説明

コークスの製造方法

【課題】 木質系廃棄物を原料に用いてもコークス強度の低下を抑制し得るコークスの製造方法を提供する。
【解決手段】 原料炭を乾留してコークスを製造する方法であって、1粒子当たりの表面積が1200〜32000mmである木質系廃棄物を、原料炭と共にコークス炉で乾留するコークスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間伐材、林地残材、建築廃材、工場残廃物などの木質系廃棄物を原料とするコークスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅解体などで発生する建設発生木材(木屑)は、年間477万トン(2000年度)も排出されており、これらのうちリサイクルされているのは約40%で、残りは焼却や埋め立てにより処理されているのが現状である。また、建設発生木材以外にも、製材工場端材,林地残材,間伐材として膨大な量の木質系廃棄物が排出されており、これらの廃棄場はもちろんのこと、処理方法や有効利用法の改良など様々な問題が存在している。
【0003】
このような状況の下、木質系廃棄物を2次資源として有効利用する方法が検討されている。たとえば、上記木質系廃棄物の一部は、パルプの原材料、パーティクルボードなどの合板材料、燃料チップなどへのリサイクルが図られている。しかしながら、合板材料の供給過剰や、燃料用チップの利用工場の減少が著しく、現在では、かかる再利用も困難な状況にあり、木質系廃棄物の排出量に見合う処理法や有効利用法の早急な確立が望まれている。
【0004】
近年、廃木材の有効利用法の一つとして、木質系廃棄物を高炉用コークスの原料の一部として用いることが提案されている。例えば、特許文献1では、有機系廃棄物を0.05〜1質量%の割合で原料炭に配合してコークスを生産する方法が開示されている。また、特許文献2には、原料炭にバイオマスを混合して、コークス製造する技術が記載されている。特許文献3には、木質系バイオマスを原料として、強度の高いコークスを製造する方法が開示されている。特許文献4では、コークス製造時にパルプや木材を使用してコークス粒度を維持する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2001‐200259号
【特許文献2】特開2004‐277452号
【特許文献3】特開2001‐288478号
【特許文献4】特開2004‐359898号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、コークス強度の低下を防止する観点から、原料炭に対して1質量%を超える量の木質系廃棄物を配合することはできず、処理量としては十分とは言えない。また、特許文献2や特許文献3では、バイオマスに含まれる水分や油分量を低減させる複雑な前処理ならびに前処理用の設備が必要となる。さらに、特許文献4は、積極的に木質系廃棄物の利用を提案するものでなく、また、木質系廃棄物を使用したとしてもその処理量の点では十分とは言い難い。
【0006】
本発明は、上述のような状況下なされたものであって、その目的は、木質系廃棄物を原料に用いてもコークス強度の低下を抑制し得るコークスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明のコークスの製造方法とは、原料炭を乾留してコークスを製造する方法であって、1粒子当たりの表面積が1200〜32000mmである木質系廃棄物を、原料炭と共にコークス炉で乾留するところに要旨を有するものである。本発明者らは、木質系廃棄物の処理法および有効利用法について検討を重ねたところ、特定の大きさの表面積に調整した木質系廃棄物を、コークス原料の一部として原料炭に配合した場合には、単に木質系廃棄物を原料炭に配合した場合に比べてコークス強度の低下が小さく、また、得られるコークスの反応性が向上することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、コークスの製造と木質系廃棄物の処理を同時に行うことができる。
【0008】
上述のように、木質系廃棄物の表面積を調整することで、コークス強度の低下が抑制でき、かつ、生成コークスの反応性が高められる理由については、次のように考えている。
【0009】
