説明

コートされた医療用インプラントおよびレンズ

コートされた医療用インプラントが、患者の身体組織中にまたはそれに隣接して固定されるように構成されたインプラント本体を有する。このインプラント本体は、インプラント表面を有し、コーティングが、当該インプラント表面の少なくとも一部の上に形成される。このコーティングは、第1の化学成分のコーティング外表面を含み、この第1の化学成分は、第2の化学成分のカルボン酸官能基に化学的に結合している。この第2の化学成分は、アミド連結によって、下層の第3の化学成分に固定化されており、この第3の化学成分は、インプラント本体の表面上に直接プラズマコートされている。このコーティングは、タンパク質の接着および/もしくは細胞の増殖を阻害もしくは阻止するか、または非汚染性コーティングとなり得るかのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載する実施形態は、一般に、コートされた眼内レンズおよびその他の医療用インプラントに関し、これらは、コートされた表面に対する、増殖細胞および/またはタンパク質の付着を最小限に抑える組成物を用いてコートされる。
【背景技術】
【0002】
ヒトの眼は、最も簡単に表現すると、光を角膜と呼ばれる透明な外側部分を通して透過させ、屈折させ、それに続いて、水晶体によって眼の後部網膜上で画像の焦点を合わせることによって、視力をもたらすように機能する。焦点画像の質は、眼の大きさ、形状および長さ、ならびに角膜および水晶体の形状および透明度を含めた、多くの要因に依存する。外傷、年齢または疾患に起因して水晶体の透明度が低下すると、網膜まで透過することができる光の量が減少するので視力が悪化する。こうした眼の水晶体の欠陥は、医学的には、白内障として知られている。この状態は、水晶体を外科的に除去し、眼内レンズまたは「IOL」として知られている人工水晶体を埋め込むことによって治療する。
【0003】
一般的に、白内障の水晶体を除去し、IOLを埋め込む手順は、普及し、事実上日常的になっている。しかし、場合によっては、IOLの埋め込み後に、嚢膜の後部上で細胞の増殖が起こる。この状態は、後発白内障の形成、またはより正確には、後嚢混濁として知られている。これは、増殖細胞によって、網膜への光透過が遮断されやすくなり、視力の悪化を引き起こすからである。典型的な治療では、Nd:YAGレーザー光を定期的に使用して、水晶体後嚢表面から、増殖細胞を切除する。この切除過程の間に、水晶体後嚢膜の一部も影響を受ける。この膜に穴が開く恐れがあり、このため、少なくとも水晶体後部が硝子体液に曝されることになる。硝子体液が、水晶体を越えて眼房水に浸潤する場合があり、これは望ましくない。したがって、この処置には問題がある。さらに、この治療の定期性も、頻繁な来院が必要になることにより患者に不都合をもたらす。
【0004】
後嚢混濁は、多くの要因に依存すると思われ、それらには、患者に関連する要因もあれば、IOLに関連する要因もある。いくつかのIOLは、その他のIOLよりも、後部混濁を起こしにくいようである。後嚢混濁を阻止または阻害するための薬理学的なアプローチが探索されており、いくつかのアプローチには、溶液中の細胞傷害剤、またはIOL表面から周囲の流体および組織中へ放出させるための細胞傷害剤がある。しかし、そのような遊離の細胞傷害剤は、その他の眼内組織に対して有害な効果を及ぼす恐れがある。
【0005】
細胞の増殖およびタンパク質の接着は、埋め込まれたIOLに限定されず、その他の装置を患者に埋め込んだ場合にもかなり頻繁に生じる。また、例えば、シャント(例えば、透析治療に、または医薬品および/もしくは栄養分の長期の日常的な静脈内投与のために使用される)、緑内障用シャント、ペースメーカー、除細動器、心臓用ステント等の医療用の装置もしばしば、表面上に細胞の増殖およびタンパク質の接着を受ける。そのような細胞の増殖およびタンパク質の接着は、顕著な問題をもたらす恐れがある。例えば、透析用シャントは、付着タンパク質および/または増殖細胞を除去するために定期的に清掃する必要がある場合があり、最終的には、取り出し、取り換える必要がある場合がある。組織性の閉塞物(blockage)に起因して、そのようなシャントを取り換える必要性が生じた場合、新しいシャントは通常、異なる部位における異なる血管中に設置しなければならない。患者が有するシャントに適した部位の数は、限られている。したがって、細胞性および/またはタンパク質性組織によるシャントの閉塞は、長期の患者の看護において重大な問題をもたらす。
【0006】
