説明

コンバータ

【課題】 スイッチング時における損失を低減することが可能なコンバータを提供する。
【解決手段】 入力端に入力された電位を上昇させて出力端に出力するコンバータであり、コイルと、第1ダイオードと、第1スイッチング素子と、第2ダイオードと、第2スイッチング素子と、制御手段を有している。制御手段が、出力端側に向かってコイルに流れる電流の平均値が第1電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせ、前記平均値が第1電流範囲より小さい第2電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数よりも低い第2キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力端に入力された電位を上昇させて出力端に出力するコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入力端に入力された電位を上昇させて出力端に出力するコンバータが開示されている。この種のコンバータは、コイルと、上アーム側のスイッチング素子と、上アーム側のスイッチング素子に対して並列に接続されたダイオードと、下アーム側のスイッチング素子と、下アーム側のスイッチング素子に並列に接続されたダイオードを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−96852 号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンバータでは、各スイッチング素子をスイッチングするときに、スイッチング素子やダイオードで損失が生じる。例えば、図10は、比較的負荷が小さいときにコンバータのコイルに流れる電流を示している。図10において、電流の極小値ILminとなる各タイミングで、下アーム側のスイッチング素子がオンする。すると、上アーム側のダイオードにリカバリ電流が流れ、このリカバリ電流により損失が生じる。このため、本明細書は、スイッチング時における損失を低減することが可能なコンバータを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するコンバータは、入力端に入力された電位を上昇させて出力端に出力する。このコンバータは、入力端と出力端の間を接続する入出力ラインと、入出力ラインに介装されているコイルと、コイルより出力端側の入出力ラインに、カソードが出力端を向く向きに介装されている第1ダイオードと、第1ダイオードと並列に接続されている第1スイッチング素子と、基準電位ラインと、コイルと第1ダイオードの間の入出力ラインと基準電位ラインの間に、カソードが入出力ラインを向く向きに接続されている第2ダイオードと、第2ダイオードと並列に接続されている第2スイッチング素子と、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる制御手段を有している。制御手段は、出力端側に向かってコイルに流れる電流の平均値が第1電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせ、前記平均値が第1電流範囲より小さい第2電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数よりも低い第2キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる。
【0006】
このコンバータは、コイルに流れる電流の平均値が第1電流範囲内にあるとき(すなわち、負荷が高く、コイルに流れる電流が高いとき)と、前記平均値が第2電流範囲内にあるとき(すなわち、負荷がそれほど高くなく、コイルに流れる電流が低いとき)とで、キャリア周波数を切り換える。すなわち、このコンバータは、コイルに流れる電流が低いときには、キャリア周波数を低くする。図3は、前記平均値が第2電流範囲内にあるときに、このコンバータのコイルに流れる電流を例示している。図3に示すように、キャリア周波数を低くすると、コイルに流れる電流の振幅が大きくなる。このため、第2スイッチング素子(下アーム側のスイッチング素子)をターンオフさせるタイミングにおける電流ILminが、図10に比べて低くなる。このため、このコンバータでは、スイッチング時における損失が低減される。また、コイルに流れる電流が高いときにキャリア周波数を低くすると、コンバータの動作が不安定となる。このため、このコンバータは、コイルに流れる電流が高いときには、キャリア周波数を高くして安定した動作を確保する。以上に説明したように、このコンバータは、低電流時にキャリア周波数を低くすることで、高電流時の動作の安定性を確保するとともに、低電流時のスイッチング時の損失の低減を実現する。なお、図3は例として示したものであり、本明細書により開示されるコンバータの電流波形は、図3に示されたものに限定されない。
