説明

コンクリート部材の補強方法、および補強構造

【課題】コンクリート部材表面に繊維シートを貼り付けた構造のものにおいて、繊維シートの剥がれを防止して繊維シートによる補強効果を維持できるようにする。
【解決手段】コンクリート部材1の表面には繊維シート3が貼り付けられ、その表面には板状部材5が配置され、該板状部材5及び繊維シート3を貫通してコンクリート部材1内部に到達するように鋲6が打ち込まれている。これらの板状部材5及び鋲6によって繊維シート3の剥がれを防止でき、繊維シート3によるコンクリート部材1の補強効果を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材表面に繊維シートを貼付することによるコンクリート部材の補強方法および補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アラミド繊維や炭素繊維などの高強度繊維を織り上げた繊維シートを用いて鉄筋コンクリート造などの構造物を補強する方法が多く用いられるようになってきた。
【0003】
独立した柱等(周りに障害物の無い柱等)の鉄筋コンクリート部材に繊維シートを巻付けて補強する場合には、繊維シートを閉鎖形状にすることが可能なため、繊維シート相互を重ねるなどの方法によって端部の定着性能を確保することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし最近、巻付けなどの閉鎖形状ではなく、コンクリート部材(図5の符号101参照)の表面の1面乃至3面に繊維シート103を貼着し、コンクリート101の表面と繊維シート103との付着性能に期待するという補強方法が次第に用いられるようになってきた(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平09−072106号公報
【特許文献2】特開平10−252018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コンクリート部材に繊維シートを貼着する方法では、コンクリート部材が大きな応力を受ける際、コンクリートとの付着性能が十分でない場合には、コンクリート表面から繊維シートが剥れてしまい、折角高強度繊維を用いながら、その強度を十分に発揮させることができないという問題を抱えていた。
【0006】
こうした問題に対しては、コンクリート部材の繊維シート端部に近接する位置にボルトを埋込み、平板あるいはL字型形状の鋼材などを用いて繊維シート端部をコンクリート部材に定着するなどの方法によって問題の解決が図られていたが、この方法では、コンクリートを穿孔する作業、ボルトを埋め込む作業、更に鋼材に予めボルト用の穴を開けておく作業、ボルトを貫通させて鋼材をセットする作業、ナットを締め付ける作業などが必要で、こうした作業を伴う工事は煩雑で、経済的でないことが課題となっていた。
【0007】
そこで、本発明は、繊維シートのコンクリート部材との付着性能を向上させることが可能な、コンクリート部材の補強方法及び補強構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、図1に例示するものであって、繊維シート(3)を用いてコンクリート部材(1)を補強する、コンクリート部材の補強方法において、
前記繊維シート(3)をコンクリート部材(1)の表面に貼付する工程と、
該繊維シート(3)の表面に部分的に当接するように板状部材(5)を配置する工程と、
該板状部材(5)と前記繊維シート(3)とを貫通して前記コンクリート部材(1)内部に到達するように鋲(6)を打つ工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、コンクリート部材(1)の表面に貼り付けられた繊維シート(3)と、
該繊維シート(3)の表面に部分的に当接するように配置された板状部材(5)と、
該板状部材(5)及び前記繊維シート(3)を貫通して前記コンクリート部材(1)内部に到達するように打ち込まれた鋲(6)と、を備えたコンクリート部材の補強構造についてのものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2に係る発明において、図2に例示するものであって、前記板状部材(5)及び前記鋲(6)は、少なくとも前記繊維シート(3)の端部近傍に配置されたことを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項2に係る発明において、図3に例示するものであって、前記板状部材(5)及び前記鋲(6)は、前記繊維シート(3)の概ね全面に亘り分散配置されたことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の発明において、前記板状部材(5)が各鋲(6)ごとに独立してなることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の発明において、図4に例示するものであって、1枚の板状部材(50)を複数の鋲(6)が貫通するように配置されたことを特徴とする。
