説明

コーティング剤組成物

【課題】
本発明は、シリコーンレジンとシラザン系化合物とを含有し、硬化性に優れ、撥水性及び皮膜物性に優れた硬化皮膜を形成可能なコーティング剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
シラノール基及び/又は加水分解によってシラノール基を生成する基を含有する湿気硬化性シリコーンレジンと、有機ポリシラザンと、シラノール基及び加水分解によってシラノール基を生成する基を含有しない非反応性シリコーンオイルとを含有することを特徴とするコーティング剤組成物であり、前記湿気硬化性シリコーンレジン100質量部に対して、前記有機ポリシラザンを35〜300質量部を含有し、前記湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンの含有量の合計100質量部に対して、前記非反応性シリコーンオイルを10〜200質量部を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のタイヤのアルミホイール、熱交換器のフィン、又はガスコンロ、湯沸し器、ガスストーブ等のガス機器、石油ファンヒーター、石油ストーブ等の石油暖房器具、IHクッキングヒーター、電子レンジ等の電気調理器具、あるいは磁器タイル、天然石、ガラス、プラスチック、セラミック、金属、コンクリート、モルタル、煉瓦等の各種素材からなる被塗装物の汚染防止、表面保護等に用いるコーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンレジンを結合材とするコーティング剤組成物によって形成された硬化皮膜の撥水性を向上させることを目的として、シリコーンレジン組成物にシラザン系化合物を加えることが行なわれていた。
シリコーンレジンとシラザン系化合物とを含有するコーティング剤組成物としては、特許文献1などがある。
特許文献1には、縮合反応基を有するシリコーンレジン100質量部、無機微粉末1〜100質量部、及びシラザン系化合物0.5〜50質量部、及び任意量の有機溶剤から少なくともなる硬化性シリコーンレジン組成物が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−26727号公報
【0004】
なお、本発明書において「基」(radical又はgroup)とは、化学反応のときに変化することなく、一つのまとまった集団として化合物から他の化合物に移動することができる原子団をいう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、シリコーンレジンとシラザン系化合物とを含有するコーティング剤組成物は、シリコーンレジンに対するシラザン系化合物の混合割合が多くなると、コーティング剤組成物の硬化性が悪くなったり、コーティング剤組成物によって形成された硬化皮膜の物性が低下したりするといった傾向がみられた。
【0006】
特許文献1の硬化性シリコーンレジン組成物においても同様の傾向が見られることが、特許文献1にも記載されている。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決することを目的として成されたものであって、シリコーンレジンに対するシラザン系化合物の混合割合を多くした場合においても、硬化性に優れたコーティング剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シラノール基及び/又は加水分解によってシラノール基を生成する基を含有する湿気硬化性シリコーンレジンと、有機ポリシラザンと、シラノール基及び加水分解によってシラノール基を生成する基を含有しない非反応性シリコーンオイルと、硬化触媒とを含有することを特徴とするコーティング剤組成物である。
【0009】
なお、前記コーティング剤組成物は、前記湿気硬化性シリコーンレジン100質量部に対して、前記有機ポリシラザン35〜300質量部を含有することが好ましい。
【0010】
また、前記湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンの含有量の合計100質量部に対して、前記非反応性シリコーンオイルを5〜1000質量部を含有すること好ましい。
【0011】
