説明

コークス処理システム及びコークス処理方法

【課題】低温環境下及び高温環境下の双方においてコークスの強度を良好に向上させることができるコークス処理システム及びコークス処理方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液6を用いてコークスを被覆させるためのコークス被覆装置(溶液散布装置3)を設ける。熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を用いてコークスを被覆させることにより、石炭の配合構成を変更したりすることなく、コークスの粉化を抑制することができる。特に、熱硬化性樹脂を用いることにより、高温環境下でのコークスの強度を良好に向上させることができ、高炉内におけるコークスの粉化を効果的に抑制することができるとともに、熱硬化性樹脂以外の有機化合物を用いることにより、低温環境下でのコークスの強度も良好に向上させることができ、高炉内に供給される前においてもコークスの粉化を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉で使用される前のコークスに対する処理を行うためのコークス処理システム及びコークス処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭がコークス炉で乾留されることにより生成されるコークスの強度を向上させる方法としては、石炭の配合構成を変更する方法(例えば、非微粘結炭の配合割合を減らし、強粘結炭の配合割合を増やす。)が一般的であるが、他の方法として、コークス炉で生成されたコークスの乾式消火設備(冷却装置)において、コークスに対して所定の処理を施す方法などが提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
特許文献1には、乾式消火設備の反応器(冷却塔)の上部第一の区域へコークスを投入し、上部第一の区域の下部から炭化水素化物を吹き込んで上方へ流通させ、下部第二の区域に不活性ガスを流通させる技術が開示されている。特許文献2には、乾式消火設備のプレチャンバ部内のコークス装入分布に合わせて、複数の空気吹込みノズルからの空気吹込み量又は空気吹込み角度を変更する技術が開示されている。
【0004】
上記特許文献1や特許文献2のような方法では、複雑な構造を有する乾式消火設備を導入する必要があるため、比較的高いコストがかかるといった問題がある。そこで、本願発明者は、特許文献3に係る特許出願において、コークス炉から高炉へ搬送されるコークスに、有機化合物を含む水溶液からなる有機系溶液を散布することによって、コークスの粉化を抑制して強度を向上させることができるような発明を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−70779号公報
【特許文献2】特開2003−3172号公報
【特許文献3】特開2009−209286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
その後の研究の結果、本願発明者は、上記特許文献3のように有機化合物でコークスを被覆させる方法の場合、比較的温度が低い環境下(冷間)ではコークスの強度を向上させることができるが、比較的温度が高い環境下(熱間)ではコークスの強度を向上させることができない場合があることを発見した。このように熱間でのコークスの強度が低い場合には、高炉内でコークスが粉化してしまうという問題がある。
【0007】
図7は、ポリビニルアルコールを被覆させたコークスの熱処理温度と強度(DI15015)との関係を示したグラフである。DI15015は、JIS(日本工業規格)の規格K2151で規定されたドラム試験機による150回転後の15mm篩上の割合(−)である。試料として、有機化合物の一例であるポリビニルアルコールで被覆されたコークスを使用し、各熱処理温度におけるDI15015の値を確認したところ、図7に示すように、熱処理温度が高くなるとともにDI15015の値が低下し、熱処理温度が400℃程度に達すると、その後は熱処理温度が高くなってもDI15015の値がほとんど変化しないという傾向があった。
【0008】
熱処理温度が400℃程度に達したときには、その試料のDI15015の値は、当該試料をポリビニルアルコールで被覆しなかった場合(未被覆試料)のDI15015の値(図7に破線で示す。)と同程度であった。このことから、有機化合物の一例としてポリビニルアルコールを使用した場合、400℃程度に達するような比較的温度が高い環境下では、コークスの強度を向上させることができないことが分かる。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、低温環境下及び高温環境下の双方においてコークスの強度を良好に向上させることができるコークス処理システム及びコークス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るコークス処理システムは、高炉で使用される前のコークスに対する処理を行うためのコークス処理システムであって、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を用いて上記コークスを被覆させるためのコークス被覆装置を備えたことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を用いてコークスを被覆させることにより、石炭の配合構成を変更したりすることなく、コークスの粉化を抑制することができる。特に、熱硬化性樹脂を用いることにより、高温環境下でのコークスの強度を良好に向上させることができ、高炉内におけるコークスの粉化を効果的に抑制することができるとともに、熱硬化性樹脂以外の有機化合物を用いることにより、低温環境下でのコークスの強度も良好に向上させることができ、高炉内に供給される前においてもコークスの粉化を効果的に抑制することができる。