再利用可能なコンタクトレンズ(すなわち、単回使用の使い捨てレンズではない)を使用する場合の主要な関心領域の1つは、清浄なレンズ表面を維持することである。通常の使用においては、コンタクトレンズは次第に、タンパク質物質で覆われるようになり、これは少なくとも、装用者の快適さに影響を及ぼし、場合によっては、より重大な問題に至る恐れがある。したがって、使用者は、これらのタンパク質の沈着物を除去するために設計されたプロトコールに従って、毎日等の間隔で、レンズを清掃するように勧められる。相当な割合の使用者の側で、清掃プロトコールに正確に従えない、またはこれらのプロトコールを推奨通り定期的に実施できないために、場合によっては、合併症に至る恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、IOL、コンタクトレンズ、シャント、ペースメーカー、除細動器等の医療用インプラントのためのコーティングであって、当該コーティング上におけるタンパク質の接着および細胞の増殖を阻害または阻止するコーティングを開発することが望ましい。さらに、IOLおよびコンタクトレンズの場合には、コーティングが、良好な光透過光学特性を有することが望ましい。さらには、コートされたIOL、コンタクトレンズおよびその他の医療用インプラントのその他の望ましい特色および特徴が、これに続く詳細な説明および添付の特許請求の範囲から、付随する図面および前記の技術分野および背景技術も併せて考慮すれば、明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態のある例は、コートされた医療用インプラントを提供する。この医療用インプラントは、インプラント表面を有し、コーティングが、当該インプラント表面の少なくとも一部の上に形成される。このコーティングは、第2の化学成分のカルボン酸官能基に化学的に結合している第1の化学成分のコーティング外表面を含む。この第2の化学成分は、アミド連結によって、下層の第3の化学成分に固定化されており、この第3成分は、インプラント本体の表面上に直接プラズマコートされている。このコーティングが、インプラント表面のコート部分上において、タンパク質の接着および/または細胞の増殖を阻害または阻止する。
【0009】
別の例では、第2の化学成分は、第1の化学成分と自由に反応し、化学的に結合できるカルボン酸官能基を有する有機酸を含む。この有機酸は、光学用途には約2,000から約10,000までの範囲の平均分子量を有し、非光学用途にはより大きな平均分子量を有する場合がある。
【0010】
本発明の実施形態のさらなる例では、光透過性レンズ本体が、レンズ本体表面の少なくとも一部の上に形成された光学的に透明なコーティングを有し、このコーティングは、レンズ本体に対するタンパク質の接着および細胞の接着を阻害する。このコーティングは、有機酸のカルボン酸官能基に化学的に結合している第1の化学成分のコーティング外表面を含む。この有機酸は、約2,000から約10,000までの範囲の平均分子量を有し、アミド連結によって、下層の第2の化学成分に固定化されている。この第2の化学成分は、レンズ本体の表面上に直接プラズマコートされている。
【0011】
以降、種々の実施形態を、縮尺が不正確な以下の概略的な作図と併せて説明する。図中、同じ数字は、同じ要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のコートされた医療用インプラントの実施形態の例を示す図である。
【図2】図1の医療用インプラントの一部の横断面図であり、コーティングの実施形態の例を概略的に描写する。
【図3】コートされた医療用インプラントを作製するための本発明の方法の例示的な実施形態の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明は、例示的な性質のものであるに過ぎず、説明する実施形態を制限するものでも、説明する実施形態の適用および使用を制限するものでもない。さらに、先行する技術分野、背景技術、発明の概要、または以下の詳細な説明に示す、明示または暗示されたいずれかの理論によって拘束されることはない。
【0014】
以下の説明および特許請求の範囲では、「アミン」という用語は、(−C−NH2)基、(−C−NHR)基または(−C−NR2)基(式中、R=アルキル基またはアリール基)を含む全ての化合物を含むと広義に解釈すべきである。
【0015】
以下の説明および特許請求の範囲では、「化学成分」という用語は、他の化合物に化学的に結合して、コーティングを形成し得る化合物を意味する。したがって、各化合物は、コーティングの「化学成分」となり得る。化学成分に「第1」、「第2」または「第3」と番号を付けることには、相互に区別するため以外に意味はない。
