説明

コーティング用組成物及びその製造方法並びにコーティング方法

【課題】本発明は、木質系成形品の表面に塗装した場合においても、耐水性、耐候性及び防臭性を発揮可能な、非石油系原料を用いたコーティング用組成物及びその製造方法並びにコーティング方法を提供する。
【解決手段】本発明のコーティング用組成物は、トリメトキシビニルシランの加水分解重合物を含有するコーティング用組成物であって、前記加水分解重合物は前記トリメトキシビニルシランのモル数に対し2倍以上10倍以下のモル数の水を含んだ酸によって加水分解されたものである。さらにポリビニルブチラールを添加することが好ましく、さらにチタニアゾルを混合することが最も好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブナや竹等の木質系材料からなる、いわゆるグリーンプラスチックの耐水性、耐候性並びに美観の向上を図るために好適に用いることができるコーティング用組成物及びその製造方法並びにコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した持続可能な「ものづくり」は、分野を問わずあらゆる産業で重要な課題となっている。このため、ブナや竹等の木質系材料をプラスチック代替の材料として成形する、いわゆるグリーンプラスチックの技術開発が精力的に行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−107331号公報
【特許文献2】特開2008−37022号公報
【特許文献3】特開2007−284745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のグリーンプラスチックは通常黒褐色をしており、独特の臭いや、吸水し易くて耐水性に劣るといった問題があった。こうした問題を解決するために、表面を塗装することによって美観を高めたり、臭いを防止したり、耐水性を向上させたりすることが考えられる。しかし、グリーンプラスチックの表面に石油系原料を主とする有機塗装皮膜を塗ったのでは、環境に配慮して木質系材料を用いた意義が薄れることとなる。このため、グリーンプラスチックの表面に塗装した場合において、耐水性、耐候性及び防臭性を発揮することができる、シリコン系のコーティング剤が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであり、グリーンプラスチックの表面に塗装した場合においても、耐水性、耐候性及び防臭性を向上させることができる、シリコン系のコーティング用組成物及びその製造方法並びにコーティング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、既に、亜鉛めっき皮膜の耐食性向上のためのクロメート皮膜の代替品として、テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランとの混合物を酸で加水分解し、さらに脱水重合したポリマー(以下、「加水分解重合物」という)が利用できることを見出している(特許文献3)。そして、さらに本発明者らは、グリーンプラスチックに関する上記課題を解決するために、アルコキシシラン化合物の加水分解重合物の利用を考えた。しかしながら、亜鉛めっき皮膜の表面に比べ、木質系成形品の表面は凹凸があって多孔性であることから、密着性の良い皮膜を得ることはできなかった。このため、多くのアルコキシシラン化合物の加水分解重合物の中から、グリーンプラスチックの内部まで浸透し易いものを選択し、さらに鋭意研究を行った。その結果、トリメトキシビニルシランの加水分解重合物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のコーティング用組成物は、トリメトキシビニルシランの加水分解重合物を含有するコーティング用組成物であって、前記加水分解重合物は前記トリメトキシビニルシランのモル数に対し2倍以上10倍以下のモル数の水を含んだ酸によって加水分解されたものであることを特徴とする。
【0008】
本発明のコーティング用組成物は、トリメトキシビニルシランの加水分解重合物を含有している。トリメトキシビニルシランは酸によって加水分解され、3つのメチルアルコール分子と1つのビニルトリヒドロキシシラン分子となる。そして、さらに酸の作用によりビニルトリヒドロキシシラン分子に存在するシラノール基が脱水縮合され、シリコンオキサイドによる網目構造を有するポリマーとなって膜形成が可能となる。
【0009】
ここで、加水分解重合物はトリメトキシビニルシランのモル数に対し2倍以上10倍以下のモル数の水を含んだ酸によって加水分解されているため、粘調で均一な透明溶液となり、基材への均質な塗布が容易な液となる。そして、塗布層を乾燥させて得られた皮膜は、グリーンプラスチックの表面に塗装した場合においても、耐水性、耐候性及び防臭性を発揮することができる。
【0010】
なお、トリメトキシビニルシランのモル数に対し水が2倍未満の場合には、メトキシ基が加水分解されずに残ってしまうおそれがある。また、トリメトキシビニルシランのモル数に対し水が10倍を超える場合には、加水分解重合物が沈殿して均一な透明溶液とはならない。好ましいのは、トリメトキシビニルシランのモル数に対して水が3.5倍以上4.5倍以下の範囲であり、さらに好ましいのは3.7倍以上4.3倍以下の範囲である。
【0011】