【0012】
また、コークスに対する熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物の被覆量を調整することにより、コークスの強度を調整することができる。
【0013】
上記熱硬化性樹脂は、熱処理温度1000℃における重量減少率が50%未満であることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、高温下においても熱硬化性樹脂が残存することにより、高炉内におけるコークスの粉化をより効果的に抑制することができる。
【0015】
上記コークス被覆装置は、コークス炉から高炉へ搬送されるコークスに対して、上記熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を散布することによって、当該水溶液を上記コークスに付着させるとともに、当該水溶液の水分を上記コークスの熱により蒸発させて、当該コークスを上記熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物で被覆させることが好ましい。
【0016】
このような構成によれば、コークス炉から高炉へ搬送されるコークスに対して散布された水溶液が、当該コークスに付着するとともに、その水分がコークスの熱で蒸発することにより、当該水溶液に含まれる熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物でコークスが被覆される。このように、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液をコークスに散布するだけの構成であるため、複雑な構造を有する設備などを導入する必要がなく、より簡単な構成でコークスの強度を向上させることができる。
【0017】
上記コークス処理システムは、上記コークス炉から搬送されるコークスを冷却するための冷却装置を備え、上記コークス被覆装置は、上記冷却装置により冷却された後のコークスに対して上記熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を散布することが好ましい。
【0018】
このような構成によれば、冷却された後のコークスに対して散布された水溶液の水分が、コークスの余熱により蒸発して、当該水溶液に含まれる熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物でコークスが被覆される。これにより、冷却された後のコークスを熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物で良好に被覆することができるので、コークスの強度を効果的に向上させることができる。
【0019】
本発明に係るコークス処理方法は、高炉で使用される前のコークスに対する処理を行うためのコークス処理方法であって、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を用いて上記コークスを被覆させるためのコークス被覆ステップを含むことを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、上記本発明に係るコークス処理システムと同様の効果を奏するコークス処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るコークス処理システムの一例を示したブロック図である。
【図2】図1のコークス処理システムにより行われる処理の一例を示したフローチャートである。
【図3】各供試料の冷間及び熱処理後における数式(1)により算出したIDI(%)の値を比較するためのグラフである。
【図4】熱処理温度に対する各被覆剤の重量減少率△TG(%)の関係を示したグラフである。
【図5】熱処理前におけるポリビニルアルコールに対するフェノール樹脂系接着剤の混合率(%)と数式(1)により算出したIDI(%)との関係を示したグラフである。
【図6】熱処理後におけるポリビニルアルコールに対するフェノール樹脂系接着剤の混合率(%)と数式(1)により算出したIDI(%)との関係を示したグラフである。
【図7】ポリビニルアルコールを被覆させたコークスの熱処理温度と強度(DI15015)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係るコークス処理システムの一例を示したブロック図である。このコークス処理システムは、コークス炉1、CDQ(Coke Dry Quencher:コークス乾式消火設備)2、溶液散布装置3及び高炉4などを備え、コークス炉1から高炉4へ搬送されるコークスに対する処理を行う。すなわち、コークス炉1で石炭が乾留されることにより生成されたコークスが、搬送路5を介して高炉4まで搬送される過程で、CDQ2や溶液散布装置3などにより各種処理が施されるようになっている。また、コークスが搬送路5を介して高炉4まで搬送される過程で、CWQ(Coke Wet Quencher:コークス湿式消火設備)を介したコークスに対して、以下に説明するような処理が施されるようになっていてもよい。
