説明

コンタクトレンズケア方法及び組成物

【課題】微生物付着抑制効果を奏するコンタクトレンズのケア方法及びケア用組成物を提供すること。
【解決手段】ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、および緩衝剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを一定時間以上浸漬することを特徴とするコンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着を抑制する方法、及びかかる方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物に関する。
【0002】
装用中のコンタクトレンズは、空気中に浮遊する微生物や眼粘膜に存在していた微生物が付着する危険に曝されている。また、装用者がコンタクトレンズを着脱する等、コンタクトレンズを取り扱うときに手指上の微生物がコンタクトレンズに付着したり、コンタクトレンズケースに付着している微生物がケース内保存中にコンタクトレンズに付着することもある。
【0003】
コンタクトレンズ装用者はドライアイの傾向にあることから、レンズに微生物が付着,増殖しやすい環境にあることに起因してコンタクトレンズ装用者にはものもらいが多いという報告もある。また、付着した微生物自体、あるいは付着した微生物がきっかけとなって付着したタンパク質や脂質等がコンタクトレンズの汚れとなるが、コンタクトレンズ後面(角膜側)の汚れは特に装用者に強い異物感を与えたり、装用中のコンタクトレンズが曇りを生じる原因ともなる。さらに微生物のうち、真菌がコンタクトレンズポリマーを消化すること、子嚢菌類であるAspergillum sp.、Penicillium sp. や皮膚糸状菌であるTricophyton sp.等がコンタクトレンズポリマーに付着して腐食や劣化の原因となることが知られている。
【0004】
さらに、これらの微生物が単独でコンタクトレンズやレンズケース表面に付着していることより、複数種の微生物がそれら微生物由来の有機物と複合体を形成していることがより問題である。この複合体をバイオフィルムと呼ぶが、バイオフィルムが一旦形成されると、通常のコンタクトレンズケアでは除去することができず、徐々に殺し損ねた微生物が蓄積し、さらに強固なバイオフィルムを形成し、やがてはそれらの微生物量が生体防御システムが許容できない水準に達することで眼感染症を発症するに至る(非特許文献1)。
【0005】
このように、含水,非含水に関わらず、コンタクトレンズそのものあるいはレンズに間接的に微生物を供給しうるコンタクトレンズケース等において、それら微生物の除去は極めて重要である。しかしながら、コンタクトレンズやレンズケースに付着した微生物を事後的に洗浄,殺菌する方法では、前述のバイオフィルム形成により洗浄,殺菌成分の効力が十分に発揮されないために、微生物を十分に除去できない。したがって、コンタクトレンズに付着した微生物を事後的に殺すことでその数を減らすことのみならず、事前に微生物がコンタクトレンズやレンズケースに付着しないように防止することこそがより重要な課題である。
【0006】
そこで、微生物のコンタクトレンズへの微生物付着を事前に防止する技術として、コンタクトレンズ素材に塩化ベンザルコニウム等の防腐剤を結合・吸着させる方法がある(特許文献1)。しかしながら、このような方法では、毒性のある防腐剤が常に角膜表面に接触することになるので眼表面に影響を与えるおそれがあり、安全性上許容できない。また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーを含む組成物にコンタクトレンズを浸漬することで、その浸漬後に微生物に対する付着抑制効果を発揮することが開示されている(非特許文献2、3)。しかしながら、微生物付着抑制効果を発現するポロクサマー濃度を0.5〜15%としており、この濃度では安全性が懸念されるだけでなく、そのような高濃ポロクサマー溶液は極めて高い粘性を有するゆえに、液が付着したレンズを装着する際に不快感を感じることが懸念される。
【0007】
これまでのコンタクトレンズケア方法又はコンタクトレンズケア用組成物においては、十分な微生物付着抑制効果が得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「コンタクトレンズにおけるバイオフィルム形成」,日コレ誌,39:143-147,1997
【非特許文献2】Journal of Biomedical Materials Reserach, Vol.28,303-309,1994
【非特許文献3】Antimicrobial Agents and Chemotherapy, Vol.44 No.4,1093-1096,2000
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−269181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、コンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着を抑制するコンタクトレンズのケア方法、及びかかる方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々研究を重ねてきたところ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルと緩衝剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを一定時間以上浸漬することによってコンタクトレンズへの微生物付着を抑制することができるという全く新しい知見を見出し本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕A)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびB)緩衝剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを1時間以上浸漬することを特徴とする、コンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着抑制方法、
