コード状ヒータと面状ヒータ
【課題】耐屈曲性が高く、加工性を向上させたコード状ヒータ及びそれを使用した面状ヒータを提供すること。
【解決手段】絶縁被膜5bにより被覆された複数本の導体素線5aを有し、上記絶縁被膜5bがフッ素樹脂からなるコード状ヒータ10。上記導体素線が、硬質銅線、硬質錫−銅合金線又は硬質ニッケル−銅合金線からなるコード状ヒータ。上記導体素線5aが、引き揃えられた状態で芯線3上に巻装されているコード状ヒータ10。上記導体素線5aの外周に絶縁体層7が形成され、上記絶縁体層7の一部または全部が熱融着材からなるコード状ヒータ10。上記絶縁被膜5aの厚さが、上記導体素線5bの直径の3〜30%であるコード状ヒータ。上記コード状ヒータ10を基材11に配設した面状ヒータ。
【解決手段】絶縁被膜5bにより被覆された複数本の導体素線5aを有し、上記絶縁被膜5bがフッ素樹脂からなるコード状ヒータ10。上記導体素線が、硬質銅線、硬質錫−銅合金線又は硬質ニッケル−銅合金線からなるコード状ヒータ。上記導体素線5aが、引き揃えられた状態で芯線3上に巻装されているコード状ヒータ10。上記導体素線5aの外周に絶縁体層7が形成され、上記絶縁体層7の一部または全部が熱融着材からなるコード状ヒータ10。上記絶縁被膜5aの厚さが、上記導体素線5bの直径の3〜30%であるコード状ヒータ。上記コード状ヒータ10を基材11に配設した面状ヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータなどに好適に使用可能なコード状ヒータ及びそれを使用した面状ヒータに係り、特に、耐屈曲性が高く、加工性を向上させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ等に使用されるコード状ヒータは、芯線にヒータ線を螺旋状に巻き、その上から絶縁体層による外被を被覆する構成のものが一般的に知られている。ここで、ヒータ線としては、銅線やニッケルクロム合金線などの導体素線を複数本引き揃え又は撚合せたものから構成されている。又、この発熱線の外周には熱融着部が形成され、この熱融着部により、例えば不織布やアルミ箔といった基材に接着されている(例えば、特許文献1など参照)。
【0003】
従来のコード状ヒータは、各導体素線が接した状態となっているため、引張や屈曲を受けて導体素線の一部が断線した場合、この断線した部分はヒータ線の径が細くなったのと同じ状態となる。そのため、この部分は単位断面積当たりの電流量が増加することとなり、異常発熱を起こす可能性がある。これに対し、ヒータ線として、導体素線の1本ずつを個別に絶縁被膜を形成し、導体素線1本ずつが並列回路を構成するようにしたものがある。これによると、導体素線の一部に断線が生じても、並列回路の一部が断線したのと同義になり、異常加熱を防止することができる(例えば、特許文献2、特許文献3など参照)。
【0004】
又、本発明に関連する技術として、当該出願人より特許文献4、5が出願されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−174952公報:クラベ
【特許文献2】特開昭61−47087号公報:松下電器産業
【特許文献3】特開2008−311111公報:クラベ
【特許文献4】特開2010−15691公報:クラベ
【特許文献5】国際公開WO2011/001953公報:クラベ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献2,3には、導体素線の絶縁被膜として種々の材料が記載されているが、主に使用されているのは所謂エナメル線と称されるものであり、絶縁被膜の材料としては、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などの硬質材料が使用されている。このような材料は、表面の滑りが悪いため、コード状ヒータが屈曲等の外力を受けた際、導体素線とその外周に形成される絶縁体層等との摩擦力等により導体素線に応力が加わるため、繰り返しの屈曲により導体素線の断線が生じやすいという問題があった。又、コード状ヒータとリード線の接続に際しては、絶縁被膜の除去が必要である。現状では、熱や薬品により絶縁被膜を分解除去した後に端子接続をしているが、この工程ができるだけ簡易なものとなるよう、加工性を向上させることが求められていた。
【0007】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、耐屈曲性が高く、加工性を向上させたコード状ヒータ及びそれを使用した面状ヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく、本発明によるコード状ヒータは、絶縁被膜により被覆された複数本の導体素線を有し、上記絶縁被膜がフッ素樹脂からなることを特徴とするものである。
又、上記導体素線が、硬質銅線、硬質錫−銅合金線又は硬質ニッケル−銅合金線からなることが考えられる。
又、上記導体素線が、引き揃えられた状態で芯線上に巻装されていることが考えられる。又、上記導体素線の外周に絶縁体層が形成されていることが考えられる。又、上記絶縁体層の一部または全部が熱融着材からなることが考えられる。又、上記絶縁被膜の厚さが、上記導体素線の直径の3〜30%であることが考えられる。又、自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行う屈曲性試験において、導体素線が少なくとも1本切れるまでの屈曲回数が2万回以上であることが考えられる。
又、本発明による面状ヒータは、上記のコード状ヒータを基材に配設したものである。
又、本発明によるコード状ヒータの製造方法は、上記導体素線の外周に、フッ素樹脂からなる上記絶縁被膜を押出成形によって形成することを特徴とするものである。又、上記導体素線の外周に、上記絶縁体層を押出成形によって形成することが考えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコード状ヒータによると、絶縁被膜が滑り性の良いフッ素樹脂からなるため、コード状ヒータが屈曲等の外力を受けても、導体素線とその外周に形成される絶縁体層等との摩擦力が小さいことから導体素線に応力が加わりにくくなる。そのため、繰り返しの屈曲への耐久性が向上して耐屈曲性の高いものが得られる。又、フッ素樹脂は加圧によって容易に塑性変形するため、接続端子を圧着する際の圧力によって、導体素線とリード線との間、或いは、導体素線と接続端子との間の絶縁被膜が押し出されて除去されることとなる。そのため、熱や薬品による絶縁被膜の除去工程が必要なくなり、加工性が大きく向上することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図2】本発明による実施の形態を示す図で、ホットプレス式ヒータ製造装置の構成を示す図である。
【図3】本発明による実施の形態を示す図で、コード状ヒータを所定のパターン形状に配設する様子を示す一部斜視図である。
【図4】本発明による実施の形態を示す図で、面状ヒータの構成を示す平面図である。
【図5】本発明による実施の形態を示す図で、面状ヒータを車両用シート内に埋め込んだ様子を一部切り欠いて部示す斜視図である。
【図6】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図7】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図8】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図9】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図10】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図11】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図12】屈曲試験の方法を説明するための参考図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1〜図11を参照して本発明の実施の形態を説明する。これらの実施の形態は、本発明を面状ヒータとし、車両用シートヒータに適用することを想定した例を示すものである。
【0012】
まず、図1〜図5を参照して本実施の形態を説明する。この実施の形態におけるコード状ヒータ10の構成から説明する。本実施の形態におけるコード状ヒータ10は図1に示すような構成になっている。まず、外径約0.2mmの芳香族ポリアミド繊維束からなる芯線3があり、該芯線3の外周には、素線径0.08mmの硬質錫入り銅合金線からなる5本の導体素線5aを引き揃えて構成されたものがピッチ約1.0mmで螺旋状に巻装されている。導体素線5aには、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチレンアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる絶縁被膜5bが、押出被覆により厚さ約0.01mmで形成されている。この芯線3上に導体素線5aを巻装したものの外周に、絶縁体層7として難燃剤が配合されたポリエチレン樹脂が0.2mmの厚さで押出被覆され、発熱線1が構成されている。なお、この実施の形態において、絶縁体層7に用いられたポリエチレン樹脂は、熱融着材として機能する。コード状ヒータ10はこのような構成になっていて、その仕上外径は0.8mmである。又、屈曲性や引張強度を考慮した場合には上記芯線3は有効であるが、芯線3の代わりに複数本の導体素線を引き揃えるか或いは撚り合わせたものを使用することも考えられる。
【0013】
次に、上記構成をなすコード状ヒータ10を接着・固定する基材11の構成について説明する。本実施例における基材11は、低融点ポリエステルを鞘成分とする芯鞘構造を有する熱融着性繊維10%と、難燃性ポリエステル繊維からなる難燃性繊維90%とを混合させた不織布(目付100g/m2、厚さ0.6mm)で構成されている。このような基材11は、型抜き等の公知の手法により所望の形状とされる。
【0014】
次に、上記コード状ヒータ10を基材11上に所定のパターン形状で配設して接着・固定する構成について説明する。図2はコード状ヒータ10を基材11上に接着・固定させるためのホットプレス式ヒータ製造装置13の構成を示す図である。まず、ホットプレス治具15があり、このホットプレス治具15上には複数個の係り止め機構17が設けられている。上記係り止め機構17は、図3に示すように、ピン19を備えていて、このピン19はホットプレス冶具15に穿孔された孔21内に下方より差し込まれている。このピン19の上部には係り止め部材23が軸方向に移動可能に取り付けられていて、コイルスプリング25によって常時上方に付勢されている。そして、図3中仮想線で示すように、これら複数個の係り止め機構17の係り止め部材23にコード状ヒータ10を引っ掛けながら所定のパターン形状にて配設することになる。
