説明

コンクリート部材及びその製造方法

【課題】ICタグに記録された、例えば、コンクリート部材の個体情報や架設に関する情報が外部から読み書き可能とされるコンクリート部材と、このICタグをコンクリート部材の適切な位置に容易かつ適切に埋設可能とされるコンクリート部材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】構造物を構成するためのコンクリート部材であって、ICタグ12を備え、ICタグ12は、電波交信面を前記コンクリート床板11の表面側に向けて前記表面から電波による交信が可能な範囲内の深さに埋設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コンクリートの内部にICタグを埋設することにより構成されるコンクリート部材と、このコンクリート部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、数多くのコンクリート部材を用いて空港やビル等の巨大な構造物を建設する場合、コンクリート部材を製造する工場で製造した種々の仕様のコンクリート部材を建設現場に運搬し、設計図に基づいて架設することが行なわれていた。
これらコンクリート部材を運搬、架設する際にコンクリート部材の個体識別の方法として、それぞれにペンキ等で識別情報を記入し、これを目視することによって個体識別を行っていた。しかしながら、この方法では記入者によって記入箇所や字体等に個人差がでること、また確認者の確認方法にも個人差がでることから信頼性が十分でなく、特に多量のコンクリート部材を扱う作業工程の中では、コンクリート部材個体の原材料の配合比や強度などの特性は凝固した後は判別できないことや、搬送時や架設時に予定通りの場所にコンクリート部材が搬送されていないことなどがあった。また、そのコンクリート部材の製造過程、製造日、架設日等の情報が、架設後に失われる場合があった。
【0003】
近年では、RFID技術の普及に伴って、コンクリート部材にICタグを埋設し、このICタグと通信を行うことによってコンクリート部材の情報を管理する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−183257号公報
【特許文献2】特開2006−243918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献のように、コンクリート部材にRFID技術を用いてコンクリート部材の個体の情報を管理しようとすると、例えば、RFIDR/W(リーダ/ライタ)等がコンクリート部材に埋設されたICタグと通信可能とされることが必要であるが、リーダ/ライタの読取距離を確保する必要があるので、ICタグ前面のコンクリートの厚さが一定の厚さ以上に厚くなると、RFIDR/W(リーダ/ライタ)等とICタグとの充分な交信が困難となり、その結果、RFID技術の適用が不可能となる。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、ICタグに記録された、例えば、コンクリート部材の個体情報や架設に関する情報が外部から読み書き可能とされるコンクリート部材と、このICタグをコンクリート部材の適切な位置に容易かつ適切に埋設可能とされるコンクリート部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、構造物を構成するためのコンクリート部材であって、ICタグを備え、ICタグは、電波交信面を前記コンクリート部材の表面側に向けて前記表面から電波による交信が可能な深さの範囲内に埋設されていることを特徴とする。
【0007】
この発明に係るコンクリート部材によれば、個体情報や架設に関する情報が記録自在とされるICタグが、電波交信面をコンクリート部材の表面側に向けて表面から電波による交信が可能な範囲内の深さに埋設されているので、コンクリート部材の外部からICタグの情報を得ることとICタグへの情報の記録が可能とされる。 また、ICタグがコンクリート部材の内部に配置されているので、コンクリート部材が曝される環境に関わらず長期間にわたってICタグの機能を維持することが可能とされ、その結果、長期間にわたってコンクリート部材の履歴やメンテナンス情報を保持することができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のコンクリート部材であって、前記ICタグは、オンメタル型ICタグとされ、前記コンクリート部材を構成する鋼材に配置されていることを特徴とする。
【0009】
