説明

コンバイン

【課題】コンバインにおいて、刈取クラッチ89と脱穀クラッチ91とを所定の順序で入り切り作動させるための機構をできるだけ簡素化し、近年高まっているコストダウンの要請に応える。
【解決手段】本願発明に係るコンバインは、単一の電動モータ140の駆動にて回動軸143回りに回動可能な回動部材142と、脱穀クラッチ91と回動部材142をつなぐ脱穀リンク機構161と、刈取クラッチ89と回動部材142とをつなぐ刈取リンク機構151とを備える。回動部材142の初期位相から中途位相への回動にて、刈取クラッチ89が切り状態のままで脱穀クラッチ91を入り作動させ、回動部材142の中途位相から最終位相への回動にて、脱穀クラッチ91が入り状態のままで刈取クラッチ89を入り作動させるように、両リンク機構151,161と回動部材142とを連動連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、刈り取られた穀稈を脱穀して、脱穀物から清粒を選別・収集するコンバインに係り、より詳しくは、脱穀クラッチと刈取クラッチとを所定の順序で入り切り作動させる構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインは、エンジンが搭載された走行機体と、走行機体を支持する左右の走行部としての走行クローラと、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部と、圃場の未刈り穀稈を刈り取る刈取装置と、刈り取った穀稈を脱穀する脱穀装置とを備えており、圃場の未刈り穀稈を連続的に刈り取って脱穀し、穀粒を収集するように構成されている。
【0003】
この種のコンバインの中には、刈取装置への動力伝達を継断する刈取クラッチと、脱穀装置への動力伝達を継断する脱穀クラッチとを、所定の順序で入り切り作動させるクラッチ作動装置を備えたものがある(例えば特許文献1参照)。特許文献1のクラッチ作動装置は、単一の電動モータにて駆動する脱穀クラッチ用カム及び刈取クラッチ用カムを備えており、電動モータの駆動にて両クラッチ用カムを作動させ、それぞれのカムプロファイルの違いによって、両クラッチ共に切りの状態と、脱穀クラッチのみ入りの状態と、両クラッチ共に入りの状態とに切換可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3851858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の構成では、複雑な形状のカムプロファイルを有するカムを、脱穀クラッチ用と刈取クラッチ用との2種類備える必要があるため、クラッチ作動装置に要する部品コストが嵩み、近年高まっているコストダウンの要請にそぐわないという問題があった。
【0006】
そこで、本願発明は、刈取クラッチと脱穀クラッチとを所定の順序で入り切り作動させるための機構をできるだけ簡素化し、近年高まっているコストダウンの要請に応えることを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、刈取装置への動力伝達を継断する刈取クラッチと、脱穀装置への動力伝達を継断する脱穀クラッチとを備えているコンバインであって、単一の電動モータの駆動にて回動軸回りに回動可能な回動部材と、前記脱穀クラッチと前記回動部材をつなぐ脱穀リンク機構と、前記刈取クラッチと前記回動部材とをつなぐ刈取リンク機構とを備えており、前記回動部材の初期位相から中途位相への回動にて、前記刈取クラッチが切り状態のままで前記脱穀クラッチを入り作動させ、前記回動部材の中途位相から最終位相への回動にて、前記脱穀クラッチが入り状態のままで前記刈取クラッチを入り作動させるように、前記両リンク機構と前記回動部材とが連動連結されているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載したコンバインにおいて、前記刈取リンク機構は、前記回動部材の前記回動軸と平行な枢軸回りに回動可能な中継部材と、前記回動部材及び前記中継部材を連動して回動させる連係杆とを有しており、前記連係杆にその長手方向に延びるガイド溝穴が形成されており、前記ガイド溝穴に挿入された枢支ピンを介して、前記連係杆と前記回動部材と前記脱穀リンク機構とが連結されており、前記回動部材が初期位相から中途位相に回動するときは、前記枢支ピンが前記ガイド溝穴内をスライドして前記中継部材を連動させず、前記回動部材が中途位相から最終位相に回動するときは、前記枢支ピンが前記ガイド溝穴の縁部に当接して、前記連係杆を介して前記中継部材を入り方向に回動させるように構成されているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載したコンバインにおいて、前記脱穀リンク機構は前記脱穀クラッチを常時入り方向に付勢するばね手段を有しており、前記回動部材が中途位相から最終位相に回動する間に、前記ばね手段が支点越えするように設定されているというものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、刈取装置への動力伝達を継断する刈取クラッチと、脱穀装置への動力伝達を継断する脱穀クラッチとを備えているコンバインであって、単一の電動モータの駆動にて回動軸回りに回動可能な回動部材と、前記脱穀クラッチと前記回動部材をつなぐ脱穀リンク機構と、前記刈取クラッチと前記回動部材とをつなぐ刈取リンク機構とを備えており、前記回動部材の初期位相から中途位相への回動にて、前記刈取クラッチが切り状態のままで前記脱穀クラッチを入り作動させ、前記回動部材の中途位相から最終位相への回動にて、前記脱穀クラッチが入り状態のままで前記刈取クラッチを入り作動させるように、前記両リンク機構と前記回動部材とが連動連結されているから、前記単一の電動モータの駆動にて、前記刈取クラッチと前記脱穀クラッチとを所定の順序で入り切りできることになる。
【0011】
従って、特許文献1のように、複雑な形状のカムプロファイルを有するカムを、脱穀クラッチ用と刈取クラッチ用との2種類備える必要がなく、刈取クラッチと脱穀クラッチとを所定の順序で入り切りするための機構を、部品点数の少ない簡単な構造にでき、部品コストを抑制する一助になるという効果を奏する。また、刈取クラッチと脱穀クラッチとを所定の順序で入り切りするための機構のコンパクト化も図れる。なお、前記各クラッチの入り切りを自動制御したい場合は、前記単一の電動モータの駆動を制御するだけで済むから、簡単で且つ安価に構成することが可能になる。