【0015】
図2に戻って、上記複数個の係り止め機構17の上方にはプレス熱板27が昇降可能に配置されている。すなわち、コード状ヒータ10を複数個の係り止め機構17の係り止め部材23に引っ掛けながら所定のパターン形状にて配設し、その上に基材11を置く。その状態で上記プレス熱板27を降下させてコード状ヒータ10と基材11に、例えば、230℃/5秒間の加熱・加圧を施すものである。それによって、コード状ヒータ10側の熱融着部9と基材11側の熱融着性繊維が融着することになり、その結果、コード状ヒータ10と基材11が接着・固定されることになる。尚、上記プレス熱板27の降下による加熱・加圧時には複数個の係り止め機構17の係り止め部材23はコイルスプリング25の付勢力に抗して下方に移動するものである。
【0016】
基材11のコード状ヒータ10を配設しない側の面には、接着層の形成、或いは、両面テープの貼り付けがなされても良い。これは、座席に取り付ける際、面状ヒータ31を座席に固定するためのものである。
【0017】
上記作業を行うことにより、図4に示すような車両用シートヒータの面状ヒータ31を得ることができる。尚、上記面状ヒータ31におけるコード状ヒータ10の両端、及び、温度制御装置39にはリード線40が接続端子(図示しない)によって接続されており、このリード線40により、コード状ヒータ10、温度制御装置39、及び、コネクタ35が接続されている。ここで、接続端子によるコード状ヒータ10とリード線40の接続について詳述する。コード状ヒータ10の端部について、ストリップ加工機によって絶縁体層7を除去するとともに、同じくリード線40の端部についてもストリップ加工機によって絶縁体を除去して導線を露出させる。これらコード状ヒータ10の端部とリード線40の端部を接続端子にセットして、圧着を行う。この際、コード状ヒータ10の導体素線5aに形成された絶縁被膜5bは、加圧によって容易に塑性変形するため、接続端子を圧着する際の圧力によって押し出されて除去され、導体素線5aとリード線40の導体とが電気的接続されることとなる。そのため、熱や薬品による絶縁被膜5bの除去工程が必要なくなり、加工性が大きく向上することとなる。そして、このコネクタ35を介して図示しない車両の電気系統に接続されることになる。
【0018】
そして、上記構成をなす面状ヒータ31は、図5に示すような状態で、車両用のシート41内に埋め込まれて配置されることになる。すなわち、上記した通り、車両用シート41の表皮カバー43又は座席パット45に、面状ヒータ31が貼り付けられることとなるものである。
【0019】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。まず、コード状ヒータ10は、フッ素樹脂からなる絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを有するものであれば、従来公知の種々のコード状ヒータを使用することができる。
【0020】
又、発熱線1の構成としては、例えば、上記実施の形態のように、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本撚り合わせ又は引き揃え、これを芯線3上に巻装し、その外周に絶縁被覆7を施したもの(図1参照)、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本撚り合わせたもの(図6参照)、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本引き揃えたもの(図7参照)、などが挙げられるが、それら以外にも様々な構成のものが想定される。
【0021】
又、例えば、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aと絶縁被膜5bにより被覆されていない導体素線5aが交互に配置された形態(図8参照)や、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aの本数を増やして、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5a同士を並べて配置するような形態も考えられ(図9参照)、それら以外にも様々な構成のものが想定される。又、芯線3と導体素線5aを撚り合せることも考えられる。
【0022】
芯線3としては、例えば、ガラス繊維等の無機繊維や、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、脂肪族ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機繊維のモノフィラメント、マルチフィラメント、スパン、或いはそれらの繊維材料、若しくは、それらの繊維材料を構成する有機高分子材料を芯材とし、その周上に熱可塑性の有機高分子材料が被覆された構成を有する繊維などが挙げられる。又、芯線3を熱収縮性及び熱溶融性を有するものとすれば、導体素線5aが断線してしまった際の異常加熱により芯線が溶融切断されるとともに収縮することで、巻装された導体素線5aもこの芯線3の動作に追従し、断線した導体素線5aの端部同士を分離することになる。そのため、断線した導体素線のそれぞれの端部が接したり離れたりすることや点接触のようなわずかな接触面積で接することがなくなり、異常発熱を防止することができる。又、導体素線5aが絶縁被膜5bにより絶縁されている構成であれば、芯線3は絶縁材料にこだわる必要はない。例えば、ステンレス鋼線やチタン合金線等を使用することも可能である。しかし、導体素線5aが断線したときのことを考慮すると、芯線3は絶縁材料であった方が良い。
【0023】
導体素線5aとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、銅線、銅合金線、ニッケル線、鉄線、アルミニウム線、ニッケル−クロム合金線、鉄−クロム合金線、などが挙げられ、銅合金線としては、例えば、錫−銅合金線、銅−ニッケル合金線、銅固溶体と銅銀共晶がファイバー状になった銀入り銅合金線などが挙げられる。このうち、コストと特性のバランスの点から、銅線又は銅合金線を使用することが好ましい。これら銅線又は銅合金線には軟質のものと硬質のものがあるが、耐屈曲性の観点から、軟質のものよりも硬質のものの方が特に好ましい。尚、硬質銅線や硬質銅合金線とは、線引き加工等の冷間加工によって個々の金属結晶粒が加工方向に長く引き伸ばされ繊維状組織となったものである。このような硬質銅線や硬質銅合金線は、再結晶温度異常で加熱すると、金属結晶内に生じた加工歪みが解消されるとともに、新たな金属結晶の基点となる結晶各が出現し始める。この結晶核が発達して、順次旧結晶粒と置換される再結晶が起き、更に結晶粒が成長した状態となる。軟質銅線や軟質銅合金線はこのような結晶粒が成長した状態のものである。この軟質銅線や軟質銅合金線は、硬質銅線や硬質銅合金線と比べて伸びや電気抵抗値は高いものの引張強さが低い性質となるため、耐屈曲性は硬質銅線や硬質銅合金線と比べて低くなる。このように、硬質銅線や硬質銅合金線は、熱処理によって耐屈曲性が低い軟質銅線や軟質銅合金線になるため、できるだけ熱履歴の少ない加工を行うことが好ましい。尚、硬質銅線はJIS−C3101(1994)、軟質銅線はJIS−C3102(1984)においても定義がなされており、外径0.10〜0.26mmでは伸び15%以上、外径0.29〜0.70mmでは伸び20%以上、外径0.80〜1.8mmでは伸び25%以上、外径2.0〜7.0mmでは伸び30%以上のものが軟質銅線とされる。また、銅線には錫メッキが施されているものも含まれる。錫メッキ硬質銅線はJIS−C3151(1994)、錫メッキ軟質銅線はJIS−C3152(1984)にて定義がなされている。又、導体素線5aの断面形状についても種々のものが使用でき、通常使用される断面円形のものに限られず、いわゆる平角線と称されるものを使用しても良い。
【0024】
但し、芯線3に導体素線5aを巻装する場合は、上記した導体素線5aの材料の中でも、巻付けたときのスプリングバックする量が小さいものが良く、復元率が200%以下となるものが好ましい。例えば、銅固溶体と銅銀共晶がファイバー状になった銀入り銅合金線などは、抗張力性に優れ引張強度や屈曲強度には優れるものの、巻付けたときスプリングバックし易い。そのため、芯線3に巻装する際に、導体素線5aの浮きや、過度の巻付けテンションによる導体素線5aの破断が生じ易く、又加工後には撚り癖が生じ易いため好ましくない。特に、導体素線5aに絶縁被膜5bが被覆される形態とした場合は、この絶縁被膜5bによる復元力も加わることになる。そのため、導体素線5aの復元率が小さいものを選定し、絶縁被膜5bによる復元力をカバーすることが重要となる。
【0025】
ここで、本発明で規定する復元率の測定について詳しく記述する。まず、導体素線に一定荷重を掛けながら、導体素線径の60倍の径の円柱形マンドレルに対して、導体素線が重ならないように3回以上巻きつける。10分後、荷重を取り去り導体素線をマンドレルから外し、弾性により復元した形状の内径を測定して、導体素線のスプリングバックする割合を次の式(I)により算出して、復元率として評価する。
R=(d2/d1)×100―――(I)
記号の説明:
R:復元率(%)
d1:巻付試験に用いたマンドレル径(mm)
d2:導体素線をマンドレルに巻きつけた後、荷重を開放して復元した形状の内径(mm)
【0026】