この発明に係るコンクリート部材によれば、ICタグが、コアに磁束を集中させることにより金属体上で起電力を確保可能に構成されたオンメタル型ICタグとされているので、コンクリート部材内に配置される鋼材上にICタグを配置することが可能とされる。その結果、コンクリート部材の表面から鋼材までの深さを適切に設定することによりICタグを所望の深さに正確に配置することができ、また、ICタグがオンメタル型ICタグとされることにより鋼材上に配置されていてもICタグと電波による交信が可能とされ、ICタグの内容の読み取り及び書き込みが可能とされる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のコンクリート部材であって、前記ICタグは埋設部材に配置され、前記埋設部材は前記コンクリート部材に埋設されていることを特徴とする。
【0011】
この発明に係るコンクリート部材によれば、コンクリート部材におけるICタグの表面側を形成する埋設部材にICタグが配置されているので、ICタグがコンクリート部材表面から所定の深さになるようにICタグの埋設部材内における深さに適切に設定することにより、ICタグを所望のコンクリート部材内の所望の深さに容易かつ正確に配置することができる。
また、ICタグをコンクリート部材の打設とは関わりなく埋設部材に配置するので、型枠に生コンクリートを打設した後に生コンクリート内にICタグを配置する作業を省くことができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のコンクリート部材の製造方法であって、コンクリート部材の表面から所定の深さに対応する位置に前記ICタグ挿入可能なスリット部が形成された型枠内に生コンクリートを打設し、前記生コンクリートが半凝固状態において前記スリット部から前記ICタグを挿入し、前記ICタグを型枠内面の前記スリット部から所定位置に配置可能とする位置決部材により前記半凝固状態の生コンクリート内に押込み、前記ICタグを所定の位置に配置した後に、前記ICタグが通過した通路にグラウトを充填、硬化させることを特徴とする。
【0013】
この発明に係るコンクリート部材の製造方法によれば、コンクリート部材の表面から所定の深さに対応する位置に形成されたスリット部からICタグを挿入するので、オンメタル型ICタグでない場合にも、ICタグをコンクリート部材の所望の深さに配置することが可能であり、又、ICタグを型枠内面のスリット部から位置決部材により配置するので、所定位置に正確に配置することが可能である。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項2記載のコンクリート部材の製造方法であって、コンクリート部材を構成する鋼材上に、前記オンメタル型ICタグの前記電波交信面をコンクリート部材の交信する表面側に向けて取付け、前記コンクリート部材を形成するための型枠内に生コンクリートを打設して前記鋼材及び前記オンメタル型ICタグを埋設することを特徴とする。
【0015】
この発明に係るコンクリート部材の製造方法によれば、オンメタル型ICタグを鋼材上に配置した後に鋼材が配置された型枠内に生コンクリートを打設するので、打設された生コンクリートに対してのICタグの埋設作業が必要とされず、作業が容易かつ正確に行なうことが可能である。
【0016】
また、オンメタル型ICタグが、鉄筋又はPC鋼材等の鋼材に配置されるのでコンクリートが打設される際に、ICタグが鋼材からずれることが抑制され、その結果、コンクリート部材内においてICタグが所定の位置に容易に保持される。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項3記載のコンクリート部材の製造方法であって、型枠内に前記埋設部材を配置し、生コンクリートを打設し、前記生コンクリートを硬化させることを特徴とする。
【0018】
この発明に係るコンクリート部材の製造方法によれば、ICタグを埋設部材に配置するので埋設部材に対するICタグの配置を容易かつ正確に行なうことができ、この埋設部材をコンクリート部材に埋設することによりICタグをコンクリート部材に対して容易かつ正確に配置することができる。また、ICタグを埋設部材に対して正確に配置することが可能とされることにより、オンメタル型ICタグ以外の通常のICタグをコンクリート部材内に正確に配置することができる。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項3記載のコンクリート部材の製造方法であって、型枠内に生コンクリートを打設し、前記生コンクリートが半凝固状態において、前記生コンクリートの表面側に凹部を形成し、前記凹部に前記ICタグが配置された埋設部材を押圧して所定の深さに埋設し、前記生コンクリートを硬化させることを特徴とする。