トリメトキシビニルシランを加水分解重合物にするための酸としては、メトキシ基をシラノール基に加水分解させ、さらにシラノール基を脱水縮合させることができる酸であれば、どのような酸でも用いることができる。このような酸としては、例えば硝酸、カルボン酸、正リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、スルホン酸、塩酸、硫酸等が挙げられる。これらは、混合して用いてもよい。これらの中でも、硝酸及び/又は炭素数が4以下のカルボン酸が特に好ましい。硝酸や炭素数が4以下のカルボン酸は揮発しやすく、コーティング後に皮膜中から揮発するため、酸による基材の変質や周囲の金属の腐食を引き起こすおそれが少ないからである。
【0012】
また、加水分解重合物中の酸の濃度は10−5mol/L以上10−1mol/L以下であることが好ましい。加水分解重合物中の酸の濃度が10−5mol/L未満であると、加水分解が不充分となったり脱水縮合が不充分となったりするおそれがあり、ひいては皮膜の硬度や耐水性や耐候性が低下するおそれがある。また、酸の濃度が10−1mol/Lを超えると、重合が進んでコーティング用組成物に白濁が生じやすくなり、液の寿命が短くなる。さらに好ましいのは10−4mol/L以上10−3mol/L以下である。
【0013】
また、本発明のコーティング用組成物では、さらにポリビニルアセタールと炭素数が4以下のアルコールとを含有していることが好ましい。ポリビニルアセタールの添加により、皮膜の耐水性をさらに向上させることができるからである。ただし、ポリビニルアセタールが沈殿しないように、炭素数が4以下のアルコールを添加することが必要である。発明者らは、ポリビニルアセタールがポリビニルブチラールの場合に、耐水性がさらに良好となることを確認している。
【0014】
ポリビニルブチラールを添加する場合、ポリビニルブチラールの含有量は、前記トリメトキシビニルシランが加水分解してさらに完全に脱水重合されたと仮定した場合の質量(換言すれば、トリメトキシビニルシランが(CH2=CHSiO3/2)nとなった場合の質量)及び該ポリビニルブチラールの質量の総和に対して4質量%以上15質量%以下であることが好ましい。4質量%未満では皮膜の耐水性を向上させる程度が小さくなってしまう。また、15質量%を超えた場合、ポリビニルブチラールが溶解し難くなり、不溶解物の発生により基材への均質な塗布が困難となる。また、ポリビニルブチラールは石油系原料成分であるため、環境に配慮したコーティング用組成物としての役割が小さくなってしまう。
【0015】
また、本発明のコーティング用組成物では、さらにチタニアゾルを含有していることも好ましい。チタニアゾルは脱水縮合反応の反応性が高いため、皮膜の硬化速度を早くすることができ、コーティング後の加熱温度110℃以下といった低い温度であっても、耐水性に優れた皮膜を形成することができる。
【0016】
また、チタニアゾルを添加する場合においての添加割合は、(チタニアゾルのモル数)/(トリメトキシビニルシランのモル数+該チタニアゾルのモル数)の値は0.002以上0.04以下であることが好ましい。(チタニアゾルのモル数)/(トリメトキシビニルシランのモル数+該チタニアゾルのモル数)の値が0.002未満では、耐候性の向上効果が小さくなるおそれがある。一方、(チタニアゾルのモル数)/(トリメトキシビニルシランのモル数+該チタニアゾルのモル数)の値が0.04を超えた場合、溶液の固化が早まり液寿命が短くなる。
【0017】
本発明のコーティング用組成物は、トリメトキシビニルシランを該トリメトキシビニルシランのモル数に対し2倍以上10倍以下のモル数の水を含んだ酸によって加水分解することによって、容易に製造することができる。加水分解重合物中の酸の濃度は10−5mol/L以上10−1mol/L以下であることが好ましい。加水分解重合物中の酸の濃度が10−5mol/L未満であると、加水分解が不充分となったり脱水縮合が不充分となったりするおそれがあり、ひいては皮膜の硬度や耐水性や耐候性が不充分になるおそれがある。また、酸の濃度が10−1mol/Lを超えると、重合が進んでコーティング用組成物に白濁が生じやすくなり、液の寿命が短くなる。さらに好ましいのは10−4mol/L以上10−3mol/L以下である。
【0018】
本発明のコーティング用組成物を用いて、様々な基材にコーティングを施すことができる。すなわち、本発明のコーティング方法は、本発明のコーティング用組成物を基材に付着させる付着工程と、該付着工程後に前記コーティング用組成物を付着させた基材を乾燥させる乾燥工程と、該乾燥工程後に加熱処理を行う加熱工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
このコーティング方法は、基材がブナ木粉や竹粉などの木質系材料を50質量%以上含む木質系成形体である場合に好適に用いることができる。このような木質系材料では、耐水性や耐候性に劣り、悪臭を有するといった欠点を有しがちであることから、それらの欠点を克服する手段として本発明のコーティング方法を用いることができる。さらに好適なのは、そのような欠点が著しくなる木質系材料を80質量%以上含む木質系成形体である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1のコーティング用組成物を用いてブナからなる板状成形体に3回コーティングを施したものの耐水性試験前後の図面代用写真である。