【0016】
以下の説明および特許請求の範囲では、「医療用インプラント」という用語は、眼内レンズ(「IOL」)およびコンタクトレンズを含む。後者は、恒久的に埋め込むことはできないが、使用の間には、身体組織(角膜)および体液(涙液)と直接接触する。
【0017】
以下の説明および特許請求の範囲では、「ポリアクリル酸」という用語は、少なくとも2つのカルボン酸基を有するポリマーを含むと広義に解釈すべきである。
【0018】
以下の論述は、便宜上かつ手短に述べるために、主としてIOLに焦点を合わせるが、この技術は、その他の医療用インプラントにも適用されることを理解されたい。
【0019】
本発明のコートされたIOL100の実施形態の例を、図1に示す。この実施例では、IOL100は、レンズ本体110を有し、そこから、一対の、レンズを保持する構造112が伸長し、これを、支持部112として示す。コーティング170が、支持部112およびレンズ本体110をカバーする。
【0020】
レンズ本体110を通る横断面の一部を、図2に示す。コーティング170のこの略図は、説明の目的のためだけに、はっきりと区別できる層を描写している。図2に描写したコーティングは、拡大下では、別々のはっきりと区別できる層としては見えない。これは、相互に化学的に結合すると、別々の化学的な反応物は通常、別々の層としてではなく、単なる単一の層として目に見えるようになるからである。手短にいうと、コーティング170を、3つの層または化学成分を含むものとして図解する。第1の化学成分130は、レンズ本体110の外表面120の上に直接プラズマコートされている。第2の化学成分140は、アミド連結によって、第1の化学成分に化学的に結合している。第3の化学成分150は、第2の化学成分の遊離カルボン酸基に対する連結によって、第2の化学成分140に化学的に結合している。第3の化学成分150は、周囲の環境に曝された外表面160を示す。第3の化学成分を適切に選択することによって、選択された意図する目的に従って、例えば、タンパク質をはじくまたは細胞の接着を阻害する外表面の特性を注文に応じて作る。
【0021】
第1の化学成分120は、アミンの化学的群から選択することができる。望ましくは、選択されたアミンは、インプラント表面上に直接、RF(「高周波」)プラズマ蒸着または化学蒸着の技法によって容易に堆積できるように比較的揮発性を示すべきである。これらの技法によって、アミンとインプラントの表面との間の化学反応が促進されて、インプラントの表面上に薄いアミンの被膜が密着する。選択されたアミンは、アミンの被膜を堆積した後の反応に利用可能な、少なくとも1つの遊離の(−C−NH2)基または(−C−NHR)基(式中、R=アルキル基またはアリール基)をさらに有すべきである。アミンの被膜は、軟質アクリル材料、シリコーン系のポリマー、ポリメチルメタクリレートおよびその誘導体等の、IOLおよびコンタクトレンズを形成するために使用する材料上にプラズマ技法によって堆積することができる。さらに、アミンの被膜は、透析用シャント、緑内障用シャント等の、その他のインプラントを形成するために使用する有機ポリマー上に堆積することもできる。さらに、アミンの被膜は、除細動器、ペースメーカー、心臓用ステント等において通常使用する金属上に堆積することもできる。有用な第1の化学成分の非限定的な例のリストとして、ヘプチルアミン、アリルアミン、2−アミノ−メタクリレート、2−アミノ−エチルメタクリレート、アミノ−エチレン、エチルアミン、ヘキシルアミン等が挙げられる。一級アミンおよび二級アミンが好ましいが、その他のアミンも使用してもよい。一般に、プラズマにより堆積した被膜の厚さは、約10から約300オングストローム程度であるが、他の厚さも有用となり得る。
【0022】
第1の化学成分を、医療用インプラントの外表面上に、薄い被膜として堆積させてしまうと、第2の化学成分を、この薄い被膜の遊離アミン基と反応させることができる。この反応は、プラズマコートされた医療用インプラントを第2の化学成分の溶液中に浸すことによって、あるいはその溶液を用いてスピンコートする、塗装するもしくはスプレーすること、または別の適切な技法によって実施することができる。第2の化学成分は、第1の化学成分の遊離アミン基に化学的に結合することができ、第1の化学成分との結合の後には、第3の化学成分と結合するのに利用可能な少なくとも1つの遊離カルボン酸基を有する組成物から選択することができる。望ましくは、第2の化学成分は、約2,000から上限約10,000までの範囲の平均分子量を有するポリアクリレート等の有機ポリマー酸から選択される。