説明

コンバイン

【課題】 走行用ミッションケースの潤滑油を作動油として使用するものでありながら組み立て作業を有利に行えるようにでき、しかもバルブ機構の点検も行いやすいコンバインを提供する。
【解決手段】 自走機体の前部に、走行用ミッションケース20を設けるとともに刈取り部を揺動昇降自在に連結し、刈取り部を昇降操作する油圧シリンダ16を備えてある。走行用ミッションケース20の潤滑油を油圧シリンダ16に作動油として供給する油圧ポンプ52と、油圧ポンプ52によって油圧シリンダ16に供給される油に作用するオイルフィルタ50とを、走行用ミッションケース20の横壁部20aに設けてある。油圧シリンダ16を制御するバルブ機構57を、走行ミッションケース20の上端部20bに設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自走機体の前部に、走行用ミッションケースを設けるとともに刈取り部を揺動昇降自在に連結し、前記刈取り部を昇降操作する油圧シリンダを備えたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のコンバインとして、従来、たとえば特許文献1に示されるものがあった。
特許文献1に記載されたコンバインは、刈取部と油圧シリンダとミッション部とを備えている。
油圧シリンダは、刈取部を昇降操作する。
ミッション部は、静油圧式無段変速装置を備え、静油圧式無段変速装置の変速操作によって無段変速自在な前進走行と後進走行とを現出する。
【0003】
この種のコンバインにおいて、従来、走行用ミッションケースの潤滑油を油圧シリンダの作動油として使用するに当たり、油圧ポンプをエンジンに設け、油圧シリンダのバルブ機構を運転部に設けていた。
【0004】
【特許文献1】特開平5−49329号公報(段落〔0007〕、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の従来のコンバインでは、コンバインの組み立てを行うに当たり、エンジンの自走機体への取り付けと、運転部の組み立てと、走行用ミッションケースの自走機体への取り付けとを完了すると、バルブ機構と油圧シリンダとを接続する作業の他に、油圧ポンプと走行用ミッションケースとを接続する作業と、油圧ポンプとバルブ機構とを接続する作業とを行わねばならず、組み立て作業に手間が掛かっていた。
【0006】
本発明の目的は、走行用ミッションケースの潤滑油を作動油として使用するものでありながら組み立て作業を有利に行えるようにでき、しかもバルブ機構の点検も行いやすいコンバインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本第1発明は、自走機体の前部に、走行用ミッションケースを設けるとともに刈取り部を揺動昇降自在に連結し、前記刈取り部を昇降操作する油圧シリンダを備えたコンバインにおいて、
前記走行用ミッションケースの潤滑油を前記油圧シリンダに作動油として供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプによって前記油圧シリンダに供給される油に作用するオイルフィルタとを、前記走行用ミッションケースの横壁部に設け、
前記油圧シリンダを制御するバルブ機構を、前記走行ミッションケースの上端部に設けてある。
【0008】
本第1発明の構成によると、油圧ポンプとオイルフィルタとバルブ機構とを自走機体に組み付ける前の走行用ミッションケースに取り付けておき、油圧ポンプとオイルフィルタとバルブ機構とが取り付けられた状態にある走行用ミッションケースを自走機体に組み付けるという組み立て方法を採用すれば、コンバインの組み立て作業の際、走行用ミッションケースと油圧ポンプとを接続する作業と、油圧ポンプとバルブ機構とを接続する作業とを不要にできる。
【0009】
この種のコンバインでは、バルブ機構の点検などの際、走行用ミッションケースの自走機体前方側から行うことが多い。本第1発明の構成によると、油圧ポンプとオイルフィルタとを走行用ミッションケースの横壁部に設け、バルブ機構を走行用ミッションケースの上端部に設けたものだから、油圧ポンプとオイルフィルタとによる影響を受けにくい状態でバルブ機構を取り扱うことができる。
【0010】
従って、走行用ミッションケースの潤滑油を作動油に使用して油圧シリンダを駆動するものでありながら、コンバインの組み立てを行うに当たり、走行用ミッションケースと油圧ポンプとを接続する作業、および油圧ポンプとバルブ機構とを接続する作業を不要にして能率よく行うことができる。しかも、バルブ機構の点検などの際、油圧ポンプとオイルフィルタとが障害になりにくくて容易にかつ能率よく行うことができる。
