説明

コーティング部材の界面欠陥検査方法

【課題】コーティング部材の界面欠陥部を検出するにあたり、界面欠陥部と健全部の境界を明瞭にし、界面欠陥部の形状・寸法を非破壊的に検出するコーティング部材の界面欠陥検査方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法は、金属構造物の基材表面にコーティングされたコーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査するコーティング部材の界面欠陥検査方法において、上記コーティング部材のある位置をスポット加熱し、スポット加熱位置を中心にして周りに熱が拡散する状態をコーティング表面温度分布として求め、求めたコーティング表面温度分布のうち、熱拡散の不均衡部分から基材に存在する亀裂を検出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の基材表面にコーティングされたコーティング部材の皮膜剥離、密着性の低下、亀裂等の界面欠陥部を検査するコーティング部材の界面欠陥検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶射皮膜のような厚膜あるいは蒸着のような薄い皮膜の密着性、剥離強度等を診断する検査方法には種々の方法が提案されている。例えば、密着度の評価については、JIS−R4204(セラミックコーティング試験方法)がある。この評価方法は破壊試験によるものであって、定期検査時等の実プラント機器・部品の非破壊評価にはそのまま適用できない。
【0003】
このため、実プラント等の定期点検時あるいは精密検査時等の設備診断には、それらの稼動中に金属構造物の基材表面に溶射されたコーティング部材の皮膜剥離、密着性の低下、界面亀裂の形状・寸法を測定する非破壊検査方法の開発が必要とされている。
【0004】
近年、コーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査する方法には、数多くの手法が開示されているが、その中でも超音波法、レーザーホログラフィ法、赤外線法等が実用的に供されている。
【0005】
超音波法の適用例としては、「超音波法による溶射皮膜の剥離および密着性分布の推定に関する研究」(菅等:溶射、Vol.28、No.4、p.26、1991)等が挙げられる。しかし超音波法は、検査に多大な時間を要する上、複雑な曲面形状を呈する実プラントの部品には適用しにくい欠陥がある。
【0006】
レーザーホログラフィ法の適用例としては、例えば「シアリングを利用した非破壊検査」(伊藤:光アライアンス、p.25、1991.8)等が挙げられる。しかしレーザーホログラフィ法は、被検体を加振する装置、または被検体全体を減圧状態に置く装置が必要であり、現場での円滑な作業進捗性が劣っている。
【0007】
一方、赤外線映像装置を用いたコーティング部材の欠陥の非破壊的な検査方法は、その装置が比較的安価でコンパクトであり、現場での円滑な作業進捗性も高いことから、例えば「界面亀裂の熱画像解析とその評価」(伊藤等:日本セラミックス協会学術論文誌、Vol.97、No.11、p.1358、1989)に示されるように、検査手法としてかなり有望視されている。
【0008】
ここで、この検査に用いる赤外線映像装置を、図23に示す基本原理図を用いて説明する。まず、物体1の表面に常温以上の温度が生じている場合には、診断対象となる物体1は、常時その表面温度2に応じた電磁波を放射している。この放射エネルギー3aの波長は約0.72から1000μmの赤外線領域の波長であり、また全ての物体1は絶対温度零度(−273℃)以上の放射エネルギー3bを赤外線として放射している。そこでこの放射エネルギー3aを検出し、電気信号5に変換して熱画像6として表示し、物体1の表面温度2を求めている。この赤外線映像装置は、基本的にカメラ7、コントロール部8、および表示部9を備え、カメラ7で物体1から放射された赤外線3bをレンズ4を介して光学的に集光し、検出器10に導く。なお、この検出器10には、インジウムアンチモン(InSn)、水銀カドミウムテルル(HgCdTe)の半導体量子検出器が用いられている。そして、この検出器10で、集光した赤外線3bを電気信号5に変換し、この電気信号5をコントロール部8へ送り、信号処理した後、表示部9に熱画像6として画像表示するようになっている。
【0009】
また物体1の表面に常温以上の温度が生じていない場合でも、図24に示すように、外部から強制的に診断対象となる物体1に熱11aを加えて、その時に生じる赤外線熱画像から物体1の異常診断をすることが行われている。すなわち、物体1を加熱源11からの熱11aにより加熱し、この時生じる物体1中の欠陥部12の熱伝導係数、および熱容量の差を利用して、欠陥部12を熱画像として表示するようになっている(例えば、腰原、赤外線カメラによる新しい設備診断技術、メンテナンス、1988年3月)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図23および図24で示した従来の赤外線法によるコーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査する方法は、コーティング部材のコーティング面あるいは基材面を熱源により加熱したとき、界面欠陥部の有無で熱の伝導状態が異なることを利用し、コーティング表面の温度分布から、界面欠陥部と健全部を見極めるものである。
【0011】
この方法では、必ず界面欠陥部と健全部との境界に温度勾配が存在するため、境界が不明瞭になる欠点がある。境界が不明瞭な熱画像では、界面欠陥部の形状・寸法を正確に計測できず、検査の信頼性が乏しい。
【0012】
さらに、被検体を均一に加熱することが困難であるため、コーティング部の温度分布が乱れ、界面欠陥部の検出が不正確になっている。