【0023】
コークス炉1から搬出されるコークスは、赤熱コークスであり、CDQ2の乾式消火処理によって所定の温度以下にまで冷却される。このCDQ2は、コークス炉1から搬送されるコークスを冷却するための冷却装置の一例である。CDQ2により冷却された後のコークスの温度は、200℃以下であることが好ましく、例えば130℃〜190℃の温度範囲内に設定されていてもよい。
【0024】
溶液散布装置3は、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液6を用いてコークスを被覆させるためのコークス被覆装置である。この例では、溶液散布装置3は、コークス炉1から高炉4へ搬送されるコークスに対して水溶液6を散布するものであり、CDQ2により冷却された後のコークスに対して水溶液6を散布するようになっている。溶液散布装置3は、CDQ2により冷却された直後のコークスに対して水溶液6を散布するようになっていることが好ましく、そのためには、図1のように溶液散布装置3をCDQ2の直後に設置してもよい。
【0025】
上記水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂は、水に溶解させた状態で、例えばフェノール樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤などの接着性を有するものからなる。また、上記水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂以外の有機化合物は、例えばポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル樹脂溶液、ポリスチレン樹脂溶剤、α―オレフィン系接着剤などの接着性を有するものからなる。これらの混合液からなる水溶液6をコークス炉1から高炉4へ搬送されるコークスに対して散布することによって、当該水溶液6をコークスに付着させるとともに、当該水溶液6の水分をコークスの熱により蒸発させて、当該水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物でコークスを被覆させることができる。すなわち、水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物が、コークスの表面を被覆する有機系被覆剤として機能する。
【0026】
このように、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液6を用いてコークスを被覆させることにより、石炭の配合構成を変更したりすることなく、コークスの粉化を抑制することができる。特に、熱硬化性樹脂を用いることにより、高温環境下でのコークスの強度を良好に向上させることができ、高炉4内におけるコークスの粉化を効果的に抑制することができるとともに、熱硬化性樹脂以外の有機化合物を用いることにより、低温環境下でのコークスの強度も良好に向上させることができ、高炉4内に供給される前においてもコークスの粉化を効果的に抑制することができる。
【0027】
また、この例では、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液6をコークスに散布するだけの構成であるため、複雑な構造を有する設備などを導入する必要がなく、より簡単な構成でコークスの強度を向上させることができる。
【0028】
特に、本実施形態では、CDQ2により冷却された後のコークスに対して散布された水溶液6の水分が、コークスの余熱により蒸発して、当該水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物でコークスが被覆される。これにより、冷却された後のコークスを熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物で良好に被覆することができるので、コークスの強度を効果的に向上させることができる。
【0029】
なお、水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂の濃度は、1wt%以上であることが好ましく、フェノール樹脂系接着剤である場合を例にとると、1〜55wt%(飽和点)であることが好ましい。また、水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂以外の有機化合物の濃度は、1wt%以上であることが好ましく、ポリビニルアルコールである場合を例にとると、1〜10wt%(飽和点)であることが好ましい。水分を蒸発させるためのエネルギーを少なくするという観点から、上記濃度は、飽和点以下においてできるだけ高い方が好ましい。
【0030】
図2は、図1のコークス処理システムにより行われる処理の一例を示したフローチャートである。コークス炉1で石炭が乾留されることにより生成されたコークスは、コークス炉1から搬送路5に搬出された後(ステップS101)、CDQ2の乾式消火処理により冷却される(ステップS102)。そして、CDQ2により冷却された後のコークスに対して、溶液散布装置3から水溶液6が散布されることにより(ステップS103)、当該水溶液6がコークスに付着する。
【0031】