【0012】
請求項2の発明では、前記刈取リンク機構は、前記回動部材の前記回動軸と平行な枢軸回りに回動可能な中継部材と、前記回動部材及び前記中継部材を連動して回動させる連係杆とを有しており、前記連係杆にその長手方向に延びるガイド溝穴が形成されており、前記ガイド溝穴に挿入された枢支ピンを介して、前記連係杆と前記回動部材と前記脱穀リンク機構とが連結されている。そして、前記回動部材が初期位相から中途位相に回動するときは、前記枢支ピンが前記ガイド溝穴内をスライドして前記中継部材を連動させず、前記回動部材が中途位相から最終位相に回動するときは、前記枢支ピンが前記ガイド溝穴の縁部に当接して、前記連係杆を介して前記中継部材を入り方向に回動させるように構成されている。
【0013】
このため、前記連係杆のガイド溝穴内に挿入された枢支ピンのスライド移動を利用するという簡単な構成によって、前記脱穀クラッチだけを入り状態にしたり、前記脱穀クラッチ及び前記刈取クラッチの双方を入り状態にしたりすることを確実に実行できる。つまり、単一の電動モータであっても、複雑な制御をすることなく簡単かつ確実に、刈取クラッチが切り状態のままで脱穀クラッチだけを入り状態にできる。また、脱穀クラッチと刈取クラッチとの入り切りのタイミングをずらすための機構が前記連係杆のガイド溝穴と前記枢支ピンとの組合せに過ぎないので、部品点数も少なくて済み、この点でも部品コストの抑制に寄与している。
【0014】
請求項3の発明によると、前記脱穀リンク機構は前記脱穀クラッチを常時入り方向に付勢するばね手段を有しており、前記回動部材が中途位相から最終位相に回動する間に、前記ばね手段が支点越えするように設定されているから、逆に、前記回動部材を最終位相から中途位相に回動させる場合も、前記ばね手段は支点越えしなければならないことになる。このため、前記ばね手段の支点越え作用にて、前記脱穀クラッチのみならず、前記刈取クラッチも併せて入り状態に保持し易いという効果を奏する。前記脱穀クラッチ及び前記刈取クラッチを入り状態に保持するに当たって、前記単一の電動モータに掛かる負荷(荷重)も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コンバインの左側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】動力伝達系統のスケルトン図である。
【図4】ミッションケース内部のスケルトン図である。
【図5】エンジン及びミッションケース周辺の動力伝達構造を示す左側面図である。
【図6】エンジン及びミッションケース周辺の動力伝達構造を示す斜視図である。
【図7】エンジン及びミッションケース周辺の動力伝達構造を示す平面図である。
【図8】(a)は両クラッチ共に切りの状態を示すクラッチ作動機構の説明図、(b)はそのときのクラッチレバーの状態を示す拡大側面図である。
【図9】(a)は脱穀クラッチのみ入りの状態を示すクラッチ作動機構の説明図、(b)はそのときのクラッチレバーの状態を示す拡大側面図である。
【図10】(a)は両クラッチ共に入りの状態を示すクラッチ作動機構の説明図、(b)はそのときのクラッチレバーの状態を示す拡大側面図である。
【図11】電動モータ及びセクタギヤの関係を示す作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0017】
(1).コンバインの概略構造
まず、図1及び図2を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。実施形態のコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2,2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取装置3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。
【0018】
走行機体1には、フィードチェン6付きの脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。この場合、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
【0019】
刈取装置3とグレンタンク7との間に設けられた操縦部9内には、走行機体1の旋回方向及び旋回速度を変更操作する旋回操作具としての操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。操縦座席11の一側方(左側方)に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行う直進操作具としての主変速レバー13、後述する直進用HST機構53の出力及び回転数を所定範囲に設定保持する副変速レバー14、刈取装置3及び脱穀装置5への動力継断操作用のクラッチレバー15が設けられている。
【0020】
主変速レバー13は、走行機体1の前進、停止、後退及びその車速を無段階に変更操作するためのものである。副変速レバー14は、作業状態に応じて後述するミッションケース18内の副変速機構51を変更操作し、後述する直進用HST機構53の出力及び回転数を、中立を挟んで低速と高速の2段階の変速段に設定保持するためのものである。
【0021】
クラッチレバー15は、刈取装置3の動力継断操作手段と脱穀装置5の動力継断操作手段とを1本で兼ねたものであり、サイドコラム12のクランク溝170(図7参照)に沿って前後傾動可能に構成されている。クラッチレバー15をクランク溝170の後端部に傾動させると刈取クラッチ89及び脱穀クラッチ91(図3、図5及び図6参照)が共に切り状態になり、クランク溝170の中途部に傾動させると脱穀クラッチ91のみが入り状態になり、クランク溝170の前端部にまで傾動させると両クラッチ89,91とも入り状態になる。
【0022】
操縦部9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方で且つ左右走行クローラ2の間には、エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。実施形態のエンジン17にはディーゼルエンジンが採用されている。
【0023】