【0007】
従来のコンバータにおいて、図10の状態からさらに電流が小さくなると、図11に示すゼロクロス動作の状態となる。ゼロクロス動作では、下アーム側のスイッチング素子がオフするタイミング(電流Iが電流ILminとなるタイミング)において、電流がマイナスとなる。このタイミングにおいて、下アーム側のスイッチング素子で損失が発生する。
【0008】
したがって、上述した本明細書が開示するコンバータは、制御手段が、前記平均値が第2電流範囲よりも小さい第3電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数よりも高い第3キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせることが好ましい。
【0009】
このコンバータは、コイルに流れる電流の平均値が、第2電流範囲よりもさらに小さい第3電流範囲にあるときに、キャリア周波数を高くする。図4は、前記平均値が第2電流範囲内にあるときに、このコンバータのコイルに流れる電流を示している。図4に示すように、キャリア周波数を高くすると、コイルに流れる電流の振幅が小さくなる。このため、第2スイッチング素子(下アーム側のスイッチング素子)をターンオフさせるタイミング(電流Iが電流ILminとなるタイミング)における電流値が、図11に比べて0Aに近くなる。このため、第2スイッチング素子で生じる損失を低減することができる。すなわち、このコンバータでは、コイルに流れる電流がより小さくなったときに、よりスイッチング時の損失を低減することができる。なお、図4は例として示したものであり、本明細書により開示されるコンバータの電流波形は、図4に示されたものに限定されない。
【0010】
また、本明細書は、他のコンバータも提供する。このコンバータは、入力端に入力された電位を上昇させて出力端に出力する。このコンバータは、入力端と出力端の間を接続する入出力ラインと、入出力ラインに介装されているコイルと、コイルより出力端側の入出力ラインに、カソードが出力端を向く向きに介装されている第1ダイオードと、第1ダイオードと並列に接続されている第1スイッチング素子と、基準電位ラインと、コイルと第1ダイオードの間の入出力ラインと基準電位ラインの間に、カソードが入出力ラインを向く向きに接続されている第2ダイオードと、第2ダイオードと並列に接続されている第2スイッチング素子と、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる制御手段を有している。制御手段が、出力端側に向かってコイルに流れる電流の平均値が第4電流範囲内にあるときには、第4キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせ、前記平均値が第4電流範囲より小さい第5電流範囲内にあるときには、第4キャリア周波数よりも高い第5キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる。第5電流範囲は、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせたときにコイルに流れる電流の振幅以下の電流範囲である。
【0011】
このコンバータでも、コイルに流れる電流の平均値が極めて低い場合に、スイッチング時の損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】コンバータ10の回路図
【図2】ILave≧ILth1のときの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図3】ILth1>ILave≧ILth2のときの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図4】ILth2>ILave≧ILth3のときの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図5】−ILth1>ILaveのときの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図6】−ILth2>ILave≧−ILth1のときの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図7】−ILth3>ILave≧−ILth2のときの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図8】図3の動作時のコンバータ10と従来のコンバータとのスイッチングによるトータル損失を比較する図。
