説明

コンクリート部材用衝撃吸収型連結装置

【課題】差筋を用いる方式において、衝撃吸収性を具備することにより、走行車両や地震等によって及ぼされる振動を吸収可能な衝撃吸収型の連結装置を提供する。
【解決手段】隣接するコンクリート部材にわたって差筋を配設し、この差筋が関与しているコンクリート部材を連結する装置において、隣接するコンクリート部材11、12に配設される差筋13を、少なくとも1個のコンクリート部材(例えば12)に対して、差筋13の長手方向へ移動可能に設定し、かつ、この差筋13の一部を上記1個のコンクリート部材の部分(例えば14)において露出させるとともに、この差筋の露出部分に、当該1個のコンクリート部材と差筋を緊結する手段としての連結具17を取り付け、上記連結具17には、1個のコンクリート部材(例えば12)と差筋13との間に介在して衝撃を吸収する弾性要素20を装備するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接するコンクリート部材にわたって差筋を配設し、この差筋が関与しているコンクリート部材を連結する装置であって、特に、コンクリート部材の加えられる衝撃を吸収可能な機能を有する連結装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工種の異なる、現場打ちコンクリート部や、プレキャストコンクリート部材同士を連結するために、従来は、差筋や、専用金具を用いる方法が取られて来た。差筋を用いる方式は、現場打ちコンクリートの連結に良く用いられており、これに対して専用金具を用いて連結する方式は、プレキャストコンクリート部材同士の連結に良く用いられている。差筋を用いる方式は、安価で施工が簡単なため、良く用いられているが、本来適用してはならない部位に施工したり、或いは施工管理を怠ったりと、管理上の問題が発生している。この問題は道徳的な側面を含むが、差筋による緊結力をコンクリート部材の連結後にも調整可能な方法を取ることができる場合には、構造的な問題を解消できる可能性がある。
【0003】
コンクリート部材同士の連結に関する先行技術としては、例えば特開2003−239392号として開示されたコンクリート製品の連結構造及び連結具に関する発明がある。同発明は、コンクリート製品を引き寄せながら、強固に連結することができるように意図されているもので、雌ねじを有するインサートを埋め込んだ一方のコンクリート製品と、大形のインサートを埋め込んだ他方のコンクリート製品とを、インサートの雌ねじにターンバックルボルトをねじ込むことによって引き寄せ、連結する構成を有する。故に、コンクリート部材同士を緊結し、また連結力を調整することが可能である。しかし、コンクリート部材に衝撃等の外力が加わった場合には、これを吸収することができないため、従来の差筋による場合と同様に、外力をコンクリート部材に応力としてそのまま伝えてしまうことになり、構造上好ましくない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−239392号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の点に着目してなされたものであり、その課題は、差筋を用いる方式における、経済上の有利さや、施工の簡単さを活用することにより、高い実用性を具備するものとし、かつ、衝撃吸収性を具備することにより、走行車両や地震等によって及ぼされる振動を吸収可能な衝撃吸収型の連結装置を提供することである。また、本発明の他の課題は、コンクリート部材に加えられる外力を吸収して、コンクリート部材に掛かる応力を低減して、無用の力から保護することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明は、隣接するコンクリート部材にわたって差筋を配設し、この差筋が関与しているコンクリート部材を連結する装置において、
隣接するコンクリート部材に配設される差筋を、少なくとも1個のコンクリート部材に対して、差筋の長手方向へ移動可能に設定し、かつ、この差筋の一部を上記1個のコンクリート部材の部分において露出させるとともに、この差筋の露出部分に、当該1個のコンクリート部材と差筋を緊結する手段としての連結具を取り付け、
上記連結具には、1個のコンクリート部材と差筋との間に介在して衝撃を吸収する弾性要素を装備するという手段を講じたものである。
【0007】