【0020】
この発明に係るコンクリート部材の製造方法によれば、ICタグが配置された埋設部材を表面側からコンクリート部材に埋設するので、ICタグをコンクリート部材に対して正確な深さに配置することができる。また、ICタグを埋設部材に対して正確に配置することにより、オンメタル型ICタグ以外の通常のICタグを用いる場合であっても、ICタグをコンクリート部材内に正確に配置することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、コンクリート部材にICタグが正確に配置されているので、コンクリート部材の外部から電波による交信が長期間にわたって可能とされ、その結果、ICタグへの情報の記録や読み取りを正確かつ容易に行なうことができ、その結果、長期間にわたってICタグによる情報管理が可能とされ、製造や、メンテナンス等の履歴保持を効率的に行なうことができる。
また、この発明に係るコンクリート部材の製造方法によれば、ICタグを正確かつ容易にコンクリート部材内の所定の位置に配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態に係るコンクリート部材を示す図であり、符号11は、コンクリート床板(コンクリート部材)を示している。
第1の実施形態に係るコンクリート床板11は、構造物を構成するための鉛直方向の面荷重を受ける板状のセメント部材でプレストレストコンクリートからなる床板であり、一般的に工場で打設された後に、一旦仮置場等に保管されて実際の構造物が建設される架設場に運搬されて組立てられるようになっている。
【0023】
プレストレストコンクリートとは、圧縮力には強いが引張力に弱いコンクリートの性質を克服するために、高張力鋼等から成るPC(プレストレストコンクリート)鋼材を緊張・定着させて、あらかじめ圧縮力を与え、又は打設したコンクリートが硬化した後に、その内部に設けられたダクトに配置されたPC鋼材を緊張・定着させて、あらかじめ圧縮力を与えたコンクリートであり、荷重による引張力が生じても、この圧縮力が引張力を打ち消すことで、大きな荷重に耐えることができるようになっている。
【0024】
また、プレストレスに関しては、コンクリートの直交する2方向にプレテンションを与える場合、2方向の一方にプレテンションを与えるとともに他方にポストテンションを付与する場合、上記2方向の双方にポストテンションを与えることが可能であり、第1の実施形態に係る床板11ではプレテンションとポストテンションとを組合せた構成とされている。
【0025】
コンクリート床板11は、図1(A)、(B)に示したように、直方体の外形を有し、縦横に平面的に配置されることにより、例えば、空港の滑走路等を構成する床面を構成する部材であり、長手方向に配置された第1の鋼材F1と、この第1の鋼材F1と直交する方向に交差して配置された第2の鋼材F2と、これら第1、第2の鋼材F1、F2の周囲に設けられたコンクリートCと、第1の鋼材F1上に配置されたICタグ12とを備えている。
【0026】
第1の鋼材F1は、コンクリート床板11の長手方向に沿って配置されるPC鋼材であり、コンクリート床板11の製造において、型枠P内の空間部Vに生コンクリートCを打設する前に、例えば、ジャッキ等により緊張されることによってコンクリート床板11の長手方向にプレストレスによる圧縮力を与えるようになっており、第2の鋼材F2は、第1の鋼材F1と直交して配置され、ポストテンションによってコンクリート床板11の短手方向にポストストレスによる圧縮力を与えるようになっている。
【0027】
コンクリートCは、第1の鋼材F1と、第2の鋼材F2が挿入されたダクトHが配置された型枠P内に生コンクリートC1が打設されて硬化したものと、ダクトH内に充填されたグラウトC2とから構成されている。
【0028】
ICタグ12は、各床板11に埋設させる小型の情報記録チップで、RFID(Radio frequency identification)の一種であり、メモリである床板情報記憶部(図示せず)を有しており、RFIDリーダ/ライタと電波による交信を行なうことにより、床板情報記憶部に情報を記録させ、又は床板情報記憶部に記録された情報を読み取り可能とされている。
第1の実施形態においては、ICタグ12は、コアに磁束を集中させることにより金属体上で起電力を確保可能に構成されたオンメタル型ICタグとされており、第1の鋼材F1の表面上に、例えば、接着剤又は両面テープ等により取付けられている。
【0029】