【図9】図4の動作時のコンバータ10と従来のコンバータとのスイッチングによるトータル損失を比較する図。
【図10】力行動作時における従来のコンバータの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図11】ゼロクロス動作時における従来のコンバータの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図12】回生動作時における従来のコンバータの電流Iの時間tに対する変化を示すグラフ。
【図13】コンバータの状態を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に、実施例のコンバータの特徴を列記する。
(特徴1) 制御手段は、入力端側から出力端側に向かってコイルに流れる電流の平均値が第1電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせ、前記平均値が第1電流範囲より小さい第2電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数よりも低い第2キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる。
(特徴2) 第2電流範囲の上限値が、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせたときにコイルに流れる電流の振幅の2倍以下である。
(特徴3) 第2電流範囲の下限値が、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせたときにコイルに流れる電流の振幅以上である。
(特徴4) 第3電流範囲の上限値が、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせたときにコイルに流れる電流の振幅以下である。
【実施例】
【0014】
図1は、実施例のコンバータ10の回路図を示している。コンバータ10は、バッテリ26によって入力端子12と入力側基準端子14の間に印加される電圧を昇圧し、昇圧した電圧を出力端子16と出力側基準端子18の間に出力する。コンバータ10は、ハイブリッドカーに搭載されている。コンバータ10の端子16、18は、インバータを介してハイブリッドカー駆動用のモータ(図示省略)に接続されている。
【0015】
入力側基準端子14は、アースライン20によって出力側基準端子18に接続されている。アースライン20は接地されており、接地電圧に維持される。入力端子12には、入力ライン22が接続されている。出力端子16には、出力ライン24が接続されている。入力ライン22には、コイル30が介装されている。以下では、コイル30より入力端子12側の入力ライン22を第1入力ライン22aといい、コイル30を挟んで入力端子12と反対側の入力ライン22を第2入力ライン22bという。第1入力ライン22aとアースライン20の間には、コンデンサ32が接続されている。第2入力ライン22bとアースライン20の間には、IGBT50とダイオード52が互いに並列に接続されている。ダイオード52は、第2入力ライン22b側がカソードとなるように接続されている。IGBT50は、第2入力ライン22b側がコレクタとなるように接続されている。第2入力ライン22bと出力ライン24の間には、IGBT40とダイオード42が互いに並列に接続されている。ダイオード42は、出力ライン24側がカソードとなるように接続されている。IGBT40は、出力ライン24側がコレクタとなるように接続されている。出力ライン24とアースライン20の間には、コンデンサ34が接続されている。IGBT40、50のゲートには、ゲート制御回路60が接続されている。ゲート制御回路60は、IGBT40、50のゲート電圧を制御する。
【0016】
ゲート制御回路60は、IGBT40がオンであり、IGBT50がオフである期間(以下、上アームオン期間T1という)と、IGBT40、50がオフである期間(以下、全オフ期間T2という)と、IGBT40がオフであり、IGBT50がオンである期間(以下、下アームオン期間T3という)とが繰り返されるように、IGBT40、50をスイッチングさせる。より詳細には、ゲート制御回路60は、上アームオン期間T1、全オフ期間T2、下アームオン期間T3、全オフ期間T2からなる1サイクルが繰り返されるように、IGBT40、50を制御する。前記1サイクルを繰り返す周波数は、一般に、キャリア周波数と呼ばれる。ゲート制御回路60は、コイル30に流れる電流に応じてキャリア周波数を変更する。