導体素線5aに被覆される絶縁被膜5bとしては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステルナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられるが、これらの中からフッ素樹脂が選択される。フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチレンアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、などが挙げられる。このような、フッ素樹脂は不燃性であり化学的に安定している材料である点でも好ましい。特に、ETFEは機械的強度及び耐スパーク性にも優れているため好ましい。また、PFAは耐熱特性に特に優れているため好ましい。これらの中でも、熱により溶融する材料を使用すれば、導体素線5a同士を融着することができることから、接続端子との接続等の端末加工時に発熱線1がバラけることがないため、加工性を向上させることができ好ましい。又、熱により溶融する材料を使用すれば、絶縁被膜5bを押出成形によって形成することができる。このような押出成形であれば、導体素線5aにかかる熱履歴を小さくできるため、硬質銅線又は硬質銅合金線による導体素線5aを得ることができる。例えば、従来の技術のように、絶縁被膜5bがポリウレタン樹脂やポリイミド樹脂等から構成する場合、焼き付け工程として、導体素線5aは高温下に長時間晒されることになる。これにより、導体素線5aが大きな熱履歴を受けるため、硬質銅線又は硬質銅合金線が軟質銅線又は軟質銅合金線となってしまうこととなる。
【0027】
また、絶縁被膜5bの厚さは、導体素線5aの直径の3〜30%であることが好ましい。3%未満であると、十分な耐電圧特性が得られず、導体素線5aを個別に被覆する意味がなくなる可能性がある。また、30%を超えると、接続端子を圧着する際に絶縁被膜5bの行き場がなくなって除去されないことになり、導体素線5aとリード線或いは導体素線5aと接続端子の電気的接続が十分になされない可能性がある。
【0028】
上記導体素線5aを引き揃え又は撚り合せて芯材3上に巻装する際には、撚り合せるよりも、引き揃えた方が好ましい。これは、発熱芯4の径が細くなるとともに、表面も平滑になるためである。又、引き揃え又は撚り合わせの他に、芯材3上に導体素線5aを編組することも考えられる。
【0029】
絶縁体層7を形成する場合は、押出成形等によって行っても良いし、予めチューブ状に成形した絶縁体層7を被せても良く、形成の方法には特に限定はない。押出成形によって絶縁体層7を形成すると、導体素線5aの位置が固定されるため、位置ズレによる導体素線5aの摩擦や屈曲を防止できることから、耐屈曲性が向上されるため好ましい。絶縁体層7を構成する材料としても、コード状ヒータの使用形態や使用環境などによって適宜設計すれば良く、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、塩化ビニル樹脂、変性ノリル樹脂(ポリフェニレンオキサイド樹脂)、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、合成ゴム、フッ素ゴム、エチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等、種々のものが挙げられる。特に、難燃性を有する高分子組成物が好ましく使用される。ここでの難燃性を有する高分子組成物とは、JIS−K7201(1999年)燃焼性試験における酸素指数が21以上のものを示す。酸素指数が26以上のものは特に好ましい。このような難燃性を得るため、上記した絶縁体層7を構成する材料に適宜難燃材等を配合してもよい。難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物、酸化アンチモン、メラミン化合物、リン系化合物、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤などが挙げられる。これらの難燃剤には公知の方法で適宜表面処理を施しても良い。
【0030】
又、この絶縁体層7を熱融着材で形成することにより、加熱加圧によりコード状ヒータ10を基材11に熱融着することができる。このような場合、上記した絶縁体層7を構成する材料の中でも、基材との接着性に優れるオレフィン系樹脂が好ましい。オレフィン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−不飽和エステル共重合体などが挙げられる。これらの中でも特に、エチレン−不飽和エステル共重合体が好ましい。エチレン−不飽和エステル共重合体は、分子内に酸素を有する分子構造であるため、ポリエチレンのような炭素と水素のみの分子構造をしている樹脂と比較して燃焼熱が小さくなり、その結果、燃焼の抑制につながることとなる。又、元々の接着性が高いため基材との接着性も良好である上、無機粉末等を配合した際の接着性の低下が少ないため、種々の難燃剤を配合するのに好適である。エチレン−不飽和エステル共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体などが挙げられ、これらの単独又は2種以上の混合物であってもよい。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を表すものである。これらの内から任意に選択すれば良いが、上記した絶縁被膜5bを構成する材料の分解開始温度以下又は融点以下の温度で溶融する材料である方が良い。又、基材11との接着性に優れる材料として、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル−ポリエステル型、ポリエステル−ポリエーテル型のものがあるが、ポリエステル−ポリエーテル型の方が高い接着性を有するため好ましい。尚、コード状ヒータ10と基材11を熱融着する場合、コード状ヒータ10と基材11との接着強度は非常に重要なものである。この接着強度が充分でないと、使用していくうちに基材11とコード状ヒータ10とが剥離してしまい、それにより、コード状ヒータ11には予期せぬ屈曲が加わることになるため、導体素線5aが断線する可能性が高くなる。導体素線5aが断線すると、ヒータとしての役を果たさなくなるだけでなく、チャタリングによりスパークに至るおそれもある。
【0031】
絶縁体層7は1層だけでなく、複数層形成してもよい。例えば、導体素線5aの外周にフッ素樹脂による層を形成し、その外周に熱融着材としてポリエチレン樹脂の層を形成し、これら2層により絶縁体層7を構成するような形態も考えられる。もちろん、3層以上となっていても構わない。又、絶縁体層7は、長さ方向に連続して形成することに限定されない。例えば、コード状ヒータ10の長さ方向に沿って直線状やスパイラル線状に形成する、ドット模様に形成する、断続的に形成するなどの態様が考えられる。この際、熱融着材がコード状ヒータの長さ方向に連続していなければ、例え、熱融着材の一部に着火しても、燃焼部が広がらないため好ましい。又、熱融着材の体積が充分に小さければ、熱融着材が燃焼性の材料であっても、すぐに燃焼物がなくなり消火することになるし、ドリップ(燃焼滴下物)も発生しなくなる。従って、熱融着材の体積は、基材11との接着性を保持できる最低限とすることが好ましい。
【0032】
また、上記のようにして得られたコード状ヒータ10は、自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行う屈曲性試験において、導体素線が少なくとも1本切れるまでの屈曲回数が2万回以上であることが好ましい。
【0033】
基材11としては、上記実施の形態で示した不織布の他に、例えば、織布、紙、アルミ箔、マイカ板、樹脂シート、発泡樹脂シート、ゴムシート、発泡ゴムシート、延伸多孔質体等、種々のものが使用できるが、FMVSS No.302自動車内層材料の燃焼試験に合格する難燃性を有するものが好ましい。ここで、FMVSSとは、Federal
Motor Vehicle Safety Standard、即ち、米国連邦自動車安全基準のことであり、そのNo.302として、自動車内装材料の燃焼試験が規定されている。これらの中でも、不織布は、風合いが良く柔軟であるため、特にカーシートヒータの用途において好ましい。又、不織布を使用する場合も、上記実施の形態の場合には、不織布を構成する熱融着性繊維として、低融点ポリエステルを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維を使用しているが、それ以外にも、例えば、低融点ポリプロピレンを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維、又はポリエチレンを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維等の使用が考えられる。このような熱融着性繊維を使用することで、熱融着性繊維の芯部を取り囲んだ状態で、熱融着性繊維の鞘部と上記熱融着部9とが互いに融着し一体化することとなるため、コード状ヒータ1と不織布との接着は非常に強固なものとなる。又、難燃性繊維としては、例えば、上記の難燃性ポリエステルの他に、種々の難燃性繊維の使用が考えられる。ここで、難燃性繊維とは、JIS−L1091(1999年)に合格する繊維のことを指す。このような難燃性繊維を使用することで、基材は優れた難燃性を付与されることとなる。
【0034】
熱融着性繊維の混合割合は、5%以上が好ましく、又、20%以下が好ましい。熱融着性繊維の混合割合が5%未満だと、十分な接着性が得られない。又、熱融着性繊維の混合割合が20%を超えると、不織布が固くなり、着座者が違和感を訴えることになり得るのみでなく、逆にコード状ヒータとの接着性が低下してしまう。更には、熱融着する際の熱によって基材が収縮し、設計で意図した寸法が得られなくなる可能性もある。難燃性繊維の混合割合は、70%以上であり、好ましくは70%以上95%以下である。難燃性繊維の混合割合が70%未満だと、十分な難燃性が得られない。又、難燃性繊維の混合割合が95%を超えると、相対的に熱融着性繊維の混合割合が不足してしまい、十分な接着性が得られない。尚、熱融着性繊維の混合割合と難燃性繊維の混合割合を合算して100%になる必要はなく、他の繊維を適宜混合させても良い。又、熱融着性繊維が混合されていない場合であっても、例えば、上記の熱融着部の材料と基材を構成する繊維の材料を同系統の材料とすることで、必要充分な接着性を得られることもあるので、熱融着性繊維が混合されていないことも充分に考えられる。
【0035】
又、不織布の大きさや厚さなどは、使用用途によって適宜に変更するものであるが、その厚さ(乾燥時に測定した値)は、例えば、0.6mm〜1.4mm程度とすることが望ましい。このような厚さの不織布を使用すれば、加熱・加圧によりコード状ヒータと不織布とを接着・固定した際、不織布がコード状ヒータの外周の30%以上、好ましくは50%以上の部分と良好に接着することになるからであり、それによって、強固な接着状態を得ることができるからである。
【0036】