また、前記湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンの含有量の合計100質量部に対して、前記硬化触媒0.01〜20質量部を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
前記した本発明によれば、シリコーンレジンと有機ポリシラザンとを含有するコーティング剤組成物であって、硬化性に優れたコーティング剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のコーティング剤組成物の詳細について説明する。
本発明のコーティング剤組成物は、シラノール基及び/又は加水分解によってシラノール基を生成する基を含有する湿気硬化性シリコーンレジンと、有機ポリシラザンと、シラノール基及び加水分解によってシラノール基を生成する基を含有しない非反応性シリコーンオイルと、硬化触媒とを含有する。
【0014】
このコーティング剤組成物は、非反応性シリコーンオイルと硬化触媒とを含有することによって硬化性に優れる。そのため、常温で硬化させることも可能であり、加熱することなく速やかに硬化皮膜を形成することができる。また、硬化皮膜は撥水性及び撥油性を有しているので、硬化皮膜に水垢や油汚れ等の汚れが付着し難く、汚染防止性に優れると共に、付着した汚れを容易に除去することができるため、汚染除去性にも優れる。
【0015】
前記湿気硬化性シリコーンレジンとは、アルコキシシリル基やクロロシリル基等の加水分解するシリル基を2〜4個有するオルガノシラン化合物を共加水分解し重合して得られる分岐度の高い三次元ポリマーであって、その分子中にシラノール(珪素にヒドロキシ基が直接結びついたもの;Si−OH。以下、珪素原子に直接結びついたヒドロキシ基のことをシラノール基という。)及び/又は加水分解によってシラノール基を生成する基を含有する。
【0016】
湿気硬化性シリコーンレジンは、各分子が持つシラノール基(加水分解によって生成されるシラノール基も含む)が脱水縮合して分子間にシロキサン結合を形成することによって、分子同士が結合して三次元網目構造の硬化皮膜を形成する。
【0017】
具体的には、湿気硬化性シリコーンレジンは、1官能性シロキサン単位:RSiO1/2、2官能性シロキサン単位:RSiO2/2、3官能性シロキサン単位:RSiO3/2、及び4官能性シロキサン単位:SiO4/2から選ばれる、3官能性シロキサン単位又は官能性シロキサン単位を少なくとも含む1種以上のシロキサン単位からなる。
【0018】
例えば、1官能性シロキサン単位と4官能性シロキサン単位とを含むシリコーンレジン、1官能性シロキサン単位と4官能性シロキサン単位と3官能性シロキサン単位とを含むシリコーンレジン、3官能性シロキサン単位を含むシリコーンレジン、2官能性シロキサン単位と3官能性シロキサン単位とを含むシリコーンレジンなどを挙げることができる。
【0019】
なお、前記したシロキサン単位におけるR〜Rは、特に限定されるものではないが、例えば、水素原子;メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等のアルキル基,フェニル、トリル、ナフチル等のアリール基,ビニル、アリル等のアルケニル基;或いはこれらの炭化水素基構造中の水素原子の一部がハロゲン原子や、アミノ、アクリルオキシ、メタクリルオキシ、エポキシ、メルカプト、カルボキシル等で置換されたもの;或いは、クロル基、アルコキシ基、アセトキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基等を挙げることができる。これらは、分子中に1種類のみが存在してもよいし、2種類以上が存在してもよい。ただし、シラノール基及び/又は加水分解によってシラノール基を生成する基を含有することが必須である。
【0020】
加水分解によってシラノール基を生成する基は、珪素原子に直接結合された基であって、珪素原子に直接結合されたアルコキシ基、アリールオキシ基、アセトキシ基、イソプロペノキシ基、アミノ基等が挙げられる。この中でも、湿気硬化性シリコーンレジンの貯蔵安定性の良さ、加水分解・脱水縮合による硬化性の良さを考慮するとアルコキシ基が好ましく、その中でも炭素原子数4以下のアルコキシ基が好ましく、加水分解性のよいメトキシ基、エトキシ基などの炭素原子数2以下のアルコキシ基が特に好ましい。
【0021】