【0017】
(従来の制御方法)
上述したように、コンバータ10ではコイル30に流れる電流に応じてキャリア周波数が変更されるが、まず、技術の理解のために、キャリア周波数を変更しない従来のコンバータの制御方法について説明する。従来のコンバータは、IGBT40、50の制御方法を除いて、図1に示すコンバータ10と同様の構成を有している。以下の従来のコンバータの説明においては、各部を示す参照番号として、図1と同じ参照番号を用いる。
【0018】
一般に、コンバータのコイル30に流れる電流Iは、コンバータに接続されているモータの動作状態によって変化する。図10〜12は、従来のコンバータのコイル30に流れる電流を、モータの動作状態毎に示している。なお、図10〜12では、コイル30に流れる電流Iを、第1入力ライン22aから第2入力ライン22bに向かう向きをプラスとして示している。モータの消費電力がある程度大きい場合には、図10に示すように、コイル30の電流Iがプラスとなる。以下では、コイル30にプラスの電流が流れる動作を、力行動作という。また、ハイブリッドカーが回生ブレーキにより減速している場合には、モータで発電が起きる。この発電量がある程度大きい場合には、図12に示すように、コイル30の電流Iがマイナスとなる。以下では、コイル30にマイナスの電流が流れる動作を、回生動作という。モータの消費電力が極めて小さい場合、または、発電量が極めて小さい場合には、図11に示すように、電流Iがプラスとなる期間とマイナスとなる期間が繰り返される。以下では、この動作をゼロクロス動作という。図13は、上アームオン期間T1、全オフ期間T2、及び、下アームオン期間T3のそれぞれについて、コンバータに流れる電流を示している。なお、図10〜12、及び、後述する図2〜7の中の参照符号A1〜A6は、コンバータが図13中の状態A1〜A6の何れにあるかを示している。
【0019】
図10に示す力行動作では、下アームオン期間T3において、コンバータは状態A3となる。その後、下アームのIGBT40がオフして全オフ期間T2となると、コイル30の誘導電圧によって、第2入力ライン22bの電位が上昇する。これによって、状態A2に示すように、上アームのダイオード42がオンし、コンデンサ34に電荷が蓄積される。これによって、出力端子16の電位が上昇する。その後の上アームオン期間T1では、状態A1に示すように上アームのダイオード42に電流が流れ続ける。その後の全オフ期間T2でも、状態A2に示すように、上アームのダイオード42に電流が流れ続ける。その後の下アームオン期間T3では、コンバータは再度状態A3となり、コイル30にエネルギーが蓄えられる。このように、力行動作では、状態A3、A2、A1、A2がこの順序で繰り返されることで、出力端子16に電力が供給される。状態A2から状態A3に切り換わるタイミング(すなわち、下アームのIGBT50がオンするタイミング)においては、導通している上アームのダイオード42に対して逆電圧が印加される。これによって、ダイオード42においてリカバリ損失が発生する。また、同じタイミングにおいて、下アームのIGBT50に、急激に電流が流れ始める。このため、IGBT50においてターンオン損失が発生する。このタイミングで発生するリカバリ損失及びターンオン損失は、そのタイミングにおいてコイル30に流れている電流ILmin(図10参照)が大きいほど、大きくなる。なお、電流ILminは、電流Iの一周期の期間中における電流Iの最小値である。
【0020】
図12に示す回生動作では、上アームオン期間T1において、コンバータは状態A4となる。その後、上アームのIGBT50がオフして全オフ期間T2となると、コイル30の誘導電圧により、第2入力ライン22bの電位が低下する。これによって、状態A5に示すように、下アームのダイオード52がオンし、バッテリ26が充電される。その後の下アームオン期間T3では、状態A6に示すように下アームのダイオード52に電流が流れ続ける。その後の全オフ期間T2でも、状態A5に示すように、下アームのダイオード52に電流が流れ続ける。その後の上アームオン期間T1では、コンバータは再度状態A4となる。このように、回生動作では、状態A4、A5、A6、A5がこの順序で繰り返されることで、バッテリ26が充電される。状態A5から状態A4に切り換わるタイミング(すなわち、上アームのIGBT40がオンするタイミング)においては、導通している下アームのダイオード52に対して逆電圧が印加される。これによって、ダイオード52においてリカバリ損失が発生する。また、同じタイミングにおいて、上アームのIGBT40に、急激に電流が流れ始める。このため、IGBT40においてターンオン損失が発生する。このタイミングで発生するリカバリ損失及びターンオン損失は、そのタイミングにおいてコイル30に流れている電流ILmax(図12参照)の絶対値が大きいほど、大きくなる。なお、電流ILmaxは、電流Iの一周期の期間中における電流Iの最大値である。