上記基材の中でも、空隙を有しているものが好ましく、特に、コード状ヒータが配設される面(以下、配設面と記す)が、コード状ヒータが配設されない面(以下、非配設面と記す)よりも空隙が多くなっているように構成されることが好ましい。空隙が多い状態とは、例えば、織布や不織布等の布体の場合、目付け、即ち単位体積当たりの繊維重量が小さい状態、発泡樹脂シートや発泡ゴムシートのような多孔体の場合、気孔率が大きい状態のことを示す。本発明による基材の具体的な態様としては、例えば、温度や圧力を調節するなどして片面のみ又は両面で強弱異なるカレンダー加工を行った織布又は不織布、片面のみからニードルパンチを行った不織布、片面にパイル形成や起毛をさせた布体、厚さ方向で気孔率が傾斜するように発泡制御した発泡樹脂シート又は発泡ゴムシート、空隙の多さが異なる材料を貼り合わせたもの、などが挙げられる。又、特に基材の空隙は連続していることが好ましい。これは、溶融した熱融着層が連続した空隙に浸透していくことで、アンカー効果が増して接着強度が向上するためである。このような空隙が連続している態様としては、繊維の集合体である織布や不織布等の布体、連続気孔を有する発泡樹脂シートや発泡ゴムシートなどが考えられる。尚、非配設面は空隙を有していないものも考えられる。
【0037】
又、コード状ヒータ10を基材11に配設する際、加熱加圧による融着によって接着・固定する態様でなく、他の態様によりコード状ヒータ10を基材11に固定しても良い。例えば、温風により熱融着材からなる絶縁体層7を溶融させて接着・固定する態様、導体素線5aに通電してその発熱により熱融着材からなる絶縁体層7を溶融させて接着・固定する態様、加熱しながら一対の基材11で挟持固定する態様など、種々の態様が考えられる。
【0038】
又、熱融着材を使用しない形態も考えられ、例えば、縫製によってコード状ヒータ10を基材11上に配置することや、一対の基材11でコード状ヒータ10を挟持固定することも考えられる。このような場合、図10や図11に示すように絶縁体層7を形成しないことが考えられるが、上記のとおり、導体素線5aを被覆する絶縁被膜5bが滑り性の良いフッ素樹脂からなるため、屈曲時等における導体素線5aと基材11との摩擦力は小さいものとなり、導体素線5aにかかる応力を減少できるため、耐屈曲性を向上することができる。
【0039】
又、面状ヒータ31を座席に固定するための接着層については、基材11の伸縮性の点や、良質な風合いの保持という点からすると、離型シート等の上に接着剤のみからなる接着層を形成し、該接着層を上記離型シートから上記基材11表面に転写することによって接着層を形成することが好ましい。又、この接着層は、難燃性を有するものが好ましく、それ単独でFMVSS No.302自動車内装材料の燃焼試験に合格するような難燃性を有するものが好ましい。例えば、高分子アクリル系粘着剤などが挙げられる。接着層は基材の配設面に形成しても良いし非配設面に形成しても良い。
【実施例】
【0040】
上記実施の形態によって得られるコード状ヒータ10(図1参照)を実施例1として、屈曲性試験、加工性試験、及び、耐電圧試験を行った。
【0041】
屈曲性試験は、自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行い、導体素線5aが少なくとも1本切れるまでの屈曲回数を測定するものである。本試験においては、各導体素線5aの抵抗値を測定しておき、図12に示すように、一対の半径5mmのマンドレル90でコード状ヒータを挟持し、このマンドレル90と垂直方向に両側90度ずつの屈曲を1回として、断線するまでの屈曲回数を測定した。この際、何れか1本導体素線5aの抵抗値が無限大となったときの屈曲回数を「1本断線回数」、全ての導体素線5aの抵抗値が無限大となったときの屈曲回数を「全数断線回数」とした。
【0042】
加工性試験は、端子加工後の導通を確認することによって行った。まず、コード状ヒータ10について、導体素線5aの有効長が90mmとなるよう切り出しし、端部8mmについて絶縁体層7をストリップ加工した。また、リード線について、導体(1.73mmφ)の有効長が90mmとなるように切り出し、端部8mmについて絶縁体をストリップ加工した。これらのコード状ヒータ10とリード線とを揃えて配置して、端部に接続端子(市販のスプライス端子)をセットし、市販の圧着機にて接続端子を圧着してコード状ヒータ10とリード線とを接続した。その後、コード状ヒータ10とリード線の間の抵抗値を測定した。試料数は20とし、平均値を算出した(但し、測定不能なほど抵抗値が大きかった試料は除いて平均値を算出)。
【0043】
耐電圧試験は、絶縁被膜5bの絶縁破壊電圧の試験を行った。導体素線5aに、業務用の電圧に対応するため200Vを印加し、絶縁破壊の有無を確認した。
【0044】
これらの試験について、上記実施例1によるコード状ヒータの導体素線5aを予め300℃で30分間したものと使用したものを実施例2として、併せて試験を行った。また、上記実施例1において絶縁被膜5bをポリウレタン樹脂の焼き付けによって形成したからなるものを比較例として、併せて試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、本実施例によるコード状ヒータ10は、屈曲性試験にて4万回以上の屈曲に耐え得る優れた耐屈曲性を有するものであった。これに対して比較例1によるコード状ヒータは、本実施例の50%以下の回数で全数が断線してしまうものであった。なお、実施例2によるコード状ヒータ全数断線の値は優れていたが、1本断線の値については実施例1に及ぶものではなかった。実施例1の耐屈曲性が特に優れていた理由として、実施例2や比較例の導体素線5aは、熱処理や焼き付け処理の熱によって軟質銅合金となってしまっていたのに対し、実施例1の導体素線5aは、硬質銅合金の状態を維持していたためである。また、加工性試験において、本試験で使用した導体素線5aは、単位長さ当たりの抵抗値が1.15Ω/m、有効長が90mmであることから抵抗値の計算値は0.1035Ωである。表1の通り、本実施の形態による試験結果はこの計算値に非常に近いものであり、接続端子の圧着のみで十分に導通していることが確認できた。これに対し、比較の形態では、測定不能、即ち、絶縁被膜が全く除去されていない試料が半数以上を占め、又、測定ができたとしても抵抗値が非常に大きくなっており、接続端子の圧着のみでは導通をすることができないものであった。また、耐電圧試験については、本実施例及び比較例ともに合格し、十分な耐電圧特性を有していることが確認された。
【0047】
上記実施例1によるコード状ヒータ10について、基材11上に直線形状で配設し、上記のようにホットプレス式ヒータ製造装置13を使用して、コード状ヒータ10を基材11上に接着・固定した。この基材11上に接着・固定したコード状ヒータ10についても、上記同様に屈曲性試験を行った。また、上記実施例1によるコード状ヒータ10について、基材11上に直線形状で配設し、粘着テープを使用して、コード状ヒータ10を基材11上に接着・固定した。この基材11上に接着・固定したコード状ヒータ10について、上記同様に屈曲性試験を行った。いずれにおいても、充分な耐屈曲性の値を示しており、本実施例によるコード状ヒータ10は、基材11上に接着・固定した状態でも充分な耐屈曲性を得ることが確認された。
【0048】
また、参考として、本発明によるコード状ヒータ10について、基材11との接着性についての検証を行った。上記実施例1のコード状ヒータ10について、表3に示すように絶縁体層の材料を変化し、上記実施例2と同様に基材11上に接着・固定して参考例1〜3を得た。その状態で、基材11を固定し、コード状ヒータ10の端部を掴持して基材11面に垂直の方向に引張り上げ、コード状ヒータ10と基材11の剥離の状態を目視で確認した。試験結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示す通り、何れの参考例も、剥離の際には基材11側が破壊するモードであって、界面剥離となるものはなく、充分な接着性を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳述したように本発明によれば、耐屈曲性が高く、加工性を向上されたコード状ヒータを得ることができる。このコード状ヒータは、例えば、アルミ箔や不織布等の基材上に蛇行形状等の所定の形状に配設されて面状ヒータとし、電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータ、暖房便座、防曇鏡用ヒータ、加熱調理器具等に好適に使用可能である。又、コード状ヒータ単体としても、例えば、パイプや槽等に巻き付けて接着したり、パイプ内に配置したりするような態様が考えられる。具体的な用途としては、例えば、配管や冷凍庫のパイプドレーンなどの凍結防止用ヒータ、エアコンや除湿機などの保温用ヒータ、冷蔵庫や冷凍庫などの除霜用ヒータ、乾燥用ヒータ、床暖房用ヒータとして好適に使用することができる。又、上記面状ヒータの用途として例示した電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータ、暖房便座、防曇鏡用ヒータ、加熱調理器具、床暖房等について、加熱対象物に本発明のコード状ヒータを直接貼り付けたり、巻き付けたりすることもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 発熱線
3 芯材
5a 導体素線
5b 絶縁被膜
7 絶縁体層
10 コード状ヒータ
11 基材
31 面状ヒータ
41 車両用シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータなどに好適に使用可能なコード状ヒータ及びそれを使用した面状ヒータに係り、特に、耐屈曲性が高く、加工性を向上させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ等に使用されるコード状ヒータは、芯線にヒータ線を螺旋状に巻き、その上から絶縁体層による外被を被覆する構成のものが一般的に知られている。ここで、ヒータ線としては、銅線やニッケルクロム合金線などの導体素線を複数本引き揃え又は撚合せたものから構成されている。又、この発熱線の外周には熱融着部が形成され、この熱融着部により、例えば不織布やアルミ箔といった基材に接着されている(例えば、特許文献1など参照)。
【0003】
従来のコード状ヒータは、各導体素線が接した状態となっているため、引張や屈曲を受けて導体素線の一部が断線した場合、この断線した部分はヒータ線の径が細くなったのと同じ状態となる。そのため、この部分は単位断面積当たりの電流量が増加することとなり、異常発熱を起こす可能性がある。これに対し、ヒータ線として、導体素線の1本ずつを個別に絶縁被膜を形成し、導体素線1本ずつが並列回路を構成するようにしたものがある。これによると、導体素線の一部に断線が生じても、並列回路の一部が断線したのと同義になり、異常加熱を防止することができる(例えば、特許文献2、特許文献3など参照)。