【0011】
本第2発明では、前記刈取り部の下降作業状態で前記刈取り部の主フレームが前記油圧ポンプと前記オイルフィタとの直前方に位置する。
【0012】
中割刈り作業を可能にするには、刈取り部が自走機体の全幅又はほぼ全幅にわたる作業幅を備えた状態で自走機体の直前方に位置するよう構成する。すると、自走機体の前部に揺動昇降自在に連結される刈取り部の主フレームは、刈取り部の横方向での中心やその近くに位置することによって刈取り部を安定的に支持することから、刈取り部の主フレームと走行用ミッションケースとが近づく。
本第2発明の構成によると、刈取り部の下降作業状態で刈取り部の主フレームが油圧ポンプとオイルフィタとの直前方に位置するものだから、刈取り部の主フレームと油圧ポンプやオイルフィルタとの干渉を回避しながら、刈取り部の主フレームと走行用ミッションケースとを近づけることができ、刈取り部が自走機体の全幅又はほぼ全幅にわたる作業幅を備えた状態で自走機体の直前方に位置するようにできる。
【0013】
従って、走行用ミッションケースの横壁部に油圧ポンプやオイルフィルタを設けたものでありながら、中割刈り作業が可能なコンバインを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例に係るコンバインの全体側面図である。図2は、本発明の実施例に係るコンバインの全体平面図である。図3は、本発明の実施例に係るコンバインの正面図である。これらの図に示すように、本発明の実施例に係るコンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1によって自走する自走機体と、この自走機体の機体フレーム2の前部に連結された刈取り部10と、前記機体フレーム2の後側に自走機体横方向に並べて設けた脱穀装置3と穀粒タンク4とを備えて構成してある。
【0015】
このコンバインは、稲、麦などを収穫するものである。
すなわち、自走機体は、前記左右一対の走行装置1,1を備える他、前記穀粒タンク4の前方に位置する運転座席5が装備された運転部6を備え、前記運転座席5の下方に設けたエンジン7が装備された原動部を備えている。
【0016】
前記刈取り部10は、前記機体フレーム2の前部に前記運転部6の横側方で上下揺動自在に支持された主フレーム15aを有した刈取り部フレーム15を備えている。この刈取り部フレーム15は、前記主フレーム15aを備える他、この主フレーム15aの先端部に自走機体横方向に並べて連結された複数本の分草フレーム15bを備えて構成してある。刈取り部10は、前記刈取り部フレーム15が前記主フレーム15aと前記機体フレーム2とに連結された油圧シリンダ16によって機体フレーム2に対して上下に揺動操作されることにより、前記各分草フレーム15bの前端部に設けてある分草具11が地面近くに下降した下降作業状態と、前記分草具11が地面から高く上昇した上昇非作業状態とに昇降する。
【0017】
刈取り部10を下降作業状態にして自走機体を走行させると、刈取り部10は、前記分草具11によって植立穀稈を刈り取り対象と非刈り取り対象とに分草し、各分草具11からの刈り取り対象の植立穀稈を左右一対の引起し装置12,12のうちの対応する方の引起し装置12によって引起し処理するとともに一つのバリカン形の刈取り装置13によって刈取り処理し、刈取り穀稈を供給装置14によって機体後方向きに搬送して脱穀装置3の脱穀フィードチェーン3aに供給する。
【0018】
脱穀装置3は、脱穀フィードチェーン3aによって刈取り穀稈の株元側を機体後方向きに挟持搬送しながら穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理する。穀粒タンク4は、脱穀装置3からの脱穀粒を供給されて貯留する。
【0019】
図4は、走行用と刈り取り用との伝動構造の側面図である。この図に示すように、前記伝動構造は、前記機体フレーム2の前部に設けた走行用ミッションケース20を備え、この走行用ミッションケース20の上部に自走機体横向きに設けた入力軸21を伝動ベルト22を介して前記エンジン7の出力軸7aに連動させ、前記走行用ミッションケース20の下部に自走機体横向きに設けた左右一対の走行出力軸23,23の端部に、対応する側の前記走行装置1のクローラ駆動輪体1aを一体回転自在に設け、前記走行用ミッションケース20の上部に自走機体横向きに設けた刈取り出力軸24を伝動ベルト25を介して刈取り部10の入力軸17に連動させている。
【0020】
