説明

コンジュゲートされた抗精神病薬およびこれらの使用

【課題】 抗精神病薬と有機酸との新規化学的コンジュゲート、およびこれらの使用を提供すること。
【解決手段】 主鎖に3〜5個の炭素原子を有する有機酸に共有結合されているフェノチアジンを含む化学的コンジュゲート、またはγ−アミノ酪酸(GABA)に共有結合されているペルフェナジンを含む化学的コンジュゲート。活性成分として前記化学的コンジュゲートと製薬的に許容しうるキャリヤーを含む製薬組成物。統合失調症を治療するための薬剤の製造における、前記化学的コンジュゲートの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗精神病薬と有機酸との新規化学的コンジュゲート(chemical conjugate)、およびこれらの使用に関する。より詳しくは本発明は、抗精神病薬(これらはまた、抗増殖活性および/または化学感作活性を有していることもある)と、この抗精神病薬によって誘発される副作用を減少させるように、および/または抗増殖活性を及ぼすように選択された有機酸との新規化学的コンジュゲート、および精神性のおよび/または増殖性の障害および疾患の治療および化学感作におけるこれらの使用に関する。本発明の新規化学的コンジュゲートは、先行技術の抗精神病薬と比較した場合、最小限の有害な副作用を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
神経弛緩薬剤(neuroleptic drugs)は、神経弛緩剤(neuroleptic agents)または神経弛緩薬(neuroleptics)としても知られているが、これらは、中枢神経系精神病および精神疾患、例えば統合失調症の治療に広く用いられている伝統的な抗精神病薬である。神経弛緩薬の抗精神病剤的有効性は、中枢ドーパミン受容体を拮抗/遮断するこれらの能力によるものとされる。これらの神経弛緩薬は、典型的抗精神病薬として知られており、これらには例えばフェノチアジンが含まれ、これらには、脂肪族(例えばクロルプロマジン)、ピペリジン(例えばチオリダジン)、およびピペラジン(例えばフルフェナジン);ブチロフェノン(例えばハロペリドール);チオキサンテン(例えばフルペンチキソール);オキソインドール(例えばモリンドン);ジベンゾキサゼピン(例えばロキサピン)、およびジフェニルピペリジン(例えばピモジド)がある。
【0003】
しかしながら現在入手しうる神経弛緩剤の投与は、有害な副作用を伴なうことが多い。これらの神経弛緩剤が、硬直、ふるえ、運動緩慢(遅い動き)、および精神緩慢(遅い思考)を含む錐体外路症状、ならびに遅発性運動異常、急性失調反応、および静座不能(akathasia)を誘発することは、当業界でよく知られている。実際、1年以上もの間、神経弛緩薬の慢性療法での治療を受けた患者の約5%が、遅発性運動異常の病気になる。
【0004】
抗精神病薬の別の種類には、異型性抗精神病剤が含まれる。異型性抗精神病薬は、ドーパミンD2受容体に加えて中枢セロトニン2受容体(5−HT2)への結合を含む受容体結合プロフィールを有する。異型性抗精神病薬には例えば、クロザピン、オランザピン、およびリスペリドンが含まれ、一般に高い抗セロトニン活性およびドーパミンD2受容体への比較的低い親和性を特徴とする。いくつかの異型性抗精神病薬、例えばクロザピンは、さらに付着性(adherenic)、コリン作用性、およびヒスタミン作用性(histaminergic)受容体に拮抗することが知られている。
【0005】
神経弛緩剤とは異なり、異型性抗精神病剤は、最小限の錐体外路症状しか引起こさず、したがってめったに遅発性運動異常、静座不能、または急性失調反応を引起こさない。しかしながらこれらの投与は、ほかの副作用、例えば体重の増加、気分障害、性機能障害、鎮静作用、起立性低血圧、過流涎、発作閾値の低下、および特に顆粒球減少を包含する。
【0006】
典型的および異型性の両方の、本明細書において抗精神病剤とも呼ばれる抗精神病薬に伴なう重大な副作用は、これらの使用に対して大きい制限を課すので、このような副作用のない抗精神病薬を開発するために広範な努力がなされてきた。
【0007】
米国特許第6,197,764号は、クロザピン(異型性抗精神病薬)と12〜26個の炭素原子、好ましくは16〜22個の原子の脂肪酸との化学的コンジュゲートを開示している。これらのコンジュゲートは、広範な治療的効果を特徴としており、これによって、抗精神病治療効果を生じるためにこれのより低い用量の投与が可能になり、これによって重大な副作用が出る可能性が減少する。したがってこれらのコンジュゲートは、コンジュゲートされていない異型性抗精神病薬よりも有益かつ有利である。しかしながら米国特許第6,197,764号は、ほかの抗精神病剤を含むこのように有利なコンジュゲートの開示に失敗しており、さらには長鎖脂肪酸を含むコンジュゲートに限定されている。ほかの抗精神病剤、主として神経弛緩薬と、長鎖脂肪酸とのエステルコンジュゲートは、当業界でよく知られていると言うべきである。それにもかかわらず、このようなコンジュゲートは、主として薬剤の脳浸透を容易にすることを目的としており、副作用を積極的に減少させるか、または防ぐようには設計されていない。
【0008】
米国特許第3,966,930号は、顕著な神経弛緩特性および比較的低い程度の望ましくない副作用しか有していないフルオロ置換フェノチアジン誘導体を開示している。しかしながら、米国特許第3,966,930号の特許請求されたフルオロ置換フェノチアジン誘導体のいくつかは、その鎖中に1〜17個の炭素原子を有するアシル基を含んでいるが、実験データは、蓚酸またはマレイン酸(すなわち、それぞれ2個および4個の炭素原子を含む有機酸)のどちらかに由来するアシル基のみを含むフェノチアジン誘導体に限定されている。これらの開示されたフェノチアジン誘導体は、他の既知の神経弛緩剤と比較して、より長い治療効果を有し、したがって比較的低い程度の誘発された副作用を特徴とする。これらの化合物の延長された治療効果は主として、フェノチアジン置換基(例えばフルオロおよびトリフルオロメチル)によるものとされるが、一方で、有機酸とのこれらのコンジュゲーションは、主としてこれらの製薬的配合を容易にすることを目的としている。
【0009】
抗精神病薬、主として神経弛緩剤での治療の結果としての錐体外路症状の発現に関する最近の研究は、ドーパミン作用性受容体D1およびD2における不均衡に関わるメカニズムを示唆している。これはさらに、脳中のγ−アミノ酪酸(GABA)系の活性の減少を伴なう。
【0010】
GABAは、脳中の重要な阻害性神経伝達物質である。これは、気分安定活性、抗不安活性、および筋肉弛緩活性に影響を与えることが知られており、さらにはいくつかの中枢神経系障害および疾患に関連することが知られている。錐体外路症状に関する最近の研究は、GABAアゴニストはさらに、神経弛緩剤によって誘発される副作用を減少させるために用いることができ、したがって追加の治療的可能性を有することを示唆している。
【0011】
以前の研究は、GABAアゴニストがほかの脳神経伝達物質、特にドーパミン系を妨害しうることを既に示唆している。したがってGABAアゴニストは、神経弛緩剤によって誘発されるドーパミン受容体感受性の増加に拮抗することができ、したがって神経弛緩剤によって誘発される運動障害を改良しうることが発見された[1]。さらには、既知の直接GABAアゴニスト(例えばムシモールおよびSL76002)には、ハロペリドールによって誘発されるカタレプシーに対して次のような二相作用を引起こすものがあることも発見された。すなわち、このアゴニストの低用量は常同カタレプシー挙動を阻害するが、このアゴニストの高用量は、ハロペリドールによって誘発されるカタレプシーを増強する。GABAアゴニストがさらに、抗痙攣活性を誘発することを報告した研究もある[2]。
【0012】
GABAアゴニストの使用は限定されているが、それは、これらが親水性官能基(例えば遊離カルボン酸基および遊離アミノ基)を含み、したがって血液脳関門(BBB)を容易には横断しないからである。しかしながら、このような化合物と脂肪アミノ酸またはペプチドとの化学的コンジュゲーションは、血液脳関門(BBB)の通過を実質的に容易にしうるであろうことが発見された[3]。
【0013】
実際、米国特許第3,947,579号、第3,978,216号、第4,084,000号、第4,129,652号、および第4,138,484号は、次のことを開示している。すなわち、血液脳関門を横断することが知られているGABA様化合物(薬理学的にGABAに関連した化合物)、例えばγ−ヒドロキシブチロラクトン、γ−ヒドロキシブチレート、アミノオキシ酢酸、5−エチル−5−フェニル−2−ピロリドン、1−ヒドロキシ−3−アミノ−2−ピロリドン、およびβ−(4−クロロフェニル)−γ−アミノ酪酸は、神経弛緩薬と同時投与された(co−administered)時、いくぶん低い用量の神経弛緩薬の使用を可能にし、これらのGABA様化合物の投与を行なわずに、より高い用量の神経弛緩薬を用いて得られるのと同じ抗精神病効果を得ることができ、同時に錐体外路副作用をいくぶん減少させる。より低い用量の神経弛緩薬が用いられているのに、同じ抗精神病効果が得られると言われているが、その理由は、これらのGABA様化合物が、同時投与された抗精神病薬の抗精神病活性を増強すると言われるからである。
【0014】
最近の研究は、いくつかの神経弛緩剤、特にフェノチアジンがさらに、様々な細胞系統、例えばニューロン細胞、グリア細胞、黒色腫細胞、乳房細胞(brest cells)、結腸細胞、前立腺細胞、リンパ腫、および白血病、ならびに一次(primary)ヒト角膜実質細胞における強力な抗増殖活性も及ぼすことを明らかにした[4]。カルモジュリンに対して特異的阻害作用を及ぼすことが知られている「新規半マスタード型フェノチアジン」が、国立ガン研究所(National Cancer Institute)(NCI)によってテストされた。フェノチアジンの抗増殖活性が、60の様々なヒトガン細胞系統の試験管内スクリーニングにおいて観察された。いくつかのフェノチアジンはさらに、動物モデルにおける腫瘍増殖の有意な阻害も示した。これらの発見事項は、一般的な集団と比較して、神経弛緩薬治療の際の統合失調症患者におけるガン発生の頻度の低さと一貫性がある。
【0015】
WO 02/43652号は、本明細書に完全に示されているかのように参照して組込まれているが、これは、増殖性疾患の治療における様々な典型的および異型性精神病剤の使用を教示している。特にWO 02/43652号は、環状精神病剤が、神経膠腫、黒色腫、神経芽細胞腫、結腸、肺、および前立腺ガンを含む多くのガンの治療、ならびに多剤耐性(MDR)ガン細胞、例えばB16黒色腫細胞(ドキソルビシンおよびコルチシンに耐性があることが知られている)および神経芽細胞腫(SH−SY5T)(これは5−FUおよびドキソルビシンに耐性がある)の治療において効果的な薬剤として役立ちうることを教示している。さらには、MDRガンの治療における精神病剤の活性の教示とは別に、WO 02/43652号はさらに、化学感作剤として、すなわちガン細胞、特にMDRガン細胞を細胞障害薬に対して効果的に感作する化合物としての精神病薬の使用も教示している。
【0016】
しかしながら、WO 02/43652号の教示は、特にMDRガンの治療における精神病剤の抗増殖性および化学感作活性に関して非常に有利であるが、これらの抗精神病剤の使用は、これによって誘発される有害な副作用によって大幅に限定される。
【0017】
酪酸(BA)および4−フェニル酪酸(PBA)(GABAはその誘導体である)は、試験管内での広い範囲の新生物細胞における分化および抗増殖剤として作用することも知られている[5]。酪酸および4−フェニル酪酸の両方が、多面剤(pleotropic agent)として知られており、これらの最も顕著な活性の1つは、核ヒストンにおけるアセチル化レベルの可逆的増加であり、これはクロマチン緩和および転写活性の変化を生じる[6]。この作用メカニズムはさらに、酪酸および4−フェニル酪酸の抗ガン活性に関連していると考えられる。
【0018】
したがって先行技術は、統合失調症および関連中枢神経系精神障害および疾患の治療、ならびに増殖性障害および疾患、例えば悪性および良性腫瘍およびMDRガンの治療において、抗増殖剤としての、および化学感作剤としての典型的および異型性抗精神病薬の使用を教示している。先行技術はさらに、神経弛緩剤によって誘発される副作用を減少させるための潜在的薬剤としてのGABAアゴニスト(GABAそれ自体も包含する)の使用、ならびに抗増殖剤としての酪酸およびこれの誘導体の使用も教示している。
【0019】
それにもかかわらず、改良された治療活性、さらに減少した副作用を特徴とし、同様に抗増殖薬および化学感作剤としても役立ちうる抗精神病薬への広く認められたニーズがあり、これを有することが非常に有利であろう。
【発明の概要】
【0020】
本発明によれば、(i)抗精神病薬と、これらの抗精神病薬によって誘発された副作用を減少させるように、および/または抗増殖活性を及ぼすように選択された有機酸との化学的コンジュゲート;(ii)抗精神病薬とGABAアゴニスト(GABAそれ自体も包含する)との化学的コンジュゲート;(iii)抗精神病薬と抗増殖剤との化学的コンジュゲート;(vi)これらの合成方法;(v)従来の抗精神病薬に特徴的な副作用を減少させつつ、精神障害および疾患の治療および/または予防におけるこれらの使用;(v)増殖性障害および疾患の治療および/または予防におけるこれらの使用;および(vi)化学感作剤としてのこれらの使用が提供される。
【0021】
抗精神病薬のこのような化学的コンジュゲートは、最小限の有害な副作用(例えば錐体外路症状)、向上した抗精神病治療活性、および抗増殖活性、および化学感作活性を特徴とすることが、本明細書に示されている。さらには本明細書において、このような化学的コンジュゲートは、その治療効果および、副作用の最小化の両方に関して、これらの親化合物と比較した場合、意外にも相乗効果を与えることも示されている。
【0022】
したがって本発明の1つの側面によれば、第二化学部分に共有結合された第一化学部分を含む化学的コンジュゲートであって、この第一化学部分が抗精神病薬残基であり、第二化学部分は、この抗精神病薬がそれ自体で投与された時にこの抗精神病薬によって誘発される副作用を減少させるようにおよび/または抗増殖活性を及ぼすように選択された有機酸残基である化学的コンジュゲートが提供される。
【0023】
本発明のもう1つの側面によれば、活性成分として本発明の化学的コンジュゲートと製薬的に許容しうるキャリヤーを含む製薬組成物が提供される。
【0024】
本発明の製薬組成物は好ましくは、包装材料に包装され、精神障害または疾患の治療での使用、増殖性障害または疾患の治療での使用、および/または化学療法剤と組合わせた化学感作での、および/または化学感作が有益である健康状態における化学感作での使用のためのものであることが、この包装材料上にまたはその中に印刷されて明らかにされている。
【0025】
本発明のさらにもう1つの側面によれば、被験者における精神障害または疾患の治療または予防方法であって、本発明の化学的コンジュゲートの治療的有効量を被験者に投与することを含む方法が提供される。
【0026】
下記の本発明の好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、精神障害または疾患は、統合失調症、パラノイア、小児精神病、ハンチントン病、およびジル・ド・ラ・トゥーレット症候群からなる群から選択される。
【0027】
本発明のさらにもう1つの側面によれば、被験者における増殖性障害または疾患の治療または予防方法であって、本発明の化学的コンジュゲートの治療的有効量を被験者に投与することを含む方法が提供される。
【0028】
下記の本発明の好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、この増殖性障害または疾患は、脳腫瘍、脳転移、および末梢腫瘍からなる群から選択される。
【0029】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、この増殖性障害は、ガン例えば多剤耐性ガンである。
【0030】