【0004】
又、本発明に関連する技術として、当該出願人より特許文献4、5が出願されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−174952公報:クラベ
【特許文献2】特開昭61−47087号公報:松下電器産業
【特許文献3】特開2008−311111公報:クラベ
【特許文献4】特開2010−15691公報:クラベ
【特許文献5】国際公開WO2011/001953公報:クラベ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献2,3には、導体素線の絶縁被膜として種々の材料が記載されているが、主に使用されているのは所謂エナメル線と称されるものであり、絶縁被膜の材料としては、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などの硬質材料が使用されている。このような材料は、表面の滑りが悪いため、コード状ヒータが屈曲等の外力を受けた際、導体素線とその外周に形成される絶縁体層等との摩擦力等により導体素線に応力が加わるため、繰り返しの屈曲により導体素線の断線が生じやすいという問題があった。又、コード状ヒータとリード線の接続に際しては、絶縁被膜の除去が必要である。現状では、熱や薬品により絶縁被膜を分解除去した後に端子接続をしているが、この工程ができるだけ簡易なものとなるよう、加工性を向上させることが求められていた。
【0007】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、耐屈曲性が高く、加工性を向上させたコード状ヒータ及びそれを使用した面状ヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく、本発明によるコード状ヒータは、絶縁被膜により被覆された複数本の導体素線を有し、上記絶縁被膜がフッ素樹脂からなることを特徴とするものである。
又、上記導体素線が、硬質銅線、硬質錫−銅合金線又は硬質ニッケル−銅合金線からなることが考えられる。
又、上記導体素線が、引き揃えられた状態で芯線上に巻装されていることが考えられる。又、上記導体素線の外周に絶縁体層が形成されていることが考えられる。又、上記絶縁体層の一部または全部が熱融着材からなることが考えられる。又、上記絶縁被膜の厚さが、上記導体素線の直径の3〜30%であることが考えられる。又、自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行う屈曲性試験において、導体素線が少なくとも1本切れるまでの屈曲回数が2万回以上であることが考えられる。
又、本発明による面状ヒータは、上記のコード状ヒータを基材に配設したものである。
又、本発明によるコード状ヒータの製造方法は、上記導体素線の外周に、フッ素樹脂からなる上記絶縁被膜を押出成形によって形成することを特徴とするものである。又、上記導体素線の外周に、上記絶縁体層を押出成形によって形成することが考えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコード状ヒータによると、絶縁被膜が滑り性の良いフッ素樹脂からなるため、コード状ヒータが屈曲等の外力を受けても、導体素線とその外周に形成される絶縁体層等との摩擦力が小さいことから導体素線に応力が加わりにくくなる。そのため、繰り返しの屈曲への耐久性が向上して耐屈曲性の高いものが得られる。又、フッ素樹脂は加圧によって容易に塑性変形するため、接続端子を圧着する際の圧力によって、導体素線とリード線との間、或いは、導体素線と接続端子との間の絶縁被膜が押し出されて除去されることとなる。そのため、熱や薬品による絶縁被膜の除去工程が必要なくなり、加工性が大きく向上することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図2】本発明による実施の形態を示す図で、ホットプレス式ヒータ製造装置の構成を示す図である。
【図3】本発明による実施の形態を示す図で、コード状ヒータを所定のパターン形状に配設する様子を示す一部斜視図である。
【図4】本発明による実施の形態を示す図で、面状ヒータの構成を示す平面図である。
【図5】本発明による実施の形態を示す図で、面状ヒータを車両用シート内に埋め込んだ様子を一部切り欠いて部示す斜視図である。
【図6】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図7】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図8】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図9】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図10】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図11】本発明による他の実施の形態示す図で、コード状ヒータの構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図12】屈曲試験の方法を説明するための参考図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1〜図11を参照して本発明の実施の形態を説明する。これらの実施の形態は、本発明を面状ヒータとし、車両用シートヒータに適用することを想定した例を示すものである。
【0012】
まず、図1〜図5を参照して本実施の形態を説明する。この実施の形態におけるコード状ヒータ10の構成から説明する。本実施の形態におけるコード状ヒータ10は図1に示すような構成になっている。まず、外径約0.2mmの芳香族ポリアミド繊維束からなる芯線3があり、該芯線3の外周には、素線径0.08mmの硬質錫入り銅合金線からなる5本の導体素線5aを引き揃えて構成されたものがピッチ約1.0mmで螺旋状に巻装されている。導体素線5aには、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチレンアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる絶縁被膜5bが、押出被覆により厚さ約0.01mmで形成されている。この芯線3上に導体素線5aを巻装したものの外周に、絶縁体層7として難燃剤が配合されたポリエチレン樹脂が0.2mmの厚さで押出被覆され、発熱線1が構成されている。なお、この実施の形態において、絶縁体層7に用いられたポリエチレン樹脂は、熱融着材として機能する。コード状ヒータ10はこのような構成になっていて、その仕上外径は0.8mmである。又、屈曲性や引張強度を考慮した場合には上記芯線3は有効であるが、芯線3の代わりに複数本の導体素線を引き揃えるか或いは撚り合わせたものを使用することも考えられる。
【0013】
次に、上記構成をなすコード状ヒータ10を接着・固定する基材11の構成について説明する。本実施例における基材11は、低融点ポリエステルを鞘成分とする芯鞘構造を有する熱融着性繊維10%と、難燃性ポリエステル繊維からなる難燃性繊維90%とを混合させた不織布(目付100g/m2、厚さ0.6mm)で構成されている。このような基材11は、型抜き等の公知の手法により所望の形状とされる。
【0014】
次に、上記コード状ヒータ10を基材11上に所定のパターン形状で配設して接着・固定する構成について説明する。図2はコード状ヒータ10を基材11上に接着・固定させるためのホットプレス式ヒータ製造装置13の構成を示す図である。まず、ホットプレス治具15があり、このホットプレス治具15上には複数個の係り止め機構17が設けられている。上記係り止め機構17は、図3に示すように、ピン19を備えていて、このピン19はホットプレス冶具15に穿孔された孔21内に下方より差し込まれている。このピン19の上部には係り止め部材23が軸方向に移動可能に取り付けられていて、コイルスプリング25によって常時上方に付勢されている。そして、図3中仮想線で示すように、これら複数個の係り止め機構17の係り止め部材23にコード状ヒータ10を引っ掛けながら所定のパターン形状にて配設することになる。
【0015】
図2に戻って、上記複数個の係り止め機構17の上方にはプレス熱板27が昇降可能に配置されている。すなわち、コード状ヒータ10を複数個の係り止め機構17の係り止め部材23に引っ掛けながら所定のパターン形状にて配設し、その上に基材11を置く。その状態で上記プレス熱板27を降下させてコード状ヒータ10と基材11に、例えば、230℃/5秒間の加熱・加圧を施すものである。それによって、コード状ヒータ10側の熱融着部9と基材11側の熱融着性繊維が融着することになり、その結果、コード状ヒータ10と基材11が接着・固定されることになる。尚、上記プレス熱板27の降下による加熱・加圧時には複数個の係り止め機構17の係り止め部材23はコイルスプリング25の付勢力に抗して下方に移動するものである。
【0016】
基材11のコード状ヒータ10を配設しない側の面には、接着層の形成、或いは、両面テープの貼り付けがなされても良い。これは、座席に取り付ける際、面状ヒータ31を座席に固定するためのものである。
【0017】
上記作業を行うことにより、図4に示すような車両用シートヒータの面状ヒータ31を得ることができる。尚、上記面状ヒータ31におけるコード状ヒータ10の両端、及び、温度制御装置39にはリード線40が接続端子(図示しない)によって接続されており、このリード線40により、コード状ヒータ10、温度制御装置39、及び、コネクタ35が接続されている。ここで、接続端子によるコード状ヒータ10とリード線40の接続について詳述する。コード状ヒータ10の端部について、ストリップ加工機によって絶縁体層7を除去するとともに、同じくリード線40の端部についてもストリップ加工機によって絶縁体を除去して導線を露出させる。これらコード状ヒータ10の端部とリード線40の端部を接続端子にセットして、圧着を行う。この際、コード状ヒータ10の導体素線5aに形成された絶縁被膜5bは、加圧によって容易に塑性変形するため、接続端子を圧着する際の圧力によって押し出されて除去され、導体素線5aとリード線40の導体とが電気的接続されることとなる。そのため、熱や薬品による絶縁被膜5bの除去工程が必要なくなり、加工性が大きく向上することとなる。そして、このコネクタ35を介して図示しない車両の電気系統に接続されることになる。
【0018】