【図2】実施例1のコーティング用組成物を用いてブナからなる板状成形体にコーティングを施したものの耐候性試験前後の図面代用写真である。
【図3】実施例1のコーティング用組成物を用いて孟宗竹からなる板状成形体にコーティングを2回施したもの、及びコーティングを施していないもの、の耐水性試験前後の図面代用写真である。
【図4】実施例1のコーティング用組成物を用いて孟宗竹からなる板状成形体にコーティングを2回施したもの、及びコーティングを施していないもの、の耐候性試験前後の図面代用写真である。
【図5】実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)及び実施例6-4(PVBの固形分比率20質量%)のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物をコーティングした孟宗竹からなる板状成形体のコーティング試料の耐水性試験前後の図面代用写真である。
【図6】実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物をコーティングした孟宗竹からなる板状成形体のコーティング試料の耐候性試験前後の図面代用写真である。
【図7】実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物をコーティングした朱肉入れ及びコーティング前の朱肉入れの図面代用写真である。
【図8】実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物をコーティングした朱肉入れの、テープ引き剥し(クロスカット法)による密着性試験後(左側)、及び耐水性試験後(右側)の図面代用写真である。
【図9】実施例7-2、7-3及び実施例6-3のコーティング用組成物をコーティングした朱肉入れについての耐水性試験後の図面代用写真である。
【図10】実施例7-3(2回コーティング)及び同様の条件で3回のコーティングを行った朱肉入れの耐候性試験前後の図面代表写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来、ゾルゲル法を用いたコーティング剤としては、テトラエトキシシランやメチルトリエトキシランといった、安価なシラン化合物がよく用いられている(例えば、特許文献3に記載の亜鉛めっき皮膜の耐食性向上のためのクロメート皮膜の代替品としてのコーティング用組成物等)。これらのシラン化合物を水で加水分解すれば、透明で均一なコーティング用組成物を製造することは可能である。しかしながら、木質系材料の配合率が90質量%を超えるようなグリーンプラスチックの表面に塗装した場合には、耐水性、耐候性及び防臭性を向上させることはできなかった。
【0022】
これに対して、本発明のコーティング用組成物では、アルコキシシラン化合物としてトリメトキシビニルシランを用い、これを酸により脱水縮合させることにより、木質系材料の配合率が90質量%を超えるようなグリーンプラスチックの表面に塗装した場合において、耐水性、耐候性及び防臭性を向上させることができる。
【0023】
本発明において、トリメトキシビニルシランはなるべく少ない量の水を含んだ酸で加水分解して加水分解重合物とすることが好ましい。ただし、あまり水が少ないと加水分解が不充分となり、シラノール結合の網目構造の発達が不充分となり、ひいては皮膜が柔らかかったり、耐候性や防臭性が不充分となるおそれがある。このため、トリメトキシビニルシランのモル数に対し2倍以上10倍以下のモル数の水を含んだ酸によって加水分解することが必要とされる。好ましいのは、トリメトキシビニルシランのモル数に対して水が3.5倍以上4.5倍以下の範囲であり、さらに好ましいのは3.7倍以上4.3倍以下の範囲である。
【0024】
(コーティング用組成物の製造方法)
コーティング用組成物の具体的な製造方法を示せば、例えば次の通りである。
すなわち、次の液を用意する。
トリメトキシビニルシラン・・・Xmol
酸(硝酸、酢酸等)・・・・・
2X〜10Xmolの水を含む溶液
次に、上記液を撹拌混合する。この場合において、加水分解反応は発熱反応であり、反応液の温度が常温程度を保つように、冷却することが好ましい。この場合において、酸の濃度は、加水分解後の酸の濃度が10−5mol/L以上10−1mol/L以下となるように調節することが好ましい。こうして、透明で粘調・均一な本発明のコーティング用組成物が得られる。さらに好ましいのは加水分解後の酸の濃度が10−4mol/L以上10−3mol/L以下となるように調節することである。
【0025】
ポリビニルブチラールの添加された本発明のコーティング用組成物を得る場合には、エタノールやメタノール等の炭素数が4以下のアルコールに溶解させたポリビニルブチラールの溶液を、上記のようにして得られた透明で粘調・均一な本発明のコーティング用組成物に添加し撹拌すればよい。あるいは、上記のようにして得られた透明で粘調・均一な本発明のコーティング用組成物に、エタノールやメタノール等の炭素数が4以下のアルコールを添加して混合撹拌した後、ポリビニルブチラールをさらに添加して溶解させて製造してもよい。
【0026】
さらに、チタニアゾルを含有する本発明のコーティング用組成物を製造する場合には、上記のようにして製造した、ポリビニルブチラールを含有する本発明のコーティング用組成物に、さらにチタニアゾルを添加し、混合撹拌すればよい。なお、チタニアゾルの添加を先にしてから、ポリビニルブチラール及びアルコールを添加してもよい。