本発明のもう1つの追加の側面によれば、化学感作方法が提供される。この方法は、1つまたはそれ以上の化学療法剤の化学療法的有効量および本発明の化学的コンジュゲートの化学感作的有効量を、これらを必要としている被験者に投与することを含む。
【0031】
下記の本発明の好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、この被験者は、ガン例えば多剤耐性ガンを有する。
【0032】
下記の本発明の好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、第二化学部分は、カルボン酸エステル結合、アミド結合、およびチオエステル結合からなる群から選択されるエステル結合を介して、第一化学部分に共有結合されている。
【0033】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、第二化学部分は、抗増殖剤残基とGABAアゴニスト残基とからなる群から選択される。
【0034】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、この抗精神病薬残基は、抗増殖活性を有する。
【0035】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、この抗精神病薬残基は、化学感作活性を有する。
【0036】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、この抗精神病薬残基は、フェノチアジン残基とフェノチアジン誘導体残基とからなる群から選択される。
【0037】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、この抗精神病薬残基は、典型的抗精神病薬残基と異型性精神病薬残基とからなる群から選択される。
【0038】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、この抗精神病薬残基は、クロルプロマジン残基、ペルフェナジン残基、フルフェナジン残基、ズクロペンチキソール残基、チオプロパゼート残基、ハロペリドール残基、ベンペリドール残基、ブロムペリドール残基、ドロペリドール残基、スピペロン残基、ピモジド残基、ピペラセタジン残基、アミルスルプリド残基、スルピリド残基、クロチアピン残基、ジプラシドン残基、レモキシプリド残基、スルトプリド残基、アリザプリド残基、ネモナプリド残基、クロザピン残基、オランザピン残基、ジプラシドン残基、セルチンドール残基、ケチアピン残基、フルオキセチン残基、フルボキサミン残基、デシプラミン残基、パロキセチン残基、セルトラトラリン残基、バルプロ酸残基、およびフェニトイン残基からなる群から選択される。
【0039】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、GABAアゴニスト残基は、(±)バクロフェン残基、γ−アミノ酪酸(GABA)残基、γ−ヒドロキシ酪酸残基、アミノオキシ酢酸残基、β−(4−クロロフェニル)−γ−アミノ酪酸残基、イソニペコチン酸残基、ピペリジン−4−スルホン酸残基、3−アミノプロピル亜ホスホン酸(3−aminopropylphosphonous acid)残基、3−アミノプロピルホスフィン酸残基、3−(アミノプロピル)メチルホスフィン酸残基、および3−(2−イミダゾリル)−4−アミノブタン酸残基からなる群から選択される。
【0040】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、この抗増殖剤残基は、酪酸残基と4−フェニル酪酸残基とからなる群から選択される。
【0041】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、この有機酸残基は、一般式−R−C(=O)−(式中、Rは、1〜20個の炭素原子を有する置換または非置換炭化水素残基、1〜20個の炭素原子を有する置換または非置換炭化水素残基、および酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子、およびRからなる群から選択され、一方、Rは、一般式−Z−C(=O)O−CHR−R(式中、Zは、単結合、1〜20個の炭素原子を有する置換または非置換炭化水素残基、1〜20個の炭素原子を有する置換または非置換炭化水素残基、および酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子から選択され;Rは水素と、1〜10個の炭素原子を有するアルキルとからなる群から選択され;Rは、水素、1〜20個の炭素原子を有する置換または非置換炭化水素残基、1〜20個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、および酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子からなる群から選択される)の残基である)を有する。
【0042】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、Rは、3〜5個の炭素原子を有する置換または非置換アルキルである。
【0043】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、有機酸残基は、酪酸残基、吉草酸残基、4−フェニル酪酸残基、4−アミノ酪酸残基、レチノイン酸残基、スリンダック酸(sulindac acid)残基、アセチルサリチル酸残基、イブプロフェン残基、マロン酸残基、コハク酸残基、グルタル酸残基、フマル酸残基、およびフタル酸残基からなる群から選択される。
【0044】
本発明のさらにもう1つの側面によれば、本発明の化学的コンジュゲートの合成方法が提供される。この方法は、抗精神病薬の残基に共有結合された有機酸の残基を得るために、有機酸と抗精神病薬とを反応させることを含む。
【0045】
下記の本発明の好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、有機酸の残基は、カルボン酸エステル結合を介して抗精神病剤の残基に共有結合されており、この方法はさらに、反応に先立って、有機酸をその塩化アシル誘導体に転換させることも含む。
【0046】
記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、有機酸の残基は、チオエステル結合を介して抗精神病剤の残基に共有結合されており、この方法はさらに、反応に先立って、有機酸をその塩化アシル誘導体に転換させること、およびこの抗精神病薬をそのチオール誘導体に転換させることも含む。記載されている好ましい実施態様におけるさらにほかの特徴によれば、有機酸の残基は、アミド結合を介してこの抗精神病剤の残基に共有結合されており、この方法はさらに、反応に先立って、有機酸をその塩化アシル誘導体に転換させること、およびこの抗精神病薬をそのアミン誘導体に転換させることも含む。上記の方法において用いられている有機酸および抗精神病薬は好ましくは、上記の有機酸残基および本発明の抗精神病薬残基から誘導される。
【0047】
この有機酸が、遊離アミノ基を含むGABAアゴニストである場合、この方法はさらに、反応に先立って、この反応によって抗精神病薬の残基に共有結合された有機酸のアミノ保護残基を得るために、この遊離アミノ基を保護基で保護すること、および抗精神病薬の残基に共有結合された有機酸のアミノ保護残基を得た後でこの保護基を除去することを含む。好ましくはこの方法はさらに、保護の後でかつこの反応の前に、有機酸をそのアシルイミダゾール誘導体に転換することも含む。
【0048】
本発明は、精神性のおよび/または増殖性の障害および疾患の治療および予防のため、および化学感作剤としての使用のための、最小限の有害な副作用しか誘発しない抗精神病薬の強力な新規化学的コンジュゲートを提供することによって、現在知られている構成の欠点に取組んで成功している。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明は、添付図面を参照して、例示の目的のためのみに本明細書に記載されている。ここで図面を特に詳細に参照すると、示されている特定例は、例としてのものであって、本発明の好ましい実施態様の例証的考察のみを目的とし、本発明の原理および概念的側面の最も有用かつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために示されている。この点に関して、本発明の基本的理解のために必要である以上に詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされず、図面を用いて行なわれる説明は、本発明のいくつかの形態がどのようにして実際に具体化されうるかを当業者に明らかにする。
【図1】図1aおよび1bは5mg/kg体重のペルフェナジンおよび等モル用量のその化学的コンジュゲートが腹腔内注射されたラットにおける、総カタレプシー(図1a)およびプロラクチン血液レベル(図1b)に対する、ペルフェナジンおよび本発明によるその化学的コンジュゲート(AN167、AN168、およびAN130)の効果を示す、構造活性関係(SAR)調査によって得られた棒グラフおよびプロットを示している。
【図2】図2は5mg/kgペルフェナジンおよび等モル用量の本発明によるその化学的コンジュゲートでの処理後のラットにおける、総カタレプシーを示す棒グラフである(SAR調査)。
【図3】図3aおよび3bはラットにおける総カタレプシーに対する、ペルフェナジン(5mg/kg)、フルフェナジン(7.5mg/kg)、および本発明によるこれらの化学的コンジュゲート(AN167、AN168、AN180、およびAN187)(等モル用量で投与された)の効果(図3a)、およびラットにおけるプロラクチン血液レベルに対するペルフェナジン、フルフェナジン、およびこれらのGABA化学的コンジュゲートAN168およびAN187の効果(図3b)を示す棒グラフおよびプロットを示している。
【図4】図4a〜bはペルフェナジンおよび本発明によるその化学的コンジュゲート(図4a)およびフルフェナジンおよび本発明によるその化学的コンジュゲート(図4b)によって誘発された、ラットにおけるカタレプシーの時間的経過を示す比較プロットである。
【図5】図5aおよび5bはラットにおけるカタレプシーに対する、本発明のペルフェナジンとGABAとの化学的コンジュゲート(化合物AN168)および等用量のペルフェナジンとGABAとの混合物の効果を示す棒グラフおよび比較プロットを示す。
【図6】図6はラットにおける総カタレプシーに対する本発明の化学的コンジュゲートAN167およびAN168の効果を示す棒グラフである(4つの独立した実験の平均)。
【図7】図7aおよび7bは2分以内に目標に到達した動物のパーセンテージという点に関して(図7a)およびこれらの動物がこの目標に到達するのにかかった時間という点に関して(図7b)測定された、マウスにおけるカタレプシーに対する、化学的コンジュゲートAN168、等用量のペルフェナジン、および等用量のペルフェナジンとGABAとの混合物の効果を示す棒グラフを示している。
【図8】図8aおよび8bは「ピアノ」テストによって測定された場合の、ラットにおけるカタレプシーに対する、経口投与されたペルフェナジンおよびその化学的コンジュゲートAN168の効果を示す比較プロットを示している(図8bは、図8aに示されている実験の3ヶ月後に実施された実験において得られたデータを示している)。
【図9】図9aおよび9bは「ピアノ」テストによって測定された場合の、様々な濃度で経口投与されたペルフェナジンおよびその化学的コンジュゲートAN168によってラットに誘発された総カタレプシーを示す棒グラフを示している(図9bは、図9aに示されている実験の3ヶ月後に実施された実験で得られたデータを示している)。
【図10】図10aおよび10bは24時間「ピアノ」テストによって測定された場合の、ラットにおけるカタレプシーの時間的経過(図10a)および総カタレプシー(図10b)に対する、経口投与されたペルフェナジンおよびその化学的コンジュゲートAN168の様々な濃度の効果を示す比較プロットおよび棒グラフである。
【図11】図11は「壁」テストによって測定された場合の、ラットにおける総カタレプシーに対する、様々な濃度で経口投与されたペルフェナジンおよびAN168の効果を示す棒グラフである。
【図12】図12はラットにおけるプロラクチン血液レベルに対する、経口投与されたペルフェナジンおよびAN168の効果を示す比較プロットを示している。
【図13】図13はB16ネズミ黒色腫細胞の増殖に対する、ペルフェナジンおよび本発明のその化学的コンジュゲートAN130、AN167、およびAN168の効果を示す比較プロットを示している。
【図14】図14はC6ラット神経膠腫の生存可能性に対する、ペルフェナジン、AN168、GABA、ビンシスチン、およびシスプラチンの漸増濃度の効果を示す比較プロットを示している。
【図15】図15はJurkat Tリンパ腫細胞の生存可能性に対する、ペルフェナジン、AN168、およびデキサメタゾンの漸増濃度の効果を示す比較プロットを示している。
【図16】図16は30μMビンシスチンで処理されたC6ラット神経膠腫細胞の生存可能性に対する、ペルフェナジンおよびAN168の様々な濃度の効果を示す棒グラフである。
【図17】図17はC6ラット神経膠腫細胞の生存可能性に対する、シスプラチン(5〜50μM)およびシスプラチン(5〜50μM)とAN168(10および15μM)との組合わせの効果を示す棒グラフである。
【図18】図18はC6ラット神経膠腫細胞におけるDNAフラグメント化に対する、ペルフェナジン、AN168、およびシスプラチンの効果を示す棒グラフである。
【図19】図19は正常な脳細胞に対する、ペルフェナジンおよびその化学的コンジュゲートAN130、A167、およびAN168の効果を示す棒グラフである。
【図20】図20はラットの筋細胞の生存可能性に対する、等モル用量のペルフェナジンおよびAN168の効果を示す棒グラフである。
【図21】図21はペルフェナジン(per)および本発明の化合物AN167が腹腔内注射されたラットにおける、死亡率の時間的経過を示す比較プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、有機酸に共有結合された抗精神病薬の化学的コンジュゲート、これらの調製方法、および精神障害および疾患、例えば非限定的に統合失調症、ならびに増殖性障害および疾患、例えば非限定的に脳腫瘍、脳転移、末梢腫瘍、MDRガン、およびその他の増殖性疾患の治療におけるこれらの使用、および化学感作剤としてのこれらの使用に関する。
【0051】
本発明による化学的コンジュゲートの原理および操作は、図面およびそれに伴なう説明を参照してよりよく理解することができる。
【0052】
本発明の少なくとも1つの実施態様を詳細に説明する前に、本発明は、その使用において、以下の説明に示されているか、または実施例によって例証されている構成の詳細、およびこれらの要素の配列に限定されるわけではないと理解すべきである。本発明は、ほかの実施態様も可能であるか、または様々な方法で実施または実行されうる。同様に、本明細書において用いられている表現および用語法は、説明を目的としており、限定的なものとみなされるべきではないと理解すべきである。
【0053】
本発明を着想している間、抗精神病薬(これはまた、抗増殖性および/または化学感作活性を有することもある)とGABAアゴニストまたは抗増殖剤とを共有結合的に組合わせている化学的コンジュゲートは、最小限にされた有害な副作用しか伴なわない、高い抗精神病および/または抗増殖性治療活性、ならびに化学感作活性を及ぼしうるであろうという仮説が立てられた。
【0054】
この仮説の基礎は、次のとおりである。すなわち、精神障害および疾患、例えば統合失調症は、いくつかの型の抗精神病薬によって治療可能であり、これらの抗精神病薬は、典型的抗精神病剤、例えば神経弛緩剤、および異型性抗精神病剤に分けることができる。しかしながらこれらの抗精神病薬の投与は一般的に、短期および長期の有害な副作用、例えば錐体外路症状(主として典型的抗精神病剤によって誘発される)および顆粒球減少症(主として異型性抗精神病薬によって誘発される)を伴なう。これらの有害な副作用、特に錐体外路症状の発現は、ドーパミン作用性D1およびD2受容体において誘発された不均衡、および脳におけるGABA系の活性の減少によるとされる。