【0014】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1乃至6に係る発明によれば、板状部材と鋲とによって繊維シートのコンクリート部材からの剥がれを防止することができ、繊維シートの貼り付けに伴うコンクリート部材の補強効果を維持することができる。特に、請求項3に係る発明によれば、繊維シートの端部を起点として発生する剥がれを防止することができる。また、請求項4に係る発明によれば、繊維シート全面に亘って剥がれを防止することができる。さらに、請求項6に係る発明によれば、板状部材が接触している広い領域全てにおいて繊維シートの剥がれを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。ここで、図1は、本発明に係るコンクリート部材の補強方法及び補強構造の一例を示す斜視図であり、図2(a) は、板状部材及び鋲の配置位置の一例を示す平面図であり、図2(b) は、そのA−A線断面図であり、図3は、板状部材及び鋲の配置位置の他の例を示す平面図であり、図4は、板状部材及び鋲の配置位置のさらに他の例を示す平面図である。
【0017】
本発明に係るコンクリート部材の補強構造は、例えば図1に示すものであって、コンクリート部材1の表面に貼り付けられた繊維シート3と、該繊維シート3の表面に部分的に当接するように配置された板状部材5と、該板状部材5及び前記繊維シート3を貫通して前記コンクリート部材1内部に到達するように打ち込まれた鋲6と、により構成されている。この際、鋲打ちが可能であれば、板状部材5が繊維シート3に接着材等により接着されていても接着されていなくともよい。本発明によれば、板状部材5と鋲6とによって繊維シート3のコンクリート部材1からの剥がれを防止することができ、繊維シート3の貼り付けに伴うコンクリート部材1の補強効果を維持することができる。また、鋲6の打込みは、[発明が解決しようとする課題]の欄で説明したようなボルトと鋼材を用いた方法に比較して、施工が簡単であるほか、鋲打ちそのものが穴あけ作業をも意味するため、鋲位置の精度への要求が厳しくなく、そのことは更に施工の簡便さにつながる。
【0018】
上述の板状部材5及び鋲6は、図2(a) に示すように、少なくとも繊維シート3の端部近傍(繊維シート3の長手方向の端部近傍を意味する)に配置すると良く、該繊維シート3の幅方向(繊維シート3の短手方向を意味する)に亘って複数配置すると良い。かかる場合、繊維シートの端部を起点として発生する剥がれを防止することができる。なお、図2(a) (b) では、3セットの板状部材5及び鋲6(つまり、3枚の板状部材5と3本の鋲6)が配置されているが、もちろんその数は限定されるものではなく、2セット以下でも4セット以上でも良い。
【0019】
また、板状部材5及び鋲6は、図3に示すように、繊維シート3の概ね全面に亘るように分散配置しても良い。かかる場合、繊維シート全面に亘って剥がれを防止することができる。
【0020】
なお、図2(a) (b) 及び図3では、1枚の板状部材5につき1本の鋲6が打ち込まれている(つまり板状部材5が各鋲6ごとに独立している。)が、そのように構成した場合には、1枚1枚の板状部材5は面積を小さくすることができ、板状部材5の取り付け作業及び鋲6の打ち込み作業を容易にすることができる。
【0021】
ところで、1枚の板状部材に打ち込む鋲の数は上述のように1本に限定されるものではなく、1枚の板状部材につき複数本の鋲を打ち込むようにしても良い。つまり、板状部材が複数の鋲の位置を連結するように形成しても良い。図4は、その一例として、1枚の板状部材50に3本の鋲6を打ち込む態様のものを示している。かかる場合、板状部材50が接触している広い領域全て(例えば、鋲6同士をつなぐ板状部材50の中間部分)において繊維シート3の剥がれを確実に防止することができる。
【0022】
繊維シート3は、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維など、構造補強に用いることのできる強度・剛性の高い繊維であれば、特に材料を特定する必要はなく、そのいずれであっても本発明の効果を発揮することができる。なお、通常のガラス繊維は、アルカリ性物質に対する抵抗力が低く、十分な強度を発揮できないが、耐アルカリ性を改善したガラス繊維もあり、また、含浸樹脂などによりコンクリート表面に繊維シートが直接触れないような工夫をすれば、本発明を適用することは充分可能である。
【0023】