チタニアゾルは、アルコキシチタン(例えばチタンイソプロポキシド等)のエタノール溶液にチタンイソプロポキシドと等モル量の水を含む硝酸水溶液を添加して加水分解し、常温で撹拌することにより得ることができる。
【0027】
コーティングの回数は必要に応じて適宜選択することができるが、通常2回が好ましい。
【0028】
本発明のコーティング用組成物は、エタノール溶媒で希釈可能であり、その希釈溶液にポリビニルブチラールを溶解させることが可能である。ポリビニルブチラールを添加する場合には、常温まで液温が下がった後に、所定量のエタノールで希釈し、完全にポリビニルブチラールを溶解させた後に、所定濃度まで加熱濃縮する。溶液濃度の高い状態では均一にポリビニルブチラールを溶解させることはできない。ポリビニルブチラールを添加することにより、液寿命が長くなり溶液の保存性が良くなる。
【0029】
原料となるトリメトキシビニルシランとしては、信越化学工業、東京化成工業等から販売されているトリメトキシビニルシランを挙げることができる。
【実施例】
【0030】
<コーティング用組成物の調製>
(実施例1〜5)
トリメトキシビニルシラン(信越化学工業製)を37.05g秤り取り、硝酸(濃度 0.1mol/L)を0.1mL含む水18mL(トリメトキシビニルシラン(以下「TMBS」と略す)のモル量に対して4倍のモル量)を添加して撹拌混合し、均一な透明溶液として実施例1のコーティング用組成物51.75gを得た。なお、TMBSの量は、最終濃度で5mol/Lとなる量であり、添加した硝酸の濃度は、最終濃度で2×10-4mol/Lとなるように調整した。(同様に、硝酸の替わりに、実施例2ではギ酸を、実施例3では酢酸を、実施例4ではプロピオン酸を、実施例5では酪酸を、それぞれ使用した。その他の条件については、実施例1と同様であり、詳細な説明を省略する。)
【0031】
酸を含む水の添加はトリメトキシビニルシランの有する3つのメトキシ基を加水分解するために必要である。化学量論的に考えれば、トリメトキシビニルシラン1モルを加水分解するのに必要とする水の量は3モルとなる。しかしながら、加水分解を完全に行うためには、3モル以上の水の添加が望ましい。
【0032】
トリメトキシビニルシラン1モルに対して1モル量の水を添加した場合、均一な透明溶液にはなるが、トリメトキシビニルシランの加水分解が不足していることにより、その溶液を用いてガラス板上に作製した皮膜は90℃の加熱処理により十分に硬化させることはできなかった。
【0033】
トリメトキシビニルシラン1モルに対して11モル量の水を添加した場合、見かけ上は、透明であるが、不溶性の透明析出物が多数生成し、不均一な溶液となった。また、ガラス板上で均一な皮膜の作製ができなかった。
【0034】
以上の結果から、コーティング用組成物からの固形物の析出を防止し、かつ均一なコーティングを施すためには、トリメトキシビニルシラン1モルに対して添加する水の量はモル比で2倍以上10倍以下が必要であることが分かった。
【0035】
(比較例1)
比較例1ではアルコキシシラン化合物としてテトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランを様々な割合で混合した溶液を用いた。その他の条件については、実施例1と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0036】
テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランをモル比で、20:80、30:70、40:60、60:40、80:20の割合で混合した場合に、実施例1〜5と同様の均一な透明溶液を調製することができた。
【0037】
また、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランをモル比で、60:40と80:20の割合で混合して調製した透明溶液を用いてスライドガラス上に皮膜を作製してみたところ、作製皮膜は乾燥過程で剥離した。また、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランをモル比で、40:60の割合で混合して調製した透明溶液では、調製後3日経過した溶液を用いて皮膜を作製したところ、作製皮膜は乾燥中に剥離した。
【0038】
以上の結果から、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランを様々な割合で混合した比較例1のコーティング用組成物では、テトラエトキシシランの含有率が高いと、皮膜の柔軟性が低くなり、乾燥過程で剥離が生ずることが分かった。
また、メチルトリエトキシシランの含有率が70モル%以上である場合には、スライドガラスの上であれば、亀裂や剥離等の無い皮膜を作製できることができる。しかしながら、後述するように、木質系成形体へのコーティングを行った場合には、透明皮膜によるコーティング試料の作製はできたが、耐水性試験において皮膜の白濁及び剥離が起きたため、コーティングに用いるには不適であることが判明した。
【0039】
(比較例2)
比較例2では、トリエトキシビニルシランのみを用い、実施例1と同様の条件で酸を含む水を添加した後、撹拌混合して、コーティング用組成物とした。しかしながら、このコーティング用組成物では、撹拌混合時に沈殿が生じ、均一な透明溶液とはならなかった。
【0040】