【0013】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、コーティング部材の界面欠陥部を検出するにあたり、界面欠陥部と健全部との境界を明瞭にし、界面欠陥部の形状・寸法を精度良く非破壊的に推定するコーティング部材の界面欠陥検査方法を提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本発明の他の目的は、被検体の加熱ムラによる誤差を補正してコーティング表面温度分布を求め、求めたコーティング表面温度分布から界面欠陥部と健全部との境界を定め、界面欠陥部の形状・寸法を精度良く非破壊的に推定するコーティング部材の界面欠陥検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法は、上記目的を達成するために、請求項1に記載したように、金属構造物の基材表面にコーティングされたコーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査するコーティング部材の界面欠陥検査方法において、上記コーティング部材のある位置をスポット加熱し、スポット加熱位置を中心にして周りに熱が拡散する状態をコーティング表面温度分布として求め、求めたコーティング表面温度分布のうち、熱拡散の不均衡部分から基材に存在する亀裂を検出する方法である。
【0016】
本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法は、上記目的を達成するために、請求項2に記載したように、金属構造物の基材表面にコーティングされたコーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査するコーティング部材の界面欠陥検査方法において、上記コーティング部材のある位置をスポット加熱し、スポット加熱位置を中心にして周りに熱が拡散する状態をコーティング表面温度分布として求め、求めたコーティング表面温度分布のうち、熱拡散の不均衡部分から基材に存在する亀裂を検出し、亀裂の両側のコーティング表面温度の差から亀裂の深さを推定する方法である。
【0017】
本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法は、上記目的を達成するために、請求項3に記載したように、金属構造物の基材表面にコーティングされたコーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査するコーティング部材の界面欠陥検査方法において、上記コーティング部材の表面温度分布を求め、求めた表面温度分布から界面欠陥部の深さを推定し、その深さと電磁気法および超音波法のうち、いずかれか一方で計測した上記コーティング部材の皮膜厚さとから、界面欠陥部が進展して上記コーティング部材が脱落したとき残存コーティング部材の厚さを推定する方法である。
【0018】
本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法によれば、コーティング部材の下部に存在する界面欠陥部の形状・寸法を、赤外線映像装置で得た熱画像を基に、精度良く計測することが可能である。
【0019】
また、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法によれば、コーティング部材の下部に存在する界面欠陥部の深さと幅を、赤外線映像装置で得た熱画像を基に、推定することが可能で、コーティング厚さ計測結果とあわせて、界面欠陥部が進展して、コーティング部材が脱落した後の残存コーティング層の厚さが予測できる。
【0020】
さらに、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法によれば、コーティング下部の基材亀裂の深さまで評価できるので、コーティング部材の損傷を正確に予測することができ、過度の安全側評価を避けて、保守管理コストの低減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0022】
図1は本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第1実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図である。
【0023】
図1に示すように、コーティング表面温度分布線13は、半径15mmの円盤サンプルの中央部に半径5mmの界面欠陥部が存在するコーティング部材を、二次元軸対称としてモデル化し、その表面に一様な熱を加えて非定常FEM(有限要素法)解析により求めた結果である。この場合、被検体としてのコーティング部材には、図2に示すように、界面欠陥部が形成されている。
【0024】
また、図1は、FEM解析の結果であるが、加熱中のコーティング部材の実表面温度分布を計測した結果もほぼ同様の温度分布が得られる。
【0025】
また、図1の横軸中、0〜5mmまでが界面欠陥部であり、5〜15mmまでが健全部を表し、界面欠陥部先端は5mmの位置に存在している。さらに、図1中のコーティング表面温度分布線13は、20℃のコーティング部材表面に、5秒間均一な熱を加えた後のコーティング表面温度をFEM解析により求め、分布として表示したものである。界面欠陥部では、熱が基材まで加熱が伝わらないため、コーティング表面温度が高くなる。逆に界面欠陥部が存在しない健全部では、基材まで熱が伝わるためコーティング表面温度が低くなる。界面欠陥部/健全部の境界近傍では、コーティング表面温度が健全部のレベルから徐々に上昇し、界面欠陥部のレベルに達するなだらかな温度分布を呈する。
【0026】
このコーティング表面温度分布線13を基に、中央に界面欠陥部がある被検体のコーティング表面温度画像を描くと、図3に示すように、界面欠陥部周りで等高線14を描く分布になる。図3に示すコーティング表面温度画像では、界面欠陥部の存在は確認できるが、先端近傍には温度の遷移領域が等高線14として画像化されるため、界面欠陥部の形状・寸法を精度良く求められない。
【0027】
また図1に示すコーティング表面温度分布線13は、界面欠陥部がコーティング表面より200μmほど下部に位置する特定の場合をFEM解析したものであり、界面欠陥部の幅等が異なれば、それぞれコーティング表面温度分布が異なる。
【0028】
図1中のコーティング表面温度分布線13には、界面欠陥部による温度上昇が開始するコーティング表面温度分布の立上り位置点15が存在する。前述したように、コーティング表面温度分布線13がどのような形状であっても、界面欠陥部による温度上昇は、必ず界面欠陥部先端の外側から始まる。したがって、界面欠陥部/健全部の境界は、コーティング表面温度分布の立上り位置点15として、界面欠陥部の寸法を計測すれば、必ず実際の界面欠陥部より大きい値を示す。つまり、安全側の評価値が得られる。