前記伝動ベルト22は、走行用ベルトテンションクラッチを構成している。刈取り部10の前記入力軸17は、前記主フレーム15aの機体フレーム2に回動自在に連結している基部15cに回転自在に支持されている。
【0021】
図6は、前記走行用ミッションケース20の縦断正面図である。この図に示すように、前記走行用ミッションケース20は、前記入力軸21と前記左右一対の走行出力軸23,23と前記刈取り出力軸24とを備える他、前記入力軸21をポンプ軸として備えた静油圧式無段変速装置31などによって前記入力軸21を前記左右一対の走行出力軸23,23に連動させる走行伝動機構30と、前記入力軸21に一体回転自在に設けた伝動ギヤ41などによって前記入力軸21を前記刈取り出力軸24に連動させる刈取り伝動機構40とを備えている。
【0022】
図6に示すように、前記走行伝動機構30は、前記静油圧式無段変速装置31を備える他、この静油圧式無段変速装置31のモータ軸32のギヤ部に噛み合った伝動ギヤ33と、この伝動ギヤ33の回転支軸34に一体回転自在に設けた伝動ギヤ35と、この伝動ギヤ35に噛み合った伝動ギヤ36と、この伝動ギヤ36が一体回転自在に連結している伝動軸37と、この伝動軸37の両端部に振り分けて設けた左右一対の噛み合い式の操向クラッチ38,38と、前記左側の操向クラッチ38の出力ギヤ38aに噛み合った状態で前記左側の走行出力軸23に一体回転自在に設けた伝動ギヤ39と、前記右側の操向クラッチ38の出力ギヤ38aに噛み合った状態で前記右側の走行出力軸23に一体回転自在に設けた伝動ギヤ39とを備えている。
【0023】
前記刈取り伝動機構40は、前記伝動ギヤ41を備える他、この伝動ギヤ41に噛み合った伝動ギヤ42と、この伝動ギヤ42の回転支軸43に一体回転自在に設けた伝動ギヤ44と、この伝動ギヤ44に噛み合った状態で刈取り出力軸24に一体回転自在に設けた伝動ギヤ45とを備えている。
【0024】
前記走行用ミッションケース20は、前記伝動軸37の両端側に振り分け配置した左右一対の操向ブレーキ60,60を備えている。前記各操向ブレーキ60は、前記操向クラッチ38の出力ギヤ38aに一体回転自在に係合した複数枚のブレーキプレートと、走行用ミッションケース20に係止された複数枚の摩擦プレートとを備えており、多板式の摩擦ブレーキになっている。
【0025】
図7は、前記油圧シリンダ16を操作する油圧回路図である。この図に示すように、前記油圧回路は、オイルフィルタ50を有した吸引油路51に接続された油圧ポンプ52と、この油圧ポンプ52から操向バルブ53に圧油を供給する給油路54と、この給油路54に切り換え弁55を有した給油路56を介して昇降バルブ57aが接続されているバルブ機構57と、このバルブ機構57のパイロット式逆止め弁57bを油圧シリンダ16に接続している操作油路58とを備えている。
【0026】
前記吸引油路51は、前記走行用ミッションケース20の油取り出し部に接続されている。図4,5,6に示すように、前記油圧ポンプ52と前記オイルフィルタ50とは、前記走行用ミッションケース20の前記入力軸21が突出している側とは反対側の横壁部20aに設けられている。前記油圧ポンプ52のポンプ軸(図示せず)は、前記入力軸21の端部に連設されている。
【0027】
前記操向バルブ53は、前記走行用ミッションケース20に設けた左右一対の油圧ピストン61,61を操作し、これによって前記操向クラッチ38と前記操向ブレーキ60とを操作する。前記切り換え弁55は、前記操向バルブ53と連動して操作され、操向バルブ53が旋回状態に切り換え操作されると前記給油路56を閉じ状態に切り換え操作し、操向バブル53が直進状態に切り換え操作されると、前記給油路56を開き状態に切り換え操作して前記給油路54からの圧油をバルブ機構57の昇降バルブ57aに供給する。
【0028】
前記バルブ機構57は、前記昇降バルブ57aと前記パイロット式逆止め弁57bとを備える他、この昇降バルブ57aとパイロット式逆止め弁57bとを収容するバルブケース57cとを備えて構成してある。このバルブ機構57は、前記昇降バルブ57aが切り換え操作されることにより、昇降バルブ57aによるパイロット油路67に対するパイロット圧油の給排によってパイロット式逆止め弁57bを昇降バルブ57aの操作状態に対応した開き又は閉じ状態に切り換え操作し、油圧シリンダ16に対する圧油の給排と給排停止とを行う。
【0029】
前記バルブ機構57の前記バルブケース57cは、前記昇降バルブ57aと前記パイロット式逆止め弁57bとを収容する他、前記操向バルブ53と、前記切り換え弁55と、前記給油路56と、前記給油路54に接続されたリリーフ弁62と、操向クラッチ38の操作油路64に接続されたリリーフ弁65及び可変リリーフ弁66を収容している。