そして、上記構成をなす面状ヒータ31は、図5に示すような状態で、車両用のシート41内に埋め込まれて配置されることになる。すなわち、上記した通り、車両用シート41の表皮カバー43又は座席パット45に、面状ヒータ31が貼り付けられることとなるものである。
【0019】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。まず、コード状ヒータ10は、フッ素樹脂からなる絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを有するものであれば、従来公知の種々のコード状ヒータを使用することができる。
【0020】
又、発熱線1の構成としては、例えば、上記実施の形態のように、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本撚り合わせ又は引き揃え、これを芯線3上に巻装し、その外周に絶縁被覆7を施したもの(図1参照)、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本撚り合わせたもの(図6参照)、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aを複数本引き揃えたもの(図7参照)、などが挙げられるが、それら以外にも様々な構成のものが想定される。
【0021】
又、例えば、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aと絶縁被膜5bにより被覆されていない導体素線5aが交互に配置された形態(図8参照)や、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5aの本数を増やして、絶縁被膜5bにより被覆された導体素線5a同士を並べて配置するような形態も考えられ(図9参照)、それら以外にも様々な構成のものが想定される。又、芯線3と導体素線5aを撚り合せることも考えられる。
【0022】
芯線3としては、例えば、ガラス繊維等の無機繊維や、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、脂肪族ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機繊維のモノフィラメント、マルチフィラメント、スパン、或いはそれらの繊維材料、若しくは、それらの繊維材料を構成する有機高分子材料を芯材とし、その周上に熱可塑性の有機高分子材料が被覆された構成を有する繊維などが挙げられる。又、芯線3を熱収縮性及び熱溶融性を有するものとすれば、導体素線5aが断線してしまった際の異常加熱により芯線が溶融切断されるとともに収縮することで、巻装された導体素線5aもこの芯線3の動作に追従し、断線した導体素線5aの端部同士を分離することになる。そのため、断線した導体素線のそれぞれの端部が接したり離れたりすることや点接触のようなわずかな接触面積で接することがなくなり、異常発熱を防止することができる。又、導体素線5aが絶縁被膜5bにより絶縁されている構成であれば、芯線3は絶縁材料にこだわる必要はない。例えば、ステンレス鋼線やチタン合金線等を使用することも可能である。しかし、導体素線5aが断線したときのことを考慮すると、芯線3は絶縁材料であった方が良い。
【0023】
導体素線5aとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、銅線、銅合金線、ニッケル線、鉄線、アルミニウム線、ニッケル−クロム合金線、鉄−クロム合金線、などが挙げられ、銅合金線としては、例えば、錫−銅合金線、銅−ニッケル合金線、銅固溶体と銅銀共晶がファイバー状になった銀入り銅合金線などが挙げられる。このうち、コストと特性のバランスの点から、銅線又は銅合金線を使用することが好ましい。これら銅線又は銅合金線には軟質のものと硬質のものがあるが、耐屈曲性の観点から、軟質のものよりも硬質のものの方が特に好ましい。尚、硬質銅線や硬質銅合金線とは、線引き加工等の冷間加工によって個々の金属結晶粒が加工方向に長く引き伸ばされ繊維状組織となったものである。このような硬質銅線や硬質銅合金線は、再結晶温度異常で加熱すると、金属結晶内に生じた加工歪みが解消されるとともに、新たな金属結晶の基点となる結晶各が出現し始める。この結晶核が発達して、順次旧結晶粒と置換される再結晶が起き、更に結晶粒が成長した状態となる。軟質銅線や軟質銅合金線はこのような結晶粒が成長した状態のものである。この軟質銅線や軟質銅合金線は、硬質銅線や硬質銅合金線と比べて伸びや電気抵抗値は高いものの引張強さが低い性質となるため、耐屈曲性は硬質銅線や硬質銅合金線と比べて低くなる。このように、硬質銅線や硬質銅合金線は、熱処理によって耐屈曲性が低い軟質銅線や軟質銅合金線になるため、できるだけ熱履歴の少ない加工を行うことが好ましい。尚、硬質銅線はJIS−C3101(1994)、軟質銅線はJIS−C3102(1984)においても定義がなされており、外径0.10〜0.26mmでは伸び15%以上、外径0.29〜0.70mmでは伸び20%以上、外径0.80〜1.8mmでは伸び25%以上、外径2.0〜7.0mmでは伸び30%以上のものが軟質銅線とされる。また、銅線には錫メッキが施されているものも含まれる。錫メッキ硬質銅線はJIS−C3151(1994)、錫メッキ軟質銅線はJIS−C3152(1984)にて定義がなされている。又、導体素線5aの断面形状についても種々のものが使用でき、通常使用される断面円形のものに限られず、いわゆる平角線と称されるものを使用しても良い。
【0024】
但し、芯線3に導体素線5aを巻装する場合は、上記した導体素線5aの材料の中でも、巻付けたときのスプリングバックする量が小さいものが良く、復元率が200%以下となるものが好ましい。例えば、銅固溶体と銅銀共晶がファイバー状になった銀入り銅合金線などは、抗張力性に優れ引張強度や屈曲強度には優れるものの、巻付けたときスプリングバックし易い。そのため、芯線3に巻装する際に、導体素線5aの浮きや、過度の巻付けテンションによる導体素線5aの破断が生じ易く、又加工後には撚り癖が生じ易いため好ましくない。特に、導体素線5aに絶縁被膜5bが被覆される形態とした場合は、この絶縁被膜5bによる復元力も加わることになる。そのため、導体素線5aの復元率が小さいものを選定し、絶縁被膜5bによる復元力をカバーすることが重要となる。
【0025】
ここで、本発明で規定する復元率の測定について詳しく記述する。まず、導体素線に一定荷重を掛けながら、導体素線径の60倍の径の円柱形マンドレルに対して、導体素線が重ならないように3回以上巻きつける。10分後、荷重を取り去り導体素線をマンドレルから外し、弾性により復元した形状の内径を測定して、導体素線のスプリングバックする割合を次の式(I)により算出して、復元率として評価する。
R=(d2/d1)×100―――(I)
記号の説明:
R:復元率(%)
d1:巻付試験に用いたマンドレル径(mm)
d2:導体素線をマンドレルに巻きつけた後、荷重を開放して復元した形状の内径(mm)
【0026】
導体素線5aに被覆される絶縁被膜5bとしては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステルナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられるが、これらの中からフッ素樹脂が選択される。フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチレンアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、などが挙げられる。このような、フッ素樹脂は不燃性であり化学的に安定している材料である点でも好ましい。特に、ETFEは機械的強度及び耐スパーク性にも優れているため好ましい。また、PFAは耐熱特性に特に優れているため好ましい。これらの中でも、熱により溶融する材料を使用すれば、導体素線5a同士を融着することができることから、接続端子との接続等の端末加工時に発熱線1がバラけることがないため、加工性を向上させることができ好ましい。又、熱により溶融する材料を使用すれば、絶縁被膜5bを押出成形によって形成することができる。このような押出成形であれば、導体素線5aにかかる熱履歴を小さくできるため、硬質銅線又は硬質銅合金線による導体素線5aを得ることができる。例えば、従来の技術のように、絶縁被膜5bがポリウレタン樹脂やポリイミド樹脂等から構成する場合、焼き付け工程として、導体素線5aは高温下に長時間晒されることになる。これにより、導体素線5aが大きな熱履歴を受けるため、硬質銅線又は硬質銅合金線が軟質銅線又は軟質銅合金線となってしまうこととなる。
【0027】
また、絶縁被膜5bの厚さは、導体素線5aの直径の3〜30%であることが好ましい。3%未満であると、十分な耐電圧特性が得られず、導体素線5aを個別に被覆する意味がなくなる可能性がある。また、30%を超えると、接続端子を圧着する際に絶縁被膜5bの行き場がなくなって除去されないことになり、導体素線5aとリード線或いは導体素線5aと接続端子の電気的接続が十分になされない可能性がある。
【0028】
上記導体素線5aを引き揃え又は撚り合せて芯材3上に巻装する際には、撚り合せるよりも、引き揃えた方が好ましい。これは、発熱芯4の径が細くなるとともに、表面も平滑になるためである。又、引き揃え又は撚り合わせの他に、芯材3上に導体素線5aを編組することも考えられる。
【0029】
絶縁体層7を形成する場合は、押出成形等によって行っても良いし、予めチューブ状に成形した絶縁体層7を被せても良く、形成の方法には特に限定はない。押出成形によって絶縁体層7を形成すると、導体素線5aの位置が固定されるため、位置ズレによる導体素線5aの摩擦や屈曲を防止できることから、耐屈曲性が向上されるため好ましい。絶縁体層7を構成する材料としても、コード状ヒータの使用形態や使用環境などによって適宜設計すれば良く、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、塩化ビニル樹脂、変性ノリル樹脂(ポリフェニレンオキサイド樹脂)、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、合成ゴム、フッ素ゴム、エチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等、種々のものが挙げられる。特に、難燃性を有する高分子組成物が好ましく使用される。ここでの難燃性を有する高分子組成物とは、JIS−K7201(1999年)燃焼性試験における酸素指数が21以上のものを示す。酸素指数が26以上のものは特に好ましい。このような難燃性を得るため、上記した絶縁体層7を構成する材料に適宜難燃材等を配合してもよい。難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物、酸化アンチモン、メラミン化合物、リン系化合物、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤などが挙げられる。これらの難燃剤には公知の方法で適宜表面処理を施しても良い。