刈取装置3は、バリカン式の刈刃装置19、4条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取装置3の骨組を構成する刈取フレーム41(図1参照)の下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム41の上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の送り始端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈取る。
【0024】
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び風選別機構25(唐箕ファン)とを備えている。扱胴23は脱穀装置5の扱室内に配置されている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、風選別機構25は前記脱穀物を風選別するためのものである。刈取装置3から送られてきた刈取穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれる。そして、刈取穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され、扱胴23にて脱穀処理される。なお、扱胴23の回転軸95は、フィードチェン6による刈取穀稈の送り方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びている(図3参照)。
【0025】
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方に横設されている。両選別機構24,25による選別を経て一番受け樋27内に集められた精粒等の一番物は、当該一番受け樋27内の一番コンベヤ29及び揚穀筒31内の揚穀コンベヤ32(図3参照)を介してグレンタンク7に送られる。
【0026】
枝梗付き穀粒等の二番物は、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから、二番受け樋28内の二番コンベヤ30及び還元筒33内の還元コンベヤ34(図3参照)を介して二番処理胴35に送られる。そして、二番物は、二番処理胴35にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸込まれて、脱穀装置5の後部に設けられた排出口(図示せず)から機外へ排出される。
【0027】
フィードチェン6の後方側(送り終端側)には排稈チェン37が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン37に受継がれた排稈(脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ38にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
【0028】
(2).コンバインの動力伝達系統
次に、図3及び図4を参照しながら、コンバインの動力伝達系統について説明する。
【0029】
エンジン17からの動力の一方は、走行クローラ2(刈取装置3)と脱穀装置5との2方向に分岐して伝達される。エンジン17からの他の動力は排出オーガ8に向けて伝達される。エンジン17から走行クローラ2に向かう分岐動力は一旦、プーリ・ベルト伝動系及びアイドルプーリ87を介して、ミッションケース18のHST機構53,54(詳細は後述する)に伝達される。この場合、エンジン17からの分岐動力は、ミッションケース18のHST機構53,54等にて適宜変速され、ミッションケース18から左右外向きに突出した駆動出力軸77を介して左右の駆動輪90に出力するように構成されている。
【0030】
ミッションケース18は、第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56からなる直進用HST機構53(直進用変速機)と、第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58からなる旋回用HST機構54(旋回用変速機)と、複数の変速段を有する副変速機構51と、左右一対の遊星ギヤ機構68等を有する差動機構52とを備えている(図4参照)。
【0031】
エンジン17の出力軸49からミッションケース18に向かう動力は、第1油圧ポンプ55から突出した第1ポンプ軸59aに伝達される。直進用HST機構53では、第1ポンプ軸59aに伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。第1ポンプ軸59aと、第2油圧ポンプ57から突出した第2ポンプ軸59bとは、各プーリ112,113、ベルト114及びアイドルプーリ88等の伝動系(図3及び図6参照)を介して動力伝達可能に連結されている。旋回用HST機構54では、第2ポンプ軸59bに伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。
【0032】
直進用HST機構53は、操縦部9に配置された主変速レバー13や操向ハンドル10の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0033】
直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ機構62を経由して副変速機構51に伝達される。副変速機構51は、操縦部9に配置された副変速レバー14の操作にて、直進用モータ軸60からの回転動力(回転方向及び回転数)の調節範囲を低速、中速又は高速という3段階の変速段に切り換えるものである。なお、副変速の低速・中速間及び中速・高速間には、中立(副変速の出力が0(零)になる位置)が設けられている。
【0034】
副変速機構51のうち上流側にある副変速軸51aは、ワンウェイクラッチ63等を介して、ミッションケース18に突設された刈取PTO軸64に動力伝達可能に連結されている。刈取PTO軸64に伝達された動力は、刈取クラッチ89の入り作動にて、刈取装置3の骨組を構成する横長の刈取入力パイプ42(図1参照)内にある刈取入力軸43を介して、刈取装置3の各装置19〜21に伝達される。このため、刈取装置3の各装置19〜21は、車速同調速度で駆動することになる。副変速機構51のうち下流側にある駐車ブレーキ軸65には、湿式多板ディスク等の駐車ブレーキ66が設けられている。
【0035】