本発明に係る連結装置においても、連結するコンクリート部材は、差筋を用いて連結しており、従って、経済上の有利さや、施工の簡単さを活用することができるものである。差筋は、その一部において、コンクリート部材に埋入して一体化している構成を取り、他の一部においては、コンクリート部材に対して移動可能に設定されていて、後で、連結具を用いて緊結される構成を取ることができる。また、差筋の両端部において、コンクリート部材に対して移動可能に設定されていて、後で、連結具を用いて緊結される構成を取ることも可能である。
【0008】
すなわち、本発明は、隣接するコンクリート部材に配設される差筋を、少なくとも1個のコンクリート部材に対して、差筋の長手方向へ移動可能に設定し、かつ、この差筋の一部を上記1個のコンクリート部材の部分において露出させるとともに、この差筋の露出部分に、当該1個のコンクリート部材と差筋を緊結する手段としての連結具を取り付ける構成を必要とする。この構成は、初め、コンクリート部材に対して移動可能に設定されていて、後で、連結具を用いて緊結されるやり方だけを述べており、他の構成については述べていないので、1本の差筋の一方だけに、連結具による緊結法を適用すれば、同じ差筋の他方は連結具に寄らなくても良いこと、また、両方とも連結具による緊結法を適用しても良いこと、の両方を含む。
【0009】
差筋の一部を、上記1個のコンクリート部材の部分において露出させるという構成は、連結具を差筋に取り付けるために必要になるものである。言い換えると、連結具を差筋に取り付けるという要件を満たすことができるのであれば、どのような露出構造であっても良いということである。後述する例では、コンクリート部材の側面に凹部を形成し、そこに差筋の端部だけが露出するように設定し、連結具で緊結する方式を取る。しかし、差筋の一部を露出させることは、凹部を設けずとも可能であり、本発明の装置はそのようなものも含む。
【0010】
連結具として必要なことは、コンクリート部材と差筋との緊結であり、従ってねじによる結合が最適である。具体的には、差筋の緊結部分に雄ねじを設け、それと、雄ねじに螺合する雌ねじを有するナット状の部材を組み合わせることが、連結具として最も一般的なものとなる。
【0011】
そして、上記連結具には、1個のコンクリート部材と差筋との間に介在して衝撃を吸収する弾性要素を装備する。弾性要素は、前述したような走行車両や地震等によって及ぼされる振動を吸収し、コンクリート部材に加えられる応力を低減することを目的とする。従って、予想される外力の大きさに応じた衝撃吸収特性を備えているものを使用する。
【0012】
この目的に適合する部材として、本発明では、例えば鋼などの金属材料から成り、バルジ工法によって塑性加工された、膨らみ(バルジ)を有するものが最良であると考えられる。このバルジ加工製品は、強度が高く、弾性変形を生じ得る範囲も広いため、重量のあるコンクリート部材に加えられる外力の緩衝にも適しており、耐久性があり、かつ、製造コストも安価である。
【0013】
本発明における差筋の一つの例としては、いわゆるアンカーとして用いられる、外面に凹凸が設けられたロッド状の部材の少なくとも一方の端部に、雄ねじを切ったものを挙げることができる。この雄ねじ側の端部に、バルジ加工製品より成る弾性要素を、一対のワッシャーで挟んだ状態で配置し、さらにその端部側にナットを螺合した状態として、緊結に使用するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、差筋を用いる方式における、経済上の有利さや、施工の簡単さを活用することにより、高い実用性を具備するものであり、かつまた、衝撃吸収性を具備するものであるから、走行車両や地震等によって及ぼされる振動を吸収し、コンクリート部材に加えられる応力を低減可能な衝撃吸収型の連結装置を提供することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図示の実施形態を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明に係るコンクリート部材用衝撃吸収型連結装置10を示す断面図であり、11は隣接するコンクリート部材の内の、一方のコンクリート部材である側壁、12は同様に、他方のコンクリート部材である頂版、を夫々示す。本発明に係る装置10では、隣接する側壁11と頂版12にわたって差筋13を配設し、この差筋13が関与している上記のコンクリート部材を連結する。
【0016】
一方のコンクリート部材である側壁11は、差筋13の一部を上記一方のコンクリート部材の部分において露出させる箇所として、上部の側面に型成形された施工用凹部14を有するものとし、かつまた、その施工用凹部14から、他方のコンクリート部材である頂版12に通じる孔部15を有するものとする。孔部15には、スリーブ16をインサートし(図3、図4参照)、そこに差し込まれる差筋13の移動を確保する。差筋13は、従来のものと同様の材質及び形状を有するものもので、外周面にはコンクリートとの付着一体化を得るための凹凸が形成してある。
