説明

コンバインの操縦装置

【課題】座乗姿勢のオペレータによって刈取装置の下方側の田面を目視でき、且つ立ち姿勢のオペレータが安定した姿勢で操縦ハンドルを操作でき、且つオペレータが四輪自動車の操縦との相違を明確に認識して操縦できるようにしたコンバインの操縦装置を提供するものである。
【解決手段】操縦ハンドル13の回動操作によって左右の走行クローラの旋回半径を変更するように構成してなるコンバインの操縦装置において、操縦ハンドル13は、ハンドル軸86に連結する平面視半円形状の後半輪体312と、後半輪体312に連結する平面視半円形状の前半輪体313とによって形成し、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置A、乃至後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Bに、前半輪体313を移動可能に構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取装置によって圃場の未刈り穀稈を刈取り、刈取った穀稈を脱穀装置によって脱穀して、穀粒を収集するコンバインに係り、より詳しくは、走行機体を支持する左右の走行クローラと、走行機体の進路を変更する操縦ハンドルとを備えるコンバインの操縦装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な四輪自動車の操縦ハンドルと同様に、丸ハンドル形状に操縦ハンドルを形成し、運転座席に座乗したオペレータによって操縦ハンドルを回動操作し、コンバインの走行進路を変更するように構成している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この場合、従来のコンバインの操縦装置においては、圃場の未刈り穀稈列に追従して移動する操縦(条合せ操作)と、圃場の枕地で次行程の刈取り作業位置に移動する操縦(90度又は180度の旋回操作)とが実行可能に構成されている。また、左右方向に延長した横ハンドル杆と、横ハンドル杆の両端側に設けた左右のグリップとから操縦ハンドルを形成する構成(例えば、特許文献2参照)も公知である。
【特許文献1】特開2002−274421号公報
【特許文献2】特開2000−308409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術は、特許文献1に示されるように、操縦ハンドルが丸ハンドル形状に形成されている場合、運転座席に座乗したオペレータと刈取装置の下方との間に操縦ハンドルの前部が配置されるから、刈取装置の下方側を目視するためのオペレータの視界を確保できない等の問題がある。
【0005】
そこで、特許文献2に示されるように、丸ハンドル形状の前側部分が欠落した形状に操縦ハンドルを形成した場合、刈取装置の下方側を目視するためのオペレータの視界を確保できる。しかしながら、コンバインの収穫作業形態として回り刈り作業があり、圃場の畦際等に沿って移動する回り刈り作業によって未刈り穀稈を刈取る場合、運転座席から立った姿勢でオペレータが未刈り穀稈を確認しながら移動する。その場合、特許文献2に示された操縦ハンドルでは、立ち姿勢のオペレータの腰又は大腿部の近傍に横ハンドル杆の両端側に設けた左右のグリップが位置するから、オペレータが両手を大腿部に近づけた不安定な姿勢で、左右のグリップを握る必要があった。
【0006】
他方、一般的な四輪自動車の操縦(操縦ハンドルの最大切角が1回転以上)に比べ、コンバインの操縦は、操縦ハンドルの切角を少なくして、未刈り穀稈列に追従する操縦性を向上し、且つオペレータの負担を軽減している。特許文献1に示されるように、コンバインの操縦では、操縦ハンドルの最大切角を約135度にしている。圃場の未刈り穀稈列に追従して移動する操縦(操縦ハンドルの切角が約15度以下の旋回操作、条合せ操作)と、圃場の枕地で次行程の刈取り作業位置に移動する操縦(操縦ハンドルの切角が約100度又は約135度の旋回操作、枕地での方向転換操作)とが実行される。そのため、例えば、昼休みに、オペレータが、軽トラック(小形貨物自動車)に乗って、圃場と家とを往復した後で、コンバインを再び操縦する場合、軽トラックの操縦感覚で、コンバインの操縦ハンドルを誤操作することにより、操縦ハンドルの切角が必要以上に大きくなり、圃場の未刈り穀稈列に対してコンバインの進路が大きく変更されて、未刈り穀稈列に対してコンバインが斜行する等の問題がある。
【0007】
本発明の目的は、座乗姿勢のオペレータによって刈取装置の下方側の田面を目視でき、且つ立ち姿勢のオペレータが安定した姿勢で操縦ハンドルを操作でき、且つオペレータが四輪自動車の操縦との相違を明確に認識して操縦できるようにしたコンバインの操縦装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明のコンバインの操縦装置は、刈取装置及び脱穀装置を搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行クローラと、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部とを備え、前記操縦ハンドルの回動操作によって前記左右の走行クローラの旋回半径を変更するように構成してなるコンバインの操縦装置において、前記操縦ハンドルは、ハンドル軸に連結する平面視半円形状の後半輪体と、前記後半輪体に連結する平面視半円形状の前半輪体とによって形成し、前記後半輪体から前方に延長する丸ハンドル形成位置、乃至前記後半輪体の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置に、前記前半輪体を移動可能に構成したものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインの操縦装置において、前記後半輪体の両端側に前記前半輪体の両端側を左右の連結軸体にて連結し、前記連結軸体回りに前記前半輪体が回動するように構成したものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインの操縦装置において、前記前半輪体の支持姿勢を維持するロック機構を備え、前記後半輪体の前側の丸ハンドル形成位置、又は前記後半輪体の前方下側の半円形ハンドル形成位置に、前記ロック機構を介して、前記前半輪体を支持するように構成したものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、刈取装置及び脱穀装置を搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行クローラと、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部とを備え、前記操縦ハンドルの回動操作によって前記左右の走行クローラの旋回半径を変更するように構成してなるコンバインの操縦装置において、前記操縦ハンドルは、ハンドル軸に連結する平面視半円形状の後半輪体と、前記後半輪体に連結する平面視半円形状の前半輪体とによって形成し、前記後半輪体から前方に延長する丸ハンドル形成位置、乃至前記後半輪体の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置に、前記前半輪体を移動可能に構成したものである。