【0021】
図11に示すゼロクロス動作では、下アームオン期間T3の後半において、コンバータは状態A3となる。その後、コンバータは、力行動作と同様にして、状態A2を経て状態A1となる。状態A1において、コイル30の誘導電圧が低下して、第2入力ライン22bの電位が出力ライン24の電位よりも低くなると、コンバータは状態A1から状態A4に変化する。すなわち、コイル30の電流Iがマイナスとなる。その後、コンバータは、回生動作と同様にして、状態A5を経て状態A6となる。状態A6において、コイル30の誘導電圧が低下して、第2入力ライン22bの電位が基準ライン20の電位よりも高くなると、コンバータは状態A6から状態A3に変化する。このように、ゼロクロス動作では、状態A3、A2、A1、A4、A5、A6がこの順序で繰り返される。状態A4から状態A5に切り換わるタイミングにおいては、導通している上アームのIGBT40がターンオフされる。このため、IGBT40でターンオフ損失が発生する。このタイミングで発生するIGBT40のターンオフ損失は、そのタイミングにおいてコイル30に流れている電流ILminの絶対値が大きいほど、大きくなる。また、状態A3から状態A2に切り換わるタイミングにおいては、導通している下アームのIGBT50がターンオフされる。このため、IGBT50でターンオフ損失が発生する。このタイミングで発生するIGBT50のターンオフ損失は、そのタイミングにおいてコイル30に流れている電流ILmaxが大きいほど、大きくなる。
【0022】
(ゲート制御回路60による制御方法)
次に、ゲート制御回路60によるコンバータ10の制御方法について説明する。ゲート制御回路60は、制御中において、コイル30に流れる電流Iの平均値ILaveを算出する。平均値ILaveは、電流Iの一周期T(なお、周期Tは、キャリア周波数fの逆数である)の間の電流Iの平均値を意味する。また、平均値ILaveは、入力端子12と出力端子16の間の電位差Vと、コイル30のインダクタンスLと、その時のキャリア周波数fから算出される。ゲート制御回路60は、算出した平均値ILaveに応じて、キャリア周波数fを変更する。
【0023】
最初に、平均値ILaveがプラスである場合の動作について説明する。平均値ILaveが基準値ILth1以上である場合には、ゲート制御回路60は、図2に示すように、一定のキャリア周波数f1でIGBT40、50をスイッチングさせる。このため、図2では、電流Iの周期Tが1/f1となっている。なお、本実施例においては、基準値ILth1は、キャリア周波数f1でコンバータ10を制御した場合における電流Iの振幅W1(図2参照)の1.5倍の値となっている。平均値ILaveが高い場合には、一定のキャリア周波数f1で制御を行うことで、コンバータ10の安定した動作が実現される。
【0024】
平均値ILaveが基準値ILth1よりも低く、基準値ILth2以上である場合には、ゲート制御回路60は、図3に示すように、キャリア周波数f1よりも低いキャリア周波数f2でIGBT40、50をスイッチングさせる。このため、図3では、電流Iの周期Tが、1/f2となっており、図2よりも長くなっている。なお、本実施例においては、基準値ILth2は、上述した振幅W1と等しい。なお、キャリア周波数f2は、変数である。キャリア周波数f2は、
(数1) f2=V/(4・L・ILave
の数式により決定される。このようにキャリア周波数を調節すると、このときの電流Iの振幅W2が図2に比べて大きくなり、振幅W2が平均値ILaveと略一致する。このため、状態A2から状態A3に切り換わるタイミングにおいてコイル30に流れている電流ILminが略ゼロとなる。このため、このタイミングにおいてIGBT50をオンすると、上アームのダイオード42のリカバリ損失及び下アームのIGBT50のターンオン損失がほとんど生じない。これにより、コンバータ10で生じる損失が低減される。なお、本実施例では電流ILminが略ゼロとなるように制御したが、電流ILminは必ずしもゼロである必要はない。電流ILminがゼロでなくても、平均値ILaveが基準値ILth1よりも低く、基準値ILth2以上である場合にキャリア周波数fをキャリア周波数f1よりも低いキャリア周波数とすれば、電流ILminは小さくなる。したがって、損失低減の効果を得ることができる。