コークス強度を確保するためには、コークスの原料となる原料炭(配合炭)がある程度の流動性を有していなければならないことが知られており、原料炭の流動性が低い場合には、コークス強度は低下する傾向がある。なお、本発明者らは、原料炭に木材を添加すると、乾留時に化学的な作用を起こし、配合炭の流動性を低下させることを確認しており、これが木材を用いてコークスを製造する際にコークス強度を低下させる主要因であると考えている。そこで、本発明では、木材の粒径を大きくして、配合炭と木材との接触面積を低下させ、上記化学的作用(すなわち、木材の周囲に存在(木材と接触)する配合炭の流動性の低下)が及ぶ範囲を狭くし、配合炭の流動性の低下を抑制することとした。
【0010】
尚、コークスの反応性が向上する理由については、生成するコークスの組織に由来するものと考えている。生成したコークスを顕微鏡で観察すると、異方性組織と等方性組織とが観察され、コークスの反応性は、等方性組織を示すものの方が高いことが知られている。そして、木材を乾留すると、その組織は等方性組織を呈するようになる。したがって、コークスの原料として原料炭に木材を配合すると、原料炭のみでコークスを製造した場合に比べて、コークス中における等方性組織の割合が増加するため、コークスの反応性が高くなるものと考えられる。
【0011】
尚、本発明において「1粒子当たりの表面積」とは、原料炭へ配合する木質系廃棄物1粒子の表面積を意味し、木質系廃棄物1粒子を球と仮定して算出した値である。
【0012】
上記原料炭と木質系廃棄物との混合物中における木質系廃棄物の配合割合は3質量%以下であるのが好ましい。また、上記木質系廃棄物の平均粒径が20〜100mmであるのが望ましい。
【0013】
上記「平均粒径」とは、篩目を基準とするもので、本発明では、木質系廃棄物を数種の角目の篩(9.5mm,5.6mm,3.0mm,2.0mm,1.0mm)に通し、試料全体の重量に対する篩上に残った試料の重量割合と、篩目の大きさとから算出した値を平均粒径として採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、複雑な前処理を行うことなく木質系廃棄物をコークス原料に用いることができる。また、生成するコークスは強度の低下が起こり難く、コークス塊の粒度が大きく、反応性も高いため、石炭のみを原料とするコークスと同様に使用できる。さらに、本発明法は、従来、焼却あるいは埋め立て処分されていた木質系廃棄物を有効利用できるため、エネルギー面あるいは環境面からも有用な技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のコークスの製造方法とは、原料炭を乾留してコークスを製造する方法であって、1粒子当たりの表面積が1200〜32000mmの木質系廃棄物を、原料炭と共にコークス炉で乾留するところに特徴を有するものである。
【0016】
上記原料炭に配合する木質系廃棄物としては、従来、焼却・埋め立て処理されていた廃木材、例えば、建築廃材、間伐材、林地残材、工場残廃物として排出されていたものを木質系廃棄物として用いることができる。
【0017】
まず、本発明法では、上記木質系廃棄物を粉砕して上記範囲に含まれるような表面積を有するものとする。上記木質系廃棄物の表面積は1200〜32000mmであるのが好ましく、より好ましくは2000〜10000mmである。表面積が小さすぎると、原料炭と木材との接触面積を十分に低減できないため、生成するコークスの強度が低下する傾向がある。一方、大きすぎると、コークス炉への搬送・装入の過程で、閉塞などの問題を生じる場合がある。なお、上記粉砕の工程は必ずしも必須とするものではなく、各所で排出された木質系廃棄物の表面積が上記範囲に含まれる場合には、そのまま原料炭と混合して用いてもよい。尚、上記表面積の値は、木質系廃棄物1粒子を球と仮定して算出した値を示すものである。
【0018】
木質系廃棄物の粉砕には、粉砕後の粒度分布が均一で、かつ微粉の発生が少ない粉砕機を用いるのが好ましい。かかる粉砕機としては、反発式粉砕機、圧潰式粉砕機、衝撃式粉砕機等が挙げられる。
【0019】