〔2〕A)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、B)緩衝剤、およびC)非イオン性界面活性剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを1時間以上浸漬することを特徴とするコンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着抑制方法、
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物に、さらにモノテルペンを含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを1時間以上浸漬することを特徴とするコンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着抑制方法、
〔4〕〔1〕乃至〔2〕のいずれかに記載の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物に、さらに抗菌剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを1時間以上浸漬することを特徴とするコンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着抑制方法、
〔3〕〔1〕乃至〔4〕に記載の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、微生物付着抑制効果を奏するコンタクトレンズのケア方法及びケア用組成物を提供することができる。
【0014】
本発明のコンタクトレンズケア方法によれば、コンタクトレンズ装用または保存中に微生物がコンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースに付着又は侵入、増殖するのを抑制することができ、微生物付着に起因して生じる種々の問題を未然に防止することができる。
【0015】
例えば、装用中のコンタクトレンズを清潔に保ち、異物感を抑えてレンズの曇りを軽減することができる。また、コンタクトレンズ素材の腐食・劣化を防止し、レンズ寿命を長くすることができる。さらに、コンタクトレンズ消毒又は洗浄用組成物中にコンタクトレンズを長時間浸漬しすぎて一旦減少した微生物が再び増殖してしまったり、微生物活動が活発な夏場や、洗面所やお風呂場等の水周りでの保管や取り扱いによってコンタクトレンズケースの内外が微生物汚染に曝される場合であっても、ケースに浸漬したコンタクトレンズを清潔に保つ効果がある。ひいては、コンタクトレンズに付着した微生物によって生じる危険性のある、ものもらい,結膜,角膜等の眼感染症,巨大乳頭結膜炎,角膜上皮障害等の合併症,視力低下などを予防できることが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のコンタクトレンズへの微生物付着抑制方法は、A)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびB)緩衝剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを一定時間以上浸漬することを特徴とする。また、他の本発明のコンタクトレンズへの微生物付着抑制方法は、A)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、B)緩衝剤、およびC)非イオン性界面活性剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを一定時間以上浸漬することを特徴とする。コンタクトレンズケア用組成物中に浸漬されたコンタクトレンズと、コンタクトレンズケア用組成物を収容したコンタクトレンズケースへ微生物が付着することを抑制できる。
【0017】
本発明の方法は、ハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ(含水、非含水)等のあらゆるコンタクトレンズ、装用していないコンタクトレンズを保存するために用いるプラスチック樹脂等のあらゆるコンタクトレンズケースに対して使用しうる。なかでも、ソフトコンタクトレンズは、含水率が高く微生物が付着、さらにはレンズに侵入し増殖しやすいため、ソフトコンタクトレンズのケア方法として好適に用いることができる。
【0018】
本発明の方法を用いることによって、コンタクトレンズへの微生物付着を抑制することができる。かかる微生物としては、例えば、細菌、真菌、ウイルス、クラミジア、寄生虫(アカントアメーバ等)等が挙げられ、主な種類としてはPseudomonas 属(P. aeruginosa、P. stutzeri、P. cepacia等)、Staphylococcus属(S. epidermidis、S. aureus等)、Echerichia属を含めた大腸菌群(E.coli、Enterobacter属等)、Serratia属(S. marcescens等)、Streptococcus 属(S. pneumoniae等)、Chlamydia属(C. trachomatis等)、Corynebacterium属、Candida属(C. albicans等)、Aspergillus属(A. niger等)、Cladosporium属、Fusarium属、ウイルス(Herpes simplex等)、Acanthamoeba属(A. castellanii、A. polyphaga等)等が挙げられる。
【0019】