また、ICタグ12は、第1の鋼材F1上に取付けられるとともにコンクリート床板11内にRFIDリーダ/ライタと電波による交信を行なう電波交信面をコンクリート床板11の表面側に向けて配置され、コンクリート床板11の表面からRFIDリーダ/ライタによる電波交信が可能な範囲内の深さに埋設されており、床板情報記憶部には、例えばICタグ12のID情報、仮置場予定情報、架設位置予定情報、プレテンション日情報、打設日情報、ポストテンション日情報、製造日情報、仮置場実績情報、払出日情報、架設位置実績情報、メンテナンス日情報、メンテナンス内容情報等の床板履歴情報を記憶可能とされている。
【0030】
ICタグID情報は、ICタグ12を一意に特定する識別情報であり、例えば、ICタグ12の製造時に予め記憶されるようになっている。
仮置場予定情報は、床板11を製造後、架設場に近接した架設するコンクリート床板11を仮置きする場所における区画の識別情報であり、例えば、コンクリート床板11の製造時に記憶されるようになっている。
架設位置予定情報は、コンクリート床板11を架設する場所における区画の識別情報であり、例えば、コンクリート床板11の製造時に記憶されるようになっている。
プレテンション日情報は、PC鋼材を緊張させる作業を打設する前に行うプレテンションを行った日付の情報であり、例えば、プレテンションを行った時に記憶されるようになっている。
打設日情報は、型枠PにコンクリートCを流し込んだ日付の情報であり、型枠PにコンクリートCを流し込んだ日に記憶されるようになっている。
ポストテンション日情報は、打設した後にPC鋼材を緊張させる作業を行うポストテンションを行った日付の情報であり、例えば、ポストテンションを行った日に記憶されるようになっている。
製造日情報は、コンクリート床板11を製造し、例えば出荷可能となった日付の情報である。
【0031】
また、仮置場実績情報は、コンクリート床板11を実際に仮置きしたシマ区画の位置を示す識別情報であり、例えば、仮置場予定情報に記憶されたシマ区画ではない場所に仮置きを行う場合は、先に上記仮置場予定情報の書き換えを行い、その後に仮置場実績情報が入力される。その結果、正しく設置されたコンクリート床板11に対応する仮置場予定情報と仮置場実績情報とは一致し、仮置場予定情報と仮置場実績情報とが不一致である場合は製造工程になんらかの不備があったことが判別可能とされている。
【0032】
払出日情報は、仮置場からコンクリート床板11が搬出された日付の情報である。
架設位置実績情報は、コンクリート床板11を実際に架設した位置の識別情報であり、仮置場実績情報と同様に、例えば、なんらかの都合により架設場予定情報に記憶された区画ではない場所に架設を行う場合は、先に上記架設場予定情報の書き換えを行い、その後に架設場実績情報を入力するようになっており、正しく設置されたコンクリート床板11に対応する架設場予定情報と架設場実績情報とは一致し、架設場予定情報と架設場実績情報とが不一致である場合には製造工程になんらかの不備があったことが判別可能とされている。
【0033】
メンテナンス日情報は、架設後に、ひび割れの点検や補強などのメンテナンスを行った日付の情報である。
メンテナンス内容情報は、メンテナンス日情報に対応する情報であり、メンテナンス日に行ったメンテナンス内容を説明する情報であり、複数回のメンテナンス内容を記憶させることが可能とされている。
【0034】
また、床板情報記憶部に、ICタグ12が埋設される予定のコンクリート床板11を製造するために必要とされる生コンクリートの容量又は重量を記憶させて、コンクリート床板11を製造する工場において、受信したひとつのコンクリート床板11の生コンクリート又は合算された複数のコンクリート床板11の生コンクリートの容量又は重量に基づいて、コンクリート床板11の打設に必要とされる生コンクリートを型枠P内に供給するようにしてもよい。
【0035】
次に、第1の実施形態に係るコンクリート床板11の製造方法について、図2に基づいて説明する。
(A)まず、型枠Pに第1の鋼材F1を配置し、第1の鋼材F1をジャッキ等により緊張する。第1の鋼材F1は、例えば、緊張された状態で型枠Pに固定されている。緊張状態の保持については、型枠Pの外面において支持して緊張させる等、種々の保持方法を採用可能であることはいうまでもない。
また、型枠P内の空間部Vに、平面視したときに第1の鋼材F1に直交して交差する方向にダクトH内に挿入した状態で第2の鋼材F2を配置する。
第1の実施形態において、第2の鋼材F2は、この段階では緊張していない。
(B)次に、型枠P内の第1の鋼材F1の所定の位置にオンメタル型ICタグ12を配置する。オンメタル型ICタグ12は、例えば、両面テープや接着剤等によって第1の鋼材F1に取付ける。ICタグ12は、工程(A)において、ICタグ12の電波交信面がコンクリート床板11の表面から電波が交信可能な深さになるように第1の鋼材F1が配置されており、この実施形態においては、コンクリート床板11の表面からICタグ12の電波交信面までの距離がLになるように設定されている。