なお、本発明のコーティング剤組成物に用いる湿気硬化性シリコーンレジンは、湿気硬化性シリコーンレジン全量におけるシラノール基及び加水分解によってシラノール基を生成する基の含有率が5〜60質量%であるものが好ましく、20〜50質量%であるものが特に好ましい。前記含有率が少なすぎると硬化性がよくなく、また、分子間に生成されるシロキサン結合が少ないためコーティング剤組成物による硬化皮膜の物性が低下する。逆に、含有率が多すぎても硬化性はよくなく、また、硬化皮膜が親水性になりやすいため有機ポリシラザンを混合したとしても十分な撥水性を有する硬化皮膜が得難い。特に、シラノール基及び加水分解によってシラノール基を生成する基としてメトキシ基及び/又はエトキシ基を前記含有率で含有しているものは硬化性がよく好ましい。
【0022】
前記有機ポリシラザンは化1のような化学式で表される化合物(ただし、側鎖R〜R及び末端基の全てが水素原子であるものを除く)である。なお、側鎖R〜R及び末端基の全てが水素原子であるものは、本明細書では無機ポリシラザンという。
【0023】
【化1】

【0024】
ここで、側鎖R〜R及び末端基は、特に限定されるものではないが、例えば、水素原子;メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等のアルキル基,フェニル、トリル、ナフチル等のアリール基,ビニル、アリル等のアルケニル基;或いはこれらの炭化水素基構造中の水素原子の一部がハロゲン原子や、アミノ、アクリルオキシ、メタクリルオキシ、エポキシ、メルカプト、カルボキシル等で置換されたもの;或いは、クロル基、アルコキシ基、アセトキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基等を挙げることができる。
【0025】
なお、無機ポリシラザンは撥水性に乏しく、前記湿気硬化性シリコーンレジンと共にコーティング剤組成物に含有させたとしても、硬化皮膜の撥水性を効率よく向上させることができないため、本発明のコーティング剤組成物では有機ポリシラザンを用いる。
【0026】
また、有機ポリシラザンの中でも、撥水性をより向上させるためには、側鎖に疎水性であるアルキル基を含有するものを用いることが好ましい。アルキル基を多く含有すると硬化皮膜の撥水性に加えて、撥油性も向上させることができ、硬化皮膜に油汚れなどなどが付着し難くなる。また、アルキル基の中でも炭素原子数4以下のものが好ましく、メチル基又はエチル基が特に好ましい。具体的には、メチルポリシラザン、ジメチルポリシラザンの一方或いは両方を用いることが好ましい。
【0027】
なお、本発明のコーティング剤組成物に用いる有機ポリシラザンは、硬化皮膜に撥水性を付与するために用いるものであるため、アルキル基を多く含むことが好ましい。具体的には、有機ポリシラザン全量におけるアルキル基の含有率は20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が特に好ましい。
【0028】
また、化1で表され、側鎖R〜Rが異なる組成のものが結合したものも有機ポリシラザンである。このようなものとしては、例えば、化2の化学式で表されるものがある。なお、化2は、側鎖R,R2と側鎖R,Rとは同一ではない。
【0029】
【化2】

【0030】
化2においては、側鎖R〜R及び末端基が全て水素原子の場合には無機ポリシラザンであり、それ以外のものは有機ポリシラザンである。
また、化2は、化1で表され、側鎖R〜Rが異なる2種類のポリシラザンが結合したものであるが、2種類以上が結合したものであってもよい。
【0031】
また、有機ポリシラザンは、直鎖状、分岐状、環状等の様々な構造のものを用いることができる。特に、環状のものは三次元網目構造が規則的な構造になりやすいため、硬化皮膜の特性が、硬化条件などによって左右されにくく好ましい。
【0032】
前記有機ポリシラザンは加水分解により窒素原子がはずれてアンモニアガスを生成するとともに酸素原子と置き換わることでシロキサン結合が生成され、三次元網目構造の皮膜を形成する。
【0033】
また、シラノール基及び/又は加水分解によってシラノール基を生成する基を含有する有機ポリシラザンを用いれば、有機ポリシラザンが持つシラノール基(加水分解によって生成されるシラノール基も含む)と、湿気硬化性シリコーンレジンが持つシラノール基(加水分解によって生成されるシラノール基も含む)とが脱水縮合してシロキサン結合を形成することによって、湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンとが結合してより強固な硬化皮膜を形成することができるため、皮膜の物性を向上させることができる。
