業性良く取扱い展開し、短工期で経済性良く施工することができる。
天井内壁面は天井内面膜体によって腐食性ガスから保護され、側壁内壁面は側壁内面膜体によって腐食性ガス及び貯蔵液体から保護され、底壁内壁面は底壁内面膜体によって貯蔵液体から保護されるため、コンクリート壁の内壁面は腐食や損傷されることがなく、壁面にクラックが発生しても漏水防止を図ることができ、防食や防水を目的とした塗装などを不要とし、再塗装などのメンテナンスの経費を削減することができ、耐久性及び経済性に優れたライニング構造のコンクリート製貯槽を提供することができる。
【0014】
請求項2の発明に係るコンクリート製貯槽の膜ライニング構造は、上記請求項1記載のコンクリート製貯槽の壁面を貫通する配管などの貫通部材に位置する上記有底面筒状膜体及び有天面筒状膜体を現場にて開口し、この開口部の貫通部材の周囲にフランジ等の金具部材を取付け、この金具部材に開口部周縁の膜体を気密かつ液密に固定する配管などの貫通部材に位置する膜体を現場にて開口し、この開口部の貫通部材の周囲にフランジ等の金具部材を取付け、この金具部材に開口部周縁の膜体を気密かつ液密に固定するので、壁面及び膜体を貫通する貫通部材と膜体との境界部を、フランジ等の金具部材等による確りした固定によって作業性良く確実にシールすることができるため、長期間の耐久性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明に係るコンクリート貯槽の膜ライニング構造の実施の形態について、図1乃至図7を参照して説明する。
図1は、コンクリート製貯槽の内壁面に膜体を内張りして防水ライニング形成した縦断面で、矩形貯槽を事例として示す。なお、平面多角形や円形、ドーム屋根形状の貯槽の場合にも、以下同様に適用することができる。
図2は、図1の膜ライニングに使用する膜体全体を説明する図である。
図3から図7は、図1の配管などの貫通箇所A〜Eをそれぞれ拡大して示す。
【0016】
図1に示すように、矩形のコンクリート製貯槽の貯槽本体1は、平版状の底壁2と、平版状の側壁3と、その上方を覆う平版状の天井壁4とで形成されている。
上水道水や農業用水などの液体を貯蔵する貯槽本体1のコンクリート壁面には、配管や付属品などの貫通部材が取付けられている。これら貫通部材の近傍箇所として、Aは流出部、Bは流入部、Cは梯子などの部材の取付部、Dは貯槽内へ出入りするためのマンホール部、Eは天井壁面膜体7の固定部をそれぞれ示している。
この貯槽本体1の内壁面のうち、底壁2の内壁面は可撓性を有する平面状の底壁内面膜体5で被覆ライニングし、側壁3の内壁面は可撓性を有する平面状の側壁内面膜体6で被覆ライニングし、天井壁4の内壁面は可撓性を有する平面状の天井壁内面膜体7で被覆ライニングする。
【0017】
図2に示すように、平面状の底壁内面膜体5と筒体状の側壁内面膜体6は、あらかじめ工場にて有底面筒状膜体Xに一体製作し、また、平面状の天井壁内面膜体7と筒体状の側壁内面膜体6も工場にて有天面筒状膜体Yに一体に製作する。
これらの筒状膜体X,Yの貫通部材相当箇所は、膜体全体を取付後に開口して貫通部材を取付け、その後に周縁を気密かつ液密にシールする。なお、貫通部材が既に施工されている箇所は、予め貫通部材相当箇所の膜体を大きめに開口しておいて、後から膜体片を現地溶着で取付けて貫通部材の周縁をシールする。
これら工場で製作した一体の筒状膜体X,Yを折畳みやロール状に巻いた状態で現地へ運搬し、マンホールDからコンクリート製貯槽内へ搬入する。そして、上記有天面筒状膜体Yを天井壁4に固定した後にその下端縁部は、天井壁コーナー部から側壁内壁面3に沿って下方に延長し、上記有底面筒状膜体Xを底壁から側壁に固定した後に、その延長した上端縁を上記有天面筒状膜体Yの下端縁上に重ね合せ、側壁面上方適所の取付部8に植設したアンカーボルトを介して固定してコンクリート製貯槽の内壁面を気密・液密に防水ライニング形成する。
【0018】
上記のように、上下に分割した一体の有底面筒状膜体X、有天面筒状膜体Yを折畳みロール状に巻いたものを現場へ搬入し、マンホールDを利用して貯槽内へ入れて展開するので、大掛かりな足場を使用することなく、簡単な移動ゴンドラ足場などを用いて展開しながら作業性良く取付け施工することができる。
【0019】
上記図1に示したA〜Eの配管などの貫通箇所は、上記膜体を位置決めした後に該当位置を開口し、リング状の当て膜部材を取付けるなどして周囲近傍を養生してから、以下図3〜図7に示すようにフランジなどの金具部材を用いて貫通部材周縁を確りと気密かつ液密にシールする。
【0020】
図3は、図1のA部であって、貯槽内上方より貯蔵液体が溢流するように設けられた流出管の近傍を拡大して示す。
9は流出管、10は流出取付管で、この流出管9と流出取付管10はフランジ11a,11bによってコンクリート側壁3の表面位置で接続するように設ける。このフランジ11a,11b間には、シール材12を介装して、側壁内面膜体6の端縁を挿み込んで気密かつ液密にシールし、ボルト13によって固定する。シール材12は、弾力性、耐食性、液密性などを有する材料、例えばシリコンゴム、クロロプレンゴム等の合成ゴム材料などを使用する。
【0021】
図4は、図1のB部であって、貯槽内下方より貯蔵液体が流入するように設けられた流入管の近傍を拡大して示す。
14は流入管、14aは流入口で、この流入管14の周壁に連結部材15を溶接し、この連結部材15の先端に専用フランジ16を固着する。この専用フランジ16は、コンクリート側壁3の表面位置に設け、この専用フランジ16にシール材18を介装し当て材19を設け、この間に側壁内面膜体6の端縁を挿み込んで気密かつ液密にシールし、アンカーボルト17とナット20によって固定する。21は専用フランジ16のシート面の円周方向に沿って設けた漏洩検知溝で、側壁内面膜体6を取付けた後の漏洩検査に使用する。