(比較例3)
比較例3ではアルコキシシラン化合物としてトリエトキシビニルシランとトリメトキシビニルキシシランを様々な割合で混合した溶液を用いた。その他の条件については、実施例1と同様であり、詳細な説明を省略する。
その結果、トリエトキシビニルシランとトリメトキシビニルシランをモル比で15:85の割合で混合した場合においても、少量の沈殿を生じ、均一な透明溶液を調製することはできなかった。
【0041】
また、比較例3の溶液を用いてガラス板上に作製した皮膜は90℃で加熱しても硬化することはなかった。
【0042】
以上のようにして得られた実施例1〜5及び比較例2、3のコーティング用組成物について、目視による外観観察を行ったところ、実施例1〜5及び比較例1のコーティング用組成物は粘調で無色透明の液体であるのに対し、比較例2、3のコーティング用組成物は白色沈殿が生じて、均一な透明溶液とならず、基材への均質なコーティングが困難な状態であること、また、90℃の加熱により皮膜の硬化ができないことなどにより、後述する木質系成形体へのコーティングは断念した。
【0043】
<木質系成形体へのコーティング>
上記実施例1及び比較例1のコーティング用組成物を用いて、木質系成形体へのコーティングを行った。木質系成形体としては、加熱水蒸気を用いて加圧成形した板状成形体を用いた。木質系原料としては、ブナ及び孟宗竹の2種類である。
・板状成形体へのコーティング
ビーカーにコーティング用組成物中を入れ、その中に板状成形体を浸漬し、真空鐘に入れた。そして、真空ポンプで−0.055MPaで1.5時間の吸引を行った。その後真空鐘を外し、板状成形体を引き上げ、12時間の自然乾燥を行った後、80℃で1時間の加熱処理を行い、1回コーティングの板状成形体を調製した。さらに、同様にコーティング処理を2回繰り返した2回コーティングの板状成形体、及び、3回繰り返した3コーティングの板状成形体を調製する場合には、2回目以降のコーティングでは真空引きせずにコーティング用組成物中への浸漬のみにとどめ、その後の乾燥・加熱処理を行った。
【0044】
<評 価>
以上のようにして得られたブナ(又は孟宗竹)からなる板状成形体のコーティング済み試料について、以下の評価を行った。
1)皮膜硬度:JIS K 5600−5−4、引っかき硬度(鉛筆法)に準じて行った。
2)光沢度:JIS K 5600−4−7、鏡面光沢度における60°の幾何条件での反射率を測定した。
3)耐水性:試料全体を沸騰水中に入れ、1時間煮沸後、取り出して5分間乾燥した後、皮膜の剥離の有無を調べ、試料の重量増加率による吸水率を求めた。
4)耐候性:サンシャインウェザーメーター(スガ試験機 WEL−SUN−HCH・B)により以下の条件で行った。
・照射時間:70時間
・ブラックパネル温度:63±3℃
・降雨条件:60分ごとに12分間水噴霧
5)製膜性:塗膜の外観による目視検査
【0045】
(結果)
実施例1のコーティング組成物を用いたブナからなる板状成形体のコーティング済み試料についての評価結果を表1に示す。一方、比較例1のコーティング用組成物を用いて、木質系成形体へのコーティングを行った場合には、透明皮膜によるコーティング試料の作製はできたが、耐水性試験において皮膜の白濁及び剥離が起きたため、コーティングに用いるには不適であることが判明した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、実施例1のコーティング用組成物を用い、ブナからなる板状成形体に3回コーティングを施した試料では、光沢度70を示し、鉛筆硬度も5Hと硬いことが分かった。また、耐水性試験においては、試験後の重量増加率は12%であり、コーティングがない場合における重量増加率15%と比べて、耐水性が向上することが分かった。図1に示すように、3回コーティングを施した試料では1時間の煮沸により、脱色は殆ど見られなかった。
【0048】
同様に、実施例1のコーティング用組成物を用いてブナ木粉を用いた木質系成形体に2回、あるいは3回のコーティングを施したものの耐候性試験前後の図面代用写真を図2に示す。試験前は、両者とも光沢度:70、鉛筆硬度:5Hであり、20時間照射後では両者とも全く変化は見られなかったが、70時間照射後において両者ともに脱色が認められた。なお、脱色の程度は、2回コーティングの方が少なかった。
【0049】
一方、孟宗竹のみからなる板状成形体に1〜3回のコーティングを行った試料についての評価結果を表2に示す。この表から、いずれについても光沢度は74以上であり、鉛筆硬度は6Hと硬く、耐水性試験後の重量増加率は9.0%以下であることが分かる。また、煮沸による脱色も少なく、明確な耐水性の向上が認められた(図3参照)。これに対して、コーティングをしない場合は耐水性試験における重量増が13.5%と多かった。
【0050】
【表2】

【0051】
また、孟宗竹のみからなる板状成形体に2回のコーティングを行った試料についての耐候性試験前後の図面代用写真を図4に示す。この図から、70時間照射後で著しい脱色が起きていることがわかる。
【0052】
(実施例2〜5)
実施例2のコーティング用組成物では実施例1のコーティング用組成物における硝酸の替わりにギ酸を用いた。同様に、実施例3では酢酸を、実施例4ではプロピオン酸を、実施例5では酪酸を、それぞれ使用した。なお、コーティング用組成物中のカルボン酸濃度は3×10−3mol/L(ただし、酢酸については6.4×10−3mol/L)とした。その他の条件については、実施例1と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0053】