そのため、前記後半輪体の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置に、前記前半輪体を移動することによって、座乗姿勢のオペレータの視界を確保して、座乗姿勢のオペレータによって刈取装置の下方側の田面を簡単に目視できる。また、前記後半輪体から前方に延長する丸ハンドル形成位置に、前記前半輪体を移動することによって、立ち姿勢のオペレータが前記前半輪体を握って、立ち姿勢のオペレータが安定した姿勢で操縦ハンドルを簡単に操作できる。また、前記後半輪体の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置に、前記前半輪体を移動することによって、座乗姿勢のオペレータが前記後半輪体を握って、オペレータが四輪自動車の丸ハンドル形状の操縦ハンドルとの相違を明確に認識して操縦できるものである。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、前記後半輪体の両端側に前記前半輪体の両端側を左右の連結軸体にて連結し、前記連結軸体回りに前記前半輪体が回動するように構成したものであるから、前記後半輪体に前記左右の連結軸体を介して前記前半輪体を簡単に連結でき、且つ前記左右の連結軸体の間、即ち前記後半輪体の両端の間に、オペレータの視界を確保するための空間を簡単に形成できるものである。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、前記前半輪体の支持姿勢を維持するロック機構を備え、前記後半輪体の前側の丸ハンドル形成位置、又は前記後半輪体の前方下側の半円形ハンドル形成位置に、前記ロック機構を介して、前記前半輪体を支持するように構成したものであるから、前記後半輪体の前側の丸ハンドル形成位置に前記ロック機構によって前記前半輪体を高剛性に支持でき、前記後半輪体の前側の丸ハンドル形成位置からの前記前半輪体の脱落を簡単に防止できる。また、前記後半輪体の前方下側の半円形ハンドル形成位置に前記ロック機構によって前記前半輪体を確実に支持でき、前記後半輪体の前方下側の半円形ハンドル形成位置の前記前半輪体と他の構成部品との干渉等を簡単に防止できる。前記後半輪体に対して前記前半輪体を脱着する手間等を省略できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1はコンバインの左側面図、図2はコンバインの平面図、図3は動力伝達系統のスケルトン図、図4は主変速レバー及び操向ハンドルと油圧駆動装置との連結関係を示す斜視説明図、図5は運転部の平面図、図6はステアリングコラムの平面図、図7は操縦ハンドルの側面図、図8は操縦ハンドルの平面図である。図1及び図2を参照しながら、コンバインの全体構造について説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0015】
本実施形態のコンバインは、左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、穀稈を刈り取りながら取り込む4条刈り用の刈取装置3が、単動式の昇降用油圧シリンダ4によって刈取回動支点軸4a回りに昇降調節可能に装着されている。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留する穀粒タンク7とが横並び状に搭載されている。本実施形態では、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、穀粒タンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀粒タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で、穀粒タンク7の前側方には、運転部10が設けられている。
【0016】
運転部10には、オペレータが搭乗するステップ11と、ステップ11上のハンドルコラム12に設けた操縦ハンドル13と、操縦ハンドル13の後方に設けた運転座席14と、運転座席14の左側方のレバーコラム15に設けた主変速レバー16、及び副変速レバー17、及び脱穀クラッチレバー18、及び刈取クラッチレバー19とが、配置されている。運転座席14の下方には、動力源としてのエンジン20が配置されている。
【0017】
刈取装置3の刈取回動支点軸4aに連結した刈取フレーム221の下方には、圃場の未刈り穀稈の株元を切断するバリカン式の刈刃装置222が設けられている。刈取フレーム221の前方には、圃場の未刈り穀稈を引起す4条分の穀稈引起装置223が配置されている。穀稈引起装置223とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置222によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置224が配置されている。なお、穀稈引起装置223の下部前方には、圃場の未刈り穀稈を分草する4条分の分草体225が突設されている。エンジン20にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3を駆動して圃場の未刈り穀稈を連続的に刈取ることになる。
【0018】
脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴226と、扱胴26の下方に落下する脱粒物を選別する揺動選別盤227及び唐箕ファン228と、扱胴226の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴229と、揺動選別盤227の後部の排塵を排出する排塵ファン(図示省略)とを備えている。なお、扱胴226の回転軸はフィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。刈取装置3から穀稈搬送装置224によって搬送された穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴226にて脱穀されることになる。