【0034】
前記有機ポリシラザンは、既知の製造方法で製造されたものを用いることができる。既知の製造方法としては、例えば、特表2006−515641号公報に記載されている製造方法等が挙げられる。また、市販の有機ポリシラザンを用いても良い。
【0035】
前記湿気硬化性シリコーンレジンと前記有機ポリシラザンの混合比は、湿気硬化性シリコーンレジン100質量部に対して、有機ポリシラザンは35〜300質量部であることが好ましく、50〜200質量部であることがより好ましく、60〜150質量部であることが特に好ましい。湿気硬化性シリコーンレジンに対する有機ポリシラザンの混合比率が少なすぎると、硬化皮膜に十分な撥水性や撥油性を付与することができない。そのため、硬化皮膜の汚染防止性、汚染除去性などが低下することがある。逆に、有機ポリシラザンの混合比率が多すぎるとコーティング剤組成物の硬化性が悪くなる。硬化性が悪くなるのは、有機ポリシラザンが加水分解によりシロキサン結合を生成する反応の促進が不十分なためと考えられ、80℃以上の高温で長時間加熱れば硬化させることができる。
【0036】
また、有機ポリシラザンの混合比率が多すぎる場合には、被塗装物との密着性が悪くなる。特に、既に本発明のコーティング剤組成物による硬化皮膜が形成された下地に対する密着が悪く、コーティング剤組成物を塗り重ねたりした場合には、後から塗装するコーティング剤組成物が下地となる硬化皮膜のはじきによって均一な厚みに塗装できなかったり、硬化した皮膜が下地から剥離したりするといった不具合が生じやすい。
【0037】
前記非反応性シリコーンオイルは、コーティング剤組成物の粘性調整のため、及び皮膜形成を補助してコーティング剤組成物による均一な皮膜を形成するために用いられる。いわば、希釈剤のように用いるため、前記した湿気硬化性シリコーンレジンや有機ポリシラザンとの結合性のないものを用いる。結合性があるものを用いると、硬化皮膜に結合される分子と揮発する分子の量を調整することが困難なため、硬化皮膜の品質を安定させることが難しい。
具体的には、シラノール基及び加水分解によってシラノール基を生成する基を含有しないものであればよい。
【0038】
非反応性シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、モノアミン変性シリコーンオイル、ジアミン変性シリコーンオイル、特殊アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、脂環式エポキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、ハイドロジェン変性シリコーンオイル、アミノ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・アラルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、側鎖アミノ・両末端メトキシ変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0039】
これらの非反応性シリコーンオイルのうち、ジメチルシリコーンオイルを用いることが特に好ましく、側鎖及び末端基が全てメチル基であるジメチルシリコーンオイルを用いることが特に好ましい。ジメチルシリコーンオイルを用いることにより、コーティング剤組成物の硬化性が特によくなる。
【0040】
前記非反応性シリコーンオイルのJIS K2238;2000に準拠して測定した25℃での動粘度(以下、動粘度とはこの条件で測定した動粘度をいう。)は、好ましくは0.2〜10mm/sであり、より好ましくは0.4〜5mm/sであり、最も好ましくは0.6〜2mm/sである。非反応性シリコーンオイルの動粘度が0.2〜10mm/sであることにより、コーティング剤組成物が被塗装面に対してなじみやすくなるとともに、被塗装物に塗装されたコーティング剤組成物が常温で硬化しやすく皮膜中の非反応性シリコーンオイルの残存が少ない。
【0041】