この範囲の平均分子量が、光透過性のコーティングを形成するのに適しており、このようなコーティングは、IOLおよびコンタクトレンズ等のインプラントにおいて使用するための、適切な(例えば、許容できる程度の光学解像度の像を維持する)光学特性を有する。適用したコーティングが依然として、許容できる像の解像度を維持するならば、コーティングの、像の質に対する影響は、「取るに足らない」とみなすことができる。光学特性が重要でない場合には、より高い分子量を有するポリマー酸が有用である場合がある。したがってまた、10,000を越える平均分子量も有用であり得る。有用な第2の化学成分の非限定的な例のリストとして、天然または合成のいずれにしても、カルボン酸を含有する多糖(例えば、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース)、ポリアクリル酸ならびにそのような酸のエステルおよび誘導体、ポリマレイン酸ならびにポリマー性カルボン酸の酸無水物等が挙げられる。酸の誘導体の非限定的な例として、ポリマレイン酸無水物、ならびにアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸およびマレイン酸無水物等のカルボン酸を含有するモノマーの、メチルメタクリレート等のその他の非カルボン酸モノマーとのコポリマーが挙げられる。
【0023】
第1の化学成分と第2の化学成分とを化学的に組み合わせ、医療用インプラント表面上において反応生成物を固定化して、選択された第3の化学成分を添加するためのプラットフォームを得る。第3の化学成分は、第2の化学成分の遊離カルボン酸基と化学的に反応することができる部分を含む必要がある。したがって、第3の化学成分は、広い範囲の化学的な組成物から選択することができ、主として、コーティング表面に所望される性質に基づいて選択される。例えば、第3の化学成分は、細胞破壊性コーティングを形成することができる。細胞破壊性コーティングの場合、第3の化学成分は、例えば、IOLが後嚢の接着を阻止するように、アミノ酸または溶解性のペプチドを含むことができる。第3の化学成分はまた、例えば、IOLまたはコンタクトレンズの場合、タンパク質接着および細胞増殖を阻止するためには、メラチン(melattin)、(眼内に自然に存在するグルタチオンとの相互作用によって生成する結合体中の)セレノシスタミン(selenosystamine)、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、溶解性のペプチド等のいずれであってもよい。前記およびその他の細胞破壊性コーティングに加えて、その他の潜在的なコーティングとして、生体適合性コーティング、例えば、Arg−Gly−Asp−Serペプチド等のRGD、その他のアミノ酸およびペプチド、フィブロネクチンおよびアルブミン等のタンパク質;ならびにポリエチレンオキシド(PEO)等の非汚染性コーティング等が挙げられる。
【0024】
第3の化学成分を、最初の2つの化学成分に適用し、アミド連結によってカルボン酸基に化学的に結合させると、このコートされた医療用インプラントは、任意の必要なまたは要求される埋め込み前の処置、例えば、滅菌の後には、本質的に使用できる状態になる。
【0025】
図3に、コートされた医療用インプラントを作製するための多段プロセス300の例示的な実施形態を図解する。工程310において、インプラント表面を準備し、それに続いて、その上にアミンをプラズマにより堆積する。このインプラント表面の準備には、適切な洗剤中におけるほこりおよび任意の遊離の破片の清掃、脱脂、洗浄等が含まれる。この表面を清掃し終えたとき、乾燥させてもよい。次いで、清掃および乾燥したインプラントは、工程320において、プラズマチャンバー中に置いて、プラズマコートすることができる。プラズマコーティングのパラメータは、インプラント表面上へのプラズマ堆積のために選択された第1の化学成分の性質に依存することになろう。
【0026】
プラズマコーティングのパラメータは、インプラント表面上へのプラズマ堆積のために選択された第1の化学成分の性質に依存する。典型的には、プラズマ堆積に、アルゴンまたは酸素を用いたプラズマ清浄化ステップが先行してよい。適切なアミン化合物は、アンモニアもしくはメチルアミン等の気体であり、またはより一般的には、液体のアミン化合物、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミンである。好ましいアルキルアミンは、十分に揮発性であって、真空下のプラズマチャンバー中で容易に蒸発するアミンである。これらの液体のアルキルアミン化合物のうちでは、ペンチルアミン、ヘキシルアミンおよびヘプチルアミンが好ましいが、これらのうちでも、ヘプチルアミンが最も好ましい。また、揮発性のより低いアミンも、アミン化合物を真空下で加熱して、プラズマを維持するのに十分な蒸気をチャンバー中にもたらすことによって使用することができる。