副変速機構51の副変速軸51aから駐車ブレーキ軸65に伝達された回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から差動機構52に伝達される。差動機構52は、左右対称状に配置された一対の遊星ギヤ機構68を備えている。駐車ブレーキ軸65の副変速出力ギヤ67は、遊星ギヤ機構68と駐車ブレーキ軸65との間の中継軸69に取り付けられた中間ギヤ70に噛み合っており、中間ギヤ70は、サンギヤ軸75に固定されたセンタギヤ76(詳細は後述する)に噛み合っている。
【0036】
左右各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71の外周に噛み合う複数個の遊星ギヤ72と、これら遊星ギヤ72の外周に噛み合うリングギヤ73と、複数個の遊星ギヤ72を同一半径上に回転可能に軸支してなるキャリヤ74とをそれぞれ備えている。左右の遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を開けて相対向するように配置されている。左右の遊星ギヤ機構68の間に位置したサンギヤ軸75の中央部には、中間ギヤ70と噛合うセンタギヤ76が固着されている。サンギヤ軸75のうちセンタギヤ76を挟んだ両側にはサンギヤ71がそれぞれ固着されている。
【0037】
内周面の内歯と外周面の外歯とを有する左右の各リングギヤ73は、その内歯を複数個の遊星ギヤ72に噛み合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した駆動出力軸77に回転可能に軸支されている。駆動出力軸77の先端部には駆動輪90が取付けられている。従って、副変速機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、各キャリヤ74の駆動出力軸77から左右の駆動輪90に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を駆動させることになる。
【0038】
旋回用HST機構54においては、操向ハンドル10の回動操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0039】
実施形態では、ミッションケース18内に、操向ブレーキ79を有する操向ブレーキ軸78と、操向クラッチ81を有する操向クラッチ軸80と、左右リングギヤ73の外歯に常時噛み合う左右の入力ギヤ82,83とを備えている。第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61に、操向ブレーキ軸78及び操向クラッチ81を介して操向クラッチ軸80が連結されている。操向クラッチ軸80には、正転ギヤ84を介して右入力ギヤ83が連結されていると共に、正転ギヤ84及び逆転ギヤ85を介して左入力ギヤ82が連結されている。
【0040】
旋回用モータ軸68の回転動力は、操向ブレーキ軸78及び操向クラッチ81を介して操向クラッチ軸80に伝達され、操向クラッチ軸80に伝達された回転動力は、正転ギヤ84及び逆転ギヤ85から、これらに対応する左右の入力ギヤ82,83に伝達される。
【0041】
副変速機構51を中立にして、操向ブレーキ79を入り状態とし且つ操向クラッチ81を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。中立以外の副変速出力時に、操向ブレーキ79を切り状態とし且つ操向クラッチ81を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、正転ギヤ84及び右入力ギヤ83を介して右リングギヤ73に伝達される一方、正転ギヤ84、逆転ギヤ85及び左入力ギヤ82を介して左リングギヤ73に伝達される。その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)することになる。
【0042】
以上の構成から分かるように、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速機構51及び差動機構52を経由して左右の走行クローラ2の駆動輪90にそれぞれ伝達される。その結果、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決まる。
【0043】
すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力はセンタギヤ76から左右のサンギヤ71に同一回転数で伝達され、両遊星ギヤ機構68の遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動され、走行機体1が直進走行することになる。
【0044】
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58が駆動すると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左遊星ギヤ機構68が正又は逆回転し、右遊星ギヤ機構68は逆又は正回転する。そうすると、左右の走行クローラ2の駆動輪90のうち一方が前進回転、他方が後退回転するため、走行機体1はその場でスピンターンすることになる。
【0045】
また、第1油圧モータ56を駆動させつつ第2油圧モータ58を駆動させると、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながらスピンターン旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回することになる。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
【0046】
さて、図3に示すように、エンジン17からの動力のうち脱穀装置5に向かう分岐動力は、脱穀クラッチ91を介して脱穀入力軸92に伝達される。脱穀入力軸92には風選別機構25(唐箕ファン)が設けられている。脱穀入力軸92に伝達された動力の一部は、扱胴駆動軸93及びべベルギヤ機構94を介して、扱胴23の回転軸95と排稈チェン37とに伝達される。また、脱穀入力軸92からは、プーリ及びベルト伝動系を介して、一番コンベヤ29と揚穀コンベヤ32、二番コンベヤ30と還元コンベヤ34と二番処理胴35、揺動選別機構24の揺動軸97、排塵ファン36の排塵軸98、及び排稈カッタ38にも動力伝達される。排塵軸98を経由した分岐動力は、フィードチェンクラッチ99及びフィードチェン軸100を介してフィードチェン6に伝達される。
【0047】