動粘度が10mm/sを超える非反応性シリコーンオイルは、分子量が大きく揮発が遅いため、非反応性シリコーンオイルが硬化皮膜中に残存して均一な硬化皮膜の形成を阻害する場合がある。また、動粘度が高いものは、被塗装物になじみにくいため硬化皮膜の膜厚に斑ができやすく、平滑で膜厚が均一な硬化皮膜を容易に形成できない場合がある。逆に、動粘度が0.2mm/s未満の非反応性シリコーンオイルは、分子量が小さく揮発が速すぎるため、コーティング剤組成物の塗装中に非反応性シリコーンオイルが揮発してしまい希釈剤としての機能を十分に果たせないため、平滑で膜厚が均一な硬化皮膜を容易に形成できなくなる。また、コーティング剤組成物の硬化性を十分に向上させることができない。
【0042】
塗装後の膜厚が均一でないと、硬化時にひび割れが発生する等の不具合が生じやすい。
【0043】
なお、動粘度が上記範囲にある非反応性シリコーンオイルの中でも、JIS K 2241;2000の表面張力試験法に準拠して測定した25℃での表面張力が13〜23mN/m、より好ましくは15〜22mN/mのものを用いることで、コーティング剤組成物が被塗装面に対してよりなじみやすくなり、均一な硬化皮膜を形成しやすい。
【0044】
非反応性シリコーンオイルのコーティング剤組成物への含有量は、前記湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンの含有量の合計100質量部に対して、5〜1000質量部であることが好ましく、50〜800質量部であることがより好ましく、100〜600質量部であることが特に好ましい。適量の非反応性シリコーンオイルを含有させることによって、コーティング剤組成物の硬化性を向上させることができる。また、コーティング剤組成物と被塗装物との親和性がよくなることで硬化皮膜の膜厚を均一にしやすくなり、また、コーティング剤組成物が硬化する過程においてひび割れ等の不具合が発生しにくくなる。湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンに対する非反応性シリコーンオイルの含有量が少なすぎると、コーティング剤組成物の硬化性を十分に向上させることができない。また、被塗装物がコーティング剤組成物をはじくことで膜厚にムラができやすくなり、そのためコーティング剤組成物が硬化する過程においてひび割れ等の不具合が発生しやすくなる。逆に、含有量が多すぎると、非反応性シリコーンオイルが揮発して塗膜から消失するのに時間を要するため、硬化に時間がかかってしまう。また、硬化皮膜が緻密になりにくく、また均一な硬化皮膜を形成しにくい。そのため、硬化皮膜の汚染防止性、汚染除去性や耐熱性などが低下することがある。
【0045】
前記コーティング剤組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、一般の塗料に用いられるタルク、クレー、炭酸カルシウム、シリカ粉等の体質顔料、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー等の着色顔料、或いは繊維等の添加材、硬化触媒等の添加剤、前記非反応性シリコーンオイル以外の希釈剤などを含有させてもよい。
【0046】
非反応性シリコーンオイル以外の希釈剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤など、湿気硬化性シリコーンレジン、有機ポリシラザン、及び非反応性シリコーンオイルとの相溶性がよいものを使用すればよい。ただし、有機溶剤の含有率が多くなるとコーティング剤組成物の硬化性が悪くなるため、有機溶剤の含有量は、前記非反応性シリコーンオイル100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。特に好ましくは、有機溶剤を用いないことである。
【0047】
前記硬化触媒は、湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンの硬化反応、特に、湿気硬化性シリコーンレジンがシラノール基からシロキサン結合を生成する脱水縮合反応や、有機ポリシラザンがシロキサン結合を生成する加水分解反応を促進させる触媒作用のある物質をいう。硬化触媒を用いることで、コーティング剤組成物の硬化性が向上し、コーティング剤組成物がより短時間且つ低温度で硬化するようになる。
【0048】