【0019】
揺動選別盤227の下方側には、揺動選別盤227にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ231と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ232とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ231,232は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ231、二番コンベヤ232の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。
【0020】
揺動選別盤227は、扱胴226の下方に張設された受網(図示省略)から漏下した脱穀物が、図示しないフィードパン及びチャフシーブ等によって搖動選別(比重選別)されるように構成している。なお、揺動選別盤227のグレンシーブ(図示省略)から落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン228からの選別風によって除去され、一番コンベヤ231に落下することになる。
【0021】
一番コンベヤ231のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀筒233が連通接続されている。一番コンベヤ231から取出された穀粒は、揚穀筒233を介して穀粒タンク7に搬入され、穀粒タンク7に収集されることになる。なお、二番コンベヤ232のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁から外向きに突出した終端部は、揚穀筒233と交差して前後方向に延びる還元筒236を介して、揺動選別盤227のフィードパンの上面側に連通接続され、二番物を揺動選別盤227のフィードパンの上面側に戻して再選別するように構成している。
【0022】
一方、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン234が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン234に受け継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方側に設けた排藁カッタ235にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出されることになる。
【0023】
図3に示す如く、走行クローラ2を駆動するミッションケース22は、直進油圧ポンプ23及び直進油圧モータ24からなる直進用HST式無段変速機構25(直進用油圧駆動装置)と、旋回油圧ポンプ26及び旋回油圧モータ27からなる旋回用HST式無段変速機構28(旋回用油圧駆動装置)とを備えている。これら両HST式無段変速機構25,28においては、エンジン20の出力軸21に直進及び旋回油圧ポンプ23,26の入力軸29a,29bを伝達ベルト30a,30bによって連結させ、各油圧ポンプ23,26を駆動するように構成している。
【0024】
直進油圧モータ24の出力軸31には、副変速機構32及び差動機構33を介して左右走行クローラ2の各駆動輪34を連動連結させている。差動機構33は左右対称状に配置された一対の遊星ギヤ機構35,35を有している。各遊星ギヤ機構35は1つのサンギヤ36と、該サンギヤ36の外周で噛合う3つのプラネタリギヤ37と、これらプラネタリギヤ37に噛合うリングギヤ38などで形成している。
【0025】
プラネタリギヤ37は、サンギヤ軸39と同軸線上に位置したキャリヤ軸40のキャリヤ41にそれぞれ回転自在に軸支させ、左右のサンギヤ36,36を挟んで左右のキャリヤ41を対向配置させている。リングギヤ38は、各プラネタリギヤ37に噛み合う内歯38aを有していてキャリヤ軸40に回転自在に軸支されている。キャリヤ軸40は左右外向きに延びていて車軸を形成しており、その先端部に駆動輪34が取り付けられている。
【0026】
直進用HST式無段変速機構25は、直進油圧ポンプ23の回転斜板の角度変更調節により直進油圧モータ24の正逆回転と回転数の制御を行うものである。この場合、直進油圧モータ24の回転出力を、出力軸31の伝達ギヤ42から各ギヤ43,44,45及び副変速機構32を経由してサンギヤ軸39に固定したセンタギヤ46に伝達し、その結果、サンギヤ36を回転させるように構成している。
【0027】
副変速機構32は、ギヤ44を有する副変速軸47と、ギヤ45を介してセンタギヤ46に噛合う(高速用)ギヤ48を有する駐車ブレーキ軸49とを備えている。副変速軸47とブレーキ軸49との間には、各一対の低速用ギヤ50,51、中速用ギヤ52,53、高速用ギヤ54,48を設けており、低中速スライダ55及び高速スライダ56のスライド操作にて副変速の低速・中速・高速の切換を行うように構成している。
【0028】
なお、副変速の低速・中速間及び中速・高速間には中立(副変速の出力が零になる位置)を有する。駐車ブレーキ軸49には駐車ブレーキ57を設けている。また、刈取部3に回転力を伝達する刈取PTO軸58には、ギヤ59,60及び一方向クラッチ61を介して副変速軸47を連結させ、刈取部3を車速同調速度で駆動している。
【0029】
上記のように、センタギヤ46からサンギヤ軸39に伝達された直進油圧モータ24の駆動力を、左右の遊星ギヤ機構35を介して左右キャリヤ軸40に伝達させると共に、左右キャリヤ軸40に伝達された回転動力を左右の駆動輪34にそれぞれ伝え、左右走行クローラ2を駆動するように構成している。
【0030】
旋回用HST式無段変速機構28は、旋回油圧ポンプ26の回転斜板の角度変更調節により旋回油圧モータ27の正逆回転と回転数の制御を行うものである。この場合、ミッションケース22内には、操向出力ブレーキ62を有するブレーキ軸63と、操向出力クラッチ64を有するクラッチ軸65と、前記の左右リングギヤ38の外歯38bに常時噛合させる左右入力ギヤ66,67とを備えている。
【0031】
旋回油圧モータ27の出力軸68に前記ブレーキ軸63及び操向出力クラッチ64を介してクラッチ軸65を連結させ、クラッチ軸65に正転ギヤ69を介して右入力ギヤ67を連結させている。また、クラッチ軸65には正転ギヤ69及び逆転ギヤ70を介して左入力ギヤ66を連結させている。
【0032】