【0025】
平均値ILaveが基準値ILth2よりも低く、基準値ILth3以上である高い場合には、図4に示すように、ゲート制御回路60は、キャリア周波数f1よりも高いキャリア周波数f3でIGBT40、50をスイッチングさせる。このため、図4では、電流Iの周期Tが、1/f3となっており、図2よりも短くなっている。なお、基準値ILth3は、基準値ILth2よりも小さい値であり、本実施例においては、上述した振幅W1の1/2である。なお、キャリア周波数f3は、変数である。キャリア周波数f3は、
(数2) f3=V/(4・L・ILave
の数式により決定される。このようにキャリア周波数を調節すると、このときの電流Iの振幅W3が図2に比べて小さくなり、振幅W3が平均値ILaveと略一致する。
【0026】
仮に、平均値ILaveが基準値ILth2よりも低いときにキャリア周波数fを上述したキャリア周波数f1とすると、ゼロクロス動作となる。従来のコンバータにおいて説明したように、ゼロクロス動作では、状態A4から状態A5に切り換わるタイミングにおいて、上アームのIGBT40で、電流ILminに応じた大きさのターンオフ損失が生じる。また、ゼロクロス動作では、状態A3から状態A2に切り換わるタイミングにおいて、下アームのIGBT50で、電流ILmaxに応じた大きさのターンオフ損失が生じる。
【0027】
これに対し、本実施例のコンバータ10では、平均値ILaveが基準値ILth2よりも低くなったときに、高いキャリア周波数f3で制御することで、電流Iの振幅を小さくする。これによって、電流ILmin及び電流ILmaxが小さくなり、IGBT40、50のターンオフ損失が低減される。特に、電流ILminは略ゼロとなるので、ターンオフ損失が極めて小さくなる。なお、本実施例では電流ILminが略ゼロとなるように制御したが、電流ILminは必ずしもゼロである必要はない。電流ILminがゼロでなくても、平均値ILaveが基準値ILth2よりも低い場合にキャリア周波数fをキャリア周波数f1よりも高くすれば、電流ILmin、電流ILmaxの絶対値は小さくなる。したがって、損失低減の効果を得ることができる。
【0028】
平均値ILaveが基準値ILth3よりも低い場合には、ゲート制御回路60は、キャリア周波数f4でIGBT40、50をスイッチングさせる。キャリア周波数f4は、一定値である。キャリア周波数f4は、ILave=ILth3のときのキャリア周波数f3と等しい。キャリア周波数fを高くし過ぎると、スイッチング頻度が高くなることで、コンバータ10で生じる損失が高くなる。したがって、平均値ILaveが基準値ILth3を下回った場合には、それ以上キャリア周波数を上昇させないことで、損失の増大を防止する。このため、平均値ILaveが基準値ILth3よりも低い場合には、ゼロクロス動作となる。
【0029】
次に、平均値ILaveがマイナスの場合の動作について説明する。ゲート制御回路60は、平均値ILaveがマイナスの場合にも、平均値ILaveがプラスの場合と同様にして、キャリア周波数fを調節する。図5〜7は、平均値ILaveがマイナスの場合の動作を示している。図5に示すように平均値ILaveが基準値−ILth1より低い場合(平均値ILaveの絶対値が基準値ILth1より大きい場合)には、ゲート制御回路60は、キャリア周波数fを前記キャリア周波数f1とする。図6に示すように平均値ILaveが基準値−ILth1以上であり、基準値−ILth2より低い場合(平均値ILaveの絶対値が、基準値ILth1以下であり、基準値ILth2より高い場合)には、ゲート制御回路60は、キャリア周波数fを前記キャリア周波数f2とする。これによって、状態A5から状態A4に切り換わるタイミングにおける電流ILmaxの絶対値が小さくなり、下アームのダイオード52のリカバリ損失、及び、上アームのIGBT40のターンオン損失が低減される。図7に示すように平均値ILaveが、基準値−ILth2以上であり、基準値−ILth3より低い場合(平均値ILaveの絶対値が、基準値ILth2以下であり、基準値ILth3より高い場合)には、ゲート制御回路60は、キャリア周波数fを前記キャリア周波数f3とする。これによって、電流ILminと電流ILmaxの絶対値が小さくなる。このため、IGBT40、50のターンオフ損失が低減される。平均値ILaveが基準値−ILth3以上である場合(平均値ILaveの絶対値が基準値ILth3以下である場合)には、ゲート制御回路60は、キャリア周波数fを前記キャリア周波数f4とする。これによって、スイッチング頻度の過度な上昇による損失増大が防止される。