本発明の方法に従い、本発明の特定のコンタクトレンズケア用組成物中に一定時間以上浸漬する場合、微生物のコンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの付着が抑制される。付着抑制効果は、例えば、被験物質(コンタクトレンズやコンタクトレンズケース等)を薬液に一定時間浸漬した後に、さらに微生物の懸濁液にその被験物質を一定時間浸漬し、その被験物質を生食等で軽く濯ぎ洗いした後に、被験物質に残留している微生物の数が、薬液に浸漬しなかった場合の微生物の数に対して統計的に少ないかどうかを試験して確認することができる。
【0020】
本発明の方法では、A)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびB)緩衝剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物を、例えばコンタクトレンズケース等の容器に適量いれておいて、その組成物中にコンタクトレンズを浸漬する。微生物付着抑制効果を発揮するためには、コンタクトレンズを組成物中に一定時間以上浸漬することが必要である。浸漬時間は好ましくは1時間以上、より好ましくは4時間以上、特に好ましくは8時間以上である。
【0021】
また、本発明の方法では、上記した必須成分以外にさらに、C)非イオン性界面活性剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物を用いて、コンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着を抑制することができる。さらに、本発明に用いるコンタクトレンズケア用組成物には、モノテルペン又は/及び抗菌剤を含有することによって、微生物付着抑制効果がより高いコンタクトレンズケア方法を実現できる。
【0022】
本発明の微生物付着抑制方法で用いるコンタクトレンズケア用組成物は、必須成分として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する。本発明に用いられるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノヤシ油脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどを利用でき、これらは市販のものを利用することができる。特に好ましくは、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンであり、ポリオキシエチレンの付加モル数は20が好ましい。HLBが9以上のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、より好ましくは14以上のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。
【0023】
本発明の方法で用いるコンタクトレンズケア用組成物中におけるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの濃度としては、微生物付着抑制効果の観点から、0.0002重量%以上が好ましく、過剰な濃度による角膜等に対する安全性の観点から、2重量%以下が好ましい。該濃度は、好ましくは0.002〜0.5重量%、より好ましくは0.004〜0.2重量%、最も好ましくは、0.008〜0.1重量%である。
【0024】
本発明の方法で用いるコンタクトレンズケア用組成物は、必須成分として緩衝剤を含有する。かかる緩衝剤としては、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝剤、HEPES等の緩衝剤等が挙げられる。好ましくは、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤である。より具体的には、ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩を単独又は組み合わせて用いることができる。リン酸緩衝剤としては、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩等を単独又は組み合わせて用いることができる。なお、これらの緩衝剤は一種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明の方法で用いるコンタクトレンズケア用組成物中の緩衝剤の濃度としては、微生物付着抑制効果の観点から、0.001重量%以上が好ましく、過剰な濃度による眼刺激性を抑制する観点から、10重量%以下が好ましい。該濃度は、好ましくは0.001〜10重量%、より好ましくは0.01〜1重量%、最も好ましくは0.02〜2重量%である。
【0026】
また、本発明の方法で用いるコンタクトレンズケア用組成物においては、A)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびB)緩衝剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物にさらに、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル以外の少なくとも一種の非イオン性界面活性剤を含有することによって、微生物付着抑制効果を増強することができる。
【0027】
かかる非イオン性界面活性剤としては、コンタクトレンズに適用しうる非イオン性界面活性剤であれば特に制限されないが、例えば、POE・POPブロックコポリマー置換エチレンジアミン、POE・POPブロックコポリマー、POE(60)硬化ヒマシ油等のPOE硬化ヒマシ油、POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類、POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類、POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。なお、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレンの略であり、また、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0028】