低中速及び高速スライダ55,56を中立にして操向出力ブレーキ62を入にし且つ操向出力クラッチ64を切にすることにより、旋回油圧モータ27からの回転動力の伝達が阻止される。
【0033】
また、前記中立以外の副変速出力時に操向出力ブレーキ62を切にし且つ操向出力クラッチ64を入にすることにより、旋回油圧モータ27の回転動力は、正転ギヤ69を介して右側のリングギヤ38の外歯38bに伝達されると共に、正転ギヤ69及び逆転ギヤ70を介して左側のリングギヤ38の外歯38bに伝達される。その結果、旋回油圧モータ27の正転(逆転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ38が逆転(正転)し、右リングギヤ38が正転(逆転)する。
【0034】
而して、旋回油圧モータ27を停止させて左右のリングギヤ38を静止固定させた状態で、直進油圧モータ24を駆動すると、直進油圧モータ24からの回転出力はセンタギヤ46から左右のサンギヤ36に同一回転数で伝達され、左右の遊星ギヤ機構35のプラネタリギヤ37及びキャリヤ41を介して、左右の走行クローラ2が左右同一回転方向で同一回転数にて駆動し、機体の前後方向直進走行が行われる。
【0035】
一方、直進油圧モータ24を停止させて左右のサンギヤ36を静止固定させた状態で、旋回油圧モータ27を正逆回転駆動すると、左側の遊星ギヤ機構35が正或いは逆回転し且つ右側の遊星ギヤ機構35が逆或いは正回転し、左右の走行クローラ2を逆方向に駆動し、機体を左或いは右に旋回させる。
【0036】
また、直進油圧モータ24を駆動させながら、旋回油圧モータ27を駆動することにより、機体が左右に旋回して進路が修正される。機体の旋回半径は旋回油圧モータ27の出力回転数によって決定される。
【0037】
次に、図4及び図5を参照しながら、運転部10周辺の構造について説明する。図5に示す如く、運転部10の前部上面にはハンドルコラム12を立設固定させている。ハンドルコラム12の上方に操縦ハンドル13を水平回転自在に配置している。運転部10左側にはレバーコラム15を設け、レバーコラム15下方にミッション22を配設している。レバーコラム15には、直進操作体としての主変速レバー16、副変速レバー17、刈取クラッチレバー19、脱穀クラッチレバー18を配置している。また、ハンドルコラム12は、アルミニウム合金鋳物を成形加工して形成し、左右に分割自在な2つ割れ構造になっている。この2つ割れ構造のハンドルコラム12は複数のボルトにて締結して箱形に形成している。
【0038】
図4及び図5に示すように、ハンドルコラム12には、その上部に形成された支持部材としてのチルト台78と、当該チルト台78に回転自在に軸支されたハンドル軸86と、ハンドル軸86の上端に取付けられた前述の操縦ハンドル13とを備えている。チルト台78には、ハンドルコラム12内部の略中央で上下方向に延びた操向入力軸87の上端部も回転自在に軸支されている。ハンドル軸86のギヤ88と操向入力軸87のセクタギヤ89を噛み合わせることにより、操縦ハンドル13と操向入力軸87とが動力伝達可能に連結されている。
【0039】
次に、図4を参照しながら、主変速レバー16及び操縦ハンドル13と、直進用HST式無段変速機構25(直進用油圧駆動装置)及び旋回用HST式無段変速機構28(旋回用油圧駆動装置)との連結構造について説明する。操縦ハンドル13のハンドル軸86と動力伝達可能に連結した操向入力軸87及び主変速レバー16は、ハンドルコラム12内に配置された機械的切換手段101に連動連結されている。
【0040】
機械的切換手段101は、
1.主変速レバー16を中立位置以外の位置に傾動操作した状態で、操縦ハンドル13を中立位置以外の位置に回動操作すると、その回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で機体が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど機体の車速(前進及び後退時の旋回速度)が減速する、
2.主変速レバー16を前進及び後進のいずれの方向に傾動操作した場合であっても、操縦ハンドル13の回動操作方向と機体の旋回方向とが一致する(前進及び後進の両方で、操縦ハンドル13を右に回せば機体は右旋回し、操縦ハンドル13を左に回せば機体は左旋回する)、
3.主変速レバー16が中立位置にあると操縦ハンドル13を操作しても機能しない、
という各種動作を実行するために、主変速レバー16や操縦ハンドル13からの操作力を適宜変換して、ハンドルコラム12の底部に設けられた二重軸125,126(詳細は後述する)に伝達するように構成されている。
【0041】
実施形態の機械的切換手段101は、機体の進行方向を変更するための操向機構118と、機体の車速(走行速度)の変更及び前後進の切換を行うための変速機構124とを備えている。まず、機械的切換手段101の具体的構造について説明する。図9及び図12に示すように、ハンドルコラム12の左側面で上下幅略中間には軸受部材90を着脱自在に固定させている。軸受部材90は、ベアリング92を介して変速入力軸91の一端部を回転自在に片持ち支持しており、変速入力軸91は軸受部材90にて左右方向に略水平な姿勢で軸支されている。
【0042】
図4に示すように、操向入力軸87下端は、自在継手93を介して入力支点軸94上端側に連結している。入力支点軸94には操向入力部材95を固定している。操向入力部材95は、ベアリングを介して変速入力軸91に回転自在に連結されている。自在継手93は、略垂直な操向入力軸87の軸心と、略水平な変速入力軸91の軸心とが、直交する交点箇所に、位置している。
【0043】
つまり、操向入力部材95は、操向入力軸87の正逆回転にて、当該操向入力軸87と同一且つ略垂直な軸心回りに正逆回転し、また、変速入力軸91の正逆回転にて、変速入力軸91と同一且つ略水平な軸心回りに、入力支点軸94と一緒に前後方向に傾動するように構成されている。また、操縦ハンドル13の回動操作にて操向入力軸87をその軸心回りに正逆回転させると、操向入力部材95は、操向入力軸87回りに正逆回転する。
【0044】
図4に示すように、ハンドルコラム12の下部前側には、第1変速軸としての横長の主変速軸99を回転自在に軸支させている。主変速軸99の左側端はハンドルコラム12の左側外方に突出させており、この突出端部が主変速リンク100を介してレバーコラム15上の主変速レバー16に連結されている。主変速レバー16は走行機体1の前進、停止、後退及びその車速を無段階に変更操作するためのものであり、主変速レバー16を前後方向に傾動操作すると、その操作力が主変速リンク100を介して主変速軸99に伝達され、当該主変速軸99をその軸心回りに正逆回転させる。