【0030】
以上に説明したように、実施例のコンバータ10では、コイル30に流れる電流Iに応じてキャリア周波数fが変更されるので、損失を低減することができる。
【0031】
図8は、平均値ILaveが基準値ILth1と基準値ILth2の間にある場合において、従来のコンバータ(キャリア周波数が一定のコンバータ)と実施例のコンバータ10との損失を比較している。なお、図8の結果は、昇圧比が2であり、コイル30のインダクタンスLが200μHであり、電流Iの平均値ILaveが30Aである場合の結果を比較している。従来のコンバータでは、キャリア周波数を10kHzとした。実施例のコンバータでは、キャリア周波数を8.33kHzとより低くし、図3のように電流ILminを略0Aとした。図8に示すように、実施例のコンバータ10では、従来のコンバータに比べて、上アームのIGBT40のターンオン電流が低下するものの、上アームのIGBT40のターンオフ電流が増加する。また、実施例のコンバータ10では、キャリア周波数の低下によりスイッチング頻度が低下する。その結果、スイッチング時に生じるトータルの損失は、実施例のコンバータ10の方が、従来のコンバータよりも小さくなる。
【0032】
図9は、平均値ILaveが基準値ILth2と基準値ILth3の間にある場合において、従来のコンバータ(キャリア周波数が一定のコンバータ)と実施例のコンバータ10との損失を比較している。なお、図9の結果は、昇圧比が2であり、コイル30のインダクタンスLが200μHであり、電流Iの平均値ILaveが15Aである場合の結果を比較している。従来のコンバータでは、キャリア周波数を10kHzとした。実施例のコンバータ10では、キャリア周波数を16.67kHzとより高くして、図4のようにILminを略0Aとした。実施例のコンバータ10では、キャリア周波数の増加によりスイッチング頻度が増加する。しかしながら、図9に示すように、実施例のコンバータ10では、従来のコンバータに比べて、下アームのIGBT50のターンオフ電流が小さくなる。また、実施例のコンバータ10では、上アームのIGBT40に電流が流れないので、上アームのIGBT40のスイッチングによる損失が生じなくなる。その結果、スイッチング時に生じるトータルの損失は、実施例のコンバータ10の方が、従来のコンバータよりも小さくなる。
【0033】
また、上述した実施例では、図4、7の動作状態において、キャリア周波数が高くなる。このときのキャリア周波数を、人の可聴周波数(すなわち、20kHz)より高くしてもよい。このような構成によれば、コンバータ10で生じるノイズ音を抑えることができる。
【0034】
なお、上述した実施例では、ゲート制御回路60が、入力端子12と出力端子16の間の電位差Vと、コイル30のインダクタンスLと、その時のキャリア周波数fから、平均値ILaveを算出した。しかしながら、コイル30に流れる電流Iを検出する素子を設け、その素子の検出値に基づいてキャリア周波数を調節してもよい。
【0035】
また、上述した実施例では、キャリア周波数f2が数式1に示す値であった。しかしながら、キャリア周波数f2は、これ以外の変数であってもよく、固定値であってもよい。平均値ILaveが基準値ILth1と基準値ILth2の間の電流範囲にある場合に、キャリア周波数f1で動作させる場合よりも電流ILminが小さくなるのであれば、キャリア周波数f2はどの様な値であってもよい。
【0036】
また、上述した実施例では、キャリア周波数f3が数式2に示す値であった。しかしながら、キャリア周波数f3は、これ以外の変数であってもよく、固定値であってもよい。平均値ILaveが基準値ILth2と基準値ILth3の間の電流範囲にある場合に、キャリア周波数f1で動作させる場合よりも電流ILminが小さくなるのであれば、キャリア周波数f3はどの様な値であってもよい。
【0037】
また、上述した実施例では、基準値ILth1が、振幅W1の1.5倍であったが、その他の値であってもよい。なお、基準値ILth1は、振幅W1の2倍以下であると、コンバータを安定して動作させ易い。
【0038】