【0029】
構造物の寿命を診断する場合は、材料強度データの平均値を基に計算するよりも、下限値を基に計算して安全側に評価する方が、破壊を未然にの防ぐ意味から現実的である。
【0030】
したがって、本実施形態では、界面欠陥部の寸法を大きく見積っているので、被検体としてのコーティング部材の破壊を未然に防止することができる。
【0031】
図4は本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第2実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図である。
【0032】
図4に示すように、コーティング表面温度分布線16は、第1実施形態と同様に、半径15mmの円盤サンプルの中央部に半径5mmの界面欠陥部が存在するコーティング部材を、二次元軸対称としてモデル化し、その表面に一様な熱を加えて非定常FEM解析により求めた結果である。なお、被検体としてのコーティング部材は、図2で示した第1実施形態と同様に、界面欠陥部が形成されている。
【0033】
また、図4の横軸中、0〜5mmまでが界面欠陥部であり、5〜15mmまでが健全部を表し、界面欠陥部先端は5mmの位置に存在している。解析条件は第1実施形態の場合と同じであるが、界面欠陥部の深さを、第1実施形態で解析した200μmより浅い40μmとし、さらにその先端をコーティング表面に近付けるよう歪曲した点が第1実施形態と異なっている。さらに、図4中のコーティング表面温度分布線16は、第1実施形態のコーティング表面温度分布線13より、健全部温度と界面欠陥部温度との遷移領域が狭い温度分布を呈している。これは界面欠陥部先端が浅い位置に存在するため、界面欠陥部先端近傍における界面欠陥部から健全部への熱移動が、急激に起こることによる。
【0034】
また、図4中のコーティング表面温度分布線16は、健全部と界面欠陥部との温度遷移領域の端部に、コーティング表面温度分布の立下り位置点17が存在する。このコーティング表面温度分布線16の立下り位置点17は、必ず界面欠陥先端より内側に存在する。これはコーティング表面温度分布線16の形状によらない。したがって、このコーティング表面温度分布線16の立下り位置42を結んだ領域は、界面欠陥部が必ず存在する領域を示す。すなわち、コーティング表面温度分布線16の立下り位置点17を界面欠陥部/健全部の境界とした場合は、存在する界面欠陥部の最小寸法を知ることができる。この最小寸法を基に、界面欠陥部の進展寿命を評価すれば、被検体の最大寿命評価値を得ることができる。
【0035】
本実施形態によれば、界面欠陥部の最小寸法を知ることができ、被検体としてのコーティング部材の最大寿命評価値を得ることが可能である。
【0036】
図5は本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第3実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図である。
【0037】
図5に示すように、コーティング表面温度分布線18は、第1実施形態と同様に、半径15mmの円盤サンプルの中央部に半径5mmの界面欠陥部が存在すコーティング部材を、二次元軸対称としてモデル化し、その表面に一様な熱を加えて非定常FEM解析により求めた結果である。なお被検体としてのコーティング部材は、図2で示した第1実施形態と同様に、界面欠陥部が形成されている。
【0038】
また、図5の横軸中、0〜5mmまでが界面欠陥部であり、5〜15mmまでが健全部を表し、界面欠陥部先端は5mmの位置に存在している。図1で示した第1実施形態および図4で示した第2実施形態のように、コーティング表面温度分布線18には、界面欠陥部先端近傍に、温度の遷移領域が存在する。したがって、界面欠陥部の先端は、コーティング表面温度分布線18の立上り位置点19と、コーティング表面温度分布線18の立下り位置点20の間に必ず存在する。ここで界面欠陥部先端は、コーティング表面温度分布線18の立上り位置点19と、コーティング表面温度分布線18の立下り位置点20の中間点21とほぼ一致する。
【0039】
すなわち、図5で示すコーティング表面温度分布線18が得られたとき、コーティング表面温度分布線18の立上り位置点19と、コーティング表面温度分布線18の立下り位置点20との中間点21を界面欠陥部の先端とすれば、界面欠陥部の寸法計測精度を向上させることができる。
【0040】
このように、本実施形態では、コーティング表面温度分布線18の立上り位置点19と立下り位置点20との中間点21を界面欠陥部の先端とするので、精度良く界面欠陥部の寸法を計測することが可能である。
【0041】
図6は本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第4実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図である。このコーティング表面温度分布線22は、第1実施形態と同様に、半径15mmの円盤サイプルの中央部に半径5mmの界面欠陥部が存在するコーティング部材を、二次元軸対称としてモデル化し、その表面に一様な熱を加えて、非定常FEM解析により求めた結果である。なお、被検体としてのコーティング部材は、図2で示した第1実施形態と同様に、界面欠陥部が形成されている。
【0042】
また、図6の横軸中、0〜5mmまでが界面欠陥部であり、5〜15mmまでが健全部を表し、界面欠陥部先端は5mmの位置に存在している。図6で示したように、コーティング表面温度分布線22には、界面欠陥部近傍に、温度の遷移領域が存在する。これは界面欠陥部のコーティング部材より、健全部のコーティング部材に熱が移動することによる。
【0043】
界面欠陥部のコーティング表面温度位置23は、健全部のコーティング表面温度位置24より高くなっている。これは、コーティング表面を加熱したときに、界面欠陥部では基材への熱移動が妨げられるのに対し、逆に健全部では基材へ熱が移動するためである。したがって、界面欠陥部先端のコーティング表面温度は、界面欠陥部のコーティング表面温度位置23より低く、健全部のコーティング表面温度位置24より高くなる。ここで界面欠陥部先端のコーティング表面温度は、界面欠陥部のコーティング表面温度位置23と健全部のコーティング表面温度位置24との中間温度位置25とほぼ一致する。
【0044】