【0045】
また、主変速軸99は、ロッド型主変速部材110及び上リンク111及び下リンク112を介して変速入力軸91に連動連結されている。このため、主変速レバー16の前後傾動操作にて、主変速軸99をその軸心回りに正逆回転させると、変速入力軸91がその軸心回りに正逆回転し、その結果、操向入力部材95が入力支点軸94と一緒に前後傾動する。
【0046】
主変速軸99の外周には筒型の操向出力軸113が回転可能に被嵌されている。この操向出力軸113に固定されたリンク型操向出力部材114には、球関継手型操向出力連結部117を介してロッド型操向結合部材115の下端部が連結されている。ロッド型操向結合部材115の上端部は、自在継手型操向入力連結部116を介して操向入力部材95に連結されている。実施形態では、操向出力軸113、リンク型操向出力部材114、ロッド型操向結合部材115、自在継手型操向入力連結部116、及び球関継手型操向出力連結部117の組合せは、機体の走行進路を変更させるための操向機構118を構成している。
【0047】
ハンドルコラム12内部のうち操向出力軸113の上方箇所には、主変速軸99や操向出力軸113と平行状に延びる第2変速軸としての変速出力軸119が回転可能に軸支されている。この変速出力軸119に固定されたリンク型変速出力部材120には、球関継手型変速出力連結部123を介して変速結合部材121の下端部が連結されている。ロッド型変速結合部材121の上端部は、自在継手型変速入力連結部122を介して操向入力部材95に連結されている。実施形態では、変速出力軸119、リンク型変速出力部材120、ロッド型変速結合部材121、自在継手型変速入力連結部122、及び球関継手型変速出力連結部123の組合せが、機体の車速(走行速度)の変更及び前後進の切換を行うための変速機構124を構成している。
【0048】
次に、二重軸125,126から直進用HST式無段変速機構25(直進用油圧駆動装置)及び旋回用HST式無段変速機構28(旋回用油圧駆動装置)までの連結構造について説明する。図4に示すように、ハンドルコラム12の底部で且つ左右幅中央寄りの箇所に設けられた軸受部には、外側の旋回伝動筒軸125と内側の直進伝動軸125とからなる二重軸が縦長同心状で且つ互いに独立して回転可能に軸支されている。二重軸125,126の上端部はハンドルコラム12内に突出している一方、二重軸125,126の下端部は運転部10の下面側に突出している。
【0049】
旋回伝動筒軸126の上端部は、旋回伝動筒軸126から突出した旋回用上リンク部材133、操向出力軸113から突出した操向出力リンク132、及びこれらをつなぐ継手軸131を介して、操向出力軸113に連動連結されている。旋回伝動筒軸125の下端部は、旋回用HST式無段変速機構28から突出した旋回制御軸(図示省略)に、旋回用リンク機構138及び旋回リンク139を介して連動連結されている。
【0050】
旋回伝動筒軸125(旋回制御軸)は、旋回用HST式変速機構28における旋回油圧ポンプ26の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節するためのものであり、旋回用HST式変速機構28の変速出力を調節する調節部として機能する。すなわち、旋回伝動筒軸125(旋回制御軸)の正逆回転にて旋回油圧ポンプ26の斜板角調節をすることにより、旋回油圧モータ27の回転数制御及び正逆転切換を実行し、機体の操向角度(旋回半径)の無段階変更並びに左右旋回方向の切り換えが行われる。
【0051】
一方、直進伝動軸125の上下端部は旋回伝動筒軸125から更に上下外側に突き出ている。この直進伝動軸125の上端部には、リンク130が固着されている。リンク130は、継手軸128を介して、変速出力軸119から突出した変速出力リンク129に連結されている。直進伝動軸125の下端部は、直進用HST式無段変速機構25から突出した直進制御軸(図示省略)に、直進用リンク機構143及び直進リンク144を介して連動連結されている。直進伝動軸125(直進制御軸)は、直進用HST式無段変速機構25における直進油圧ポンプ23の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節するためのものであり、直進用HST式変速機構25の変速出力を調節する調節部として機能する。すなわち、直進伝動軸125(直進制御軸)の正逆回転にて直進油圧ポンプ23の斜板角調節をすることにより、直進油圧モータ24の回転数制御及び正逆転切換を実行し、走行速度(車速)の無段階変更並びに前後進の切り換えが行われる。
【0052】
次に、図4を参照しながら、主変速レバー16や操縦ハンドル13を操作したときの上記連結構造の挙動について説明する。
【0053】
主変速レバー16が中立位置のときは、操縦ハンドル13を左右回動操作しても、操向入力部材95、ロッド型操向結合部材115及びロッド型変速結合部材121が操向入力軸87の軸心回りの円錐軌跡Cに沿って移動するため、リンク型操向出力部材114、リンク型変速出力部材120、操向出力軸113及び変速出力軸119は停止状態に維持される。
【0054】
主変速レバー16を前方(後方)に倒す前進(後進)操作をしたときは、主変速軸99から下リンク112及びロッド型主変速部材110を経由した操作力により、操向入力部材95が変速入力軸91回りに前方(後方)に傾き、自在継手型操向入力連結部116が所定位置に停止した状態を保持しながら、自在継手型変速入力連結部122を上方(下方)に移動させ、リンク型変速出力部材120の上方(下方)揺動にて変速出力軸119を正転(逆転)させる。
【0055】
そうすると、変速出力軸119から、当該変速出力軸119側のリンク部材128〜130を経由した操作力にて、直進伝動軸125がその軸心回りに正転(逆転)し、この正転(逆転)にて直進用リンク機構143が押し引きされ、直進油圧ポンプ23の直進制御軸を正逆回転させる。その結果、機体(左右の走行クローラ2)は主変速レバー16の前後傾動操作量に比例して前進(後進)動作を実行する。
【0056】
主変速レバー16による前進(後進)操作をした状態で、操向ハンドル13を左方向(右方向)に回転させたときは、操向入力部材95が変速入力軸91回りに前方(後方)に傾いた姿勢で操向入力軸87回りに正転(逆転)して、自在継手型操向入力連結部116を下方(上方)に移動させ、リンク型操向出力部材114の下方(上方)揺動にて操向出力軸113を正転(逆転)させる。
【0057】