【0055】
したがって、抗精神病薬とGABAアゴニストとの共有結合的組合わせの結果、最小限にされた副作用しかともなわずに抗精神病活性を及ぼす化学的コンジュゲートを生じるであろうという仮説が立てられた。
【0056】
特に、抗精神病剤とGABAアゴニストとのこのような組合わせは、結果として抗精神病活性とGABAによって増加された活性とを同時に及ぼす化合物を生じるであろうから、この点に関して非常に有益であろうと思われた。
【0057】
GABAアゴニストまたはGABA様化合物の投与によって現在達成されているGABA系活性の増加は、抗精神病剤によって誘発された副作用を減少させ、さらにGABA系に関連したほかの治療効果(例えば気分の安定および緩和)も与えることが知られている。GABAアゴニストはさらに、抗精神病薬によって誘発されたドーパミン作用性受容体の増加した感受性に拮抗することも知られている。しかしながらあるいくつかのGABAアゴニストの投与は、これらの親水性によって制限される。
【0058】
したがってさらに、抗精神病薬とGABAアゴニストとを共有結合的に組合わせることによって得られる化学的コンジュゲートは、(i)抗精神病薬部分およびGABAアゴニスト部分の両方によって誘発された相乗的抗精神病活性およびGABAによって増加した活性;(ii)減少した、抗精神病剤によって誘発される副作用;(iii)親化合物と比較して、この組合わされた抗精神病薬とGABAアゴニストとの血液脳関門の横断に関して改良された薬物動力学;および(iv)脳におけるドーパミン作用性受容体へのより高い親和性を特徴とするであろうし、このことは、改良された抗精神病活性を結果として生じるであろうという仮説も立てられた。
【0059】
さらには、いくつかの抗精神病薬、特に神経弛緩薬、例えばフェノチアジンが強力な抗増殖剤であり、さらに化学療法薬と組合わせて用いられる時に化学感作剤としても役立ちうることは、当業界において知られている。したがってさらに、抗精神病薬と抗増殖活性を有する化学的部分とを共有結合的に組合わせる化学的コンジュゲートは、さらに一層高い抗増殖活性および/または化学感作活性を及ぼすであろうという仮説も立てられた。このような化学的コンジュゲートは、増殖性障害および疾患の治療において、特に脳において、脳受容体への抗精神病誘導体の親和性およびその改良された脳薬物動力学によって非常に有益になりうるであろう。
【0060】
次の実施例のセクションでさらに詳しく例示されるように、本発明を実施する間に、抗精神病薬と、この抗精神病薬によって誘発された副作用を減少させるように選択された化学的部分、例えばGABAアゴニスト、または抗増殖活性を及ぼすように選択された化学的部分との共有結合的組合わせは、結果として次のような化学的コンジュゲートを生じることが発見された。すなわち、既知の抗精神病薬と比較して、(i)最小限にされた有害な副作用;(ii)高い抗精神病活性;(iii)高い抗増殖活性;(vi)高い化学感作活性;および(vi)減少した毒性を相乗的に特徴とする化学的コンジュゲートである。GABAアゴニストを含んでいる化学的コンジュゲートはさらに、相乗的抗精神病活性およびGABAによって増加した活性も特徴としていた。
【0061】
したがってこれらの化学的コンジュゲートは、本発明にしたがって、精神障害および疾患、ならびに増殖性障害および疾患を治療するため、抗増殖剤および/または化学感作剤として用いられる。本発明にしたがって精神性および/または増殖性の障害および疾患を治療するために用いられる化学的コンジュゲートの各々は、第二化学部分に共有結合されている第一化学部分を含んでいる。第一化学部分は、抗精神病薬残基であり、一方、第二化学部分は、抗精神病薬がそれ自体で投与された時に抗精神病薬によって誘発された副作用を減少させるように、および/または抗増殖活性を及ぼすように選択された有機酸である。
【0062】
本明細書において用いられている「化学部分(chemical moiety)」という用語は、その官能性を保持している化合物から誘導された残基のことを言う。
【0063】
「残基(residue)」という用語は、本明細書において、当業界で十分に許容されているように、別の分子に共有結合されている分子の主要部分のことを言う。
【0064】
したがって「抗精神病薬残基」という語句は、この用語が上で規定されているような、別の化学部分に共有結合されている抗精神病薬の主要部分のことを言う。
【0065】
本発明による抗精神病薬残基は、典型的抗精神病薬または異型性抗精神薬から誘導され、これには例えば次のものが含まれる。例えば、クロルプロマジン残基、ペルフェナジン残基、フルフェナジン残基、ズクロペンチキソール残基、チオプロパゼート残基、ハロペリドール残基、ベンペリドール残基、ブロムペリドール残基、ドロペリドール残基、スピペロン残基、ピモジド残基、ピペラセタジン残基、アミルスルプリド残基、スルピリド残基、クロチアピン残基、ジプラシドン残基、レモキシプリド残基、スルトプリド残基、アリザプリド残基、ネモナプリド残基、クロザピン残基、オランザピン残基、ジプラシドン残基、セルチンドール残基、ケチアピン残基、フルオキセチン残基、フルボキサミン残基、デシプラミン残基、パロキセチン残基、セルトラリン残基、バルプロ酸残基、およびフェニトイン残基である。
【0066】
本発明の好ましい実施態様によれば、この抗精神病薬残基はさらに、抗増殖活性を及ぼす。このような二重活性抗精神病薬は、例えばフェノチアジンおよびこれらの誘導体を含んでいる。
【0067】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、この抗精神病薬残基はさらに、化学感作活性も及ぼす。このような二重活性抗精神病剤は例えば、フェノチアジンおよびこれらの誘導体、チオキサンテンおよびこれらの誘導体、クロザピン、クロミプラミン、およびパロキセチンを含んでいる。
【0068】
本発明に用いられている「化学感作(chemosensitization)」という用語は、この化学感作剤の不存在下に化学療法剤によって及ぼされた細胞毒性のレベルと比較した場合、化学感作剤の存在下に、ガン細胞特に多剤耐性ガン細胞に対する化学療法剤の測定された細胞毒性の増加または向上を意味する。
【0069】
本明細書において互換的に用いられている「化学感作薬(chemosensitizing agent」および「化学感作剤(chemosensitizer)」という用語は、ガン細胞を化学療法に対してより感受性が高いものにする化合物について記載する。
【0070】
上記のように、本発明による抗精神病薬残基は、有機酸残基である第二化学部分に共有結合的に組合わされている。
【0071】
「有機酸残基」という語句は、遊離カルボン酸基を含む有機酸から誘導された、本明細書において規定されている残基のことを言う。
【0072】
「遊離カルボン酸基」という用語は、そのプロトン化またはそのイオン化または塩状態のどちらかにある、「−C(=O)OH」基を包含する。
【0073】
本発明による有機酸残基は、単独で投与されるならばこの抗精神病薬によって誘発されるであろう副作用を減少させるか、または抗増殖活性を及ぼすように選択される。本発明による有機酸残基は、例えば一般式−R−C(=O)−(式中、Rは例えば1〜20個の炭素原子を有する炭化水素残基であってもよい)を有する残基であってもよい。
【0074】
本明細書において用いられている「炭化水素」という用語は、その基本的骨格として、共有結合された炭素原子および水素原子の鎖を含む有機化合物のことを言う。
【0075】
したがって本発明による炭化水素残基は、アルキルまたはシクロアルキルであってもよい。
【0076】
本明細書において用いられている「アルキル」という用語は、直鎖および分岐鎖基を含む飽和脂肪族炭化水素のことを言う。好ましくはこのアルキル基は、1〜20個の炭素原子を有する。
【0077】
数字の範囲、例えば「1〜20」が本明細書に記載されている場合は常に、この基、すなわちこの場合はアルキル基が、1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子等、20個までの炭素原子を含んでいてもよいという意味である。より好ましくは、このアルキルは、1〜10個の炭素原子を有する中程度のサイズのアルキルである。最も好ましくはこのアルキルは、3〜5個の炭素原子を有する。
【0078】
本明細書において用いられている、「シクロアルキル」という用語は、すべて炭素の単環式または縮合環(すなわち炭素原子の隣接対を共有する環)基を包含し、この場合、これらの環の1つまたはそれ以上は、完全に共役されたパイ電子(pi−electron)系を有していない。シクロアルキル基の非限定的な例には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタン、シクロヘプタトリエン、およびアダマンタンが含まれる。
【0079】
本発明による炭化水素残基は、線状または枝分かれであってもよい。この炭化水素残基はさらに、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。不飽和である時、この炭化水素残基は、その炭素鎖中に二重結合または三重結合を含んでいてもよい。不飽和炭化水素残基はさらに、アリール基を含んでいてもよい。
【0080】
本明細書において用いられている、「アリール」基は、完全に共役されたパイ電子系を有するすべて炭素の単環式または縮合環多環式(すなわち炭素原子の隣接対を共有する環)基のことを言う。アリール基の非限定的な例には、フェニル、ナフタレニル、およびアントラセニルが含まれる。
【0081】
この炭化水素残基はさらに、置換または非置換であってもよい。置換の場合、この置換基は例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、シアノ、ハロ、オキソ、アミド、およびアミノであってもよい。
【0082】
「ヘテロアリール」基は、環中に1つまたはそれ以上の原子、例えば窒素、酸素、および硫黄を有し、それに加えて、完全に共役されたパイ電子系を有する単環式または縮合環(すなわち原子の隣接対を共有する環)基のことを言う。ヘテロアリール基の非限定的な例には、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、およびプリンが含まれる。ヘテロアリール基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。置換されている時、この置換基は、例えばアルキル、シクロアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、シアノ、ハロ、オキソ、アミド、およびアミノであってもよい。
【0083】
「ヘテロ脂環式」基とは、環中に1つまたはそれ以上の原子、例えば窒素、酸素、および硫黄を有する単環式または縮合環基のことを言う。これらの環はまた、1つまたはそれ以上の二重結合を有していてもよい。しかしながらこれらの環は、完全に共役されたパイ電子系を有していない。このヘテロ脂環式基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。置換されている時、この置換された基は例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ハロ、トリハロメチル、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、シアノ、オキソ、アミド、およびアミノであってもよい。
【0084】
「ヒドロキシ」基とは、−OH基のことを言う。
【0085】
「アルコキシ」基とは、本明細書に規定されている、−O−アルキルおよび−O−シクロアルキル基の両方のことを言う。
【0086】
「アリールオキシ」基とは、本明細書に規定されている、−O−アリールおよび−O−ヘテロアリール基のことを言う。
【0087】
「オキソ」基とは、−C(=O)−R’基(ここでR’は例えば、アルキル、シクロアルキル、またはアリールであってもよい)のことを言う。
【0088】
「ハロ」基とは、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素のことを言う。
【0089】
「トリハロメチル」基とは、−CX−基(式中Xは、本明細書において規定されているハロ基である)のことを言う。
【0090】
「アミノ」基とは、−NH基のことを言う。
【0091】
「アミド」基とは、−C(=O)−NR基(式中、RおよびRは、例えば水素、アルキル、シクロアルキル、およびアリールであってもよい)のことを言う。
【0092】
本発明による炭化水素残基はさらに、その鎖中に散在されている1つまたはそれ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。これらのヘテロ原子は例えば、酸素、窒素、および/または硫黄であってもよい。
【0093】
この炭化水素残基はさらに、一般式−Z−C(=O)O−CHR−R(式中、Zは、単結合または例えば上記のような置換または非置換炭化水素残基であってもよく、Rは例えば、水素、または1〜10個の炭素原子を有するアルキル残基であってもよく、Rは例えば、水素または上で規定された炭化水素残基であってもよい)を有する残基であってもよい。
【0094】
したがって本発明による有機酸残基が誘導されうる有機酸の代表例には、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テトラフタル酸、酪酸、4−フェニル酪酸、4−アミノ酪酸(GABA)、吉草酸、プロピオン酸、レチノイン酸、アセチルサリチル酸、およびイブプロフェンが含まれる。
【0095】
本発明の現在最も好ましい実施態様によれば、化学的コンジュゲートの第二化学部分は、GABAアゴニスト残基である。
【0096】
本明細書において用いられる「GABAアゴニスト残基」という語句は、GABAアゴニストの、上で規定されているような残基のことを言い、一方、「GABAアゴニスト」は、脳においてGABA系を活性化することができ、したがって薬理学的にGABAに関連している化合物について記載する。したがって「GABAアゴニスト」という用語は、GABAそれ自体を含むと理解されるが、したがって一方で、「GABAアゴニスト残基」という用語は、GABAそれ自体の残基を包含すると理解される。
【0097】
したがってGABAアゴニスト残基には、本発明によれば、GABA(γ−アミノ酪酸)残基それ自体に加えて、抗精神病薬と共有結合的に組合わせることができるほかのGABAアゴニストの残基も含まれる。
【0098】
このようなGABAアゴニスト残基の例には、(±)バクロフェン残基、イソニペコチン酸残基、γ−ヒドロキシ酪酸残基、アミノオキシ酢酸残基、β−(4−クロロフェニル)−γ−アミノ酪酸残基、ピペリジン−4−スルホン酸残基、3−アミノプロピル亜ホスホン酸残基、3−アミノプロピルホスフィン酸残基、3−(アミノプロピル)メチルホスフィン酸残基、および3−(2−イミダゾリル)−4−アミノブタン酸残基が含まれる。
【0099】
本発明のもう1つの現在好ましい実施態様によれば、本発明の化学的コンジュゲートにおける第二化学部分は、抗増殖剤残基である。
【0100】
本明細書において用いられている「抗増殖剤残基」という用語は、本明細書において規定されているような、抗増殖活性を特徴とする化合物の残基のことを言う。
【0101】
本発明の好ましい実施態様によれば、この抗増殖剤は、酪酸または4−フェニル酪酸である。これらの化合物は、抗ガン活性を及ぼすことが知られており、さらにはGABAがその誘導体であり、したがってさらにGABA模擬剤として作用しうる化合物として特徴付けられる。
【0102】
したがって本発明の化学的コンジュゲートの第二化学部分は、有機酸残基を含んでいる。これは好ましくは、上で規定され、例示されているような、GABAアゴニスト残基または抗増殖剤残基である。
【0103】
本発明の化学的コンジュゲートにおける第二化学部分は、好ましくはエステル結合を介して第一化学部分に共有結合されている。このエステル結合は、カルボン酸エステル結合、アミド結合、またはチオエステル結合であってもよい。
【0104】
本明細書において用いられている「カルボン酸エステル結合」という語句は、「−O−C(=O)−」結合を包含する。