上記のようにして得た実施例2〜5のコーティング用組成物を用いて、孟宗竹のみからなる板状成形体に2回のコーティングを行い、耐水性試験を行った。コーティングの方法及び耐水性試験の方法は実施例1の場合と同様である。
【0054】
結果を表3に示す。この表から、加水分解を行うためのカルボン酸として、プロピオン酸を用いた場合に重量増加率が最も低く、耐水性が4割程度向上することが分かった。ただし、カルボン酸を加水分解用の酸として用いた場合には、コーティング用組成物がカルボン酸特有の臭いを発するという問題がある。硝酸を加水分解用の酸として用いた場合には、そのような臭いの問題はないため、酸としてはカルボン酸よりも硝酸の方が好ましいといえる。
【0055】
【表3】

【0056】
(実施例6-1、6-2、6-3、6-4)
実施例6-1〜6-4ではポリビニルブチラールを含有するコーティング用組成物を調製した。
すなわち、実施例1で調製したコーティング用組成物51.75gにエタノールを100mL加えて撹拌混合し、さらに、ポリビニルブチラール(和光純薬工業株式会社製 ポリビニルブチラール2000 平均重合度1900〜2100)(以下「PVB」と略す)を所定の固形分比率(実施例6-1では4質量%、実施例6-2では13質量%、実施例6-3では15質量%、実施例6-4では20質量%)となるように添加した。ここで、固形分比率とは、PVBの質量/(TMBSが加水分解してさらに完全に脱水重合されたと仮定した場合の質量+PVBの質量)を百分率であらわした値をいう(以下同様)。そして、撹拌して完全に加熱溶解させた後に、全量体積が100mLとなるまで加熱濃縮して実施例6-1〜6-4のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物を得た。
【0057】
<板状木質系成形体へのコーティング>
上記のようにして調製した実施例6-1、6-2及び6-3のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物を用いて、前述した孟宗竹からなる木質系成形体へ1回のコーティングを行った。浸漬時間は実施例6-1のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物では10分間、実施例6-2及び実施例6-3のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物では35分間とした。その他のコーティング条件については前述した方法と同じであり、説明を省略する。
【0058】
<評 価>
以上のようにして得られた孟宗竹からなる板状成形体のコーティング済み試料について、以下の評価を行った。なお、製膜性については、ガラス表面に塗布したものについても評価を行った。
1)皮膜硬度:JIS K 5600−5−4、引っかき硬度(鉛筆法)に準じて行った。
2)光沢度:JIS K 5600−4−7、鏡面光沢度における60°の幾何条件での反射率を測定した。
3)耐水性:試料全体を沸騰水中に入れ、1時間煮沸後、取り出して5分間乾燥した後、皮膜の剥離の有無を調べ、試料の重量増加率による吸水率を求めた。
4)耐候性:サンシャインウェザーメーター(スガ試験機 WEL−SUN−HCH・B)により以下の条件で行った。
・照射時間:70時間
・ブラックパネル温度:63±3℃
・降雨条件:60分ごとに12分間水噴霧
5)製膜性:塗膜の外観による目視検査
【0059】
その結果、表4に示すように、TMBSの加水分解重合物を含有する実施例1のコーティング用組成物に対し、固形分比率で15質量%以上のPVBを添加すれば、ガラス板上において均一で欠陥の無い膜が調製できることが分かった。
また、実施例6-1、6-2及び6-3のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物をコーティングした孟宗竹からなる板状成形体のコーティング試料は、光沢度が75以上、皮膜硬度が4H以上を示し、1回のコーティングにもかかわらず、耐水性が未コーティングの場合の値(13.5%)と比較して、実施例6-1では11.4%、6-2では6.8%、6-3では6.7%と、大幅に向上することが分かった。
【0060】
【表4】

【0061】
図5に実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)及び実施例6-4(PVBの固形分比率20質量%)のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物をコーティングした孟宗竹からなる板状成形体のコーティング試料の耐水性試験前後の図面代用写真を示す。この図から、1時間の煮沸による脱色は殆ど見られないことが分かる。
また、耐候性試験においても、図6に示すように、実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)のポリビニルブチラール含有コーティング用組成物をコーティングした孟宗竹からなる板状成形体のコーティング試料では、皮膜の剥離があるものの、退色性は改善が見られた。
以上の結果より、PVBの添加は、皮膜の亀裂剥離防止や耐水性に対して非常に有効であり、耐候性も向上することが分かった。また、PVBの好ましい添加量は、固形分比率で5〜20質量%であり、さらに良いのは7〜15質量%程度であり、最も良いのは13〜15質量%であった。