なお、脱穀入力軸92からの動力は、刈取装置3に一定回転力を伝達する流し込みクラッチ101を介して刈取入力軸43にも伝達可能である。すなわち、ミッションケース18を経由せずに、エンジン17からの動力を刈取装置3に直接伝達することにより、車速の速い遅いに拘らず、一定の高速回転数にて刈取装置3を強制駆動させ得る構成になっている。
【0048】
エンジン17から排出オーガ8に向かう動力は、グレン入力ギヤ機構102及び動力継断用のオーガクラッチ103を介して、グレンタンク7内の底コンベヤ104及び排出オーガ8における縦オーガ筒内の縦コンベヤ105に動力伝達され、次いで、受継スクリュー106を介して、排出オーガ8における横オーガ筒内の排出コンベヤ107に動力伝達される。
【0049】
(3).エンジン周辺の動力伝達構造の詳細
次に、図3に加えて図5〜図7を参照しながら、エンジン17周辺の動力伝達構造の詳細について説明する。
【0050】
図5〜図7に示すように、エンジン17の出力軸49のうち走行機体1の中央側に突出した突出端部には、エンジン二連プーリ111が固着されている。一方、ミッションケース18の第1ポンプ軸59aには第1ポンプ二連プーリ112が固着されている。第2ポンプ軸59bには第2ポンププーリ113が固着されている。エンジン二連プーリ111のうちエンジン17から遠いものと、第1ポンプ二連プーリ112のうちミッションケース18から遠いものとには、無端ベルト114が巻き掛けられている。エンジン二連プーリ111と第1ポンプ二連プーリ112との間に配置されたアイドルプーリ87によって、無端ベルト114には常時テンションが掛けられている。
【0051】
第1ポンプ二連プーリ112のうちミッションケース18寄りのものと、第2ポンププーリ113とには、HST用ベルト115が巻き掛けられている。第1ポンプ二連プーリ112と第2ポンププーリ113との間に配置されたアイドルプーリ88によって、HST用ベルト115には常時テンションが掛けられている。
【0052】
ミッションケース18の一側面(左側面)からは、第1ポンプ軸59aと第2ポンプ軸59bと刈取PTO軸64とがいずれも同じ方向(走行機体1の左右中央側)に突出している。刈取PTO軸64に固着された刈取PTOプーリ116と、刈取装置3における刈取入力軸43の一端部(右端部)に設けられた刈取入力プーリ44(図3、図5及び図6参照)とには、刈取伝動ベルト117が巻き掛けられている。刈取PTOプーリ116と刈取入力プーリ44との間には、刈取伝動ベルト117に対するベルトテンション式の刈取クラッチ89が配置されている。
【0053】
エンジン二連プーリ111の後方には、脱穀入力軸92の一端部に固着された脱穀二連プーリ118が配置されている。エンジン二連プーリ111のうちエンジン17寄りのものと、脱穀二連プーリ118のうち風選別機構25(唐箕ファン)から遠いものとには、動力伝達用の脱穀伝動ベルト119が巻き掛けられている。エンジン二連プーリ111と脱穀二連プーリ118との間には、脱穀伝動ベルト119に対するベルトテンション式の脱穀クラッチ91が配置されている。
【0054】
図7に示すように、動力伝達用のベルト114,115,117,119群は、刈取装置3の穀稈搬送装置21と操縦部9の間に、平面視で列状に並ぶようにまとめて配置されている。換言すると、動力伝達用のベルト114,115,117,119群は、走行機体1における前側の左右中央部にまとめられている。また、視点を変えると、図5から分かるように、動力伝達用のベルト114,115,117,119群はサイドコラム12の下方に位置している。
【0055】
(4).両クラッチ及びこれらを作動させるための機構の詳細
次に、図3及び図5〜図7に加えて、図8〜図11を参照しながら、両クラッチ89,91及びこれらを作動させる構成の詳細について説明する。
【0056】
図5及び図6に示すように、刈取クラッチ89はベルトテンション式のものであり、刈取伝動ベルト117に後方から接触可能な刈取テンションプーリ121と、刈取伝動ベルト117が緊張・弛緩する前後方向に刈取テンションプーリ121を移動させるための刈取テンションアーム122とを備えている。
【0057】
実施形態では、操縦部9の骨組を構成する中間縦フレーム123と刈取装置3を支持する刈取架台(図示省略)との間に配置された横長のアーム軸124に、円筒部材125が回動可能に被嵌されている。円筒部材125の外周に、刈取テンションアーム122の基端部が溶接等にて固定されている。刈取テンションアーム122の先端部には刈取テンションプーリ121が回動可能に枢支されている。
【0058】
刈取テンションアーム122のアーム軸124回りの回動にて、刈取テンションプーリ121が刈取伝動ベルト117の中途部に後方から接離するように構成されている。刈取テンションプーリ121の接離にて刈取伝動ベルト117が緊張・弛緩する結果、刈取PTO軸64から刈取入力軸43への動力伝達が継断されることになる。
【0059】
刈取テンションアーム122の中途部に後ろ向き突設された固定板126には、刈取テンションプーリ121を刈取伝動ベルト117から離す方向に刈取テンションアーム122を付勢する戻しばね127の一端側が連結されている。戻しばね127の他端側は、刈取架台(図示省略)に突設されたピン軸128(図8〜図10参照)に引っ掛けられている。図8〜図10に示すように、円筒部材125に突設されたレバーアーム129は、刈取リンク機構151を介して、回動部材であるセクタギヤ142の突出アーム部144(詳細は後述する)に連動連結されている。
【0060】
図5〜図7に示すように、脱穀クラッチ91もベルトテンション式のものであり、脱穀伝動ベルト119に下方から接触可能な脱穀テンションプーリ131と、脱穀伝動ベルト119が緊張・弛緩する上下方向に脱穀テンションプーリ131を移動させるための脱穀テンションアーム132とを備えている。
【0061】
実施形態では、図7に示すように、脱穀入力軸92のうち脱穀二連プーリ118より更に外側に突出した部位に、脱穀テンションアーム132の基端部が回動可能に取り付けられている。脱穀テンションアーム132の先端部に脱穀テンションプーリ131が枢支軸133回りに回動可能に枢支されている。脱穀テンションアーム132の脱穀入力軸92回りの回動にて、脱穀テンションプーリ131が脱穀伝動ベルト119の中途部に下方から接離するように構成されている。脱穀テンションプーリ131の接離にて脱穀伝動ベルト119が緊張・弛緩する結果、エンジン17の出力軸49から脱穀入力軸92への動力伝達が継断されることになる。
【0062】