【0105】
「アミド結合」という語句は、「−NH−C(=O)−」結合を包含する。
【0106】
「チオエステル結合」という語句は、「−SH−C(=O)−」結合を包含する。
【0107】
このようなエステル結合は、脳由来酵素、例えばエステラーゼおよびアミダーゼによって加水分解可能であることが知られており、したがって本発明の化学的コンジュゲートが、脳中で代謝され、これによって同時に抗精神病薬および有機酸を放出するプロドラッグとして作用し、したがって抗精神病薬および有機酸に対して有利な共薬物動態学を与えると考えられ、さらには本明細書に記載されている実験結果によって(例えば図5a〜b参照)証明される。
【0108】
この方法は、非常に有利であるが、その理由は、これが、(i)この薬剤によって誘発された副作用の減少および両方の化学部分の二重活性を結果として相乗的に生じる、抗精神病薬と有機酸との同時作用;(ii)相乗的により高い抗精神病活性および脳増殖性障害への相乗的により高い抗増殖活性を結果として生じる、ドーパミン作用性受容体へのこのプロドラッグのより高い親和性;および(iii)両方の化学部分の改良された脳浸透性を与えるからである。
【0109】
別の側面において、本発明はさらに、上に記載されている化学的コンジュゲートの合成方法も提供する。この方法は一般に、有機酸と抗精神病薬とを反応させて、抗精神病薬の残基に共有結合された有機酸の残基を得るために実施される。
【0110】
本明細書において、「有機酸の残基」および「抗精神病薬の残基」という用語は、上で規定されているような、それぞれ「有機酸残基」および「抗精神病薬残基」という用語と同等である。有機酸と抗精神病薬とを反応させ、これによってこれらの間に共有結合を形成することによって、有機酸と抗精神病薬の残基を含む最終生成物が生成されることは、当業者に明らかであろう。
【0111】
したがって本発明のこの側面の方法において反応される有機酸は、上記の有機酸残基に対応するあらゆる化合物を包含し、したがって上記有機酸残基が誘導される有機酸のすべてを包含しうる。
【0112】
例えば本発明のこの側面の状況において使用可能な有機酸は、上記の好ましいGABAアゴニスト残基に対応するGABAアゴニストを包含する。同様にこれらの有機酸は、上記の抗増殖剤残基に対応する抗増殖剤、例えば酪酸および4−フェニル酪酸を包含することができる。
【0113】
同様に、本発明のこの側面による方法において反応させられる抗精神病薬は、上記の抗精神薬残基のあらゆるものに対応する。
【0114】
上記の本発明の化学的コンジュゲートを合成する方法はさらに、用いられる有機酸のタイプおよび/または有機酸残基と抗精神病薬残基との間の共有結合のタイプにしたがって操作することもできる。
【0115】
上で詳細に考察されているように、本発明による好ましい有機酸には、例えば抗増殖剤、例えば酪酸およびこれの誘導体、一般式R−C(=O)−OH(有機酸残基R−(C=O)−Oに対応する)を有する有機酸、およびその他のものが含まれる。これらの好ましい有機酸の大部分は、遊離アミノ基を含まず、したがってそれ以上の操作を行なわずに本発明の合成に用いることができる。
【0116】
さらに上で詳細に考察されているように、本発明の化学的コンジュゲートにおいて、有機酸残基および抗精神病薬残基は、上で規定されているような、カルボン酸エステル結合、チオエステル結合、またはアミド結合のいずれかであってもよいエステル結合によって共有結合されている。
【0117】
これらの残基がカルボン酸エステル結合によって共有結合されている場合、本発明の化学的コンジュゲートの合成方法は、有機酸を活性化するために、好ましくはまず有機酸をその対応塩化アシル誘導体に転換することによって実施される。この塩化アシル誘導体はその後、カルボン酸エステル結合を介して抗精神病薬残基と共有結合されている有機酸残基を有する所望の化学的コンジュゲートを得るように、よく知られている求核付加反応において、一般的に遊離ヒドロキシル基を含んでいる抗精神病薬と反応させる。この反応は好ましくは、抗精神病薬を活性化するため、および/またはそれらの塩酸塩として存在する化合物を中和するために、塩基性条件下に実施される。しかしながらこの有機酸および/または抗精神病薬は、あらゆるその他の既知の方法によって活性化させることができる。
【0118】
残基がチオエステル結合を介して共有結合されている場合、本発明の化学的コンジュゲートの合成方法は好ましくは、抗精神病薬をその対応チオール誘導体に転換し、有機酸をその対応塩化アシル誘導体に、またはその他のそのあらゆる活性化誘導体に転換することによって実施される。その後このチオール誘導体を、チオエステル結合を介して抗精神病薬残基に共有結合された有機酸残基を有する所望の化学的コンジュゲートを得るために、よく知られている手順によって活性化有機酸と反応させる。現在知られている抗精神病薬のいくつかは、遊離チオール基を含んでおり、したがってこのような薬剤は、有機酸の塩化アシル誘導体と直接反応させることができることに注目すべきである。遊離チオール基を含んでいない抗精神病薬は、そのチオール誘導体を得るために、当業界でよく知られている方法によって容易に反応させることができる。
【0119】
これらの残基がアミド結合を介して共有結合されている場合、本発明の化学的コンジュゲートの合成方法は好ましくは、有機酸を活性化するためにまず有機酸をその対応塩化アシル誘導体に転換し、さらに抗精神病薬をそのアミン誘導体に転換することによって実施される。その後この塩化アシル誘導体を、アミド結合を介して抗精神病薬残基に共有結合された有機酸残基を有する所望の化学的コンジュゲートを得るために、よく知られている求核付加反応において、またはアミド結合を生成するための既知の手順のあらゆるほかの手順によって、抗精神病薬のアミノ基と反応させる。現在知られている抗精神病薬のいくつかは、遊離アミン基を含んでおり、したがってこのような薬剤は、有機酸の塩化アシル誘導体と直接反応させることができることに注目すべきである。遊離アミン基を含まない抗精神病薬は、そのアミン誘導体を得るために、当業界においてよく知られている方法によって容易に反応させることができる。
【0120】
上記の方法は、有機酸が遊離アミノ基を有していない時に一般的に効果的である。しかしながら、例えばGABAアゴニストの場合のように、有機酸が遊離アミノ基を含んでいる場合、このアミノ基は、抗精神病薬との記載されている反応の間に保護されるべきである。アミノ基の保護が必要であるが、その理由はこれが比較的化学的に活性な基であり、したがってこれは反応に参加することがあり、このことは望ましくないからである。
【0121】
したがって遊離アミノ基を有するGABAアゴニスト残基を含む化学的コンジュゲートの好ましい合成方法は、好ましくはまず遊離アミノ基を保護することによって実施される。アミノ基の保護は、有機酸と、既知の保護基、例えば非限定的に第三ブトキシカルボニル(Boc)およびベンジルオキシカルボニル(Cbz)とを反応させることによって実施することができる。ついでこのアミノ保護された有機酸を抗精神病薬と反応させて、抗精神病薬残基と共有結合されたアミノ保護された有機酸残基を得るようにする。ついでこの保護基が除去される。さらに好ましくは、このアミノ保護された有機酸は、抗精神病薬との反応に先立って有機酸を活性化するために、そのアシルイミダゾール誘導体に転換される。
【0122】
さらに本発明によれば、活性成分として本発明の化学的コンジュゲートを含んでいる製薬組成物が提供される。
【0123】
本明細書において用いられている「製薬組成物」とは、ほかの化学成分、例えば製薬的に適切なキャリヤーおよび賦形剤を用いた、本明細書に記載されている化学的コンジュゲートの1つまたはそれ以上の調製物のことを言う。製薬組成物の目的は、被験者への化合物の投与を容易にすることである。
【0124】
以後、「製薬的に許容しうるキャリヤー」という用語は、被験者に有意な刺激を引起こさず、投与された化合物の生物活性および特性をなくさせないキャリヤーまたは希釈剤のことを言う。キャリヤーの非限定的な例は、プロピレングリコール、塩水、有機溶媒と水とのエマルジョンおよび混合物である。
【0125】
本明細書において「賦形剤」という用語は、化合物の投与をさらに容易にするために製薬組成物に添加される不活性物質のことを言う。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0126】
本発明の好ましい実施態様によれば、製薬キャリヤーは、乳酸の水溶液である。
【0127】
この点に関して、本発明の化学的コンジュゲートのいくつかは、好ましい実施態様によれば、水性媒質中に容易に可溶であり、したがって容易に配合されることを指摘すべきである。このような便利な配合物は、一般的には長鎖脂肪酸を含み、したがって水性媒質中に不溶であり、油性配合物として投与される抗精神病薬の既知のエステルコンジュゲートよりも優れた、本発明の化学的コンジュゲートの追加の利点を与える。
【0128】
薬剤の配合および投与の技術は、「レミントンの製薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」、マック・パブリッシング社、ペンシルベニア州イーストン(Mack Publishing Co.,Easton,PA)、最新版に見ることができる。これは参照として本明細書に組込まれる。
【0129】
適切な投与経路には例えば、経口、直腸、経粘膜、経皮、腸または腸管外送達が含まれ、これには筋肉内、皮下、および脊髄内注射、ならびに鞘内、直接心室内、静脈内、腹膜内、鼻腔内、または眼内注射が含まれる。本発明の製薬組成物は、当業界においてよく知られている方法によって、例えば従来の混合、溶解、粒状化、糖衣錠製造、すり潰し、乳化、カプセル化、エントラッピング(entrapping)、または凍結乾燥方法によって製造することができる。
【0130】
したがって本発明による使用のための製薬組成物は、製薬的に用いうる調製物へのこれらの活性化合物の加工処理を容易にする賦形剤および助剤を含む、1つまたはそれ以上の製薬的に許容しうるキャリヤーを用いて、従来の方法で配合することができる。適切な配合は、選択された投与経路による。
【0131】
注射のためには、本発明の化学的コンジュゲートは、好ましくは生理学的に適合性のある緩衝液、例えばハンクス液、リンゲル液、または生理的緩衝塩液中の水溶液として、有機溶媒、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールを用いて、または用いずに配合されてもよい。経粘膜投与のためには、浸透剤がこの配合物に用いられる。このような浸透剤は一般に、当業界で知られている。
【0132】
経口投与のためには、これらの化学的コンジュゲートは、これらの活性化合物と、当業界においてよく知られている製薬的に許容しうるキャリヤーとを組合わせて、容易に配合することができる。このようなキャリヤーによって、本発明のコンジュゲートは、患者による経口摂取のために、タブレット、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として配合することができる。経口使用のための薬理学的調製物は、固体賦形剤を用い、任意には結果として生じる配合物を粉砕し、かつ所望であれば適切な助剤を添加した後、グラニュール混合物を加工処理して、タブレットまたは糖衣錠のコアを得ることによって製造することができる。適切な賦形剤は特に、充填剤、例えばラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを包含する糖;セルロース調製物、例えばトウモロコシデンブン、小麦デンプン、米デンブン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、ナトリウムカルボメチルセルロース、および/または生理学的に許容しうるポリマー、例えばポリビニルピロリドン(PVP)である。所望であれば、崩壊剤、例えば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸、またはそれらの塩、例えばナトリウムアルギネートが添加されてもよい。
【0133】
糖衣錠コアは、適切なコーティングを備えている。この目的のために、濃縮糖溶液が用いられてもよい。これらは任意に、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポルゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒、または溶媒混合物を含んでいてもよい。識別のため、または活性化合物用量の異なる組合わせを特徴付けるために、染料または顔料が、タブレットまたは糖衣錠コーティングに添加されてもよい。
【0134】
経口的に用いることができる製薬組成物には、ゼラチンからできている押し込みばめ(push−fit)カプセル、ならびにゼラチンと可塑剤、例えばグリセロールまたはソルビトールからできている密封ソフトカプセルが含まれる。これらの押し込みばめカプセルは、充填剤例えばラクトース、バインダー例えばデンプン、潤滑剤例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウム、および任意に安定剤と混合して活性成分を含んでいてもよい。ソフトカプセルにおいて、活性化合物は、適切な液体、例えば脂肪油、液体パラフィン、または液体ポリエチレングリコール中に溶解または懸濁されていてもよい。さらには安定剤が添加されてもよい。経口投与用のすべての配合物は、選択された投与経路にとって適切な投薬量にあるべきである。
【0135】
口腔内投与のためには、これらの組成物は、従来の方法で配合されたタブレットまたはトローチ剤の形態を取ってもよい。
【0136】
吸入による投与のためには、本発明による使用のための化学的コンジュゲートは、適切な推進剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ−テトラフルオロエタン、または二酸化炭素の使用を伴なって、加圧パックまたはネブライザーからのエーロゾルスプレーという体裁の形態で送達されるのが便利である。加圧エーロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定することができる。例えば吸入器または吹き入れ器における使用のためのゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物と適切な粉末ベース、例えばラクトースまたはデンプンの粉末ミックスを入れて配合されてもよい。
【0137】
本明細書に記載されている化学的コンジュゲートは、腸管外投与のために、例えば静脈内ボーラス(bolus injection)、または連続注入による投与のために配合することができる。注射用の配合物は、単位投薬形態、例えばアンプルで、または任意に添加保存料を含む多用量容器で提供されてもよい。これらの組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、またはエマルジョンであってもよく、配合剤、例えば懸濁剤、安定剤、および/または分散剤を含んでいてもよい。
【0138】
腸管外投与のための製薬組成物は、水溶性形態における活性化合物の水性溶液を含んでいる。さらにはこれらの活性化合物の懸濁液は、適切な油性注射懸濁液として調製されてもよい。適切な親油性溶媒またはビヒクルには、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばエチルオレエート、トリグリセリド、またはリポソームが含まれる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増す物質、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストランを含んでいてもよい。任意に、この懸濁液はまた、高度に濃縮された溶液の調製を可能にするために、これらのコンジュゲートの溶解性を増す適切な安定剤または作用物質を含んでいてもよい。
【0139】
あるいはまたこの活性成分は、使用前に、適切なビヒクル、例えば発熱物質を含まない滅菌水での構成のために粉末形態にあってもよい。
【0140】