そうすると、操向出力軸113から、球関継手軸131、操向出力リンク132及び旋回用上リンク部材133を経由した操作力にて、旋回伝動筒軸126がその軸心回りに正転(逆転)し、この正転(逆転)にて旋回用リンク機構138が押し引きされ、旋回油圧ポンプ26の旋回制御軸を正逆回転させる。その結果、操縦ハンドル13の回動操作量に比例して、左走行クローラ2が減速(増速)方向に駆動する一方、右走行クローラ2が増速(減速)方向に駆動し、左(右)方向に機体を旋回させてその走行進路を修正する。
【0058】
この場合、前記の走行進路修正動作と同時に、操縦ハンドル13の左(右)回動操作にて、操向入力部材95が変速入力軸91回りに前方(後方)に傾いた姿勢で操向入力軸87回りに正転(逆転)して、自在継手型変速入力連結部122を下方(上方)に移動させ、リンク型変速出力部材120の下方(上方)揺動にて変速出力軸119を逆転(正転)させる。
【0059】
このため、変速出力軸119からの戻し操作力にて、直進伝動軸125はその軸心回りに逆転(正転)し、直進用リンク機構143が、操縦ハンドル13の回動操作量に比例して直進制御軸を逆転(正転)させ、そのときの旋回半径に対応して機体の前進(後進)直進速度を減速させる。
【0060】
すなわち、前記通常の場合は、主変速レバー16による前進(後進)操作をした状態で操縦ハンドル13を回動操作すると、操縦ハンドル13の回転操作量に比例して、進路を修正する旋回半径と走行速度の減速量が変化し、操縦ハンドル13の回動操作量が大きいほど、左右の走行クローラ2の速度差を大きくして旋回半径が小さくなると共に、走行速度の減速量が増して車速(直進速度)が遅くなる。
【0061】
また、前進時と後進時とでは、操縦ハンドル13の回動操作に対して自在継手型旋回入力連結部116の動きが逆になり、前後進の何れにおいても操縦ハンドル13の回動操作方向と機体の旋回方向とが一致する。
【0062】
次に、図5乃至図8を参照しながら、操縦ハンドル13の構造について説明する。図7及び図8に示す如く、操縦ハンドル13は、ハンドル軸86の上端側に固着するハンドルボス体310と、ハンドルボス体310に連結するハンドルスポーク体311と、グリップ(握り部)としての平面視半円形状の後半輪体312と、後半輪体312に連結するグリップ(握り部)としての平面視半円形状の前半輪体313とによって形成している。後半輪体312及び前半輪体313は、同一円周上に配置することによって、略円形の丸ハンドルのうち輪形状のグリップ(握り部)が形成されるように構成している。
【0063】
なお、操縦ハンドル13は、後半輪体312及び前半輪体313によって、略円形の丸ハンドルのグリップを形成するが、丸ハンドルとしては、後半輪体312及び前半輪体313によって、円輪形状のグリップ又は左右に長い楕円輪形状のグリップを形成したり、多角輪形状のグリップを形成してもよい。
【0064】
後半輪体312の両端側312aに前半輪体313の両端側313aを左右の連結軸体314にて連結する。左右の連結軸体314回りに前半輪体313を回動することによって、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置Aと、後半輪体312の上方側に突き出す立ち姿勢位置B乃至後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Cとに、前半輪体313を移動可能に構成している。
【0065】
即ち、後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Cに前半輪体313を支持した場合、後半輪体312によって、例えば飛行機(又は自転車)等と同様の半丸ハンドル形状(半円形グリップ形状)の操縦ハンドル13が形成される。その結果、運転座席14に座乗したオペレータの視線P(前方視界)(図1参照)から外れた位置に前半輪体313が支持され、運転座席14に座乗したオペレータの前方視界が確保され、座乗姿勢のオペレータによって刈取装置3の下方側の田面を簡単に目視できる。また、座乗姿勢のオペレータが後半輪体312のグリップ部312bを握ることによって、オペレータが四輪自動車の丸ハンドルとの相違を明確に認識して、操縦ハンドル13を操縦できる。
【0066】
したがって、四輪自動車の丸ハンドルの操作感覚で、操縦ハンドル13の切角を大きくする急ハンドル操作が防止される。例えば、略直線的な未刈り穀稈列315に沿って移動する条刈り作業において、オペレータが四輪自動車の丸ハンドルとの相違を認識しながら、オペレータが後半輪体312のグリップ部312bを握って、操縦ハンドル13を回動操作でき、操縦ハンドル13の切角が急激に変化して、略直線的な未刈り穀稈列315から走行機体1の進路が大きくずれる等の操縦ハンドル13の誤操作が未然に防止され、約20度以下の切角で操縦ハンドル13を回動する条合せ操作が実行されることになる。
【0067】
他方、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置Aに前半輪体313を支持した場合、後半輪体312と前半輪体313とによって、一般的な四輪自動車等と同様の丸ハンドル形状(円形グリップ形状)の操縦ハンドル13が形成される。例えば、圃場の畦際の穀稈を刈取る際刈り作業又は回り刈り作業等において、ステップ11上に立ったオペレータが、操縦ハンドル13によって遮られない視線Rで(図1参照)、前半輪体313のグリップ部313aを握って姿勢を維持しながら、走行機体1の前側の下方を目視して、操縦ハンドル13(後半輪体312と前半輪体313)を回動操作して操縦し、走行機体1の進路を修正して未刈り穀稈列に合わせることになる。
【0068】
また、後半輪体312の上方側に突き出す立ち姿勢位置Bに前半輪体313を支持した場合、後半輪体312と前半輪体313とによって、一般的な四輪自動車等と同様の丸ハンドル形状(円形グリップ形状)の操縦ハンドル13を形成しながら、半円形グリップ形状の前半輪体313の左右幅の中間部が、丸ハンドル形成位置Aより高位置に支持されるから、例えば高い身長のオペレータであっても、ステップ11上に立ったオペレータが、大きく腰を曲げることなく、前半輪体313の左右幅の中間部のグリップ部313aを握って、操縦ハンドル13を回動操作できる。
【0069】
図7及び図8に示されるように、上述した左右の連結軸体314上には、前半輪体313の支持姿勢を維持するロック機構316を配置する。ロック機構316は、後半輪体312に固着するロックケース317と、ロックケース317内の連結軸体314に被嵌するロックギヤ318と、ロックギヤ318に係脱可能に係止するロック爪319と、ロックギヤ318からロック爪319を離脱させる解除レバー320とを有する。ロックギヤ318は、連結軸体314に固着されている。ロック爪319は、ロックケース317に回動可能に軸支されている。解除レバー320は、ロックケース317にスライド可能に支持されている。