【0027】
また、オレフィン系アミン、アクリル系アミンおよびスチレン系アミン等、エチレン系不飽和部分をそれらの構造中に有するアミン化合物も、活用するのに有用で、望ましい。適切なオレフィン系アミン化合物として、アリルアミン、ジアリルアミンまたは4−アミノブテン等、揮発性の液体であるものが挙げられる。適切なアクリル系アミンとして、2−アミノエチルアクリレート、2−アミノエチルメタクリレート、3−アミノプロピルアクリレートおよび3−アミノプロピルメタクリレート等が挙げられる。適切なスチレン系アミンの例として、4−アミノスチレンが挙げられる。
【0028】
プラズマ堆積は、有機アミン含有化合物を蒸気の形態でチャンバー中に誘導した後に実施することができる。例えば、有機アミン化合物のRFプラズマによる堆積は、わずかなRF出力、例えば、約30から約120ワット(W)の範囲で、選ばれた化合物に依存して変化し得るチャンバー圧力下で実施することができる。ヘプチルアミンの場合に使用する典型的な条件として、約25から約325mTorr、より典型的には110から130mTorrのチャンバー圧力における、約60WのRF出力を挙げることができる。コーティングは、200オングストロームのコーティングの厚さまで堆積することができる。別の有機アミン化合物であるアリルアミンは、RFプラズマ工程において、約100から150Wの出力、約100〜300mTorrの圧力で、100から500オングストロームの厚さまで堆積することができる。したがって、RFプラズマ堆積の条件は、選択された特定のアミン化合物に基づいて変化させてよい。
【0029】
プラズマコートした後に、工程330において、第2または架橋性の化学成分を、プラズマコートされた表面上の遊離アミン基に共有結合させることができる。一般的に、この架橋性化学物質として、ポリアクリル酸を挙げることができ、アミド連結を形成するための遊離アミン基とのその反応は、エチルジメチルプロピルアミノジイミド(「EDC」)を用いて触媒することができるが、また、その他の触媒も使用してよい。アミド連結が形成されると、工程340において、インプラント表面を脱イオン水中で洗浄する。この時点で、コートされたインプラント表面は、ポリアクリル酸の遊離カルボン酸基を用いることによって、そこに第3の化学成分を共有結合させるためのプラットフォームを提供する。
【0030】
工程350において、第3の化学成分を、遊離の反応性カルボン酸基の少なくともいくつかと反応させて、表面のコーティングを形成する。カルボン酸の連結反応のパラメータは、選択された特定の第3の化学成分、使用するいずれかの触媒、およびカルボン酸基に対する共有結合性またはイオン性の連結を形成するために通常考慮されるその他の要因に依存する。反応が完了したとき、次いで、工程360おいて、任意の残存遊離カルボン酸基を中和して、IOL等の有用なコートされたインプラントを生成することができる。
【0031】
以下の実施例を、本発明の少なくともいくつかの実施形態を例証するために提供するが、これによって、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載する本発明の範囲が制限されることはない。
【実施例】
【0032】
プラズマ堆積ヘプチルアミン被膜の適用
RFプラズマチャンバー(Advanced Surface Technology,Inc.製)を、材料の加工のために、最初に、酸素によるエッチング処理を実施して、チャンバーを清掃することによって準備した。酸素によるエッチング処理を、250mTorrの圧力および160WのRF出力を用いて、酸素流量を50cc/分に設定することによって実施した。形成された酸素プラズマは、3W以下の反射RF出力、および時間と共に青灰色に最終的に減退する、特徴的なかすんだ青色を有した。酸素によるエッチング処理は、チャンバー清掃のために、2時間続けた。
【0033】
