説明

コンデンサマイクロホンユニット

【課題】組み立て時において、振動板の張力に個体差を発生させたり、振動板等に障害を与えることのないコンデンサマイクロホンユニットを提供すること。
【解決手段】周縁部が振動板ホルダ1によって支持された振動板2と、スペーサ3を介して前記振動板と所定の間隔をもって対向するように配置された固定電極5とが備えられ、前記振動板が樹脂製フィルムにより形成されると共に、前記固定電極5への対向面とは反対面において金属層2cが形成される。
前記金属層2cは前記振動板ホルダ1に達しない範囲で樹脂製フィルムの中央部を含む領域において形成され、かつ前記固定電極5の一部にはマグネット13が埋設されると共に、当該マグネットに吸着されて前記振動板の金属層2cに電気的に導通する引き出し端子14とが具備される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気音響変換に寄与しない浮遊容量による損失を低減するために、振動板のフィルム素材に部分蒸着を施したコンデンサマイクロホンユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサマイクロホンユニットは、音波により振動する振動板と固定電極(背面電極)とを所定間隔の空気層を介して対向させたコンデンサ要素を備え、前記振動板と固定電極との間隔が変化することによる前記コンデンサ(静電容量)の変化を電圧の変化として取り出すことで音声信号を得るようになされる。
【0003】
すなわち、前記振動板は樹脂製のフィルム素材に金属膜が蒸着等により形成され、振動板の前記金属膜とこの振動板に対峙する金属製の前記固定電極との間における静電容量に基づいて音声信号を得ることができる。
この場合、前記振動板は一般的にリング状の振動板ホルダに取り付けられ、同じくリング状のスペーサを介して前記固定電極に対峙するように配置されて、マイクロホンユニットが組み立てられる。これにより、振動板はリング状に形成された前記スペーサの厚さに対応した空気層を介して前記固定電極に対峙した構成にされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−71650号公報
【0005】
ところで、前記した振動板は、その周囲がリング状の振動板ホルダに取り付けられているため、振動板ホルダに近い前記振動板の外周付近は、音波を受けても機械的に振幅が制限されて、十分な振動作用を得ることができない。
すなわち、振動板の変位によって変化する有効静電容量と、音波を受けても十分な振動作用を得ることができないために静電容量が変化しない無効静電容量(浮遊容量)が存在することになる。
【0006】
図5は、前記した有効静電容量と無効静電容量とが存在する場合の等価回路を示したものであり、固定電極と振動板の金属膜からなる静電容量の変化に基づく出力をSとした場合、この出力Sに直列に有効静電容量Cbが接続され、前記出力Sと有効静電容量Cbの直列接続に対して並列に無効静電容量(浮遊容量)Csが接続されたものとなる。
したがって、前記した各静電容量の影響を受けるマイクロホンユニットによる音声出力レベルSoutは、Sout=S×(Cs/Cb+Cs)として示すことができる。
【0007】
すなわち、有効静電容量Cbと無効静電容量Csの値が例えば同じ値であれは、マイクロホンユニットによる音声出力レベルSoutは、本来の出力Sの半分になり、必然的にマイクロホン感度が半分に低下することになる。それ故、この種のコンデンサマイクロホンにおいては、前記した無効静電容量(浮遊容量)が極力小さくなるようにすることが望まれる。
【0008】
図6および図7は、前記した無効静電容量(浮遊容量)が極力小さくなるように設計された従来のコンデンサマイクロホンユニットの例を示すものである。
図6における(A)〜(F)は、マイクロホンユニットを構成する各部材を示すものであり、図7(A),(B)は、図6に示す各部材を重ね合わせてマイクロホンユニットとして組み立てた状態を示すものである。
【0009】
図6における(A)は、リング状に形成された振動板ホルダ1と、この振動板ホルダ1に取り付けられ、前面に金属層2cを部分蒸着した振動板2との組立体を示した正面図である。また(B)は(A)に示す振動板ホルダ1と振動板2との組立体を、その中央部において切断した状態の断面図である。
(C)はリング状に形成されたスペーサ3を示した正面図であり、(D)は前記スペーサ3の中央部に配置されるセンタースペーサ4を示した正面図である。さらに、(E)は、真鍮などの金属素材により形成された固定電極5を示した正面図であり、(F)は(E)に示す固定電極5を、その中央部において切断した状態の断面図である。
【0010】