ところで、木質系廃棄物の表面積を調整する際には、当該木質系廃棄物の平均粒径を目安としてもよい。上述のように、本発明において「平均粒径」とは、篩目を基準とするもので、木質系廃棄物を数種の角目の篩(9.5mm,5.6mm,3.0mm,2.0mm,1.0mm)に通し、試料全体の重量に対する篩上に残った試料の重量割合と、篩目の大きさとから算出した値を意味する。平均粒径を目安とすることで、間接的に木質系廃棄物の表面積を把握することができる。この場合、木質系廃棄物の平均粒径は20〜100mmであるのが好ましい。より好ましくは25〜40mmであり、さらに好ましくは30〜35mmである。木質系廃棄物の平均粒径が小さすぎる場合には、生成コークスの強度低下を抑制し難く、一方大きすぎる場合、例えば、平均粒径が100mmを超える場合には、コークス炉への搬送・装入過程で閉塞などの操業上の問題を引き起こすことがある。
【0020】
上述のようにして表面積(または平均粒径)を調整した木質系廃棄物を、原料炭と混合してコークス炉へ装入する。木質系廃棄物の配合割合は、原料炭と木質系廃棄物との混合物中、3質量%以下とするのが好ましく、より好ましくは2質量%以下である。配合割合の下限は特に限定されないが、木質系廃棄物を処理するとの目的からは、0%を超えて配合するのが好ましい。一方、配合割合が3質量%を超えると、表面積を上記範囲に調整しても、コークス強度の低下を抑制し難くなる傾向がある。なお、上記配合割合は、コークス炉へ装入する原料炭と木質系廃棄物の合計質量を100とした場合の木質系廃棄物の割合を意味するものである。
【0021】
上述のように、生成コークスの強度低下は、木質系廃棄物の大きさによって左右されるので、配合量は、上記範囲内において木質系廃棄物の大きさに応じて適宜調整してもよい。例えば、平均粒径が20mm程度(表面積1200mm)の場合には、配合量を2%以下、平均粒径が100mm程度(表面積31000mm)の場合には、配合量を3%以下とすることが推奨される。
【0022】
本発明で使用する原料炭は特に限定されず、通常のコークスの製造に用いられるものであればいずれも採用可能である。
【0023】
上記原料炭と木質系廃棄物の混合物をコークス炉へ装入する方法に格別の制限はなく、通常のコークスを製造する場合と同様に行えばよい。なお、コークス炉内では、木質系廃棄物が偏析することなく、原料炭と木質系廃棄物とが均一な混合状態となるように装入するのがよい。
【0024】
本発明法は、原料炭と表面積を調整した木質系廃棄物とを混合して乾留するところに特徴を有するもので、乾留方法自体には特に制限がなく、通常のコークス製造に採用されている条件を適用することができる。例えば、コークス炉に、木質系廃棄物を配合した原料炭を装入した後、外気を遮断し、700〜1350℃の温度下で加熱すればよい。乾留時間については、炉の大きさ、用いる石炭の性状および操業条件(炉温等)等に応じて適宜決定すればよい。また、このとき生成するタールやガスは、化学原料や燃料として利用することができる。特にガスは、コークス炉の熱源の一部として有効利用してもよい。
【0025】
上記本発明法によって得られるコークスは、原料炭のみを用いて製造されるコークスと同程度の強度を有しているため、一般的なコークスと同様に、例えば高炉装入用コークスとして用いることができる。また、比較的粒度の大きなコークスとなるため、高炉内における通気性を確保するのに適している。さらに、木質系廃棄物に由来する成分をその一部に含むため、石炭のみを用いた場合に比べて反応性の高いコークスを得ることができる。
【0026】
上記、本発明のコークスの製造方法は、木質系廃棄物の表面積を調整するだけで、特別な前処理も不要であるため特別な設備も必要とせず、簡易に実施することができる。さらに、一度に大量の木質系廃棄物の処理が可能である。
【実施例】
【0027】
以下、実験例によって本発明をさらに詳述するが、下記実験例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術的範囲に含まれる。尚、下記実施例で採用したコークス強度の測定方法は次の通りである。
【0028】
[コークス強度の測定]
下記実験例により得られたコークスについて、JIS K 2151 落下強度試験法に準拠したシャッター試験を2回施した後、25mmの篩上のコークスについて、JIS K 2151 ドラム法に準拠し、ドラム強度指数DIを測定した。
【0029】
[コークスのCO反応性(CRI)]
下記実験例により得られたコークス200gを、篩により平均粒径19〜21mmに調整し、1100℃で2時間、CO(5L/min)と反応させ、反応後の質量減少率をコークスのCO反応性(CRI)として示した。尚、CRIの値が高いほど、コークスの反応性が高いことを意味する。
【0030】
実験例1