【0017】
図1の例における差筋13は、その上部において、他方のコンクリート部材である頂版12に埋入して一体化する構成を取り、その下部においては、一方のコンクリート部材である側壁11に対して移動可能に設定されていて、後で、連結具17を用いて緊結される構成を取る。差筋13は上記のようにロッド状の部材から成り、その下部において差筋の緊結箇所になる部分に雄ねじ部18を設けている。従って、連結具17は、雄ねじ部18と、これに螺合する雌ねじを有するナット状の部材19の組み合わせである。
【0018】
上記連結具17には、一方のコンクリート部材(11)と差筋13との間に介在して衝撃を吸収する弾性要素20を装備する。弾性要素20は、走行車両や地震等によって及ぼされる振動を吸収し、コンクリート部材に加えられる応力を低減することを目的とするもので、予想される外力の大きさに応じた衝撃吸収特性を備えているものを使用する。この目的に適合する部材として、本発明では、例えば鋼材から成り、バルジ工法によって塑性加工された、膨らみ(バルジ)部21を有するものである。
【0019】
例示のバルジ加工製品から成る弾性要素20は、図示のように中間に膨らみ(バルジ)部21を有し、全体として筒状の外形を有するもので、コンクリート部材に接触する端部と、上記連結具17に接触する端部の両側に加えられる外力を受けるために、端部径よりも大径のワッシャー22、23を夫々配置している。ワッシャー22、23は、例えば鋼材から成る。故に、弾性要素20は、最大限その両端間の長さRだけ伸縮可能である(図4参照)。
【0020】
さらに、図8を参照して、本発明に係るコンクリート部材用衝撃吸収型連結装置10を用いて、隣接するコンクリート部材である側壁11と、頂版12を連結する施工について説明する。まず、側壁11を施工するための型枠24、25を設置する。一方に型枠24には、施工用凹部14を成形するために、整形用ゴム型26が固定手段27により取り付けられ、整形用ゴム型26には、スリーブ16がインサートするため固定手段28により取り付けられている。図8上段。
【0021】
公知の施工法によってコンクリート29を打設し(図8中上段)、硬化、養生の後、脱型する(図8中下段)。また、整形用ゴム型26と固定手段27及び28を取り外す。ここで側壁11が施工用凹部14と共に成形され、スリーブ16は側壁11にインサートされる。次に、差筋13をスリーブ16に差し込み(図8下段)、差筋13に弾性要素20をワッシャー22、23及び連結具17と共に取り付け、差筋13が頂版12側に突き出す位置に、適当な手段により固定する。図9上段。
【0022】
その後に、頂版12を施工するための型枠30、31を設置し(図9中上段)、コンクリート32を打設する(図9中下段)。コンクリート32の硬化、養生を待って、脱型する(図9中下段)。この後で、トルクレンチ等の工具を使用して、ナット状の部材19を所定のトルクに締め付け、頂版12を側壁11に緊結する。図9下段。
【0023】
図10は、本発明に係るコンクリート部材用衝撃吸収型連結装置10を用いて構築される、地下調整池の施工外略図を示す。底板工33と、上記の側壁工及び頂版工はいずれも現場打ちコンクリートによって構築され、その側壁11と頂版12の結合を、本発明に係る装置10により施工している。34は調整池内に設置される内部構造ブロック、35は同ブロック用固定部材を示す。内部構造ブロック34は、支保工材36により相互に連絡し、また、結合材37により頂版12に結合される。
【0024】
よって、隣接して連結されているコンクリート部材に外力が作用した場合、本発明に係る装置10では、図4に示されるように、引張力に抗する作用を発揮するので、強固な連結力が得られるとともに、予め設定された弾性限界を超える外力が働いた場合には、弾性要素20が作用して圧縮力を負担し、弾性限界内である場合には原型に復元し、過剰な応力をコンクリート部材(11、12)に及ぼすことを防ぐことができる。また、弾性要素20の弾性限界を超える外力が働き、変形してしまった場合には、他に損傷が無ければ、弾性要素20を取り外して、新品と交換することも可能である。
【0025】