レンズ保持プレートおよび厚さゲージの清掃を、アルゴンによるプラズマエッチング処理においてさらに実施した。その後、ステンレス鋼製のレンズ保持プレートおよび厚さゲージをチャンバーの中心内に取り付け、厚さゲージの導線をチャンバー制御システムに接続した。次いで、厚さゲージを、レンズ保持プレート上に載せた。アルゴンによるプラズマエッチング処理は、90cc/分のアルゴン流量を用いて、140WのRF出力、250mTorrの圧力で30分間実施した。アルゴンのプラズマは、桃色から紫色を呈し、3W以下の反射RF出力を有した。清掃後、レンズ保持プレートおよび厚さゲージを、チャンバーから取り出し、層流フード中に置いた。
【0034】
レンズ保持プレートを周囲温度まで冷却した後、最大30個のACRYSOF(登録商標)(Alcon、Fort Worth、テキサス州の商標)眼内レンズ(「IOL」)、Model MA60BMを、レンズ保持プレート上に置いた。次いで、レンズを含有する、レンズ保持プレートを、プラズマチャンバー内に取り付け、レンズ保持プレート上に厚さゲージを再度載せた。最初に、アルゴンによるプラズマエッチング処理を、チャンバー中のIOL上で、60WのRF出力、250mTorrの圧力、および90cc/分のアルゴン流量で実施した。6分間のアルゴンによるプラズマ処理後に、RF出力のスイッチを止めた。
【0035】
その後、ヘプチルアミンのプラズマコーティングを、チャンバー中のIOL表面に適用した。5グラムのヘプチルアミンを、250mLの丸底フラスコ中に入れ、新しい単穴ゴム栓をフラスコ内に挿入した。フラスコの内部は、穴付き栓を通してプラズマチャンバーの入口と連絡していた。チャンバーを1分間排気し、次いで、ヘプチルアミンのフラスコへのニードル弁を開いた。排気を3分間続け、次いで、システムを、10分間かけて平衡化させた。厚さゲージをゼロとし、RF出力にスイッチを入れた。ヘプチルアミンのプラズマ堆積を60Wで実施し、ヘプチルアミンを200オングストロームの厚さまで堆積した。これらの条件下では、典型的なチャンバー圧力は、約10から50mTorrの範囲である。所望の厚さが達成された後、ヘプチルアミンの流れを止め、RF出力のスイッチを止めた。2分後、チャンバーを排気して、残存ヘプチルアミンを除去した。10分後、チャンバーにアルゴンを流し、チャンバーを開いた。IOLを取り出し、レンズ保持プレートを、層流フード内に置いた。IOLに、レンズ保持プレート上の行と列による位置に従ってラベルした。液滴による接触角の測定を、ヘプチルアミンによりプラズマコートされたIOL上で、水を用いて実施した。典型的な接触角は、70から90°の範囲であることが見い出された。
【0036】
プラズマ堆積被膜に対するポリアクリル酸の共有結合
コートされた各IOLを、2,000の平均分子量を有する0.012%ポリアクリル酸0.5mlを仕込んだ、別々の1.5ml遠心用バイアル中に入れた。それぞれのバイアルに、新たに調製した、pH3.6の緩衝化溶液中の0.4Mエチルジメチルプロピルアミノジイミド(「EDC」)0.1mlを添加した。次いで、密閉した各バイアルを、ボルテックスミキサー上で、約10秒間混合した。バイアルを、室温で約1時間放置して、ポリアクリル酸のカルボン酸基と、アミン基との間の反応をさらに進めて、アミド連結を形成させた。さらに4回のEDCの添加を、1時間置きに実施した。第5回のEDC添加後、レンズをそれぞれ、室温でさらに1時間浸漬した。EDCを添加すると、バイアル中の溶液が混濁し、この混濁は、約1時間後(すなわち、次のEDC添加の前)には消失することが観察された。室温で約65時間放置すると、ポリアクリル酸は固定化され、バイアル中の溶液は、約3.29のpHを示した。IOLを、ラベルした組織カプセルに移し、これらのカプセルを、1リットルのフラスコ中に置き、600mlの脱イオン水を用いて、振とう器上100rpmで振とうすることによって、室温で10分置きに洗浄した。洗浄後、IOLを一晩風乾した。乾燥したIOLは、光学的に透明で透過性であるように見えた。コートし乾燥したレンズ上における接触角の測定を、AST Contact Angle VCA 2500計器を使用して実施した。結果は、約40°から約60°の間の、疎水性の接触角を示した。
【0037】
PHMBの、ヘプチルアミン/ポリアクリル酸の表面に対する固定化
いくつかの微量遠心用バイアルのそれぞれの中に、Cosmocil(商標)QC試薬[Zeneca Biocides、Wilmington、デラウエア州製]としての20%PHMB溶液0.25ml、および0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH3.6)0.75mlを添加した。それぞれのIOLを、組織カプセルから取り出し、それぞれの微量遠心用バイアル中に置いた。それぞれのバイアルに、新たに調製した0.4M EDC試薬溶液0.1mlを添加し、次いで、バイアルを閉じ、ボルテックスミキサー中で、10秒間混合した。IOL表面上の残存カルボン酸基の反応を、室温で1時間続けて、PHMB分子上の末端の基との反応によってアミド基を形成した。さらに4回のEDCの添加を、1時間置きに行い、全部で5回添加した。EDCの最後の添加後、IOLを、室温で約17〜18時間浸漬させた。