図7(A),(B)は、前記したとおり、図6に示す各部材を重ね合わせてマイクロホンユニットとして組み立てた状態を示すものであり、(A)はユニットの正面図であり、(B)はユニットをその中央部において切断した状態の断面図である。
【0011】
図7に示すようにマイクロホンユニットとして組み立てる場合には、まず前記した固定電極5をベースとして組み立てられる。前記固定電極5は、前述したとおり真鍮などの金属素材により形成されると共に、その中央部には、柱状の絶縁体が埋め込まれて絶縁部5aが形成されている。また、固定電極5には面方向に貫通する複数の貫通孔(音孔)5dが適宜の位置に形成されている。
【0012】
そして、前記固定電極5の中央部における前記絶縁部5aに重ねるように、センタースペーサ4が載置され、また固定電極5の外周縁に沿ってリング状のスペーサ3が重ねられる。さらに、リング状のスペーサ3の上に振動板2を取り付けた振動板ホルダ1が重ね合わされる。
【0013】
この状態で、振動板2に形成された中央孔2a、センタースペーサ4に形成された中央孔4aを介して、図7に示すように固定電極5の前記絶縁部5aに対して、ビス7がねじ込まれる。この場合、前記振動板2の前面に導電性のワッシャ8およびラグ板9が配置されて、前記ビス7によって共締めされる。
【0014】
さらに、振動板ホルダ1の周縁部に周方向に等間隔に形成された複数の周縁孔1b、スペーサ3の周縁部に形成された周縁孔3bを介して、固定電極5の周縁部に沿って形成された複数のねじ孔5bにそれぞれビス11がねじ込まれて、マイクロホンユニットが組み立てられる。
なお、前記したラグ板9は、振動板2に部分蒸着された金属層2cの引き出し端子として機能する。
【0015】
ところで、前記振動板2の前面には図6(A)および図7(A)に示されたように金属層2cが部分蒸着により形成されている。この例においては、リング状の振動板ホルダ1に近い前記振動板2の外周部付近は、金属層2cの成膜を避けて、振動板ホルダ1と同心円の内側の領域に金属層2cが成膜されている。
【0016】
前記した金属層2cの部分蒸着によると、音波を受けても十分な振動作用を得ることができない振動板ホルダ1に近い振動板2の外周部付近は、金属層2cを成膜せずに静電容量が形成されないように構成されている。
これによると、前記した無効静電容量(浮遊容量)の形成度合いを低くすることができるので、電気音響変換に寄与しない浮遊容量による損失を低減させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、図6および図7に示したマイクロホンユニットによると、ユニットの組み立て時において、振動板2に部分蒸着された金属層2cの引き出し端子としてのラグ板9が、ビス7によって取り付けられる。
この取り付けの際の前記ビス7の締め込み動作に伴って、ラグ板9およびワッシャ8が、ビス7の締め込み方向に回転して、振動板2に対して回転方向に応力を加えることになる。
【0018】
このために、振動板2の張力に個体差が発生し、時には前記ビス7の締め込み部分を中心にして振動板2に放射状のしわを発生させるなど、前記ビス7の締め込み動作に基づいて、振動板等に障害を与えるという問題を含んでいる。
【0019】
この発明は前記した問題点に着目してなされたものであり、部分的に金属層を形成した振動板に対する引き出し電極の装着に際し、前記した振動板の張力に個体差を発生させたり、振動板等に障害を与えることのないコンデンサマイクロホンユニットを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかるコンデンサマイクロホンユニットは、周縁部が振動板ホルダによって支持された振動板と、スペーサを介して前記振動板と所定の間隔をもって対向するように配置された固定電極とが備えられ、前記振動板が樹脂製フィルムにより形成されると共に、前記固定電極への対向面とは反対面において金属層が形成されてなるコンデンサマイクロホンユニットであって、前記金属層は前記振動板ホルダに達しない範囲で樹脂製フィルムの中央部を含む領域において形成され、かつ前記固定電極の一部にはマグネットが埋設されると共に、当該マグネットに吸着されて前記振動板の金属層に電気的に導通する引き出し端子とを具備したことを特徴とする。
【0021】
この場合、一つの好ましい形態においては、前記振動板ホルダはリング状に構成され、前記振動板ホルダの内側における当該振動板ホルダと同心円内の領域において、前記樹脂製フィルム上に前記金属層が形成される。
【0022】
一方、前記引き出し端子は、前記マグネットに吸着された状態において、さらに接着剤を利用して前記振動板の金属層上に装着されていることが望ましい。
加えて、前記引き出し端子は、好ましくは前記マグネットに吸着される平板部と、当該平板部に対して鉛直方向に樹立された端子接触部より構成される。
【0023】