【0030】
図4,5に示すように、前記バルブ機構57は、前記走行用ミッションケース20の上端部20bに設けてある。このバルブ機構57は、前記走行用ミッションケース20の上端部20bから上方に突出し、点検などの際、走行用ミッションケース20の自走機体前方側から油圧ポンプ52とオイルフィルタ50とによる障害を受けにくい状態で取り扱えるようになっている。
【0031】
つまり、油圧ポンプ52が走行用ミッションケース20の入力軸21によって駆動され、走行用ミッションケース20に貯留されている潤滑油をオイルフィルタ50を介して走行用ミッションケース20から取り出して給油路54と給油路56とを介して昇降バルブ57aに供給する。昇降バルブ57aに連動機構(図示せず)を介して連動させて運転部6に設けてある操作レバー68(図1−3参照)が操作されて昇降バルブ57aが上昇状態に切り換え操作されると、バルブ機構57が給油路56からの潤滑油を操作油路58を介して油圧シリンダ16に作動油として供給する。すると、油圧シリンダ16が伸長側に駆動されて刈取り部10を上昇操作する。昇降バルブ57aが下降状態に切り換え操作されると、バルブ機構57が油圧シリンダ16の圧油を操作油路58を介して排出する。すると、油圧シリンダ16が刈取り部10の荷重によって短縮側に駆動されて刈取り部10を下降操作する。
【0032】
図3に示すように、刈取り部10は、前記複数の分草具11のうちの自走機体横方向での両端に位置する分草具11の先端どうしの間隔で設定される作業幅Wを備えている。前記作業幅Wは、自走機体の全幅とほぼ等しくなっている。図3は、刈取り部10と自走機体との正面視での相対位置を示している。図4は、刈取り部10の下降作業状態での前記主フレーム15aと前記走行用ミッションケース20との側面視での相対位置を示している。図5は、刈取り部10の下降作業状態での前記主フレーム15aと前記走行用ミッションケース20との正面視での相対位置を示している。図4は、前記走行用ミッションケース20の側面視形状を示している。これらの図に示すように、刈取り部10は、前記作業幅Wを備える作業部位が自走機体の直前方に位置した状態で、かつ、刈取り部10と自走機体とが前後方向で寄り合った状態で機体フレーム2に連結している。
【0033】
すなわち、図4に示すように、走行用ミッションケース20は、前記入力軸21と前記オイルフィルタ50とが前記走行出力軸23よりも自走機体後方側に位置し、かつ前記刈取り出力軸24が前記入力軸21よりも自走機体後方側に位置するよう、走行用ミッションケース20の上部側が下部側に対して自走機体後方側に偏倚した側面視形状を備えている。刈取り部10が下降作業状態に下降された状態において前記主フレーム15aが前記オイルフィルタ50と前記油圧ポンプ51との直前方に位置する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】コンバインの全体平面図
【図3】コンバインの正面図
【図4】伝動構造の側面図
【図5】刈取り部の主フレームと走行用ミッションケースとの相対位置を示す正面図
【図6】走行用ミッションケースの縦断正面図
【図7】油圧回路図
【符号の説明】
【0035】
10 刈取り部
15a 主フレーム
16 油圧シリンダ
20 走行用ミッションケース
20a 横壁部
50 オイルフィルタ
52 油圧ポンプ
57 バルブ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走機体の前部に、走行用ミッションケースを設けるとともに刈取り部を揺動昇降自在に連結し、前記刈取り部を昇降操作する油圧シリンダを備えたコンバインであって、
前記走行用ミッションケースの潤滑油を前記油圧シリンダに作動油として供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプによって前記油圧シリンダに供給される油に作用するオイルフィルタとを、前記走行用ミッションケースの横壁部に設け、
前記油圧シリンダを制御するバルブ機構を、前記走行ミッションケースの上端部に設けてあるコンバイン。
【請求項2】
前記刈取り部の下降作業状態で前記刈取り部の主フレームが前記油圧ポンプと前記オイルフィタとの直前方に位置する請求項1記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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