前記硬化触媒としては、例えば、1−メチルピペラジン、1−メチルピペリジン、4,4’−トリメチレンジピペリジン、4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)、ジアザビシクロ−[2,2,2]オクタン、シス−2,6−ジメチルピペラジン、4−(4−メチルピペリジン)ピリジン、ピリジン、ジピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン、ルチジン、ピリミジン、ピリダジン、4,4’−トリメチレンジピリジン、2−(メチルアミノ)ピリジン、ピラジン、キノリン、キノキサリン、トリアジン、ピロール、3−ピロリン、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、1−メチルピロリジンなどのN−ヘテロ環状化合物;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミンなどのアミン類;更にDBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]5−ノネン)、1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,4,7−トリアザシクロノナンなどが挙げられる。これらの中では、硬化性を向上させるためにはアミン類が特に好ましい。
これら以外にも、有機酸、無機酸、金属カルボン酸塩、アセチルアセトナ錯体、金属微粒子も好ましい硬化触媒として挙げられる。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、マレイン酸、ステアリン酸などが、また無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、過酸化水素、塩素酸、次亜塩素酸などが挙げられる。金属カルボン酸塩は、式:(RCOO)nM〔式中、Rはアルキル基で、炭素数1〜22のものを表し、MはNi、Ti、Pt、Rh、Co、Fe、Ru、Os、Pd、Ir、Alからなる群より選択された少なくとも1種の金属を表し、nはMの原子価である。〕で表わされる化合物である。金属カルボン酸塩は無水物でも水和物でもよい。アセチルアセトナ錯体は、アセチルアセトン(2,4−ペンタジオン)から酸解離により生じた陰イオンであるアセチルアセトナート(acac)が金属原子に配位した錯体であり、一般的には、式(CHCOCHCOCH)nM〔式中、Mはn価の金属を表す。〕で表される。好適な金属Mとしては、例えば、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、ロジウムなどが挙げられる。金属微粒子としては、Au、Ag、Pd、Ni、Zn、Tiが好ましく、特にTiが好ましい。金属微粒子の触媒効果を効率よく得るためには、金属微粒子の粒径は、10m以下が好ましく、7μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。これら以外にも、過酸化物、メタルクロライド、フェロセン、ジルコノセンなどの有機金属化合物も用いることができる。これら硬化触媒は、湿気硬化性シリコーンレジン及び有機ポリシラザンの合計量100質量部に対して0.01〜20質量部、好ましくは0.03〜10質量部、特に好ましくは0.05〜5質量部の量で配合される。
【0049】
以上のように構成されるコーティング剤組成物の具体的な実施形態を以下に示す。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0050】
<実施形態>
前記コーティング剤組成物は、例えば、自動車のタイヤホイールのコーティング剤として好適に用いることができる。
【0051】
自動車のタイヤホイールは、使用によってブレーキダストや砂埃や油などの汚れが付着するため、タイヤホイールのコーティングには汚染防止性、汚染除去性といった性能が求められる。また、タイヤホイールはブレーキの使用によって高温になることがあるため、耐熱性も要求される。
【0052】
本発明のコーティング剤組成物による硬化皮膜は、汚染防止性、汚染除去性に優れ、またシロキサン結合によって硬化皮膜が形成されているため耐熱性にもすぐれているため、タイヤホイールのコーティングには好適である。さらに、高温に加熱することなく常温下でも硬化が可能なため、耐熱性の低い既存コーティング層がある場合においても、既存コーティング層の表面に硬化皮膜を形成することができる。
【0053】