図8〜図10に示すように、脱穀テンションプーリ131の枢支軸133は、脱穀リンク機構161を介して、回動部材であるセクタギヤ142の突出アーム部144に連動連結されている。つまり、脱穀クラッチ91(脱穀テンションプーリ131及び脱穀テンションアーム132)は、脱穀リンク機構161を介して、セクタギヤ142の突出アーム部144に吊り下げ支持されている。
【0063】
図5及び図8〜図11に示すように、刈取クラッチ89及び脱穀クラッチ91には、単一の電動モータ140の駆動にて回動軸回りに回動可能な回動部材であるセクタギヤ142が、それぞれに対応するリンク機構151,161を介して関連付けられている。
【0064】
すなわち、サイドコラム12内にあるコラムパイプ138に取り付けられたブラケット板139に、正逆回転可能な電動モータ140が取り付けられている。ブラケット板139のうち電動モータ140の前方箇所には、回動部材としてのセクタギヤ142が横向きの回動軸143にて回動可能に枢着されている。セクタギヤ142は、電動モータ140のモータ出力軸に設けられた出力ギヤ141に噛み合わせている。これら両ギヤ141,142の噛み合いによって、電動モータ140からの回転駆動力が各リンク機構151,161を介して、それぞれ対応するクラッチ89,91に伝達され、各クラッチ89,91をそれぞれ対応する伝動ベルト117,119に接離させるように構成されている。
【0065】
セクタギヤ142は、電動モータ140による出力ギヤ141の正逆回転駆動にて、図8(a)及び図11の二点鎖線にて示す初期位相から、図9(a)及び図11の一点鎖線にて示す中途位相を経由して、図10(a)及び図11の実線にて示す最終位相までの範囲において、回動軸143回りに回動可能に構成されている。初期位相は両クラッチ89,91共に切りのときのセクタギヤ142の回動位置である。中途位相は脱穀クラッチ91のみ入りのときのセクタギヤ142の回動位置である。最終位相は両クラッチ89,91共に入りのときのセクタギヤ142の回動位置である。
【0066】
刈取リンク機構151は、セクタギヤ142の回動軸143と平行な枢軸153回りに回動可能な中継部材としての三角プレート152、セクタギヤ142及び三角プレート152を連動して回動させる連係杆154、並びに、三角プレート152と刈取クラッチ89とを連動させるための刈取クラッチバー155を備えている。
【0067】
実施形態では、ブラケット板139のうちセクタギヤ142より更に前方の箇所に、三角プレート152における第1のコーナ部が横向きの枢軸153にて回動可能に枢着されている。三角プレート152における第2のコーナ部に、連係杆154の一端部(前端部)が横向きの枢着ピンにて回動可能に枢着されている。
【0068】
連係杆154の他端部(後端部)には、その長手方向に延びるガイド溝穴156が形成されている。一方、セクタギヤ142から半径外向きに突出した突出アーム部144には枢支ピン157が固着されている。枢支ピン157は、連係杆154の他端部に形成されたガイド溝穴156に挿入されている。従って、連係杆154の他端部とセクタギヤ142の突出アーム部144とは、ガイド溝穴156に挿入された枢支ピン157にて連結されている。
【0069】
実施形態では、セクタギヤ142が初期位相にあるときに(図8及び図11の二点鎖線参照)、突出アーム部144の枢支ピン157が連係杆154におけるガイド溝穴156の長手中央部に位置するように、ガイド溝穴156と枢支ピン157との関係が設定されている。また、セクタギヤ142が中途位相にあるときに(図9及び図11の一点鎖線参照)、枢支ピン157がガイド溝穴156の後縁部にできるだけ近づくように、ガイド溝穴156の長径寸法が設定されている。
【0070】
三角プレート152における第3のコーナ部には、刈取クラッチバー155の一端部(上端部)が横向きの枢着ピンにて回動可能に枢着されている。刈取クラッチバー155の他端部には、テンション調節ボルト158を介して、刈取クラッチばね159の一端部(上端部)が連結されている。刈取クラッチばね159の他端部(下端部)は、円筒部材125に突設されたレバーアーム129に連結されている。刈取クラッチばね159は、刈取テンションプーリ121を刈取伝動ベルト117に接触させる方向に付勢するものである。すなわち、刈取クラッチばね159は、刈取クラッチ89を常時入り方向に付勢するものである。
【0071】
他方、脱穀リンク機構161は、セクタギヤ142と脱穀クラッチ91とを連動させるためのリンク片162及び脱穀クラッチバー163を備えている。実施形態では、リンク片162の一端部(上端部)が、連係杆154のガイド溝穴156に挿入された枢支ピン157に回動可能に枢支されている。従って、枢支ピン157を介して連係杆154とセクタギヤ142と脱穀リンク機構161(リンク片162)とが連結されている。
【0072】
リンク片162の他端部(下端部)には、テンション調節ボルト164を介して、ばね手段としての脱穀クラッチばね165の一端部(上端部)が連結されている。脱穀クラッチばね165の他端部(下端部)は、脱穀クラッチバー163の一端部(上端部)に連結されている。脱穀クラッチバー163の他端部(下端部)には、脱穀テンションプーリ131の枢支軸133が固着されている。脱穀クラッチばね165は、脱穀テンションプーリ131を脱穀伝動ベルト119に接触させる方向に付勢するものである。すなわち、脱穀クラッチばね165は、脱穀クラッチ91を常時入り方向に付勢するものである。
【0073】
図5から分かるように、ブラケット板139に取り付けられた電動モータ140、セクタギヤ142及び三角プレート152は、サイドコラム12内に位置している。そして、図7から分かるように、電動モータ140、セクタギヤ142及び三角プレート152の下方に、動力伝達用のベルト114,115,117,119群が位置している。つまり、実施形態では、各クラッチ89,91やこれらを作動させるための構成140,142,151,161、並びに、動力伝達用のベルト114,115,117,119群は、刈取装置3の穀稈搬送装置21と操縦部9の間にまとめられているのである。
【0074】
なお、図11に詳細に示すように、サイドコラム12内のブラケット板139には、図8及び図11の二点鎖線にて示す初期位相に回動したセクタギヤ142の突出アーム部144に当接するリミットスイッチ型の切り位置検出センサ167が設けられている。
【0075】