これらの非イオン性界面活性剤のなかでも、特に好ましくは、POE・POPブロックコポリマー、POE・POPブロックコポリマー置換エチレンジアミンである。POE・POPブロックコポリマーとしては、(登録商標)ポロクサマー((登録商標)Pluronic F127、P123、F98、F87、F85、F77、F83、P85、F88、F68、F38、L44)、(登録商標)ポロキサミン((登録商標)Tetronic 1508、1504、1307、1304、1107、1104、908、904、707、704、501、304等)などが挙げられ、市販のものを利用することができる。平均分子量として、2千〜2万が好ましく、5千〜1万5千がより好ましい。また、総分子中のエチレンオキシド含量が、40%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましい。
【0029】
本発明の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物中における非イオン性界面活性剤の濃度としては、微生物付着抑制効果の観点から、0.001重量%以上が好ましく、過剰な濃度による角膜等に対する安全性及び不快なねばつきを抑制する観点から10重量%以下が好ましい。該濃度は、好ましくは0.001〜10重量%、より好ましくは0.01〜1重量%、最も好ましくは、0.02〜0.5重量%である。
【0030】
本発明の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物には、微生物付着抑制効果の観点から無機塩類を配合することが好ましい。無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。本発明の組成物中における無機塩類の濃度としては、好ましくは0.2〜2.0重量%、より好ましくは0.1〜1.0重量%である。該濃度は、特に含水コンタクトレンズの形状を維持する観点より0.2重量%以上が好ましく、微生物付着抑制効果の観点より2.0重量%以下が好ましい。
【0031】
本発明の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物には、さらにモノテルペンを用いることで、微生物付着効果を増強できる。かかるモノテルペンとしては、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、アネトール、リモネン、オイゲノール等が挙げられる。これらのモノテルペンは、d体、l体又はdl体のいずれでも構わないが、中でも、l−メントール、d−メントール、dl−メントール、d−カンフル、dl−カンフル、d−ボルネオール及びdl−ボルネオールが好ましい。清涼感や香りなどの官能面や、安全性の面から、ゲラニオール、l−メントール、d−カンフル及びd−ボルネオールが特に好ましい。これらは、精油に含有した状態で使用することもでき、好ましくは、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油等を使用することもできる。これらのモノテルペンを1種類又は2種類以上組み合わせて用いることもできる。また前記モノテルペンに加えて、所望により、ファルネソール、ネロリドール等のセスキテルペン、スィトール、センブレン等のジテルペン等も適宜に使用することができる。これらのテルペノイドは、d体、l体又はdl体のいずれでも構わない。
【0032】
本発明の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物中におけるモノテルペンの濃度は好ましくは0.00001〜0.1重量%、さらに好ましくは0.0001〜0.05重量%、最も好ましくは、0.0001〜0.01重量%である。0.1重量%以下が好ましく、十分な微生物付着抑制効果が得られる観点から、0.00001重量%以上が好ましい。
【0033】
さらに、本発明の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物中には抗菌剤を含有することが好ましい。コンタクトレンズ浸漬中にコンタクトレンズに付着入した微生物を殺菌してその数を減少させることができ、加えて本願発明の付着防止効果によって、相乗的なコンタクトレンズへの微生物付着抑制効果を得ることができる。
【0034】
かかる抗菌剤としては、コンタクトレンズケア用組成物に用いられる安全性の高い抗菌剤であれば限定されないが、例えば、塩化ポリドロニウム (ポリクォーテリウム−1) 、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン−(ジメチルイミニオ)エチレンジクロリド] 等の第4級アンモニウム化合物又はその塩、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩等のビグアニド化合物又はその塩、アルキルポリアミノエチルグリシン等のグリシン型界面活性剤等が挙げられる。
【0035】
これらの抗菌剤は市販品を用いることができ、例えば、第4級アンモニウム化合物又はその塩は、Glokill PQ(商品名、ローディア社製)、ユニセンスCP(商品名、ポリ (ジアリルジメチルアンモニウムクロライド) 、センカ社製)、WSCP(商品名、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレンー(ジメチルイミニオ)エチレンジクロリド] を約60重量%含有、バックマン・ラボラトリーズ社製)、クロクォートL(商品名、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド基を有する、コラーゲン加水分解物由来の第四級アンモニウム置換ポリペプチドを約50重量%含有、クローダ社製)から入手できる。ビグアニド化合物又はその塩は、コスモシルCQ(商品名、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩を約20重量%含有、ICIアメリカズ社製)から入手できる。