【0070】
ロック爪319は、図示しないバネによってロックギヤ318に係止維持される。そのため、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置A、又は後半輪体312の上方側に突き出す立ち姿勢位置B、又は後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Cのいずれか一方に、ロックギヤ318とロック爪319との係合によって、ロック機構316を介して、前半輪体313が支持されることになる。一方、解除レバー320の操作によって、図示しないバネに抗して、ロックギヤ318からロック爪319が離脱されることにより、連結軸体314回りに前半輪体313を多段的に回動させて、丸ハンドル形成位置A、又は立ち姿勢位置B、又は半円形ハンドル形成位置Cに、前半輪体313を移動できる。
【0071】
なお、後半輪体312の右端側312aには、刈取装置3を昇降したり、走行機体1の進路を微調整するための作業スイッチ321を配置している。また、後半輪体312の左端側312aには、ホーンを鳴らして周囲に警報するためのホーンスイッチ322を配置している。
【0072】
上記の構成により、図1、図2に示される4条刈り用コンバインでは、条刈り作業等において、後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Cに前半輪体313を支持した状態下で、運転座席14に座乗したオペレータの目線Pによって最右端側の分草体225を目視できる。また、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置Aに前半輪体313を支持したり、後半輪体312の上方側に突き出す立ち姿勢位置Bに前半輪体313を支持した状態であっても、際刈り又は回り刈り作業等において、運転座席14から立った立ち姿勢のオペレータの目線Pによって、穀稈引起装置223の上端側の引起ゲート223a越しに、最右端側の分草体225と、隣の分草体225との間の、最右端側の未刈り穀稈列315を目視できる。
【0073】
また、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置Aに前半輪体313を支持したり、後半輪体312の上方側に突き出す立ち姿勢位置Bに前半輪体313を支持した場合、運転座席14から立った立ち姿勢のオペレータが、前半輪体313を握って安定した立ち姿勢を保つことができる。
【0074】
次に、図9及び図10を参照しながら、本発明の第2実施形態の2条刈り用コンバインの操縦構造について説明する。図9及び図10に示す如く、2条刈り用刈取装置3aには、圃場の未刈り穀稈を引起す2条分の穀稈引起装置223と、穀稈を分草する2条分の分草体225とが配置されている。なお、図1及び図2に示す4条刈り用コンバインと同一部品名の箇所には、同一符号を付して、その説明を省略する。上述した4条刈り用コンバインと同様に、2条刈り用コンバインにおいても、条刈り作業等において、後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Cに前半輪体313を支持した状態下で、運転座席14に座乗したオペレータの目線Pによって最右端側の分草体225を目視できる。また、際刈り又は回り刈り作業等において、運転座席14から立った立ち姿勢のオペレータの目線Pによって、最右端側の未刈り穀稈列315を目視できる。また、運転座席14から立った立ち姿勢のオペレータが、丸ハンドル形成位置A又は立ち姿勢位置Bの前半輪体313を握って安定した立ち姿勢を保つことができる。
【0075】
次に、図11及び図12を参照しながら、本発明の第3実施形態の操縦ハンドル13の構造について説明する。図11及び図12に示す如く、前半輪体313のグリップ部313bに補助ハンドル13aを配置する。補助ハンドル13aは、左右の棒形状のハンドルアーム325と、オペレータが左右の手で握る左右のグリップ326とを有する。ハンドルアーム325は左右方向に延長した軸形状に形成し、ハンドルアーム325の外側端側にグリップ326を固着している。また、前半輪体313のグリップ部313bに、ハンドルアーム325の内側端側を出入可能に挿入している。グリップ部313bには、デデント機構327を配置する。即ち、グリップ部313bにハンドルアーム325の内側端側を退入した位置と、グリップ部313bからハンドルアーム325の内側端側を進出した位置とに、デデント機構327によってハンドルアーム325が支持されるように構成している。
【0076】
上記の構成により、条刈り作業等において、後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Cに前半輪体313及び補助ハンドル13aを支持した状態下で、運転座席14に座乗したオペレータの目線Pによって最右端側の分草体225を目視できる。また、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置Aに前半輪体313及び補助ハンドル13aを支持したり、後半輪体312の上方側に突き出す立ち姿勢位置Bに前半輪体313及び補助ハンドル13aを支持した状態であっても、際刈り又は回り刈り作業等において、運転座席14から立った立ち姿勢のオペレータの目線Pによって、穀稈引起装置223の上端側の引起ゲート223a越しに、最右端側の分草体225と、隣の分草体225との間の、最右端側の未刈り穀稈列315を目視できる。
【0077】
また、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置Aに前半輪体313及び補助ハンドル13aを支持したり、後半輪体312の上方側に突き出す立ち姿勢位置Bに前半輪体313及び補助ハンドル13aを支持した場合、運転座席14から立った立ち姿勢のオペレータが、前半輪体313に設けたハンドルアーム325のグリップ326を握って安定した立ち姿勢を保つことができる。グリップ部313bに対してハンドルアーム325を出入することによって、左右のグリップ326を左右方向に移動できる。
【0078】
即ち、左右のグリップ326の一方または両方を左右方向に移動して、左右のグリップ326の間隔を拡大又は縮小できる。オペレータの体格等に応じて使い易い位置に左右のグリップ326を支持できる。特に、後半輪体312の上方側に突き出す立ち姿勢位置Bに前半輪体313及び補助ハンドル13aを支持した場合、ハンドルアーム325及び左右のグリップ326が、オートバイ(自動二輪車)の一文字ハンドルと同様の形状に形成されるから、立ち姿勢のオペレータが左右のグリップ326を握ることによって、操縦ハンドル13を簡単に操作できる。