【0062】
また、実施例1のコーティング用組成物は調製後数週間で固化するのに対し、PVBを添加した実施例6-1〜6-4では、数週間程度では固化することがなく、液寿命が長くなることが分かった。
【0063】
<朱肉入れへのコーティング>
実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)のコーティング用組成物を用いて、木質系成形体からなる朱肉入れへのコーティングを行った。この朱肉入れは、木質系材料90質量%であり、バインダー樹脂が10質量%添加されている。
実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)のコーティング用組成物へ朱肉入れを減圧下で浸漬しようとしたところ、朱肉入れの成分が溶出し、コーティング用組成物が着色した。このため、減圧せずに浸漬のみを行い、引き上げて自然乾燥させた後、60℃で30分間の加熱を行った。なお、コーティング回数は2回とした。
【0064】
<評 価>
以上のようにして得られたコーティング済み朱肉入れについて、以下の評価を行った。
1)密着性:JIS K 5600−5−6、付着性(クロスカット法)に準じて行った。
2)皮膜硬度:JIS K 5600−5−4、引っかき硬度(鉛筆法)に準じて行った。
3)耐水性:試料全体を沸騰水中に入れ、1時間煮沸後、取り出して5分間乾燥した後、皮膜の剥離の有無を調べ、試料の重量増加率による吸水率を求めた。
【0065】
朱肉入れのコーティング前後の図面代用写真を図7に示す。この写真から、コーティング及び加熱処理後に大きな変形は見られないことが分かる。朱肉入れを構成している木質系成形体自体は60℃を超える温度で加熱すると、膨れや発泡が発生することが多くなるため、コーティング時の加熱温度を60℃と低くした。
また、テープ引き剥し(クロスカット法)による密着性試験では、図8(左)に示すように、50%の皮膜が剥離した。さらに、皮膜硬度は鉛筆硬度HB以下を示した。さらに、耐水性試験では図8(右)に示すように、煮沸により朱肉入れの形状が破壊されたが、コーティング皮膜の剥離は認められなかった。
【0066】
以上の結果から、実施例6-3(PVBの固形分比率15質量%)のコーティング用組成物によって、90%木質系射出成形体(朱肉入れ)におけるコーティング皮膜の亀裂剥離を防止することができることが分かった。また、耐水性を向上させることができた。さらには、実施例1のコーティング用組成物は調製後数週間で固化するのに対し、PVBを添加した実施例6-1〜6-4では、数週間程度では固化することがなく、液寿命が長くなることが分かった。
【0067】
(実施例7-1〜7-4)
実施例7-1〜7-4ではポリビニルブチラールの他、さらにチタニアゾルを含有するコーティング用組成物を調製した。以下に、その調製方法について詳述する。
・チタニアゾルの調製
チタンイソプロポキシドのエタノール溶液(15.2質量%)にチタンイソプロポキシドと等モル量の水を含む硝酸水溶液をエタノール溶媒で10倍に希釈して加えた。ここで硝酸の濃度は、調製後の濃度で10-4mol/Lとなるようにした。そして、室温で撹拌して脱水重合させ、0.4mol/Lのチタニアゾルを得た。
・コーティング用組成物の調製
実施例6-3のコーティング用組成物(すなわち、実施例1のコーティング用組成物にPVBを固形分比率15質量%で混合したコーティング用組成物)に、上記のようにして調製したチタニアゾルを所定量((チタニアゾルのモル数)/(TMBSのモル数+チタニアゾルのモル数)の値が実施例7-1では0.04、実施例7-2及び実施例7-3では0.01、実施例7-4では0.002となる量)添加し、混合して実施例7-1〜7-4のコーティング用組成物とした。トリメトキシビニルシランの加水分解重合物の濃度は、TMBS換算で、実施例7-1が1.4mol/L、実施例7-2及び実施例7-3が2mol/L実施例7-4が2.5mol/Lである。
【0068】
<朱肉入れへのコーティング>
上記のようにして調製した実施例7-1〜7-4のポリビニルブチラール及びチタニアゾル含有コーティング用組成物を用いて、朱肉入れへのコーティングを行った。この朱肉入れは、木質系材料90質量%であり、バインダー樹脂が10質量%添加されている。コーティング方法としては、実施例7-1〜7-4のコーティング用組成物へ朱肉入れを浸漬し、引き上げて自然乾燥させた後、60℃又は110℃で30分間の加熱を行った。なお、コーティング回数は1回又は3回とした。
また、比較のため、実施例6-3のコーティング用組成物(すなわち、実施例1のコーティング用組成物にPVBを固形分比率15質量%で混合したコーティング用組成物)でコーティングした朱肉入れも調製した。
【0069】
<評 価>
以上のようにして得られたコーティング済み朱肉入れについて、以下の評価を行った。
1)密着性:JIS K 5600−5−6、付着性(クロスカット法)に準じて行った。
2)皮膜硬度:JIS K 5600−5−4、引っかき硬度(鉛筆法)に準じて行った。
3)光沢度:JIS K 5600−4−7、鏡面光沢度における60°の幾何条件での反射率を測定した。
4)耐水性:試料全体を沸騰水中に入れ、1時間煮沸後、取り出して5分間乾燥した後、皮膜の剥離の有無を調べ、試料の重量増加率による吸水率を求めた。