すなわち図6に示すように、界面欠陥部のコーティング表面温度位置23と健全部のコーティング表面温度位置24との中間温度位置25を表わす位置を、界面欠陥部の先端とすれば、コーティング表面の温度計測だけで、界面欠陥部の形状・寸法を簡便かつ正確に評価することができる。
【0045】
このように、本実施形態では、界面欠陥部のコーティング表面温度位置23と健全部のコーティング表面温度位置24との中間温度位置25を界面欠陥部の先端とするので、精度良く界面欠陥部の寸法を計測することが可能である。
【0046】
図7は本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第5実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図である。このコーティング表面温度分布線26は、第1実施形態と同様に、半径15mmの円盤サンプルの中央部に半径5mmの界面欠陥部が存在するコーティング部材を、二次元軸対称としてモデル化し、その表面に一様な熱を加えて非定常FEM解析により求めた結果である。なお、被検体としてのコーティング部材は、図2で示した第1実施形態と同様に、界面欠陥部が形成されている。
【0047】
また、図7の横軸中、0〜5mmまでが界面欠陥部であり、5〜15mmまでが健全部を表し、界面欠陥部先端は5mmの位置に存在している。図7で示したように、コーティング表面温度分布線26には、界面欠陥部先端近傍に、温度の遷移領域が存在する。これは界面欠陥部のコーティングより、健全部のコーティングに熱が移動することによる。この熱の移動量は、コーティング表面温度分布線26の遷移領域を積分することにより得ることができ、この積分値は、界面欠陥部の先端で2等分される。すなわち図7中に図示した界面欠陥部側の温度遷移積分領域27と、健全部側の温度遷移積分領域28との面積が等しくなる位置が、界面欠陥部の先端である。
【0048】
すなわち図7に示すように、界面欠陥部側の温度遷移積分領域27と、健全部側の温度遷移積分領域28とを計算により求め、両者が等しくなる位置を界面欠陥部の先端とすれば、界面欠陥部の形状・寸法を推定することができる。
【0049】
このように、本実施形態では、界面欠陥部側の温度遷移積分領域27と健全部側の温度遷移積分領域28とを計算により求め、両者が2分される位置を界面欠陥部の先端とするので、精度良く界面欠陥部の寸法を推定することが可能である。
【0050】
図8は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第6実施形態を説明するために用いた第1実施形態〜第5実施形態で示した検査方法によるコーティング部材の界面欠陥部長さと、実機材を切り出し、その材料を切断して調査したコーティング部材の界面欠陥部長さとを比較したグラフである。
【0051】
この図8から、第5実施形態で示した検査方法によるコーティング部材の界面欠陥部長と実機を切り出して調査したコーティング部材の界面欠陥部長さとが一番近いことがわかった。なお、第1実施形態〜第5実施形態で使用される試験片としてのコーティング部材は、予め実機材と同等の損傷を与えて界面欠陥部を形成しておくものである。
【0052】
このように、コーティング部材の界面欠陥部を検査するにあたり、実機切り出しによる計測結果とよく一致する非破壊的な検査方法を予め選定しておけば、精度の高い調査結果が得られる。
【0053】
図9は本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第7実施形態を説明するために用いたもので、加熱源の位置を変えたときのコーティング表面温度分布を示す図である。
【0054】
図9に示すように、コーティング表面温度分布線29は、第1実施形態と同様に、半径15mmの円盤サンプルの中央部に半径5mmの界面欠陥部が存在するコーティング部材を、二次元平面としてモデル化し、その表面に一様な熱を加えて非定常FEM解析により求めた結果である。なお、被検体としてのコーティング部材は、図2で示した第1実施形態と同様に、界面欠陥部が形成されている。
【0055】
また、図9中に、点線で表示されているコーティング表面温度分布線29は、被検体としてのコーティング部材の中央部の真上から加熱したときの温度分布である。また、コーティング表面温度分布線30は、被検体としてのコーティング部材の中央部からの距離が15mmの位置(図7中で+15mmの位置)、すなわちコーティング部材の右端部の上方から加熱したときのコーティング表面温度分布である。このコーティング表面温度分布線30は、コーティング部材の中央部真上から加熱したときに較べ、温度ピークが加熱側によった表面温度曲線を呈しているようになる。図9に表示した解析の範囲では、コーティング表面温度分布線29および30のいずれの場合も、健全部と界面欠陥部には明瞭な温度差が認められるが、加熱源の位置がそれ以上に遠い場合は、温度差がなくなる可能性があるので、本実施形態では、予め加熱源と被検体との距離を計測しておき、被検体が受ける熱量により補正して、明瞭なコーティング表面温度分布を求めておくことが大切である。
【0056】
図10は、加熱源と被検体との距離と、熱流束量との関係を示す線図である。一般に熱流束は点光源からの距離の二乗に反比例し、また被検体への入射角に依存する。したがって、図10中に示す線図では、加熱源の真下の入熱量を100とすると、被検体の中央からの距離が遠くなるに連れ入熱量は低くなり、被検体の中央から240mmの位置でほぼ5%にまで低下する。このため、図9のコーティング表面温度分布線30に、図10から得られた曲線の逆数を乗じて与える熱流束量を補正し、補正した熱流束量でコーティング表面温度分布を解析すると、熱流束補正後のコーティング表面温度分布線31が得られた。この熱流束補正後のコーティング表面補正温度分布線31は、コーティング部材の中央から加熱したときのコーティング表面温度分布線39に完全に一致しているので、予め加熱源とコーティング部材との距離を求めておいて、得られたコーティング表面温度分布を補正すれば温度ピークが加熱側にずれていないコーティング表面温度分布を得ることができる。
【0057】
このように、本実施形態では、コーティング部材の中央部に加熱源を設置できない状況でも、熱流束量を補正して得られたコーティング表面補正温度分布線31から非破壊的に界面欠陥部を検出するので、精度良く界面欠陥部の寸法を推定することが可能である。