(C)次いで、型枠Pの空間部Vに生コンクリートC1を打設する。
この場合、例えば、ICタグ12に記録されたこのICタグ12が埋設される予定のコンクリート床板11の打設に必要とされる生コンクリートの容量、又は重量に関する情報をICタグ12から読み取って作業を進行させることも可能である。
生コンクリートC1が硬化したら、ダクトH内に配置された第2の鋼材F2を緊張する。
(D)ダクトHと第2の鋼材F2の間にグラウトC2を充填してグラウトC2を硬化させる。コンクリート床板11が硬化したら、型枠Pから脱型し、必要に応じてRFIDリーダ/ライタによって、ICタグ12にコンクリート床板11の製造に関する情報を書き込む。
【0036】
第1の実施形態に係るコンクリート床板11によれば、ICタグ12が、電波交信面をコンクリート部材の表面側に向けられるとともにコンクリート床板11の表面から電波による交信が可能な範囲内の深さLに埋設されているので、コンクリート床板11の外部からICタグ12の情報を得、又はICタグ12への情報の記録が可能とされる。
【0037】
また、ICタグ12がコンクリート床板11の内部に埋設されて配置されているので、コンクリート床板11が自然又は人工の過酷な環境に曝されても長期間にわたってICタグ12の機能を維持することが可能とされ、その結果、長期間にわたってコンクリート床板11の履歴やメンテナンス情報を保持することができる。
【0038】
また、第1の実施形態においては、ICタグ12が、コアに磁束を集中させることにより鋼材をはじめとするPC鋼材等の金属体上で起電力を確保可能に構成されたオンメタル型ICタグとされているので、コンクリート床板11を構成する第1の鋼材F1上に配置しても金属によるICタグ12への影響が抑制され、その結果、ICタグ12を、第1の鋼材F1の上に取付けることが可能となり、ICタグ12をコンクリート床板11の表面から所望の位置に容易かつ正確に配置することができる。
【0039】
上記第1の実施形態に係るコンクリート床板11の製造方法によれば、オンメタル型ICタグ12を型枠内に配置した第1の鋼材F1上に配置した後に、生コンクリートC1を打設するので、打設された生コンクリートC1に対してICタグ12の埋設する作業が必要とされず、作業を容易かつ正確に行なうことができる。
【0040】
また、コンクリート床板11を構成する生コンクリートC1が硬化した後に、コンクリート床板11内の第1の鋼材F1に対して直交する方向に配置された第2の鋼材F2を緊張させるとともにダクトHと第2の鋼材F2との間にグラウトを注入、硬化させるので、プリテンションとポストテンションの双方によってプレストレスされたコンクリート床板11を容易に形成することができる。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態について、図3、図4を参照して説明する。
図3は、第2の実施形態に係るコンクリート床板11を示す図であり、ICタグ12はモルタルMからなる埋設部材14に埋設されており、埋設部材14はコンクリート床板11の底面側にICタグ12の電波交信面を底面側に向けて配置されている。第2の実施形態が上記第1の実施形態と異なるのは、コンクリート床板11に配置されるICタグ12が、予め図4(A)に示すような埋設部材14に埋設して配置されている点であり、他は、第1の実施形態に係るコンクリート床板11の場合と同様であるため同じ符号を付し、説明を省略する。
【0042】
第2の実施形態に係るコンクリート床板11は、上述のようにICタグ12が、予め埋設部材14に配置されていて、製造工程において、この埋設部材14を図(B)に示すように型枠P内で第1の鋼材F1が押さえ込むように配置し、その後、第1の鋼材F1を緊張して、型枠P内に生コンクリートCを打設して、生コンクリートCが硬化した後に脱型する。
この場合、埋設部材14は、モルタル部材M内のコンクリート床板11が形成されたときにコンクリート床板11の電波を交信する側の表面から深さLの位置に埋設されており、上部に第1の鋼材F1を安定して配置するための凹部が形成されている。
【0043】
第2の実施形態に係るコンクリート床板11によれば、ICタグ12が埋設部材14に配置されているので、埋設部材14の表面からICタグ12の電波交信面までの距離Lを適切に設定することにより、ICタグ12を所望の深さLに容易かつ正確に配置することができる。
【0044】