図7に示すように、サイドコラム12のうちブラケット板139より前方側には、クランク溝170が形成されている。刈取装置3の動力継断操作手段と脱穀装置5の動力継断操作手段とを1本で兼ねるクラッチレバー15は、クランク溝170を貫通してサイドコラム12上に突出している。サイドコラム12内のうちクランク溝170の下方箇所には横向きのレバー軸171(図8(b)〜図10(b)参照)が配置されている。レバー軸171に回動可能に被嵌された第1ボス部材172の下面側に、前後に貫通する第2ボス部材173が固着されている。クラッチレバー15の基端部に設けられた前向き突状のピン軸174が第2ボス部材173に回動可能に差し込まれている。従って、クラッチレバー15は、レバー軸171回りに前後傾動可能で且つピン軸174回りに左右傾動可能である。このため、クラッチレバー15のクランク溝170に沿った傾動操作が可能になっている。
【0076】
図5に示すように、コラムパイプ138の下方に位置する桟フレーム175には、前後回動可能な二股状感知アーム177を有するレバー位置センサ176が取り付けられている。レバー位置センサ176は、第1ボス部材172に固着された回動プレート178の作動ピン179との当接による二股状感知アーム177の回動角度から、クラッチレバー15の操作位置を検出するというポテンショメータ式のものである。
【0077】
クラッチレバー15をクランク溝170の後端部に傾動させた場合は(図8(b)の状態参照)、二股状感知アーム177の回動角度に応じたレバー位置センサ176の検出情報に基づいて、電動モータ140が出力ギヤ141を回転駆動させ、セクタギヤ142が図8(a)及び図11の二点鎖線にて示す初期位相にまで回動する。クラッチレバー15をクランク溝170の中途部に傾動させた場合は(図9(b)の状態参照)、レバー位置センサ176の検出情報に基づく電動モータ140の回転駆動にて、セクタギヤ142が図9(a)及び図11の一点鎖線にて示す中途位相にまで回動する。クラッチレバー15をクランク溝170の前端部に傾動させた場合は(図10(b)の状態参照)、レバー位置センサ176の検出情報に基づく電動モータ140の回転駆動にて、セクタギヤ142が図10(a)及び図11の実線にて示す最終位相にまで回動する。
【0078】
(5).各クラッチの作動態様
次に、図8〜図11を参照しながら、クラッチレバー15を操作したときの各クラッチ89,91の作動態様の一例について説明する。
【0079】
クラッチレバー15をクランク溝170の後端部に傾動させると(図8(b)の状態参照)、セクタギヤ142が図8(a)及び図11の二点鎖線にて示す初期位相にまで回動する。この場合、セクタギヤ142側の枢支ピン157が連係杆154を介して三角プレート152を枢支ピン157回りに下向き回動させ、刈取クラッチバー155を下向きに押しやる。そうすると、戻しばね127の弾性復元力にて、刈取テンションアーム122が図8(a)の反時計方向に回動して、刈取テンションプーリ121が刈取伝動ベルト117から離れ、刈取クラッチ89が切り状態になる(刈取伝動ベルト117が弛緩する)。
【0080】
また、セクタギヤ142側の枢支ピン157は、リンク片162及び脱穀クラッチバー163を下向きに押しやる。そうすると、脱穀テンションアーム132が図8(a)の反時計方向に自重にて回動して、脱穀テンションプーリ131が脱穀伝動ベルト119から離れ、脱穀クラッチ91も切り状態になる(脱穀伝動ベルト119が弛緩する)。
【0081】
クラッチレバー15をクランク溝170の中途部に傾動させると(図9(b)の状態参照)、セクタギヤ142が図9(a)及び図11の一点鎖線にて示す中途位相にまで回動する。この場合、セクタギヤ142側の枢支ピン157は、連係杆154のガイド溝穴156内をスライド移動して、連係杆154を第2コーナ部の枢着ピン回りに上向き回動させるものの、ガイド溝穴156の後縁部に引っ掛からず遊んだ状態となる。このため、三角プレート152は、刈取クラッチバー155を下向きに押しやった下向き回動姿勢のままで保持される。その結果、刈取クラッチ89は切り状態を維持することになる。
【0082】
一方、セクタギヤ142側の枢支ピン157は、リンク片162及び脱穀クラッチバー163を上向きに引き上げる。そうすると、脱穀テンションプーリ131が上向きに引き上げられて脱穀伝動ベルト119に下方から押圧当接すると共に、脱穀テンションアーム132が図9(a)の時計方向に回動することによって、脱穀伝動ベルト119が緊張して、脱穀クラッチ91だけが入り状態になる。
【0083】
クラッチレバー15をクランク溝170の前端部に傾動させると(図10(b)の状態参照)、セクタギヤ142が図10(a)及び図11の実線にて示す最終位相にまで回動する。この場合、セクタギヤ142側の枢支ピン157は、ガイド溝穴156の後縁部に当接して連係杆154を後方に引き寄せることによって、三角プレート152を枢支ピン157回りに上向き回動させ、刈取クラッチバー155を上向きに引き上げる。そうすると、刈取テンションアーム122が図10(a)の時計方向に回動して、刈取テンションプーリ121が刈取伝動ベルト117に後方から押圧当接する。その結果、刈取伝動ベルト117が緊張して、刈取クラッチ89が入り状態になる。
【0084】
一方、枢支ピン157は、セクタギヤ142と共に中途位相から最終位相にまで回動するが、図11から明らかなように、中途位相での枢支ピン157の高さ位置と最終位相での枢支ピン157の高さ位置とはほとんど変わらない。このため、リンク片162及び脱穀クラッチバー163は、脱穀テンションプーリ131を上向きに引き上げた状態のままになる。その結果、脱穀クラッチ91は入り状態を維持することになる。
【0085】
但し、実施形態では、セクタギヤ142が中途位相から最終位相に回動する間に、リンク片162と脱穀クラッチバー163とをつなぐ脱穀クラッチばね165が支点越えするように設定されている。すなわち、セクタギヤ142が中途位相から最終位相に回動する途次において、脱穀クラッチばね165が支点越えして、脱穀テンションプーリ131を脱穀伝動ベルト119に接触させる方向に引張り付勢し、脱穀クラッチ91を入り状態に保持する。このため、逆にセクタギヤ142を最終位相から中途位相に回動させる場合も、脱穀クラッチばね165が支点越えしなければならないから、脱穀クラッチばね165の支点越え作用にて、脱穀クラッチ91のみならず、刈取クラッチ89も併せて確実に入り状態に維持できることになる。なお、クラッチレバー15をクランク溝170の前端部から中途部に傾動操作した場合や、中途部から後端部に傾動操作した場合は、上記と逆順の動作が行われる。
【0086】
(6).まとめ