【0058】
図11は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第7実施形態を説明するために用いたもので、コーティング表面温度分布曲線に及ぼす界面欠陥部の幅の影響を示す図である。ここで、界面欠陥部の幅とは、図2に図示したように、コーティング部材を界面欠陥部で切断したときの皮膜厚さ方向に存在する界面欠陥部厚さのことを指す。
【0059】
図11に示すように、コーティング表面温度分布線32は、半径15mmの円盤サンプルの中央部に半径5mm、幅0.04mmの界面欠陥部が存在するコーティング部材を、二次元軸対称としてモデル化し、その表面に一様な熱を加えて非定常FEM解析により求めた結果である。また、コーティング表面温度分布線33は、上述と同様に、半径15mmの円盤サンプル中央部に半径5mm、幅0.01mmの界面欠陥部が存在する場合の解析結果を表示したものである。
【0060】
図11で示されたように、界面欠陥部の幅が大きくなると、界面欠陥部での熱伝達量が少なくなるため、界面欠陥部のコーティング表面温度が高くなる傾向を示す。図12は、図11で示したコーティング表面温度分布線から、健全部と界面欠陥部の温度差を計算して縦軸にとり、横軸を界面欠陥部の幅としてプロットしたグラフである。界面欠陥部の幅が大きくなることは界面欠陥部に存在する空気層が厚くなることである。したがって、空気層を介して伝達する熱量が少なくなるため、界面欠陥部の温度が高くなり、健全部と界面欠陥部との温度差が大きくなる。
【0061】
すなわち健全部と界面欠陥部とのコーティング表面温度差と、界面欠陥部の幅との間には、明瞭な相関関係が存在するため、健全部と界面欠陥部とのコーティング表面温度差を計測すれば、界面欠陥部の幅を知ることができ、非破壊的に界面欠陥部の断面形状を推定できる。
【0062】
このように、本実施形態では、健全部と界面欠陥部とのコーティング表面温度差を計測して界面欠陥部の幅を算出するので、界面欠陥部の断面形状を規定することが可能となる。
【0063】
図13は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第9実施形態を説明するために用いたもので、コーティング表面温度分布線に及ぼす界面欠陥部深さの影響を示す図である。ここで、界面欠陥部深さとは、図2で図示したように、コーティング部材表面から界面欠陥部までの距離のことを指す。
【0064】
図13に示すように、コーティング表面温度分布線34は、半径15mmの円盤サンプルの中央部に、半径5mm、界面欠陥部深さ0.075mmの界面欠陥部が存在するコーティング部材を、二次元軸対称としてモデル化し、その表面に一様な熱を加えて非定常FEM解析により求めた結果である。また、コーティング表面温度分布線35は、上述と同様に、半径15mmの円盤サンプル中央部に半径5mm、界面欠陥部が存在する場合の解析結果を表示したものである。
【0065】
図13中に示したこれらの2種類のコーティング表面温度分布線34,35から、界面欠陥部の深さにより、コーティング表面温度分布の形状は変化し、界面欠陥部深さが深くなれば、界面欠陥部/健全部の境界より界面欠陥部側で温度勾配がなだらかになる傾向を示す。したがって、コーティング表面温度分布線34,35の形状を評価することにより、界面欠陥部の深さを推定することが可能である。さらに、界面欠陥部が進展して、コーティングが脱落したときの残存コーティング厚さを知ることかができるので、界面欠陥部の危険性を予め知ることができる。
【0066】
本実施形態によれば、被検体としてのコーティング部材から計測したコーティング表面温度分布を、欠陥深さにより異なる界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布と比較することにより、界面欠陥部の深さを推定することができる。
【0067】
図14は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第10実施形態を説明するために用いたもので、酸化スケールが付着した被検体としてのコーティング部材における塗料塗布前後の放射率の変化を示す図である。
【0068】
図14に示すように、塗料塗布前の放射率線36は、被検体としてのコーティング部材の一部に酸化スケールが付着した場合の放射率を表したものである。酸化スケールがない位置に較べて、酸化スケールが付着した位置では放射率が低下する。
【0069】
赤外線法で計測できるコーティング表面温度は、その表面の放射率に依存する放射赤外線量を計測しているため、表面の放射率の変化により、温度計測値が異なる。したがって、酸化スケール付着の有無で、計測温度に差が現れ、検査対象とする界面欠陥部を検出できない可能性があり、また健全部を界面欠陥部と見誤る可能性がある。
【0070】
図14に示したように、塗料塗布後の放射率線37は、酸化スケールが付着したコーティング部材全体に塗料を塗った後の放射率を表したものである。この塗料は、シリコン樹脂を主成分とする透明ラッカーで、種々の放射率を持つコーティング部材に対して、放射率を一定にする効果がある。なお、この塗料のほか、アクリル樹脂、ニトルセルロース等を主成分とする耐熱塗料等でも同様に効果がある。この塗料をコーティング部材に塗布した後は、酸化スケールの付着有無による放射率の差を抑えることができるので、計測したコーティング表面温度分布は、純粋に界面欠陥部の有無を反映したものとなる。したがって、塗料を塗布後に計測したコーティング表面温度分布を、第1実施形態〜第8実施形態で示した手法で取り扱えば、界面欠陥部を精度良く評価することができる。なお、これらの塗料は、溶剤による洗浄等により簡単にとり除くことができ、非破壊検査後の実機運転に全く支障を与えない。
【0071】
本実施形態によれば、被検体としてのコーティング部材表面に塗料を塗布することにより、酸化スケールによる放射率変化に影響のないコーティング表面温度分布を得ることができ、界面欠陥部の形状・寸法を精度良く評価することが可能である。
【0072】
図15は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第11実施形態を説明するために用いたフローチャートである。まず、被検体としてのコーティング部材を加熱しない状態で、コーティング表面温度分布Aを計測し、予めデータとして保存する。このコーティング表面温度分布Aには、酸化スケールの付着等による計測面の放射率の違いが、温度分布の変化として画像化されている。