本発明の化学的コンジュゲートはまた、例えば従来の座薬ベース、例えばカカオバターまたはその他のグリセリドを用いた直腸組成物、例えば座薬または保持浣腸剤(retention enemas)中に配合されてもよい。
【0141】
本明細書に記載されている製薬組成物はまた、ゲル相キャリヤーまたは賦形剤の適切な固体も含んでいてもよい。このようなキャリヤーまたは賦形剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリマー、例えばポリエチレングリコールが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0142】
本発明の状況における使用に適した製薬組成物は、活性成分が意図された目的を実施するのに効果的な量で含まれている組成物を含んでいる。より特定すれば、治療的有効量とは、疾患の症状を予防、緩和、または改良するか、または治療される被験者の生存を延ばすのに効果的な化学的コンジュゲートの量を意味する。
【0143】
治療的有効量の決定は、特に本明細書に示されている詳細な開示から見て、十分に当業者の能力の範囲内にある。
【0144】
本発明の方法において用いられているあらゆる化学的コンジュゲートの場合、治療的有効量または用量は、当初は細胞培養物および/または動物における活性テストから評価することができる。例えば、用量は、活性アッセイによって決定されたIC50(例えば増殖活性の最大の半分の阻害を達成するテスト化合物の濃度である)を含む循環濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて配合することができる。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために用いることができる。
【0145】
本明細書に記載されている化学的コンジュゲートの毒性および治療的有効性は、実験動物における標準的製薬手順によって、例えば対象化合物についてIC50およびLD50(テスト動物の50%に死亡を引起こす致死用量)を決定することによって決定することができる。これらの活性アッセイおよび動物調査から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投薬量範囲の配合において用いることができる。
【0146】
この投薬量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に応じて様々であってもよい。正確な配合、投与経路、および投薬量は、患者の状態を見て個々の医師によって選択されてもよい。(例えばFinglら、1975年、「治療の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics)」、Ch.1、1ページ)。
【0147】
投薬量および間隔は、最小有効濃度(MEC)と呼ばれる、抗精神病効果および/または抗増殖効果を維持するのに十分な活性部分の血漿レベルを供給するために個別に調節されてもよい。このMECは、各調製物について様々であろうが、試験管内および/または生体内データから評価することができる。例えばあるいくつかの細胞の増殖の50〜90%阻害を達成するのに必要な濃度は、本明細書に記載されているアッセイを用いて確認することができる。MECを達成するのに必要な投薬量は、個人の特徴および投与経路に応じるであろう。HPLCアッセイまたは生物アッセイは、血漿濃度を決定するために用いることができる。
【0148】
投薬間隔もまた、MEC値を用いて決定することができる。調製物は、その時間の10〜90%、好ましくは30〜90%、最も好ましくは50〜90%の間MEC以上の血漿レベルを維持する投薬計画(regimen)を用いて投与されるべきである。
【0149】
治療される状態の重症度および応答性に応じて、投薬はまた、数日間〜数週間続く治療期間で、または治癒されるまで、または疾病状態の減少が達成されるまで、上記の遅く放出する組成物の単一投与であってもよい。
【0150】
投与される組成物の量は当然ながら、治療される被験者、苦痛の重大さ、投与方法、処方する医師の判断等に応じるであろう。
【0151】
本発明の組成物は、所望であれば、パックまたはディスペンサー装置、例えばFDA承認キットに入れて提供されてもよい。これは、活性成分を含む1つまたはそれ以上の単位投薬形態を含んでいてもよい。このパックは例えば、金属またはプラスチックホイル、例えばブリスターパックを含んでいてもよい。このパックまたはディスペンサー装置は、投与についての説明書を伴なっていてもよい。このパックまたはディスペンサーはまた、薬剤の製造、使用、または販売を規制する政府機関によって規定された形態の容器に付随した通知を伴なっていてもよい。この通知は、これらの組成物、ヒトまたは動物への投与形態の当局による承認を反映している。このような通知は例えば、処方薬に対して米国食品薬品局によって承認されたラベルを有するものであってもよく、または承認された製品挿入物を有するものであることもできる。適合性製薬キャリヤー中に配合された本発明の化学的コンジュゲートを含む組成物はまた、調製され、適切な容器に入れられ、指示された症状の治療についてのレベルが貼られていてもよい。ラベルに指示されている適切な症状には、例えば統合失調症、パラノイア、小児精神病、ハンチントン病、およびジル・ド・ラ・トゥーレット症候群、脳増殖性障害、およびMDRガン、および化学感作(この用語は上で規定されている)が含まれてもよい。
【0152】
したがって本発明の好ましい実施態様によれば、この製薬組成物は、包装材料に包装され、次の用途の1つまたはそれ以上について、包装材料上または包装材料中に印刷されて識別される。すなわち、精神障害または疾患の治療への使用、脳または末梢増殖性障害または疾患の治療への使用、ガン例えばMDRガンの治療への使用、および化学療法剤と組合わせての化学感作、および/または化学感作が有益な健康状態における化学感作における使用である。
【0153】
さらに本発明によって、被験者(例えばヒト)における精神障害または疾患の治療または予防方法が提供される。この方法は、治療される被験者へ、本発明の化学的コンジュゲートの1つまたはそれ以上の治療的有効量を投与することによって実施される。
【0154】
本明細書において用いられている「方法」という用語は、ある一定のタスクを達成するための様式、手段、技術、および手順のことを言い、これには、化学、薬理学、生物学、生化学、および医療技術の実施者によって知られているか、または既知の様式、手段、技術、および手順から開発された様式、手段、技術、および手順が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0155】
本明細書において、「治療(treating)」という用語には、病気の進行をなくすこと、実質的に阻害すること、遅らせるかまたは逆転させること、病気の臨床的症状を実質的に改良させること、または病気の臨床的症状の出現を実質的に防ぐことが含まれる。
【0156】
本明細書において用いられている「精神障害または疾患」という語句は、中枢神経系における損傷の結果としての精神病状態を特徴とする障害または疾患のことを言う。本発明の化学的コンジュゲートを用いて治療しうる精神障害および疾患の例には、非限定的に、統合失調症、パラノイア、小児精神病、ハンチントン病、およびジル・ド・ラ・トゥーレット症候群が含まれる。
【0157】
本明細書において用いられている「投与する」という用語は、本発明の化学的コンジュゲートを、精神障害または疾患によって冒された脳の領域または部位へもたらす方法のことを言う。
【0158】
本発明の化学的コンジュゲートは、腹腔内に投与することができる。より好ましくはこれは経口投与される。
【0159】
「被験者(subject)」という用語は、ヒトを含む、血液脳関門を有する動物、一般的には哺乳動物のことを言う。
【0160】
「治療的有効量」という用語は、治療される精神障害または疾患の症状の1つまたはそれ以上をある程度緩和する、投与される化学的コンジュゲートの量のことを言う。
【0161】
本発明の方法による治療的有効量は、好ましくは1mg/kg体重、50mg/kg体重、より好ましくは2mg/kg体重〜30mg/kg体重、より好ましくは2mg/kg体重〜20mg/kg体重、最も好ましくは2mg/kg体重〜10mg/kg体重である。
【0162】
このようにして本発明は、抗精神病活性を及ぼす化学的コンジュゲートを目的とする。本発明の化学的コンジュゲートは非常に有利であるが、その理由は、これらが向上した抗精神病活性を及ぼし、さらにはこれらによって誘発された最小限の副作用を特徴とするからである。
【0163】
本明細書において用いられている「副作用」という用語は、ある薬剤を被験者に投与する結果として現れることがある有害な症状のことを言う。このような症状には、例えば上に詳細に記載されているような錐体外路症状が含まれ、一般的には抗精神病薬の投与に付随している。
【0164】
さらに本発明によれば、被験者(例えばヒト)における増殖性障害または疾患の治療または予防方法が提供される。この方法は、本発明の化学的コンジュゲートの1つまたはそれ以上の治療的有効量を、治療される被験者に投与することによって実施される。
【0165】
本明細書において用いられている「増殖性障害または疾患」という用語は、細胞増殖を特徴とする障害または疾患のことを言う。本発明によって予防または治療されうる細胞増殖状態には、例えば悪性腫瘍、例えばガンおよび良性腫瘍が含まれる。
【0166】
本明細書において用いられている「ガン」という用語は、様々なタイプの悪性新生物のことを言い、これらの大部分は、周囲組織を侵害することがあり、ステッドマンの医学辞典(Stedman’s medical Dictionary)」25版(ヘンジル版(Hensyl ed., )1990)によって規定されているように、様々な部位に転移することがある。本発明の化学的コンジュゲートによって治療しうるガンの例には、脳および皮膚ガンが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらのガンは、さらに細かく分類することができる。例えば脳ガンには、多形性神経膠芽腫、未分化星状細胞腫、星状細胞腫、上衣細胞腫(ependyoma)、寡突起膠腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、肉腫、血管芽細胞腫、および松果体実質(pineal parenchymal)が含まれる。同様に皮膚ガンには、黒色腫およびカポジ肉腫が含まれる。本発明の化学的コンジュゲートを用いて治療しうるほかのガン性疾患には、乳頭腫、芽神経膠腫、卵巣ガン、前立腺ガン、扁平上皮ガン、星状細胞腫、頭部ガン、頚部ガン、膀胱ガン、乳ガン、肺ガン、結腸直腸ガン、甲状腺ガン、膵臓ガン、胃ガン、肝細胞ガン、白血病、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、およびバーキット(Burkitt’s)リンパ腫が含まれる。ほかの非ガン性増殖性障害も、本発明の化学的コンジュゲートを用いて治療しうる。このような非ガン性増殖性障害には例えば、狭窄症、再発狭窄症、インステント(in−stent)狭窄症、代用血管再発狭窄症(vascular graft restenosis)、関節炎、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症、脈管形成、肺線維症、肝硬変、アテローム性動脈硬化症、糸状体腎炎、糖尿病性ネフロパシー、血栓細小血管障害症候群、移植拒否反応が含まれる。
【0167】
次の実施例セクションに示されているように、本発明の化学的コンジュゲートは、MDRガン細胞を包含する非常に多様なガン細胞に対して、高い強力な抗増殖活性を及ぼす。
【0168】
さらに次の実施例セクションに示されているように、本発明の化学的コンジュゲートはさらに、様々な化学療法薬と組合わせて用いられた時、化学感作活性も及ぼす。
【0169】
したがってさらに本発明によれば、化学感作方法(この用語は上に規定されている)も提供される。この方法は、1つまたはそれ以上の化学療法薬の治療的有効量および本発明の化学的コンジュゲートの化学感作的有効量を被験者に投与することによって実施される。
【0170】
本明細書において用いられている「化学感作的有効量」という語句は、化学療法剤の治療量の存在下において測定可能な化学感作に対して十分な量を記載する。
【0171】
この方法は、被験者がMDRガン、例えば非限定的に白血病、リンパ腫、悪性腫瘍、または肉腫を有する場合に特に有用である。本発明によれば、化学療法剤は、例えば次のものの1つであってもよい。すなわち、アルキル化剤、例えばナイトロジェンマスタード、エチレンイミン、およびメチルメラミン、アルキルスルホネート、ニトロソウレア、およびトリアゼン;代謝拮抗物質、例えば葉酸類似体、ピリミジン類似体、およびプリン類似体;天然物質、例えばビンカ・アルカロイド、エピポドフィロトキシン、抗生物質、酵素、タキサン、および生物反応修飾物質;その他の種々の薬剤、例えば白金配位錯体(plutinum coordination complex)、アントラセンジオン、アントラシクリン、置換ウレア、メチルヒドラジン誘導体、または副腎皮質抑制剤;またはホルモンまたはアンタゴニスト、例えば副腎皮質ステロイド、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン、抗アンドロゲン、またはゴナドトロピン放出ホルモン類似体であってもよい。好ましくは化学療法剤は、ナイトロジェンマスタード、エピポドフィロトキシン、抗生物質、または白金配位錯体である。より好ましい化学療法剤は、シスプラチンまたはビンシスチンである。
【0172】
したがって本発明は、対応するコンジュゲートされていない抗精神病薬よりも高い抗精神病活性、実質的により低い副作用、およびより低い毒性を及ぼす、抗精神病薬の新規化学的コンジュゲートを教示している。これらの新規コンジュゲートはさらに、抗増殖活性および化学感作活性を及ぼし、したがって減少した副作用、低い毒性、および脳細胞への高い親和性を特徴とするプロドラッグ、または化学療法薬と組合わせて用いられる化学感作剤のどちらかとして、増殖性障害の治療において有利に用いることができる。
【0173】
本発明のその他の目的、利点、および新規特徴は、次の実施例を調べれば、当業者には明らかになるであろう。これらの実施例は、限定的であることを意図するものではない。さらには、上に記載され、かつ特許請求の範囲のセクションで特許請求されているような本発明の様々な実施態様および側面の各々は、次の実施例において実験による裏付けを見出す。
【実施例】
【0174】
ここで次の実施例を参照する。これらは、上記の説明とともに、非限定的に本発明を例証する。
【0175】
化学合成および分析
例示的な本発明の化学的コンジュゲートは、神経弛緩剤のペルフェナジンおよびフルフェナジンと、短鎖脂肪酸のプロピオン酸、酪酸、および吉草酸と、および4−フェニル酪酸およびγ−アミノ酪酸(GABA)とを反応させて合成した。これらの化合物は高収率で調製され、水性1%乳酸中に可溶な結晶性固体として単離された。
【0176】
ペルフェナジンまたはフルフェナジンと有機酸とから調製された化学的コンジュゲートの合成−一般的手順:5〜10mlのジメチルホルムアミド(DMF)中の神経弛緩剤のペルフェナジンまたはフルフェナジン(1当量)、短鎖脂肪酸の塩化アシル誘導体(1.1当量)、および任意にEtN(2当量)(それらのHCl塩として見られる出発原料を遊離させるために用いられる)の混合物を、室温で窒素雰囲気下、24時間攪拌した。ついでこの混合物を、酢酸エチルと水とに分けた(partitioned)。その後有機相を、5%NaHCOおよびブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、蒸発させると、所望の生成物が生じた。
【0177】
ペルフェナジン4−フェニルブチレート(AN130)の合成:ペルフェナジンと4−フェニルブチリル塩化物(4−フェニル酪酸のアシル塩化物)とを、上記のように反応させた。得られた粗残渣を、溶離剤として1:10メタノール:酢酸エチルの混合物を用いてシリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。この生成物は、黄色い油として得られた(78%収率)。
【化1】