約42kgの配合炭(揮発分:27.1%,灰分:9.0%,粒度:3mm以下のものが80%)を、小型試験炉(幅430mm,長さ380mm,高さ350mm)に充填密度750kg/mで装入して、炉温1000℃で約12時間乾留し、コークスを製造した。得られたコークスの強度およびCO反応性の測定結果を表1に示す。
【0031】
実験例2〜7
約42kgの配合炭(揮発分:27.1%,灰分:9.0%,粒度:3mm以下のものが80%)と、表1のように表面積を調整した木質系廃棄物(木材種:スギ)とを下記表1に示した割合で混合し、小型試験炉(幅430mm,長さ380mm,高さ350mm)に充填密度750kg/mで装入して、炉温1000℃で約12時間乾留した。得られたコークスの強度およびCO反応性の測定結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
実験例1は、廃木材を使用せずコークスを製造した例である。このときのコークス強度(DI)は77.8であった。
【0034】
実験例2〜7は、石炭と共に木質系廃棄物を使用してコークスを製造した例である。実験例2では、表面積が約3mm(平均粒径0.9mm)の木質系廃棄物を1質量%配合しており、このときのコークス強度は77.7で、石炭のみを原料とする実験例1(77.8)と略同等であった。しかしながら、配合量が1質量%であるため、木質系廃棄物の処理量としては十分とはいえない。これに対して、配合量を2質量%としたこと以外は、全て同じ条件でコークスを製造した実験例3では、コークス強度が74.9となり、実験例2や木質系廃棄物を用いない実験1に比べてコークス強度が大きく低下していることが分かる。
【0035】
実験例4は、表面積約150mm(平均粒径7.0mm)の木質系廃棄物を2質量%配合した例であるが、このとき得られたコークスのコークス強度は75.4であった。配合する木質系廃棄物の表面積を大きくした実験例5(表面積:約2600mm,平均粒径28.6mm)や実験例6(表面積:約3800mm,平均粒径35.0mm)では、コークス強度が77.5(実験例5)、77.7(実験例6)と実験例1と略同等のレベルにまで向上していた(図1)。
【0036】
これらの結果から、木質系廃棄物の表面積(平均粒径)を大きくすることで、コークス強度の低下が抑制できることが分かる。
【0037】
さらに、配合割合を3質量%に変更した実験例7では、若干コークス強度が低下したものの(コークス強度:76.3)、その低下度合いは配合割合が2質量%である実験例3の場合に比べても小さいものであった。すなわち、木質系廃棄物の表面積を調整することで、配合量を増加してもコークス強度の低下を抑制できることがわかる。
【0038】
また、表1のCRI値から明らかなように、木質系廃棄物を配合して製造したコークスは、木質系廃棄物を配合しない場合に比べて、反応性の高いものであることが分かる。これは、木質系廃棄物の添加により、生成したコークス中における等方性組織の割合が増加したためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、コークス製造時に木質系廃棄物をコークス原料として用いるので、従来、焼却あるいは埋め立て処理されていた木質系廃棄物を有効に再資源化でき、廃棄物の処分場などの問題解決に寄与できる。また、多量の木質系廃棄物を原料炭と混合してもコークス強度の低下を抑制することができる。さらに、コークスを製造する際に発生する、タール、ガスなどもそれぞれ化学原料、燃料などとして有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実験例1,実験例3〜6の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料炭を乾留してコークスを製造する方法であって、
1粒子当たりの表面積が1200〜32000mmである木質系廃棄物を、原料炭と共にコークス炉で乾留することを特徴とするコークスの製造方法。
【請求項2】
上記原料炭と木質系廃棄物との混合物中における木質系廃棄物の配合割合が3質量%以下である請求項1に記載のコークスの製造方法。
【請求項3】
上記木質系廃棄物の平均粒径が20〜100mmである請求項1または2に記載のコークスの製造方法。

【図1】
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