コークスに付着した水溶液6は、その水分がコークスの熱により蒸発し、当該水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物でコークスが被覆される(ステップS104)。ステップS103及びステップS104は、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液6を用いてコークスを被覆させるためのコークス被覆ステップを構成している。コークスは、その表面全体が熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物で被覆されることが好ましいが、表面の一部のみが被覆された場合であっても、コークスの強度を向上させることができる。このようにして熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物で表面が被覆されたコークスは、搬送路5を介して高炉4に搬入される(ステップS105)。
【0032】
本実施形態では、溶液散布装置3が、CDQ2により冷却された後のコークスに対して水溶液6を散布するような構成について説明したが、このような構成に限らず、コークス炉1から搬出され、搬送路5を介してCDQ2に至るまでの間に、コークスに対して水溶液6を散布するような構成であってもよい。
【0033】
<実施例>
以下では、水溶液6の一例としてフェノール樹脂系接着剤及びポリビニルアルコール(PVA)を用いて行った強度試験について説明する。この試験を行う前の前処理工程として、CDQ2により冷却された後のコークスを採取して粉砕し、粒径19〜21mmのコークスを作成した後、200g量り込みによりI型ドラム強度試験の試料を作成した。そして、当該試料をフェノール樹脂系接着剤及びポリビニルアルコールの少なくとも一方を含む水溶液6に1分間浸漬することにより、表面が被覆されたコークスからなる供試料を作成した。上記水溶液6としては、ポリビニルアルコールに対するフェノール樹脂系接着剤の混合率が30%、50%、70%のものの他、ポリビニルアルコールのみからなるもの(混合率0%)、フェノール樹脂系接着剤のみからなるもの(混合率100%)などを用いた。上記供試料は、JIS(日本工業規格)の規格K2151に準拠したものではないが、当該供試料を用い、コークス強度としてI型ドラム強度(IDI)を測定した。
【0034】
具体的には、供試料をI型ドラム試験機に装填し、毎分20回転の速さで30分間、計600回転させた。その後、取り出した試料を9.5mm以下の粒子のみ通過させる篩にかけ、篩上に残った粒子の重量(篩上重量)を測定した。このような実験により得られた篩上重量と、I型ドラム試験機に装填する前の供試料の重量(供試料重量)とに基づいて、下記数式(1)によりI型ドラム強度を求めることができる。
【数1】

【0035】
また、上記供試料を径90mm、高さ300mmの円筒状のレトルトに装入し、窒素雰囲気において900℃の熱処理温度で熱処理を行った。そして、熱処理後の供試料を用いて、上述の態様によりI型ドラム強度(IDI)を測定した。
【0036】
図3は、各供試料の冷間及び熱処理後における数式(1)により算出したIDI(%)の値を比較するためのグラフである。このグラフから、例えば常温下などの比較的温度が低い状態(冷間)において、ポリビニルアルコールのみからなる水溶液6を用いて被覆した供試料と、フェノール樹脂系接着剤のみからなる水溶液6を用いて被覆した供試料とでは、いずれも被覆しなかった供試料(未被覆試料)よりもIDIの値が高く、コークスの強度が高いことが分かる。また、冷間においては、ポリビニルアルコールの方が、フェノール樹脂系接着剤よりもコークスの強度向上効果が高いことが分かる。
【0037】
例えば900℃といった比較的温度が高い環境下(熱間)で熱処理を行った場合、ポリビニルアルコールのみからなる水溶液6を用いて被覆した供試料と、フェノール樹脂系接着剤のみからなる水溶液6を用いて被覆した供試料とでは、いずれも被覆しなかった供試料(未被覆試料)よりもIDIの値が高く、コークスの強度が高いことが分かる。また、熱間においては、フェノール樹脂系接着剤の方が、ポリビニルアルコールよりもコークスの強度向上効果が高いことが分かる。
【0038】
図4は、熱処理温度に対する各被覆剤の重量減少率△TG(%)の関係を示したグラフである。重量減少率は、次式により算出することができ、図4には、被覆剤の一例であるフェノール樹脂系接着剤(実線)及びポリビニルアルコール(破線)の重量減少率が示されている。
△TG(%)=〔{(熱処理前の重量)−(熱処理後の重量)}/(熱処理前の重量)〕×100
【0039】
このグラフから、ポリビニルアルコールは、400℃未満の比較的温度が低い環境下において、フェノール樹脂系接着剤と比較して、所定の温度では重量減少率△TGが同程度又はそれ以下となっていることが分かる。すなわち、上記所定の温度では、ポリビニルアルコールの強度が、フェノール樹脂系接着剤と同程度又はそれ以上となっている。
【0040】
しかし、ポリビニルアルコールは、400℃以上の比較的温度が高い環境下では、重量減少率△TGが急激に大きくなり、強度が急激に低下している。これに対して、フェノール樹脂系接着剤は、400℃以上の比較的温度が高い環境下においても、ポリビニルアルコールほど重量減少率△TGが大きくならず、強度が比較的高いことが分かる。
【0041】
図5は、熱処理前におけるポリビニルアルコールに対するフェノール樹脂系接着剤の混合率(%)と数式(1)により算出したIDI(%)との関係を示したグラフである。図5に示す破線は、試料(コークス)を被覆しなかった場合(未被覆試料)のIDIの値である。このグラフから、熱処理前においては、コークスを被覆した方が、被覆しなかった場合よりもIDIの値が高く、コークスの強度が高いことが分かる。