【0036】
本発明に用いるコンタクトレンズケア用組成物中における抗菌剤の濃度としては、0.00001〜0.5重量%が好ましく、0.00001〜0.01重量%が特に好ましい。該濃度は、十分な殺菌力を得る観点から、0.00001重量%以上が好ましく、また、安全性の観点から、0.5重量%以下が好ましい。
【0037】
本発明に用いるコンタクトレンズケア用組成物には、必要に応じて、医薬活性成分、上記以外の界面活性剤、等張化剤、増粘剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、保存剤、清涼化剤、懸濁化剤等の各種添加剤をコンタクトレンズの物理化学的パラメーターに影響を及ぼさず、眼刺激等の問題がない濃度範囲内で適宜配合することができる。以下に具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記医薬活性成分は、眼科用組成物の有効成分として用いられる成分を使用することができ、例えば、充血除去成分、筋調整機能剤、抗炎症・収斂剤、抗ヒスタミン剤、ビタミン類、サルファ剤、抗アレルギー剤、細胞賦活剤等を挙げることができ、具体的には、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、dl−塩酸メチルエフェドリン等の充血除去成分、メチル硫酸ネオスチグミン等の筋調整機能剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アラントイン、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、塩化リゾチーム等の消炎・収斂成分、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、酢酸トコフェロール、リボフラビン等のビタミン類、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾール、スルフイソミジンナトリウム等のサルファ剤、クロモグリク酸ナトリウム、フマル酸ケトチフェン、アンレキサノクス、ペミロラストカリウム、トラニラスト等の抗アレルギー剤、L-アスパラギン酸カリウム、L-アスパラギン酸マグネシウム、L-アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム等の細胞賦活剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
界面活性剤としては、アルキルジアミノエチルグリシン等のグリシン型、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型、イミダゾリン型等の両性界面活性剤、POE(10)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム等のPOEアルキルエーテルリン酸及びその塩、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のN−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、N−ココイルメチルタウリンナトリウム等のN−アシルタウリン塩、テトラデセンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、POE(3)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のPOEアルキルエーテル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤等が挙げられる。POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレンの略である。
【0040】
等張化剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0041】
増粘剤としては、アラビアゴム末、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ソルビトール、デキストラン70、トラガント末、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マクロゴール4000等が挙げられる。
【0042】
キレート剤としては、エデト酸、エデト酸塩類(エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム)、ニトリロ三酢酸及びその塩、トリヒドロキシメチルアミノメタン、ヘキサメタリン酸ソーダ、クエン酸等が挙げられる。
【0043】
安定化剤としては、前記エデト酸、前記エデト酸塩類、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0044】
pH調節剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸、硫酸、酢酸等が挙げられる。
【0045】
防腐剤及び保存剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、グルコン酸クロロヘキシジン、塩酸クロロヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、アルキルジアミノエチルグリシン、クロロブタノール等が挙げられる。
【0046】
本発明の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物は、公知の方法に従って製造することができる。
【0047】