また、第2の実施形態に係るコンクリート床板11によれば、ICタグ12が配置された埋設部材14を型枠Pの空間部Vに配置するので、ICタグ12が生コンクリートCに直接曝されることがなくICタグ12が生コンクリートCの打設により移動する虞がなく、又生コンクリートCが打設された型枠P内においてICタグ12を取扱う作業が必要とされない。
【0045】
また、第2の実施形態に係るコンクリート床板11の製造方法によれば、ICタグ12を埋設部材14に対して正確に配置することにより、オンメタル型以外の通常のICタグ12に関してもコンクリート床板11内に正確に配置することができる。また、型枠P内における埋設部材14の配置が、型枠Pの底面と接触して配置可能とされるので、埋設部材14を安定して配置することができる。
【0046】
次に、本発明の第3の実施形態について、図5、図6を参照して説明する。
第3の実施形態が上記第2の実施形態と異なるのは、上記第2の実施形態で用いた埋設部材14が第1の鋼材F1の上面に配置され、第1の鋼材F1に対して例えば針金T等により結束された後に空間部V内に生コンクリートCが打設される点であり、他は第2の実施形態と同様であるので同じ符号を付し、説明を省略する。
【0047】
第3の実施形態に係るコンクリート床板11の製造方法によれば、型枠P内に第1の鋼材F1を配置して緊張した後に埋設部材14を配置することが可能とされ、第1の鋼材F1の緊張作業を容易に行なうことができる。
【0048】
次に、本発明の第4の実施形態について、図7、図8を参照して説明する。
第4の実施形態が上記第1の実施形態と異なるのは、ICタグ12がコンクリート床板11を構成する生コンクリートCが打設されて生コンクリートCが充分流動可能な柔らかい半凝固状態において、図8に示すように、ICタグ12の表面側を覆うモルタル部材Mとともにコンクリート床板11の表面側から押込んで所定の深さLに配置される点であり、上記第1の実施形態と同様である部分については第1の実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0049】
第4の実施形態において、埋設部材15は、モルタル部材Mに接着剤S又は両面テープS等を介してICタグ12が接合された構成とされており、埋設部材15は、例えば、図8(B)に示すようなセット治具20によって、コンクリート床板11を形成する生コンクリートC内に埋設される。埋設部材15は、ICタグ12の電波交信面がコンクリート床板11の表面側に向くように、モルタル部材M側に電波交信面が向けられている、
【0050】
セット治具20は、図8(A)、(B)に示すように、治具本体21と押圧ノブ22とを備え、治具本体21は、ICタグ12が貼着された埋設部材15をコンクリートCに埋設する凹部を形成する成形部21Aと押圧ノブ22の位置決め部22Aが当接することにより押圧ノブ22の仮保持部22Bに仮保持された埋設部材15を所定位置で停止するための位置決め受部21Bとを有しており、位置決め部22Aには図示しない雌ネジが形成されて、押圧ノブ22の軸部に形成された図示しない雄ネジに螺合されており、位置決め部22Aを回転させることにより押圧ノブ22に対する位置決め部22Aの位置が調整自在とされている。
【0051】
図8(A)、(B)は、コンクリート床板11の製造工程におけるICタグ12が配置された埋設部材15をコンクリート床板11を構成する生コンクリートC内への埋設を説明する図であり、図8(A)は、セット治具20の成形部21Aが生コンクリートCに凹部を形成した状態を、図8(B)は埋設部材15を埋設位置に配置した状態を示している。
【0052】
コンクリート床板11の製造方法に係るセット治具20による埋設部材15の埋設について説明する。
型枠P内に生コンクリートCが打設された後に、図8(A)に示すように、セット治具20によって仮保持部22Bに埋設部材15を仮保持し、型枠P内に打設されて充分に流動可能な柔らかい半凝固状態の生コンクリートCに表面に略垂直な方向から押圧して、成形部21Aにより埋設部材15が収納される凹部を形成する。
なお、セット冶具20は、図8(C)に示すように、例えば、型枠P等に矩形状板23又は三角形状板24(鉄製又は木製等)を固定、設置し、矩形状板23又は三角形状板24の適切な位置に形成されたセット冶具20を固定するための孔23H、24Hに成形部21Aを挿入することで、ICタグ12を水平に配置することができる。
次いで、図8(B)に示すように、押圧ノブ22を押圧して埋設部材15を生コンクリートC内に移動させて所定の位置に配置させる。
なお、図8(A)、(B)は、図8(C)における矩形状板23又は三角形状板24に形成された固定用孔23H、24Hの中心軸を含むX−X断面、又はY−Y断面を示している。