【0178】
ペルフェナジンブチレート(AN167)の合成:ペルフェナジンと塩化ブチリル(酪酸のアシル塩化物)とを上記のように反応させた。生成物は黄色い油として得られ(74%収率)、それ以上の精製を行なわずに用いた。
【化2】


【0179】
ペルフェナジンプロピオネート(AN177)の合成:ペルフェナジンと塩化プロピオニル(プロピオン酸のアシル塩化物)とを上記のように反応させた。生成物は黄色い油として得られ(85%収率)、それ以上の精製を行なわずに用いた。
【化3】

【0180】
ペルフェナジンバレレート(AN178)の合成:ペルフェナジンと塩化バレリル(吉草酸のアシル塩化物)とを上記のように反応させた。得られた粗残渣は、溶離剤として7:4酢酸エチル:ヘキサンの混合物を用いて、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。この生成物は黄色がかった油として得られた(75%収率)。
【化4】


【0181】
フルフェナジンプロピオネート(AN179)の合成:フルフェナジンと塩化プロピオニル(プロピオン酸のアシル塩化物)とを上記のように反応させた。生成物は、黄色がかった油として得られ(95%収率)、それ以上の精製を行なわずに用いた。
【化5】

【0182】
フルフェナジンブチレート(AN180)の合成:フルフェナジンと塩化ブチリルとを上記のように反応させた。生成物は、黄色がかった油として得られ(97%収率)、それ以上の精製を行なわずに用いた。
【化6】

【0183】
フルフェナジンバレレート(AN181)の合成:フルフェナジンと塩化バレリル(吉草酸のアシル塩化物)とを上記のように反応させた。得られた粗残渣は、溶離剤として7:4酢酸エチル:ヘキサンの混合物を用いて、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。この生成物は黄色がかった油として得られた(75%収率)。
【化7】


【0184】
ペルフェナジンまたはフルフェナジンとアミノ有機酸とから調製された化学的コンジュゲートの合成−一般的手順:5〜10mlのDMF中のN−保護されたアミノ酸(1当量)とカルボニルジイミダゾール(CDI)(1.1当量)との混合物を、窒素雰囲気下、1時間攪拌した。その後ペルフェナジンまたはフルフェナジン(1当量)を添加し、混合物を窒素雰囲気下、90℃で24時間攪拌した。その結果生じたスラリーを蒸発させ、酢酸エチルと水とに分けた。水相を酢酸エチルで2回抽出し、組合わされた有機相を、NaHCOで2回、ブラインで2回洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、蒸発させた。N−保護された生成物は、黄色がかった油として得られた。
【0185】
このN−保護基を、次のように生成物から除去した。酢酸エチル中のN−保護された生成物の溶液に、酢酸エチル中の4N HClの溶液を一滴ずつ添加した。この混合物を室温で2時間攪拌した。その後溶媒を蒸発させ、残渣をさらに高真空下に乾燥した。三塩酸塩として得られた生成物を、メタノール/エーテルの混合物から再結晶化し、濾過し、乾燥した。
【0186】
ペルフェナジンN−boc−4−アミノブチレートの合成:ペルフェナジンとN−t−boc−GABA(N−t−boc−保護された4−アミノ酪酸)とを上記のように反応させた。粗生成物は、溶離剤として20:1酢酸エチル:エタノールの混合物を用いて、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。生成物は、黄色がかった油として得られた(63%収率)。
【化8】


【0187】
フルフェナジンN−boc−4−アミノブチレートの合成:フルフェナジンとN−t−boc−GABA(N−t−boc−保護された4−アミノ酪酸)とを上記のように反応させた。粗生成物は、溶離剤として20:1酢酸エチル:エタノールの混合物を用いて、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。生成物は、黄色がかった油として得られた(75%収率)。
【化9】

【0188】
ペルフェナジン4−アミノブチレート三塩酸塩(AN168)の合成:上記のように調製されたペルフェナジンN−boc−4−アミノブチレートを、上記のようにHClと反応させた。この三塩酸塩生成物は、粘性半固体油として得られた(定量的収率)。
【化10】

【0189】
フルフェナジン4−アミノブチレート三塩酸塩(AN187)の合成:フルフェナジンN−boc−4−アミノブチレートを、上記のようにHClと反応させた。この生成物は、白色固体として得られた(75%収率)。
【化11】

【0190】
下記表1は、上に記載された方法によって合成された化学的コンジュゲートを示している。
【表1】


【0191】
材料および実験方法
細胞系統:ヒト前立腺ガン(PC−3)、ヒト結腸ガン(HT−29)、ネズミ黒色腫(B−16)、およびその薬剤耐性サブクローン(B−16MDR)、マウス線維芽細胞(3T3)、骨髄性白血病(HL60)、およびその薬剤耐性サブクローン(HL60MX2)、子宮内膜細胞系統(MES SA)、およびその薬剤耐性サブクローン(MES DX5)、Jurkat Tリンパ腫、および単球性白血病(U−937)を、この調査に用いた。
【0192】
ラット線維芽細胞の一次培養物は、既知の手順[7]を用いて新生児ラットから得られた。
【0193】
ニューロン細胞およびグリア細胞を、妊娠した(妊娠後14〜15日)ICRマウスの胚脳(embryo brains)から調製した。これらの脳を解剖し、Leibowitch L−15培地(Beth Aemek)、75μg/mlゲンタマイシン、および0.2mMグルタミンの混合物中に均質化した。これらの細胞を、ポリ−D−リシン−処理された96ウエルマイクロプレートに播種した(300〜500K/ウエル)。選択されたニューロン培養物は、その48時間後、5−フルオロデオキシウリジン(FUDR)およびウリジンをこれらのプレートの半分に添加して得られた。未処理培養物は、ニューロンおよびグリア細胞上の混合物を含んでいた。これらの細胞を、10%FCS(ウシ胎仔血清)および2mMグルタミンが補足されたRPMIまたはDMEM培地中で増殖させ、37℃で加湿5%COインキュベーターでインキュベーションした。
【0194】
ラットの筋細胞培養物を、生後1〜2日のウイスター新生児ラット(ハーラン社(Harlan))から調製した。30匹の新生児ラットを、約2千5百万〜3千万細胞を得るために用いた。この目的のために、心臓を解剖し、RDB(商標)(イチジクの木の抽出物から単離されたプロテアーゼ)を用いて、室温で酵素的に組織解離させた。このプロトコルを、これらの細胞が完全に分散されるまで5回反復した。これらの分散細胞を、組織培養フラスコにおいて、DMEM培地中3×10/mlで45分間予め培養し(pre−plated)、ついで非筋細胞を減少させるために、ゼラチンコートされたマイクロ滴定プレートへ移し替えて24時間培養した。その後細胞障害剤ARO−Cを、この培養物に添加し、これによって分割細胞を除去し、未分割筋細胞のみを培養物中に残した。これらの細胞を4日間インキュベーションし、その後顕微鏡検査を実施した。
【0195】
ガンおよび正常細胞の増殖:増殖は、ニュートラルレッドアッセイ[8]によって、またはDNA含量を定量する蛍光アッセイ[9]によって測定した。ニュートラルレッドアッセイにおいて、ニュートラルレッドがリソソームによって吸収されるので、生きている細胞の着色を引起こす。定量分析を、比色分析アッセイ(550nmにおけるELISA読取り器)によって実施する。蛍光アッセイにおいて、レドックス指示器としてアラマール(alamar)ブルーを用いた。アラマールブルー蛍光を、544nmの励起波長および590mmの発光波長で測定した(ドイツ国オッフェンブルグ、フルオスター・BMGラブ・テクノロジーズ(FLUOstar BMG Lab Technologies,Offenburg,Germany))。
【0196】
アポトーシスおよびDNAフラグメント化:細胞核のフラグメント化は、ヨウ化プロピジウム染色細胞のフローサイトメトリック分析によって調べた。この分析は、480nmの励起波長に調節されたアルゴンイオンレーザー、およびダブレット識別モジュール(DDM)を備えたファクスキャン(FACScan)(カリフォルニア州マウンテンビュー、ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson,Mountain View,CA))を用いて実施した。データ収集のために、ライシス(Lysis)II(ベクトン・ディッキンソン)ソフトウエアを用いた。Nicollettiらの基準[13]にしたがって、アポトーシス性の核変化を評価した。
【0197】
化学感作:ペルフェナジンおよびその化学的コンジュゲートAN168の化学感作効果を、試験管内で測定した。様々な濃度のペルフェナジンまたはAN168を、化学療法剤とともに、C6ラット神経膠腫細胞またはJurkat Tリンパ腫細胞のどちらかに同時投与した。化学療法剤、ペルフェナジン、AN168、化学療法剤とペルフェナジンとの組合わせ、または化学療法剤とAN168との組合わせのいずれかを用いた治療後の細胞生存可能性および/またはDNAフラグメント化を、上記のように測定した。
【0198】
動物:若い成熟オスラット(150〜230グラム)を、ハーラン(イスラエル国)から購入した。動物を2〜5匹/ケージに分け、実験に先立つ1週間、制御された条件下に動物室に収容した。これらの実験は、実験未使用の動物を用いて、二重盲検法で実施した。各実験において、様々な処理グループ(各々約5〜10匹)をテストした。
【0199】
若い成熟した雄および雌マウスを、イスラエル国ハーラン社から購入した。これらの動物を、実験に先立って4〜7日間制御された条件下に収容した。実験は、二重盲検法で実施した。各実験において様々な処理グループ(各々約10匹)をテストした。
【0200】
ラットにおけるカタレプシー:典型的神経弛緩薬によって誘発された錐体外路副作用の発現を、神経弛緩剤処理後のラットにおける常同カタレプシー挙動の出現によって評価した。カタレプシーは、次の2つの方法によって決定した:(i)ケージ壁にしがみついている動物がその後足を動かして、平らな表面に到達するのにかかった時間を測定することによる方法(「壁」テスト);およびピアノ演奏位置に似ている、平らな棒(5.5cmの高さ)に前脚を寄り掛からせて平らな表面にラットを置く方法である。カタレプシーは、動物が下降して平らな表面に到達する時間によって決定した(「ピアノ」テスト)。追跡(follow up)の最大時間は2分であり、これらの測定は各動物について個々に1時間に一度実施した。これらのテストは、中枢ドーパミン(DA)遮断活性の評価を与え、抗精神病薬によって誘発された錐体外路症状についての許容しうる基準である[10]。総誘発カタレプシーおよびこれの時間的経過を、ペルフェナジン、フルフェナジン、および化合物AN167、AN168、AN177、AN178、AN180、およびAN187(上記表1参照)について、様々な組の化合物および様々な条件を比較して測定した。一般に、5mg/Kgの親薬剤ペルフェナジンおよび7.5mg/Kgのフルフェナジン、および等モル用量の本発明のこれらの関連する化学的コンジュゲートを、1%乳酸中に溶解し、これらの動物の腹腔内に注射した。異なる組の測定において、1%乳酸中に溶解したAN168およびペルフェナジンを、動物に経口投与した。
【0201】
マウスにおけるカタレプシー:神経弛緩剤処理後のマウスの常同カタレプシー挙動の出現を、2つの異なる組の実験において測定した。
【0202】
第一組において、成熟したオスをグループ分けし、各グループを、ペルフェナジン(1.5mg/kg、9匹)、ペルフェナジンと等モル用量のGABAとの混合物(7匹)、等モル用量のAN−168(8匹)、または無処理(対照グループ、6匹)によって処理した。カタレプシーは、2つのケージおよびこれらの間に渡した棒の装置を用いて測定した。マウスを棒の真中にぶら下げ、2分以内に目標に到達する動物のパーセンテージを、処理の1時間後、2時間後、および3時間後に監視した。
【0203】
第二組において、若いメスをグループ分けし、各グループを、2.5mg/kgペルフェナジン(6匹)、ペルフェナジンと等モル用量のGABAとの混合物(6匹)、等モル用量のAN−168(7匹)、または無処理(対照グループ、7匹)によって処理した。カタレプシーは、上記の装置を用いて決定した。マウスを棒の真中にぶら下げ、動物が目標に到達するのにかかる時間を測定した。
【0204】
プロラクチン分泌:典型的神経弛緩剤は、高プロラクチン血症を誘発する。これは多くの場合、乳汁分泌過多(gallactorehea)および性腺および性機能の損傷を付随する[11]。したがって循環血漿プロラクチンレベルの測定値を、既知の神経弛緩剤および本発明の化学的コンジュゲートの腹腔内または経口投与後、これらの抗精神病活性に対する感受性生化学マーカーとして用いた。このようにして、エーテル麻酔下のラットの穿刺眼窩(punctred eye orbital)から血液を収集し、ミレニア(Millennia)ラットプロラクチン酵素免疫測定(immunometric)アッセイキット(米国DPC)を用いてアッセイを実施した。
【0205】
挙動基準:本発明の化学的コンジュゲートによって処理された動物の鎮静作用を観察し、下記のように評点を付けた(表2)。様々な処理グループにおける動物の鎮静作用および可動性の程度は、0〜3の評点を用いて評価した。評点0は活動的かつ可動の動物を表わすが、評点1は静かで可動の動物を表わし、評点2は、静かで不動の動物を表わし、評点3は完全に運動失調かつ機敏でない(non−alert)動物を表わす。これらの処理された動物の挙動は、既知のテストされた神経弛緩剤、および化学的コンジュゲートの神経弛緩剤的有効性、ならびにこれらによって誘発された錐体外路症状の重症度の評価を与えた。
【0206】
毒性:試験管内毒性は、新生児マウスの脳から得られたニューロン、および全脳ニューロン、およびグリア細胞の一次培養に対するテスト化合物(既知の神経弛緩剤または本発明の化学的コンジュゲートのどちらか)の効果を測定することによって決定した。ペルフェナジンおよびその化学的コンジュゲートAN168の試験管内毒性も、ラットの筋細胞を用いて決定した。LC50によって決定された生体内急性毒性は、薬剤の単一腹腔内注射(bolus−dose)投与後、生後2ヶ月のICRマウスに対して評価した。
【0207】
実験結果
ペルフェナジンおよびこれを含む化学的コンジュゲートの誘発カタレプシーおよび抗精神病活性:5mg/kgペルフェナジンおよび等モル濃度のその化学的コンジュゲートAN130、AN167、およびAN168(上記表1参照)の誘発されたカタレプシーおよび抗精神病活性を、1%乳酸中に溶解された化合物を1ケージあたり5匹ずつに分けられた若い成熟ウイスター雄ラット(体重150〜200グラム)に腹腔内注射して測定し、上記の「壁」テストによって決定した。対照動物グループは、ビヒクル(乳酸)のみで処理した。カタレプシーおよびプロラクチン分泌の両方に対するこの処理の効果を、2時間追跡し、これらの結果を図1aおよび1bに示す。
【0208】
図1aは、処理の0分、60分、および120分後に二重に(in duplicate)実施された3つの測定値の合計として、誘発カタレプシーについて得られたデータを示している。各々の列は、5匹の動物の平均を示している。全時間をペルフェナジンに標準化した(例えば100%)。得られたデータは、カタレプシーがペルフェナジンおよびAN130の処理によって誘発されたが、一方で、AN167およびAN168はカタレプシーをまったく誘発しなかったことを示している。
【0209】
図1bは、処理の0分、60分、および120分後に測定されたプロラクチン血液レベルを示しており、各々の時間基準における3つの測定値の合計を表わしている。プロラクチン血液レベルは、これらの化合物の抗精神病活性に対する生化学マーカーとして役立つ。得られたデータは、ペルフェナジン、AN130、AN167、またはAN168で処理された時のこれらの動物中のプロラクチン血液レベルの同様なプロフィールを示している。これは、60分でピークになり、その後減少した。化学的コンジュゲートAN130、AN167、およびAN168で処理された動物における各時点でのプロラクチン血液レベルは、ペルフェナジンのものと類似しており、これは、化学的コンジュゲートの抗精神病活性が、親薬剤のものと類似していることを示している。ビヒクル(1%乳酸)のみで処理された対照動物において、プロラクチンレベルは不変であった。
【0210】
SAR(構造活性関係)調査:SAR調査を、ペルフェナジンおよびこれを含んでいる化学的コンジュゲートについて実施した。誘発されたカタレプシーを上記のように測定し、「壁」テストによって決定した。これらの結果を図2に示す。ペルフェナジンとGABAとのコンジュゲート、すなわちAN168は、最も効果的であることが分かり、その結果、誘発カタレプシーのほぼ最大の減少を伴ない、その次がコンジュゲートAN178を含んでいるバレレート、コンジュゲートAN177を含んでいるプロピオネート、およびコンジュゲートAN167を含んでいるブチレートであった。この実験は、ペルフェナジンそれ自体での処理によって誘発されたカタレプシーと比較した場合、これらの化学的コンジュゲートでの処理後誘発されたカタレプシーの有意な減少を示している。
【0211】
ペルフェナジン、フルフェナジン、およびこれを含む化学的コンジュゲートによって誘発されたカタレプシーおよび動物の挙動:ペルフェナジン、フルフェナジン、および酪酸およびGABAを含有するこれらの化学的コンジュゲート(AN167、AN168、AN180、およびAN187、表1参照)を、これらによって誘発された総カタレプシー、誘発されたカタレプシーの時間的経過、およびこれらの投与後の動物の挙動についてテストした。これらの測定は、5mg/kgペルフェナジン、等モル濃度のAN167およびAN168、7.5mg/kgフルフェナジン、および等モル濃度のAN180およびAN187の腹腔内注射後に実施した。カタレプシーは、「壁」テストによって決定した。
【0212】
図3aは、テストされた化合物によって誘発された総カタレプシーを示している。得られたデータは、投与の0分、30分、60分、90分、120分、180分、240分、および420分後になされた測定値の合計であり、全時間がペルフェナジンおよびフルフェナジンに対して標準化されている(=100%)。酪酸含有化学的コンジュゲートのAN167およびAN180の両方が、カタレプシーを有意に減少させた。ペルフェナジンのGABA含有コンジュゲート、すなわちAN168は、これをなくさせ、一方で、フルフェナジンのGABAコンジュゲート、すなわちAN187は、これをかなり減少させた。
【0213】
図3bは、ペルフェナジン、そのGABAコンジュゲートAN168、フルフェナジン、およびそのGABAコンジュゲートAN187での処理の0分、60分、および120分後に測定されたプロラクチン血液レベルを示している。得られたデータは、ペルフェナジン、フルフェナジン、またはこれらのGABA化学的コンジュゲートで処理された時のこれらの動物におけるプロラクチン血液レベルの同様なプロフィールを示している。これは、60分のところでピークになり、その後減少した。AN168およびAN187で処理された動物における各時点でのプロラクチン血液レベルは、それぞれペルフェナジンおよびフルフェナジンのものと同様であった。
【0214】
図4aは、ペルフェナジンおよびこれを含む化学的コンジュゲートによって誘発されたカタレプシーの7時間にわたる時間的経過を示している。ペルフェナジンによって誘発されたカタレプシーは、2時間後にピークになり、その後低下した。酪酸含有コンジュゲートAN167は、ペルフェナジンと比較した場合、減少したカタレプシーを誘発し、一方で、GABA含有コンジュゲートAN168で処理された動物は、この調査の7時間全体を通じてカタレプシーをまったく有していなかった。
【0215】
図4bは、フルフェナジンおよびこれを含んでいる化学的コンジュゲートによって誘発されたカタレプシーの7時間にわたる時間的経過を示している。フルフェナジンで処理された動物は、測定された7時間の間にカタレプシーを示し、一方で、AN180およびAN187で処理されたものは、より低いカタレプシーを示した。AN180によって誘発されたカタレプシーは、測定時間中に変動したが、一方で、AN187によって誘発されたカタレプシーは、7時間が終わった時点でなくなった。この調査における動物のどれも、24時間後カタレプシーを有していなかった。
【0216】
テストされた化合物の投与の動物の挙動に対する効果は、0〜3の評点を用いて、上記の処理後の動物の鎮静および可動性の程度を評価することによって測定した。評点0は活動的かつ可動の動物を表わすが、1は静かで可動の動物を表わし、2は静かで不動の動物を表わし、3は完全に運動失調かつ機敏でない動物を表わす。得られた評点を下記の表2に要約するが、これらは、既知の薬剤と比較した場合、これらの化学的コンジュゲートの動物の挙動に対する効果の減少を示している。
【表2】