5)耐候性:サンシャインウェザーメーター(スガ試験機 WEL−SUN−HCH・B)により以下の条件で行った。
・照射時間:70時間
・ブラックパネル温度:63±3℃
・降雨条件:60分ごとに12分間水噴霧
6)製膜性:塗膜の外観による目視検査
【0070】
結果を表5に示す。

【表5】

【0071】
その結果、チタニアゾルを添加していない実施例6-3のコーティング用組成物を用い、60℃で30分加熱処理してコーティングした試料では、表5に示すように、耐水性試験後に脱色、皮膜の剥離による試料の破壊が起きた。これに対して、チタニアゾルを添加した実施例7-1〜7-4をコーティングした試料では、耐水性試験において若干の重量増は認められたものの、破壊されるまでには至らなかった。また、実施例7-3については、実施例7-1、7-2及び7-4において認められたような白濁もなく、透明性が保たれており、皮膜硬度についても最も優れていた。以上の結果から、(チタニアゾルのモル数)/(トリメトキシビニルシランのモル数+チタニアゾルのモル数)の値が0.002以上0.04以下であることが好ましく、さらには0.01以上0.04以下が好ましいことが分かった。
【0072】
図9に、実施例7-2、7-3及び実施例6-3についての耐水性試験後の試料の図面代用写真を示す。また、図10に、実施例7-3(2回コーティング)及び同様の条件で3回のコーティングを行った朱肉入れの耐候性試験前後の図面代表写真を示す。この図から、70時間の照射により退色や皮膜の剥離等の劣化は全く見られなかったことが分かった。このことから、実施例7-3に用いたコーティング用組成物を用い、朱肉入れに2回以上コーティングし、110℃で30分加熱処理することにより、密着性、耐水性、耐候性の最も優れたコーティング済み朱肉入れを調製できることが明らかとなった。
【0073】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は木質系材料からなるグリーンプラスチックの耐水性、耐候性並びに美観の向上を図るためのコーティング用組成物として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメトキシビニルシランの加水分解重合物を含有するコーティング用組成物であって、
前記加水分解重合物は前記トリメトキシビニルシランのモル数に対し2倍以上10倍以下のモル数の水を含んだ酸によって加水分解されたものであることを特徴とするコーティング用組成物。
【請求項2】
前記酸は硝酸及び/又は炭素数が4以下のカルボン酸であることを特徴とする請求項1記載のコーティング用組成物。
【請求項3】
前記加水分解重合物中の酸の濃度は10−5mol/L以上10−1mol/L以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のコーティング用組成物。
【請求項4】
さらにポリビニルアセタールと炭素数が4以下のアルコールとを含有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコーティング用組成物。
【請求項5】
前記ポリビニルアセタールはポリビニルブチラールであることを特徴とする請求項4記載のコーティング用組成物。
【請求項6】
前記ポリビニルブチラールの含有量は、前記トリメトキシビニルシランが加水分解してさらに完全に脱水重合されたと仮定した場合の質量及び該ポリビニルブチラールの質量の総和に対して4質量%以上15質量%以下であることを特徴とする請求項5記載のコーティング用組成物。
【請求項7】
さらにチタニアゾルを含有していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のコーティング用組成物。
【請求項8】
(前記チタニアゾルのモル数)/(前記トリメトキシビニルシランのモル数+該チタニアゾルのモル数)の値が0.002以上0.04以下であることを特徴とする請求項7に記載のコーティング用組成物。
【請求項9】
トリメトキシビニルシランを該トリメトキシビニルシランのモル数に対し3倍以上6倍以下のモル数の水を含んだ酸によって加水分解することを特徴とするコーティング用組成物の製造方法。
【請求項10】
加水分解重合物中の酸の濃度は10−5mol/L以上10−1mol/L以下であることを特徴とする請求項9記載のコーティング用組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のコーティング用組成物を基材に付着させる付着工程と、
該付着工程後に前記コーティング用組成物を付着させた基材を乾燥させる乾燥工程と、
該乾燥工程後に加熱処理を行う加熱工程と、
を備えることを特徴とするコーティング方法。
【請求項12】
前記基材は木質系材料を50質量%以上含む木質系成形体であることを特徴とする請求項10記載のコーティング方法。
【請求項13】
前記木質系材料は木粉であることを特徴とする請求項11記載のコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−14653(P2013−14653A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147144(P2011−147144)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)
【Fターム(参考)】