【0073】
次に、コーティング部材を加熱しながら同じ位置のコーティング温度分布Bを計測する。このコーティング表面温度分布Bには、酸化スケール付着の影響に加えて、界面欠陥部の存在による温度分布変化が画像化される。
【0074】
つづいて、得られたコーティング表面温度分布Bとコーティング表面温度分布Aとの差をとり、コーティング表面温度分布Cを算出する。これらのコーティング表面温度分布A,Bは、赤外線温度計測装置と先にデータとして保存していたコーティング部材とを固定して、加熱前と加熱中に計測したので、画像間の演算で、たやすく差をとることができる。こうして得られたコーティング表面温度分布Cは、酸化スケールの影響が全くなく、界面欠陥部の有無による影響のみを画像化したデータである。
【0075】
最後に、このコーティング表面温度分布Cを用いて、第1実施形態〜第9実施形態で示した手法で界面欠陥部を評価すれば、界面欠陥部の形状・寸法を推定できる。
【0076】
本実施形態によれば、加熱中の被検体としてのコーティング部材温度分布から加熱前の温度分布を引くことにより、酸化スケールによる放射率変化の影響のないコーティング表面温度分布を得ることができ、海面欠陥部の形状・寸法を精度良く推定することが可能である。
【0077】
図16は、本発明に係るコーティング部材の海面欠陥検査方法の第12実施形態を説明するために用いた、赤外線波長と放射率との関係を示す模式図である。
【0078】
図16は、コーティング層の放射率分布線38と、すすの放射率分布線39とをそれぞれ示している。赤外線温度計測装置は、ある波長範囲の赤外線強度を計測して、温度値に換算するものであるが、市販されている赤外線温度計測装置では、赤外線の波長範囲が大きく、温度分布計測結果に種々の波長の赤外線が混入し、計測結果に影響を与える。
【0079】
図16に示したように、コーティング層の放射率分布線38と、コーティング部材表面に付着するすすの放射率分布線39とは異なった形状を呈す。したがって、広い範囲の赤外線強度を計測した場合は、コーティング層による赤外線強度と、すすによる赤外線強度との双方の影響を受けた温度分布が得られる。
【0080】
一方、強度計測する赤外線の波長範囲は、フィルターにより狭めることが可能である。すなわち図16内で、コーティング層の放射率だけが高い領域(例えば、赤外線強度計測範囲40)の赤外線強度を計測すれば、コーティング層表面に付着したすすの影響の少ない温度分布を得ることが可能である。したがって、赤外線強度計測範囲40のみを透過するフィルターを、赤外線温度計測装置に取り付けておいて、得られた温度分布をもとに界面欠陥部を評価すれば、界面欠陥部の形状・寸法を推定できる。
【0081】
このように、本実施形態によれば、コーティング層のみの放射率が高い波長範囲の赤外線強度を計測することにより、すす等による放射率変化の影響のないコーティング表面温度分布を得ることができ、界面欠陥部の形状・寸法を精度良く評価することが可能である。
【0082】
図17は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第13実施形態を説明するために用いたコーティング表面温度画像と、その横方向および縦方向温度勾配画像を示す図である。図17中、(A)は中央部に界面欠陥部があるコーティング表面温度画像Pを、(B)は、その横方向温度勾配の等高線EQHLを、(C)は、その縦方向温度勾配の等高線EQVLをそれぞれ示している。
【0083】
既に、第1実施形態〜第3実施形態で示したように、界面欠陥部近傍のコーティング表面温度分布曲線を基に、勾配、立上り位置、立下り位置、中間温度位置等を求める方法は、界面欠陥部の形状・寸法を評価するのに有効である。しかし、実際の赤外線温度計測装置では、被検体としてのコーティング部材対称面の温度を二次元画像として表示している。二次元画像から、ある一方向だけのコーティング表面温度分布を抽出して上記等高線EQHL,EQVLを求めると、その方向に平行な界面欠陥部の先端は明確に見出せない。つまり図17中に示した、コーティング表面画像Pの横方向温度勾配の等高線EQHLでは、縦方向の界面欠陥部の先端は明瞭に画像化できるが、横方向の界面欠陥部の先端は不明瞭となる。また逆に、コーティング表面画像Pの縦方向温度勾配の等高線EQVLは、縦方向の界面欠陥部先端を画像化できない。
【0084】
しかし同一のコーティング表面温度画像から、温度勾配算出方向を2方向以上とすれば、全方向の界面欠陥部先端を明瞭に画像化可能である。すなわち、その中央部に界面欠陥部があるコーティング表面温度画像Pから、横方向および縦方向温度勾配の等高線EQHL,EQVLを両方求めれば、界面欠陥部の全体を識別できる。
【0085】
このように、本実施形態によれば、コーティング部材のコーティング表面温度画像から2方向の温度勾配を求めて、画像化することにより、界面欠陥部全体を明瞭に識別できるようになり、界面欠陥部の形状・寸法を精度良く評価することが可能である。
【0086】
図18は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第14実施形態を説明するために用いたスポット加熱により基材の亀裂を検出する概念図である。
【0087】
加熱範囲を狭くして、コーティング部材のある位置を加熱すると、熱は加熱位置を中心にしてコーティング表面上を円状に伝わる。さらに基材側にも熱は伝わり、基材中でもスポット加熱位置を中心に周りに広がる。
【0088】
コーティング表面の温度は、コーティング層を通じて伝わる熱のほか、直下の基材の温度にも関係する。つまり基材中に亀裂がある場合、その亀裂の外側は基材中を熱が伝わりにくくなるため、基材温度が低くなる。したがってコーティング表面温度も低下するので、コーティング表面温度を計測することで、基材に発生した亀裂の有無を判断することが可能である。
【0089】
このように、本実施形態によれば、スポット加熱したコーティング部材のコーティング表面温度を計測し、その温度分布を画像化することで、コーティング下部の基材に発生した亀裂の有無を評価することが可能である。
【0090】