なお、本発明全体に共通するが、ここで用いられる板状部材5,50は、繊維シート3がコンクリート部材表面から剥離するのを防止する鋲6の定着効果を確実にするために用いられるもので、その形状は鋲の定着効果が期待できる形であれば、長方形、正方形、円形などのいずれでもよい。複数の鋲を連結する場合などにおいては、概ね長方形であってもよい。これらの板状部材5,50は、金属材料にて形成しても、プラスチック材料にて形成してもどちらでも良い。前者の場合、金属材料のもつ剛性がコンクリート部材への圧着面積・圧着力をより高める効果を発揮する。また、後者の場合、所定の形状に加工することが容易であり、鋲が貫通し易いという特長を持っている。なお、金属材料としては、鉄鋼やステンレスやアルミニウム等を挙げることができ、価格や耐腐食性や施工性などを考慮して適宜選択すれば良い。
【0024】
ボルトおよび鋼材を用いて繊維シート端部を定着する方法については[発明が解決しようとする課題]の欄で先に説明したが、ボルトによる方法では、繊維シートの貼付け面と同一面に定着する場合、ボルトのせん断強度で定着効果が決定される。それに対して本発明における鋲の効果は、鋲のせん断耐力ではなく、鋲には繊維シートの剥離防止効果を期待している点が大きく異なっている。
【0025】
次に、本発明に係るコンクリート部材の補強方法について説明する。
【0026】
本発明に係るコンクリート部材の補強方法は、例えば図1に例示するように、繊維シート3を用いてコンクリート部材1を補強する方法であり、
・ 繊維シート3をコンクリート部材1に貼り付ける工程と、
・ 該繊維シート3の表面に部分的に当接するように板状部材5を配置する工程と、
・ 該板状部材5と前記繊維シート3とを貫通して前記コンクリート部材1内部に到達するように鋲6を打つ工程と、
を備えている。
【0027】
なお、繊維シート3の貼付けは、コンクリート表面の清掃、プライマー塗布、パテによる凹部の充填、樹脂下塗り、シート貼付け、樹脂上塗りという一連の手順に沿って行われるが、これらは繊維シート貼付け作業における一般的な方法である。
【0028】
以上、コンクリート部材の補強方法および補強構造について説明したが、コンクリート部材は無筋コンクリートであっても鉄筋コンクリートであってもよく、更に鉄筋コンクリート部材内部に鉄骨を内蔵する、いわゆる鉄骨鉄筋コンクリート部材についても同様に補強することができ、またその補強効果が概ね同等であることはいうまでもない。
【0029】
また、上記の補強方法および補強構造は、柱や梁などの一般的なコンクリート部材に適用可能であるが、戸建住宅の基礎の補強に用いることも無論可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明に係るコンクリート部材の補強方法及び補強構造の一例を示す斜視図である。
【図2】図2(a) は、板状部材及び鋲の配置位置の一例を示す平面図であり、図2(b) は、そのA−A線断面図である。
【図3】図3は、板状部材及び鋲の配置位置の他の例を示す平面図である。
【図4】図4は、板状部材及び鋲の配置位置のさらに他の例を示す平面図である。
【図5】図5(a) は、従来の補強構造の一例を示す平面図であり、図5(b) は、その断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 コンクリート部材
3 繊維シート
5 板状部材
6 鋲
50 板状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートを用いてコンクリート部材を補強する、コンクリート部材の補強方法において、
前記繊維シートをコンクリート部材の表面に貼付する工程と、
該繊維シートの表面に部分的に当接するように板状部材を配置する工程と、
該板状部材と前記繊維シートとを貫通して前記コンクリート部材内部に到達するように鋲を打つ工程と、
を備えたことを特徴とするコンクリート部材の補強方法。
【請求項2】
コンクリート部材の表面に貼り付けられた繊維シートと、
該繊維シートの表面に部分的に当接するように配置された板状部材と、
該板状部材及び前記繊維シートを貫通して前記コンクリート部材内部に到達するように打ち込まれた鋲と、
を備えたコンクリート部材の補強構造。
【請求項3】
前記板状部材及び前記鋲は、少なくとも前記繊維シートの端部近傍に配置された、
ことを特徴とする請求項2に記載のコンクリート部材の補強構造。
【請求項4】
前記板状部材及び前記鋲は、前記繊維シートの概ね全面に亘り分散配置された、
ことを特徴とする請求項2に記載のコンクリート部材の補強構造。
【請求項5】
前記板状部材が各鋲ごとに独立してなる、
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のコンクリート部材の補強構造。
【請求項6】
1枚の板状部材を複数の鋲が貫通するように配置された、
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のコンクリート部材の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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