【0042】
特に、熱処理前においては、フェノール樹脂系接着剤のみからなる水溶液6を用いて被覆した供試料よりも、フェノール樹脂系接着剤及びポリビニルアルコールの混合液からなる水溶液6を用いて被覆した供試料の方が、IDIの値が高い場合があることが分かる。したがって、ポリビニルアルコールに対するフェノール樹脂系接着剤の混合率を調整することによりコークスの強度を調整することができ、熱処理前においては上記混合率が50%以上、100%未満であることが好ましい。
【0043】
図6は、熱処理後におけるポリビニルアルコールに対するフェノール樹脂系接着剤の混合率(%)と数式(1)により算出したIDI(%)との関係を示したグラフである。図6に示す破線は、試料(コークス)を被覆しなかった場合(未被覆試料)のIDIの値である。このグラフから、熱処理後においては、ポリビニルアルコールのみからなる水溶液6を用いて被覆した供試料は、被覆しなかった場合とIDIの値が同程度であるが、フェノール樹脂系接着剤及びポリビニルアルコールの混合液からなる水溶液6を用いて被覆した供試料や、フェノール樹脂系接着剤のみからなる水溶液6を用いて被覆した供試料では、被覆しなかった場合よりもIDIの値が高く、コークスの強度が高いことが分かる。
【0044】
したがって、ポリビニルアルコールに対するフェノール樹脂系接着剤の混合率を調整することによりコークスの強度を調整することができ、熱処理後においては上記混合率が30%以上であることが好ましい。
【0045】
図5及び図6の結果から、フェノール樹脂系接着剤及びポリビニルアルコールの混合液からなる水溶液6を用いてコークスを被覆させることにより、低温環境下及び高温環境下の双方においてコークスの強度を良好に向上させることができることが分かる。また、ポリビニルアルコールに対するフェノール樹脂系接着剤の混合率が50%以上、100%未満であれば、低温環境下及び高温環境下の双方においてコークスの強度をより効果的に向上させることができる。
【0046】
以上の実施形態では、水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂の一例として、水に溶解させた状態でフェノール樹脂系接着剤となる例を説明したが、これに限らず、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤などであってもよい。ただし、図4に実線で示すように、熱硬化性樹脂として、熱処理温度1000℃における重量減少率△TGが50%未満、すなわち加熱歩留が50%以上のものを使用すれば、高温下においても熱硬化性樹脂が残存することにより、高炉4内におけるコークスの粉化をより効果的に抑制することができる。
【0047】
また、水溶液6に含まれる熱硬化性樹脂以外の有機化合物の一例として、ポリビニルアルコールを例にとって説明したが、これに限らず、ポリ酢酸ビニル樹脂溶液、ポリスチレン樹脂溶剤、α―オレフィン系接着剤などであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 コークス炉
2 CDQ
3 溶液散布装置
4 高炉
5 搬送路
6 水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉で使用される前のコークスに対する処理を行うためのコークス処理システムであって、
熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を用いて上記コークスを被覆させるためのコークス被覆装置を備えたことを特徴とするコークス処理システム。
【請求項2】
上記熱硬化性樹脂は、熱処理温度1000℃における重量減少率が50%未満であることを特徴とする請求項1に記載のコークス処理システム。
【請求項3】
上記コークス被覆装置は、コークス炉から高炉へ搬送されるコークスに対して、上記熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を散布することによって、当該水溶液を上記コークスに付着させるとともに、当該水溶液の水分を上記コークスの熱により蒸発させて、当該コークスを上記熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物で被覆させることを特徴とする請求項1又は2に記載のコークス処理システム。
【請求項4】
上記コークス炉から搬送されるコークスを冷却するための冷却装置を備え、
上記コークス被覆装置は、上記冷却装置により冷却された後のコークスに対して上記熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を散布することを特徴とする請求項3に記載のコークス処理システム。
【請求項5】
高炉で使用される前のコークスに対する処理を行うためのコークス処理方法であって、
熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂以外の有機化合物を含む水溶液を用いて上記コークスを被覆させるためのコークス被覆ステップを含むことを特徴とするコークス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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