【0053】
第4の実施形態に係るコンクリート床板11の製造方法によれば、型枠P内に打設された生コンクリートCに表面側から直接的に埋設部材15を位置決めして配置するので埋設部材15を表面から所定の位置に配置して、ICタグ12を表面から所定の深さLに確実に配置させることができる。
【0054】
次に、本発明の第5の実施形態について、図9、図10を参照して説明する。
第5の実施形態に係るコンクリート床板11は、図9に示すように埋設部材等を用いることなく、又PC鋼材に配置されることもなくコンクリート床板11の所定の位置に配置されている。
図10は、第5の実施形態に係るコンクリート床板11の製造方法を示す図であり、以下、図10(A)から(D)に基づいてコンクリート床板11へのICタグ12の埋設について説明する。
(A)まず、第1の実施形態同様、型枠P内に生コンクリートC1が打設される。
生コンクリートC1が打設された後、流動可能な半凝固状態において、型枠Pの側面にコンクリート床板11の表面から所定の深さLに対応する位置に形成されたスリット部PHにICタグ12を位置決め部材30により挿入する。
位置決め部材30は、ICタグ12を直接押圧する軸部31と、軸部の一方端に形成され型枠Pに当接することにより軸部の前進端を位置決めする頭部32とを備えている。
(B)次いで、位置決め部材30によりICタグ12を生コンクリートC1内の所定の位置まで押込む。
(C)ICタグ12が型枠P内の生コンクリートC1の所定位置に配置された後、ICタグ12が通過して出来た空隙部はコンクリートC1の自重により充填される。なお、金ゴテで上から押えて充填してもよい。
【0055】
第5の実施形態に係るコンクリート床板11によれば、コンクリート床板11の表面から所定の深さLに対応する位置に形成されたスリット部PHからICタグを挿入するので、オンメタル型ICタグでない場合にも、ICタグ12をコンクリート床板11の所望の深さL、及び平面方向の所定の位置に正確に配置することが可能である。
また、コンクリート床板11を使用する際に直接外力が加わる表面側にコンクリート、又はモルタルによる界面が形成されないため、表面におけるひび割れや水漏れが発生することが防止され、長期間にわたってICタグ12が保護される。
【0056】
また、第5の実施形態に係るコンクリート床板11の製造方法によれば、正確かつ容易にコンクリート床板11内にICタグ12を埋設することができる。
【0057】
上記実施の形態においては、コンクリート床板11がプレストレストコンクリートからなる床板にICタグ12が埋設される場合について説明したが、コンクリート床板11に代えて建築物の建設に用いる床板パネル、壁用パネルのほか、海岸に配置して波を消すための消波ブロック等、あらゆるコンクリート部材への適用が可能である。
また、上記実施の形態においては、オンメタル型ICタグ12を配置する鋼材として、PC鋼材である第1の鋼材F1に配置する場合について説明したが、鋼材とは、PC鋼材に限られるものではなくコンクリート部材内に埋設される鉄を主原料とする部材の総称でありPC鋼材のほか、鉄筋も含まれる。
【0058】
また、上記実施の形態においては、PC鋼材を2方向に直交してコンクリート部材を構成する場合について説明したが、コンクリート部材に埋設する鋼材(鉄筋、PC鋼材)の配置、組合せ形態としては、プレストレス、ポストストレスを用いずに鉄筋のみを組合わせてコンクリート部材を構成する場合、鉄筋とともにPC鋼材を一方向(幅方向)のみに配置させてプレストレストを用いる、例えば、道路を建設する際に長手方向に複数並べて道路とするいわゆる道路橋に用いるような場合、また、プレテンションの一部又は全部に代えてポストテンションにより構成することも可能であり、鉄筋及びPC鋼材の適用に関しては自在に選択可能である。
【0059】
また、上記実施の形態の埋設部材14、15を構成するモルタルや、ICタグ12を埋設した後に充填されるコンクリートを着色して、コンクリート床板11の表面からICタグ12の所在位置を確認容易にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る床板を示す図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るコンクリート部材の製造工程の例を説明する図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る床板を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る床板の製造工程を説明する図であり、(A)はコンクリート部材に埋設される埋設部材を、(B)