【0038】
新しい微量遠心用バイアルを、上記に従って準備し、IOLをそれぞれ、それぞれの新しいバイアルに移した。EDCを用いた処理は、ここでも、前記に従って実施した。第5回のEDCの添加および約16〜17時間の浸漬後、バイアルの溶液は、約4.68のpHを有した。
【0039】
IOLそれぞれを、それぞれの組織カプセルに移し戻し、それらの組織カプセルを、600mlのビーカー中に置き、0.2ミクロンの滅菌フィルターを通してろ過されている400mlの脱イオン水中で、100rpmで振とうしながら10回洗浄した。洗浄後、それぞれのIOLを、組織カプセルから取り出し、pH7.47のダルベッコリン酸緩衝化食塩水(DPBS)溶液1.0mlを含有する微量遠心用バイアル中に置いて、任意の未反応のカルボン酸基を中和した。この溶液は、緩衝化食塩水中に約0.01Mのリン酸を含有した。この中和は、室温で18時間続けた。中和後、それぞれのIOLを、組織カプセルに移し戻した。中和後のDPBS溶液のpHは、約7.27であることが見い出された。さらなる脱イオン水中での洗浄後、コートされたIOLを、周囲条件下で、一晩乾燥させた。
【0040】
前記の詳細な説明において、少なくとも1つの例示的な実施形態を示したが、非常に多数の変形形態が存在することを理解されたい。また、1つまたは複数の例示的な実施形態は、例に過ぎず、いずれの場合であっても、これらによって、説明した実施形態の範囲、適用性または構造が制限されるものではないことも理解されたい。むしろ、前記の詳細な説明によって、1つまたは複数の例示的な実施形態を実行するための好都合な指針が当業者には提供されるであろう。添付の特許請求の範囲に記載する範囲およびそれらの法的な均等物から逸脱することなく、種々の変化形態を、機能および要素の配置において作製することができることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体組織中にまたはそれに隣接して固定されるように構成された、コートされた医療用インプラントであって、
本体表面を有するインプラント本体と、
前記本体表面の少なくとも一部の上に形成されたコーティングと
を含み、前記コーティングが、
プラズマ堆積によって前記本体表面上に直接形成された、アミン官能基を含む第1の化学成分と、
前記第1の化学成分に化学的に結合しており、前記第1の化学成分に結合した後に、少なくとも1つの遊離カルボン酸官能基を有する第2の化学成分と、
前記少なくとも1つの遊離カルボン酸官能基に化学的に結合した第3の化学成分と
を含む、医療用インプラント。
【請求項2】
前記第2の化学成分が、約2,000から約10,000までの範囲の平均分子量を有する有機酸を含む、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項3】
眼内レンズを含み、前記コーティングが、前記眼内レンズの像の解像度に対して取るに足らない影響しか及ぼさない、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項4】
前記第2の化学成分が、カルボン酸含有多糖、ポリアクリル酸、ならびにそのような酸のエステルおよび誘導体の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項5】
前記第1の化学成分が、ヘプチルアミン、アリルアミン、2−アミノ−メタクリレート、2−アミノ−エチルメタクリレート、アミノ−エチレン、エチルアミン、エチレンジアミン、ジアリルアミンおよびヘキシルアミンの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項6】
前記第3の化学成分が、アミノ酸、溶解性のペプチド、セレノシスタミン、ポリヘキサメチレンビグアナイド、タンパク質およびポリエチレンオキシドからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項7】
前記第3の化学成分は、前記コーティングが、細胞破壊性コーティング、生体適合性コーティングまたは非汚染性コーティングの1つを含むように選択される、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項8】