図19は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第15実施形態を説明するために用いた基材の亀裂深さと、亀裂両側のコーティング表面温度差との関係を示す線図である。ここで、基材両側のコーティング表面温度差とは、図18で示した亀裂の左側と右側のコーティング表面温度の差である。基材に存在する亀裂が深いほど、亀裂を迂回して伝わる熱の量は少なくなるので、コーティング表面温度差が大きくなる傾向にある。
【0091】
本実施形態は、このような点に着目したもので、コーティング表面温度画像を計測し、亀裂の両側の温度差を求め、求めた温度差から基材に発生した亀裂の深さを推定するものである。
【0092】
したがって、本実施形態によれば、スポット加熱したコーティング部材のコーティング表面温度を計測し、亀裂両側のコーティング表面温度の差を求めるので、基材に発生した亀裂の深さを容易に推定することが可能である。
【0093】
図20は、本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第16実施形態を説明するために用いた表面超音波法によるコーティング厚さの計測原理図である。物質によって決定される臨界角方向から、送信プローブにより超音波を入射した場合、被検体の表面を伝播する表面超音波が励起されて臨界角方向に漏洩するめ、受信プローブにて受信される。表面超音波は、表面から1波長程度の深さまでを伝播するため、周波数の選定により特定の深さまでの情報を選択的に得ることが可能である。ここでは、コーティング層と基材の弾性特性が異なるため、表面超音波が伝播する深さの中にコーティング層と基剤とがどの程度の割合で含まれるかによって、受信プローブで計測される音速が異なる。
【0094】
また、図21は、コーティング層の厚さと表面超音波音速の関係を示す線図であるが、表面超音波の伝播する深さが全てコーティング層で占められる場合、コーティング層単独の音速が計測され、コーティング層が全くない場合、基材独特の音速が計測される。さらに表面超音波が伝播する深さの中にコーティング層と基材の双方が含まれる場合、コーティング層の厚さによって音速が変化する。したがって、コーティング層の厚さに対応する周波数の表面超音波の音速を計測することにより、コーティング層の厚さを測定することが可能である。
【0095】
また図22は、渦電流法によるコーティング層の厚さを計測する計測原理図である。渦電流法は、渦電流プローブ41を被検体42に接触または近接して、被検体42の透磁率と導電率から決定される渦電流量を計測する手法である。被検体42としてのコーティング層と基材の透磁率および導電率が異なるため、予め被検体42としてのコーティング層単独の渦電流量と、基材単独の渦電流量を計測しておき、被検体42としてのコーティング層の厚さによる出力電圧の較正曲線を作成して、被検体42としてのコーティング層に発生した渦電流量を計測してコーティング層の厚さを測定するものである。
【0096】
本実施形態は、表面超音波法あるいは渦電流法でもコーティング層の厚みを計測することができることに着目したもので、表面超音波法あるいは渦電流法で求めたコーティング層の厚さと、第8実施形態で求めた界面欠陥部の深さとを組み合わせることにより、界面欠陥部が進展してコーティング層が脱落した後に残るコーティング層の厚さを推定したものである。
【0097】
したがって、本実施形態によれば、コーティング層の厚さと界面欠陥部の深さの双方とも計測するので、界面欠陥部が急速に進展した場合の残存するコーティング厚さを推定でき、補修か否かを迅速に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第1実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図。
【図2】本発明に適用されるコーティング部材の断面を示す模式図。
【図3】本発明に適用されるコーティング部材に界面欠陥部が存在することを等高線で表わしたコーティング表面温度画像図。
【図4】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第2実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図。
【図5】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第3実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図。
【図6】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第4実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図。
【図7】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第5実施形態を説明するために用いた界面欠陥部先端近傍のコーティング表面温度分布を示す図。
【図8】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第6実施形態を説明するために用いたもので、第1実施形態〜第5実施形態で示した検出方法によるコーティング部材の界面欠陥部の長さと、実機材を切り出し、その材料を切断して調査したコーティング部材の界面欠陥部の長さとを比較したグラフ。
【図9】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第7実施形態を説明するために用いたもので、加熱源の位置を変えたときのコーティング表面温度分布を示す図。
【図10】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第7実施形態を説明するために用いたもので、加熱源とコーティング部材との距離と、熱流束量との関係を示す図。
【図11】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第8実施形態を説明するために用いたもので、コーティング表面温度分布線に及ぼす界面欠陥部の幅の影響を示す図。
【図12】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第8実施形態を説明するために用いたもので、健全部と界面欠陥部との温度差と、界面欠陥部の幅との関係を示すグラフ。