コーティング剤組成物としては、具体的には、以下のような組成のものを用いることができる。
【0054】
コーティング剤組成物:メチル系シリコーンレジン100質量部、ジメチルポリシラザン100質量部、ジメチルシリコーンオイル20質量部、金属微粒子(チタン系硬化触媒)0.1質量部。
【0055】
このコーティング剤組成物用いたメチル系シリコーンレジンは、加水分解によってシラノール基を生成する基としてメトキシ基を含有し、メトキシ基の含有率は45質量%であり、メトキシ基以外の珪素原子結合基は全てメチル基である。
【0056】
また、ジメチルポリシラザンが含有するメチル基の含有率は40質量%である。
【0057】
また、ジメチルシリコーンオイルは、側鎖及び末端基が全てメチル基であり、動粘度は0.65mm/sである。
【0058】
前記コーティング剤組成物の硬化皮膜の形成は以下のように行なう。
まず、被塗装物であるタイヤホイールにコーティング剤組成物を塗装する。その際の塗装方法や塗装器具は、一般に塗料の塗装に用いられるものであればよく、例えば、ローラー、ハケ、エアスプレー、エアレススプレー、ディッピング、フローコーター等の塗装器具や塗装機を使えばよい。
【0059】
コーティング剤組成物の塗付量は、硬化皮膜の厚みが1〜100μmになるように設定することが好ましく、2〜50μmになるように設定することがより好ましく、5〜30μmになるように設定することが特に好ましい。
硬化皮膜の厚みが薄すぎると、汚染防止性、汚染除去性が十分に発揮されない恐れがある。逆に、硬化皮膜の厚みが厚すぎると、コーティング剤組成物の硬化工程や、硬化皮膜の形成後においてひび割れ等の不具合が発生しやすい。
【0060】
被塗装物にコーティング剤組成物を塗装した後は、温度20〜40℃程度、湿度20〜80%程度の環境下で養生を行う。なお、硬化時間を短縮したい場合には、80〜400℃程度の温度で加熱しても構わない。
【0061】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
【0062】
・ 前記実施形態においては、コーティング剤組成物をタイヤホイールのコーティングに用いたが、被塗装物は任意に設定することができる。例えば、浴槽、台所のシンク、洗面台等の水まわり製品、磁器タイル、天然石、ガラス、プラスチック、セラミック、金属、コンクリート、モルタル、煉瓦等の各種素材からなる建築資材などが挙げられる。
【0063】
・ 前記実施形態においては、タイヤホイールにコーティング剤組成物のみを塗装したが、コーティング剤組成物の塗装前に、着色のため、また被塗装物とコーティング剤組成物の硬化皮膜との密着性を強化するために、下塗り塗料を塗装してもよい。
前記下塗り塗料の塗膜硬度は、好ましくはJIS K5600;1999に規定されている引っかき硬度(鉛筆法)でHB以上、より好ましくはH以上、特に好ましくは2H以上である。この範囲にあるとき、下塗り塗料の塗膜上に本発明のコーティング剤組成物の硬化皮膜を形成させた場合に、硬化皮膜のひび割れを抑制することができる。前記下塗り塗料の塗膜の引っかき硬度(鉛筆法)がHB未満である場合には、下塗り塗料の塗膜上に形成させた硬化皮膜がひび割れるおそれがある。
【実施例】
【0064】
以下に本発明の実施例及び比較例を示す。
実施例及び比較例には、湿気硬化性シリコーンレジン、有機ポリシラザン、非反応性シリコーンオイル、及び硬化触媒として以下の組成のものを用いた。
【0065】
湿気硬化性シリコーンレジンとしてメチル系シリコーンレジンを用いた。なお、加水分解によってシラノール基を生成する基としてメトキシ基を含有し、メトキシ基の含有率は30質量%であり、メトキシ基以外の珪素原子結合基は全てメチル基であった。
【0066】
有機ポリシラザンとして化1に示した組成のジメチルポリシラザン(側鎖R〜Rはメチル基)を用いた。なお、ジメチルポリシラザンの化1におけるnの数値はn=5〜20であり、形状は環状であった。
【0067】
非反応性シリコーンオイルとしてジメチルシリコーンオイル(ポリシロキサンの側鎖、末端がすべてメチル基であるもの)を用いた。なお、ジメチルシリコーンオイルの動粘度は0.65mm/sであった。
【0068】
硬化触媒として、金属微粒子(チタン系硬化触媒)を用いた。
【0069】
実施例1〜3、比較例1〜3のコーティング剤組成物の組成を表1に示す。なお、表に示す組成は、各原材料の配合量を質量部で示すものである。