は型枠における埋設部材の配置の例を、(C)は鋼材に対する埋設部材の配置の例を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る床板を示す斜視図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る床板の製造工程を説明する図であり、(A)は型枠における埋設部材の配置の例を、(B)は鋼材に対する埋設部材の配置の例を示す図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る床板を示す図であり、(A)は斜視図を、(B)は側面図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る床板の製造工程における埋設部材の配置を説明する図であり、(A)はセット冶具によるICタグの挿入前の状態を、(B)はセット冶具によるICタグの挿入した状態を、(C)はセット治具固定用の板の斜視図を示す図である。
【図9】本発明の第5の実施形態に係る床板を示す斜視図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係るコンクリート部材の製造工程の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
L (所定の)深さ
F1 第1の鋼材
F2 第2の鋼材
H ダクト
P 型枠
PH スリット部
C、C1、C3 生コンクリート、コンクリート
C2 グラウト
11 コンクリート床板(コンクリート部材)
12 ICタグ、オンメタル型ICタグ
14、15 埋設部材
30 位置決め部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を構成するためのコンクリート部材であって、
ICタグを備え、
ICタグは、電波交信面を前記コンクリート部材の表面側に向けて前記表面から電波による交信が可能な範囲内の深さに埋設されていることを特徴とするコンクリート部材。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート部材であって、
前記ICタグは、
オンメタル型ICタグとされ、前記コンクリート部材を構成する鋼材に配置されていることを特徴とするコンクリート部材。
【請求項3】
請求項1記載のコンクリート部材であって、
前記ICタグは埋設部材に配置され、前記埋設部材は前記コンクリート部材に埋設されていることを特徴とするコンクリート部材。
【請求項4】
請求項1記載のコンクリート部材の製造方法であって、
コンクリート部材の表面から所定の深さに対応する位置に前記ICタグ挿入可能なスリット部が形成された型枠内に生コンクリートを打設し、
前記生コンクリートが半凝固状態において前記スリット部から前記ICタグを挿入し、
前記ICタグを型枠内面の前記スリット部から所定位置に配置可能とする位置決部材により前記半凝固状態の生コンクリート内に押込み、
前記ICタグを所定の位置に配置した後に、前記ICタグが通過した通路にグラウトを充填、硬化させることを特徴とするコンクリート部材の製造方法。
【請求項5】
請求項2記載のコンクリート部材の製造方法であって、
コンクリート部材を構成する鋼材上に、前記オンメタル型ICタグの前記電波交信面をコンクリート部材の交信する表面側に向けて取付け、
前記コンクリート部材を形成するための型枠内に生コンクリートを打設して前記鋼材及び前記オンメタル型ICタグを埋設することを特徴とするコンクリート部材の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載のコンクリート部材の製造方法であって、
型枠内に前記埋設部材を配置し、
生コンクリートを打設し、
前記生コンクリートを硬化させることを特徴とするコンクリート部材の製造方法。
【請求項7】
請求項3記載のコンクリート部材の製造方法であって、
型枠内に生コンクリートを打設し、
前記生コンクリートが半凝固状態において、前記生コンクリートの表面側に凹部を形成し、
前記凹部に前記ICタグが配置された埋設部材を押圧して所定の深さに埋設し、
前記生コンクリートを硬化させることを特徴とするコンクリート部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−221774(P2008−221774A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66883(P2007−66883)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】