上記の記載並びに図8〜図11に示すように、本願発明に係るコンバインでは、単一の電動モータ140の駆動にて回動軸143回りに回動可能な回動部材142と、脱穀クラッチ91と回動部材142をつなぐ脱穀リンク機構161と、刈取クラッチ89と回動部材142とをつなぐ刈取リンク機構151とを備えており、回動部材142の初期位相から中途位相への回動にて、刈取クラッチ89が切り状態のままで脱穀クラッチ91を入り作動させ、回動部材142の中途位相から最終位相への回動にて、脱穀クラッチ91が入り状態のままで刈取クラッチ89を入り作動させるように、両リンク機構151,161と回動部材142とが連動連結されているから、単一の電動モータ140の駆動にて、刈取クラッチ89と脱穀クラッチ91とを所定の順序で入り切りできることになる。
【0087】
従って、特許文献1のように、複雑な形状のカムプロファイルを有するカムを、脱穀クラッチ用と刈取クラッチ用との2種類備える必要がなく、刈取クラッチ89と脱穀クラッチ91とを所定の順序で入り切りするための機構を、部品点数の少ない簡単な構造にでき、部品コストを抑制する一助になるという効果を奏する。また、刈取クラッチ89と脱穀クラッチ91とを所定の順序で入り切りするための機構のコンパクト化も図れる。なお、各クラッチ89,91の入り切りを自動制御したい場合は、単一の電動モータ140の駆動を制御するだけで済むから、簡単で且つ安価に構成することが可能になる。
【0088】
上記の記載並びに図8〜図11に示すように、刈取リンク機構151が、回動部材142の回動軸143と平行な枢軸153回りに回動可能な中継部材152と、回動部材142及び中継部材152を連動して回動させる連係杆154とを有しており、連係杆154にその長手方向に延びるガイド溝穴156が形成されており、ガイド溝穴156に挿入された枢支ピン157を介して、連係杆154と回動部材142と脱穀リンク機構161とが連結されている。そして、回動部材142が初期位相から中途位相に回動するときは、枢支ピン157がガイド溝穴156内をスライドして中継部材152を連動させず、回動部材142が中途位相から最終位相に回動するときは、枢支ピン157がガイド溝穴156の縁部に当接して、連係杆154を介して中継部材152を入り方向に回動させるように構成されている。
【0089】
このため、連係杆154のガイド溝穴156内に挿入された枢支ピン157のスライド移動を利用するという簡単な構成によって、脱穀クラッチ91だけを入り状態にしたり、脱穀クラッチ91及び刈取クラッチ89の双方を入り状態にしたりすることを確実に実行できる。つまり、単一の電動モータ140であっても、複雑な制御をすることなく簡単かつ確実に、刈取クラッチ89が切り状態のままで脱穀クラッチ91だけを入り状態にできる。また、脱穀クラッチ91と刈取クラッチ89との入り切りのタイミングをずらすための機構が連係杆154のガイド溝穴156と枢支ピン157との組合せに過ぎないので、部品点数も少なくて済み、この点でも部品コストの抑制に寄与している。
【0090】
上記の記載並びに図8〜図11に示すように、脱穀リンク機構161は脱穀クラッチ91を常時入り方向に付勢するばね手段165を有しており、回動部材142が中途位相から最終位相に回動する間に、ばね手段165が支点越えするように設定されているから、逆に回動部材142を最終位相から中途位相に回動させる場合も、ばね手段165は支点越えしなければならないことになる。このため、ばね手段165の支点越え作用にて、脱穀クラッチ91のみならず、刈取クラッチ89も併せて入り状態に保持し易いという効果を奏する。また、脱穀クラッチ91及び刈取クラッチ89を入り状態に保持するに当たって、単一の電動モータ140に掛かる負荷(荷重)も低減できる。
【0091】
なお、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 走行機体
9 操縦部
15 クラッチレバー
89 刈取クラッチ
91 脱穀クラッチ
140 電動モータ
142 回動部材としてのセクタギヤ
143 回動軸
151 刈取リンク機構
152 中継部材としての三角プレート
153 枢軸
154 連係杆
156 ガイド溝穴
157 枢支ピン
161 脱穀リンク機構
165 ばね手段としての脱穀クラッチばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取装置への動力伝達を継断する刈取クラッチと、脱穀装置への動力伝達を継断する脱穀クラッチとを備えているコンバインであって、
単一の電動モータの駆動にて回動軸回りに回動可能な回動部材と、前記脱穀クラッチと前記回動部材をつなぐ脱穀リンク機構と、前記刈取クラッチと前記回動部材とをつなぐ刈取リンク機構とを備えており、
前記回動部材の初期位相から中途位相への回動にて、前記刈取クラッチが切り状態のままで前記脱穀クラッチを入り作動させ、前記回動部材の中途位相から最終位相への回動にて、前記脱穀クラッチが入り状態のままで前記刈取クラッチを入り作動させるように、前記両リンク機構と前記回動部材とが連動連結されている、
コンバイン。
【請求項2】
前記刈取リンク機構は、前記回動部材の前記回動軸と平行な枢軸回りに回動可能な中継部材と、前記回動部材及び前記中継部材を連動して回動させる連係杆とを有しており、
前記連係杆にその長手方向に延びるガイド溝穴が形成されており、前記ガイド溝穴に挿入された枢支ピンを介して、前記連係杆と前記回動部材と前記脱穀リンク機構とが連結されており、
前記回動部材が初期位相から中途位相に回動するときは、前記枢支ピンが前記ガイド溝穴内をスライドして前記中継部材を連動させず、前記回動部材が中途位相から最終位相に回動するときは、前記枢支ピンが前記ガイド溝穴の縁部に当接して、前記連係杆を介して前記中継部材を入り方向に回動させるように構成されている、
請求項1に記載したコンバイン。
【請求項3】
前記脱穀リンク機構は前記脱穀クラッチを常時入り方向に付勢するばね手段を有しており、前記回動部材が中途位相から最終位相に回動する間に、前記ばね手段が支点越えするように設定されている、
請求項1又は2に記載したコンバイン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−200657(P2010−200657A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48818(P2009−48818)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】