【0030】
又、この絶縁体層7を熱融着材で形成することにより、加熱加圧によりコード状ヒータ10を基材11に熱融着することができる。このような場合、上記した絶縁体層7を構成する材料の中でも、基材との接着性に優れるオレフィン系樹脂が好ましい。オレフィン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−不飽和エステル共重合体などが挙げられる。これらの中でも特に、エチレン−不飽和エステル共重合体が好ましい。エチレン−不飽和エステル共重合体は、分子内に酸素を有する分子構造であるため、ポリエチレンのような炭素と水素のみの分子構造をしている樹脂と比較して燃焼熱が小さくなり、その結果、燃焼の抑制につながることとなる。又、元々の接着性が高いため基材との接着性も良好である上、無機粉末等を配合した際の接着性の低下が少ないため、種々の難燃剤を配合するのに好適である。エチレン−不飽和エステル共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体などが挙げられ、これらの単独又は2種以上の混合物であってもよい。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を表すものである。これらの内から任意に選択すれば良いが、上記した絶縁被膜5bを構成する材料の分解開始温度以下又は融点以下の温度で溶融する材料である方が良い。又、基材11との接着性に優れる材料として、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル−ポリエステル型、ポリエステル−ポリエーテル型のものがあるが、ポリエステル−ポリエーテル型の方が高い接着性を有するため好ましい。尚、コード状ヒータ10と基材11を熱融着する場合、コード状ヒータ10と基材11との接着強度は非常に重要なものである。この接着強度が充分でないと、使用していくうちに基材11とコード状ヒータ10とが剥離してしまい、それにより、コード状ヒータ11には予期せぬ屈曲が加わることになるため、導体素線5aが断線する可能性が高くなる。導体素線5aが断線すると、ヒータとしての役を果たさなくなるだけでなく、チャタリングによりスパークに至るおそれもある。
【0031】
絶縁体層7は1層だけでなく、複数層形成してもよい。例えば、導体素線5aの外周にフッ素樹脂による層を形成し、その外周に熱融着材としてポリエチレン樹脂の層を形成し、これら2層により絶縁体層7を構成するような形態も考えられる。もちろん、3層以上となっていても構わない。又、絶縁体層7は、長さ方向に連続して形成することに限定されない。例えば、コード状ヒータ10の長さ方向に沿って直線状やスパイラル線状に形成する、ドット模様に形成する、断続的に形成するなどの態様が考えられる。この際、熱融着材がコード状ヒータの長さ方向に連続していなければ、例え、熱融着材の一部に着火しても、燃焼部が広がらないため好ましい。又、熱融着材の体積が充分に小さければ、熱融着材が燃焼性の材料であっても、すぐに燃焼物がなくなり消火することになるし、ドリップ(燃焼滴下物)も発生しなくなる。従って、熱融着材の体積は、基材11との接着性を保持できる最低限とすることが好ましい。
【0032】
また、上記のようにして得られたコード状ヒータ10は、自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行う屈曲性試験において、導体素線が少なくとも1本切れるまでの屈曲回数が2万回以上であることが好ましい。
【0033】
基材11としては、上記実施の形態で示した不織布の他に、例えば、織布、紙、アルミ箔、マイカ板、樹脂シート、発泡樹脂シート、ゴムシート、発泡ゴムシート、延伸多孔質体等、種々のものが使用できるが、FMVSS No.302自動車内層材料の燃焼試験に合格する難燃性を有するものが好ましい。ここで、FMVSSとは、Federal
Motor Vehicle Safety Standard、即ち、米国連邦自動車安全基準のことであり、そのNo.302として、自動車内装材料の燃焼試験が規定されている。これらの中でも、不織布は、風合いが良く柔軟であるため、特にカーシートヒータの用途において好ましい。又、不織布を使用する場合も、上記実施の形態の場合には、不織布を構成する熱融着性繊維として、低融点ポリエステルを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維を使用しているが、それ以外にも、例えば、低融点ポリプロピレンを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維、又はポリエチレンを鞘成分とする芯鞘構造を有する繊維等の使用が考えられる。このような熱融着性繊維を使用することで、熱融着性繊維の芯部を取り囲んだ状態で、熱融着性繊維の鞘部と上記熱融着部9とが互いに融着し一体化することとなるため、コード状ヒータ1と不織布との接着は非常に強固なものとなる。又、難燃性繊維としては、例えば、上記の難燃性ポリエステルの他に、種々の難燃性繊維の使用が考えられる。ここで、難燃性繊維とは、JIS−L1091(1999年)に合格する繊維のことを指す。このような難燃性繊維を使用することで、基材は優れた難燃性を付与されることとなる。
【0034】
熱融着性繊維の混合割合は、5%以上が好ましく、又、20%以下が好ましい。熱融着性繊維の混合割合が5%未満だと、十分な接着性が得られない。又、熱融着性繊維の混合割合が20%を超えると、不織布が固くなり、着座者が違和感を訴えることになり得るのみでなく、逆にコード状ヒータとの接着性が低下してしまう。更には、熱融着する際の熱によって基材が収縮し、設計で意図した寸法が得られなくなる可能性もある。難燃性繊維の混合割合は、70%以上であり、好ましくは70%以上95%以下である。難燃性繊維の混合割合が70%未満だと、十分な難燃性が得られない。又、難燃性繊維の混合割合が95%を超えると、相対的に熱融着性繊維の混合割合が不足してしまい、十分な接着性が得られない。尚、熱融着性繊維の混合割合と難燃性繊維の混合割合を合算して100%になる必要はなく、他の繊維を適宜混合させても良い。又、熱融着性繊維が混合されていない場合であっても、例えば、上記の熱融着部の材料と基材を構成する繊維の材料を同系統の材料とすることで、必要充分な接着性を得られることもあるので、熱融着性繊維が混合されていないことも充分に考えられる。
【0035】
又、不織布の大きさや厚さなどは、使用用途によって適宜に変更するものであるが、その厚さ(乾燥時に測定した値)は、例えば、0.6mm〜1.4mm程度とすることが望ましい。このような厚さの不織布を使用すれば、加熱・加圧によりコード状ヒータと不織布とを接着・固定した際、不織布がコード状ヒータの外周の30%以上、好ましくは50%以上の部分と良好に接着することになるからであり、それによって、強固な接着状態を得ることができるからである。
【0036】
上記基材の中でも、空隙を有しているものが好ましく、特に、コード状ヒータが配設される面(以下、配設面と記す)が、コード状ヒータが配設されない面(以下、非配設面と記す)よりも空隙が多くなっているように構成されることが好ましい。空隙が多い状態とは、例えば、織布や不織布等の布体の場合、目付け、即ち単位体積当たりの繊維重量が小さい状態、発泡樹脂シートや発泡ゴムシートのような多孔体の場合、気孔率が大きい状態のことを示す。本発明による基材の具体的な態様としては、例えば、温度や圧力を調節するなどして片面のみ又は両面で強弱異なるカレンダー加工を行った織布又は不織布、片面のみからニードルパンチを行った不織布、片面にパイル形成や起毛をさせた布体、厚さ方向で気孔率が傾斜するように発泡制御した発泡樹脂シート又は発泡ゴムシート、空隙の多さが異なる材料を貼り合わせたもの、などが挙げられる。又、特に基材の空隙は連続していることが好ましい。これは、溶融した熱融着層が連続した空隙に浸透していくことで、アンカー効果が増して接着強度が向上するためである。このような空隙が連続している態様としては、繊維の集合体である織布や不織布等の布体、連続気孔を有する発泡樹脂シートや発泡ゴムシートなどが考えられる。尚、非配設面は空隙を有していないものも考えられる。
【0037】
又、コード状ヒータ10を基材11に配設する際、加熱加圧による融着によって接着・固定する態様でなく、他の態様によりコード状ヒータ10を基材11に固定しても良い。例えば、温風により熱融着材からなる絶縁体層7を溶融させて接着・固定する態様、導体素線5aに通電してその発熱により熱融着材からなる絶縁体層7を溶融させて接着・固定する態様、加熱しながら一対の基材11で挟持固定する態様など、種々の態様が考えられる。
【0038】
又、熱融着材を使用しない形態も考えられ、例えば、縫製によってコード状ヒータ10を基材11上に配置することや、一対の基材11でコード状ヒータ10を挟持固定することも考えられる。このような場合、図10や図11に示すように絶縁体層7を形成しないことが考えられるが、上記のとおり、導体素線5aを被覆する絶縁被膜5bが滑り性の良いフッ素樹脂からなるため、屈曲時等における導体素線5aと基材11との摩擦力は小さいものとなり、導体素線5aにかかる応力を減少できるため、耐屈曲性を向上することができる。
【0039】
又、面状ヒータ31を座席に固定するための接着層については、基材11の伸縮性の点や、良質な風合いの保持という点からすると、離型シート等の上に接着剤のみからなる接着層を形成し、該接着層を上記離型シートから上記基材11表面に転写することによって接着層を形成することが好ましい。又、この接着層は、難燃性を有するものが好ましく、それ単独でFMVSS No.302自動車内装材料の燃焼試験に合格するような難燃性を有するものが好ましい。例えば、高分子アクリル系粘着剤などが挙げられる。接着層は基材の配設面に形成しても良いし非配設面に形成しても良い。
【実施例】
【0040】
上記実施の形態によって得られるコード状ヒータ10(図1参照)を実施例1として、屈曲性試験、加工性試験、及び、耐電圧試験を行った。
【0041】