【0217】
AN168およびペルフェナジンとGABAとの混合物によるラットにおける誘発カタレプシー:ラットに誘発されたカタレプシーに対する、AN168、ペルフェナジンのGABAコンジュゲートの効果を、その親薬剤であるコンジュゲートされていないペルフェナジンとGABAとの混合物によって誘発されたカタレプシーと比較した。カタレプシーを、このコンジュゲートまたは記載されている混合物の腹腔内注射の60分、90分、および120分後に測定し、「壁」テストによって決定した。
【0218】
図5aは、様々な処理によって誘発された総カタレプシーについて得られたデータを示している。AN168で処理されたグループの動物は、非常に低いカタレプシーを示したが、一方、ペルフェナジンとGABAとの混合物で処理されたグループのカタレプシーは高かった。
【0219】
図5bは、両方の処理後のカタレプシーの時間的経過を示しており、AN168で処理された動物の減少したカタレプシーを示している。これは120分後に消滅する。
【0220】
AN167およびAN168によってラットに誘発されたカタレプシー:4つの独立した実験においてAN167およびAN168によって誘発された総カタレプシーをテストし、同じ実験条件下のペルフェナジン誘発カタレプシーと比較した。
【0221】
ペルフェナジン誘発カタレプシーのパーセンテージとしての、等モル用量のAN167およびAN168後の総カタレプシーの平均を図6に示す。ペルフェナジンと比較した場合、AN167はより低いカタレプシーを誘発したが、AN168は、誘発されたカタレプシーをほとんどゼロの値まで減少させた。
【0222】
ペルフェナジン、ペルフェナジンとGABAとの混合物、およびAN168によるマウスにおける誘発カタレプシー:マウスに誘発されたカタレプシーに対するAN168、すなわちペルフェナジンのGABAコンジュゲートの効果を、ペルフェナジン単独、および親薬剤であるコンジュゲートされていないペルフェナジンとGABAとの混合物によって誘発されたカタレプシーと比較した。この処理の腹腔内注射の60分、90分、および120分後にカタレプシーを測定し、上記のように決定した。
【0223】
図7aは、2分以内に目標に到達する動物のパーセンテージという点に関して、様々な処理によって誘発されたカタレプシーについて得られたデータを示している。AN168で処理されたグループの動物は、実質的により低い身体的障害を示し、一方、ペルフェナジン単独で、およびペルフェナジンとGABAとの混合物で処理されたグループの動物は、より高いカタレプシーを示した。
【0224】
図7bは、動物が目標に到達するのにかかった時間という点に関して、上記処理の2時間および3時間後に様々な処理によって誘発されたカタレプシーについて得られたデータを示している。AN168で処理されたグループの動物は、ペルフェナジン単独で、およびペルフェナジンとGABAとの混合物で処理された動物よりもはるかに迅速であった。
【0225】
経口投与されたペルフェナジンおよびそのGABAコンジュゲートAN168の誘発されたカタレプシー、誘発された動物の挙動、および抗精神病活性:AN168、すなわちペルフェナジンとGABAとの化学的コンジュゲートは、腹腔内投与された時に現在最も効果的な化学的コンジュゲートであることが発見されたので、ペルフェナジンと比較した場合のこの化学的コンジュゲートの経口有効性を決定するために、追加の比較実験を実施した。この目的のために、AN168またはペルフェナジン単独のどちらかをラットへ経口投与した後、誘発されたカタレプシー、プロラクチン血液レベル、および動物の挙動を、上記のように測定した。1ケージあたり5匹ずつに分けられた動物を、1%乳酸中に溶解されたペルフェナジンまたはAN168の経口投与によって処理した。対照動物は、ビヒクル(乳酸)のみが投与された。
【0226】
様々な濃度のAN168およびペルフェナジンの経口投与によって誘発されたカタレプシーを、上記の「壁」テストおよび「ピアノ」テストによって測定した。カタレプシーの時間的経過を、2.5、5、10、および20mg/kgペルフェナジン、および各々の等モル用量の3.5、7、14、および28mg/kgのAN168の経口投与の4〜24時間後に測定した。総カタレプシーは、追跡の4〜24時間の間の1処理グループあたりの平均カタレプシーの合計を表わす。
【0227】
図8aは、4〜6時間「ピアノ」テストによって測定された場合の、さまざまな処理後のカタレプシーの時間的経過を示しており、AN168のすべての濃度におけるカタレプシー挙動の一貫した減少を証明している。統計分析は、この減少が、その各々の等モル用量のペルフェナジンと比較した場合、AN168(7および14mg/kg)の低用量および中間用量においてより有意である(p<0.05)ことを示した。この化学的コンジュゲートのより高い用量(14および28mg/kg)では、検出されたカタレプシー症状は、ペルフェナジンのものよりも一貫してより低かったが、但しこれらの差はそれほど大きくなかった。しかしながら、この薬剤と比較的高い用量での化学的コンジュゲートによって誘発されたカタレプシー間のこれらの比較的小さい差は、評価手順から生じると考えられる。実際的考察によれば、測定された最大のカタレプシーシグナルは、120秒に限定された。しかしながら現実には、ペルフェナジンによって誘発された最大のカタレプシーシグナルは、この化学的コンジュゲートによって誘発されるものよりも高いと評価される。この評価はさらに、「壁」テストによって決定されたカタレプシーおよび鎮静評点の両方について、高い用量において観察されたAN168とペルフェナジンとの間のより大きい実質的な差によって裏付けられる。このことは、後で記載される。さらには実施された実験は、筋固縮および頻呼吸は、ペルフェナジンの中間用量および高用量(10および20mg/kg)で処理された動物においてのみ観察されるのであって、化学的コンジュゲートの各々の等モル用量で処理された動物に観察されるのではないことを示した。
【0228】
図8bは、図8aに示されている実験の3ヶ月後に実施された別々の実験において、4〜6時間「ピアノ」テストによって測定された場合の様々な処理後のカタレプシーの時間的経過を示している。この得られたデータは、AN168の高用量(14および28mg/kg)では、先行実験と比較して、より高いカタレプシーが誘発されたことを示している。NMR分光分析法は、おそらくは加水分解によってゆっくりとした分解が発生し、したがってこの化学的コンジュゲートの独特の特性が影響を受けたことを明らかにした。これらの発見事項は、この化合物が、密封硝子ビンに保存されて、使用前にのみ暴露されるべきであることを示唆している。この点に関して、フルフェナジンの類似の化学的コンジュゲートであるAN187は、吸湿性であるようには思われず、したがって長時間保存の時に分解する傾向がないことに注目すべきである。
【0229】
図9aおよび9bは、4〜6時間観察された、5、10、および20mg/kgペルフェナジン、および各々の等モル用量の7、14、および28mg/kgAN−168の経口投与によって誘発された総カタレプシーを示している。図9bは、図9aに示されている実験の3ヶ月後に実施された実験で得られたデータを示している。ペルフェナジンと比較された場合、AN−168によって誘発されたカタレプシー挙動の減少は、図9bに示されているデータにおいてあまり有意でないが、AN168によって誘発されたカタレプシーは、ペルフェナジンによって誘発されたものよりも一貫して低いことが明らかに示されている。
【0230】
図10aおよび10bは、様々な処理後24時間の間に「ピアノ」テストによって測定された場合のカタレプシーの時間的経過(図10a)および総カタレプシー(図10b)を示している。得られたデータは、ペルフェナジンおよびAN168の両方の最大カタレプシー効果が、処理の5〜6時間後に達成され、処理の24時間後、カタレプシーはすべての処理グループにおいて減少したことを示している。これらのデータは、患者に投与された(一日一回)ペルフェナジンについて観察された臨床的時間経過と合致している。
【0231】
図11は、「壁」テストによって測定された場合の様々な処理後の総カタレプシーを示しており、カタレプシー症状は、AN168のテストされた用量すべてでの処理後にほぼ消滅したことを明らかに示している。
【0232】
動物の挙動に対する化学的コンジュゲートAN168の経口投与の効果は、上記のような0〜3の評点を用いて、様々な濃度のAN168およびペルフェナジンでの経口処理の4〜6時間後の動物の鎮静および可動性の程度を評価することによって測定した。得られた評点を、下記表3に要約するが、これはペルフェナジンと比較した場合の動物の挙動に対する化学的コンジュゲートの減少された効果を示している。
【表3】

【0233】
経口投与された化合物のドーパミン作用活性についてのマーカーとして、プロラクチン血液レベルを、上記の様々な処理の0分、90分、および180分後に測定した。得られたデータを表12に要約するが、これはペルフェナジンおよびAN168で処理された動物のプロラクチン血液レベルの同様なプロフィールを示している。AN168で処理された動物の各時点におけるプロラクチン血液レベルは、低用量でのペルフェナジンのものと同様であり、一方、より高い用量では、AN168で処理された動物のプロラクチン血液レベルは、ペルフェナジンで処理された動物と比較した場合、はるかに高かった。
【0234】
これらの結果は、AN168が非常に効率的であり、したがって経口投与された時、低用量(例えば3.5および7mg/kg)で臨床使用に適していることを示す。このような低用量で、AN168は最小の錐体外路症状しか引起こさず、したがって黒質線状体経路におけるアンタゴニスト活性をほとんで有していないことも、さらにここで証明されている。
【0235】
抗増殖活性:ペルフェナジン、その化学的コンジュゲートAN167、AN168、およびAN177、フルフェナジン、その化学的コンジュゲートAN179、AN180、AN181、およびAN187、および酪酸(BA)、4−フェニル酪酸(PBA)、およびGABAの抗増殖活性を、正常細胞および形質転換細胞を用いて実施された増殖テストによって測定した(通常は1つ以上の独立した実験において)。これらの細胞を継代培養し、これらのテスト化合物を、漸増濃度でこれに添加した。IC50値を、これらの細胞の生存割合の直線回帰によって決定した。様々なテスト細胞系統を用いてテストされた化合物について得られたIC50値を、下記表4および表5に要約する。
【表4】