第1の化学成分が、一級アミンまたは二級アミンを含む、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項9】
前記コーティングが、エチル−ジメチルプロピル−アミノカルボ−ジイミドを含む残存触媒をさらに含む、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項10】
眼内レンズ、コンタクトレンズ、ペースメーカー、除細動器、カテーテル、透析用シャント、緑内障用シャントおよび心臓用ステントからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項11】
インプラント本体表面を含むインプラント本体と、
前記インプラント本体表面上に形成されたコーティングと
を含むコートされた医療用インプラントであって、
前記コーティングが、前記インプラント本体に対するタンパク質の接着および細胞の接着を阻害し、第3の化学成分を含むコーティング外表面を含み、前記第3の化学成分が、アミド連結によって、第2の化学成分のカルボン酸官能基に結合しており、前記第2の化学成分が、アミド連結によって、前記インプラント本体表面上に直接プラズマコートされているアミンを含む下層の第1の化学成分に固定化されている、医療用インプラント。
【請求項12】
眼内レンズを含み、前記コーティングが、前記眼内レンズの像の解像度に対して取るに足らない影響しか及ぼさない、請求項11に記載の医療用インプラント。
【請求項13】
前記第2の化学成分が、カルボン酸含有多糖、ポリアクリル酸、ならびにそのような酸のエステルおよび誘導体の少なくとも1つを含む、請求項11に記載の医療用インプラント。
【請求項14】
前記下層の第1の化学成分が、ヘプチルアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、2−アミノ−メタクリレート、2−アミノ−エチルメタクリレート、アミノ−エチレン、エチルアミン、エチレンジアミンおよびヘキシルアミンうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の医療用インプラント。
【請求項15】
前記インプラント本体が、眼内レンズ本体を含む、請求項11に記載の医療用インプラント。
【請求項16】
前記第3の化学成分が、アミノ酸、溶解性のペプチド、セレノシスタミンおよびポリヘキサメチレンビグアナイドから選択される、請求項11に記載の医療用インプラント。
【請求項17】
レンズ外表面を含む光透過性のレンズ本体と、
前記レンズ外表面の少なくとも一部の上に形成されたコーティングと
を含むコートされた医療用インプラントであって、
前記コーティングが、第3の化学成分を含むコーティング外表面を含み、前記第3の化学成分が、アミド連結によって、約2,000から約10,000までの範囲の平均分子量を有する第2の化学成分のカルボン酸官能基に結合しており、前記第2の化学成分が、アミド連結によって、前記レンズ外表面の前記少なくとも一部の上に直接プラズマコートされているアミンを含む下層の第1の化学成分に固定化されている、医療用インプラント。
【請求項18】
前記下層の第1の化学成分が、ヘプチルアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、2−アミノ−メタクリレート、2−アミノ−エチルメタクリレート、アミノ−エチレン、エチルアミン、エチレンジアミンおよびヘキシルアミンうちの少なくとも1つを含む、請求項17に記載の医療用インプラント。
【請求項19】
前記第2の化学成分が、カルボン酸含有多糖、ポリアクリル酸、ならびにそのような酸のエステルおよび誘導体の少なくとも1つを含む、請求項17に記載の医療用インプラント。
【請求項20】
前記第3の化学成分が、アミノ酸、溶解性のペプチド、セレノシスタミン、ポリヘキサメチレンビグアナイド、タンパク質およびポリエチレンオキシドから選択される、請求項17に記載の医療用インプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−519966(P2010−519966A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551813(P2009−551813)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/055059
【国際公開番号】WO2008/106477
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】