また、前記固定電極に埋設されたマグネットの一つの好ましい形態においては、長手方向に磁極が形成された棒状のマグネット本体と、有底筒状のつぼ型ヨークとにより構成され、前記マグネット本体の一方の磁極が前記つぼ型ヨークの内底面に接触した状態に構成される。
【発明の効果】
【0024】
前記した構成のマイクロホンユニットによると、振動板に形成された金属層からの引き出し端子は、固定電極の一部に埋設されたマグネットに吸着されて前記金属層上に装着され、前記金属層に電気的に導通した状態になされる。
したがって、従来のビス留めにより振動板の金属層に引き出し端子を固定する構造のマイクロホンユニットにおける問題点を解消することができ、振動板の張力に個体差を発生させたり、振動板等に障害を与えることのないコンデンサマイクロホンユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明にかかるコンデンサマイクロホンユニットの各部材を分解して示した構成図である。
【図2】図1に示す各部材を重ね合わせてマイクロホンユニットとして組み立てた状態を示す正面図および断面図である。
【図3】図2に示すマイクロホンユニットの一部を拡大して示した断面図である。
【図4】図2に示すマイクロホンユニットにおいて好適に用いることができるマグネット部分の構成例を示した模式図である。
【図5】無効静電容量が存在する場合の損失の度合いを説明する等価回路である。
【図6】従来のマイクロホンユニットの各部材を分解して示した構成図である。
【図7】図6に示す各部材を重ね合わせて組み立てた従来のマイクロホンユニットの正面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明にかかるコンデンサマイクロホンユニットについて、図1および図2に基づいて説明する。なお、図1および図2においては、すでに説明した図6および図7に示す各部と同一の機能を果たす部分を同一符号で示しており、したがってその詳細な説明は適宜省略する。
図1および図2に示すこの発明にかかるマイクロホンユニットの特徴点は、固定電極の一部にマグネットが埋設されると共に、当該マグネットに吸着されて前記振動板の金属層に電気的に導通する引き出し端子が具備された点にある。
【0027】
このマイクロホンユニットにおける振動板ホルダ1には、樹脂フィルムによる振動板2が取り付けられている。また、この実施の形態においては前記振動板ホルダ1は、図1(A)および図2に示すようにリング状に構成されており、リング状の振動板ホルダの内側における当該振動板ホルダと同心円内の領域において、振動板2上に金属層2cが形成されている。
【0028】
すなわち、前記金属層2cは、前記振動板ホルダ1に達しない範囲で、樹脂製フィルムの中央部を含む領域において蒸着により形成され、前記振動板ホルダ1に近い前記振動板2の外周部付近は、金属層2cの成膜を避けた構成になされている。
【0029】
前記した金属層2cの部分蒸着により、音波を受けても十分な振動作用を得ることができない振動板ホルダ1に近い振動板2の外周部付近に、前記した無効静電容量(浮遊容量)が形成されないように工夫されている。これにより、前記した浮遊容量の発生による音声信号の損失を低減させることができる。
【0030】
加えて、このマイクロホンユニットにおいては、固定電極5の一部、すなわち図1(F)および図2(B)に示すように、固定電極5の中央部に形成された絶縁部5a内にマグネット13が埋設されている。
また、図2に示されているように前記マグネット13に対向する前記振動板2の金属層2c上には、鉄合金などにより形成された引き出し端子14が配置され、前記引き出し端子14は、前記マグネット13に吸引されて、振動板2の金属層2c上に装着され、金属層2cに電気的に導通した状態になされている。
【0031】
前記マグネット13と前記引き出し端子14のより詳細な構成を図3に拡大して示している。図3に示す前記マグネット13は、長手方向の両端にそれぞれ着磁したものであり、その一方の端部における例えばN極が、振動板2側に向くようにして前記絶縁部5a内に埋設されている。
一方、鉄合金などにより形成された前記引き出し端子14は、円板状に形成された平板部14aと、当該平板部に対して鉛直方向に樹立されたロッド状の端子接触部14bより構成されている。
【0032】
前記引き出し端子14における平板部14aを、前記振動板2のほぼ中央部に載置することで、前記平板部14aは、金属層2cが蒸着された振動板2、センタースペーサ4を介して、前記マグネット13側に吸引される。これにより、前記引き出し端子14は金属層2cに電気的に導通した状態なされる。
したがって、引き出し端子14の平板部14aに鉛直方向に形成された前記端子接触部14bを利用して振動板2に形成された前記金属層2cにおける電位を引き出すことができる。
【0033】