屈曲性試験は、自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行い、導体素線5aが少なくとも1本切れるまでの屈曲回数を測定するものである。本試験においては、各導体素線5aの抵抗値を測定しておき、図12に示すように、一対の半径5mmのマンドレル90でコード状ヒータを挟持し、このマンドレル90と垂直方向に両側90度ずつの屈曲を1回として、断線するまでの屈曲回数を測定した。この際、何れか1本導体素線5aの抵抗値が無限大となったときの屈曲回数を「1本断線回数」、全ての導体素線5aの抵抗値が無限大となったときの屈曲回数を「全数断線回数」とした。
【0042】
加工性試験は、端子加工後の導通を確認することによって行った。まず、コード状ヒータ10について、導体素線5aの有効長が90mmとなるよう切り出しし、端部8mmについて絶縁体層7をストリップ加工した。また、リード線について、導体(1.73mmφ)の有効長が90mmとなるように切り出し、端部8mmについて絶縁体をストリップ加工した。これらのコード状ヒータ10とリード線とを揃えて配置して、端部に接続端子(市販のスプライス端子)をセットし、市販の圧着機にて接続端子を圧着してコード状ヒータ10とリード線とを接続した。その後、コード状ヒータ10とリード線の間の抵抗値を測定した。試料数は20とし、平均値を算出した(但し、測定不能なほど抵抗値が大きかった試料は除いて平均値を算出)。
【0043】
耐電圧試験は、絶縁被膜5bの絶縁破壊電圧の試験を行った。導体素線5aに、業務用の電圧に対応するため200Vを印加し、絶縁破壊の有無を確認した。
【0044】
これらの試験について、上記実施例1によるコード状ヒータの導体素線5aを予め300℃で30分間したものと使用したものを実施例2として、併せて試験を行った。また、上記実施例1において絶縁被膜5bをポリウレタン樹脂の焼き付けによって形成したからなるものを比較例として、併せて試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、本実施例によるコード状ヒータ10は、屈曲性試験にて4万回以上の屈曲に耐え得る優れた耐屈曲性を有するものであった。これに対して比較例1によるコード状ヒータは、本実施例の50%以下の回数で全数が断線してしまうものであった。なお、実施例2によるコード状ヒータ全数断線の値は優れていたが、1本断線の値については実施例1に及ぶものではなかった。実施例1の耐屈曲性が特に優れていた理由として、実施例2や比較例の導体素線5aは、熱処理や焼き付け処理の熱によって軟質銅合金となってしまっていたのに対し、実施例1の導体素線5aは、硬質銅合金の状態を維持していたためである。また、加工性試験において、本試験で使用した導体素線5aは、単位長さ当たりの抵抗値が1.15Ω/m、有効長が90mmであることから抵抗値の計算値は0.1035Ωである。表1の通り、本実施の形態による試験結果はこの計算値に非常に近いものであり、接続端子の圧着のみで十分に導通していることが確認できた。これに対し、比較の形態では、測定不能、即ち、絶縁被膜が全く除去されていない試料が半数以上を占め、又、測定ができたとしても抵抗値が非常に大きくなっており、接続端子の圧着のみでは導通をすることができないものであった。また、耐電圧試験については、本実施例及び比較例ともに合格し、十分な耐電圧特性を有していることが確認された。
【0047】
上記実施例1によるコード状ヒータ10について、基材11上に直線形状で配設し、上記のようにホットプレス式ヒータ製造装置13を使用して、コード状ヒータ10を基材11上に接着・固定した。この基材11上に接着・固定したコード状ヒータ10についても、上記同様に屈曲性試験を行った。また、上記実施例1によるコード状ヒータ10について、基材11上に直線形状で配設し、粘着テープを使用して、コード状ヒータ10を基材11上に接着・固定した。この基材11上に接着・固定したコード状ヒータ10について、上記同様に屈曲性試験を行った。いずれにおいても、充分な耐屈曲性の値を示しており、本実施例によるコード状ヒータ10は、基材11上に接着・固定した状態でも充分な耐屈曲性を得ることが確認された。
【0048】
また、参考として、本発明によるコード状ヒータ10について、基材11との接着性についての検証を行った。上記実施例1のコード状ヒータ10について、表3に示すように絶縁体層の材料を変化し、上記実施例2と同様に基材11上に接着・固定して参考例1〜3を得た。その状態で、基材11を固定し、コード状ヒータ10の端部を掴持して基材11面に垂直の方向に引張り上げ、コード状ヒータ10と基材11の剥離の状態を目視で確認した。試験結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示す通り、何れの参考例も、剥離の際には基材11側が破壊するモードであって、界面剥離となるものはなく、充分な接着性を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳述したように本発明によれば、耐屈曲性が高く、加工性を向上されたコード状ヒータを得ることができる。このコード状ヒータは、例えば、アルミ箔や不織布等の基材上に蛇行形状等の所定の形状に配設されて面状ヒータとし、電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータ、暖房便座、防曇鏡用ヒータ、加熱調理器具等に好適に使用可能である。又、コード状ヒータ単体としても、例えば、パイプや槽等に巻き付けて接着したり、パイプ内に配置したりするような態様が考えられる。具体的な用途としては、例えば、配管や冷凍庫のパイプドレーンなどの凍結防止用ヒータ、エアコンや除湿機などの保温用ヒータ、冷蔵庫や冷凍庫などの除霜用ヒータ、乾燥用ヒータ、床暖房用ヒータとして好適に使用することができる。又、上記面状ヒータの用途として例示した電気毛布、電気カーペット、カーシートヒータ、ステアリングヒータ、暖房便座、防曇鏡用ヒータ、加熱調理器具、床暖房等について、加熱対象物に本発明のコード状ヒータを直接貼り付けたり、巻き付けたりすることもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 発熱線
3 芯材
5a 導体素線
5b 絶縁被膜
7 絶縁体層
10 コード状ヒータ
11 基材
31 面状ヒータ
41 車両用シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜により被覆された複数本の導体素線を有するコード状ヒータであって、上記絶縁被膜がフッ素樹脂からなることを特徴とするコード状ヒータ。
【請求項2】
上記導体素線が、硬質銅線、硬質錫−銅合金線又は硬質ニッケル−銅合金線からなることを特徴とする請求項1記載のコード状ヒータ。
【請求項3】
上記導体素線が、引き揃えられた状態で芯線上に巻装されていることを特徴とする請求項2記載のコード状ヒータ。
【請求項4】
上記導体素線の外周に絶縁体層が形成されていることを特徴とする請求項3記載のコード状ヒータ。
【請求項5】
上記絶縁体層の一部または全部が熱融着材からなることを特徴とする請求項4記載のコード状ヒータ。
【請求項6】
上記絶縁被膜の厚さが、上記導体素線の直径の3〜30%であることを特徴とする請求項1〜5何れか一項記載のコード状ヒータ。
【請求項7】
自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行う屈曲性試験において、導体素線が少なくとも1本切れるまでの屈曲回数が2万回以上であることを特徴とする請求項1〜6何れか一項記載のコード状ヒータ。
【請求項8】
請求項1〜7何れか一項記載のコード状ヒータを基材に配設したことを特徴とする面状ヒータ。
【請求項9】
請求項1〜3何れか一項記載のコード状ヒータの製造方法であって、上記導体素線の外周に、フッ素樹脂からなる上記絶縁被膜を押出成形によって形成することを特徴とするコード状ヒータの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のコード状ヒータの製造方法であって、上記導体素線の外周に、絶縁体層を押出成形によって形成することを特徴とするコード状ヒータの製造方法。
【請求項1】
絶縁被膜により被覆された複数本の導体素線を有するコード状ヒータであって、上記絶縁被膜がフッ素樹脂からなることを特徴とするコード状ヒータ。
【請求項2】
上記導体素線が、硬質銅線、硬質錫−銅合金線又は硬質ニッケル−銅合金線からなることを特徴とする請求項1記載のコード状ヒータ。
【請求項3】
上記導体素線が、引き揃えられた状態で芯線上に巻装されていることを特徴とする請求項2記載のコード状ヒータ。
【請求項4】
上記導体素線の外周に絶縁体層が形成されていることを特徴とする請求項3記載のコード状ヒータ。
【請求項5】
上記絶縁体層の一部または全部が熱融着材からなることを特徴とする請求項4記載のコード状ヒータ。
【請求項6】
上記絶縁被膜の厚さが、上記導体素線の直径の3〜30%であることを特徴とする請求項1〜5何れか一項記載のコード状ヒータ。
【請求項7】
自己径の6倍の曲率半径で90度ずつの屈曲を行う屈曲性試験において、導体素線が少なくとも1本切れるまでの屈曲回数が2万回以上であることを特徴とする請求項1〜6何れか一項記載のコード状ヒータ。
【請求項8】
請求項1〜7何れか一項記載のコード状ヒータを基材に配設したことを特徴とする面状ヒータ。
【請求項9】
請求項1〜3何れか一項記載のコード状ヒータの製造方法であって、上記導体素線の外周に、フッ素樹脂からなる上記絶縁被膜を押出成形によって形成することを特徴とするコード状ヒータの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のコード状ヒータの製造方法であって、上記導体素線の外周に、絶縁体層を押出成形によって形成することを特徴とするコード状ヒータの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−20951(P2013−20951A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126645(P2012−126645)
【出願日】平成24年6月4日(2012.6.4)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月4日(2012.6.4)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】
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