以上の例では、直接接触する2個のコンクリート部材(11、12)を連結するケースにおいて、差筋13の一部のみ、コンクリート部材に埋入して一体化しており、他の一部にのみ、コンクリート部材に対して移動可能に設定されていて、後で、連結具を用いて緊結される構成について説明した。しかし、差筋13の両端部において、コンクリート部材に対して移動可能に設定されていて、後で、連結具17等を用いて緊結される構成を取ることも可能であるので、これを第2の例として図11、図12の両図により説明する。
【0026】
両図に示すように、側壁側に配置される連結部については、上記の一例と全く同じ構成であるが、差筋13′の両端部に、雄ねじ部18を設けており、この部分においても弾性要素20を使用して連結具17により、頂版12′を結合する。弾性要素20を使用する連結具17の構成も上記の例と同じでよいが、それらが納まる施工用凹部14′を、上記施工用凹部14と同様に、頂版12′の上面に形成している。しかしながら、この施工用凹部14′は、不可欠と言うわけではない。また、施工用凹部14′は、前記の例で言えば、図9の中2段の工程において形成され、スリーブ16も必要である。上部の雄ねじ部18における緊結は、下部の雄ねじ部18における緊結作業と相前後して行なうことができる。他の構成は前の例と同じで良いので符号を援用し、詳細な説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るコンクリート部材用衝撃吸収型連結装置の一例を示す断面図。
【図2】同上の装置を一部破断して示す正面図。
【図3】同じく同上の装置を示す断面斜視図。
【図4】同じく同上の装置を示す断面拡大図。
【図5】本発明装置を構成する主要部を示すもので、Aは上方の、Bは下方の斜視図。
【図6】本発明装置に用いる弾性要素を示すもので、Aは斜視図、Bは縦断面図。
【図7】本発明装置を構成する主要部の説明図で、Aは正面図、Bは縦断面図。
【図8】本発明に係る装置の施工例における前段の工程を示す説明図。
【図9】本発明に係る装置の施工例における後段の工程を示す説明図。
【図10】本発明に係る装置を適用して施工した構築物の例を示す説明図。
【図11】本発明に係る装置の第2の例を示す断面斜視図。
【図12】同じく同上の装置を示す断面拡大図。
【符号の説明】
【0028】
10 コンクリート部材用衝撃吸収型連結装置
11 側壁
12、12′ 頂版
13、13′ 差筋
14、14′ 施工用凹部
15 孔部
16 スリーブ
17 連結具
18 雄ねじ部
19 ナット状の部材
20 弾性要素
21 膨らみ(バルジ)部
22、23 ワッシャー
24、25 型枠
26 整形用ゴム型
27、28 固定手段
29、32 コンクリート
30、31 型枠
33 底板工
34 内部構造ブロック
35 同ブロック用固定部材
36 支保工材
37 結合材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接するコンクリート部材にわたって差筋を配設し、この差筋が関与しているコンクリート部材を連結する装置において、隣接するコンクリート部材に配設される差筋を、少なくとも1個のコンクリート部材に対して、差筋の長手方向へ移動可能に設定し、かつ、この差筋の一部を上記1個のコンクリート部材の部分において露出させるとともに、この差筋の露出部分に、当該1個のコンクリート部材と差筋を緊結する手段としての連結具を取り付け、上記連結具には、1個のコンクリート部材と差筋との間に介在して衝撃を吸収する弾性要素を装備したことを特徴とするコンクリート部材用衝撃吸収型連結装置。
【請求項2】
差筋の他の一部は、1個のコンクリート部材以外の他のコンクリート部材に埋入されてそれと一体化している請求項1記載のコンクリート部材用衝撃吸収型連結装置。
【請求項3】
差筋の他の一部は、1個のコンクリート部材以外の他のコンクリート部材に対しても、差筋の長手方向へ移動可能に設定されており、上記他のコンクリート部材の部分において露出しており、その差筋の露出部分においても、当該他のコンクリート部材と差筋が連結具を用いて緊結されている請求項1記載のコンクリート部材用衝撃吸収型連結装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−208562(P2008−208562A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44295(P2007−44295)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(507050137)平和コンクリート工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】