なお、前記した引き出し端子14は、振動板2の金属層2c上に、接着剤により装着する構成を採用ことが望ましい。この場合、引き出し端子14を前記振動板2の金属層2c上に載置し、前記マグネット13により吸着された状態で、前記接着剤が塗布される。
すなわち、図3に示すように前記平板部14aの周囲に接着剤15を塗布し固化させることで、前記引き出し端子14を安定した状態で取り付けることができる。
【0034】
前記した接着剤15としては、例えばホットメルトを好適に用いることができる。この接着剤は塗布後に熱照射することで、容易に固化させることができるので、扱いが容易であり、この種のコンデンサマイクロホンユニットにおける生産性の向上に寄与することができる。
【0035】
なお、図1〜図3に示した実施の形態においては、固定電極5の中央部に形成された絶縁部5aに長手方向の両端にそれぞれ着磁したマグネット13を埋設した構成にされているが、この構成に代えて図4に示す構成を採用することもできる。
すなわち、図4に示すマグネット13の構成は、長手方向に磁極がなされた棒状のマグネット本体13aと、有底筒状のつぼ型ヨーク13bより構成されている。
【0036】
そして、前記マグネット本体13aの一方の磁極が前記つぼ型ヨーク13bの内底面の中央部に接触した状態に構成される。
この構成によると、前記つぼ型ヨーク13bが作用して、前記引き出し端子14との間で効果的に閉磁路を形成させることができる。
【0037】
以上説明したこの発明にかかるコンデンサマイクロホンユニットによると、固定電極の一部にマグネットが埋設されると共に、当該マグネットに吸着されて振動板の金属層に電気的に導通する引き出し端子を備えた構成にされているので、従来のビス留めにより振動板の金属層上に引き出し端子を固定する構造のマイクロホンユニットにおける問題点を解消することができ、前記した発明の効果の欄に記載したとおりの独自の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 振動板ホルダ
2 振動板
2a 中央孔
2c 金属層
3 スペーサ
3b 周縁孔
4 センタースペーサ
4a 中央孔
5 固定電極
5a 絶縁部
5b 周縁ねじ孔
5d 連通孔(音孔)
7 ビス
8 ワッシャ
9 ラグ板
11 ビス
13 マグネット
13a マグネット本体
13b つぼ型ヨーク
14 電極端子
14a 平板部
14b 端子接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部が振動板ホルダによって支持された振動板と、スペーサを介して前記振動板と所定の間隔をもって対向するように配置された固定電極とが備えられ、前記振動板が樹脂製フィルムにより形成されると共に、前記固定電極への対向面とは反対面において金属層が形成されてなるコンデンサマイクロホンユニットであって、
前記金属層は前記振動板ホルダに達しない範囲で樹脂製フィルムの中央部を含む領域において形成され、かつ前記固定電極の一部にはマグネットが埋設されると共に、当該マグネットに吸着されて前記振動板の金属層に電気的に導通する引き出し端子とを具備したことを特徴とするコンデンサマイクロホンユニット。
【請求項2】
前記振動板ホルダはリング状に構成され、前記振動板ホルダの内側における当該振動板ホルダと同心円内の領域において、前記樹脂製フィルム上に前記金属層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたコンデンサマイクロホンユニット。
【請求項3】
前記引き出し端子は、前記マグネットに吸着された状態において、さらに接着剤により前記振動板の金属層上に装着されていることを特徴とする請求項1に記載されたコンデンサマイクロホンユニット。
【請求項4】
前記引き出し端子は、前記マグネットに吸着される平板部と、当該平板部に対して鉛直方向に樹立された端子接触部より構成されていることを特徴とする請求項1または請求項3に記載されたコンデンサマイクロホンユニット。
【請求項5】
前記固定電極に埋設されたマグネットは、長手方向に磁極が形成された棒状のマグネット本体と、有底筒状のつぼ型ヨークとにより構成され、前記マグネット本体の一方の磁極が前記つぼ型ヨークの内底面に接触して構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載されたコンデンサマイクロホンユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−227614(P2012−227614A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91385(P2011−91385)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】