なお、上述した実施例では、平均値ILaveが基準値ILth1と基準値ILth2の間にある場合において、キャリア周波数fがキャリア周波数f1よりも低いキャリア周波数f2に制御された。しかしながら、平均値ILaveが基準値ILth1と基準値ILth2の間にある場合に、キャリア周波数fをキャリア周波数f1のまま一定としてもよい。すなわち、平均値ILaveが基準値ILth2よりも高い場合には、キャリア周波数fをキャリア周波数f1で一定とし、平均値ILaveが基準値ILth2よりも低い場合に、キャリア周波数fをキャリア周波数f1よりも高いキャリア周波数f2に制御してもよい。このような構成でも、平均値ILaveが基準値ILth2よりも低い場合に、コンバータの損失を低減することができる。
【0039】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
10:コンバータ
12:入力端子
14:入力側基準端子
16:出力端子
18:出力側基準端子
20:アースライン
22:入力ライン
22a:入力ライン
22b:入力ライン
24:出力ライン
26:バッテリ
30:コイル
32:コンデンサ
34:コンデンサ
40:IGBT
42:ダイオード
50:IGBT
52:ダイオード
60:ゲート制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端に入力された電位を上昇させて出力端に出力するコンバータであり、
入力端と出力端の間を接続する入出力ラインと、
入出力ラインに介装されているコイルと、
コイルより出力端側の入出力ラインに、カソードが出力端を向く向きに介装されている第1ダイオードと、
第1ダイオードと並列に接続されている第1スイッチング素子と、
基準電位ラインと、
コイルと第1ダイオードの間の入出力ラインと基準電位ラインの間に、カソードが入出力ラインを向く向きに接続されている第2ダイオードと、
第2ダイオードと並列に接続されている第2スイッチング素子と、
第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる制御手段、
を有しており、
制御手段が、出力端側に向かってコイルに流れる電流の平均値が第1電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせ、前記平均値が第1電流範囲より小さい第2電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数よりも低い第2キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる、
コンバータ。
【請求項2】
制御手段が、前記平均値が第2電流範囲よりも小さい第3電流範囲内にあるときには、第1キャリア周波数よりも高い第3キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる、
請求項1に記載のコンバータ。
【請求項3】
入力端に入力された電位を上昇させて出力端に出力するコンバータであり、
入力端と出力端の間を接続する入出力ラインと、
入出力ラインに介装されているコイルと、
コイルより出力端側の入出力ラインに、カソードが出力端を向く向きに介装されている第1ダイオードと、
第1ダイオードと並列に接続されている第1スイッチング素子と、
基準電位ラインと、
コイルと第1ダイオードの間の入出力ラインと基準電位ラインの間に、カソードが入出力ラインを向く向きに接続されている第2ダイオードと、
第2ダイオードと並列に接続されている第2スイッチング素子と、
第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせる制御手段、
を有しており、
制御手段が、出力端側に向かってコイルに流れる電流の平均値が第4電流範囲内にあるときには、第4キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせ、前記平均値が第4電流範囲より小さい第5電流範囲内にあるときには、第4キャリア周波数よりも高い第5キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせ、
第5電流範囲が、第1キャリア周波数で第1スイッチング素子と第2スイッチング素子をスイッチングさせたときにコイルに流れる電流の振幅以下の電流範囲であることを特徴とする、
コンバータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−93999(P2013−93999A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235402(P2011−235402)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】