本発明の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物のpHは、特に制限されるものではないが、眼に対する安全性等を考慮すれば、好ましくは約5.0〜9.0、さらに好ましくは5.5〜8.5の範囲に調整することが望ましい。pHの調整は前記pH調整剤を使用することによって行われる。また、組成物と生理食塩液との浸透圧比(眼科用組成物の浸透圧/生理食塩液の浸透圧)を好ましくは0.5〜2.5、より好ましくは0.7〜1.5に調整することが望ましい。また、組成物の浸透圧は、140〜700mOsm程度であることが好ましく、より好ましくは200〜420mOsmである。なお、浸透圧の測定は、浸透圧計によって行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
試験例1 微生物付着抑制効果評価試験
試験菌は緑膿菌(Pseudomonas aerginosa ATCC9027)を用い、試験レンズは2ウィークアキュビュー(ジョンソン・アンド・ジョンソン株式会社製)を用いた。試験液は、表1に記載の処方に基づき、ポリソルベート80、Pluronic(登録商標)F127他を、それぞれ表に記載の濃度(w/v)%となるように調製した。
【0049】
試験方法は以下の手順とした(n=5で試験実施)。
(1)レンズを12穴マルチプレートに入れた各試験液5mLに4時間浸漬した。
(2)滅菌したピンセットを使ってレンズを試験液から取り出し水滴を軽くふき取ってから、1×107CFU/mLに調整した試験菌液5mLに30分間浸漬した。
(3)浸漬後、レンズを試験菌液から取り出して水滴を軽くふき取ってから、スピッツ管に入れた5mLの市販のダルベッコリン酸食塩緩衝液(pH7.5、浸透圧300mOsm)に移し、手で穏やかに1分間浸とうした。
(4)レンズを(3)の緩衝液から取り出して軽く水滴をふき取ってから、新しいダルベッコリン酸食塩緩衝液にレンズを移し、超音波で3分間処理後、vortexで激しく1分攪拌した。
(5)上記(4)の緩衝液中の生菌数を、適宜希釈してメンブレンフィルター法で測定し、付着菌数とした。
【0050】
表1に記載の組成となるように調製した試験液について、菌付着抑制効果を評価した。付着抑制率(%)は、試験液(比較例又は実施例)における付着菌数を対照試験液における付着菌数で除した比率とした。結果は表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
試験の結果、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート80:モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン 括弧内の数字は付加モル数を示す。)とリン酸水素ナトリウム、リン酸2水素ナトリウムを組み合わせた組成物中に4時間コンタクトレンズを浸漬することによって、コンタクトレンズに緑膿菌が付着するのを顕著に抑制することができることが示された。また、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとリン酸水素ナトリウム、リン酸2水素ナトリウムを組み合わせた組成物中に、さらにポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(プルロニックF127)を組み合わせた組成物中に浸漬した場合には、微生物付着抑制効果がより高まることが確認された。
【0053】
一方、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーとリン酸水素ナトリウム、リン酸2水素ナトリウムを組み合わせた組成物中に4時間コンタクトレンズを浸漬しても、微生物付着抑制効果が十分得られなかった。
試験例2 微生物付着抑制効果評価試験
表2に記載の組成となるように調製した試験液(pH7.5)について試験例1と同様の方法で菌付着抑制効果を評価した結果を示す。付着抑制率(%)が、80%以上であるものを◎、60%以上80%未満であるものを○、60%未満であるものを×と評価した。
【0054】
【表2】

【0055】
試験の結果、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート80)と緩衝剤、非イオン性界面活性剤、l−メントール、抗菌剤を組み合わせた組成物中に4時間コンタクトレンズを浸漬することによって、コンタクトレンズに緑膿菌が付着するのを顕著に抑制することができることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびB)緩衝剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを1時間以上浸漬することを特徴とする、コンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着抑制方法。
【請求項2】
A)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、B)緩衝剤、およびC)非イオン性界面活性剤を含有するコンタクトレンズケア用組成物中に、コンタクトレンズを1時間以上浸漬することを特徴とする、コンタクトレンズ又はコンタクトレンズケースへの微生物付着抑制方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法に用いるコンタクトレンズケア用組成物。

【公開番号】特開2011−209757(P2011−209757A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149639(P2011−149639)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【分割の表示】特願2004−201165(P2004−201165)の分割
【原出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】