【0070】
なお、表1には、以下の手順で形成した各コーティング剤組成物の硬化皮膜の厚みと、その硬化皮膜の常温での硬化性、汚染防止性、リコート性、及び耐熱性の評価結果も記載する。
【0071】
(硬化皮膜の形成)
実施例1〜3、比較例1〜3の各コーティング剤組成物を長さ150mm×幅50mm×厚さ0.8mmのアルミニウム板の表面(任意の片面)にスプレー塗装して硬化皮膜を形成した。なお、以下の評価には、塗装後のアルミニウム板を温度25℃,湿度60%の条件下で16時間静置してコーティング剤組成物の硬化の進行の程度を確認し、その後、同条件にて更に2週間静置したものを試験体として用いた。形成した硬化皮膜の厚みを表1に記載する。
【0072】
(常温硬化性の評価方法)
塗装後16時間静置した後、コーティング剤組成物を塗装したアルミニウム板表面を観察し、コーティング剤組成物の硬化の進行の程度を、目視、指触、及び硬さHの鉛筆による引掻きによって確認し、以下のように評価した。なお、指触硬化とは、指触しても硬化皮膜に変化が見られない程度に硬化している状態である。
○:指触硬化しており、硬化皮膜に鉛筆で引掻きによる痕跡が残らない。
△:指触硬化しているが、硬化皮膜に鉛筆による引掻き傷が残る。
×:乾燥していない(指触すると痕が残る)。
【0073】
(汚染防止性の評価方法)
試験体を表面が上になる様に設置して、硬化皮膜全体にブレーキダスト1gをふりかけて1時間静置した後、140mmの間隔で平行に置いたガラス棒(φ8mm)の上に試験体を表面が下になる様に設置して、試験体の裏面中央部を5回指ではじき、余分な汚れを取った試験体の表面を目視で観察して以下のように評価した。なお、汚れの程度の評価には汚染用グレースケールを用いた。
○:実施例1の試験体と同じ程度の汚れがみられる。
△:実施例1の試験体と比較して僅かに汚れが目立つ。
×:実施例1の試験体と比較して汚れている。
【0074】
(リコート性の評価方法)
養生の終了した試験体の硬化皮膜に、再びコーティング剤組成物をスプレー塗装して10分間静置した後にコーティング剤組成物の状態を目視で観察して、以下のように評価した。
○:全くはじきがなく、均一な厚みに塗装されている。
△:硬化皮膜がコーティング剤組成物をはじいている箇所がみられる。
×:硬化皮膜がコーティング剤組成物を完全にはじいてしまい、膜が形成されていない。
【0075】
(耐熱性の評価方法)
各コーティング剤組成物について試験体を4枚準備し、それぞれの試験体を、電気炉にて100℃、200℃、300℃、400℃の各温度で1時間加熱した後、硬化皮膜の状態を目視で観察し、以下のように評価した。
○:異常なし
×:硬化皮膜にひび割れが発生
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラノール基及び/又は加水分解によってシラノール基を生成する基を含有する湿気硬化性シリコーンレジンと、有機ポリシラザンと、シラノール基及び加水分解によってシラノール基を生成する基を含有しない非反応性シリコーンオイルと、硬化触媒とを含有することを特徴とするコーティング剤組成物。
【請求項2】
前記湿気硬化性シリコーンレジン100質量部に対して、前記有機ポリシラザン35〜300質量部を含有することを特徴とする請求項1に記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
前記湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンの含有量の合計100質量部に対して、前記非反応性シリコーンオイル5〜1000質量部を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
前記湿気硬化性シリコーンレジンと有機ポリシラザンの含有量の合計100質量部に対して、前記硬化触媒0.01〜20質量部を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤組成物。

【公開番号】特開2012−17374(P2012−17374A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154429(P2010−154429)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】