【図13】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第9実施形態を説明するために用いたもので、コーティング表面温度分布線に及ぼす界面欠陥部深さの影響を示す図。
【図14】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第10実施形態を説明するために用いたもので、酸化スケールが付着したコーティング部材における塗料塗布前後の放射率の変化を示す図。
【図15】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第11実施形態を説明するために用いたフローチャート。
【図16】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第12実施形態を説明するために用い赤外線波長と放射率との関係を示す模式図。
【図17】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第13実施形態を説明するために用いたコーティング表面温度画像と、その横方向および縦方向温度勾配画像を示す図で、(A)は中央部に界面欠陥部があるコーティング表面温度画像を、(B)はその横方向温度勾配の等高線を、(C)はその縦方向温度勾配の等高線をそれぞれ示している。
【図18】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第14実施形態を説明するために用いたスポット加熱により基材の亀裂を検出する概念図。
【図19】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第15実施形態を説明するために用いた基材の亀裂深さと、亀裂両側のコーティング表面温度差との関係を示す線図。
【図20】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第16実施形態を説明するために用いた表面超音波法によるコーティング厚さの計測原理図。
【図21】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第16実施形態を説明するために用いたもので、コーティング層の厚さと表面超音波音速との関係を示す線図。
【図22】本発明に係るコーティング部材の界面欠陥検査方法の第16実施形態を説明するために用いたもので、渦電流法によるコーティング層の厚さを計測する計測原理図。
【図23】従来の赤外線映像装置を示す基本原理図。
【図24】従来における物体を強制的に加熱させる概念図。
【符号の説明】
【0099】
1 物体
2 表面温度
3a,3b 放射エネルギー
4 レンズ
5 電気信号
6 熱画像
7 カメラ
8 コントロール部
9 表示部
10 検出器
11 加熱源
11a 熱
12 欠陥部
13 コーティング表面温度分布線
14 等高線
15 コーティング表面温度分布の立上り位置点
16 コーティング表面温度分布線
17 コーティング表面温度分布の立下り位置点
18 コーティング表面温度分布線
19 コーティング表面温度分布の立上り位置点
20 コーティング表面温度分布の立下り位置点
21 中間点
22 コーティング表面温度分布線
23 界面欠陥部のコーティング表面温度位置
24 健全部のコーティング表面温度位置
25 中間温度位置
26 コーティング表面温度分布線
27 界面欠陥部側の温度遷移積分領域
28 健全部側の温度遷移積分領域
29,30 コーティング表面温度分布線
31 コーティング表面補正温度分布線
32,33,34,35 コーティング表面温度分布線
36 塗料塗布前の全放射率線
37 塗料塗布後の全放射率線
38 コーティング層の放射率分布線
39 すすの放射率分布線
40 赤外線強度計測範囲
41 渦電流プローブ
42 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属構造物の基材表面にコーティングされたコーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査するコーティング部材の界面欠陥検査方法において、上記コーティング部材のある位置をスポット加熱し、スポット加熱位置を中心にして周りに熱が拡散する状態をコーティング表面温度分布として求め、求めたコーティング表面温度分布のうち、熱拡散の不均衡部分から基材に存在する亀裂を検出することを特徴とするコーティング部材の界面欠陥検査方法。
【請求項2】
金属構造物の基材表面にコーティングされたコーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査するコーティング部材の界面欠陥検査方法において、上記コーティング部材のある位置をスポット加熱し、スポット加熱位置を中心にして周りに熱が拡散する状態をコーティング表面温度分布として求め、求めたコーティング表面温度分布のうち、熱拡散の不均衡部分から基材に存在する亀裂を検出し、亀裂の両側のコーティング表面温度の差から亀裂の深さを推定することを特徴とするコーティング部材の界面欠陥検査方法。
【請求項3】
金属構造物の基材表面にコーティングされたコーティング部材の界面欠陥部を非破壊的に検査するコーティング部材の界面欠陥検査方法において、上記コーティング部材の表面温度分布を求め、求めた表面温度分布から界面欠陥部の深さを推定し、その深さと電磁気法および超音波法のうち、いずかれか一方で計測した上記コーティング部材の皮膜厚さとから、界面欠陥部が進展して上記コーティング部材が脱落したとき残存コーティング部材の厚さを予測することを特徴とするコーティング部材の界面欠陥検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−14959(P2008−14959A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257937(P2007−257937)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【分割の表示】特願平11−178621の分割
【原出願日】平成11年6月24日(1999.6.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】