【0022】
図5は、図1のC部で、梯子22などを取付けるサポート部材23の近傍を拡大して示す。
梯子22は、サポート部材23によって側壁3の内壁面に固定する。このサポート部材23の周囲に鍔付きの筒状固着金具24を取付け、側壁内面膜体6の端縁をボルトなどの固着具25などによって気密かつ液密に固着する。
【0023】
図6は、図1のD部で、貯槽上部の天井壁4及び天井壁内面膜体7を開口して設けたマンホール26の近傍を拡大して示す。
27はマンホール内面のシール膜で、このシール膜27の端縁は固着部28a,28bにて気密かつ液密に固定する。29はマンホールの蓋である。
【0024】
図7は、図1のE部を拡大して示す。
天井壁内面膜体7の垂れ下がりを防止するため、天井壁4の内壁面の適所にシールプレート31を介してオールインアンカー構造のアンカーボルト32を植設し、このアンカーボルト32に、天井壁内面膜体7を挿通して重ね合わせ、その上部から帯板状のプレート33を挿通して当てがい、ナット34で締付けて気密に結合する。
また、上記ナット34の上部には、膜保護用のキャップ35を設ける。
【0025】
上記天井内壁面4をライニングする天井内面膜体7は、貯槽内部上方の気相に含まれる塩素ガス等の腐食性ガスに対して耐久性を有し、かつ強靭で気密性に優れた可撓性膜材を使用する。また、貯蔵液体に浸る部分、浸液範囲に相当する側壁内面膜体6及び底壁内面膜体5は、貯蔵液体に対して膨潤することなく、強靭で液密性に優れた可撓性膜材を使用する。
この可撓性膜材としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニール系樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂等の合成樹脂材で形成したシート体、或いはポリエステル繊維やガラス繊維等の繊維に、上記ポリオレフィン系樹脂等の合成樹脂をコーティングした布膜材などのシート体を使用する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明に係る膜ライニング構造は、上水や下水、液体廃棄物、石油系液体などの矩形、多角形、円筒形など種々形状のコンクリート製貯槽における膜ライニング構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係るコンクリート製貯槽の膜ライニング構造の実施形態を、矩形貯槽を事例として示す縦断面説明図である。
【図2】図1に使用する膜体を説明する図である。
【図3】図1のA部を拡大して示す説明図である。
【図4】図1のB部を拡大して示す説明図である。
【図5】図1のC部を拡大して示す説明図である。
【図6】図1のD部を拡大して示す説明図である。
【図7】図1のE部を拡大して示す説明図である。
【図8】従来一般の矩形のコンクリート製貯槽の一部を欠除した斜視説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 貯槽本体
2 底壁
3 側壁
4 天井壁
5 底壁内面膜体
6 側壁内面膜体
7 天井壁内面膜体
8 取付部
X 有底面筒状膜体
Y 有天面筒状膜体
9 流出管
10 流出取付管
11a,11b フランジ
12 シール材
13 ボルト
14 流入管
14a 流入口
15 取付部材
16 専用フランジ
17 アンカーボルト
18 シーリング材
19 当て材
20 ナット
21 漏洩検知溝
22 梯子
23 サポート部材
24 筒状固着金具
25 固着具
26 マンホール
27 シール膜
28a,28b 固着具
29 蓋
30 固着部
31 シールプレート
32 アンカーボルト
33 当て材
34 ナット
35 キャップ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と側壁と天井壁とからなるコンクリート製貯槽の内壁面を、膜体を用いて防水ライニング形成するコンクリート製貯槽であって、底壁内面膜体と側壁内面膜体を一体化した有底面筒状膜体に工場製作し、また天井壁内面膜体と側壁内面膜体を一体化した有天面筒状膜体に工場製作し、上記有天面筒状膜体を天井壁に固定した後にその下端縁部を天井壁コーナー部から側壁内壁面に沿って下方に延長し、上記有底面筒状膜体を底壁から側壁に固定した後にその上端縁部を重ね合せ、この重ね合せた両端縁部を側壁面適所に植設したアンカーボルトを介して密着固定してコンクリート製貯槽の内壁面を防水ライニング形成することを特徴とするコンクリート製貯槽の膜ライニング構造。
【請求項2】
上記請求項1記載のコンクリート製貯槽の壁面を貫通する配管などの貫通部材に位置する上記有底面筒状膜体及び有天面筒状膜体を現場にて開口し、この開口部の貫通部材の周囲にフランジ等の金具部材を取付け、この金具部材に開口部周縁の膜体を気密かつ液密に固定することを特徴とする請求項1記載のコンクリート製貯槽の膜ライニング構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−297062(P2007−297062A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124269(P2006−124269)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)
【Fターム(参考)】