【表5】

【0236】
これらの結果は、GABAそれ自体では、有意な抗増殖活性を示すことに失敗し(IC50>20mM)、BA(1〜8mMのIC50範囲)およびPBA(2〜12mMのIC50範囲、データは示されていない)は、顕著ではあっても比較的低い抗増殖活性を示したが、これらのそれぞれのペルフェナジンおよびフルフェナジンコンジュゲートは、有意により高い活性(8〜60μMのIC50範囲)を有したことを示している。
【0237】
これらの結果はさらに、多剤耐性(MDR)細胞、例えばHL60MX2、B16MDRサブクローン、およびMES SA DX5を含む非常に多様な細胞系統における本発明の化学的コンジュゲートの多用途抗増殖活性も示している。
【0238】
図13は、B16ネズミ黒色腫細胞の増殖に対するペルフェナジンおよびその化学的コンジュゲートの効果が測定された代表的実験において得られた結果を示している。AN167およびAN168は、抗増殖性薬剤として比較的活性であることが発見された。
【0239】
ペルフェナジン、GABA、およびこれの化学的コンジュゲートAN168の細胞毒性効果を測定し、C6ラット神経膠腫細胞への既知の化学療法薬シスプラチンおよびビンシスチンの細胞毒性効果と比較した。これらの細胞を継代培養し、これらのテストされた化合物を、100μMまでの漸増濃度でこれに添加した。これらの処理(24時間)後の細胞生存可能性を、上記のニュートラルレッド方法によって決定し、これらの結果を図14に示す。ペルフェナジンおよびAN168のIC50値は、上記のように決定し、それぞれ19.2μMおよび24.2μMであることが発見された。
【0240】
図14に示されているように、得られたデータは、代表的な既知の化学療法薬と比較した場合の、本発明の化学的コンジュゲートの優れた抗増殖活性を示している。C6神経膠腫細胞は、MDR細胞として知られており、実際、これらの既知の化学療法薬の抗増殖活性は、実質的に低いことが発見された。これに対して、AN168は、高い抗増殖活性を及ぼし、比較的低い濃度(約20μM)で実質的な細胞死を引起こすことが発見された。
【0241】
図15は、ペルフェナジン、AN168、およびデキサメタゾンの漸増濃度を用いたJurkat Tリンパ腫細胞の処理後に得られたデータを示している。これらの結果は、アラマールブルー方法によって決定された細胞生存可能性の点に関して示されており、デキサメタゾンと比較した場合のAN168およびペルフェナジンの優れた細胞毒性効果を示している。ペルフェナジンおよびAN168のIC50値は、それぞれ16μMおよび19μMであった。
【0242】
さらに、ペルフェナジン、フルフェナジン、およびこれらの化学的コンジュゲートは、ほぼ同じ程度まで抗増殖活性を及ぼすが、本発明の化学的コンジュゲートの臨床使用は、神経弛緩薬の臨床的使用よりも非常に優れており、それは、これらの化学的コンジュゲートの投与がほぼ完全に有害な副作用を含んでいないからであることに注目すべきである。
【0243】
ペルフェナジンまたはAN168と化学療法薬の同時投与による化学感作効果:5、10、および15μMペルフェナジンおよび等モル用量のその化学的コンジュゲートAN168の化学感作効果を、様々な濃度の既知の化学療法薬、例えばビンシスチン、シスプラチン、およびデキサメタゾンとともにこれらの化合物を同時投与することによって測定した。これらの組合わせ治療後、方法セクションにおいて上記されているようにして決定された細胞生存可能性および/またはDNAフラグメント化を、化学療法薬単独での処理後に得られた結果と比較した。
【0244】
図16は、ビンシスチン(30μM)、ペルフェナジン、AN168、およびこれらの組合わせでの、ラットC6神経膠腫細胞系統(MDR細胞)の24時間処理後に得られたデータを示している。これらの結果は明らかに、AN168の化学感作効果を証明している。これは、化学療法薬と同時投与された時、この化学的コンジュゲートの低い濃度(例えば5μM)でさえ、単独で投与された時のこの薬剤の細胞毒性活性と比較して、その細胞毒性効果を実質的に増強する。
【0245】
図17は、5μM〜50μMの範囲の様々な濃度でのシスプラチン、およびシスプラチンと10および15μMのAN168との組合わせでの、ラットC6神経膠腫細胞系統(MDR細胞)の処理後に得られたデータを示す。これらの結果は、ニュートラルレッド方法によって測定された細胞生存可能性の点に関して示されており、これらの細胞は、すべてのテストされた濃度においてシスプラチンに完全に耐性があるが、シスプラチンとAN168との組合わせ処理は、これらの細胞を化学療法薬に対して感受性のあるものにしたことを明らかに証明している。
【0246】
図18は、未処理細胞と比較した、シスプラチン(30μM)、ペルフェナジン(25および50μM)、AN168(25、50μM)、シスプラチン(30μM)とAN168(50μM)との組合わせでのラットC6神経膠腫細胞の処理後に得られたDNAフラグメント化データを示している。DNAフラグメント化は、上記のヨウ化プロピジウムフローサイトメトリック方法によって決定した。これらの結果は、シスプラチン単独ではDNAフラグメント化の効果を有していないが、ペルフェナジンおよびAN168はどちらもDNAフラグメント化の劇的増加を誘発したことを示している。これらの結果は、本発明の化学的コンジュゲートの化学感作効果が、これらのこの活性の結果から生じることを示唆している。
【0247】
毒性:ペルフェナジン、AN167、およびAN168の試験管内毒性を、新生児マウスの脳から得られたニューロン細胞およびニューロン細胞とグリア細胞との混合物の一次培養物に対して測定した。これらの細胞培養物を、これらのテスト化合物で24時間処理し、これらの生存可能性を、その後ニュートラルレッド比色テストによって決定した。これらのテストにおいて得られたIC50値は、図19に示されているように、ペルフェナジンおよびAN167は同様な毒性を有していたが、一方、AN168は、正常な脳細胞に対して有意に低い毒性を示したことを証明している。ペルフェナジンおよびAN168の試験管内毒性を、培養されたラット筋細胞でさらに測定した。図20は、様々な濃度のペルフェナジンまたはAN168での処理後に上記のようにして決定された細胞生存可能性を示している。得られたデータは、AN168が、すべての濃度において細胞生存可能性の減少を引起こさなかったが、一方、ペルフェナジンは、高濃度で細胞生存可能性の20%減少を引起こしたことを示している。
【0248】
ペルフェナジンおよびAN167の生体内毒性を、マウスへのその単一用量の腹腔内投与後に評価した。処理の2週間後に決定されたLD50値は、ペルフェナジンについては109mg/kg、AN167については120mg/kgであった。ペルフェナジン(per)と比較したAN167の低い方の毒性に加えて、コンジュゲートされた化合物によって引起こされた死亡率は、図21に示されているように遅延された。
【0249】
上に記載された実験結果は、正常細胞への最小限にされた毒性および最小限にされた副作用とともに、本発明の新規化学的コンジュゲートの、抗精神病活性、抗増殖活性、および化学感作活性を及ぼすことにおける高くて有利な有効性を証明している。
【0250】
本発明のあるいくつかの特徴は、わかりやすくするために別々の実施態様という状況において記載されているが、単一実施態様において組合わせて提供されうると考えられる。逆に、本発明の様々な特徴は、簡略化のために単一の実施態様の状況において記載されているが、別々に、またはあらゆる適切なサブコンビネーションとして提供することもできる。
【0251】
本発明は、その特定の実施態様とともに記載されてはいるが、多くの代替例、修正例、および変形例が、当業者には明らかであろうことは明白である。したがって、添付クレームの精神および広い範囲内に入るこのようなすべての代替例、修正例、および変形例を包含するものとする。この明細書に挙げられているすべての出版物、特許、および特許出願は、各々の個別の出版物、特許、または特許出願が特定別かつ個々に参照して本明細書に組込まれると指摘されているかのように、その同程度まで、その全体が参照して本明細書に組込まれる。さらにはこの出願におけるあらゆる参考文献の引用または識別は、このような参考文献が、本発明の先行技術として有効であるとの承認とは考えられないものとする。
【0252】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に3〜5個の炭素原子を有する有機酸に共有結合されているフェノチアジンを含む化学的コンジュゲート。
【請求項2】
前記フェノチアジンは、クロルプロマジン、ペルフェナジン、フルフェナジン、およびアセトフェナジンからなる群から選択される、請求項1に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項3】
前記有機酸は、酪酸、吉草酸、4−フェニル酪酸、およびγ−アミノ酪酸(GABA)からなる群から選択される、請求項1に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項4】
前記フェノチアジンはペルフェナジンである、請求項1に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項5】
前記有機酸はγ−アミノ酪酸(GABA)である、請求項1に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項6】
前記有機酸はγ−アミノ酪酸(GABA)である、請求項4に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項7】
前記ペルフェナジンは、γ−アミノ酪酸(GABA)にカルボン酸エステル結合を介して共有結合される、請求項6に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項8】
γ−アミノ酪酸(GABA)に共有結合されるペルフェナジン、またはその塩を含む、請求項1に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項9】
ペルフェナジン4−アミノブチレートまたはその塩である、請求項1に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項10】
γ−アミノ酪酸(GABA)に共有結合されているペルフェナジンを含む化学的コンジュゲート。
【請求項11】
活性成分として請求項1〜10のいずれかに記載の化学的コンジュゲートと製薬的に許容しうるキャリヤーを含む製薬組成物。
【請求項12】
包装材料に包装され、統合失調症の治療で使用されるためのものであることが前記包装材料上にまたはその中に印刷されて明らかにされている、請求項11に記載の製薬組成物。
【請求項13】
統合失調症を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜10のいずれかに記載の化学的コンジュゲートの使用。
【請求項14】
第二化学部分に共有結合された第一化学部分を含む化学的コンジュゲートであって、前記第一化学部分は、抗精神病薬の残基であり、前記第二化学部分は、主鎖に3〜5個の炭素原子を有する有機酸の残基である化学的コンジュゲート。
【請求項15】
前記第一化学部分が、カルボン酸エステル結合、アミド結合、およびチオエステル結合からなる群から選択される結合を介して、前記第二化学部分に共有結合されている、請求項14に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項16】
前記第一化学部分の前記残基は、前記抗精神病薬のヒドロキシ官能基と前記有機酸のカルボキシル基との間に形成されたカルボン酸エステル結合を介して前記第二化学成分の前記残基に結合されている、請求項14に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項17】
前記抗精神病薬が抗増殖活性を有する、請求項14に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項18】
前記抗精神病薬残基が化学感作活性を有する、請求項14に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項19】
前記有機酸残基が一般式:
−R−C(=O)−
を有し、Rが3〜5個の炭素原子を有する置換または非置換アルキルである、請求項14に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項20】
前記有機酸は、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、4−フェニル酪酸、およびγ−アミノ酪酸(GABA)からなる群から選択される有機酸の残基である、請求項14に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項21】
ルフェナジン4−フェニルブチレート、ペルフェナジンブチレート、ペルフェナジン4−アミノブチレート、ペルフェナジンプロピオネート、ペルフェナジンバレレート、フルフェナジンブチレート、フルフェナジンプロピオネート、フルフェナジンバレレート、およびフルフェナジン4−アミノブチレートからなる群から選択される、請求項14に記載の化学的コンジュゲート。
【請求項22】
活性成分として請求項14〜21のいずれかに記載の化学的コンジュゲートと製薬的に許容しうるキャリヤーを含む製薬組成物。
【請求項23】
包装材料に包装され、統合失調症、パラノイア、小児精神病、ハンチントン病、およびジル・ド・ラ・トゥーレット症候群からなる群から選択される精神障害または疾患の治療で使用されるためのものであることが前記包装材料上にまたはその中に印刷されて明らかにされている、請求項22に記載の製薬組成物。
【請求項24】
前記精神障害または疾患が統合失調症である、請求項23に記載の製薬組成物。
【請求項25】
包装材料に包装され、増殖性障害または疾患の治療で使用されるためのものであることが前記包装材料上にまたはその中に印刷されて明らかにされている、請求項22に記載の製薬組成物。
【請求項26】
前記増殖性障害または疾患が、脳腫瘍、脳転移、および末梢腫瘍からなる群から選択される、請求項25に記載の製薬組成物。
【請求項27】
前記増殖性障害がガンである、請求項25に記載の製薬組成物。
【請求項28】
前記ガンが多剤耐性ガンである、請求項27に記載の製薬組成物。
【請求項29】
包装材料に包装され、化学療法剤と組合わせた化学感作で、および/または化学感作が有益である健康状態における化学感作で使用されるためのものであることが前記包装材料上にまたはその中に印刷されて明らかにされている、請求項22に記載の製薬組成物。
【請求項30】
被験者における精神障害または疾患の治療または予防用薬剤の製造のための、請求項14〜21のいずれかに記載の化学的コンジュゲートの治療的有効量の使用。
【請求項31】
前記精神障害または疾患は、統合失調症、パラノイア、小児精神病、ハンチントン病、およびジル・ド・ラ・トゥーレット症候群からなる群から選択される、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
被験者における増殖性障害または疾患の治療または予防用薬剤の製造のための、請求項14〜21のいずれかに記載の化学的コンジュゲートの治療的有効量の使用。
【請求項33】
前記増殖性障害または疾患が、脳腫瘍、脳転移、および末梢腫瘍からなる群から選択される、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記増殖性障害がガンである、請求項32に記載の使用。
【請求項35】
前記ガンが多剤耐性ガンである、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
化学感作方法において使用するための薬剤の製造のための、少なくとも1つの化学療法剤の化学療法的有効量および請求項14〜21のいずれかに記載の化学的コンジュゲートの化学感作的有効量の使用。
【請求項37】
抗精神病薬の残基に共有結合された有機酸の残基を得るために、前記有機酸と前記抗精神病薬とを反応させることを含む、請求項14〜21のいずれかに記載の化学的コンジュゲートの合成方法。
【請求項38】
前記方法はさらに、前記反応に先立って:
前記有機酸をその塩化アシル誘導体に転換させること
も含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記有機酸がGABAであり、前記方法はさらに、
前記反応に先立って、前記反応によって前記抗精神病薬の前記残基に共有結合された前記有機酸のアミノ保護残基を得るために、前記GABAのアミノ基を保護基で保護すること、および
前記抗精神病薬の前記残基に共有結合された前記有機酸の前記アミノ保護残基を得た後で前記保護基を除去すること
も含む、請求項37記載の方法。
【請求項40】
前記保護の後でかつ前記反応の前に:
前記有機酸をそのアシルイミダゾール誘導体に転換すること
もさらに含む、請求項39に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−90170(P2010−90170A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8725(P2010−8725)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【分割の表示】特願2003−530202(P2003−530202)の分割
【原出願日】平成14年9月29日(2002.9.29)
【出願人】(503255958)ラモト アット テル アヴィヴ ユニヴァーシティ リミテッド (14)
【出願人】(593003710)バル・イラン・ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】BAR ILAN UNIVERSITY
【Fターム(参考)】