【0079】
上記の記載及び図1、図7、図8から明らかなように、刈取装置3,3a及び脱穀装置5を搭載した走行機体1と、走行機体1を支持する左右の走行クローラ2と、操縦ハンドル13及び運転座席14を有する運転部10とを備え、操縦ハンドル13の回動操作によって左右の走行クローラ2の旋回半径を変更するように構成してなるコンバインの操縦装置において、操縦ハンドル13は、ハンドル軸86に連結する平面視半円形状の後半輪体312と、後半輪体312に連結する平面視半円形状の前半輪体313とによって形成し、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置A、乃至後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Bに、前半輪体313を移動可能に構成したものである。そのため、後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Bに、前半輪体313を移動することによって、座乗姿勢のオペレータの視界を確保して、座乗姿勢のオペレータによって刈取装置3,3aの下方側の田面を簡単に目視できる。また、後半輪体312から前方に延長する丸ハンドル形成位置Aに、前半輪体313を移動することによって、立ち姿勢のオペレータが前半輪体313を握って、立ち姿勢のオペレータが安定した姿勢で操縦ハンドル13を簡単に操作できる。また、後半輪体312の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置Bに、前半輪体313を移動することによって、座乗姿勢のオペレータが前記後半輪体312を握って、オペレータが四輪自動車の丸ハンドル形状の操縦ハンドルと、操縦ハンドル13との相違を明確に認識して操縦できる。
【0080】
上記の記載及び図7、図8から明らかなように、後半輪体312の両端側に前半輪体313の両端側を左右の連結軸体314にて連結し、連結軸体314回りに前半輪体313が回動するように構成したものであるから、後半輪体312に左右の連結軸体314を介して前半輪体313を簡単に連結でき、且つ左右の連結軸体314の間、即ち後半輪体312の両端の間に、オペレータの視界を確保するための空間を簡単に形成できる。
【0081】
上記の記載及び図7、図8から明らかなように、前半輪体313の支持姿勢を維持するロック機構316を備え、後半輪体312の前側の丸ハンドル形成位置A、又は後半輪体312の前方下側の半円形ハンドル形成位置Bに、ロック機構316を介して、前半輪体313を支持するように構成したものであるから、後半輪体312の前側の丸ハンドル形成位置Aにロック機構316によって前半輪体313を高剛性に支持でき、後半輪体312の前側の丸ハンドル形成位置Aからの前半輪体313の脱落を簡単に防止できる。また、後半輪体312の前方下側の半円形ハンドル形成位置Bにロック機構316によって前半輪体313を確実に支持でき、後半輪体316の前方下側の半円形ハンドル形成位置Bの前半輪体313と他の構成部品との干渉等を簡単に防止できる。後半輪体312に対して前半輪体313を脱着する手間等を省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施形態の4条刈り用コンバインの側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】動力伝達系統のスケルトン図である。
【図4】主変速レバー及び操向ハンドルと油圧駆動装置との連結関係を示す斜視説明図である。
【図5】運転部の平面図である。
【図6】ステアリングコラムの平面図である。
【図7】操縦ハンドルの側面図である。
【図8】操縦ハンドルの平面図である。
【図9】本発明の第2実施形態の2条刈り用コンバインの側面図である。
【図10】同平面図である。
【図11】本発明の第3実施形態の操縦ハンドルの側面図である。
【図12】同平面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 走行機体
2 走行クローラ
3 刈取装置
5 脱穀装置
10 運転部
13 操縦ハンドル
14 運転座席
86 ハンドル軸
312 後半輪体
313 前半輪体
314 連結軸体
316 ロック機構
A 丸ハンドル形成位置
B 半円形ハンドル形成位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取装置及び脱穀装置を搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行クローラと、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部とを備え、前記操縦ハンドルの回動操作によって前記左右の走行クローラの旋回半径を変更するように構成してなるコンバインの操縦装置において、
前記操縦ハンドルは、ハンドル軸に連結する平面視半円形状の後半輪体と、前記後半輪体に連結する平面視半円形状の前半輪体とによって形成し、
前記後半輪体から前方に延長する丸ハンドル形成位置、乃至前記後半輪体の下方側に折畳む半円形ハンドル形成位置に、前記前半輪体を移動可能に構成したことを特徴とするコンバインの操縦装置。
【請求項2】
前記後半輪体の両端側に前記前半輪体の両端側を左右の連結軸体にて連結し、前記連結軸体回りに前記前半輪体が回動するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバインの操縦装置。
【請求項3】
前記前半輪体の支持姿勢を維持するロック機構を備え、前記後半輪体の前側の丸ハンドル形成位置、又は前記後半輪体の前方下側の半円形ハンドル形成位置に、前記ロック機構を介して、前記前半輪体を支持するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバインの操縦装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−141985(P2008−141985A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330893(P2006−330893)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】